(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088349
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】主軸用バランサ
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240625BHJP
F16F 15/32 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23Q11/00 B
F16F15/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203466
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】502267800
【氏名又は名称】株式会社かいわ
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山添 重幸
(57)【要約】
【課題】主軸の回転バランスを高精度に調整し、工作機械に発生する振動を効果的に低減することのできる主軸用バランサを提供すること。
【解決手段】工作機械100の主軸103に設けられ、主軸103の回転バランスを調整する主軸用バランサ1は、主軸103の回転軸C0に直交する径方向外側に突出する円板状本体11と、円板状本体11に円環状に形成され、主軸103の回転バランスを調整する複数のバランスピース16が取り付けられる溝部15とを備え、溝部15は、主軸103の径方向外側に形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の回転駆動される主軸に設けられ、前記主軸の回転バランスを調整する主軸用バランサであって、
前記主軸の回転軸に直交する径方向外側に突出する円板状本体と、
前記円板状本体に円環状に形成され、前記主軸の回転バランスを調整する複数のバランスピースが取り付けられるバランスピース取付部とを備え、
前記バランスピース取付部は、前記主軸の径方向外側に配置される、
主軸用バランサ。
【請求項2】
前記バランスピース取付部は、前記円板状本体に円環状に形成される溝部であり、
前記バランスピースは、前記主軸の径方向外側に配置される前記溝部に対して周方向に沿ってスライド自在に設けられ、前記溝部の周方向所定位置に固定される、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項3】
前記工作機械は、マシニングセンタ、フライス盤及び旋盤のうちいずれかであり、
前記円板状本体は、前記マシニングセンタの主軸、前記フライス盤の主軸、又は、前記旋盤の主軸に設けられ、前記主軸の径方向外側に前記バランスピース取付部が配置され、
前記バランスピース取付部は、前記円板状本体に円環状に形成される溝部であり、
前記バランスピースは、前記主軸の径方向外側に配置される前記溝部に対して周方向に沿ってスライド自在に設けられ、前記溝部の周方向所定位置に固定されて前記主軸の回転バランスを調整する、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項4】
前記円板状本体は、前記主軸の外周面に設けられる、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項5】
前記円板状本体の外周側面には、周方向に沿って前記バランスピースを前記バランスピース取付部に取り付ける際に目安となる目盛が形成される、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項6】
基端が前記主軸に装着され、先端に加工用のツールが取り付けられるツールホルダの外周面に、前記円板状本体が設けられており、
前記円板状本体は、前記ツールホルダを介して前記主軸に設けられる、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項7】
前記工作機械は、フランジ用バランスピースが設けられた一対のフランジを介して砥石が前記主軸に固定される研削盤であり、
前記フランジ用バランスピースが設けられた前記一対のフランジとは別に、前記円板状本体が前記主軸に設けられ、前記バランスピース取付部に設けられる前記複数のバランスピースによって前記主軸の回転バランスを調整する、
請求項1に記載の主軸用バランサ。
【請求項8】
前記工作機械は、前記主軸を鉛直方向に向けた縦型工作機械であり、
前記円板状本体は、前記工作機械の装着時に前記バランスピース取付部を鉛直下方に向けて配置させる、
請求項1又は5に記載の主軸用バランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の回転駆動される主軸に設けられ、主軸の回転バランスを調整する主軸用バランサに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械は、加工用のツールを主軸に取り付けた回転体を有し、主軸を含む回転体を高速で回転させて孔開け、ミーリング等の加工を行っている。また、旋盤等の工作機械は、加工対象となるワークを高速で回転させながら加工用のツールを接触させてワークの外周面の切削加工を行っている。このような工作機械では、回転体の回転に軸ブレがあると、振動等が発生して加工精度が低下したり、振動によるスピンドルベアリングの寿命が短くなるため、回転体の軸ブレを防止する回転バランス調整が行われる。
【0003】
従来、このような回転体の回転バランスの調整の方法としては、主軸を支承する軸受から回転軸方向の端部側で主軸に複数の雌ねじ穴を形成し、雌ねじ穴に錘となるねじを適宜の位置に挿入螺合し、主軸の径方向内側(主軸径内)に設けたねじで回転バランスを調整する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、他の回転バランスの調整方法としては、フランジ部等を備える主軸に装着されるツールホルダにおいて、ツールホルダを主軸に装着した際に主軸径内に位置する外周面に複数の雌ねじ穴を形成しておき、錘となるねじを適宜の位置に挿入螺合し、主軸径内に設けたねじで回転バランスを調整する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-126588号公報
【特許文献2】特開2001-138162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転バランスの調整方法のように、主軸の回転軸に直交する主軸径方向の内側(主軸径内)において、予め決まった位置及び数のねじ穴に、錘となるねじを単に取り付けるだけでは、、未だ主軸の回転ブレを抑制する効果が少ないという事実があった。また、振動を効果的に低減できない場合、上述したように加工精度が低下したり、工作機械の駆動モータや主軸、当該主軸に装着される加工工具等も傷みやすくなる。そのため、例えば、マシニングセンタや、フライス盤、旋盤、円筒研削盤等の工作機械においては、主軸に加工工具等を装着する前でも、主軸自体の回転バランスを高精度に調整しておき、工作機械に発生する振動を効果的に低減することが望ましい。
【0006】
本発明は、主軸の回転バランスを高精度に調整し、工作機械に発生する振動を効果的に低減することのできる主軸用バランサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバランサは、工作機械の回転駆動される主軸に設けられ、前記主軸の回転バランスを調整する主軸用バランサであって、前記主軸の回転軸に直交する径方向外側に突出する円板状本体と、前記円板状本体に円環状に形成され、前記主軸の回転バランスを調整する複数のバランスピースが取り付けられるバランスピース取付部とを備え、前記バランスピース取付部は、前記主軸の径方向外側に配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バランスピース取付部が主軸の径方向外側に配置されることにより、主軸から離れた位置にバランスピースを取り付けることができる。従って、主軸に対して遠心力を効果的に作用させ、主軸の回転バランスを高精度に調整し、振動を効果的に低減することができる。また、バランスピースを円板状本体に取り付けることにより、バランスピースの重量を自由に設定することができるため、主軸の回転バランスを一層高精度に調整することができ、工作機械に発生する振動を低減できる。また、振動を効果的に低減できるため、工作機械に装着される加工工具の痛みも生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る主軸用バランサの構造を示す上面図である。
【
図2】第1実施形態の主軸用バランサの構造を示す下面斜視図である。
【
図3】第1実施形態の主軸用バランサの構造を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態の主軸用バランサをツールホルダに取り付けたマシニングセンタの構造を示す側面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る主軸用バランサを、マシニングセンタの主軸に取り付けた構造を示す斜視図である。
【
図6】第2実施形態の主軸用バランサを工作機械の主軸に取り付けた構造を示す断面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る主軸用バランサを、旋盤の主軸に取り付けた構造を示す斜視図である。
【
図8】第3実施形態の主軸用バランサを、旋盤の主軸に取り付けた構造を示す断面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係る主軸用バランサを、研削盤の主軸に取り付けた構造を示す断面図である。
【
図10】第4実施形態の変形となる主軸用バランサを、研削盤の主軸に取り付けた構造を示す断面図である。
【
図11】第3実施形態の変形となる主軸用バランサを、旋盤の主軸に取り付けた構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明ではすでに説明した部材及び部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
図1から
図3には、本実施形態の主軸用バランサ1が示されている。
図1は主軸用バランサ1の上面図であり、
図2は主軸用バランサ1の下面図であり、
図3は主軸用バランサ1の断面図である。
【0011】
主軸用バランサ1は、後述するマシニングセンタの主軸103の回転バランスを調整する装置であり、円板状本体11及びバランスピース取付部となる溝部15を備える。円板状本体11は、
図1に示すように、金属製の円形板状体から構成され、上面は平坦面とされる。円板状本体11の回転中心には、後述するツールホルダ104が挿入される挿入孔12が形成されている。挿入孔12の内周面には、円板状本体11の外側に向かって凹部13が複数か所(本実施形態では3か所)形成されている。円板状本体11の外周側面は、
図2に示すように、円板状本体11の厚さ方向に延びる一定外径の外周面と、当該外周面の端部から径方向内側に傾斜する傾斜面とを有し、傾斜面には、円板状本体11の全周にわたって目盛14が形成される。この目盛14は、後述するバランスピース16の取付位置を調整する際に目安となるように形成されている。
【0012】
図2及び
図3に示すように、円板状本体11の下面側には、円板状本体11の外周縁に沿った円環状のバランスピース取付部となる溝部15が形成されている。溝部15は、内側壁部151及び外側壁部152を有する円環状に形成される。内側壁部151は、外周端部が内側壁部151から外側に突出する押え板153に覆われ、外側壁部152は、溝部15の外側に凹んだ位置に形成されている。押え板153は、リング状の金属板から構成され、固定ねじ154によって円板状本体11に固定される。
【0013】
溝部15の内側壁部151及び外側壁部152の間には、バランスピース16が取り付けられる。主軸用バランサ1は、円環状の溝部15に沿って複数(例えば3つ)のバランスピース16の周方向での各取付位置をそれぞれ調整することにより、主軸103の回転バランスを調整する。バランスピース16は、側面視で逆凸状の金属製部材から構成され、逆凸状の下面部は、円板状本体11の下面から下方に突出する。バランスピース16は、溝部15の内側壁部151側の第1ピース部材161と、外側壁部152側の第2ピース部材162に分割され、第1ピース部材161及び第2ピース部材162が接近、離間する方向に隙間を設けて溝部15に挿入される。第1ピース部材161及び第2ピース部材162の分割線に沿った中央には、第1ピース部材161及び第2ピース部材162にまたがるように雌ねじ穴163が形成されている。また、バランスピース16の下面の中央には、主軸用バランサ1の径方向外側に伸び、バランスピース16の円周方向の端面まで連続するセンター線164が刻設されている。
【0014】
雌ねじ穴163は、有底の穴であり、深さ方向先端が径方向に縮径している。雌ねじ穴163には、
図3に示すように固定部材となるイモネジ165が螺合する。イモネジ165の螺合が浅い状態では、バランスピース16は、円環状の溝部15内を溝部15に沿って周方向にスライド自在に移動させることができる。イモネジ165の螺合が深くなると、イモネジ165の先端が雌ねじ穴163の縮径部分に当接し、第1ピース部材161及び第2ピース部材162が次第に離間する方向に押し広げられる。押し広げられた結果、第1ピース部材161は、内側壁部151に押し付けられ、第2ピース部材162は、外側壁部152に押し付けられ、これらの押付力によって、バランスピース16は、溝部15の所望の位置に固定される。一方、イモネジ165の基端部分では、第1ピース部材161及び第2ピース部材162が互いに接近する方向に力が作用し、この力がイモネジ165を締め付ける楔としての効果を生じさせ、イモネジ165が緩むことを防止する。
【0015】
図4には、本実施形態の主軸用バランサ1を工作機械100のツールホルダ104に装着した構造が示されている。工作機械100は縦型のマシニングセンタであり、主軸頭101、ベアリング102、主軸103、及びツールホルダ104を備える。主軸頭101は、工作機械100の鉛直方向に摺動自在に保持され、内部に主軸103が挿入される挿入孔が形成されている。ベアリング102は、主軸頭101の挿入孔の側面に露出して設けられ、主軸103を回転自在に支承する。主軸103は、主軸頭101の挿入孔に挿入され、図示しないモータ等の駆動源によって回転する。主軸103の先端には、ツールホルダ104が挿入される円錐台状の凹部が形成されている。逆円錐台状の凹部の回転軸は、主軸103の回転軸C0と一致する。
【0016】
ツールホルダ104は、被加工物となるワークを加工するツールを保持する器具であり、主軸挿入部104A及びコレットチャック部104Bを備える。主軸挿入部104Aは、鉛直上方の基端側に設けられ、回転軸を中心とした円錐台形状とされ、主軸103の円錐台状の凹部に挿入される。主軸挿入部104Aが円錐台状の凹部に挿入されると、ツールホルダ104は、ツールホルダ104の回転軸が主軸103の回転軸C0に一致するように装着される。
【0017】
コレットチャック部104Bは、鉛直下方の先端側に設けられ、
図4では図示を略したが、ツールホルダ104の本体に設けられるフランジと、フランジ内に挿入されるコレットチャックとを備える。コレットチャックは、回転軸方向に沿った切り込みが複数形成された円筒状体から構成され、円筒内部に加工用のツールを挿入した後、フランジ内にコレットチャックを挿入して螺合すると、コレットチャックが径方向に縮径し、ドリル、エンドミル等の加工用のツールを把持する。なお、本実施形態では、コレットチャックを用いているが、ミーリングチャック、焼き嵌めチャック等の他の構造のチャックを用いてもよい。
【0018】
ツールホルダ104には、本実施形態の主軸用バランサ1が設けられている。主軸用バランサ1は、下面側を鉛直下方に向けてツールホルダ104の主軸挿入部104A及びコレットチャック部104Bの間の軸部に固定される。
図2に示すように、円板状本体11に形成された3か所の凹部13には、固定ピース17が嵌め込まれ、固定ピース17の作用によって、主軸用バランサ1は、ツールホルダ104の軸部に固定される。
【0019】
固定ピース17は、前述したバランスピース16と同様の構造を有し、ツールホルダ104の軸部側の第1ピース部材171と、凹部13の端面側の第2ピース部材172とに分割され、凹部13の径方向深さに隙間を設けて挿入される。第1ピース部材171及び第2ピース部材172の分割線には、第1ピース部材171及び第2ピース部材172にまたがるように有底の雌ねじ穴173が形成されている。雌ねじ穴173には、イモネジ174が螺合固定され、バランスピース16と同様の作用によって、主軸用バランサ1はツールホルダ104の軸部に固定される。
【0020】
円板状本体11に形成された溝部15は、回転軸C0に直交する径方向の主軸103の外周面までの距離R0(すなわち主軸103の半径)よりも、外側の径方向の距離R1の位置に形成され、溝部15内にバランスピース16が挿入固定される。なお、主軸頭101には、ベアリング102を押さえるベアリング押さえ(図示せず)が設けられており、当該ベアリング押さえが主軸103とともに回転する形態もある。このように、主軸頭101内に設けられたベアリング押さえ(図示せず)が主軸103とともに回転する形態の場合、主軸103とともに回転するベアリング押さえを含めて主軸103と称する。この場合、主軸103の外周面までの距離R0は、主軸103とともに回転するベアリング押さえの外周面までの距離となる。
【0021】
溝部15内に挿入固定されたバランスピース16の下面は、
図4に示すように、円板状本体11の下面よりも下方に突出している。バランスピース16の下面が円板状本体11の下面よりも下方に突出することにより、ツールホルダ104が主軸103に装着された状態で、主軸用バランサ1を側面から見ても、バランスピース16のセンター線164と、傾斜面に付された目盛14とを視認し得える。これにより、主軸用バランサ1は、作業者に対して主軸用バランサ1を下方から覗き込むような負担が大きい姿勢にさせることなく、単に側面方向から視認させながら、バランスピース16の溝部15内における周方向の位置調整作業を行え、その分、作業者の作業負担を軽減させることができる。
【0022】
本実施形態の作用となる主軸用バランサ1による回転体のバランス調整方法について説明する。コレットチャック部104Bにドリル、エンドミル等の加工用ツール(加工工具)が装着されたツールホルダ104に対して、溝部15に複数のバランスピース16が設けられた主軸用バランサ1を、固定ピース17を用いて固定する。そして、主軸用バランサ1を有するツールホルダ104を主軸103に挿入固定した後に、主軸用バランサ1を有するツールホルダ104を取り付けた主軸103について動バランサ測定器を用いて動的バランスを調整する。具体的には、主軸用バランサ1の溝部15に設けた複数のバランスピース16を溝部15に沿って周方向にスライドさせて、適宜の位置でイモネジ165を締めこむことにより、仮固定する。バランスピース16が3つの場合、例えば、溝部15の円周方向の0度、120度、240度位置にそれぞれのバランスピース16を仮固定する。この状態で主軸103を回転させ、動バランサ測定器により、工作機械100に発生する振動と主軸103の回転数を測定する。工作機械100に発生した振動が測定されたら、主軸103の回転を停止し、イモネジ165を緩め、目盛14及びバランスピース16のセンター線164を側面から視認してバランスピース16の円周方向の取付位置を調整する。これを繰り返し、測定される振動が最も少なくなった位置でバランスピース16を固定し、主軸103の回転バランス調整を終了する。
【0023】
なお、ここでは、ツールホルダ104に加工用ツールを取り付け、加工用ツール及び主軸用バランサ1を有する当該ツールホルダ104を取り付けた主軸103について、動バランサ測定器を用いて回転バランスの調整を行うようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、ツールホルダ104に加工用ツールを取り付ける前に、主軸用バランサ1を有するツールホルダ104を取り付けた主軸103について、動バランサ測定器を用いて回転バランスの調整を行うようにしてもよい。
【0024】
このような本実施形態によれば、次のような効果がある。主軸用バランサ1は、回転軸C0に直交する径方向の主軸103の外周面までの距離R0(主軸103の半径)よりも外側の距離R1に溝部15が形成されることにより、主軸103の回転軸C0から離れた位置にバランスピース16を取り付けることができる。従って、主軸用バランサ1は、主軸103を含む回転体に遠心力を効果的に作用させ、主軸103の回転バランスを高精度に調整し、振動を効果的に低減することができる。また、バランスピース16を円板状本体11に取り付けることにより、バランスピース16の重量を自由に設定することができるため、主軸103の回転バランスを一層高精度に調整することができ、工作機械100に発生する振動を低減することができる。従って、ツールホルダ104に装着されたツールが痛むことを防止できる。
【0025】
さらに、主軸用バランサ1は、回転駆動する主軸103の径方向外側において、バランスピース16を円環状の溝部15に沿って周方向にスライド自在に移動させ、円環状の溝部15内の任意の位置に固定することができる。従って、従来技術のように、回転駆動する主軸103の径方向内側において、予め定められた位置及び数のねじ穴に錘となるねじを螺合する場合と比較して、主軸103の径方向及び周方向において、より適切な位置でバランスピース16を固定することができ、主軸103の回転バランスをより高精度に調整して、振動を一層効果的に低減することができる。また、主軸用バランサ1は、主軸103の外周面までの距離R0(主軸103の半径)よりも大きな円板状本体11の外周面に目盛14が形成されているので、目盛14を刻設する間隔を細かく設定することができ、バランスピース16を周方向に沿って微調整しならが精度よく溝部15の周方向所定位置に配置できる。
【0026】
主軸用バランサ1は、主軸103の径方向外側にバランスピース16を配置させ、主軸103の径方向外側の位置で主軸103の回転バランスを調整できる。従って、主軸用バランサ1は、主軸103(主軸103の径方向内側)に錘を直接取り付けてバランス調整を行う場合に比較して、バランスピース16を配置する位置が回転軸から離れている分、重量が小さいバランスピース16であっても大きな遠心力を与えることができるので、重量を小さくして小型化したバランスピース16を用いて主軸103の回転バランスをより高精度に調整することができる。
【0027】
縦型マシニングセンタ等の工作機械100では、主軸103にツールホルダ104を装着した状態で、目盛14とバランスピース16のセンター線164を側面から確認できるため、バランスピース16の取付位置を容易に確認して、作業者による主軸103の回転バランスの調整作業の簡単化を図ることができる。特に、バランスピース16の下面を円板状本体11の下面から下方に突出させることにより、バランスピース16のセンター線164と目盛14の位置を容易に視認することができるため、回転バランスの調整作業を簡単化し、作業負担の軽減を図ることができる。
【0028】
主軸用バランサ1は、縦型マシニングセンタである工作機械100の鉛直下方に向く円板状本体11の下面に溝部15を形成することにより、工作機械100によって被加工物(ワーク)の加工後に生じる切削くず等が溝部15に滞留することを防止できる。従って、主軸用バランサ1は、溝部15に切削くずが滞留して、主軸103の回転バランスが崩れることを防止して、主軸103の回転バランスを維持することができる。また、主軸103に、加工用ツールを取り付けたツールホルダ104を装着した状態で回転バランスの調整を行うようにすれば、主軸103、ツールホルダ104、及び加工用ツールを含む回転体全体の回転バランスを調整することができるため、工作機械100に発生する振動をより効果的に低減することができる。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前述した第1実施形態では、主軸用バランサ1は、ツールホルダ104に装着され、主軸103の回転バランスを調整していた。これに対して、本実施形態では
図5及び
図6に示すように、主軸用バランサ2は、縦型マシニングセンタである工作機械100の主軸103に直接設けられている点が相違する。
図5は主軸用バランサ2を取り付けた工作機械100の斜視図であり、
図6は、主軸用バランサ2を取り付けた工作機械100の断面図である。なお、第2実施形態においても、主軸頭101内に設けられたベアリング押さえ(図示せず)が主軸103とともに回転する形態の場合、主軸103とともに回転するベアリング押さえを含めて主軸103と称する。工作機械100の主軸103の回転軸方向に沿った端面には、ツールホルダ104が台座105を介して接続される。台座105は、ツールホルダ104が主軸103とともに回転するように、回り止めとして機能する。
【0030】
主軸用バランサ2は、第1実施形態の主軸用バランサ1と同様に、円板状本体11、凹部13、目盛14、及び溝部15を備え、主軸103の径方向外側に配置される溝部15内には複数のバランスピース16が周方向の所定位置に取り付け固定される。円板状本体11の回転中心に形成される挿入孔21の直径は、主軸103の直径と略同じ径となっている。また、主軸用バランサ2の3か所の凹部13に応じた主軸103の外周面は、主軸103を回転軸方向から見たときに、主軸103の円周上の2点を結ぶ弦となるように直線的に切欠部103Aが形成される。凹部13の底部及び切欠部103Aの底部の間には、固定ピース17が挿入され、第1実施形態と同様に挿入された固定ピース17にイモネジ174を螺合することにより、主軸用バランサ2は、主軸103に固定される。
【0031】
この場合、例えば、主軸用バランサ2を設けた主軸103に台座105を介してツールホルダ104を取り付けた後に、主軸103を回転させて、動バランサ測定器により、工作機械100に発生する振動と主軸103の回転数を測定する。工作機械100に発生した振動が測定されたら、主軸103の回転を停止し、主軸用バランサ2の目盛14及びバランスピース16のセンター線164を側面から視認して、溝部15内のバランスピース16を周方向にスライドさせて周方向の取付位置を調整する。これを繰り返し、測定される振動が最も少なくなった位置でバランスピース16を固定し、主軸103の回転バランス調整を終了する。
【0032】
なお、ここでは、ツールホルダ104を主軸103に取り付けた後に、ツールホルダ104及び主軸用バランサ2を設けた主軸103について、動バランサ測定器を用いて回転バランスの調整を行うようにした場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、ツールホルダ104を主軸103に取り付ける前に、主軸用バランサ2を設けた主軸103について、動バランサ測定器を用いて回転バランスの調整を行い、その後、ツールホルダ104を主軸103に取り付けるようにしてもよい。
【0033】
本実施形態によれば、第1実施形態で述べた基本的な作用及び効果に加え、以下のような効果がある。主軸103の外周面に切欠部103Aが形成されることにより、固定ピース17によって主軸用バランサ2を主軸103に固定した際に、回り止めとして機能させることができる。また、切欠部103Aが形成されることにより、固定ピース17のイモネジ174が万が一緩んでも、固定ピース17が切欠部103Aに引っ掛かり、主軸用バランサ2が直ちに下方に脱落することを防止できる。
【0034】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。前述の第1実施形態及び第2実施形態では、縦型のマシニングセンタである工作機械100に主軸用バランサ1、2を取り付け、主軸103の回転バランスを調整していた。これに対して、本実施形態では、
図7及び
図8に示されるように、横型又は縦型の旋盤である工作機械200に主軸用バランサ3を取り付けている点が相違する。
【0035】
図7及び
図8には、工作機械200の要部が示され、
図7は工作機械200の斜視図であり、
図8は工作機械200の断面図である。工作機械200は、主軸台201、ベアリング202、主軸203、及びチャック204を備える。主軸台201は、工作機械200の端部に固定され、内部にモータ等の回転駆動源が収容される。主軸203は、主軸台201の内部にベアリング202を介して回転可能に支承され、主軸台201内に設けられた回転駆動源によって回転する。なお、第3実施形態においても、主軸台201内に設けられたベアリング押さえ(図示せず)が主軸203とともに回転する形態の場合、主軸203とともに回転するベアリング押さえを含めて主軸203と称する。
【0036】
主軸203の回転軸方向先端には、チャック204が設けられている。チャック204は、被加工物となるワークを把持し、主軸203の回転とともにワークを回転させる。図示を略したが、主軸203の回転軸方向には、心押し台及び刃物台が対向して配置される。心押し台は、チャック204の反対側からワークの回転軸の先端を押さえ、ワークの心出しを行う。刃物台は、加工ツールとなるバイトが取り付けられる台であり、ワークの回転軸に直交する径方向にバイトを接近、当接させることでワークの切削加工を行う。
【0037】
主軸用バランサ3は、チャック204のワーク把持面とは反対の背面に取り付けられる。具体的には、チャック204の背面に、回転軸回りに複数の雌ねじ穴204Aを形成し、主軸用バランサ3の主軸203の挿入孔31の回りに複数の孔32を形成する。それぞれの孔32に固定ねじ33を挿入し、固定ねじ33を雌ねじ穴204Aに螺合させることにより、主軸用バランサ3は、チャック204に固定される。
【0038】
このような本実施形態によっても、主軸用バランサ3は、回転駆動する主軸203の径方向外側において、バランスピース16を円環状の溝部15に沿って周方向にスライド自在に移動させ、円環状の溝部15内の任意の位置に固定することができるので、前述した第1実施形態の基本的な作用及び効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。前述の第1実施形態及び第2実施形態では、縦型のマシニングセンタである工作機械100に主軸用バランサ1、2を取り付け、主軸103の回転バランスを調整していた。これに対して、本実施形態では、
図9の鉛直方向断面図に示されるように、研削盤である工作機械300に主軸用バランサ4を取り付けている点が相違する。
【0040】
工作機械300は、被加工物となるワークの平面研削を行う平面研削盤であり、機械本体301、ベアリング302、主軸303、及び砥石304を備える。機械本体301は、モータ等の回転駆動源を備え、内部に主軸303を収容する。主軸303は、機械本体301の内部にベアリング302を介して回転可能に支承され、機械本体301内に設けられた回転駆動源によって回転する。砥石304は、固定側フランジ305及びナット306に挟持され、ナット306を固定ねじ307により固定側フランジ305に螺合することにより、フランジ付き砥石となる。フランジ付き砥石は、固定側フランジ305が主軸303に挿入され、締付ねじ308で締めこむことにより、主軸303に固定される。
【0041】
一対のフランジである固定側フランジ305及びナット306のうち、ナット306には、外周部にフランジ用バランスピース306bが収容可能な円環状の溝部306aが形成されており、当該溝部306aに沿って周方向に複数のフランジ用バランスピース306bがスライド可能に配置される。これにより、フランジ付き砥石は、従来と同様に、動バランサ測定器を用いて複数のフランジ用バランスピース306bの周方向での位置を調整することで、フランジ付き砥石自体の回転バランスを調整可能に構成されている。
【0042】
主軸用バランサ4は、砥石304の基端側に隙間を設けて主軸303に取り付けられる。本実施形態では、主軸303とともに回転して、ベアリング302を押さえるベアリング押さえ41が機械本体301内に設けられており、主軸用バランサ4の円板状本体11が、当該ベアリング押さえ41に形成された雌ねじ穴42に、固定ねじ43を螺合させることで固定される。また、図示を略したが、主軸用バランサ4の円板状本体11の外周端面には、円周に沿って目盛が刻設されている。なお、本実施形態では主軸用バランサ4とベアリング押え41を別体に構成していたが、円板状本体11にベアリング押え41が一体化した構成としてもよい。
【0043】
第4実施形態では、複数のフランジ用バランスピース306bが設けられた一対のフランジ(固定側フランジ305及びナット306)とは別に、複数のバランスピース16を有する主軸用バランサ4を主軸303に設け、当該主軸用バランサ4に有する複数のバランスピース16の位置を、主軸303の径方向外側で調整することにより、主軸303の回転バランスを高精度に調整し、振動を効果的に低減することができる。なお、主軸用バランサ4の溝部15は、フランジ用バランスピース306bが配置されるナット306の溝部306aよりも径方向外側に配置されることが望ましい。主軸用バランサ4は、ナット306の溝部306aよりも径方向外側であって、かつ、砥石304の外周よりも径方向内側の位置に溝部15が配置されることで、主軸303の回転バランスを高精度に調整し、振動を効果的に低減することができる。
【0044】
この場合、例えば、主軸用バランサ4を主軸303に取り付けた後に、主軸303を回転させて、動バランサ測定器により、工作機械300に発生する振動と主軸303の回転数を測定する。工作機械300に発生した振動が測定されたら、主軸303の回転を停止し、主軸用バランサ4の目盛14及びバランスピース16のセンター線164(図示せず)を視認して、溝部15内のバランスピース16を周方向にスライドさせて周方向の取付位置を調整する。これを繰り返し、測定される振動が最も少なくなった位置でバランスピース16を固定し、主軸303の回転バランス調整を終了する。
【0045】
その後、主軸303にフランジ付き砥石を取り付け、動バランサ測定器により、工作機械300に発生する振動と主軸303の回転数を測定する。工作機械300に発生した振動が測定されたら、主軸303の回転を停止し、フランジ付き砥石のナット306の溝部306a内においてフランジ用バランスピース306bを周方向にスライドさせて周方向の取付位置を調整する。これを繰り返し、測定される振動が最も少なくなった位置でフランジ用バランスピース306bを固定し、フランジ付き砥石の回転バランス調整を終了する。このような本実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の基本的な作用及び効果を奏することができる。
【0046】
本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形も含み得る。前述した第4実施形態では、主軸用バランサ4は、工作機械300の主軸303に固定されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図10に示すように、主軸用バランサ5をフランジ付き砥石の固定側フランジ305に、固定ねじ51によって固定する構造であってもよい。また、第4実施形態では、主軸用バランサ4を固定ねじ43を用いて主軸303に固定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、第1実施形態及び第2実施形態で説明した固定ピース17を用いて主軸303に主軸用バランサ4を固定してもよい。
【0047】
また、第4実施形態の他の実施形態に係る主軸用バランサ4としては、主軸303に設けた円板状本体11において、
図10に示すように、溝部15が形成された形成外周縁部を、フランジ付き砥石の固定側フランジ305の外周面を囲うように突出した形状にしてもよく。この場合、主軸用バランサの円板状本体11及び固定側フランジ305の間と、溝部15の形成外周縁部及び固定側フランジ305の間とには、それぞれ隙間が形成される。
【0048】
前述した第3実施形態では、主軸用バランサ3をチャック204のワーク把持面とは反対の背面に固定ねじ33によって固定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図11に示すように、他の主軸用バランサ6としては、チャック204を円板状本体11の挿入孔に挿入させ、当該円板状本体11をチャック204の外周面に固定ねじ61によって固定し、円板状本体11の溝部15を主軸203の径方向外側に配置するようにしてもよい。
【0049】
前述した各実施形態では、主軸用バランサ1、2、3、4は、ツールホルダ104や、主軸103、203、303とは別体に構成されていたが、本発明はこれに限られず、主軸用バランサをツールホルダや主軸と一体的に構成してもよい。また、前述した実施形態では、主軸用バランサ1、2、3、4を、縦型のマシニングセンタ、横型旋盤、及び研削盤等の工作機械100、200、300に適用していたが、本発明はこれに限られない。例えば、横型のマシニングセンタ、縦型旋盤、円筒研削盤等の工作機械に、本発明の主軸用バランサを適用してもよい。
【0050】
また、第2実施形態の
図6や、第3実施形態の
図8、その他、
図11では、その他の実施形態として、例えば、主軸頭101、主軸台201に設けられ、主軸103、203とともに回転する、当該主軸103、203のベアリング押さえ(図示せず)に、主軸用バランサ2、3、6の円板状本体11を設けるようにしてもよい。また、溝部15の断面形状や、当該溝部15に嵌め込まれるバランスピース16の形状については、種々の形状としてもよい。また、各種構成を連結する固定部材としては、ねじを適用しているが、その他の締結部材等、種々の固定部材を適用してもよく、さらに、別体で形成されている各種構成を一体成形とした構成としてもよく、一体成形で形成されている各種構成を別体とした構成としてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、例えば、主軸用バランサ1、2、3を設けるツールホルダや、旋盤のチャックに、バランス調整用や取付用のねじ穴を加工して、当該主軸用バランサ1、2、3の溝部15よりも径方向内側に位置する当該ねじ穴に、ねじを設けた構成としてもよい。その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1、2、3、4、5、6 主軸用バランサ
11 円板状本体
14 目盛
15 溝部(バランスピース取付部)
16 バランスピース
100、200、300 工作機械
103、203、303 主軸