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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088156
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】漏液補修用組成物及び漏液補修方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/12 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
C09K3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203194
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】修多羅 洋一
(72)【発明者】
【氏名】初田 弘毅
(57)【要約】
【課題】深部硬化性が向上し、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができる漏液補修用組成物及び漏液補修方法の提供。
【解決手段】ゴム、粒子、重合性化合物、粘着付与剤、及び光重合開始剤を含有する漏液補修用組成物であって、前記粒子の屈折率Aと前記粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04以下である漏液補修用組成物を提供する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム、粒子、重合性化合物、粘着付与剤、及び光重合開始剤を含有する漏液補修用組成物であって、
前記粒子の屈折率Aと前記粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04以下であることを特徴とする漏液補修用組成物。
【請求項2】
下記の条件で測定した深部硬化性値が4mm以上である、請求項1に記載の漏液補修用組成物。
<深部硬化性値の測定条件>
断面が半円状の溝を有する一対の半円柱型を重ね合わせることにより形成される円柱(長さ50mm、外径20mm)の中空部(内径6mm)に漏液補修用組成物を充填し、光照射装置により上方から波長405nm、強度500mW/cmの光を5秒間照射し、漏液補修用組成物を硬化させる。型開きして漏液補修用組成物の硬化物を取り出し、硬化物から未硬化部分を除去し、未硬化部分を除去後の硬化物の長さを測定する。前記漏液補修用組成物から3個の硬化物を作製し、未硬化部分を除去後の3個の硬化物の長さを平均した平均値を深部硬化性値とする。
【請求項3】
前記粒子の体積平均粒子径が1μm以上1,000μm以下である、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項4】
前記粒子が無機粒子及び有機粒子の少なくともいずれかである、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項5】
前記ゴムがアクリル系ゴム及びウレタン系ゴムの少なくともいずれかである、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項6】
前記重合性化合物が(メタ)アクリル化合物である、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項7】
前記粘着付与剤が、芳香族変性テルペン樹脂、ロジンエステル樹脂、酸変性ロジン、及びスチレン樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項8】
貯蔵弾性率G’が10,000Pa以上550,000Pa以下であり、かつ損失正接(tanδ)が1よりも大きい、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物。
【請求項9】
補修対象物の漏液箇所に、請求項1から2のいずれかに記載の漏液補修用組成物を付与する付与工程と、
前記漏液補修用組成物に光を照射し、前記漏液補修用組成物を硬化させる硬化工程と、
を含むことを特徴とする漏液補修方法。
【請求項10】
前記漏液箇所における漏液の圧力が0.1MPa以上である、請求項9に記載の漏液補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏液補修用組成物及び漏液補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水配管は様々なところで使われており、漏液補修のニーズも多い。特に工場内配管の継手から液漏れすることが多く、漏液補修作業のために工場稼働を一時停止すると多大な被害が生じるおそれがある。このことから、工場内配管への配液を止めることなく簡易に漏液補修できることが望まれている。
【0003】
このような漏液補修に用いられる漏液補修材として、例えば、無機フィラー、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及びラジカル開始剤を含有する硬化性組成物である漏液補修材であって、硬化後の吸液率が10%未満であり、糸引き性を有さず、粘度が0.1Pa・s以上100,000Pa・s以下であるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、優れた深部硬化性を有する光学部品の固定用のエネルギー線硬化型エポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂、アクリル樹脂とスチレン樹脂の共重合体であるフィラー及び光酸発生剤を含む、該フィラーの屈折率と該フィラーを含まないエネルギー線硬化型エポキシ樹脂組成物の屈折率との差が±0.02以内であるエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-50769号公報
【特許文献2】特許第5634993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では無機フィラーは漏液補修材の硬化後の吸液率を小さくするために添加されている。また、特許文献1では無機フィラーとしてマイカ等の屈折率が大きいものを用いており、無機フィラーの屈折率と無機フィラーを含有しない漏液補修材の屈折率との差が大きくなり、深部硬化性が劣るものである。更に、特許文献1に記載の漏液補修材はゴム及び粘着付与剤の含有量が少ないため、硬化前の漏液補修材の弾性率が低くなるので、高圧の液体が流れる配管等を補修する際には配管への配液を止めてから補修作業する必要があった。
【0007】
上記特許文献2の技術は、光ディスク装置のなかのピックアップの光検出器をハウジングに固定するときに位置精度と深部硬化性を両立させるものであり、漏液補修に用いることについては記載も示唆もされていない。また、特許文献2には樹脂フィラーを配合すると深部硬化性が改善したと記載されているが、深部硬化性の改善につながった樹脂フィラーの役割及び深部硬化性が改善した理由について何ら記載が無い。更に、特許文献2に記載のカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物は、ゴム及び粘着付与剤を含有していないため、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができるものではない。
【0008】
本発明は、従来にける前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、深部硬化性が向上し、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができる漏液補修用組成物及び漏液補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ゴム、粒子、重合性化合物、粘着付与剤、及び光重合開始剤を含有する漏液補修用組成物であって、
前記粒子の屈折率Aと前記粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04以下であることを特徴とする漏液補修用組成物である。
<2> 下記の条件で測定した深部硬化性値が4mm以上である、前記<1>に記載の漏液補修用組成物である。
<深部硬化性値の測定条件>
断面が半円状の溝を有する一対の半円柱型を重ね合わせることにより形成される円柱(長さ50mm、外径20mm)の中空部(内径6mm)に漏液補修用組成物を充填し、光照射装置により上方から波長405nm、強度500mW/cmの光を5秒間照射し、漏液補修用組成物を硬化させる。型開きして漏液補修用組成物の硬化物を取り出し、硬化物から未硬化部分を除去し、未硬化部分を除去後の硬化物の長さを測定する。前記漏液補修用組成物から3個の硬化物を作製し、未硬化部分を除去後の3個の硬化物の長さを平均した平均値を深部硬化性値とする。
<3> 前記粒子の体積平均粒子径が1μm以上1,000μm以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<4> 前記粒子が無機粒子及び有機粒子の少なくともいずれかである、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<5> 前記ゴムがアクリル系ゴム及びウレタン系ゴムの少なくともいずれかである、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<6> 前記重合性化合物が(メタ)アクリル化合物である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<7> 前記粘着付与剤が、芳香族変性テルペン樹脂、ロジンエステル樹脂、酸変性ロジン、及びスチレン樹脂から選択される少なくとも1種である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<8> 貯蔵弾性率G’が10,000Pa以上550,000Pa以下であり、かつ損失正接(tanδ)が1よりも大きい、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物である。
<9> 補修対象物の漏液箇所に、前記<1>から<2>のいずれかに記載の漏液補修用組成物を付与する付与工程と、
前記漏液補修用組成物に光を照射し、前記漏液補修用組成物を硬化させる硬化工程と、
を含むことを特徴とする漏液補修方法である。
<10> 前記漏液箇所における漏液の圧力が0.1MPa以上である、前記<9>に記載の漏液補修方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、深部硬化性が向上し、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができる漏液補修用組成物及び漏液補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、任意の深さ距離を透過する光量及び任意の深さまで吸収する光量のシミュレーション方法を示す図である。
図2図2は、任意の深さ距離と透過する光量のシミュレーション結果を示すグラフである。
図3図3は、任意の深さ位置にて吸収する光量のシミュレーション結果を示すグラフである。
図4図4の(a)から(e)は、深部硬化性値の測定方法を説明する図である。
図5図5の(a)及び(b)は、本発明の漏液補修用組成物における深部硬化性を向上させるメカニズムの一例を示す模式図である。
図6図6は、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び損失正接(tanδ)の測定方法の一例を示す図である。
図7図7の(a)から(e)は、実施例における止水時間の測定方法を説明する概略図である。
図8図8は、実施例で用いた配管の継手の水漏れ評価装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(漏液補修用組成物)
本発明の漏液補修用組成物は、ゴム、粒子、重合性化合物、粘着付与剤、及び光重合開始剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0013】
本発明の漏液補修用組成物においては、ゴム、粒子、重合性化合物、粘着付与剤、及び光重合開始剤を含有することによって、深部硬化性が向上し、止液時間を長くすることができ、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易かつ確実に漏液補修を行うことができる。
【0014】
漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく漏液補修する場合、液漏れ口に漏液補修用組成物を付与し押し当てると、時間経過と共に液圧によって未硬化の漏液補修用組成物が風船のように膨らんでしまう。膨らんだ風船が破裂するまでに漏液補修用組成物を硬化させる手法として漏液補修用組成物を漏液箇所に多く付与することが考えられる。しかし、漏液補修用組成物の付与量を多くすると塗膜が肉厚になるので、上方から光を照射して補修対象物表面付近の漏液補修用組成物を十分に硬化させるには、漏液補修用組成物の深部硬化性を向上させることが必要になる。
【0015】
前記漏液補修用組成物の深部硬化性は光透過性に依存する。即ち、照射する光の波長に対して漏液補修用組成物が透明であれば光は深部まで届き、深部硬化性が高くなる。
前記漏液補修用組成物の透明性は樹脂起因の光吸収と光重合開始剤起因の光吸収とがある。樹脂起因の光吸収は無い方がよいので、共役構造が多い芳香族環を持たない樹脂を用いることが好ましい。光重合開始剤起因の光吸収は無い方が良いとは一概にいえない。なぜならば、光吸収が無い方が深部まで光は届くが、深部の任意の位置において光吸収が無いと硬化反応が起こらないからである。
【0016】
ここで、図1に示す任意の深さまで到達する光量及び任意の深さまで吸収する光量を表計算ソフト(ソフト名:マイクロソフト・エクセル、マイクロソフト社製)により、下記のシミュレーション条件に基づき、漏液補修用組成物の吸収係数に対してそれぞれの深さ位置まで到達する光量及びその深さ位置にて吸収する光量のシミュレーションを行った。
・出射光量(深さ距離を透過する光量):T=T×10(-cd)
・深さ位置で吸収する光量:A=100×(1-10(-cδd)
・深さ距離:d(mm) 0.5mm、1.0mm、3.0mm、5.0mm
・入射光量:T=100%
・吸光係数:c (c=Abs/t)t=1mm
・深さ位置での近傍:δd 0.1mm
【0017】
出射光量(深さ距離を透過する光量)のシミュレーション結果を図2、深さ位置で吸収する光量のシミュレーション結果を図3に示す。図2及び図3の結果から、漏液補修用組成物の深部まで光を届かせなければならない場合には吸光度は小さくなり、漏液補修用組成物の深部での光の吸収量も小さくなることが認められる。一方、漏液補修用組成物の浅い位置でよい場合には吸光度を大きくすることができ、光の吸収量は大きくなることが認められる。
【0018】
本発明においては、下記の条件で測定した深部硬化性値が4mm以上であることが好ましく、4.5mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましく、5.5mm以上であることが特に好ましい。深部硬化性値が4mm以上であると、補修対象物表面付近の漏液補修用組成物まで十分に硬化させることができる。
【0019】
<深部硬化性値の測定条件>
図4の(a)に示す断面が半円状の溝を有する一対の半円柱型(テフロン(登録商標)製、不透明)31a,31bを重ね合わせることにより形成される円柱31(長さ50mm、外径20mm)の中空部(内径6mm)に漏液補修用組成物32aを充填する(図4の(b)参照)。その後、図4の(c)に示すように光照射装置により上方から波長405nm、光強度500mW/cmの光を5秒間照射し、漏液補修用組成物32aを硬化させる。その後、図4の(d)に示すように円柱31を型開きして漏液補修用組成物の硬化物32bを取り出し、硬化物32bから未硬化部分を除去し、図4の(e)に示すように未硬化部分を除去後の硬化物32cの長さLをノギスで測定する。漏液補修用組成物32aから3個の硬化物を作製し、未硬化部分を除去後の3個の硬化物32cの長さLを平均した平均値を深部硬化性値とする。ただし、光強度は光量計(ウシオ電機株式会社製、本体:UIT-150、センサー部:UVDS405)を用いて測定する。
【0020】
硬化前の漏液補修用組成物の粘度は漏液補修用組成物の硬化反応性と関係する。光重合開始剤から発生したラジカルによって連鎖的に重合性化合物の高分子化が進むためには硬化前の漏液補修用組成物の粘度が低い方が、重合性化合物のモビリティ(移動度)が向上し、重合性基同士が出会いやすくなるので硬化反応性が高まる。一方、漏液補修では硬化前の漏液補修用組成物によって止水するために、硬化前の漏液補修用組成物の弾性率が高い方が、風船が破裂するまでの時間が稼げる点から好ましい。したがって、硬化前の漏液補修用組成物の弾性率は高くしたいものの、弾性率を高くすると硬化性ひいては深部硬化性が悪化する。よって、弾性率と深部硬化性はトレードオフの関係にある。
【0021】
したがって、本発明の漏液補修用組成物は、貯蔵弾性率G’が10,000Pa以上550,000Pa以下であり、かつ損失正接(tanδ)が1よりも大きいことが好ましい。
前記貯蔵弾性率G’が10,000Pa以上550,000Pa以下であり、かつ損失正接(tanδ)が1よりも大きいと、補修対象物表面への粘着性が良好となる。
前記貯蔵弾性率G’は、10,000Pa以上550,000Pa以下が好ましく、30,000Pa以上500,000Pa以下がより好ましく、30,000Pa以上300,000Pa以下が更に好ましい。貯蔵弾性率G’が10,000Pa未満であると、漏液の圧力により短時間で風船のように膨らみ破裂して液漏れが起こり、止水不可である。一方、貯蔵弾性率G’が550,000Paを超えると、漏液補修用組成物を漏液箇所に密着させて付与することが困難となり、ハンドリング性が劣るという問題が生じる。
前記損失正接(tanδ)は1よりも大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。損失正接(tanδ)は、貯蔵弾性率G’/損失弾性率G”から求められ、損失正接(tanδ)が1よりも大きいと、硬化前の漏液補修用組成物が塑性変形し易くなり、漏液箇所に対する粘着性が向上する。損失正接(tanδ)が1以下であると、硬化前の漏液補修用組成物が弾性変形しやすくなり、補修対象物表面への粘着性が悪いので補修対象物表面と漏液補修用組成物の界面で液漏れが起こり、止水不可である。
【0022】
硬化前の漏液補修用組成物の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び損失正接(tanδ)は、例えば、レオメータ(装置名:RSA3、TAインスツルメンツ株式会社製)を用いて測定した。具体的には、図6に示すようなコーンプレートを用い、間隔hの2枚のプレート21,23に硬化前の漏液補修用組成物22を挟み、一方のプレート23を固定して、他方のプレート21を回転させる。コーンのテーパーに対して固定したプレート23に近い硬化前の漏液補修用組成物は速度が0であるに対して、上部プレート21に近いところでは上部プレート23と同じ速度で動き、せん断応力として硬化前の漏液補修用組成物の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び損失正接(tanδ)を測定する。なお、h(間隔):59μm、R(直径):20mm、β(角度):2°、温度25℃の環境下で1Hzにて測定し1%歪みでの結果を値とした。
【0023】
上述したように、深部硬化において深部の任意の位置まで届く光量と深部での光の吸収量とはトレードオフの関係にある。この点を解決するため、図5の(a)のように漏液補修用組成物は光重合開始剤を含有するので光を吸収するが、図5の(b)のように粒子を添加することにより、漏液補修用組成物の内部において粒子の部分は光重合開始剤を含有しないために光を吸収しないので、その分深くまで光が届くが、粒子としては散乱がおこる光の波長よりも大きな体積平均粒子径のものを用いることが好ましい。また、粒子の屈折率Aと前記粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)は±0.04以下であり、±0.02以下が好ましく、0が特に好ましい。屈折率差(A-B)が小さいほど、粒子と漏液補修用組成物中の樹脂との界面で光が屈折しないので、深部硬化性を向上させることができる。
【0024】
前記粒子の屈折率Aは、1.40以上1.60以下であることが好ましい。
前記粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bは、硬化前の粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率であり、1.40以上1.60以下であることが好ましい。
前記屈折率は、例えば、アッペ屈折率計、V字ブロック方式カルニュー屈折率計、プリズムカプラー式メトリコン屈折率計などを用いて測定することができる。
【0025】
一般的に漏液補修用組成物に粒子を添加するのはチキソ性を向上させるためである。チキソ性が高いと漏液補修用組成物が流動性を有するので容易に付与することができ、付与後は加工した形状を維持できる。また、漏液補修用組成物に粒子を添加することは、硬化収縮を低減する目的もある。粒子を添加すると漏液補修用組成物中の硬化成分の比率が小さくなり、その分、硬化収縮は小さくなる。また、漏液補修用組成物の硬化物の線膨張係数を小さくすることができる。漏液補修用組成物の硬化収縮及び線膨張係数が小さいと漏液防止後の耐久性(漏液を止め続ける性能)が良好となる。例えば、漏液補修用組成物の線膨張係数が小さいと、季節による温度変化により硬化物に割れが生じることによる液漏れの発生や漏液箇所から硬化物を剥がれることを防止することができる。
【0026】
前記漏液補修用組成物に粒子を添加すると光の散乱が生じる。光の波長の数十分の1の粒子の体積平均粒子径であればRayleigh散乱がおこる。光の波長の十分の1程度の粒子の体積平均粒子径であればMie散乱がおこる。
ここで、Rayleigh散乱の数式を以下に示す(D.R.Huffman著、Absorption and Scattering of Light by Small Particles、Chapter 8 C.F.Bohren参照)。
【0027】
【数1】
【0028】
散乱断面積Cscaを求める上記数式中の(n/n)は相対屈折率と呼ばれる。粒子の屈折率(A)と漏液補修用組成物のマトリックスの屈折率(B)とが同じであれば散乱断面積Cscaはゼロになり、吸収係数αscaもゼロとなる。このような散乱は粒子の体積平均粒子径が可視光の波長より小さい場合に生じる。本発明のように体積平均粒子径が1μm以上1,000μm以下である可視光波長よりも大きい粒子を用いる場合には光の散乱は生じない。
【0029】
<重合性化合物>
重合性化合物としては、(メタ)アクリル化合物が好ましい。(メタ)アクリル化合物とは、アクリル基を有するアクリル化合物及びメタクリル基を有するメタクリル化合物を意味する。
前記重合性化合物の重量平均分子量は600以上が好ましく、600以上15,000以下がより好ましく、1,000以上10,000以下が更に好ましい。重合性化合物の重量平均分子量が600未満であると、重合性化合物が漏液に拡散してしまい、漏液補修用組成物中で可塑剤として機能している液体成分がなくなり固形化して、漏液補修用組成物の粘着性が低下してしまう。
前記重合性化合物の重量平均分子量が15,000を超えると、ゴム及び粘着付与剤との溶解性が悪化し、それぞれ相溶性のあるものが少なり、配合により任意の物性に調整しにくくなるという弊害が生じるおそれがある。
前記重合性化合物の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0030】
前記重合性化合物は、(メタ)アクリル基等の官能基数が2以上であることが好ましく、4以上がより好ましく、6以上が更に好ましい。官能基数が2以上であると、漏液補修用組成物の速硬化性の点から好ましい。
前記重合性化合物としては、重量平均分子量が600以上を実現する点から、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルポリマー、又はマクロモノマーなどが好適に用いられる。
これらの中でも、金属密着性、疎水性、並びにゴム及び粘着付与剤への溶解性の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。また、多官能のウレタン(メタ)アクリレートであることが速硬化性の観点からより好ましい。(メタ)アクリルモノマーに比べて(メタ)アクリルオリゴマーは分子量が大きい分、移動が小さく光硬化においてアクリル基同士が出会いにくい。詳しくは、光重合開始剤が光を吸収してラジカルを発生し、それがアクリル基同士に連鎖的に反応し重合する。水への拡散の観点からは分子量は大きい方が好ましいので、硬化反応性と水への拡散は相反する特性となる。そこで、(メタ)アクリル基数が大きい(メタ)アクリルオリゴマーを選択することにより、速硬化性を確保することができる。
【0031】
前記ウレタン(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、KRM8667(官能基数3)、KRM8254(官能基数6)、KRM8452(官能基数10)(いずれも、ダイセルオルネクス株式会社製);U-6LPA(官能基数6)、U-10HA(官能基数10)、U-10PA(官能基数10)(いずれも新中村化学工業株式会社製);UN-3320HCUN(官能基数6)、UN-3320HS(官能基数6)、UN-904(官能基数10)(いずれも根上工業株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
前記重合性化合物の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、漏液補修用組成物の全量に対して、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0033】
<粒子>
粒子を添加することによって、上述したように、漏液補修用組成物の深部硬化性が向上し、止水時間を長くすることができる。
前記粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機粒子、無機粒子が挙げられる。
【0034】
前記有機粒子としては、例えば、アクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子などが挙げられる。前記有機粒子は表面処理が施されていてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記有機粒子としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、アクリルビーズ ART PEARLとしては、例えば、G-400T(体積平均粒子径15μm、屈折率1.50、根上工業株式会社製)、G-800T(体積平均粒子径6μm、屈折率1.50、根上工業株式会社製)、GR-400T(体積平均粒子径15μm、屈折率1.49、根上工業株式会社製)、SE-050T(体積平均粒子径46μm、屈折率1.49、根上工業株式会社製)などが挙げられる。
架橋アクリル粒子としては、例えば、MX-300(体積平均粒子径3μm、屈折率1.49、綜研化学株式会社製)、MX-1000(体積平均粒子径10μm、屈折率1.49、綜研化学株式会社製)などが挙げられる。
ウレタンビーズ ART PEARLとしては、例えば、C-200T(体積平均粒子径32μm、屈折率1.51、根上工業株式会社製)、C-800T(体積平均粒子径6μm、屈折率1.51、根上工業株式会社製)などが挙げられる。
【0036】
前記無機粒子としては、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。前記無機粒子は表面処理が施されていてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記無機粒子としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、ポッターズ・バロティーニ株式会社製のガラスビーズとしては、例えば、GB402T(粒径:90μm~212μm、屈折率1.50)、SGB153T(粒径:106μm~850μm、屈折率1.50)などが挙げられる。
ユニチカ株式会社製のガラスビーズとしては、例えば、UB-68L(粒径:90μm~125μm、屈折率1.52)、UB1012L(粒径:180μm~250μm、屈折率1.52)、UB-1315L(粒径:300μm~425μm、屈折率1.52)などが挙げられる。
【0038】
前記粒子の体積平均粒子径は1μm以上1,000μm以下が好ましく、1μm以上100μm以下がより好ましく、5μm以上50μm以下が更に好ましい。粒子の体積平均粒子径が1μm以上であると、光の散乱がおこらず、粒子は透明である。一方、粒子の体積平均粒子径が1,000μmを超えると、粒子が大きすぎて漏液補修用組成物中の樹脂との接触面積が少なくなり接着性が低下してしまう恐れがある。
前記体積平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0039】
前記粒子の漏液補修用組成物中への分散し易さは前記粒子の材質又は前記粒子の表面処理の有無などに応じて異なるが、漏液補修用組成物中の樹脂の化学的な極性(溶解度パラメター)と前記粒子の表面材質との極性を同じにすると分散しやすくなる。
【0040】
前記粒子の含有量は、漏液補修用組成物の全量に対して、10質量%以上50質量%以下が好ましく、15質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0041】
<ゴム>
ゴムとしては、粘着性を有し、かつ重合性化合物に溶解可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステル系ゴム、ポリエーテル系ゴム、アクリル系ゴム、ウレタン系ゴム、アミド系ゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル化合物に対する溶解性の観点から、アクリル系ゴム、ウレタン系ゴムが好ましい。
【0042】
前記アクリル系ゴムとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、クラリティ LA2140、LA2250、LA2320、LA3320、LA4285(いずれもアクリル系ブロック共重合体、株式会社クラレ製)などが挙げられる。
前記ウレタン系ゴムとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、E185(熱可塑性エステル型ポリウレタンエラストマー、日本ミラクトラン株式会社製)、E380(熱可塑性エーテル型ポリウレタンエラストマー、日本ミラクトラン株式会社製)などが挙げられる。
前記ゴムの含有量は、漏液補修用組成物の全量に対して、10質量%以上20質量%以下が好ましく、15質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0043】
<粘着付与剤>
粘着付与剤は、補修対象物表面に粘着性を付与する機能と共に、重合性化合物とゴムの溶解性を取り持つ機能を有する。
前記粘着付与剤としては、ゴムに対する溶解性の点から、芳香族変性テルペン樹脂、ロジンエステル樹脂、酸変性ロジン、及びスチレン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、酸変性ロジンが好ましい。
前記酸変性ロジンとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記酸変性ロジンの市販品としては、例えば、パインクリスタル KR-120(酸変性超淡色ロジン、荒川化学工業株式会社製)、KE-604:酸変性超淡色ロジン、荒川化学工業株式会社製などが挙げられる。
前記粘着付与剤の含有量は、漏液補修用組成物の全量に対して、20質量%以上40質量%以下が好ましく、25質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0044】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、ジアルコキシアセトフェノン類、ヒドロキシアルキルアセトフェノン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキシド類などが挙げられる。
前記光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンジル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジメトキシアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、ジフェニルアシルフェニルホスフィンオキシド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記光重合開始剤の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、漏液補修用組成物の全量に対して、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4質量%以下がより好ましく、1質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0046】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、着色剤、可塑剤、防腐剤、分散剤などが挙げられる。
【0047】
(漏液補修方法)
本発明の漏液補修方法は、補修対象物の漏液箇所に、本発明の漏液補修用組成物を付与する付与工程と、前記漏液補修用組成物に光を照射し、前記漏液補修用組成物を硬化させる硬化工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0048】
本発明の漏液補修方法は、深部硬化性が向上した本発明の漏液補修用組成物を用いることにより、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができる。
本発明の漏液補修方法においては、前記漏液箇所における漏液の圧力が0.1MPa以上の比較的高い液圧であっても補修可能であり、0.3MPa以上、更に0.6MPaの高い液圧であっても補修することが可能である。
【0049】
漏液補修方法における対象の漏液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、油などが挙げられる。
前記水としては、例えば、水道水、処理水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などが挙げられる。なお、水には、水以外の成分が含まれていてもよく、水以外の成分としては、有機溶剤、塩素、各種添加剤などが挙げられる。
前記油としては、例えば、絶縁油(アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニル、アルカン)、合成潤滑油(ポリアルファオレフィン油、シリコーン油、フッ素油)、石油系油(原油、灯油、ガソリン、軽油)、鉱物油、動物油(ラード、動物油等)、植物油(大豆油、オリーブオイル等)などが挙げられる。
【0050】
<付与工程>
付与工程は、補修対象物の漏液箇所に本発明の漏液補修用組成物を付与する工程である。
漏液補修用組成物の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、刷毛塗り、ヘラ塗り、ローラー塗布、スプレー塗布などが挙げられる。
前記漏液箇所に付与する漏液補修用組成物の付与量は多い方が液漏れとして決壊するまでの時間がかせげる点から好ましい。
【0051】
前記付与工程においては、補修対象物の漏液箇所に、支持体上に設けた漏液補修用組成物を支持体と共に押し当て漏液を止めることが、高圧の液漏れを確実に止める点から好ましい。
前記支持体としては、材質、形状、大きさ、構造などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記支持体の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂、ガラスなどが挙げられる。前記樹脂としては、光透過性を有するものが好ましく、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
前記支持体の形状としては、例えば、シート状、板状などが挙げられる。
【0052】
前記支持体は可撓性を有し、かつ光透過性を有することが好ましい。
前記支持体が可撓性を有するとは、支持体が柔軟であり、折り曲げることが可能である性質を有することを意味する。アクリル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂製支持体は可撓性を有するが、ガラス製支持体は可撓性を有しない。
前記支持体が光透過性を有するとは、厚み1mmの支持体の波長405nmの透過率が90%以上であることを意味する。
波長405nmの透過率は、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V-560)を用いて、測定することができる。
【0053】
前記補修対象物としては、材質、形状、大きさ、構造などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記補修対象物の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼等の金属、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂等の樹脂などが挙げられる。
前記補修対象物としては、例えば、工場内の冷却装置の配管及び配管の継手、各種洗浄装置の配管及び配管の継手、工作機械、計測機器、大型コンピュータ等の冷却・温度調節に用いられる冷却水循環装置の配管及び配管の継手、飲料水の配管などが挙げられる。
前記補修対象物の漏液箇所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、配管に生じた穴(例えば、ピンホール、線状の貫通穴)、配管の継手部分(例えば、ねじこみ部、フランジ部)などが挙げられる。
前記補修対象物の表面には、本発明の機能を損なわない限り、防食塗装等が施されていても構わない。
【0054】
<硬化工程>
硬化工程は、漏液補修用組成物に光を照射し、漏液補修用組成物を硬化させる工程であり、硬化手段により行われる。
前記硬化手段としては、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(UV-LD)、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプなどが挙げられる。
懐中電灯型LEDライトは、小型、高寿命、高効率、低コストであり、漏水現場で簡単に使用できる光源として好ましい。
【0055】
前記硬化工程において漏液補修用組成物に照射する光としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、波長420nm以下の光が好ましい。
照射時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0056】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1~5及び比較例1~5)
表1から表3に示す組成及び含有量に基づいて、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、型式:ARE-400TWIN、自転及び公転をそれぞれ1,600rpm)により30分間撹拌することにより、実施例1~5及び比較例1~5の漏液補修用組成物を調製した。ただし、比較例5については、コロイダルシリカ(PGM-AC-4130Y)が溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を56質量%含むために自転・公転ミキサーで撹拌・溶解後に真空オーブンにて60℃で4時間かけて、溶剤を留去した。溶剤留去後のシリカ粒子の含有量が16.7質量%になるように調整した。
【0059】
次に、得られた各漏液補修用組成物の屈折率をアッペ屈折率計(ナトリウムD線(589nm)、25℃)を用いて測定した。結果を表1から表3に示した。また、得られた各漏液補修用組成物について、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表1から表3に示した。
【0060】
<弾性率>
硬化前の各漏液補修用組成物の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び損失正接(tanδ)について、レオメータ(装置名:RSA3、TAインスツルメンツ株式会社製)を用いて測定した。具体的には、図6に示すようなコーンプレートを用い、間隔hの2枚のプレート21,23に硬化前の漏液補修用組成物22を挟み、一方の下部プレート23を固定して、他方の上部プレート21を回転させた。コーンのテーパーに対して固定した下部プレート23に近い硬化前の漏液補修用組成物は速度が0であるに対して、上部プレート21に近いところでは上部プレート23と同じ速度で動き、せん断応力として硬化前の漏液補修用組成物の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、及び損失正接(tanδ)を測定した。なお、h(間隔):59μm、R(直径):20mm、β(角度):2°、温度25℃の環境下で1Hzにて測定し1%歪みでの結果を値とした。
【0061】
<深部硬化性値の測定>
図4の(a)に示す断面が半円状の溝を有する一対の半円柱型(テフロン(登録商標)製、不透明)31a,31bを重ね合わせることにより形成される円柱31(長さ50mm、外径20mm)の中空部(内径6mm)に漏液補修用組成物32aを充填した(図4の(b))。その後、図4の(c)に示すように光照射装置により上方から波長405nm、光強度500mW/cmの光を5秒間照射し、漏液補修用組成物32aを硬化させた。その後、図4の(d)に示すように円柱31を型開きして漏液補修用組成物の硬化物32bを取り出し、硬化物32bから未硬化部分を除去し、図4の(e)に示すように未硬化部分を除去後の硬化物32cの長さL(mm)をノギスで測定した。漏液補修用組成物32aから3個の硬化物を作製し、未硬化部分を除去後の3個の硬化物32cの長さLを平均した平均値を深部硬化性値とした。ただし、光強度は光量計(ウシオ電機株式会社製、本体:UIT-150、センサー部:UVDS405)を用いて測定した。なお、深部硬化性値が4mm以上であると深部硬化性が良好であると判定した。
【0062】
<止水時間:水圧0.6MPa>
図7の(a)に示すように、補修対象物1(ステンレス鋼製の配管)の漏水箇所2(水圧0.6MPa)に、漏液補修用組成物3をシリコーン樹脂シート4(厚み1mm)上に約2g載せ、漏水箇所2に押し当てた(経過時間0秒、図7の(b)、(c)参照)。その後、水5の水圧により、膜状の漏液補修用組成物が変形し(図7の(d)参照)、水5が水漏れ口6から押し出され、一部決壊し水漏れする(図7の(e)参照)までの経過時間を測定し、得られた経過時間を止水時間とした。なお、止水時間が60秒以上であると止水性が良好であると判定した。
【0063】
<配管の継手の水漏れ補修評価>
図8は、配管の継手の水漏れ補修評価装置20(自作品)の概略図を示す。この図8の配管の継手の水漏れ補修評価装置20を用い、工場内の配管12のエアーをレギュレータ11(エアー圧調整)により0.6MPaのエアー圧に調整した。エアハイドロユニット13において、エアー圧により水を押し出すことにより同じ水圧の水を送り出す。流量計14により流量を50mL/minに調整した。配管(20A 3/4B、ねじ込み式)とソケットの継手15を緩めることにより水漏れを起こした。継手15を閉めすぎると流量が小さくなるので、流量が50mL/minとなるよう継手15の締め付けを調整した。
次に、漏液状態での水を止めるために各漏液補修用組成物を配管の継手周りに盛り付け、光硬化させた。約1gずつ各漏液補修用組成物を継手周りに盛り付け、剥離性が良好なシリコーン樹脂シートにより各漏液補修用組成物の形を整える。
次に、LEDライトによる光(中心波長405nm、500mW/cm)を30秒間照射することにより硬化させた。この作業を配管の継手の全周にわたって繰り返した。漏液状態の水が止まる最終閉塞では各漏液補修用組成物に水圧がかかる。短時間で水風船のように膨らみ破裂して水漏れが起こるため、各漏液補修用組成物を盛り付け後は手早くLEDライトを照射して硬化させた。
[評価基準]
・止水後(光硬化後)60秒の間に目視にて水の滴り落ちることがなければ止水可であると判定した。
・止水後(光硬化後)60秒の間に目視にて水の滴り落ちることがあれば止水不可であると判定した。
なお、未硬化の漏液補修用組成物の貯蔵弾性率G’の値が小さいものであると、水の圧力により短時間で水風船のように膨らみ破裂して水漏れが起こる(止水不可)。損失正接(tanδ)が1未満であると、未硬化の漏液補修用組成物の配管表面への粘着性が悪いので配管と漏液補修用組成物の界面で水漏れが起こる(止水不可)。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表1~表3中の各成分の詳細な内容については、以下のとおりである。
【0068】
-ゴム-
・クラリティ LA4285:アクリル系ブロック共重合体、株式会社クラレ製
【0069】
-重合性化合物-
・KRM8452:重量平均分子量=1,200、官能基数=10、ウレタンアクリレート、ダイセルオルネクス株式会社製
【0070】
-粘着付与剤-
・パインクリスタル KR-120:酸変性超淡色ロジン、荒川化学工業株式会社製
【0071】
-粒子-
・G-400T:材質:アクリル、屈折率:1.50、体積平均粒子径:15μm、根上工業株式会社製
・C-200T:材質:ウレタン、屈折率:1.51、体積平均粒子径:32μm、根上工業株式会社製
・C-800T:材質:ウレタン、屈折率:1.51、体積平均粒子径:6μm、根上工業株式会社製
・GB402T:材質:ガラス、屈折率:1.50、粒径:90μm~212μm、ポッターズ・バロティーニ株式会社製
・SGB153T:材質:ガラス、屈折率:1.50、粒径:106μm~850μm、ポッターズ・バロティーニ株式会社製
・PDM-800:マイカ、屈折率:1.60、体積平均粒子径:11.2μm、トピー工業株式会社製
・PGM-AC-4130Y:コロイダルシリカ、屈折率:1.46、体積平均粒子径22nm、日産化学株式会社製、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート56質量%含有、配合比は溶剤乾燥後の比率を示している。
【0072】
-光重合開始剤-
・Omnirad 1173:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、IGM Rsins B.V.社製
・Omnirad 819:ビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、IGM Rsins B.V.社製
【0073】
表1から表3の結果から、実施例1~5は、いずれも粒子を含有し、粒子の屈折率Aと粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04以下を満たしており、深部硬化性値が4mm以上であり、止水時間が60秒以上確保でき、配管の継手の水漏れ補修評価において良好な結果が得られた。
ただし、実施例4及び実施例5は、粒子の粒径がレオメータの間隔52μmよりも大きいために貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”の測定はできなかった。
比較例1は、粒子を含有せず、ゴム及び粘着付与剤の含有量が少ないため、弾性率が低くなり、深部硬化性は向上するが、止水時間が短くなり、配管の継手の水漏れ補修評価が劣る結果となった。
比較例2は、粒子を含有せず、ゴム及び粘着付与剤の含有量が少ないため、弾性率が低くなり、止水時間が短くなり、配管の継手の水漏れ補修評価が劣る結果となった。
比較例3は、実施例1と同程度の高い弾性率を有するが、粒子を含有しないので、深部硬化性が低下し、配管継手の水漏れ補修評価が劣る結果となった。
比較例4は、粒子の屈折率Aと粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04を超えており、漏液補修用組成物が白濁してしまい深部硬化性が悪化し、配管の継手の水漏れ補修評価が劣る結果となった。
比較例5は、粒子の屈折率Aと粒子を含有しない漏液補修用組成物の屈折率Bとの差(A-B)が±0.04を超えており、漏液補修用組成物が白濁してしまい深部硬化性が悪化し、配管の継手の水漏れ補修評価が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の漏液補修用組成物及び漏液補修方法は、深部硬化性が向上し、漏液箇所を含む補修対象物内を流れる液体を止めることなく、簡易に漏液補修を行うことができるので、例えば、工場内の冷却装置の配管及び配管の継手、各種洗浄装置の配管及び配管の継手、工作機械、計測機器、大型コンピュータ等の冷却・温度調節に用いられる冷却水循環装置の配管及び配管の継手、飲料水の配管などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0075】
1 補修対象物
2 漏液箇所
3 漏液補修用組成物
4 シリコーン樹脂シート
5 水
6 水漏れ口
11 レギュレータ
12 配管
13 エアハイドロユニット
14 流量計
15 継手
20 配管の継手の水漏れ補修評価装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8