(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088198
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】木質床材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04F 15/04 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
E04F15/04 Z
E04F15/04 601E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203257
(22)【出願日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年10月19日~令和4年10月21日 朝日ウッドテック株式会社 新商品発表会「WOODTEC FAIR 2022」にて参考出品(東京国際フォーラム) (2)令和4年11月15日~令和4年11月17日 朝日ウッドテック株式会社 新商品発表会「WOODTEC FAIR 2022」にて参考出品(グランキューブ大阪)
(71)【出願人】
【識別番号】000213769
【氏名又は名称】朝日ウッドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
【テーマコード(参考)】
2E220
【Fターム(参考)】
2E220AA07
2E220AA19
2E220BA04
2E220BA23
2E220BB04
2E220BB13
2E220BC06
2E220DA02
2E220GA02X
2E220GA07X
2E220GA09X
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GA25X
2E220GB32X
2E220GB32Z
2E220GB33X
2E220GB35X
2E220GB37X
2E220GB37Z
2E220GB38X
2E220GB38Z
2E220GB44X
2E220GB45X
2E220GB48X
(57)【要約】
【課題】水濡れが生じる環境下での使用に適した木質床材を提供する。
【解決手段】木質床材10は、基材合板12と、基材合板12の表面に設けられた樹脂含浸紙14と、樹脂含浸紙14の表面に設けられた化粧材16と、を備える。合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した樹脂含浸紙14の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される樹脂含浸紙14の強度(常態における強度)が、30kgf/cm
2以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材合板と、
前記基材合板の表面に設けられた樹脂含浸紙と、
前記樹脂含浸紙の表面に設けられた化粧材と、を備え、
合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、30kgf/cm2以上である、木質床材。
【請求項2】
当該樹脂含浸紙を23℃の水中に24時間浸漬した後に、前記平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、20kgf/cm2以上である、請求項1に記載の木質床材。
【請求項3】
前記樹脂含浸紙の厚さは0.1~0.5mmである、請求項1または2に記載の木質床材。
【請求項4】
前記基材合板には、裏面において開口しかつ前記基材合板の幅方向または長さ方向に延びる複数の裏溝が形成されている、請求項1または2に記載の木質床材。
【請求項5】
前記基材合板の裏面側に設けられる緩衝材をさらに備える、請求項1または2に記載の木質床材。
【請求項6】
基材合板と化粧材とを、樹脂含浸紙を間に挟んで接着する工程を備え、
合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、30kgf/cm2以上である、木質床材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質床材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、戸建住宅、マンションなどのフローリングとして、合板の表面に、銘木単板、挽き板などの化粧材を貼り付けた木質床材が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の裏溝を有する合板基材層と、合板基材層の上面に積層された単板製の強化層と、強化層の上面に積層された耐傷性付与層と、耐傷性付与層の上面に積層された化粧層と、合板基材層の下面に積層された合成樹脂発泡体等の遮音層と、を備える木質系床材が開示されている。
【0004】
特許文献1には、上記の構成を有する木質系床材によれば、遮音性および歩行感に優れるとともに、床材自体の厚みも薄くしつつ、十分な剛性を確保することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、木材利用促進、空間価値向上などの観点から、ホテルの客室、店舗、オフィスビルなどの利用者が土足で歩行する場所においても木質床材を利用することが求められている。このような場所では水濡れを避けることが難しいため、利用される木質床材には、耐傷性だけでなく、耐水性も要求される。この点に関して、特許文献1に開示された木質系床材では、耐傷性付与層が設けられているが、耐水性については検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、水濡れが生じる環境下での使用に適した木質床材およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、木質床材が水濡れしたときに生じる問題について検討を行った。具体的には、木質合板と化粧材との間に木質繊維板を設けた木質床材について、水濡れしたときに生じる問題について詳細な検討を行った。その結果、木質床材が水濡れした際に、木質繊維板が水分を吸収することによって木質繊維板の強度が低下し、化粧材が剥離しやすくなることが分かった。また、水分を吸収することによって木質繊維板の寸法が変化し、木質床材に反りが発生しやすくなることが分かった。一方で、木質繊維板の代わりに樹脂含浸紙を用いることによって、水分吸収による上記のような寸法変化を抑制できることが分かった。
【0009】
以上のことから、本発明者は、木質合板と化粧材との間に、十分な強度を有する樹脂含浸紙を用いれば、水濡れが生じる環境下においても、木質床材の変形を抑制しつつ、優れた耐傷性を確保できると考えた。
【0010】
そこで、本発明者は、常態(水濡れしていない状態)において十分な強度を有しているHDF、および水分吸収を抑制して寸法変化を抑制できる樹脂含浸紙について、常態条件および湿潤条件の剥離強度(接着力)を比較する試験を行った。具体的には、本発明者は、合板の日本農林規格(JAS)の別記3の平面引張試験に準じて、以下に説明する試験を行った。
【0011】
図1は、試験に用いた治具を示す概略図であり、(a)は治具の正面図、(b)は治具の平面図である。
図1に示すように、本試験に用いた治具100は、金属製の上側治具102と金属製の下側治具104とを含む。上側治具102は、一辺が20mmの四角形状の底面102aを有する。下側治具104は、一辺が50mmの四角形状の上面104aを有する。
図1(b)に示すように、上側治具102は、下側治具104の中央の上方に配置される。
【0012】
本試験では、試験対象として、厚みが0.4mmのHDF、および厚みが0.2mmの樹脂含浸紙を用意した。樹脂含浸紙としては、原紙としてクラフト紙を用い、ユリア・メラミン樹脂(メラミン樹脂が主成分)を含浸させたものを用意した。樹脂含浸率(樹脂量(g)/原紙重量(g))は113%であり、樹脂含浸紙の坪量は170.2g/m2であった。
【0013】
図2は、試験方法を説明するための図である。常態条件の試験を行う際には、
図2(a)に示すように、試験対象(HDFおよび樹脂含浸紙)から、一辺が50mmの四角形状の試料106を切り出して、エポキシ系接着剤によって、上側治具102の底面102aおよび下側治具104の上面104aに接着する。その状態で、24時間以上養生する。
【0014】
次に、試料106の中央部において一辺が20mmの四角形を描くように、上側治具102の底面102aの外縁に沿って、カッター等によって切れ込みを入れる。この切れ込みは、試料106の上面から下面に達する深さの切れ込みとする。
【0015】
その後、
図2(b)に示すように、上側治具102の位置を固定して、下側治具104を下方に移動させて、試料106に対して平面引張試験を行う。具体的には、下側治具104を2mm/minの速度で下方に移動させて、試料106の剥離時または破壊時における最大荷重を測定する。そして、測定した最大荷重から下記の(1)式によって、強度(接着力)を算出する。
強度(kgf/cm
2)=最大荷重(kgf)/4(cm
2) ・・・(1)
【0016】
湿潤条件の試験を行う際にも、上述の常態条件の試験と同様に、試験対象(HDFおよび樹脂含浸紙)から、一辺が50mmの四角形状の試料106を切り出して、エポキシ系接着剤によって、上側治具102の底面102aおよび下側治具104の上面104aに接着し、24時間以上養生する。その後、上述の常態条件の試験と同様に、試料106の中央部において一辺が20mmの四角形を描くように、上側治具102の底面102aの外縁に沿って切れ込みを入れる。
【0017】
次に、上記切れ込みから試料106内に水分を染み込ませて湿潤状態を模擬するために、上側治具102、下側治具104および試料106を、23℃の水中に24時間浸漬する。その後、水に濡れたままの試料106に対して、上述の常態条件の試験と同様に平面引張試験を行い、強度(接着力)を算出する。
【0018】
なお、本発明者は、常態条件について、HDFおよび樹脂含浸紙それぞれから複数の試料106を切り出し、上記の試験を行った。湿潤条件についても同様に、HDFおよび樹脂含浸紙それぞれから複数の試料106を切り出し、上記の試験を行った。下記の表1に試験結果を示す。
【0019】
【0020】
上記の表1に示すように、HDFに比べて、樹脂含浸紙の強度は十分に高くなった。特に、湿潤条件における樹脂含浸紙の強度の最小値であっても、常態条件におけるHDFの強度の最大値よりも高くなった。このことから、木質床材において、木質合板と化粧材との間に、適切な樹脂含浸紙を設けることによって、水濡れが生じた場合でも、木質床材の耐傷性が低下することを防止できると考えられる。
【0021】
一方で、樹脂含浸紙であっても、HDFと同様に、水分を吸収することによって強度が低下することが分かった。具体的には、樹脂含浸紙の湿潤条件の強度は、常態条件の強度に比べて20%程度低下することが分かった。
【0022】
以上の点を考慮して、本発明者は、常態条件において30kgf/cm2以上の強度を有する樹脂含浸紙を木質合板と化粧材との間に設ければよいと考えた。この場合、仮に、木質床材に水濡れが生じて樹脂含浸紙の強度が20~25%程度低下したとしても、HDFを設けた木質床材の常態条件における耐傷性と同等以上の耐傷性を維持しつつ、木質床材の反りの発生を十分に抑制できると考えられる。特に、湿潤条件において20kgf/cm2以上の強度を有する樹脂含浸紙を木質合板と化粧材との間に設けることによって、木質床材に水濡れが生じたとしても、HDFを設けた木質床材の常態条件の耐傷性と同等以上の耐傷性を確実に維持できる。
【0023】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の木質床材およびその製造方法を要旨とする。
【0024】
(1)基材合板と、
前記基材合板の表面に設けられた樹脂含浸紙と、
前記樹脂含浸紙の表面に設けられた化粧材と、を備え、
合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、30kgf/cm2以上である、木質床材。
【0025】
(2)前記樹脂含浸紙を23℃の水中に24時間浸漬した後に、前記平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、20kgf/cm2以上である、上記(1)に記載の木質床材。
【0026】
(3)前記樹脂含浸紙の厚さは0.1~0.5mmである、上記(1)または(2)に記載の木質床材。
【0027】
(4)前記基材合板には、裏面において開口しかつ前記基材合板の幅方向または長さ方向に延びる複数の裏溝が形成されている、上記(1)または(2)に記載の木質床材。
【0028】
(5)前記基材合板の裏面側に設けられる緩衝材をさらに備える、上記(1)または(2)に記載の木質床材。
【0029】
(6)基材合板と化粧材とを、樹脂含浸紙を間に挟んで接着する工程を備え、
合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した前記樹脂含浸紙の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される前記樹脂含浸紙の強度が、30kgf/cm2以上である、木質床材の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、水濡れが生じる環境下での使用に適した木質床材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、平面引張試験に用いた治具を示す概略図である。
【
図2】
図2は、平面引張試験の方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る木質床材を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(木質床材の構成)
以下、本発明の実施の形態に係る木質床材について図面を参照しつつ説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る木質床材を示す概略断面図である。なお、
図3においては、木質床材10の幅方向に垂直な断面が示されている。
【0033】
図3に示すように、木質床材10は、基材合板12と、基材合板12の表面に設けられた樹脂含浸紙14と、樹脂含浸紙14の表面に設けられた化粧材16と、基材合板12の裏面に設けられたバッカー材18と、バッカー材18の裏面に設けられた緩衝材20とを備えている。本実施形態では、木質床材10の長さは、909mmであり、幅は145mmである。なお、木質床材10の長さおよび幅は上記の例に限定されず、たとえば、長さが約1800mmであってもよく、幅が約300mmであってもよい。木質床材10の寸法は、施工場所のモジュールに対応した寸法に適宜設定することができる。
【0034】
木質床材10は、基材合板12、樹脂含浸紙14、化粧材16、バッカー材18および緩衝材20を、接着剤によって互いに接着することによって製造される。接着剤としては、例えば、フェノール樹脂系、メラミン樹脂系、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、またはポリウレタン樹脂系などの合成樹脂系接着剤を用いることができる。また、接着剤として、ホットメルト接着剤を用いてもよい。なお、接着剤としては、合板の日本農林規格(JAS)の1類浸漬剥離試験に合格する耐水性を有する接着剤を用いることが好ましい。
【0035】
基材合板12として用いられる合板の厚みおよび樹種は特に限定されず、広葉樹合板、針葉樹合板などの種々の合板を用いることができる。本実施形態では、基材合板12の厚みは、例えば、3~15mmに設定される。合板のプライ数も特に限定されない。本実施形態では、例えば、プライ数が奇数の合板(3プライ、5プライ、7プライ合板等)を用いることが好ましい。なお、基材合板12としては、合板の日本農林規格(JAS)の1類浸漬剥離試験に合格する耐水性を有する合板(T1合板)を用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、基材合板12には、木質床材10に防音性能を付与するために裏溝12aが形成されている。裏溝12aは、基材合板12の裏面において開口し、かつ木質床材10(基材合板12)の幅方向に延びるように形成されている。本実施形態では、裏溝12aは、基材合板12を上下方向に貫通しない大きさに形成されている。また、裏溝12aは、木質床材10の幅方向の全長にわたって形成されている。本実施形態では、複数の裏溝12aが、木質床材10(基材合板12)の長さ方向において互いに間隔をあけて形成されている。なお、複数の裏溝12aが、木質床材10の長さ方向に延びるように形成されてもよい。この場合、複数の裏溝12aは、木質床材10の幅方向に互いに間隔をあけて形成される。
【0037】
また、図示は省略するが、木質床材10(基材合板12)の側面には、実(雄実および雌実)が形成される。なお、実の形状は特に限定されず、本実、あいじゃくり実などの用途に応じた実が形成される。例えば、木質床材10の長辺および短辺のうちの一方に本実を形成し、他方にあいじゃくり実を形成してもよい。
【0038】
樹脂含浸紙14は、原紙に樹脂を含浸させた構成を有する。本実施形態では、合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて常態で測定した樹脂含浸紙14の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される強度(接着力)が30kgf/cm
2以上となるように、樹脂含浸紙14が構成される。なお、具体的な平面引張試験方法は、
図2で説明した通りである。常態における樹脂含浸紙14の上記強度は、35kgf/cm
2以上であることが好ましく、40kgf/cm
2以上であることがより好ましく、45kgf/cm
2以上または50kgf/cm
2以上であることがさらに好ましい。
【0039】
また、本実施形態では、樹脂含浸紙14を23℃の水中に24時間浸漬した後に、上記平面引張試験に準じて水に濡れた状態で測定した樹脂含浸紙14の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される強度(接着力)が20kgf/cm
2以上となるように、樹脂含浸紙14が構成される。具体的な平面引張試験方法は、
図2で説明した通りである。樹脂含浸紙14を23℃の水中に24時間浸漬した後に測定される樹脂含浸紙14の上記強度は、25kgf/cm
2以上であることが好ましく、30kgf/cm
2以上であることがより好ましく、35kgf/cm
2以上または40kgf/cm
2以上であることがさらに好ましい。
【0040】
樹脂含浸紙14の原紙としては、例えば、クラフト紙、薄葉紙、チタン紙などを用いることができる。本実施形態では、例えば、坪量が50~200g/m2の原紙が用いられる。原紙に含浸させる樹脂としては、メラミン樹脂、ユリア・メラミン樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂などを用いることができる。本実施形態では、樹脂を乾燥させた後の樹脂含浸紙14の坪量は、例えば、100~400g/m2である。また、乾燥後の樹脂含浸紙14の樹脂率(樹脂量(g)/樹脂含浸紙重量(g))は、例えば、50%以上である。
【0041】
樹脂含浸紙14の厚さは特に限定されないが、耐傷性を十分に確保する観点から、0.1mm以上であることが好ましい。また、木質床材10の剛性が高くなって防音性能が低下することを防止する観点からは、樹脂含浸紙14の厚さは、0.5mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましい。樹脂含浸紙14の厚さは、0.2~0.3mmであることがさらに好ましい。
【0042】
化粧材16としては、例えば、突き板、挽き板、樹脂シート、または印刷紙を用いることができる。化粧材16の厚みは特に限定されないが、例えば、0.2~3.0mm程度である。なお、土足環境では化粧材16の表面が摩耗しやすいので、基材合板12が露出することを防止する観点から、化粧材16の厚みは、0.5mm以上であることが好ましい。
【0043】
図示は省略するが、化粧材16の表面には、縦溝、横溝、ハーフ溝等が形成される。ハーフ溝は、木質床材10の縁部に沿って形成され、複数の木質床材10を互いに接合して床を構成した際に、隣り合う他の木質床材のハーフ溝との組合せによって、縦溝または横溝を形成する。また、図示は省略するが、化粧材16の表面には、適宜塗装が行われる。
【0044】
バッカー材18としては、例えば、紙、単板、硬質繊維板、樹脂シート、樹脂含浸紙などを用いることができる。なお、バッカー材18は設けなくてもよいが、バッカー材18を設けることによって、木質床材10の反りをさらに抑制することができる。
【0045】
緩衝材20は、防音性能向上、施工時の接着剤の染み込み防止などの目的に応じて適宜設けられる。緩衝材20の材質については特に制限はないが、ウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ペフなどの樹脂発泡体、または、ポリエステルなどの不織布を用いることができる。緩衝材20の厚みは、例えば、0.5~5.0mm程度である。なお、本実施形態では、木質床材10が、遮音性能として、推定L等級がL45の基準、またはΔL等級がΔLL(I)-4の基準を満足するように、緩衝材20を設けることが好ましい。
【0046】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る木質床材10においては、基材合板12と化粧材16との間に、樹脂含浸紙14が設けられている。この場合、基材合板と化粧材との間にHDFなどの木質繊維材を設けた従来の木質床材に比べて、水分の吸収量を抑制できる。これにより、水分吸収による木質床材10の変形を抑制できる。
【0047】
また、本実施形態に係る木質床材10では、合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて測定した樹脂含浸紙14の剥離時または破壊時における最大荷重から算出される樹脂含浸紙14の強度が、30kgf/cm2以上に設定される。これにより、仮に、木質床材10に水濡れが生じて樹脂含浸紙14の強度が低下したとしても十分な耐傷性を維持することができる。
【0048】
以上の結果、木質床材10に水濡れが生じた場合でも、反りを抑制できるとともに、十分な耐傷性を維持することができる。したがって、本実施形態に係る木質床材10は、水濡れが生じる環境下での使用に適している。
【実施例0049】
実施例1および実施例2の木質床材10(長さ:909mm、幅:145mm)を作製し、耐傷性、変形特性および防音性能について評価を行った。なお、実施例1および実施例2の木質床材10では、基材合板12として厚さが8.5mmのメランティ合板(5プライのT1合板)を用い、化粧材16として厚さが0.5mmのメイプルの単板を用い、バッカー材18として厚さが0.05mmの紙を用い、緩衝材20として厚みが4.0mmのウレタン製のクッションシートを用いた。基材合板12には、幅方向に延びる幅1.5mmの第1裏溝を64本、長さ方向に延びる幅1.5mmの第2裏溝を6本形成した。第1裏溝は、上端の位置(狙い位置)が基材合板12の表面側から2層目となるように形成し、第2裏溝は、上端の位置(狙い位置)が基材合板12の表面側から4層目となるように形成した。
【0050】
実施例1の木質床材10では、厚みが0.2mmの樹脂含浸紙14を用い、実施例2の木質床材10では、厚みが0.3mmの樹脂含浸紙14を用いた。どちらの木質床材10においても、樹脂含浸紙14として、クラフト紙にユリア・メラミン樹脂(メラミン樹脂が主成分)を含浸させたものを用いた。
【0051】
また、実施例1,2の木質床材10との比較を行うために、比較例の木質床材を作製した。比較例の木質床材は、樹脂含浸紙14の代わりに厚みが0.4mmのHDFを設けた点を除いて、実施例1,2の木質床材10と同様の構成を有している。
【0052】
なお、実施例1の木質床材10で用いた樹脂含浸紙14について、合板の日本農林規格(JAS)の平面引張試験に準じて常態で測定した剥離時または破壊時における最大荷重から算出される強度は、49.8kgf/cm2であった。実施例2の木質床材10で用いた樹脂含浸紙14について、上記平面引張試験に準じて常態で測定した剥離時または破壊時における最大荷重から算出される強度は、40.9kgf/cm2であった。比較例の木質床材で用いたHDFについて、上記平面引張試験に準じて常態で測定した剥離時または破壊時における最大荷重から算出される強度は、16.8kgf/cm2であった。
【0053】
(耐傷性評価)
実施例1,2および比較例の木質床材に対して、常態条件で、鋼球落下試験、椅子脚荷重試験およびキャスター試験を実施した。鋼球落下試験では、500gの鋼球を75cmの高さから落下させて、木質床材(化粧材)の表面に生じた凹み量を測定した。椅子脚荷重試験では、木製椅子脚の先端を25度傾けて2mm/minの荷重速度で40kgの荷重を木質床材(化粧材)に加えて、木質床材の表面に生じた凹み量を測定した。キャスター試験では、直径50mmで幅9mmの1輪のプラスチックキャスターに20kgの荷重を加えて、旋回させつつ往復移動(35000往復)させ、木質床材(化粧材)の表面に生じた凹み量を測定した。下記の表2に試験結果を示す。なお、実施例1、実施例2および比較例の木質床材についてそれぞれ、鋼球落下試験、椅子脚荷重試験およびキャスター試験を15回ずつ行った。具体的には、試験ごとに、実施例1、実施例2および比較例の木質床材をそれぞれ3枚ずつ準備し、各木質床材の5箇所で試験を実施した。下記の表2には、各試験結果の平均値、最大値および最小値を示している。なお、キャスター試験については、試験後の化粧材の状態(剥離の有無)についても調査した。
【0054】
【0055】
上述したように、実施例1,2の木質床材10の樹脂含浸紙14の厚み(実施例1:0.2mm、実施例2:0.3mm)は、比較例のHDFの厚み(0.4mm)よりも小さい。しかしながら、表2に示すように、常態条件において、実施例1,2の木質床材10は、比較例の木質床材と同等の耐傷性を確保することができた。この結果から、常態条件では、基材合板12と化粧材16との間に、従来使用されているHDFよりも厚みの小さい樹脂含浸紙14を設けた場合でも、木質床材10の耐傷性を十分に確保できることが分かった。また、上述したように、実施例1および実施例2の木質床材10の樹脂含浸紙14の強度は、比較例の木質床材のHDFの強度よりも十分に高い。具体的には、木質床材10に水濡れが生じて樹脂含浸紙14の強度が20~25%程度低下したとしても、実施例1および実施例2の木質床材10の樹脂含浸紙14の強度は、比較例の木質床材のHDFの常態条件における強度よりも高い。したがって、実施例1および実施例2の木質床材10は、水濡れが生じたとしても、比較例の木質床材の常態条件の耐傷性と同等以上の耐傷性を維持することができると考えられる。
【0056】
(変形特性評価)
実施例1、実施例2および比較例の木質床材を、温度40℃、湿度30%の乾燥環境に2週間放置し、試験前後の長さ反りを測定し、試験前後における反りの変化量を求めた。また、実施例1、実施例2および比較例の木質床材を、温度30℃、湿度90%の吸湿環境に2週間放置し、試験前後の長さ反りを測定し、試験前後における反りの変化量を求めた。反りの測定方法は、木質床材を平滑なテーブル上に載置し、長さ方向の反りの矢高を測定した。下記の表3に試験結果を示す。
【0057】
【0058】
表3に示すように、実施例1および実施例2の木質床材10では、含水率が変化した際に発生する長さ反りが、比較例の木質床材よりも十分に小さかった。この結果から、本発明に係る木質床材10では、裏溝を有する床材で発生しやすい波打ちおよび突き上げ等の不具合が発生しにくく、化粧材16の剥離等の不具合も発生しくいと考えられる。特に、吸湿環境の試験結果から、水濡れが発生したとしても、木質床材10が伸長して反りが発生することを十分に抑制できることが分かった。このため、複数の木質床材10を互いに接合して床を構成した際に、その床に水濡れが発生したとしても、隣り合う木質床材10同士の間で突き上げが発生することを十分に抑制できる。また、突き上げが抑制されるので、歩行時に躓いたり、椅子脚またはキャスターが引っかかったりすることで化粧材16が剥離または損傷することを十分に防止することができる。
【0059】
(防音性能評価)
実施例1の木質床材10について、ΔL等級に基づき、遮音性能(床衝撃音低減性能)を評価した。具体的には、実施例1の木質床材10について、所定の周波数帯域(63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz)での低減量(dB)を測定し、ΔLL(I)-4の基準を満足するか否かについて評価した。評価結果を下記の表4に示す。
【0060】
【0061】
表4に示すように、実施例1の木質床材10によれば、各周波数帯域において、ΔLL(I)-4の基準を満足することができた。したがって、実施例1の木質床材10は、土足で使用される環境においても十分な耐傷性を有し、水濡れによる不具合の発生を抑制でき、かつ高い防音性能を備えている。
本発明によれば、水濡れが生じる環境下での使用に適した木質床材が得られる。したがって、本発明に係る木質床材は、ホテルの客室、店舗、オフィスビルなどの利用者が土足で歩行する場所の床材として好適に利用できる。