(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088155
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】連続式熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/607 20060101AFI20240625BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20240625BHJP
C21D 1/63 20060101ALI20240625BHJP
C21D 1/46 20060101ALI20240625BHJP
C21D 1/20 20060101ALI20240625BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240625BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20240625BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20240625BHJP
F27B 9/39 20060101ALI20240625BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20240625BHJP
F27B 9/12 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C21D1/607
C21D1/00 112D
C21D1/63
C21D1/46 A
C21D1/20
C21D1/00 121
C21D9/00 A
F27D7/02 Z
F27D9/00
F27B9/39
F27B9/02
F27B9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203193
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000111845
【氏名又は名称】パーカー熱処理工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖大
(72)【発明者】
【氏名】小松原 健太
(72)【発明者】
【氏名】尾上 淳一
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
4K050
4K063
【Fターム(参考)】
4K034AA05
4K034AA16
4K034AA19
4K034CA05
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4K042AA25
4K042BA01
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4K063BA02
4K063CA03
4K063CA05
4K063DA05
4K063DA13
4K063DA15
4K063DA34
4K063EA06
4K063EA10
(57)【要約】
【課題】連続式熱処理装置において、硝酸塩浴から発生する水蒸気をシュート空間内において効果的に除去する。
【解決手段】連続式熱処理装置1は、加熱炉3と、加熱炉3で加熱処理された金属部材を投下する投下シュート装置4と、投下シュート装置4により金属部材が投入される硝酸塩浴槽6と、を有し、投下シュート装置4は、鉛直方向に延びるシュート空間を形成する周壁41と、シュート空間を水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、不活性ガスを供給するガス供給部42と、シュート空間内のガスを吸引排気するガス排出部43と、を有し、ガス供給部42は、上流側通路421から分岐した下流側通路であって、各々がシュート空間内に連通する2以上の分岐通路425と、を有し、2以上の分岐通路425の各々は、水平方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って広がるように形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、
前記金属部材を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉で加熱処理された前記金属部材を鉛直方向下方に投下するための投下シュート装置と、
前記投下シュート装置の下方に配置され、当該投下シュート装置により前記金属部材が投入される硝酸塩浴を収容する硝酸塩浴槽と、
を有し、
前記投下シュート装置は、
鉛直方向に延びるシュート空間を形成する周壁と、
前記シュート空間を水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、当該不活性ガスを前記シュート空間内に供給するガス供給部と、
前記シュート空間内のガスを当該シュート空間から吸引排気するガス排出部と、
を有し、
前記ガス供給部は、
前記シュート空間内に供給すべき前記不活性ガスが供給される上流側通路と、
前記上流側通路から2以上に分岐した下流側通路であって、各々が前記シュート空間内に連通する2以上の分岐通路と、
を有し、
前記2以上の分岐通路の各々は、少なくとも部分的に、水平方向の幅が前記不活性ガスの流れ方向に沿って広がるように形成されている、
ことを特徴とする連続式熱処理装置。
【請求項2】
前記2以上の分岐通路の各々は、更に、少なくとも部分的に、鉛直方向の幅が前記不活性ガスの流れ方向に沿って狭まるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の連続式熱処理装置。
【請求項3】
前記周壁には、幅広の略矩形状を有し、前記2以上の分岐通路の各々に連通する2以上のガス供給口が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項4】
前記2以上のガス供給口は、水平方向に等間隔で整列するように配置されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の連続式熱処理装置。
【請求項5】
前記2以上のガス供給口の総開口面積は、4×10-3(m2)以上で8×10-3(m2)以下である、
ことを特徴とする請求項4に記載の連続式熱処理装置。
【請求項6】
前記ガス排出部は、吸引排気する前記シュート空間内のガスが流れる1以上のガス排出通路を有し、
前記周壁には、幅広の略矩形状を有し、前記1以上のガス排出通路に連通する1以上のガス排出口が形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の連続式熱処理装置。
【請求項7】
前記ガス供給口と前記ガス排出口とは、鉛直方向において略同一高さに配置されている、
ことを特徴とする請求項6に記載の連続式熱処理装置。
【請求項8】
前記1以上のガス排出口の総開口面積は、2×10-2(m2)以上である、
ことを特徴とする請求項7に記載の連続式熱処理装置。
【請求項9】
前記ガス供給部は、前記不活性ガスを前記硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源を更に有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項10】
前記周壁は、水平方向に沿った断面が略矩形状を有する四角柱状に形成され、
前記2以上の分岐通路の各々は、前記周壁の第1の側面に形成された2以上のガス供給口と連通し、
前記ガス排出部は、吸引排気する前記シュート空間内のガスが流れる3つのガス排出通路を有し、前記3つのガス排出通路の各々は、前記周壁の前記第1の側面に対向する第2の側面と、前記周壁の前記第1及び第2の側面に挟まれた第3及び第4の側面と、の各々に形成されたガス排出口と連通する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項11】
前記2以上のガス供給口は、幅広の略矩形状を有すると共に、水平方向に整列するように配置され、
前記2以上のガス供給口の水平方向の合計長さは、前記周壁の前記第1の側面の水平方向の長さの90%以上である、
ことを特徴とする請求項10に記載の連続式熱処理装置。
【請求項12】
前記ガス排出部の近傍を水平方向に流れる前記シュート空間内のガスの移動速度が0.6(m/s)以上で、且つ、前記ガス排出部の近傍を鉛直方向上方に流れる前記シュート空間内のガスの移動速度が0.3(m/s)以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項13】
前記ガス供給部は、前記不活性ガスを7m3/h以上の流量で供給する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項14】
前記ガス排出部は、前記ガス供給部が前記不活性ガスを供給する流量よりも大きな流量で、前記シュート空間内のガスを吸引排気する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項15】
前記周壁により形成される前記シュート空間の水平方向に沿った断面積は、0.4(m2)以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項16】
金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、
前記金属部材を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉で加熱処理された前記金属部材を鉛直方向下方に投下するための投下シュート装置と、
前記投下シュート装置の下方に配置され、当該投下シュート装置により前記金属部材が投入される硝酸塩浴を収容する硝酸塩浴槽と、
を有し、
前記投下シュート装置は、
鉛直方向に延びるシュート空間を形成する周壁と、
前記シュート空間を水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、当該不活性ガスを前記シュート空間内に供給するガス供給部と、
前記シュート空間内のガスを当該シュート空間から吸引排気するガス排出部と、
を有し、
前記ガス供給部は、前記不活性ガスを前記硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源を更に有する、
ことを特徴とする連続式熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属部材を加熱処理する加熱炉と、加熱炉で加熱処理された金属部材を、鉛直方向(上下方向)に延びるシュート空間内に投下する投下シュート装置と、投下シュート装置から金属部材が投入され、金属部材の冷却を行うための浴槽と、を有する連続式熱処理装置が知られている(例えば特許文献1)。特に、特許文献1には、主に浴槽から発生するソルトヒュームがシュート空間を介して加熱炉に侵入することを抑制する技術が記載されている。詳しくは、特許文献1には、シュート空間内を水平方向に横断するように不活性ガスをノズルから噴射して、この不活性ガスの流れを利用して、塩浴(ソルトバス)から発生するソルトヒュームを含むシュート空間内ガスを吸引排気する技術が記載されている。また、当該技術では、このような不活性ガスにより、加熱炉内の雰囲気ガスが塩浴槽へ到達することも防止している。
【0003】
他方で、上記したような連続式熱処理装置において、塩浴により金属部材に対して恒温熱処理を行う技術が知られている。この恒温熱処理には、オーステンパ処理やマルテンパ処理がある。これらの熱処理では、溶融した硝酸塩を含む硝酸塩浴が、冷却媒体として広く利用されている。
【0004】
オーステンパ処理では、まず、金属部材が、800~900℃の無酸化雰囲気中で15~60分間加熱保持されることにより、オーステナイト組織へと変態される。そして、この金属部材は、300~430℃程度に保持された硝酸塩浴へと即座に浸漬されて急速冷却された後、硝酸塩浴中で15~60分間保持される。これにより、オーステナイト組織が均一なベイナイト組織へと変態される。このようなオーステンパ処理が行われた部材は、靭性や耐衝撃性などの機械的特性に優れ、且つ、熱処理変形が小さいという利点を有する。しかしながら、オーステンパ処理では、合金含有量が少ないために焼入性が乏しい材料(機械構造用炭素鋼や炭素工具鋼など)が主に用いられているので、処理可能な部材が小さいサイズのものに限定される傾向にあった。
【0005】
続いて、マルテンパ処理では、まず、金属部材が、800~900℃の無酸化雰囲気中で15~60分間加熱保持されることにより、オーステナイト組織へと変態される。そして、この金属部材は、160~250℃程度に保持された硝酸塩浴へと即座に浸漬されて急速冷却された後、硝酸塩浴中で5~60分間保持された後、その後の冷却(例えば水冷)により、オーステナイト組織が均一なマルテンサイト組織へと変態される。このようなマルテンパ処理が行われた部材は、熱処理による変形が小さいという利点を有する。しかしながら、マルテンパ処理では、冷却媒体の温度が比較的高く、急速冷却時の冷却速度が遅いため、処理可能な部材が小さいサイズのものに限定される傾向にあった。
【0006】
ここで、本件発明者の知見によれば、上記のような恒温熱処理で処理可能な部材サイズを拡大するには、冷却媒体である硝酸塩浴の冷却能力を向上させることが有効である。硝酸塩浴の冷却能力を向上させるためには、従来から、硝酸塩浴に水を添加することが良いことが知られている(例えば非特許文献1参照)。硝酸塩浴に水を添加すると、水の分子が、硝酸塩と分子間結合し、この分子間結合のエネルギーは小さいため、800~900℃まで加熱された部材と接した瞬間に切れる。その結果、部材の気化潜熱が奪われると共に、水分子が蒸気泡となって部材周囲の硝酸塩浴を攪拌させることで、冷却性能が向上すると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】オーステンパ処理用溶融塩浴の冷却能に及ぼす水添加の影響(小松原健太・渡邊陽一・奈良崎道治)
【非特許文献2】工業炉の基礎知識改訂版(一般財団法人 日本工業炉協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、本件発明者の知見によれば、恒温熱処理で処理可能な部材サイズを拡大するためには、硝酸塩浴に水を添加することで硝酸塩浴の冷却能力を向上させるのが良い。しかしながら、このように硝酸塩浴に水を添加すると、硝酸塩浴から比較的多量の水蒸気が発生し、この水蒸気がシュート空間を介して加熱炉に侵入すると、例えば加熱炉雰囲気が乱されたり製品が脱炭したりする原因となり得る。したがって、本件発明者の更なる知見によれば、このように硝酸塩浴から発生する比較的多量の水蒸気を確実に除去することが望ましい。
【0010】
ここで、特許文献1に記載されているように、シュート空間内を水平方向に横断するようにガスを供給し、このガスの流れを利用して、浴槽から発生するガスを含むシュート空間内ガスを排出する技術がある。しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ノズル上に間隔を空けて形成された複数の小穴からシュート空間内にガスを噴射していたため、硝酸塩浴から発生する比較的多量の水蒸気を確実に除去するために十分なガスの流れを形成することは困難であった。
【0011】
なお、硝酸塩浴から発生する水蒸気対策として、上記の特許文献1に記載されたような手法(つまりシュート空間内にガスを供給してシュート空間内において水蒸気を排出する手法)の他に、プロパン等のエンリッチガスを炉内に追加供給する手法がある(例えば非特許文献2参照)。加熱炉に水蒸気が侵入すると加熱炉の露点が上昇することになるが、後者の手法では、加熱炉に侵入する水蒸気に対抗してエンリッチガスを炉内に追加供給することで、加熱炉の露点を所定値まで低減させるようにしている。しかしながら、この手法では、エンリッチガスを多量に使用する必要があり、また、加熱炉内に大量の煤が短期間で堆積して炉内状態を劣悪化させることがある。また、この煤がベルトで搬送されて硝酸塩浴槽へと落下することで、硝酸塩浴が汚染されるという問題も起こり得る。
【0012】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものである。本発明の目的は、加熱炉で加熱処理された金属部材を投下シュート装置により硝酸塩浴に投入する連続式熱処理装置において、硝酸塩浴から発生する水蒸気をシュート空間内において効果的に除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、金属部材を加熱処理する加熱炉と、加熱炉で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下するための投下シュート装置と、投下シュート装置の下方に配置され、当該投下シュート装置により金属部材が投入される硝酸塩浴を収容する硝酸塩浴槽と、を有し、投下シュート装置は、鉛直方向に延びるシュート空間を形成する周壁と、シュート空間を水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、当該不活性ガスをシュート空間内に供給するガス供給部と、シュート空間内のガスを当該シュート空間から吸引排気するガス排出部と、を有し、ガス供給部は、シュート空間内に供給すべき不活性ガスが供給される上流側通路と、上流側通路から2以上に分岐した下流側通路であって、各々がシュート空間内に連通する2以上の分岐通路と、を有し、2以上の分岐通路の各々は、少なくとも部分的に、水平方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って広がるように形成されている、ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る投下シュート装置では、不活性ガスが供給される上流側通路から2以上に分岐した分岐通路の各々の少なくとも一部を不活性ガスの流れ方向に沿って水平方向の幅が広くなるように形成して、このような2以上の分岐通路を介して不活性ガスをシュート空間内に供給する。したがって、特許文献1のようにノズル上に間隔を空けて形成された複数の小穴からシュート空間内にガスを噴射する構成と比べて、不活性ガスをより広範囲に且つより均一にシュート空間内に供給することができる。例えば、本発明によれば、水平方向(ある水平面内)においてシュート空間全域に亘る均一なガスの流れを形成することができる。このように水平方向により広範囲に形成される不活性ガスの流れは、硝酸塩浴から発生する水蒸気が当該不活性ガスの流れを下から上へ貫いて移動することを効果的に抑制して、当該水蒸気などを含むシュート空間内ガスをシュート空間から効果的に排出することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、2以上の分岐通路の各々は、更に、少なくとも部分的に、鉛直方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って狭まるように形成されている。
上記のように2以上の分岐通路の水平方向の幅を流れ方向に沿って広がるように形成すると、ガス供給部から供給される不活性ガスの速度が低下する懸念があるが、2以上の分岐通路の鉛直方向の幅(高さ)を流れ方向に沿って狭まるように更に形成することで、ガス供給部から供給される不活性ガスの速度の低下を抑えることができる。よって、水平方向においてシュート空間のより広範囲に亘る均一なガスの流れを所望の速度で効果的に形成することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、周壁には、幅広の略矩形状を有し、2以上の分岐通路の各々に連通する2以上のガス供給口が形成されている。
このように幅広の略矩形状を有する2以上のガス供給口からシュート空間内に不活性ガスを供給することで、特許文献1のように複数の小穴からシュート空間内にガスを噴射する構成と比べて、水平方向においてシュート空間のより広範囲に亘る均一なガスの流れを、より効果的に形成することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、2以上のガス供給口は、水平方向に等間隔で整列するように配置されている。
このように構成された本発明によれば、水平方向においてシュート空間のより広範囲に亘る均一なガスの流れを、より効果的に形成することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、2以上のガス供給口の総開口面積は、4×10-3(m2)以上で8×10-3(m2)以下である。
当該下限値を下回る場合、ガス供給口での圧損による流体エネルギーの減衰及び流速の減衰が過大となり、不活性ガスの所望の流れを効果的に形成することができない。一方、当該上限値を上回る場合、ガス供給口からのガスの分散による流速の減衰が過大となり、不活性ガスの所望の流れを効果的に形成することができない。
【0019】
本発明において、好ましくは、ガス排出部は、吸引排気するシュート空間内のガスが流れる1以上のガス排出通路を有し、周壁には、幅広の略矩形状を有し、1以上のガス排出通路に連通する1以上のガス排出口が形成されている。
このように構成された本発明によれば、幅広の略矩形状を有する1以上のガス排出口を用いることで、シュート空間内ガスをより効果的に吸引排気することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、ガス供給口とガス排出口とは、鉛直方向において略同一高さに配置されている。
このように構成された本発明によれば、ガス供給口によって供給される不活性ガス及び当該不活性ガスにより捕捉されるシュート空間内ガスを、ガス排出口によって、より効果的に吸引排気することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、1以上のガス排出口の総開口面積は、2×10-2(m2)以上である。
本件発明者の知見によれば、当該条件が満たされる時、ガス排出部によってシュート空間内ガスをより効果的に吸引排気することができる。
【0022】
本発明において、好ましくは、ガス供給部は、不活性ガスを硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源を更に有する。
このように構成された本発明によれば、シュート空間内に浮遊し得る、硝酸塩浴からのソルトヒューム(硝酸塩浴から揮発(ヒューム化)した硝酸塩)が、不活性ガスにより冷却されてガス供給部やガス排出部付近で凝結することを防止できる。
【0023】
本発明において、好ましくは、周壁は、水平方向に沿った断面が略矩形状を有する四角柱状に形成され、2以上の分岐通路の各々は、周壁の第1の側面に形成された2以上のガス供給口と連通し、ガス排出部は、吸引排気するシュート空間内のガスが流れる3つのガス排出通路を有し、3つのガス排出通路の各々は、周壁の第1の側面に対向する第2の側面と、周壁の第1及び第2の側面に挟まれた第3及び第4の側面と、の各々に形成されたガス排出口と連通する。
このように構成された本発明では、周壁の3つの側面のそれぞれにガス排出通路を設けるようにガス排出部を構成することで、シュート空間内ガスを広範囲から吸引排気することができる。したがって、シュート空間からシュート空間内ガスをより効果的に排出することができる。
【0024】
本発明において、好ましくは、2以上のガス供給口は、幅広の略矩形状を有すると共に、水平方向に整列するように配置され、2以上のガス供給口の水平方向の合計長さは、周壁の第1の側面の水平方向の長さの90%以上である。
このように構成された本発明によれば、水平方向においてシュート空間の略全域に亘る不活性ガスの流れをより効果的に形成することができる。
【0025】
本発明において、好ましくは、ガス排出部の近傍を水平方向に流れるシュート空間内のガスの移動速度が0.6(m/s)以上で、且つ、ガス排出部の近傍を鉛直方向上方に流れるシュート空間内のガスの移動速度が0.3(m/s)以下である。
当該条件が満たされる時、水蒸気の加熱炉への侵入を実質的に完全に防止することができる。
【0026】
本発明において、好ましくは、ガス供給部は、不活性ガスを7m3/h以上の流量で供給する。
当該条件が満たされる時、比較的高速の不活性ガスの流れを形成することができ、シュート空間内ガスをより効果的に排出することができる。
【0027】
本発明において、好ましくは、ガス排出部は、ガス供給部が不活性ガスを供給する流量よりも大きな流量で、シュート空間内のガスを吸引排気する。
当該条件が満たされる時、シュート空間内ガスをより効果的に吸引排気することができる。
【0028】
本発明において、好ましくは、周壁により形成されるシュート空間の水平方向に沿った断面積は、0.4(m2)以下である。
当該条件が満たされる時、ガス供給部からガス排出部までの距離が比較的短くなるため、比較的高速の不活性ガスの流れを形成することができ、シュート空間内ガスをより効果的に排出することができる。
【0029】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、金属部材を加熱処理する加熱炉と、加熱炉で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下するための投下シュート装置と、投下シュート装置の下方に配置され、当該投下シュート装置により金属部材が投入される硝酸塩浴を収容する硝酸塩浴槽と、を有し、投下シュート装置は、鉛直方向に延びるシュート空間を形成する周壁と、シュート空間を水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、当該不活性ガスをシュート空間内に供給するガス供給部と、シュート空間内のガスを当該シュート空間から吸引排気するガス排出部と、を有し、ガス供給部は、不活性ガスを硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源を更に有する、ことを特徴とする。
このように構成された本発明に係る投下シュート装置では、ガス供給部が、不活性ガスを硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源を有している。これにより、シュート空間内に浮遊し得る、硝酸塩浴からのソルトヒュームが、不活性ガスにより冷却されてガス供給部やガス排出部付近で凝結することを防止できる。したがって、ガス供給部からの不活性ガスの供給及びガス排出部からのシュート空間内ガスの排出を確保することができる。よって、硝酸塩浴から発生する水蒸気の除去を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、加熱炉で加熱処理された金属部材を投下シュート装置により硝酸塩浴に投入する連続式熱処理装置において、硝酸塩浴から発生する水蒸気をシュート空間内において効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る投下シュート装置の斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る投下シュート装置の側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る投下シュート装置の上面図である。
【
図5】
図3中のV-V線に沿って見た、本発明の実施形態に係る投下シュート装置のガス供給部の一部分の断面図である。
【
図6】
図4中のVI-VI線に沿って見た、本発明の実施形態に係る投下シュート装置のガス供給部の一部分の断面図である。
【
図7】
図4中の矢印A3方向から見た、本発明の実施形態に係る投下シュート装置の周壁の第1の側面の一部分の正面図である。
【
図8】
図3中のVIII-VIII線に沿って見た、本発明の実施形態に係る投下シュート装置のガス排出部の断面図である。
【
図9】熱処理の実験を行った金属部材(供試材)の断面組織において確認された、未脱炭組織の一例を示す写真である。
【
図10】熱処理の実験を行った金属部材(供試材)の断面組織において確認された、脱炭組織の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による連続式熱処理装置について説明する。
【0033】
[連続式熱処理装置の全体構成]
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成を示す概略構成図である。
【0034】
図1に示すように、連続式熱処理装置1は、主に、処理対象となっている金属部材(鉄鋼部材など)を搬送する搬送装置2と、搬送装置2で搬送された金属部材を加熱処理する加熱炉3と、加熱炉3で加熱処理された金属部材を投下する投下シュート装置4と、投下シュート装置4により投下された金属部材を恒温熱処理する硝酸塩浴槽6と、硝酸塩浴槽6で恒温熱処理された金属部材を洗浄する水洗槽7と、水洗槽7で洗浄された金属部材を乾燥する乾燥装置8と、を有する。
【0035】
具体的には、搬送装置2は、電磁石を備えたコンベアで金属部材を搬送する。加熱炉3は、金属部材を搬送するメッシュベルト32と、金属部材を加熱するヒータ31と、を有する。ヒータ31は、金属部材がメッシュベルト32の搬送端まで移動する間に、無酸化雰囲気中において、金属部材を800~900℃に加熱すると共に、この金属部材の加熱状態を5~60分程度保持する。その結果、金属部材がオーステナイト組織へと変態する。
【0036】
次に、投下シュート装置4は、加熱炉3と硝酸塩浴槽6とに連通するように鉛直方向(上下方向)に延びるシュート空間を含み、加熱炉3で加熱処理された金属部材をシュート空間内に投下する、換言すると金属部材を自由落下させる。投下シュート装置4は、加熱炉3から硝酸塩浴槽6への金属部材の自由落下の工程において、無酸化雰囲気の維持や、金属部材の温度低下防止の目的で設けられている。
【0037】
次に、硝酸塩浴槽6は、溶融された硝酸塩を含み、投下シュート装置4から投入された金属部材を恒温熱処理(オーステンパ処理やマルテンパ処理)する硝酸塩浴61と、硝酸塩浴61を加熱するヒータ62と、硝酸塩浴61内の硝酸塩を汲み上げるソルトポンプ63と、硝酸塩浴61で恒温熱処理された金属部材を搬送するコンベア64と、コンベア64を加熱するヒータ65と、を有する。硝酸塩浴槽6は、投下シュート装置4から投入された金属部材を、硝酸塩浴61で冷却して、5~60分程度、等温保持する。その結果、上記のように加熱炉3でオーステナイト組織へと変態された金属部材は、硝酸塩浴61の温度が300~430℃である場合にはベイナイト組織へと変態する一方で、硝酸塩浴61の温度が160~250℃である場合にはマルテンサイト組織へと変態される。なお、処理対象となっている金属部材の鋼種に応じて、その組織が変態する温度が異なるため、生産現場では、硝酸塩浴61の温度がヒータ62等により適宜調節される。
【0038】
また、硝酸塩浴槽6の硝酸塩浴61には、冷却能力の向上のために水が添加される。硝酸塩浴61への水の添加は、図示しない所定の装置で行われてもよいし、作業者の手作業により行われてもよい。こうして硝酸塩浴61に水を添加すると、水の分子が、硝酸塩と分子間結合し、この分子結合が、800~900℃まで加熱された金属部材と接した瞬間に切れる。その結果、金属部材の気化潜熱が奪われると共に、水分子が蒸気泡となって部材周囲の硝酸塩浴61を攪拌させることで、冷却性能が向上すると考えられる。
【0039】
また、硝酸塩浴槽6のコンベア64は、硝酸塩浴61で恒温熱処理された金属部材を硝酸塩浴61から引き上げて搬送し、水洗槽7へと投下する。また、硝酸塩浴槽6のヒータ65は、こうしてコンベア64により金属部材が搬送されている間に、金属部材に付着した硝酸塩が冷えて固体化することによる金属部材とコンベア64との固着などを防止するために、200~300℃程度にコンベア64を加熱する。
【0040】
次に、水洗槽7は、上記のように硝酸塩浴槽6のコンベア64より金属部材が投入されて、この金属部材の表面に付着した硝酸塩を槽内の水により除去する。また、水洗槽7は、金属部材を搬送するコンベア71と、コンベア71で搬送される金属部材に洗浄水を散布するシャワー72と、を有する。乾燥装置8は、こうしてシャワー72により洗浄された後の金属部材に対して熱風を供給することで、金属部材を乾燥させる。
【0041】
[投下シュート装置の構成]
次に、
図2乃至
図4を参照して、本実施形態に係る投下シュート装置4の全体構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る投下シュート装置4の要部の斜視図である。
図3は、本実施形態に係る投下シュート装置4の側面図である。
図4は、本実施形態に係る投下シュート装置4の上面図である(
図4では部分的に断面図を示している)。
【0042】
図2乃至
図4に示すように、投下シュート装置4は、鉛直方向に延び、金属部材が通過するシュート空間41xを形成する周壁41と、周壁41上に設けられ、シュート空間41x内を水平方向に横断する不活性ガス(窒素ガスなど)の流れを生じさせるように、不活性ガスをシュート空間41x内に供給するガス供給部42と、鉛直方向においてガス供給部42に対応する高さ位置の周壁41上に設けられ、硝酸塩浴61から発生する水蒸気及びソルトヒューム、並びに不活性ガスを含むシュート空間内ガスを吸引して、当該シュート空間内ガスをシュート空間41xから排出するガス排出部43と、を有する。特に
図4に示すように、周壁41は、水平方向に沿った断面が略矩形状であり、第1乃至第4の側面41a~41dを含む四角柱状に形成されており、ガス供給部42は、周壁41の第1の側面41aに設けられ、ガス排出部43は、周壁41において第1の側面41aに対向する第2の側面41bと、周壁41において第1及び第2の側面41a、41bに挟まれた第3及び第4の側面41c、41dと、に設けられている。なお、これらガス供給部42及びガス排出部43の詳細は後述する。
【0043】
また、
図3に示すように、投下シュート装置4は、上記のガス供給部42及びガス排出部43の下方に設けられ、周壁41の外側面に沿って硝酸塩を水平方向に流すための硝酸塩流通装置45と、この硝酸塩流通装置45の更に下方に設けられ、シュート空間41x内に硝酸塩によるソルトカーテンを発生させるソルトカーテン発生装置46と、を更に有する。なお、
図2では、説明の便宜上、硝酸塩流通装置45及びソルトカーテン発生装置46の図示を省略している。
【0044】
硝酸塩流通装置45は、周壁41の外側を覆うカバー451を有し、硝酸塩浴槽6のソルトポンプ63によって汲み上げられた硝酸塩が供給され(硝酸塩の供給に関する構成については不図示)、この硝酸塩をカバー451と周壁41との間の空間452内に水平方向に常時流すように動作する。これにより、シュート空間41xを加温することで、シュート空間41xを自由落下中の金属部材の温度低下を防止することができる。
【0045】
ソルトカーテン発生装置46は、周壁41の第1及び第2の側面41a、41bのそれぞれに設けられた一対の装置から構成される。この一対のソルトカーテン発生装置46は、それぞれ、周壁41の外側面を覆うように取り付けられた金属板461と、金属板461の外側を覆うカバー462と、周壁41及び金属板461を通してシュート空間41xに連通するように形成されたスリット463と、を有する。ソルトカーテン発生装置46は、硝酸塩浴槽6のソルトポンプ63によって汲み上げられた硝酸塩が供給され(硝酸塩の供給に関する構成については不図示)、この硝酸塩をスリット463からシュート空間41x内にカーテン状に噴射することで(矢印A12参照)、金属部材が硝酸塩浴61に投入されるときに跳ね返る硝酸塩をブロックする。これにより、硝酸塩が投下シュート装置4の上流側の加熱炉3に侵入することで、加熱炉3の構成部品が汚損したり、硝酸塩が熱分解して加熱炉3の雰囲気に悪影響を及ぼしたりすることを防止できる。このようなソルトカーテン発生装置46で硝酸塩をブロックしきれずに硝酸塩が周壁41の内側面に飛散する場合があるが、この場合でも、上記した硝酸塩流通装置45により空間452内に流される硝酸塩によって、周壁41の内側面での硝酸塩の凝結及び堆積を防止することができる。
【0046】
なお、投下シュート装置4は、ソルトカーテン発生装置46の点検や清掃等のために、連続式熱処理装置1から取り外せるように構成されている。したがって、投下シュート装置4においては、このような点検や清掃等の作業性を考慮して、ガス供給部42及びガス排出部43は、周壁41の上端から200(mm)程度下方の位置に設置されるのが良い。また、ガス供給部42から供給される不活性ガスが、硝酸塩浴61の硝酸塩浴液面やソルトカーテン発生装置46のソルトカーテンに接触することを防ぐために、ガス供給部42及びガス排出部43は、ソルトカーテン発生装置46の設置個所から400(mm)以上上方の位置、例えば450mmの位置、に設置されるのが良い。
【0047】
次に、
図2及び
図4に加えて、
図5乃至
図7を参照して、本実施形態に係る投下シュート装置4のガス供給部42について具体的に説明する。
図5は、
図3中のV-V線に沿って見た、本実施形態に係る投下シュート装置4のガス供給部42の一部分の断面図である。
図6は、
図4中のVI-VI線に沿って見た、本実施形態に係る投下シュート装置4のガス供給部42の一部分の断面図である。
図7は、
図4中の矢印A3方向から見た、本実施形態に係る投下シュート装置4の周壁41の第1の側面41aの一部分の正面図である。
【0048】
図4に示すように、投下シュート装置4のガス供給部42は、シュート空間41x内に供給すべき窒素ガスなどの不活性ガスが通過する上流側通路421と、上流側通路421上に設けられ、不活性ガスを加熱する熱源422と、上流側通路421から分岐した2つの第1の分岐通路423と、当該2つの第1の分岐通路423のそれぞれから2つずつ分岐した4つの第2の分岐通路424と、当該4つの第2の分岐通路424のそれぞれに接続された4つの第3の分岐通路425と、を有する。
4つの第3の分岐通路425の各々は、不活性ガスの流れ方向に沿って流路断面形状が変化するように形成され、周壁41上に開口するガス供給口41a1を介してシュート空間41xに連通して、不活性ガスをシュート空間41x内に供給する(矢印A2)。
【0049】
具体的には、
図2及び
図4に示すように、4つの第3の分岐通路425は、周壁41の第1の側面41aに水平方向に整列するように配置されている。また、
図2、
図4乃至
図6から分かるように、上流側通路421、第1の分岐通路423、第2の分岐通路424は、それぞれ、流路断面形状がほぼ同一の円形(例えばφ21.4mm)となるように形成されているのに対して、第3の分岐通路425は、流路断面形状が幅広の略矩形となるように形成されている。
より詳しくは、第3の分岐通路425は、
図5に示すように、水平方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って広がるように形成されている(テーパ角度は40°~50°程度が良い。なお、
図5の例では、不活性ガスの流れ方向に対して左右対称のテーパ角度が採用されているが、この態様に限定されない。)。また、第3の分岐通路425は、
図6に示すように、鉛直方向の幅(高さ)が不活性ガスの流れ方向に沿って狭まるように形成されている(テーパ角度は10°~15°程度が良い。なお、
図6の例では、上壁のみが傾斜面となっており下壁は水平面の態様が採用されているが、この態様に限定されない。)。このような第3の分岐通路425からシュート空間41xへと不活性ガスを供給することで、水平方向においてシュート空間41xの全域に亘って横断するような均一なガスの流れを形成することが可能となる。
また、4つの第2の分岐通路424の各々の対応する(接続された)第3の分岐通路425側の100mmの長さ部分は、当該対応する第3の分岐通路425への不活性ガスの導入をより円滑にするために、水平方向に延びている。
【0050】
また、
図5乃至
図7に示すように、4つの第3の分岐通路425は、それぞれ、周壁41の第1の側面41aに形成された4つのガス供給口41a1と連通し、この4つのガス供給口41a1を介してシュート空間41x内に不活性ガスを供給する(各図中の矢印参照)。詳しくは、4つのガス供給口41a1は、それぞれ幅広の略矩形(例えば高さ7mm程度、幅185mm程度)を有し、水平方向に沿って等間隔で整列するように配置されている(
図7参照)。好ましくは、4つのガス供給口41a1の水平方向の合計長さは、周壁41の第1の側面41aの水平方向の長さの90%以上である。これにより、水平方向においてシュート空間41xの全域に亘って横断するような不活性ガスの流れを効果的に形成することができる。
【0051】
他方で、ガス供給部42の熱源422は、上流側通路421上に設けられ、硝酸塩浴に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に不活性ガスを加熱する。これにより、シュート空間41x内に浮遊する、硝酸塩浴61からのソルトヒュームが、ガス供給口41a1付近で凝結することを防止することができる。例えば、熱源422は、硝酸塩浴61に適用される硝酸塩の融点が約140℃である場合には、不活性ガスを160℃以上に加熱することが好ましい。この場合、更に好適には、熱源422は、操業中の硝酸塩の組成変化に伴う融点上昇や不活性ガスの加熱に要するエネルギー消費等を考慮して、不活性ガスを160~230℃に加熱するのが良い。なお、加熱炉3や硝酸塩浴61の余熱を熱源422に利用してもよい。
【0052】
なお、上記した実施形態では、上流側通路421と第3の分岐通路425とが第1の分岐通路423及び第2の分岐通路424を介して間接的に接続されているが、第1の分岐通路423及び/又は第2の分岐通路424を用いずに、上流側通路421と第3の分岐通路425とを間接的又は直接的に接続してもよい。例えば、上流側通路421を2つに分岐させずに4つに分岐させ、これらの分岐させた4つの通路を介して第3の分岐通路425を上流側通路421に間接的に接続してもよいし、上流側通路421に対して第3の分岐通路425を直接的に接続してもよい。また、第3の分岐通路425を4つ用いることに限定はされず、第3の分岐通路425を2つ、3つ又は5つ以上用いてもよい。
【0053】
次に、
図3及び
図4に加えて、
図8を参照して、本実施形態に係る投下シュート装置4のガス排出部43について具体的に説明する。
図8は、
図3中のVIII-VIII線に沿って見た、本実施形態に係る投下シュート装置4のガス排出部43の断面図である。
【0054】
上述したように、投下シュート装置4のガス排出部43は、ガス供給部42からシュート空間41x内を水平方向に横断するように供給された不活性ガスの流れを利用して、硝酸塩浴61から発生する水蒸気及びソルトヒューム、並びに不活性ガスを含むシュート空間内ガスを吸引して、当該シュート空間内ガスをシュート空間41xから排出する。具体的には、
図3、
図4及び
図8に示すように、投下シュート装置4のガス排出部43は、周壁41の第2の側面41bに設けられた第1のガス排出通路431と、周壁41の第3及び第4の側面41c、41dのそれぞれに設けられ、且つ、下流端において第1のガス排出通路431に接続された第2及び第3のガス排出通路432、433と、第1のガス排出通路431の下流端に接続された第4のガス排出通路434と、第4のガス排出通路434の下流端に接続され、ガスを吸引する排気ブロワ435と、を有する。
【0055】
より詳しくは、
図8に示すように、第2のガス排出通路432には、1枚の仕切り板で区切られた2つの内部通路432a、432bが形成されており、この2つの内部通路432a、432bは、それぞれ、周壁41の第3の側面41cに形成されたガス排出口41c1、41c2と連通している。同様に、第3のガス排出通路433には、1枚の仕切り板で区切られた2つの内部通路433a、433bが形成されており、この2つの内部通路433a、433bは、それぞれ、周壁41の第4の側面41dに形成されたガス排出口41d1、41d2と連通している。他方で、第1のガス排出通路431は、2枚の仕切り板で区切られた3つの内部通路431a、431b、431cが形成されている。2つの内部通路431a、431bの各々は、第2のガス排出通路432(詳しくは第2のガス排出通路432の内部通路432a、432bの両方)、及び第3のガス排出通路433(詳しくは第3のガス排出通路433の内部通路433a、433bの両方)と連通している。また、第1のガス排出通路431の内部通路431cは、周壁41の第2の側面41bに形成されたガス排出口41b1と連通している。これら内部通路431a、431b、431cは、第1のガス排出通路431の最下流位置において合流する。
【0056】
ガス排出部43のガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2の各々は、上記したガス供給部42のガス供給口41a1と鉛直方向において略同一高さ(ソルトカーテン発生装置46の上方450mm程度(塩浴面上650mm程度))に配置されている(
図2、
図3、
図4)。また、好ましくは、ガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2の各々は、ガス供給口41a1と同様に、幅広の略矩形(例えば、高さ7mm程度、幅180mm~200mm程度)に形成されている。また、好ましくは、第1のガス排出通路431と連通するガス排出口41b1の水平方向の長さは、周壁41の第2の側面41bの水平方向の長さの90%以上であり、第2のガス排出通路432と連通するガス排出口41c1、41c2の水平方向の合計長さは、周壁41の第3の側面41cの水平方向の長さの90%以上であり、第3のガス排出通路433と連通するガス排出口41d1、41d2の水平方向の合計長さは、周壁41の第4の側面41dの水平方向の長さの90%以上である。
【0057】
このようなガス排出部43では、下流側の排気ブロワ435による吸引によって、周壁41の第2の側面41bに設けられた第1のガス排出通路431の内部通路431a、431b、431cと、周壁41の第3及び第4の側面41c、41dに設けられた第2及び第3のガス排出通路432、433の内部通路432a、432b、433a、433bと、のそれぞれにシュート空間内ガスを流すことで(
図8中の矢印参照)、シュート空間41xからシュート空間内ガスを排出する。このように構成されたガス排出部43によれば、シュート空間内ガスを広範囲から吸引排気することができる。これにより、シュート空間41xからシュート空間内ガスを効果的に排出することができる。
【0058】
[実施例]
次に、上述した投下シュート装置4の実施例について説明する。本件発明者が行った実験によれば、水平方向においてシュート空間41xの全域に亘る均一なガスの流れを形成して、シュート空間41xからシュート空間内ガスに含まれる水蒸気を確実に除去するためには、投下シュート装置4において、ガス排出部43の近傍を水平方向に流れるシュート空間ガスの移動速度(以下適宜「水平方向速度」と呼ぶ。)vxを0.6(m/s)以上に設定し、且つ、ガス排出部の近傍を鉛直方向上方に流れるシュート空間内ガスの移動速度(以下適宜「上方向速度」と呼ぶ。)vyを0.3(m/s)以下に設定するのが望ましいことが分かった。
【0059】
そして、本件発明者が行った実験によれば、上記の「vx≧0.6(m/s)」及び「vy≦0.3(m/s)」を実現するためには、ガス供給部42による不活性ガスの供給流量Q1(m3/h)と、ガス排出部43によるシュート空間内ガスの排出流量Q2(m3/h)と、ガス供給口41a1の総開口面積A1(m2)と、ガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2の総開口面積A2(m2)と、シュート空間41xの水平方向に沿った断面積A3(m2)とが、以下の式(1)~(5)を満たせば良いことが分かった。
【0060】
Q1≧7(m3/h) 式(1)
Q2>Q1 式(2)
4×10-3(m2)≦A1≦8×10-3(m2) 式(3)
A2≧2×10-2(m2) 式(4)
A3≦0.4(m2) 式(5)
【0061】
ここで、Q1は、上流側通路421(第1の分岐通路423、第2の分岐通路424も同様)の流路断面積A(m2)と、ガス供給部42における不活性ガスの全圧P(Pa)と、ガス供給部42による不活性ガスの供給密度ρ(kg/m3)と、ガス供給部42による不活性ガスの供給温度T(℃)とを用いて、例えば以下の式(6)で表される。なお、シュート空間41x内部のガス供給口41a1近傍の気圧は大気圧と等しいものとしている。
【0062】
【0063】
式(6)は、温度補正及び圧損が加味された、ベルヌーイの定理に基づいた式(位置ヘッドは考慮していない)である。特に、式(6)中の「0.1」は、不活性ガスがガス供給部42からシュート空間41x内に流れ込むときに生じる圧損の一例を示している。このような式(6)を用いて、Q1が上記式(1)の「Q1≧7」を実現するように、A、P、ρ、Tのそれぞれを決定することができる。
【0064】
次に、本件発明者が行った実験結果について具体的に説明する。本件発明者は、上記したガス供給部42及びガス排出部43を含む投下シュート装置4を有する連続式熱処理装置1を用いて、式(1)~(5)中のQ1、Q2、A1、A2、A3をそれぞれ変化させて実験を行い、シュート空間内ガスの移動速度vx、vyと、熱処理を行った金属部材(供試材であり、以下では単に「処理品」と呼ぶ。)における表面硬さ及び脱炭の有無と、を取得した。具体的には、シュート空間内ガスの移動速度vx、vyは、冷間運転時において投下シュート装置4の点検扉を開いて、そこから周壁41内に風速計を挿入して、当該風速計をガス排出口41b1の直下に配置することで計測された。
【0065】
処理品には、アルカリ脱脂洗浄済みのS55C鋼(縦4mm、横50mm、高さ50mm)が使用された。加熱炉3内の雰囲気は、メタノール分解ガス及び窒素による混合ガスにより形成され、また、雰囲気自動制御システムによってCP(カーボンポテンシャル)値が0.6となるようにプロパンが投入された。処理品には、恒温熱処理としてオーステンパ処理が行われた。このオーステンパ処理に適用した条件は、処理品を850℃で30分間加熱した後に、水が添加された330℃の硝酸塩浴61で処理品を急速冷却し、この処理品に対する恒温保持を30分間行う、という条件である。硝酸塩浴61には、硝酸カリウムと亜硝酸ナトリウムとの混合塩に対して十分に含水したものが使用された。
【0066】
熱処理後の処理品における表面硬さは、荷重HV10での5か所測定の平均値を算出することで評価され、また、熱処理後の処理品における断面組織の脱炭の有無は、光学顕微鏡組織観察により判別された。そして、処理品の表面硬さが400HV以上で且つ処理品の表層が未脱炭組織である場合には、この処理品は合格であると判断することとした。これに対して、処理品の表面硬さが400HV未満又は処理品の表層が脱炭組織である場合には、この処理品は不合格であると判断することとした。ここで、
図9は、合格と判断された処理品の断面組織の一例を示し、
図10は、不合格と判断された処理品の断面組織の一例を示す。具体的には、
図9は、熱処理の実験を行った処理品の断面組織において確認された、未脱炭組織の一例を示す写真であり、
図10は、熱処理の実験を行った処理品の断面組織において確認された、脱炭組織の一例を示す写真である。
【0067】
なお、このような処理品の表面硬さ及び脱炭の有無は、加熱炉3への水蒸気の侵入の程度に応じて変わるものである。すなわち、投下シュート装置4において水蒸気が十分に除去され、加熱炉3への水蒸気の侵入を防止できた場合には、処理品の表面硬さが高くなり、且つ断面組織の脱炭が生じない。これに対して、投下シュート装置4において水蒸気が十分に除去されず、加熱炉3への水蒸気の侵入を防止できなかった場合には、処理品の表面硬さが低くなったり、断面組織の脱炭が生じたりする。
【0068】
以下の表1には、式(3)~(5)を満たすように、A1が5×10-3(m2)、A2が5.5×10-2(m2)、A3が0.35(m2)に固定される一方で、Q1とQ2が任意に変化されて行われた実験結果を示す。
【0069】
【0070】
実施例1~3では、Q2が10(m3/h)に固定される一方で、式(1)、(2)を満たす範囲でQ1が変化された(Q1≧7、Q2>Q1)。これらの実施例1~3によれば、Q1の増加に伴って、水平方向速度vxも増加していることがわかる。また、実施例4~9では、Q1が7(m3/h)に固定される一方で(式(1)満足)、式(2)を満たす範囲でQ2が変化された(Q2>Q1)。これらの実施例4~9によれば、水平方向速度vxはほとんど変化していないが、Q2の増加に伴って上方向速度vyが減少していることがわかる。
【0071】
表1より、これらの実施例1~9の条件下では、処理品の表面硬さが400HV以上で且つ処理品の表層に脱炭組織が確認されていないので、実施例1~9による処理品は全て合格と判断されている。これは、実施例1~9の全てで、「vx≧0.6(m/s)」及び「vy≦0.3(m/s)」が実現されているからであると考えられる。
【0072】
一方で、比較例1~3では、Q2が10(m3/h)に固定される一方で(式(2)満足)、式(1)を満たさない範囲でQ1が減少された(Q1<7)。これらの比較例1~3によれば、処理品の表面硬さが400HVを大きく下回っており、処理品の表層に脱炭組織が確認されていることがわかる。これは、実施例1~9に比べて水平方向速度vxが低いために、投下シュート装置4による水蒸気の除去が不十分であるからと考えられる。
【0073】
続いて、比較例4~7では、Q1が7(m3/h)に固定される一方で(式(1)満足)、式(2)を満たさない範囲でQ2が変化された(Q2<Q1)。これらの比較例4~7によれば、Q2の変化により水平方向速度vxは0.6(m/s)以上でほとんど変化していないが、Q2が減少すると上方向速度vyが増加する傾向が見て取れる。このようなシュート空間内ガスの移動速度vx、vyの結果より、Q2がQ1を下回ると、投下シュート装置4のガス排出部43によってシュート空間内ガスが十分に吸引されず、投下シュート装置4による水蒸気の除去が不十分になると言える。その結果、処理品の表面硬さが400HVを下回り、処理品の表層に脱炭組織が確認されたと考えられる。
【0074】
以上の表1の結果より、式(1)~(5)を満たすようにQ1、Q2、A1、A2、A3を設定すれば、「vx≧0.6(m/s)」及び「vy≦0.3(m/s)」を実現することができ、その結果、投下シュート装置4において水蒸気を十分に除去して、加熱炉3への水蒸気の侵入を適切に防止できることがわかる。
【0075】
次に、表2には、式(1)、(2)を満たすように、Q1が7(m3/h)、Q2が10(m3/h)に固定される一方で、A1、A2、A3が任意に変化されて行われた実験結果を示す。A1、A2の開口面積は、ガス供給口41a1及びガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2に対して遮蔽板を脱着することで調整された。また、A3は、水平方向に沿った断面積が異なる複数の周壁41を投下シュート装置4に適用することで調整された。
【0076】
【0077】
実施例10~12では、A2が2×10-2(m2)、A3が0.4(m2)に固定される一方で(式(4)、(5)満足)、式(3)を満たす範囲でA1が変化された(4×10-3≦A1≦8×10-3)。これらの実施例10~12によれば、A1が6×10-3(m2)であるときに水平方向速度vxが最大になることがわかる。実施例13~15では、A1が5×10-3(m2)、A3が0.4(m2)に固定される一方で(式(3)、(5)満足)、式(4)を満たす範囲でA2が変化された(A2≧2×10-2)。これらの実施例13~15によれば、A2が増加すると、水平方向速度vyが減少することがわかる。これら実施例10~15の結果より、A1は6×10-3(m2)程度であるときに比較的高い水平方向速度vxが得られる一方で、A2が大きくなると上方向速度vyが減少することがわかる。
【0078】
続いて、実施例16~17では、A1が5×10-3(m2)、A2が2×10-2(m2)に固定される一方で(式(3)、(4)満足)、式(5)を満たす範囲でA3が変化された(A3≦0.4)。これらの実施例16~17によれば、A3が減少すると、水平方向速度vxが増加することがわかる。これは、シュート空間41xの断面積A3が小さくなると、ガス供給口41a1からガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2までの距離が短くなることで、ガス供給口41a1からの不活性ガスが高い速度を維持したままガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2に到達するからである。
【0079】
上記の実施例10~17の条件下では、処理品の表面硬さが400HV以上で且つ処理品の表層に脱炭組織が確認されていないので、実施例10~17による処理品は合格と判断されている。これは、実施例10~17の全てで、「vx≧0.6(m/s)」及び「vy≦0.3(m/s)」が実現されているからであると考えられる。
【0080】
一方で、比較例8~11では、A2が2×10-2(m2)、A3が0.4(m2)に固定される一方で(式(4)、(5)満足)、式(3)を満たさない範囲でA1が変化された(A1<4×10-3又はA1>8×10-3)。これらの比較例8~11によれば、処理品の表面硬さが400HVを下回っており、処理品の表層に脱炭組織が確認されていることがわかる。これは、水平方向速度vxが低い(0.5(m/s)未満)からであると考えられる。水平方向速度vxが低いのは、A1が小さい比較例8、9では、ガス供給口41a1での圧損が大きくなることで流体エネルギーの減衰及び流速の減衰が生じたからであると考えられ、A1が大きい比較例10、11では、ガスが分散されて流速の減衰が生じたからであると考えられる。
【0081】
続いて、比較例12、13では、A1が5×10-3(m2)、A3が0.4(m2)に固定される一方で(式(3)、(5)満足)、式(4)を満たさない範囲でA2が変化された(A2<2×10-2)。これらの比較例12、13によれば、処理品の表面硬さが400HVを下回っており、処理品の表層に脱炭組織が確認されていることがわかる。これは、A2が小さくなると、投下シュート装置4のガス排出部43によってシュート空間内ガスが十分に吸引されず(このときには上方向速度vyが増加する)、投下シュート装置4において水蒸気が十分に除去されなかったからであると考えられる。
【0082】
続いて、比較例14、15では、A1が5×10-3(m2)、A2が2×10-2(m2)に固定される一方で(式(3)、(4)満足)、式(5)を満たさない範囲でA3が変化された(A3>0.4)。これらの比較例14、15によれば、処理品の表面硬さが400HVを下回っており、処理品の表層に脱炭組織が確認されていることがわかる。これは、シュート空間41xの水平方向に沿った断面積A3が大きくなると、ガス供給口41a1からガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2までの距離が長くなることで、水平方向速度vxが減少したからであると考えられる。
【0083】
以上の表2の結果によっても、式(1)~(5)を満たすようにQ1、Q2、A1、A2、A3を設定すれば、「vx≧0.6(m/s)」及び「vy≦0.3(m/s)」を実現することができ、その結果、投下シュート装置4において水蒸気を十分に除去して、加熱炉3への水蒸気の侵入を適切に防止できることがわかる。
【0084】
なお、本件発明者は、上記した実験(実施例1~17、比較例1~15)以外にも多数の実験を行うことで、式(1)~(5)の条件の具体的内容(特に各式中の数値パラメータ)を決定した。
【0085】
[作用及び効果]
次に、本実施形態に係る連続式熱処理装置1の作用及び効果について説明する。本実施形態に係る連続式熱処理装置1は、金属部材を加熱処理する加熱炉3と、加熱炉3で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下するための投下シュート装置4と、投下シュート装置4の下方に配置され、当該投下シュート装置4により金属部材が投入される硝酸塩浴61を収容する硝酸塩浴槽6と、を有し、投下シュート装置4は、鉛直方向に延びるシュート空間41xを形成する周壁41と、シュート空間41xを水平方向に横断する不活性ガスの流れを生じさせるように、当該不活性ガスをシュート空間41x内に供給するガス供給部42と、シュート空間内ガスを当該シュート空間41xから吸引排気するガス排出部43と、を有し、ガス供給部42は、シュート空間41x内に供給すべき不活性ガスが供給される上流側通路421と、上流側通路421から2以上に分岐した下流側通路であって、各々がシュート空間41x内に連通する2以上の第3の分岐通路425と、を有し、2以上の第3の分岐通路425の各々は、水平方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って広がるように形成されている。
【0086】
このような本実施形態に係る投下シュート装置4では、不活性ガスが供給される上流側通路421から2以上に分岐した第3の分岐通路425の各々の少なくとも一部を不活性ガスの流れ方向に沿って水平方向の幅が広くなるように形成して、このような2以上の第3の分岐通路425を介して不活性ガスをシュート空間41x内に供給する。これにより、特許文献1のようにノズル上に間隔を空けて形成された複数の小穴からシュート空間内にガスを噴射する構成と比べて、不活性ガスをより広範囲に且つより均一にシュート空間41x内に供給することができる。特に、本実施形態によれば、水平方向(ある水平面内)においてシュート空間41xの略全域に亘る均一なガスの流れを形成することができる。このように水平方向により広範囲に形成される不活性ガスの流れは、硝酸塩浴から発生する水蒸気が当該不活性ガスの流れを下から上へ貫いて移動することを効果的に抑制して、当該水蒸気などを含むシュート空間内ガスを効果的に排出することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、2以上の第3の分岐通路425の各々は、更に、鉛直方向の幅が不活性ガスの流れ方向に沿って狭まるように形成されている。
上記のように2以上の第3の分岐通路425の水平方向の幅を流れ方向に沿って広がるように形成すると、ガス供給部42から供給される不活性ガスの速度が低下する懸念があるが、本実施形態のように2以上の第3の分岐通路425の鉛直方向の幅(高さ)を流れ方向に沿って狭まるように形成することで、ガス供給部42から供給される不活性ガスの速度の低下を抑えることができる。よって、水平方向においてシュート空間41xの略全域に亘る均一なガスの流れを所望の速度で効果的に形成することができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、周壁41には、幅広の略矩形状を有し、2以上の第3の分岐通路425の各々に連通する2以上のガス供給口41a1が形成されている。このように幅広の略矩形状を有する2以上のガス供給口41a1からシュート空間41x内に不活性ガスを供給することで、特許文献1のように複数の小穴からシュート空間内にガスを噴射する構成と比べて、水平方向においてシュート空間41xの略全域に亘る均一なガスの流れを、より効果的に形成することができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、2以上のガス供給口41a1は、水平方向に等間隔で整列するように配置されているので、このような2以上のガス供給口41a1より、水平方向においてシュート空間41xの略全域に亘る均一なガスの流れを、より効果的に形成することができる。
【0090】
また、本実施形態によれば、2以上のガス供給口41a1の総開口面積A1は、4×10-3(m2)以上で8×10-3(m2)以下である。これにより、ガス供給口41a1での圧損による流体エネルギーの減衰及び流速の減衰や、ガス供給口41a1からのガスの分散による流速の減衰を抑制することができる。したがって、2以上のガス供給口41a1から所望の速度(比較的高い速度)の不活性ガスをシュート空間41x内に供給することができる。
【0091】
また、本実施形態によれば、ガス排出部43は、吸引排気するシュート空間41x内のガスが流れる第1、第2、第3のガス排出通路431、432、433を有し、周壁41には、幅広の略矩形状を有し、第1、第2、第3のガス排出通路431、432、433に連通するガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2が形成されている。これにより、ガス排出部43によってシュート空間内ガスをより効果的に吸引排気することができる。
【0092】
また、本実施形態によれば、ガス供給口41a1とガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2とは、鉛直方向において略同一高さに配置されている。これにより、ガス供給口41a1によって供給される不活性ガス及び当該不活性ガスにより捕捉されるシュート空間内ガスを、ガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2によって効果的に吸引排気することができる。
【0093】
また、本実施形態によれば、ガス排出口41b1、41c1、41c2、41d1、41d2の総開口面積A2は、2×10-2(m2)以上である。これにより、ガス排出部43によってシュート空間内ガスをより効果的に吸引排気することができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、ガス供給部42は、不活性ガスを硝酸塩浴61に適用される硝酸塩の融点よりも高い温度に加熱する熱源422を更に有する。これにより、シュート空間41x内に浮遊し得る、硝酸塩浴61からのソルトヒュームが、不活性ガスにより冷却されてガス供給部42やガス排出部43付近で凝結することを防止できる。
【0095】
また、本実施形態によれば、周壁41は、水平方向に沿った断面が略矩形状を有する四角柱状に形成され、2以上の第3の分岐通路425は、周壁41の第1の側面41aに形成された2以上のガス供給口41a1と連通し、ガス排出部43は、吸引排気するシュート空間ガスが流れる3つの第1、第2、第3のガス排出通路431、432、433を有し、第1のガス排出通路431は、周壁41の第1の側面41aに対向する第2の側面41bに形成されたガス排出口41b1と連通し、第2のガス排出通路432は、周壁41の第1及び第2の側面41a、41bに挟まれた第3の側面41cに形成されたガス排出口41c1、41c2と連通し、第3のガス排出通路433は、周壁41の第1及び第2の側面41a、41bに挟まれた第4の側面41dに形成されたガス排出口41d1、41d2と連通する。このように周壁41の3つの側面41b、41c、41dのそれぞれに第1、第2、第3のガス排出通路431、432、433を設けるようにガス排出部43を構成することで、シュート空間内ガスを広範囲から吸引排気することができる。その結果、シュート空間41xからシュート空間内ガスをより効果的に排出することができる。
【0096】
また、本実施形態によれば、2以上のガス供給口41a1は、幅広の略矩形状を有すると共に、水平方向に整列するように配置され、2以上のガス供給口41a1の水平方向の合計長さは、周壁41の第1の側面41aの水平方向の長さの90%以上である。このように、2以上のガス供給口41a1を、水平方向において第1の側面41aのほぼ全体を占めるように設けることで、水平方向においてシュート空間41xの略全域に亘るガスの流れをより効果的に形成することができる。
【0097】
また、本実施形態によれば、ガス排出部43の近傍を水平方向に流れるシュート空間内ガスの移動速度vxが0.6(m/s)以上で、且つ、ガス排出部43の近傍を鉛直方向上方に流れるシュート空間内ガスの移動速度vyが0.3(m/s)以下である。これにより、水蒸気の加熱炉への侵入を実質的に完全に防止することができる。
【0098】
また、本実施形態によれば、ガス供給部42は、不活性ガスを7m3/h以上の流量Q1で供給する。これにより、ガス供給部42からの不活性ガスを高い速度を維持したままガス排出部43に到達させることができ、シュート空間内ガスを効果的に排出することができる。
【0099】
また、本実施形態によれば、ガス排出部43は、ガス供給部42が不活性ガスを供給する流量Q1よりも大きな流量Q2で、シュート空間内ガスを吸引排気する。これにより、ガス排出部43によってシュート空間内ガスを効果的に吸引排気することができる。
【0100】
また、本実施形態によれば、周壁41により形成されるシュート空間41xの水平方向に沿った断面積A3は、0.4(m2)以下である。これにより、ガス供給部42からガス排出部43までの距離を比較的短くすることができる。したがって、ガス供給部42からの不活性ガスを高い速度を維持したままガス排出部43に到達させることができ、シュート空間内ガスを効果的に排出することができる。
【0101】
なお、上述した実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 連続式熱処理装置
3 加熱炉
4 投下シュート装置
6 硝酸塩浴槽
41 周壁
41a1 ガス供給口
41b1、41c1、41c2、41d1、41d2 ガス排出口
41x シュート空間
42 ガス供給部
43 ガス排出部
421 上流側通路
422 熱源
423 第1の分岐通路
424 第2の分岐通路
425 第3の分岐通路
431 第1のガス排出通路
432 第2のガス排出通路
433 第3のガス排出通路
435 排気ブロワ