IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-空調制御システム 図1
  • 特開-空調制御システム 図2
  • 特開-空調制御システム 図3
  • 特開-空調制御システム 図4
  • 特開-空調制御システム 図5
  • 特開-空調制御システム 図6
  • 特開-空調制御システム 図7
  • 特開-空調制御システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088381
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】空調制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20240625BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B60H1/00 101D
B60H1/22 671
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203516
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高見 公章
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA06
3L211DA50
3L211EA83
3L211GA09
(57)【要約】
【課題】空調に利用する流体を電池にも循環できる構成であっても、ユーザが違和感を感じることを抑制できる空調制御システムを提供する。
【解決手段】電気自動車の空調を行う空調制御システムA1において、空調用の温風を生成するヒータコア23と、ヒータコア23に加熱した流体を循環させる流体循環部(配管24、ヒータ25、ポンプ26)と、電池パック4に流体を循環させる第1状態と循環させない第2状態とを切り替えるバルブ5と、バルブ5による第1状態と第2状態との切り替え時に、少なくとも電池パック4で検出された電池温度に基づいて、空調を制御するための空調制御値(例えば開度K)を補正するための補正量ΔRを算出する補正量算出部34と、空調制御値を、補正量ΔRで補正する補正部35とを備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車の空調を行う空調制御システムであって、
空調用の温風を生成する熱交換器と、
前記熱交換器に加熱した流体を循環させる流体循環部と、
電池パックに前記流体を循環させる第1状態と循環させない第2状態とを切り替える切替部と、
前記切替部による前記第1状態と前記第2状態との切り替え時に、少なくとも前記電池パックで検出された電池温度に基づいて、空調を制御するための空調制御値を補正するための補正量を算出する補正量算出部と、
前記空調制御値を、前記補正量で補正する補正部と、
を備えている、
空調制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車などにおいて空調を制御する空調制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車内の空調を制御する空調制御システムがある。一般的に、空調制御システムは、エバポレータ(熱交換器)を通過した冷たい風の量と、ヒータコア(熱交換器)を通過した暖かい風の量とを、エアミックスドアで調節して混合させることで、ユーザの設定に応じた温度の風を作り出して、吹き出し口から送出する。電気自動車などの場合、エンジン廃熱を利用できないので、電気ヒータで加熱された温水をヒータコアに循環させている。また、電気自動車などの場合、低外気温時に電池を温める必要がある。このために別途ヒータを設けるとコストが増大するので、電気ヒータで加熱された水を、ヒータコアだけでなく、電池にも循環させる方法が提案されている。特許文献1には、電気ヒータで加熱された水をヒータコアに循環させる流体経路にバイパス経路を設け、当該バイパス経路を電池の近傍に沿わせることで電池を温める流体加熱循環装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-12286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気ヒータで加熱された水を電池にも循環させた場合、電池に循環された水の温度の低下のために、電気ヒータに戻ってきた水の温度は低下する。したがって、ヒータコアだけに水が循環される場合と比較して、電気ヒータから送出される水の温度は低下する。これにより、車内空調を行っているときに電池への水の循環を開始すると、車内への吹き出し風の温度が急に低下するので、ユーザが違和感を感じるという問題が生じる。また、同じ構成で、電池の温度が十分高い際に、水を電池に循環させて昇温し、電気ヒータの補助として機能させることも可能である。しかし、この場合も、車内空調を行っているときに電池への水の循環を開始すると、車内への吹き出し風の温度が急に上昇するので、ユーザが違和感を感じるという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、空調に利用する流体を電池にも循環できる構成であっても、ユーザが違和感を感じることを抑制できる空調制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明によって提供される空調制御システムは、電気自動車の空調を行う空調制御システムであって、空調用の温風を生成する熱交換器と、前記熱交換器に加熱した流体を循環させる流体循環部と、電池パックに前記流体を循環させる第1状態と循環させない第2状態とを切り替える切替部と、前記切替部による前記第1状態と前記第2状態との切り替え時に、少なくとも前記電池パックで検出された電池温度に基づいて、空調を制御するための空調制御値を補正するための補正量を算出する補正量算出部と、前記空調制御値を、前記補正量で補正する補正部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、第1状態と第2状態との切り替え時に、補正量算出部が補正量を算出し、補正部が空調制御値を当該補正量で補正する。第1状態と第2状態との切り替えによって空調の送風の温度が変化するが、空調制御値が補正されることで、送風の温度変化が抑制される。これにより、本発明に係る空調制御システムは、空調に利用する流体を電池にも循環できる構成であっても、ユーザが違和感を感じることを抑制できる。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る空調制御システムを示す概略ブロック図である。
図2】バルブ開閉処理を説明するためのフローチャートの一例である。
図3】混合率補正量マップの一例を示している。
図4】開度・混合率対応マップの一例を示している。
図5】開度制御処理を説明するためのフローチャートの一例である。
図6】吹き出し温度の変化を説明するためのタイムチャートである。
図7】第2実施形態に係る空調制御システムを示す概略ブロック図である。
図8】第3実施形態に係る空調制御システムを示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る空調制御システムA1を示す概略ブロック図である。図1に示すように、空調制御システムA1は、HVAC(Heating Ventilating and Air Conditioning unit)2、空調制御装置3、電池パック4、バルブ5、および温度センサ61~63を備えている。
【0013】
HVAC2は、空調制御装置3からの指令に応じて、車室内に調整された空調風を送出する。HVAC2は、ブロア20、エバポレータ21、エアミックスドア22、ヒータコア23、配管24、ヒータ25、およびポンプ26を備えている。
【0014】
ブロア20は、図示しない空気導入口から導入した空気を下流側に送風する。ブロア20は、空調制御装置3からの指令に応じて図示しないブロアモータを駆動し、図示しないブロアファンを回転させることで、例えば多段階で風量を変化させて送風する。
【0015】
エバポレータ21は、ブロア20から送られる風を冷却して送出する。エバポレータ21は、図示しないコンプレッサが冷媒を圧縮し、高温高圧状態となった冷媒が図示しないコンデンサで放熱され、放熱された冷媒が内部で気化することで、内部を通過する空気を熱交換により冷却する。エバポレータ21の下流側には、エバポレータフィンの温度Teを検出する温度センサ62が配置されている。温度センサ62の検出信号は、空調制御装置3に出力される。
【0016】
ヒータコア23は、エバポレータ21 の下流側に配設されており、エバポレータ21が送出する風の一部を加熱して送出する。ヒータコア23は、内部に配管24が配置されており、配管24を流れる水によって、内部を通過する空気を熱交換により加熱する。
【0017】
エアミックスドア22は、ヒータコア23の通気入口に回動可能に配設されており、空調制御装置3からの指令に応じて、図示しないサーボモータにより駆動されて、ヒータコア23の通気入口の開度を調整する。エアミックスドア22は、エバポレータ21が送出する冷風と、ヒータコア23が送出する温風との混合率を調整することで、HVAC2から送出される送風の温度を調整する。本実施形態では、混合率は、エバポレータ21が送出し、かつ、ヒータコア23内を通過しない冷風の流量に対する、ヒータコア23が送出する温風の流量の割合を意味する。なお、混合率の定義はこれに限定されない。エアミックスドア22の開度(ヒータコア23の通気入口の開度)が大きいほど、混合率が大きくなるので、HVAC2から送出される送風の温度が高くなる。反対に、エアミックスドア22の開度が小さいほど、混合率が小さくなるので、HVAC2から送出される送風の温度が低くなる。
【0018】
配管24は、ヒータコア23の内部とヒータ25の内部とで水を循環させるように配設されている。また、配管24は、ヒータコア23からヒータ25への配管の途中で分岐して電池パック4の内部に水を循環させる配管241を有している。配管241へ水を循環させるか否かは、空調制御装置3からの指令に応じてバルブ5が開閉することで切り替えられる。なお、配管24において、配管241がつながる位置は限定されない。なお、配管24を循環するのは水に限定されず、その他の流体であってもよい。
【0019】
ヒータ25は、配管24を流れる水を加熱する。ヒータ25は、例えば高電圧ヒータであって、電池から供給される電力を熱に変換する。なお、ヒータ25はこれに限定されず、配管24を流れる水を加熱できればよい。ポンプ26は、ヒータ25で加熱された水を送出する。なお、ポンプ26の配置位置は限定されない。配管24におけるヒータ25の上流側には、配管24を流れる水の温度Twを検出する温度センサ63が配置されている。なお、温度センサ63の配置位置は限定されない。温度センサ63の検出信号は、空調制御装置3に出力される。
【0020】
電池パック4は、電池が配置され、内部または周囲に配管241が配設されている。電池パック4の電池は、温度が低すぎると出力を得難いので、ヒータ25によって加熱された水を配管241に循環させることで温められる。電池パック4には、電池の温度Tbを検出する温度センサ61が配置されている。温度センサ61の検出信号は、空調制御装置3に出力される。
【0021】
バルブ5は、例えばON-OFFバルブであり、空調制御装置3からの指令に応じて開閉する。バルブ5が閉鎖状態の場合、水は配管241を循環しない。一方、バルブ5が開放状態の場合、水は配管241も循環し、電池パック4の電池を温める。なお、バルブ5の種類は限定されず、閉鎖状態と開放状態とを切り替えられればよい。
【0022】
空調制御装置3は、空調制御システムA1を制御するECU(Electric Control Unit)であり、CPUおよびメモリを備えたマイクロコンピュータによって実現されている。空調制御装置3は、専用のECUであってもよいし、その他の制御機能も備えたECUであってもよい。空調制御装置3は、ユーザの設定に応じてブロア20を制御することで、HVAC2から送出される送風の流量を制御する。また、空調制御装置3は、ユーザの設定に応じてエアミックスドア22を制御することで、HVAC2から送出される送風の温度を制御する。また、空調制御装置3は、電池パック4の加熱のために、バルブ5の開閉を制御する。さらに、空調制御装置3は、バルブ5の開閉状態の変更時に生じる、HVAC2から送出される送風の温度の急変を抑制する機能を備えている。
【0023】
空調制御装置3は、温度センサ61から、電池パック4の電池の温度Tbを検出した検出信号を入力され、温度センサ62から、エバポレータフィンの温度Teを検出した検出信号を入力され、温度センサ63から、配管24を流れる水の温度Twを検出した検出信号を入力される。空調制御装置3は、機能構成として、風量設定部31、開度設定部32、バルブ開閉部33、補正量算出部34、および開度補正部35を備えている。
【0024】
風量設定部31は、ユーザの設定に応じて、ブロア20に指令を出力する。ブロア20は、指令に応じてブロアモータを駆動し、ブロアファンを回転させる。これにより、HVAC2は、ユーザの設定に応じて、送風の流量を多段階で変化させて送出する。
【0025】
開度設定部32は、ユーザによる設定と、温度センサ62により検出されたエバポレータフィンの温度Teと、図示しない温度センサにより検出されたヒータコア23の温度とに基づいていて、エアミックスドア22の開度Kを設定し、開度補正部35に出力する。
【0026】
バルブ開閉部33は、バルブ5の開閉を制御する。バルブ開閉部33は、温度センサ61が検出した電池パック4の電池の温度Tbを、あらかじめ設定された閾値Tbhと比較する。閾値Tbhは、電池の昇温をすべきか否かを判断するための閾値である。バルブ開閉部33は、温度Tbが閾値Tbh以上の場合、バルブ5を閉鎖状態とし、温度Tbが閾値Tbh未満の場合、バルブ5を閉鎖状態とする。バルブ開閉部33は、バルブ5の開閉情報を補正量算出部34に出力する。
【0027】
図2はバルブ開閉部33が行うバルブ開閉処理を説明するためのフローチャートの一例である。バルブ開閉処理は、例えば、温度センサ63によって検出された配管24を流れる水の温度Twが所定の温度以上になったときに開始される。バルブ開閉処理が開始される前は、バルブ5は閉鎖状態である。
【0028】
まず、バルブ開閉部33は、電池の温度Tbを取得する(S1)。次に、バルブ開閉部33は、温度Tbが閾値Tbh以上であるか否かを判別する(S2)。温度Tbが閾値Tbh以上である場合(S2:YES)、バルブ開閉部33は、バルブ5を閉鎖状態とする。一方、温度Tbが閾値Tbh未満である場合(S2:NO)、バルブ開閉部33は、バルブ5を開放状態とする。つまり、温度Tbが閾値Tbh以上の状態から閾値Tbh未満の状態になったとき、および、バルブ開閉処理が開始されたときに温度Tbが閾値Tbh未満である場合に、バルブ開閉部33は、バルブ5を閉鎖状態から開放状態に切り替える。一方、温度Tbが閾値Tbh未満の状態から閾値Tbh以上の状態になったときに、バルブ開閉部33は、バルブ5を開放状態から閉鎖状態に切り替える。なお、バルブ開閉部33が行うバルブ開閉処理は、上述したフローチャートに示すものに限定されない。
【0029】
補正量算出部34は、バルブ開閉部33からバルブ5の開閉情報を入力され、バルブ5の開閉状態の変更時に、送風の温度が急変することを抑制するための混合率の補正量ΔRを算出する。まず、補正量算出部34は、温度センサ61が検出した電池パック4の電池の温度Tbと、温度センサ63が検出した配管24を流れる水の温度Twとの差である温度差ΔT(=Tw-Tb)を算出する。次に、補正量算出部34は、算出した温度差ΔTと、温度センサ62が検出したエバポレータフィンの温度Teとに基づいて、混合率の補正量ΔRを算出する。補正量算出部34は、あらかじめ作成された混合率補正量マップを記憶している。混合率補正量マップは、温度差ΔTおよび温度Teと、補正量ΔRとの対応関係を示すマップである。
【0030】
図3は、バルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替わったときの混合率補正量マップの一例を示している。なお、Te1<Te2<Te3<Te4<…<Tenである。図3に示すように、温度Teが同じである場合、補正量ΔRは、温度差ΔTに比例し、温度差ΔTが大きいほど大きくなる。また、温度差ΔTが同じである場合、補正量ΔRは、温度Teが大きいほど大きくなる。なお、補正量算出部34が記憶する混合率補正量マップは限定されず、実験またはシミュレーションに基づいて、適宜作成される。また、図示しないが、補正量算出部34は、バルブ5が開放状態から閉鎖状態に切り替わったときの混合率補正量マップも記憶している。当該マップでは、補正量ΔRは負の値が設定されている。
【0031】
補正量算出部34は、混合率補正量マップを参照することで、温度差ΔTおよび温度Teに基づいて、混合率の補正量ΔRを算出する。なお、補正量算出部34は、演算式に基づいて、温度差ΔTおよび温度Teから補正量ΔRを算出してもよい。補正量算出部34は、算出した補正量ΔRを 開度補正部35に出力する。補正量算出部34は、バルブ5の開閉状態が変更された時から、温度差ΔTが所定値Tα以下になるまで、補正量ΔRを算出する。所定値Tαは、限定されないが、例えば数℃程度が設定される。温度差ΔTが所定値Tα以下になると、電池の温度Tbと配管24を流れる水の温度Twとが近くなって、水の循環路全体における温度が均一化するので、開度の補正が必要なくなったと判断できる。なお、補正量算出部34が補正量ΔRの算出を終了するタイミングは、これに限定されない。例えば、補正量算出部34は、バルブ5の開閉状態が変更された時から所定時間が経過するまで補正量ΔRを算出してもよいし、配管24を流れる水の温度Twが所定温度になるまで補正量ΔRを算出してもよい。補正量算出部34は、補正量ΔRを算出しない場合、補正量ΔRとして「0」を出力する。
【0032】
開度補正部35は、開度設定部32から入力された開度Kと、補正量算出部34から入力された補正量ΔRとに基づいて、補正後の開度K’を算出する。まず、開度補正部35は、開度設定部32から入力された開度Kに基づいて混合率Rを算出する。開度補正部35は、あらかじめ作成された開度・混合率対応マップを記憶している。開度・混合率対応マップは、開度Kと混合率Rとの対応関係を示すマップである。図4は、開度・混合率対応マップの一例を示している。なお、開度補正部35が記憶する開度・混合率対応マップは限定されず、実験またはシミュレーションに基づいて、適宜作成される。開度補正部35は、開度・混合率対応マップを参照することで、開度Kに基づいて混合率Rを算出する。次に、開度補正部35は、算出した混合率Rに、補正量算出部34から入力された補正量ΔRを加算することで、補正後の混合率R’(=R+ΔR)を算出する。次に、開度補正部35は、開度・混合率対応マップを参照することで、算出した補正後の混合率R’に基づいて、補正後の開度K’を算出する。開度補正部35は、エアミックスドア22の開度を補正後の開度K’に調整する。補正量算出部34が補正量ΔRを算出せず、補正量ΔRとして「0」を出力している間は、開度補正部35は、開度設定部32から入力された開度Kを補正することなく(「0」を加算して)、エアミックスドア22の開度を開度Kに調整する。
【0033】
なお、補正量算出部34は、混合率の補正量ΔRの代わりに、開度の補正量ΔKを算出してもよい。この場合、開度補正部35は、開度設定部32から入力された開度Kに、補正量算出部34から入力された補正量ΔKを加算することで、補正後の開度K’(=K+ΔK)を算出できる。
【0034】
図5は、空調制御装置3が行う開度制御処理を説明するためのフローチャートの一例である。開度制御処理は、ユーザが空調制御を開始させたときに開始される。
【0035】
まず、バルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替えられたか否かが判別される(S11)。当該切り替えの判別は、バルブ開閉部33から入力されるバルブ5の開閉情報に基づいて行われる。バルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替えられていない場合(S11:NO)、バルブ5が開放状態から閉鎖状態に切り替えられたか否かが判別される(S17)。バルブ5が開放状態から閉鎖状態に切り替えられていない場合(S17:NO)、バルブ5の開閉状態は変更されていないので、開度の補正は行われない。この場合、開度Kが取得され(S19)、エアミックスドア22の開度が開度Kに調整されて(S20)、ステップS11に戻る。具体的には、開度補正部35が、開度設定部32が算出した開度Kを取得し、補正することなく、エアミックスドア22の開度を開度Kに調整する。
【0036】
ステップS11において、バルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替えられた場合(S11:YES)、開放時補正処理が行われる(S12~S16)。開放時補正処理では、まず、各情報が取得される(S12)。取得される情報には、温度センサ61が検出した温度Tb、温度センサ62が検出した温度Te、温度センサ63が検出した温度Tw、および、開度設定部32が算出した開度Kが含まれる。次に、補正量ΔRが算出される(S13)。具体的には、補正量算出部34が、混合率補正量マップを参照して、温度Tb、温度Te、および温度Twに基づいて算出する。次に、開度Kが開度K’に補正される(S14)。具体的には、開度補正部35が、開度・混合率対応マップを参照して開度Kに基づいて混合率Rを算出し、混合率Rに補正量ΔRを加算することで補正後の混合率R’を算出する。そして、開度補正部35が、開度・混合率対応マップを参照して混合率R’に基づいて補正後の開度K’を算出する。次に、エアミックスドア22の開度が開度K’に調整される(S15)。次に、温度差ΔT(=Tw-Tb)が所定値Tα以下であるか否かが判別される(S16)。温度差ΔTが所定値Tαより大きい場合(S16:NO)、ステップS12に戻って、開放時補正処理が繰り返される(S12~S16)。温度差ΔTが所定値Tα以下の場合(S16:YES)、ステップS11に戻る。
【0037】
ステップS17において、バルブ5が開放状態から閉鎖状態に切り替えられた場合(S17:YES)、閉鎖時補正処理が行われる(S18)。閉鎖時補正処理は、開放時補正処理と同様の処理であり、補正量算出部34によって補正量ΔRが算出され、開度補正部35によって開度Kが開度K’に補正されて、エアミックスドア22の開度が開度K’に調整される。補正の必要がなくなると、ステップS11に戻る。なお、空調制御装置3が行う開度制御処理は、上述したフローチャートに示すものに限定されない。
【0038】
図6は、バルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替わったときの、HVAC2から送出される送風の温度(以下では、「送風温度」と記載する)の変化を説明するためのタイムチャートである。図6において、空調制御装置3によって開度制御処理が行われた場合の送風温度の時間変化を実線aで示し、空調制御装置3において補正量による開度の補正が行われなかった場合(従来の開度の制御)の送風温度の時間変化を破線bで示している。
【0039】
従来の開度の制御では、破線bに示すように、時刻t1でバルブ5が閉鎖状態から開放状態に切り替わった場合、吹き出し温度が急速に低下する。これは、電池に循環された水の温度の低下のために、ヒータコア23に循環される水の温度が低下し、ヒータコア23が送出する温風の温度が低下するためである。水の循環路全体における温度が均一化すると、吹き出し温度は安定化して元の温度に戻る(時刻t2参照)が、均一化までに数秒から数十秒かかる。送風温度の変化幅ΔT2が数℃程度以上であると、ユーザは温度の低下に気付いて、違和感を感じる。
【0040】
一方、空調制御装置3による開度制御処理では、実線aに示すように、時刻t1から送風温度が低下するが、低下が抑制されている。これは、補正量算出部34が算出した補正量ΔRによって開度Kが補正されることで混合率Rが増加され、温風の割合が増加されるからである。当該補正は、水の循環路全体における温度が均一化するまで継続される。送風温度の変化幅ΔT1が数℃程度未満に抑えられることで、ユーザは温度の低下に気付かないので、違和感を感じない。
【0041】
次に、第1実施形態に係る空調制御システムA1の作用効果について説明する。
【0042】
本実施形態によると、補正量算出部34は、バルブ5の開閉状態の変更時に、混合率の補正量ΔRを算出する。そして、開度補正部35は、開度設定部32から入力された開度Kと、補正量算出部34から入力された補正量ΔRとに基づいて、補正後の開度K’を算出する。バルブ5の開閉状態の変更によって送風温度が変化するが、開度Kが開度K’に補正されることで、送風温度の変化が抑制される。これにより、空調制御システムA1は、バルブ5の開閉の切り替え時に、ユーザが違和感を感じることを抑制できる。
【0043】
また、本実施形態によると、空調制御装置3は、エアミックスドア22の開度を補正することで、送風温度の変化を抑制する。エアミックスドア22は、混合率を調整することで送風温度を調整するので、送風温度を迅速に、また、容易に変更することに適している。
【0044】
また、本実施形態によると、補正量算出部34は、あらかじめ作成された混合率補正量マップを記憶し、当該混合率補正量マップを参照することで、補正量ΔRを算出する。したがって、補正量算出部34は、適切な補正量ΔRを算出可能である。
【0045】
なお、本実施形態においては、冷風の流量に対する温風の流量を混合率と定義した場合について説明したが、混合率の定義はこれに限定されない。混合率は、温風の流量に対する冷風の流量であってもよいし、送風全体の流量に対する温風の流量であってもよい。混合率の定義に応じて、混合率補正量マップを設定すればよい。
【0046】
また、本実施形態においては、補正量算出部34が温度差ΔTと温度Teとに基づいて補正量ΔRを算出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、補正量算出部34は、温度差ΔTのみに基づいて補正量ΔRを算出してもよいし、電池の温度Tbのみに基づいて補正量ΔRを算出してもよい。また、補正量算出部34は、さらに他の情報も加味して補正量ΔRを算出してもよい。他の情報としては、例えば、ブロア20による送風の流量、ポンプ26によって送出される水の流量、車室内外温度差、および車室内外湿度差などがあげられる。
【0047】
また、本実施形態においては、電池パック4の電池を温める場合について説明したが、これに限られない。同じ構成で、電池の温度が十分高い際に、水を電池に循環させて昇温し、ヒータ25の補助として機能させることも可能である。この場合、電池パック4への水の循環を開始するために、バルブ5を閉鎖状態から開放状態に切り替えたときに、送風温度が上昇する。また、電池パック4への水の循環を停止するために、バルブ5を開放状態から閉鎖状態に切り替えたときに、送風温度が低下する。しかし、空調制御装置3は、バルブ5の開閉状態の変更時に、補正量ΔRを算出して、開度Kを補正量ΔRで補正するので、送風温度の変化を抑制できる。
【0048】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態に係る空調制御システムA2を示す概略ブロック図である。図7において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。第2実施形態に係る空調制御システムA2は、ブロア20による送風の流量が補正される点で、第1実施形態に係る空調制御システムA1と異なる。
【0049】
第1実施形態に係る空調制御システムA1は、エアミックスドア22の開度を補正することで、送風温度の変化を抑制したが、本実施形態に係る空調制御システムA2は、ブロア20による送風の流量(以下では「風量」と記載する)を補正することで、送風温度の変化を抑制する。本実施形態に係る空調制御装置3は、開度補正部35の代わりに、風量補正部36を備えている。
【0050】
本実施形態に係る補正量算出部34は、バルブ5の開閉状態の変更時に、風量の補正量を算出する。補正量算出部34は、温度差ΔTおよび温度Teに基づいて風量の補正量を算出するための風量補正量マップを記憶している。バルブ5が切り替わって、循環される水の温度が低下する場合の風量補正量マップでは、補正量は負の値が設定されている。本実施形態に係る風量設定部31は、ユーザの設定に応じて、風量を風量補正部36に出力する。風量補正部36は、風量設定部31から入力された風量と、補正量算出部34から入力された風量の補正量とに基づいて、補正後の風量を算出して、ブロア20に指令を出力する。なお、本実施形態に係る開度設定部32は、エアミックスドア22の開度を算出した開度Kに調整する。
【0051】
本実施形態によると、バルブ5の開閉状態の変更時に、ブロア20による送風の流量が補正される。バルブ5の開閉状態の変更によって送風温度が変化するが、ブロア20による送風の流量が補正されることで、送風温度の変化が抑制される。これにより、空調制御システムA2は、バルブ5の開閉の切り替え時に、ユーザが違和感を感じることを抑制できる。
【0052】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る空調制御システムA3を示す概略ブロック図である。図8において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。第3実施形態に係る空調制御システムA3は、ポンプ26によって送出される水の流量が補正される点で、第1実施形態に係る空調制御システムA1と異なる。
【0053】
第1実施形態に係る空調制御システムA1は、エアミックスドア22の開度を補正することで、送風温度の変化を抑制したが、本実施形態に係る空調制御システムA3は、ポンプ26によって送出される水の流量(以下では「水量」と記載する)を補正することで、送風温度の変化を抑制する。本実施形態に係る空調制御装置3は、開度補正部35の代わりに、水量設定部37および水量補正部38を備えている。
【0054】
本実施形態においては、ポンプ26は、送出する水の流量を多段階で調整可能である。本実施形態に係る補正量算出部34は、バルブ5の開閉状態の変更時に、水量の補正量を算出する。補正量算出部34は、温度差ΔTおよび温度Teに基づいて水量の補正量を算出するための水量補正量マップを記憶している。バルブ5が切り替わって、循環される水の温度が低下する場合の水量補正量マップでは、補正量は正の値が設定されている。水量設定部37は、設定した水量を水量補正部38に出力する。水量補正部38は、水量設定部37から入力された水量と、補正量算出部34から入力された水量の補正量とに基づいて、補正後の水量を算出する。水量補正部38は、ポンプ26に補正後の水量を送出する指令を出力する。なお、本実施形態に係る開度設定部32は、エアミックスドア22の開度を算出した開度Kに調整する。
【0055】
本実施形態によると、バルブ5の開閉状態の変更時に、ポンプ26によって送出される水の流量(水量)が補正される。バルブ5の開閉状態の変更によって送風温度が変化するが、水量が補正されることで、送風温度の変化が抑制される。これにより、空調制御システムA2は、バルブ5の開閉の切り替え時に、ユーザが違和感を感じることを抑制できる。
【0056】
第1~3実施形態から理解されるように、バルブ5の開閉状態の変更時に補正される空調制御値は限定されない。送風温度を変化させられる空調制御値であれば、補正量算出部34が算出した補正量によって補正することで、同様の効果を奏することができる。ただし、最も精度よく、送風温度を調整できるのはエアミックスドア22の開度なので、第1実施形態に係る空調制御システムA1が望ましい。
【0057】
本発明に係る空調制御システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る空調制御システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0058】
A1,A2,A3:空調制御システム
2 :HVAC
20 :ブロア
21 :エバポレータ
22 :エアミックスドア
23 :ヒータコア
24,241:配管
25 :ヒータ
26 :ポンプ
3 :空調制御装置
31 :風量設定部
32 :開度設定部
33 :バルブ開閉部
34 :補正量算出部
35 :開度補正部
36 :風量補正部
37 :水量設定部
38 :水量補正部
4 :電池パック
5 :バルブ
61,62,63:温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8