(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088157
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ヒートポンプサイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
F25B1/00 304H
F25B1/00 396G
F25B1/00 341P
F25B1/00 399Y
F25B1/00 304F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203196
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 亮
(57)【要約】
【課題】吐出スーパーヒートが小さい値での運転においてもサブクールの制御性を向上させるヒートポンプサイクル装置を提供する。
【解決手段】圧縮機4、利用側熱交換器6、電子膨張弁7及び室外熱交換器8を配管で接続した冷媒回路9と、電子膨張弁の開度を制御する制御手段21と、冷媒の吐出スーパーヒートを算出する吐出スーパーヒート算出手段24と、冷媒のサブクールを算出するサブクール算出手段22と、予め記憶している目標サブクールを抽出する目標サブクール抽出手段23とを備え、制御手段は、サブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を制御し、吐出スーパーヒートが予め定めた閾値以下の場合に、電子膨張弁の開度の制御周期を前記吐出スーパーヒートが閾値を上回る場合より長くする制御及び電子膨張弁の開度変化量を吐出スーパーヒートが閾値を上回る場合より小さくする制御の少なくとも一方の制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、水と冷媒を熱交換する利用側熱交換器、電子膨張弁及び室外熱交換器を配管で接続した冷媒回路と、
前記電子膨張弁の開度を制御する制御手段と、
前記冷媒の吐出スーパーヒートを算出する吐出スーパーヒート算出手段と、
前記冷媒のサブクールを算出するサブクール算出手段と、
予め記憶している目標サブクールを抽出する目標サブクール抽出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記サブクールが前記目標サブクールとなるように前記電子膨張弁の開度を制御するとともに、前記吐出スーパーヒートが予め定めた閾値以下の場合に、前記電子膨張弁の開度の制御周期を前記吐出スーパーヒートが前記閾値を上回る場合より長くする制御及び前記電子膨張弁の開度変化量を前記吐出スーパーヒートが前記閾値を上回る場合より小さくする制御の少なくとも一方の制御を行うことを特徴とするヒートポンプサイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記吐出スーパーヒートが前記閾値以下の場合に、前記電子膨張弁の開度の制御周期を前記吐出スーパーヒートが前記閾値を上回る場合より長くする制御を行い、且つ、前記電子膨張弁の開度変化量を前記吐出スーパーヒートが前記閾値を上回る場合より小さくする制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項3】
前記圧縮機の凝縮圧力を検出する凝縮圧力検出手段と、
前記圧縮機の回転数を検出する圧縮機回転数検出手段と、を備え、
前記目標サブクール抽出手段は、前記凝縮圧力検出手段が検出した前記圧縮機の前記凝縮圧力と、前記圧縮機回転数検出手段が検出した前記圧縮機の前記回転数に基づいて、予め記憶している前記目標サブクールを抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記圧縮機の起動から所定時間経過した後に、制御を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートポンプサイクル装置。
【請求項5】
前記冷媒がR290であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートポンプサイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と冷媒との間で熱交換を行うヒートポンプサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプサイクル装置として、空気と冷媒との間で熱交換を行う空気調和機と、水と冷媒との間で熱交換を行うヒートポンプ式床暖房装置とが知られている。
【0003】
空気調和機に比較してヒートポンプ式床暖房装置では、サブクールの変化が与えるCOP(Coefficient Of Performance~成績係数)の変化の割合が大きく、厳密なサブクールの制御をしないとCOPが悪化して効率の悪い運転になる場合がある。
そこで、効率的な運転制御を行うことができるヒートポンプ式床暖房装置として、例えば特許文献1のヒートポンプサイクル装置が知られている。この特許文献1のヒートポンプサイクル装置は、圧縮機と、水と冷媒を熱交換する利用側熱交換器と、電子膨張弁と、室外熱交換器とが配管で接続された冷媒回路を備えている。そして、圧縮機には凝縮圧力を検出する凝縮圧力検出手段と、圧縮機の回転数を検出する圧縮機回転数検出手段とが設けられている。また、冷媒回路を制御する制御手段は、サブクールを算出するサブクール算出手段と、凝縮圧力検出手段で検出した凝縮圧力と圧縮機回転数検出手段で検出した前記圧縮機の回転数とから、予め記憶している目標サブクールを抽出する目標サブクール抽出手段とを備えている。そして、制御手段は、サブクール算出手段で算出した冷媒回路のサブクールが、目標サブクール抽出手段によって抽出された目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を調整している。特許文献1のヒートポンプサイクル装置は、目標サブクールを凝縮圧力だけでなく、圧縮機の回転数も考慮して決定し、目標サブクールに向けてサブクール制御を行うことにより、高効率の運転が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的に、吐出スーパーヒートと冷凍機油の冷媒溶解度の関係は、吐出スーパーヒートが小さい値(吐出スーパーヒートが0℃から20℃の範囲)のとき、吐出スーパーヒートの増減により冷媒溶解度が急激に変化する。つまり、吐出スーパーヒートが僅かに増減すると冷媒溶解度が大きく増減する。
【0006】
特許文献1のヒートポンプサイクル装置では、吐出スーパーヒートが小さい値において電子膨張弁の開度調整でサブクールの制御を行うと、吐出スーパーヒートの僅かな増減で冷媒溶解度が大きく増減し、冷媒回路内を循環する冷媒量が大きく増減するため、急激にサブクールが増減して、サブクールの制御性が低下するおそれがある。
【0007】
特に、特許文献1のヒートポンプサイクル装置にR290を冷媒として使用する場合には、R290はヒートポンプ装置に広く使用されているR410AやR32に対して吐出温度が低いという特性があるため、吐出スーパーヒートが小さい値での運転が発生しやすく、サブクールの制御性の低下が顕著になる。
そこで、本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、吐出スーパーヒートが小さい値での運転においてもサブクールの制御性を向上させることができるヒートポンプサイクル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の一態様は、圧縮機、水と冷媒を熱交換する利用側熱交換器、電子膨張弁及び室外熱交換器を配管で接続した冷媒回路と、電子膨張弁の開度を制御する制御手段と、冷媒の吐出スーパーヒートを算出する吐出スーパーヒート算出手段と、冷媒のサブクールを算出するサブクール算出手段と、予め記憶している目標サブクールを抽出する目標サブクール抽出手段と、を備え、制御手段は、サブクールが目標サブクールとなるように電子膨張弁の開度を制御するとともに、吐出スーパーヒートが予め定めた閾値以下の場合に、電子膨張弁の開度の制御周期を前記吐出スーパーヒートが閾値を上回る場合より長くする制御及び電子膨張弁の開度変化量を吐出スーパーヒートが閾値を上回る場合より小さくする制御の少なくとも一方の制御を行うようにしたヒートポンプサイクル装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒートポンプサイクル装置によれば、吐出スーパーヒートが小さい値での運転においてサブクールの制御を行う場合にも、サブクールの制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のヒートポンプサイクル装置としてのヒートポンプ式暖房装置を示す回路図である。
【
図2】ヒートポンプ式暖房装置の室外機を示す冷媒回路である。
【
図4】
図2の冷媒回路の冷媒であるR290(プロパン)の冷媒溶解度と吐出スーパーヒートとの関係を示すグラフである。
【
図5】ヒートポンプ式暖房装置の制御方法を示すメインルーチンを示す制御フローである。
【
図6】
図5のメインルーチンを構成するポンプ・圧縮機制御処理を示す制御フローである。
【
図7】
図5のメインルーチンを構成する第1実施形態のサブクール制御処理を示す制御フローである。
【
図8】第2実施形態のサブクール制御処理を示す制御フローである。
【
図9】第3実施形態のサブクール制御処理を示す制御フローである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
[第1実施形態]
【0012】
(ヒートポンプ装置の概要)
図1は、本発明のヒートポンプサイクル装置としての第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の回路図である。
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は、室外機2と、室内機3とを有する。
室外機2は、圧縮機4と、四方弁5と、水と冷媒とを熱交換する利用側熱交換器6と、電子膨張弁7と、室外熱交換器8とが順次接続されて冷媒回路9が形成されている。そして、四方弁5により冷媒循環方向を切り替える。また、室外熱交換器8へ外気を送風する室外ファン10も設けられている。圧縮機4の吐出側には、冷媒の吐出圧力を検出する吐出圧力センサ11と、圧縮機4出側の冷媒温度を検出する吐出温度センサ12が設けられている。利用側熱交換器6が凝縮器として機能する場合において利用側熱交換器6の冷媒出口には、利用側熱交換器6を通過した冷媒の温度を検出する冷媒温度センサ13が設けられている。
【0013】
また、室外機2の冷媒回路9を循環する冷媒として、吐出温度が低いR290(プロパン)が使用されている。
室内機3は、室外機2の利用側熱交換器6で冷媒と熱交換された水が循環するように構成されており、利用側熱交換器6、温水循環用ポンプ15、水と室内の空気との間で熱交換を行う室内熱交換器16が順次接続されて水循環路17が形成されている。利用側熱交換器6の水の出口には出湯温度を検出する出湯温度センサ18が設けられている。また、室内機3には、室内熱交換器16で熱交換された空気を室内へ送風する室内ファン19と、室温センサ20が設けられている。
【0014】
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は、四方弁5及び温水循環用ポンプ15の駆動制御と電子膨張弁7の開度制御を行う制御手段21を備えている。また、制御手段21には、吐出圧力センサ11から冷媒の吐出圧力、吐出温度センサ12から冷媒の吐出温度、出湯温度センサ18から利用側熱交換器6から流出した水の出湯温度が入力される。なお、吐出圧力センサ11が本発明の凝縮圧力検出手段に相当し、制御手段21が本発明の圧縮機回転数検出手段に相当する。
【0015】
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は運転を開始すると制御手段21が温水循環用ポンプ15を駆動し、利用側熱交換器6と室内熱交換器16との間で水を循環させる。制御手段21は、本実施形態特有の制御を行うプログラムが記憶されたマイコンが内蔵されており、除霜運転時に冷媒の循環方向を逆転させる際に四方弁5を切り替え、内蔵されたマイコンがプログラムに従って動作する。
【0016】
そして、第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は、冷媒のサブクール(SC)を算出するサブクール算出手段(SC算出手段)22と、予め記憶している目標サブクールを抽出する目標サブクール抽出手段(目標SC抽出手段)23と、冷媒の吐出スーパーヒートを算出する吐出スーパーヒート算出手段(吐出SH算出手段)24と、を備えている。なお、SC算出手段22は制御手段21、吐出圧力センサ11及び冷媒温度センサ13を有し、目標SC抽出手段23は制御手段21及び吐出圧力センサ11を有し、吐出SH算出手段24は制御手段21、吐出圧力センサ11及び吐出温度センサ12を有している。
【0017】
次に、室外機2における冷媒回路9の冷媒の状態について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2における冷媒回路9の基準点として、点Aは圧縮機4と凝縮器(利用側熱交換器6に対応。以下、凝縮器6と表記)の間、点Bは凝縮器6と膨張弁(電子膨張弁7に対応。以下、膨張弁7と表記)の間、点Cは膨張弁7と蒸発器(室外熱交換器8に対応。以下、蒸発器8と表記)の間、点Dは蒸発器8と圧縮機4の間を示している。
【0018】
点Aから点D、又は各点間における冷媒の状態は、
図3のモリエル線図で示すように、以下の(1)~(8)の過程に従って変化する。(1)圧縮機4での圧縮過程の冷媒(点D~A間)は圧縮され、圧力(縦軸)・温度共に上昇して高温高圧の過熱蒸気となる。(2)圧縮機4から吐出された冷媒(点A)は、過熱状態の高圧気相冷媒である。(3)凝縮器6での冷却過程の冷媒(点A~B間)は、水循環路17を流れている水と熱交換(水に放熱)することで、圧力が一定のまま、過熱蒸気、飽和蒸気、湿り蒸気、飽和液の各状態を経て高圧の過冷却液となる。(4)凝縮器6から流出した冷媒(点B)は、過冷却状態の高圧液相冷媒である。(5)膨張弁7での膨張過程の冷媒(点B~C間)は、膨張し、圧力(縦軸)・温度共に下降して湿り蒸気となる。(6)膨張弁7から流出した冷媒(点C)は、液リッチ(=液相比率が高い)状態の低圧二相冷媒である。(7)蒸発器8での蒸発過程の冷媒(点C~D間)は、周囲空気と熱交換(吸熱)することで、圧力が一定のまま、湿り蒸気、飽和蒸気、の各状態を経て低圧の過熱蒸気となる。(8)蒸発器8から流出した冷媒(点D)は、過熱状態の低圧気相冷媒である。
【0019】
ここで、
図3における点Aの冷媒温度と、点Aと同一圧力の飽和ガス線上の点Eの飽和ガス温度との差が冷媒の吐出スーパーヒート(吐出過熱度:吐出SH)であり、点Bの冷媒温度と、点Bと同一圧力の飽和液線上の点Fの飽和液温度との差が冷媒のサブクール(過冷却度:SC)である。
図4は、冷媒回路9の冷媒であるR290(プロパン)の冷凍機油への冷媒溶解度と吐出SHとの関係を示すグラフであり、横軸が吐出SH(単位:℃)、縦軸が冷媒溶解度(単位:%)である。
図4のグラフから明らかなように、R290は、吐出SHが小さな値、例えば、吐出SHが0℃から20℃の範囲では、吐出SHの増減により冷媒溶解度が急激に変化する。この特性は、冷媒の種類によらず一般的なものではあるが、R290は、ヒートポンプ装置に広く使用されているR410AやR32に対して吐出温度が低いという特性があるため、吐出SHが小さい値での運転が発生しやすい。つまり、R290を用いたヒートポンプ装置では、吐出SHの増減に伴う冷媒溶解度の増減が生じやすい。
【0020】
(SC及び吐出SHの制御)
次に、SC算出手段22、目標SC抽出手段23、吐出SH算出手段24及び制御手段21の具体的な制御について以下に説明する、
SC算出手段22は、現在のSCを算出する。具体的な算出方法は、吐出圧力センサ11で検出した冷媒の吐出圧力に基づいて、
図3で示した冷媒のモリエル線図における飽和液線の飽和液温度を算出する。そして、SC算出手段22は、この飽和液温度から冷媒温度センサ13で検出した利用側熱交換器6を通過した冷媒の温度を減算することで現在のSCを算出する。
【0021】
目標SC抽出手段23は目標SCテーブルを記憶している。目標SCテーブルは、例えば前述した特許文献1の
図10で示しているように、凝縮圧力状態と圧縮機4の回転数(単位:rps)に応じた目標SCを設定している。凝縮圧力状態とは、吐出圧力センサ11で検出した圧力値(凝縮圧力)が、予め設定した凝縮圧力閾値に対して圧力が低い状態から高い状態に変化した場合に上昇中、または圧力が高い状態から低い状態に変化した場合に下降中として凝縮圧力が変化する状態を判断するものである。また、圧縮機4の回転数は、3つのゾーン(70rps以上、40rps以上で70rps未満、40rps未満)に区分されている。そして、目標SC抽出手段23は、吐出圧力センサ11で検出した圧力値(凝縮圧力)の凝縮圧力状態を判定し、現在の圧縮機4の回転数に基づいて、目標SCテーブルの中から目標SCを抽出する。
【0022】
吐出SH算出手段24は、現在の吐出SHを算出する。具体的な算出方法は、吐出温度センサ12で冷媒の吐出温度を検出する。また、吐出圧力センサ11で検出した冷媒の吐出圧力に基づいて、冷媒のモリエル線図(
図3参照)における飽和ガス線の飽和ガス温度を算出する。そして、吐出SH算出手段24は、冷媒の吐出温度から飽和ガス温度を減算することで現在の吐出SHを算出する。
【0023】
制御手段21は、SC算出手段22で算出した現在のSCから目標SC抽出手段23で抽出した目標SCを減算する。そして、制御手段21は、現在のSCから目標SCの減算結果がプラスの時には、電子膨張弁7の開度を大きくするように制御し、現在のSCから目標SCの減算結果がマイナスの時には、電子膨張弁7の開度を小さくするように制御することでSC制御を行う。
さらに、制御手段21は、予め定めた吐出SH閾値と、吐出SH算出手段24で算出した現在のSHとを比較する。ここで、吐出SH閾値は、圧縮機4の仕様下限付近の5℃~15℃程度に設定されている。制御手段21は、現在のSHが吐出SH閾値以下の場合には、電子膨張弁7の開度の制御周期を通常(吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合)より長くする制御を行う。
【0024】
(第1実施形態のSC制御)
次に、第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の運転方法について、
図5から
図7を参照して説明する。
図5はヒートポンプ式暖房装置1のメインルーチンであり、
図6はメインルーチンに含まれるポンプ・圧縮機制御処理を示し、
図7はメインルーチンに含まれるサブクール制御処理を示している。
【0025】
先ず、
図5のメインルーチンでは、ステップST1において、制御手段21がポンプ・圧縮機制御処理を行う。次いでステップST2では、制御手段21が圧縮機4の起動から所定時間(例えば2分程度)を経過したかを判定する。これは、圧縮機4の起動直後は、冷媒回路9の運転が過渡状態にあり、SCが取れておらず、サブクール制御処理を行えないためである。すなわち、このST2では、圧縮機4の起動から所定時間経過し、サブクール制御処理を開始できるか否かを判定する。そして、ステップST2で圧縮機4の起動から所定時間経過したこと判断した場合には(ステップST2-YES)、ステップST3に移行し、圧縮機4の起動から所定時間を経過していない場合には(ステップST2-NO)、ステップST1に戻る。
【0026】
図6のポンプ・圧縮機制御処理では、先ずステップST4において、制御手段21が温水循環用ポンプ15の駆動を開始する。これにより、利用側熱交換器6と室内熱交換器貴16との間の水循環路17を水が循環する。次いでステップST5において、制御手段21に出湯温度センサ18で検出した出湯温度が入力される。次いでステップST6において、制御手段21が出湯温度センサ18で検出した出湯温度が目標温度となるように、圧縮機4の回転数を制御してヒートポンプ式暖房装置1を運転する。なお、圧縮機4の回転数の変化によって電子膨張弁7の開度が変化するように制御されている。次に
図5のメインルーチンに戻って処理を行う。
【0027】
また、
図7のサブクール制御処理では、ステップST10において、SC算出手段22に吐出圧力センサ11で検出した冷媒の吐出圧力(凝縮圧力)が入力され、冷媒温度センサ13で検出した利用側熱交換器6を通過した冷媒の温度が入力される。次いでステップST11において、SC算出手段22が吐出圧力に基づいて飽和液線の飽和液温度を算出する。次いでステップST12において、SC算出手段22が飽和液温度から冷媒温度センサ13で検出した冷媒の温度を減算して現在のSCを算出する。
【0028】
次いでステップST13において、目標SC抽出手段23が現在の圧縮機4の回転数を検出する。次いで、ステップST14において目標SC抽出手段23が圧力(凝縮圧力)の凝縮圧力状態を判定し、現在の圧縮機4の回転数に基づいて目標SCテーブルの中から目標SCを抽出する。
【0029】
次いでステップST15において、吐出SH算出手段24に吐出温度センサ12で検出した冷媒の吐出温度が入力される。次いで、ステップST16において、吐出SH算出手段24が吐出圧力センサ11で検出した冷媒の吐出圧力に基づいて飽和ガス線の飽和ガス温度を算出する。次いでステップST17において、吐出SH算出手段24が冷媒の吐出温度から飽和ガス温度を減算して現在のSHを算出する。
【0030】
次いでステップST18において、制御手段21が現在のSCから目標SCを減算し、その減算結果に応じて電子膨張弁7の開度を制御する。すなわち、減算結果がプラスの時には、電子膨張弁7の開度を大きくするように制御し、減算結果がマイナスの時には、電子膨張弁7の開度を小さくするように制御する。
【0031】
次いでステップST19において、制御手段21が吐出SH閾値と現在の吐出SHとを比較し、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には(ステップST19-YES)ステップST20に移行し、現在の吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合には(ステップST19-NO)ステップST21に移行する。
【0032】
ステップST20では、ステップST18の減算結果がプラスで電子膨張弁7の開度を大きくするように制御する場合には、開度を大きくする制御周期を通常(吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合)より長くする制御を行い、ステップST18の減算結果がマイナスで電子膨張弁7の開度を小さくするように制御する場合には、開度を小さくする制御周期を通常より長くする制御を行う。その後サブクール制御ルーチン処理を抜ける。
【0033】
また、ステップST21では、電子膨張弁7の開度制御(開度を大きくする制御、開度を小さくする制御)を通常の制御周期で行う。その後、
図5のメインルーチンに戻って処理を行う。
【0034】
次に、第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の運転方法の主な作用について説明する。
図7のステップST14では凝縮圧力、圧縮機4の回転数を考慮した目標SCテーブルの中から目標SCを抽出し、
図7のステップST18では現在のSCから目標SCを減算し、その減算結果に応じて電子膨張弁7の開閉制御を行うことから、COP(Coefficient Of Performance~成績係数)が向上した高効率のヒートポンプサイクル運転を行うことが可能となる。
【0035】
ここで、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には(
図7のステップST19)、電子膨張弁7の開度を大きくする、或いは開度を小さくする制御周期を通常より長くする制御を行う(
図7のステップST20)。このように電子膨張弁7の開度の制御周期を通常より長くすると、開度制御により生じる冷媒回路9の状態の変化が安定してから次の開度制御を行うことができる。したがって、冷媒(R290)の吐出SHが小さな値において吐出SHの変化によって冷媒溶解度が大きく増減する場合であっても、急激にSCが増減しないように制御される。
【0036】
また、圧縮機4の起動直後は冷媒回路9の運転が過渡状態にあり、SCが取れていない状態であるため、
図5のステップST2及びステップST3では、圧縮機4の起動から所定時間経過した後にサブクール制御処理が開始される。
【0037】
また、凝縮圧力、圧縮機4の回転数を考慮した目標SCテーブルの中から目標SCを抽出し、現在のSCから目標SCを減算し、その減算結果に応じて電子膨張弁7の開閉制御を行っているので、凝縮器においてエンタルピー差が確保され、COPが向上した高効率のヒートポンプサイクルの運転を行うことができる。
(第2実施形態のSC制御)
【0038】
次に、
図8は、
図7で示したサブクール制御処理に対して異なる第2実施形態のサブクール制御処理を示すものである。
図8で示す第2実施形態のサブクール制御処理が、
図7で示したサブクール制御処理と異なる箇所は、
図7で示したステップST20に替えてステップST22を備え、
図7で示したステップST21に替えてステップST23を備えていることである。
【0039】
第2実施形態のサブクール制御処理によると、
図8のステップST19で吐出SH閾値と現在の吐出SHとを比較し、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合にはステップST22に移行し、現在の吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合にはステップST23に移行する。
【0040】
ステップST22では、制御手段21が電子膨張弁7の開度変化量を通常の開度変化量より小さくする制御を行う。すなわち、ステップST22は、ステップST18の減算結果がプラスで電子膨張弁7の開度を大きくする制御を行う場合には、一動作での開度変化量が通常の開度変化量より小さい開度変化量となるように開度を大きくしていく。また、ステップST18の減算結果がマイナスで電子膨張弁7の開度を小さくする制御を行う場合には、一動作での開度変化量が通常の開度変化量より小さい開度変化量となるように開度を小さくしていく。
【0041】
ステップST19において現在の吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合に移行するステップST23では、電子膨張弁7の開度制御(開度を大きくする制御、開度を小さくする制御)を通常の開度変化量で行う。その後、
図5のメインルーチンに戻って処理を行う。
【0042】
第2実施形態のサブクール制御処理によると、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には(
図8のステップST19)、電子膨張弁7の開度を大きくする、或いは開度を小さくする開度変化量を通常より小さくして制御を行う(
図8のステップST22)。このように電子膨張弁7の開度変化量を通常より小さくすると、開度制御により生じる冷媒回路9の状態の変化を穏やかにできる。したがって、冷媒(R290)の吐出SHが小さな値において吐出SHの変化によって冷媒溶解度が大きく増減する場合であっても、冷媒の溶解量変化に起因するSCの変化が緩やかになり、急激にSCが増減しないように制御される。
【0043】
したがって、第2実施形態のサブクール制御処理を備えたヒートポンプ式暖房装置1の運転によると、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には、電子膨張弁7の開度を大きくする、或いは開度を小さくする開度変化量を通常より小さくする制御を行うことで、冷媒の吐出SHが小さな値において冷媒溶解度が大きく増減する状態であっても、冷媒の溶解量変化に応じたSCの変化が緩やかになって急激にSCが増減しないように制御され、SCの制御性を向上させることができる。
【0044】
また、第1実施形態と同様に、凝縮圧力、圧縮機4の回転数を考慮した目標SCテーブルの中から目標SCを抽出し、現在のSCから目標SCを減算し、その減算結果に応じて電子膨張弁7の開閉制御を行っているので、凝縮器においてエンタルピー差が確保され、COPが向上した高効率のヒートポンプサイクルの運転を行うことができる。
(第3実施形態のSC制御)
【0045】
さらに、
図9は、第3実施形態のサブクール制御処理を示すものである。
図9で示す第3実施形態のサブクール制御処理が、
図7で示した第1実施形態のサブクール制御処理と異なる箇所は、
図7で示したステップST20の後に、
図8で示したステップST22を追加し、
図7で示したステップST21の後に、
図8で示したステップST22を追加したことである。
【0046】
第3実施形態のサブクール制御処理は、ステップST19で吐出SH閾値と現在の吐出SHとを比較し、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には、第1実施形態で記載したステップST20(電子膨張弁7の開度の制御周期を通常より長くする)及び、第2実施形態で記載したステップST22(電子膨張弁7の開度変化量を通常の開度変化量より小さくする)を行う。一方、現在の吐出SHが吐出SH閾値を上回る場合には、第1実施形態で記載したステップST21(電子膨張弁7の開度制御を通常の制御周期で行う)及び、ステップST23(電子膨張弁7の開度制御を通常の開度変化量で行う)を行う。
【0047】
このように、電子膨張弁7の開度の制御周期を通常より長くし、且つ、電子膨張弁7の開度変化量を通常より小さくすると、冷媒(R290)の吐出SHが小さな値において冷媒溶解度が大きく増減する場合であっても、冷媒の溶解量変化に応じたSCの変化がさらに緩やかになり、急激にSCが増減しないように制御される。
【0048】
したがって、第3実施形態のサブクール制御処理を備えたヒートポンプ式暖房装置1の運転によると、現在の吐出SHが吐出SH閾値以下の場合には、電子膨張弁7の開度の制御周期を通常より長くし、電子膨張弁7の開度変化量を通常より小さくする制御を行うことで、電子膨張弁7の開度制御により生じる冷媒回路9の状態の変化が安定してから次の開度制御を行うことができるとともに、開度制御により生じる冷媒回路9の状態の変化を穏やかにできるので、冷媒の吐出SHが小さな値において冷媒溶解度が大きく増減する状態であっても、冷媒の溶解量変化に応じたSCの変化がさらに緩やかになって、SCの制御性をさらに向上させることができる。
【0049】
なお、上述したヒートポンプ式暖房装置1の運転では、R410AやR32に対して吐出温度が低い冷媒としてR290(プロパン)を使用しているが、他の吐出温度が低い冷媒を使用しても、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 ヒートポンプ式暖房装置
2 室外機
3 室内機
4 圧縮機
5 四方弁
6 利用側熱交換器
7 電子膨張弁
8 室外熱交換器
9 冷媒回路
10 室外ファン
11 吐出圧力センサ
12 吐出温度センサ
13 冷媒温度センサ
15 温水循環用ポンプ
16 室内熱交換器
17 水循環路
18 出湯温度センサ
19 室内ファン
20 室温センサ
21 制御手段
22 サブクール算出手段(SC算出手段)
23 目標サブクール抽出手段(目標SC抽出手段)
24 吐出スーパーヒート算出手段(吐出SH算出手段)