(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088047
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、運転安全度評価方法および運転安全度評価システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240625BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20240625BHJP
G16Y 20/00 20200101ALI20240625BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20240625BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G16Y10/40
G16Y20/00
G16Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203008
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中島 正浩
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC12
5H181EE02
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF10
5H181MB02
(57)【要約】
【課題】少ないデータに基づいて、車両の運転者の安全度を評価可能にする運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、運転安全度評価方法および運転安全度評価システムを提供する。
【解決手段】運転安全度評価装置は、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、前記時系列中の運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、前記スコアを状況別に出力する出力部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、
前記時系列中の運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、
前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、
前記スコアを状況別に出力する出力部とを含む、運転安全度評価装置。
【請求項2】
前記スコアリング部は、
予め教師データを用いて学習された、運動記録を入力として当該運動記録に基づいて前記スコアを出力するスコアリングモデルを用い、前記時系列に含まれる各運動記録に対するスコアを算出するスコア算出部と、
前記運動記録を、当該運動記録に基づいて推定された前記状況に応じて分類する分類部と、
前記分類部により分類された、前記時系列に含まれる前記運動記録のスコアに基づいて、状況別の代表値を算出する代表値算出部とを含む、請求項1に記載の運転安全度評価装置。
【請求項3】
前記スコアリングモデルは、前記時系列に含まれる前記運動記録に基づいて、前記車両の運転者が安全運転者である確率を出力するよう、安全運転者による運転時の車両の運動記録と、不安全運転者による運転時の車両の運動記録とを教師データとして学習したモデルである、請求項2に記載の運転安全度評価装置。
【請求項4】
前記モデルは、前記運動記録を構成する各要素の一次結合式により前記スコアを算出するモデルである、請求項3に記載の運転安全度評価装置。
【請求項5】
前記一次結合式の切片および各要素の係数は、前記教師データを用いた最尤推定により算出される、請求項4に記載の運転安全度評価装置。
【請求項6】
前記代表値算出部は、
前記時系列に含まれる前記運動記録の各々の前記スコアを、有限の所定値域にマッピングするマッピング部と、
前記マッピング部により前記所定値域にマッピングされた前記スコアについて、対応する前記分類部による分類ごとに前記代表値を算出する分類別代表値算出部とを含む、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の運転安全度評価装置。
【請求項7】
前記代表値算出部は、前記時系列に含まれる前記運動記録の各々の前記スコアについて、対応する前記分類部による分類ごとに前記代表値を算出する分類別代表値算出部を含む、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の運転安全度評価装置。
【請求項8】
前記代表値算出部はさらに、前記分類別代表値算出部により前記分類ごとに算出された前記代表値の各々を、有限の所定値域にマッピングするマッピング部を含む、請求項7に記載の運転安全度評価装置。
【請求項9】
前記情報取得部は、複数の前記車両の運動記録の前記時系列を取得する複数車両情報取得部を含み、
前記代表値算出部は、
前記分類部により算出された、前記時系列の前記運動記録のスコアを標準化する標準化部と、
前記標準化部により標準化された前記スコアの、前記複数の前記車両の各々に対する代表値を算出する車両別代表値算出部とを含む、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の運転安全度評価装置。
【請求項10】
前記状況推定部は、地図情報を記憶した地図情報記憶部を含み、
前記地図情報は、
前記車両が移動可能な経路に関する経路情報と、
各々が、前記経路情報により表される前記経路の所定の位置と関連付けられ、当該所定の位置に関連する状況を表す経路状況情報とを含み、
前記状況推定部はさらに、前記運動記録により特定される位置に関連した経路状況情報が前記地図情報にあれば、当該運動記録と当該経路状況情報とを連係させる連携部を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の運転安全度評価装置。
【請求項11】
コンピュータを、
車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、
前記時系列中の前記運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、
前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、
前記スコアを状況別に出力する出力部として機能させる、コンピュータプログラム。
【請求項12】
コンピュータが、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得ステップと、
コンピュータが、前記時系列中の前記運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定ステップと、
コンピュータが、前記状況推定ステップにおいて推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するステップと、
コンピュータが、前記スコアを状況別に出力するステップとを含む、運転安全度評価方法。
【請求項13】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の運転安全度評価装置と、
車両に搭載され、当該車両の位置および加速度の時系列を測定して前記車両の運動情報として前記運転安全度評価装置に無線通信する運動情報送信装置とを含む、運転安全度評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、運転安全度評価方法および運転安全度評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、広範囲の装置においてデータを取得し、処理することにより様々な情報をデータから取り出す技術が普及している。その一環として、車両などに多数のセンサを設け、それらセンサから取得したデータをサーバに集中し処理する技術が開発されている。サーバにおいてこうしたデータを処理することにより、車両の運転を支援するために有効な情報が得られる。したがって、サーバが収集するデータは詳細なことが望ましい。
【0003】
しかし、車両からサーバにデータを送信する場合には、多様な通信経路を経由することが考えられるため、情報セキュリティに不安がある。情報セキュリティを完全なものにすることは極めて困難である。そのため、車両からサーバに送信するデータに含まれる機密性情報を可能な限り少なくすることが望まれる。また、サーバが収集するデータが多くなると、通信の負荷と、サーバにおける情報処理の負荷との双方が高くなるという問題がある。
【0004】
こうした問題を解決するための一つの提案が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている技術は、車両においてドライバ(運転者)の運転操作により交通規則に違反する状況が生じたときに、車両のカメラが撮像した映像を収集する技術に関する。特許文献1に記載の技術においては、違反時の全ての映像を収集するとデータが過大になってしまうおそれがあることに鑑み、車両の運転操作により交通規則に違反する事態が生じた場合でも、その違反の内容に関する情報が所定の収集条件を満たす場合にのみ映像を収集する。違反の内容に関する情報が収集条件を満たしていない場合には、映像の収集は行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、車両のドライバなどの運転技量を客観的に評価する技術に対する需要が高まっている。ドライバの運転技量を客観的に判断することによりドライバの運転技量の向上を図ることができるので、交通全般の安全を確保できる。特許文献1に開示の技術は違反時の情報の収集のみに限定されている。違反時の情報だけでは、ドライバの運転技量を判断することはできない。そのため、少ないデータを用いて車両のドライバなど、一般的に車両の運転者の運転技能を判定できるような技術が望まれる。
【0007】
この開示は、少ないデータに基づいて、車両の運転者の安全度を評価可能にする運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、運転安全度評価方法および運転安全度評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る運転安全度評価装置は、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、前記時系列中の運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、前記スコアを状況別に出力する出力部とを含む。
【0009】
この発明は、このような特徴的な処理部を備える運転安全度評価装置として実現できるだけでなく、係る特徴的な処理をステップとする運転安全度評価方法として実現したり、係るステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現したりできる。また、運転安全度評価装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現したり、運転安全度評価装置を含む運転安全度評価装置システムとして実現したりすることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの開示によると、少ないデータに基づいて、車両の運転者の安全度を評価可能にする運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、運転安全度評価方法および運転安全度評価システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、この開示の第1実施形態に係る運転安全度評価サーバの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す地図情報記憶部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す通信部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す状況推定部を実現するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図3に示す代表値算出部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、シグモイド関数を示すグラフである。
【
図7】
図7は、この開示の第2実施形態に係る運転安全度評価サーバにおける代表値算出部の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、この開示の第3実施形態に係る運転安全度評価サーバの構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すスコアリング部の構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、
図9に示す車両別代表値算出部を実現するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、この開示の第1実施形態および第2実施形態に係る運転安全度評価サーバを実現するコンピュータの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
以下の説明および図面では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0013】
(1)この開示の第1の局面に係る運転安全度評価装置は、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、前記時系列中の運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、前記スコアを状況別に出力する出力部とを含む。この構成により、車両の運転者の運転安全度を状況別に評価できる。
【0014】
(2)上記(1)において、前記スコアリング部は、予め教師データを用いて学習された、運動記録を入力として当該運動記録に基づいて前記スコアを出力するスコアリングモデルを用い、前記時系列に含まれる各運動記録に対するスコアを算出するスコア算出部と、前記運動記録を、当該運動記録に基づいて推定された前記状況に応じて分類する分類部と、前記分類部により分類された、前記時系列に含まれる前記運動記録のスコアに基づいて、状況別の代表値を算出する代表値算出部とを含んでもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を状況別の代表値により評価できる。
【0015】
(3)上記(2)において、前記スコアリングモデルは、前記時系列に含まれる前記運動記録に基づいて、前記車両の運転者が安全運転者である確率を出力するよう、安全運転者による運転時の車両の運動記録と、不安全運転者による運転時の車両の運動記録とを教師データとして学習したモデルであってもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を状況別に、教師データを基準として評価できる。
【0016】
(4)上記(3)において、前記モデルは、前記運動記録を構成する各要素の一次結合式により前記スコアを算出するモデルであってもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を、状況別に、教師データを基準とした簡単な式を用いて評価できる。
【0017】
(5)上記(4)において、前記一次結合式の切片および各要素の係数は、前記教師データを用いた最尤推定により算出される。この構成により、車両の運転者の運転安全度を、状況別に、教師データに適合したモデルを用いて評価できる。
【0018】
(6)上記(2)から上記(5)のいずれか1つにおいて、前記代表値算出部は、前記時系列に含まれる前記運動記録の各々の前記スコアを、有限の所定値域にマッピングするマッピング部と、前記マッピング部により前記所定値域にマッピングされた前記スコアについて、対応する前記分類部による分類ごとに前記代表値を算出する分類別代表値算出部とを含んでもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を、状況別に、教師データに適合したモデルを用いて算出した代表値により評価できる。
【0019】
(7)上記(2)から上記(5)のいずれか1つにおいて、前記代表値算出部は、前記時系列に含まれる前記運動記録の各々の前記スコアについて、対応する前記分類部による分類ごとに前記代表値を算出する分類別代表値算出部を含んでもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を、各回の運転結果に基づき、状況別に、教師データに適合したモデルを用いて、算出した代表値により評価できる。
【0020】
(8)上記(7)において、前記代表値算出部はさらに、前記分類別代表値算出部により前記分類ごとに算出された前記代表値の各々を、有限の所定値域にマッピングするマッピング部を含んでもよい。この構成により、車両の運転者の運転安全度を、各回の運転結果に基づき、状況別に、教師データに適合したモデルを用いて、一定の値域の値として算出した代表値により評価できる。
【0021】
(9)上記(2)から上記(5)のいずれか1つにおいて、前記情報取得部は、複数の前記車両の運動記録の前記時系列を取得する複数車両情報取得部を含んでもよく、前記代表値算出部は、前記分類部により算出された、前記時系列の前記運動記録のスコアを標準化する標準化部と、前記標準化部により標準化された前記スコアの、前記複数の前記車両の各々に対する代表値を算出する車両別代表値算出部とを含んでもよい。この構成により、車両ごとの運転安全度を、各回の運転結果に基づき、状況別に、教師データに適合したモデルを用いて、全車両に対する評価を基準とした相対的な代表値により評価できる。
【0022】
(10)上記(1)から上記(5)のいずれか1つにおいて、前記状況推定部は、地図情報を記憶した地図情報記憶部を含んでもよく、前記地図情報は、前記車両が移動可能な経路に関する経路情報と、各々が、前記経路情報により表される前記経路の所定の位置と関連付けられ、当該所定の位置に関連する状況を表す経路状況情報とを含んでもよく、前記状況推定部はさらに、前記運動記録により特定される位置に関連した経路状況情報が前記地図情報にあれば、当該運動記録と当該経路状況情報とを連係させる連携部を含んでもよい。この構成により、車両ごとの運転安全度を、各回の運転結果に基づき、車両の移動経路における状況に基づいて、状況別に評価できる。
【0023】
(11)この開示の第2の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部と、前記時系列中の前記運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定部と、前記状況推定部により推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するスコアリング部と、前記スコアを状況別に出力する出力部として機能させる。この構成により、車両の運転者の運転安全度を状況別に評価できる。
【0024】
(12)この開示の第3の局面に係る運転安全度評価方法は、コンピュータが、車両の運動記録の時系列を取得する情報取得ステップと、コンピュータが、前記時系列中の前記運動記録の各々について、前記車両の置かれた状況を当該運動記録に基づいて推定する状況推定ステップと、コンピュータが、前記状況推定ステップにおいて推定された前記状況に基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用いて、前記車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に算出するステップと、コンピュータが、前記スコアを状況別に出力するステップとを含む。この構成により、車両の運転者の運転安全度を状況別に評価できる。
【0025】
(13)この開示の第4の局面に係る運転安全度評価システムは、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の運転安全度評価装置と、車両に搭載され、当該車両の位置および加速度の時系列を測定して前記車両の運動情報として前記運転安全度評価装置に無線通信する運動情報送信装置とを含む。この構成により、安価な運動情報送信装置を使用して車両の運転者の運転安全度を状況別に評価できる。
【0026】
この開示の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの開示に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る運転安全度評価装置、コンピュータプログラム、および運転安全度評価方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0028】
1.第1実施形態
A.構成
A1.全体構成
図1を参照して、この開示の第1実施形態に係る運転安全度評価システム50は、車両に搭載され、車両の運動記録の時系列を取得して無線により送信する1または複数のトラッカ102と、1または複数のトラッカ102から受信した各車両の運動記録に基づいて、各車両の運転者の運転安全度を評価し、結果を出力するための運転安全度評価サーバ100とを含む。
運転安全度評価サーバ100は、ネットワークを通じた通信を提供する通信部110と、通信部110を通じた1、または複数のトラッカ102との通信を介して、各車両の運動記録の時系列を取得する情報取得部112と、情報取得部112が取得した各車両の運動記録の時系列を蓄積する情報蓄積部116とを含む。この実施形態における車両の運動記録は、車両を特定する識別子(車両識別子)と、車両の位置、速度および加速度を特定する運動情報と、その運動情報を車両が取得した時刻を示す時刻情報とを含む。車両の位置、速度および加速度は、典型的には、後述するようにトラッカ102が含むGPS(Global Positioning System)センサおよび加速度センサから取得される。またこの実施形態においては、この運動情報は一定間隔、例えば3秒間隔により車両から取得される。加速度については、連続する運動情報の速度を比較することにより運転安全度評価サーバ100が算出してもよい。この場合には車両と運転安全度評価サーバ100との通信データ量をより削減できる。運動情報の取得間隔を3秒などの比較的長い間隔とすることにより、通信データ量をさらに削減できる。なお、GPSセンサの出力から加速度を算出することも可能であり、その場合には加速度センサも不要である。
【0029】
運転安全度評価サーバ100はさらに、道路地図と地図に付随する各種の情報を記憶する地図情報記憶部118と、通信部110を介して、外部のサーバから交通情報、天候情報などを取得し、また地図上の指定された位置に関連する情報を地図情報記憶部118から取得する補助情報取得部114とを含む。運転安全度評価サーバ100はさらに、指定された車両の位置に関し、補助情報取得部114により取得された情報と運動情報とに基づいて、その車両の状況を推定する状況推定部120と、情報蓄積部116に蓄積された、1ドライブ単位に関する車両の運動記録の時系列を読み出し、その時系列中の運動記録の各々について、その運動記録と、状況推定部120により推定された状況とに基づいて、予め準備されたスコアリングモデルを用い、車両の運転の安全度を評価するスコアを状況別に分類して算出するスコアリング部122とを含む。運転安全度評価サーバ100はさらに、スコアリング部122が使用するスコアリングモデル124と、スコアリング部122により算出されたスコアを、車両の状況別に出力する出力部126を含む。
【0030】
なお、この実施形態において、車両の状況とは、特に限定されるわけではないが、車両から、最も近い信号機までの距離、車両が走行している道路の分類(市街地、山道、車両専用道路など)、車両の走行状況(加速、減速、横方向の加速など)、およびその他の情報(渋滞状況、交差点位置など)などを含む。またこの実施形態においては、通信の負荷を抑えるために、特に限定されるわけではないが、3秒に1回程度という比較的長い周期により、上記した車両の運動情報を車両から運転安全度評価サーバ100に繰り返し送信するものとする。
【0031】
トラッカ102は、GPSセンサ130と、加速度センサ132と、GPSセンサ130および加速度センサ132と接続されたプロセッサ134と、プロセッサ134と接続された無線通信機136とを含む。プロセッサ134は、GPSセンサ130の出力および加速度センサ132の出力を上記した周期に従ってサンプリングし、時系列の運動情報として無線通信機136を介して運転安全度評価サーバ100に送信するようプログラムされている。
【0032】
この実施形態においては、スコアリングモデル124は、予め準備された教師データに基づいて、車両の運動情報が与えられると、その車両のドライバが安全運転ドライバである確率を出力するように学習を行って得られたものである。より具体的には、スコアリングモデル124は、ロジスティック回帰によるモデルである。
【0033】
この実施形態において使用するロジスティック回帰は、事象として車両のドライバが安全運転者であるという事象を採用し、事象の確率分布として二項分布を用いるものである。車両のドライバが安全運転者である確率をq、そうでない確率(すなわち車両のドライバが不安全運転者である確率)を1-qとする。そのために、この実施形態においては、予め安全運転者を想定して運転した車両から得られた運動情報には1のラベルを付し、不安全運転者を想定して運転した車両から得られた運動情報には0のラベルを付した学習データを用いて回帰パラメータの学習を行う。具体的には、運動情報の内、速度と加速度とをベクトルxとし、1回のドライブにおけるこれらベクトルxの集合Xが得られたときに、その車両の運転者のスコア(ラベル)が1となる確率の期待値をもって、その運転者の運転安全度とする。すなわち、Yを運転者のラベルとして、q=P(Y=1|X)である。
【0034】
ロジスティック回帰のロジスティック関数として、以下の式により示すシグモイド関数を用いる。シグモイド関数については
図6を参照して後述する。
【0035】
【数1】
変数zはロジスティック回帰における線形予測子である。この実施形態においては、線形予測子として、以下の式により示す車両の速度vと加速度αとの線形和を用いる。
【0036】
【数2】
この開示においては、-zを基礎スコア、確率qを運転安全度スコア、両者をまとめて単にスコアと呼ぶ。運転安全度スコアqは車両の運転の安全度を示す指標であり、この実施形態においてはその値域は(0,1)である。基礎スコアの係数b
0,b
1およびb
2は、上記したように予め学習データを用いて以下の式に従う最尤推定により学習する。
【0037】
【数3】
この式において、iはi番目のデータセットであることを示し、tはデータセットのt番目であることを示す。tagはラベル(安全運転者=1、不安全運転者=0)である。な、この実施形態において1データセットとは、車両の1回の運転により得られたデータのことをいい、原則として1ファイルに格納される。
【0038】
図1に示す地図情報記憶部118に記憶された情報の概略を
図2に示す。
図2を参照して、地図情報記憶部118には、地図に道路ネットワークが重畳された道路地図情報150と、道路に隣接して設けられた信号位置を示す信号情報152と、道路分類情報154が記憶される。道路ネットワークの各道路には、道路の分類を表す記号が割り当てられている。この記号により示される道路の分類の内容は道路分類情報154により示されている。また地図は複数の、互いに重複しない複数の矩形部分に分割されている。これら矩形部分の各々には、その矩形部分の中心から最も近い1または信号の識別情報が割り当てられている。車両の位置がGPSにより得られると、道路地図情報150によりその車両が存在する道路の分類を示す記号が得られ、さらにその記号を用いて道路分類情報154を参照することにより、道路がどの分類に属するかが具体的に分かる。また、車両の位置がGPSにより得られると、その道路においてその車両の存在する矩形部分に割り当てられた信号の識別情報により、その矩形部分に近い1または複数の信号の位置が信号情報152を参照することにより分かる。この値と、車両の位置とに基づいて車両と各信号との間の距離および車両からの方向が算出できる。距離としてどのような値を用いるかについて、距離としての条件を満足すること以外に特に限定はないが、この実施形態においてはユークリッド距離を用いている。
【0039】
A2.スコアリング部122
図3を参照して、スコアリング部122は、情報蓄積部116に蓄積された運動情報のファイルの1つから、運動情報を読み出し、上記した線形予測子に速度と加速度とを代入して基礎スコアを算出し、さらにロジスティックモデルに基礎スコアを代入することにおより(0,1)の値域にマップされたスコアを算出し運動情報に追加して出力するためのスコア算出部200と、スコア算出部200により算出された1ファイル分のマップ後スコア付の運動情報を蓄積するためのスコア付運動情報蓄積部202とを含む。スコアリング部122はさらに、スコア付運動情報蓄積部202に蓄積された1ファイル分のマップ後スコア付の運動情報の各々を、状況推定部120により推定された各運動情報の取得時の車両の状況に従って分類するための分類部204と、分類部204により分類された運動情報を蓄積するための分類後スコア蓄積部206と、分類後スコア付運動情報について、分類ごとに代表値を算出し運転安全度スコアとして出力部126に出力するための代表値算出部208とを含む。この実施形態においては、代表値として算術平均を用いるが、それ以外の代表値、例えばメディアン、最頻値などを用いてもよい。
【0040】
分類部204は、マップ後スコア付の運動情報の各々を、その運動情報が得られたときの車両に関係する状況に応じて分類する機能を持つ。このように分類部204が運動情報を分類し、分類された運動情報の各々について代表値算出部208が代表値を算出する。これにより、分類ごとの運転者の運転安全度スコアが得られる。この実施形態においては、運転安全度スコアとしては急加速スコア、急減速スコア、信号内加速スコア、緩やかな始動スコアを採用している。これらの分類は、運動情報に付加された道路の分類、交通情報などと、運動情報に含まれる速度および加速度に依存する条件として、後述するプログラムにより行われる。
【0041】
出力部126は、この実施形態においては、代表値算出部208により算出された各分類における運転安全度スコアをそれぞれ表示することにより、ドライバに自己の状況別の運転安全度を示すためのものである。
【0042】
A3.コンピュータプログラムによる実現
上記した実施形態の内、
図3に示す分類部204は、コンピュータハードウェアと、そのコンピュータハードウェアにより実行されるプログラムとにより実現される。
図4に、そのプログラムの制御構造を示す。このプログラムは、この実施形態においては、1回のドライブが終了し、そのドライブに関する運動情報の全てが得られた時点において起動され、そのドライブにおいて得られた運動情報の各々を車両の状況に基づいて分類するためのものである。
【0043】
図4を参照して、このプログラムは、プログラムの起動とともに、コンピュータに接続されたハードウェアの確認、変数および定数を記憶するためのメモリ領域の確保、確保された各メモリ領域の初期化などの初期設定を行うステップ250と、直前のドライブにおいて収集された運動情報のファイル、およびこの処理により生成される分類後の運動情報を書き出す先のファイルをオープンするステップ252と、このファイルの各レコードに対して以下の分類処理256を実行することにより、車両の状況に応じて各レコードを分類し分類を示す情報を付して出力ファイルに追加するステップ254とを含む。特に図示してはいないが、ステップ254においては、不適切なデータは読み飛ばされる。不適切なデータとは、以下の処理に必要な速度、または加速度に関する情報が含まれていないデータなどをいう。このプログラムはさらに、ステップ254の処理が完了した後に、ステップ252においてオープンした入力ファイルと出力ファイルとをクローズするステップ258と、プログラムの実行の終了に伴う終了処理を実行してこのプログラムの実行を終了するステップ260とを含む。
【0044】
分類処理256は、
図1に示す補助情報取得部114と連携することにより、運動情報の分類に必要な情報を取得する連携処理を行うステップ290と、ステップ290において得られた情報を用いて、予め準備された条件に従って運動情報レコードを分類するステップ292と、ステップ292において分類された結果を示す分類情報を各運動情報のレコードに付加して出力ファイルに追加して分類処理256を終了するステップ294とを含む。
【0045】
ステップ290は、入力ファイルのレコードを読むステップ310と、ステップ310において読んだレコードに含まれる位置情報を用いて、車両の位置に最も近い信号機を探すステップ312と、ステップ312において見つかった信号機と車両との距離を計算し、ステップ310において読んだレコードに追加するステップ314とを含む。
【0046】
ステップ290はさらに、車両の位置を含む地図上の矩形領域に対応する道路分類情報を
図2に示す道路分類情報154から取得するステップ316と、補助情報取得部114が取得した交通情報の内、車両の位置を含む地図上の矩形領域に対応する交通情報を取得するステップ318とを含む。
【0047】
ステップ292における分類としては様々なものが考えられる。この実施形態においては、上記したように車両の状況に応じて急加速スコア、急減速スコア、信号内加速スコア、および緩やかな始動スコアを運動情報のレコード内容と連携処理により得られた情報とを用いた条件判定により、各レコードを分類する。この実施形態においては、説明を分かりやすくするために、以下のようなスコアの種類と、各スコアを算出するために使用されるレコードの分類条件とを用いる。
【0048】
[急加速スコア]
急加速スコアについては、例えば過去30秒の間に停止した履歴がなく、速度が例えば80km/h以下であり、加速中である、という条件の運動情報を抽出し、それらのスコアの代表値を用いる。
【0049】
[急減速スコア]
急減速スコアについては、例えば過去30秒の間に停止した履歴がなく、速度が例えば80km/h以下であり、減速中である、という条件の運動情報を抽出し、それらのスコアの代表値を用いる。急加速スコアおよび急減速スコアの算出において速度に上限を設けているのは、速度が大きいと加速度が多少大きくてもスコアが小さめに出てしまうためである。
【0050】
[信号内加速スコア]
信号内加速スコアについては、最も近い信号から所定距離以内であり、例えば過去30秒の間に停止した履歴がなく、加速中であるという条件の運動情報を抽出してそれらのスコアを用いる。
【0051】
[緩やかな始動スコア]
緩やかな始動スコアについては、例えば過去30秒の間に停止した履歴があり、加速中であるという条件の運動情報を抽出してそれらのスコアを用いる。
【0052】
図5に、代表値算出部208の構成を示す。
図5を参照して、代表値算出部208は、分類後スコア蓄積部206に蓄積されている分類後のスコア付運動情報の各々について、そのスコア(基礎スコア)を所定の値域にマッピングするマッピング部350と、マッピング部350によりマップされた後のスコア(マップ後スコア)を記憶するマップ後スコア記憶部352と、マップ後スコア記憶部352に記憶された各マップ後スコアを集計することにより、上記した分類別のマップ後スコアの代表値を算出し運転安全度スコアとして出力部126に出力するための分類別代表値算出部354とを含む。
【0053】
図6に、マッピング部350において使用されるマッピングのためのグラフ400を示す。このグラフ400は、既に述べたシグモイド関数のグラフである。シグモイド関数は、定義域が(-∞,+∞)、値域が(0,1)の単調増加関数である。一方、スコア算出部200により算出された基礎スコアの値域は(-∞,+∞)である。したがって、このシグモイド関数に基礎スコアを入力することにより、基礎スコアが(0,1)の範囲にマッピングされる。このマップされた後の基礎スコアをここではマップ後スコアと呼んでいる。なお、
図6はシグモイド関数のグラフの内、横軸が-2.0から+2.0程度の範囲を抽出したものである。
【0054】
B.動作
上記した構成を持つ運転安全度評価システム50は以下のように動作する。
【0055】
B1.データの収集
運転安全度評価サーバ100を利用して運転安全度を評価しようとする車両に搭載されたトラッカ102のプロセッサ134は、走行中に3秒につき1回程度の頻度をもって、車両の位置、速度および加速度をGPSセンサ130および加速度センサ132の出力をサンプリングし、簡単なデータ処理を行い無線通信機136を介して運転安全度評価サーバ100に時系列の運動情報として送信する。運転安全度評価サーバ100の情報取得部112は、通信部110を介してこの運動情報を受信し、メモリに蓄積する。車両が1ドライブを終了すると、その情報が情報取得部112に送信され、情報取得部112はメモリに蓄積した運動情報を1ファイルとして情報蓄積部116に書き出す。
【0056】
B2.運転安全度スコアの算出
情報蓄積部116にファイルが書き出されると、スコアリング部122がそのファイルに記録されている運動情報に基づき、以上のようにして車両の運転者の運転安全度スコアを算出する。
【0057】
図3を参照して、情報蓄積部116に保存されているファイルの内、スコア算出の対象となっているファイルから読み出したレコードであって、有効な情報が記録されているレコードの各々について、スコア算出部200がスコアリングモデル124により基礎スコアを算出する。この値の値域は(-∞,+∞)である。スコア算出部200は、各レコードに対し、その基礎スコアを付してスコア付運動情報を作成し、スコア付運動情報蓄積部202に出力する。
【0058】
分類部204は、スコア付運動情報蓄積部202に蓄積されているスコア付運動情報の各々について、上記した条件を適用し、スコア付運動情報を分類する。分類部204は、スコア付運動情報の各々を分類結果に応じて区別して分類後スコア蓄積部206に出力する。
【0059】
図5を参照して、代表値算出部208のマッピング部350は、分類後スコア蓄積部206に蓄積されている分類後スコア付運動情報の各々について、その基礎スコアの値をシグモイド関数への入力とすることにより、(0,1)の値域にマッピングし、分類別にマップ後スコア記憶部352に保存する。分類別代表値算出部354は、マップ後スコア記憶部352に保存されている分類別の運動情報について、分類別にマップ後スコアの代表値を算出する。この実施形態において、代表値は平均値である。したがってどの分類の代表値も、その値は(0,1)の範囲の値となる。分類別代表値算出部354は、この代表値を運転安全度スコアとして出力部126(
図1を参照)に出力する。
【0060】
出力部126は、分類別代表値算出部354から与えられた分類別のスコアを所定の方法により出力する。この実施形態においては、ドライブの終了時にドライバにスコアをフィードバックすることが想定されている。したがって出力部126は、算出されたスコアを例えば対象車両に搭載された車載ナビに送信してモニタに表示したり、ドライバの持つ携帯電話に電子メールとして送信したりする。
【0061】
以上のようにして、この実施形態によれば、ドライバが車両の運転を終了すると、それまでの一連の運転に関する運転安全度についての運転安全度スコアが算出され、ドライバにフィードバックされる。その結果、各ドライバは自分の運転の安全度に関する客観的な評価を直ちに知ることができる。そのため、各ドライバは、自己の運転状況をすぐに振り返ることができ、より安全な運転を心がけるようになるという効果が得られる。
【0062】
トラッカ102から運転安全度評価サーバ100に送信する情報は比較的長い周期でサンプリングした時系列の情報でよい。またその情報は、基本的には時刻情報と位置情報だけを含めばよい。場合によっては加速度情報および位置情報などをこの信号に含めてもよいが、これら簡単な処理により算出可能であり、トラッカ102において複雑な処理を行う必要はない。その結果、トラッカ102の構成を簡略にでき、トラッカ102を安価に製造できる。
【0063】
なお、上記実施形態においては、スコアを0から1の範囲にマッピングしてドライバに提示している。しかしこの開示はそのような実施形態に限定されるわけではない。例えばスコアを0から100の範囲に再マッピングしてもよいし、スコアを数値ではなく色を用いて表示してもよい。また、上記実施形態においては、運転安全度スコアの算出時に交通情報および天候情報などの補助情報を用いている。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。そ補助情報を用いずに運転安全度スコアを算出するようにしてもよい。これは以下の実施形態においても同様である。
【0064】
2.第2実施形態
上記第1実施形態においては、
図5に示すように、スコアを所定の値域にマッピングした後に代表値を算出している。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。
分類別のスコアの代表値を算出した後に、その代表値を所定の値域にマッピングしてもよい。この第2実施形態はそのような実施形態である。
【0065】
この第2実施形態に係る運転安全度評価サーバが第1実施形態に係る運転安全度評価サーバ100と異なるのは、
図5に示すスコア算出部200に代えて、
図7に示す代表値算出部280を含む点である。その他の点においてこの第2実施形態に係る運転安全度評価サーバは運転安全度評価サーバ100と同様の構成を持つ。
【0066】
図7を参照して、この第2実施形態に係る代表値算出部280は、分類後スコア蓄積部206に蓄積されている分類後スコア付運動情報について、分類別に基礎スコアの代表値を算出する分類別代表値算出部450と、分類別代表値算出部450により算出された分類別の基礎スコアの代表値を値域(0,1)にマッピングし分類別の代表値、すなわち分類別の運転安全度スコアとして出力するマッピング部452とを含む。分類別代表値算出部450は、マッピング前の基礎スコアの、分類別の代表値(この実施形態に置いては平均値)を算出する。したがってその値域は(-∞,+∞)である。この代表値をマッピング部452が(0,1)にマッピングする。その結果、この第2実施形態においても、運転者の運転安全度が(0,1)の範囲の運転安全度スコアとして表示される。
【0067】
シグモイド関数が非線形であるため、この第2実施形態により得られた最終的な代表値は、第1実施形態において得られた代表値とは異なる。しかし、スコアの大小関係は保存されるため、この第2実施形態により得られたスコアによっても、運転者の運転安全度を適切に評価できる。なお、この第2実施形態においても、最終的なマッピング範囲を(0,1)以外の範囲としてもよい。またスコアの表示方法についても第1実施形態と同様、様々な方法が可能である。
【0068】
3.第3実施形態
A.構成
上記した第1実施形態および第2実施形態のいずれにおいても、運転安全度を評価したスコアは絶対的な値として表示されている。しかし、この開示はそのような実施形態に限定されるわけではない。例えばある事業所に複数の車両があり、それぞれ別々の運転者により運転が行われる場合には、各運転者の運転安全度のスコアを、上記したように絶対的な値とするのではなく、相対的な評価に基づくスコアにすることができる。この第3実施形態はそのような実施形態である。この実施形態においては、車両と運転者とが1対1に対応することを想定して、運転者別ではなく、車両別にスコアを算出する。この実施形態は、事業所において各運転者の運転安全度を評価するためのものである。なお、この実施形態においては、運動情報がどの車両のものかは、運動情報に付されている車両識別子により識別する。
【0069】
図8に、第3実施形態に係る運転安全度評価サーバの概略構成を示す。
図8を参照して、この運転安全度評価サーバ500が
図1に示す運転安全度評価サーバ100と異なるのは、
図1のスコアリング部122に代えて、車両別および車両の状況別に相対的な運転安全度スコアを算出するためのスコアリング部510を含むことと、
図1の出力部126に代えて、スコアリング部510により算出されたスコアを、車両別および分類別に出力するための出力部512とを含む点である。
【0070】
図9にスコアリング部510の構成を示す。
図9を参照して、このスコアリング部510は、
図3に示すスコアリング部122と同様、スコア算出部200、スコア付運動情報蓄積部202、分類部204、および分類後スコア蓄積部206を含む。しかしこのスコアリング部510は、
図3に示す代表値算出部208に代えて、分類後スコア蓄積部206から分類後の運動情報を読み出し、運動情報を統計処理することにより運動情報を標準化するための標準化部550と、標準化部550の出力する標準化後運動情報を蓄積するための標準化後スコア蓄積部552と、標準化後スコア蓄積部552に蓄積された標準化後運動情報に基づいて、分類別の車両別代表値を算出し運転安全度スコアとして出力するための移動体別代表値算出部554とを含む点においてスコアリング部122と異なる。
【0071】
標準化部550が行う標準化処理とは、統計学的な標準化である。具体的には、分類部204により状況別に分類された基礎スコアについて、それぞれ分類ごとに平均値および標準偏差を算出する。各基礎スコアから分類別の平均値を引くことにより分類ごとに基礎スコアを中央化する。得られた中央化後の基礎スコアをさらに分類ごとの標準偏差により除する。こうして、分類ごとに(状況ごとに)、各車両の基礎スコアを標準化したスコアが得られる。このスコアをこの明細書においては標準化後スコアという。標準化後スコア蓄積部552はこのように分類別に得られた標準化後スコアを蓄積する。この標準化後スコアには、車両の識別子が付されている。
【0072】
最後に移動体別代表値算出部554が、標準化後スコアに基づいて車両別、分類別に運転安全度スコアを算出して出力する。この場合には、事業所において各運転者の運転安全度を評価することが目的である。したがって、移動体別代表値算出部554が、車両別(すなわち運転者別)、分類別(状況別)の標準化後スコアの代表値を運転安全度スコアとして、事業所が運転者を管理しやすいような形に整形して出力する。
【0073】
図10に、移動体別代表値算出部554を実現するコンピュータプログラムの制御構造を示す。
図10を参照して、このプログラムは、例えば事業所の1日の事業が全て終了し全車両が事業所に戻った後に起動される。このプログラムは、初期設定を行うステップ600と、標準化後スコア蓄積部552に蓄積されている標準化後スコアの分類を全て抽出するステップ602と、ステップ602において抽出された各分類について、標準化スコアの分類別の所定の値域へのマッピングと代表値の算出とを行う代表値算出処理606を行うステップ604と、代表値算出処理606により得られる最終的な運転安全度スコアを出力するなどの終了処理を行うステップ608とを含む。なお、この実施形態においては、ステップ602において分類を抽出しているが、スコア情報の分類が予め全て分かっている場合にはステップ602は不要である。ただしこのステップ602のように分類を抽出するステップを設けることにより後から分類が追加されたりしたときにもこのプログラムを修正したりする必要が生じないという利点がある。
【0074】
代表値算出処理606は、標準化された各標準化後スコアをシグモイド関数に代入することにより、(0,1)の地域にマッピングするステップ626と、ステップ626によりマッピングされたマップ後スコアをそれらの車両識別子とともに保存するステップ628と、ステップ628により車両識別子とともに保存された各マップ後スコアを用いて、車両識別子ごとにマップ後スコアの代表値を算出し、処理中の分類の、その車両識別子により表される車両の運転安全度スコアとして保存し代表値算出処理606を終了するステップ630とを含む。
【0075】
B.動作
この第3実施形態に係る運転安全度評価サーバ500の動作は、スコアリング部510および出力部512の動作が第1実施形態に係る運転安全度評価サーバ100と異なる。
【0076】
より具体的には、
図9に示されるとおり、標準化部550が基礎スコアを分類別に標準化する。標準化されたスコアに基づき、移動体別代表値算出部554が分類別、車両別に(0,1)にマップされたスコアの代表値を運転安全度スコアとして算出する。したがって、複数の車両がある事業所において、車両別に、車両の状況別に運転安全度を比較できる。各車両のドライバに各ドライバの運転安全度スコアを配布することにより、各ドライバは事業所内における自分の相対的な運転安全度が確認でき、運転安全度スコアが悪ければより安全な運転を試みるようになる。その結果、事業所の車両の運行の安全性を高めることが可能になる。
【0077】
4.コンピュータによる実現
図11は、プログラムを実行することにより、例えば
図1に示す運転安全度評価サーバ100および
図8に示す運転安全度評価サーバ500として動作するコンピュータシステムの外観図である。
図12は、
図11に示すコンピュータシステムのハードウェアブロック図である。なお、
図11に示す例はタワー型のコンピュータシステムであるが、タワー型以外のものでもよい。コンピュータシステムは例えばラックマウント型、またはブレード型などであってもよい。さらにサーバはいわゆるオンプレミスサーバであってもよいし、クラウドサーバのようなオンプレミスサーバ以外のサーバであってもよい。
【0078】
図11を参照して、このコンピュータシステム650は、DVD(Digital Versatile Disc)ドライブ702を有するコンピュータ670と、いずれもコンピュータ670に接続された、ユーザと対話するためのキーボード674、マウス676、およびモニタ672とを含む。もちろんこれらはユーザ対話が必要となったときのための構成の一例であって、ユーザ対話に利用できる一般のハードウェアおよびソフトウェア(例えばタッチパネル、音声入力、ポインティングデバイス一般)であればどのようなものも利用できる。
【0079】
図12を参照して、コンピュータ670は、DVDドライブ702に加えて、CPU(Central Processing Unit)690と、GPU(Graphics Processing Unit)692と、CPU690、GPU692、DVDドライブ702に接続されたバス710とを含む。コンピュータ670はさらに、バス710に接続され、コンピュータ670のブートアッププログラムなどを記憶するROM(Read-Only Memory)696と、バス710に接続され、プログラムを構成する命令、システムプログラム、および作業データなどを記憶するRAM(Random Access Memory)698と、バス710に接続された不揮発性メモリであるSSD(Solid State Drive)700とを含む。SSD700は、CPU690およびGPU692が実行するプログラム、ならびにCPU690およびGPU692が実行するプログラムが使用するデータなどを記憶するためのものである。コンピュータ670はさらに、他端末との通信を可能とするネットワーク686への接続を提供するネットワークI/F(Interface)708と、USB(Universal Serial Bus)メモリ684が着脱可能であり、USBメモリ684とコンピュータ670内の各部との通信を提供するUSBポート706とを含む。
【0080】
コンピュータ670はさらに、マイクロフォン682およびスピーカ680とバス710とに接続され、CPU690により生成され、RAM698またはSSD700に保存された音声信号、映像信号およびテキストデータをCPU690の指示に従って読み出し、アナログ変換および増幅処理をしてスピーカ680を駆動したり、マイクロフォン682からのアナログの音声信号をデジタル化し、RAM698またはSSD700の、CPU690により指定される任意のアドレスに保存したりする機能を持つ音声I/F704を含む。
【0081】
上記実施形態においては、
図1に示す運転安全度評価サーバ100および
図8に示す運転安全度評価サーバ500などの各機能を実現するプログラムなどは、いずれも例えば
図12に示すSSD700、RAM698、DVD678またはUSBメモリ684、もしくはネットワークI/F708およびネットワーク686を介して接続された図示しない外部装置の記憶媒体などに格納される。典型的には、これらのデータおよびパラメータなどは、例えば外部からSSD700に書込まれコンピュータ670の実行時にはRAM698にロードされる。
【0082】
このコンピュータシステムを、
図1に示す運転安全度評価サーバ100および
図8に示す運転安全度評価サーバ500、ならびにその各構成要素の機能を実現するよう動作させるためのコンピュータプログラムは、DVDドライブ702に装着されるDVD678に記憶され、DVDドライブ702からSSD700に転送される。または、これらのプログラムはUSBメモリ684に記憶され、USBメモリ684をUSBポート706に装着し、プログラムをSSD700に転送する。または、このプログラムはネットワーク686を通じてコンピュータ670に送信されSSD700に記憶されてもよい。
【0083】
プログラムは実行のときにRAM698にロードされる。もちろん、キーボード674、モニタ672およびマウス676を用いてソースプログラムを入力し、コンパイルした後のオブジェクトプログラムをSSD700に格納してもよい。上記実施形態のようにスクリプト言語の場合には、キーボード674などを用いて入力したスクリプトをSSD700に格納してもよい。仮想マシン上において動作するプログラムの場合には、仮想マシンとして機能するプログラムを予めコンピュータ670にインストールしておく必要がある。モデルの学習などにはニューラルネットワークが使用される。運転安全度評価サーバ100および運転安全度評価サーバ500においては、多数の運動情報に対して比較的単純な演算を繰り返し実行する。したがってGPU692にそのような処理を並列処理として実行させると有効である。
【0084】
CPU690は、その内部のプログラムカウンタと呼ばれるレジスタ(図示せず)により示されるアドレスに従ってRAM698からプログラムを読み出して命令を解釈し、命令の実行に必要なデータを、命令により指定されるアドレスに従ってRAM698、SSD700またはそれ以外の機器から読み出し、命令により指定される処理を実行する。CPU690は、実行結果のデータを、RAM698、SSD700、CPU690内のレジスタなど、プログラムにより指定されるアドレスに格納する。このとき、プログラムカウンタの値もプログラムによって更新される。コンピュータプログラムは、DVD678から、USBメモリ684から、またはネットワーク686を介して、RAM698に直接にロードしてもよい。なお、CPU690が実行するプログラムの内、一部のタスク(主として数値計算)については、プログラムに含まれる命令により、またはCPU690による命令実行時の解析結果に従って、GPU692にディスパッチされるようにしてもよい。
【0085】
コンピュータ670により上記した実施形態に係る各部の機能を実現するプログラムは、それら機能を実現するようコンピュータ670を動作させるように記述され配列された複数の命令を含む。この命令を実行するのに必要な基本的機能のいくつかはコンピュータ670上において動作するオペレーティングシステム(OS(Operating System))もしくはサードパーティのプログラム、コンピュータ670にインストールされる各種ツールキットのモジュールまたはプログラムの実行環境により提供される場合もある。したがって、このプログラムはこの実施形態のシステムおよび方法を実現するのに必要な機能全てを必ずしも含まなくてよい。このプログラムは、命令の内、所望の結果が得られるように制御されたやり方によって適切な機能またはモジュールなどをコンパイル時に静的にリンクすることにより、または実行時に動的に呼出すことにより、上記した各装置およびその構成要素としての動作を実行する命令のみを含んでいればよい。そのためのコンピュータ670の動作方法は周知であるため、ここでは繰り返さない。
【0086】
なお、GPU692は並列処理を行うことが可能であり、大量の運動情報の処理に伴う多量の計算を同時並列的またはパイプライン的に実行できる。例えばプログラムのコンパイル時にプログラム中に発見された並列的計算要素、またはプログラムの実行時に発見された並列的計算要素は、随時、CPU690からGPU692にディスパッチされ、実行され、その結果が直接に、またはRAM698の所定アドレスを介してCPU690に返され、プログラム中の所定の変数に代入される。
【0087】
上述の実施形態の各処理(各機能)は、1または複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。上記処理回路は、上記1または複数のプロセッサに加え、1または複数のメモリ、各種アナログ回路、各種デジタル回路が組み合わされた集積回路などで構成されてもよい。上記1または複数のメモリは、上記各処理を上記1または複数のプロセッサに実行させるプログラム(命令)を格納する。上記1または複数のプロセッサは、上記1または複数のメモリから読み出した上記プログラムに従い上記各処理を実行してもよいし、予め上記各処理を実行するように設計された論理回路に従って上記各処理を実行してもよい。上記プロセッサは、CPU、GPU、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)など、コンピュータの制御に適合する種々のプロセッサであってよい。なお物理的に分離した上記複数のプロセッサが互いに協働して上記各処理を実行してもよい。例えば物理的に分離した複数のコンピュータのそれぞれに搭載された上記プロセッサがLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネットなどのネットワークを介して互いに協働して上記各処理を実行してもよい。上記プログラムは、外部のサーバ装置などから上記ネットワークを介して上記メモリにインストールされてもよいし、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read-Only Memory)、半導体メモリなどの記録媒体に格納された状態にあって流通し、上記記録媒体から上記メモリにインストールされてもよい。
【0088】
今回開示された実施の形態は全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、開示の詳細な説明の記載により示されるわけではなく、特許請求の範囲の各請求項によって示され、特許請求の範囲の文言と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
50 運転安全度評価システム
100、500 運転安全度評価サーバ
102 トラッカ
110 通信部
112 情報取得部
114 補助情報取得部
116 情報蓄積部
118 地図情報記憶部
120 状況推定部
122、510 スコアリング部
124 スコアリングモデル
126、512 出力部
130 GPSセンサ
132 加速度センサ
134 プロセッサ
136 無線通信機
150 道路地図情報
152 信号情報
154 道路分類情報
200 スコア算出部
202 スコア付運動情報蓄積部
204 分類部
206 分類後スコア蓄積部
208、280 代表値算出部
256 分類処理
350、452 マッピング部
352 マップ後スコア記憶部
354、450 分類別代表値算出部
400 グラフ
550 標準化部
552 標準化後スコア蓄積部
554 移動体別代表値算出部
606 代表値算出処理
650 コンピュータシステム
670 コンピュータ
672 モニタ
674 キーボード
676 マウス
678 DVD
680 スピーカ
682 マイクロフォン
684 USBメモリ
686 ネットワーク
690 CPU
692 GPU
696 ROM
698 RAM
700 SSD
702 DVDドライブ
704 音声I/F
706 USBポート
708 ネットワークI/F
710 バス