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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088135
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240625BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20240625BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240625BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20240625BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C22C38/60
C21D8/00 E
C21D9/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203162
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 徹之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正崇
(72)【発明者】
【氏名】杉原 玲子
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB02
4K032CF03
4K032CG02
4K032CH05
4K032CH06
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FM02
4K037GA01
(57)【要約】
【課題】耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命および熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、ならびに靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】本発明のフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.015%以下、Si:0.50~0.90%、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.25~0.38%、N:0.015%以下、Cr:16.0~17.5%、Cu:1.00~1.30%、Nb:0.48~0.65%、Ni:0.50%以下、V:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.30%を含有し、Si含有量とAl含有量の比(Si/Al)が、Si/Al≧2.0を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.015%以下、
Si:0.50~0.90%、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.25~0.38%、
N:0.015%以下、
Cr:16.0~17.5%、
Cu:1.00~1.30%、
Nb:0.48~0.65%、
Ni:0.50%以下、
V:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.30%を含有し、
Si含有量とAl含有量の比(Si/Al)が、Si/Al≧2.0を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
さらに、質量%で、
B:0.0050%以下、
REM:0.08%以下、
Zr:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下
のうちから選ばれる1種または2種を含有する請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に関するものであり、詳細にはCr含有鋼に係り、とくに自動車やオートバイの排気管やコンバータケース、火力発電プラントの排気ダクト等の高温下で使用される排気系部材に用いて好適な、優れた耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命および熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、ならびに靭性を有するフェライト系ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールドや排気パイプ、コンバータケースおよびマフラー等の排気系部材には、優れた耐酸化性、熱疲労特性および高温疲労特性(以下、これらをまとめて耐熱性と記すこともある。)が要求されている。熱疲労とは、排気系部材が、エンジンの始動および停止に伴って加熱および冷却を繰り返し受ける際、周辺の部品との関係で拘束された状態にあることにより、上記排気系部材の熱膨張および収縮が制限されて、素材自体に発生する熱ひずみに起因した低サイクル疲労現象のことをいう。一方、高温疲労とは、加熱された状態で振動を受け続けることで亀裂が生じる高サイクル疲労現象のことであり、上記の熱疲労とは全く異なる現象である。
【0003】
上記の耐酸化性、熱疲労特性および高温疲労特性が求められる部材に用いられる素材としては、現在、NbとSiを含有したType429(14mass%Cr-0.9mass%Si-0.4mass%Nb系)のようなCr含有鋼が多く使用されている。しかし、エンジン性能の向上に伴い、排ガス温度が800℃を超えるような温度まで上昇してくると、Type429では特に、熱疲労特性を十分に満たすことができなくなってきている。
【0004】
この問題に対応できる素材として、例えば、NbとMoを含有して高温耐力を向上させたCr含有鋼、JIS G4305に規定されるSUS444(19mass%Cr-0.5mass%Nb-2mass%Mo)が開発されている。また、Nb、Mo、およびWを含有したフェライト系ステンレス鋼等が開発されている。しかし、MoやWといったレアメタルは可採地域が限られていることなどの理由で、資源の枯渇や、価格の高騰といったリスクを抱えており、MoやWを含まずに高い耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼が求められている。
【0005】
MoやWを含まずに高い耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼として、例えば、特許文献1~3には、CuおよびAlの含有によって耐酸化性と熱疲労特性、高温疲労特性を高めたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。一方で、耐熱性を高めるために各種合金元素を含有すると、鋼が硬質化し脆くなり、部品成形時に脆性割れが生じてしまうリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4386144号公報
【特許文献2】特許第4702493号公報
【特許文献3】特許第5900715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの研究によれば、特許文献1~3には、CuとAlの含有によって耐酸化性や熱疲労特性、高温疲労特性を向上させた鋼が開示されているが、最重要特性である熱疲労特性については、さらに高い特性が求められるようになってきている。また、特許文献1~3では、部品成形時に求められる靭性については考慮されていない。
【0008】
以下に詳細を記述する。
【0009】
従来、熱疲労試験において、その寿命(熱疲労寿命)は、応力値が初期値に対して一定の割合(例えば70%や75%)まで低下したサイクル数で定義して評価していた。しかしながら、実際、その時点で破断は生じておらず、その後破断にまで至る間の挙動については従来の熱疲労試験では考慮されていない。実部品における耐久性の評価に際しては、貫通亀裂が生じ、排ガスのリーク(漏れ)が生じるかどうかで評価されることが多いため、熱疲労試験における寿命到達後から、試験片の破断に至るまでに要する時間(サイクル)についても考慮が必要となる。
【0010】
例えば、応力値が一定の割合まで低下したサイクル数で定義された熱疲労寿命が同等の鋼があったとしても、熱疲労寿命到達後から破断に至るまでのサイクル数が長ければ、実部品における貫通亀裂が生じるまでにはより多くの時間がかかる。すなわち、熱疲労寿命到達後から破断に至るまでのサイクル数が長い鋼の方が優れた耐久性を示すことになる。本発明のフェライト系ステンレス鋼は、従来の試験上定義された熱疲労寿命に加えて、熱疲労寿命から破断に至るまでのサイクル数まで考慮して開発されたものである。以降、この熱疲労寿命から破断に至るまでのサイクル数を熱疲労破断寿命と呼ぶ。
【0011】
一般に、熱疲労寿命を長くするには、高温耐力(強度)を高めることが有効となる。高温耐力を高めることで変形し始めるまでに必要な応力を大きくすることができるためである。一方、熱疲労破断寿命は、高温伸びを高めることで、変形し始めてから破断に至るまでに要するひずみ(時間)を大きくすることができる。さらに、熱疲労破断寿命には、高温伸びだけでなく高温耐力も高くすることも有効となる。これは、1回当たりの熱サイクル中に生じる塑性ひずみを小さくできるためである。一般に、耐力(強度)が大きくなると伸びは低下するが、耐力(強度)を落とすことなく伸びを大きくすることができれば、熱疲労寿命とともに熱疲労破断寿命を長くすることができ、実部品としての総合的な耐久性を向上させることができる。
【0012】
一方、部品成形時にはプレス加工がおこなわれることが多い。このとき、一般に、耐熱性を高めるために含有する合金量が多いと、鋼の靭性が劣り、特に冬場の低温でのプレス成型時に脆性割れが生じるおそれがある。上述したような熱疲労特性をはじめとする耐熱性を高めると同時に、靭性を低下させないことが求められる。
【0013】
そこで、本発明は、熱疲労破断寿命を大きくする目的で、高温引張試験における耐力(高温耐力)、伸び(高温伸び)(以下、高温耐力と高温伸びをまとめて高温引張特性と呼ぶ場合もある)に着目し、さらに優れた靭性を同時に満足させることに着目してなされたものである。
【0014】
本発明は、耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命および熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、ならびに靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0015】
なお、本発明の「耐酸化性に優れる」とは、大気中1000℃で400時間保持されても、異常酸化(酸化増量≧50g/m)も酸化スケールの剥離も起こさない耐大気中連続酸化性と、水蒸気雰囲気中950℃で200時間保持されても、異常酸化(酸化増量≧50g/m)も酸化スケールの剥離も起こさない耐水蒸気中連続酸化性の両方を備えることをいう。異常酸化や酸化スケールの剥離が生じると、排気管内を、異常成長した酸化物や剥離した酸化スケールが流れてしまい、下流に位置する触媒コンバータなどで目詰まりを起こすなど、トラブルが生じる危険がある。本発明では、後述するように最高温度が850℃となる環境を想定して熱疲労試験を行っているが、耐酸化性の評価は、そのようなトラブルが生じないよう、より高温での加速試験として行った。排気管内を流れる排ガスは、ガソリン由来の成分(NOx、SOxなど)や水蒸気を含んでおり、本発明では特に耐酸化性への影響が大きい水蒸気を含んだ雰囲気内での評価も重要視した。雰囲気中に水蒸気が含まれている場合、大気中の酸素と鋼中のCrが結びついて生成する酸化スケールに比べ、水蒸気中の酸素と鋼中のCrが結びついて生成する酸化スケールはその緻密性に劣る。そのため、水蒸気雰囲気中ではより異常酸化しやすく、酸化スケールの剥離も生じやすい。
【0016】
また、「熱疲労特性に優れる」とは、SUS444と同等以上の熱疲労寿命を有し、かつ、SUS444より優れた熱疲労破断寿命を有することをいう。具体的には、200~850℃間で昇温と降温を繰り返したときの熱疲労寿命がSUS444と同等以上であり、かつ熱疲労破断寿命がSUS444より長いことをいう。ここで、熱疲労寿命は、試験開始初期(応力、ひずみの挙動が安定する5サイクル目)の最大引張応力(200℃での応力)が、70%まで低下したサイクル数で定義した。また、熱疲労破断寿命は、上記熱疲労寿命到達以降も試験を継続し、熱疲労寿命から試験片が破断するまでのサイクル数で定義した。すなわち、熱疲労寿命+熱疲労破断寿命=試験片が破断するまでの全試験サイクル数である。
【0017】
また、「高温疲労特性に優れる」とは、SUS444と同等以上の特性を有することであり、具体的には、850℃で75MPaの曲げ応力を繰り返し負荷した時の破断サイクル数が1.0×10サイクル以上であることをいう。
【0018】
また、「靭性に優れる」とは、シャルピー衝撃試験において、-30℃での脆性破面率が50%以下であることをいう。なお、前記シャルピー衝撃試験に供する試験片は、板厚2.0mmの鋼板とし、圧延方向を長手方向として、圧延方向に垂直にJIS Z 2242:2018に規定されるVノッチを加工した試験片を用いる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命)および高温疲労特性がいずれもSUS444と同等以上であり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)がSUS444よりも優れ、靭性にも優れるフェライト系ステンレス鋼を開発するべく、種々の元素の耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命、熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、靭性への影響について鋭意検討を重ねた。
【0020】
その結果、質量%で、Nbを0.48~0.65%、Cuを1.00~1.30%の範囲で含有することによって、靭性を低下させることなく、幅広い温度域で高温耐力が上昇し、優れた熱疲労特性(熱疲労寿命)と高温疲労特性が得られることを見出した。また、適正量のAl(0.25~0.38%)を含有することにより、靭性を低下させずにCu含有による耐酸化性の低下が抑制できるのみならず、Cu含有効果が得られない温度域における耐力を増加させて熱疲労特性(熱疲労寿命)を改善できることを見出した。さらに、耐水蒸気中連続酸化性は、Siを適正量(0.50~0.90%)含有することにより、靭性を低下させずに、大きく改善され、かつ、高温疲労特性も、SiをAlよりも多く含有することによって改善されることも見出した。さらに、Tiを適量含有させることにより、Nbに代わってTiが優先的に炭化物、窒化物を形成し、鋼中固溶Nb量が増加して高温耐力が高まることで熱疲労寿命を向上させることも見出した。
【0021】
上記に加えて、質量%で、Vを0.005~0.080%の範囲で含有し、かつAlを0.25~0.38%の範囲で含有し、さらにSi含有量とAl含有量の比(Si/Al)をSi/Al≧2.0を満たすように含有することにより、上述した熱疲労破断寿命にも優れた鋼が得られることを新たに見出した。
【0022】
以上の知見を踏まえ、Nb、Cu、Al、V、SiおよびTiの全てを適量含有することで本発明を完成するに至った。上記元素のうち1つでも適量含有しない場合には、本発明の所期する優れた耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命および熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、ならびに靭性の全てを同時には得られない。
【0023】
本発明は、以下を要旨とするものである。
[1]質量%で、
C:0.015%以下、
Si:0.50~0.90%、
Mn:1.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.25~0.38%、
N:0.015%以下、
Cr:16.0~17.5%、
Cu:1.00~1.30%、
Nb:0.48~0.65%、
Ni:0.50%以下、
V:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.30%を含有し、
Si含有量とAl含有量の比(Si/Al)が、Si/Al≧2.0を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼。
[2]さらに、質量%で、
B:0.0050%以下、
REM:0.08%以下、
Zr:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
[3]さらに、質量%で、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下
のうちから選ばれる1種または2種を含有する[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命および熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、ならびに靭性を有するフェライト系ステンレス鋼を提供することができる。
したがって、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、自動車等の排気系部材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、高温平面曲げ疲労試験片を説明する図である。
図2図2は、高温引張試験片を説明する図である。
図3図3は、熱疲労試験片を説明する図である。
図4図4は、熱疲労試験における温度および拘束条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.015%以下、Si:0.50~0.90%、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.25~0.38%、N:0.015%以下、Cr:16.0~17.5%、Cu:1.00~1.30%、Nb:0.48~0.65%、Ni:0.50%以下、V:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.30%を含有し、Si含有量とAl含有量の比(Si/Al)が、Si/Al≧2.0を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
【0028】
本発明では、成分のバランスが非常に重要であり、このような成分の組み合わせとすることで、Mo、Wといったレアメタルを使用することなく、耐酸化性と熱疲労特性(熱疲労寿命)および高温疲労特性のいずれもがSUS444と同等以上であり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)がSUS444よりも優れ、シャルピー衝撃試験において-30℃での脆性破面率が50%以下である優れた靭性も備えるフェライト系ステンレス鋼を得ることができる。上記組成における各成分の含有量範囲が1つでも外れた場合は、所期した耐酸化性、熱疲労特性(熱疲労寿命、熱疲労破断寿命)、高温疲労特性、靭性の全てを同時には得られない。
【0029】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の成分組成について説明する。以下、鋼の成分の含有量を示す%は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0030】
C:0.015%以下
Cは、鋼の強度を高めるのに有効な元素であるが、0.015%を超えて含有すると、靭性および成形性の低下が顕著となる。よって、本発明では、C含有量は0.015%以下とする。なお、C含有量は、成形性を確保する観点からは0.010%以下が好ましい。また、C含有量は、排気系部材としての強度を確保する観点からは0.003%以上が好ましい。C含有量は、より好ましくは0.004%以上である。またC含有量は、より好ましくは0.008%以下である。
【0031】
Si:0.50~0.90%
Siは、水蒸気含有雰囲気下での耐酸化性向上のために必要な重要元素である。SUS444と同等以上の耐水蒸気中連続酸化性を確保するためには、0.50%以上のSiの含有が必要である。一方、0.90%を超える過剰のSiの含有は、酸化スケールが剥離しやすくなるのみならず、靭性を低下させる。よって、Si含有量は0.50~0.90%とする。Si含有量は、好ましくは0.60%以上である。
【0032】
Si/Al≧2.0
さらに、Siは、Alの固溶強化効果を有効に活用し、熱疲労破断寿命を大きくするためにも重要な元素である。Alは、後述するように、高温における固溶強化作用を有し、高温疲労特性を向上させるとともに、熱疲労破断寿命を大きくする唯一の元素である。この効果は、Alが鋼中に固溶した状態でないと得られない。しかし、一方でAlは鋼の表層で酸化物を、鋼の内部では窒化物を形成しやすい。Alの含有量がSiの含有量より多い場合には、Alが高温で優先的に酸化物や窒化物を形成し、固溶Al量が減少するため、固溶強化に十分寄与することができなくなり、優れた高温疲労特性、熱疲労破断寿命は得られない。所期した高温疲労特性を得るにはSiをAlより多く含有させる必要があり、さらに、所期した熱疲労破断寿命を得るには、Si含有量とAl含有量の比(Si/Al)をSi/Al≧2.0とする必要がある。そうすることで、Siが優先的に酸化して鋼板表面に緻密な酸化物層を連続的に形成し、この酸化物層は、外部からの酸素や窒素の内方拡散を抑制する効果があるため、Alは酸化や窒化することなく固溶状態に保たれる。その結果、Alの固溶状態が安定して確保されるので、高温疲労特性と熱疲労破断寿命を大きく増加させる効果を発揮する。そのAlの効果を十分に発揮させるためにはAlを高温でなるべく酸化させず、鋼中に固溶させておくことが重要となる。以上の効果を得るため、本発明では、Siは、Si/Al≧2.0を満たすよう含有する。また、Si/Alは好ましくは2.6以上である。
【0033】
Mn:1.00%以下
Mnは、脱酸剤として、また、鋼の強度を高めるために含有される元素である。その効果を得るためには、0.05%以上のMnを含有することが好ましい。しかし、過剰なMnの含有は、高温でγ相が生成しやすくなり、耐熱性、特に耐酸化性を低下させる。また、靭性も低下させる。よって、Mn含有量は1.00%以下とする。Mn含有量は、より好ましくは0.10%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
【0034】
P:0.040%以下
Pは、鋼の靭性を低下させる有害な元素であり、可能な限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、P含有量は0.040%以下とする。P含有量は、好ましくは、0.030%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Pはコストの増加を招くので、P含有量は0.005%以上が好ましい。
【0035】
S:0.010%以下
Sは、伸びやr値を低下させ、成形性に悪影響を及ぼすとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を低下させる有害元素でもあるため、できる限り低減するのが望ましい。よって、本発明では、S含有量は、0.010%以下とする。S含有量は、好ましくは、0.003%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Sはコストの増加を招くので、S含有量は0.0005%以上が好ましい。
【0036】
Al:0.25~0.38%
Alは、Cuを含有する鋼の耐酸化性、および高温疲労特性を向上させるとともに、本発明では熱疲労破断寿命を大きく増加させる重要な元素である。その効果を得るには0.25%以上のAlを含有した上で、上述したようにSiをSi/Al≧2.0を満たすように含有し、かつ後述するようにVを0.005~0.080%の範囲内で含有してAlを鋼中に固溶させることが必要である。Alが鋼中に固溶していると、固溶強化により鋼の高温強度(耐力)が増加する一方、高温での変形時には、局所的に応力が集中して板厚方向への変形(板厚減少)が進行するのではなく、鋼全体に応力が分散することで、板厚方向への変形(板厚減少)が遅滞する。局所的に板厚減少が生じると、板厚減少部にはますます応力が集中することになり、板厚減少は加速的に進行するが、全体的に変形する本発明のフェライト系ステンレス鋼は、破断に至るまでの時間(サイクル)が劇的に増加する。NbやMo、Wなどの他の固溶強化元素では、このような応力を分散させて応力集中を緩和させる効果は有しておらず、Al特有の効果である。一方、0.38%を超えてAlを含有すると、AlNとして析出しやすくなり、所期したAlの熱疲労破断寿命の増加効果は得られなくなるのみならず、靭性の低下が顕著となる。よって、Al含有量は0.25~0.38%の範囲とする。Al含有量は、好ましくは0.30%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.34%以下であり、より好ましくは0.32%以下である。
【0037】
N:0.015%以下
Nは、鋼の靭性および成形性を低下させる元素であり、0.015%を超えて含有すると、上記低下が顕著となる。よって、N含有量は0.015%以下とする。なお、Nは、靭性、成形性を確保する観点からは、できるだけ低減するのが好ましく、0.010%未満とするのが望ましい。なお、N含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Nはコストの増加を招くので、N含有量は0.004%以上が好ましい。
【0038】
Cr:16.0~17.5%
Crは、ステンレス鋼の特徴である耐食性、耐酸化性を向上させるのに有効な重要元素であるが、Cr含有量が16.0%未満では、十分な耐酸化性が得られない。一方、Crは、室温において鋼を硬質化し、靭性を低化させる元素であり、特に17.5%を超えて含有すると、上記弊害が顕著となる。よって、Cr含有量は、16.0~17.5%の範囲とする。
【0039】
Ni:0.50%以下
Niは、鋼の靭性を向上させる元素である。その効果を得るためには、0.02%以上のNiの含有が好ましい。しかし、Niは、高価であることに加え、強力なγ相形成元素であり、Niを、0.50%を超えて含有すると高温でγ相を生成し、耐酸化性を低下させる。よって、Ni含有量は、0.50%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.05%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
【0040】
Cu:1.00~1.30%
Cuは、熱疲労特性の向上に非常に有効な元素であり、600℃近傍でε-Cuとして微細に析出することで鋼の強度(耐力)を大きく増加させ、熱疲労特性を大きく向上させる。SUS444と同等以上の熱疲労特性を得るには、Cuを1.00%以上含有する必要がある。しかし、1.30%を超えるCuの含有は、ε-Cuの粗大化を促進し、強化効果がかえって低減してしまうのみならず、高温伸びも低下させてしまう。高温伸びが低下すると、優れた熱疲労破断寿命は得られない。また、Cuの1.30%を超える含有は、靭性を低下させてしまう。このため、Cuは、1.00~1.30%の範囲とする。Cu含有量は、好ましくは1.10%以上である。また、Cu含有量は、好ましくは1.20%以下である。
【0041】
Nb:0.48~0.65%
Nbは、C、Nを炭窒化物として固定し、耐食性や成形性、溶接部の耐粒界腐食性を高める作用を有するとともに、鋼中に固溶したNbは、高温耐力を上昇させて熱疲労特性(熱疲労寿命、熱疲労破断寿命)、高温疲労特性を向上させる元素である。このような効果は、0.48%以上のNbの含有で得られる。しかし、0.65%を超えるNbの含有は、Laves相(FeNb)が析出しやすくなり、脆化を促進する。よって、Nb含有量は0.48~0.65%の範囲とする。Nb含有量は、好ましくは0.50%以上である。また、Nb含有量は、好ましくは0.55%以下である。
【0042】
V:0.005~0.080%
Vは、鋼の加工性向上に有効な元素であるとともに、耐酸化性の向上にも有効な元素である。さらに、本発明においては、Alが鋼中に固溶して熱疲労破断寿命を増加させる効果を発揮するために重要な元素である。Vを含有することにより、Vが鋼中のNと結びついて微細な窒化物(VN)として析出する。これにより、AlがNと結びついて粗大な窒化物となることを抑制する。Alが粗大なAlNを形成すると、鋼中の固溶Al量が低下し、上述したAl含有による熱疲労破断寿命の増加効果が十分に得られなくなる。後述するTiもNと結びついて窒化物を形成しやすい元素であるが、TiNは粗大であるため、Tiが粗大なTiNを形成すると高温疲労特性の低下を招く。このような、微細窒化物の析出によりAl固溶量を確保する効果は、V含有量が0.005%以上で顕著となる。よって、V含有量は0.005%以上とする。しかし、0.080%を超える過剰なVの含有は、粗大なVNの析出を招き、靭性を低下させるのみならず、優れた熱疲労破断寿命が得られない。よって、V含有量は0.080%以下とする。V含有量は、好ましくは0.010%以上である。また、V含有量は、好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
【0043】
Ti:0.005~0.30%
Tiは、Nbよりも優先的にCおよびNと結びつき、TiCまたはTiNとして析出することで、耐食性や成形性、溶接部の耐粒界腐食性を高める作用を有する。Tiは、さらに、Nbの炭窒化物析出量を低減し、Nbの鋼中の固溶量を確保することで高温耐力、熱疲労特性および高温疲労特性向上効果を大きくすることができる。その効果は、0.005%以上のTiを含有することで得られる。しかし、0.30%を超える過剰なTiの含有は、耐酸化性向上効果が飽和するほか、粗大なTiNが析出することで靭性の低下を招いて、プレス加工時に割れが生じやすくなってしまう。さらに、例えば、熱延板焼鈍ラインで繰り返し受ける曲げ-曲げ戻しよって破断を起こしたりする等、製造性に悪影響を及ぼすようになる。よって、Ti含有量は、0.005~0.30%とする。良好な靭性を得るためには、Ti含有量は0.100%以下が好ましく、0.050%以下がより好ましい。
【0044】
本発明のフェライト系ステンレス鋼では、残部はFeおよび不可避的不純物からなる。
【0045】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記必須とする成分に加えてさらに、B、REM、Zr、Co、Sn、Sbのうちから選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲で含有することができる。
【0046】
B:0.0050%以下
Bは、鋼の加工性、特に2次加工性を向上させるのに有効な元素である。この効果は、0.0002%以上のBの含有で得ることができる。よって、Bを含有する場合、B含有量は0.0002%以上が好ましい。しかし、0.0050%を超えるBの含有は、粗大なBNを生成して加工性を低下させる。よって、Bを含有する場合、B含有量は0.0050%以下とする。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、B含有量は、好ましくは0.0020%以下である。
【0047】
REM:0.08%以下
REM(希土類元素)は、耐酸化性を向上する元素である。この効果は、0.01%以上のREMの含有で得られる。よって、REMを含有する場合、REM含有量は0.01%以上が好ましい。しかし、0.08%を超えるREMの含有は、鋼を脆化させる。よって、REMを含有する場合、REM含有量は0.08%以下とする。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
【0048】
Zr:0.50%以下
Zrは、耐酸化性を向上する元素である。この効果は、0.01%以上のZrの含有で得られる。よって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.01%以上が好ましい。しかし、0.50%を超えるZrの含有は、Zr金属間化合物が析出して、鋼を脆化させる。よって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.50%以下とする。Zr含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
【0049】
Co:0.50%以下
Coは、鋼の靭性向上に有効な元素である。その効果を得るためには、Coを0.01%以上含有することが好ましい。よって、Coを含有する場合、Co含有量は0.01%以上が好ましい。しかし、Coは、高価な元素であり、また、0.50%を超えて含有しても、上記効果は飽和するだけである。よって、Coを含有する場合、Co含有量は0.50%以下とする。Co含有量は、より好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。また、Co含有量は、好ましくは0.20%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0050】
Sn:0.50%以下
Snは、鋼の耐食性や高温強度を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じて含有させる。その効果は0.01%以上のSnの含有で得られる。よって、Snを含有する場合、Sn含有量は0.01%以上が好ましい。一方、Snの過剰な含有は鋼の加工性を低下させるため、Sn含有量は0.50%を上限とする。よって、Snを含有する場合、Sn含有量は0.50%以下とする。Sn含有量は、より好ましくは0.03%以上である。また、Sn含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0051】
Sb:0.50%以下
Sbは、鋼の靭性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じて含有させる。その効果は0.01%以上の含有で得られる。よって、Sbを含有する場合、Sb含有量は0.01%以上が好ましい。一方、Sbの過剰な含有は却って靭性を低下させるため、Sb含有量は0.50%を上限とする。よって、Sbを含有する場合、Sb含有量は0.50%以下とする。Sb含有量は、より好ましくは0.03%以上である。また、Sb含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
【0052】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記成分に、さらに、Ca、Mgのうちから選ばれる1種または2種を、下記の範囲で含有することができる。
【0053】
Ca:0.0050%以下
Caは、連続鋳造の際に発生しやすい介在物析出によるノズルの閉塞を防止するのに有効な成分である。Ca含有量が0.0002%以上でその効果が得られる。よって、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0002%以上が好ましい。一方、表面欠陥を発生させず良好な表面性状を得るためには、Ca含有量は0.0050%以下とする必要がある。よって、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0050%以下とする。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、Ca含有量は、好ましくは0.0030%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
【0054】
Mg:0.0050%以下
Mgは、スラブの等軸晶率を向上させ、加工性や靭性の向上に有効な元素である。本発明のようにNbを含有する鋼においては、MgはNbの炭窒化物の粗大化を抑制する効果も有する。その効果は0.0002%以上のMgの含有で得られる。Nb炭窒化物が粗大化すると、Nbの鋼中固溶量が低下するため、熱疲労特性の低下に繋がる。よって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0002%以上が好ましい。一方、Mg含有量が0.0050%超えとなると、鋼の表面性状を悪化させてしまう。よって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0050%以下とする。Mg含有量は、より好ましくは0.0004%以上である。また、Mg含有量は、好ましくは0.0030%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
【0055】
なお、上記任意成分として説明したB、REM、Zr、Co、Sn、Sb、Ca、Mgの含有量が下限値未満の場合、その成分は不可避的不純物として含まれるものとする。また、本発明の趣旨から、ともにレアメタルであるMoとWは、積極的な含有は行わない。すなわち、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、Mo、Wを含有しないことが好ましい。しかし、両元素とも、原料であるスクラップ等から0.1%以下混入することがある。
【0056】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
【0057】
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、基本的にフェライト系ステンレス鋼の通常の製造方法であれば好適に用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、転炉または電気炉等の公知の溶解炉で鋼を溶製し、あるいはさらに取鍋精錬または真空精錬等の二次精錬を経て上述した本発明の成分組成を有する鋼とし、連続鋳造法あるいは造塊-分塊圧延法で鋼片(スラブ)とする。その後、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上げ焼鈍および酸洗等の各工程を経て冷延焼鈍板とする製造工程で製造することができる。上記冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延としてもよく、また、冷間圧延、仕上げ焼鈍および酸洗の各工程は、繰り返して行ってもよい。さらに、熱延板焼鈍は省略してもよく、鋼板の表面光沢や粗度調整が要求される場合には、冷間圧延後あるいは仕上げ焼鈍後、スキンパス圧延を施してもよい。用途によっては熱延焼鈍板をそのまま用いることも可能である。
【0058】
上記製造方法における、好ましい製造条件について説明する。
【0059】
鋼を溶製する製鋼工程は、転炉あるいは電気炉等で溶解した鋼をVOD法等により二次精錬し、上記必須成分および必要に応じて含有される成分を含有する鋼とすることが好ましい。溶製した溶鋼は、公知の方法で鋼素材とすることができるが、生産性および品質面からは、連続鋳造法によることが好ましい。鋼素材は、その後、好ましくは1050~1250℃に加熱され、熱間圧延により所望の板厚(3mm~6mm)の熱延板とされる。もちろん、板材以外に熱間加工することもできる。上記熱延板は、その後必要に応じて900~1150℃の温度で連続焼鈍を施し、熱延焼鈍板とした後、酸洗等により脱スケールし、熱延製品とすることが好ましい。上記焼鈍は省略しても良い。なお、必要に応じて、酸洗前にショットブラストやブラシ研削によりスケール除去してもよい。
【0060】
さらに、上記熱延焼鈍板または熱延板を、冷間圧延等の工程を経て冷延製品としてもよい。この場合の冷間圧延は、1回でもよいが、生産性や要求品質上の観点から中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延としてもよい。1回または2回以上の冷間圧延の総圧下率は、60%以上が好ましく、より好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。冷間圧延した鋼板は、その後、好ましくは900~1150℃、さらに好ましくは950~1100℃の温度で連続焼鈍(仕上げ焼鈍)し、酸洗し、冷延製品とすることが好ましい。さらに用途によっては、仕上げ焼鈍後、スキンパス圧延等を施して、鋼板の形状、表面粗度および材質の調整を行ってもよい。上記酸洗前にはブラシ研削を行っても良い。
【0061】
上記のようにして得た熱延製品あるいは冷延製品は、その後、それぞれの用途に応じて、加工が施され成形される。例えば、切断や曲げ加工、張出し加工および絞り加工等の加工を施して、自動車やオートバイの排気管、触媒外筒材、火力発電プラントの排気ダクトあるいは燃料電池関連部材、例えばセパレータ、インタコネクターあるいは改質器等に成形される。また、これらの部材を溶接する方法は、特に限定されない。例えば、MIG(Metal Inert Gas)、MAG(Metal Active Gas)、TIG(Tungsten Inert Gas)等の通常のアーク溶接や、スポット溶接、シーム溶接等の抵抗溶接、および電縫溶接などの高周波抵抗溶接、高周波誘導溶接等を適用することができる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0063】
表1に示したNo.1~36の組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、鋳造して50kg鋼塊とし、1100℃で加熱後、熱間圧延により35mm厚のシートバーとした。このシートバーから200mm長を2枚切り出し、うち1枚を用いて、1050℃に加熱後、熱間圧延により板厚5mmの熱延板とし、950~1100℃の範囲の温度で焼鈍後、研削し熱延焼鈍板とした。続いて、圧下率60%の冷間圧延を行い、1000~1100℃の温度で仕上げ焼鈍を行った後、板厚が2.0mmの冷延焼鈍板として、酸化試験(大気中連続酸化試験および水蒸気中連続酸化試験)、高温疲労試験、高温引張試験、シャルピー衝撃試験に供した。また、もう1枚のシートバーは、1100℃に加熱後、熱間鍛造により30mm角の角棒とした。この角棒から、150mm長を切り出し、1000~1100℃の範囲内で仕上げ焼鈍を行い、熱疲労試験に供した。なお、参考として、SUS444(No.21)についても、上記と同様にして冷延焼鈍板を作製して酸化試験、高温疲労試験、高温引張試験に供し、同様に角棒も作製し、熱疲労試験に供した。焼鈍温度については、上記温度範囲内で組織を確認しながら各鋼について温度を決定した。
【0064】
<大気中連続酸化試験>
上記のようにして得た各種冷延焼鈍板から30mm×20mmのサンプルを切り出し、サンプル上部に4mmφの穴をあけ、表面および端面を#320のエメリー紙で研磨し、脱脂後、1000℃に加熱保持した大気雰囲気の炉内に吊り下げて、400時間保持した。試験後、サンプルの質量を測定し、予め測定しておいた試験前の質量との差を求め、酸化増量(g/m)を算出した。なお、酸化スケールの剥離が生じた場合には、剥離した酸化スケールの質量を前述の酸化増量に加えた。試験は各2回実施し、酸化増量が多い方の値をその鋼の酸化増量とし、酸化スケールの剥離は2つのサンプルのうち1つでも剥離が生じた場合には剥離したと判定した。SUS444(No.21)についても同様に試験を行い、その結果、異常酸化は発生しなかったが、酸化スケールの剥離が見られた。大気中連続酸化特性を以下のように判定した。
【0065】
[大気中連続酸化特性判定基準]
○(合格):異常酸化もスケール剥離も発生しなかったもの
△(不合格):異常酸化は発生しないが、スケール剥離が生じたもの
×(不合格):異常酸化(酸化増量≧50g/m)が発生したもの
得られた結果を表1に示す。
【0066】
<水蒸気中連続酸化試験>
上記のようにして得た各種冷延焼鈍板から30mm×20mmのサンプルを切り出し、サンプル上部に4mmφの穴をあけ、表面および端面を#320のエメリー紙で研磨し、脱脂した。その後、このサンプルを20vol%HO-残部Nからなる混合ガスを0.5L/min/枚で流して水蒸気含有雰囲気とした950℃に加熱された炉中に200時間保持する水蒸気中連続酸化試験に供した。試験後、サンプルの質量を測定し、予め測定しておいた試験前の質量との差を求め、酸化増量(g/m)を算出した。なお、酸化スケールの剥離が生じた場合には、剥離した酸化スケールの質量を前述の酸化増量に加えた。SUS444(No.21)についても同様に試験を行い、その結果、異常酸化が発生した。水蒸気中連続酸化特性を以下のように判定した。
【0067】
[水蒸気中連続酸化特性判定基準]
○:異常酸化も酸化スケールの剥離も発生しなかったもの(合格)
△:異常酸化は発生しないが、酸化スケールの剥離が生じたもの(不合格)
×:異常酸化(酸化増量≧50g/m)が発生したもの(不合格)
得られた結果を表1に示す。
上記大気中連続酸化試験と水蒸気中連続酸化試験の評価の判定で○のものを合格(耐酸化性に優れる)とし、それ以外のものを不合格とした。
【0068】
<高温疲労試験>
上記のようにして得た各種冷延焼鈍板から、図1に示した形状、寸法の試験片を切り出して高温平面曲げ疲労試験に供した。850℃に加熱後、30分均熱保持した後、応力比-1で鋼板表面に75MPaの曲げ応力を22Hz(1300rpm)で負荷するシェンク式高温平面曲げ疲労試験を行い、破断までの振動サイクル数(疲労寿命)を測定した。SUS444(No.21)についても同様に試験を行い、高温疲労寿命は1.0×10サイクルであった。高温疲労特性を以下のように判定した。
【0069】
[高温疲労特性判定基準]
○:1.0×10サイクル以上(合格)
×:1.0×10サイクル未満(不合格)
得られた結果を表1に示す。
【0070】
<高温引張試験>
上記のようにして作製した各種冷延焼鈍板から、機械加工により図2に示す形状の試験片を作製した。標点間距離は50mmとした。試験は850℃に加熱後、15分保持してから開始した。引張速度は、0.2mm/minとした。引張試験後、破断部を突き合わせ、標点間距離を測定し、試験前の標点間距離50mmとの差分を50mmで割った値を伸び値El(%)として、0.2%耐力(MPa)とともに記録した。SUS444(No.21)についても同様に試験を行い、高温0.2%耐力は29MPa、高温伸びは34%であった。高温0.2%耐力(PS)および高温伸び(El)を以下のように判定した。
【0071】
[高温0.2%耐力(PS)判定基準]
○:30MPa以上
×:30MPa未満
【0072】
[高温伸び(El)判定基準]
○:70%以上
×:70%未満
得られた結果を表1に示す。
【0073】
<熱疲労試験>
上記で作製した30mm角の角棒を図3に示す形状の試験片に機械加工し、下記の熱疲労試験に供した。
熱疲労試験は、図4に示したように、上記試験片を拘束率0.4で拘束しながら、200℃と850℃の間で昇温・降温を繰り返す条件で行った。この際の昇温速度および降温速度はそれぞれ5℃/secとし、200℃での保持時間は2min、850℃での保持時間は2minとした。なお、上記の拘束率については、図4に示すように、拘束率η=a/(a+b)として表すことができ、aは(自由熱膨張ひずみ量-制御ひずみ量)/2であり、bは制御ひずみ量/2である。また、自由熱膨張ひずみ量とは機械的な応力を一切与えずに昇温した場合のひずみ量であり、制御ひずみ量とは試験中に生じているひずみ量の絶対値を示す。拘束により材料に生じる実質的な拘束ひずみ量は、(自由熱膨張ひずみ量-制御ひずみ量)である。熱疲労寿命は、200℃において検出された荷重を試験片均熱平行部(図3参照)の断面積で割って応力を算出し、初期(5サイクル目)の応力値に対し、70%まで低下したサイクル数を熱疲労寿命として評価した。また、試験は試験片が破断するまで継続し、上記の熱疲労寿命から破断に至るまでのサイクル数を熱疲労破断寿命として評価した。SUS444(No.21)についても同様に試験を行い、熱疲労寿命は980サイクル、熱疲労破断寿命は140サイクルであった。熱疲労特性を以下のように判定した。
【0074】
[熱疲労判定基準(熱疲労寿命)]
○:980サイクル以上(合格)
×:980サイクル未満(不合格)
【0075】
[熱疲労判定基準(熱疲労破断寿命)]
○:270サイクル以上(合格)
×:270サイクル未満(不合格)
得られた結果を表1に示す。
【0076】
<靭性(シャルピー衝撃試験)>
上記のようにして作製した各種冷延焼鈍板から、機械加工によりJIS Z2242:2018に定められたVノッチ試験片を作製した。試験片は圧延方向を長手方向とし、圧延方向に垂直な方向にVノッチを加工した。シャルピー試験はJIS Z2242:2018に則り、-30℃で3本行った。試験後の破面を観察し、脆性破面率を算出して、3本の平均値を用いて以下のように評価した。
【0077】
[靭性判定基準]
〇:脆性破面率≦50%(合格)
×:脆性破面率>50%(不合格)
得られた結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1より、本発明例の鋼No.1~20は、いずれも2つの酸化試験(大気中連続酸化試験および水蒸気中連続酸化試験)において異常酸化も酸化スケールの剥離も起こらず、耐酸化性に優れていた。また、SUS444(鋼No.21)と同等以上の優れた熱疲労寿命、高温疲労特性を有し、SUS444よりも優れた熱疲労破断寿命を有していた。さらに、靭性もSUS444より優れていた。
【0080】
一方、鋼No.22は、Si含有量が0.50%未満かつSi含有量とAl含有量の比(Si/Al)がSi/Al<2.0のため、耐酸化性(耐水蒸気中連続酸化性)と熱疲労破断寿命が不合格となった。
鋼No.23は、Si含有量が0.90%超えであり、耐酸化性(耐大気中連続酸化性)と靭性が不合格となった。
鋼No.24は、Mn含有量が1.00%超えであり、耐酸化性(耐水蒸気中連続酸化性)と靭性が不合格となった。
鋼No.25は、Al含有量が0.25%未満であり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)が不合格となった。
鋼No.26は、Al含有量が0.38%超えであり、靭性が不合格となった。
鋼No.27は、Ni含有量が0.50%超えであり、耐酸化性(耐大気中連続酸化性)が不合格となった。
鋼No.28は、Cr含有量が16.0%未満であり、耐酸化性(耐大気中連続酸化性、耐水蒸気中連続酸化性)が不合格となった。
鋼No.29は、Cr含有量が17.5%超えであり、靭性が不合格となった。
鋼No.30は、Cu含有量が1.00%未満であり、熱疲労特性(熱疲労寿命、熱疲労破断寿命)が不合格となった。
鋼No.31は、Cu含有量が1.30%超えであり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)と靭性が不合格となった。
鋼No.32は、Nb含有量が0.48%未満であり、熱疲労特性(熱疲労寿命)が不合格となった。
鋼No.33は、V含有量が0.005%未満であり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)が不合格となった。
鋼No.34は、V含有量が0.080%超えであり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)と靭性が不合格となった。
鋼No.35は、Si/Al<2.0であり、熱疲労特性(熱疲労破断寿命)が不合格となった。
鋼No.36は、Tiが0.005%未満であり、熱疲労特性(熱疲労寿命)が不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、自動車等の排気系部材用として好適である。さらに、火力発電システムの排気系部材や固体酸化物タイプの燃料電池用部材としても好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4