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特開2024-88056広域需給調整装置、広域需給調整システム、広域需給調整装置用コンピュータプログラムおよび広域需給調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088056
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】広域需給調整装置、広域需給調整システム、広域需給調整装置用コンピュータプログラムおよび広域需給調整方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/46 20060101AFI20240625BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240625BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240625BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/00 170
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203029
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】東野 正和
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 量一
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA04
5G066HA15
5G066HB01
5G066HB06
5G066KA06
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく経済的に電力需給調整を行う広域需給調整装置システム、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】広域需給調整システム1において、広域需給調整装置5は、制御の対象となるエリアの夫々の地域要求電力(AR)に基づき、制御の対象となるエリア全体の調整量の総量を算出するネッティング部51、エリア全体の調整量の総量を、制御の対象となるエリアの夫々に分配して、エリアの夫々の発電機毎の制御分担量を算出する制御分担量算出部52及び算出した発電機毎の制御分担量に基づき、エリアの夫々に対する指令値を作成する各電源指令作成部53を有する。制御分担量算出部は、ARと電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力とARとの差分であるインバランスを分配してエリアの夫々の発電機毎の制御分担量を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となる前記エリア全体の調整量の総量を算出するネッティング部と、
前記ネッティング部により算出された前記エリア全体の調整量の前記総量を、制御の対象となる前記エリアのそれぞれに分配して、前記エリアのそれぞれの発電機ごとの制御分担量を算出する制御分担量算出部と、
前記制御分担量算出部により算出された前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量に基づき、前記エリアのそれぞれに対する指令値を作成する各電源指令作成部と、を有し、
前記制御分担量算出部は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
広域需給調整装置。
【請求項2】
前記制御分担量算出部は、
電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価であるほど大きな数値となり、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価であるほど大きな数値となる関数により定義された重み付け係数を算出し、
算出した前記重み付け係数に基づき、前記制御分担量を算出する、
請求項1に記載の広域需給調整装置。
【請求項3】
前記重み付け係数は、前記電力価格に正比例した関数と前記電力価格の逆数に正比例した関数とを組合せた関数、または予め設定された基準価格と前記電力価格との差による関数により定義された、
請求項2に記載の広域需給調整装置。
【請求項4】
前記重み付け係数は、前記電力価格に関する関数と前記発電機の出力変化速度にかかる関数とを組合せた関数により定義された、
請求項2に記載の広域需給調整装置。
【請求項5】
前記制御分担量算出部は、前記発電機ごとの出力電力と電力価格との関係に基づき、前記電力価格の順に前記インバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
請求項2に記載の広域需給調整装置。
【請求項6】
前記制御分担量算出部は、前記発電機が単位時間あたりに変動させることができる出力電力の最大値である出力変化速度に基づき、前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
請求項2に記載の広域需給調整装置。
【請求項7】
前記制御分担量算出部は、制御対象である発電機に対する指令値の送受信に要する伝送時間に対応した制御量を含め、前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
請求項6に記載の広域需給調整装置。
【請求項8】
前記制御分担量算出部は、前記エリア間の連系線潮流制約に基づき前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
請求項2に記載の広域需給調整装置。
【請求項9】
制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となる前記エリア全体の調整量の総量を、算出するネッティング部と、
前記ネッティング部により算出された前記エリア全体の調整量の前記総量を、制御の対象となる前記エリアのそれぞれに分配して、前記エリアのそれぞれの発電機ごとの制御分担量を算出する制御分担量算出部と、
前記制御分担量算出部により算出された前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量に基づき、前記エリアのそれぞれに対する指令値を作成する各電源指令作成部と、
を有する広域需給調整装置と、
前記各電源指令作成部により作成された前記指令値に基づき、制御の対象となる前記発電機に対する発電目標値を作成する目標値作成部を有し、前記発電機に対し発電目標値を送信する、
複数の電力需給制御装置と、を有し、
前記制御分担量算出部は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
広域需給調整システム。
【請求項10】
コンピュータに、
制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となる前記エリア全体の調整量の総量を算出させるネッティングステップと、
前記ネッティングステップにより算出された前記エリア全体の調整量の前記総量を、制御の対象となる前記エリアのそれぞれに分配して、前記エリアのそれぞれの発電機ごとの制御分担量を算出させる制御分担量算出ステップと、
前記制御分担量算出ステップにより算出された前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量に基づき、前記エリアのそれぞれに対する指令値を作成させる各電源指令作成ステップと、を有し、
前記制御分担量算出ステップは、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出させる、
広域需給調整装置用コンピュータプログラム。
【請求項11】
制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となる前記エリア全体の調整量の総量を算出するネッティング手順と、
前記ネッティング手順により算出された前記エリア全体の調整量の前記総量を、制御の対象となる前記エリアのそれぞれに分配して、前記エリアのそれぞれの発電機ごとの制御分担量を算出する制御分担量算出手順と、
前記制御分担量算出手順により算出された、前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量に基づき、前記エリアのそれぞれに対する指令値を作成する各電源指令作成手順と、を有し、
前記制御分担量算出手順は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する、
広域需給調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統の需給制御を行う広域需給調整装置、広域需給調整システム、広域需給調整装置用コンピュータプログラムおよび広域需給調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力を安定供給するためには電力系統の需給制御を行うことが必要とされる。この種の電力系統の需給制御システムとしては、負荷周波数制御(LFC)および経済負荷配分制御(EDC)を用いて需給制御を行う電力需給調整システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-238355号公報
【特許文献2】特開2007-306770号公報
【特許文献3】特開2017-060325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の電力自由化により、新規電力事業者が電力事業に参入し、従来に比べ複雑な電力供給および電力消費がなされるようになった。このため、電力需要量と供給量の調整(以降「電力需給調整」と総称する)は、効率よく行うことが必要とされる。効率よく電力需給調整を行うために、広域のエリアにわたり電力需給調整を行うことが必要とされる。また、電力需給調整にかかる調整力が、一定のエリアに偏在化することを避けることが好ましい。
【0005】
一般送配電事業者の法的分離に伴い、2021年4月から、一般送配電事業者が調整力を調達するための需給調整市場の運用が開始された。需給調整市場は、市場運営の中立性と価格の透明性が確保されること、市場メカニズムを活用した効率的な需給調整が実現されること、必要な調整力が安定的に調達されること、が必要とされる。これらを実現するために、需給調整市場価格の公開、メリットオーダーでの発電、従来の一般電気事業者以外の電源やデマンドレスポンスの活用、調整の柔軟性が高い電源(周波数調整用の電源)の評価を行う方法等の検討が推進されている。需給調整市場が円滑に導入されるためにも、調整力の調達と運用における公平性と透明性が確保される必要がある。
【0006】
昨今の電力システム改革に伴い、現状の電力会社における発電、送配電、小売事業は、法的に分離され、送配電と発電、小売事業に分けられる。既存の電力会社は、需給、周波数調整を行う場合、自社内にて必要となる需給調整力を確保していた。しかしながら、昨今の発電事業と送配電事業の分離により、電力事業者は、需給調整市場により需給調整力を確保する場合もある。
【0007】
電力事業者は、市場参加者として、また系統運用者として中立の立場にて、メリットオーダーによる需給、周波数調整を行う。電力事業者は、需給調整市場における商品を購入または販売して、需給、周波数調整を行う。
【0008】
需給調整市場における商品メニューとして、調整速度の異なる制御に対応した複数の商品が準備されている。一例として、需給調整市場における商品メニューは、制御区分ごと「一次調整力」「二次調整力」「三次調整力」に対応した5区分として計画されている。
【0009】
従来、各エリアの電力系統において、エリアごとの電力需給制御装置により、自エリアの地域要求電力(AR)に基づき、需給調整力の制御および運用が行われていた。今後、需給調整市場により電力の広域調達、広域運用が開始される。今後の電力の広域調達、広域運用では、各エリアの電力系統における地域要求電力(AR)がネッティングされ、ネッティング後の地域要求電力(AR)が制御量として各エリアの電力系統に指示される。しかしながら複数のエリアに対し制御量にかかる指令が行われるため、一定のエリアに調整力が偏在化し、制御性能が確保されにくいとの問題点があった。
【0010】
2020年8月に電力広域的運営推進機関(OCCTO)により、二次調整力に関する広域運用の検討方法が公開されたが、広域LFCとの連携方法による伝送時間や、演算時間を考慮した調整力の決定方法は考えられていない。このため、負荷周波数制御(LFC)機能による個別メリットオーダーリストに伴う制御量分担により、エリア間で調整力の余力が偏在化する可能性があり、制御性の悪化に繋がるとの問題点があった。また、メリットオーダーに伴う制御量の分担を行うことで調整コストに応じた配分となるため、経済性と制御性のトレードオフの関係となり、制御性の悪化に繋がるとの問題点があった。
【0011】
本実施形態は、一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく経済的に電力需給調整を行うことができる広域需給調整装置、広域需給調整システム、広域需給調整装置用コンピュータプログラムおよび広域需給調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施形態の広域需給調整装置は、以下の特徴を有する。
(1)制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となる前記エリア全体の調整量の総量を算出するネッティング部を有する。
(2)前記ネッティング部により算出された前記エリア全体の調整量の前記総量を、制御の対象となる前記エリアのそれぞれに分配して、前記エリアのそれぞれの発電機ごとの制御分担量を算出する制御分担量算出部を有する。
(3)前記制御分担量算出部により算出された前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量に基づき、前記エリアのそれぞれに対する指令値を作成する各電源指令作成部を有する。
(4)前記制御分担量算出部は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配して前記エリアのそれぞれの前記発電機ごとの前記制御分担量を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態にかかる広域需給調整システムを示す図
図2】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおける広域需給調整装置と各エリアの接続関係を説明する図
図3】第1実施形態にかかる電力需給制御装置の動作フローを示す図
図4】第1実施形態にかかる広域需給調整装置の動作フローを示す図
図5】第1実施形態にかかる広域需給調整システムの制御ロジックを示す図
図6】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおける発電機毎の個別メリットオーダーを示す図
図7】第1実施形態にかかる広域需給調整装置のAR配分方式の制御ロジックを示す図
図8】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおける広域LFCモデルの概要を示す図
図9】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおけるメリットオーダーに従ったLFCモデルを示す図
図10】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおける価格差をベースにした配分方法を説明する図
図11】第1実施形態にかかる広域需給調整システムにおける各発電機の上げ調整価格および下げ調整価格を示す図
図12】メリットオーダーに基づき複数のエリアに配分する一般的な制御手順の概要を示す図
図13】第3実施形態にかかる短冊方式によるメリットオーダーの概念を示す図
図14】第4実施形態にかかるリミッタの概念を示す図
図15】第5実施形態にかかるエリア間の連系線潮流の余裕量(連系線潮流上下限制約)を説明する図
図16】第5実施形態にかかる連系線潮流制約を考慮したAR調整(ネッティングARが正)
図17】第5実施形態にかかる連系線潮流制約を考慮したAR調整(ネッティングARが負)
図18】商品区分を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
[1-1.構成]
図1図2を参照して本実施形態の一例として、広域需給調整システムについて説明する。なお、本実施形態において、同一構成の装置や部材が複数ある場合にはそれらについて同一の番号を付して説明を行い、また、同一構成の個々の装置や部材についてそれぞれを説明する場合に、共通する番号にアルファベットの添え字を付けることで区別する。
【0015】
(1)システムの全体構成
図1に、本実施形態にかかる広域需給調整システム1を示す。広域需給調整システム1は、電力需給制御装置2、広域需給調整装置5により構成される。一般に、広域需給調整装置5に相当するものを広域需給調整システムと呼ぶが、本実施形態では、広域需給調整装置5および電力需給制御装置2を含むものを広域需給調整システム1と呼ぶ。1台の電力需給制御装置2により需給調整の制御が行われる制御対象となる領域を、1つのエリアと呼ぶ。また、2つ以上のエリアを広域と呼ぶ。
【0016】
図2に示すように広域需給調整装置5は、複数のエリアの電力需給制御装置2に接続される。電力系統9は、複数の発電機91、自然エネルギー発電設備92、検出装置93を備える。電力需給制御装置2は、複数の発電機91、自然エネルギー発電設備92、検出装置93に接続される。電力系統9aは、連系線を介し他の電力系統9bに接続される。また、各発電機91は、検出用の信号線97および制御用の信号線98により電力需給制御装置2に接続される。
【0017】
本実施形態にかかる広域需給調整システム1において、以下のデータが、入力、出力、送受信または記憶される。また、以降、「地域要求電力」を「AR」、「負荷周波数制御」を「LFC(LFC:Load Frequency Control)」、「経済負荷配分制御」を「EDC(ELD;Economic load Dispatch Control)」と呼ぶ場合がある。「需要実績値」とは、実際に供給した電力ではなく、実際に発電された電力の値(発電端電力値)をいう。
データa1(発電機発電電力値)
データb1(自然エネルギー発電電力値)
データc1(周波数変化量ΔF)
データc2(潮流電力変化量ΔPT)
データc3(融通電力P0)
データd1(発電目標値)
データf1(AR値)
データf2(平滑後AR値)
データf3(AR配分値)
データg1(リアルタイムEDC値)
データg2(個別メリットオーダーリスト)
データg3(既LFC動作量)
データh1(ネッティング後AR値)
データh2(制御分担量)
データh3(LFC制御出力指令)
【0018】
(2)発電機91
発電機91は、電力系統9aに供給する電力を発電する電力供給設備である。一例として、本実施形態の広域需給調整システム1は、発電機91a~91nを有する。例えば、発電機91aは、出力変化速度の速い、水力機等の高速機により構成される。例えば、発電機91bは、出力変化速度のやや遅い、石油火力機等の中速機により構成される。例えば、発電機91nは、出力変化速度の極めて遅い、石炭火力機等の低速機により構成される。発電機91は任意の発電速度を有する発電機により構成されるものであってよい。
【0019】
発電機91は、電力需給制御装置2に接続される。発電機91は、検出用の信号線97を介し電力需給制御装置2に対して、データa1(発電機発電電力値)を送信する。また、発電機91は、制御用の信号線98を介し電力需給制御装置2からデータd1(発電目標値)を受信し、データd1(発電目標値)に基づき発電電力の制御を行う。なお、発電機91a~91nは、任意の台数であってよい。
【0020】
(3)自然エネルギー発電設備92
自然エネルギー発電設備92は、太陽光、風力等の自然エネルギーにより電力を発電し、発電した電力を電力系統9aに供給する電力供給設備である。一例として、本実施形態の広域需給調整システム1は、自然エネルギー発電設備92a~92nを有する。自然エネルギー発電設備92は、電力需給制御装置2にデータb1(自然エネルギー発電電力値)を送信する。なお、自然エネルギー発電設備92a~92nは、任意の台数であってよい。
【0021】
(4)検出装置93
検出装置93は、電力系統9aの電気量を検出する測定装置である。検出装置93は、電力系統9aに配置される。検出装置93は、連系線における電力系統9aに関するデータc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)の各項目を検出し電力需給制御装置2に送信する。
【0022】
(5)電力需給制御装置2
電力需給制御装置2は、コンピュータ等により構成される。電力需給制御装置2は、電力の監視制御を行う制御室等に配置される。電力需給制御装置2は、発電機91から送信されるデータa1(発電機発電電力値)、自然エネルギー発電設備92から送信されるデータb1(自然エネルギー発電電力値)、検出装置93から送信される連系線における電力系統9aに関するデータc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)が、入力される。電力需給制御装置2は、発電機91に対し、データd1(発電目標値)を送信する。
【0023】
電力需給制御装置2は、入力部21、出力部22、目標値作成部23、AR算出部24、AR平滑部25、AR配分部26、リアルタイムEDC算出部27、AR送信部31、情報送信部32、LFC制御出力指令受信部33、切替部34を有する。
【0024】
電力需給制御装置2の入力部21、出力部22、AR送信部31、情報送信部32、LFC制御出力指令受信部33は、ハードウェアにより構成される。目標値作成部23、AR算出部24、AR平滑部25、AR配分部26、リアルタイムEDC算出部27、切替部34は、機能ブロックとしてソフトウェアモジュールにより構成される。
【0025】
入力部21は、受信回路により構成される。入力部21は、入力側が信号線97を介し発電機91に、出力側が目標値作成部23に接続される。入力部21は、発電機91から送信されたデータa1(発電機発電電力値)を受信する。入力部21は、データa1(発電機発電電力値)を目標値作成部23に送信する。
【0026】
出力部22は、送信回路により構成される。出力部22は、入力側が目標値作成部23に、出力側が信号線98を介し発電機91に接続される。出力部22は、目標値作成部23から入力されたデータd1(発電目標値)を、発電機91に送信する。
【0027】
目標値作成部23は、入力側が入力部21、切替部34およびリアルタイムEDC算出部27に接続され、出力側が出力部22に接続される。目標値作成部23は、入力部21から発電機91のデータa1(発電機発電電力値)を、切替部34からデータf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)の一方を受信する。目標値作成部23は、リアルタイムEDC算出部27からデータg1(リアルタイムEDC値)を受信する。
【0028】
目標値作成部23は、データa1(発電機発電電力値)、データg1(リアルタイムEDC値)、切替部34により選択されたデータf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)の一方に基づき、データd1(発電目標値)を作成し出力部22に送信する。
【0029】
AR算出部24は、入力側が自然エネルギー発電設備92および検出装置93に接続され、出力側がAR平滑部25、AR送信部31に接続される。AR算出部24は、自然エネルギー発電設備92からデータb1(自然エネルギー発電電力値)を、検出装置93からデータc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)を受信する。
【0030】
AR算出部24は、データb1(自然エネルギー発電電力値)、データc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)に基づき、AR値を算出し、AR平滑部25およびAR送信部31にデータf1(AR値)を送信する。
【0031】
AR平滑部25は、入力側がAR算出部24に、出力側がAR配分部26に接続される。AR平滑部25は、AR算出部24からデータf1(AR値)を受信する。AR平滑部25は、データf1(AR値)に基づき、周波数分解を行いAR配分部26にデータf2(平滑後AR値)を送信する。
【0032】
AR配分部26は、入力側がAR平滑部25に接続され、出力側が切替部34に接続される。AR配分部26は、AR平滑部25からデータf2(平滑後AR値)を受信する。AR配分部26は、データf2(平滑後AR値)に基づき、発電機91ごとの発電配分を算出し、切替部34にデータf3(AR配分値)を送信する。データf3(AR配分値)は、各発電機91へ配分された調整量であって、発電機91のメリットオーダーに基づいて算出される。
【0033】
また、AR配分部26は、データf3(AR配分値)を発電機91の運転能力に応じて配分する。運転能力は、例えば発電機91の発動までの応動時間である。AR配分部26は、各目標値作成部23に対するデータf3(AR配分値)を切替部34に送信する。
【0034】
AR送信部31は、送信回路により構成される。AR送信部31は、AR算出部24により算出されたデータf1(AR値)を広域需給調整装置5に送信する。
【0035】
情報送信部32は、送信回路および記憶装置により構成される。情報送信部32は、あらかじめ設定され記憶しているデータg2(個別メリットオーダーリスト)、データg3(既LFC動作量)にかかる情報を広域需給調整装置5に送信する。
【0036】
LFC制御出力指令受信部33は、受信回路により構成される。LFC制御出力指令受信部33は、広域需給調整装置5から後述するデータh3(LFC制御出力指令)を受信し、切替部34に送信する。
【0037】
切替部34は、AR配分部26から送信されたデータf3(AR配分値)、またはLFC制御出力指令受信部33から送信されたデータh3(LFC制御出力指令)のいずれか一方を選択し、目標値作成部23a~23nの各々に送信する。
【0038】
リアルタイムEDC算出部27は、入力側がAR平滑部25に接続され、出力側が各目標値作成部23に接続される。リアルタイムEDC算出部27は、AR平滑部25からデータf2(平滑後AR値)を受信する。なお、AR平滑部25は広域需給調整装置5内に有ってもよいこととする。
【0039】
リアルタイムEDC算出部27は、データf2(平滑後AR値)に基づいて経済負荷配分を行い、発電機91のメリットオーダーによって、経済負荷配分の計算結果としてデータg1(リアルタイムEDC値)を発電機91ごとに算出する。
【0040】
データg1(リアルタイムEDC値)とは、広域需給調整システム1全体として経済的になるよう発電機91ごとにスケジュール配分された発電電力値である。
【0041】
また、リアルタイムEDC算出部27は、発電機91のメリットオーダーによって自エリアにおけるEDC対象のエリアインバランス量を配分する。リアルタイムEDC算出部27は、EDC周期に合わせてエリアインバランス量を配分する。
【0042】
エリアインバランス量とは、あるエリアの未来の時間帯において、手当されている電力量と、要求された電力量との差分である。要求された電力量が、手当されている電力量よりも大(つまりAR値が正)であれば、エリアインバランス量の不足=調達すべき電力量の不足を意味する。反対に、要求された電力量が手当されている電力量よりも小(つまりAR値が負)であれば、エリアインバランス量の過多=調達すべき電力量の過多を意味する。
【0043】
リアルタイムEDC算出部27により算出され配分されたデータg1(リアルタイムEDC値)は、目標値作成部23に送信される。目標値作成部23は、データa1(発電機発電電力値)、データg1(リアルタイムEDC値)、切替部34により選択されたデータf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)の一方に基づき、データd1(発電目標値)を作成し出力部22に送信する。
【0044】
(6)広域需給調整装置5
広域需給調整装置5は、コンピュータ装置により構成される。広域需給調整装置5は、各電力系統9に設置された電力需給制御装置2に対し、指令制御量の指示を行う上位の制御装置である。広域需給調整装置5は、各電力系統9の監視制御を行う制御室等に配置される。
【0045】
広域需給調整装置5は、ネッティング部51、制御分担量算出部52、各電源指令作成部53を有する。
【0046】
ネッティング部51は、電力需給制御装置2からデータf1(AR値)を受信する。ネッティング部51は、各エリアのデータf1(AR値)に基づき、エリア全体に対する調整量を算出するために、AR値のネッティングを行う。制御量を決定する動作がネッティングと呼ばれる。ネッティング部51は、ネッティングしたAR値をデータh1(ネッティング後AR値)として制御分担量算出部52に送信する。
【0047】
制御分担量算出部52は、ネッティング部51からデータh1(ネッティング後AR値)を受信する。また、制御分担量算出部52は、電力需給制御装置2からデータg2(個別メリットオーダーリスト)、データg3(既LFC動作量)を受信する。制御分担量算出部52は、データh1(ネッティング後AR値)、データg2(個別メリットオーダーリスト)、データg3(既LFC動作量)に基づいて、各エリアの発電機91に対する制御分担量を算出する。制御分担量算出部52は、算出した制御分担量をデータh2(制御分担量)として各電源指令作成部53に送信する。
【0048】
各電源指令作成部53は、制御分担量算出部52からデータh2(制御分担量)を受信する。各電源指令作成部53は、データh2(制御分担量)に基づき各エリアの発電機91に対する指令値を算出する。各電源指令作成部53は、算出した各エリアの発電機91に対する指令値をデータh3(LFC制御出力指令)として各エリアの電力需給制御装置2のLFC制御出力指令受信部33に送信する。
【0049】
以上が、広域需給調整システム1の構成である。
【0050】
[1-2.作用]
最初に現在行われている一般的な電力需給制御について説明する。
【0051】
[一般的な電力需給制御]
電力系統の負荷は、季節や時刻に応じ変動している。電力系統の負荷変動は、以下の(イ)(ロ)(ハ)の3つに区分して考えることができる。
(イ)サイクリック分:数秒から数分周期までの微小周期の負荷変動をサイクリック分と呼ぶ。変動幅の小さい種々の振動周期を持った脈動成分や、不規則な変動成分が重畳したものと考えられる。
(ロ)フリンジ分:数分から10数分程度までの短周期の負荷変動をフリンジ分と呼ぶ。
(ハ)サステンド分:10数分以上の長周期の負荷変動をサステンド分と呼ぶ。
【0052】
微小周期の負荷変動であるサイクリック分のうち、極めて短周期の負荷変動は、系統の負荷特性より調整される。サイクリック分のうち、前述の周期以上の数分程度の周期を有する負荷変動は、ガバナフリー運転されている発電所の調速機により調整される。サイクリック分のうち、さらに前述の周期以上の負荷変動は、電力会社の中央給電指令所に設置された電力需給制御装置により制御され調整される。
【0053】
短周期の負荷変動であるフリンジ分の負荷変動は、サイクリック分に比べ変動量が大きいためガバナフリーだけでは調整することができない。フリンジ分の負荷変動は、負荷周波数制御(LFC:Load Frequency Control)により、検出された周波数偏差、電力変動量に基づき発電機の出力が制御され調整される。
【0054】
長周期の負荷変動であるサステンド分の負荷変動は、負荷変動における変動量が大きく、1日の負荷曲線における負荷変動の一部と考えることができる。サステンド分の負荷変動は、負荷周波数制御(LFC)では、発電機の発電能力が不足しており、所望の発電量に調整することができない。サステンド分の負荷変動は、発電所の経済運用である経済負荷配分制御(EDC:Economic Load Dispatch)により調整される。
【0055】
負荷周波数制御(LFC)および経済負荷配分制御(EDC)は、電力会社の中央給電指令所に設置された電力需給制御装置の重要機能である。負荷周波数制御(LFC)は、連系線潮流、系統周波数を一定に維持することを目的とする。経済負荷配分制御(EDC)は、最経済となる電力運用を行うことを目的とする。以下、負荷周波数制御(LFC)と経済負荷配分制御(EDC)を合わせて需給制御と呼ぶ。
【0056】
負荷周波数制御(LFC)は、系統の周波数および他系統との連系線における潮流電力に応じた各発電機の出力調整により行われる。負荷周波数制御(LFC)の出力調整は、全ての発電機に対して行われるのではなく、比較的速い出力変動に対応することができる水力機のような高速機や石油火力機のような中速機に対して行われる。
【0057】
石炭火力機のような低速機や原子力ユニットまたは運用上出力変動を避けたい発電機に対して、負荷周波数制御(LFC)の出力調整は、一般的には行われない。負荷周波数制御(LFC)は、各電力会社の中央給電指令所の電力需給制御装置から各発電機に対し、行われるものであり、出力が所望の値に変動するまでに、数十秒程度の遅れが発生する。
【0058】
負荷周波数制御(LFC)は、以下の3方式に区分される。
(a)定周波数制御(FFC):周波数変化量(ΔF)を検出して、ΔFを少なくするように発電機の出力を調整し、系統の周波数のみを規定値に保つように制御する制御方式。
(b)定連系電力制御(FTC):連系線における潮流電力の変化量(ΔPT)を検出して、ΔPTを少なくするように発電機の出力を調整し、連系線における潮流電力のみを規定値に保つように制御する制御方式。
(c)周波数バイアス連系線電力制御(TBC):周波数変化量(ΔF)と連系線における潮流電力の変化量(ΔPT)とを検出し、地域要求電力(AR)を算出し、地域要求電力(AR)に応じて発電機の出力を制御する制御方式。
【0059】
現在、周波数バイアス連系線電力制御(TBC)が、我が国において広く採用されている。周波数バイアス連系線電力制御(TBC)は、各電力会社の中央給電指令所に設置された電力需給制御装置から各発電機に対し行われる。周波数バイアス連系線電力制御(TBC)にかかる制御は、以下の手順により行われる。
【0060】
(手順m1:地域要求電力(AR)の算出)
周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)に基づき地域要求電力(AR)の算出を行う。
AR=-K・ΔF+ΔPT
・・・・・(式1)
AR:地域要求電力[MW]
K:系統定数[MW/Hz]
ΔF:周波数偏差[Hz]
ΔPT:連系線潮流変化量[MW]
連系線潮流変化量(ΔPT)とは、連系線における潮流電力の変化量である。上記(式1)では、自系統に流入する電力の潮流方向を正の値としている。地域要求電力(AR)の値が正であれば、系統全体として発電ユニットの出力を上げる。地域要求電力(AR)が負の値であれば、系統全体として発電ユニットの出力を下げる。
【0061】
(手順m2:地域要求電力(AR)のフィルタリング)
過去の地域要求電力(AR)に基づき指数平滑等によるフィルタリングを行い、地域要求電力(AR)を低速機、高速機へ配分する調整量を算出する。出力変化速度の遅い、例えば火力発電機が低速機に相当する。出力変化速度の速い、例えば水力発電機が高速機に相当する。地域要求電力(AR)を周波数分解し、変動周期の短い電力を高速機に、変動周期の長い電力を低速機に配分するように調整量を算出してもよい。
【0062】
(手順m3:発電機への配分)
地域要求電力(AR)をフィルタリング、または周波数分解し、算出した調整量を各発電機に配分する。配分は、需給調整が行われている全ての発電機に対して、低速機、高速機別に発電機の出力変化速度、または出力余裕度等に基づき行われる。
【0063】
(手順m4:目標指令値の算出)
各発電機の目標指令値の算出を行う。各発電機の目標指令値は、配分された地域要求電力(AR)と、経済負荷配分制御(EDC)にて算出されたリアルタイムEDCまたは現在出力とが加算され算出される。目標指令値は、一定の基準値を逸脱しないように設けられた上下限値内に設定されるようにしてもよい。
【0064】
(手順m5:発電機の出力が変動する)
目標指令値を受信し、各発電機は、出力を変動させる。その結果、系統周波数、並びに連系線潮流が変化する。その後、手順m1に戻り上記手順を繰り返す。
【0065】
[一般的な経済負荷配分制御(EDC)]
経済負荷配分制御(EDC)は、1日の負荷曲線に見られる、低速の電力負荷変動に対して行われる。低速の電力負荷変動は、過去のデータの基づき高精度で予測することができる。予測された電力負荷変動に対して、燃料費であるコストが少なくなるように、経済負荷配分制御(EDC)にかかる各発電機の制御量が算出される。一般的に、経済負荷配分制御(EDC)にかかる各発電機の制御量の算出には、等増分燃料費則(等λ法)が用いられる。
【0066】
以下に、日本の電力会社にて多用されている等増分燃料費則(等λ法)の一例について説明する。経済負荷配分制御(EDC)は、各電力会社の中央給電指令所に設置された電力需給制御装置から各発電機に対し行われる。経済負荷配分制御(EDC)にかかる制御は、以下の手順により行われる。
【0067】
(手順n1:λの初期値の設定)
最初に、増分となる燃料にかかる燃料費に相当するλの初期値を設定する。
【0068】
(手順n2:各発電機の制御量の算出)
次に、増分となる燃料にかかる燃料費に相当するλに等しくなる各発電機の制御量の算出を行う。制御量は、最小出力値を下回っている場合、最小出力値に、最大出力値を上回っている場合、最大出力値に設定される。
【0069】
(手順n3:出力電力の総和の算出)
次に、各発電機から出力される出力電力の総和を算出する。
【0070】
(手順n4:λの再設定)
手順n3で算出された出力電力の総和が負荷未満である場合、λを大きくし、出力の総和が負荷を超える場合、λを小さくし、λの再設定を行う。以降、出力電力の総和と負荷との差分が一定値以内になるまで手順n2~手順n4を繰り返す。
【0071】
昨今の電力システム改革に伴い、現状の電力会社における発電、送配電、小売事業は、法的に分離され、送配電と発電、小売事業に分けられる。従来において、電力需給、周波数調整を行う場合、電力会社は自社内にて必要となる需給調整力を確保していた。電力システム改革により、電力会社は需給調整市場により需給調整力を確保することとなる。一例として需給調整市場における商品メニューは、図18に示すように制御区分ごと「一次調整力」「二次調整力」「三次調整力」に対応した5区分として計画されている。
【0072】
アンシラリーサービスは、系統全体の周波数維持等の高品質な電力供給を確保する業務である。従来において、アンシラリーサービスは、自社の発電機を用い一般電気事業者により行われていた。需給調整市場に基づく新たなライセンス制により、今後のアンシラリーサービスは、一般送配電事業者により行われる。
【0073】
今後のアンシラリーサービスにおいて、電力品質確保に必要な電源等は、調整力として一般送配電事業者により発電事業者等から調達され、調整力の確保に必要なコストは託送料金として、一般送配電事業者により回収される仕組みとなった。この仕組みにより、多様な発電事業者等の参画および競争が進み、調整力として調達可能な電力の増大、電力品質の向上、効率的な調整力の活用等が期待される。この仕組みは、調整力の調達の公平性、透明性が確保された上で、一般送配電事業者により行われることを前提としている。手続の具体的な内容は、各一般送配電事業者に委ねられている。
【0074】
今後、系統全体における高品質な電力供給を確保することが、一般送配電事業者に要求される。需給調整市場により需給調整力の確保が行われるため、一般送配電事業者は、メリットオーダーによる需給、周波数調整を行う。
【0075】
従来、各エリアの電力系統において、エリアごとの電力需給制御装置により、自エリアの地域要求電力(AR)に基づき、需給調整力の制御および運用が行われていた。今後、需給調整市場により電力の広域調達、広域運用が開始される。今後の電力の広域調達、広域運用では、各エリアの電力系統における地域要求電力(AR)がネッティングされ、ネッティング後の地域要求電力(AR)が図5図6に示すように負荷周波数制御(LFC)にかかる制御量として各エリアの電力系統に指示される。
【0076】
しかしながら複数のエリアに対し負荷周波数制御(LFC)にかかる制御量の指令が行われるため、一定のエリアに調整力が偏在化し、制御性能が確保されにくいとの問題点があった。
【0077】
電力系統9の制御性能を確保するために、一定のエリアに調整力が偏在化しない負荷周波数制御(LFC)にかかる制御量の指令が行われることが望ましい。
【0078】
また、需給調整市場においても、調整力の細分化(5つの商品区分)のみではなく、調整力の広域調達を行うことが想定されている。現在、調整力はエリア内のみで調達されている。今後、調整力の広域調達を行うために、複数のエリアにリアルタイムで制御信号を送る仕組みが設けられることが望ましい。
【0079】
[広域需給調整システム1の動作]
次に、本実施形態の広域需給調整システム1の動作を図1図4に基づき説明する。本実施形態の広域需給調整システム1において、複数のエリアにおける電力需給制御装置2が、図1に示すように広域需給調整装置5により連携して制御される。本実施形態において2つ以上のエリアを広域と呼ぶ。本実施形態における需給調整方式は、図18におけるLFC機能にかかる二次調整力の商品区分を主に対象とする。需給調整のための調整電源である発電機91は、火力、水力機のみならず、蓄電池やDR等を含む。
【0080】
(電力需給制御装置2の動作)
図3に、電力需給制御装置2の動作にかかるフローを示す。図3に示すプログラムは、電力需給制御装置2に内蔵される。本実施形態の複数のエリアに配置された電力需給制御装置2は、広域需給調整装置5からデータh3(LFC制御出力指令)を指示される。電力需給制御装置2は、下記の手順にて動作および演算を行う。
【0081】
(ステップS20:データf1(AR値)の算出)
検出装置93は、連系線における電力系統9aに関するデータc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)の各項目を検出し、電力需給制御装置2に送信する。自然エネルギー発電設備92は、電力需給制御装置2にデータb1(自然エネルギー発電電力値)を送信する。
【0082】
電力需給制御装置2のAR算出部24は、以下の信号を受信する。
検出装置93から送信された以下の信号
データc1(周波数変化量ΔF)
データc2(潮流電力変化量ΔPT)
データc3(融通電力P0)
自然エネルギー発電設備92から送信された以下の信号
データb1(自然エネルギー発電電力値)
【0083】
AR算出部24は、データc1(周波数変化量ΔF)、データc2(潮流電力変化量ΔPT)、データc3(融通電力P0)、データb1(自然エネルギー発電電力値)に基づき、データf1(AR値)の算出を(式1)により行う。(式1)を再掲する。(式1)におけるARが、データf1(AR値)である。
AR=-K・ΔF+ΔPT
・・・・・(式1)
AR:地域要求電力[MW]
K:系統定数[MW/Hz]
ΔF:周波数偏差[Hz]
ΔPT:連系線潮流変化量[MW]
上記(式1)では、自系統に流入する電力の潮流方向を正の値としている。
【0084】
(ステップS30:データf1(AR値)の送信)
AR送信部31は、ステップS20で算出されたデータf1(AR値)を広域需給調整装置5に送信する。
【0085】
広域需給調整装置5は、各エリアの電力需給制御装置2からデータf1(AR値)を受信する。また、広域需給調整装置5は、各エリアの電力需給制御装置2からデータg2(個別メリットオーダーリスト)、データg3(既LFC動作量)を受信する。広域需給調整装置5は、データf1(AR値)、データg2(個別メリットオーダーリスト)、データg3(既LFC動作量)に基づき各エリアの調整量または各エリアの発電機91ごとの調整量を算出し、データh3(LFC制御出力指令)として各エリアの電力需給制御装置2に対し送信する。
【0086】
(ステップS31:データh3(LFC制御出力指令)の受信)
LFC制御出力指令受信部33は、広域需給調整装置5からデータh3(LFC制御出力指令)を受信し切替部34に送信する。
【0087】
(ステップS21:データf2(平滑後AR値)の算出)
AR平滑部25は、ステップS20で算出されたデータf1(AR値)に基づき、データf2(平滑後AR値)を算出する。データf2(平滑後AR値)は、フーリエ展開によりデータf1(AR値)が周波数分解され算出される。
【0088】
(ステップS22:データf3(AR配分値)の算出)
AR配分部26は、ステップS21で周波数分解されたデータf2(平滑後AR値)に基づき、データf3(AR配分値)を算出する。データf3(AR配分値)は、各発電機91の調整量であり、発電機91の出力応答速度または出力余裕度に応じ算出される。
【0089】
(ステップS32:データf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)の選択)
切替部34は、ステップS22で算出されたデータf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)を選択して出力する。例えば、他のエリアにおける電力需給制御装置2または電力系統9に事故が発生した場合、切替部34によりデータf3(AR配分値)が選択される。他のエリアにおける電力需給制御装置2または電力系統9に異常がない場合、切替部34によりデータh3(LFC制御出力指令)が選択される。切替部34は、切替えることによりデータf3(AR配分値)またはデータh3(LFC制御出力指令)の選択を行う。
【0090】
(ステップS204:データg1(リアルタイムEDC値)の算出)
リアルタイムEDC算出部27は、上記のステップS20~S22に並行して、ステップS204を実行する。リアルタイムEDC算出部27は、ステップS21で算出されたデータf2(平滑後AR値)に基づき、データg1(リアルタイムEDC値)を算出する。データg1(リアルタイムEDC値)は、各発電機91のメリットオーダーに応じ、各発電機91に対する経済負荷配分が行われ、算出される。
【0091】
(ステップS23:データd1(発電目標値)の算出)
目標値作成部23は、ステップS22で算出されたデータf3(AR配分値)、ステップS204でリアルタイムEDC算出部27により算出されたデータg1(リアルタイムEDC値)に基づき、データd1(発電目標値)を算出する。目標値作成部23a、23b、23nごとに、各発電機91a、91b、91nごとのデータd1(発電目標値)が算出される。
【0092】
(ステップS24:データd1(発電目標値)の送信)
目標値作成部23は、ステップS23で算出したデータd1(発電目標値)を、出力部22に送信する。データd1(発電目標値)は、出力部22a、22b、22nのそれぞれに送信される。
【0093】
(ステップS25:データd1(発電目標値)の指令送出)
出力部22は、ステップS24で受信したデータd1(発電目標値)を、発電機91に送信する。データd1(発電目標値)は、各発電機91a、91b、91nに対し、それぞれ出力部22a、22b、22nから送信される。これにより、各発電機91は、データd1(発電目標値)にかかる電力を出力する。
【0094】
図7に、出力変化速度比にて処理を行う場合のAR配分部26における一般的な制御ロジックを示す。出力変化速度比にて処理を行う場合の一般的なAR配分は、図7に示す手順にて行われる。最初にAR計算により周波数偏差と系統容量の積が算出される。次に系統定数Kが乗算された周波数偏差と系統容量の積と、連系点の潮流偏差との差分が周波数分解され、平滑化される。平滑化された差分は、さらに不感帯を除きPI制御され、各発電機91に対する指令値に配分される。
【0095】
(広域需給調整装置5の動作)
図4に広域需給調整装置5の動作フローを示す。図4に示すプログラムは、広域需給調整装置5に内蔵される。本実施形態の広域需給調整装置5は、複数のエリアに配置された電力需給制御装置2に対し、データh3(LFC制御出力指令)の指示を行う。広域需給調整装置5は、下記の手順にて動作および演算を行う。
【0096】
ネッティング部51は、データf1(AR値)に基づき、制御の対象となるエリア全体の調整量の総量を算出しデータh1(ネッティング後AR値)とする。データf1(AR値)は、制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力であり、各エリアの電力需給制御装置2により算出される。ネッティング部51の動作は、ネッティングステップS51により実現される。
【0097】
制御分担量算出部52は、ネッティング部51により算出されたエリア全体の調整量であるデータh1(ネッティング後AR値)の総量を、制御の対象となるエリアのそれぞれに分配して、データh2(制御分担量)を算出する。データh2(制御分担量)は、それぞれのエリアの制御分担量として算出されてもよいし、それぞれのエリアの発電機91ごとの制御分担量として算出されてもよい。
【0098】
制御分担量算出部52は、エリアにおける発電機91が発電することができる余力である調整力に基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配してエリアのそれぞれの制御分担量、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量のうち少なくとも一方をデータh2(制御分担量)として算出する。制御分担量算出部52の動作は、制御分担量算出ステップS52により実現される。
【0099】
各電源指令作成部53は、制御分担量算出部52により算出されたデータh2(制御分担量)に基づき、エリアのそれぞれに対する指令値であるデータh3(LFC制御出力指令)を作成する。データh2(制御分担量)は、制御分担量算出部52によりそれぞれのエリアの制御分担量、それぞれのエリアの発電機91ごとの制御分担量として算出される。各電源指令作成部53の動作は、各電源指令作成ステップS53により実現される。
【0100】
本実施形態にかかる広域需給調整装置5は、複数の各エリアからの地域要求量(AR)に基づき、全エリアを対象としたネッティング後のインバランスに対する調整量を、各エリア、または各発電機91に配分する。図8に広域LFCモデルの概要を示す。
【0101】
本実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配してエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出し、データh2(制御分担量)を作成する。
【0102】
制御分担量算出部52は、電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価であるほど大きな数値となり、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価であるほど大きな数値となる関数により定義された重み付け係数を算出し、算出した重み付け係数に基づき、制御分担量を算出する。
【0103】
重み付け係数は、電力価格に正比例した関数と電力価格の逆数に正比例した関数とを組合せた関数、または予め設定された基準価格と電力価格との差による関数であってよい。
【0104】
本実施形態にかかる広域需給調整装置5において調整量の配分は、以下の処理により行われる。
(1)広域需給調整装置5のネッティング部51は、データf1(AR値)に基づきエリア毎の地域要求量(AR)を算出し、制御の対象となるエリア全体の調整量の総量を算出しデータh1(ネッティング後AR値)とする。
(2)広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、データh1(ネッティング後AR値)にかかるエリア全体の調整量の総量を、メリットオーダーにより配分する。制御分担量算出部52は、各エリアに対する配分量を算出しデータh2(制御分担量)とする。
(3)広域需給調整装置5の各電源指令作成部53は、制御分担量算出部52により算出されたデータh2(制御分担量)に基づき、エリアのそれぞれに対する指令値であるデータh3(LFC制御出力指令)を作成し、各エリアの電力需給制御装置2に送信する。
(4)各エリアの電力需給制御装置2は、広域需給調整装置5から送信されたデータh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値を、各エリアの各発電機91に配分する指令を行う。計画値を基準とした場合、データh1(ネッティング後AR値)にかかる調整量は計画値に配分され、現在値を基準とした場合、データh1(ネッティング後AR値)にかかる調整量は現在値に配分される。
(5)広域におけるエリアの一部に異常等が検出された場合、各エリアの電力需給制御装置2は、切替部60によりデータh3(LFC制御出力指令)に代替しデータf3(AR配分値)を選択し、データf3(AR配分値)に基づき、各エリア単位で調整量の配分を行う。
【0105】
データh1(ネッティング後AR値)にかかる調整量は、発電量の計画値(発電計画値)に基づき配分されてもよいし、発電量の現在値(現在出力)に基づき配分されてもよい。図9に、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52における演算を模式化したブロック図を示す。LFCの対象となる発電機91をLFC発電機と呼ぶ場合がある。
【0106】
LFC配分量(ΔP)から制御周期間の変化量制約を考慮した後の値(ΔP’)が各LFC発電機の発電量の計画値(発電計画値)(PPLAN)、または発電量の現在値(現在出力)(PNOW)に配分されて、各電源指令作成部53によりデータh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値が算出される。各電源指令作成部53は、各エリアの発電機91に対する指令値をデータh3(LFC制御出力指令)として各エリアの電力需給制御装置2のLFC制御出力指令受信部33に送信する。
【0107】
インバランス(AR)が大きい場合、各LFC発電機に配分された配分量(ΔP)は、各LFC発電機の出力変化可能量を超える場合もある。この場合、各LFC発電機は現在出力から出力可能な範囲で応答する。
【0108】
以下に、ネッティング後のインバランスであるデータh1(ネッティング後AR値)をメリットオーダーに従って、各LFC発電機に配分する処理について説明する。各LFC発電機(発電機91)に配分する処理は、以下の[価格比による配分]、[価格差比による配分]のいずれであってもよい。
【0109】
[価格比による配分]
制御分担量算出部52は、価格比による重み付け係数Wiによりそれぞれの寄与度が設定された演算により、インバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分する。配分は、複数のエリアのそれぞれの制御分担量を算出するものであってもよいし、複数のエリアの発電機91ごとの制御分担量を算出するものであってもよい。
【0110】
制御分担量算出部52は、(式2)により配分の重み付け係数Wiを算出する。
【数1】
・・・・・(式2)
【0111】
(式2)においてVCiは各LFC発電機の電力価格の関数である。各LFC発電機への配分量はデータf1(AR値)にWiが乗算され、AR×Wiとして算出される。発電量の現在値(現在出力)(PNOW)であるデータa1(発電機発電電力値)、または発電機91の発電量の計画値(発電計画値)(PPLAN)であるデータg1(リアルタイムEDC値)(BG計画値)、にAR×Wiが加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0112】
VCiは、上げ指令時には価格が安いほど大きく、下げ指令時には価格が高いほど大きくなるように設定されることが好ましい。市場における価格をそのまま適用した場合、下げ指令時には価格が高いほど比率が大きくなることとなり好ましいといえるが、上げ指令時には価格が安いほど比率が小さくなるため、上げ指令時には価格の調整を行う必要がある。ここでは、以下の価格をベースとした関数を用いる。
【数2】
・・・・・(式3)
【数3】
・・・・・(式4)
【0113】
(式3)、(式4)により(式2)にかかる重み付け係数Wiは、電力価格に正比例した関数と電力価格の逆数に正比例した関数とを組合せた関数となる。各LFC発電機への調整量は、(式5)により算出される。
各LFC発電機への調整量=インバランス(AR)×Wi
・・・・・(式5)
現在出力(現在値)または計画出力(BG計画値)に(式5)にかかる調整量が加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0114】
上記の(式2)~(式5)を用いてデータh3(LFC制御出力指令)を算出することにより、上げ指令時には電力価格が安価である発電機に対する指令が多くなり、下げ指令時には電力価格が高価である発電機に対する指令が多くなる。これにより経済的な電力需給調整を行うことができる。
【0115】
[価格差比による配分]
制御分担量算出部52は、価格差比による重み付け係数Wiによりそれぞれの寄与度が設定された演算により、インバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分する。配分は、複数のエリアのそれぞれの制御分担量を算出するものであってもよいし、複数のエリアの発電機91ごとの制御分担量を算出するものであってもよい。
【0116】
制御分担量算出部52は、(式6)により配分の重み付け係数Wiを算出する。
【数4】
・・・・・(式6)
【0117】
(式6)においてVCiは各LFC発電機の価格の関数である。各LFC発電機への配分量はデータf1(AR値)にWiが乗算され、AR×Wiとして算出される。発電量の現在値(現在出力)(PNOW)であるデータa1(発電機発電電力値)、または発電機91の発電量の計画値(発電計画値)(PPLAN)であるデータg1(リアルタイムEDC値)(BG計画値)、にAR×Wiが加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0118】
VCiは、上げ指令時には価格が安いほど大きく、下げ指令時には価格が高いほど大きくなるように設定されることが好ましい。ここでは、以下の価格差をベースとした関数を用いる。
【数5】
・・・・・(式7)
【数6】
・・・・・(式8)
【0119】
(式7)、(式8)において、Nは使用するLFC発電機の台数、VMAXは各LFC発電機の現在値(現在出力)に対応する価格の最大値、VMINは最小値である。図10に、上げ、下げ指令時における価格差比による配分を示す。
【0120】
(式7)、(式8)により(式6)にかかる重み付け係数Wiは、予め設定された基準価格V、Vと電力価格との差による関数となる。基準価格Vは価格の最大値VMAXを超える値であり、基準価格Vは価格の最小値VMIN未満の値である。基準価格V、基準価格Vは、過去の需給調整に基づき任意に決定された値であってよい。各LFC発電機への調整量は、(式9)により算出される。
各LFC発電機への調整量=インバランス(AR)×Wi
・・・・・(式9)
現在出力(現在値)または計画出力(BG計画値)に(式9)にかかる調整量が加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0121】
(式6)~(式9)を用いてデータh3(LFC制御出力指令)を算出することにより、上げ指令時には電力価格が安価である発電機91に対する指令が多くなり、下げ指令時には電力価格が高価である発電機91に対する指令が多くなる。これにより経済的な電力需給調整を行うことができる。
【0122】
図11に、メリットオーダー方式にて用いられる調整コストの例を示す。図11に示すように、調整コストは、発電機91の出力に対して離散的に、階段状に設定される。また、調整コストは、出力に対して上げ調整(V1)価格、下げ調整(V2)価格の2つの価格が存在する。
【0123】
従来技術にかかる広域需給調整システム1は、LFC発電機である発電機91の変化速度および発電量の現在値(現在出力または既動作量と呼ぶ場合がある)に基づきインバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分するものが一般的であった。従来技術にかかる広域需給調整システム1の制御の一例を図12に示す。
【0124】
図12に示す従来技術にかかる制御は、以下の処理により行われる。
【0125】
(1)広域需給調整装置5のネッティング部51は、データf1(AR値)に基づきエリア毎の地域要求量(AR)を算出し、制御の対象となるエリア全体の調整量の総量を算出しデータh1(ネッティング後AR値)とする。
(2)広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、データh1(ネッティング後AR値)にかかるエリア全体の調整量の総量を、LFC発電機である発電機91の変化速度に基づき配分する。
(3)制御分担量算出部52は、LFC発電機である発電機91の発電量の現在値(現在出力または既動作量と呼ぶ場合がある)の合計を算出し、メリットオーダーにより配分する。
(4)広域需給調整装置5の各電源指令作成部53は、上記(2)による配分値と(3)による配分値との合計値を算出し、各エリアのLFC発電機への指令値であるデータh3(LFC制御出力指令)を作成し各エリアに送信する。
(5)各エリアの電力需給制御装置2は、広域需給調整装置5から送信されたデータh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値を、各エリアの各発電機91に配分する指令を行う。
(6)広域におけるエリアの一部に異常等が検出された場合、各エリアの電力需給制御装置2は、切替部60によりデータh3(LFC制御出力指令)に代替しデータf3(AR配分値)を選択し、データf3(AR配分値)に基づき、各エリア単位で調整量の配分を行う。
【0126】
本実施形態にかかる広域需給調整システム1は、インバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分し、LFC発電機である発電機91の発電量の現在値(現在出力または既動作量と呼ぶ場合がある)に基づく配分を行わないことを特徴とする。
【0127】
発電量の現在値(現在出力)は、既動作量とも呼ばれる。一般的に既動作量は、当該時点における二次調整力(図18の二次調整力S-FRR)の発動量(kW)と定義される。または、既動作量は、「計画値と現在値との差」と定義されてもよい。
【0128】
従来技術にかかる広域需給調整装置5は、LFC発電機の変化速度に基づき配分した配分値と、LFC発電機の既動作量の合計を算出し、データh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値としていた。本実施形態にかかる広域需給調整装置5は、メリットオーダーに基づき配分した配分値と、LFC発電機の既動作量の合計を算出し、データh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値とする。LFC発電機の既動作量は、現在値に代替し計画値であってもよい。
【0129】
本実施形態によれば、メリットオーダーに従って各LFC発電機に地域要求量(AR)が配分される。これによりメリットオーダーによる経済的な電力需給調整を行うことができる。市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場が確保された電力需給調整が実行される。
【0130】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、広域需給調整装置5は、制御の対象となるエリアのそれぞれに要求された電力(AR値)に基づき、制御の対象となるエリア全体の調整量であるデータh1(ネッティング後AR値)の総量を算出するネッティング部51と、ネッティング部51により算出されたエリア全体の調整量であるデータh1(ネッティング後AR値)の総量を、制御の対象となるエリアのそれぞれに分配して、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する制御分担量算出部52と、制御分担量算出部52により算出されたエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量にかかるデータh2(制御分担量)に基づき、エリアのそれぞれに対する指令値であるデータh3(LFC制御出力指令)を作成する各電源指令作成部53と、を有する。制御分担量算出部52は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配してエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出するので、一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく経済的に電力需給調整を行うことができる広域需給調整装置5を提供することができる。
【0131】
(2)制御分担量算出部52は、電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価であるほど大きな数値となり、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価であるほど大きな数値となる関数により定義された重み付け係数を算出し、算出した重み付け係数に基づき、制御分担量を算出するので、電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価である発電機91の出力電力が優先的に増大するように制御され、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価である発電機91の出力電力が優先的に減少するように制御され、これにより経済的に電力需給調整を行うことができる。
【0132】
(3)重み付け係数は、電力価格に正比例した関数と電力価格の逆数に正比例した関数とを組合せた関数、または予め設定された基準価格と電力価格との差による関数により定義されるので、これにより、電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価であるほど大きな数値となる重み付け係数を、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価であるほど大きな数値となる重み付け係数を算出することができる。
【0133】
また、上記による簡単な演算により、重み付け係数を算出することができるので、制御分担量算出部52による演算時間を短縮することができる。これにより効率のよい電力需給調整が実現される。
【0134】
その結果、メリットオーダーに従って各LFC発電機に効率よく地域要求量(AR)が配分される。これによりメリットオーダーによる経済的な電力需給調整を行うことができる。市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場が確保された電力需給調整が実行される。
【0135】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成および作用]
第2実施形態にかかる広域需給調整システム1について説明する。第2実施形態にかかる広域需給調整システム1は、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52による演算が、第1実施形態にかかる広域需給調整システム1と相違する。第2実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成は、第1実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成と同じである。
【0136】
以下の説明において、第1実施形態にかかる広域需給調整システム1と異なる動作について説明する。第1実施形態にかかる広域需給調整システム1と同様の動作について、説明を省略する。
【0137】
第1実施形態にかかる広域需給調整システム1において広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、電力価格の価格比、または価格差比による重み付け係数Wiにより寄与度が設定された演算により、インバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分するものとした。
【0138】
第2実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、発電機91の出力変化速度とメリットオーダーの重み付けを行い、両者を組合わせインバランスをエリアごとの発電機91に配分することにより、種々の系統状態に柔軟に対応することができる経済性と制御性を含めた配分を行う。
【0139】
第2実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、エリアにおける制御性にかかる演算、経済性にかかる演算の、それぞれの寄与度が重み付けにより設定された演算により、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量をデータh2(制御分担量)として算出する。
【0140】
制御分担量算出部52は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配してエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する。
【0141】
制御分担量算出部52は、電力の出力を増加させる場合には電力価格が安価であるほど大きな数値となり、電力の出力を減少させる場合には電力価格が高価であるほど大きな数値となる関数により定義された重み付け係数を算出し、算出した重み付け係数に基づき、制御分担量を算出する。
【0142】
重み付け係数は、電力価格に関する関数と発電機91の出力変化速度にかかる関数とを組合せた関数により定義される。
【0143】
第2実施形態にかかる広域需給調整装置5は、以下の演算を行う。
【0144】
第2実施形態にかかる広域需給調整装置5は、各エリアの電力需給制御装置2からデータf1(AR値)を受信し、データf1(AR値)に基づき、各エリアを統合した広域におけるネッティング後のインバランスをエリアごとの発電機91に配分し、データh3(LFC制御出力指令)として各エリアの電力需給制御装置2に送信する。第2実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、ネッティング後のインバランスをメリットオーダーに従って各発電機91に配分する。
【0145】
ネッティング後のインバランス(AR)は、計画値または現在出力、もしくは計画値と現在出力の両者に基づき配分される。図9に示すように、LFC配分量(ΔP)から制御周期間の変化量制約を考慮した後の値(ΔP’)が各LFC発電機の計画値(PPLAN)または現在出力(PNOW)に配分されて、各電源指令作成部53によりデータh3(LFC制御出力指令)にかかる指令値が算出される。各電源指令作成部53は、各エリアの発電機91に対する指令値をデータh3(LFC制御出力指令)として各エリアの電力需給制御装置2のLFC制御出力指令受信部33に送信する。
【0146】
インバランス(AR)が大きい場合、各LFC発電機に配分されたLFC配分量(ΔP)は各LFC発電機の出力変化可能量より大きい場合もある。この場合、各発電機91は現在出力から出力を変動させることが可能な範囲で応答する。
【0147】
単に価格順にLFC配分量(ΔP)から制御周期間の変化量制約を考慮した後の値(ΔP’)を各LFC発電機の計画値(PPLAN)または現在出力(PNOW)に配分した場合、上げ指令では価格の安い(下げ指令では高い)順に配分されるが、稼働する発電機91の台数が減って制御性が低下する可能性がある。
【0148】
以下に、出力変化速度とメリットオーダーを組合わせた重み付けにより、ネッティング後のインバランスをメリットオーダーに従って各発電機91に配分する演算手順を説明する。制御分担量算出部52は、複数のエリアの調整力に応じてインバランスを複数のエリアに配分する制御性にかかる演算、およびインバランスをメリットオーダーに従って複数のエリアに配分する経済性にかかる演算の、重み付け係数Wiによりそれぞれの寄与度が設定された演算により、複数のエリアのそれぞれの制御分担量、複数のエリアの発電機91ごとの制御分担量のうち一方または両者を算出する。
【0149】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、以下の演算手順によりネッティング後のインバランスをメリットオーダーに従って各発電機91に配分する。制御分担量算出部52は、(式10)による重み付け係数Wiによりネッティング後のインバランスを各発電機91に配分する。(式10)は、重み付け係数Wiの一例である。
【数7】
・・・・・(式10)
【0150】
(式10)において、VCiは各LFC発電機の価格の関数である。RiはLFC発電機の出力変化速度である。重み付け係数Wiは、δ=1の場合、価格のみにより決定され、δ=0の場合、出力変化速度に比例して決定される。また、指数mによって価格差の重みを変えることができる。
【0151】
各LFC発電機への調整量は、(式11)により算出される。
各LFC発電機への調整量=インバランス(AR)×Wi
・・・・・(式11)
現在出力(現在値)または計画出力(BG計画値)に(式11)にかかる調整量が加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0152】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、(式12)による重み付け係数Wiによりネッティング後のインバランスを各発電機91に配分するようにしてもよい。(式12)は、重み付け係数Wiの一例である。
【数8】
・・・・・(式12)
【0153】
(式12)において第一項と第二項が乗算されるので、(式10)と比較し、価格比、または価格差比に対し、変化速度比の影響が大きくなる。(式12)において価格の関数VCiは、第1の実施形態の(式2)にかかる価格比、(式6)にかかる価格差比のいずれに関するものであってもよい。
【0154】
各LFC発電機への調整量は、(式13)により算出される。
各LFC発電機への調整量=インバランス(AR)×Wi
・・・・・(式13)
現在出力(現在値)または計画出力(BG計画値)に(式13)にかかる調整量が加算されてデータh3(LFC制御出力指令)が作成される。
【0155】
本実施形態によれば、出力変化速度とメリットオーダーを組合わせた重み付け係数Wiにより、種々の系統状態に対応した柔軟な演算を行うことができ、インバランスを各発電機91に適切に配分することができる。
【0156】
[2-2.効果]
(1)本実施形態によれば、制御分担量算出部52は、関数により定義された重み付け係数を算出し、算出した重み付け係数に基づき、制御分担量を算出する。重み付け係数は、電力価格に関する関数と発電機91の出力変化速度にかかる関数とを組合せた関数により定義されるので、出力変化速度とメリットオーダーを組合わせた重み付け係数を用いた演算により、種々の系統状態に対応し柔軟にインバランスを発電機91に配分することができる。
【0157】
その結果、メリットオーダーに従って各LFC発電機に効率よく地域要求量(AR)が配分される。これによりメリットオーダーによる経済的な電力需給調整を行うことができる。市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場が確保された電力需給調整が実行される。
【0158】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成および作用]
第3実施形態にかかる広域需給調整システム1について説明する。第3実施形態にかかる広域需給調整システム1は、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52による演算が、第1実施形態~第2実施形態にかかる広域需給調整システム1と相違する。第3実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成は、第1実施形態~第2実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成と同じである。
【0159】
以下の説明において、第1実施形態~第2実施形態にかかる広域需給調整システム1と異なる動作について説明する。第1実施形態~第2実施形態にかかる広域需給調整システム1と同様の動作について、説明を省略する。
【0160】
第1実施形態~第2実施形態にかかる広域需給調整システム1において、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、電力価格の価格比、価格差比に基づき調整量を算出するものとした。電力価格の価格比、価格差比基づき算出された調整量は、全てのLFC発電機に指令値が配分されるため制御性の観点からは望ましいといえる。
【0161】
本実施形態にかかる広域需給調整システム1は、調整コストと制御性の両立を図り、よりメリットオーダーに忠実に調整量を算出する。本実施形態にかかる広域需給調整システム1は、第1実施形態~第2実施形態にかかる電力価格の価格比、価格差比に基づく調整量の算出に代替し、より忠実にメリットオーダーに基づく調整量の算出を行うことを特徴とする。
【0162】
本実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、発電機91ごとの出力電力と電力価格との関係に基づき、電力価格の順にインバランスを分配して、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する。
【0163】
発電機91ごとの出力電力と電力価格との関係に基づき、電力価格の順にインバランスを分配する演算方式は、短冊方式と呼ばれる場合がある。広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、いわゆる短冊方式によりメリットオーダーに基づく調整量の算出を行う。図13に短冊方式によるメリットオーダーの概念を示す。
【0164】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、図13に示すように短冊方式により、現在出力が計画値以下の場合に下げ調整価格を使用し、計画値以上の場合に上げ調整価格を使用し調整量の算出を行う。広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、現在出力が計画値以下の場合、計画値以上の部分のみ広域のメリットオーダーにより調整量を算出する。
【0165】
制御分担量算出部52は、各LFC発電機に対する調整量の算出後に、リミッタを掛けて各LFC発電機の出力変化可能な範囲で、調整量を配分し、データh2(制御分担量)とする。各電源指令作成部53は、算出されたデータh2(制御分担量)に基づき指令値であるデータh3(LFC制御出力指令)を出力する。
【0166】
本実施形態によれば、メリットオーダーに従って各LFC発電機に地域要求量(AR)が配分される。これによりメリットオーダーによる経済的な電力需給調整を行うことができる。市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場が確保された電力需給調整が実行される。
【0167】
[3-2.効果]
(1)本実施形態によれば、制御分担量算出部52は、要求された電力と電力価格との関係を示すメリットオーダーに基づき、現在供給されている電力と要求された電力との差分であるインバランスを分配してエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出するので、一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく経済的に電力需給調整を行うことができる広域需給調整装置5を提供することができる。
【0168】
(2)前記制御分担量算出部52は、発電機91ごとの出力電力と電力価格との関係に基づき、電力価格の順にインバランスを分配してエリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成するので、経済的に電力需給調整を行うことができる。
【0169】
その結果、メリットオーダーに従って各LFC発電機に効率よく地域要求量(AR)が配分される。これによりメリットオーダーによる経済的な電力需給調整を行うことができる。市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場が確保された電力需給調整が実行される。
【0170】
[4.第4実施形態]
[4-1.構成および作用]
第4実施形態にかかる広域需給調整システム1について説明する。第4実施形態にかかる広域需給調整システム1は、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52による演算が、第1実施形態~第3実施形態にかかる広域需給調整システム1と相違する。第4実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成は、第1実施形態~第3実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成と同じである。
【0171】
以下の説明において、第1実施形態~第3実施形態にかかる広域需給調整システム1と異なる動作について説明する。第1実施形態~第3実施形態にかかる広域需給調整システム1と同様の動作について、説明を省略する。
【0172】
第1実施形態~第3実施形態にかかる広域需給調整システム1において広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、制御分担量を算出した後、データh3(LFC制御出力指令)として各LFC発電機に対して指令値を作成するものとした。
【0173】
各LFC発電機は、電力の出力において変化速度の上限を有する。各LFC発電機は、単位時間あたりに一定の電力を変動させることができる。しかしながら各LFC発電機は、出力可能な変化速度を超えて電力を変動させることができない。本実施形態にかかる広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、各LFC発電機における出力可能な変化速度にかかる電力値に基づき、各LFC発電機ごとに制御分担量にリミッタを掛けて、データh2(制御分担量)とする。
【0174】
制御分担量算出部52は、図7に示すレートリミッタにより各LFC発電機ごとに制御分担量にリミッタを掛けてデータh2(制御分担量)を算出し、各電源指令作成部53は、データh3(LFC制御出力指令)を作成する。
【0175】
制御分担量算出部52は、発電機91が単位時間あたりに変動させることができる出力電力の最大値である出力変化速度に基づき、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する。
【0176】
制御分担量算出部52は、制御対象である発電機91に対する指令値の送受信に要する伝送時間に対応した制御量を含め、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出する。
【0177】
制御分担量算出部52は、例えば前後5秒等の制御周期に基づき、各LFC発電機が出力可能な変化速度により現在出力電力から変動させることが可能な電力値を算出する。
【0178】
実際の電力系統9において、電力需給制御装置2から各LFC発電機である発電機91に対する指令において伝送遅れが生じる。この伝送遅れは、一般的に3秒程度である。さらに各LFC発電機である発電機91から電力需給制御装置2に対する応答においても伝送遅れが生じる。この伝送遅れは、一般的に3秒程度である。各LFC発電機である発電機91は、現在出力している電力値を電力需給制御装置2に対し応答として伝送する。したがって電力需給制御装置2と各LFC発電機である発電機91との間の伝送において、合計6秒程度の伝送遅れが生じることとなる。
【0179】
図14に、制御分担量算出部52によるリミッタの概念図を示す。図14においてTLFCは、制御周期である。制御周期TLFCは、例えば5秒である。VLFCは、LFC発電機の電力の出力における変化速度である。変化速度VLFCは、単位時間を1秒としたときにLFC発電機が変動させることができる電力の値である。
【0180】
LFC発電機は、制御周期であるTLFCの後には、制御周期TLFC×変化速度VLFCにかかる電力を現在出力に対し変動させることができる。さらに、上記のとおり電力需給制御装置2と各LFC発電機との間の伝送において、伝送遅れにかかる時間が発生する。伝送遅れにかかる時間を6秒とすると、伝送遅れにかかる時間においてLFC発電機は、6秒×変化速度VLFCにかかる電力を現在出力に対し変動させることができる。
【0181】
したがって制御分担量算出部52は、制御周期TLFC×変化速度VLFCに6秒×変化速度VLFCを加算した値をデータh2(制御分担量)として算出する。各電源指令作成部53は、データh2(制御分担量)に基づきデータh3(LFC制御出力指令)を作成する。
【0182】
制御分担量算出部52は、制御周期TLFCおよび電力需給制御装置2とLFC発電機である発電機91との間の伝送における伝送遅れにかかる時間とに基づき、データh2(制御分担量)を算出する。
【0183】
本実施形態によれば、制御周期TLFCおよび伝送遅れにかかる時間とに基づき出力電力の指令値が算出され、LFC発電機である発電機91に対し、出力電力の指令を行うことができるので、制御遅れによる電力の制御量の不足を解消することができる。
【0184】
[4-2.効果]
(1)本実施形態によれば、制御分担量算出部52は、発電機91が単位時間あたりに変動させることができる出力電力の最大値である出力変化速度に基づき、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成するので、制御時間内に出力可能な電力を超えた指令値により、発電機91が指令されることを防止することができ、制御不足を解消することができる。これにより一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく電力需給調整を行うことができる広域需給調整装置5を提供することができる。
【0185】
(2)制御分担量算出部52は、制御対象である発電機91に対する指令値の送受信に要する伝送時間に対応した制御量を含め、エリアのそれぞれの発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成するので、制御周期および伝送遅れにかかる時間に起因した制御量の不足を解消することができる。これにより広域のエリアにわたり効率よく、電力需給調整を行うことができる。
【0186】
[5.第5実施形態]
[5-1.構成および作用]
第5実施形態にかかる広域需給調整システム1について説明する。第5実施形態にかかる広域需給調整システム1は、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52による演算が、第1実施形態~第4実施形態にかかる広域需給調整システム1と相違する。第5実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成は、第1実施形態~第4実施形態にかかる広域需給調整システム1の構成と同じである。
【0187】
以下の説明において、第1実施形態~第4実施形態にかかる広域需給調整システム1と異なる動作について説明する。第1実施形態~第4実施形態にかかる広域需給調整システム1と同様の動作について、説明を省略する。
【0188】
第1実施形態~第4実施形態にかかる広域需給調整システム1において、広域需給調整装置5のネッティング部51は、各エリアにおけるARに基づきネッティングを行いデータh1(ネッティング後AR値)を作成する。制御分担量算出部52は、制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する。各電源指令作成部53は、各エリアに対しデータh3(LFC制御出力指令)を送信する。
【0189】
第1実施形態~第4実施形態にかかる制御分担量算出部52により作成されたデータh2(制御分担量)は、各エリア間の連系線潮流制約による上下限の余裕量に基づかずに制御量が算出されている。このため、第1実施形態~第4実施形態にかかるデータh2(制御分担量)に基づき、各エリアにおいて電力需給制御装置2が発電機91の制御を行なった場合、必要とするエリアに対する供給量に過不足が発生し、制御残となる可能性がある。
【0190】
本実施形態にかかる広域需給調整システム1の広域需給調整装置5は、エリア間の送電の余裕量である連系線潮流制約に基づき、ネッティング後のARを調整し、制御残を抑制することを特徴とする。
【0191】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、エリア間の連系線潮流制約に基づき発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成する。
【0192】
一例として図15に示すように、4系統のエリアA~Dが連系している場合につき、説明する。
【0193】
各連系線にて、以下のような連系線潮流制約があるものと仮定する。連系線潮流制約は余裕量とも呼ばれる。
エリアA~エリアB:-20MW~+20MW
エリアB~エリアC:―50MW~+50MW
エリアC~エリアD:-30MW~+30MW
【0194】
上記のような連系線潮流制約がある場合における、広域需給調整システム1の広域需給調整装置5の動作を以下に説明する。広域需給調整装置5は、下記の2つの演算のうち、いずれの演算によりネッティングを行うものであってもよい。
【0195】
[ネッティングARが正の場合]
ネッティングARが正の場合、つまりネッティング部51により作成されたデータh1(ネッティング後AR値)にかかる値が正である場合について説明する。広域需給調整装置5のネッティング部51は、各エリアから送信されたデータf1(AR値)に基づきネッティング後のARを算出し、データh1(ネッティング後AR値)を作成する。図16に示すように、各エリアのデータf1(AR値)にかかるAR0が下記の場合、ネッティング部51により算出されたデータh1(ネッティング後AR値)にかかるネッティング後のARは+300MWとなる。
AR0=+100MW
AR0=+100MW
AR0=+80MW
AR0=+20MW
【0196】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、ネッティング部51により作成されたデータh1(ネッティング後AR値)に基づき、メリットオーダーにより一次的な配分を行い、ネッティング後AR配分であるAR1を作成する。ネッティング後AR配分AR1は、下記のとおりであるものとする。
AR1=0MW
AR1=+300MW
AR1=0MW
AR1=0MW
【0197】
上記のAR1により各エリアに対しデータh3(LFC制御出力指令)により指令を行なった場合、エリアBからエリアA、エリアC、エリアDへ連系線潮流制約以上の電力が供給されることになり不都合である。これを解消するため、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、ネッティング後AR配分であるAR1に基づき、二次的な配分により調整を行い、調整後AR配分であるAR2を作成する。調整後AR配分AR2は、下記のとおりであるものとする。
AR2=+20MW(エリアBから20MW)
AR2=+200MW(エリアAへ20MW、エリアCへ50MW、
エリアDへ30MW)
AR2=+50MW(エリアBから50MW)
AR2=+30MW(エリアBから30MW)
【0198】
[ネッティングARが負の場合]
ネッティングARが負の場合、つまりネッティング部51により作成されたデータh1(ネッティング後AR値)にかかる値が負である場合について説明する。広域需給調整装置5のネッティング部51は、各エリアから送信されたデータf1(AR値)に基づきネッティング後のARを算出し、データh1(ネッティング後AR値)を作成する。図17に示すように、各エリアのデータf1(AR値)にかかるAR0が下記の場合、ネッティング部51により算出されたデータh1(ネッティング後AR値)にかかるネッティング後のARは-300MWとなる。
AR0=-100MW
AR0=-100MW
AR0=-80MW
AR0=-20MW
【0199】
広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、ネッティング部51により作成されたデータh1(ネッティング後AR値)に基づき、メリットオーダーにより一次的な配分を行い、ネッティング後AR配分であるAR1を作成する。ネッティング後AR配分AR1は、下記のとおりであるものとする。
AR1=0MW
AR1=0MW
AR1=-300MW
AR1=0MW
【0200】
上記のAR1により各エリアに対しデータh3(LFC制御出力指令)により指令を行なった場合、エリアCからエリアA、エリアB、エリアDへ連系線潮流制約以上の電力が供給されることになり不都合である。これを解消するため、広域需給調整装置5の制御分担量算出部52は、ネッティング後AR配分であるAR1に基づき、二次的な配分により調整を行い、調整後AR配分であるAR2を作成する。調整後AR配分AR2は、下記のとおりであるものとする。
AR2=-20MW(エリアCから-20MW)
AR2=-50MW(エリアCから-50MW)
AR2=-210MW(エリアAへ-20MW、エリアBへ-50MW、
エリアDへ-20MW)
AR2=-20MW(エリアCから-20MW)
【0201】
本実施の形態によれば、各エリア間の連系線潮流制約による上下限の余裕量に基づき各エリアに地域要求量(AR)が配分される。連系線潮流制約が確保された電力が各エリア間で送電されるので、広域需給調整システム1における制御性が向上する。
【0202】
[5-2.効果]
(1)本実施形態によれば、制御分担量算出部52は、エリア間の連系線潮流制約に基づき発電機91ごとの制御分担量を算出しデータh2(制御分担量)を作成するので、エリア間に送電可能な電力を超えた指令値により、発電機91が指令されることを防止することができ、制御不足を解消することができる。これにより一定のエリアに調整力が偏在化することを抑制し、広域のエリアにわたり効率よく電力需給調整を行うことができる広域需給調整装置5を提供することができる。
【0203】
[6.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0204】
(1)上記実施形態では、リアルタイムEDC算出部27によりデータg1(リアルタイムEDC値)が算出され、目標値作成部23に送信されるものとした。広域需給調整装置5により経済配分が行われる場合は、リアルタイムEDC算出部27によりデータg1(リアルタイムEDC値)が算出されないものとしてもよい。また、広域需給調整装置5により経済配分が行われる場合であっても、リアルタイムEDC算出部27によエリア固有のデータg1(リアルタイムEDC値)が算出されるようにしてもよい。
【0205】
(2)上記実施形態では、発電機91は、火力、水力等の発電機であるものとした。しかしながら発電機91は、これに限られない。発電機91は、蓄電池やDR等であってもよい。
【0206】
(3)上記実施形態における、自然エネルギー発電設備92は、太陽光発電装置、風力発電装置、海流発電装置、地熱発電装置であってもよい。
【0207】
(4)上記実施形態では、入力部21は、受信回路としたがこれに限られない。入力部21は、メモリポートやキーボードによる入力装置でもよい。
【符号の説明】
【0208】
1・・・広域需給調整システム
2・・・電力需給制御装置
21,21a,21b,21n・・・入力部
22,22a,22b,22n・・・出力部
23,23a,23b,23n・・・目標値作成部
24・・・AR算出部
25・・・AR平滑部
26・・・AR配分部
27・・・リアルタイムEDC算出部
31・・・AR送信部
32・・・情報送信部
33・・・LFC制御出力指令受信部
34・・・切替部
5・・・広域需給調整装置
51・・・ネッティング部
52・・・制御分担量算出部
53・・・各電源指令作成部
91,91a,91b,91n・・・発電機
92,92a,92b,92n・・・自然エネルギー発電設備
93・・・検出装置
97,97a,97b,97n・・・信号線
98,98a,98b,98n・・・信号線

図1
図2
図3
図4
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