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特開2024-88184複合材料、切削インサート、および切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088184
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】複合材料、切削インサート、および切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240625BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23B27/14 A
C04B35/56 260
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203236
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 翔丸
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF32
3C046FF37
3C046FF40
3C046FF42
3C046FF51
(57)【要約】
【課題】切削工具に用いられる材料の耐摩耗性および耐塑性変形性を向上させる。
【解決手段】切削工具に用いられる複合材料は、タングステンを含む炭化物と、周期表第3族の元素を含む酸化物と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具に用いられる複合材料であって、
タングステンを含む炭化物と、
周期表第3族の元素を含む酸化物と、
を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料であって、
前記炭化物の体積の割合が30vol%以上95vol%以下であることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項2に記載の複合材料であって、さらに、
アルミニウムと、ハフニウムと、ジルコニウムと、チタニウムの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の複合材料であって、
摂氏1000度の不活性雰囲気下における強度が1000MPa以上であることを特徴とする複合材料。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の複合材料であって、
摂氏1000度の不活性雰囲気下における硬度が10GPa以上であることを特徴とする複合材料。
【請求項6】
切削インサートであって、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の複合材料により基体が形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項7】
切削工具であって、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の複合材料により形成されている基体と、
前記基体の表面に形成された表面被覆層と、
を含み、
前記表面被覆層は、チタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含むことをと特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、切削インサート、および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加工する切削工具の材料として用いられる超硬合金が知られている(例えば、特許文献1参照)。超硬合金は機械的特性および熱的特性が高いため、切削工具として広く用いられている。一方、耐熱合金などの難削材加工では、切削工具に高い耐熱性が要求される。特許文献1に記載された切削工具に用いられる基材には、WC粒子からなる第1硬質相と、Al23からなる第2硬質相と、CoまたはNiを含む結合相とが含まれている。特許文献2に記載された切削工具に用いられる基材には、WCおよびCoと、TiCやTaC等の硬質成分とが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-151875号公報
【特許文献2】特開2021-155803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、航空機の燃費向上を目的にエンジン内の燃焼温度を高める研究等がされており、部材として用いられる耐熱合金として求められる耐熱性が向上している。そのため、このような部材の切削抵抗はさらに高くなり、従来の超硬合金の切削工具で加工すると、切削工具の刃先の変形や刃先の摩耗が生じるおそれがある。また、一般の加工現場において低コスト化および生産性向上の観点から、切削の高速化による高能率化が求められている。切削の高速化は切削工具の刃先の高温化を招くため、切削工具の刃先の変形や刃先の摩耗が生じさせるおそれがある。
【0005】
特許文献1に記載された切削工具、又は特許文献2に記載された切削工具では、変形や摩耗を生じさせるおそれがある。そのため、切削工具に用いられる材料として、より高い耐摩耗性および耐塑性変形性を備える材料が望まれていた。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、切削工具に用いられる材料の耐摩耗性および耐塑性変形性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、切削工具に用いられる複合材料が提供される。この複合材料は、タングステンを含む炭化物と、周期表第3族の元素を含む酸化物と、を含む。
【0009】
この構成によれば、融点が高く、かつ、高温時の生成自由エネルギーが大きい周期表第3族の元素を含む酸化物、すなわち、高温下で安定である酸化物を含んでいる。また、第3族の元素は炭化物を生じ難いため、本構成の複合材料が含むタングステン(W)を含む炭化物と反応して複合材料の機械的強度が低下することを抑制できる。よって、本構成の複合材料を用いた切削工具では、耐摩耗性および耐塑性変形性が向上する。
【0010】
(2)上記形態(1)の複合材料において、前記炭化物の体積の割合が30vol%以上95vol%以下であってもよい。
この構成によれば、タングステンを含む炭化物の体積の割合が30%以上であるため、タングステンを含む炭化物の不足による機械的特性の低下を抑制できる。また、タングステンを含む炭化物の体積の割合が95%以下であるため、タングステンを含む炭化物の結晶組織の粗大化による機械的特性の低下を抑制できる。すなわち、本構成によれば、複合材料の機械的特性を向上させることができる。
【0011】
(3)上記形態(1)または形態(2)に記載の複合材料において、さらに、アルミニウムと、ハフニウムと、ジルコニウムと、チタニウムの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいてもよい。
この構成によれば、アルミニウムと、ハフニウムと、ジルコニウムと、チタニウムの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含むことにより、高温下での複合材料の機械的特性が向上する。
【0012】
(4)上記形態(1)から形態(3)までのいずれか一項に記載の複合材料において、摂氏1000度の不活性雰囲気下における強度が1000MPa以上であってもよい。
この構成によれば、摂氏1000度における強度が1000MPa以上であるため、高温下での耐欠損性が向上する。
【0013】
(5)上記形態(1)から形態(4)までのいずれか一項に記載の複合材料において、摂氏1000度の不活性雰囲気下における硬度が10GPa以上であってもよい。
この構成によれば、摂氏1000度における硬度が10GPa以上であるため、高温下での耐摩耗性が向上する。
【0014】
(6)本発明のその他の一形態によれば、切削インサートが提供される。この切削インサートは、上記形態(1)から形態(5)までのいずれか一項に記載の複合材料により基体が形成されている。
この構成によれば、高温下で安定である酸化物を含み、炭化物を生じ難い第3族の元素を含むことにより機械強度を低下させるタングステン(W)を含む炭化物の生成を抑制する複合材料により切削インサートが形成されている。よって、本構成の切削インサートでは、耐摩耗性および耐塑性変形性が向上する。
【0015】
(7)本発明のその他の一形態によれば、切削工具が提供される。この切削工具は、上記形態(1)から形態(5)までのいずれか一項に記載の複合材料により形成されている基体と、前記基体の表面に形成された表面被覆層と、を含み、前記表面被覆層は、チタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含む。
この構成によれば、基体がチタンと、クロムと、アルミニウムから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含む表面被覆層により被覆されている。被覆層により基体と被削材との反応が抑制されるため、基体の摩耗が抑制される。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、複合材料、基体材料、切削インサート、切削工具、およびこれらを備えるシステム等、複合材料の製造方法およびこれらを備えるシステム等の形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】複合材料により構成されている切削インサートの概略斜視図である。
図2】実施例1~14の切削インサートと比較例1~3の切削インサートとの複合材料の各パラメータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態:
図1は、本発明の実施形態の複合材料により構成されている切削インサート10の概略斜視図である。切削インサート10では、W(タングステン)を含む炭化物と、周期表第3族の元素を含む酸化物とを含む複合材料で構成される基体4により形成されている。切削インサート10がこれらの複合材料で構成されているため、切削インサート10の耐摩耗性、耐塑性変形性、および耐欠損性が向上する。
【0019】
図1に示されるように、切削インサート10は、略円柱状の形状を有している。切削インサート10は、略円柱状の基体4と、基体4の底面1A,1B側の面をコーティングしている被覆層(表面被覆層)5と、を備えている。切削インサート10の表面は、2つの底面1A,1Bと、底面1Aと底面1Bとを接続する側面2とで形成されている。底面1A,1Bと側面2との境界である刃部3が、切削インサート10により切削される被削材に接触することで、被削材を切削する。なお、切削インサート10は、切削工具とも換言できる。
【0020】
切削インサート10を形成する複合材料は、Wを含む炭化物を30vol%以上95vol%以下の範囲で含んでいる。また、基体4を形成する複合材料は、さらに、アルミニウム(Al)と、ハフニウム(Hf)と、ジルコニウム(Zr)と、チタニウム(Ti)の元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいる。また、当該複合材料では、摂氏1000度(℃)の不活性雰囲気下における曲げ強さ(強度)が1000MPa以上である。さらに、当該複合材料では、1000℃の不活性雰囲気下における硬度が10GPa以上である。なお、曲げ強さの試験は、JISR1604に基づく試験である。硬度の試験は、JISR1623に基づく試験である。
【0021】
本実施形態の被覆層5は、Tiと、クロム(Cr)と、Alから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含んでいる。
【0022】
製造方法:
本実施形態の基体4を形成する複合材料の製造方法では、用意した原料粉末にアセトンを加えて粉砕混合する。粉砕混合により得られた混合スラリーを乾燥させて、乾燥混合粉を作製する。作製した混合粉をホットプレス法により焼成した。本実施形態のホットプレス法では、型設計を改良することにより、高いプレス圧力でのホットプレスを実現している。また、雰囲気圧力を8気圧まで高めている。高いプレス圧力および高い雰囲気圧力により、焼成温度が低下する。焼成温度の低下により、下記式(1)で表される1750℃以上で発生する反応式におけるWCの脱炭反応が抑制される。この結果、強度低下の元となる炭素(C)の発生を抑制できる。なお、焼成雰囲気は、還元雰囲気であればよく、Arガス以外に窒素ガスなどが用いられてもよい。
2WC→W2C+C・・・(1)
得られた焼結体は、所定の形状に切断および研磨加工される。
【0023】
製造時に、WCの成分、および、WCと3族酸化物との他に加えられるその他成分に応じて製造される複合材料の特性が変化する。変化する複合材料の特性としては、後述する高温下での曲げ強度や高温下での硬度である。
【0024】
評価試験:
図2は、実施例1~14の切削インサートと比較例1~3の切削インサートとの基体を形成する複合材料の各パラメータを示す図である。サンプルとしての実施例1~14の複合材料の製造方法では、原料としてのWの炭化物である炭化タングステン(WC)と、3族酸化物と、その他の成分とを秤量し、ボールミルで粉砕混合する。原料のWCとして、平均粒径0.4μmの原料粉末を用いた。3族酸化物として、イットリア(Y23)と、イットリビア(Yb23)と、ユーロピア(Eu23)とのいずれか一つの原料粉末を用いた。3族酸化物の原料粉末の平均粒径は、いずれも0.3μmであった。その他の成分として、ジルコニア(ZrO2)と、酸化チタン(TiO2)と、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al512)と、ハフニア(HfO2)の原料粉末を用いた。その他の成分として用いた4つの酸化物の平均粒径は、0.5μmであった。なお、図2に示されるように、実施例1~10の複合材料の製造では、その他の成分の原料粉末が含まれていない。実施例11~14の複合材料の製造では、その他の成分の原料粉末が含まれている。
【0025】
実施例1~14の製造方法における粉砕混合の条件は、下記のとおりである。
・粉砕時間:48時間(hour)
・ポット:SUS製
・球石:超硬
・湿式(アセトン)
粉砕混合により得られた混合スラリーは、振動乾燥器により乾燥させられ、乾燥混合粉へと変化した。
【0026】
作成された乾燥混合粉に対して行われるホットプレス法の条件は、下記のとおりである。
・型:カーボン製
・温度:図2参照(サンプルに応じて異なる)
・プレス圧力:60MPa
・雰囲気:アルゴン(Ar)8気圧
【0027】
得られた各焼結体を所定の形状に加工して、下記4つの分析・試験を行った。
1.EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による焼結体成分の定量
2.高温強度試験
3.高温硬度試験
4.切削試験
【0028】
EPMAによる焼結体成分の定量では、各焼結体の観察試験片を準備し、観察面を鏡面研磨した。得られた各試験片に対して1万倍の視野画像を取得し、視野中の走査により各成分の定量分析を行った。定量分析により、実施例1~14および比較例1~3の複合材料の成分が判明した。図2には、実施例1~14および比較例1~3の複合材料について、EPMAにより得られたWCの含有量(vol%)と、周期表第3族の元素を含む3族酸化物の種類および含有量(vol%)と、その他の成分の含有量(vol%)と、が示されている。また、図2には、実施例1~14および比較例1,2の複合材料の製造時の焼成温度(℃)が示されている。焼成温度は、実施例1~14および比較例1,2に含まれるWC、酸化物、及びその他の成分によって決定される。なお、比較例3は市販の超硬合金の切削インサートであるため、比較例3の焼成温度は図2に示されていない。複合材料を構成する各成分の割合は、EPMAにより求められた各成分の面積比率から求められる。
【0029】
高温強度試験では、各焼結体を3(mm)×4(mm)×50(mm)の試験片に加工し、高温下でJIS1604に基づき曲げ強度試験を行った。試験片は、Ar雰囲気下で1000℃に15分保持した後、4×50の面に引張応力が生じるように負荷をかけて強度を測定した。
【0030】
高温硬度試験では、各焼結体を10(mm)×10(mm)×5(mm)の試験片に加工し、10×10の面を鏡面研磨した後、JISR1623に基づき、ダイヤモンド圧子を10kgfの負荷で鏡面研磨した面の真ん中付近に打ち込むことにより、高温下でのビッカース硬度試験を行った。試験片は、高温強度試験と同じように、Ar雰囲気下で1000℃に15分保持した後、ビッカース硬度試験を行った。
【0031】
切削試験では、RNGN120700の工具形状の実施例1~14焼結体サンプルによってニッケル基耐熱合金718Plusを旋削することにより、各実施例の切削性能を評価した。なお、被削材のニッケル基耐熱合金718Plusは、ニッケル基耐熱合金718よりもCoを多く含有するため、耐熱性が高く、非常に加工しにくい難削材である。工具寿命の判定基準は、横逃げ部摩耗量が0.3mm以上に達した場合に「摩耗」と判断し、欠損が出た場合に「欠損」と判断した。切削速度の条件は、250~500m/min、切込量1.0mm、送り量0.2mm/rev.,Wetである。なお、切削速度は、250m/minから400m/minまでは50m/minずつ上昇させ、400mm/min以降では25mm/minずつ上昇させた。
【0032】
図2に示されるように、実施例1~14および比較例1~3の高温強度試験と、高温硬度試験と、切削試験との評価結果が示されている。実施例1~14の複合材料は、WCを含んでおり、かつ、周期表第3族の元素を含む酸化物である3族酸化物を含んでいる。実施例2~14の複合材料では、各複合材料に含まれるWCの体積の割合が30vol%以上95vol%以下である。
【0033】
また、実施例11~14の複合材料は、Alと、Hfと、Zrと、Tiの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいる。具体的には、実施例11の複合材料は、5vol%のZrの酸化物であるZrO2を含んでいる。実施例12の複合材料は、5vol%のTiの酸化物であるTiO2を含んでいる。実施例13の複合材料は、5vol%のAlの酸化物であるY3Al512を含んでいる。実施例14の複合材料は、5vol%のHfの酸化物であるHfO2を含んでいる。
【0034】
それに対して、比較例1の複合材料は、Y23のみで形成されている。比較例1の複合材料は、実施例1~14の複合材料と異なり、Wを含む炭化物を含んでいない。比較例2の複合材料は、95vol%のWCと、5vol%のW2Cとから形成されている。比較例3の複合材料は、90vol%のWCと、10vol%のCoとから形成されている。比較例2,3の複合材料は、実施例1~14の複合材料と異なり、3族酸化物を含んでいない。
【0035】
図2に示されるように、実施例1~14の複合材料の高温強度は、いずれも1000MPa以上である。一方で、比較例1~3の複合材料の高温強度は、840MPa以下であり、実施例1~14の複合材料よりも低い。また、実施例1~14の高温硬度は、いずれも10GPa以上である。特に、実施例2~14の複合材料のようにWCの体積の割合が30vol%以上95vol%以下の場合には、WCの体積の割合が20vol%である実施例1よりも高温強度および高温硬度が向上する。また、実施例11~14のようにその他成分を含んでいる複合材料の高温強度は1410MPa以上と高い。一方で、比較例1,3の複合材料の高温硬度は、8.2GPa以下であり、実施例1~14の複合材料よりも低い。
【0036】
切削試験では、実施例1~14の切削インサート10が欠損または摩耗により寿命を迎える切削速度は、350m/min以上であり、比較例1~3の250m/minよりも速い。すなわち、実施例1~14の切削インサート10の耐久性は、比較例1~3よりも高い。また、Alと、Hfと、Zrと、Tiの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいる実施例11~14の切削インサート10が寿命を迎える切削速度は475m/min以上であり、実施例11~14の切削インサート10の耐久性は更に高くなっている。
【0037】
以上のように、図2に示される実施例1~14の切削インサート10では、Wを含む炭化物と、周期表第3族の元素を含む酸化物とを含む複合材料で構成される基体4により形成されている。この構成によれば、基体4を形成する複合材料は、融点が高く、かつ、高温時の生成自由エネルギーが大きい周期表第3族の元素を含む酸化物、すなわち、高温下で安定である酸化物を含んでいる。また、第3族の元素は炭化物を生じ難いため、基体4を形成する複合材料が含むWを含む炭化物と反応して複合材料の機械的強度が低下することを抑制できる。よって、基体4を形成する複合材料を用いた切削インサート10では、耐摩耗性および耐塑性変形性が向上する。
【0038】
また、本実施形態の実施例2~14の切削インサート10の複合材料には、30vol%以上95vol%以下のWを含む炭化物が含まれている。この複合材料では、Wを含む炭化物の体積の割合が30%以上であるため、Wを含む炭化物の不足による機械的特性の低下を抑制できる。また、Wを含む炭化物の体積の割合が95%以下であるため、Wを含む炭化物の結晶組織の粗大化による機械的特性の低下を抑制できる。
【0039】
また、本実施形態の実施例11~14の切削インサート10の複合材料は、Alと、Hfと、Zrと、Tiの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいる。この構成によれば、Alと、Hfと、Zrと、Tiの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含むことにより、高温下での複合材料の機械的特性が向上する。具体的には、図2に示されるように、実施例11~14の切削試験における寿命が475m/min以上であり、複合材料の機械的特性が向上する。
【0040】
また、本実施形態の切削インサート10の複合材料では、1000℃の不活性雰囲気下における曲げ強さが1000MPa以上である。この構成によれば、摂氏1000度における強度が1000MPa以上であるため、高温下での耐欠損性が向上する。
【0041】
また、本実施形態の切削インサート10の複合材料では、1000℃の不活性雰囲気下における硬度が10GPa以上である。この構成によれば、摂氏1000度における硬度が10GPa以上であるため、高温下での耐摩耗性が向上する。
【0042】
また、本実施形態の切削インサート10が備える被覆層5は、Tiと、Crと、Alから選ばれる元素を含む複合物であって、炭化物と、窒化物と、炭窒化物と、酸化物との少なくとも1つから成る複合物を含んでいる。被覆層5により基体4と被削材との反応が抑制されるため、基体4の摩耗が抑制される。
【0043】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0044】
実施例1~14は、切削インサート10の基体4を形成する複合材料の一例であって、複合材料については、Wを含む炭化物と、周期表第3族の元素を含む酸化物と、を含む範囲で変形可能である。例えば、実施例1のように、複合材料中のWを含む炭化物の体積割合が30%未満であってもよいし、95%を超えていてもよい。また、複合材料に含まれる周期表第3族の元素を含む酸化物は、図2に示されるY,Yb,Eu,Sc以外の元素を含む酸化物であってもよい。また、複合材料は、微量の鉄族元素を含有してもよい。含有される鉄族元素としては、鉄(Fe)と、ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)とのうち少なくとも1つを挙げることができる。複合材料が鉄族元素を含むことによりWを含む炭化物の結晶粒界強度が向上し、機械的特性を向上させることができる。
【0045】
複合材料は、実施例1~10のように、Alと、Hfと、Zrと、Tiとの元素から選ばれる酸化物と、炭化物と、炭窒化物と、窒化物の少なくとも1つの複合物を含んでいなくてもよい。また、実施例1~14の複合材料の1000℃の不活性雰囲気下における曲げ強度は、1000MPa未満であってもよい。実施例1~14の複合材料の1000℃の不活性雰囲気下における硬度は、10GPa未満であってもよい。
【0046】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0047】
1A,1B…底面
2…側面
3…刃部
4…基体
5…被覆層
10…切削インサート
図1
図2