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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088363
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】負極板及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20240625BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240625BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203493
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 和宏
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA03
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】高温保存耐久性に優れ、入出力特性にも優れた二次電池を提供することができる負極板を提供する。
【解決手段】負極板は、負極集電体と負極活物質層とを有する。負極活物質層は、負極活物質及び結着材を含む負極合剤層から形成される。負極活物質は、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆した非晶質コート黒鉛を含む。非晶質コート黒鉛の吸油量は40cc/100g以上53cc/100g以下である。負極集電体上に形成した負極合剤層を圧力190MPaで圧縮したときの負極合剤層の密度は、1.55g/cc以上1.76g/cc以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と負極活物質層とを有する負極板であって、
前記負極活物質層は、負極活物質及び結着材を含む負極合剤層から形成され、
前記負極活物質は、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆した非晶質コート黒鉛を含み、
前記非晶質コート黒鉛の吸油量は、40cc/100g以上53cc/100g以下であり、
前記負極集電体上に形成した前記負極合剤層を圧力190MPaで圧縮したときの前記負極合剤層の密度は、1.55g/cc以上1.76g/cc以下である、負極板。
【請求項2】
前記結着材は、セルロース系結着材及びスチレンブタジエンゴムのうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の負極板。
【請求項3】
前記結着材は、セルロース系結着材を含む、請求項2に記載の負極板。
【請求項4】
前記負極活物質層の単位質量あたりの比表面積は、1.77m/g以上2.05m/g以下である、請求項1に記載の負極板。
【請求項5】
前記黒鉛粒子は、人造黒鉛である、請求項1に記載の負極板。
【請求項6】
前記負極板は、リチウムイオン二次電池用負極板である、請求項1に記載の負極板。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の負極板を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極板、及びそれを含むリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池では、負極板の反応面積を増加させると、入出力特性(ハイレート特性)が改善する一方でサイクル耐久性が低下し、負極板の反応面積を減少させると、サイクル耐久性が改善する一方で入出力特性が低下する傾向にある。このようにリチウムイオン二次電池の入出力特性とサイクル耐久性とはトレードオフの関係にあるため、これらを両立することは難しい。入出力特性及びサイクル耐久性に優れたリチウムイオン二次電池を得るために、黒鉛粒子を非晶質炭素等の結晶性の低い炭素材料で被覆した負極活物質を用いることがある(特許文献1及び2等)。
【0003】
特許文献1には、負極活物質の材料物性を調整することにより、リチウムイオン二次電池の電池特性が向上することが開示されている。特許文献2には、負極活物質の材料物性とともに、非水電解液に含まれる特定の支持塩の含有量を調整することにより、リチウムイオン二次電池の電池特性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/183530号
【特許文献2】特開2019-139953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、負極活物質として非晶質炭素等の炭素材料で被覆した黒鉛粒子を用いることにより、リチウムイオン二次電池の入出力特性及びサイクル耐久性を向上することができる。しかし、負極板は通常、負極活物質と結着材等とを混合して得られた負極合剤スラリーを、集電体上に塗布して乾燥し、圧縮することによって作製される。このような加工工程を経ると負極活物質の材料物性が変化することがある。そのため、負極板の製品設計にあたり、負極活物質の材料物性のみならず、当該負極活物質を用いて得られる負極板の物性も考慮する必要がある。
【0006】
本開示は、高温で保存したときにも放電容量を良好に維持できる高温保存耐久性に優れ、入出力特性にも優れた二次電池を提供することができる負極板、及び、リチウムイオン二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の負極板及びリチウムイオン二次電池を提供する。
〔1〕 負極集電体と負極活物質層とを有する負極板であって、
前記負極活物質層は、負極活物質及び結着材を含む負極合剤層から形成され、
前記負極活物質は、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆した非晶質コート黒鉛を含み、
前記非晶質コート黒鉛の吸油量は、41cc/100g以上53cc/100g以下であり、
前記負極集電体上に形成した前記負極合剤層を圧力190MPaで圧縮したときの前記負極合剤層の密度は、1.55g/cc以上1.76g/cc以下である、負極板。
〔2〕前記結着材は、セルロース系結着材及びスチレンブタジエンゴムのうちの少なくとも一方を含む、〔1〕に記載の負極板。
〔3〕 前記結着材は、セルロース系結着材を含む、〔2〕に記載の負極板。
〔4〕 前記負極活物質層の単位質量あたりの比表面積は、1.77m/g以上2.05m/g以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の負極板。
〔5〕 前記黒鉛粒子は、人造黒鉛である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の負極板。
〔6〕 前記負極板は、リチウムイオン二次電池用負極板である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の負極板。
〔7〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の負極板を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示の負極板によれば、優れた高温保存耐久性を有しながらも入出力特性がさらに改善されたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(負極板)
本実施形態の負極板は、負極集電体と負極活物質層とを有する。負極板は通常、負極集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する。負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極板は、二次電池用の負極板であることができ、特にリチウムイオン二次電池用の負極板であることができる。
【0010】
負極活物質層は、負極活物質及び結着材を含む負極合剤層から形成される。そのため、負極活物質層も負極活物質及び結着材を含む。負極合剤層は、負極板が有する負極活物質層を形成するために負極集電体上に形成される層である。後述するように負極集電体上に負極合剤スラリーを塗布して乾燥し、圧縮して負極活物質層を形成する場合、負極合剤層は、塗布した負極合剤スラリーを乾燥した後であって圧縮する前の層である。負極活物質層は上記のように通常、負極合剤層を圧縮することにより形成される。負極活物質層及び負極合剤層はいずれも、少なくとも負極活物質及び結着材を含んでいればよく、繊維状炭素等の導電助剤を含んでいてもよい。
【0011】
負極活物質は、黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆した非晶質コート黒鉛を含む。非晶質コート黒鉛を含む負極活物質層を備えた負極板を用いることにより、負極活物質がリチウムイオンの吸蔵及び放出を良好に行うことができ、電解質の分解物等が負極活物質表面に堆積してリチウムイオンの吸蔵及び放出を阻害することを抑制することができる。これにより、入出力特性に優れ、高温で保存したときにも放電容量を良好に維持できる高温保存耐久性にも優れる二次電池を得ることができる。
【0012】
非晶質コート黒鉛に含まれる黒鉛粒子は、人造黒鉛であってもよく、天然黒鉛であってもよく、これらの両方であってもよいが、人造黒鉛であることが好ましい。人造黒鉛は、天然黒鉛に比べると硬度が大きく変形しにくいため、負極合剤層を圧縮したときに非晶質コート黒鉛の非晶質炭素が割れることを抑制できる。これにより、後述する負極合剤層の圧縮密度を、後述する範囲に調整しやすくなる。
【0013】
非晶質コート黒鉛に含まれる非晶質炭素は、アモルファス構造を有する炭素材料をいい、例えばカーボンブラックや活性炭等が挙げられる。非晶質炭素は、黒鉛粒子の表面の一部を被覆してもよく、黒鉛粒子の表面全体を被覆してもよい。黒鉛粒子の表面を被覆する非晶質炭素の厚みは、例えば1nm以上1μm以下であってもよい。非晶質コート黒鉛は、例えば、黒鉛粒子とピッチとを混合し、ピッチを焼成して炭素化することによって得ることができる。
【0014】
非晶質コート黒鉛の吸油量は、40cc/100g以上53cc/100g以下であり、好ましくは41cc/100g以上51cc/100g以下であり、より好ましくは43cc/100g以上50cc/100g以下であり、さらに好ましくは45cc/100g以上50cc/100g以下である。非晶質コート黒鉛の吸油量が上記した範囲内であることにより、非晶質コート黒鉛の表面に過剰に結着材が吸着し、リチウムイオンの吸蔵及び放出を阻害することを抑制できるため、二次電池の入出力特性をさらに改善することができる。
【0015】
非晶質コート黒鉛の吸油量は、次の手順で算出することができる。まず、非晶質コート黒鉛にアマニ油を2cc/minの添加速度で添加したときの粘度特性の変化をトルク検出器により検出し、その出力をトルクに換算する。続いて、得られたトルクのうちの最大トルクの70%に相当するトルクが発生したときのアマニ油の添加量を、非晶質コート黒鉛100g当たりの添加量に換算し、これを非晶質コート黒鉛の吸油量として算出する。トルク検出器としては、例えば株式会社あさひ総研製「S-500」を用いることができる。
【0016】
非晶質コート黒鉛の吸油量は、例えば、非晶質コート黒鉛の粒径、タップ密度、比表面積(BET)、及び形状からなる群より選ばれる1つ以上を調整することにより、調整することができる。
【0017】
負極活物質層に含まれる負極活物質のうち、上記した吸油量を有する非晶質コート黒鉛の含有量は、負極活物質の総量に対して、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。負極活物質層が2種以上の負極活物質を含む場合、負極活物質の総量は2種以上の負極活物質の合計量をいう。
【0018】
負極集電体上に形成した負極合剤層を圧力190MPaで圧縮したときの負極合剤層の密度(以下、「負極合剤層の圧縮密度」ともいう。)は、1.55g/cc以上1.76g/cc以下であり、好ましくは1.56g/cc以上1.75g/cc以下であり、より好ましくは1.57g/cc以上1.73g/cc以下であり、さらに好ましくは1.58g/cc以上1.70g/cc以下である。負極合剤層の圧縮密度が1.55g/cc以上であることにより、負極板を用いた二次電池を高容量化しやすい。負極合剤層の圧縮密度が1.76g/cc以下であることにより、負極合剤層を圧縮成形して負極活物質層を形成する際に、非晶質コート黒鉛の非晶質炭素が割れにくくなると考えられる。これにより、負極活物質層の単位質量当たりの比表面積(BET)が増大することを抑制することができ、高温保存耐久性に優れた二次電池が得られやすくなる。このように、本実施形態の負極板では、負極活物質の材料物性のみならず負極合剤層を圧縮したときの物性も考慮して負極板を設計しているため、入出力特性に優れ、高温保存耐久性にも優れる二次電池が得られやすい。
【0019】
負極合剤層の圧縮密度は、負極集電体上に負極合剤層を形成し、負極集電体と負極合剤層とを積層した積層体を圧力190MPaで圧縮し、負極合剤層の目付量(単位面積当たりの固形分量)及び圧縮後の負極合剤層の厚みに基づいて算出する。具体的には、まず、負極集電体と負極合剤層との積層体を直径20mmの円形に打抜き、質量を測定して負極合剤層の目付量[mg/10cm]を算出する。続いて、打抜いた積層体に油圧プレス機を用いて60kNの荷重を付与して30秒間保持することにより、積層体を圧力190MPaで圧縮する。圧縮後の積層体の負極合剤層の厚み[μm]を算出し、負極合剤層の圧縮密度[g/cc](=負極合剤層の目付量[mg/10cm]/負極合剤層の厚み[μm])を算出する。
【0020】
負極合剤層の圧縮密度は、例えば、非晶質コート黒鉛を構成する黒鉛粒子の種類、非晶質炭素の種類、非晶質炭素の熱処理温度、負極合剤層中の負極活物質の含有量、結着剤の種類等により、調整することができる。上記したように、非晶質コート黒鉛の黒鉛粒子として人造黒鉛を用いることにより、負極合剤層を圧縮して負極活物質層を形成するときに非晶質炭素を割れることを抑制できるため、負極合剤層の圧縮密度を上記の範囲に調整しやすくなる。
【0021】
負極板における負極活物質層の単位質量当たりの比表面積(BET)は、好ましくは1.77m/g以上2.05m/g以下であり、より好ましくは1.79m/g以上2.00m/g以下であり、さらに好ましくは1.80m/g以上1.99m/g以下である。負極活物質層の単位質量当たりの比表面積は、負極板を1mm×1mmの大きさに切り出してガラス容器に入れ、全自動比表面積計により窒素(N)ガスの吸脱着量から比表面積[m]を求め、単位質量あたりの比表面積[m/g]を算出すればよい。全自動比表面積計としては、例えばMOUNTECH社製「Macsorb HM model-1208」を用いることができる。
【0022】
一般に、負極活物質層の単位質量当たりの比表面積が大きくなると、二次電池の入力抵抗は小さくなり入出力特性が改善するが、二次電池の高温保存耐久性が低下する傾向にある。逆に、負極活物質層の単位質量当たりの比表面積が小さくなると、二次電池の高温保存耐久性が改善するが、二次電池の入出力特性が低下する傾向にある。そのため、負極活物質層の単位質量当たりの比表面積の増加を抑制しながら、二次電池の入力抵抗を小さくすることができれば、優れた高温保存耐久性を有しながらも、入出力特性がさらに改善された二次電池を得ることができると考えられる。本実施形態の負極板は、負極合剤層の圧縮密度及び非晶質コート黒鉛の吸油量を上記した特定の範囲に調整していため、これらの物性が調整されていないものの単位質量当たりの比表面積が同程度の負極活物質層を用いた二次電池に比較すると、高温保存耐久性を維持しながらも、入出力特性がさらに改善された二次電池を得ることができる。
【0023】
負極活物質は、少なくとも、上記した吸油量を有する非晶質コート黒鉛を含んでいればよく、上記した吸油量の範囲外の非晶質コート黒鉛、及び/又は、非晶質コート黒鉛以外の他の負極活物質を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、人工黒鉛又は天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボン等といった非晶質コート黒鉛以外の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。ケイ素元素を含むSi系活物質としては、ケイ素単体、SiOx、LixSiyOz等が挙げられる。
【0024】
結着材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系結着材;スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。結着材は、セルロース系結着材及びSBRのうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含んでいてもよい。セルロース系結着材は、CMCであることが好ましい。CMC及びPAAは、酸の形態であってもよく、塩の形態であってもよい。
【0025】
負極活物質層に含まれる結着材の含有量は、負極活物質層の総量に対して、0.5質量%以上10質量%以下であってもよく、1.0質量%以上8.0質量%以下であってもよく、1.5質量%以上5.0質量%以下であってもよい。負極活物質層が2種以上の結着材を含む場合、結着材の含有量は、2種以上の結着材の合計含有量をいう。
【0026】
導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0027】
(負極板の製造方法)
負極板は例えば、負極集電体上に、負極合剤スラリーを塗布して乾燥することにより負極合剤層を形成し、負極集電体上の負極合剤層を圧縮して負極活物質層を形成することにより、得ることができる。負極合剤層の圧縮は、例えば、負極集電体と負極合剤層とを積層した積層体をロールプレス機でプレスすることによって行えばよい。
【0028】
負極合剤スラリーは、負極活物質、結着材、及び分散媒を含み、これらを混合することによって得ることができる。負極合剤スラリーは、上記した吸油量の範囲内にある非晶質コート黒鉛を含む。負極合剤スラリーに含まれる分散媒としては、イオン交換水等の水が挙げられる。負極合剤スラリーは、上記した吸油量の範囲内にある非晶質コート黒鉛以外の負極活物質を含んでいてもよく、導電助剤を含んでいてもよい。負極合剤スラリーが含んでいてもよい負極活物質及び結着材としては、上記で説明したものが挙げられる。
【0029】
負極合剤スラリーは、例えば次の工程で調製することができる。まず、非晶質コート黒鉛と、セルロース系結着材等の結着材の一部と、必要に応じて導電助剤とをドライブレンドした後、分散媒を加えて高い固形分量で混練する固練りを行い、非晶質コート黒鉛の表面に結着材を付着させる。続いて、分散媒をさらに加えて、上記した固練りでの固形分量よりも低い固形分量で混練し、結着材が表面に付着した非晶質コート黒鉛が分散媒に分散させる。その後、必要に応じて、残りの結着材を添加して混練することにより、負極合剤スラリーを得る。
【0030】
(リチウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池は、上記で説明した負極板を含むことができる。リチウムイオン二次電池は通常、上記した負極板、正極板、及びセパレータを有する電極体と、電解液とを有する。リチウムイオン二次電池は、電極体と電解質とを収容する外装体をさらに含むことができる。
【0031】
電極体は、負極板の負極活物質層と正極板の正極活物質層とがセパレータを解して積層された構造を有する。電極体は、巻回型であってもよく、積層型であってもよい。電極体は偏平状の電極体であってもよい。
【0032】
正極板は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とを有する。正極集電体は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて構成された金属箔である。正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質としては公知の材料を用いることができ、層状系又はスピネル系等のリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNiCoMnO、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54、LiCrMnO4、LiFePO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が挙げられる。
【0033】
正極活物質層は、正極活物質以外の添加剤として、結着材及び導電助剤等を含むことができる。結着材としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。
【0034】
正極活物質層は、正極活物質及び添加剤を含む正極合剤を分散媒と混合して調製した正極合剤スラリーを、正極集電体に塗布して乾燥し、圧縮することにより形成することができる。分散媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0035】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。多孔質シートは、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。
【0036】
電解質としては、非水電解液が挙げられ、例えば、有機溶媒等の非水溶媒中に支持塩を含有させたものが挙げられる。電解質は、さらに負極活物質層及び/又は正極活物質層の表面に良好な皮膜を形成したり、過充電時の安定性を確保したりするために、ビニレンカーボネート(VC)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、及び、CHBの変性体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
非水溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、スルホラン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0038】
支持塩としては例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]からなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0039】
外装体は、例えばアルミニウム層を有するラミネートシート等を用いて、電極体の外表面を覆う大きさ及び形状に形成すればよい。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
〔比較例1~9、実施例1~4〕
(負極合剤スラリーの調製)
微少量混練機(PRIMIX社製「ハイビスミックス2P-1型」)を用いて、水を分散媒とした負極合剤スラリーを調製した。負極合剤スラリーは、表1に示す負極活物質/カルボキシメチルセルロース(CMC)/スチレンブタジエンゴム(SBR)=98.3/0.7/1.0(質量比)の配合比となるように次の手順で調製した。まず、表1に示す負極活物質と、結着材としてのCMCとを、回転数25rpmで10分間ドライブレンドした後、水を加えて回転数60rpmで7.5分間混練し(固練り)、混練体を得た。この混練体にさらに水を加えて回転数60rpmで5分間混練することにより、CMCが付着した負極活物質が水に分散した分散体を得た。この分散体に、SBRを添加し、回転数60rpmで5分間混練して負極合剤スラリーを得た。
【0041】
(負極集電体と負極合剤層との積層体の作製)
負極集電体として、厚み10μmの銅(Cu)箔を準備した。この銅箔の両面に、負極合剤スラリーを塗布し乾燥させて負極合剤層を形成し、負極集電体と負極合剤層とを積層した積層体を得た。負極合剤スラリーの塗布量は、負極活物質層の容量を正極活物質層の容量で除した値(負極活物質層の容量/正極活物質層の容量)が、すべての実施例及び比較例で同じとなるように調整した。負極合剤層の目付量(銅箔上に塗布した負極合剤スラリーの単位面積当たりの固形分量)は、255mg/10cm以上265mg/10cm以下の範囲内で調整した。すべての実施例及び比較例において、正極板の正極活物質層の容量は同じとなるように調整した。
【0042】
(負極板の作製)
上記で得た積層体を小型のロールプレス機を用いて圧縮し、密度が1.56g/ccである負極活物質層を形成することにより、負極板を得た。ロールプレス機による圧縮では、上記密度の負極活物質層が得られる厚みを下記式に基づいて算出し、算出した厚みの負極活物質層が得られるように、上記ロールプレス機の圧縮荷重及びロール間の隙間の大きさ(ギャップ(gap))を調整した。
負極活物質層の密度[g/cc]
=負極合剤層の目付量[mg/10cm]/負極活物質層の厚み[μm]
【0043】
(正極合剤スラリーの調製)
微少量混練機(PRIMIX社製「ハイビスミックス2P-1型」)を用いて、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とした正極合剤スラリーを調製した。正極合剤スラリーは、正極活物質(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM))/導電助剤(カーボンブラック)/結合材(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))=97.5/1.5/1.0(質量比)の配合比となるように調製した。
【0044】
(正極板の作製)
正極集電体として、厚み13μmのアルミニウム(Al)箔を準備した。このアルミニウム箔の両面に、正極合剤スラリーを塗布し乾燥させて正極合剤層を形成し、正極集電体と正極合剤層とを積層した積層体を得た。この積層体を小型のロールプレス機を用いて圧縮して正極活物質層を形成し、正極板を得た。
【0045】
(試験セル(ラミネートセル)の作製)
上記で作製した負極板及び正極板のそれぞれにリードを取り付けた。セパレータを介して負極活物質層と正極活物質層とが対向するように、リードを取り付けた電極板を積層して、電極体を得た。アルミニウムラミネートシートで構成される外装体に電極体を収容して電解質を注入した後、外装体の開口部を封止して、ラミネートセルとしての試験セルを得た。電解質は、支持塩として1.15MのLiPF、非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)=30/30/40(体積比)の混合溶媒、及び、添加剤として、混合溶媒の総質量に対して1.0質量%のビニレンカーボネート(VC)を混合して調製した。
【0046】
[負極活物質の吸油量の測定]
2枚羽根(高速側の回転数:125rpm、低速側の回転数:62.5rpm)によって撹拌されている負極活物質20gに、添加速度2cc/minでアマニ油を添加した。このときの粘度特性の変化を、トルク検出器(株式会社あさひ総研製「S-500」)で検出し、その出力をマイクロコンピュータでトルクに換算した。得られたトルクのうちの最大トルクの70%に相当するトルクが発生したときのアマニ油の添加量を、負極活物質100g当たりの添加量に換算し、これを負極活物質の吸油量[cc/100g]として算出した。結果を表1に示す。
【0047】
[負極合剤層の圧縮密度の測定]
負極集電体上に形成した負極合剤層を圧力190MPaで圧縮したときの負極合剤層の密度(負極合剤層の圧縮密度)は、上記で作製した負極集電体と負極合剤層との積層体を用いて行った。具体的には、この積層体を直径20mmの円形に打抜いた後、質量を測定し、負極合剤層の目付量を算出した。打抜いた積層体に油圧プレス機を用いて60kNの荷重を付与して30秒間保持することにより、積層体を圧力190Mpaで圧縮した。その後、圧縮後の積層体の負極合剤層の厚みを測定した。負極合剤層の目付量[mg/10cm]及び負極合剤層の厚み[μm]から、下記式に基づいて負極合剤層の圧縮密度[g/cc]を算出した。結果を表1に示す。
負極合剤層の圧縮密度[g/cc]
=(負極合剤層の目付量[mg/10cm])/(負極合剤層の厚み[μm])
【0048】
[負極活物質層の単位質量当たりの比表面積(BET)の測定]
負極板を1mm×1mmの大きさに切り出して測定用のガラス容器に入れた。全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製「Macsorb HM model-1208」)を用いて、窒素(N)ガスの吸脱着量から比表面積[m]を求めた。この比表面積[m]を負極活物質層の質量[g]で除して(比表面積[m]/負極活物質層の質量[g])、負極活物質層の単位質量当たりの比表面積[m/g]を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
[試験セルの入力抵抗の評価]
試験セルをSOC(state of charge)を50%に調整した後、試験セルを定電流で充電し、充電開始から5秒経過した時点での電圧を記録した。これを、定電流での充電を複数の電流値で実施することにより、I(電流)に対してV(電圧)をプロットし、その傾きから、充電開始から5秒経過時点の入力抵抗(V/I)[mΩ]を算出した。入力抵抗の値が小さいほど、入出力特性に優れていることを示す。結果を表1に示す。
【0050】
[試験セルの高温保存耐久性の評価]
試験セルを、SOCが順に0%、100%、0%となるように充放電し、初期の放電容量を測定した後、試験セルのSOCを95%に調整した。続いて、試験セルを温度60℃の恒温槽に入れ、30日間放置する高温保存試験を行った。高温保存試験後に恒温槽から試験セルを取り出してSOCを0%にした後、再びSOCが順に0%、100%、0%となるように充放電し、高温保存試験後の放電容量を測定した。下記式にしたがって高温保存時の放電容量維持率を算出した。高温保存時の放電容量維持率の値が大きいほど、高温保存耐久性に優れていることを示す。結果を表1の放電容量維持率の欄に示す。
高温保存時の放電容量維持率[%]
=(高温保存試験後の放電容量/初期の放電容量)×100
【0051】
【表1】