(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088413
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】錠剤、錠剤の製造方法、および錠剤の安定化方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240625BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240625BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240625BHJP
A61K 9/24 20060101ALI20240625BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/20
A61K47/12
A61K9/24
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203555
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真実
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA40
4C076BB01
4C076CC27
4C076DD43
4C076FF63
4C076GG14
4C076GG16
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】パルボシクリブの含有割合が高くても、パルボシクリブの安定性が維持されている、パルボシクリブおよびコハク酸を含む錠剤等を提供する。
【解決手段】本発明の錠剤は、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む。錠剤中のパルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合は35質量%以上である。パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩とコハク酸とは互いに異なる区画に存在する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤であって、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上であり、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩と前記コハク酸とが互いに異なる区画に存在する、錠剤。
【請求項2】
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を有する、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記錠剤は、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とを含む、多層錠剤または有核錠剤である、請求項1に記載の錠剤。
【請求項4】
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の粒子の比表面積が3m2/g以上である、請求項1に記載の錠剤。
【請求項5】
パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤の製造方法であって、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上であり、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とを設けて打錠する打錠工程を含む、錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記打錠工程は、以下の工程(A)~(C)から選択される少なくとも1つの工程である、請求項5に記載の製造方法:
(A)前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない層と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない層とを積層して打錠する工程;
(B)前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない内核に、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程;
(C)前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない内核に、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程。
【請求項7】
前記打錠工程は、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成後、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩と前記コハク酸とを混合して打錠する工程である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤において、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とに分けて含有させる工程を含み、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上である、錠剤中のパルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の安定化方法。
【請求項9】
前記錠剤が多層錠剤または有核錠剤である、請求項8に記載の安定化方法。
【請求項10】
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成させる工程を含む、請求項8または9に記載の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤に関する。本発明はまた、当該錠剤の製造方法、および当該錠剤の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルボシクリブは、化学名が6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-{[5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル]アミノ}ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンである低分子化合物である。パルボシクリブは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4および6に対して阻害活性を有し、イブランス(登録商標)の名称で抗悪性腫瘍剤として使用されている。
【0003】
パルボシクリブはpH依存性の溶解性を有する塩基性化合物であり、薬物動態学的特性が対象によってばらつくことが知られており、パルボシクリブを含む製剤の改善が要求されている。例えば、特許文献1は、パルボシクリブならびにコハク酸、リンゴ酸および酒石酸からなる群から選択される水溶性酸を含む固形剤形によって、パルボシクリブの実質的なpH非依存性の送達を可能にすることを開示する。また、パルボシクリブならびにコハク酸、リンゴ酸および酒石酸からなる群から選択される水溶性酸を含む固形剤は良好な貯蔵安定性を示すことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含む製剤において、コハク酸などの有機酸により目標とする送達プロファイルを得るためには、特定量の有機酸を製剤中に添加する必要がある。一方でコハク酸はパルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩と反応し不純物を生成する問題がある。そのため特定量のコハク酸を含む錠剤中でパルボシクリブの含有割合を高くすると、パルボシクリブとコハク酸との接触面積が増え、パルボシクリブの安定性が損なわれることが懸念される。一方、決められた量の有効成分を投与するための医薬品において、パルボシクリブの含有割合を低くするには、パルボシクリブ以外の添加剤を増量する必要があるため、錠剤のサイズが患者にとって服用しやすい範囲を超えるという問題が生じる。したがって、パルボシクリブとコハク酸とを含む錠剤に関し、錠剤中のパルボシクリブの含有割合を高くする場合にさらなる改善が求められている。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、パルボシクリブの含有割合が高くても、パルボシクリブの安定性が維持されている、パルボシクリブおよびコハク酸を含む錠剤等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、パルボシクリブおよびコハク酸を含む錠剤において、パルボシクリブとコハク酸とを互いに異なる区画に存在させることを見出した。これにより、パルボシクリブの含有割合が高くても、パルボシクリブの類縁物質等の不純物の生成が低減されることを見出した。そして、パルボシクリブの安定性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下の構成を包含する。
<1>パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤であって、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上であり、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩と前記コハク酸とが互いに異なる区画に存在する、錠剤。
<2>前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を有する、<1>に記載の錠剤。
<3>前記錠剤は、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とを含む、多層錠剤または有核錠剤である、<1>または<2>に記載の錠剤。
<4> 前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の粒子の比表面積が3m2/g以上である、<1>~<3>のいずれかに記載の錠剤。
<5>パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤の製造方法であって、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上であり、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とを設けて打錠する打錠工程を含む、錠剤の製造方法。
<6>前記打錠工程は、以下の工程(A)~(C)から選択される少なくとも1つの工程である、<5>に記載の製造方法:
(A)前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない層と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない層とを積層して打錠する工程;
(B)前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない内核に、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程;
(C)前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない内核に、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程。
<7>前記打錠工程は、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成後、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩と前記コハク酸とを混合して打錠する工程である、<5>または<6>に記載の製造方法。
<8>パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩、およびコハク酸を含む錠剤において、
前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない区画と、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない区画とに分けて含有させる工程を含み、
前記錠剤中の前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の含有割合が35質量%以上である、錠剤中のパルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩の安定化方法。
<9>前記錠剤が多層錠剤または有核錠剤である、<8>に記載の安定化方法。
<10>前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成させる工程を含む、<8>または<9>に記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、パルボシクリブの含有割合が高くても、パルボシクリブの安定性が維持されている、パルボシクリブおよびコハク酸を含む錠剤等を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
〔1.錠剤〕
本発明の一態様に係る錠剤(以下、「本錠剤」と示す場合がある)は、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩およびコハク酸を含む。
【0011】
(パルボシクリブ)
パルボシクリブは、化学名が6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-{[5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル]アミノ}ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンである化合物である。パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩は、本錠剤の有効成分である。以下、「パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩」を、「有効成分」と示す場合がある。
【0012】
本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、医学的に、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等がなく、ヒトまたはその他の哺乳動物の組織と接触させて使用するのに適した塩を意味する。
【0013】
パルボシクリブの薬学的に許容される塩は、当該技術分野において周知であり、任意のものが使用可能である。パルボシクリブの薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;リジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩等が挙げられる。
【0014】
本錠剤中の有効成分の粒度は、D50が1~18μm、D90が3~24μmであることが好ましい。
【0015】
本錠剤中の有効成分の比表面積は、3m2/g以上であることが好ましく、3~10m2/gであることがより好ましく、4~8m2/gであることがさらに好ましい。有効成分の比表面積が上記の範囲であることにより、製剤の溶出性が向上する。
【0016】
有効成分の比表面積が大きくなると、錠剤中の有効成分の安定性が悪くなることが知られている。しかしながら、本錠剤中の有効成分およびコハク酸は互いに異なる区画に存在するため、有効成分の比表面積が上記の範囲であっても、有効成分の安定性を維持することができる。「互いに異なる区画」については後述する。
【0017】
本錠剤中の有効成分の含有割合は、本錠剤の質量を基準として、35質量%以上である。本錠剤中の有効成分の含有割合の好ましい範囲は40.3~95質量%であり、より好ましい範囲は40.3~70質量%である。
【0018】
本錠剤中の有効成分の含有量は、その治療目的により適宜調整されるが、例えば、10~200mg(例えば、10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mgまたは200mg)であり、好ましくは、20~150mgであり、より好ましくは、25~125mgである。
【0019】
(コハク酸)
コハク酸を本錠剤に含ませることによって、有効成分の溶出改善につながる。また、コハク酸を本錠剤に含ませることによって、生体内のpH環境を酸性環境に調整することができる。
【0020】
本錠剤中のコハク酸の含有割合は、本錠剤の質量を基準として、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは、5~30質量%であり、さらに好ましくは、7~25質量%である。
【0021】
本錠剤中のコハク酸の含有量は、有効成分の含有量と所望の送達プロファイルに合わせて適宜調節されるが、例えば、1~90mgであり、好ましくは、5~80mgであり、より好ましくは、10~70mgである。
【0022】
本錠剤中の有効成分の含有量が25mgの場合、コハク酸の含有量は、1~25mgであってもよく、5~20mgであってもよく、10~15mgであってもよい。また、本錠剤中の有効成分の含有量が125mgの場合、コハク酸の含有量は、50~75mgであってもよく、55~70mgであってもよく、60~65mgであってもよい。
【0023】
(その他の成分)
本錠剤は、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩およびコハク酸以外の成分として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、可塑剤および着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、D-マンニトール、乳糖(例えば、乳糖水和物)、白糖、コーンスターチ(トウモロコシデンプン)、リン酸カルシウム、ソルビット、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
【0025】
結晶セルロースの例として、セオラスKG-1000、セオラスUF-702およびセオラスPH-101(いずれも、旭化成株式会社製)、等が挙げられる。
【0026】
軽質無水ケイ酸の例として、AEROSIL(登録商標)200(日本アエロジル株式会社製)、アドソリダー(登録商標)101(フロイント産業株式会社製)、等が挙げられる。
【0027】
結合剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「ヒプロメロース」とも称する。)、ポビドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、N-ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、またはこれらの重合体の組み合わせ、アルファー化デンプン、ゼラチン、カンテン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、カオリン、二酸化チタン等の不活性物質、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、軽質無水ケイ酸、細かく粉砕した二酸化ケイ素、フマル酸ステアリルナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0029】
ステアリン酸マグネシウムは一般であってもよいし、軽質であってもよい。
【0030】
崩壊剤としては、特に限定されないが、例えば、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、バレイショデンプン等が挙げられる。
【0031】
クロスポビドンの例として、コリドンCL-F(BASFジャパン株式会社製)、ポリプラスドンINF-10(ISP社製)、ポリプラスドンXL-10(ISP社製)等が挙げられる。
【0032】
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、黄色を呈する着色剤(例えば、黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号アルミニウムレーキ、ベンガラ等)、赤色を呈する着色剤(例えば、三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号等)、黒色を呈する着色剤(例えば、黒酸化鉄、カーボンブラック、薬用炭等)、青色を呈する着色剤(例えば、青色2号アルミニウムレーキ等)、カラメル等が挙げられる。
【0033】
本錠剤中の添加剤の含有量は、特に限定されることなく、従来公知の技術に基づいて、適宜設定され得る。
【0034】
(錠剤における有効成分およびコハク酸の配置)
本錠剤において、有効成分とコハク酸とが互いに異なる区画に存在する。本明細書において、「有効成分とコハク酸とが互いに異なる区画に存在する」とは、有効成分とコハク酸とが互いの接触を積極的に避ける製剤設計により隔てられた区画を意味する。
【0035】
有効成分とコハク酸とが互いに異なる区画に存在することによって、有効成分とコハク酸との接触面積を減らすことができる。当該接触面積を減らすことによって、不純物の生成が低減され、本錠剤の安定性(例えば、貯蔵安定性)が向上する。不純物の例として、パルボシクリブの類縁物質等が挙げられる。パルボシクリブの類縁物質は、パルボシクリブの総類縁物質であってもよいし、パルボシクリブの特定の類縁物質であってもよい。パルボシクリブの特定の類縁物質の例として、パルボシクリブのアミド体が挙げられる。
【0036】
上記区画の例として、多層錠剤の各層が挙げられる。本錠剤が多層錠剤である場合、当該多層錠剤は、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない層(以下、「有効成分層」と示す場合がある)と、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない層(以下、「コハク酸層」と示す場合がある)とを含む。多層錠剤は、有効成分層およびコハク酸層以外に、その他の層を含んでいてもよい。例えば、有効成分層とコハク酸層との間に、有効成分およびコハク酸を実質的に含まない層を設けることによって、有効成分とコハク酸との接触面積をさらに減らすことができる。
【0037】
また、上記区画の例として、有核錠剤の内核および外層が挙げられる。本錠剤が有核錠剤である場合、当該有核錠剤は、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない外層と、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない内核とを含む。また、当該有核錠剤には、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない外層と、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない内核とを含む。
【0038】
本明細書において、「成分Aを含み、成分Bを実質的に含まない区画(例えば、層)」とは、成分Aを含む区画中、錠剤の製造において不可避的に混入した程度の量の成分Bを含んでいてもよいことを意味する。成分Aを含む区画中の成分Bの含有割合の範囲は、区画中の成分Aの質量を基準として、例えば、15質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であってもよい。
【0039】
また、上記区画の例として、コーティング層によって隔てられた、コーティング層内の区画とコーティング層外の区画が挙げられる。この場合、有効成分またはコハク酸の一方の表面にコーティング層を有する。また、有効成分およびコハク酸がコーティング層を有する場合も、コーティング層によって、コーティング層内の有効成分およびコハク酸それぞれは区画によって隔てられている。すなわち、有効成分およびコハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を有する錠剤は、本錠剤の一態様に含まれる。上記コーティング層を有する錠剤は、単層錠剤、多層錠剤または有核錠剤であってもよい。
【0040】
上記コーティング層を形成する成分として、ヒドロキシプロピルセルロース等のコーティング剤;ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体の結合剤;タルク;等が挙げられる。
【0041】
上記コーティング層中のコーティング剤または結合剤の量は、コーティングされる成分の質量を基準として、例えば、40~95質量%であり、好ましくは、55~90質量%であり、より好ましくは、65~80質量%である。
【0042】
上記コーティング層の量は、コーティングされる有効成分および/またはコハク酸の質量を基準として、例えば、5~200質量%であり、好ましくは、10~150質量%であり、より好ましくは、15~100質量である。
【0043】
(錠剤の形状)
本錠剤の形状は、特に限定されることなく、どのような形状も採用することができる。例えば、円形、楕円形、球形、棒状型、ドーナツ型の形状等であり得る。
【0044】
本錠剤の硬度は30~300Nであることが好ましい。また円形の錠剤の場合、その厚み(錠厚)は、例えば、1~10mmであり、好ましくは、4~8mmであり、その直径は、特に限定されないが、取扱い性の観点から、例えば、4~20mmであり、好ましくは、5~16mmである。楕円形の錠剤の場合、その厚み(錠厚)は、例えば、1~10mmであり、好ましくは、2~8mmであり、その長径は、特に限定されないが、取扱い性の観点から、例えば、5~20mmであり、好ましくは、6~16mmであり、その短径は特に限定されないが、取扱い性の観点から、例えば、3~12mmであり、好ましくは、4~10mmである。
【0045】
本錠剤の質量は、有効成分の含有量によって適宜調整されるが、例えば、30~1000mgであることが好ましく、40~600mgであることがより好ましく、50~350mgであることがさらに好ましい。上記範囲の質量である錠剤は、服用し易いという効果を奏する。上記範囲の質量であっても、本錠剤は、有効成分とコハク酸とが互いに異なる区画に存在するため、有効成分とコハク酸の接触面積が増加せず、有効成分の安定性は維持される。
【0046】
本錠剤中の有効成分の含有量が25mgの場合、錠剤の質量は、30~100mgであってもよく、40~85mgであってもよく、50~70mgであってもよい。また、本錠剤中の有効成分の含有量が125mgの場合、錠剤の質量は、100~600mgであってもよく、150~500mgであってもよく、200~400mgであってもよい。
【0047】
(錠剤のコーティング)
本錠剤は、必要に応じて、さらにコーティングされていてもよい。錠剤のコーティングに使用されるコーティング剤は特に限定されないが、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「ヒプロメロース」とも称する。)、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。また適宜遮光剤や可塑剤を加えてコーティングしてもよい。遮光剤としては、例えば、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、青色2号アルミニウムレーキ等が挙げられる。可塑剤としては、トリアセチン、マクロゴール、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、クエン酸トリエチル等が挙げられる。
【0048】
本錠剤のコーティングに使用されるコーティング剤の量は適宜増減されるが、例えば、錠剤質量に対して1~10質量%の範囲の量でコーティングされる。
【0049】
また、本錠剤は、必要に応じて、PTP包装、ビン充填、アルミ包装等により包装されていてもよい。
【0050】
PTP包装の素材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン又はポリカーボネート等の樹脂や、アルミニウム等の金属が挙げられる。これらの素材は、一種類で用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよい。組み合わせの例としては、例えば、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとを積層すること、または、ポリ塩化ビニルとポリクロロトリフルオロエチレンとを積層すること等が挙げられる。上記の樹脂を公知の方法で成形した樹脂シートの、成形したポケットに本錠剤を入れ、アルミニウム箔を用いて蓋をすることで、包装することができる。
【0051】
本錠剤が収容されたPTP包装は、更にアルミピローによって包装されていてもよい。このアルミピローには、更に乾燥剤が収容されていてもよい。乾燥剤としては、例えば、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカゲルまたはゼオライト等が挙げられる。
【0052】
〔2.錠剤の製造方法〕
本発明の一態様に係る錠剤の製造方法(以下、「本製造方法」と示す場合がある)は、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない区画と、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない区画とを設けて打錠する打錠工程を含む。本製造方法において、各構成要素(例えば、「有効成分(パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩)」「コハク酸」)の説明は、〔1.錠剤〕に記載したものが援用される。
【0053】
(打錠工程)
上記打錠工程は、例えば、以下の工程(A)~(C)から選択される少なくとも1つの工程であってもよい。
(A)有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない層と、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない層とを積層して打錠する工程;
(B)コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない内核に、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程;
(C)前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含み、前記コハク酸を実質的に含まない内核に、前記コハク酸を含み、前記パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を実質的に含まない外層を配置して打錠する工程。
【0054】
(工程(A))
工程(A)においては、有効成分層と、コハク酸層とを積層する。工程(A)によって、2層以上の多層構造を有する多層錠剤が得られる。有効成分層、および、コハク酸層それぞれは、添加剤を含んでいてもよい。また、有効成分またはコハク酸を、添加剤と造粒または整粒等の処理をした処理物を積層させてもよい。
【0055】
積層後、打錠することによって多層錠剤を得ることができる。
【0056】
(工程(B)および(C))
工程(B)においては、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない内核に、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない外層を配置させる。工程(C)においては、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない内核に、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない外層を配置させる。工程(B)または(C)によって、内核(内核部)および外層(外殻部)の2つの部位から形成される有核錠剤が得られる。
【0057】
工程(B)および(C)においては、有効成分またはコハク酸について、添加剤と造粒または整粒等の処理をした処理物を内核または外層としてもよい。
【0058】
工程(B)および(C)においては、内核を構成する成分を圧縮成形後、外層を配置して打錠してもよい。
【0059】
また、上記打錠工程は、例えば、有効成分およびコハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成後、有効成分とコハク酸とを混合して打錠する工程(以下、「工程(D)」と示す場合がある)であってもよい。本打錠工程において、コーティング層の説明は、〔1.錠剤〕に記載したものが援用される。
【0060】
(工程(D))
工程(D)においては、有効成分およびコハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成させる。例えば、コーティング層を形成させたい成分に、コーティング層を形成する成分を含むコーティング液を噴霧および乾燥させることによって、コーティング層を形成させたい成分にコーティング層を形成させることができる。噴霧および乾燥条件は、コーティング液の組成または粘度等に応じて、適宜設定すればよい。コーティング層が形成される成分を添加剤と造粒または整粒等の処理をした処理物にコーティング層を形成させてもよい。
【0061】
工程(D)においては、コーティング層を形成後、有効成分とコハク酸とを混合して打錠する。当該混合において、コーティング層が形成された成分、および、コーティング層が形成されていない成分と添加剤との混合物を混合してもよい。コーティング層が形成されていない成分と添加剤との混合物は、乾式造粒等の造粒または整粒等の処理を行ってもよい。
【0062】
工程(D)においては、単層錠剤、多層錠剤または有核錠剤として打錠してもよい。有効成分の安定性がより向上する点で、多層錠剤または有核錠剤として打錠することが好ましい。
【0063】
本製造方法における打錠圧力は、錠剤の処方、種類または形状等により適切に調整できるが、例えば、3~20kNの範囲であることが好ましい。
【0064】
本製造方法において、上記工程の他に、錠剤の製造において実施される任意の工程を行ってもよい。任意の工程の例として、錠剤に水溶性高分子を含むフィルム等を積層させてコーティングする工程等が挙げられる。
【0065】
〔3.錠剤の安定化方法〕
本発明の一態様に係る錠剤の安定化方法(以下、「本安定化方法」と示す場合がある)は、本錠剤中の有効成分の安定化方法である。本安定化方法は、有効成分を含み、コハク酸を実質的に含まない区画と、コハク酸を含み、有効成分を実質的に含まない区画とに分けて含有させる工程を含む。本安定化方法において、各構成要素(例えば、「有効成分(パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩)」「コハク酸」)の説明は、〔1.錠剤〕および〔2.錠剤の製造方法〕に記載したものが援用される。
【0066】
本安定化方法は、上述の通り、有効成分とコハク酸とを異なる区画に存在させ、有効成分とコハク酸との接触面積を減らすことにより、不純物の生成を低減する。そして、不純物の生成の低減によって、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤の安定性を向上させることができる。したがって、本安定化方法は、安定性が向上した、パルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩を含む錠剤を設計するうえで、極めて有用である。
【0067】
例えば、本錠剤が多層錠剤または有核錠剤であることにより、有効成分とコハク酸とを異なる区画に存在させることができるので、有効成分とコハク酸との接触面積が減り、不純物の生成が低減される。
【0068】
また、有効成分およびコハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成させることによっても、有効成分とコハク酸とを異なる区画に存在させることができる。よって、有効成分とコハク酸との接触面積が減り、不純物の生成が低減される。
【0069】
さらに、本錠剤が多層錠剤または有核錠剤である場合、本安定化方法にパルボシクリブまたはその薬学的に許容される塩および前記コハク酸から選択される少なくとも1つの成分の表面にコーティング層を形成させる工程が含まれると、有効成分の安定性をより向上させるという効果を奏する。
【0070】
本錠剤中の不純物の量は、例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0072】
本発明の一実施例について以下に説明する。以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0073】
〔実施例1〕二層錠剤の調製
以下の手順1~3に従って、二層錠剤を調製した。
【0074】
(手順1)パルボシクリブ混合末(1層目)の調製
パルボシクリブ(原薬)、結晶セルロース(旭化成株式会社製、セオラスKG-1000)、軽質無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(登録商標)200)およびクロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL-F)を、表1に示す量で粗混合し、篩過後、混合して倍散末を得た。
【0075】
次に、倍散末とステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表1に示す量で混合して、滑沢剤混合末を得た。得られた滑沢剤混合末を乾式造粒後、整粒して整粒末を得た。得られた整粒末、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、クロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL)およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表1に示す量で混合し、混合末(1層目)を得た。
【0076】
(手順2)コハク酸混合末(2層目)の調製
コハク酸、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表1に示す量で混合し、混合末(2層目)を得た。
【0077】
(手順3)打錠
混合末(1層目)および混合末(2層目)を積層打錠(打錠圧力:4kN)することによって、二層錠剤が得られた。二層錠剤中のパルボシクリブの含有割合は42.4%であった。
【0078】
【0079】
〔実施例2〕コーティング層を有するコハク酸を含む単層錠剤の調製
以下の手順1~3に従って、コーティング層を有するコハク酸を含む単層錠剤を調製した。
【0080】
(手順1)パルボシクリブ顆粒の調製
パルボシクリブ(原薬)、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、軽質無水ケイ酸(AEROSIL200)およびクロスポビドン(コリドンCL-F)を、表2に示す量で粗混合し、篩過後、混合して倍散末を得た。
【0081】
次に、倍散末とステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表2に示す量で混合して、滑沢剤混合末を得た。得られた滑沢剤混合末を乾式造粒後、整粒して顆粒を得た。
【0082】
(手順2)コーティング層を有するコハク酸顆粒の調製
コハク酸、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製、HPC-SL)およびクロスポビドン(アシュランド社製、ポリプラスドンINF-10)を表2に示す量で高速撹拌混合機に投入して混合した。次に、精製水とエタノール(99.5)とを混和して得られた50%エタノールを混合機に加えて、造粒した。得られた造粒物を流動層造粒乾燥機に投入して乾燥後、得られた乾燥末を整粒することによってコハク酸造粒末を得た。
【0083】
精製水とエタノール(99.5)とを混和して70%エタノール溶液を調製した。当該エタノール溶液に2.94gのヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL)を溶解してから、0.94gのタルク(日本タルク株式会社製、MICRO ACE P-3)を分散させて、コーティング液を得た。
【0084】
コハク酸造粒末を流動層造粒乾燥機に投入後、コーティング液をスプレーコーティングし、乾燥させることによって、コーティング層を有するコハク酸顆粒を得た。
【0085】
(手順3)打錠
顆粒、コハク酸顆粒、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、クロスポビドン(コリドンCL-F)およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を、表2に示す量で混合した。混合物を、打錠(打錠圧力:4kN)することによって、単層錠剤が得られた。単層錠剤中のパルボシクリブの含有割合は38.4%であった。また、コハク酸をコーティングするコーティング層の量は、コハク酸量を基準として、20%であった。
【0086】
【0087】
〔実施例3〕コーティング層を有するコハク酸を含む単層錠剤の調製
手順2において、コーティング液の調製に使用するヒドロキシプロピルセルロースおよびタルクを表2に示す量に変更した以外は、実施例2と同様にして単層錠剤を調製した。単層錠剤中のパルボシクリブの含有割合は36.7%であった。また、コハク酸をコーティングするコーティング層の量は、コハク酸量を基準として、35%であった。
【0088】
〔実施例4〕二層錠剤の調製
(手順1)パルボシクリブ混合末(1層目)の調製
パルボシクリブ(原薬)、結晶セルロース(旭化成株式会社製、セオラスUF-702)、軽質無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(登録商標)200)およびクロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL-F)を、表3に示す量で撹拌造粒機に投入して混合した。次に、精製水にヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)を溶解して、造粒液を得た。
【0089】
混合末に造粒液をスプレーして造粒し、得られた造粒物を流動層造粒乾燥機に投入して乾燥後、得られた乾燥末を整粒することによってパルボシクリブ顆粒を得た。
【0090】
次に、得られた顆粒、結晶セルロース(セオラスUF-702)、クロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL)およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表3に示す量で混合し、混合末(1層目)を得た。
【0091】
(手順2)コハク酸混合末(2層目)の調製
粉砕したコハク酸、結晶セルロース(セオラスPH-101)、およびクロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL)を表3に示す量で流動層造粒乾燥機に投入し、混合した。粉砕したコハク酸の粒子径(D50)は16μmであった。粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置MS3000(Malvern社製)によって測定した。
【0092】
次に、精製水にヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SL)を溶解して、造粒液を得た。
【0093】
混合末に造粒液をスプレーして造粒し、乾燥後、得られた乾燥末を整粒することによってコハク酸顆粒を得た。
【0094】
次に、得られた顆粒、結晶セルロース(セオラスUF-702)、クロスポビドン(BASFジャパン株式会社製、コリドンCL)およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表3に示す量で混合し、混合末(2層目)を得た。
【0095】
(手順3)打錠
混合末(1層目)および混合末(2層目)を積層打錠(打錠圧力:4kN)することによって、二層錠剤が得られた。二層錠剤中のパルボシクリブの含有割合は42.6%であった。
【0096】
【0097】
〔比較例1〕単層錠剤の調製
以下の手順1~2に従って、単層錠剤を調製した。
【0098】
(手順1)パルボシクリブ顆粒の調製
パルボシクリブ(原薬)、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、軽質無水ケイ酸(AEROSIL200)およびクロスポビドン(コリドンCL-F)を、表4に示す量で粗混合し、篩過後、混合して倍散末を得た。
【0099】
次に、倍散末とステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を表4に示す量で混合して、滑沢剤混合末を得た。得られた滑沢剤混合末を乾式造粒後、整粒して顆粒を得た。
【0100】
(手順2)打錠
顆粒、コハク酸、結晶セルロース(セオラスKG-1000)、クロスポビドン(コリドンCL)およびステアリン酸マグネシウム(一般グレード)を、表4に示す量で混合した。混合物を、打錠(打錠圧力:4kN)することによって、単層錠剤が得られた。単層錠剤中のパルボシクリブの含有割合は42.4%であった。
【0101】
【0102】
〔評価例1〕パルボシクリブの比表面積の評価
JIS Z8830:2013に準拠する比表面積の測定方法に従って、実施例および比較例で使用したパルボシクリブ(原薬)の比表面積を測定した。比表面積の測定条件を表5に示す。
【0103】
【0104】
測定の結果、実施例および比較例で使用したパルボシクリブ(原薬)の比表面積は4.0864m2/gであった。
【0105】
〔評価例2〕パルボシクリブの貯蔵安定性の評価
実施例1~3および比較例1の錠剤について、それぞれ以下の条件1で保存したときのパルボシクリブの貯蔵安定性の評価を行った。また、実施例1および比較例1の錠剤については、以下の条件2または3で保存したときのパルボシクリブの貯蔵安定性についても評価を行った。
・条件1:70℃で9日間、両面AL包装条件で保存
・条件2:40℃75%RHで1か月、両面AL包装条件で保存
・条件3:25℃75%RHで1か月、開放条件で保存
【0106】
上記条件1~3で保存した各錠剤中のパルボシクリブの類縁物質(コハク酸アミド体)の量をHPLCによって測定した。
【0107】
(HPLC用試料溶液の調製)
試験組成物をそれぞれ褐色メスフラスコに投入し、100mL容のメスフラスコを使用した。
【0108】
試験組成物が投入された褐色メスフラスコに水で100倍希釈されたリン酸を50mL投入した。
【0109】
超音波処理後、アセトニトリルでメスアップした。メスアップ後の溶液を3000rpmで、10℃において5分間遠心分離し、上澄みを回収した。回収した上澄みを5mL回収し、20mL容の褐色メスフラスコに投入した。そして、希釈液でメスアップし、パルボシクリブの濃度が約0.3mg/mLである試料溶液を調製した。希釈液として、水で100倍希釈されたリン酸とアセトニトリルとが1:1の割合で混合された液を使用した。
【0110】
(HPLCによる総類縁物質の測定)
以下に示す条件で、HPLCによって総類縁物質の測定を行った。
・HPLC:株式会社島津製作所製 LC-20A
・検出器:紫外吸光光度計
・測定波長:364nm
・カラム:YMC-Triart PEP、4.6mm×150mm、3μm
・カラム温度:40℃付近の一定温度
・移動相A:リン酸二水素カルシウム2.72gを水1000mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.5に調製された溶液
・移動相B:アセトニトリル
・流量:約1.0mL/min
・注入量(試料溶液):10μL
・サンプルクーラー温度:10℃
上記HPLCの測定における移動相AおよびBのグラジエントを表6に示す。表6中の移動相AおよびBの数値は、移動相(溶離液)に含まれる移動相AおよびBの割合(%)を示す。
【0111】
【0112】
(崩壊試験)
実施例1および比較例1の錠剤について崩壊試験を行った。崩壊時間は第17改正日本薬局方に記載される試験方法に基づき測定した。
【0113】
パルボシクリブのコハク酸アミド体の測定結果を表7に示す。表7中、「initial」は、安定性評価開始前の錠剤の試験結果である。
【0114】
【0115】
表7に示すように、実施例1~3の錠剤はいずれも、パルボシクリブのコハク酸アミド体の増加量が、比較例1の錠剤に比べて抑制されていた。これらの結果から、パルボシクリブとコハク酸とを異なる区画に存在させると、類縁物質の抑制が抑制されることが分かった。すなわち、パルボシクリブおよびコハク酸を含む錠剤において、パルボシクリブとコハク酸とを異なる区画に存在させることによって、パルボシクリブの貯蔵安定性を向上させることが分かった。
【0116】
また、実施例1の錠剤は比較例1の錠剤と同等の崩壊性を有していることが分かった。