(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088110
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】無線通信装置および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20240625BHJP
H04L 1/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H04L27/00 Z
H04L1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203120
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
【テーマコード(参考)】
5K014
【Fターム(参考)】
5K014FA11
(57)【要約】
【課題】温度変化による無線通信の影響を軽減することが可能な無線通信装置および無線通信方法を提供することを目的とする。
【解決手段】適応変調制御部219は、送信系温度測定部218から入力される送信系温度情報と、受信系温度測定部から入力される受信系温度情報と、推定C/N算出部から入力される推定C/N(伝搬路環境情報)と、RSSI検出部から入力されるRSSI値と、に応じてデジタル信号処理型変調器213で用いる変調多値数を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信装置であって、
受信した無線信号から伝搬路環境の品質を測定する品質測定手段と、
前記無線信号を送信する送信系の温度を測定する第1の温度測定手段と、
前記無線信号を受信する受信系の温度を測定する第2の温度測定手段と、
前記品質測定手段により測定された伝搬路環境の品質と、前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段により測定された温度とに基づいて、前記無線信号として送信されるデータの変調に用いられる変調多値数を設定する適応変調制御手段と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記適応変調制御手段は、前記変調多値数の設定に用いる前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段の測定温度として、測定された温度の高低と、前記測定された温度の単位時間あたりの変化量と、の少なくとも1つを用いる、ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記適応変調制御手段は、前記伝搬路環境の品質と、前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段により測定された温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが大きいほど前記変調多値数を小さい値に設定する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信方法であって、
受信した無線信号から伝搬路環境の品質を測定し、
前記無線信号を送信する送信系の温度と、前記無線信号を受信する受信系の温度とを測定し、
測定された伝搬路環境の品質と、測定された前記送信系および前記受信系の第1の温度とに基づいて、前記無線信号として送信されるデータの変調に用いられる変調多値数を設定する、
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データを変調した無線信号を複数の無線通信装置間で送受信する無線通信方式の1つとして、伝搬路環境の品質に応じてデータの変調に用いる変調多値数を変更する適応変調(ACM:Adaptive Modulation and Coding)方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。適応変調方式では、伝搬路環境の品質が高いときには変調多値数を大きくしてデータの伝送量を大きくし、伝搬路環境の品質が低下したときには変調多値数を小さくしてデータの伝送量を下げることにより、通信の安定化を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無線通信装置では、送信系および受信系の温度変化によって無線通信に影響が生じることが知られている。例えば、無線信号にマイクロ波やミリ波のような高い周波数を用いる場合、周波数変換のためのローカル信号が温度変動によって不安定になり、ローカル信号が瞬間的に周波数ジャンプを起こしてエラーが発生することがある。また、無線信号を増幅するパワーアンプの温度が高くなると、無線信号の線形ひずみが大きくなることがある。
【0005】
そこで本発明は、温度変化による無線通信の影響を軽減することが可能な無線通信装置および無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信装置であって、受信した無線信号から伝搬路環境の品質を測定する品質測定手段と、前記無線信号を送信する送信系の温度を測定する第1の温度測定手段と、前記無線信号を受信する受信系の温度を測定する第2の温度測定手段と、前記品質測定手段により測定された伝搬路環境の品質と、前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段により測定された温度とに基づいて、前記無線信号として送信されるデータの変調に用いられる変調多値数を設定する適応変調制御手段と、を備えることを特徴とする無線通信装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信装置において、前記適応変調制御手段は、前記変調多値数の設定に用いる前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段の測定温度として、測定された温度の高低と、前記測定された温度の単位時間あたりの変化量と、の少なくとも1つを用いる、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の無線通信装置において、前記適応変調制御手段は、前記伝搬路環境の品質と、前記第1の温度測定手段および前記第2の温度測定手段により測定された温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが大きいほど前記変調多値数を小さい値に設定する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信方法であって、受信した無線信号から伝搬路環境の品質を測定し、前記無線信号を送信する送信系の温度と、前記無線信号を受信する受信系の温度とを測定し、測定された伝搬路環境の品質と、測定された前記送信系および前記受信系の第1の温度とに基づいて、前記無線信号として送信されるデータの変調に用いられる変調多値数を設定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1および4に記載の発明によれば、伝搬路環境の品質だけでなく、送信系および受信系の測定温度をも考慮して変調多値数を設定するので、温度変化による無線通信の影響を軽減することができ、伝搬路環境や温度などの変化によって変動する通信状態をより安定化させることが可能である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明によれば、変調多値数の設定に用いる送信系および受信系の測定温度として、測定された温度の高低を用いるようにしたので、例えば、無線通信装置内のパワーアンプの温度上昇によって無線信号の線形ひずみが大きくなるような場合でも通信状態の安定化を図ることが可能である。また、測定された温度の単位時間あたりの変化量に応じて変調多値数を設定するので、周波数変換のためのローカル信号が温度変動によって不安定になり、ローカル信号が瞬間的に周波数ジャンプを起こしてエラーが発生するような場合でも通信状態の安定化を図ることが可能である。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、伝搬路環境の品質と、送信系および受信系の測定温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが大きいほど変調多値数を小さい値に設定するので、通信状態の悪化度合いに応じて適切な変調多値数を設定することができ、伝搬路環境や温度などの変化によって変動する通信状態をより安定化させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す無線通信装置の送信系の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1に示す送信系温度測定部により測定される温度の一例を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す無線通信装置の受信系の概略構成を示す機能ブロック図である。復調器において正常時係数を更新する状態を示す説明図である。
【
図5】
図1に示す適応変調制御部において変調多値数の設定に用いる変調多値数設定テーブルを示す図である。
【
図6】
図1に示す適応変調制御部による変調多値数の設定手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信装置2を用いた無線通信システム1の概略構成を示す図である。無線通信システム1を構成する無線通信の送受信局のそれぞれに、無線通信装置2およびアンテナ3が配置される。無線通信装置2同士は、アンテナ3を介して無線回線4によって相互に接続される。
【0016】
ここで、無線通信装置2は、送信用の機序と受信用の機序とを備えて送受信を行う装置であるところ、以下の説明では、送信用の機序を用いて送信に纏わる処理を行う場合の無線通信装置2のことを「送信側」と称し、受信用の機序を用いて受信に纏わる処理を行う場合の無線通信装置2のことを「受信側」と称する。また、以下の説明では、送信用の機序を用いて送信に纏わる処理を行う無線通信装置2の構成を「送信系」と称し、受信用の機序を用いて受信に纏わる処理を行う無線通信装置2の構成を「受信系」と称する。
【0017】
この実施の形態に係る無線通信装置2は、適応変調方式を用いて無線通信を行なう無線通信装置であって、受信した無線信号から伝搬路環境の品質を測定し、無線信号を送信する送信系の温度と、無線信号を受信する受信系の温度とを測定し、測定された伝搬路環境の品質と、測定された送信系および受信系の温度とに基づいて、無線信号として送信されるデータの変調に用いられる変調多値数を設定する、ようにしている。
【0018】
また、この実施の形態に係る無線通信装置2は、変調多値数の設定に用いる送信系および受信系の測定温度として、測定された温度の高低と、測定された温度の単位時間あたりの変化量と、の少なくとも1つを用いる、ようにしている。
【0019】
さらに、この実施の形態に係る無線通信装置2は、伝搬路環境の品質と、送信系および受信系の測定温度と、のいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが大きいほど変調多値数を小さい値に設定する、ようにしている。
【0020】
図2は、無線通信装置2の送信系21の概略構成を示す機能ブロック図である。送信系21は、マッピング部(図中ではMAPと表記)211と、ROF(Roll-Off Filter)212と、デジタル信号処理型変調器(図中ではDMODと表記)213と、DAC(Digital Analog Converter)214と、混合器215と、局部発振器216と、パワーアンプ217と、アンテナ3と、送信系温度測定部(第1の温度測定手段)218と、適応変調制御部(適応変調制御手段)219と、を備えている。送信系21は、後述する受信系22と相互に通信可能に接続されている。
【0021】
マッピング部211は、図示しないインターフェース部から出力された送信対象の伝送データのバイナリデータ列に対し、所定の信号点配置になるようにマッピング処理を施してシンボル列からなるデータフレームを生成して出力する。また、データフレームには、フレーム同期信号が挿入される。ROF212は、ロールオフフィルタの機能を備え、マッピング部211から出力されるデータフレームに帯域制限処理を施して出力する。
【0022】
デジタル信号処理型変調器213は、ROF212から出力されるデータフレームに所定の周波数の搬送波信号を重畳させてデジタル変調して出力する。なお、無線通信システム1において用いられる変調方式は、特定の方式に限定されるものではないものの、例えば直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)が用いられる。
【0023】
DAC214は、デジタル信号処理型変調器213から出力されるデジタル変調されたデータフレームの入力を受け、デジタル変調されたデータフレームをデジタル-アナログ変換して出力する。局部発振器216は、所定の固定周波数を持つ局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を混合器215へ出力する。混合器215は、DAC214にてアナログ信号に変換されたデータフレームを、前記所定の周波数よりも高周波の信号に変換する。
【0024】
パワーアンプ217は、混合器215にて周波数変換されたデータフレームを増幅する。アンテナ3は、パワーアンプ217にて増幅されたデータフレームを、無線回線4を介して他方の(言い換えると、この通信では受信側になる)無線通信装置2のアンテナ3へと、電波として送信する。
【0025】
送信系温度測定部218は、温度センサ218aと、温度モニタ218bとを備えている。温度センサ218aは、周波数変換のためにローカル信号が処理される混合器215および局部発振器216の周辺の温度と、パワーアンプ217の周辺の温度とを測定する。温度モニタ218bは、温度センサ218aにより測定された混合器215および局部発振器216の周辺の温度に基づいて、混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量を検出する。また、温度モニタ218bは、温度センサ218aにより測定された混合器215および局部発振器216の周辺の温度と、パワーアンプ217の周辺の温度と、検出した混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量とを、送信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。
【0026】
図3は、送信系温度測定部218の温度センサ218aにより測定された混合器215および局部発振器216の周辺の温度(°C)の変化の一例を示すグラフである。温度モニタ218bは、例えば、所定の時間間隔で混合器215および局部発振器216の周辺の温度をサンプリングして、送信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。また、温度モニタ218bは、混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量が、例えば、
図3にて示す枠D内のように、予め設定された閾値以上となったときに、その状態を検出して送信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。なお、単位時間あたりの温度の変化量は、高い温度から低い温度へと変化する際の変化量と、低い温度から高い温度へと変化する際の変化量とを含む。
【0027】
図4は、無線通信装置2の受信系22の概略構成を示す機能ブロック図である。受信系22は、プリアンプ221と、検波回路222と、局部発振器223と、パワーアンプ224と、ATT(attenuator)225と、ADC(Analog Digital Converter)226と、デジタル信号処理型復調器(図中ではDDEMと表記)227と、ROF(Roll-Off Filter)228と、シンボル判定部229と、デマッピング部(図中ではDe-MAPと表記)2210と、誤差計算部2211と、推定C/N算出部(品質測定手段)2212と、電力検出器2213と、LPF(Low Pass Filter)2214と、RSSI検出部(品質測定手段)2215と、受信系温度測定部(第2の温度測定手段)2216と、を備えている。
【0028】
受信系22は、他方の(言い換えると、この通信では送信側になる)無線通信装置2のアンテナ3から無線回線4を介してデータフレームが電波として送信されると、アンテナ3によりデータフレームを受信し、受信したデータフレームをアナログの電気信号へと変換してプリアンプ221へ出力する。
【0029】
プリアンプ221は、アンテナ3から出力されたデータフレームを増幅して出力する。局部発振器223は、所定の固定周波数を持つ局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を検波回路222へ出力する。検波回路222は、プリアンプ221にて増幅されたデータフレームを、前記高周波よりも低い周波数の信号に変換する。また、検波回路222は、データフレームに対して直交検波処理を施して位相が相互に直交する同相成分(Ich)のベースバンド信号と直交成分(Qch)のベースバンド信号とを生成する。なお、以降の説明では同相成分と直交成分とを特に区別することなくどちらにも共通する内容として説明し、また、図面では同相成分の信号と直交成分の信号とを1つの信号線で表す。
【0030】
パワーアンプ224は、検波回路222にて周波数変換および直交検波処理されたデータフレームを増幅する。ATT225は、減衰器を含み、パワーアンプ224から出力される信号を、外部からの信号に応じて減衰量を調整して減衰させて出力する。ATT225における減衰量は、LPF22147を介して供給される電力検出器2213による電力の検出結果に応じて所定の制御が行われて変化する。
【0031】
ADC226は、ATT225から出力される減衰処理後の信号(具体的には、同相成分(Ich)のベースバンド、 直交成分(Qch)のベースバンド信号)の入力を受け、前記信号(同相成分(Ich)のベースバンド、 直交成分(Qch)のベースバンド信号とのそれぞれ)に対してアナログ-デジタル変換処理を施して受信信号(同相成分、直交成分)を出力する。
【0032】
デジタル信号処理型復調器227は、ADC226から出力される受信信号(同相成分、直交成分) の入力を受け、前記受信信号に対して復調処理を施して復調信号(同相成分、直交成分)を出力する。ROF228は、ロールオフフィルタの機能を備え、デジタル信号処理型復調器227から出力される復調信号(同相成分、直交成分)に帯域制限処理を施して出力する。
【0033】
シンボル判定部229は、ROF228からの出力についてシンボル判定を行う。デマッピング部2210は、シンボル判定部229から出力される、シンボル列データからなる信号(同相成分と直交成分とのそれぞれ)に対してデマッピング処理(復号処理)を施し、シンボル列データをバイナリデータ列の伝送データに変換して出力する。
【0034】
誤差計算部2211は、シンボル判定部229から出力される信号について、理想シンボルと受信シンボルとの間の位相誤差を計算する機能を備える。誤差計算部2211は、具体的には減算器によって構成される。
【0035】
推定C/N算出部2212は、誤差計算部2211から出力される信号(すなわち、理想シンボルと受信シンボルとの間の位相誤差に相当する信号)の入力を受け、前記信号について推定C/N(搬送波対雑音比)を算出する。推定C/N算出部2212は、算出した推定C/Nを伝搬路環境の品質を示す伝搬路環境情報として、送信系21の適応変調制御部219へ出力する。
【0036】
電力検出器2213は、ROF228から出力される信号の電力を検出する。電力検出器2213の出力は、デジタル-アナログ変換処理が施されたうえで、LPF2214へと入力される。LPF2214は、電力検出器2213における検出電力のアナログ信号の入力を受け、前記検出電力のアナログ信号を平滑化したうえでATT225へ出力する。そして、ATT225は、LPF2214から出力される検出電力に応じて、パワーアンプ224から出力される信号の減衰量を調整する。
【0037】
RSSI検出部2215は、LPF2214から出力される信号(すなわち、電力検出器2213における検出電力に相当するアナログ信号) の入力を受け、前記信号について受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を検出する。RSSI検出部2215は、検出した受信信号強度を伝搬路環境の品質を示す伝搬路環境情報として、送信系21の適応変調制御部219へ出力する。
【0038】
受信系温度測定部2216は、温度センサ2216aと、温度モニタ2216bとを備えている。温度センサ2216aは、周波数変換のためにローカル信号が処理される検波回路222および局部発振器223の周辺の温度と、パワーアンプ224の周辺の温度とを測定する。温度モニタ2216bは、温度センサ2216aにより測定された検波回路222および局部発振器223の周辺の温度に基づいて、検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量を検出する。また、温度モニタ2216bは、温度センサ2216aにより測定された検波回路222および局部発振器223の周辺の温度と、パワーアンプ224の周辺の温度と、検出した検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量とを、受信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。
【0039】
なお、受信系温度測定部2216においても送信系温度測定部218と同様に、温度モニタ2216bは、
図3に示すような温度の変化を所定の時間間隔でサンプリングして、受信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。また、温度モニタ2116bは、測定した温度の単位時間あたりの変化量が、例えば、
図3にて示す枠D内のように、予め設定された閾値以上となったときに、その状態を検出して受信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。
【0040】
次に、送信系21の適応変調制御部219について説明する。適応変調制御部219は、デジタル信号処理型変調器213にてデータフレームにデジタル変調を施す際のパラメータ、具体的には、直交振幅変調の変調多値数の設定を行なう。適応変調制御部219は、伝搬路環境の品質などに応じて変調多値数を適応的に設定するものであり、より具体的には、送信系温度測定部218から入力される送信系温度情報と、受信系温度測定部2216から入力される受信系温度情報と、推定C/N算出部2212から入力される推定C/N(伝搬路環境情報)と、RSSI検出部2215から入力されるRSSI(伝搬路環境情報)と、に応じてデジタル信号処理型変調器213にて用いる変調多値数を、例えば4から4096までの範囲のうちのいくつかの変調多値数で段階的に設定する。
【0041】
適応変調制御部219は、送信系温度情報、受信系温度情報、推定C/Nおよび受信信号強度の組み合わせに対し、変調多値数が対応付けられた変調多値数設定テーブルを備えている。
図5は、変調多値数設定テーブル5の一例を示している。変調多値数設定テーブル5では、変調多値数として、例えば、16QAM、1024QAM、4096QAMの3段階の値が設定されている。また、各変調多値数に対して、推定C/Nの値と、RSSIの値と、送信系21の混合器215および局部発振器216の周辺の温度Tt1と、パワーアンプ217の周辺の温度Tt2と、混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量Dtと、受信系22の検波回路222および局部発振器223の周辺の温度Tr1と、パワーアンプ224の周辺の温度Tr2と、検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量Drとが対応付けられている。
【0042】
変調多値数設定テーブル5では、例えば、推定C/Nの値と、RSSIの値と、送信系21の混合器215および局部発振器216の周辺の温度Tt1と、パワーアンプ217の周辺の温度Tt2と、混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量Dtと、受信系22の検波回路222および局部発振器223の周辺の温度Tr1と、パワーアンプ224の周辺の温度Tr2と、検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量Drとが、それぞれ低、中および高の3段階にレベル分けされており、これらの各値の低、中および高の組み合わせに応じて変調多値数が設定されている。
【0043】
例えば、推定C/NおよびRSSI値が高く、送信系21および受信系22の温度Tt1、Tt2、Tr1およびTr2が中程度であり、送信系21および受信系22の温度の変化量DtおよびDrが小さいときには、伝搬路環境の品質および温度状態が良好であると判断して、変調多値数を大きな値、例えば4096QAMに設定されている。また、推定C/NおよびRSSI値のいずれかが低いとき、送信系21および受信系22の温度Tt1、Tt2、Tr1およびTr2のいずれかが高いとき、送信系21および受信系22の温度の変化量DtおよびDrのいずれかが大きいときには、伝搬路環境の品質が悪い、あるいは温度状態が悪いと判定して、変調多値数が小さな値、例えば16QAMに設定されている。すなわち、変調多値数設定テーブル5は、伝搬路環境の品質と、送信系21および受信系22の測定温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが高いほど変調多値数が小さくなるように設定されている。
【0044】
次に上記の実施の形態における変調多値数の設定の作用について、
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0045】
無線通信装置2の受信系22は、送信側の無線通信装置2から送信された無線信号を受信すると、伝搬路環境の品質を測定する(ステップS1)。具体的には、受信系22の推定C/N算出部2212は、誤差計算部2211から出力される信号の入力を受け、前記信号について推定C/Nを算出し、算出した推定C/Nを伝搬路環境の品質を示す伝搬路環境情報として、送信系21の適応変調制御部219へ出力する。また、受信系22のRSSI検出部2215は、LPF2214から出力される信号 の入力を受け、前記信号についてRSSI値を検出し、検出したRSSI値を伝搬路環境の品質を示す伝搬路環境情報として、送信系21の適応変調制御部219へ出力する。
【0046】
また、送信系21の送信系温度測定部218と、受信系22の受信系温度測定部2216は、それぞれ所定部分の温度を測定する(ステップS2)。
【0047】
具体的には、送信系温度測定部218は、温度センサ218aにより、混合器215および局部発振器216の周辺の温度と、パワーアンプ217の周辺の温度とを測定する。温度モニタ218bは、温度センサ218aにより測定された混合器215および局部発振器216の周辺の温度に基づいて、混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量を検出する。また、温度モニタ218bは、温度センサ218aにより測定された混合器215および局部発振器216の周辺の温度と、パワーアンプ217の周辺の温度と、検出した混合器215および局部発振器216の周辺の温度の単位時間あたりの変化量とを、送信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。
【0048】
受信系22の受信系温度測定部2216は、温度センサ2216aにより、検波回路222および局部発振器223の周辺の温度と、パワーアンプ224の周辺の温度とを測定する。温度モニタ2216bは、温度センサ2216aにより測定された検波回路222および局部発振器223の周辺の温度に基づいて、検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量を検出する。また、温度モニタ2216bは、温度センサ2216aにより測定された検波回路222および局部発振器223の周辺の温度と、パワーアンプ224の周辺の温度と、検出した検波回路222および局部発振器223の周辺の温度の単位時間あたりの変化量とを、受信系温度情報として適応変調制御部219へ出力する。
【0049】
送信系21の適応変調制御部219は、送信系温度測定部218から入力される送信系温度情報と、受信系温度測定部2216から入力される受信系温度情報と、推定C/N算出部2212から入力される推定C/N(伝搬路環境情報)と、RSSI検出部2215から入力されるRSSI(伝搬路環境情報)と、に応じてデジタル信号処理型変調器213で用いる変調多値数を設定する(ステップS3)。
【0050】
適応変調制御部219は、入力された送信系温度情報、受信系温度情報および伝搬路環境情報に基づいて変調多値数設定テーブル5を参照し、伝搬路環境の品質と、送信系21および受信系22の測定温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが高いほど変調多値数が小さくなるように変調多値数を設定する。以降、無線通信システム1により無線通信が行なわれている間、ステップS1~S3の処理が繰り返されて通信品質の安定化が図られる。
【0051】
以上で説明したように、本実施の形態に係る無線通信装置2によれば、伝搬路環境の品質だけでなく、送信系21および受信系22の測定温度をも考慮して変調多値数を設定するので、温度変化による無線通信の影響を軽減することができ、伝搬路環境や温度などの変化によって変動する通信状態をより安定化させることが可能である。
【0052】
また、本実施の形態に係る無線通信装置2によれば、変調多値数の設定に用いる送信系21および受信系22の測定温度として、測定された温度の高低を用いるようにしたので、例えば、無線通信装置2内のパワーアンプ217、224の温度上昇によって無線信号の線形ひずみが大きくなるような場合でも通信状態の安定化を図ることが可能である。また、測定された温度の単位時間あたりの変化量に応じて変調多値数を設定するので、周波数変換のためのローカル信号が温度変動によって不安定になり、ローカル信号が瞬間的に周波数ジャンプを起こしてエラーが発生するような場合でも通信状態の安定化を図ることが可能である。
【0053】
さらに、本実施の形態に係る無線通信装置2によれば、伝搬路環境の品質と、送信系21および受信系22の測定温度とのいずれかが最良な状態よりも悪化しているときには、その悪化しているレベルが大きいほど変調多値数を小さい値に設定するので、通信状態の悪化度合いに応じて適切な変調多値数を設定することができ、伝搬路環境や温度などの変化によって変動する通信状態をより安定化させることが可能である。
【0054】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0055】
例えば、上記の実施の形態では、設定される変調多値数として、16QAM、1024QAM、4096QAMの3段階の値を用いるようにしたが、変調多値数の値および段階数はこの一例に限定されるものではなく、無線通信装置2の諸元、性能などに応じて適宜任意の値に設定することが可能である。
【0056】
また、上記の実施の形態では、直交振幅変調(QAM)を行なう無線通信装置2を例にして説明したが、本発明は、4位相偏移変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)や、振幅位相偏移変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)を用いる無線通信装置にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 無線通信システム
2 無線通信装置
21 送信系
213 デジタル信号処理型変調器
215 混合器
216 局部発振器
217 パワーアンプ
218 送信系温度測定部(第1の温度測定手段)
219 適応変調制御部(適応変調制御手段)
22 受信系
222 検波回路
223 局部発振器
224 パワーアンプ
2212 推定C/N算出部(品質測定手段)
2215 RSSI検出部(品質測定手段)
2216 受信系温度測定部(第2の温度測定手段)