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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088151
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】シンチレータ材
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20240625BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240625BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20240625BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20240625BHJP
   G01T 1/20 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
G21K4/00 B
C09K11/00 E
C09K11/02 Z
C09K11/61
G01T1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203187
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤
【テーマコード(参考)】
2G083
2G188
4H001
【Fターム(参考)】
2G083AA04
2G083AA08
2G083BB01
2G083CC02
2G083CC03
2G083CC04
2G083DD02
2G083DD06
2G083DD11
2G083EE02
2G083EE03
2G188BB04
2G188CC12
2G188CC21
2G188DD11
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA53
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の膜厚を増大させ、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材を提供する。
【解決手段】放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材(10)であって、石英ガラスからなり、第1面に凹部(12a)が形成され、凹部(12a)の底部に複数の微小窪み(12b)が形成された基板(11)と、凹部(12a)内および微小窪み(12b)内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層(13)を備えることを特徴とするシンチレータ材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、
石英ガラスからなり、第1面に凹部が形成され、前記凹部の底部に複数の微小窪みが形成された基板と、
前記凹部内および前記微小窪み内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を備えることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記微小窪みは、直径が0.2mm以上1mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項3】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記微小窪みは、深さが0.2mm以上0.7mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項4】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
複数の前記微小窪みは、間隔が0.3mm以上1.8mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項5】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記凹部は、深さが0.5mm以上2.5mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項6】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記凹部は、直径が0.5mm以上10mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項7】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記基板は、厚さが1mm以上6mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載のシンチレータ材であって、
前記ヨウ化物蛍光体は、Mii:Eu2+(Mii:Ca2+,Sr2+)であることを特徴とするシンチレータ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から放射線検出装置には、放射線によって励起され可視光を発光するシンチレータ材として、NaI:TlやCsI:Tlなどのヨウ化物が用いられていた。ヨウ化物系のシンチレータ材は、空気中の水分を取り込んで水和する潮解性を有しており、気密性の高い容器に封入して用いる必要がある。そこで従来の放射線検出装置では、ヨウ化物系のシンチレータ材と光検出部をアルミニウム製の缶である容器に封緘して、光取り出し口にガラス製の窓部材を接着し、容器内に配置した光検出部で可視光を検出していた。
【0003】
しかし、外気中の水蒸気が微量ずつ容器と窓部材の接着部分から容器内に侵入するため、ヨウ化物系シンチレータが水和することによって劣化し、長期間にわたって使用するためには放射線検出装置の管理とメンテナンスを適切に行う必要があった。また、容器内への水分の侵入を抑制するためには、気密性の高い封止をする必要があり、製造工程において工数が増加し作業性が低下するという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、クリストバライト構造にヨウ化物蛍光体材料であるSrI:Eu2+を取り込ませて、ナノコンポジット化したシンチレータ材を用いることで耐湿性を向上させることが提案されている(特許文献1-3等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-074358号公報
【特許文献2】国際公開第2021/145260号
【特許文献3】特開2022-140222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のシンチレーション材では、石英ガラスからなる基板の凹部にヨウ化物蛍光体材料の原料を充填し、凹部内で原料を融解して融解物が石英ガラスを結晶化させながら浸透することで、凹部底面にナノコンポジット層(発光層)が形成される。しかしながら、ヨウ化物蛍光体の融解と浸透により形成される発光層の厚さは、200μm以下程度が限界であった。そのため、放射線をナノコンポジット層で十分に吸収できず、所望の発光強度が得られないという課題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の膜厚を増大させ、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のシンチレータ材は、放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、石英ガラスからなり、第1面に凹部が形成され、前記凹部の底部に複数の微小窪みが形成された基板と、前記凹部内および前記微小窪み内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を備えることを特徴とする。
【0009】
このような本発明のシンチレータ材では、凹部の底部に複数の微小窪みが形成され、凹部および微小窪みにナノコンポジット層を備えているため、基板全体でのナノコンポジット層の膜厚を増大させ、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記微小窪みは、直径が0.2mm以上1mm以下の範囲である。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記微小窪みは、深さが0.2mm以上0.7mm以下の範囲である。
【0012】
また、本発明の一態様では、複数の前記微小窪みは、間隔が0.3mm以上1.8mm以下の範囲である。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記凹部は、深さが0.5mm以上2.5mm以下の範囲である。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記凹部は、直径が0.5mm以上10mm以下の範囲である
【0015】
また、本発明の一態様では、前記基板は、厚さが1mm以上6mm以下の範囲である。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記ヨウ化物蛍光体は、Mii:Eu2+(Mii:Ca2+,Sr2+)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の膜厚を増大させ、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係るシンチレータ材10の構造例を示す模式断面図である。
図2】第1実施形態に係るシンチレータ材10の製造方法を模式的に示す工程図である。
図3】シンチレータ材10を用いた放射線検出装置100の構造を示す模式図である。
図4】シンチレータ材10の外観を示す写真であり、図4(a)は実施例1の微細窪み加工後の外観を示し、図4(b)は実施例2の微細窪み加工の外観を示し、図4(c)は実施例1のPL発光時の外観を示し、図4(d)は実施例2のPL発光時の外観を示している。
図5】シンチレータ材10のPLスペクトル図であり、図5(a)は実施例1と比較例1を示し、図5(b)は実施例2と比較例2を示している。
図6】γ線の照射によるシンチレータ材10の発光性能を測定する装置の概要を示す模式図である。
図7】ガンマ線照射によるシンチレータ材10の相対発光強度を示すグラフであり、図7(a)は実施例1と比較例1を示し、図7(b)は実施例2と比較例2を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るシンチレータ材10の構造例を示す模式断面図である。図1に示したように、本実施形態に係るシンチレータ材10は、基板11の一方の面に凹部12aが形成されており、凹部12aの底部に複数の微小窪み12bが形成されている。また、凹部12aおよび微小窪み12bには、ナノコンポジット層13が設けられている。後述するように、凹部12aと微小窪み12bを含んだ領域には原料粉末14を充填するため、両者によって原料充填部12が構成されている。
【0020】
基板11は、石英ガラスからなる略板状の部材であり、一方の面に凹部12aが形成されている。基板11の厚さは限定されないが、1mm以上の厚さを有していることが好ましい。基板11が1mmよりも薄いと、凹部12aおよび微小窪み12bの深さを十分に確保することができず、ナノコンポジット層13を形成するための原材料を十分に充填することが困難になる。また、基板11は6mm以下の厚さを有していることが好ましい。基板11が6mmよりも厚いと、凹部12aの側面から基板11の内部を側方に伝搬する光量が多くなり、シンチレータ材10の解像度が低下する。
【0021】
凹部12aは、基板11の一方の面に所定の面積と深さで形成された窪み形状である。凹部12aの形状としては、略円柱形状のものが挙げられるが形状は限定されず、円錐形状や多角柱形状、多角錐形状等を用いるとしてもよい。図1では説明の簡略化のために基板11に凹部12aを一つ設けた例を示したが、基板11の面内に複数の凹部12aを形成するとしてもよい。
【0022】
凹部12aの直径は限定されないが、0.5mm以上の大きさを有していることが好ましい。凹部12aが0.5mmよりも小さいと、凹部12aの底部に平坦な面を形成することが困難であり、微小窪み12bを均一なサイズで形成することが困難になる。また、凹部12aは10mm以下の直径を有していることが好ましい。凹部12aが10mmよりも大きいと、ナノコンポジット層13の面積が大きくなり解像度が低下する。
【0023】
凹部12aの深さは限定されないが、0.5mm以上の深さを有していることが好ましい。凹部12aが0.5mmよりも浅いと、ナノコンポジット層13を形成するための原材料を十分に充填することができず、放射線を吸収できる十分な厚さのナノコンポジット層13が得られない。また、凹部12aは2.5mm以下の深さを有していることが好ましい。凹部12aが2.5mmよりも深いと、切削加工時の加工精度によるアスペクト比の制約から、凹部12aの最小径が大きくなり、ナノコンポジット層13の面積を小さくして解像度を高めることが困難になる。
【0024】
微小窪み12bは、凹部12aの底面部分(底部)に複数設けられた窪みである。微小窪み12bは、それぞれ凹部12aの底部よりも小さな面積で、凹部12aの底部よりも深い位置にまで形成されている。図1では微小窪み12bの形状として、凹部12aの底部に対して垂直な側面を有した例を示しているが、側面が傾斜面や凹凸面であってもよい。また、図1では微小窪み12bの底部が平坦な例を示しているが、底部が傾斜しているとしてもよく、底部にさらなる凹凸が存在するとしてもよい。
【0025】
微小窪み12bの直径は限定されないが、0.2mm以上の大きさを有していることが好ましい。微小窪み12bが0.2mmよりも小さいと、融解した原料粉末14が微小窪み12bの底部にまで十分に到達できず、微小窪み12b内に形成されるナノコンポジット層13の体積を増加させることが困難になる。また、微小窪み12bは1mm以下の直径を有していることが好ましい。微小窪み12bが1mmよりも大きいと、原料充填部12の比表面積を大きくする効果が小さくなり、ナノコンポジット層13の体積を増加させることが困難になる。
【0026】
微小窪み12bの深さは限定されないが、0.2mm以上の深さを有していることが好ましい。微小窪み12bが0.2mmよりも浅いと、原料充填部12の比表面積を大きくする効果が小さくなり、ナノコンポジット層13の体積を増加させることが困難になる。また、微小窪み12bは0.7mm以下の深さを有していることが好ましい。微小窪み12bが0.7mmよりも深いと、微小窪み12bの側面高さが大きくなり、側面での光の遮蔽の作用が大きくなり、光取り出し効率が低下する。
【0027】
隣り合う微小窪み12b同士の間隔は限定されないが、0.3mm以上の間隔を有していることが好ましい。微小窪み12bの間隔が0.3mmよりも小さいと、微小窪み12bの間に存在する石英ガラスの幅が小さくなり強度が低下し、加工時に割れや欠けなどの不良が発生しやすくなる。また、隣り合う微小窪み12bは1.8mm以下の間隔を有していることが好ましい。微小窪み12bの間隔が1.8mmよりも大きいと、凹部12a内に形成できる微小窪み12bの個数が低下し、原料充填部12の比表面積を大きくする効果が小さくなり、ナノコンポジット層13の体積を増加させることが困難になる。
【0028】
ナノコンポジット層13は、凹部12aおよび微小窪み12bの底部と側面に設けられた、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれた層である。ナノコンポジット層13の材料および製造方法についての詳細は後述するが、ヨウ化物蛍光体とは、一般式Mii:Eu2+(Mii:Ca2+,Sr2+)で表される化合物ある。
【0029】
次に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層13についてさらに詳細に説明する。シリカは、SiO四面体がSi-O-Si結合で連結された基本骨格を有するアモルファス構造である。Si-O-Siの結合角度は、145°±10°の角度を有している。シリカを加熱すると、1000℃あたりまでは熱膨張率が小さいが、1000℃を超えたあたりから熱膨張率がなだらかに上昇する。これは、シリカ表面のOH基から活性水素が発生し、シリカの一部にSi-O-Si結合の切断、再配列が起こるためである。この時、Si-O-Siの結合角は180°になり、SiO連結網の中に大きな空隙が生じる。この空隙は、Sr2+,Cs,Ca2+,Eu2+,Tl等の金属の陽イオンおよびハロゲン等の陰イオンにとってポケットとなり、これらイオンがSiO連結網の中に取り込まれる。
【0030】
取り込まれたイオンは熱拡散により、陽イオンと陰イオンとが結合を起こし、イオン結晶核が生成する。イオン結晶核が生成されたことに触発され、マトリックス相のシリカも結晶化しクリストバライトが生成すると考えられる。このようにして、発光ハロゲン化金属塩の取り込みとSiOの結晶化が並行して起こり、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層13が生成されるものと推察される。
【0031】
図2は、本実施形態に係るシンチレータ材10の製造方法を模式的に示す工程図である。図2では、図1に示した基板11の一方の面に一つの凹部12aと複数の微小窪み12bを形成した例について説明するが、複数の凹部12aにそれぞれ複数の微小窪み12bを形成する場合でも同様の工程を実施することでシンチレータ材10を得ることができる。
【0032】
はじめに基板準備工程では、図2(a)に示すように石英ガラスからなる板状の基板11を用意し、基板11の一方の面に直径Dで深さHの凹部12aを形成する。凹部12aの形成方法は限定されないが、より深い凹部12aを形成するためにはマイクロマシニングセンタ等を用いて機械的加工により形成することが好ましい。
【0033】
次に図2(b)に示すように、凹部12aの底面に直径dで深さhの複数の微小窪み12bを形成する。微小窪み12bの形成方法は限定されないが、レーザ加工技術や切削加工技術を用いることができる。
【0034】
次に原料粉末準備工程では、ヨウ化物原料の粉末とSiO微粒子の粉末を混合して、原料粉末14を得る。ヨウ化物原料としては、Mii(Mii:Ca2+,Sr2+)およびEuIが挙げられる。ここで、Miiに対するEuIの比率は、5mol%以上15mol%以下が好ましい。EuIの比率が5mol%より少ないと、発光層内の発光元素の密度が低下し、発光強度の向上が困難になる。また、EuIの比率が15mol%より多いと、発光元素同士の緩衝による濃度消光が発生し、発光強度の向上が困難になる。
【0035】
またヨウ化物原料には、揮発しやすいI元素の補填を目的として、MI(M:NH ,Li,Na,K)を添加するとしてもよい。ここで、MIの添加量は、2価の金属イオン(Mii+Eu2+)に対し、1mol%以上120mol%以下が好ましい。MIの添加量が1mol%より少ないと、ヨウ素の補填効果がなく、ヨウ素欠損による結晶欠陥が発生しX線発光強度が低下する。また、MIの添加量が120mol%より多いと、凹部12a内に充填できる原材料の量が少なくなり、ナノコンポジット層13を十分な厚さで形成することが困難になる。
【0036】
また、SiO微粒子の平均粒径(D50)は0.1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。SiO微粒子の平均粒径が0.1μmより小さいと、粒子が細かすぎて嵩高となり原料充填部12への充填が困難になる可能性がある。また、SiO微粒子の平均粒径が10μmより大きいと、粒子の比表面積が小さくなるため反応性が低下し、ナノコンポジット層13の形成が不十分になる可能性がある。SiO微粒子の形成方法は限定されず、溶融法、ゾルゲル法、沈降法等の公知の方法によって得られたものを用いることができる。また、SiO微粒子として、予めヨウ化物原料をナノコンポジット化した蛍光体材料を粉末としたものを用いるとしてもよい。
【0037】
また、原料粉末14におけるSiO微粒子の含有量は、ヨウ化物原料に対して10mol%以上600mol%以下であることが好ましい。SiO微粒子の含有量が10mol%未満の場合には、ナノコンポジット層13の焼成時にヨウ化物原料が体積膨張して、凹部12aから溢れ出してナノコンポジット層13の形成範囲が凹部12aの外側にまで広がり、放射線検出時の解像度が低下する可能性がある。SiO微粒子の含有量が600mol%より多い場合には、ヨウ化物原料のナノコンポジット化がSiO微粒子との間で進行しすぎて、基板11の石英ガラスとの一体化が不十分となる可能性がある。
【0038】
次に図2(c)に示す材料充填工程では、原料粉末準備工程で用意した原料粉末14を原料充填部12(凹部12aおよび微小窪み12b)内に充填する。また、基板11上に蓋体15を配置して原料充填部12を覆う。蓋体15は、後述するナノコンポジット形成工程における加熱に耐え、かつ原料粉末14と反応しない材料であれば限定されず、例えばサファイア基板を用いることができる。
【0039】
ここで、原料粉末14を原料充填部12に充填する際には、粉末状のまま原料充填部12に充填した後に原料粉末14をタッピングする。原料充填部12に充填される原料粉末14の量は限定されないが、焼成時にヨウ化物原料が凹部12aから溢れ出ないように、凹部12aの深さHの80%以下までの充填量とすることが好ましく、より好ましくは60%以下である。また、原料充填部12内に微量のアルカリハロゲン化物を添加して、基板11を構成する石英ガラスとSiO微粒子の一体化を促進するとしてもよい。
【0040】
次に図2(d)に示すナノコンポジット形成工程では、蓋体15を配置した基板11を加熱して、ヨウ化物原料と基板11を構成する石英ガラスおよびSiO微粒子を反応させ、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層13を形成する。ここでナノコンポジット形成工程を実施する際の雰囲気は、水素を含有した窒素雰囲気を用いることが好ましい。また、加熱時の温度は850~1000℃の範囲が好ましい。
【0041】
図2(d)に示したナノコンポジット形成工程では、凹部12a内および微小窪み12b内においてヨウ化物原料とSiO微粒子の反応、およびヨウ化物原料と基板11を構成する石英ガラスとの反応が進行し、基板11と一体化したナノコンポジット層13が得られる。このとき、凹部12aおよび微小窪み12bの底面および側面に原料粉末14が接触しているため、ヨウ化物蛍光体の融解と浸透が底面と側面で進行し、凹部12aおよび微小窪み12bの底面および側面にナノコンポジット層13が形成される。
【0042】
また、原料粉末14にはヨウ化物原料とSiO微粒子が混合されているため、加熱時にヨウ化物原料が体積膨張し(例えば突沸現象などによる)、原料充填部12から溢れ出ることが抑制される。また、ナノコンポジット形成工程では、蓋体15で凹部12aを覆った状態で加熱処理を行うため、ヨウ素の揮発を抑制し、ヨウ化物蛍光体中のヨウ素欠損を抑制し、結晶性のよいヨウ化物蛍光体を得ることができ、並びに、ナノコンポジット層13の厚肉化を図ることができる。
【0043】
図2(a)~図2(d)に示した本実施形態の製造方法を用いることで、基板11の一方の面に凹部12aが設けられ、凹部12aの底部に複数の微小窪み12bが設けられ,凹部12aおよび微小窪み12bの底面および側面にナノコンポジット層13が設けられたシンチレータ材10が得られる。凹部12aには、複数の微小窪み12bが設けられているため、ナノコンポジット層13が形成される表面積は、凹部12aのみの場合よりも増加し、ナノコンポジット層13の体積も増加する。
【0044】
図3は、シンチレータ材10を用いた放射線検出装置100の構造を示す模式図である。図3に示すように放射線検出装置100は、シンチレータ材10と、容器20と、窓部材30と、光電子増倍管40(PMT:Photo Multiplier Tube)と、ブリーダ回路50と、遮光ケース60を備えている。
【0045】
容器20は、開口部を有する略円筒形状の部材であり、内部にシンチレータ材10を収容し、光電子増倍管40、ブリーダ回路50と遮光ケース60内で連結されている。開口部には窓部材30が接着剤等で気密に固定されている。容器20を構成する材料は限定されないが、一例としてはアルミニウムを用いることができる。また、容器20の形状は円筒形状に限定されず、内部に収容する各部材の形状や大きさに合わせて適宜設計することができる。また容器20には、図示しない配線孔が形成されており、外部から配線孔を介してブリーダ回路50に配線が接続されている。
【0046】
窓部材30は、シンチレータ材10からの発光を透過する材料で構成された板状の部材であり、容器20の開口部に配置されて容器20の内部を気密に封止している。窓部材30を構成する材料は限定されず、公知のガラス材料を用いることができる。窓部材30の外周と容器20の開口部の間は接着剤等が塗布されており、隙間からの水蒸気の侵入を抑制するために気密封止されている。
【0047】
光電子増倍管40は、微量の光子を検出して電気信号を出力する部材である。光電子増倍管40の構造は公知のものを用いることができ、一例としては、高真空のガラス容器中に光電陰極、複数の二次電子増倍電極(ダイノード)、陽極、およびその他の電極を封入した構造を有するものを用いることができる。光電子増倍管40の入射窓側にはシンチレータ材10が配置されており、出力側にはブリーダ回路50が接続されている。
【0048】
ブリーダ回路50は、高電圧電源からの電圧を複数の分割抵抗を介して光電子増倍管40に供給するとともに、光電子増倍管40からの電流を出力する部材である。高電圧電源からの複数の電圧は、光電子増倍管40の各ダイノードに供給されている。ブリーダ回路50の出力は、図示しない配線を介して検出信号として外部の信号処理部に伝達される。
【0049】
遮光ケース60は、光を遮る材質で構成されたケース状の部材であり、内部に容器20と、窓部材30と、シンチレータ材10と、光電子増倍管40と、ブリーダ回路50を収容している。図1では図示を省略しているが、遮光ケース60にはブリーダ回路50の配線を外部に引き出す孔部が設けられている。
【0050】
図3に示した放射線検出装置100では、ガンマ線などの放射線が遮光ケース60、及び容器20を透過してシンチレータ材10に入射すると、シンチレータ材10中の蛍光体材料が励起され、波長範囲が380nm以上500nm以下の青色光で発光する。シンチレータ材10で発光した青色光の光子は、窓部材30を通り光電子増倍管40の光電陰極に到達し、光電陰極で電子に変換される。光電陰極で生じた電子がダイノードに衝突すると、ダイノードに印加されている電圧によって多数の電子が放出され、複数のダイノードの間で電子放出が連鎖的に生じることで、1つの光子で生じた電子が雪崩のように増幅される。光電子増倍管40で増幅された電子による電流は、検出信号としてブリーダ回路50を介して外部の信号処理部に伝達され、信号処理部が光子と電流と検出信号の関係から光子数を算出する。また、信号処理部では、算出された光子数から放射線の強度を算出する。
【0051】
(実施例1)
実施例1に係るシンチレータ材10は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるCaI:Eu2+が取り込まれたものである。基板準備工程では、3mm厚で□15mm(15mm四方の正方形)の石英ガラスからなる基板11を用意し、研削加工により直径Dが6mm、深さHが1mmの凹部12aを基板11の表面および裏面に形成した。また、レーザ加工により102個の微小窪み12bを直径dが0.3mm、深さhが0.25mm、間隔が0.4mmで凹部12aの底部に千鳥格子状に形成した。表面と裏面に原料充填部12である凹部12aと微小窪み12bを形成した後に、オーブンで200℃で2時間の乾燥処理を施した。
【0052】
原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるCaI/EuI/NHIを精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、溶融法で得た平均粒径3μmのSiO微粒子を用意し、CaI/EuI/NHI/SiOのモル比が0.9/0.1/1.1/0.2となるようヨウ化物原料の粉末とSiO微粒子を混合して原料粉末14を得た。
【0053】
材料充填工程では、得られた0.09gの原料粉末14を表面の原料充填部12にタッピングしながら充填した。蓋配置工程では、蓋体15として□15mmのサファイア基板を用意し、原料充填部12を覆った。ナノコンポジット形成工程では、H/N=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板11を1000℃で10時間加熱して焼成を行った。また、基板11を裏返して裏面の原料充填部12にも同様の材料充填工程、蓋配置工程およびナノコンポジット形成工程を実施した。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部12aと各微小窪み12bの内部にナノコンポジット層13が形成された実施例1のシンチレータ材10を得た。
【0054】
(実施例2)
実施例2に係るシンチレータ材10は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI:Eu2+が取り込まれ、アルカリ金属イオンとしてNaを含むものである。基板準備工程では、4mm厚で□15mm(15mm四方の正方形)の石英ガラスからなる基板11を用意し、研削加工により直径Dが10mm、深さHが2mmの凹部12aを基板11の表面に形成した。また、切削加工により30個の微小窪み12bを直径dが0.8mm、深さhが0.2mm、間隔が1.6mmで凹部12aの底部に格子状に形成した。表面に原料充填部12である凹部12aと微小窪み12bを形成した後に、オーブンで200℃で2時間の乾燥処理を施した。
【0055】
原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるSrI/EuI/NaIを精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、ゾルゲル法で得た平均粒径0.12μmのSiO微粒子を用意し、SrI/EuI/NaI/SiOのモル比が0.88/0.12/0.02/1.0となるようヨウ化物原料の粉末とSiO微粒子を混合して原料粉末14を得た。
【0056】
材料充填工程では、得られた0.2gの原料粉末14を表面の原料充填部12にタッピングしながら充填した。蓋配置工程では、蓋体15として□15mmのサファイア基板を用意し、原料充填部12を覆った。ナノコンポジット形成工程では、H/N=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板11を880℃で5時間加熱して焼成を行った。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部12aと各微小窪み12bの内部にナノコンポジット層13が形成された実施例2のシンチレータ材10を得た。
【0057】
(比較例1)
基板11の凹部12a内に微小窪み12bを形成せず、凹部12aの底面が平坦な点だけ実施例1と異ならせて、凹部12a内にナノコンポジット層13が形成された比較例1のシンチレータ材10を得た。原料粉末14を充填する前の時点における凹部12aの底面は、表面粗さRaが0.4μm程度であった。
【0058】
(比較例2)
基板11の凹部12a内に微小窪み12bを形成せず、凹部12aの底面が平坦な点だけ実施例2と異ならせて、凹部12a内にナノコンポジット層13が形成された比較例2のシンチレータ材10を得た。原料粉末14を充填する前の時点における凹部12aの底面は、表面粗さRaが0.4μm程度であった。
【0059】
(紫外線励起による発光特性)
得られた実施例1,2のシンチレータ材10に対して、キセノンランプから分光した365nmの励起光を照射し、PL(Photoluminescence)発光による青色発光領域を調べた。図4は、シンチレータ材10の外観を示す写真であり、図4(a)は実施例1の微細窪み加工後の外観を示し、図4(b)は実施例2の微細窪み加工の外観を示し、図4(c)は実施例1のPL発光時の外観を示し、図4(d)は実施例2のPL発光時の外観を示している。図4(a)~図4(d)では、大きな円が凹部12aの外周を示し、複数の小さい円が微小窪み12bの外周を示している。図4(c)(d)における白色部分が青色発光している領域であり、凹部12aおよび微小窪み12bの底面および側面でのPL発光を確認できる。
【0060】
また、実施例1,2および比較例1,2のシンチレータ材10に対して、キセノンランプから分光した347nmの励起光を照射し、蛍光光度計を用いてPL発光スペクトルを測定した。図5は、シンチレータ材10のPLスペクトル図であり、図5(a)は実施例1と比較例1を示し、図5(b)は実施例2と比較例2を示している。図5(a)(b)において横軸は波長を示し、縦軸は相対発光強度を示している。図5(a)に示したように、実施例1および比較例1ともに約460nmのピーク波長が観測され、比較例1よりも実施例1のほうが発光強度が大きかった。また、図5(b)に示したように、実施例2および比較例2ともに約430nmのピーク波長が観測され、比較例2よりも実施例2のほうが発光強度が大きかった。これは、凹部12aの底部に複数の微小窪み12bを設けたことで、凹部12a内の比表面積が増大して、ナノコンポジット層13の体積が増加したためであると考えられる。
【0061】
(放射線励起による発光特性)
図6は、γ線の照射によるシンチレータ材10の発光性能を測定する装置の概要を示す模式図である。図6に示す測定装置では、光電子増倍管40にシンチレータ材10をセットし、鉛コリメータ70を介して放射線源80からガンマ線(γ線)を照射する。シンチレータ材10ではガンマ線によりナノコンポジット層13中の蛍光体材料が励起されて、430nmのピーク波長で発光する。このシンチレータ材10での発光を光電子増倍管40で測定する。放射線源80としては、137Csの662keVを用いた。
【0062】
図7は、ガンマ線照射によるシンチレータ材10の相対発光強度を示すグラフであり、図7(a)は実施例1と比較例1を示し、図7(b)は実施例2と比較例2を示している。図7(a)(b)では比較例1,2での発光強度を基準として相対発光強度を示している。図7(a)に示したように、比較例1に対して実施例1では、発光強度が約3.5倍まで向上している。また、図7(b)に示したように、比較例2に対して実施例2では、発光強度が約1.3倍まで向上している。これも、凹部12aの底部に複数の微小窪み12bを設けたことで、凹部12a内の比表面積が増大して、ナノコンポジット層13の体積が増加したためであると考えられる。
【0063】
上述したように、本実施形態のシンチレータ材10では、凹部12aの底部に複数の微小窪み12bが形成され、凹部12aおよび微小窪み12bにナノコンポジット層13を備えているため、基板11全体でのナノコンポジット層13の膜厚を増大させ、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能となる。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10…シンチレータ材
11…基板
12…原料充填部
12a…凹部
12b…微小窪み
13…ナノコンポジット層
14…原料粉末
15…蓋体
20…容器
30…窓部材
40…光電子増倍管
50…ブリーダ回路
60…遮光ケース
70…鉛コリメータ
80…放射線源
100…放射線検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7