(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088340
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/16 20060101AFI20240625BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240625BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240625BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20240625BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240625BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20240625BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240625BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240625BHJP
【FI】
B32B27/16 101
B32B27/18 Z
B05D7/24 301T
B05D3/06 Z
C08J7/046 A CER
C08J7/046 CEZ
C09D4/00
C09D7/65
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203453
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】表 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】江田 俊和
(72)【発明者】
【氏名】糸部 悟
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英汰
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB42Z
4D075BB46Z
4D075BB99X
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4J038KA03
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4J038NA27
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えた高い透明性を有するハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設ける。このハードコートフィルムのヘイズが2.0%以下である。上記無機系金属の添加量は、上記ハードコート層中の固形分に対して0.05質量%~3.0質量%の範囲である。上記4級アンモニウム塩基含有樹脂の添加量は、上記ハードコート層中の電離放射線硬化型樹脂の固形分に対して1質量%~30質量%の範囲である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設けたことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
日本産業規格JIS K7136:2000に基づき測定された下記式により定義されるヘイズが2.0%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
式)ヘイズ(%)=(前記ハードコートフィルムのヘイズ)-(前記無機系金属を含有しない前記ハードコートフィルムのヘイズ)
【請求項3】
前記無機系金属は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記無機系金属の添加量は、前記ハードコート層中の固形分に対して、0.05質量%~3.0質量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記4級アンモニウム塩基含有樹脂の添加量は、前記ハードコート層中の前記電離放射線硬化型樹脂の固形分に対して、1質量%~30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
基材上の少なくとも一方の面にハードコート層を設けたハードコートフィルムの製造方法であって、前記基材上の少なくとも一方の面に、溶媒に少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合し、3時間以上攪拌して調製したハードコート層形成用塗工液を塗布し、乾燥してハードコート層を形成した後、電離放射線照射を施すことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性・抗ウイルス性を有するハードコートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、特に感染症対策の観点から、人の手が表面に直接触れたりする可能性のある、たとえばフェイスシールド用フィルム、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、電子機器等のタッチパネル用フィルムなどは、抗菌性・抗ウイルス性を有していることが要望されている。
【0003】
従来技術としては、たとえば、フィルム基材上に、抗菌剤等を含有する抗菌ハードコート層が積層されたハードコートフィルムが種々提案されている(例えば、特許文献1乃至3等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-216750号公報
【特許文献2】特開2010-234523号公報
【特許文献3】特開2012-208169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来から、抗菌性を備えたハードコートフィルムは種々提案されているが、最近では、抗菌性だけではなく、良好な抗ウイルス性も兼ね備えたものが要望されている。また、用途によっては、抗菌性・抗ウイルス性に加えて、たとえば、高い透明性を要求されており、このようにハードコートフィルムに対する機能的要求は高まってきている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、第1に、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルム及びその製造方法を提供することであり、第2に、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、かつ高い透明性を有するハードコートフィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、得られた種々の知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
(第1の発明)
基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設けたことを特徴とするハードコートフィルムである。
【0009】
(第2の発明)
日本産業規格JIS K7136:2000に基づき測定された下記式により定義されるヘイズが2.0%以下の範囲内であることを特徴とする第1の発明に記載のハードコートフィルムである。
式)ヘイズ(%)=(前記ハードコートフィルムのヘイズ)-(前記無機系金属を含有しない前記ハードコートフィルムのヘイズ)
【0010】
(第3の発明)
前記無機系金属は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0011】
(第4の発明)
前記無機系金属の添加量は、前記ハードコート層中の固形分に対して、0.05質量%~3.0質量%の範囲であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0012】
(第5の発明)
前記4級アンモニウム塩基含有樹脂の添加量は、前記ハードコート層中の前記電離放射線硬化型樹脂の固形分に対して、1質量%~30質量%の範囲であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載のハードコートフィルムである。
【0013】
(第6の発明)
基材上の少なくとも一方の面にハードコート層を設けたハードコートフィルムの製造方法であって、前記基材上の少なくとも一方の面に、溶媒に少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合し、3時間以上攪拌して調製したハードコート層形成用塗工液を塗布し、乾燥してハードコート層を形成した後、電離放射線照射を施すことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルム及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、かつ高い透明性を有するハードコートフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
なお、本発明において、特に断りの無い限り、「○○~△△」との記載は「○○以上△△以下」を意味するものとする。
【0016】
以下に、本発明のハードコートフィルムについて説明する。
本発明のハードコートフィルムは、上記第1の発明のとおり、基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設けたことを特徴とするハードコートフィルムである。
【0017】
本発明のハードコートフィルムは、例えば、フェイスシールド用フィルム、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、テーブルカバー用フィルム、バスミラー用フィルム、冷凍冷蔵庫窓用フィルム、あるいは電子機器等のディスプレイ用またはタッチパネル用フィルム、等々に好ましく適用することができる。勿論、ここに挙げた用途はほんの一例であり、これらの用途に限定されるものではない。
【0018】
このハードコートフィルムの被塗工基材としては、通常フィルム基材が用いられる。
本発明において使用されるフィルム基材は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレングリシジルメタクリレート、芳香族式ポリイミド、脂環式ポリイミド、ポリアミドイミド及びこれらの混合物を例示することができる。これらのフィルム基材のなかでも、特にポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートが好適である。
【0019】
本発明のハードコートフィルムを、例えば、フェイスシールド用フィルムとして用いる場合は、フィルム基材は、透明性や価格的に有利という観点から、トリアセチルセルロースやポリエチレンテレフタレートが好ましく、パーティション用フィルムやウィンドウフィルムとして用いる場合には、フィルム基材は、アクリル系樹脂フィルムや、耐衝撃性や価格的に有利という観点から、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートが好ましい。基材には紫外線カット性能を有することも可能である。
【0020】
上記フィルム基材の厚さは、用途によっても異なるので一概には言えないが、通常、10~1000μmの範囲が好ましく、より好ましくは20μm~300μmの範囲である。
【0021】
次に、上記ハードコート層について説明する。
上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層の表面硬度(耐擦傷性)を付与し、また、紫外線等の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、紫外線(以下、「UV」と略記する。)や電子線(以下、「EB」と略記する。)を照射することによって硬化する樹脂であれば、特に限定されるものではないが、塗膜硬度及びハードコート層が3次元的な架橋構造を形成するために1分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVまたはEBにて硬化可能な多官能アクリレートからなるものが好ましい。UVまたはEB硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、ウレタンアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。なお、多官能アクリレートは単独で使用するだけでなく、2種以上の複数を混合し使用してもよい。
【0023】
さらに、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が例えば700~3600の範囲内であるポリマーを用いることが好ましく、重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が50~1500の範囲のものが好ましい。重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が50未満の場合、ハードコートフィルムがハードコート層面側に反りかえる現象(カール)が大きくなり、その後の加工工程に不具合が生じ、加工適性が悪い。また、重量平均分子量を官能基数で割ったときの数字が1500を超えると、硬度が不足するため適さない。
【0024】
また、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が1500未満である場合は、1分子中の官能基数は3個以上10個未満であることが望ましい。また、上記電離放射線硬化型樹脂の重量平均分子量が1500以上である場合は、1分子中の官能基数は3個以上20個以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、高温条件下でのクラックの発生を抑えつつ、カールが抑制でき、適切な加工適性を維持できる。例えば、ウィンドウフィルムの用途には好適である。
【0025】
また、上記ハードコート層に含まれる樹脂としては、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン-アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、珪素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0026】
本発明では、上記ハードコート層に無機系金属を含有させることにより、良好な抗菌性及び抗ウイルス性(「抗菌性・抗ウイルス性」とも表記する。)を備えたハードコートフィルムを得ることが可能である。
【0027】
本発明に用いられる上記無機系金属とは、無機化合物(無機材料)に、例えば、銀、モリブデン、銅、亜鉛等の金属イオンを取り込んで形成した物質、あるいは、銀、モリブデン、銅、亜鉛等の金属イオンを無機化合物(無機材料)に担持させた物質である。
本発明に用いられる無機系金属の具体例としては、例えば、無機化合物のゼオライト、アパタイト、ジルコニア等の物質に銀、モリブデン、銅、亜鉛等のうちの少なくともいずれかの金属イオンを取り込んで形成した抗菌性・抗ウイルス性ゼオライト、抗菌性・抗ウイルス性アパタイト、抗菌性・抗ウイルス性ジルコニア等の無機系抗菌・抗ウイルス剤が使用できる。また、銀、モリブデン、銅、亜鉛等のうちの少なくともいずれかの金属イオンをゼオライト、アパタイト、ジルコニア、ガラス等に担持させた化合物なども好ましく挙げられる。これらの金属イオンを無機材料に担持させることで、経時での金属成分の脱落を防ぐことができる。
【0028】
本発明に用いられる無機系金属としては、生体毒性が無く安全性に優れる観点から、銀イオン(銀成分)を含む銀系材料が好ましい。中でも、例えば、リン酸系ガラス銀担持化合物や、銀ゼオライト化合物は、少量でも抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから添加量を抑制することができるため、より好ましい。また、銀とモリブデンの両成分を含む銀-モリブデン系材料も、良好な抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから、本発明において好ましく用いることができる。本発明における上記無機系金属は、少なくとも銀成分を含む無機材料であることが好ましい。
【0029】
上記無機系金属の平均粒子径は、例えば、1~30000nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径2.5~20000nmの範囲である。平均粒子径が1nm未満であると、材料が限定的で入手が困難である。一方、平均粒子径が30000nmを超えると、4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合しても、無機系金属の粒子径を0.1μm以下に微粒子化することが難しく、その結果、ハードコート塗料への分散性が悪化し、塗工した際に粒状感が残ってしまう恐れがある。
【0030】
上記無機系金属の添加量は、本発明では特に限定される必要はないが、例えば、上記ハードコート層中の固形分に対して、0.05質量%~3.0質量%の範囲であることが好ましい。添加量が0.05質量%未満であると、抗菌性・抗ウイルス性が十分に発現されない。一方、添加量が3.0質量%を超えると、ハードコートフィルムの透明性が低くなり、フェイスシールドやウィンドウフィルム等の高い視認性が求められる場合には、著しく視認性が劣ってしまう。
このように、視認性の要求が高い用途では、ハードコートフィルムのヘイズが2.0%以下、より好ましくは1.0%未満の高い透明性が要求される。
本発明において、ハードコートフィルムのヘイズとは、日本産業規格JIS K7136:2000に基づき測定された下記式により定義されるヘイズをいうものとする。
式)ヘイズ(%)=(前記ハードコートフィルムのヘイズ)-(前記無機系金属を含有しない前記ハードコートフィルムのヘイズ)
つまり、本発明の基材上に少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設けたハードコートフィルムのヘイズから、前記無機系金属を含有しないこと以外は同様に作製したハードコートフィルムのヘイズを差し引いた値を「ヘイズ」とする。
本発明のハードコートフィルムは、上記無機系金属を含有しても、上記ヘイズを2.0%以下の範囲内に抑えることが可能であり、良好な抗菌性・抗ウイルス性機能を維持しつつ、高い透明性による意匠性を備えるものである。
【0031】
なお、本発明において、特に断りの無い限り、上記の「ハードコート層中の固形分」との記載は「ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液(以下、「ハードコート用塗料」とも呼ぶ。)中の固形分」を意味するものとする。また、固形分とは、例えば樹脂、添加剤等の固形分である。
【0032】
特に、前記の銀系材料や、銀-モリブデン系材料は、少量の添加量でも良好な抗菌性・抗ウイルス性能を発現することから、添加量は、上記ハードコート層中の固形分に対して、0.1質量%~2.0質量%の範囲、さらには0.5質量%~1.0質量%の範囲とすることができる。
なお、上記無機系金属は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明に用いられる4級アンモニウム塩基含有樹脂としては、4級アンモニウム塩基、好ましくは4級アンモニウム塩を含む樹脂であれば特に限定されるものではない。4級アンモニウム塩とは、4級アンモニウムと酸やハロゲンとの塩であって、酸としては主にスルホン酸や塩酸などのハロゲン酸が好ましい。
【0034】
4級アンモニウム塩基含有樹脂は、帯電防止効果があり、効果の経時安定性や、後述の塗工層の透明性を担保できる。
【0035】
さらに、4級アンモニウム塩基含有樹脂は、無機系金属の粒子径を0.1μm以下に微粒子化、ひいては可溶化する作用があり、塗工層が高透明化になる効果が認められた。
【0036】
上記4級アンモニウム塩基含有樹脂の添加量は、本発明では特に制約はされないが、例えば、上記ハードコート層中の電離放射線硬化樹脂の固形分に対して、1質量%~30質量%の範囲が好ましく、5質量%~20質量%の範囲がより好ましい。電離放射線硬化型樹脂と4級アンモニウム塩基含有樹脂との配合比(電離放射線硬化型樹脂/4級アンモニウム塩基含有樹脂)でいうと、99/1~70/30の範囲である。
4級アンモニウム塩基含有樹脂の添加量が1質量%未満であると、十分な塗工層の透明化の効果が得られない。一方、添加量が20質量%を超えると、塗膜強度が低下するおそれがある。
【0037】
上記ハードコート層に含有される電離放射線硬化型樹脂を硬化させるため、上記ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)には、公知の光重合開始剤を含むことができる。そのような光重合開始剤としては、アセトフェノン類やベンゾフェノン類を使用できる。
【0038】
また、上記ハードコート層には、塗工性の改善を目的にレベリング剤(表面改質剤)の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。
【0039】
また、本発明のハードコートフィルムに防汚性を付与するためには、上記ハードコート層に、フッ素系やシロキサン系等の防汚剤(レベリング剤または界面活性剤など)を添加することができる。防汚剤の添加量としては、特に制約はされないが、ハードコート用塗料中の樹脂固形分に対して、0.05質量%~2.0質量%が好ましい。
【0040】
上記ハードコート層に添加するその他の添加剤として、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0041】
そして、上述の無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂の他に、必要に応じて上記のその他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散したハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)を、上記被塗工基材上に塗工、乾燥した後、塗工層に対してUV又はEB等の電離放射線を照射することにより、光重合が起こりハード性に優れるハードコート層を得ることができる。
【0042】
溶媒としては、配合される上記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、その他の上記添加剤等)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶媒を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0043】
また、上記塗工液の濃度(固形分濃度)については、特に制約はされないが、例えば10質量%~70質量%程度の範囲とすることができる。
【0044】
また、本発明においては、上記の溶媒に少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合した塗工液を例えば3時間以上攪拌し、調製したハードコート層形成用塗工液を適用することが好適である。このように少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合した塗工液を3時間以上攪拌することにより、前述の4級アンモニウム塩基含有樹脂による無機系金属の粒子径を0.1μm以下に微粒子化する作用が十分に得られるものと考えられる。上記の塗工液は3時間以上攪拌することが好ましいが、配合される上記固形分(無機系金属、樹脂、その他の上記添加剤等)の溶解性に応じて攪拌時間を例えば6時間~24時間とすることも好適である。
なお、撹拌は、常温(乃至は室温)で連続攪拌することが望ましい。後述の実施例で使用したようなローター(攪拌装置)を適用する場合、回転数は10rpm~200rpmの条件で行うことが好適であり、より好ましくは、60rpm~120rpmである。
また、攪拌機の形式や使用する撹拌羽根、回転数などの条件は特に限定されず、攪拌の終了は、塗工液の透明度によって判断することが可能である。
【0045】
上記のようにして調製したハードコート層形成用塗工液を被塗工基材上に塗工、乾燥した後の電離放射線(UV、EB等)の照射量は、ハードコート層に十分なハード性を持たせるに必要な照射量であればよく、電離放射線硬化型樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0046】
上記ハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液の塗工方法については、特に限定はないが、グラビア塗工、マイクログラビア塗工、ファウンテンバー塗工、スライドダイ塗工、スロットダイ塗工、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の公知の塗工方式が挙げられる。
【0047】
また、塗工後の乾燥工程における乾燥温度、加熱時間(乾燥時間)については適宜設定することができる。
【0048】
上記ハードコート層の塗膜厚さ(乾燥後)は、ハードコートフィルムの用途によっても異なるため、特に制約される必要はないが、一般には例えば1.0μm~20.0μmの範囲であることが好適であり、特に薄膜化の観点からは、例えば1.0μm~10.0μmの範囲であることが好適である。塗膜厚さが1.0μm未満では、必要な表面硬度が得られ難いため好ましくない。また、塗膜厚さが20.0μmを超えた場合は、カールが発生しやすく製造工程などで取扱い性が低下するため好ましくない。
【0049】
本発明のハードコートフィルムは、基材上の少なくとも一方の面に、少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を含有するハードコート層を設けたものであるが、層構成の具体例(実施態様)を以下に挙げる。
【0050】
(実施態様)
基材上の一方の面に、上記の抗菌性・抗ウイルス性を備えた高い透明性を有するハードコート層を設ける。基材上の他方の面(ハードコート層を設けた面とは反対面)には、ハードコートフィルムを、パーティション、ウィンドウ、テーブルカバー、電子機器のタッチパネル等の部材に貼着するための粘着層を設けることができる。
このようなハードコートフィルムの実施態様は、例えば、パーティション用フィルム、ウィンドウフィルム、テーブルカバー用フィルム、あるいは電子機器等のディスプレイ用またはタッチパネル用フィルムとして好適である。
【0051】
また、本発明は、上述のハードコートフィルムの製造方法についても提供するものである。
すなわち、基材上の少なくとも一方の面にハードコート層を設けたハードコートフィルムの製造方法であって、前記基材上の少なくとも一方の面に、溶媒に少なくとも無機系金属、電離放射線硬化型樹脂及び4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合し、3時間以上攪拌して調製したハードコート層形成用塗工液を塗布し、乾燥してハードコート層を形成した後、電離放射線照射を施すことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法である。
本発明のハードコートフィルムの製造方法によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性と高い透明性を有するハードコートフィルムを得ることができる。
【0052】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備えたハードコートフィルム及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を備え、かつ高い透明性を有するハードコートフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の記載中、「部」は別途記載がない限り質量部を、「%」は別途記載がない限り質量%を意味する。
【0054】
(実施例1)
[ハードコート層形成用塗工液の調製]
ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)95部を主剤とし、イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)3.5部と、表面改質剤(メガファックR-08MH;DIC(株)製)を1.5%(対固形分0.5%)、本発明の無機系金属として銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を0.3%(対固形分1.0%)と、本発明の4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を5部の割合で配合し、酢酸ブチル/n-プロピルアルコール=50/50(重量部)にて希釈して最終固形分濃度30%の塗工液を、攪拌装置MIX ROTER VMR-5(iuchi製)で回転数60rpmの条件で、常温下、24時間攪拌し、ハードコート層形成用塗工液(ハードコート用塗料)を調製した。
【0055】
[ハードコートフィルムの作製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材フィルム(フィルム厚50μm)の片面に、上記組成からなるハードコート用塗料を、バーコーターを用いて塗工した後、80℃の乾燥炉で60秒間乾燥させ、乾燥後の膜厚が2μmのハードコート層を形成した。次いで、このハードコート層に対して、塗布面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用い、UV照射量200mJ/cm2の紫外線照射により硬化させ、本実施例のハードコートフィルムを作製した。
【0056】
(実施例2)
実施例1におけるハードコート用塗料中のウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)90部を主剤とし、4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を10部の割合の配合に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例2のハードコートフィルムを作製した。
【0057】
(実施例3)
実施例1におけるハードコート用塗料中のウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)80部を主剤とし、4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を20部の割合の配合に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例3のハードコートフィルムを作製した。
【0058】
(実施例4)
実施例2におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤の配合量を0.15%(対固形分0.5%)に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例4のハードコートフィルムを作製した。
【0059】
(実施例5)
実施例4におけるハードコート用塗料中のウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)70部を主剤とし、4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を30部の割合の配合に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例5のハードコートフィルムを作製した。
【0060】
(実施例6)
実施例5におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤の配合量を0.90%(対固形分3.0%)に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、実施例6のハードコートフィルムを作製した。
【0061】
(比較例1)
実施例1におけるハードコート用塗料中に4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を配合せず、ウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)の配合量を100部としたこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、比較例1のハードコートフィルムを作製した。
【0062】
(比較例2)
実施例1におけるハードコート用塗料中の銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤の配合量を2.1%(対固形分5.0%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、比較例2のハードコートフィルムを作製した。
【0063】
(比較例3)
比較例2におけるハードコート用塗料中のウレタンアクリレートを主成分とする電離放射線硬化型樹脂(紫光UV-7630B(商品名);日本合成化学(株)製)80部を主剤とし、4級アンモニウム塩基含有ポリマー(1SX-1055F;大成ファインケミカル(株)製)を20部の割合の配合に変更したこと以外は同様にして調製したハードコート用塗料を用いて、比較例3のハードコートフィルムを作製した。
【0064】
<評価>
以上のようにして作製された実施例及び比較例の各ハードコートフィルムを次の項目について評価し、その結果を纏めて表1に示した。
【0065】
<塗膜の厚み>
ハードコート層の塗膜の形成厚みは、Thin-Film Analyzer F20(商品名)(FILMETRICS社製)を用いて測定した。
【0066】
<抗菌性>
JIS Z 2801:2010の規格に準じた方法にて測定した。抗菌活性値2.0以上を抗菌活性値として有効であると判定した。
【0067】
<抗ウイルス性>
ISO 21702:2019の規格に準じた方法にて測定した。抗ウイルス活性値2.0以上を抗ウイルス活性値として有効であると判定した。
【0068】
<ヘイズ(光学特性)>
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムのヘイズおよび前記無機系金属を含有しないこと以外は実施例、比較例と同様にして作製した各ハードコートフィルムのヘイズは、JIS K7136:2000に基づき、村上色彩技術研究所(株)製ヘイズメータHM-150Nを用いて測定した。
なお、下記式により定義されるヘイズ(%)を表1に示した。
式)ヘイズ(%)=(上記各ハードコートフィルムのヘイズ)-(上記無機系金属を含有しない各ハードコートフィルムのヘイズ)
【0069】
<鉛筆硬度(表面強度)>
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムについての表面強度は、JIS-K-5600-5-4に準じた試験法により鉛筆硬度を測定した。表面に傷の発生なき硬度を標記した
【0070】
<表面抵抗(帯電防止性)>
実施例、比較例で作製した各ハードコートフィルムの表面抵抗値は、日東精工アナリテック(株)製ハイレスタ-UX MCP-HT800を用いて測定した。測定にはUSRプローブを用い、引加電圧を500Vとした。評価基準については、表面抵抗値1.0×1011Ω/□未満を合格とした。なお、1011Ω/□は、静電気などでほこりが付着しないレベルである。
【0071】
【0072】
表1の結果から、本発明の実施例によれば、良好な抗菌性及び抗ウイルス性を有する高い透明性を備えたハードコートフィルムが得られることがわかる。特に、実施例1~5のハードコートフィルムは、ヘイズが0.1%以下であり、非常に高い透明性を備えている。
これに対し、4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合しないハードコート用塗料を用いて作製した比較例1のハードコートフィルムでは、ヘイズを2.0%以下に抑えることができず、高い透明性が得られない。また、銀-モリブデン系化合物を含有する抗菌・抗ウイルス剤を本発明の好ましい添加量の範囲の上限値よりも多く配合したハードコート用塗料を用いて作製した比較例2(参考例)のハードコートフィルムでは、4級アンモニウム塩基含有樹脂を配合しているものの、ヘイズが10.0%よりも高くなってしまい、透明性が悪かった。また、比較例3(参考例)のハードコートフィルムでは、比較例2で使用した塗料中の4級アンモニウム塩基含有樹脂の配合量を増やしたものの、やはりヘイズが10.0%よりも高くなってしまい、透明性が悪かった。