(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088273
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】化学変性セルロースナノファイバーを含有するアルジネート印象材
(51)【国際特許分類】
A61K 6/90 20200101AFI20240625BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20240625BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K6/90
A61K6/60
A61K6/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203359
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍弥
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA14
4C089BA18
4C089BE15
4C089BE16
4C089CA06
4C089CA07
(57)【要約】
【課題】珪藻土や石膏の使用量を低減させた場合でも歯科用印象として許容可能な弾性特性を維持することができる歯科用アルジネート印象材を提供する。
【解決手段】アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含有するアルジネート印象材に、化学変性セルロースナノファイバーを含有させる。アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含有するアルジネート印象材形成用粉末を練和する際の練和液として化学変性セルロースナノファイバーを含有する水分散液を用いてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩、石膏、珪藻土、及び化学変性セルロースナノファイバーを含有する、アルジネート印象材。
【請求項2】
前記化学変性セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである、請求項1に記載のアルジネート印象材。
【請求項3】
弾性回復量が90%以上である、請求項1または2に記載のアルジネート印象材。
【請求項4】
1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して1~10質量部のアルギン酸塩を含有する、請求項1または2に記載のアルジネート印象材。
【請求項5】
1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して10~100質量部の珪藻土を含有する、請求項1または2に記載のアルジネート印象材。
【請求項6】
1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して1~10質量部の石膏を含有する、請求項1または2に記載のアルジネート印象材。
【請求項7】
アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含むアルジネート印象材形成用粉末を準備する工程、
化学変性セルロースナノファイバーを含有する水分散液を準備する工程、
前記アルジネート印象材形成用粉末に前記水分散液を加えて練和する工程、
を含む、アルジネート印象材の製造方法。
【請求項8】
アルジネート印象材形成用粉末の練和液として用いるための化学変性セルロースナノファイバーの水分散液。
【請求項9】
化学変性セルロースナノファイバーの濃度が0.1~1.0質量%である、請求項8に記載の水分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学変性セルロースナノファイバーを含有するアルジネート印象材に関する。本発明はまた、アルギン酸塩、珪藻土、及び石膏を含有するアルジネート印象材形成用の粉末の練和の際に用いる練和液として、化学変性セルロースナノファイバーの水分散液を用いることを含む、アルジネート印象材の製造方法、並びにアルジネート印象材形成用粉末の練和液として用いるための化学変性セルロースナノファイバーを含有する水分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用印象材は、欠損した歯の補綴処置等を行う際に、口腔内の歯、顎堤、口蓋、及び周辺組織などの口腔内の形状を陰型として立体的に写し取った型(印象)を作成するための材である。歯科用印象材にはいくつかの種類があるが、中でもアルジネート印象材は、比較的安価に型(印象)を得ることができ、操作も容易であることから、一般によく用いられる印象材である。アルジネート印象材は、一般に、アルギン酸塩と、石膏と、珪藻土などの無機フィラーとを含有する。この混合物を水と練和することで、石膏からカルシウムイオンが溶出し、アルギン酸塩がカルシウムイオンと反応することで硬化(ゲル化)する。一般には、粉末状のアルジネート印象材を水で練和してペーストとしたものを歯科用トレーに載せ、歯科医が患者の歯列に圧接することによって、歯型が取られる。ペーストがゲル化して弾性体となったら口腔から取り外され、陰型として用いられる。
【0003】
アルジネート印象材は珪藻土や石膏などの粉末状の成分により、使用時に粉塵が飛散するなどして、塵肺や珪肺などの健康上の問題を引き起こす恐れがある。この問題に対し、特許文献1では、天然鉱物繊維であるセピオライト及び/又は応力を受けることで微細な蜘蛛の巣状の繊維になる性質を有する四フッ化エチレン樹脂を粉末状のアルギン酸塩印象材組成物に含有させることにより、低粉塵化させたアルギン酸塩印象材粉末を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は粉末の飛散を抑える技術であるが、塵肺や珪肺などの原因となる珪藻土や石膏自体の使用量を低減させることができれば粉塵自体の量が減ると考えられ、また、使用後に産業廃棄物となったアルジネート印象材の量も減らすことができるため、好ましいと考えられる。しかし、珪藻土や石膏の使用量を低減させれば、アルジネート印象材による硬化後の印象の弾性等の物性に影響が出ると考えられる。本発明は、珪藻土や石膏の使用量を低減させた場合でも歯科用印象として許容可能な弾性特性を維持することができる歯科用アルジネート印象材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含有するアルジネート印象材において、化学変性セルロースナノファイバーをさらに含有させることにより、たとえ珪藻土や石膏の使用量を低減させた場合でも、硬化後に、歯科用印象として許容可能な弾性特性が維持されることを見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[1]アルギン酸塩、石膏、珪藻土、及び化学変性セルロースナノファイバーを含有する、アルジネート印象材。
[2]前記化学変性セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである、[1]に記載のアルジネート印象材。
[3]弾性回復量が90%以上である、[1]または[2]に記載のアルジネート印象材。
[4]1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して1~10質量部のアルギン酸塩を含有する、[1]または[2]に記載のアルジネート印象材。
[5]1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して10~100質量部の珪藻土を含有する、[1]または[2]に記載のアルジネート印象材。
[6]1質量部の化学変性セルロースナノファイバーに対して1~10質量部の石膏を含有する、[1]または[2]に記載のアルジネート印象材。
[7]アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含むアルジネート印象材形成用粉末を準備する工程、
化学変性セルロースナノファイバーを含有する水分散液を準備する工程、
前記アルジネート印象材形成用粉末に前記水分散液を加えて練和する工程、
を含む、アルジネート印象材の製造方法。
[8]アルジネート印象材形成用粉末の練和液として用いるための化学変性セルロースナノファイバーの水分散液。
[9]化学変性セルロースナノファイバーの濃度が0.1~1.0質量%である、[8]に記載の水分散液。
【発明の効果】
【0007】
本発明にしたがってアルジネート印象材に対して化学変性セルロースナノファイバーを含有させることにより、例えば珪藻土と石膏の量を通常使用される量より10質量%低減させた場合であっても、適度な弾性ひずみと弾性回復特性を有する歯科用印象を形成させることができる。また、少量の化学変性セルロースナノファイバーの配合により、上述の弾性特性を許容可能な範囲に維持しながら化学変性セルロースナノファイバーの配合量よりも多い量の珪藻土と石膏の量を低減させることができるため、使用後の印象の質量を減らすことができ、廃棄物を低減させることができるという利点も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、アルギン酸塩と珪藻土と石膏と化学変性セルロースナノファイバー(以下、セルロースナノファイバーを「CNF」とも呼ぶ。)とを含有するアルジネート印象材に関する。
【0009】
<アルジネート印象材>
一般に、アルジネート印象材は、アルギン酸塩、石膏、及び無機フィラーとしての珪藻土を含有する。これらの混合物を水で練ると、石膏からカルシウムイオンが溶出し、カルシウムイオンとアルギン酸塩とが反応してゲル化し、弾性体が形成される。歯科で用いる際には、完全にゲル化する前のペーストを一般にはトレーに載せ口腔内に挿入して歯列などの型を取得したい部分に圧接し、材がゲル化して弾性体となった後に口腔から取り出して陰型(印象)を得る。
【0010】
アルギン酸塩としては、水に可溶な塩、例えばアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムが一般に用いられる。アルギン酸塩は通常、水と混合する前の印象材中に約5~20質量%、好ましくは10~15質量%の量で用いられる。
【0011】
石膏としては、硫酸カルシウム二水塩(二水石膏)、硫酸カルシウム半水塩(半水石膏)、または硫酸カルシウム無水塩(無水石膏)などが用いられる。石膏は通常、水と混合する前の印象材中に約5~20質量%、好ましくは10~15質量%の量で用いられる。粉末の状態の印象材に水を加えて練和すると、石膏からカルシウムイオンが溶出し、これがアルギン酸塩と結びついて、弾性のゲルを形成する。硬化物(ゲル)は、その弾性のため、歯列などの形(陰型)を維持したまま口腔から取り出すことができる。
【0012】
珪藻土は、印象材中で無機充填剤(フィラー)として用いられる成分である。珪藻土のような無機フィラーは通常、水と混合する前の印象材中に約40~75質量%、好ましくは60~70質量%の量で用いられる。
【0013】
これらの成分の他、アルジネート印象材は、ナトリウム又はカリウムの各種リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩などのゲル化調節剤、金属の酸化物、水酸化物、フッ化物などのゲル強化剤、必要に応じて界面活性剤、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤などの各種添加剤を含有していてもよい。
【0014】
<化学変性CNF>
上記の一般的なアルジネート印象材の各種成分に加えて、本発明の印象材は、化学変性CNFを含有する。化学変性CNFは、セルロースのヒドロキシル基に各種の化学変性処理を行って得たCNFである。化学変性処理の例としては、セルロースのヒドロキシル基にアニオン性基を導入するアニオン変性処理、カチオン性基を導入するカチオン変性処理などが挙げられる。本発明で用いる化学変性CNFとしては、アニオン変性したCNFを用いることが好ましい。
【0015】
CNF(セルロースナノファイバー)は、セルロースをナノオーダーの繊維径となるように解繊したものである。本発明で用いる化学変性CNFの平均繊維径は、好ましくは2~500nm、さらに好ましくは3~150nm、さらに好ましくは3~20nm、さらに好ましくは3~19nm、さらに好ましくは3~15nmである。CNFの繊維径は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した繊維の形状像の断面高さを計測することにより求めることができる。また、CNFの平均繊維径は、ランダムに選んだ50本の繊維について上述の方法で繊維径を測定し、長さ加重平均繊維径を算出することにより求めることができる。
【0016】
化学変性CNFのアスペクト比は、好ましくは30以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。CNFの平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてランダムに選んだ200本の繊維の繊維長を測定し、長さ加重平均繊維長を算出することにより求めることができ、CNFのアスペクト比は、上述した平均繊維長と平均繊維径を用いて、以下の式で求めることができる:
アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維径(nm)。
【0017】
化学変性セルロースをナノオーダーの繊維径となるように解繊する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、これらに限定されないが、化学変性セルロースの分散体を準備し、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、キャビテーション式などの強力なせん断力を印加できる装置を用いて分散体にせん断力を印加することにより解繊することができる。中でも、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0018】
(セルロース原料)
化学変性CNFの原料となるセルロースの種類は、特に限定されない。例えば、植物由来、動物由来、藻類由来、微生物由来等のセルロース繊維を用いることができる。中でも植物由来または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロースが特に好ましい。植物由来のセルロース繊維としては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、又は農地残廃物由来のセルロース繊維や、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙パルプ等)を挙げることができ、動物由来のセルロース繊維としては、例えばホヤ類由来のセルロース繊維を挙げることができ、微生物由来のセルロース繊維としては、例えば酢酸菌(アセトバクター)由来のセルロース繊維を挙げることができる。これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(化学変性)
上述したようなセルロース原料を化学的に変性することにより化学変性セルロースを得ることができる。また、この化学変性セルロースを解繊してナノオーダーの繊維径とすることにより、化学変性CNFを得ることができる。化学変性の種類としては、上述した通り、アニオン変性やカチオン変性が挙げられるが、印象材の他の成分との親和性の観点から、本発明ではアニオン変性を行ったアニオン変性CNFを用いることが好ましい。
【0020】
(アニオン変性CNF-カルボキシアルキル化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、セルロース鎖にカルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基が導入されたカルボキシアルキル化CNFを挙げることができる。カルボキシアルキル基(-O-RCOOH又は-O-RCOO-)(Rはアルキル基)は、セルロース鎖のヒドロキシル基の一部にエーテル結合させることで導入することができる。カルボキシアルキル化CNFの中でもカルボキシメチル化CNFは、安全性の観点から、本発明に用いる化学変性CNFとして特に好ましい態様である。本発明に用いるカルボキシアルキル化CNFとしては、市販のものを用いてもよいし、市販のカルボキシアルキル化セルロースを解繊してカルボキシアルキル化CNFとしたものを用いてもよいし、セルロース原料にカルボキシアルキル基を導入した後に解繊することにより得たものを用いてもよい。セルロース原料へのカルボキシアルキル基の導入方法としては、セルロース原料を最初にマーセル化剤で処理し、その後エーテル化剤で処理する方法が挙げられる。マーセル化剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。エーテル化剤は、導入するカルボキシアルキル基の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば、カルボキシメチル基を導入する場合には、これに限定されないが、モノクロロ酢酸ナトリウムを用いることができる。導入するカルボキシアルキル基としては、例えば、カルボキシメチル基(-CH3COOH)、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシブチル基等を挙げることができ、これらの中ではカルボキシメチル基が好ましい。マーセル化反応及びエーテル化反応における溶媒の種類は特に限定されない。マーセル化反応時の温度は、通常0~70℃の範囲内であり、好ましくは10~60℃の範囲内であり、反応時間は、通常15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。エーテル化反応時の温度は、通常30~90℃の範囲内であり、好ましくは40~80℃の範囲内であり、反応時間は、通常30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。
【0021】
例えばカルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化CNFにおける無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。カルボキシメチル置換度は、例えば、以下の方法により測定することができる:
CNF試料(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうし、塩型のカルボキシメチル基を水素型に変換する。得られた水素型のカルボキシメチル基を有するCNF試料(絶乾)1.5~2.0gを精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLで水素型のカルボキシメチル基を有するCNFを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する。
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4の量(mL))×F)×0.1]/(水素型のカルボキシメチル基を有するCNFの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
F':0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH2SO4のファクター。
【0022】
カルボキシメチル基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
(アニオン変性CNF-カルボキシル化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、セルロース鎖にカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を導入したカルボキシル化(「酸化」とも呼ぶ。)CNFを挙げることができる。カルボキシル基とは、-COOH(酸型)および-COOM(金属塩型)をいい(式中、Mは金属イオンである)、カルボキシレート基とは、-COO-をいう。以下、カルボキシル基とカルボキシレート基をまとめて単に「カルボキシル基」ということがある。カルボキシル化CNFとしては、市販のものを用いてもよいし、市販のカルボキシル化セルロースを解繊してカルボキシル化CNFとしたものを用いてもよいし、セルロース原料にカルボキシル基を導入した後に解繊することにより得たものを用いてもよい。セルロース原料へのカルボキシル基の導入方法としては、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化してセルロース鎖のヒドロキシル基の一部をカルボキシル基に変換する方法、又はオゾンを含む気体をセルロース原料と接触させる方法などが挙げられる。
【0023】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物であり、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)やその誘導体が挙げられる。臭化物は、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属であり、例えば臭化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物は、水中で解離してイオン化可能なヨウ化アルカリ金属であり、例えば、ヨウ化ナトリウムが挙げられる。酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられ、中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましく用いられる。セルロース原料を懸濁させた水性のスラリーに、上記のN-オキシル化合物と、臭化物及び/又はヨウ化物と、酸化剤とを混合することにより、セルロース中のヒドロキシル基の一部を酸化してカルボキシル基に変換することができる。酸化反応は、例えば4~40℃程度、又は15~30℃程度の室温下でも進行させることができる。酸化反応時の反応液のpHは、8~12程度とすることが好ましく、10~11程度がさらに好ましい。反応時間は、通常は0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0024】
オゾンを含む気体を用いてセルロース原料を酸化する場合、前記気体中のオゾンの濃度は50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより、セルロース中のヒドロキシル基の一部を酸化してカルボキシル基に変換することができる。オゾン処理後に得られる結果物に対し、さらに酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤としては、例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。追酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロースを浸漬させる方法が挙げられる。
【0025】
カルボキシル化CNFにおけるカルボキシル基の量は、0.01~3.00mmol/gが好ましく、0.20~2.20mmol/gがより好ましく、0.50~2.00mmol/gがさらに好ましい。カルボキシル基の量は、酸化剤の添加量や反応時間などの酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0026】
カルボキシル化CNFにおけるカルボキシル基の量は、例えば、以下の方法により測定することができる:
CNF試料の0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)を測定する。次いで、下式を用いてカルボキシル基量〔mmol/g〕を算出する。
カルボキシル基量〔mmol/g〕=a〔mL〕×0.05/セルロース繊維の質量〔g〕
(アニオン変性CNF-リン酸エステル化CNF)
アニオン変性CNFの一例としてセルロース鎖にリン酸又は亜リン酸などのリン酸系の基が導入されたリン酸エステル化CNFを挙げることができる。リン酸系の基は、セルロース鎖のヒドロキシル基の一部にエステル結合させることで導入することができる。本発明に用いるリン酸エステル化CNFとしては、市販のものを用いてもよいし、市販のリン酸エステル化セルロースを解繊してリン酸エステル化CNFとしたものを用いてもよいし、セルロース原料にリン酸系の基を導入した後に解繊することにより得たものを用いてもよい。セルロース原料へのリン酸系の基の導入方法としては、セルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。この際、さらに塩基性化合物を反応系に加えてもよい。
【0027】
リン酸系の基を有する化合物としては、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられ、中でも、エステル化の効率が高く、かつ工業的に適用し易いという理由で、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸二水素ナトリウムがより好ましい。
【0028】
塩基性化合物としては、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましく用いられ、中でもアミノ基を有する化合物が好ましく、例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンを挙げることができ、中でも、低コストで扱いやすいという理由から、尿素を好ましく用いることができる。
【0029】
リン酸系の基をエステル結合させたセルロース繊維におけるリン酸系の基の含有量は、0.1~3.5mmol/gが好ましい。
(結晶化度)
本発明に用いる化学変性CNFは、上述した通りナノオーダーの繊維径を有する繊維状の物質であり、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。水中で繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、溶解するもの)は、ナノファイバーとならないため、化学変性CNFには含まれない。水中で繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、化学変性CNFの分散体を原子間力顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
【0030】
化学変性CNFにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。化学変性CNFの結晶性は、セルロース原料の結晶化度、及び化学変性の度合によって制御できる。化学変性CNFの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
CNF試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0031】
(アルジネート印象材への化学変性CNFの配合量)
本発明において、アルギン酸塩と石膏と珪藻土を含有するアルジネート印象材に対し、化学変性CNFを、例えば以下の割合で配合することができる。
・1質量部の化学変性CNFに対して好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは3~4質量部のアルギン酸塩となるような量。
・1質量部の化学変性CNFに対して好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは3~4質量部の石膏となるような量。
・1質量部の化学変性CNFに対して好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは30~35質量部の珪藻土となるような量。
【0032】
(化学変性CNFを含有するアルジネート印象材)
本発明のアルギン酸塩と石膏と珪藻土と化学変性CNFとを含有するアルジネート印象材は、硬化して弾性体とした際に、歯科用印象として許容される範囲の弾性ひずみ及び弾性回復量を有することが好ましい。許容される範囲の弾性ひずみとは、5~20%である。弾性ひずみがこの範囲であると、印象材を撤去する際、歯の凹凸部で生じる印象体の永久変形が抑えられより精密な印象が得られる利点がある。また、許容される範囲の弾性回復量とは、90%以上であり、より好ましくは95%以上である。弾性回復量が高いと、印象材を撤去する際、歯の凹凸部で生じる印象体の永久変形が抑えられより精密な印象が得られる利点がある。弾性ひずみと弾性回復量は、以下の方法で測定することができる:
<試験体の作製>
歯科用アルジネート印象材の評価方法について規定されているJIS T 6505にに従い、弾性回復試験および弾性ひずみ試験を行い、弾性回復量(%)および弾性ひずみ(%)の評価を行う。実験の前準備として、固定用リング、分割型、アクリル板2枚を、35±2℃の恒温器に15分以上保持する。
【0033】
アルジネート印象材形成用の粉末と練和液とをアルジネート印象材自動練和機(株式会社ヨシダ製、商品名:みきさん3)にて30秒程度練和する。練和後、内径13.0mm、高さ20.0mmの分割型に填入し上下をアクリル板ではさみC-クランプで固定し、練和開始から1分30秒以内程度までに35℃水中に浸漬する。同温度で2分程度保持し、練和開始後から3分30秒を目安に分割型を取り外し、練和開始後から4分以内程度を目安に試験体とする。
【0034】
<弾性ひずみ試験>
(1)弾性ひずみ試験機として、JIS B 7503に規定される0.01mm単位のダイヤルゲージを備えるものを使用する。試験体を弾性ひずみ試験機にセットする。試験機のプランジャの端部を静かに下げ、試験体上面に接触させ、練和開始後から4分45秒程度を目安に、初期荷重1.2±0.1Nを加える。プランジャをその位置で固定する。
(2)ダイヤルゲージの測定子を下げて、プランジャの上端面と接触させる。練和開始後から5分20秒程度を目安に、ダイヤルゲージを0.01mm単位で読み、h1として値を記録する。
(3)ダイヤルゲージの測定子を上方に引き上げて固定し、プランジャとの接触をなくす。総荷重12.2±0.1Nになるようにおもりをプランジャのおもり支持部に搭載する。練和開始後から5分30秒程度を目安に、プランジャの固定具を外し、10秒間かけておもりを徐々に降下させ、総荷重を加える。
(4)プランジャの位置を固定し、ダイヤルゲージの測定子をプランジャの上端面と接するように戻し、荷重を加えてから30秒後(練和開始後から6分後程度)のダイヤルゲージの読みをh2として値を記録する。
(5)以下の式により弾性ひずみ(%)を算出する。
E=100[(h1-h2)/h0]
弾性ひずみ:E (%)
分割型の高さ:h0(mm)
初期荷重を加えてからの読み値:h1(mm)
荷重を加えてから30秒後の読み値:h2(mm)。
【0035】
<弾性回復試験>
(1)弾性回復試験機として、JIS B 7503に規定される0.01mm単位のダイヤルゲージを備えるものを使用する。練和開始後から4分45秒程度を目安に、試験体上面に平板を載せた状態で試験体を弾性回復試験機にセットする。ダイヤルゲージの測定子を静かに下げ,試験体の上の平板に接触させる。練和開始後から4分55秒程度を目安にダイヤルゲージを読み、h1として値を記録する。
(2)練和開始後から5分程度の時点で、1秒以内に試験体を4.0±0.1mm変形させ、直後に外力を解放し、5秒以内に解放を終了する。
(3)変形のための外力を完全に解放した後、ダイヤルゲージの測定子を上に引き上げて固定し、試験体に載せた平板との接触をなくす。
(4)練和開始後から5分36秒程度を目安にダイヤルゲージの測定子を静かに平板上に戻す。それから10秒後(変形のための外力を完全に解放してから40秒後、練和開始後から5分46秒程度)のダイヤルゲージを読み、h2として値を記録する。
(5)以下の式により弾性回復量(%)を算出する。
E=[100-{100×(h1-h2)/h0}]
弾性回復量:E(%)
h0:分割型の高さ(mm)
h1:試験体変形直前のダイヤルゲージの読み値(mm)
h2:試験体に与える変形の外力を完全に取り除いた後40秒経過後の読み値(mm)。
【0036】
<アルジネート印象材の製造方法>
アルギン酸塩、石膏、珪藻土、及び化学変性CNFを含有するアルジネート印象材は、これらの粉末を予め用意し、使用時に粉末を水で練和することにより製造することができるし、また、アルギン酸塩と珪藻土と水とを含有する基材ペーストと、石膏と珪藻土と水とを含有する硬化剤ペーストとをそれぞれ用意し、これらのペーストのいずれか一方または両方に化学変性CNFを含有させておき、使用時にこれらのペーストを練和混合して均一なペーストとすることにより製造することもできる。また、以下の方法によっても製造することができる。
【0037】
まず、アルギン酸塩、石膏、及び珪藻土を含むアルジネート印象材形成用の粉末を準備する。この粉末としては市販のものを用いてもよい。また、これとは別に、化学変性CNFを含有する水分散液を準備する。次いで、アルジネート印象材形成用粉末に対し化学変性CNFの水分散液を加え、ペースト状になるまで練和する。得られたペーストは歯科用トレーに載せるなどして、アルジネート印象を取得するためのアルジネート印象材として用いることができる。アルジネート印象材形成用の粉末は通常水で練和することでペースト状の材を形成するが、この製造方法では水の代わりに化学変性CNFの水分散液を練和用の液として用いることにより、練和後の材中に化学変性CNFを含有させることができる。練和の方法は特に限定されず、通常の水を用いて練和する際と同様の方法を用いることができる。
【0038】
アルジネート印象材形成用粉末の練和液として化学変性CNFの水分散液を用いる場合には、水分散液中の化学変性CNFの濃度は、0.1~1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.1~0.5質量%の範囲がさらに好ましい。濃度がこの範囲であると、練和の操作がしやすく、また、印象材の弾性特性に影響しにくい。
【0039】
化学変性CNFの水分散液を練和液として用いる際、アルジネート印象材形成用粉末の量を通常用いられる量よりもやや少なくしてもよい。例えば市販のアルジネート印象材形成用粉末を用いる際、推奨されている量の90質量%程度の量としてもよいし、85質量%程度の量としてもよいし、80質量%程度の量としてもよい。例えば、珪藻土を70質量%、アルギン酸ナトリウムを12質量%、石膏を12質量%、その他成分を6質量%含有する市販のアルジネート印象材用形成粉末について、粉末8.40gを水20gで練和することが推奨されている場合、8.40gの90質量%の量である7.56gの粉末を化学変性CNF含有水分散液20gで練和することにより、粉末の使用量を推奨量の90質量%の量に減らすことができる。通常よりも少ない量のアルジネート印象材形成用粉末を、少量の化学変性CNFを含有する水分散液で練和することにより、練和して硬化した後に得られる印象の弾性特性を歯科用印象として許容される範囲に維持しながら、印象全体の質量を減らすことができる。これにより、使用される粉末の量を減らし、また、使用後に廃棄物となる印象の量も減らすことができる。市販のアルジネート印象材用形成粉末について「通常用いられる量」、「推奨されている使用量」、又は「推奨量」とは、アルジネート印象材形成用粉末(各成分の混合粉末。成分の一部が混合されて1つの容器に包装され、残りの成分が別の容器に包装されている場合もある。)の製品のラベルや指示書において指示されている粉末(各成分の混合物)と水との混合割合のことをいう。本発明にしたがって練和の際に化学変性CNF水分散液を用いることで、推奨量よりも少ない量の粉末でアルジネート印象を形成することが可能であるが、本発明は粉末の推奨量と化学変性CNFとを組み合わせることも含む。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<アルジネート印象における弾性ひずみと弾性回復量の確認>
化学変性CNFとして、カルボキシメチル化CNF(カルボキシメチル置換度0.27、平均繊維径3.2nm、アスペクト比40、セルロースI型結晶化度64%)を用意した。これを水中に分散し、カルボキシメチル化CNF1.0質量%水分散液とした。
【0041】
市販のアルジネート印象材形成用の粉末(珪藻土70質量%、アルギン酸ナトリウム12質量%、石膏12質量%、その他成分6質量%)を用意した。
上記粉末を用い、推奨量通り、粉末8.4gに対し、練和液としての水20.0gを用いて、<試験体の作製>の欄に記載した方法で、アルジネート印象材試験体を作製した(対照)。
【0042】
また、水の代わりにカルボキシメチル化CNF1.0質量%水分散液を練和液として用いた以外は対照と同様にして、実施例1のアルジネート印象材試験体を作製した。
また、粉末の量をそれぞれ7.6g及び6.7g(それぞれ推奨量の90質量%及び80質量%)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2及び3のアルジネート印象材試験体を作製した。
【0043】
また、練和液として、カルボキシメチル化CNF1.0質量%水分散液の代わりに水を用いた以外は実施例2と同様にして、比較例1のアルジネート印象材試験体を作製した。
これらの印象材試験体の弾性ひずみと弾性回復量を、上述した方法を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0044】
また、カルボキシメチル化CNFに代えて、化学変性していない微小繊維状セルロース(株式会社ダイセル、商品名:セリッシュ(登録商標)KY100G)を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2のアルジネート印象材試験体を作製しようとしたが、セルロース繊維が沈降しやすく、粉末と均一に混合することが困難であり、均質な試験片が得られなかった。
【0045】
【0046】
弾性ひずみは、5~20%の範囲が歯科用印象として許容される範囲であり、弾性回復量は95%以上が好ましいとされる。表1の結果より、練和液として水に代えて化学変性CNF水分散液を用いた場合(実施例1)も、対照と同等の弾性ひずみと弾性回復量を有するアルジネート印象が得られることがわかる。また、アルジネート印象材形成用粉末の総量を、推奨量(対照)の90質量%に減らした場合(実施例2)であっても、化学変性CNFを加えることにより、歯科用印象として許容される弾性ひずみと弾性回復量を示すアルジネート印象が得られることがわかる。実施例2の弾性特性は、化学変性CNFを含有しない比較例1に比べて優れている。また、アルジネート印象材形成用粉末の総量を、推奨量(対照)の80質量%に減らした場合(実施例3)も、許容される範囲の弾性ひずみを示すことがわかる。また、実施例2及び3では、粉末の使用量を減らしたことにより、アルジネート印象の質量(表中の「質量の総計」)が対照に比べて低下しており、使用後の廃棄物の量を減らすことができる利点もあることがわかる。