(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088111
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の検査方法及びこれを用いた製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240625BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240625BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240625BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240625BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/136
H01M4/133
G01R31/3842
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203121
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】原 瑠璃
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大和
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊也
【テーマコード(参考)】
2G216
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
2G216BB23
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ17
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5H029HJ19
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050GA28
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた場合であっても、短時間で電池の良否を高精度に判定できるリチウムイオン二次電池の検査方法を提供する。
【解決手段】正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池の検査方法であって、リチウムイオン二次電池の充電率をプラトー領域かつ、25~35%又は70~90%の範囲内に調節する充電率調節工程と、検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧以上に設定する電圧設定工程と、リチウムイオン二次電池と検査電源とを接続し回路を構築する回路構築工程と、回路に流れる漏れ電流の上昇が収束するまで漏れ電流を測定する漏れ電流測定工程と、収束した前記漏れ電流に基づいて前記リチウムイオン二次電池の良否を判定する判定工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び前記正極及び前記負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池の検査方法であって、
前記リチウムイオン二次電池の充電率をプラトー領域かつ、25~35%又は70~90%の範囲内に調節する充電率調節工程と、
検査電源の電圧を前記リチウムイオン二次電池の電圧以上に設定する電圧設定工程と、
前記リチウムイオン二次電池と前記検査電源とを接続し回路を構築する回路構築工程と、
前記回路に流れる漏れ電流が収束するまで前記漏れ電流を測定する漏れ電流測定工程と、
収束した前記漏れ電流に基づいて前記リチウムイオン二次電池の良否を判定する判定工程と、を備える、
リチウムイオン二次電池の検査方法。
【請求項2】
前記漏れ電流測定工程において、前記検査電源の電圧を時間の経過とともに上昇させる、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記充放電工程において、前記リチウムイオン電池の電圧をV、電池温度をTとしたとき、前記リチウムイオン二次電池の充電率をdV/dTが-0.05mV/℃以上0.05mV/℃以下となる充電率まで調節する請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び前記正極及び前記負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池を作製する作製工程と、
請求項1又は2に記載の検査方法を実施する検査工程と、を備える、
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はリチウムイオン二次電池の検査方法及びこれを用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は高出力・高容量を有しており、携帯電話やパソコン等の電源として広く用いられている。また、リチウムイオン二次電池は軽量で高エネルギー密度を有するため、ハイブリッド車や電気自動車等の車載用電源としても用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、製造工程において、外部から微小な金属異物が混入される場合がある。このような金属異物は内部短絡を引き起こす原因になるため、電池の良否判定に影響を与える。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の良否判定は、充電された電池を一定時間放置した後、放置前後の電圧降下量から判断していた。リチウムイオン二次電池は一定時間放置されると、自己放電により電圧が降下するが、電池内部に金属異物が混入されている場合、さらに電圧が降下する。従って、放置工程前後の電池の電圧降下量により電池の良否が判断可能である。しかしながら、このような放置工程を伴う従来の検査方法では、電池の良否判定に時間を要していた。
【0005】
特許文献1は、このような電池の良否判定時間を低減するために、次の検査方法を開示している。すなわち、特許文献1に記載の検査方法は、検査対象である蓄電デバイスに電源を接続して回路を構成し、回路に流れる電流IBにより蓄電デバイスの良否を判定する。また、同文献は、充電済みの蓄電デバイスと電源とにより回路を構成し、電源により回路に、蓄電デバイスを充電または放電する向きの電流IBを流す電流印加工程と、電流印加工程で回路に流れる電流IBの収束状況により蓄電デバイスの良否を判定する判定工程とを有し、電流印加工程では、電源の出力電圧VSを初期値から時間の経過とともに変化させていくことを開示している。
【0006】
このように特許文献1の検査方法は、電池と電源との間に流れる電流を測定しているため、良否判定時間が電圧降下量に基づくものよりも短くなる。また、電流測定であるため判定精度が高いことも特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質として、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が知られている。リン酸鉄リチウムは安全性が高いため、車載用のリチウムイオン二次電池に用いられることが期待されている。一方で、リン酸鉄リチウムはプラトー領域が広い。プラトー領域は電圧変化がほとんどないため、電圧降下量に基づいて電池の良否を判定することは困難である。また、プラトー領域以外の領域は電池の充電率の範囲が非常に狭いため、当該領域で良否判定を実施することは実用的ではない。
【0009】
そこで、本発明者らは、プラトー領域まで充電したリチウムイオン二次電池を、電池電圧と等しい電圧に調節した検査電源に接続し、回路に流れる漏れ電流を測定することで、電池の良否判定を実施することを検討した。上述の通り、プラトー領域は電圧変化がほとんどないが、自己放電により電圧は微小に変化する。この電圧の微小変化により、電池と検査電源との間に電位差が生じ、微弱な漏れ電流が回路に流れる。従って、本発明者らは、この微弱な漏れ電流に基づいて電池の良否判定が可能であると考えた。しかしながら、本発明者らは、検討を続けた結果、回路に流れる漏れ電流が電池温度の影響を受け、これにより良否判定の精度低下や長時間化が生じる場合があるという新たな課題に突き当たった。
【0010】
そこで、本開示の目的は、上記実情を鑑み、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた場合であっても、短時間で電池の良否を高精度に判定できるリチウムイオン二次電池の検査方法及びこれを用いた製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、上記課題を解決するための一つの態様として、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池の検査方法であって、リチウムイオン二次電池の充電率をプラトー領域かつ、25~35%又は70~90%の範囲内に調節する充電率調節工程と、検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧以上に設定する電圧設定工程と、リチウムイオン二次電池と検査電源とを接続し回路を構築する回路構築工程と、回路に流れる漏れ電流が収束するまで漏れ電流を測定する漏れ電流測定工程と、収束した漏れ電流に基づいてリチウムイオン二次電池の良否を判定する判定工程と、を備える、リチウムイオン二次電池の検査方法を提供する。
【0012】
上記漏れ電流測定工程において、検査電源の電圧を時間の経過とともに上昇させてもよい。
【0013】
上記充放電工程において、リチウムイオン電池の電圧をV、電池温度をTとしたとき、リチウムイオン二次電池の充電率をdV/dTが-0.05mV/℃以上0.05mV/℃以下となる充電率まで調節してよい。
【0014】
本開示は、上記課題を解決するための一つの態様として、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池を作製する作製工程と、上記検査方法を実施する検査工程と、を備える、リチウムイオン二次電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本開示のリチウムイオン二次電池の検査方法によれば、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた場合であっても、電池の良否判定を短時間で高精度に実施することができる。
【0016】
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、電池の良否判定を短時間で高精度に実施することができるので、不良品が出荷されることを抑制するともに、製造期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】第1実施形態で用いられる典型例なモデル回路である。
【
図3】仮想抵抗Rimを導入したモデル回路である。
【
図5】電圧と│dV/dQ│との関係を示した図である(電圧:V、容量Q)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(A)リチウムイオン二次電池の検査方法
本開示のリチウムイオン二次電池の検査方法について、各実施形態を用いて説明する。
【0019】
[第1実施形態]
第1実施形態は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池の検査方法であって、リチウムイオン二次電池の充電率をプラトー領域かつ、25~35%又は70~90%の範囲内に調節する充電率調節工程S1と、検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧と等しい電圧に設定する電圧設定工程S2と、リチウムイオン二次電池と検査電源とを接続し回路を構築する回路構築工程S3と、電圧設定工程S2及び回路構築工程S3後、リチウムイオン二次電池から流れる漏れ電流が収束するまで漏れ電流を測定する漏れ電流測定工程S4と、漏れ電流の収束状況によりリチウムイオン二次電池の良否を判定する判定工程S5と、を備える。
図1に第1実施形態のフローチャートを示した。
【0020】
<リチウムイオン二次電池>
第1実施形態は、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池を対象としている。
【0021】
第1実施形態で用いられるリチウムイオン二次電池は非水電解質リチウムイオン二次電池でもよく、全固体リチウムイオン二次電池でもよい。また、第1実施形態で用いられるリチウムイオン二次電池は積層型リチウムイオン二次電池でもよく、捲回型リチウムイオン二次電池でもよい。さらに、リチウムイオン電池はバイポーラ型でもよい。加えて、第1実施形態で用いられるリチウムイオン二次電池は正極、負極、及び電解質層を複数備えていてもよい。以下では、一例として非水電解質を用いたリチウムイオン二次電池の各構成について説明する。
【0022】
(正極)
正極は、正極集電体と、該正極集電体の片面または両面に形成された正極活物質層とを備える。
【0023】
正極集電体はシート状の導電部材である。正極集電体の材料としては、例えばステンレス、鉄、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属箔が挙げられる。金属箔はこれらの金属を2種以上含む合金からなっていてもよい。また、金属箔は所定のメッキ等の表面処理が施されていてもよい。正極集電体は、複数の金属箔からなっていてもよい。この場合、金属箔は接着剤等で接合されてもよく、プレス等によって接合されてもよい。正極集電体の形状は特に限定されないが、例えば略矩形状でよい。正極集電体の厚みは特に限定されないが、例えば1μm~1mmである。
【0024】
正極活物質層は正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む。正極活物質層は正極活物質としてリン酸鉄リチウムのみを含んでいてもよいが、リン酸鉄リチウム以外の正極活物質を含んでいてもよい。ただし、正極活物質全量を基準としたとき、リン酸鉄リチウムの割合を80重量%以上とする。リン酸鉄リチウム以外の正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質が挙げられる。例えば、層状構造やスピネル構造等のリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等)が挙げられる。
【0025】
正極活物質層は導電助材やバインダを任意で含み得る。導電助材としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR);カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0026】
正極活物質層の形状は特に限定されず、略矩形状でよい。正極活物質層の厚みは特に限定されず、例えば1μm~1mmの範囲である。正極活物質層の面積は、負極活物質層よりも小さくしてよい。正極活物質層における各材料の含有量は特に限定されず、目的の電池性能に応じて適宜設定してよい。なお、正極活物質層は上記した材料以外の材料を含んでもよい。
【0027】
(負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体の片面または両面に形成された負極活物質層とを備える。
【0028】
負極集電体はシート状の導電部材である。負極集電体の材料としては、例えばステンレス、鉄、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属箔が挙げられる。金属箔はこれらの金属を2種以上含む合金からなっていてもよい。また、金属箔は所定のメッキ等の表面処理が施されていてもよい。負極集電体は、複数の金属箔からなっていてもよい。この場合、金属箔は接着剤等で接合されてもよく、プレス等によって接合されてもよい。負極集電体の形状は特に限定されないが、例えば略矩形状でよい。負極集電体の厚みは特に限定されないが、例えば1μm~1mmである。
【0029】
負極活物質層は負極活物質として炭素材料を含む。炭素材料としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛(人工黒鉛)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。負極活物質層は負極活物質として炭素材料のみを含んでいてもよいが、炭素材料以外の負極活物質を含んでいてもよい。ただし、負極活物質全量を基準としたとき、炭素材料の割合を80重量%以上とする。炭素材料以外の負極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極活物質が挙げられる。例えばリチウム遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12等のリチウムチタン複合酸化物)、シリコン、及びスズが挙げられる。
【0030】
負極活物質層はバインダを任意で含み得る。バインダとしては、正極活物質層に適用可能なバインダが挙げられる。
【0031】
(電解質層)
電解質層はセパレータ及び非水電解質を含む。
【0032】
セパレータとしては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造であってもよい。セパレータの厚みは特に限定されないが、正極と負極との絶縁性を確保する観点から、10μm~1mmとしてよい。
【0033】
非水電解質は非水溶媒と支持塩を含む。非水溶媒としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。例えば、各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒が挙げられる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。支持塩は、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の支持塩を用いることができる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6等のリチウム塩が挙げられる。また、非水電解質中の支持塩の濃度は特に限定されないが、例えば0.5mol/L~1.5mol/Lとしてよい。
【0034】
(リチウムイオン二次電池の作製方法)
このようなリチウムイオン二次電池は公知の方法により作製することができる。以下に、リチウムイオン二次電池の作製方法の一例を説明する。
【0035】
まず、負極活物質層を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーを得た後、当該スラリーを負極集電体の片面または両面に塗布し、乾燥することで、負極を得ることができる。あるいは、負極活物質層を構成する材料を乳鉢等で混合し、プレスすることで負極活物質層を得、これを負極集電体の片面または両面に配置し、さらにプレスすることで、負極を得ることができる。これらと同様の方法を用いて、正極を得ることができる。そして、得られた正極及び負極を用いて、セパレータを介してこれらを積層することにより、電極体が得られる。得られた電極体は、例えば扁平状に捲回してもよい。そして、電極体を非水電解質と共に外装体(電池ケース)に収容し、外装体に備えられた各端子(正極端子及び負極端子)を各集電体(正極集電体及び負極集電体)に接続することでリチウムイオン二次電池が得られる。
【0036】
(リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の特性と問題点)
上述した通り、第1実施形態は正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン二次電池を採用している。このような電池は、プラトー領域が広いことが知られている。プラトー領域とは、電池の容量Q又は充電率(SOC:State Of Charge)と電圧Vとの関係において、電圧がほとんど変化しない領域である。具体的には、プラトー領域とは、│dV/dQ│が0.005V/mAh以下である領域である。プラトー領域の広さは電池の構成により変化するが、一例として充電率が7~99%の範囲の領域が挙げられる。
【0037】
このように、リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン二次電池は広いプラトー領域を有しており、当該プラトー領域では電圧がほとんど変化しないため、従来のようにリチウムイオン二次電池を一定時間放置し、放置前後の電圧降下に基づいて電池の良否を判断することは困難であった。
【0038】
そこで、本発明者らは、プラトー領域まで充電したリチウムイオン二次電池を、電池電圧と等しい電圧に調整した検査電源に接続し、電池電圧の降下によって回路に流れる漏れ電流を測定することで、電池の良否判定を実施することを検討した。上述の通り、プラトー領域は電圧変化がほとんどないが、自己放電により電圧は微小に変化する。この電圧の微小変化により、電池と検査電源との間に電位差が生じ、微弱な漏れ電流が回路に流れる。従って、本発明者らは、この微弱な漏れ電流に基づいて電池の良否判定が可能であると考えた。しかしながら、本発明者らは、検討を続けた結果、回路に流れる漏れ電流が電池温度の影響を受け、これにより良否判定の精度低下や長時間化が生じる場合があるという新たな課題に突き当たった。
【0039】
当該課題を解決するために、第1実施形態では、電池をプラトー領域かつ、温度感度の鈍い充電率まで調整されたリチウムイオン二次電池を用いて、漏れ電流測定を実施することとした。以下、第1実施形態の各工程について説明する。
【0040】
なお、リチウムイオン二次電池の充電率はプラトー領域かつ温度感度の鈍い充電率に調節されるが、環境温度が極端に低かったり、あるいは高かったりすると、良否判定が適切に実施できない。そこで、第1実施形態の各工程は常温(5℃~35℃)で実施する。温度による影響をより抑制する観点から、空調等を調節し、環境温度を一定としてよい。
【0041】
<充電率調節工程S1>
充放電工程S1は、リチウムイオン二次電池の充電率をプラトー領域かつ、25~35%又は70~90%の範囲内に調節する工程である。「調節」とは充電又は放電を意味する。本発明者らによれば、電池の充電率が25~35%又は70~90%の範囲内にある場合、温度変化による電圧変化が抑制される結果、漏れ電流の収束が安定する。すなわち、漏れ電流の温度感度が鈍くなる。これにより、漏れ電流に基づく電池の良否判定を短時間で高精度に実施することができる。
【0042】
充放電工程S1において、リチウムイオン二次電池の電圧をV、温度をTとしたとき、リチウムイオン二次電池をdV/dTが-0.05mV/℃以上0.05mV/℃以下となる充電率まで調節してもよい。これにより、漏れ電流の温度感度がより鈍い充電率に設定することができる。リチウムイオン二次電池の温度Tは環境温度を調節することで調節することができる。
【0043】
充電率調節工程S1は、作製直後のリチウムイオン二次電池を用いる場合、典型的には電池を充電する。中古品等の使用済みのリチウムイオン二次電池を用いる場合、典型的には電池を充電又は放電し、目的の充電率に調節する。
【0044】
<電圧設定工程S2>
電圧設定工程S2は、検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧と等しい電圧に設定する工程である。リチウムイオン二次電池の電圧は、予め測定しておく必要がある。
【0045】
<回路構築工程S3>
回路構築工程S3は、リチウムイオン二次電池と検査電源とを接続し回路を構築する工程である。典型的には、回路構築工程S2はリチウムイオン電池に自己放電測定装置を接続することで実施できる。自己放電測定装置は、例えばキーサイト・テクノロジー株式会社製の自己放電測定装置(BT2152A、BT2152B)等が挙げられる。
【0046】
電圧設定工程S2及び回路構築工程S3は充電率調節工程S1後に実施されるものであり、これらの順序は任意である。すなわち、電圧設定工程S2の後、回路構築工程S3を実施してもよく、回路構築工程S3後、電圧設定工程S2を実施してもよい。
図1では、電圧設定工程S2の後、回路構築工程S3を実施する場合を示している。
【0047】
<漏れ電流測定工程S4>
漏れ電流測定工程S4は、電圧設定工程S2及び電圧設定工程S3後に実施され、回路に流れる漏れ電流が収束するまで漏れ電流を測定する工程である。リチウムイオン二次電池は一定時間放置されると、自己放電によってその電圧が降下する。そうすると、検査電源とリチウムイオン二次電池との間で電位差が生じ、回路内に漏れ電流が流れる。そして、電池の電圧降下が収束したとき、漏れ電流の上昇も収束する。漏れ電流測定工程S4は、少なくとも漏れ電流の上昇が収束するまで漏れ電流を測定する。
【0048】
<判定工程S5>
判定工程S5は、漏れ電流測定工程S4後に実施され、収束した漏れ電流に基づいてリチウムイオン二次電池の良否を判定する工程である。上述した通り、リチウムイオン二次電池は一定時間放置されると、自己放電によりその電圧が降下する。この際、リチウムイオン二次電池の内部に金属異物が混入されていると、電圧降下量が大きくなり、これに伴って漏れ電流の値も大きくなる。従って、収束した漏れ電流の値に基づいて、電池の良否を判定可能である。電池の良否の基準となる電流値(基準値)は、目的とする電池性能等に応じで適宜設定してよい。
【0049】
<モデル回路を用いた電池の良否判定のメカニズム>
以下、第1実施形態について典型例なモデル回路を用いてさらに説明する。ただし、第1実施形態において構築される回路はこれに限定されず、自己放電測定装置の構成に応じて適宜設定してよい。
【0050】
図2に第1実施形態で用いられる典型例なモデル回路を示した。
図2に示した通り、リチウムイオンリチウムイオン二次電池10は正極端子11及び負極端子12を備えている。また、
図2のリチウムイオン電池10は起電要素Eと、内部抵抗Rsと、短絡抵抗Rpとにより構成されるモデルとして表されている。内部抵抗Rsは、起電要素Eに直列に配置されている。短絡抵抗Rpは、電極体20中に侵入していることがある微小な金属異物による導電経路をモデル化したものであり、起電要素Eに並列に配置されている。
【0051】
検査電源20は、直流電源21と、電流計22と、電圧計23と、プローブ24、25とを有している。直流電源21に対して、電流計22は直列に配置され、電圧計23は並列に配置されている。直流電源21の出力電圧VSは可変である。直流電源21は、リチウムイオンリチウムイオン二次電池10に出力電圧VSを印加するために使用される。電流計22は、回路30に流れる電流を計測するものである。電圧計23は、プローブ24、25間の電圧を計測するものである。
図2では、検査電源20のプローブ24、25をリチウムイオンリチウムイオン二次電池10の正極端子11及び負極端子12に結合させて回路30を構成させている。
【0052】
図2に示した通り、回路30には寄生抵抗Rxが存在する。寄生抵抗Rxには、検査電源20の各部の導線抵抗の他にプローブ24、25と正極端子11及び負極端子12との間の接触抵抗が含まれる。なお、回路30において寄生抵抗Rxはあたかもプローブ24側の導線のみに存在するかのように描いているが、これは単なる描画の便宜上のことである。実際には寄生抵抗Rxは、回路30の全体にわたって存在している。
【0053】
上記で説明したモデル回路を用いて、リチウムイオン二次電池10の良否判定の実施について説明する。
【0054】
まず、前処理として、リチウムイオン二次電池10の充電率を温度感度の鈍い所定の充電率に調整する(充電率調節工程S1)。これにより、電池温度(環境温度)による影響を抑制し、良否判定を短時間で高精度に実施することができる。
【0055】
次に、リチウムイオン二次電池10の電池電圧VBを測定し、検査電源20の出力電圧VSを電池電圧VBと等しい電圧に調整した後(電圧調整工程S2)、リチウムイオン二次電池10を検査電源20に接続して回路30を構築する(回路構築工程S3)。回路構築直後の状態では、出力電圧VSが電池電圧VBと等しいため、電位差が生じず、回路30に流れる漏れ電流IBはゼロとなる。そして、この状態でリチウムイオン二次電池10を一定時間放置すると、リチウムイオン二次電池10の自己放電により電池電圧VBが降下し、これにより出力電圧VSとの間に電位差が生まれ、回路30に漏れ電流IBが流れる。そして、電池の自己放電が飽和すると電池電圧VBの降下が収束し、漏れ電流IBの上昇も収束する(漏れ電流測定工程S4)。
【0056】
漏れ電流IBの上昇の収束についてさらに説明する。まず、電池電圧VBが低下する理由は上述の通り、リチウムイオン二次電池10の自己放電である。自己放電により、リチウムイオン二次電池10の起電要素Eには自己放電電流IDが流れることになる。自己放電電流IDは、リチウムイオン二次電池10の自己放電量が多ければ大きく、自己放電量が少なければ小さい。一方、電池電圧VBの低下により流れる漏れ電流IBは、リチウムイオン二次電池10を充電する向きの電流である。つまり漏れ電流IBは、リチウムイオン二次電池10の自己放電を抑制する方向に作用し、リチウムイオン二次電池10の内部において自己放電電流IDと逆向きである。そして、漏れ電流IBが上昇して自己放電電流IDと同じ大きさになると、実質的に自己放電が停止する。これが漏れ電流IBの上昇が収束する理由である。
【0057】
ここで、電池内部に混入された微小な金属異物に応じて短絡抵抗Rpの値が変化する。短絡抵抗Rpの値が小さいリチウムイオン二次電池10では、電圧降下量が大きく、自己放電電流IDも大きい傾向がある。従って、このようなリチウムイオン二次電池10は収束後の漏れ電流IBが大きくなる傾向にある。
【0058】
最後に、収束した漏れ電流IBに基づいてリチウムイオン二次電池10の良否を判定する(判定工程S5)。漏れ電流IBが収束したか否かは、既知の手法で判定すればよい。例えば、漏れ電流IBの値を適当な頻度でサンプリングして、値の変化があらかじめ定めた基準より小さくなったときに収束したと判定すればよい。また、電池の良否に関しては、収束後の漏れ電流IBが基準値を超えるか否かを判定することで実施できる。
【0059】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態の漏れ電流測定工程S4において、検査電源の電圧を時間の経過とともに上昇させることを特徴とする。これにより、漏れ電流の上昇が収束するまで時間を短縮することができる。すなわち、漏れ電流測定工程の時間を短縮することができる。以下、第2実施形態について詳しく説明する。
【0060】
図2に示したモデル回路における漏れ電流IBは、出力電圧VS、電池電圧VB、及び寄生抵抗Rxを用いて、次の(1)式で示すことができる。
IB=(VS-VB)/Rx・・・(1)
【0061】
第1実施形態のように出力電圧VSを一定とすると、リチウムイオン二次電池10の自己放電に伴う電池電圧VBの低下により、漏れ電流IBが増加していく。漏れ電流IBが増加して自己放電電流IDと等しい大きさになると、リチウムイオン二次電池10の放電が実質的に停止する。これにより、電池電圧VB、漏れ電流IBとも以後一定となる。つまり、収束後の漏れ電流IBがリチウムイオン二次電池10の起電要素Eの自己放電電流IDを示している。
【0062】
第2実施形態では、測定開始後に出力電圧VSを上昇させて行く。この場合でも(1)式が成り立つ。出力電圧VSが上昇する分、出力電圧VSが一定である場合よりも、漏れ電流IBの増加が速くなる。このため、漏れ電流IBが自己放電電流IDと同じになるまでの所要時間が短くなる。これが、漏れ電流IBが早期に収束する理由である。ただし、出力電圧VSを上昇させすぎると漏れ電流IBが適切に収束せず、良否判定が困難になる。そのため、出力電圧VSの上昇の程度を制限する必要がある。具体的には、(1)式において、あたかも寄生抵抗Rxが小さくなったかのように見える範囲内で出力電圧VSを上昇させることである。寄生抵抗Rxが小さくなればその分漏れ電流IBが大きくなるからである。
【0063】
そこで、第2実施形態では仮想抵抗Rimという概念を導入する。
図3に仮想抵抗Rimを導入したモデル回路を示した。仮想抵抗Rimは、負またはゼロの抵抗値を持つ仮想的な抵抗である。
図3のモデル回路では仮想抵抗Rimが寄生抵抗Rxと直列に挿入されている。ただし、上述した通り、実際にこのような抵抗は存在しない。出力電圧VSが上昇していく状況を、出力電圧VSを一定とし、代わりに仮想抵抗Rimの抵抗値の絶対値が上昇していくモデルで置き替えて考察するものである。ここで、寄生抵抗Rxと仮想抵抗Rimとの合計は正である必要がある(Rx+Rim>0)。仮想抵抗Rimを導入したモデル回路における漏れ電流IBは、次の(2)式のように表される。なお、以下において、寄生抵抗Rxと仮想抵抗Rimとの合計を疑似寄生抵抗Ryということがある。
IB=(VS-VB)/(Rx+Rim)・・・(2)
【0064】
(2)式について、さらに説明する。例えば、寄生抵抗Rxが5Ωであったとする。すると、仮想抵抗Rimが0Ωの場合と-4Ωの場合とでは、漏れ電流IBが大きく異なる。すなわち、仮想抵抗Rimが0Ωの場合(測定開始時に相当)の漏れ電流IBに対して、-4Ωの場合(測定開始後に相当)の漏れ電流IBは(2)式より5倍となる。疑似寄生抵抗Ry(=Rx+Rim)が5分の1になっているからである。
【0065】
ここで、(2)式を次の(3)式に変形する。
VS=VB+(Rx+Rim)*IB・・・(3)
【0066】
(3)式は、疑似寄生抵抗Ry(=Rx+Rim)と漏れ電流IBとの積を電池電圧VBに加えると出力電圧VSになることを示している。疑似寄生抵抗Ryのうち仮想抵抗Rimは前述のように実際には存在しないので、出力電圧VSを、電池電圧VBに寄生抵抗Rxと漏れ電流IBとの積を加えた電圧まで上げることで(3)式を成り立たせることができる。つまり、出力電圧VSを上昇させた分を漏れ電流IBで割った値が、仮想抵抗Rimの絶対値に相当する。
【0067】
第2実施形態では、上述の通り、出力電圧VSを電池電圧VBに一致させて測定を開始する。そして、所定の頻度でその時点での漏れ電流IBに合わせて、(3)式により出力電圧VSを上昇させる。出力電圧VSを上昇させると、さらに漏れ電流IBが上昇する(式(1)参照)。このように、第2実施形態では、漏れ電流IBの増加を促進することができるため、漏れ電流IBの上昇が収束するまで時間を短縮することができる。ここで、出力電圧VSを上昇させる頻度は特に限定されない。例えば1秒当たり1回程度としてよい。ただし、その頻度は一定としなくてよい。
【0068】
漏れ電流IBの増加分に対する出力電圧VSの上昇幅は、上記からすれば寄生抵抗Rxと漏れ電流IBとの積である。すなわち出力電圧VSの上昇幅をΔVSで表せば、上昇幅ΔVSは次の(4)式で与えられる。
ΔVS=Rx*IB・・・(4)
【0069】
しかしこれに限らず、(4)式の積に対して1未満の正の係数Kを掛けた値としてもよい。係数Kの具体的な値は、上記の範囲内で任意であり、あらかじめ定めておけばよい。すなわち、上昇幅ΔVSを次の(5)式で計算してもよい。
ΔVS=K*Rx*IB・・・(5)
【0070】
なお、この係数Kと寄生抵抗Rxとの積をあらかじめ定数Mとして求めておき、この定数Mを漏れ電流IBに掛けることで出力電圧VSの上昇幅ΔVSを計算してもよい。このようにする場合には、検査の途中での出力電圧VSは、次の(6)式で算出されることになる。
VS=VB+M*IB・・・(6)
【0071】
漏れ電流IBの増加を早期に収束させるという観点からすれば、(4)式の積をそのまま出力電圧VSの上昇幅とするのが最も効果的である。しかしそれでは、寄生抵抗Rxの値の精度その他の理由により、前述の疑似寄生抵抗Ryがマイナスになってしまう事態もありうる。この場合、漏れ電流IBの変化が発散してしまい、適切に漏れ電流を測定ができない虞がある。そこで上記のように係数を掛けることで、発散のリスクを回避することができる。
【0072】
ここで、実際にこの方法で測定を行うためには、寄生抵抗Rxの値を知っておく必要がある。寄生抵抗Rxのうちプローブ24、25と端子11、12との間の接触抵抗は回路30毎に異なるものである。しかし、例えば次のようにして、接触抵抗を含んだ寄生抵抗Rxを測定することができる。
図2のモデル回路において、検査電源20の出力電圧VSをオフにして、検査電源20の両端子間を既知の抵抗を介して接続した状態と、その接続を断った状態との2通りの状態での電圧計23の読み値を測定する。すると、既知の抵抗の抵抗値と、電圧計23の2通りの読み値とに基づき、寄生抵抗Rxを算出することができる。
【0073】
以上の通り、第2実施形態では、漏れ電流IBの値を出力電圧VSにフィードバックしつつ、出力電圧VSを上昇させていくことで、漏れ電流IBの増加を早期に収束させることができる。
【0074】
[第3実施形態]
第1実施形態及び第2実施形態では、電圧設定工程S2において検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧と等しい電圧に設定していた。これに対し、第3実施形態は検査電源の電圧はリチウムイオン二次電池の電圧よりも大きい電圧に設定することを特徴とする。これにより、漏れ電流測定工程S4の時間を短縮することができる。以下、第3実施形態について詳しく説明する。なお、第1実施形態~第3実施形態を合わせると、電圧設定工程S2は検査電源の電圧をリチウムイオン二次電池の電圧以上に設定してよいことになる。
【0075】
まず、
図2のモデル回路の短絡抵抗Rpについて考察する。上述した通り、短絡抵抗Rpのモデルは電池内部に混入された微小金属異物であるが、微小金属異物が全く存在しない良品の電池であってもわずかなに自己放電が生じる。そのため、リチウムイオン二次電池10に生じる自己放電は、良品の場合でも存在する自己放電と、微小金属異物による自己放電との合計である。つまり、良品の場合でも存在する自己放電経路の抵抗を自然短絡抵抗Rp0とし、微小金属異物による導電経路の抵抗を異物短絡抵抗Rp1とすると、短絡抵抗Rpは自然短絡抵抗Rp0と異物短絡抵抗Rp1との並列合成となる。従って、リチウムイオン二次電池10には、電池電圧VBと自然短絡抵抗Rp0とにより定まる自己放電電流が良品の場合でも生じる。不良品のリチウムイオン二次電池10の場合には、異物短絡抵抗Rp1に基づいて、さらに多くの自己放電電流が生じる。
【0076】
よって、
図2のモデル回路において、出力電圧VSを自然短絡抵抗Rp0に基づく自己放電電流を打ち消すように定めれば、良品では自己放電電流が流れず、電池電圧VBが一定のままとなる。この場合には漏れ電流IBが変化せず一定となる。すなわち、漏れ電流IBは上昇せずに収束する。一方、出力電圧VSをそのように定めた場合でも、リチウムイオン二次電池10が不良品であれば、異物短絡抵抗Rp1に基づく自己放電電流も流れるため、電池電圧VBが低下していく。この場合、自己放電電流は増加していく。このような原理を用いれば、出力電圧VSを電池電圧VBに一致させる場合と比較して、短時間で漏れ電流の収束を判定することができる。
【0077】
上述の原理に基づく出力電圧VSの定め方を説明する。まず、良品の場合の自己放電電流ID0は、次の(7)式で与えられる。
ID0=VB/Rp0・・・(7)
【0078】
これを打ち消すためには、(1)式で与えられる回路電流IBが(7)式の自己放電電流ID0と一致すればよい。よって(8)式が成り立つ。
(VS-VB)/Rx=VB/Rp0・・・(8)
【0079】
(8)式を出力電圧VSについて解いた形に変形すると、(9)式が得られる。
VS=VB*{1+(Rx/Rp0)}・・・(9)
【0080】
ここで自然短絡抵抗Rp0は、リチウムイオン二次電池10の設計によってほぼ決定される。よって自然短絡抵抗Rp0は、リチウムイオン二次電池10の仕様による既知値として扱うことができる。上述した通り寄生抵抗Rxも既知値であるので、(9)式の右辺は既知値のみで構成されることになる。従って、測定開始時の出力電圧VSは容易に決定することができる。このようにして定めた出力電圧VSは、(9)式によれば、電池電圧VBよりも、「VB*(Rx/Rp0)」の分だけ高い電圧となる。
【0081】
ここで、(7)式によれば、自己放電電流ID0は良品のリチウムイオン二次電池10における初期の自己放電電流である。これを標準自己放電電流IDIとすると、これを用いて(8)式を次の(10)式のように表すことができる。標準自己放電電流IDIは、設計値である自然短絡抵抗Rp0と測定開始時の電池電圧VB、寄生抵抗Rxとで定まるので、(9)式により測定開始時の出力電圧VSを算出することができる。
VS=VB+(IDI*Rx)・・・(10)
【0082】
そして、電池電圧VBよりも高い出力電圧VSを用いたとき、もし測定開始後も漏れ電流IBが上昇せずにそのまま収束したとすれば、リチウムイオン二次電池10が良品であると判断できる(初期電流値=電流収束値。ただし、実際には電流収束値は必ずしも初期電流値と一致しない。そのため、初期電流値≒電流収束値と表現することもできる。)。一方で、測定開始後に漏れ電流IBが上昇した場合には、リチウムイオン二次電池10が不良品であると判断できる(初期電流値<電流収束値)。
【0083】
例外的に、初期電流値>電流収束値となる場合もある。測定される電流値が微弱であるため、温度による影響や測定誤差等により起こりえる。この場合であっても、いずれ電流は収束する。ただし、初期電流値が大きすぎる場合、例えば初期電流値が電流収束値の2倍以上である場合、収束が遅くなるか、収束しない虞がある。
【0084】
ここで、測定開始後に漏れ電流IBが上昇した場合、第2実施形態と同様に、出力電圧VSを時間の経過とともに上昇させてもよい。これにより、漏れ電流IBを早期に収束させることができる。
【0085】
また、良品であるか不良品であるかを容易に判断するために、漏れ電流IBの上昇幅について3~5μA程度の判定値を設定してもよい。そして、測定開始後における漏れ電流IBの上昇幅が判定値以上となるか否かならないかを判定することで、良品であるか不良品であるかの判定をすることができる。判定時点としては、例えば、測定開始後20~30分程度を設定しておけばよい。
【0086】
以上より、第1~第3実施形態を用いて、本開示のリチウムイオン二次電池の検査方法について説明した。本開示のリチウムイオン二次電池の検査方法によれば、温度感度の鈍い充電率正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた場合であっても、電池の良否判定を短時間で高精度に実施することができる。
【0087】
(B)リチウムイオン二次電池の製造方法
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は次の通りである。すなわち、リチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極、負極活物質として炭素材料を含む負極、及び正極及び負極の間に配置された電解質層を備えたリチウムイオン二次電池を作製する作製工程と、上記の検査方法を実施する検査工程と、を備える。作製工程及び検査工程は上述したため、ここでは説明を省略する。
【0088】
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法によれば、電池の良否判定を短時間で高精度に実施することができるので、不良品が出荷されることを抑制するともに、製造期間を短縮することができる。
【実施例0089】
以下、実施例を用いた本開示についてさらに説明する。
【0090】
<SOC-OCVカーブの取得>
以下の構成のリチウムイオン二次電池を用いて充電率-電圧カーブを取得した。充電条件は電圧3~3.75Vの範囲、電流0.05C/sとした。結果を
図4に示した。また、
図5に電圧と│dV/dQ│との関係を示した(電圧:V、容量Q)。
【0091】
(リチウムイオン二次電池の構成)
正極集電体:アルミニウム
正極活物質:リン酸鉄リチウム
セパレータ:ポリエチレン
負極活物質:黒鉛
負極集電体:銅
非水電解質:非水溶媒としてEC、EMCの混合液、支持塩としてLiPF6を用いた
容量:225mAh
【0092】
図4に示した通り、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン二次電池はプラトー領域が広い。
図4では7~99%の範囲の領域がプラトー領域である。また、
図5によれば、│dV/dQ│が0.005V/mAh以下の範囲がプラトー領域である。
【0093】
<漏れ電流測定>
以下の構成のリチウムイオン二次電池を用いて、漏れ電流測定を実施した。検査装置はキーサイト・テクノロジー株式会社製の自己放電測定装置(BT2152B)を使用した。試験では、良品として判定された電池を用い、充電率88%に調節した。そして、電池と等電圧の検査装置に電池を接続し、漏れ電流を測定した。ここで、比較例として、不良品を模擬するため、外部抵抗を接続した電池を用いた。測定の際、電池温度(環境温度)は25℃に設定した。結果を
図6に示した。
【0094】
(リチウムイオン二次電池の構成)
正極集電体:アルミニウム
正極活物質:リン酸鉄リチウム
セパレータ:ポリエチレン
負極活物質:黒鉛
負極集電体:銅
非水電解質:非水溶媒としてEC、EMCの混合液、支持塩としてLiPF6を用いた
容量:7Ah
【0095】
図6に示した通り、実施例(良品)及び比較例(不良品)ともに、数分で漏れ電流の上昇が収束した。また、収束した漏れ電流の値は、明らかに比較例が実施例を上回っていた。この結果から、漏れ電流を測定することで、電池の良否判定を短時間で高精度に実施で来ることが確認された。
【0096】
<温度感度測定>
以下の構成のリチウムイオン二次電池を用いて、温度感度測定を実施した。具体的には、表1に示した充電率に調節した電池を用いてその電圧を測定した。その際、環境温度を20℃(6h)→21℃(6h)→20℃(6h)→19℃(6h)→20℃(6h)の順に変更した。得られた電圧値Vから温度感度ΔV/ΔT(mV/℃)を算出した。結果を表1、
図7に示した。なお、充電率と温度感度の関係はネルンストの式に従う。
【0097】
(リチウムイオン二次電池の構成)
正極集電体:アルミニウム
正極活物質:リン酸鉄リチウム
セパレータ:ポリエチレン
負極集電体:銅
非水電解質:非水溶媒としてEC、EMCの混合液、支持塩としてLiPF6を用いた
負極活物質:黒鉛
容量:7Ah
【0098】
【0099】
表1及び
図7に示した通り、電池の充電率が25~35%又は70~90%の範囲内にあるとき、温度感度が著しく低い結果が得られた。具体的には、上記充電率の範囲において、温度感度ΔV/ΔTが±0.05mV/℃以内であった。このことから、電池の充電率が25~35%又は70~90%の範囲内にある場合、温度感度が鈍いため、温度感度に基づく電圧変化が安定することが分かった。従って、上記充電率の範囲に調節することで、より高精度に電池の良否判定を実施することができると考えられた。