(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088401
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】膜形成装置
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20240625BHJP
A61C 3/025 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C23C24/04
A61C3/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203541
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000130776
【氏名又は名称】株式会社サンギ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石崎 勉
【テーマコード(参考)】
4C052
4K044
【Fターム(参考)】
4C052AA17
4C052BB12
4C052HH08
4K044AB10
4K044BA11
4K044BA12
4K044BB16
4K044CA23
4K044CA29
4K044CA71
(57)【要約】
【課題】PJD法を用いた膜形成装置による成膜を良好にする。
【解決手段】膜形成装置10は、所定の粒径の粉体80を分級するように構成された分級装置41と、分級された粉体80を気体の流れによって搬送するように構成された流路50と、流路50の終端であり、気体中に分散した粉体80を対象物に向けて噴出するように構成された噴出口21と、分級装置41の内部の粉体80の通路又は流路50に配置され、進行方向に開口62を通過した粉体80の少なくとも一部が前方の接触部63に衝突するように構成された複数の開口62と複数の接触部63とを形成する構造体61を含むフィルタ60とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の粒径の粉体を分級するように構成された分級装置と、
分級された前記粉体を気体の流れによって搬送するように構成された流路と、
前記流路の終端であり、前記気体中に分散した前記粉体を対象物に向けて噴出するように構成された噴出口と、
前記分級装置の内部の前記粉体の通路又は前記流路に配置され、進行方向に開口を通過した粉体の少なくとも一部が前方の接触部に衝突するように構成された複数の前記開口と複数の前記接触部とを形成する構造体を含むフィルタと
を備える膜形成装置。
【請求項2】
前記分級装置は、粒径が10μm以下の前記粉体を分級するように構成されている、請求項1に記載の膜形成装置。
【請求項3】
前記開口の寸法の代表値は、1~2mmである、請求項1又は2に記載の膜形成装置。
【請求項4】
前記フィルタを設けたことによる噴射量率は、50~70%である、請求項1又は2に記載の膜形成装置。
【請求項5】
前記噴出口を有し、操作者によって把持されるハンドピースをさらに備え、
前記フィルタは、前記ハンドピース内の前記流路に設けられている、
請求項1又は2に記載の膜形成装置。
【請求項6】
前記フィルタは、前記分級装置に設けられている、請求項1又は2に記載の膜形成装置。
【請求項7】
前記フィルタは、無膜ポリウレタンフォームで形成されている、請求項1又は2に記載の膜形成装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の膜形成装置を有する歯科用の処置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常温大気圧環境下で微小な粉体を対象物に高速で吹き付けることで、当該対象物の表面に膜を形成するパウダージェットデポジション(PJD)法が知られている。歯科分野においても、PJD法によりハイドロキシアパタイトの微小粒子を歯牙に吹き付けることで、歯牙の表面に膜が形成されることが知られている。このような技術について、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、PJD法を用いた膜形成装置による成膜を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、膜形成装置は、所定の粒径の粉体を分級するように構成された分級装置と、分級された前記粉体を気体の流れによって搬送するように構成された流路と、前記流路の終端であり、前記気体中に分散した前記粉体を対象物に向けて噴出するように構成された噴出口と、前記分級装置の内部の前記粉体の通路又は前記流路に配置され、進行方向に開口を通過した粉体の少なくとも一部が前方の接触部に衝突するように構成された複数の前記開口と複数の前記接触部とを形成する構造体を含むフィルタとを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、PJD法を用いた膜形成装置による成膜を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る処置システムの構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、気体中に分散した粉体の進行方向に向けて見たフィルタの構造体の構造のごく一部を模式的に示す拡大図である。
【
図3A】
図3Aは、フィルタに用いられるパンチングメタルの構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図3B】
図3Bは、パンチングメタルにより構成されたフィルタの構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態に係る処置システムのハンドピースの構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、第3の実施形態に係る処置システムの分級装置の構成例の概略を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係るごく粗目フィルタの顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、実施例に係る各フィルタについての、孔径及び線径の計測結果と、セル数のカタログ値と、フィルタを用いない場合と比較した粉体の噴射量率と、成膜実験により得られた成膜状態とを示す。
【
図8】
図8は、膜形成装置による噴出口からの粉体の噴射量と噴射時間との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、フィルタを設けなかった膜形成装置を用いて形成された成膜層の表面の写真と、ごく粗目フィルタを設けた膜形成装置を用いて形成された成膜層の表面の写真とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の実施形態]
第1の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、膜を形成するように構成された膜形成装置に関する。この膜形成装置では、常温大気圧環境下において対象物に粉体を吹き付けて当該対象物に当該粉体を付着させて膜を形成するパウダージェットデポジション(PJD)法が用いられている。すなわち、本実施形態は、常温大気圧下において微小な粉体を対象物に噴射することで、対象物の表面に膜を形成する膜形成装置に関する。
【0009】
膜形成装置の用途はこれに限らないが、本実施形態は、一例として、この膜形成装置を歯科用の処置システムに適用したものである。すなわち、本実施形態は、常温大気圧下において微小な無機粉体を歯牙に噴射することで、歯牙の表面に膜を形成する歯科用の処置システムに関する。この処置システムは、例えば、窩洞の充填、露出した象牙細管の封鎖、変色した歯の色調改善などに用いられ得る。
【0010】
〈システムの構成〉
図1は、本実施形態の処置システム1の構成例の概略を模式的に示す図である。処置システム1は、膜形成装置10を備える。膜形成装置10は、被処置者91の歯牙93に向けて粉体80を噴射して当該歯牙93に当該粉体80を付着させて成膜するように構成された装置である。膜形成装置10は、ハンドピース20と、気体供給ユニット30と、粉体供給ユニット40とを備える。
【0011】
ハンドピース20は、操作者によって把持されるように構成された部分である。ハンドピース20は、その先端に噴出口21を有する。ハンドピース20は、噴出口21から粉体80を噴射するように構成されている。
【0012】
気体供給ユニット30は、ハンドピース20及び粉体供給ユニット40に気体を供給するように構成されている。この気体は、例えば空気又は窒素などのガスである。
【0013】
粉体供給ユニット40は、粉体80を分級するように構成された分級装置41を有する。分級装置41は、気体供給ユニット30から供給された気体中に粉体80を分散させながら、粉体80を分級する。粉体供給ユニット40は、分級装置41で分級された粉体80を、気体供給ユニット30から供給された気体中に分散させた状態でハンドピース20に供給するように構成されている。
【0014】
粉体80は、本実施形態では一例として、ハイドロキシアパタイト(HAP)の粒子である。粉体供給ユニット40は、気体供給ユニット30から供給された気体を用いて、例えば、0.1μmから500μmのHAP粒子を分級する。成膜効率を考慮すると、0.1μmから10μmのHAP粒子を得ることがさらに好ましい。分級されたHAP粒子の粉体80は、気体供給ユニット30から供給された気体中に分散された状態でハンドピース20に供給される。
【0015】
ハンドピース20には、気体流路23と粉体流路24とが設けられている。気体流路23には、気体供給ユニット30から気体が供給される。粉体流路24には、粉体供給ユニット40から気体中に分散した粉体80が供給される。ハンドピース20は、気体供給ユニット30から供給された気体を、気体流路23を介して噴出口21から高速で噴出させる。ハンドピース20は、この高速の気体に粉体流路24を介して粉体供給ユニット40から供給された粉体80を混合し、噴出口21から粉体80を高速で噴出させる。
【0016】
このように、粉体供給ユニット40から終端の噴出口21に至るまで、分級された粉体80を気体の流れによって搬送するように構成された流路50が形成されている。
【0017】
本実施形態の膜形成装置10では、流路50の何れかの位置にフィルタ60が設けられている。フィルタ60を形成する構造体は、次のような構造を有する。すなわち、構造体は、進行方向に開口を通過した粉体80の少なくとも一部が前方の接触部に衝突するように構成された、複数の開口と複数の接触部とを形成する。
【0018】
構造体61の形状の一例について、
図2を参照して説明する。
図2は、気体中に分散した粉体80の進行方向に向けて見た構造体61の構造のごく一部を模式的に示す拡大図である。すなわち、気体中に分散した粉体80は、
図2における紙面手前側から奥側に向けて搬送される。この方向から見たときに、構造体61は、手前に開口62が設けられており、その開口62の奥に接触部63が設けられている構造を有する。ここで、奥の接触部63を形成する構造体61は、別の開口62を形成する構造体61であり得る。気体中に分散した粉体80の一部は、開口62通過する。この粉体80の一部は、開口62を通過した後に接触部63に衝突する。
【0019】
これに限らないが、例えば、直径が10μm程度、例えば0.1~10μm、好ましくは、3~10μmの粉体80に対して、開口62の大きさは、例えば、1~2mm程度であり得、好ましくは、1.5~2.0mmである。このとき、開口62や接触部63を形成する構造体61の幅は、例えば0.2~0.4mm程度であり得、好ましくは、0.3~0.4mmである。ここで示した開口62及び構造体61の寸法は、その代表値であり、例えば開口62の重心を通る距離として計測される開口62の最も大きいところ又は最も小さいところの値であってもよく、それらの平均値などであってもよい。
【0020】
フィルタ60のこのような構造は、粉体80の進行方向に対して垂直な方向に、流路50全体を塞ぐように面状に広がっている。また、このような構造は、複数層にわたって重ねられ得る。例えば、厚さが10mm程度であり、3~8層程度設けられていてもよい。
【0021】
フィルタ60は、例えば、無膜ポリウレタンフォームといった多孔質体であってもよい。このウレタンフォームの密度は、例えば25~35kg/m3程度であってもよい。また、ウレタンフォームは、例えば、セルが10mmあたり3~8個程度あるといったセルの密度を有するものであってもよい。
【0022】
また、フィルタ60は、
図3Aに模式的に示すような金属板66に多数の貫通孔67が設けられたパンチングメタル65によって形成されていてもよい。
図3Bに模式的に示すように、パンチングメタル65が複数枚間隔をあけて設けられることで、フィルタ60が形成され得る。この場合、パンチングメタル65は、フィルタ60を形成する構造体61として、貫通孔67を通過した粉体の少なくとも一部が前方の金属板66に衝突するように配置される。
【0023】
〈システムの動作〉
処置システム1の動作について説明する。術者は、ハンドピース20を把持して、噴出口21を被処置者91の歯牙93に向ける。術者による操作によって、以下が行われる。気体供給ユニット30から粉体供給ユニット40に供給された気体によって、粉体供給ユニット40内でHAP粒子が分級され、例えば10μm以下の粉体80が気体中に分散した状態でハンドピース20に供給される。この粉体流路24を介して供給された粉体80は、気体供給ユニット30から気体流路23を介して供給された気体によって加速され、噴出口21から歯牙93に向けて噴射される。歯牙93の表面に衝突した粉体80は、歯牙93の表面に付着し、歯牙93の表面に膜が形成される。
【0024】
PJD法では、所定の均一な粒径を有する粉体80を噴出することで、成膜効率がよくなることが知られている。一方で、微小な粉体80は、凝集しやすい。本実施形態の処置システム1では、流路50にフィルタ60が設けられていることで、粉体80が凝集しても、開口62よりも大きな凝集体は、開口62を通り抜けられずにはじかれる。この際、凝集体が解砕されることもある。開口62を通り抜ける凝集体のうち大きいものは、開口62を通り抜けたのちに接触部63に衝突して砕かれる。したがって、フィルタ60を通過した粉体80は、例えば3~10μmなどといった、よくそろった所定の粒径を有する。その結果、このようなフィルタ60がない場合と比較して、成膜効率が向上する。
【0025】
また、流路50内を通過する粉体80は、その濃度が高いと凝集しやすい。凝集した粉体80又は濃度が高い粉体80を歯牙93の表面に噴射した場合、口腔内で膜を形成しない粉体80が飛散することで、その後に噴射される粉体80の歯牙93の表面への接触が阻害され、粉体80は効率よく歯牙93の表面に接触することができない。また、凝集により粒径がそろった均一な粒子を歯牙93の表面に供給することができない。これらのことが、成膜効率の低下の要因の一つとして考えられる。
【0026】
本実施形態の処置システム1では、流路50にフィルタ60が設けられていることで、粉体80の一部が、開口62を通り抜けられずにはじかれることによって、粉体80の濃度調整がされる。
【0027】
この処置システム1では、このフィルタ60によって、流路50にフィルタ60を設けない場合と比較して、噴出口21から噴射される粉体80の噴射量が、50~70%に調整される。より好適には、噴射量は60~70%に調整される。噴射量が50%未満の場合、成膜に時間がかかりすぎて実用的ではなく、更にはフィルタ60を通過できない粉体80がフィルタ60の上流側で滞留し、フィルタ60の目詰まりが生じやすくなるなどの不具合が生じる。また、噴射量が70%を超えた場合、粉体80の濃度が高くなりすぎるため、上述したように、歯牙93の表面に粉体80を効率よく接触させることができなくなるとともに、均一な粒径を有する粉体80を歯牙93の表面に供給できずに、成膜層の表面形状が悪くなる。
【0028】
このように、本実施形態の処置システム1は、フィルタ60を用いることで、歯牙93の表面に噴射される粉体80をほぼ粒径がそろった均一な粒子とするとともに、粉体80の濃度を調整することで、歯面に粉体80を効率よく接触させることが可能となり、成膜効率が向上する。
【0029】
[第2の実施形態]
第2の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態では、
図4に模式的に示すように、フィルタ60は、ハンドピース20内の流路50に設けられている。特に、フィルタ60は、噴出口21の近傍に、配置されている。
【0030】
このような位置にフィルタ60が配置されることで、フィルタ60を通過することで粒径が均一化された粉体80が、再凝集する前に歯牙93に向けて噴出される。その結果、噴出口21から離れた位置にフィルタ60が設けられている場合と比較して、再凝集による成膜効率の低下が抑制され、さらに成膜効率が向上する。
【0031】
[第3の実施形態]
第3の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について説明し、同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。第3の実施形態では、
図5に模式的に示すように、フィルタ60は、分級装置41内の粉体80が通り抜ける位置に設けられている。
【0032】
分級装置41は、縦長の容器43を備え、この容器43内には、粉体80と気体とを容器43の下方に吹き込む導入管44が設けられている。容器43の上方には粉体80と気体とが流出する流出口45が設けられている。流出口45は、ハンドピース20へとつながる流路50に接続されている。
【0033】
導入管44から粉体80と気体とが吹き込まれることで、粉体80は舞い上がる。このとき、粉体80のサイズに応じて舞い上がる高さが異なることで、粉体80が分級される。本実施形態の分級装置41では、容器43の例えば上下方向の中程の位置にフィルタ60が設けられている。上述のとおり、大きく凝集した粉体80はフィルタ60を通過することができず、また、フィルタ60を通過する際に凝集した粉体80は砕かれる。したがって、フィルタ60よりも下流側の部屋47(上側の部屋)では、フィルタ60よりも上流側の部屋46(下側の部屋)よりも粒径が小さく、かつ、粒径がそろった粉体80が存在することになる。さらに、フィルタ60が粉体80の通過量を制御することで、下流側の部屋47では、粉体80の濃度が制御されたものとなる。粉体80の濃度が適切に調整されることは、膜形成装置10による良好な成膜に貢献する。したがって、この点においても、分級装置41にフィルタ60が設けられることは好ましい。
【0034】
フィルタ60が設けられた分級装置41を含む粉体供給ユニット40から供給される気体中に分散した粉体80では、粉体80の粒径がそろっているとともに、粉体80の濃度が高精度に制御される。その結果、本実施形態の膜形成装置10によれば、第1の実施形態の膜形成装置10の場合と比較して、さらに成膜効率が向上する。
【0035】
なお、第1の実施形態から第3の実施形態まで、フィルタ60を設ける位置として3つの位置を示したが、これに限らず、フィルタ60は粉体80が通るどのような位置に設けられてもよい。また、フィルタ60は、複数個所に設けられてもよい。例えば、噴出口21の近傍と分級装置41の内部とに設けられてもよい。この場合、第3の実施形態として示したように、適切に分級され、濃度が制御された状態の気体に分散した粉体80が、フィルタ60が設けられた分級装置41によって得られ、それがハンドピース20に供給される。なおかつ、搬送中に再凝集した粉体80があったとしても再凝集した粉体80は、第2の実施形態として示したように、噴出口21の近傍に設けられたフィルタ60によって解砕され、噴出口21から噴出される粉体80は、粒径がよく揃い、濃度も制御されたものとなり得る。
【実施例0036】
上述の第3の実施形態の構成を有する膜形成装置10を用いて、フィルタ60に関する実験を行った。実験には、セルサイズが異なる4種類のポリエステル系の無膜ポリウレタンフォーム(イノアックコーポレーション製;MF-50, MF20, MF-13, MF-8)をフィルタ60として用いた。セルが小さいものから順にそれぞれ、細目フィルタ、中目フィルタ、粗目フィルタ、ごく粗目フィルタと称することにする。
【0037】
それぞれのフィルタを顕微鏡で観察し、開口62の孔径と構造体61の線径とを測定した。これらフィルタの厚さを10mmとし、
図5に模式的に示したように、分級装置41内に取り付けた。粉体80をHAP粒子とし、その目標粒径を3~10μmとし、膜形成装置10を用いて、成膜を行った。また、比較実験として、分級装置41内にフィルタを取り付けずに、同様の実験を行った。
【0038】
図6は、ごく粗目フィルタの顕微鏡写真である。
図6に示されるように、フィルタ60を形成する構造体61が、立体的な網目状の構造を有していることが分かる。構造体61は、開口62を通過した粉体80の少なくとも一部が前方の接触部63に衝突するように構成された、複数の開口62と複数の接触部63とを形成している。
【0039】
図7は、それぞれのフィルタについての、孔径及び線径の計測結果と、製品説明書に記載されたセル数と、フィルタを用いない場合と比較した粉体の噴射量の率と、成膜実験により得られた成膜の状態とを示す。
図7に孔径及び線径として示すように、細目、中目、粗目、ごく粗目の順に、目が粗いほど、フィルタの構造を形成する構造体61の線径は太くなり、形成される開口62の孔径も大きくなっている。
【0040】
図8は、膜形成装置10による、噴出口21からの粉体80の噴射量と噴射時間との関係を示す図である。
図8は、他の条件を等しくして、膜形成装置10に、ごく粗目フィルタを設けた場合と、フィルタを設けなかった場合との測定結果を示す。この図に示すように、ごく粗目フィルタを設けた場合、フィルタを設けなかった場合と比較して粉体80の噴射量は低下するが、グラフの傾きが一定となっていることから、定量的な噴射が可能であること明らかになった。ごく粗目フィルタを設けた場合の粉体80の噴射量は、約0.7g/minであり、粉体80の噴射量率は、フィルタを設けなかった場合の約65%であった。なお、粗目フィルタを設けた場合の粉体80の噴射量率は、フィルタを設けなかった場合の約60%に制御され、中目フィルタを設けた場合の粉体80の噴射量率は、フィルタを設けなかった場合の約50%に制御された。
【0041】
図9は、フィルタを設けなかった膜形成装置10を用いて形成された成膜層の表面の写真と、ごく粗目フィルタを設けた膜形成装置10を用いて形成された成膜層の表面の写真とを示す。ごく粗目フィルタを設けた場合、フィルタを設けなかった場合と比較して、成膜層の表面形状が滑らかになった。これは、凝集したHAP粒子がごく粗目フィルタを通過する際に解砕され、粉体80の粒径が均一化したこと、粉体80の濃度調整による粉体80の再凝集が抑制されたこと、及び粉体80の無駄な飛散が防止されたことによるものと考えられる。
【0042】
図7にまとめられているように、フィルタ60として、細目フィルタが用いられたとき、フィルタ60が目詰まりを起こし、膜形成装置10は良好に機能しなかった。粉体80の粒径は3~10μmとしているにもかかわらず、孔径0.5mmのフィルタ60が目詰まりしたことから、フィルタ60の上流側でHAP粒子は凝集していると考えられた。
【0043】
フィルタ60として、中目フィルタ、粗目フィルタ又はごく粗目フィルタが用いられたとき、膜形成装置10は機能した。成膜状態については、粗目フィルタ又はごく粗目フィルタが用いられたときに良好な結果が得られた。このように、フィルタ60の孔径は、1~2mmが好ましく、1.5mm~2.0mmがさらに好ましいことが明らかになった。
【0044】
なお、フィルタ60の孔径が1mm未満の場合、目詰まりが発生しやすく、フィルタ60の孔径が2mmを超える場合、成膜率が低下する。孔径が2mmを超える場合、粉体80の粒径が拡大することや粒径の均一性が損なわれることによるものと考えられる。
【0045】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。