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特開2024-88372地絡事故判定装置、地絡事故判定システム及び地絡事故判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088372
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】地絡事故判定装置、地絡事故判定システム及び地絡事故判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20240625BHJP
   H02H 3/16 20060101ALI20240625BHJP
   G01R 19/14 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G01R31/52
H02H3/16 B
G01R19/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203507
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】三田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】神谷 敦
(72)【発明者】
【氏名】鳴川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 泰生
【テーマコード(参考)】
2G014
2G035
5G004
【Fターム(参考)】
2G014AA04
2G014AB33
2G035AA21
2G035AB08
2G035AC03
2G035AC04
2G035AC16
2G035AD26
2G035AD28
5G004AA02
5G004AB01
5G004BA01
5G004CA02
(57)【要約】
【課題】系統に残留成分がある場合に、高い精度で地絡事故を判定することが困難であった。
【解決手段】地絡事故判定装置10は、三相交流の高圧電力の配電系統を構成する配電線に配置されて地絡状態の検出に用いられる。地絡事故判定装置10は、零相電流及び零相電圧を検知する検知部14と、検知部14の検知結果を用いて、判定基準時の零相電流及び零相電圧の少なくとも一方のベクトル量と、当該ベクトル量に対応する、判定基準時よりも過去の所定期間における零相電流又は零相電圧の少なくとも一方のベクトル量の平均とを比較して地絡状態が発生したか否かを判定する判定部15と、判定部15の判定結果に基づいて出力情報を出力する出力部16とを備える。系統に残留成分がある場合、または計測誤差による見かけ上の零相成分がある状態でも、これらの残留成分をキャンセルできるため、高い精度で地絡事故を判定することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流の高圧電力の配電系統を構成する配電線に配置されて地絡状態の検出に用いられる地絡事故判定装置であって、
前記配電線の零相電流及び零相電圧を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果を用いて、判定基準時の零相電流及び零相電圧の少なくとも一方のベクトル量と、当該ベクトル量に対応する、前記判定基準時よりも過去の所定期間における零相電流又は零相電圧の少なくとも一方のベクトル量の平均とを比較した比較結果に基づいて、前記地絡状態が発生したか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて出力情報を出力する出力部とを備える、地絡事故判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記判定基準時の零相電流と零相電圧との位相差に基づいて、前記地絡状態が発生したと判定した場合における、前記配電線において電流が流れる向きをさらに判定する、請求項1に記載の地絡事故判定装置。
【請求項3】
前記過去の所定期間の終期と前記判定基準時との時間間隔は、所定の時間以上である、請求項1又は2に記載の地絡事故判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、第一判定基準時において前記比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合に、前記第一判定基準時よりも過去の所定期間における前記ベクトル量の平均を保持するとともに、前記第一判定基準時よりも後の第二判定基準時において、保持したベクトル量の平均と第二判定基準時の前記ベクトル量との比較結果が前記所定の判断条件を満たすか否かを判断する、請求項1又は2に記載の地絡事故判定装置。
【請求項5】
前記判定部は、
前記第一判定基準時において前記比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合において、その後前記比較結果が所定の解除条件を満たすと継続して判断する期間が所定の復帰期間に達するまで、前記ベクトル量の平均の保持を継続するように構成されており、
前記比較結果が所定の判断条件を満たすと継続して判断する期間が所定の検出期間に達した場合に前記地絡状態が発生したと判定する、請求項4に記載の地絡事故判定装置。
【請求項6】
三相交流の高圧電力の配電系統を構成する配電線の複数箇所にそれぞれ前記検知部が配置された、1又は2以上の、請求項1又は2に記載の地絡事故判定装置と、
1又は2以上の前記地絡事故判定装置から出力される前記出力情報を取得可能に構成された情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、前記出力情報に基づいて、前記配電系統における地絡状態の検出結果に関する結果情報を出力する処理部を有する、地絡事故判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配電系統において配置され、地絡事故の発生の検出に用いられうる地絡事故判定装置、地絡事故判定システム及び地絡事故判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電系統において、零相電圧と零相電流の実効値やこれらの位相差によって、地絡事故の発生を検出、地絡事故の方向を判定することが行われている。
【0003】
一方で、系統に零相電圧、零相電流の残留成分がある場合は、残留成分が事故判定の妨げとなり、地絡事故の判定を正確に行うことが困難となる場合がある。また、零相電圧、零相電流を計測する装置に誤差が含まれる場合、あるいは三相対地電圧、三相電流を計測してから零相電圧、零相電流を導出する際、それぞれの計測する装置に誤差がある場合は、計測誤差によって見かけ上の残留成分があるため、見かけ上の残留成分が事故判定の妨げとなり、地絡事故の判定を正確に行うことが困難となる可能性がある。
【0004】
このような問題に関して、下記特許文献1には、三相線路に取り付けられた電圧又は電流センサの出力を合成して得られる零相波形の残留分をキャンセルする方法が記載されている。この方法は、過去波形の任意の点数での平均値を算出して、最新の値との差分をとることにより、残留分のキャンセルを図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-275290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような従来の方法では、直流成分(オフセット成分)の残留成分がキャンセルされるが、交流成分の残留成分についてはそのような効果が得られない。また、従来の方法では、間欠地絡の発生に対応するためには、間欠地絡が発生する前の残留成分(オフセット成分)を記憶する必要があるため、多数の波形の瞬時値を記憶する必要がある。
【0007】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、系統に残留成分がある場合でも高い精度で地絡事故の発生を検出可能な地絡事故判定装置、地絡事故判定システム及び地絡事故判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本第一の発明の地絡事故判定装置は、三相交流の高圧電力の配電系統を構成する配電線に配置されて地絡状態の検出に用いられる地絡事故判定装置であって、配電線の零相電流及び零相電圧を検知する検知部と、検知部の検知結果を用いて、判定基準時の零相電流及び零相電圧の少なくとも一方のベクトル量と、当該ベクトル量に対応する、判定基準時よりも過去の所定期間における零相電流又は零相電圧の少なくとも一方のベクトル量の平均とを比較した比較結果に基づいて、地絡状態が発生したか否かを判定する判定部と、判定部の判定結果に基づいて出力情報を出力する出力部とを備える、地絡事故判定装置である。
【0009】
かかる構成により、高い精度で地絡事故の発生を検出することができる。
【0010】
また、本第二の発明の地絡事故判定装置は、第一の発明に対して、判定部は、判定基準時の零相電流と零相電圧との位相差に基づいて、地絡状態が発生したと判定した場合における、配電線において電流が流れる向きをさらに判定する、地絡事故判定装置である。
【0011】
かかる構成により、高い精度で地絡事故の発生箇所を特定するための情報を出力することができる。
【0012】
また、本第三の発明の地絡事故判定装置は、第一又は二の発明に対して、過去の所定期間の終期と判定基準時との時間間隔は、所定の時間以上である、地絡事故判定装置である。
【0013】
かかる構成により、間欠地絡が発生した場合であっても、過去の平均に影響しないため、地絡事故の誤判定を防止することができる。
【0014】
また、本第四の発明の地絡事故判定装置は、第一から三のいずれかの発明に対して、判定部は、第一判定基準時において比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合に、第一判定基準時よりも過去の所定期間におけるベクトル量の平均を保持するとともに、第一判定基準時よりも後の第二判定基準時において、保持したベクトル量の平均と第二判定基準時のベクトル量との比較結果が所定の判断条件を満たすか否かを判断する、地絡事故判定装置である。
【0015】
かかる構成により、地絡事故の発生後の零相電流や零相電圧の変動にかかわらず、確実に地絡事故の発生後の状況を確認することができる。
【0016】
また、本第五の発明の地絡事故判定装置は、第四の発明に対して、判定部は、第一判定基準時において比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合において、その後比較結果が所定の解除条件を満たすと継続して判断する期間が所定の復帰期間に達するまで、ベクトル量の平均の保持を継続するように構成されており、比較結果が所定の判断条件を満たすと継続して判断する期間が所定の検出期間に達した場合に地絡状態が発生したと判定する、地絡事故判定装置である。
【0017】
かかる構成により、より高い精度で地絡事故の発生を検出することができる。
【0018】
また、本第六の発明の地絡事故判定システムは、第一から五のいずれかの発明に対して、三相交流の高圧電力の配電系統を構成する配電線の複数箇所にそれぞれ検知部が配置された、1又は2以上の地絡事故判定装置と、1又は2以上の地絡事故判定装置から出力される出力情報を取得可能に構成された情報処理装置とを備え、情報処理装置は、出力情報に基づいて、配電系統における地絡状態の検出結果に関する結果情報を出力する処理部を有する、地絡事故判定システムである。
【0019】
かかる構成により、配電系統における地絡状態の発生を効果的に検知することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による地絡事故判定装置等によれば、高い精度で地絡事故の発生を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態における地絡事故判定システムの概略構成を示す図
図2】同地絡事故判定システムのブロック図
図3】同判定部が行う方向判定の一例について説明する図
図4】同地絡事故判定装置の動作の一例を示す第一のフローチャート
図5】同地絡事故判定装置の動作の一例を示す第二のフローチャート
図6】同地絡事故判定装置の動作の一例を示す第三のフローチャート
図7】同地絡事故判定装置の事故判定の具体例について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、地絡事故判定装置を用いた地絡事故判定システムの実施形態について図面を参照して説明する。なお、実施の形態において同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0023】
なお、以下において用いる用語は、一般的には次のように定義される。なお、これらの用語の語義は常にここに示されるように解釈されるべきではなく、例えば以下において個別に説明されている場合にはその説明も踏まえて解釈されるべきである。
【0024】
ある事項について識別子とは、当該事項を一意に示す文字又は符号等である。識別子は、例えば、IDであるが、対応する事項を識別しうる情報であれば種類は問わない。すなわち、識別子は、それが示すものそのものの名前であってもよいし、一意に対応するように符号を組み合わせたものであってもよい。
【0025】
取得とは、ユーザ等により入力された事項を取得することを含んでいてもよいし、自装置又は他の装置に記憶されている情報(予め記憶されている情報であってもよいし当該装置において情報処理が行われることにより生成された情報であってもよい)を取得することを含んでいてもよい。他の装置に記憶されている情報を取得するとは、他の装置に記憶されている情報をAPI経由などで取得することを含んでいてもよいし、他の装置により提供されている文書ファイルの内容(ウェブページの内容なども含む)を取得することを含んでいてもよい。
【0026】
情報を出力するとは、ディスプレイへの表示、プロジェクタを用いた投影、プリンタでの印字、音出力、外部の装置への送信、記録媒体への蓄積、他の処理装置や他のプログラムなどへの処理結果の引渡しなどを含む概念である。具体的には、例えば、情報のウェブページへの表示を可能とすることや、電子メール等として送信することや、印刷するための情報を出力することなどを含む。
【0027】
情報の受け付けとは、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力デバイスから入力された情報の受け付け、他の装置等から有線若しくは無線の通信回線を介して送信された情報の受信、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなどの記録媒体から読み出された情報の受け付けなどを含む概念である。
【0028】
(実施の形態)
【0029】
本実施の形態において、地絡事故判定システムは、三相交流の高圧電力の配電系統における地絡事故の検出を行うために用いられる。地絡事故判定システムは、配電系統を構成する複数箇所の配電線にそれぞれ配置される地絡事故判定装置を含む。各地絡事故判定装置は、配電線の零相電流及び零相電圧を検知した結果を用いて地絡状態が発生したか否かと、配線線において電流が流れる向きとを判定可能に構成されている。以下、このように構成された地絡事故判定システム1について説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態における地絡事故判定システム1の概略構成を示す図である。
【0031】
図に示されるように、地絡事故判定システム1は、2以上の地絡事故判定装置10と、情報処理装置100を備える。地絡事故判定システム1は、三相交流の高圧電力の配電系統8において用いられる。配電系統8は、例えば、変電所から需要家に配電を行うための複数の配電線9を含んでいる。配電系統8は、配電線9を通じて、変電所から各需要家に配電可能にする。以下では、例えば樹枝状配電方式の配電系統8を想定するが、配電系統8の配電方式はこれに限られない。
【0032】
2以上の地絡事故判定装置10は、例えば、これらの配電線のうち、2以上の配電線9のそれぞれに配置されている。地絡事故判定装置10は、配電系統8を構成する配電線9のうち任意の箇所に配置されうる。本実施の形態においては、地絡事故判定装置10は、例えば、配電系統8において、変電所や開閉器同士の間の線路毎に配置されたり、幹線からの分岐点同士の間の区間毎に配置されたりするが、これらに限られない。
【0033】
情報処理装置100は、例えば、サーバ装置である。各地絡事故判定装置10は、例えば、ローカルエリアネットワークやインターネットなどのネットワークを介して、情報処理装置100に情報を送信可能である。換言すると、情報処理装置100は、各地絡事故判定装置10から送信された情報を、受信可能である。なお、情報処理装置100から各地絡事故判定装置10に対して情報を送信可能であってもよい。
【0034】
情報処理装置100は、例えば、端末装置600との間で、ローカルエリアネットワークやインターネットなどのネットワークを介して互いに通信可能である。端末装置600は、地絡事故判定システム1に含まれると解釈してもよいし、含まれないと解釈してもよい。なお、地絡事故判定システム1の構成はこれに限られるものではない。地絡事故判定システム1に含まれるそれぞれの装置の数は問わないし、他の装置が地絡事故判定システム1に含まれていてもよい。
【0035】
地絡事故判定システム1のユーザ、例えば配電系統8の管理者は、端末装置600を利用して、地絡事故判定システム1を利用することができる。なお、図1においては、例えばいわゆるラップトップコンピュータなどのパーソナルコンピュータ(PC)が端末装置600として示されているが、端末装置600として用いられるのはこのような装置に限られない。例えば、いわゆるスマートフォンやタブレット型などの携帯情報端末装置が端末装置600として用いられていてもよいし、これら以外の装置が用いられていてもよい。また、情報処理装置100が、いわゆるパーソナルコンピュータや携帯情報端末装置であってもよい。この場合、ユーザは、情報処理端末100を直接利用して、地絡事故判定システム1を利用することができる。
【0036】
本実施の形態において、各地絡事故判定装置10は、設置された配電線9における零相電流や零相電圧を検知し、検知結果に基づいて、地絡事故に関する判定を行う。そして、判定結果に基づいて、情報を情報処理装置100に送信する。情報処理装置100は、各地絡事故判定装置10から送信された情報を用いて、配電系統8における地絡事故の発生に関する情報を取得し、ユーザが当該情報を利用することができるようにする。なお、情報処理装置100は、地絡事故の発生に関する情報として、地絡事故が発生していることを示す情報のほか、地絡事故が発生していないことを示す情報を取得するように構成されていてもよい。また、情報処理装置100が情報の取得を各地絡事故判定装置10から送信された情報を用いて行うこととは、地絡事故判定システム1における全ての地絡事故判定装置10のそれぞれからの情報を用いることに限られない。一部のみの地絡事故判定装置10から送信された情報を用いることや、いずれの地絡事故判定装置10からも情報が送信されない場合に、その状態を示す情報を用いることも含まれうる。
【0037】
図2は、同地絡事故判定システム1のブロック図である。
【0038】
地絡事故判定装置10は、記憶部11、検知部14、判定部15、出力部16を備える。地絡事故判定装置10は、例えば、その設置箇所の近隣に配置される変圧器等の機器から供給される電源電力や、内蔵する電池等の電源(図示せず)からの電力を用いて動作しうる。
【0039】
記憶部11は、地絡事故判定装置10の動作を制御するプログラムや、当該プログラム等が用いる情報や、各部の動作の結果により取得される情報等が記憶される。記憶部11は、例えば、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。これらには、取得された情報などがそれぞれ格納されるが、情報等が記憶される過程はこれに限られない。例えば、記録媒体を介して情報等が記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された情報等が記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された情報等が記憶されるようになってもよい。
【0040】
検知部14は、配電線9の零相電流及び零相電圧を検知する。検知部14は、例えば、ロゴスキーコイルを用いて配電線9を流れる電流を検知することにより、配電線9の零相電流を検知するように構成されている。また、検知部14は、例えば、配電線9の近傍の電界強度を検知することにより、配電線9の零相電圧を検知可能である。検知方法はこれらに限られない。例えば、検知部14は、配電線9に並列に接続して構成された検知用回路を用いて配電線9の零相電流や零相電圧を検知可能に構成されていてもよい。検知部14は、零相電流及び零相電圧を、ベクトル量として検知する。
【0041】
判定部15は、検知部14の検知結果を用いて、地絡状態が発生したか否かを判定する。換言すると、判定部15は、地絡事故が発生した状態であると判定する事故判定を行うように構成されている。また、本実施の形態において、判定部15は、事故判定を行う場合に、配電線9において電流が流れる向き、すなわち地絡事故が発生したのが1次側であるか2次側であるかを示す方向を、さらに判定する。すなわち、本実施の形態において、判定部15は、地絡事故が発生した場合に、事故判定と、方向判定とを行うように構成されている。
【0042】
本実施の形態において、判定部15は、以下のようにして事故判定を行う。判定部15は、検知部14により検知された現在(判定基準時の一例)の零相電流のベクトル量(現在量;瞬時値と言ってもよい)と、過去の所定期間における零相電流のベクトル量の平均(過去平均量)とを比較した比較結果に基づいて、事故判定を行う。現在量と過去平均量との比較は、ベクトル演算により行われる。すなわち、判定部15は、現在量と過去平均量との差分(以下、単に差分というとき、現在量と過去平均量との差分をいう)を用いて、事故判定を行う。ここで、過去の所定期間とは、例えば1秒であるが、これに限られない。
【0043】
本実施の形態において、過去の所定期間の終期と、現在との時間間隔は、所定の時間以上に設定されている。換言すると、過去の所定期間の終期は、現在から所定間隔だけ過去に遡った時点である。過去のベクトル量の平均の算出対象となる期間は、現在時点よりも所定の間隔を置いた過去の時点が起点となる、と言ってもよい。このように所定間隔が設けられていることにより、地絡事故が発生した直後において差分の大きさに生じる変動が過去平均量の算定に影響を及ぼさないようにすることができる。従って、かかる変動に影響を受けずに適切に事故判定を行うことができる。
【0044】
なお、所定間隔は、例えば、変電所等における継電器の動作時間よりも長くすることが望ましい。例えば、200ミリ秒程度に設定することができる。このように所定間隔を設定することにより、地絡事故の発生時点においてそれに応じて継電器が動作するのに伴う現在量の変動に影響されずに、地絡事故を検出することができる。したがって、停電に至らない程度の間欠地絡を検出せず、停電に至るような地絡(完全地絡、微地絡)を適切に検出することができる。
【0045】
なお、判定部15は、検知部14により検知された零相電圧の現在量と過去平均量とを比較した比較結果に基づいて事故判定を行うように構成されていてもよい。また、判定部15は、零相電流の現在量と過去平均量との比較結果と、零相電圧の現在量と過去平均量との比較結果とに基づいて、事故判定を行うように構成されていてもよい。すなわち、判定部15は、零相電流及び零相電圧の少なくとも一方の現在のベクトル量と、当該ベクトル量に対応する、過去の所定期間における零相電流及び零相電圧の少なくとも一方のベクトル量の平均とを比較した比較結果に基づいて、事故判定を行う。
【0046】
判定部15は、例えば、零相電流又は零相電圧について、現在量と過去平均量との差分の大きさが所定の判定閾値に達したことを含む所定の判定条件が満たされた場合に、事故判定を行う(地絡状態が発生したと判定する)。判定条件は、判定閾値に関する判断条件に加えて、他の条件を含んでいてもよい。また、後述のように、例えば、現在量と過去平均量との差分の大きさが判定閾値に達した状態のまま所定期間が経過したことが判定条件に含まれるようにしてもよい。
【0047】
なお、判定部15は、現在ではなく、過去の一時点において事故判定を行うように構成されていてもよい。事故判定を行う時点を、判定基準時と言ってもよい。この場合、判定部15が、判定基準時における上記ベクトル量と、判定基準時よりも過去の所定期間における上記ベクトル量の平均とを比較した比較結果に基づいて判定を行う、と言ってもよい。
【0048】
また、本実施の形態において、判定部15は、以下のようにして方向判定を行う。すなわち、判定部15は、判定基準時に地絡状態が発生したと判定した場合において、判定基準時の零相電流のベクトル量と零相電圧のベクトル量との位相差に基づいて、方向判定を行う。例えば、判定部15は、位相差が所定の角度範囲内であれば1側に電流が流れる状態であると判定(1側判定)し、位相差が所定の角度範囲内ではなければ2側に電流が流れる状態であると判定(2側判定)しうる。
【0049】
図3は、同判定部15が行う方向判定の一例について説明する図である。
【0050】
図に示されるように、本実施の形態においては、判定部15は、零相電流のベクトル量と零相電圧のベクトル量との位相差θ0に応じて、1側判定又は2側判定を行う。具体的には、例えば以下の通りである。
【0051】
2側判定:-45°≦θ0≦135°
【0052】
1側判定:θ0<-45°、135<θ0
【0053】
一例として、図において中段に示されるように、零相電圧V0と零相電流I0との位相差θ0が40°程度であるような場合には、判定部15が2側判定を行う。また、図において下段に示されるように、零相電圧V0と零相電流I0との位相差θ0がマイナス135°程度であるような場合には、判定部15が1側判定を行う。
【0054】
なお、このような判定基準は、電力会社の仕様等によって適宜設定されうる。また、ベクトル量の取得に関する誤差を鑑み、位相差が所定の不明領域である場合に、判定部15が1側判定と2側判定とのいずれも行わないようにしてもよい。
【0055】
図2に戻って、出力部16は、判定部15の判定結果に基づいて出力情報を出力する。すなわち、出力部16は、判定部15の事故判定の結果に基づいて、出力情報を出力する。出力部16は、方向判定を行った場合には、判定部15の事故判定の結果と方向判定の結果とに基づいて、出力情報を出力する。本実施の形態において、出力情報を出力するとは、例えば、情報処理装置100に出力情報を送信することであるが、その他の態様で出力情報を出力するようにしてもよい。出力情報は、例えば、事故判定の結果を示す情報や、方向判定の結果を示す情報が、各地絡事故判定装置10を識別可能な識別子に対応付けられている情報である。なお、出力情報はこれに限られず、例えばその他の情報を含んでいてもよい。
【0056】
なお、出力部16は、事故判定が行われた場合にのみ出力情報を出力するように構成されていてもよい。
【0057】
なお、検知部14は、例えば、配電線9の近傍に配置される回路や素子等と、その検知結果に基づいて零相電流及び零相電圧を検知するように構成された処理部等で構成されうる。換言すると、検知部14は、配電線9の電流や電圧を検出するための検出部と、検出結果に基づいて零相電流及び零相電圧を測定する測定部とを含むと言ってもよい。また、判定部15は、上述のような判定を行うように構成された処理部等で構成されうる。また、出力部16は、情報を送信する送信部と、出力情報を構成したり送信部の制御を行う処理部等で構成されうる。処理部は、通常、MPUやメモリ等から実現されうる。処理部の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。なお、処理部は、ハードウェア(専用回路)により実現されていてもよい。また、送信部は、通常、無線又は有線の通信手段で実現されるが、放送手段で実現されてもよい。
【0058】
情報処理装置100は、格納部110、受信部120、受付部130及び処理部140を備える。処理部140は、出力情報取得部141、地絡箇所特定部143及び結果情報出力部160を備える。
【0059】
格納部110は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。これらには、情報処理装置100において取得された情報などが格納されるが、情報等が記憶される過程はこれに限られない。例えば、記録媒体を介して情報等が記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された情報等が記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された情報等が記憶されるようになってもよい。
【0060】
受信部120は、地絡事故判定装置10から送信された情報を、ネットワークを介して受信する。受信部120は、受信した情報を、例えば格納部110に蓄積し、処理部140などが取得できるようにする。受信部120は、通常、無線又は有線の通信手段で実現されるが、放送を受信する手段で実現されてもよい。
【0061】
受付部130は、情報処理装置100を使用するユーザによる、情報処理装置100に対する種々の指示を受け付ける。例えば、端末装置600を用いて行われた指示を受け付ける。なお、受付部130は、例えば、図示しない入力装置を用いて情報処理装置100に対して直接行われた操作を受け付けるように構成されていてもよい。この場合、受付部130により受付可能な情報の入力に用いられうる入力手段は、テンキーやキーボードやマウスやメニュー画面によるものなど、何でもよい。受付部130は、テンキーやキーボード等の入力手段のデバイスドライバーや、メニュー画面の制御ソフトウェア等で実現されうる。
【0062】
処理部140は、情報処理装置100の各部を用いて、種々の情報処理動作を行う。処理部140は、通常、MPUやメモリ等から実現されうる。処理部140の処理手順は、通常、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されている。但し、ハードウェア(専用回路)で実現してもよい。
【0063】
本実施の形態において、処理部140は、地絡事故判定装置10から送信された出力情報に基づいて、配電系統8における地絡状態の検出結果に関する結果情報を出力する。このような処理は、例えば、以下の各部などを用いて行われうる。
【0064】
出力情報取得部141は、各地絡事故判定装置10から出力され、受信部120により受信された出力情報を取得する。
【0065】
地絡箇所特定部143は、取得された出力情報に基づいて、配電系統8における地絡事故が発生したと考えられる場合に、その箇所を特定する。特定は、例えば、出力情報において地絡状態が発生したと判定された地絡事故判定装置10の識別子を用いて、当該識別子により識別される地絡事故判定装置10の設置箇所を特定することや、当該地絡事故判定装置10において行われた方向判定の結果とを用いて行われうる。地絡事故判定装置10の設置箇所の特定は、予め、各地絡事故判定装置10の設置箇所を記録した情報を用いることにより行うことができる。
【0066】
なお、地絡事故判定装置10において方向判定が行われず、地絡事故特定部143が、事故判定の検出結果に基づいて地絡事故が発生した箇所を特定するように構成されていてもよい。
【0067】
結果情報出力部160は、配電系統8における地絡事故が発生したと考えられる場合に、地絡箇所特定部143により特定された情報を用いて、結果情報を出力する。結果情報は、例えば、地絡事故が発生したと検出されたことと、地絡事故が発生したと考えられる箇所に関する情報とを含む情報である。結果情報出力部160は、例えば、端末装置600に対して、端末装置600のディスプレイデバイス等に表示することができるように、結果情報を出力する。
【0068】
送信部170は、例えば結果情報出力部160等により出力される結果情報をネットワークを介して送信する。送信部170は、通常、無線又は有線の通信手段で実現されるが、放送手段で実現されてもよい。
【0069】
このようにして情報処理装置100から結果情報が出力されることにより、ユーザは、配電系統8において地絡事故が発生したと考えられること、及びその箇所に関する情報を知ることができる。
【0070】
次に、地絡事故判定装置10の事故判定について説明する。本実施の形態においては、地絡事故判定装置10は、零相電流や零相電圧のベクトル量の検知結果の変動が比較的大きい場合においても適切に事故判定を行うことができるように、過去平均量を所定の方法により算定するように構成されている。
【0071】
すなわち、判定部15は、ある判定基準時(第一判定基準時とする)において、現在量と過去平均量との比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合に、第一判定基準時よりも過去の所定期間におけるベクトル量の平均を保持する(過去平均量をロックする)。そして、判定部15は、第一判定基準時よりも後の各時点(それぞれ第二判定基準時とする)において、保持した過去平均量と第二判定基準時のベクトル量との比較結果が所定の判断条件を満たすか否かを判断する。ここで、判定部15は、第一判定基準時において上記比較結果が所定の判断条件を満たすと判断した場合において、その後に比較結果が所定の解除条件を満たすと継続して判断する期間が所定の復帰期間に達するまで、過去平均量の保持を継続するように構成されている。また、判定部15は、比較結果が所定の判断条件を満たすと継続して判断する期間が所定の検出期間に達した場合(判定条件の一例)に地絡状態が発生したと事故判定を行う。
【0072】
なお、所定の判断条件は、例えば、現在量と過去平均量との比較結果である差分が、所定の判定閾値を超過することである。また、所定の解除条件は、例えば、差分が、所定の判定閾値を超過しない状態になることである。この場合、比較結果が所定の解除条件を満たすとは、比較結果が所定の判断条件を満たさないと言ってもよい。判断条件や解除条件は、これらに限られない。
【0073】
このような動作は、例えば次のような処理により実現されうる。この処理は、判定部15により行われる。検出期間(超過期間)や復帰期間の計時は、以下において、超過カウントや復帰カウントをカウントすることにより行われる。
【0074】
図4は、同地絡事故判定装置10の動作の一例を示す第一のフローチャートである。図5は、同地絡事故判定装置10の動作の一例を示す第二のフローチャートである。図6は、同地絡事故判定装置10の動作の一例を示す第三のフローチャートである。
【0075】
(ステップS11)判定部15は、現在のベクトル量(現在量)を取得する。
【0076】
(ステップS12)判定部15は、過去平均量を算定するためのバッファに、所定間隔だけ過去において取得されたベクトル量を蓄積して、バッファを更新する。
【0077】
(ステップS13)判定部15は、必要数以上のベクトル量がバッファに蓄積されたか否かを判断する。換言すると、判定部15は、バッファにベクトル量を蓄積し始めてから所定の平均算出期間が経過したか否かを判断する。ベクトル量の数が必要数以上であると判断された場合にはステップS14に進み、そうでない場合にはステップS11に戻る。
【0078】
(ステップS14)判定部15は、バッファに蓄積されたベクトル量を用いて、過去平均量を演算する。
【0079】
(ステップS15)判定部15は、現在量と、過去平均量とを用いて、差分を演算する。
【0080】
(ステップS16)判定部15は、差分の大きさが判定閾値を超過したか否かを判断する。超過したと判断した場合にはステップS17に進み、そうでない場合にはステップS23に進む。
【0081】
(ステップS17)判定部15は、過去平均量の保持中であるか否かを判断する。保持中であるとは、過去平均量の保持(ロック)が継続されている状態であることをいう。過去平均量を保持中であると判断された場合にはステップS19に進み、そうでない場合にはステップS18に進む。
【0082】
(ステップS18)判定部15は、過去平均量を保持する。ステップS19に進む。
【0083】
(ステップS19)判定部15は、超過カウントをインクリメントする。また、復帰カウントをクリアする(リセットする)。
【0084】
(ステップS20)判定部15は、超過カウントが超過閾値に到達したか(超過閾値に等しいか)否かを判断する。換言すると、判定部15は、差分の大きさが判定閾値を超過した状態で超過期間が経過したか否かを判断する。超過カウントが超過閾値に到達したと判断された場合はステップS22に進み、そうでない場合はステップS21に進む。
【0085】
(ステップS21)判定部15は、現在のベクトル量(現在量)を取得する。ステップS15に進む。
【0086】
(ステップS22)判定部15は、事故判定を行う。すなわち、差分の大きさが判定閾値を超過した状態で超過時間が経過した場合に、判定部15が事故判定を行う。その後、一連の処理が終了する。
【0087】
(ステップS23)ここで、ステップS16において差分の大きさが判定閾値を超過したと判断されなかった場合には、判定部15は、過去平均量を保持中であるか否かを判断する。保持中であると判断された場合にはステップS24に進み、そうでない場合にはステップS11に進む。すなわち、差分が判定閾値を超過しておらず、過去平均量の保持も行われていない通常の状態においては、ステップS11からステップS16の処理が繰り返されることとなる。
【0088】
(ステップS24)判定部15は、復帰カウントをインクリメントする。また、超過カウントをクリアする(リセットする)。
【0089】
(ステップS25)判定部15は、復帰カウントが復帰閾値に到達したか(復帰閾値に等しいか)否かを判断する。換言すると、判定部15は、過去平均量の保持中において、差分の大きさが判定閾値を超過していない状態で復帰期間が経過したか否かを判断する。復帰カウントが復帰閾値に到達したと判断された場合はステップS27に進み、そうでない場合はステップS26に進む。
【0090】
(ステップS26)判定部15は、現在のベクトル量(現在量)を取得する。ステップS15に進む。
【0091】
(ステップS27)判定部15は、過去平均量の保持を解除(アンロック)する。また、過去平均量をクリアする。その後、ステップS11に戻る。すなわち、過去平均量の保持中において、差分の大きさが判定閾値を超過していない状態で復帰期間が経過した場合に、過去平均量の保持が解除される。そして、過去平均量が演算可能になるまで、ステップS11からステップS13の処理が繰り返されることとなる。
【0092】
図7は、同地絡事故判定装置10の事故判定の具体例について説明する図である。
【0093】
図において、上側は零相電流I0又は零相電圧V0のベクトル量の実効値の推移を示す図であり、下側は零相電流I0又は零相電圧V0の差分の実効値の推移を示す図である。すなわち、図においては、便宜上、各ベクトル量が実効値として示されている。
【0094】
第一判定基準時t1において、差分が判定閾値を超過した場合を想定する。第一判定基準時t1では、第一判定基準時t1よりも所定間隔前の時刻taを終期とする所定の平均算出期間(時刻tbから時刻taまでの期間)のベクトル量に基づいて、過去平均量が算出される。第一判定基準時t1に差分が判定閾値を超過したことにより、この過去平均量が保持される。
【0095】
第一判定基準時t1より後の期間において、実効値が比較的大きいまま推移するような場合(例1)を想定する。ここでは、第二判定基準時t2において差分が判定閾値を超過する状態となってから、所定の超過期間が経過した第二判定基準時t3までその状態が維持された場合を想定する。この場合、第二判定基準時t3において事故判定が行われる。
【0096】
他方、第一判定基準時t1より後の期間において、実効値がそれほど大きくならないまま推移するような場合(例2)を想定する。第一判定基準時t1よりも後に、例えば、差分の大きさが周期的に変化するのに伴って、差分が判定閾値を超過する状態とそうでない状態とが、超過期間や復帰期間よりも短い時間で切り替わる場合には、事故判定や過去平均量の保持の解除がおこなわれない。そして、例えば、第2判定基準時t4において差分が判定閾値を超過しない状態となってから、所定の復帰期間が経過した第二判定基準時t5までその状態が維持されると、第二判定基準時t5において過去平均量の保持が解除される。
【0097】
以上説明したように、本実施の形態においては、現在の零相電圧又は零相電流のベクトル量から、任意の期間前の零相電圧又は零相電流のベクトル量の平均との差分をベクトル演算によりを求めて、求めた差分に基づいて事故判定を行う。したがって、系統の残留成分やセンサの個体差による検知誤差の影響などに起因する比較的緩やかな検知結果の変動の影響を抑えて、地絡事故発生時に特有の急な変動を検知して適切に地絡事故の発生を判定することができる。零相電圧と零相電流との位相差を検知することができるので、地絡事故の発生箇所の特定に役立つ情報を得ることができる。
【0098】
また、差分が判定閾値を超過した時点においてその時点での過去平均量が保持され、以後の差分の演算に用いられる。したがって、地絡事故の発生が過去平均量に影響を及ぼさない状態で差分の演算を継続することができ、適切に事故判定を行うことができる。いわゆる間欠地絡が生じた場合でも、その影響が過去平均量に及ぶことが防止されるので、地絡事故の誤判定を防止することができ、確実に高精度な判定を行うことができる。
【0099】
また、本実施の形態においては、差分と判定閾値が所定の関係となる状態が所定の期間だけ継続した場合に、それに応じた処理が行われる。すなわち、事故判定は、過去平均量が保持された状態で、差分が判定閾値を超過する状態が所定の超過期間だけ経過した時に行われ、事故判定が行われるまでの間に差分が判定閾値を超過しなくなれば、事故判定が行われない。また、過去平均量が保持された状態すなわち差分が判定閾値を超過する状態に至った場合に、それ以後に差分が判定閾値を超過しない状態が所定の復帰期間だけ継続するまでは、事故判定に備えて過去平均量が保持される状態が継続する。そのため、例えば瞬間的に零相電圧又は零相電流のベクトル量が大きく変動するような場合に、地絡事故が発生したと誤判定したり、差分が異常状態を反映しないものとなって地絡事故を検出できなかったりすることが防止される。したがって、適切に地絡事故の検出を行うことができる。
【0100】
(その他)
【0101】
上記実施の形態において、一の装置に存在する2以上の構成要素は、物理的に一の媒体で実現されてもよい。
【0102】
上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、又は、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現されうる。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
【0103】
また、上記実施の形態において、各処理(各機能)は、単一の装置(システム)によって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置によって分散処理されることによって実現されてもよい(この場合、分散処理を行う複数の装置により構成されるシステム全体を1つの「装置」として把握することが可能である)。
【0104】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、又は、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0105】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、又は長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、又は、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、又は、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0106】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、又は、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0107】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものである。
【0108】
上述の実施の形態や変形例のうち、一部の構成要素や機能が省略されていてもよい。
【0109】
事故判定を行う条件に関する判定閾値と、過去平均量の保持中において保持を解除する条件に関する判定閾値とは異なっていてもよい。例えば、過去平均量の保持中において、判定閾値よりも低い解除閾値を差分が超過しない状態となったことが、過去平均量の保持が解除される条件に含まれるようにしてもよい。この場合、差分が解除閾値を超過しない状態となってから直ちに過去平均量の保持が解除されるようにしてもよい。
【0110】
上述の実施の形態において、地絡事故判定装置に、当該地絡事故判定装置の位置を示す位置情報を取得する位置情報部が設けられており、出力情報に、当該位置情報が対応付けられて出力されるようにしてもよい。この場合、情報処理装置100において、当該位置情報に対応付けられた事故判定の結果に関する情報を用いて、地絡事故の発生箇所に関する特定を行うようにしてもよい。
【0111】
一つの地絡事故判定装置は、互いに離間した場所にある複数のハードウェアが互いに接続されて構成されていてもよい。一つの地絡事故判定装置において、それぞれ異なる箇所に配置された複数の検知部から取得した零相電圧及び零相電圧の検知結果に基づいて、各箇所について判定部が上記のように判定を行うように構成されていてもよい。この場合、地絡事故判定システム1は、一つの地絡事故判定装置のみを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、本発明にかかる地絡事故判定装置は、高い精度で地絡事故の発生を検出することができるという効果を有し、地絡事故判定装置等として有用である。
【符号の説明】
【0113】
1 地絡事故判定システム、8 配電系統、9 配電線、10 地絡事故判定装置、11 記憶部、14 検知部、15 判定部、16 出力部、100 情報処理装置、110 格納部、120 受信部、130 受付部、140 処理部、141 出力情報取得部、143 地絡箇所特定部、160 結果情報出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7