(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008814
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法及び溶接継手
(51)【国際特許分類】
B23K 11/18 20060101AFI20240112BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B23K11/18
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033101
(22)【出願日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2022109323
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山路 幸毅
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA12
4E165AB02
4E165AB11
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA05
4E165CA13
4E165EA14
(57)【要約】
【課題】低電流での溶接が可能であり、所定の縁距離を確保する必要がなく、安価な設備で容易にアルミニウム合金板の重ね溶接を実現することができるアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金からなる第1板材21と第2板材23とを重ね合わせる工程と、鋼板22の端面を第1板材21の端面に突合せて配置し、鋼板22と第1板材21との間に突合せ部24を形成する鋼板配置工程と、一対の電極の間に、鋼板22及び第1板材21と、第2板材23とを重ね合わせた状態で配置する電極配置工程と、一対の電極の間を通電し、第1板材21と第2板材23との間にナゲット25を形成する通電工程と、鋼板22を取り外す鋼板除去工程と、を有し、電極配置工程において、突合せ部24の少なくとも一部が、一対の電極により通電される領域に含まれるように、一対の電極の位置を調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1板材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2板材とを重ね合わせて配置する重ね合わせ工程と、
鋼板の端面を前記第1板材の端面に突合せて配置し、前記鋼板と前記第1板材との間に突合せ部を形成する鋼板配置工程と、
対向して配置された一対の電極の間に、前記鋼板及び前記第1板材と、前記第2板材とを重ね合わせた状態で配置する電極配置工程と、
前記一対の電極の間を通電し、前記第1板材と前記第2板材との間にナゲットを形成する通電工程と、
前記鋼板を取り外す鋼板除去工程と、を有し、
前記電極配置工程において、前記突合せ部の少なくとも一部が、前記一対の電極により通電される領域に含まれるように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項2】
前記電極配置工程において、前記一対の電極における対向する面の中心を結ぶ線が、前記突合せ部よりも前記鋼板側に配置されるように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項3】
前記電極配置工程と、前記通電工程とを、複数の箇所で繰り返し実施し、複数のナゲットを形成することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項4】
前記通電工程は、前記突合せ部からアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯が突出しないように、通電条件を調整する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項5】
前記通電条件を調整する工程において、前記一対の電極と前記突合せ部との相対位置、電流及び通電時間から選択された少なくとも1種を調整することを特徴とする、請求項4に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項6】
前記鋼板配置工程の前に、前記鋼板の端面に切り欠きを形成する切り欠き形成工程を有し、
前記鋼板配置工程において、前記鋼板の切り欠きの部分と前記第1板材の端面との間に空隙部が形成されるように前記鋼板と前記第1板材とを配置し、
前記突合せ部は前記空隙部を含み、前記電極配置工程において、前記空隙部の少なくとも一部が、前記一対の電極の間に位置するように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項7】
前記通電工程において、前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材とは、前記一対の電極により厚さ方向に押圧されており、
前記通電工程における前記一対の電極による圧力を、加圧力P1とする場合に、
前記通電工程と前記鋼板除去工程との間に、前記加圧力P1よりも高い加圧力P2で前記一対の電極により前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材を押圧する鍛圧工程を有することを特徴とする、請求項6に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項8】
前記通電工程において、前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材とは、前記一対の電極により厚さ方向に押圧されており、
前記一対の電極に押圧されることにより前記第1板材及び前記鋼板に形成される圧痕の直径がR(mm)となるように前記通電工程における条件を設定した場合に、
前記鋼板の端面において、前記鋼板の厚さ方向に直交する方向における前記切り欠きの幅を、R(mm)以上とすることを特徴とする、請求項6に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法により接合された溶接継手であって、
重ね合わされた前記第1板材と前記第2板材との間に、前記第1板材と前記第2板材とを接合するナゲットを有し、
前記ナゲットは前記第1板材の端面に露出していることを特徴とする、溶接継手。
【請求項10】
前記ナゲットは、前記第1板材における前記第2板材に対向する面と反対側の面に露出していないことを特徴とする、請求項9に記載の溶接継手。
【請求項11】
請求項6~8のいずれか1項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法により接合された溶接継手であって、
重ね合わされた前記第1板材と前記第2板材との間に、前記第1板材と前記第2板材とを接合するナゲットを有するとともに、
前記第1板材の端面に、前記端面から突出した突起部を有し、
前記ナゲットは前記第1板材の端面に露出しており、
前記突起部は、前記ナゲットの少なくとも一部を含むことを特徴とする、溶接継手。
【請求項12】
前記ナゲットは、前記第1板材における前記第2板材に対向する面と反対側の面に露出していないことを特徴とする、請求項11に記載の溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法及び該スポット溶接方法により得られる溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金材は、機械的強度を有し、かつ軽量であるため、自動車のドアなどの様々な構造体の部品として適用されている。以下、本明細書において、アルミニウム又はアルミニウム合金を単にアルミニウム合金ということがある。
【0003】
アルミニウム合金材からなる構造体を組み立てる際には、これらのアルミニウム合金材からなる部材同士を接合する必要がある。従来より、アルミニウム合金材の隅肉溶接として、レーザ溶接や、レーザ溶接とアーク溶接とを併せた溶接方法が一般的に使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルミニウムに対する吸収率の高いレーザダイオード光を照射して溶接位置を溶融し、MIG(Metal Inert Gas)アークを発生させて溶接を行うアルミニウムの溶接方法であって、薄板のアルミニウムを高速で溶接する溶接方法が開示されている。なお、上記特許文献1には、アルミニウム合金等の上板と、アルミニウム合金等の下板とを重ね合わせたときの重ね隅肉溶接について、記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、レーザ光を照射させる位置を規定して重ね隅肉溶接を行うレーザ溶接方法が提案されている。上記特許文献2に記載の方法によると、溶接設備の大型化や複雑化を招くことなく良好な溶接品質を確保することができる。
【0006】
上記特許文献1及び2に記載の溶接方法は、いずれもレーザを使用するものであるが、レーザ溶接は設備が高価であるとともに溶接作業が煩雑である。そこで、設備が安価であり、容易に溶接を実施することができる抵抗スポット溶接を、アルミニウム板の重ね溶接に対して適用する技術も公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-170285号公報
【特許文献2】特開2019-000878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、アルミニウム合金板同士の重ね抵抗溶接においては、JIS Z 3001-6:2013に縁距離についての記載がある。縁距離とは、溶接点中心位置から部材の最も近い端までの距離を表し、一般的に、重ね合わせた一対のアルミニウム合金板を抵抗スポット溶接により接合する場合には、所定の縁距離が必要となる。
【0009】
すなわち、狭隘な場所での溶接や、板材の端面近傍での溶接が必要となった場合に、縁距離を確保することができないため、抵抗スポット溶接を使用することができない。具体的には、板材の端面近傍で抵抗スポット溶接を実施しようとすると、板材の厚さ方向に直線的に通電されず、端面に近づくほど熱だまりが大きくなり、散りが発生してしまう。
【0010】
また、アルミニウム合金板同士を重ね合わせてスポット溶接する場合に、アルミニウムは鉄と比較して体積抵抗が小さいため、溶接に大電流が必要となる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、低電流での溶接が可能であり、所定の縁距離を確保する必要がなく、安価な設備で容易にアルミニウム合金材の重ね溶接を実現することができるアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法、及びこの溶接方法により得られる溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0013】
(1) アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1板材と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2板材とを重ね合わせて配置する重ね合わせ工程と、
鋼板の端面を前記第1板材の端面に突合せて配置し、前記鋼板と前記第1板材との間に突合せ部を形成する鋼板配置工程と、
対向して配置された一対の電極の間に、前記鋼板及び前記第1板材と、前記第2板材とを重ね合わせた状態で配置する電極配置工程と、
前記一対の電極の間を通電し、前記第1板材と前記第2板材との間にナゲットを形成する通電工程と、
前記鋼板を取り外す鋼板除去工程と、を有し、
前記電極配置工程において、前記突合せ部の少なくとも一部が、前記一対の電極により通電される領域に含まれるように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0014】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(8)に関する。
【0015】
(2) 前記電極配置工程において、前記一対の電極における対向する面の中心を結ぶ線が、前記突合せ部よりも前記鋼板側に配置されるように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、(1)に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0016】
(3) 前記電極配置工程と、前記通電工程とを、複数の箇所で繰り返し実施し、複数のナゲットを形成することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0017】
(4) 前記通電工程は、前記突合せ部からアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯が突出しないように、通電条件を調整する工程を有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0018】
(5) 前記通電条件を調整する工程において、前記一対の電極と前記突合せ部との相対位置、電流及び通電時間から選択された少なくとも1種を調整することを特徴とする、(4)に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0019】
(6) 前記鋼板配置工程の前に、前記鋼板の端面に切り欠きを形成する切り欠き形成工程を有し、
前記鋼板配置工程において、前記鋼板の切り欠きの部分と前記第1板材の端面との間に空隙部が形成されるように前記鋼板と前記第1板材とを配置し、
前記突合せ部は前記空隙部を含み、前記電極配置工程において、前記空隙部の少なくとも一部が、前記一対の電極の間に位置するように、前記一対の電極の位置を調整することを特徴とする、(1)~(5)のいずれか1つに記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0020】
(7) 前記通電工程において、前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材とは、前記一対の電極により厚さ方向に押圧されており、
前記通電工程における前記一対の電極による圧力を、加圧力P1とする場合に、
前記通電工程と前記鋼板除去工程との間に、前記加圧力P1よりも高い加圧力P2で前記一対の電極により前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材を押圧する鍛圧工程を有することを特徴とする、(6)に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
【0021】
(8) 前記通電工程において、前記第1板材及び前記鋼板と前記第2板材とは、前記一対の電極により厚さ方向に押圧されており、
前記一対の電極に押圧されることにより前記第1板材及び前記鋼板に形成される圧痕の直径がR(mm)となるように前記通電工程における条件を設定した場合に、
前記鋼板の端面において、前記鋼板の厚さ方向に直交する方向における前記切り欠きの幅を、R(mm)以上とすることを特徴とする、(6)又は(7)に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法。
また、本発明の上記目的は、溶接継手に係る下記(9)の構成により達成される。
【0022】
(9) (1)~(8)のいずれか1つに記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法により接合された溶接継手であって、
重ね合わされた前記第1板材と前記第2板材との間に、前記第1板材と前記第2板材とを接合するナゲットを有し、
前記ナゲットは前記第1板材の端面に露出していることを特徴とする、溶接継手。
【0023】
また、溶接継手に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(10)~(11)に関する。
【0024】
(10) (6)~(8)のいずれか1つに記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法により接合された溶接継手であって、
重ね合わされた第1板材と第2板材との間に、前記第1板材と前記第2板材とを接合するナゲットを有するとともに、
前記第1板材の端面に、前記端面から突出した突起部を有し、
前記ナゲットは前記第1板材の端面に露出しており、
前記突起部は、前記ナゲットの少なくとも一部を含むことを特徴とする、溶接継手。
【0025】
(11) 前記ナゲットは、前記第1板材における前記第2板材に対向する面と反対側の面に露出していないことを特徴とする、(9)又は(10)に記載の溶接継手。
【発明の効果】
【0026】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法によれば、低電流での溶接が可能であり、所定の縁距離を確保する必要がなく、安価な設備で容易にアルミニウム合金材の重ね溶接を実現することができる。また、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の溶接継手によれば、安価な設備で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係るスポット溶接方法により得られた溶接継手を示す図面代用写真である。
【
図4】
図4は、形状不良が発生した溶接継手の例を示す断面図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第2実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法において、鋼板配置工程の前の切り欠き形成工程を示す上面図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の第2実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法において、電極配置工程を示す上面図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の第3実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法において、通電工程を示す断面図である。
【
図7B】
図7Bは、通電工程後の鍛圧工程を示す断面図である。
【
図8】
図8は、縦軸を電極間の加圧力及び電流値とした場合の、第3実施形態の各工程における溶接条件を示すグラフ図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態に係るスポット溶接方法により得られた溶接継手を示す図面代用写真である。
【
図11】
図11は、せん断試験に利用する溶接継手を得るためのスポット溶接方法を示す断面図である。
【
図12】
図12は、縦軸をせん断強度とし、横軸を破断面積として、せん断強度と破断面積との関係を示すグラフ図である。
【
図13】
図13は、複数のナゲットを形成するためのスポット溶接方法を示す模式図である。
【
図14】
図14は、比較例として実施したレーザ溶接方法を示す模式図である。
【
図15】
図15は、鋼板の切り欠きのサイズを説明するための図である。
【
図16】
図16は、せん断試験後の破断面積を測定するための位置を示す模式図である。
【
図17】
図17は、縦軸をせん断強度とし、横軸を半楕円部の面積として、参考例と切り欠きの幅を種々に変更した発明例とのせん断強度を示すグラフ図である。
【
図18】
図18は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。
【
図19】
図19は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。
【
図20】
図20は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。
【
図21】
図21は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。
【
図22】
図22は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本願発明者らは、アルミニウム合金材の重ね溶接において、一方のアルミニウム合金材の端面近傍をスポット溶接により接合する溶接方法について、鋭意検討を行った。まず、一対の電極を、一般的に重ね溶接において必要とされる縁距離、例えば15mmよりも端面に近づけた位置に配置し、スポット溶接を実施した。その結果、電極を端面に近づけるにしたがって、ナゲットの形状が悪くなり、散りが発生して溶接が不可能となる。なお、電極を端面により一層近づけても溶接が可能となる溶接条件について検討を実施したが、一方のアルミニウム合金材の端面近傍では、溶接条件を種々に調整しても、重ね合わせたアルミニウム合金材を接合することはできなかった。
【0029】
次に、本願発明者らは、鉄の抵抗発熱を利用する方法について、検討を行った。その結果、一方のアルミニウム合金材の端面に鋼板の端面を突合せて、この突合せ部を通電することにより、鉄の抵抗発熱を利用することができ、重ね合わせたアルミニウム合金材の間にナゲットを形成することができることを見出した。
【0030】
以下、本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法、及び溶接継手の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0031】
[スポット溶接方法]
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法を示す模式図である。また、
図2は、
図1の一部を拡大して示す断面図である。
図1を用いて、まず、スポット溶接装置について簡単に説明する。
【0032】
スポット溶接装置11は、一対の電極(第1電極13及び第2電極15)と、第1電極13及び第2電極15に接続された溶接トランス部17と、電源部18と、溶接トランス部17に電源部18からの溶接電力を供給する制御部19と、第1電極13及び第2電極15を軸方向に移動させる電極駆動部20とを備える。制御部19は、電流値、通電時間、電極の加圧力、通電タイミング、加圧タイミングを統合的に制御する。
【0033】
第1電極13の先端面13a及び第2電極15の先端面15aは、例えば、ドームラジアス形(DR形)の電極である。溶接トランス部17は、第1電極13と第2電極15との間を通電する。
【0034】
スポット溶接装置11は、第1電極13と第2電極15との間に、溶接対象となる部材を挟み込む。本実施形態においては、アルミニウム合金からなる第1板材21と、アルミニウム合金からなる第2板材23とを接合するが、接合補助部材として鋼板22を使用する。スポット溶接方法の詳細については後述する。
【0035】
そして、電極駆動部20による第1電極13及び第2電極15の駆動によって、第1板材21及び鋼板22と、第2板材23とを板厚方向に加圧する。この加圧状態で、制御部19からの指令に基づいて溶接トランス部17が第1電極13と第2電極15との間で通電する。これにより、第1板材21と第2板材23との境界部29における、第1電極13と第2電極15とで挟まれた領域にナゲット25が形成され、第1板材21と第2板材23とが一体化された溶接継手27が得られる。
【0036】
図2を用いて、本発明の第1実施形態に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法について、さらに詳細に説明する。
【0037】
(重ね合わせ工程)
図1に示すように、アルミニウム合金材からなる第1板材21と、アルミニウム合金材からなる第2板材23とを準備し、第2板材23を下板として配置した後、第2板材23の上の接合予定位置に、第1板材21を重ね合わせて配置する。
【0038】
(鋼板配置工程)
その後、第1板材21と同一の板厚を有する鋼板22の端面22aを、第1板材21の端面21aに突合せて配置し、鋼板22と第1板材21との間に、端面22aと端面21aとにより構成される突合せ部24を形成する。なお、本明細書において、第1板材21の端面21aとは、第1板材21における第2板材23に対向する面に直交する面を表す。言い換えると、第1板材21の端面21aは、第1板材21の板厚方向に平行な面を表す。同様に、鋼板22の端面22aとは、鋼板22における第2板材23に対向する面に直交する面、すなわち、鋼板22の板厚方向に平行な面を表す。
なお、鋼板配置工程は重ね合わせ工程の前に実施してもよい。
【0039】
(電極配置工程)
対向して配置された第1電極13と第2電極15との間に、鋼板22及び第1板材21と、第2板材23とを重ね合わせた状態で配置する。このとき、突合せ部24の少なくとも一部が、一対の電極(第1電極13及び第2電極15)により通電される領域に含まれるように、第1電極13と第2電極15との位置を調整する。本実施形態において、第1電極13及び第2電極15により通電される領域は、
図2における破線b1と破線b2との間の領域である。
【0040】
(通電工程)
突合せ及び重ね合わせて配置した鋼板22、第1板材21及び第2板材23を第1電極13と第2電極15とで挟み込んで加圧しながら、溶接トランス部17によって、第1電極13と第2電極15との間を通電する。なお、上記電極配置工程において、突合せ部24の少なくとも一部が破線b1と破線b2との間の領域に含まれるように、第1電極13と第2電極15との位置を調整しているため、この通電工程において、突合せ部24の少なくとも一部が通電される。
【0041】
具体的には、鋼板22及び第2板材23を介して、第1電極13と第2電極15との間が通電されるとともに、第1板材21及び第2板材23を介して、第1電極13と第2電極15との間が通電される。鋼板22は、アルミニウム合金材からなる第1板材21よりも電流が流れにくい性質を有しているため、鋼板22が通電されることにより抵抗発熱が発生する。また、第1板材21及び第2板材23が通電されることにより、鋼板22の発熱温度より低いが、第1板材21と第2板材23との間にも抵抗発熱が発生する。そして、これらの抵抗発熱により、第1板材21の端面21aを含む端面近傍と、この端面近傍に対向する領域における第2板材23の一部とが溶融し、第1板材21と第2板材23との境界部29にナゲット25が形成される。したがって、第1板材21と第2板材23とが、第1板材21の端面近傍で接合される。
【0042】
なお、上記電極配置工程と上記通電工程とを、複数の箇所で繰り返し実施し、複数のナゲット25を形成することもできる。このように、複数のナゲット25により第1板材21と第2板材23とを接合すると、接合強度を著しく向上させることができる。
【0043】
(鋼板除去工程)
その後、第1板材21の端面21aに突合せて配置されている鋼板22を取り外す。
図3は、本発明の第1実施形態に係るスポット溶接方法により得られた溶接継手を示す図面代用写真である。鋼板22を取り外すことにより、
図3に示すように、第1板材21と第2板材23とがナゲット25により接合された溶接継手27が得られる。
【0044】
上記本実施形態に係るスポット溶接方法によると、鋼板22の抵抗発熱を利用してアルミニウム合金からなる第1板材21と第2板材23とを溶融させる。したがって、鋼板22の端面22aに接触していた第1板材21の端面21aのうち、特に第2板材23との境界部29に近い位置から温度が上昇し、境界部29に沿ってナゲット25が形成される。したがって、アルミニウム合金板同士を一般的な方法でスポット溶接する場合と比較して、鋼板同士を接合する場合と同様の安価な設備で、低電流での溶接が可能となる。
【0045】
例えば、通常のアルミニウム合金材をスポット溶接する場合に、5000系では、17kAの溶接電流が必要であり、6000系では、19kA以上の大電流が必要である。これに対して、本実施形態では、鉄用の電源装置を使用してもアルミニウム合金材をスポット溶接することが可能となり、例えば、15kA以下の溶接電流でアルミニウム合金材の端部を溶接することができる。
【0046】
さらに、本実施形態によると、鋼板22から発生した熱を利用するため、所定の縁距離を確保する必要がなく、容易にアルミニウム合金材の重ね溶接を実現することができる。
【0047】
次に、本実施形態において使用することができる第1板材21、第2板材23及び鋼板22について、以下に説明する。
【0048】
(第1板材、第2板材)
本実施形態において、第1板材21及び第2板材23は、いずれもアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものである。第1板材21及び第2板材23の組成は特に限定されないが、純アルミニウムからなる板材としては、1000系のものが挙げられる。また、アルミニウム合金からなる板材としては、2000系、3000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金からなるものが挙げられる。第1板材21及び第2板材23の形状は、平板状である必要はなく、一般的にスポット溶接が可能な形状であって、第1板材21の端面21aに鋼板の端面を突合せることができればよい。
【0049】
(鋼板)
本実施形態において、鋼板22の組成は特に限定されないが、冷間圧延鋼鈑(SPCC:Steel Plate Cold Commercial)、ハイテンを使用することができる。鋼板22の形状は、その端面22aを第1板材21の端面21aに突合せることができる形状であればよい。また、本実施形態において、鋼板22と第1板材21との突合せ部24を第1電極13と第2電極15とにより挟むため、鋼板22の端面22aにおける板厚は、第1板材21の端面21aにおける板厚と同一であることが好ましい。ただし、所望の領域に電流を流すことができれば、鋼板22の端面22aにおける板厚と、第1板材21の端面21aにおける板厚とは、若干異なっていてもよい。
【0050】
(スポット溶接条件)
本実施形態において、溶接条件については特に限定されないが、第1板材21と第2板材23とを接合するナゲット25が形成されるように、溶接電流、通電時間、並びに第1電極及び第2電極の位置を適切に調整することが好ましい。本実施形態に係るスポット溶接方法において、好ましい電極位置について、
図2を用いて以下に説明する。
【0051】
図2においては、第1電極13の先端面13aの中心と、第2電極15の先端面15aの中心とを結ぶ線が、突合せ部24に一致している。上述のとおり、本実施形態においては、第1電極13と第2電極15とにより通電される領域、すなわち、破線b1と破線b2との間に、突合せ部24の少なくとも一部が含まれるように、第1電極13及び第2電極15の位置を調整する。したがって、これらの電極の位置は、
図2に示すマイナス(-)側、すなわち、鋼板22側に移動させてもよいし、
図2に示すプラス(+)側、すなわち、第1板材21側に移動させてもよい。
【0052】
例えば、所定の範囲内で、第1電極13及び第2電極15の位置を鋼板22側に移動させると、鋼板22側に通電される電流が増加するため、発熱量が増加し、少ない通電時間で所望のナゲットを形成することができる。したがって、第1電極13と第2電極15とにより通電される領域に、突合せ部24の少なくとも一部が含まれる条件の範囲内で、第1電極13及び第2電極15の位置は、鋼板22側に配置することが好ましい。
なお、第1電極13及び第2電極15の位置を第1板材21側に移動させた場合であっても、鋼板22に通電されれば発熱するため、電流や通電時間を増加させることにより、所望のナゲットを形成することができる。
【0053】
ただし、電流や通電時間を増加させすぎると、溶接継手の形状不良が発生することがある。
図4は、形状不良が発生した溶接継手の例を示す断面図である。また、
図5は、
図4に示す溶接継手の上面図である。例えば、同一の電極位置に設定した状態で通電時間を長くすると、溶接の途中で鋼板22と第1板材21との間の突合せ部24から溶湯が飛び出すことがある。そして、飛び出した溶湯が冷却された後、鋼板22を取り外すと、
図4及び
図5に示すように、第1板材21の端面21aにおいて、ナゲット25から突出した突出部28が形成され、溶接継手27の外観が劣化することがある。突出部28は、鋼板除去工程の後に除去することができるが、突出部28を除去するための工程が必要となり、製造コストが増加する。また、飛び出した溶湯の量によっては接合強度が低下することがある。
【0054】
また、同一の通電時間に設定した状態で電流を大きくした場合であっても、上記のような突出部28が形成されると考えられる。したがって、鋼板22と第1板材21との間の突合せ部24から溶湯が飛び出さないように、電極位置、電流及び通電時間を調整することが好ましい。具体的に、溶湯が飛び出した場合には、電極位置を第1板材21側に移動させる、電流を小さくする、通電時間を短くする等の調整をすることにより、溶湯の飛び出しを抑制し、突出部28の形成を防止することができる。
【0055】
本実施形態において、第1電極13及び第2電極15の形状は特に限定されない。上記実施形態では、ドームラジアス形(DR形)の電極を用いたが、ラジアス形(R形)、フラット形(F形)、コーンフラット形(CF形)、ポイント形(P形)等、種々の形状の電極を使用することができる。
【0056】
<第2実施形態>
図6Aは、本発明の第2実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法において、鋼板配置工程の前の切り欠き形成工程を示す上面図である。また、
図6Bは、電極配置工程を示す上面図である。なお、
図6A及び
図6Bに示す第2実施形態において、
図1及び
図2に示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0057】
(切り欠き形成工程)
まず、上記鋼板配置工程の前に、
図6Aに示すように、使用する鋼板22の端面22aに、切り欠き50を形成する。本実施形態において、切り欠き50の形状は、平面視で鋼板22の端面22a側が長辺となる台形状であり、鋼板22の厚さ方向に貫通している。なお、切り欠き50の幅(鋼板22の端面22aにおける、鋼板22の厚さ方向に直交する方向の切り欠きの長さ)は、例えば6.0mmとし、切り欠き50の奥行き(鋼板22の端面22aに直交する方向の切り欠きの長さ)は、例えば1.0mmとする。切り欠き50の好ましいサイズについては、後述する。
【0058】
(鋼板配置工程)
その後、
図6Bに示すように、鋼板22の端面22aを、第1板材21の端面21aに突合せて配置する。これにより、鋼板22の切り欠き50の部分と第1板材21との間に、空隙部42が形成される。また、端面22aと端面21aとの突合せ面、及び空隙部42により、突合せ部24が構成される。
【0059】
(電極配置工程)
その後、対向して配置された一対の電極(
図2に示す第1電極13と第2電極15)の間に、第1板材21及び鋼板22と、
図6Bでは不図示の第2板材(
図2に示す第2板材23)とを重ね合わせた状態で配置する。
【0060】
その後、第1実施形態と同様に、一対の電極によって鋼板22及び第1板材21と第2板材とを押圧しつつ、一対の電極間を通電する通電工程を実施する。このとき、第1板材21の一部が通電により溶融し、溶湯(溶融アルミニウム合金)が空隙部42に流れ込む。そして、第1板材21と第2板材との間だけでなく、空隙部42に流れ込んだ溶湯と第2板材との間に抵抗発熱が発生する。したがって、第1板材21及び空隙部42に流れ込んだ溶湯と第2板材との境界部にナゲットが形成され、第1板材21と第2板材とが、第1板材21の端面近傍で接合される。
【0061】
上記第2実施形態によると、溶融したアルミニウム合金が空隙部42に流れ込み、この部分にも第2板材との境界部にナゲットが形成されるため、第1実施形態と比較して、継手強度を向上させることができる。
【0062】
なお、上記第2実施形態に示すように、鋼板22に切り欠き50を形成した場合であっても、電極を配置する位置によっては、第1実施形態と同等の継手強度となることがある。そのような場合には、溶接条件を調整することにより継手強度を向上させる効果を得ることができる。溶接条件を調整する方法について、第3実施形態として以下に説明する。
【0063】
<第3実施形態>
図7Aは、本発明の第3実施形態に係るアルミニウム合金材のスポット溶接方法において、通電工程を示す断面図である。また、
図7Bは、通電工程後の鍛圧工程を示す断面図である。さらに
図8は、縦軸を電極間の加圧力及び電流値とした場合の、第3実施形態の各工程における溶接条件を示すグラフ図である。第3実施形態は、上記第2実施形態の変形例であるため、
図7A及び
図7Bにおいて、
図1、
図2、
図6A及び
図6Bに示すものと同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0064】
(電極配置工程)
図7A及び
図8に示すように、第2実施形態と同様に、対向して配置された第1電極13と第2電極15との間に、切り欠き50が形成された鋼板22及び第1板材21と、第2板材23とを重ね合わせた状態で配置する。その後、これらを挟むように第1電極13と第2電極15とを配置し、加圧力P1(例えば2.5kN)となるまで第1電極13と第2電極15とを互いに近づける方向に加圧する。
【0065】
(通電工程)
次に、加圧力P1で鋼板22、第1板材21及び第2板材23を押圧しつつ、例えば15kAの電流で250msの間、通電する。これにより、第1板材21の一部が溶融し、切り欠き50と第1板材21との間に形成された空隙部42に溶湯43が流れ込む。なお、第1電極13及び第2電極15を加圧力P1で加圧した場合に、破線b1と破線b2との間の領域に対して加圧力P1が印加されるとともに、通電される。このとき、切り欠き50の奥行きによっては、溶湯と第2板材23との間に内部欠陥31が形成され、継手強度を向上させる効果が得られないことがある。このような場合に、内部欠陥31の形成を抑制するため、次の鍛圧工程を実施することが好ましい。
【0066】
(鍛圧工程)
図7B及び
図8に示すように、上記通電工程の終了後に、加圧力P1よりも高い加圧力P2(例えば5.0kN)で例えば200msの間、第1電極13及び第2電極15により、第1板材21及び鋼板22と第2板材23を押圧する。その結果、破線b1と破線b2との間隔が広くなり、第1電極13と第2電極15により加圧される面積が広がる。したがって、溶湯43が冷却されることにより形成される突起部44の内部や、突起部44と第2板材23との間の内部欠陥を低減することができ、第1実施形態と比較して、継手強度をより一層向上させることができる。
【0067】
上記のように通電工程及び通電工程後における電極間の加圧力を調整すると、切り欠き50の奥行きを例えば1.5mmとした場合等においても、第1実施形態と比較して、継手強度を向上させる効果を得ることができる。
【0068】
第2実施形態及び第3実施形態において、継手強度を向上させるための切り欠き50のサイズについては特に限定しないが、優れた外観を有する溶接継手を得ることができる切り欠き50の好ましいサイズについて、以下に説明する。
【0069】
上記通電工程においては、第1板材21及び鋼板22と第2板材23とが、第1電極13及び第2電極15により厚さ方向に押圧されている。これにより、
図6Bに示すように、第1板材21及び鋼板22の上面には、第1電極13の押圧による圧痕41が形成される。圧痕41の直径は、第1電極13及び第2電極15による加圧力や、第1電極13及び第2電極15の直径によって変化する。上記第1~第3実施形態においては、第1板材21と第2板材23とを接合するために、接合補助部材として鋼板22を使用しているが、鋼板22を繰り返し使用すると、第1電極13及び第2電極15の加圧力によって鋼板22が変形する。その結果、鋼板22と第1板材21との間の突き合わせ部に隙間が生じ、その隙間にアルミニウム又はアルミニウム合金が流動して、溶湯が飛び出す虞がある。
【0070】
上記第2実施形態及び第3実施形態に示すように、鋼板22に切り欠き50を形成していると、継手強度を向上させることができるとともに、溶湯のはみ出しを抑制することもできる。さらに、圧痕41の直径がR(mm)となるように通電工程における条件を設定した場合に、切り欠き50の幅をR(mm)以上とすると、溶湯の第1板材21と鋼板22との間からのはみ出しをより一層抑制することができる。
【0071】
一方、切り欠き50の幅がR(mm)よりも大きすぎる場合であっても、溶湯のはみ出しが発生することがある。また、切り欠き50の奥行きが大きすぎると、切り欠き50に溶湯が充填されず、突起部44の形状が奇形になることがある。したがって、優れた外観を有する溶接継手を得る観点から、具体的な切り欠き50の幅は、例えば(R+2.0)mm未満とすることが好ましく、(R+1.5)mm以下とすることがより好ましく、(R+1.0)mm以下とすることがさらに好ましい。また、切り欠き50の奥行きは、3.0mm以下とすることが好ましく、1.8mm以下とすることがより好ましく、1.5mm以下とすることがさらに好ましく、1.0mm以下とすることが特に好ましい。
【0072】
なお、電極を配置する位置が、切り欠き50の幅方向に鋼板側にずれている場合であっても、切り欠き50の幅方向の両端部50a、50bが、圧痕41の外径の円周上にあるか、又はそれよりも外方にあると、はみ出しを抑制する効果を高めることができる。
【0073】
[溶接継手]
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る溶接継手27は、上記第1実施形態に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材のスポット溶接方法により接合されたものである。具体的には、アルミニウム合金からなる第1板材21とアルミニウム合金からなる第2板材23とが重ね溶接により接合された溶接継手である。
図3に示すように、第1板材21と第2板材23との間に、第1板材と第2板材とを接合するナゲット25が形成されており、ナゲット25は第1板材21の端面21aに露出し、ナゲット露出部26を確認することができる。なお、溶接継手27を製造する際の溶接条件によっては、ナゲット25が大きくなることがあるが、基本的には、第1板材21における第2板材に対向する面と反対側の面21bには、ナゲット25が露出していないことが好ましい。
【0074】
このように構成された溶接継手においては、第1板材21の端面21aの近傍でナゲット25を形成することができるため、狭隘な領域での接合を実現することができ、複雑な形状の溶接継手27を得ることができる。また、低電流での溶接が可能であり、安価な設備で容易に製造することができるため、製造コストを低下させることができる。
【0075】
(第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態に係るスポット溶接方法により得られた溶接継手を示す図面代用写真である。
図9において、
図3に示す溶接継手27と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図9においては、鋼板22が配置されていた位置を破線で示している。また、
図9において、第1板材21と第2板材23との間に形成されている色の濃い領域がナゲット25である。
図9に示すように、第1板材21と第2板材23とは、ナゲット25により接合されている。本実施形態においては、切り欠き50を有する鋼板22を用いているため、空隙部に溶湯が流れ込み、これが冷却されることにより突起部44が形成されている。なお、突起部44が形成されている場合であっても、第1実施形態と同様に、第1板材21(突起部44)の端面21aにナゲット25が露出しており、ナゲット露出部26を確認することができる。また、第1板材21における第2板材23に対向する面と反対側の面には、ナゲット25が露出していない。
【実施例0076】
[第1実施例]
<スポット溶接>
図2に示すように、アルミニウム合金からなる第1板材21と、アルミニウム合金からなる第2板材23とを重ね合わせて配置するとともに、鋼板22の端面22aを第1板材21の端面21aに突合せて配置した。次に、鋼板22及び第1板材21と、第2板材23とを重ね合わせた状態で、第1電極13と第2電極15との間に配置した。その後、第1電極13と第2電極15との間を種々の条件で通電し、第1板材21と第2板材23との間にナゲット25を形成した後、鋼板22を取り外すことにより、溶接継手27を製造した。第1板材21、第2板材23及び鋼板22の種類、並びに電極の種類及び形状を以下に示す。なお、鋼板はJISに準拠したものを使用した。
【0077】
第1板材:A5182材 板厚1.0mm
第2板材:A5182材 板厚2.0mm
鋼板:冷間圧延鋼鈑(SPCC) 板厚1.0mm
電極:クロム銅(CuCr) 電極径16mm-先端径6mm
電極形状:ドームラジアス形(DR形) 先端の曲率半径40mm
【0078】
また、比較例として、鋼板を使用せず、アルミニウム合金からなる第1板材の端面に電極を配置し、一般的な条件を使用してスポット溶接を実施した。
【0079】
<溶接継手の評価>
通電工程において溶湯の突出の有無を観察するとともに、得られた溶接継手について、ナゲットの形成の有無を観察した。また、接合された第1板材と第2板材とを引き剥がして、破断部の面積を測定し、破断面積とした。
【0080】
図10は、破断面積の測定方法を示す模式図である。
図2及び
図10に示すように、第1板材21と第2板材23とを引き剥がすと、ナゲット25が破断し、第2板材23の表面に破断部25aを観察することができる。破断部25aは、第1板材21が重なっていた領域に形成されており、半楕円形状である。本実施例においては、破断部25aから仮想の楕円を想定して、長径D
2及び短径(2×D
1)より仮想の楕円の面積を算出し、これを1/2とすることにより、破断面積を算出した。通電工程における通電条件及び各評価結果を下記表1に示す。
【0081】
なお、下記表1の電極位置の欄において、-0.5~-2.0とは、第1電極13の先端面13aの中心と、第2電極15の先端面15aの中心とを結ぶ線が、突合せ部24よりも鋼板22側に配置されていることを示す。一方、電極位置の欄において、+7.0とは、第1電極13の先端面13aの中心と、第2電極15の先端面15aの中心とを結ぶ線が、突合せ部24よりも第1板材21側に配置されていることを示す。
【0082】
【0083】
[せん断試験]
上記発明例と同様の方法で、加圧力を4(kN)、電流値を13~15(kA)、通電時間を40~150(ms)の間で種々に変化させて、複数の溶接継手を作製し、破断面積とせん断強度との関係を調査した。
図11は、せん断試験に利用する溶接継手を得るためのスポット溶接方法を示す断面図である。
図11に示す溶接継手において、
図2に示す溶接継手と異なる点は、第1板材21及び第2板材23の相対位置及びサイズのみであるため、
図11において、
図2と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0084】
図11に示すように、第1板材21と第2板材23と重ね合わせるとともに、鋼板22を第1板材21に突合せて配置し、これらを第1電極13と第2電極15とで挟み、通電することによりナゲット25を形成した。次に、鋼板22を取り外した後、得られた溶接継手から、180mm×40mm(ラップ幅:10mm)の試験片を採取し、チャック間距離100mm、引張速度10mm/minの条件でせん断試験を実施した。
【0085】
図12は、縦軸をせん断強度とし、横軸を破断面積として、せん断強度と破断面積との関係を示すグラフ図である。
図12に示すように、破断面積とせん断強度との間には相関関係があり、破断面積が大きくなるほど、概してせん断強度が向上していることが示された。すなわち、表1に示す発明例においても、破断面積が大きい方が概してせん断強度が高いことが推測される。
【0086】
上記表1に示すように、比較例No.1は、溶接ができず、第1板材21と第2板材23とを接合することができなかった。
これに対し、発明例No.1~12は、いずれも、縁距離を確保することなく、第1板材21の端面21aを含む端面近傍にナゲット25を形成することができ、第1板材21と第2板材23とをスポット溶接により接合することができた。また、鋼板22の抵抗発熱を利用しているため、所定の縁距離を確保したうえでアルミニウム板同士を抵抗スポット溶接する場合と比較して、低電流で容易にナゲット25を形成でき、安価な設備を使用することができたため、製造コストが低いものとなった。
【0087】
特に、発明例No.1~3、5~7及び9は、電極位置が鋼板22側に寄りすぎておらず、また、通電時間も長すぎない設定としているため、溶湯の突出がなく、後処理工程が不要で外観が優れた溶接継手を得ることができた。
【0088】
なお、電極位置、加圧力及び電流値が互いに同一である発明例No.1~4、発明例No.5~8、発明例No.9~11をそれぞれ比較すると、通電時間を増加させるにしたがって、破断面積が大きくなり、せん断強度も向上することが推測された。また、加圧力、電流値及び通電時間が互いに同一である発明例No.1と7、発明例No.2と8、発明例No.5と10、発明例No.6と11についてそれぞれ比較すると、ほとんどの組み合わせにおいて、電極位置が突合せ部24から鋼板22側に離隔しているほど、破断面積が大きくなり、せん断強度も向上することが推測された。電流値のみを変化させた例はないが、一般的に、電流値を上昇させるにしたがって、破断面積が大きくなり、せん断強度が向上することが推測される。
【0089】
[第2実施例]
<複数打点でのスポット溶接>
第2実施例では、第1板材21と第2板材23との間に複数のナゲット25を形成した溶接継手と、レーザ溶接により得られた溶接継手とに対して、せん断強度を比較した。
図13は、複数のナゲットを形成するためのスポット溶接方法を示す模式図である。
図14は、比較例として実施したレーザ溶接方法を示す模式図である。
【0090】
図13に示すように、第1板材21と第2板材23と重ね合わせるとともに、鋼板22を第1板材21に突合せて配置し、予め設定した3箇所の溶接予定位置30のうち1箇所を選択して、第1電極13と第2電極15とで挟み、通電することによりナゲット(図示せず)を形成した。また、溶接を実施していない溶接予定位置30の1箇所を選択して、上記の方法と同様にして通電を繰り返すことにより、3つのナゲット(図示せず)を形成した。なお、3箇所の溶接予定位置30間の間隔は、10mm以上に設定した。
【0091】
一方、比較例として、
図14に示すように、第1板材21と第2板材23と重ね合わせて配置し、第1板材21の端面21aに平行な方向で設定した溶接予定線40に沿って、第1板材21の上面からレーザ33を照射し、第1板材21と第2板材23とを26mm接合した。
【0092】
<溶接継手の評価>
得られた発明例の溶接継手について、上記第1実施例と同様の方法で、せん断強度を測定するとともに、破断面積を測定した。破断面積は、接合された第1板材と第2板材とを引き剥がした際に観察される破断部を楕円と近似して、測定した短辺と長辺から算出した値である。また、比較例の溶接継手について、せん断強度を測定した。スポット溶接を実施した発明例の溶接条件及び測定結果を下記表2に示し、レーザ溶接を実施した比較例の溶接条件及び測定結果を下記表3に示す。なお、下記表2に示す破断面積1~3とは、それぞれ、1箇所目~3箇所目のスポット溶接により得られたナゲットの破断面積を表す。また、下記表3におけるラップ幅とは、第1板材21の端面21aから第2板材23の端面23aまでの距離を表す。
【0093】
【0094】
【0095】
上記表1~表3及び
図12に示すように、複数の箇所で繰り返しスポット溶接を実施し、複数のナゲットを形成した発明例No.13~15は、1箇所のみでスポット溶接を実施した発明例No.1~12と比較して、せん断強度が著しく高くなった。
また、レーザ溶接を実施した比較例No.2~4は、ビードの裏抜けが発生し、裏面まで貫通した健全な溶接継手が得られたが、これらの比較例No.2~4と比較して、発明例No.13~15は、高いせん断強度を得ることができた。
【0096】
[第3実施例]
第3実施例では、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板、及び切り欠きを形成してない鋼板を使用して製造した溶接継手に対して、せん断強度を比較した。
図15は、鋼板の切り欠きのサイズを説明するための図である。また、
図16は、せん断試験後の破断面積を測定するための位置を示す模式図である。
図2に示す第1実施例と同様にして、第1板材21と第2板材23との間にナゲットを形成し、鋼板を取り外すことにより溶接継手を製造した。第1板材21、第2板材23及び鋼板22の種類、電極の種類及び形状、並びに溶接条件等を以下に示す。なお、鋼板はJISに準拠したものを使用した。
【0097】
第1板材:A5182材 板厚1.2mm
第2板材:A5182材 板厚2.0mm
鋼板:冷間圧延鋼鈑(SPCC) 板厚1.0mm
通電方式:直流インバータ
電極:クロム銅(CuCr) 電極径16mm-先端径6mm
電極形状:ドームラジアス形(DR形) 先端の曲率半径40mm
通電時の加圧力P1:2.5kN
通電時間:250ms
溶接位置:-1mm(第1板材の端面から鋼板側に1mm移動させた位置)
【0098】
なお、参考例として、切り欠きを形成していない鋼板を使用し、発明例と同様にしてスポット溶接を実施した。
図15に示す種々の鋼板における切り欠きのサイズを下記表5に示す。
【0099】
<溶接継手の評価>
得られた溶接継手に対して、第1板材と第2板材とを引き剥がして、破断部の面積を測定し、破断面積とした。
図2及び
図16に示すように、第1板材21と第2板材23とを引き剥がすと、ナゲット25が破断し、第2板材23の表面に破断部45を観察することができる。破断部45は、第1板材21と第2板材23とが重なっていた領域である半楕円部45aと、突起部44と第2板材23とが重なっていた領域である台形部45bとにより構成されている。
【0100】
第3実施例においては、半楕円部45aから仮想の楕円を想定して、長径D2及び短径(2×D1)より仮想の楕円の面積を算出し、これを1/2とすることにより、半楕円部45aの面積を算出した。また、台形部45bの面積は、互いに平行な一対の辺の合計(D3+D4)に、台形部45bの高さ(t)を乗じて、これを1/2とすることにより算出した。そして、半楕円部45aの面積と、台形部45bの面積とを合計することにより、破断部45の面積を算出した。
【0101】
また、上記破断部の面積を算出した各溶接継手と同様に溶接継手を製造し、得られた各溶接継手から、180mm×40mm(ラップ幅:10mm)の試験片を採取して、チャック間距離100mm、引張速度10mm/minの条件でせん断試験を実施した。各溶接継手の破断部のサイズ、破断面積及びせん断強度を下記表6に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
上記表4~表6に示すように、切り欠きを有する鋼板を使用した発明例No.1~18において、せん断強度の平均値は、参考例No.1~9のせん断強度の平均値と比較して向上した。
図17は、縦軸をせん断強度とし、横軸を半楕円部の面積として、参考例と切り欠きの幅を種々に変更した発明例とのせん断強度を示すグラフ図である。なお、
図17において、発明例は切り欠きの幅を1mmとしたものである。
図17に示すように、切り欠きの奥行きN4を1mmとした発明例No.1~3、7~9、及び13~15と、参考例No.1~9とを比較すると、発明例は全てせん断強度が2000Nを超え、参考例と比較して強度が著しく向上した。
【0106】
[第4実施例]
第4実施例では、上記鋼板番号S6を使用した発明例No.10~12と、通電工程後の加圧力P2を通電工程における加圧力P1よりも大きくして製造した溶接継手とについて、せん断強度を比較した。第1板材、第2板材及び鋼板の種類、電極の種類及び形状等は上記第3実施例と同様とした。溶接条件を下記表7に示し、破断部のサイズ及び評価結果を下記表8に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
上記表4、表7及び表8に示すように、切り欠きの奥行きN4を1.5mmとした場合で比較すると、通電工程後に5kNの加圧力で鍛圧工程を実施することにより、せん断強度の平均値が著しく向上した。上記第3実施例及び第4実施例から、切り欠きを形成していない鋼板を使用する場合と比較して、切り欠きを有する鋼板を使用して溶接を実施した溶接継手は、総合的に優れた強度を有することが示された。なお、切り欠きのサイズによって、強度の向上度合いは変化するが、通電工程後に、通電工程時よりも大きい加圧力P2を印加する鍛圧工程を実施することにより、溶接継手の強度をより一層向上させることができた。
【0110】
[第5実施例]
第5実施例では、上記表4に示す種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用して製造した溶接継手に対して、外観を観察した。第1板材、第2板材及び鋼板の種類、電極の種類及び形状等は上記第3実施例と同様とした。
図18~
図22は、種々のサイズの切り欠きを有する鋼板を使用した場合の溶接継手の外観を示す図面代用写真である。なお、本実施例では、第1板材及び鋼板に形成される圧痕41の直径が6mmとなるように、通電工程における条件を設定している。
図18~
図22に示すように、切り欠きの幅N1を6.0mm、6.5mm、7.0mmとした発明例は、溶湯の飛び出しによる突出部28が形成されず、優れた外観を得ることができた。また、切り欠きの奥行きN4を1.0mm、1.5mmとした発明例は、切り欠きの部分に溶湯が充填され、突起部44の形状も優れたものとなった。