(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088103
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物および印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/02 20140101AFI20240625BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C09D11/02
B41M1/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203102
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】桶村 英司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 雅和
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友紀雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 基樹
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】内山 竜次
(72)【発明者】
【氏名】河原 慎
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA06
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB22
2H113BC10
2H113DA03
2H113DA04
2H113DA25
2H113DA28
2H113DA29
2H113DA45
2H113DA53
2H113DA56
2H113DA57
2H113DA60
2H113DA62
2H113EA02
2H113EA08
2H113EA10
2H113EA12
4J039AE02
4J039BA19
4J039BC01
4J039BC19
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA02
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】
石油由来の溶剤の使用量が従来より削減された場合であっても、セット乾燥が早い酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物を提供する。
【解決手段】
バインダー樹脂と、溶剤と、を含み、バインダー樹脂は、n-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂の含有量が30質量%以上であり、溶剤は、植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物と、を含み、溶剤に占める前記植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種の割合が30質量%以上80質量%以下であり、溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の割合が5質量%以上70質量%以下である酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物により解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、溶剤と、を含み、
前記バインダー樹脂は、n-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂の含有量が30質量%以上であり、
前記溶剤は、植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物と、を含み、
前記溶剤に占める前記植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種の含有量が30質量%以上80質量%以下であり、
前記溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の含有量が5質量%以上70質量%以下である、酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記バイオマス原料の水素化物の初留点が230℃以上300℃以下であり、乾点は250℃以上340℃以下である請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記バイオマス原料の水素化物の沸点範囲が80℃以下である請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記溶剤に占める前記バイオマス原料の水素化物の含有量が10質量%以上である請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項5】
前記溶剤に占める前記植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種の含有量が40質量%以上70質量%以下である請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項6】
前記植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種が植物油を含む請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項7】
前記植物油が大豆油である請求項5に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項8】
着色顔料をさらに含む請求項1に記載の酸化重合型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項9】
JIS K5701-1に記載のL型粘度計による方法にて測定した粘度が10Pa・s以上60Pa・s以下である請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項10】
平均粒子径D50が2μm以上7μm以下の粒子を含む請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項11】
平均粒子径D50が10μm以上20μm以下のデンプンを含む請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項12】
リン酸、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属二水素塩、クエン酸、クエン酸のアンモニウム塩、クエン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のマグネシウム塩から成る群から選ばれる一つ以上の汚れ防止剤を含む請求項1に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物。
【請求項13】
基材と、
前記基材上に配置された請求項1乃至12のいずれか一項に記載の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物のインキ塗膜と、を有することを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物および当該酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物は、空気中の酸素によりワニスに含まれる酸化重合性の成分が重合して硬化被膜を形成するものである。酸化重合を促進させるために、オクチル酸などの有機酸と、コバルトやマンガンなどの遷移金属との金属塩のようなドライヤーが一般に配合され得る(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物の乾燥には、印刷された直後にインキ組成物中の溶剤成分が紙基材に浸透してインキ組成物の粘度が上昇するセット乾燥と、紙基材の表面に残るインキ組成物が酸化重合して紙基材表面にインキ組成物の固体被膜を形成する酸化重合乾燥の2つがある。セット乾燥の段階ではインキ組成物は完全に乾燥してはいないが、多少の加圧に耐えられる。
【0005】
主として酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物が用いられる枚葉印刷では、印刷機から排出された印刷物は順次積み重ねられる(この状態を棒積みともいう)。このため、印刷インキ組成物のセット乾燥が遅いと印刷面の裏側に印刷インキが付着してしまう(裏移り)おそれがある。
【0006】
近年、環境問題や安全衛生上の観点から、印刷インキにおける石油系溶剤の使用量を削減する試みが為されてきている。このようなインキ組成物の一例として、石油系溶剤の一部または全部を大豆油等の乾性油に置き換えることが検討されている。しかしながら、大豆油成分のような植物油の配合量が増えるにつれ、印刷インキ組成物のセット乾燥は遅くなり、裏移りが深刻になる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、石油由来の溶剤の使用量が従来より削減された場合であっても、セット乾燥が早い酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バインダー樹脂と、溶剤と、を含み、バインダー樹脂は、n-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂の含有量が30質量%以上であり、溶剤は、植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物と、を含み、溶剤に占める前記植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種の割合が30質量%以上80質量%以下であり、溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の割合が5質量%以上70質量%以下である酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物によれば石油由来の溶剤の使用量を従来より削減した場合であってもセット乾燥が早い酸化重合乾燥型のオフセット印刷インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物>
本発明の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物は、バインダー樹脂、溶剤を含み、溶剤が植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物を含む。以下、本発明の酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物について詳述する。以下では酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物を単に印刷インキともいう。なお本明細書における酸化重合乾燥型オフセット印刷インキ組成物は、着色顔料を含み、文字や絵柄等の印刷に用いられる印刷インキと、着色顔料を含まず、一般的に文字や絵柄の上に印刷されるいわゆるオーバープリントワニスとを含む概念である。
【0011】
バインダー樹脂は、n-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂を含む。n-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下の樹脂であれば従来公知のものを使用することができ特に制限はない。バインダー樹脂のn-ヘプタントレランスは1.8以上であることがより好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがより好ましい。本明細書におけるn-ヘプタントレランスとは、バインダー樹脂を同量(質量)のトルエンで希釈した溶液を100mlのビーカーに注ぎ、このビーカーを10ポイントの文字が印字された印刷物の上に置いてバインダー樹脂溶液に文字が判読できなくなるまでn-ヘプタンを滴下していった際のn-ヘプタンの滴下量(ml)である。
【0012】
このようなバインダー樹脂としては、ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、アルキド樹脂、石油樹脂変性ロジン・フェノール樹脂、石油樹脂変性ロジンエステル、石油樹脂変性アルキド樹脂、アルキド樹脂変性ロジン・フェノール樹脂、アルキド樹脂変性ロジンエステル、アクリル変性ロジン・フェノール樹脂、アクリル変性ロジンエステル、ウレタン変性ロジン・フェノール樹脂、ウレタン変性ロジンエステル、ウレタン変性アルキド樹脂、エポキシ変性ロジン・フェノール樹脂、エポキシ変性ロジンエステル樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂等が例示される。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂の少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0013】
ロジン変性フェノール樹脂としては、例えば、ホルムアルデヒドおよび/またはパラホルムアルデヒドとフェノール類との加熱反応により得られるレゾールを、ロジン類と多価アルコールとの反応により得られるロジンエステル樹脂と反応させて得られる樹脂や、あるいは、レゾールとロジン類とを反応させた後、多価アルコールでエステル化して得られる樹脂を用いることができる。
【0014】
レゾールの調製に用いるフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、アミルフェノール、p-ターシャリーブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-ドデシルフェノール、ビスフェノールAなどが挙げられ、中でもp-ターシャリーブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-ドデシルフェノール等の、パラ位に炭素原子数が4~12の置換基を持つアルキルフェノールを用いることが好ましい。
【0015】
ロジン類としては、従来公知のものを用いることができ特に制限はない。ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、重合ロジン、酸変性ロジン、およびこれらのロジン類を蒸留等により精製したものなどが挙げられる。
【0016】
酸変性ロジンを用いる場合、ロジンの変性に用いる化合物としては、二塩基酸またはその無水物を用いることが好ましい。フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アジピン酸、イタコン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸などが挙げられ、中でもフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく用いられる。
【0017】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられ、中でもグリセリン、ペンタエリスリトールが好ましく用いられる。
【0018】
ロジン変性フェノール樹脂のn-ヘプタントレランスは例えば、レゾールの合成に用いるフェノールの置換基やレゾールの核体数、多価アルコール等により導入される分岐の程度、酸変性や植物油による変性の有無やその程度等、当業者に公知の手法により調整することができる。
【0019】
ロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量は15,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましい。また、150,000以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量は、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0020】
測定装置 ;東ソー株式会社製 HLC-8320GPC
カラム ;東ソー株式会社製 TSKgel 4000HXL、TSKgel 3000HXL、TSKgel 2000HXL、TSKgel 1000HXL
検出器 ;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC-8020modelII
測定条件 ;カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.35ml/分
標準 ;単分散ポリスチレン
試料 ;樹脂固形分換算で0.2質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0021】
ロジン変性フェノール樹脂は、軟化点が150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。また、軟化点は200℃以下であることが好ましい。なお、本明細書における軟化点は、JIS K5601-2-2に準拠し環球法により測定したもので、具体的には試料を充填した黄銅製環をグリセリン浴中に水平に保持し、試料の中心に一定重量の鋼球をのせ、一定速度で浴温を上昇させ、試料が次第に軟化し、鋼球が下降し、ついに厚さ25mmの位置の底板に達したときの温度計の示度をもって軟化点とする。
【0022】
ロジンエステル樹脂としては、ロジン類と多価アルコールとの反応により得られる樹脂を用いることができる。ロジン類、多価アルコールとしては、ロジン変性フェノール樹脂の原料として例示したのと同様のものを用いることができる。重合ロジンの導入や無水マレイン酸、フマル酸等の多塩基酸にて変性したロジンエステル樹脂も好ましく使用される。
【0023】
ロジンエステル樹脂のn-ヘプタントレランスは例えば、多価アルコール等により導入される分岐の程度、酸変性や植物油による変性の有無やその程度等、当業者に公知の手法により調整することができる。
【0024】
ロジンエステル樹脂の重量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、より好ましくは50,000以上である。また、ロジンエステル樹脂の重量平均分子量は300,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。
【0025】
ロジンエステル樹脂は、軟化点が120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。また、軟化点は210℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0026】
バインダー樹脂は、上述した以外の樹脂を含んでいてもよいが、少なくとも30質量%はn-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂が占める。バインダー樹脂におけるn-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。バインダー樹脂の全量がn-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下である樹脂であってもよい。また、バインダー樹脂がn-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下の範囲外の樹脂を含む場合はバインダー樹脂全体のn-ヘプタントレランスが1.5以上5.0以下となるよう調整されることが好ましい。
印刷インキにおけるバインダー樹脂の配合量は、適宜調整され得るが、一例として10質量%以上40質量%以下である。
【0027】
本発明の印刷インキに用いられる溶剤は、必須の成分としてバイオマス原料の水素化物を含む。本発明の印刷インキに用いられる溶剤は、バイオマス原料を必要に応じて分解し、酸素、リン、硫黄を除去し、不飽和結合を水素化して得られる。
【0028】
バイオマス原料としては、植物油、動物油脂、魚油等が挙げられ、好ましくは植物油が用いられる。より具体的には、菜種油、キャノーラ油、コルザ油、トール油、ヒマワリ油、大豆油、大麻油、オリーブ油、亜麻仁油、カラシ油、パーム油、ラッカセイ油、ヒマシ油、ヤシ油、スエット(suet)、獣脂、クジラ油などが挙げられる。あるいは再利用された食物性脂肪、藻類および細菌などの微生物によって産生された生物学的出発原料を用いることもできる。縮合生成物、エステルまたは生物学的原料から得られる他の誘導体も、原料として使用することができる。特に好ましい植物性原料は、エステル誘導体またはトリグリセリド誘導体である。
【0029】
これらのバイオマス原料は、必要に応じてエステル、トリグリセリド構造を分解し、酸素、リン、硫黄を含む化合物を除去し、不飽和結合が水素化される(工程1)。バイオマス原料と水素ガスは、向流または並流で触媒床に送られる。当該工程における圧力は例えば20Bar~150Bar、温度は200℃~500℃である。触媒としては、公知の水素化・脱酸素触媒を用いることができ、一例としてニッケル、白金、パラジウム、レニウム、ロジウム、タングステン酸ニッケル、ニッケルモリブデン、モリブデン、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケルなどが挙げられる。
【0030】
工程1に供する前に、バイオマス原料を予備分留する工程を設けることも好ましい。予めバイオマス原料を分留しておくことにより、より沸点範囲の狭い水素化物を得ることができる。
二重結合による副反応を回避するために、工程1に先立ちより温和な条件下でバイオマス原料を予備水素化する工程を設けてもよい。
【0031】
工程1に引き続き、当該工程で得られた生成物を異性化する工程を設けてもよい。これにより、バイオマス原料の水素化物はより生分解性に優れたものとなる。即ち、本発明の印刷インキを生分解性に優れたものとすることができる。水素化・脱酸素化する工程で得られた生成物を異性化する工程における圧力は例えば20Bar~150Bar、温度は200℃~500℃である。異性化触媒としては公知のものを用いることができる。
【0032】
本発明に用いられるバイオマス原料の水素化物は、工程1で得られた生成物をさらに水素化したものを用いることがより好ましい(工程2)。
工程2に用いられる水素化触媒は工程1に用いられるのと同様のものを用いることができ、好ましくはニッケル触媒である。これらの触媒は比表面積が100~200m2/gのシリカやアルミナ、ゼオライト単体上に担持されていることが好ましい。
【0033】
工程2における圧力は例えば50Bar~160Bar、温度は80℃~180℃、液空間速度(LHSV)は0.2hr-1~5hr-1、水素処理率は供給物の200Nm2/t以下である。
工程2における水素化は、好ましくは2段階または3段階で行われる。第1段階では、硫黄のトラップと、実質的に全ての不飽和結合の水素化、芳香環の90%までの水素化が行われる。第2段階では芳香環の99%までの水素化が行われる。第3段階は終了段階であり、芳香環の含有量を、高沸点生成物であったとしても100ppm以下とすることができる。
【0034】
これらの工程を経て得られた生成物は、所望の留分を得るために分留することも好ましい。あるいは、各工程の前または間に予備分留を行うこともできる。装置に入る際の沸点範囲をより狭くすることにより、出口においてより狭い沸点範囲を有することが可能になり、また印刷インキに不適な成分の含有量が低く、所望の物性を有する留分を得ることができる。
【0035】
本発明の印刷インキに好ましく用いられるバイオマス原料の水素化物の初留点は230℃以上300℃以下であり、より好ましくは270℃以上300℃以下である。
本発明の印刷インキに好ましく用いられるバイオマス原料の水素化物の乾点は250℃以上340℃以下であり、より好ましくは300℃以上340℃以下である。
また本発明の印刷インキに好ましく用いられるバイオマス原料の水素化物は、沸点範囲(初留点と乾点との差)が狭いことが好ましく、一例として80℃以下であり、より好ましくは50℃以下である。
【0036】
本発明の印刷インキに好ましく用いられるバイオマス原料の水素化物のアニリン点は、90℃以上105℃以下であることが好ましい。
本発明の印刷インキに好ましく用いられるバイオマス原料の水素化物の硫黄分は5ppm未満である。
バイオマス原料の水素化物が異性化されている場合、異性体:非異性体の比率は12:1以上である。
【0037】
このようなバイオマス原料の水素化物を用いることにより、印刷インキ組成物の機上安定性や光沢を低下させることなく、セット性を向上させることができる。
【0038】
本発明の印刷インキは、上述したバイオマス原料の水素化物に加えて、植物油または植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種を含む。これらは従来公知のものを用いることができ特に制限はない。
【0039】
植物油としては、ヒマシ油、落花生油、オリーブオイルなどの不乾性油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油などの半乾性油、アマニ油、エノ油、桐油などの乾性油、再生植物油、植物エステル等の植物由来成分などを用いることができる。
【0040】
植物油として、再生植物油を使用することもできる。再生植物油とは、調理等に使用された油を回収し、再生処理された植物油のことである。再生植物油としては、含水率を0.3質量%以下、ヨウ素価を90以上、酸価を3以下として再生処理した油が好ましく、より好ましくはヨウ素価100以上である。含水率を0.3質量%以下にすることにより水分に含まれる塩分等のインキの乳化挙動に影響を与える不純物を除去することが可能となり、ヨウ素価を90以上として再生することにより、乾燥性、すなわち酸化重合性の良いものとすることが可能となり、さらに酸価が3以下の植物油を選別して再生することにより、インキの過乳化を抑制することが可能となる。回収植物油の再生処理方法としては、濾過、静置による沈殿物の除去、および活性白土等による脱色といった方法が例示される。
【0041】
植物油の脂肪酸エステルとしては、例えば、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、大豆油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、亜麻仁油脂肪酸ブチルエステル、アマニ油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸ブチルエステル、トール油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、トール油脂オクチルエステル、トール油脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、パーム油脂肪酸メチルエステル、パーム油脂肪酸ブチルエステル、パーム油脂肪酸イソブチルエステル、パーム油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、ヒマシ油脂肪酸ブチルエステル、ヒマシ油脂肪酸イソブチルエステル、ヒマシ油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル等が挙げられる。本発明の印刷インキは、バイオマス原料の水素化物と植物油とを含むことが好ましく、植物油としては大豆油を用いることが好ましい。
【0042】
一方、本発明の印刷インキ組成物は「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」、「AFソルベント6号」、「AFソルベント7号」等の、従来しばしば用いられる石油系溶剤を極力含まないことが好ましい。本発明の印刷インキ組成物に用いられる溶剤のうち、植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物の含有量の合計が40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。全量が植物油および植物油の脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種と、バイオマス原料の水素化物とであってもよい。
【0043】
また、印刷適性とセット性とのバランスの観点から、溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の含有量は5質量%以上70質量%以下である。10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の含有量は60質量%以下であることがより好ましい。
同様に、セット性と印刷インキの塗膜物性とのバランスの観点から溶剤に占める植物油または植物油の脂肪酸エステルの含有量は30質量%以上80質量%以下である。40質量%以上であることがより好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明の印刷インキに用いる着色顔料としては特に限定されず、種々の有機顔料、無機顔料を用いることができる。例えば、黄顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等が挙げられ、紅顔料としては、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド等が挙げられる。藍顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等が挙げられ、墨顔料としてはファーネスカーボンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。
【0045】
本発明の印刷インキに含まれる顔料の含有量は適宜調整される。一例として黄インキにおける黄顔料の含有量は印刷インキの7質量%以上15質量%以下であり、紅インキにおける紅顔料の含有量は印刷インキの13質量%以上20質量%以下であり、藍インキにおける藍顔料の含有量は16質量%以上23質量%以下であり、墨インキにおける墨顔料の含有量は17質量%以上24質量%以下である。
【0046】
着色顔料の他に体質顔料を含んでいてもよい。体質顔料としては特に限定されず、ろう石クレー等のクレー、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸バリウム、シリカ、ベントナイト、酸化チタン等、公知のものを1種類または2種類以上用いることができる。
【0047】
ドライヤーとしては、酸化重合乾燥型印刷インキに通常用いられるものならば特に制限なく用いることができる。例えば、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛、カルシウム、セリウム、レアアース等の金属と、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、桐油酸、アマニ油酸、大豆油酸、樹脂酸等のカルボン酸との塩、すなわち金属石鹸、あるいは、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛、カルシウム、セリウム、レアアース等の金属とのホウ酸塩等が挙げられる。これらのドライヤーを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明の印刷インキはワックスを含んでいてもよい。本発明に用いられるワックスとしては、カルナバワックス、みつろう、木ろう、ライスワックス、ラノリンワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、脂肪酸アマイド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。ワックスを併用することにより、より裏移りやブロッキングを抑制しやすくなる。本発明の印刷インキを高バイオマス度にできることから、動植物由来の天然ワックスを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の印刷インキは、平均粒子径D50が2μm以上7μm以下の粒子を含むことが好ましい。なお、D50とはメディアン径とも呼ばれ、粒度分布において粒径の小さい方から数えて体積基準の累積粒度分布曲線の50%を表す。
このような粒子としては、真球状であってもよいし、不定形であってもよい。ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、樹脂粒子やこれらの複合体が挙げられ、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。このような粒子を併用することで、耐裏移り性、後加工性(滑性)を良好なものとすることができる。
【0050】
本発明の印刷インキは、デンプンを併用することもより好ましい。デンプンを併用することで、耐裏移り性をさらに良好なものとすることができる。平均粒子径D50が10μm以上20μm以下のものを用いることが好ましい。
印刷インキにおける、平均粒子径D50が2μm以上7μm以下の粒子と平均粒子径D50が10μm以上20μm以下のデンプンの含有量の合計は、0.5質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の印刷インキは、リン酸、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属二水素塩、クエン酸、クエン酸のアンモニウム塩、クエン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のマグネシウム塩から成る群から選ばれる一つ以上の汚れ防止剤粒子を含むことが好ましい。汚れ防止剤粒子の含有量は、印刷インキの0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。印刷中の湿し水の使用量を抑制でき、セット遅延が防止され、耐裏移り性を良好なものとすることができる。
【0052】
本発明の印刷インキは、必要に応じて皮張り防止剤、粘度調整剤、分散剤、上述した以外の汚れ防止剤、乳化調整剤、酸化防止剤等の助剤を含んでいてもよい。これらの助剤としては、従来公知のものを好適に用いることができる。
【0053】
印刷適性を良好なものとするため、本発明の印刷インキはJIS K5701-1に記載のL型粘度計による方法にて測定した粘度が10Pa・s以上60Pa・s以下となるよう調整して用いられることが好ましい。印刷インキの粘度は、例えば各成分の配合量により調整される。
【0054】
<製造方法>
本発明の印刷インキは、上記の原料を用い、従来公知の方法で製造することができる。一例として、バインダー樹脂、バイオマス原料の水素化物、植物油類または脂肪酸エステル類またはそれらの混合物、さらに必要に応じてキレート化剤、その他助剤等を加熱溶解させて調製したワニスに、着色顔料、体質顔料、溶剤および他の添加剤を必要に応じて添加し、攪拌機で充分にプレミキシングを行なった後、ショットミル、ロールミル等で練肉を行う。練肉後、ワニス、バイオマス原料の水素化物、植物油、その他ワックス、酸化防止剤、乳化調整剤等の助剤を添加し、充分に攪拌混合する。石油系ワックスは、プレミキシングの際に添加してもよいし、練肉後に添加してもよい。
これらの原料は印刷インキに必要とされる粘度や流動性に合わせて使用量を調整する。また、これらの原料の添加時期は固定されたものではなく、混合状態に基づいて適切に調整される。
【0055】
本発明の印刷インキの製造において、バインダー樹脂と溶剤を用いてワニスを調製する際は、160℃以上240℃以下の範囲で行うことが好ましく、160℃以上200℃以下で行うことがより好ましい。これにより、バイオマス原料の水素化物と組み合わせた際に、よりセット性に優れた印刷インキとすることができる。
【0056】
<印刷物>
本発明の印刷物は、上述したような印刷インキ組成物を用いて平版オフセット印刷機により印刷させて得られる。基材としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、特にコート紙、マットコート紙、上質紙への印刷に適している。本発明の印刷物は、裏移りが少ないものとなる。
【実施例0057】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0058】
<バインダー樹脂の合成>
(レゾール型フェノール樹脂1の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、パラターシャルブチルフェノール1000部、92%パラホルムアルデヒド400部、キシレン1000部、50%水酸化ナトリウム10部を仕込み、95度に昇温、同温度を維持しながら6時間反応させた。水300部と塩酸13部を混合後加え中和し、さらに水1000部を加え、上澄みを上記と同様の装置に取り出し、120度に昇温して30分攪拌した。上澄みを取り出して、固形分57%のレゾール型フェノール樹脂1を得た。
【0059】
(バインダー樹脂1の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン880部、石油樹脂130部、無水マレイン酸15部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール98部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂1を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がD~Eになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂1)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂1は350部であった。バインダー樹脂1の重量平均分子量は78,000、バインダー樹脂1のn-ヘプタントレランスは2.0ml/gであった。
【0060】
(バインダー樹脂2の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン890部、無水マレイン酸6部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール83部、グリセリン9部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂1を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がEになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂2)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂1は410部であった。バインダー樹脂2の重量平均分子量は102,000、バインダー樹脂2のn-ヘプタントレランスは2.7ml/gであった。
【0061】
(レゾール型フェノール樹脂2の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、パラターシャルブチルフェノール725部、p-オクチルフェノール275部、92%パラホルムアルデヒド325部、キシレン1000部、50%水酸化ナトリウム10部を仕込み、95度に昇温、同温度を維持しながら6時間反応させた。水300部と塩酸13部を混合後加え中和し、さらに水1000部を加え、上澄みを上記と同様の装置に取り出し、120度に昇温して30分攪拌した。上澄みを取り出して、固形分56%のレゾール型フェノール樹脂2を得た。
【0062】
(バインダー樹脂3の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン875部、無水マレイン酸15部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール80部、グリセリン16部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂2を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がD~Eになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂3)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂2は460部であった。バインダー樹脂3の重量平均分子量は94,000、バインダー樹脂3のn-ヘプタントレランスは4.0ml/gであった。
【0063】
(バインダー樹脂4の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン890部、無水マレイン酸6部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール75部、グリセリン17部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂2を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がD~Eになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂4)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂2は590部であった。バインダー樹脂4の重量平均分子量は129,000、バインダー樹脂4のn-ヘプタントレランスは4.6ml/gであった。
【0064】
(レゾール型フェノール樹脂3の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、パラターシャルブチルフェノール1000部、92%パラホルムアルデヒド490部、キシレン1000部、50%水酸化ナトリウム10部を仕込み、95度に昇温、同温度を維持しながら6時間反応させた。水300部と塩酸13部を混合後加え中和し、さらに水1000部を加え、上澄みを上記と同様の装置に取り出し、120度に昇温して30分攪拌した。上澄みを取り出して、固形分59%のレゾール型フェノール樹脂3を得た。
【0065】
(バインダー樹脂5の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン870部、石油樹脂130部、無水マレイン酸20部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール100部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂3を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がD~Eになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂5)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂3は230部であった。バインダー樹脂5の重量平均分子量は45,000、バインダー樹脂5のn-ヘプタントレランスは1.3ml/gであった。
【0066】
(レゾール型フェノール樹脂4の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、パラターシャルブチルフェノール510部、p-オクチルフェノール490部、92%パラホルムアルデヒド230部、キシレン1000部、50%水酸化ナトリウム10部を仕込み、95度に昇温、同温度を維持しながら6時間反応させた。水300部と塩酸13部を混合後加え中和し、さらに水1000部を加え、上澄みを上記と同様の装置に取り出し、120度に昇温して30分攪拌した。上澄みを取り出して、固形分54%のレゾール型フェノール樹脂4を得た。
【0067】
(バインダー樹脂6の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、酸価165mgKOH/gのガムロジン895部、無水マレイン酸3部を仕込み、180度に昇温し、ペンタエリスリトール44部、グリセリン44部、酸化亜鉛2部を加え、250度に昇温し同温度を維持しながら酸価が20mgKOH/g以下になるまで反応させた。その後180度に降温し、同温度を維持しながらレゾール型フェノール樹脂4を、滴下ロートを用いて滴下速度2.5部/分で滴下し、50%トルエン溶液の25℃ガードナー粘度がDになった時点で滴下を停止、30分後樹脂を取り出し、ロジン変性フェノール樹脂(バインダー樹脂6)を得た。滴下したレゾール型フェノール樹脂4は780部であった。バインダー樹脂6の重量平均分子量は144,000、バインダー樹脂6のn-ヘプタントレランスは7.1ml/gであった。
【0068】
<印刷インキ用ワニスの調製>
(印刷インキ用ワニス1~5の調製)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、バインダー樹脂1を40部、大豆サラダ油(日清オイリオ(株)製)35部を仕込み、180度で1時間過熱攪拌した。その後、バイオマス原料の水素化物1 24部、BHT0.2部を加え、160度に降温し、エチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレート0.8部を加え、同温度を1時間保持し印刷インキ用ワニス1を得た。
また、表1の示す通りバイオマス原料の水素化物1にかえて、バイオマス原料の水素化物2、バイオマス原料の水素化物3、AFソルベント6号、大豆サラダ油をそれぞれ用いた以外は同様にして、印刷インキ用ワニス2~5を得た。なお表中のキレートはエチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレートである。
【0069】
(印刷インキ用ワニス6の調製)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、バインダー樹脂1を40部、バイオマス原料の水素化物3 35部を仕込み、180度で1時間過熱攪拌した。その後、バイオマス原料の水素化物3 24部、BHT0.2部を加え、160度に降温し、エチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレート0.8部を加え、同温度を1時間保持し印刷インキ用ワニス6を得た。
【0070】
(印刷インキ用ワニス7~11の調製)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、バインダー樹脂2を40部、大豆サラダ油35部を仕込み、180度で1時間過熱攪拌した。その後、バイオマス原料の水素化物3 24部、BHT0.2部を加え、160度に降温し、エチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレート0.8部を加え、同温度を1時間保持し印刷インキ用ワニス7を得た。
バインダー樹脂2にかえて、バインダー樹脂3~6をそれぞれ用いた以外は同様にして、印刷インキ用ワニス8~11を得た。
【0071】
【0072】
【0073】
<印刷インキの調製>
(実施例1)
印刷インキ用ワニス1を60.0部とFASTGEN BlueFA5375(DIC(株)製)19.0部を、JIS K5701-1の練和度試験に記載の方法で測定した位置Aの溝の深さが7.5μm以下になるまで3本ロールミルを用いて練肉した後、バイオマス原料の水素化物1を15.0部、ドライヤーとしてオクチル酸コバルト溶液を1.0部、ワックスコンパウンドとしてCERIDUST8330(クラリアントジャパン(株)製)用いて実施例1の印刷インキを得た。
(実施例2~9)
用いたワニス、溶剤を表3に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして実施例2~8の印刷インキを得た。
【0074】
(比較例1~6)
用いたワニス、溶剤を表4に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして比較例1~6の印刷インキを得た。
(参考例1~3)
用いたワニス、溶剤を表4に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして参考例1~3の印刷インキを得た。
【0075】
なお、表3、4中における「植物油含有割合」は、インキの調製に用いられた溶剤に占める植物油及び植物油の脂肪酸エステルの割合を意味し、「水素化物含有割合」は、インキの調製に用いられた溶剤に占めるバイオマス原料の水素化物の割合を意味する。
【0076】
実施例、比較例で用いた溶剤は以下のようなものである。
(バイオマス原料の水素化物1)
バイオマス原料を水素化・異性化したもの。初留点:243℃、乾点:269℃、C15、C16のパラフィン系化合物。
(バイオマス原料の水素化物2)
バイオマス原料を水素化・異性化したもの。初留点:260℃、乾点:290℃、C15~C18のパラフィン系化合物。
(バイオマス原料の水素化物3)
バイオマス原料を水素化・異性化したもの。初留点:293℃、乾点:324℃、C17、C18のパラフィン系化合物。
(リニアレン168)
出光興産製、初留点:276℃、乾点:319℃、C16、C18のオレフィン系化合物。
(AFソルベント4号)
ENEOS製、初留点:242℃、乾点:261℃、ナフテン系化合物。
(AFソルベント6号)
ENEOS製、初留点:301℃、乾点:322℃、ナフテン系化合物。
(AFソルベント7号)
ENEOS製、初留点:263℃、乾点:282℃、ナフテン系化合物。
(TOENOL #4120)
当栄ケミカル製、大豆油脂肪酸n-ブチルエステル。
(大豆サラダ油)
日清オイリオグループ製、初留点:300℃以上、大豆サラダ油。
【0077】
<評価>
(セット性)
25℃に空調された室内において、JISK5701-1(平版インキ試験方法)4.4乾燥性に記載の装置を用い、展色用紙としてコート紙に印刷インキを展色し、展色面に当て紙として上質紙を重ね、上質紙にインキが付着しなくなるまでの時間を測定し、最もセットが早いものを1、最もセットが遅いものを10とし、10段階評価で判定した。結果を表3、4にまとめた。
【0078】
【0079】
【表4】
*)比較例3:印刷物の耐摩性が大きく劣り、実用性を伴わない
比較例5:練肉性が劣り、インキ化できない
【0080】
表3から明らかなように、本発明の印刷インキは石油系溶剤量を従来型の印刷インキよりも削減し、かわりにバイオマス由来の溶剤を用いた場合であっても、参考例1~3のような従来型の印刷インキと同等か、さらに優れたセット性を示した。
一方、比較例1、2の印刷インキは植物油の含有量が多すぎ比較例4の印刷インキはバイオマス原料の水素化物を含まず、比較例6の印刷インキはバインダー樹脂のトレランスが本発明の範囲外であるため、参考例1~3のような従来型の印刷インキよりもセット性が劣る結果となった。比較例3の印刷インキは優れたセット性を示したものの、印刷物の耐摩性が大きく劣り、実用性を伴わないものであった。また、比較例5の印刷インキは錬肉性が劣りインキ化できなかった。