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特開2024-88426推定方法、推定プログラム、推定装置、および水硬性組成物用添加剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088426
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】推定方法、推定プログラム、推定装置、および水硬性組成物用添加剤
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20240625BHJP
B28C 7/00 20060101ALI20240625BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240625BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240625BHJP
【FI】
G06Q50/04
B28C7/00
G06Q10/04
G06Q50/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203576
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大石 卓哉
【テーマコード(参考)】
4G056
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056DA05
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC03
5L049CC07
5L050CC03
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】好適な性能を発現する水硬性組成物用添加剤を推定する。
【解決手段】水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物用添加剤の特性を推定する推定方法であって、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、
前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記説明変数が、
水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、
前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含む請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含む請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項5】
前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項6】
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項7】
前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、
二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成する請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含む請求項6または7に記載の推定方法。
【請求項9】
水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定プログラムであって、
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項10】
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項11】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、
前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置。
【請求項12】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置。
【請求項13】
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、
前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造されることを特徴とする水硬性組成物用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定方法、推定プログラム、および推定装置、ならびに水硬性組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートなどの水硬性組成物は、砂や砂利などの骨材、セメントなどの結合材、および水を主たる材料として調製され、さらに添加剤が配合されることが一般的である。かかる添加剤は、たとえば、水硬性組成物の流動性、空気量、強度、および粘度、などの諸性質の改善を目的として使用される。水硬性組成物用添加剤は、たとえば特許文献1~3に例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-45007号公報
【特許文献2】国際公開第2021/024853号
【特許文献3】特開2020-15656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水硬性組成物用添加剤の開発は、古典的な実験科学的手法に頼らざるを得なかった。すなわち、候補となる組成物の製造と評価とを繰り返しながら、好適な性能を発現する組成物を絞り込む必要があった。しかし、水硬性組成物用添加剤には多数の構成成分が含まれるため、各構成成分の化学種および構成比率は多岐にわたり、無限大に存在する候補から好適な組成物を見出すことが求められた。そのため、新規の水硬性組成物用添加剤の開発には、膨大な工数、時間、および費用を要していた。
【0005】
そこで、好適な性能を発現する水硬性組成物用添加剤を推定しうる推定方法、推定プログラム、および推定装置の実現が求められる。また、当該推定方法を活用して製造された新しい水硬性組成物用添加剤も所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第一の推定方法は、水硬性組成物用添加剤の特性を推定する推定方法であって、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第一の推定プログラムは、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第一の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および評価を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0010】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の性能に特に影響が大きいことが多い化学種情報および割合情報を考慮した推定がなされるので、精度が高い推定結果が得られやすい。
【0012】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できる。
【0014】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な水硬性組成物用添加剤を導き出すことができる。
【0016】
本発明に係る第一の推定方法は、一態様として、前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な水硬性組成物用添加剤を導き出すことができる。
【0018】
本発明に係る第二の推定方法は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第二の推定プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第二の推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする。
【0021】
これらの構成によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0022】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する最適化アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0024】
本発明に係る第二の推定方法は、一態様として、前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含むことが好ましい。
【0025】
この構成によれば、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を経て、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0026】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程と、を備える製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、好適な性能を発現する期待度が高い水硬性組成物用添加剤を、従来に比べて容易に実現できる。
【0028】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【
図3】実施例3における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る推定方法、推定プログラム、推定装置、および水硬性組成物用添加剤の実施形態について説明する。
【0031】
〔水硬性組成物用添加剤に係る説明変数および目的変数〕
本実施形態に係る推定方法では、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、を取り扱う。推定方法の実施形態の説明に先立ち、説明変数および目的変数について説明する。
【0032】
(説明変数)
水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物に対して何らかの機能を付与する目的で使用される組成物であり、たとえば界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性)、空気連行剤(AE剤)、消泡剤、収縮低減剤、遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、防腐剤、および防錆剤などの成分(化合物)を含む。このうち界面活性剤としては、ポリカルボン酸エーテル系化合物、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、およびポリアルコキシエーテル系化合物、またはこれらの混合物、が例示されるが、これらに限定されない。各成分の化学種、組合せ、含有割合、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状などは、水硬性組成物用添加剤の性能(目的変数)に影響を与えうる説明変数である。
【0033】
また、水硬性組成物用添加剤を製造する工程に係る工程条件も、水硬性組成物用添加剤の性能(目的変数)に影響を与えうる。したがって、たとえば、各成分を生じさせる反応における反応方法、反応温度、反応時間、反応圧力、反応容器の容量および形状、攪拌速度、触媒の有無、触媒の種類および濃度、反応雰囲気、ならびに原料を添加する順序などの諸条件や、各成分を混合する際の温度、圧力、容器の容量および形状、攪拌速度、助剤の有無、助剤の種類および濃度、ならびに原料を添加する順序などの諸条件、といった事項が、説明変数になりうる。
【0034】
なお、水硬性組成物用添加剤を適用する対象の水硬性組成物に係る条件を、説明変数とすることも可能である。かかる条件としては、セメントの種類、比表面積、および化学組成、細骨材の種類、密度、粒子径分布、および表面水率、粗骨材の種類、密度、表面水率、および最大寸法、混和材の種類、比表面積、および化学組成、水硬性組成物の使用温度および使用湿度、水硬性組成物を混練する際の装置の種類、混練速度、混練時間、および混練量、水硬性組成物の配合条件(設計基準強度、目標スランプ、水セメント比、細骨材率、各材料の単位量、減水成分の添加量、ならびに、特殊成分の有無、化学種、および添加量、など)、養生時の方法、温度、湿度、および時間、などが例示されるが、これらに限定されない。一方、これらの条件を前提条件として固定した上で、水硬性組成物用添加剤自身の製造条件を示す説明変数のみを考慮してもよい。
【0035】
なお、説明変数は、学習済みモデルを生成するために使用されるので、定量化されていることが好ましい。たとえば、水硬性組成物用添加剤に含まれる成分(化合物)の化学種により決定づけられる化学種情報を説明変数として取り扱う場合は、化学種の名称を示す文字列を化学種情報としてもよいが、分子記述子を化学種情報とすることが好ましい。分子記述子は、化学種の分子構造をSMILES記法、SMARTS記法、InChI記法、などの記法で表した上で、RDKit、Dragon、などの公知のツールを用いて求めることができる。
【0036】
(目的変数)
水硬性組成物用添加剤が水硬性組成物に対して何らかの機能を付与する目的で使用されるところ、その目的が果たされるか否かを評価した変数が、目的変数である。すなわち目的変数は、水硬性組成物用添加剤の性能を示す物性値でありうる。かかる物性値としては、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、ならびに、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性などが例示され、これらはいずれも目的変数でありうる。
【0037】
上記に例示した項目を含む目的変数を特定する方法は、当該目的変数を一義的に特定できる方法である限りで、特に限定されない。たとえば、JIS規格、ASTM規格、ISO規格等の工業規格や、取引者間で独自に定めた規格、などが存在する項目を目的変数とする場合は、これらの規格に従って特定される物性値を目的変数とすることができる。また、特に工業規格が存在しない項目であっても、当該項目を一義的に決定できるのであれば、目的変数として取り扱いうる。
【0038】
〔学習済みモデル〕
上記に説明した説明変数と目的変数との間には、相関がある。たとえば、水硬性組成物の流動性(目的変数の例である。)は、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の化学種、濃度など(説明変数の例である。)と相関があることが知られている。この例のように、説明変数と目的変数との関係は、理論的または経験的に、知られているか、または予測可能である部分がある。しかし、本実施形態において取扱対象とする水硬性組成物用添加剤は、多くの場合において数多くの成分の混合物であり、その説明変数は多岐にわたる。そのため、水硬性組成物用添加剤に係る説明変数と目的変数との相関を人が特定することは非現実的であるか、または非常に困難である。そこで本実施形態では、説明変数と目的変数との複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成し、これを活用する。
【0039】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0040】
〔第一の実施形態〕
第一の実施形態に係る推定方法は、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定方法であって、モデル生成工程と推定工程とを備える。なお、第一の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0041】
モデル生成工程は、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成する工程である。第一の実施形態では、説明変数と目的変数との対応関係が実験やシミュレーションなどの方法によって明らかにされているデータ群を、教師データとして使用する。
【0042】
教師データを実験によって得る場合、まず、製造条件、すなわち説明変数が異なる水硬性組成物用添加剤を複数作製する。このとき、説明変数として使用する製造条件を記録しておく。次に、作製した複数の水硬性組成物用添加剤について、当該水硬性組成物用添加剤に要求される性能を表す物性値、すなわち目的変数を測定し、これを記録する。以上の操作により、説明変数と目的変数との複数の組である教師データが得られる。なお、教師データを構成する変数の一部または全部をシミュレーションによって得てもよいが、学習済みモデルを利用することなく説明変数と目的変数との関係を明らかにできるのであれば、学習済みモデルを生成する利益が小さいことに留意するべきである。
【0043】
得るべき教師データの数は、使用する説明変数と目的変数との組合せ、要求される推定の精度、学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズム、などに応じて適宜決定されうる。
【0044】
モデル生成工程において、説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、当該化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種およびその含有割合は、水硬性組成物用添加剤の性能を決定づける要素として特に支配的だからである。また、前述のように化学種の分子構造から求められる分子記述子を化学種情報とすると、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できるため、より好ましい。
【0045】
目的変数は、本実施形態に係る推定方法の目的に応じた物性値が選択されうる。上記に例示した物性値は、いずれも本実施形態に係る推定方法における目的変数の好ましい例である。
【0046】
得られた教師データに対して上記のアルゴリズムを適用して、学習済みモデルを得る。典型的には、得られた教師データの一部を訓練データとして学習済みモデルを得るとともに、残りをテストデータとして得られた学習済みモデルの検証を行う。このとき、得られた学習済みモデルの妥当性が低い場合は、学習に用いる説明変数の数を変更する、説明変数に主成分分析等による次元削減を施す、教師データを追加または変更する、アルゴリズムを適用する際のパラメータを変更する、などの措置を行い、学習済みモデルの妥当性の向上を図る。なお、教師データに対して適宜前処理を加えてもよい。
【0047】
推定工程は、生成工程において生成した学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件(以下、所与の製造条件と称する。)を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する工程である。
【0048】
従来は、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の性能を検証するためには、実際に水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および物性測定を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0049】
なお、上記の生成工程および推定工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。
【0050】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態に係る推定方法は、複数の説明変数の候補の中から、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する推定方法であって、生成工程、推定工程、および出力工程を備える。なお、第二の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0051】
第二の実施形態に係る推定方法では、生成済みの学習済みモデルを使用する。ここでは、第一の実施形態に係る推定方法のモデル生成工程において生成された学習済みモデルを使用するものとして説明する。
【0052】
生成工程は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する工程である。本実施形態に係る推定方法では、最終的に、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力することになるが、生成工程ではその候補群となる説明変数を生成する。
【0053】
生成工程において説明変数を複数生成する方法、および生成される説明変数の数は特に限定されない。ただし、生成工程において生成する説明変数が多いほど、推定工程および出力工程における演算処理量が増加する一方で、好適な解が得られる可能性が高くなる。説明変数の生成は、人為的な方法により、または演算処理により実施されうるが、これらに限定されない。
【0054】
推定工程は、学習済みモデルを用いて、生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する工程である。第一の実施形態における推定工程と比較すると、学習済みモデルに与えられる説明変数の出自に差があるが、学習済みモデルに説明変数を与えて目的変数の推定値を得る、という手順自体は同一である。
【0055】
出力工程は、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する工程である。所定の基準は、たとえば、水硬性組成物用添加剤に望まれる性能に基づいて決定される基準である。出力工程において出力される解は、一例として、単数または複数の所定の物性値が所定の基準値を超える説明変数、所定の物性値についての順位が所定の基準値を超える説明変数、などの基準で選択された説明変数でありうる。
【0056】
出力工程では、まず、推定工程において出力された複数の説明変数のうち、所定の基準を満たす目的変数を特定する。次に、特定された目的変数について、その目的変数を出力するために学習済みモデルに入力された説明変数を特定する。そして、ここで特定された説明変数が、解として出力される。
【0057】
従来は、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤を得るためには、種々の製造条件による種々の水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定し、製造条件と性能との相関を明らかにして、好適な製造条件を特定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0058】
なお、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。さらに、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に加えて、出力工程において解として出力された説明変数に基づいて水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程を備える製造方法によって水硬性組成物用添加剤が製造された場合、その水硬性組成物用添加剤も本発明の一つの実施形態である。
【0059】
(変形例1:最適化アルゴリズムの利用)
より好適な解を得るためには、生成工程および推定工程を複数回実行することが好ましい。一例として、遺伝的アルゴリズム(最適化アルゴリズムの一例である。)を用いる方法を説明する。
【0060】
一回目の生成工程および推定工程の手順は、上記の説明の通りである。ここで、一回目の生成工程において生成された説明変数の群を第一世代の説明変数群といい、一回目の推定工程において出力された目的変数の群を第一世代の目的変数群ということにする。ここで、第一世代の目的変数群のうち、出力工程における所定の基準への適応度が上位にある所定数の目的変数を特定し、特定された目的変数を与える説明変数の群を特定する。これを、第一世代の解ということにする。なお、以降もn回目に生成される説明変数群、目的変数群、および解について、第n世代の用語を用いる。
【0061】
第一世代の解は、第一世代の説明変数群のうち好適な性能(目的変数)の水硬性組成物用添加剤を与える説明変数の群であるから、第一世代の解が得られている時点で、好適な製造条件がある程度絞り込まれているといえる。その一方で、第一世代の解は、あくまで第一世代の説明変数群から選択された好適範囲であり、取りうる説明変数群の全体に対する好適範囲ではない。そのため、第一世代の説明変数群自体が好適な範囲を大きく外れている場合は、第一世代の解は、取りうる説明変数群の全体の中では、それほど好適な範囲だと言えない可能性がある。また、第一世代の解の中においても、最適化の余地が残されている場合がある。
【0062】
そこで、二回目の生成工程では、第一世代の解に基づいて再び説明変数群(第二世代の説明変数群)を複数生成する。具体的には、第一世代の解を中心として探索範囲を広げる形で、説明変数群を生成する。すなわち、第一世代の説明変数群が、手がかりがない、または手がかりが乏しい状態で取りうる説明変数群の全体から網羅的に抽出された説明変数の候補であるのに対し、第二世代の説明変数群は、第一世代の解という一応の指針に基づいて絞り込まれた範囲から抽出された説明変数の候補である。したがって、第二世代の説明変数群は、第一世代の説明変数群に比べて、より好適な解を含む期待度が高いといえる。
【0063】
このように生成された第二世代の説明変数群を用いて二回目の推定工程を実施すると、第二世代の目的変数群が得られる。また、一回目と同様に、第二世代の解も得られる。以下同様に、生成工程と推定工程とを繰り返して、第三世代、第四世代と順次世代を重ねていくと、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0064】
なお、ここまで最適化アルゴリズムの一例として遺伝的アルゴリズムを適用した例を説明したが、利用可能な最適化アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムに限定されない。たとえば、ベイズ最適化、最急降下法なども、利用可能な最適化アルゴリズムの例である。
【0065】
(変形例2:学習済みモデルの再生成)
上記のように生成工程、推定工程、および出力工程を実施すると、解(第一の解と称する。)として説明変数が出力される。ここで出力される説明変数は、好適な性能(目的変数)の水硬性組成物用添加剤の製造条件を示すことが期待されるものではあるが、実際に当該製造条件により製造された水硬性組成物用添加剤が、実際には好適な性能を発現しない場合がある。この場合は、学習済みモデルの精度に改善の余地があるといえる。
【0066】
そこで、モデル再生成工程をさらに実施することが好ましい。モデル再生成工程は、第一の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、学習済みモデルを再生成する工程である。すなわち、第一の解として出力された説明変数に対する実際の評価(典型的には実験的な実証)を加えて、その結果を反映して学習済みデータを再生成(更新)するのである。
【0067】
なお、再生成工程を実施して学習済みモデルを再生成したのちは、生成工程、推定工程、および出力工程を再度実施して、再び解(第二の解と称する。)を得てもよい。再生成工程を経て学習済みモデルを再生成しているので、第二の解は、第一の解とは異なる可能性がある。そして、再生成工程を経て学習済みモデルの精度が向上していることが期待されるので、第二の解は、第一の解に比べてより好適な解であることが期待される。
【0068】
なお、第二の解によっても満足な性能が得られない場合は、第二の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を用いてモデル再生成工程を再び行えばよい。すなわち、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を繰り返して、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0069】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0070】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0071】
〔実施例1〕強度増進剤の最適組成の推定
(教師データ)
含まれる化合物の化学種および含有割合が異なる水硬性組成物用添加剤を46種類作製した。それぞれの水硬性組成物用添加剤について、水、セメント、細骨材としての砂、粗骨材としての砂利、および水硬性組成物用添加剤を常法により混合した水硬性組成物を調製した。それぞれの水硬性組成物についてJIS A 1108:2018に従って材齢1日時点の圧縮強度を測定し、水硬性組成物用添加剤を使用していない場合の圧縮強度を基準とした圧縮強度比を算出した。測定結果に基づいて、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種に係る化学種情報、各化合物の含有割合に係る割合情報、水硬性組成物用添加剤の製造条件に関する製造条件情報、および、水硬性組成物に係る条件に関する組成物情報、を説明変数とし、圧縮強度比を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0072】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。モデル生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレスト回帰の5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、たとえばfr_Al_OH(脂肪族ヒドロキシ基の数)、fr_COO(カルボン酸の数)、PEOE_VSA2(静電的相互作用の度合い)であり、いずれも結合材(ここではセメントをいう。)への吸着において影響を与える説明変数であるので、これらはいずれも圧縮強度比との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0073】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図1に示す。
図1に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、圧縮強度比の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定された圧縮強度比の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.88であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0074】
(説明変数群の生成)
次に、好適な水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。水硬性組成物用添加剤の化学種情報、割合情報、製造条件情報、および組成物情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される圧縮強度比の値が大きい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0075】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いて圧縮強度比を推定した。得られた圧縮強度比の推定値のうち、大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される圧縮強度比は115%であり、第二候補の説明変数から推定される圧縮強度比は113%だった。
【0076】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物の圧縮強度比を実際に測定した。圧縮強度比の実測値は、第一候補の製造条件について108%であり、第二候補の製造条件について105%だった。第一候補および第二候補のいずれについても、圧縮強度比の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の圧縮強度比との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0077】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて圧縮強度比を推定した。一回目の推定と同様に大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される圧縮強度比は121%であり、第四候補の説明変数から推定される圧縮強度比は118%だった。
【0078】
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定を行った。圧縮強度比の実測値は、第三候補について120%であり、第四候補について118%だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、圧縮強度比の推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0079】
なお、従来の実験的手法により圧縮強度比の最大化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに35点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では圧縮強度比が115%であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
【0080】
〔実施例2〕減水成分の最適組成の推定
(教師データ)
含まれる化合物の化学種および含有割合が異なる水硬性組成物用添加剤を90種類作製した。それぞれの水硬性組成物用添加剤について、水、セメント、細骨材としての砂、粗骨材としての砂利、および水硬性組成物用添加剤を常法により混合した水硬性組成物を調製した。それぞれの水硬性組成物について、調製直後および調製60分後のスランプ値をJIS A 1101に従って測定し、調製直後のスランプ値から調製60分後のスランプ値を引いた値(以下「ΔSL」と称する。)を決定した。測定結果に基づいて、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種に係る化学種情報、各化合物の含有割合に係る割合情報、各化合物を生じさせる反応の条件に係る反応条件情報(特に、使用したモノマー、重合開始剤、および連鎖移動剤の化学種および量に関する情報を含む。)、水硬性組成物用添加剤の製造条件に関する製造条件情報、および、水硬性組成物に係る条件に関する組成物情報、を説明変数とし、ΔSLを目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0081】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。モデル生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレスト回帰の5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、例えば水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の質量平均分子量、fr_COO(カルボン酸の数)、PEOE_VSA3(静電的相互作用の度合い)であり、いずれも結合材(ここではセメントをいう。)への吸着において影響を与える説明変数であるので、これらはいずれも水硬性組成物の流動性との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0082】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図2に示す。
図2に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、ΔSLの実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定されたΔSLの推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.63であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0083】
(説明変数群の生成)
次に、好適な水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。水硬性組成物用添加剤の化学種情報、割合情報、反応条件情報、製造条件情報、および組成物情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定されるΔSLの値が小さい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0084】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いてΔSLを推定した。得られたΔSLの推定値のうち、小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定されるΔSLは2.4cmであり、第二候補の説明変数から推定されるΔSLは2.8cmだった。
【0085】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物のΔSLを実際に測定した。ΔSLの実測値は、第一候補の製造条件について4.0cmであり、第二候補の製造条件について4.5cmだった。第一候補および第二候補のいずれについても、ΔSLの推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測のΔSLとの組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0086】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いてΔSLを推定した。一回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定されるΔSLは1.1cmであり、第四候補の説明変数から推定されるΔSLは1.4cmだった。
【0087】
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定を行った。ΔSLの実測値は、第三候補について1.0cmであり、第四候補について1.4cmだった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、ΔSLの推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0088】
なお、従来の実験的手法によりΔSLの最小化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに20点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定)を要した。従来の実験的手法を経て得られた対照試料ではΔSLが1.2cmであり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
【0089】
〔実施例3〕水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の質量平均分子量の最適化
以下では、本実施形態に係る推定方法を、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤(ここではポリカルボン酸エーテル系化合物をいう。)の質量平均分子量の推定に適用した実施例について説明する。ポリカルボン酸エーテル系化合物を水硬性組成物用添加剤用途に用いる場合、その質量平均分子量が20000付近であると結合材(ここではセメントをいう。)への吸着性が良好であることが、経験的に知られている。本実施例では、質量平均分子量が20000付近のポリカルボン酸エーテル系化合物を与える製造条件を推定することを目的とする。なお、本実施例における好適な質量平均分子量の設定は一例にすぎず、適用対象の水硬性組成物用の態様等の条件によって好適な質量平均分子量が変わりうることに留意されたい。
【0090】
(教師データ作成用試料)
水硬性組成物用添加剤に含まれるポリカルボン酸エーテル系化合物について、原料(不飽和ポリアルキレングリコール単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和ポリアルキレングリコール単量体と共重合可能なビニル単量体、重合開始剤、および連鎖移動剤)の化学種および割合が異なるものを27種類作製した。
【0091】
(質量平均分子量の測定)
上記の27種類のポリカルボン酸エーテル系化合物のそれぞれについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による質量平均分子量測定を行った。測定条件を以下に示す。
<測定条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)
カラム:OHpak SB-G+SB-806M HQ+SB-806M HQ(昭和電工社製)
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7mL/分
カラム温度:40℃
試料濃度:試料濃度0.5質量%の溶離液溶液
標準物質:PEG/PEO(アジレント・テクノロジー社製)
【0092】
(教師データ)
測定結果に基づいて、ポリカルボン酸エーテル系化合物の化学種に係る第一化学種情報、ポリカルボン酸エーテル系化合物の原料(不飽和ポリアルキレングリコール単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和ポリアルキレングリコール単量体と共重合可能なビニル単量体、重合開始剤、および連鎖移動剤)の化学種および割合に関する原料情報、および、ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件に関する製造条件情報、を説明変数とし、質量平均分子量を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0093】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。学習済みモデルの生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレストの5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、例えばfr_SH(チオール基の数)、製造時の反応温度、および製造時の反応時間であり、いずれもポリカルボン酸エーテル系化合物の原料の反応性に影響を与える説明変数であるので、これらはいずれもポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0094】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図3に示す。
図3に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、ポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定されたポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.96であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0095】
(説明変数群の生成)
次に、好適な質量平均分子量を有するポリカルボン酸エーテル系化合物を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。ポリカルボン酸エーテル系化合物の第一化学種情報、ポリカルボン酸エーテル系化合物の原料情報、および製造条件情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される質量平均分子量が20000に近い順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0096】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いてポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量を推定した。得られた質量平均分子量の推定値のうち、20000に近い順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される質量平均分子量は18000であり、第二候補の説明変数から推定される質量平均分子量は17500だった。
【0097】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従ってポリカルボン酸エーテル系化合物を実際に製造し、得られたポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量を実際に測定した。質量平均分子量の実測値は、第一候補の製造条件について17400であり、第二候補の製造条件について17000だった。第一候補および第二候補のいずれについても、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の質量平均分子量との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0098】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて質量平均分子量を推定した。一回目の推定と同様に20000に近い順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される質量平均分子量は20100であり、第四候補の説明変数から推定される質量平均分子量は19800だった。
【0099】
第三候補および第四候補についても同様に、ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定を行った。質量平均分子量の実測値は、第三候補について20200であり、第四候補について19500だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が縮小した。また、初期の学習済みモデルでは、得られる最適解における質量平均分子量が18000であり、ベンチマークとして設定した値(20000)からの乖離が比較的大きかったが、再生成した学習済みモデルにおける最適解ではベンチマーク値に近い質量平均分子量20100が得られた。これらの点から、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0100】
なお、従来の実験的手法により質量平均分子量の最適化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに12点の実験(ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では質量平均分子量が18500であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により求められる解を超える性能のポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準の解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができた。
【0101】
また、実施例1および2では水硬性組成物用添加剤全体の製造条件について学習モデルを用いた推定を行ったのに対し、実施例3では、水硬性組成物用添加剤の中心的な構成成分であるポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件に限定して学習モデルを用いた推定を実施した。実施例3では、質量平均分子量が20000付近のポリカルボン酸エーテル系化合物が水硬性組成物用添加剤用途に好ましい、という既知の知見を活用して、学習モデルを用いた推定の対象とする範囲を実施例1および2に比べて減縮した、といえる。これによって、推定の実施に要するハードウェア資源や演算時間などを小規模化できる。また、教師データを得るための試料についても、実施例3では水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物の調製を行う必要がないため、実施例1および2に比べて手順が簡略化されている。加えて、実施例3の試料および学習済みデータを、ポリカルボン酸エーテル系化合物を水硬性組成物用添加剤以外の用途に用いる場合と共用できる可能性がある。このように、従来の実験的手法と本実施形態に係る推定方法とを、必要な資源を最小化する観点で適宜組み合わせることができる。
【0102】
〔総括〕
以上の実施例1、実施例2および実施例3から明らかなように、本発明によって、従来の実験的手法により求められうる水準の解に、大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができる。これによって、新規の水硬性組成物用添加剤の開発に要する工数、時間、および費用を低減しうると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、たとえば水硬性組成物用添加剤の性能の推定および好適な水硬性組成物用添加剤を与える製造条件の推定に利用できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備え、
前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、
二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成することを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含む請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程をさらに含む請求項1または2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記説明変数が、
水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、
前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含む請求項3に記載の推定方法。
【請求項5】
前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含む請求項4に記載の推定方法。
【請求項6】
前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含む請求項3に記載の推定方法。
【請求項7】
前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含む請求項3に記載の推定方法。
【請求項8】
コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることができ、
前記生成機能および前記推定機能を複数回実現させ、
二回目以降に実現される前記生成機能において、当該生成機能より前に実現された前記生成機能および前記推定機能の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成させることを特徴とする推定プログラム。
【請求項9】
演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、
前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、
前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、
前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることができ、
前記生成機能および前記推定機能を複数回実現させ、
二回目以降に実現される前記生成機能において、当該生成機能より前に実現された前記生成機能および前記推定機能の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成させるプログラムであることを特徴とする推定装置。
【請求項10】
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、
水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、
前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、
前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程と、を備え、
前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、
二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成する製造方法によって製造されることを特徴とする水硬性組成物用添加剤。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定方法、推定プログラム、および推定装置、ならびに水硬性組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートなどの水硬性組成物は、砂や砂利などの骨材、セメントなどの結合材、および水を主たる材料として調製され、さらに添加剤が配合されることが一般的である。かかる添加剤は、たとえば、水硬性組成物の流動性、空気量、強度、および粘度、などの諸性質の改善を目的として使用される。水硬性組成物用添加剤は、たとえば特許文献1~3に例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-45007号公報
【特許文献2】国際公開第2021/024853号
【特許文献3】特開2020-15656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水硬性組成物用添加剤の開発は、古典的な実験科学的手法に頼らざるを得なかった。すなわち、候補となる組成物の製造と評価とを繰り返しながら、好適な性能を発現する組成物を絞り込む必要があった。しかし、水硬性組成物用添加剤には多数の構成成分が含まれるため、各構成成分の化学種および構成比率は多岐にわたり、無限大に存在する候補から好適な組成物を見出すことが求められた。そのため、新規の水硬性組成物用添加剤の開発には、膨大な工数、時間、および費用を要していた。
【0005】
そこで、好適な性能を発現する水硬性組成物用添加剤を推定しうる推定方法、推定プログラム、および推定装置の実現が求められる。また、当該推定方法を活用して製造された新しい水硬性組成物用添加剤も所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る推定方法は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、を備え、前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る推定プログラムは、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることができ、前記生成機能および前記推定機能を複数回実現させ、二回目以降に実現される前記生成機能において、当該生成機能より前に実現された前記生成機能および前記推定機能の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成させることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることができ、前記生成機能および前記推定機能を複数回実現させ、二回目以降に実現される前記生成機能において、当該生成機能より前に実現された前記生成機能および前記推定機能の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成させるプログラムであることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。また、遺伝的アルゴリズムを用いることで、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0010】
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を経て、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0012】
本発明に係る推定方法は、一態様として、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程をさらに含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、学習済みモデルを生成できる。
【0014】
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の性能に特に影響が大きいことが多い化学種情報および割合情報を考慮した推定がなされるので、精度が高い推定結果が得られやすい。
【0016】
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記化学種情報が、前記化合物の分子記述子を含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できる。
【0018】
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むことが好ましい。
【0019】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な水硬性組成物用添加剤を導き出すことができる。
【0020】
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の機能として特に注目される物性を評価基準として、好適な水硬性組成物用添加剤を導き出すことができる。
【0022】
本発明に係る水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成工程と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて生成された学習済みモデルを用いて、前記生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定工程と、前記推定工程において出力された複数の目的変数のうちの所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成工程において生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力工程と、前記出力工程において解として出力された説明変数に基づいて、水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程と、を備え、前記生成工程および前記推定工程が複数回実行され、二回目以降の前記生成工程において、当該生成工程より前に実行された前記生成工程および前記推定工程の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成する製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、好適な性能を発現する期待度が高い水硬性組成物用添加剤を、従来に比べて容易に実現できる。
【0024】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【
図3】実施例3における学習済みモデルの検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る推定方法、推定プログラム、推定装置、および水硬性組成物用添加剤の実施形態について説明する。
【0027】
〔水硬性組成物用添加剤に係る説明変数および目的変数〕
本実施形態に係る推定方法では、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、を取り扱う。推定方法の実施形態の説明に先立ち、説明変数および目的変数について説明する。
【0028】
(説明変数)
水硬性組成物用添加剤は、水硬性組成物に対して何らかの機能を付与する目的で使用される組成物であり、たとえば界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性)、空気連行剤(AE剤)、消泡剤、収縮低減剤、遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、防腐剤、および防錆剤などの成分(化合物)を含む。このうち界面活性剤としては、ポリカルボン酸エーテル系化合物、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、およびポリアルコキシエーテル系化合物、またはこれらの混合物、が例示されるが、これらに限定されない。各成分の化学種、組合せ、含有割合、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状などは、水硬性組成物用添加剤の性能(目的変数)に影響を与えうる説明変数である。
【0029】
また、水硬性組成物用添加剤を製造する工程に係る工程条件も、水硬性組成物用添加剤の性能(目的変数)に影響を与えうる。したがって、たとえば、各成分を生じさせる反応における反応方法、反応温度、反応時間、反応圧力、反応容器の容量および形状、攪拌速度、触媒の有無、触媒の種類および濃度、反応雰囲気、ならびに原料を添加する順序などの諸条件や、各成分を混合する際の温度、圧力、容器の容量および形状、攪拌速度、助剤の有無、助剤の種類および濃度、ならびに原料を添加する順序などの諸条件、といった事項が、説明変数になりうる。
【0030】
なお、水硬性組成物用添加剤を適用する対象の水硬性組成物に係る条件を、説明変数とすることも可能である。かかる条件としては、セメントの種類、比表面積、および化学組成、細骨材の種類、密度、粒子径分布、および表面水率、粗骨材の種類、密度、表面水率、および最大寸法、混和材の種類、比表面積、および化学組成、水硬性組成物の使用温度および使用湿度、水硬性組成物を混練する際の装置の種類、混練速度、混練時間、および混練量、水硬性組成物の配合条件(設計基準強度、目標スランプ、水セメント比、細骨材率、各材料の単位量、減水成分の添加量、ならびに、特殊成分の有無、化学種、および添加量、など)、養生時の方法、温度、湿度、および時間、などが例示されるが、これらに限定されない。一方、これらの条件を前提条件として固定した上で、水硬性組成物用添加剤自身の製造条件を示す説明変数のみを考慮してもよい。
【0031】
なお、説明変数は、学習済みモデルを生成するために使用されるので、定量化されていることが好ましい。たとえば、水硬性組成物用添加剤に含まれる成分(化合物)の化学種により決定づけられる化学種情報を説明変数として取り扱う場合は、化学種の名称を示す文字列を化学種情報としてもよいが、分子記述子を化学種情報とすることが好ましい。分子記述子は、化学種の分子構造をSMILES記法、SMARTS記法、InChI記法、などの記法で表した上で、RDKit、Dragon、などの公知のツールを用いて求めることができる。
【0032】
(目的変数)
水硬性組成物用添加剤が水硬性組成物に対して何らかの機能を付与する目的で使用されるところ、その目的が果たされるか否かを評価した変数が、目的変数である。すなわち目的変数は、水硬性組成物用添加剤の性能を示す物性値でありうる。かかる物性値としては、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度(分子量分布)、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、水溶性、起泡性、濡れ性、分散性、乳化性、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、ならびに、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性などが例示され、これらはいずれも目的変数でありうる。
【0033】
上記に例示した項目を含む目的変数を特定する方法は、当該目的変数を一義的に特定できる方法である限りで、特に限定されない。たとえば、JIS規格、ASTM規格、ISO規格等の工業規格や、取引者間で独自に定めた規格、などが存在する項目を目的変数とする場合は、これらの規格に従って特定される物性値を目的変数とすることができる。また、特に工業規格が存在しない項目であっても、当該項目を一義的に決定できるのであれば、目的変数として取り扱いうる。
【0034】
〔学習済みモデル〕
上記に説明した説明変数と目的変数との間には、相関がある。たとえば、水硬性組成物の流動性(目的変数の例である。)は、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の化学種、濃度など(説明変数の例である。)と相関があることが知られている。この例のように、説明変数と目的変数との関係は、理論的または経験的に、知られているか、または予測可能である部分がある。しかし、本実施形態において取扱対象とする水硬性組成物用添加剤は、多くの場合において数多くの成分の混合物であり、その説明変数は多岐にわたる。そのため、水硬性組成物用添加剤に係る説明変数と目的変数との相関を人が特定することは非現実的であるか、または非常に困難である。そこで本実施形態では、説明変数と目的変数との複数の組を教師データとして用いて、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成し、これを活用する。
【0035】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0036】
〔第一の実施形態〕
第一の実施形態に係る推定方法は、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定方法であって、モデル生成工程と推定工程とを備える。なお、第一の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0037】
モデル生成工程は、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成する工程である。第一の実施形態では、説明変数と目的変数との対応関係が実験やシミュレーションなどの方法によって明らかにされているデータ群を、教師データとして使用する。
【0038】
教師データを実験によって得る場合、まず、製造条件、すなわち説明変数が異なる水硬性組成物用添加剤を複数作製する。このとき、説明変数として使用する製造条件を記録しておく。次に、作製した複数の水硬性組成物用添加剤について、当該水硬性組成物用添加剤に要求される性能を表す物性値、すなわち目的変数を測定し、これを記録する。以上の操作により、説明変数と目的変数との複数の組である教師データが得られる。なお、教師データを構成する変数の一部または全部をシミュレーションによって得てもよいが、学習済みモデルを利用することなく説明変数と目的変数との関係を明らかにできるのであれば、学習済みモデルを生成する利益が小さいことに留意するべきである。
【0039】
得るべき教師データの数は、使用する説明変数と目的変数との組合せ、要求される推定の精度、学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズム、などに応じて適宜決定されうる。
【0040】
モデル生成工程において、説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、当該化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種およびその含有割合は、水硬性組成物用添加剤の性能を決定づける要素として特に支配的だからである。また、前述のように化学種の分子構造から求められる分子記述子を化学種情報とすると、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できるため、より好ましい。
【0041】
目的変数は、本実施形態に係る推定方法の目的に応じた物性値が選択されうる。上記に例示した物性値は、いずれも本実施形態に係る推定方法における目的変数の好ましい例である。
【0042】
得られた教師データに対して上記のアルゴリズムを適用して、学習済みモデルを得る。
典型的には、得られた教師データの一部を訓練データとして学習済みモデルを得るとともに、残りをテストデータとして得られた学習済みモデルの検証を行う。このとき、得られた学習済みモデルの妥当性が低い場合は、学習に用いる説明変数の数を変更する、説明変数に主成分分析等による次元削減を施す、教師データを追加または変更する、アルゴリズムを適用する際のパラメータを変更する、などの措置を行い、学習済みモデルの妥当性の向上を図る。なお、教師データに対して適宜前処理を加えてもよい。
【0043】
推定工程は、生成工程において生成した学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件(以下、所与の製造条件と称する。)を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する工程である。
【0044】
従来は、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の性能を検証するためには、実際に水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および物性測定を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0045】
なお、上記の生成工程および推定工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。
【0046】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態に係る推定方法は、複数の説明変数の候補の中から、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する推定方法であって、生成工程、推定工程、および出力工程を備える。なお、第二の実施形態に係る推定方法は、コンピュータを用いて実施される。
【0047】
第二の実施形態に係る推定方法では、生成済みの学習済みモデルを使用する。ここでは、第一の実施形態に係る推定方法のモデル生成工程において生成された学習済みモデルを使用するものとして説明する。
【0048】
生成工程は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する工程である。本実施形態に係る推定方法では、最終的に、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力することになるが、生成工程ではその候補群となる説明変数を生成する。
【0049】
生成工程において説明変数を複数生成する方法、および生成される説明変数の数は特に限定されない。ただし、生成工程において生成する説明変数が多いほど、推定工程および出力工程における演算処理量が増加する一方で、好適な解が得られる可能性が高くなる。
説明変数の生成は、人為的な方法により、または演算処理により実施されうるが、これらに限定されない。
【0050】
推定工程は、学習済みモデルを用いて、生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する工程である。第一の実施形態における推定工程と比較すると、学習済みモデルに与えられる説明変数の出自に差があるが、学習済みモデルに説明変数を与えて目的変数の推定値を得る、という手順自体は同一である。
【0051】
出力工程は、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する工程である。所定の基準は、たとえば、水硬性組成物用添加剤に望まれる性能に基づいて決定される基準である。出力工程において出力される解は、一例として、単数または複数の所定の物性値(目的変数)が所定の基準値を超える水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数、所定の物性値(目的変数)についての順位が所定の基準値を超える水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数、などの基準で選択された説明変数でありうる。
【0052】
出力工程では、まず、推定工程において出力された複数の説明変数のうち、所定の基準を満たす目的変数を特定する。次に、特定された目的変数について、その目的変数を出力するために学習済みモデルに入力された説明変数を特定する。そして、ここで特定された説明変数が、解として出力される。
【0053】
従来は、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤を得るためには、種々の製造条件による種々の水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定し、製造条件と性能との相関を明らかにして、好適な製造条件を特定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【0054】
なお、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。さらに、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に加えて、出力工程において解として出力された説明変数に基づいて水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程を備える製造方法によって水硬性組成物用添加剤が製造された場合、その水硬性組成物用添加剤も本発明の一つの実施形態である。
【0055】
(変形例1:最適化アルゴリズムの利用)
より好適な解を得るためには、生成工程および推定工程を複数回実行することが好ましい。一例として、遺伝的アルゴリズム(最適化アルゴリズムの一例である。)を用いる方法を説明する。
【0056】
一回目の生成工程および推定工程の手順は、上記の説明の通りである。ここで、一回目の生成工程において生成された説明変数の群を第一世代の説明変数群といい、一回目の推定工程において出力された目的変数の群を第一世代の目的変数群ということにする。ここで、第一世代の目的変数群のうち、出力工程における所定の基準への適応度が上位にある所定数の目的変数を特定し、特定された目的変数を与える説明変数の群を特定する。これを、第一世代の解ということにする。なお、以降もn回目に生成される説明変数群、目的変数群、および解について、第n世代の用語を用いる。
【0057】
第一世代の解は、第一世代の説明変数群のうち好適な性能(目的変数)の水硬性組成物用添加剤を与える説明変数の群であるから、第一世代の解が得られている時点で、好適な製造条件がある程度絞り込まれているといえる。その一方で、第一世代の解は、あくまで第一世代の説明変数群から選択された好適範囲であり、取りうる説明変数群の全体に対する好適範囲ではない。そのため、第一世代の説明変数群自体が好適な範囲を大きく外れている場合は、第一世代の解は、取りうる説明変数群の全体の中では、それほど好適な範囲だと言えない可能性がある。また、第一世代の解の中においても、最適化の余地が残されている場合がある。
【0058】
そこで、二回目の生成工程では、第一世代の解に基づいて再び説明変数群(第二世代の説明変数群)を複数生成する。具体的には、第一世代の解を中心として探索範囲を広げる形で、説明変数群を生成する。すなわち、第一世代の説明変数群が、手がかりがない、または手がかりが乏しい状態で取りうる説明変数群の全体から網羅的に抽出された説明変数の候補であるのに対し、第二世代の説明変数群は、第一世代の解という一応の指針に基づいて絞り込まれた範囲から抽出された説明変数の候補である。したがって、第二世代の説明変数群は、第一世代の説明変数群に比べて、より好適な解を含む期待度が高いといえる。
【0059】
このように生成された第二世代の説明変数群を用いて二回目の推定工程を実施すると、第二世代の目的変数群が得られる。また、一回目と同様に、第二世代の解も得られる。以下同様に、生成工程と推定工程とを繰り返して、第三世代、第四世代と順次世代を重ねていくと、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
【0060】
なお、ここまで最適化アルゴリズムの一例として遺伝的アルゴリズムを適用した例を説明したが、利用可能な最適化アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムに限定されない。たとえば、ベイズ最適化、最急降下法なども、利用可能な最適化アルゴリズムの例である。
【0061】
(変形例2:学習済みモデルの再生成)
上記のように生成工程、推定工程、および出力工程を実施すると、解(第一の解と称する。)として説明変数が出力される。ここで出力される説明変数は、好適な性能(目的変数)の水硬性組成物用添加剤の製造条件を示すことが期待されるものではあるが、実際に当該製造条件により製造された水硬性組成物用添加剤が、実際には好適な性能を発現しない場合がある。この場合は、学習済みモデルの精度に改善の余地があるといえる。
【0062】
そこで、モデル再生成工程をさらに実施することが好ましい。モデル再生成工程は、第一の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、学習済みモデルを再生成する工程である。すなわち、第一の解として出力された説明変数に対する実際の評価(典型的には実験的な実証)を加えて、その結果を反映して学習済みデータを再生成(更新)するのである。
【0063】
なお、再生成工程を実施して学習済みモデルを再生成したのちは、生成工程、推定工程、および出力工程を再度実施して、再び解(第二の解と称する。)を得てもよい。再生成工程を経て学習済みモデルを再生成しているので、第二の解は、第一の解とは異なる可能性がある。そして、再生成工程を経て学習済みモデルの精度が向上していることが期待されるので、第二の解は、第一の解に比べてより好適な解であることが期待される。
【0064】
なお、第二の解によっても満足な性能が得られない場合は、第二の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を用いてモデル再生成工程を再び行えばよい。すなわち、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を繰り返して、学習済みモデルの精度を向上できる。
【0065】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0066】
本発明は、一態様として、水硬性組成物用添加剤の特性を推定する推定方法であって、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備える推定方法でありうる。
【0067】
本発明は、一態様として、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラムでありうる。
【0068】
本発明は、一態様として、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置でありうる。
【0069】
これらの構成によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および評価を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
【実施例0070】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0071】
〔実施例1〕強度増進剤の最適組成の推定
(教師データ)
含まれる化合物の化学種および含有割合が異なる水硬性組成物用添加剤を46種類作製した。それぞれの水硬性組成物用添加剤について、水、セメント、細骨材としての砂、粗骨材としての砂利、および水硬性組成物用添加剤を常法により混合した水硬性組成物を調製した。それぞれの水硬性組成物についてJIS A 1108:2018に従って材齢1日時点の圧縮強度を測定し、水硬性組成物用添加剤を使用していない場合の圧縮強度を基準とした圧縮強度比を算出した。測定結果に基づいて、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種に係る化学種情報、各化合物の含有割合に係る割合情報、水硬性組成物用添加剤の製造条件に関する製造条件情報、および、水硬性組成物に係る条件に関する組成物情報、を説明変数とし、圧縮強度比を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0072】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。モデル生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレスト回帰の5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、たとえばfr_Al_OH(脂肪族ヒドロキシ基の数)、fr_COO(カルボン酸の数)、PEOE_VSA2(静電的相互作用の度合い)であり、いずれも結合材(ここではセメントをいう。)への吸着において影響を与える説明変数であるので、これらはいずれも圧縮強度比との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0073】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図1に示す。
図1に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、圧縮強度比の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定された圧縮強度比の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.88であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0074】
(説明変数群の生成)
次に、好適な水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。水硬性組成物用添加剤の化学種情報、割合情報、製造条件情報、および組成物情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される圧縮強度比の値が大きい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0075】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いて圧縮強度比を推定した。得られた圧縮強度比の推定値のうち、大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される圧縮強度比は115%であり、第二候補の説明変数から推定される圧縮強度比は113%だった。
【0076】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物の圧縮強度比を実際に測定した。圧縮強度比の実測値は、第一候補の製造条件について108%であり、第二候補の製造条件について105%だった。第一候補および第二候補のいずれについても、圧縮強度比の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。
続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の圧縮強度比との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0077】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて圧縮強度比を推定した。一回目の推定と同様に大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される圧縮強度比は121%であり、第四候補の説明変数から推定される圧縮強度比は118%だった。
【0078】
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定を行った。圧縮強度比の実測値は、第三候補について120%であり、第四候補について118%だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、圧縮強度比の推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0079】
なお、従来の実験的手法により圧縮強度比の最大化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに35点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では圧縮強度比が115%であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。
第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
【0080】
〔実施例2〕減水成分の最適組成の推定
(教師データ)
含まれる化合物の化学種および含有割合が異なる水硬性組成物用添加剤を90種類作製した。それぞれの水硬性組成物用添加剤について、水、セメント、細骨材としての砂、粗骨材としての砂利、および水硬性組成物用添加剤を常法により混合した水硬性組成物を調製した。それぞれの水硬性組成物について、調製直後および調製60分後のスランプ値をJIS A 1101に従って測定し、調製直後のスランプ値から調製60分後のスランプ値を引いた値(以下「ΔSL」と称する。)を決定した。測定結果に基づいて、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種に係る化学種情報、各化合物の含有割合に係る割合情報、各化合物を生じさせる反応の条件に係る反応条件情報(特に、使用したモノマー、重合開始剤、および連鎖移動剤の化学種および量に関する情報を含む。)、水硬性組成物用添加剤の製造条件に関する製造条件情報、および、水硬性組成物に係る条件に関する組成物情報、を説明変数とし、ΔSLを目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0081】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。モデル生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレスト回帰の5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、例えば水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の質量平均分子量、fr_COO(カルボン酸の数)、PEOE_VSA3(静電的相互作用の度合い)であり、いずれも結合材(ここではセメントをいう。)への吸着において影響を与える説明変数であるので、これらはいずれも水硬性組成物の流動性との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0082】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図2に示す。
図2に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、ΔSLの実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定されたΔSLの推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.63であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0083】
(説明変数群の生成)
次に、好適な水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。水硬性組成物用添加剤の化学種情報、割合情報、反応条件情報、製造条件情報、および組成物情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定されるΔSLの値が小さい順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0084】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いてΔSLを推定した。得られたΔSLの推定値のうち、小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定されるΔSLは2.4cmであり、第二候補の説明変数から推定されるΔSLは2.8cmだった。
【0085】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物のΔSLを実際に測定した。ΔSLの実測値は、第一候補の製造条件について4.0cmであり、第二候補の製造条件について4.5cmだった。第一候補および第二候補のいずれについても、ΔSLの推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測のΔSLとの組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0086】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いてΔSLを推定した。一回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定されるΔSLは1.1cmであり、第四候補の説明変数から推定されるΔSLは1.4cmだった。
【0087】
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定を行った。ΔSLの実測値は、第三候補について1.0cmであり、第四候補について1.4cmだった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、ΔSLの推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0088】
なお、従来の実験的手法によりΔSLの最小化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに20点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定)を要した。従来の実験的手法を経て得られた対照試料ではΔSLが1.2cmであり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
【0089】
〔実施例3〕水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の質量平均分子量の最適化
以下では、本実施形態に係る推定方法を、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤(ここではポリカルボン酸エーテル系化合物をいう。)の質量平均分子量の推定に適用した実施例について説明する。ポリカルボン酸エーテル系化合物を水硬性組成物用添加剤用途に用いる場合、その質量平均分子量が20000付近であると結合材(ここではセメントをいう。)への吸着性が良好であることが、経験的に知られている。本実施例では、質量平均分子量が20000付近のポリカルボン酸エーテル系化合物を与える製造条件を推定することを目的とする。なお、本実施例における好適な質量平均分子量の設定は一例にすぎず、適用対象の水硬性組成物用の態様等の条件によって好適な質量平均分子量が変わりうることに留意されたい。
【0090】
(教師データ作成用試料)
水硬性組成物用添加剤に含まれるポリカルボン酸エーテル系化合物について、原料(不飽和ポリアルキレングリコール単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和ポリアルキレングリコール単量体と共重合可能なビニル単量体、重合開始剤、および連鎖移動剤)の化学種および割合が異なるものを27種類作製した。
【0091】
(質量平均分子量の測定)
上記の27種類のポリカルボン酸エーテル系化合物のそれぞれについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による質量平均分子量測定を行った。測定条件を以下に示す。
<測定条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)
カラム:OHpak SB-G+SB-806M HQ+SB-806M HQ(昭和電工社製)
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7mL/分
カラム温度:40℃
試料濃度:試料濃度0.5質量%の溶離液溶液
標準物質:PEG/PEO(アジレント・テクノロジー社製)
【0092】
(教師データ)
測定結果に基づいて、ポリカルボン酸エーテル系化合物の化学種に係る第一化学種情報、ポリカルボン酸エーテル系化合物の原料(不飽和ポリアルキレングリコール単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和ポリアルキレングリコール単量体と共重合可能なビニル単量体、重合開始剤、および連鎖移動剤)の化学種および割合に関する原料情報、および、ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件に関する製造条件情報、を説明変数とし、質量平均分子量を目的変数とする教師データを得た。なお、化学種情報には分子記述子が含まれており、分子記述子はSMILES記法で表した各化合物の分子構造から、Python環境下でケモインフォマティクスツールRDKitを用いて求めた。
【0093】
(学習済みモデルの生成および検証)
Python環境下で機械学習ライブラリscikit-learnを用いて、上記の教師データを用いた学習済みモデルの生成および検証を行った。学習済みモデルの生成に使用するアルゴリズムの候補を、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクタ回帰、およびランダムフォレストの5種類とし、クロスバリデーションのフォールド数5以上15以下および使用する説明変数の個数5以上15以下を探索範囲として複数の学習済みモデルを生成した。生成した学習済みモデルのうち、決定係数R2が最も大きくなる学習済みモデルを採用した。採用された学習済みモデルにおける説明変数は、例えばfr_SH(チオール基の数)、製造時の反応温度、および製造時の反応時間であり、いずれもポリカルボン酸エーテル系化合物の原料の反応性に影響を与える説明変数であるので、これらはいずれもポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量との間に相関関係を有することが合理的な説明変数だといえる。すなわち、採用された学習済みモデルは当業者にとって合理的なモデルだといえる。
【0094】
採用された学習済みモデルの妥当性を検証した結果を
図3に示す。
図3に示したグラフは、教師データを構成する各データについて、ポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量の実測値を横軸に取り、採用された学習済みモデルを用いて説明変数から推定されたポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量の推定値を縦軸に取ったものである。採用された学習済みモデルの決定係数R
2は0.96であり、実用上十分な予測精度を有することを確認した。
【0095】
(説明変数群の生成)
次に、好適な質量平均分子量を有するポリカルボン酸エーテル系化合物を得るための製造条件を解として得る推定に供する説明変数群の生成を行った。説明変数の生成は、Python環境下で進化計算フレームワークDEAPを用いた遺伝的アルゴリズムによって実施した。ポリカルボン酸エーテル系化合物の第一化学種情報、ポリカルボン酸エーテル系化合物の原料情報、および製造条件情報のそれぞれについて範囲をあらかじめ設定し、この範囲内で各条件がランダムで決定されるようにして初期集団を生成した。適応度は、上記の学習済みモデルを用いて推定される質量平均分子量が20000に近い順に適応度が高いと評価した。次世代に残す個体の選択は、エリート保存戦略によることとした。終了条件は、発生世代数が100に達した時とした。
【0096】
(好適な製造条件の推定および検証)
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、上記の学習済みモデルを用いてポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量を推定した。得られた質量平均分子量の推定値のうち、20000に近い順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択した。第一候補の説明変数から推定される質量平均分子量は18000であり、第二候補の説明変数から推定される質量平均分子量は17500だった。
【0097】
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従ってポリカルボン酸エーテル系化合物を実際に製造し、得られたポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量を実際に測定した。質量平均分子量の実測値は、第一候補の製造条件について17400であり、第二候補の製造条件について17000だった。第一候補および第二候補のいずれについても、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の質量平均分子量との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
【0098】
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて質量平均分子量を推定した。一回目の推定と同様に20000に近い順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される質量平均分子量は20100であり、第四候補の説明変数から推定される質量平均分子量は19800だった。
【0099】
第三候補および第四候補についても同様に、ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定を行った。質量平均分子量の実測値は、第三候補について20200であり、第四候補について19500だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が縮小した。また、初期の学習済みモデルでは、得られる最適解における質量平均分子量が18000であり、ベンチマークとして設定した値(20000)からの乖離が比較的大きかったが、再生成した学習済みモデルにおける最適解ではベンチマーク値に近い質量平均分子量20100が得られた。これらの点から、学習済みモデルが改善されたといえる。
【0100】
なお、従来の実験的手法により質量平均分子量の最適化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに12点の実験(ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では質量平均分子量が18500であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により求められる解を超える性能のポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準の解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができた。
【0101】
また、実施例1および2では水硬性組成物用添加剤全体の製造条件について学習モデルを用いた推定を行ったのに対し、実施例3では、水硬性組成物用添加剤の中心的な構成成分であるポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件に限定して学習モデルを用いた推定を実施した。実施例3では、質量平均分子量が20000付近のポリカルボン酸エーテル系化合物が水硬性組成物用添加剤用途に好ましい、という既知の知見を活用して、学習モデルを用いた推定の対象とする範囲を実施例1および2に比べて減縮した、といえる。これによって、推定の実施に要するハードウェア資源や演算時間などを小規模化できる。また、教師データを得るための試料についても、実施例3では水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物の調製を行う必要がないため、実施例1および2に比べて手順が簡略化されている。加えて、実施例3の試料および学習済みデータを、ポリカルボン酸エーテル系化合物を水硬性組成物用添加剤以外の用途に用いる場合と共用できる可能性がある。このように、従来の実験的手法と本実施形態に係る推定方法とを、必要な資源を最小化する観点で適宜組み合わせることができる。
【0102】
〔総括〕
以上の実施例1、実施例2および実施例3から明らかなように、本発明によって、従来の実験的手法により求められうる水準の解に、大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができる。これによって、新規の水硬性組成物用添加剤の開発に要する工数、時間、および費用を低減しうると期待される。
前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含む請求項1に記載の推定方法。
前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含む請求項1に記載の推定方法。
コンクリートなどの水硬性組成物は、砂や砂利などの骨材、セメントなどの結合材、および水を主たる材料として調製され、さらに添加剤が配合されることが一般的である。かかる添加剤は、たとえば、水硬性組成物の流動性、空気量、強度、および粘度、などの諸性質の改善を目的として使用される。水硬性組成物用添加剤は、たとえば特許文献1~3に例示される。
水硬性組成物用添加剤の開発は、古典的な実験科学的手法に頼らざるを得なかった。すなわち、候補となる組成物の製造と評価とを繰り返しながら、好適な性能を発現する組成物を絞り込む必要があった。しかし、水硬性組成物用添加剤には多数の構成成分が含まれるため、各構成成分の化学種および構成比率は多岐にわたり、無限大に存在する候補から好適な組成物を見出すことが求められた。そのため、新規の水硬性組成物用添加剤の開発には、膨大な工数、時間、および費用を要していた。
そこで、好適な性能を発現する水硬性組成物用添加剤を推定しうる推定方法、推定プログラム、および推定装置の実現が求められる。また、当該推定方法を活用して製造された新しい水硬性組成物用添加剤も所望されている。
本発明に係る推定装置は、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、前記生成機能によって生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する推定機能と、前記目的変数が満たすべき所定の基準の指定を受け付ける機能と、前記推定機能によって出力された複数の目的変数のうちの前記所定の基準を満たす目的変数を特定し、前記生成機能によって生成された複数の説明変数のうちの、当該所定の基準を満たす目的変数を出力する際に用いられた説明変数を解として出力する出力機能と、を実現させることができ、前記生成機能および前記推定機能を複数回実現させ、二回目以降に実現される前記生成機能において、当該生成機能より前に実現された前記生成機能および前記推定機能の結果を利用する遺伝的アルゴリズムを用いて複数の説明変数を生成させ、記目的変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる界面活性剤の、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量、分子量分散度、融点、ガラス転移点、HLB、SP値、粒子径、粒子径分布、および粒子形状、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むプログラムであることを特徴とする。
これらの構成によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。また、遺伝的アルゴリズムを用いることで、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記出力工程において解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、前記学習済みモデルを再生成するモデル再生成工程をさらに含むことが好ましい。
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、前記化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。
この構成によれば、水硬性組成物用添加剤の性能に特に影響が大きいことが多い化学種情報および割合情報を考慮した推定がなされるので、精度が高い推定結果が得られやすい。
本発明に係る推定方法は、一態様として、前記目的変数が、水硬性組成物用添加剤が添加された水硬性組成物の、流動性、流動保持性、空気連行性、空気量保持性、粘性、ポンプ圧送性、材料分離抵抗性、仕上げ性、付着性、凝結特性、強度特性、収縮特性、耐凍害性、中性化特性、塩化物侵入抵抗性、鋼材保護性、アルカリシリカ反応抵抗性、ひび割れ抵抗性、水密性、耐火性、すり減り抵抗性、および表面美観性、からなる群から選択される少なくとも一つの物性値を含むことが好ましい。
また、水硬性組成物用添加剤を製造する工程に係る工程条件も、水硬性組成物用添加剤の性能(目的変数)に影響を与えうる。したがって、たとえば、各成分を生じさせる反応における反応方法、反応温度、反応時間、反応圧力、反応容器の容量および形状、攪拌速度、触媒の有無、触媒の種類および濃度、反応雰囲気、ならびに原料を添加する順序などの諸条件や、各成分を混合する際の温度、圧力、容器の容量および形状、攪拌速度、助剤の有無、助剤の種類および濃度、ならびに原料を添加する順序などの諸条件、といった事項が、説明変数になりうる。
なお、水硬性組成物用添加剤を適用する対象の水硬性組成物に係る条件を、説明変数とすることも可能である。かかる条件としては、セメントの種類、比表面積、および化学組成、細骨材の種類、密度、粒子径分布、および表面水率、粗骨材の種類、密度、表面水率、および最大寸法、混和材の種類、比表面積、および化学組成、水硬性組成物の使用温度および使用湿度、水硬性組成物を混練する際の装置の種類、混練速度、混練時間、および混練量、水硬性組成物の配合条件(設計基準強度、目標スランプ、水セメント比、細骨材率、各材料の単位量、減水成分の添加量、ならびに、特殊成分の有無、化学種、および添加量、など)、養生時の方法、温度、湿度、および時間、などが例示されるが、これらに限定されない。一方、これらの条件を前提条件として固定した上で、水硬性組成物用添加剤自身の製造条件を示す説明変数のみを考慮してもよい。
なお、説明変数は、学習済みモデルを生成するために使用されるので、定量化されていることが好ましい。たとえば、水硬性組成物用添加剤に含まれる成分(化合物)の化学種により決定づけられる化学種情報を説明変数として取り扱う場合は、化学種の名称を示す文字列を化学種情報としてもよいが、分子記述子を化学種情報とすることが好ましい。分子記述子は、化学種の分子構造をSMILES記法、SMARTS記法、InChI記法、などの記法で表した上で、RDKit、Dragon、などの公知のツールを用いて求めることができる。
上記に例示した項目を含む目的変数を特定する方法は、当該目的変数を一義的に特定できる方法である限りで、特に限定されない。たとえば、JIS規格、ASTM規格、ISO規格等の工業規格や、取引者間で独自に定めた規格、などが存在する項目を目的変数とする場合は、これらの規格に従って特定される物性値を目的変数とすることができる。また、特に工業規格が存在しない項目であっても、当該項目を一義的に決定できるのであれば、目的変数として取り扱いうる。
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。
モデル生成工程は、説明変数から目的変数を推定する学習済みモデルを生成する工程である。第一の実施形態では、説明変数と目的変数との対応関係が実験やシミュレーションなどの方法によって明らかにされているデータ群を、教師データとして使用する。
教師データを実験によって得る場合、まず、製造条件、すなわち説明変数が異なる水硬性組成物用添加剤を複数作製する。このとき、説明変数として使用する製造条件を記録しておく。次に、作製した複数の水硬性組成物用添加剤について、当該水硬性組成物用添加剤に要求される性能を表す物性値、すなわち目的変数を測定し、これを記録する。以上の操作により、説明変数と目的変数との複数の組である教師データが得られる。なお、教師データを構成する変数の一部または全部をシミュレーションによって得てもよいが、学習済みモデルを利用することなく説明変数と目的変数との関係を明らかにできるのであれば、学習済みモデルを生成する利益が小さいことに留意するべきである。
得るべき教師データの数は、使用する説明変数と目的変数との組合せ、要求される推定の精度、学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズム、などに応じて適宜決定されうる。
モデル生成工程において、説明変数が、水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種により決定づけられる化学種情報と、当該化合物のそれぞれの含有割合を特定する割合情報と、を含むことが好ましい。水硬性組成物用添加剤に含まれる化合物の化学種およびその含有割合は、水硬性組成物用添加剤の性能を決定づける要素として特に支配的だからである。また、前述のように化学種の分子構造から求められる分子記述子を化学種情報とすると、好適な目的変数を与えうる化学種を体系的に理解できるため、より好ましい。
目的変数は、本実施形態に係る推定方法の目的に応じた物性値が選択されうる。上記に例示した物性値は、いずれも本実施形態に係る推定方法における目的変数の好ましい例である。
推定工程は、生成工程において生成した学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件(以下、所与の製造条件と称する。)を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する工程である。
従来は、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の性能を検証するためには、実際に水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および物性測定を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
なお、上記の生成工程および推定工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。
第二の実施形態に係る推定方法では、生成済みの学習済みモデルを使用する。ここでは、第一の実施形態に係る推定方法のモデル生成工程において生成された学習済みモデルを使用するものとして説明する。
生成工程は、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数を複数生成する工程である。本実施形態に係る推定方法では、最終的に、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力することになるが、生成工程ではその候補群となる説明変数を生成する。
生成工程において説明変数を複数生成する方法、および生成される説明変数の数は特に限定されない。ただし、生成工程において生成する説明変数が多いほど、推定工程および出力工程における演算処理量が増加する一方で、好適な解が得られる可能性が高くなる。
説明変数の生成は、人為的な方法により、または演算処理により実施されうるが、これらに限定されない。
推定工程は、学習済みモデルを用いて、生成工程において生成した複数の説明変数から推定される複数の目的変数を出力する工程である。第一の実施形態における推定工程と比較すると、学習済みモデルに与えられる説明変数の出自に差があるが、学習済みモデルに説明変数を与えて目的変数の推定値を得る、という手順自体は同一である。
出力工程は、所定の基準を満たす水硬性組成物用添加剤を得るための製造条件に係る説明変数を解として出力する工程である。所定の基準は、たとえば、水硬性組成物用添加剤に望まれる性能に基づいて決定される基準である。出力工程において出力される解は、一例として、単数または複数の所定の物性値(目的変数)が所定の基準値を超える水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数、所定の物性値(目的変数)についての順位が所定の基準値を超える水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数、などの基準で選択された説明変数でありうる。
出力工程では、まず、推定工程において出力された複数の説明変数のうち、所定の基準を満たす目的変数を特定する。次に、特定された目的変数について、その目的変数を出力するために学習済みモデルに入力された説明変数を特定する。そして、ここで特定された説明変数が、解として出力される。
従来は、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤を得るためには、種々の製造条件による種々の水硬性組成物用添加剤を製造して物性値を測定し、製造条件と性能との相関を明らかにして、好適な製造条件を特定する必要があった。一方、本実施形態によれば、所望の性能を発揮する水硬性組成物用添加剤が得られうる製造条件(説明変数)を、学習モデルを用いて推定するので、水硬性組成物用添加剤の製造および物性測定を行うことなく好適な製造条件を特定しうる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
なお、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に対応する機能をコンピュータに実現させうる推定プログラムも、本発明の一つの実施形態である。また、この推定プログラムを記憶している記憶装置、および、この推定プログラムを実行する演算装置、を備える推定装置も、本発明の一つの実施形態である。さらに、上記の生成工程、推定工程、および出力工程に加えて、出力工程において解として出力された説明変数に基づいて水硬性組成物用添加剤を製造する製造工程を備える製造方法によって水硬性組成物用添加剤が製造された場合、その水硬性組成物用添加剤も本発明の一つの実施形態である。
一回目の生成工程および推定工程の手順は、上記の説明の通りである。ここで、一回目の生成工程において生成された説明変数の群を第一世代の説明変数群といい、一回目の推定工程において出力された目的変数の群を第一世代の目的変数群ということにする。ここで、第一世代の目的変数群のうち、出力工程における所定の基準への適応度が上位にある所定数の目的変数を特定し、特定された目的変数を与える説明変数の群を特定する。これを、第一世代の解ということにする。なお、以降もn回目に生成される説明変数群、目的変数群、および解について、第n世代の用語を用いる。
第一世代の解は、第一世代の説明変数群のうち好適な性能(目的変数)の水硬性組成物用添加剤を与える説明変数の群であるから、第一世代の解が得られている時点で、好適な製造条件がある程度絞り込まれているといえる。その一方で、第一世代の解は、あくまで第一世代の説明変数群から選択された好適範囲であり、取りうる説明変数群の全体に対する好適範囲ではない。そのため、第一世代の説明変数群自体が好適な範囲を大きく外れている場合は、第一世代の解は、取りうる説明変数群の全体の中では、それほど好適な範囲だと言えない可能性がある。また、第一世代の解の中においても、最適化の余地が残されている場合がある。
そこで、二回目の生成工程では、第一世代の解に基づいて再び説明変数群(第二世代の説明変数群)を複数生成する。具体的には、第一世代の解を中心として探索範囲を広げる形で、説明変数群を生成する。すなわち、第一世代の説明変数群が、手がかりがない、または手がかりが乏しい状態で取りうる説明変数群の全体から網羅的に抽出された説明変数の候補であるのに対し、第二世代の説明変数群は、第一世代の解という一応の指針に基づいて絞り込まれた範囲から抽出された説明変数の候補である。したがって、第二世代の説明変数群は、第一世代の説明変数群に比べて、より好適な解を含む期待度が高いといえる。
このように生成された第二世代の説明変数群を用いて二回目の推定工程を実施すると、第二世代の目的変数群が得られる。また、一回目と同様に、第二世代の解も得られる。以下同様に、生成工程と推定工程とを繰り返して、第三世代、第四世代と順次世代を重ねていくと、得られる解がより好適な範囲に絞り込まれることを期待できる。
なお、ここまで最適化アルゴリズムの一例として遺伝的アルゴリズムを適用した例を説明したが、利用可能な最適化アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムに限定されない。たとえば、ベイズ最適化、最急降下法なども、利用可能な最適化アルゴリズムの例である。
そこで、モデル再生成工程をさらに実施することが好ましい。モデル再生成工程は、第一の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を教師データに加えて、学習済みモデルを再生成する工程である。すなわち、第一の解として出力された説明変数に対する実際の評価(典型的には実験的な実証)を加えて、その結果を反映して学習済みデータを再生成(更新)するのである。
なお、再生成工程を実施して学習済みモデルを再生成したのちは、生成工程、推定工程、および出力工程を再度実施して、再び解(第二の解と称する。)を得てもよい。再生成工程を経て学習済みモデルを再生成しているので、第二の解は、第一の解とは異なる可能性がある。そして、再生成工程を経て学習済みモデルの精度が向上していることが期待されるので、第二の解は、第一の解に比べてより好適な解であることが期待される。
なお、第二の解によっても満足な性能が得られない場合は、第二の解として出力された説明変数と、当該説明変数が示す製造条件により製造される水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の組を用いてモデル再生成工程を再び行えばよい。すなわち、解の出力、解の検証、および、検証結果の学習済みモデルへのフィードバック、を繰り返して、学習済みモデルの精度を向上できる。
本発明は、一態様として、水硬性組成物用添加剤の特性を推定する推定方法であって、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成工程と、前記学習済みモデルを用いて、特性を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の特性を示す目的変数の推定値を出力する推定工程と、を備える推定方法でありうる。
本発明は、一態様として、水硬性組成物用添加剤の性能を推定する推定プログラムであって、コンピュータによって実行されたときに、当該コンピュータに、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させることを特徴とする推定プログラムでありうる。
本発明は、一態様として、演算装置および記憶装置を備える推定装置であって、前記記憶装置が、推定プログラムを記憶しており、前記推定プログラムが、前記演算装置によって実行されたときに、当該演算装置に、水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数と、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数と、の複数の組を教師データとして用いて、前記説明変数から前記目的変数を推定する学習済みモデルを生成するモデル生成機能と、前記学習済みモデルを用いて、性能を推定する対象とする水硬性組成物用添加剤の製造条件を示す説明変数から、当該水硬性組成物用添加剤の性能を示す目的変数の推定値を出力する推定機能と、を実現させるプログラムであることを特徴とする推定装置でありうる。
これらの構成によれば、所与の製造条件により得られる水硬性組成物用添加剤の目的変数を、学習モデルを用いて推定するので、当該水硬性組成物用添加剤の性能を、製造および評価を行うことなく検証できる。これによって、好適な水硬性組成物用添加剤の製造条件を決定するための試行錯誤を短縮しうる。
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物の圧縮強度比を実際に測定した。圧縮強度比の実測値は、第一候補の製造条件について108%であり、第二候補の製造条件について105%だった。第一候補および第二候補のいずれについても、圧縮強度比の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の圧縮強度比との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて圧縮強度比を推定した。一回目の推定と同様に大きい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される圧縮強度比は121%であり、第四候補の説明変数から推定される圧縮強度比は118%だった。
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定を行った。圧縮強度比の実測値は、第三候補について120%であり、第四候補について118%だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、圧縮強度比の推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
なお、従来の実験的手法により圧縮強度比の最大化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに35点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、および圧縮強度比の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では圧縮強度比が115%であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従って水硬性組成物用添加剤を実際に製造し、得られた水硬性組成物用添加剤を配合して調製した水硬性組成物のΔSLを実際に測定した。ΔSLの実測値は、第一候補の製造条件について4.0cmであり、第二候補の製造条件について4.5cmだった。第一候補および第二候補のいずれについても、ΔSLの推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測のΔSLとの組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いてΔSLを推定した。一回目の推定と同様に小さい順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定されるΔSLは1.1cmであり、第四候補の説明変数から推定されるΔSLは1.4cmだった。
第三候補および第四候補についても同様に、水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定を行った。ΔSLの実測値は、第三候補について1.0cmであり、第四候補について1.4cmだった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、ΔSLの推定値と実測値とがよい一致を示した。第一候補および第二候補に比べて推定値と実測値との乖離が小さくなったことから、学習済みモデルが改善されたといえる。
なお、従来の実験的手法によりΔSLの最小化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに20点の実験(水硬性組成物用添加剤の製造、水硬性組成物の調製、およびΔSLの測定)を要した。従来の実験的手法を経て得られた対照試料ではΔSLが1.2cmであり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により最終的に得られうる水準の性能の水硬性組成物用添加剤の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。
次に、第一候補および第二候補の説明変数によって示される製造条件に従ってポリカルボン酸エーテル系化合物を実際に製造し、得られたポリカルボン酸エーテル系化合物の質量平均分子量を実際に測定した。質量平均分子量の実測値は、第一候補の製造条件について17400であり、第二候補の製造条件について17000だった。第一候補および第二候補のいずれについても、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が大きかったといえる。続いて、第一候補および第二候補について得られた説明変数と実測の質量平均分子量との組を用いて、学習済みモデルの再生成を行った。
上記の説明変数群に含まれる各説明変数について、再生成した学習済みモデルを用いて質量平均分子量を推定した。一回目の推定と同様に20000に近い順に二つの推定値を与える説明変数を候補として選択し、第三候補および第四候補とした。第三候補の説明変数から推定される質量平均分子量は20100であり、第四候補の説明変数から推定される質量平均分子量は19800だった。
第三候補および第四候補についても同様に、ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定を行った。質量平均分子量の実測値は、第三候補について20200であり、第四候補について19500だった。再生成した学習済みモデルを用いた推定では、質量平均分子量の推定値と実測値との乖離が縮小した。また、初期の学習済みモデルでは、得られる最適解における質量平均分子量が18000であり、ベンチマークとして設定した値(20000)からの乖離が比較的大きかったが、再生成した学習済みモデルにおける最適解ではベンチマーク値に近い質量平均分子量20100が得られた。これらの点から、学習済みモデルが改善されたといえる。
なお、従来の実験的手法により質量平均分子量の最適化を試みたところ、教師データを得たところを出発点としてさらに12点の実験(ポリカルボン酸エーテル系化合物の製造、および質量平均分子量の測定)を要した。また、従来の実験的手法を経て得られた対照試料では質量平均分子量が18500であり、第三候補および第四候補と同等の水準だった。第三候補および第四候補では、従来の実験的手法により求められる解を超える性能のポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件を、わずか4点の実測を経て特定できた。すなわち、本発明によって、従来の実験的手法により得られうる水準の解に大規模な実験を伴うことなくたどり着くことができた。
また、実施例1および2では水硬性組成物用添加剤全体の製造条件について学習モデルを用いた推定を行ったのに対し、実施例3では、水硬性組成物用添加剤の中心的な構成成分であるポリカルボン酸エーテル系化合物の製造条件に限定して学習モデルを用いた推定を実施した。実施例3では、質量平均分子量が20000付近のポリカルボン酸エーテル系化合物が水硬性組成物用添加剤用途に好ましい、という既知の知見を活用して、学習モデルを用いた推定の対象とする範囲を実施例1および2に比べて減縮した、といえる。これによって、推定の実施に要するハードウェア資源や演算時間などを小規模化できる。また、教師データを得るための試料についても、実施例3では水硬性組成物用添加剤および水硬性組成物の調製を行う必要がないため、実施例1および2に比べて手順が簡略化されている。加えて、実施例3の試料および学習済みデータを、ポリカルボン酸エーテル系化合物を水硬性組成物用添加剤以外の用途に用いる場合と共用できる可能性がある。このように、従来の実験的手法と本実施形態に係る推定方法とを、必要な資源を最小化する観点で適宜組み合わせることができる。