(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088152
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
A63B37/00 212
A63B37/00 214
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203189
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐希
(57)【要約】
【課題】ボール表面に形成される塗料層について塗料のダレを抑制し、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善され、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性、マーク保護効果を改善できるゴルフボールを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、多数のディンプルを有するゴルフボール表面に少なくとも1層の塗料層を有するゴルフボールにおいて、上記塗料層の少なくとも1層が、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる2液硬化型ウレタン塗料組成物により形成され、上記ポリオール成分がアクリル系ポリオール又はポリエステル系ポリオールであり、上記塗料組成物の基材樹脂の固形分に対して5質量%未満のポリウレタン粒子を含有することを特徴とするゴルフボールを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のディンプルを有するゴルフボール表面に少なくとも1層の塗料層を有するゴルフボールにおいて、上記塗料層の少なくとも1層が、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる2液硬化型ウレタン塗料組成物により形成され、上記ポリオール成分がアクリル系ポリオール又はポリエステル系ポリオールであり、上記塗料組成物の基材樹脂の固形分に対して5質量%未満のポリウレタン粒子を含有することを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
上記ポリウレタン粒子の平均粒径が、BET法に基づく平均粒径で0.1~1.0μmである請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記2液硬化型ウレタン塗料組成物が、分子内に脂環構造を持つ水酸基含有ポリエステルポリオールを主体としたポリオール成分と、無黄変ポリイソシアネートとからなる請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記2液硬化型ウレタン塗料組成物が、アクリルポリオールを主体としたポリオール成分と、弾性変形ポリイソシアネートを主体としたイソシアネート成分とからなる請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記2液硬化型ウレタン塗料組成物において、2液を混合した後の粘度が、JIS K5600-2-2(1999)の試験方法で、0.025Pa・s以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール表面に2液硬化型ウレタン塗料を塗装したゴルフボールに関するものであり、更に詳述すると、均一な塗料層を形成し、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性に優れるゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの表面を保護する目的で、または美的外観を良好に維持する目的により、該ボール表面部分に塗料組成物による塗装が施されていることが多い。このようなゴルフボール用塗料組成物としては、大きな変形及び衝撃、摩擦に耐え得るなどの理由から、ポリオールとポリイソシアネートとを使用直前に混合して用いる2液硬化型ポリウレタン塗料が主に使用されている。
【0003】
従来ゴルフボールに使用される軟塗料は軟らかく、傷付き性、剥離性、光沢性に優れているが、ゴルフボールへ塗装時にディンプルのエッジ部分の膜厚が薄くなり、耐傷付き性、剥離性の弱い部分となり易かった。例えば、特許文献1には、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料組成物であって、ポリオールとして、アクリル系ポリオールを用いると共に、当該組成物による塗膜の弾性仕事回復率が70%以上である塗料組成物が記載されている。しかしながら、上記の弾性回復率の高い塗料組成物は、特にディンプルのような窪んだ曲面がある表面では、厚い塗膜を均一に形成することが困難であった。特に、ディンプルがディンプル以外のボール表面(土手部分)と隣接する部分であるエッジ部分で膜厚が薄くなり、そのため、耐傷付き性及び耐剥離性を十分に向上させることができず、また、ゴルフボールの空力性能の低下にもつながり得るという問題が生じていた。
【0004】
そのほか、特許文献2には、塗料に平均粒子径200nm以下であるシリカ粒子を含有したゴルフボールが提案されており、また、特許文献3には、アクリル-スチレン共重合樹脂などのポリマーゲル微粒子を分散した塗料が提案されている。しかしながら、これらの文献に記載されたゴルフボールについても、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性が十分に改善されているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-77357号公報
【特許文献2】特開2006-51357号公報
【特許文献3】特開平8-10356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善され、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性、マーク保護効果を改善し得るゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、多数のディンプルを有するゴルフボール表面に、2液硬化型ウレタン塗料組成物からなる塗料層を有するゴルフボールについて、上記ポリオール成分がアクリル系ポリオール又はポリエステル系ポリオールであると共に、塗料組成物の基材樹脂の固形分に対して5質量%未満のポリウレタン粒子を含有することにより、塗料のダレを抑制し、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善され、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性、マーク保護効果を改善することができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.多数のディンプルを有するゴルフボール表面に少なくとも1層の塗料層を有するゴルフボールにおいて、上記塗料層の少なくとも1層が、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる2液硬化型ウレタン塗料組成物により形成され、上記ポリオール成分がアクリル系ポリオール又はポリエステル系ポリオールであり、上記塗料組成物の基材樹脂の固形分に対して5質量%未満のポリウレタン粒子を含有することを特徴とするゴルフボール。
2.上記ポリウレタン粒子の平均粒径が、BET法に基づく平均粒径で0.1~1.0μmである上記1記載のゴルフボール。
3.上記2液硬化型ウレタン塗料組成物が、分子内に脂環構造を持つ水酸基含有ポリエステルポリオールを主体としたポリオール成分と、無黄変ポリイソシアネートとからなる上記1又は2記載のゴルフボール。
4.上記2液硬化型ウレタン塗料組成物が、アクリルポリオールを主体としたポリオール成分と、弾性変形ポリイソシアネートを主体としたイソシアネート成分とからなる上記1又は2記載のゴルフボール。
5.上記2液硬化型ウレタン塗料組成物において、2液を混合した後の粘度が、JIS K5600-2-2(1999)の試験方法で、0.025Pa・s以上である上記1又は2記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴルフボールによれば、塗料のダレを抑制し、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善され、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性、マーク保護効果を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ディンプルの横断面における、ディンプルの中央部及びエッジ部に形成された塗料層の厚さ(膜厚)を説明するための概略図である。
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、多数のディンプルを有するボール表面に、塗料組成物を塗装した塗料層を有する。この塗料層の役割は、ボール全体を保護すること、及び光沢と美観をボール表面に付与することである。具体的には、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる2液硬化型ウレタン塗料組成物を用いるものであり、更に、分子内に脂環構造を持つ水酸基含有ポリエステルポリオールを主体としたポリオール成分と無黄変ポリイソシアネートからなる2液硬化型ウレタン塗料組成物や、アクリルポリオールを主体としたポリオール成分と弾性変形ポリイソシアネートを主体とした2液硬化型ウレタン塗料組成物を採用することが好適である。
【0012】
分子内に脂環構造を持つ水酸基含有ポリエステルポリオールを主体としたポリオール成分と無黄変ポリイソシアネートからなる2液硬化型ウレタン塗料
分子内に脂環構造を持つ水酸基含有ポリエステルポリオールとは、分子内に脂環構造を有する多価アルコール成分と多塩基酸成分とを反応させて得られるものである。
【0013】
分子内に脂環構造を有する多価アルコール成分としては、好適には、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール、又はこれらの混合物が挙げられる。また分子内に脂環構造を有する多塩基酸成分としては、好適には、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、これらの酸無水物、これらの酸ハロゲン化物、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0014】
上記の分子内に脂環構造を有する多価アルコール成分や多塩基酸成分は、水酸基含有ポリエステルの構成成分の一部であっても全部であってもよい。分子内に脂環構造を有する多価アルコール成分は、全多価アルコール成分中に3質量%以上含有されているのが好ましく、更に5~40質量%含有されるのが好ましい。分子内に脂環構造を有する多塩基酸成分は、全多塩基酸成分中に5質量%以上含有されているのが好ましく、更に10~55質量%含有されるのが好ましい。脂環構造を有する多価アルコール成分、多塩基酸成分の含有量が上記範囲外であると、被覆ゴルフボールの砂摩耗と草汁汚染に対する耐久性が不十分となる。
【0015】
上記の分子内に脂環構造を有する多価アルコール成分に併用することのできる分子内に脂環構造を有さない多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3,3-ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0016】
上記の分子内に脂環構造を有する多塩基酸成分に併用することのできる分子内に脂環構造を有さない多塩基酸成分としては、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等のジカルボン酸、これらの酸無水物、これらの酸ハロゲン化物、又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0017】
上記のとおり、水酸基含有ポリエステルは、前記の多価アルコール成分と多塩基酸成分をエステル化反応させることによって得られるものである。このようにして得られる水酸基含有ポリエステルの質量平均分子量はGPC測定で3,000~35,000のものが好ましく、その水酸基価は50~300、特に150~250のものが好ましい。水酸基含有ポリエステルの質量平均分子量、水酸基価が前記範囲外であると、被覆ゴルフボールの砂摩耗と草汁汚染に対する耐久性が不十分となる。
【0018】
一方、無黄変ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等のアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体、又はこれらの混合物が好適である。
【0019】
上記の水酸基含有ポリエステルと無黄変ポリイソシアネートとは、水酸基含有ポリエステルの水酸基に対する無黄変ポリイソシアネートのイソシアネート基の比率(モル比)が0.8~1.3の範囲で使用することが好ましい。
【0020】
アクリルポリオールを主体としたポリオール成分と弾性変形ポリイソシアネートを主体とした2液硬化型ウレタン塗料
アクリルポリオールとは、アクリル系重合体からなる主鎖と、ポリエステル及び/又はポリエーテルからなる側鎖とから構成されたものである。
【0021】
上記アクリル系重合体の構造については特に制限はなく、アクリルの繰り返し単位を基本骨格として有していればどのような構造であってもよい。また、主鎖を構成するアクリル系モノマーは1種のみであっても、2種以上であってもよく、また、アクリル系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとを共重合させたものでもよい。
【0022】
アクリルポリオールの具体的構造としては、例えば、(i)アクリル系重合体の主鎖にラクトンやアルキレンオキサイド等の側鎖を構成する成分を付加させたもの、(ii)アクリル系重合体存在下に新たなモノマー及び開始剤を添加して、モノマーの重合によりアクリル系重合体の主鎖に側鎖をグラフトさせたもの、(iii)ポリエステルが付加されたアクリルモノマー(以下、「ポリエステル含有アクリルモノマー」と略記する)及び/又はポリエーテルが付加されたアクリルモノマー(以下、「ポリエーテル含有アクリルモノマー」と略記する)を単独重合させたもの、(iv)ポリエステル含有アクリルモノマー及び/又はポリエーテル含有アクリルモノマーと他のアクリル系モノマーとを共重合させたもの等を挙げることができる。
【0023】
一方、弾性変性ポリイソシアネートとは、上記したトリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等のジイソシアネートをモノマーとして用い、これに弾性を有する活性水素含有化合物をウレタン反応させ、NCO末端のプレポリマーとしたものである。なお、ウレタン反応の条件等については、特に制限はなく従来条件に従えば良い。
【0024】
上記ポリイソシアネートを弾性変性するための、弾性を有する活性水素含有化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、動植物系ポリオール又はこれらのコポリオールなどが挙げられる。特に、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、動植物系ポリオール及びこれらのコポリオールからなる群から選択される少なくとも1種のポリオールで変性された変性ポリイソシアネートを含んでいることが好ましい。また、得られる塗膜をより弾性化し、耐衝撃性を一層改善するという点から、これらのポリオールは0℃以下のTgを有していることが好ましい。なお、これらのポリオールは単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0025】
本発明においては、上記塗料組成物にはポリウレタン粒子が含有される。ポリウレタン粒子としては、熱可塑性ポリウレタン粒子や3次元架橋型ポリウレタン粒子が挙げられ、例えば、特開2017-78149号公報に記載されたポリウレタン粒子が例示される。このポリウレタン粒子としては、BET法に基づく平均粒子径が0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.2μm以上であり、上限値としては30μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以下であるものが用いられる。このように、所定範囲の平均粒子径を有するポリウレタン粒子を上記塗料組成物に添加することにより、塗料のダレを抑制し、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善され、塗料層の耐傷付き性及び耐剥離性、マーク保護効果を改善することができる。
【0026】
上記ポリウレタン粒子の配合量については、塗料組成物の基材樹脂の固形分対比で5質量%未満であり、好ましく3質量%未満、より好ましくは2質量%未満である。上記の上限値より大きくなると、塗膜の透明性に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、この配合量の下限値は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。この数値が小さすぎると、本発明の所望の効果である塗料層の膜厚の均一性の向上効果が小さくなる。
【0027】
上記塗料組成物は、上述したとおり、主剤としてアクリル系ポリオールまたはポリエステル系ポリオールを使用し、ポリイソシアネートを硬化剤として使用するものであり、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0028】
なお、上記塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
【0029】
上記塗料組成物については、ポリオール成分とイソシアネート成分の2液を混合した後の粘度が、JIS K5600-2-2(1999)の試験方法で、0.025Pa・s以上、より好ましくは0.030Pa・s以上とすることが、塗料のダレを抑制し、ディンプルの中央部分とエッジ部分との膜厚との膜厚エッジ比が改善される点から好適である。
【0030】
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、塗料組成物を塗装時に調整し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗膜層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
【0031】
なお、上記の乾燥工程については、公知の2液硬化型ウレタン塗料と同様であり、乾燥温度が約40℃以上、特に40~60℃、乾燥時間20~90分、特に40~50分とすることができる。
【0032】
上記塗料組成物については、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、又は電子線照射処理などのドライな表面処理を施したボール表面に対して塗装するとその効果が顕著に現れる。この場合、特に、プラズマ処理を施すことが好ましい。
【0033】
上記塗料組成物の塗装方法としては、ゴルフボールの表面塗装として普通に行われている方法を採用することができ、例えば、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装などの方法が挙げられ、塗膜の厚みは好ましくは5~50μm、より好ましくは10~30μmである。
【0034】
また、塗膜のエッジ比(%)は、塗膜の均一性を評価する指標となるものであり、上記エッジ比が50%以上、特に70%以上であることが好ましい。
【0035】
上記塗料組成物は、ワンピースゴルフボールやコアと該コアを被覆するカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボール、又は、1層以上のコアと該コアを被覆する多層のカバーとからなるマルチピースソリッドゴルフボール等、いずれのゴルフボールでも用いることができる。
【0036】
上記コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、チタン系、コバルト系、ニッケル系、ネオジウム系等のチーグラー系触媒,コバルト及びニッケル等の金属触媒により合成することができる。
【0037】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤,ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0038】
上記コアは、上記ゴム材料を加熱硬化させることにより得られる加熱成形物である。上記コアは単層又は複数層であってもよく、上記加熱成形物は、単層又は複数層のコアの全部又は一部に用いることができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形または射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、約100~200℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させてコアを製造することができる。
【0039】
上記カバーについては、コアを被覆する部材であり、少なくとも1層有し、例えば、2層カバーや3層カバー等のものが挙げられる。2層カバーの場合、各層は、内側を中間層、外側を最外層と称することがある。また、3層カバーの場合、各層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。なお、上記最外層の外表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルが多数形成される。
【0040】
カバー各層の材質については、特に制限はなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂、更にはポリウレタン樹脂により形成することができる。例えば、中間層にアイオノマー樹脂や高度に中和したアイオノマー樹脂、最外層にポリウレタン樹脂により形成することができる。
【0041】
上記のカバー各層の形成方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲にカバー材料を射出成形用金型で射出して被覆球体を得ることや、予め半殻球状に成形した2枚のハーフカップを中間層材として上記コアを包み加熱加圧成形することによりコアを包囲したカバーを有するツーピースゴルフボールを作製することもできる。
【0042】
なお、本発明のゴルフボールは、ボール質量、直径等のボール性状についてはゴルフ規則に従って適宜設定することができる。即ち、直径42.67mm以上、質量45.93g以下に形成することができる。
【実施例0043】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
〔実施例1,2、比較例1~4〕
直径40.2mmのコアに、厚み1.25mmのアイオノマー樹脂製カバーを射出成形して被覆したディンプル付きのゴルフボールを準備し、通常のように特定のロゴ(マーク部)をマーキングした後、下記のとおり、1層塗装及び2層塗装の塗装を行った。
【0045】
1層塗装
表1に示す主剤及び硬化剤からなる塗料組成物を用い、これを自動スプレーガンで塗料層の厚さが15μmになるように塗装した。これを55℃、1時間で乾燥して試験に供した。
【0046】
表1中のポリオール成分は、ポリアクリルポリオールとポリエステルポリオールとの混合物である。
【0047】
2層塗装
表2に示す主剤からなる水系プライマー組成物を用いてプライマー処理を行った。即ち、この水系プライマー組成物を自動スプレーガンで塗料層(内層)の厚さが8~9μmになるように塗装した。水系プライマー組成物は、カシュー社製の「アクリルプライマー」(主剤)と「Crosslinker CX-100」(硬化剤)と水とを質量比100:1.5:3で混合した材料である。これを55℃、30分で乾燥して試験に供した。
次に、表1の内容と同様に、表2に示す主剤及び硬化剤からなる塗料組成物を用い、これを自動スプレーガンで塗料層(外層)の厚さが20μmになるように塗装した。これを55℃、1時間で乾燥して試験に供した。
【0048】
得られた各例のゴルフボールについては、下記の試験方法(耐砂摩耗性試験及び耐水摩耗性試験)により、耐剥離性、耐傷付き性及びマーク保護効果を評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0049】
耐砂摩耗性試験
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg入れ、このポットミルに15個のゴルフボールを投入した。そして、ポットミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ゴルフボールをポットミルから取り出し、以下の基準により、ゴルフボール表面の外観を観察し、下記に記載する「耐剥離性」、「耐傷付き性」及び「マーク保護効果」の3項目を評価した。
【0050】
耐水摩耗性試験
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂及び水を約4kg入れ、このポットミルに15個のボールを投入した。そして、ポットミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ゴルフボールをポットミルから取り出し、UVライト(レイマック社製「IDHR-100S-UV-365」、以下同じ)をゴルフボールに照射して、下記に記載する「耐剥離性」、「耐傷付き性」及び「マーク保護効果」の3項目を評価した。
【0051】
〔耐剥離性〕
耐剥離性は、UVライトをゴルフボールに照射して、各ゴルフボールの表面における摩耗による剥離具合を観察した。下記の判断基準により点数化し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値により耐剥離性を評価した。
・剥離なし 5点
・小さな剥離が見られる 3点
・大きな剥離が目立つ 1点
【0052】
〔耐傷付き性〕
耐傷付き性は、ルーペによりゴルフボールの表面を拡大して、微細な塗膜の傷付き程度を観察した。下記の判断基準により評価し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値により耐傷付き性を評価した。
・目立った傷なし 5点
・小さな傷が見られる 3点
・大きな傷や艶の減退などが目立つ 1点
【0053】
〔マーク保護性〕
マーク保護性は、ルーペによりゴルフボールの表面を拡大して、マーク部の欠落の程度を観察した。下記の判断基準により評価し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値によりマーク保護効果を評価した。
・マーク部の欠落がない 5点
・マーク部が少し欠けている 3点
・マーク部の大きな欠落が目立つ 1点
【0054】
塗料組成物の粘度測定
なお、塗料組成物の粘度の測定については、ポリオールとポリイソシアネートとを混合した2液混合の直後に粘度を測定した。フローカップ法で測定し、粘度の特定はJIS K5600-2-2-1999に準じて実施した。測定機器は、アネスト岩田(株)製の製品名「NK-2」を使用し、温度22.8℃の室内にて実施した。
【0055】
エッジ比(%)
図1に示すディンプルDの横断面において、ディンプルの中央部Mとエッジ部E,Eにおける塗料層Pの厚さ(膜厚)tを求める。エッジ比は、下記式、
(ディンプルのエッジ部E,Eの膜厚の平均値)/(ディンプルの中央部Mの膜厚)×100(%)
によりエッジ比(%)を算出した。エッジ比が100%に近いほど膜厚が均一であることを示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、実施例1は、塗料組成物にウレタン微粒子を配合しない比較例1及びシリカ粒子を配合した比較例2よりもディンプル上の塗料層のエッジ比が高くなり、塗料層の均一性が改良されていることが分かる。また、耐剥離性、耐傷付き性及びマーク保護効果が改良されていることが分かる。
【0058】
【0059】
表2に示すように、実施例2は、塗料組成物にウレタン微粒子を配合しない比較例3及びシリカ粒子を配合した比較例4よりもディンプル上の塗料層のエッジ比が高くなり、塗料層の均一性が改良されていることが分かる。また、耐剥離性、耐傷付き性及びマーク保護効果が改良されていることが分かる。