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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088305
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203411
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】茂木 正徳
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 直輝
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL45
(57)【要約】
【課題】永久磁石同期モータの騒音低減を図りつつ、暖機過程でのスイッチングロスを可及的に小さくできる、モータ制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るモータ制御装置は、永久磁石同期モータに電力供給するインバータのPWM制御におけるキャリア周波数を、前記永久磁石同期モータの暖機過程において、前記永久磁石同期モータの温度に応じて暖機後よりも低く設定するものであり、好ましくは、暖機過程の第1温度領域においては、キャリア周波数を暖機後よりも低い周波数に設定し、前記第1温度領域よりも低い第2温度領域においては、キャリア周波数を前記第1温度領域よりも高い周波数に設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期モータに電力供給するインバータをPWM制御する制御部を備えたモータ制御装置であって、
前記制御部は、
前記永久磁石同期モータの温度に関する信号を取得し、
前記永久磁石同期モータの暖機過程において、前記PWM制御におけるキャリア周波数を、前記永久磁石同期モータの温度に応じて暖機後よりも低い周波数に設定する、
モータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記制御部は、
前記永久磁石同期モータの暖機過程の第1温度領域において、前記キャリア周波数を暖機後よりも低い周波数に設定し、
前記第1温度領域よりも低い第2温度領域において、前記キャリア周波数を前記第1温度領域よりも高い周波数に設定する、
モータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記制御部は、
前記キャリア周波数を暖機後よりも低い周波数に設定する温度領域であるときに、前記永久磁石同期モータの回転速度が所定回転速度を超えたときは、前記キャリア周波数を増大させる、
モータ制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載のモータ制御装置であって、
前記制御部は、
モータ回転速度及びモータトルクと前記キャリア周波数とを対応つけたマップとして、第1マップと、前記第1マップよりも前記キャリア周波数が低く設定された第2マップとを記憶する記憶部を有し、
前記第1温度領域のときは、前記第2マップを参照して前記キャリア周波数を設定し、
前記第2温度領域及び暖機後のときは、前記第1マップを参照して前記キャリア周波数を設定する、
モータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記永久磁石同期モータは、車両に動力源として搭載される、
モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のモータ駆動システムは、永久磁石が取り付けられたロータを有する交流電動機と、前記交流電動機への電力供給を制御する電力変換ユニットとを備え、前記電力変換ユニットは、インバータと前記インバータの直流リンク側に接続されるコンデンサとを含み、前記電力変換ユニットの温度を考慮して設定された基準温度と、前記永久磁石の温度推定値とを比較し、前記温度推定値が前記基準温度より低い第1の温度領域では、前記温度推定値が前記基準温度より高い第2の温度領域と比較して、前記インバータのパルス幅変調制御に用いる搬送波の周波数を相対的に低く設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-189181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、永久磁石同期モータに電力供給するインバータのPWM制御におけるキャリア周波数を高くすることで、永久磁石同期モータの騒音を低減でき、たとえば、永久磁石同期モータを動力源とする電気自動車の場合、騒音低減によって商品性が高まる。
しかし、永久磁石同期モータの始動から暖機完了までの暖機過程においては、永久磁石同期モータの温度に依存して騒音強度が変化する。
このため、騒音低減を優先するキャリア周波数を暖機過程において一律に適用すると、高いキャリア周波数の設定によってスイッチングロスが無用に大きくなる温度領域が発生し、電気自動車では電費性能を低下させるおそれがあった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、永久磁石同期モータの騒音低減を図りつつ、暖機過程でのスイッチングロスを可及的に小さくできる、モータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本発明は、その一態様として、永久磁石同期モータに電力供給するインバータのPWM制御におけるキャリア周波数を、前記永久磁石同期モータの暖機過程において、前記永久磁石同期モータの温度に応じて暖機後よりも低く設定する。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、永久磁石同期モータの騒音低減を図りつつ、暖機過程でのスイッチングロスを可及的に小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】モータ駆動システムの全体構成図である。
図2】モータ制御装置の機能ブロック図である。
図3】3角波生成部の機能ブロック図である。
図4】キャリア周波数の設定処理のプロセスを示すフローチャートである。
図5】モータ温度、キャリア周波数マップの選択状態、モータ回転速度、及び、キャリア周波数の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態では、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に動力源として搭載される永久磁石同期モータを駆動するモータ駆動システムへの適用例について説明する。
【0010】
図1は、本発明に係るモータ制御装置を含むモータ駆動システムの全体構成図である。
モータ駆動システム100は、モータ制御装置1、永久磁石同期モータ2(以下、単に「モータ2」と称する。)、インバータ3、回転位置検出器4、バッテリ5、モータ温度センサ6、電流検出器7を備える。
【0011】
モータ制御装置1は、モータ2をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって駆動する。
ここで、モータ制御装置1は、後で詳細に説明するように、車両において要求される目標トルクT*の信号を取得し、目標トルクT*に基づいてモータ2を制御するためのPWM制御信号を生成し、PWM制御信号をインバータ3に出力する。
【0012】
インバータ3は、インバータ回路31及びPWM信号出力部32を有する。
PWM信号出力部32は、モータ制御装置1から取得したPWM制御信号に基づいて、インバータ回路31の各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、係るPWM信号をインバータ回路31に出力する。
【0013】
インバータ回路31は、U相、V相、W相の上アームにそれぞれ対応するスイッチング素子Sup、Svp、Swp、及び、U相、V相、W相の下アームにそれぞれ対応するスイッチング素子Sun、Svn、Swnを有する。
インバータ回路31は、PWM信号出力部32からのPWM信号に従ってスイッチング素子それぞれのオンオフが制御されることで、バッテリ5から供給される直流電力を交流電力に変換し、交流電流をモータ2に出力する。
【0014】
モータ2は、固定子21及び回転子22を有する。
インバータ3からの交流電力が固定子21の電機子コイル(U相コイル、V相コイル、W相コイル)に印加されると、モータ2において3相交流電流Iu、Iv、Iwが導通し、電機子コイルに電機子磁束が発生する。
この電機子コイルの電機子磁束と、回転子22に配置された永久磁石の磁石磁束との間で吸引力、反発力が発生することで、回転子22にトルクが付与され、回転子22が回転駆動される。
【0015】
回転位置検出器4は、モータ2に取り付けられたレゾルバ等の回転位置センサ41からの信号に基づいて、回転子22の回転位置θを演算する。
モータ制御装置1は、回転位置検出器4による回転位置θの演算結果を取得し、PWM制御信号の生成に利用する。
【0016】
モータ温度センサ6は、モータ2の回転子22の温度などで代表されるモータ温度TM[℃]を検出する。
電流検出器7は、インバータ3とモータ2の間で、3相交流電流Iu、Iv、Iwを検出する。
モータ制御装置1は、モータ温度センサ6によるモータ温度TMの検出結果、及び、電流検出器7による3相交流電流Iu、Iv、Iwの検出結果を取得し、PWM制御信号の生成に利用する。
【0017】
図2は、モータ制御装置1の一態様を示す機能ブロック図である。
モータ制御装置1は、電流指令生成部11、3相/2相電流変換部12、電流制御部13、2相/3相電圧変換部14、3角波生成部15、及びゲート信号生成部16の機能ブロックを有する。
【0018】
モータ制御装置1は、たとえば、制御部としてのマイクロコンピュータ1Aを主体として構成され、マイクロコンピュータにおいて所定のプログラムを実行することにより、図2に示した機能ブロックの各機能を実現する。
なお、図2に示した機能ブロックの一部または全部を、ロジックICやFPGA(field-programmable gate array)などのハードウェア回路を用いて実現することができる。
【0019】
電流指令生成部11は、目標トルクT*と電源電圧Eとに基づいて、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を演算する。
3相/2相電流変換部12は、回転子22の回転位置θに基づく3相-2相変換を行い、電流検出器7による3相交流電流検出値Iu、Iv、Iwをd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqに変換する。
【0020】
電流制御部13は、電流指令生成部11からd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を取得し、3相/2相電流変換部12からd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqを取得する。
そして、電流制御部13は、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとの偏差、及び、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとの偏差を求め、求めた偏差に基づいてd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を演算する。
【0021】
2相/3相電圧変換部14は、回転子22の回転位置θに基づく2相-3相変換を行い、電流制御部13により演算されたd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*に変換する。
3角波生成部15は、モータ温度TMの信号、モータトルクT*の信号、及び、モータ回転速度ωrの信号を取得し、PWM制御におけるキャリア信号としての3角波信号Trを生成して出力する。
3角波信号Trは、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*を被変調波としてPWM波形に変調した際の変調波形のスイッチング回数、すなわちゲート指令信号の切り替え回数に影響する。
【0022】
図3は、3角波生成部15の機能ブロック図であり、3角波生成部15は、キャリア周波数設定部151及び3角波信号生成部152を有する。
キャリア周波数設定部151は、PWM制御に用いるキャリア信号の周波数であるキャリア周波数F[kHz]を可変設定する機能部である。
【0023】
ここで、キャリア周波数設定部151は、モータ回転速度ωr及びモータトルクとキャリア周波数Fとを対応つけたキャリア周波数マップを記憶する記憶部151Aを有し、係るキャリア周波数マップからそのときのモータ回転速度ωr及びモータトルクに対応するキャリア周波数Fを検索することで、PWM制御におけるキャリア周波数Fを定める。
なお、記憶部151Aは、マイクロコンピュータ1Aが備える不揮発性メモリで構成される。
【0024】
さらに、記憶部151Aは、キャリア周波数マップとして、第1キャリア周波数マップM1と、この第1キャリア周波数マップM1よりもキャリア周波数Fが相対的に低く設定された第2キャリア周波数マップM2とを記憶する。
そして、キャリア周波数設定部151は、第1キャリア周波数マップM1と第2キャリア周波数マップM2とのいずれか一方を、モータ温度TM及びモータ回転速度ωrに基づき選択し、選択したキャリア周波数マップからキャリア周波数Fを検索する。
なお、キャリア周波数設定部151によるキャリア周波数Fの設定処理については、後で詳細に説明する。
【0025】
3角波信号生成部152は、キャリア周波数設定部151が設定したキャリア周波数Fを有する3角波信号Trを生成する。
なお、キャリア信号の波形は、3角波に限定されず、鋸波とすることができる。
【0026】
図2に示したゲート信号生成部16は、2相/3相電圧変換部14の出力であるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、及びW相電圧指令値Vw*と、3角波生成部15の出力である3角波信号Tr(キャリア信号)とを比較して、パルス状の電圧であるゲート指令信号Gup,Gun,Gvp,Gvn,Gwp,GwnをPWM制御信号として生成し、インバータ3に出力する。
【0027】
ここで、ゲート信号生成部16は、インバータ回路31の上アーム(Sup,Svp,Swp)に対するゲート指令信号Gup,Gvp,Gwpを論理反転させ、インバータ回路31の下アーム(Sun,Svn,Swn)に対するゲート指令信号Gun,Gvn,Gwnを生成する。
インバータ回路31の各スイッチング素子は、ゲート指令信号Gup,Gun,Gvp,Gvn,Gwp,Gwnに応じてオンオフすることで、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、W相電圧指令値Vw*の電圧を各相に印加する。
【0028】
以下では、モータ制御装置1のキャリア周波数設定部151によるキャリア周波数Fの設定処理を詳細に説明する。
キャリア周波数設定部151は、モータ温度TMを、第1閾値TMth1(第1設定温度)及び第2閾値TMth2(第2設定温度)と比較することで、そのときのモータ温度TMが始動領域、暖機領域、常用領域のいずれの温度領域に含まれるかを判断する。
そして、キャリア周波数設定部151は、モータ温度TMが始動領域、暖機領域、常用領域のいずれの温度領域に含まれるかに基づき、参照するキャリア周波数マップを切り替える。
【0029】
ここで、第2閾値TMth2は、暖機領域と常用領域との境界温度であり、第2閾値TMth2によって暖機過程と暖機後とが判別される。
つまり、モータ温度TMが第2閾値TMth2以下である状態はモータ2の暖機過程であり、モータ温度TMが第2閾値TMth2を超える状態はモータ2の暖機後である。
【0030】
また、第1閾値TMth1は、暖機過程を2分する始動領域(第2温度領域)と暖機領域(第1温度領域)との境界温度であって、第2閾値TMth2よりも低い温度であり、モータ温度TMが第1閾値TMth1よりも低い温度領域を始動領域とし、モータ温度TMが第1閾値TMth1以上でかつ第2閾値TMth2以下である温度領域を暖機領域とする。
したがって、モータ温度TMは、モータ2が始動された後に、始動領域、暖機領域、常用領域の順で遷移することになる。
なお、第1閾値TMth1は60℃程度に設定され、第2閾値TMth2は80℃程度に設定される。
【0031】
ここで、始動領域(TM<TMth1)及び常用領域(TM>TMth2)は、暖機領域(TMth1≦TM≦TMth2)よりもモータ騒音が高くなる温度域である。
モータ2の暖機過程においては、モータ温度TMに依存してモータ2の騒音レベルが変化するため、暖機過程でモータ騒音が比較的低くなる温度領域を予め実験等によって求めておき、モータ温度TMから騒音レベルの変化を検知できるように、第1閾値TMth1及び第2閾値TMth2が適合されている。
【0032】
そして、キャリア周波数設定部151は、モータ2の暖機過程において、モータ温度TMによるモータ騒音レベルの変化に応じて、キャリア周波数を切り替える。
ここで、キャリア周波数設定部151は、モータ騒音が比較的大きい始動領域及び常用領域では、キャリア周波数が相対的に高い第1キャリア周波数マップM1を選択し、モータ騒音が比較的小さい暖機領域では、キャリア周波数が相対的に低い第2キャリア周波数マップM2を選択する。
【0033】
換言すれば、キャリア周波数設定部151は、暖機過程における暖機領域(第1温度領域)において、第2キャリア周波数マップM2(第2マップ)を選択し、暖機後の常用領域、及び、暖機領域よりもモータ温度TMが低い始動領域(第2温度領域)においては、第2キャリア周波数マップM2よりもキャリア周波数Fが高く設定された第1キャリア周波数マップM1(第1マップ)を選択する。
【0034】
図4は、モータ制御装置1のキャリア周波数設定部151によるキャリア周波数Fの設定処理のプロセスを示すフローチャートである。
キャリア周波数設定部151は、ステップS201で、モータ温度TMと第1閾値TMth1とを比較する。
キャリア周波数設定部151は、ステップS201で、モータ温度TMが第1閾値TMth1よりも低いと判断した場合、つまり、モータ温度TMが始動領域の温度であると判断した場合、ステップS204に進む。
【0035】
キャリア周波数設定部151は、ステップS204で、第1キャリア周波数マップM1と第2キャリア周波数マップM2のうち、キャリア周波数が相対的に高い第1キャリア周波数マップM1を選択する。
そして、キャリア周波数設定部151は、次のステップS205で、第1キャリア周波数マップM1からそのときのモータ回転速度ωr及びモータトルクに対応して設定されているキャリア周波数F1を検索し、当該キャリア周波数F1を、3角波信号Trの周波数(キャリア周波数F)に設定する。
【0036】
一方、キャリア周波数設定部151は、ステップS201で、モータ温度TMが第1閾値TMth1以上であると判断した場合、つまり、モータ温度TMが暖機領域若しくは常用領域の温度であると判断した場合、ステップS202に進む。
キャリア周波数設定部151は、ステップS202で、モータ温度TMと第2閾値TMth2(TMth2>TMth1)とを比較する。
なお、前述したように、第2閾値TMth2は常用領域の下限温度であり、第1閾値TMth1は、モータ温度TMが第2閾値TMth2以下であるモータ2の暖機過程において、モータ騒音レベルが高レベルから低レベルに切り替わるタイミングに相当する。
【0037】
キャリア周波数設定部151は、ステップS202で、モータ温度TMが第2閾値TMth2よりも高いと判断した場合、つまり、モータ温度TMが常用領域の温度であると判断した場合、モータ温度TMが始動領域の温度である場合と同様に、ステップS204に進んで第1キャリア周波数マップM1を選択し、ステップS205で第1キャリア周波数マップM1からキャリア周波数F1を検索する。
このように、キャリア周波数設定部151は、モータ温度TMが常用領域の温度である場合と、モータ温度TMが始動領域の温度である場合との双方で、第1キャリア周波数マップM1と第2キャリア周波数マップM2のうち、キャリア周波数が相対的に高い第1キャリア周波数マップM1を選択する。
【0038】
一方、キャリア周波数設定部151は、ステップS202で、モータ温度TMが第2閾値TMth2以下であると判断した場合、つまり、モータ温度TMが第1閾値TMth1以上でかつモータ温度TMが第2閾値TMth2以下である暖機領域であると判断した場合、ステップS203に進む。
キャリア周波数設定部151は、ステップS203で、モータ回転速度ωr[rad/s]が設定速度ωrth(設定回転速度)よりも高いか否かを判断する。
【0039】
そして、キャリア周波数設定部151は、モータ回転速度ωrが設定速度ωrthよりも高いと判断した場合、ステップS204に進み、モータ温度TMが始動領域又は常温領域の温度である場合と同様に、ステップS204に進んで第1キャリア周波数マップM1を選択し、ステップS205で第1キャリア周波数マップM1からキャリア周波数F1を検索する。
一方、キャリア周波数設定部151は、モータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下であると判断した場合、ステップS206に進む。
【0040】
キャリア周波数設定部151は、ステップS206で、第1キャリア周波数マップM1と第2キャリア周波数マップM2のうちから、キャリア周波数が相対的に低い第2キャリア周波数マップM2を選択する。
そして、キャリア周波数設定部151は、ステップS207で、第2キャリア周波数マップM2からそのときのモータ回転速度ωr及びモータトルクに対応して設定されているキャリア周波数F2を検索し、当該キャリア周波数F2を、3角波信号Trの周波数(キャリア周波数F)に設定する。
【0041】
キャリア周波数設定部151は、モータ温度TMが暖機領域であるときは基本的に第2キャリア周波数マップM2を選択するが、暖機領域であっても、モータ回転速度ωrが設定速度ωrthよりも高くなると、キャリア周波数がより高い第1キャリア周波数マップM1に切り替える。
係るモータ回転速度ωrに基づくキャリア周波数マップMの切り替えは、モータ回転速度ωrが高くなったときに、通電相の切り替えタイミングの検出遅れによってインバータ回路31の出力電圧波形が悪化することを抑止するための処理である。
【0042】
つまり、設定速度ωrthは、第2キャリア周波数マップM2の選択によってキャリア周波数が比較的低く抑えられている状態で、出力電圧波形が良好に維持される上限の回転速度である。
したがって、キャリア周波数設定部151は、暖機領域であってかつモータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下であれば、第2キャリア周波数マップM2から定められるキャリア周波数で出力電圧波形が良好に維持されると判断でき、第2キャリア周波数マップM2を選択する。
【0043】
上記のように、キャリア周波数設定部151は、始動領域及び常用領域においては第1キャリア周波数マップM1を選択し、暖機領域であってモータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下である場合は第2キャリア周波数マップM2を選択する。
したがって、キャリア周波数設定部151は、モータ回転速度ωr及びモータトルクが同じであるときに、始動領域と常用領域とで同じキャリア周波数F1を設定することになる。
【0044】
また、第2キャリア周波数マップM2は、第1キャリア周波数マップM1に比べて、キャリア周波数Fが低く設定される。
したがって、キャリア周波数設定部151は、モータ回転速度ωr及びモータトルクが同じであるときに、暖機領域であってモータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下である場合は、始動領域及び常用領域のときよりも低いキャリア周波数Fを設定する。
【0045】
図5は、図4のフローチャートに示したプロセスにしたがってキャリア周波数Fが決定されるときの、モータ2の始動からのモータ温度TM、キャリア周波数マップMの選択状態、モータ回転速度ωr、及び、キャリア周波数Fの変化を示すタイムチャートである。
モータ2が時刻t0で始動された後、モータ温度TMは漸増し、時刻t1にて第1閾値TMth1に達する。
このモータ始動からモータ温度TMが第1閾値TMth1に達するまでの時刻t0から時刻t1までの期間が始動領域であり、係る始動領域では、第1キャリア周波数マップM1が選択され、第1キャリア周波数マップM1から検索されたキャリア周波数F1の3角波信号Trが生成される。
【0046】
そして、時刻t1にてモータ温度TMが第1閾値TMth1以上になって暖機領域に入ると、キャリア周波数Fに用いられるキャリア周波数マップMが、第1キャリア周波数マップM1から第2キャリア周波数マップM2に切り替えられ、第2キャリア周波数マップM2から検索されたキャリア周波数F2の3角波信号Trが生成される。
ここで、第2キャリア周波数マップM2は、第1キャリア周波数マップM1に比べて、キャリア周波数Fが低く設定されるため、第1キャリア周波数マップM1から第2キャリア周波数マップM2への切り替えによって、キャリア周波数F(3角波信号Trの周波数)は減少変化する。
【0047】
モータ温度TMが第1閾値TMth1以上になった時刻t1からモータ温度TMが第2閾値TMth2を超える時刻t4までの期間が暖機領域であり、係る暖機領域において、モータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下であれば、継続して第2キャリア周波数マップM2が選択される。
但し、図5に示す一態様の場合、モータ温度TMが第1閾値TMth1以上でかつ第2TMth2以下である期間内(時刻t1から時刻t4までの期間内)の時刻t2から時刻t3までの期間で、モータ回転速度ωrが設定速度ωrthを超える。
【0048】
このため、暖機領域において、時刻t2から時刻t3までのモータ回転速度ωrが設定速度ωrthを超える期間では、第1キャリア周波数マップM1が選択され、モータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下である暖機領域よりもキャリア周波数Fは高く設定される。
つまり、モータ回転速度ωrが設定速度ωrthを超えた時刻t2のときに、キャリア周波数Fは増大変化し、モータ回転速度ωrが設定速度ωrth以下に戻った時刻t3のときに、キャリア周波数Fは減少変化する。
【0049】
そして、モータ温度TMが第2閾値TMth2を超える時刻t4以降の期間は常用領域であり、暖機領域で選択される第2キャリア周波数マップM2から第1キャリア周波数マップM1に切り替えられ、暖機領域から常用領域への移行に伴いキャリア周波数Fは増大変化する。
つまり、暖機過程の暖機領域において、キャリア周波数Fは、暖機後である常用領域よりも低く設定される。
【0050】
このように、モータ制御装置1は、モータ2に電力供給するインバータ3のPWM制御におけるキャリア周波数を、モータ2の暖機過程において、モータ2の温度に応じて暖機後よりも低く設定する。
モータ2の暖機過程においては、始動後のモータ騒音が高い状態から一旦騒音レベルが下がり、暖機完了に伴って再度騒音レベルが上がる。
【0051】
そこで、モータ制御装置1は、モータ騒音のレベルが高い始動領域及び常用領域においては、騒音対策を優先して、騒音を小さくできる高いキャリア周波数Fに設定する。
一方、モータ制御装置1は、モータ騒音のレベルが比較的低い暖機領域においては、キャリア周波数Fを下げることで、騒音対策よりも、インバータ3におけるスイッチングロスを低減させることを優先する。
これにより、永久磁石同期モータの騒音低減を図りつつ、暖機過程でのスイッチングロスを可及的に小さくでき、モータ2が電気自動車やハイブリッド自動車などにおける動力源として用いられる場合、自動車の電費性能を改善することができる。
【0052】
さらに、モータ制御装置1は、キャリア周波数Fを常用領域よりも低く設定する暖機領域において、モータ回転速度ωrが設定速度ωrthよりも高くなると、キャリア周波数Fをより高い周波数、詳細には、常用領域と同じキャリア周波数Fに切り替える。
これにより、暖機領域でモータ回転速度ωrが高くなったときに、インバータ回路31の出力電圧波形が悪化することを抑止することができる。
【0053】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0054】
モータ制御装置1は、始動領域用のキャリア周波数マップと、常用領域用のキャリア周波数マップとをそれぞれ記憶し、始動領域と常用領域とでキャリア周波数を異なる値に設定することができる。
また、モータ制御装置1が、暖機領域でモータ回転速度が設定回転速度よりも高くなったときに採用するキャリア周波数は、始動領域及び/又は常用領域と一致するキャリア周波数に限定されず、モータ制御装置1は、暖機領域でモータ回転速度が設定回転速度よりも高くなったとき、キャリア周波数を増大させる構成であればよい。
【0055】
また、モータ制御装置1は、始動領域、暖機領域、常用領域におけるキャリア周波数の切り替えを、キャリア周波数マップの切り替えによって実現できる他、標準のキャリア周波数マップから検索して求めたキャリア周波数を所定係数の乗算などによって増減させて用いることができる。
また、モータ温度センサ6を備えないモータ駆動システムにおいて、モータ制御装置1は、モータ温度TMの推定値に基づきキャリア周波数Fを可変設定することができる。
【0056】
また、本願発明に係るモータ制御装置がPWM制御する永久磁石同期モータは、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に動力源として搭載されるものに限定されない。
また、モータ制御装置1は、暖機領域におけるモータ回転速度ωrの増減に応じたキャリア周波数マップの切り替えにヒステリシス特性を持たせることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…モータ制御装置、1A…マイクロコンピュータ(制御部)、2…モータ(永久磁石同期モータ)、3…インバータ、4…回転位置検出器、5…バッテリ、6…モータ温度センサ、7…電流検出器、11…電流指令生成部、12…3相/2相電流変換部、13…電流制御部、14…2相/3相電圧変換部、15…3角波生成部、16…ゲート信号生成部、151…キャリア周波数設定部、152…3角波信号生成部
図1
図2
図3
図4
図5