(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088427
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】バイオスティミュラントの製造方法、バイオスティミュラント及びそれを用いた植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240625BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C12N1/20 E
C12N1/20 D
A01G7/00 605Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203582
(22)【出願日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月23日 ミルクサイエンス、第71巻、第2号、第61-62頁 日本酪農科学会 〔刊行物等〕 令和4年9月9日 酪農科学シンポジウム2022
(71)【出願人】
【識別番号】505249104
【氏名又は名称】トモヱ乳業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391009213
【氏名又は名称】日本ゼウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 来人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 徹也
(72)【発明者】
【氏名】中田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小川 澄男
(72)【発明者】
【氏名】中條 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小泉 智江
(72)【発明者】
【氏名】石井 瑛莉紗
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄一
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA02X
4B065AA30X
4B065AA72X
4B065AA77X
4B065AC14
4B065BB24
4B065BB26
4B065BB27
4B065CA06
4B065CA10
4B065CA17
4B065CA47
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】廃棄牛乳の有効活用及びバイオスティミュラントによる作物と土壌の活性化を軸とし、経済的にも優れた、地域循環型の持続可能な生産を実現可能とする技術を提供すること。
【解決手段】乳及び/又は乳製品を含む液体原料に、乳酸菌及び酵母を含む微生物群を接種し、室温で24時間以上発酵させることを特徴とする、バイオスティミュラントの製造方法を提供する。乳酸菌及び酵母を含む微生物群と、バイオスティミュラント100gあたり40mg以上のアミノ酸と、乳酸と、を含有し、かつ、pHが5以下、Brix値が7%以下であることを特徴とする、バイオスティミュラントを提供する。また、前記バイオスティミュラントを、植物又は土壌に与えることを特徴とする、植物の栽培方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳及び/又は乳製品を含む液体原料に、乳酸菌及び酵母を含む微生物群を接種し、室温で24時間以上発酵させることを特徴とする、バイオスティミュラントの製造方法。
【請求項2】
前記微生物群が、さらに酢酸菌を含むものである、請求項1に記載のバイオスティミュラントの製造方法。
【請求項3】
前記液体原料が、さらに果実ジュース及び/又は野菜ジュースを含むものである、請求項1又は2に記載のバイオスティミュラントの製造方法。
【請求項4】
前記液体原料が、さらにコーヒーを含むものである、請求項1又は2に記載のバイオスティミュラントの製造方法。
【請求項5】
乳酸菌及び酵母を含む微生物群と、バイオスティミュラント100gあたり40mg以上のアミノ酸と、乳酸と、を含有し、かつ、pHが5以下、Brix値が7%以下であることを特徴とする、バイオスティミュラント。
【請求項6】
さらに、酢酸菌と、酢酸と、を含有し、かつ、前記乳酸と前記酢酸との合計含有量が0.5質量%以上である、請求項5に記載のバイオスティミュラント。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法によりバイオスティミュラントを製造し、当該得られたバイオスティミュラントを、あるいは、請求項5又は6に記載のバイオスティミュラントを、植物又は土壌に与えることを特徴とする、植物の栽培方法。
【請求項8】
前記植物が、バラ科、アブラナ科、イネ科、ウリ科、キク科、ナス科、ヒユ科及びスイレン科から選ばれる1種以上のものである、請求項7に記載の植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はバイオスティミュラントの製造方法、バイオスティミュラント及びそれを用いた植物の栽培方法に関し、より具体的には、乳及び/又は乳製品を含む液体原料を、ラクトバチルス属乳酸菌及びピキア属酵母により発酵させてなるバイオスティミュラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業において生産性を向上させるために、品種改良や栄養改善(肥料)、病虫害・雑草対策(農薬)といった技術開発が盛んに行われてきた。しかし、農薬や化学肥料に頼った慣行農法は、短期的な収量増加は可能だが、環境負荷が大きいという問題があった。
【0003】
そこで近年、環境負荷を低減し、持続可能な農業を実現するための手段の一つとして、肥料でも農薬でもない「バイオスティミュラント」が注目されている。バイオスティミュラントとは、土壌に施用することにより、作物が本来有する生理学的プロセスを刺激して非生物的ストレスを軽減する農業用資材である。バイオスティミュラントによる具体的な効果は、代謝効率の改善、ストレス耐性の強化、栄養の同化・転流・使用の促進などである。
【0004】
このようなバイオスティミュラントは、キチンオリゴ糖とセロオリゴ糖を含む植物活力剤(特許文献1参照)、アミノ酸、フルボ酸及びコリンを含有する植物活力剤(特許文献2参照)などが知られている。また、酵母、乳酸菌、光合成細菌などの有用微生物群を含む土壌改良微生物資材として市販されているEM菌も、バイオスティミュラントの一種である。
【0005】
一方、乳製品の製造工場では、品質管理の検査後に廃棄される製品が、大きな工場では毎日1~2トンに上る。また近年、余剰生乳の廃棄が問題となっている。このような生乳、乳製品の廃棄は、環境負荷の問題がある上に、費用もかかることから、廃棄乳を有効活用する技術の開発が求められてきた。
【0006】
廃棄牛乳のリサイクル技術は、例えば、特許文献3などが挙げられる。特許文献3では、牛乳に卵白と乳酸菌を添加し乳酸発酵を行うことにより、アミノ酸成分と低分子ペプチド成分を含む物質を製造する。この物質を土壌に用いることで、植物の生長促進、土壌微生物環境の改善、害虫の駆除などの効果が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-34181号公報
【特許文献2】特開2013-82640号公報
【特許文献3】特開2007-308358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記したバイオスティミュラントは、いずれも十分な効果が得られない問題があった。また、前記した特許文献3の技術は、牛乳に卵白を加える必要があり、日々大量に発生する廃棄牛乳の処理技術としては、費用の面で問題があった。
【0009】
本発明の目的は、廃棄牛乳の有効活用及びバイオスティミュラントによる作物と土壌の活性化を軸とし、経済的にも優れた、地域循環型の持続可能な生産を実現可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本開示は、乳及び/又は乳製品を含む液体原料に、乳酸菌及び酵母を含む微生物群を接種し、室温で24時間以上発酵させることを特徴とする、バイオスティミュラントの製造方法を提供する。
【0011】
ここで、前記微生物群は、さらに酢酸菌を含むものであってもよい。
【0012】
前記液体原料は、さらに果実ジュース及び/又は野菜ジュースを含むものであってもよい。また、前記液体原料は、さらにコーヒーを含むものであってもよい。
【0013】
また、本開示は、乳酸菌及び酵母を含む微生物群と、バイオスティミュラント100gあたり40mg以上のアミノ酸と、乳酸と、を含有し、かつ、pHが5以下、Brix値が7%以下であることを特徴とする、バイオスティミュラントを提供する。
【0014】
ここで、前記バイオスティミュラントは、さらに、酢酸菌と、酢酸と、を含有し、かつ、前記乳酸と前記酢酸との合計含有量が0.5質量%以上であってもよい。
【0015】
また、本開示は、前記バイオスティミュラントを、植物又は土壌に与えることを特徴とする、植物の栽培方法を提供する。ここで、前記植物は、バラ科、アブラナ科、イネ科、ウリ科、キク科、ナス科、ヒユ科及びスイレン科から選ばれる1種以上のものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示において、微生物群が生成する各種アミノ酸や有機酸の作用によって、作物のストレスが軽減されることで、収量の増加、品質の改善といった優れた効果を得ることができる。また、本開示において、廃棄牛乳等の産業廃棄物のみを原料として発酵させることにより、バイオスティミュラントを製造できるため、廃棄物の処理費用を抑えることができる。
【0017】
したがって、本開示によれば、廃棄牛乳の有効活用及びバイオスティミュラントによる作物と土壌の活性化を軸とした、地域循環型の持続可能な生産を実現可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における発酵のメカニズムを示す模式図である。
【
図2】実施例1におけるメタゲノム解析の結果を示す図である。
【
図3】保存中の遊離アミノ酸含量の変化を示すグラフである(実施例2)。図中、棒グラフは遊離アミノ酸濃度(単位:mg/100g)を示し、各アミノ酸について左から順に、保存期間0日、2週間、6週間、8週間、を示す。
【
図4】黒ボク土におけるコマツナの生育状況を示す写真像図である(実施例4)。図中、(a)は播種7日後の地上部、(b)は播種21日後(最終調査時)の地上部、(c)は播種21日後(最終調査時)の根部の様子をそれぞれ示す。
【
図5】灰色低地土におけるコマツナの生育状況を示す写真像図である(実施例4)。図中、(a)は播種7日後の地上部、(b)は播種21日後(最終調査時)の地上部、(c)は播種21日後(最終調査時)の根部の様子をそれぞれ示す。
【
図6】灰色低地土におけるコマツナ(根部)の生育状況を示す写真像図である(実施例4)。図中、各列左から順に希釈倍率10倍、50倍、100倍を示し、各行上から順に対照区、散布区、潅注区を示す。
【
図7】水稲栽培試験の結果を示す図である(実施例5)。図中、縦軸は1株当たりの玄米重量(単位:g/株)、横軸は各試験区を表し、共通のアルファベットを含まない処理区間で有意差があった(Tukey-Kramer test, P<0.05)。値は平均値±標準偏差を表す。
【
図8】イチゴの収穫量を示す図である(実施例6)。
図8(A)は、累積収穫量の推移を示すグラフであり、実線は潅注区、破線は散布区、点線は対照区、をそれぞれ示す。また、縦軸は収穫量(g/株)、横軸は収穫日を表す。
図8(B)は、平均収穫量を示すグラフであり、縦軸は収穫量(g/株)、横軸は試験区を表し、値は平均値±標準偏差を表す。
【
図9】果実1個当たりの重量と、1回当たりの収穫個数と、の関係を表す散布図である(実施例6)。図中、(A)は対照区、(B)は葉面散布区、(C)は潅注区、をそれぞれ示す。また、縦軸は1果実重量(g/果実)、横軸は1回当たりの収穫個数(個)、をそれぞれ表す。
【
図10】試験終了時の植物体重量を示すグラフである(実施例6)。図中、縦軸は植物体重量(g/株 生鮮重)、横軸は処理区を表す。棒グラフは斜線が地上部、白色が地下部の重量を表し、値は平均値±標準偏差を表す。
【
図11】キュウリのシャーレ試験の結果を示す図である(実施例7)。
図11(A)は茎長を比較したグラフであり、縦軸は茎長(単位:cm)、横軸は各試験区を表す。
図11(B)は根長を比較したグラフであり、縦軸は根長(単位:cm)、横軸は各試験区を表す。図中、NCは陰性対照(蒸留水)を表し、共通のアルファベットを含まない処理区間で有意差があった(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の実施形態は、以下のようにして詳細に説明される。
【0020】
本実施形態に係るバイオスティミュラントの製造方法は、乳及び/又は乳製品を含む液体原料に、乳酸菌及び酵母を含む微生物群を接種し、室温で24時間以上発酵させることを特徴とする。
【0021】
〔液体原料〕
本実施形態で用いられる液体原料は、後述する微生物群がその中で生育可能であり、かつ、アミノ酸及び有機酸を産生するための発酵原料となる乳タンパク質及び糖類を含むものである。具体的には、液体原料は少なくとも乳及び/又は乳製品を含むことができる。
【0022】
乳としては、特に限定されないが、牛乳、成分調整牛乳、低脂肪乳、無脂肪乳、加工乳、生乳、獣乳などを挙げることができる。乳製品としては、特に限定されないが、乳飲料、乳酸菌飲料、発酵乳、濃縮乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイ、ホエイパウダー、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、バター、クリーム、チーズなどを挙げることができる。乳飲料としては、特に限定されないが、カフェオレ、カフェラテ、フルーツオレ、栄養強化乳などを挙げることができる。
【0023】
液体原料は、後述する微生物群の生育並びにアミノ酸及び有機酸の産生並びに作物の生長を妨げない限りにおいて、乳及び/又は乳製品以外の他の原料を含むことができる。他の原料としては、具体的には、果実ジュース、野菜ジュースなどのジュース、コーヒー、緑茶、紅茶などの茶系飲料などを挙げることができる。ジュースは、果汁又は野菜汁が含まれていればよく、果汁又は野菜汁の含有量は限定されない。コーヒー及び茶系飲料は、無糖であっても加糖したものであってもよい。
【0024】
これらの原料は1種以上を混合して用いてもよい。また、固体状の原料であっても、他の液体状の原料と混合することにより全体として液体状とすることができれば、用いることができる。
【0025】
これらの原料は、乳業工場などから出る産業廃棄物を用いることが、食品ロスの削減や廃棄物処理費用の節減などの観点から、望ましい。また、液体原料として食品由来の原料のみを用いることが、作物や作業者の安全性などの観点から、望ましい。
【0026】
〔微生物群〕
本実施形態で用いられる微生物群は、前記した液体原料中で生育可能であり、かつ、アミノ酸及び/又は有機酸を産生可能である、複数種の微生物から構成される。微生物群は、発酵食品に含まれる微生物のみから構成されることが、作物や作業者の安全性などの観点から、望ましい。
【0027】
具体的には、微生物群は乳酸菌及び酵母を含むことができる。乳酸菌としては、特にラクトバチルス属乳酸菌を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ラクトバチルス属乳酸菌としては、特に限定されないが、L. rhamnosus、L. harbinensis、L. farraginis、L. buchneri、L. rapi、L. casei、L. composti、L. kimchicusなどを挙げることができる。また、酵母としては、特にピキア属酵母を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ピキア属酵母としては、特に限定されないが、P. membranifaciens、P. deserticolaなどを挙げることができる。
【0028】
微生物群は、前記した微生物によるアミノ酸及び有機酸の産生並びに作物の生長を妨げない限りにおいて、ラクトバチルス属乳酸菌及びピキア属酵母以外の他の微生物を含むことができる。他の微生物としては、特に限定されないが、任意の乳酸菌、酵母、酢酸菌などを挙げることができる。ラクトバチルス属以外の任意の乳酸菌としては、例えば、Lactococcus lactis subsp. lactis、L. lactis subsp. cremoris、L. chungangensis、L. garvieae、L. piscium、L. plantarum、L. raffinolactisといったラクトコッカス属乳酸菌などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。ピキア属以外の任意の酵母としては、例えば、サッカロミセス属酵母などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。任意の酢酸菌としては、アセトバクター属に属する酢酸菌などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。アセトバクター属酢酸菌としては、特に限定されないが、A. fabarum、A. lovaniensisなどを挙げることができる。
【0029】
〔発酵工程〕
図1は、本実施形態における発酵のメカニズムを示す模式図である。嫌気条件で、酵母(例えばピキア属酵母)がタンパク質をペプチドやアミノ酸に分解し、ペプチドは乳酸菌(例えばラクトバチルス属乳酸菌)によってアミノ酸に分解される。一方、乳酸菌は、糖類を原料として乳酸発酵も行う。また、酵母が糖類を原料としたアルコール発酵で産生したアルコールを原料として、酢酸菌(例えばアセトバクター属酢酸菌)が好気条件で酢酸発酵を行う。このようにして、本実施形態における発酵工程では、微生物群によってアミノ酸及び乳酸、酢酸といった有機酸が産生される。
【0030】
本実施形態における発酵工程は、前記液体原料に前記微生物群を接種し、室温で24時間以上発酵させることにより、発酵液を製造する工程である。
【0031】
微生物群の接種は、通常、本発酵工程により得られた発酵液の一部(バルクスターター)を液体原料に添加することにより行うことができる。あるいは、前記微生物の前培養液を液体原料に添加することもできる。バルクスターター又は前培養液の添加量は特に制限されないが、通常、液体原料に対して1~50%(v/v)とすることができる。前培養に用いられる培地は、微生物群がその中で増殖可能であれば特に限定されないが、例えば、乳及び/又は乳製品を含む培地あるいは合成培地を用いることができる。合成培地の例としては、MRS培地などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
発酵は、実質的に室温(例えば、20~35℃程度)で行うことができる。本明細書において、「実質的に室温」とは、室温から一時的に逸脱したとしても、1日の間に室温から逸脱した時間の合計が6時間程度以内であることを意味する。なお、発酵中は撹拌を行ってもよいし、静置発酵としてもよい。撹拌を行う場合の回転数は特に限定されないが、例えば、500~1000rpmとすることができる。発酵時間は、通常、24時間以上、好ましくは30時間以上、より好ましくは36時間以上、とすることができる。
【0033】
〔熟成工程〕
本実施形態においては、前記発酵工程後に熟成工程を設けることができる。本工程は、発酵液を室温で静置することにより行う。本工程を実施することにより、さらに発酵を進行させ、アミノ酸及び有機酸をより多く産生させることができる。熟成時間は特に限定されないが、例えば、24時間以上、好ましくは48時間以上、より好ましくは72時間以上、とすることができる。
【0034】
前記した発酵工程及び任意の熟成工程では、微生物群が液体原料に含まれる乳タンパク質及び糖類を資化してアミノ酸及び有機酸を産生するため、発酵が進むにつれて、液体原料中の糖類が減少し、有機酸が増加する。したがって、実施者は、発酵液の糖度及び/又はpHを測定することによって、発酵管理を行うことができる。
【0035】
具体的には、発酵は、発酵液のpHが5以下、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.6以下、さらに好ましくは4.4以下、特に好ましくは4.2以下、殊更好ましくは4.0以下となるまで、かつ/又は、糖度(Brix)が7%以下、好ましくは6.8%以下、より好ましくは6.6%以下、さらに好ましくは6.5%以下、特に好ましくは6.4%以下、殊更好ましくは6.3%以下となるまで、継続されることが望ましい。
【0036】
〔バイオスティミュラント〕
前記方法により、前記微生物群と、アミノ酸及び有機酸を含有する発酵液は製造される。この発酵液は、植物が吸収可能な遊離アミノ酸を豊富に含有しており、特に、植物の水分レベル調整や糖分の合成促進といった働きを有するプロリンや、植物の生長促進や花粉・果実の品質向上といった働きを有するグルタミン酸を多く含有する。また、発酵液に含まれる乳酸菌、乳酸菌代謝産物及び乳酸は、植物の生育促進作用を有するほか、土壌微生物を活性化し、病害虫対策にも有効であるとされており、発酵液の変敗防止作用も有する。
【0037】
したがって、前記方法により製造された発酵液は、農業用資材、特に、作物の生理学的プロセスを刺激して非生物的ストレスを軽減するバイオスティミュラント、土壌改良材又は肥料として利用することができる。
【0038】
すなわち、本実施形態によれば、乳酸菌及び酵母を含む微生物群と、アミノ酸及び有機酸を含有する、バイオスティミュラントが提供される。ここで、バイオスティミュラント(発酵液)のpHは、5以下であってよく、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.6以下、さらに好ましくは4.4以下、特に好ましくは4.2以下、殊更好ましくは4.0以下であってもよい。また、バイオスティミュラント(発酵液)の糖度(Brix)は7%以下であってよく、好ましくは6.8%以下、より好ましくは6.6%以下、さらに好ましくは6.5%以下、特に好ましくは6.4%以下、殊更好ましくは6.3%以下であってもよい。
【0039】
アミノ酸は、発酵液中に遊離アミノ酸としてもペプチドとしても存在していると推測されるが、遊離アミノ酸の合計含有量として、発酵液100gあたり40mg以上、好ましくは50mg以上、より好ましくは60mg以上、含有されていることが望ましい。発酵液中の遊離アミノ酸の種類としては、プロリン、スレオニン、ロイシン、グルタミン酸、バリン、リジン、ヒスチジン、セリン、グリシンなどを挙げることができる。
【0040】
また、有機酸は、主に乳酸及び酢酸から構成されていると推測されるが、有機酸の合計含有量が、発酵液に対して0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、含有されていることが望ましい。
【0041】
本実施形態のバイオスティミュラントを植物又は土壌に与えることによって、実施例に詳述するように、植物の生長が促進され、食味が向上するといった効果が奏される。これは、遊離アミノ酸を植物が吸収することで、植物体内で硝酸からアミノ酸を合成するために消費されるエネルギーを生長に向けることができるためと考えられる。さらに、乳酸や乳酸菌代謝物による植物の生育促進作用や、酢酸による植物の糖含有量を上昇させる作用なども影響していると考えられる。
【0042】
〔植物の栽培方法〕
本実施形態の植物の栽培方法は、前記バイオスティミュラントを植物又は土壌に与えることを特徴とする。バイオスティミュラントを植物又は土壌に与える手段は特に限定されないが、例えば、葉面への散布、潅注などを挙げることができる。特に、葉から直接アミノ酸等を吸収できることから、葉面散布が望ましい。
【0043】
バイオスティミュラントの1回当たりの使用量及び使用濃度は、植物の種類や生育ステージ、栽培環境等に応じて、当業者が適宜設定することができる。通常、前記発酵液を、水で希釈して、あるいは原液を、植物又は土壌に適用する。発酵液を希釈して使用する場合の希釈倍率は、特に限定されないが、例えば、10~100,000倍、好ましくは100~10,000倍とすることができる。
【0044】
バイオスティミュラントの使用間隔は特に限定されないが、例えば、24時間以上、3日間以上、5日間以上、7日間以上、9日間以上、又は11日間以上、2週間以下とすることができ、あるいは1~7日間とすることもできる。バイオスティミュラントの使用とは別に、植物の種類や栽培環境に応じて適宜潅水を行うことが望ましい。なお、本実施形態では、前記した点以外については、従来公知の栽培技術と同様に植物を栽培することができる。
【0045】
本実施形態の栽培方法は、野菜、果樹、花卉、樹木、観葉植物など、あらゆる植物に適用することができる。植物としては、具体的には、バラ科、アブラナ科、イネ科、ウリ科、キク科、ナス科、ヒユ科、スイレン科などに属する植物を挙げることができる。
【実施例0046】
本開示は、実施例及び比較例を挙げて、以下のように具体的に説明される。なお、以下において「%」は、特に記載がない限り、質量%(w/w)を意味する。
【0047】
(実施例1)食品廃棄物を原料とした微生物群の継代培養
以下の通り廃棄牛乳等の液体原料を用いて微生物群の継代培養を行い、菌叢の分析を行った。
【0048】
(1)継代培養方法
種菌は、日本ゼウス工業(株)から提供されたものを用いた。液体原料は、乳業工場で毎日の品質検査後に廃棄される牛乳、乳飲料果実ジュース又は野菜ジュース、及びコーヒー(無糖・微糖・加糖)を、表1に示す配合比で混合した。なお、液体原料全体に含まれる糖分は、3~7%程度である。液体原料に、表1に示す比率で種菌を加え、室温(概ね22℃~26℃)で撹拌しながら発酵を行った。全体の液量は1L~2Lとした。継代は、6時間~7日間発酵後の発酵液をバルクスターターとして用い、バルクスターターを表1に示す比率で新しい液体原料に加えることにより実施した。
【0049】
【0050】
(2)菌叢の分析
前記方法で継代培養中に計4回メタゲノム解析を行い、発酵液中の微生物構成を調べた。DNA抽出~メタゲノム解析はテクノスルガ・ラボ社に委託した。真菌は、ITS2領域のDNA配列を対象とし、解析機種:MiSeq(登録商標)(イルミナ社)、データベース:RDPを用いて解析を行った。細菌は、16S rDNA配列を対象とし、解析機種:MiSeq(登録商標)(イルミナ社)、データベース:RDP+テクノスルガ ・ ラボ 「微生物同定データベース」を用いて解析を行った。
また、発酵液中の各微生物の菌数測定は平板塗抹法により行った。
【0051】
(3)結果と考察
メタゲノム解析の結果を
図2、表2及び表3に示す。
図2は、メタゲノム解析の結果を総合した、発酵に関与する微生物の構成比を示す図である。表2及び表3は、メタゲノム解析の各回の結果を、それぞれ真菌及び細菌について示している。表中、「継代(1)」~「継代(3)」の数字は、同じ種菌から継代培養を3回行い、それらを区別するためである。また、「継代(1)10回目」とは、継代(1)における継代回数が10回目であることを示す。なお、菌種を同定できなかったものの比率は下記表に含めていない。
【0052】
【表2】
*表中、数値は構成比(単位:%)を示す。
【0053】
【表3】
*表中、数値は構成比(単位:%)を示す。
【0054】
真菌ではピキア属酵母が30%以上であった。継代(2)を除けば、ピキア属酵母(Pichia membranifaciens)が92%以上を占めていた(表2)。細菌では、ラクトバチルス属乳酸菌が29~92%であった。ラクトバチルス属乳酸菌のうち、Lactobacillus rhamnosusは25~74%、Lactobacillus harbinensisは2~40%、Lactobacillus farraginisは0.1~32%であった。アセトバクター属酢酸菌(Acetobacter fabarum)は、継代(3)では検出されなかったが、他の継代培養では23~39%であった(表3)。
【0055】
これらの結果から、本実施形態における発酵に関与する微生物は、主にラクトバチルス属乳酸菌(特に、Lactobacillus rhamnosus)及びピキア属酵母(特に、Pichia membranifaciens)であることが示された。また、場合によっては、さらにアセトバクター属酢酸菌(特に、Acetobacter fabarum)も関与していることが示された。
【0056】
(実施例2)食品廃棄物を原料とした発酵液のアミノ酸分析
以下の通り廃棄牛乳等の液体原料を用いて発酵試験を行い、アミノ酸分析を行った。
【0057】
実施例1の方法で継代培養している発酵液をバルクスターターとして用い、表4に示す配合比で液体原料に添加した。全体の液量を2Lとし、室温(概ね22℃~26℃)で撹拌しながら、120h発酵を行った。発酵中及び発酵終了後に、pHと糖度(Brix)を測定した。測定結果を表5に示す。発酵が進むにつれ、pH及び糖度が低下することが示された(表5)。
【0058】
【0059】
【0060】
また、上記において72h発酵後の発酵液を、室温(概ね22℃~26℃)で8週間静置することにより保存した。保存中及び保存終了後に、pH、糖度(Brix)、遊離アミノ酸含量を測定した。遊離アミノ酸含量の測定は、表6に示す条件でHPLC法により行った。結果を表7、表8及び
図3に示す。
【0061】
【0062】
表7は、保存中のpH及び糖度の変化を示す。表8及び
図3は、保存中の遊離アミノ酸含量の変化を示す。
図3中、棒グラフは遊離アミノ酸濃度(単位:mg/100g)を示し、各アミノ酸について左から順に、保存期間0日、2週間、6週間、8週間、を示す。
【0063】
【0064】
【表8】
*表中、数値は遊離アミノ酸濃度(単位:mg/100g)を示す。
【0065】
撹拌を停止して静置保存している間にも、時間の経過とともにpH及び糖度が低下することが示された(表7)。また、遊離アミノ酸含量が時間の経過とともに増加することが示された(表8、
図3)。
【0066】
これらの結果から、本実施形態において、乳酸菌や酵母の働きにより、液体原料に含まれる乳タンパク質や糖類から遊離アミノ酸や有機酸が生成され、発酵液中のpH及び糖度の低下並びに遊離アミノ酸含量の増加がもたらされることが示唆された。また、発酵液の撹拌を停止しても、発酵は続くことが示された。なお、保存期間が6週間を超えるとpH及び糖度の低下は止まったが(表7)、遊離アミノ酸含量の増加は続くことが示された(表8、
図3)。これは、発酵液のpH低下により、乳酸菌や酢酸菌などの有機酸産生菌の生育至適pHの範囲から外れたため、糖類を原料とする有機酸発酵が停止したものと考えられた。
【0067】
(実施例3)食品廃棄物を原料とした発酵液の有機酸含量測定
実施例2と同様にして発酵を行い、発酵中の有機酸含量(乳酸と酢酸の合計含有量)及びpHの変化を調べた。有機酸含量の測定は、中和滴定法により行った。
【0068】
測定結果を表9に示す。発酵が進むにつれ、pHが低下し、有機酸含量は増加することが示された(表9)。このことから、本実施形態の発酵において、乳酸及び酢酸が産生されることが示された。また、発酵液におけるpHの低下は、乳酸及び酢酸含量の増加と関連していることが示された。
【0069】
【0070】
(実施例4)植害試験(コマツナ)
上記実施例2で製造した発酵液を用いて、コマツナ(アブラナ科)の植害試験を行った。実施例2に記載の方法で、72h発酵させた後に、4週間静置保存した発酵液を、水で10倍(pH4.3)、50倍(pH4.2)又は100倍(pH4.1)に希釈したもの(希釈液)をサンプルとして用いた。試験は、「植物に対する害に関する栽培試験の方法」(昭和59年 農蚕第1943号通知)に準拠して、表10に示す試験条件に基づき行った。
【0071】
【0072】
すなわち、ノイバウエルポットに黒ボク土又は灰色低地土を充填し、コマツナ種子を20粒/ポット播種した(各群3ポット)。その後、減水分を補給するように、各濃度の希釈液を1回/1週間で合計3回散布又は潅注して、3週間栽培した。対照区として、希釈液の代わりに水を与えたこと以外は上記と同様に栽培し、比較した。表11に示す項目について調査した。
【0073】
【0074】
結果を
図4~
図6及び表12~表15に示す。
図4は黒ボク土、
図5は灰色低地土におけるコマツナの生育状況を示す写真像図である。
図4及び
図5において、(a)は播種7日後の地上部、(b)は播種21日後(最終調査時)の地上部、(c)は播種21日後(最終調査時)の根部の様子をそれぞれ示す。また、
図6は灰色低地土におけるコマツナ(根部)の生育状況を示す写真像図である。
図6において、各列左から順に希釈倍率10倍、50倍、100倍を示し、各行上から順に対照区、散布区、潅注区を示す。表12及び表13は黒ボク土、表14及び表15は灰色低地土における測定結果を示す。表中、共通のアルファベットを含まない処理区間で有意差あり(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
黒ボク土において、希釈液の散布又は潅注により、葉の異常な変色や根腐れ等は観察されなかった。また、草勢及び根張りの程度も対照区(無処理)と比較して大きな違いは観察されなかった(
図4、表12、表13)。灰色低地土では、希釈液の処理区において、対照区に比べて根張りの改善、細根(根毛)の発達が観察された(
図6)。また、灰色低地土においても、希釈液の散布又は潅注による生育への悪影響(葉の変色、根腐れ等)は観察されず、草勢も対照区と大きな違いはなかった(
図5、表14、表15)。
【0080】
希釈液の処理区における生体重は、対照区に比べて89~107%(生体重指数)となった(生育障害の目安:80%以下)(表13、表15)。また、試験前後の土壌pHを測定したところ、試験前後で大きな違いは見られなかった。
【0081】
このように、希釈液の処理による顕著な生育障害は確認されなかった。また、灰色低地土では、根張りが対照区よりも改善され、細根(根毛)の発達が観察されたことから、希釈液が物理化学性の不良土壌における根系の改善効果を有する可能性が示唆された。さらに、希釈液は弱酸性(pH4.1~4.3程度)を示すが、土壌pHへの影響は小さく、土壌の酸性化の問題はないことが示唆された。
【0082】
(実施例5)水稲栽培試験
上記実施例2で製造した発酵液を用いて、水稲(イネ科)の栽培試験を行った。実施例2に記載の方法で、72h発酵させた後に、4週間静置保存した発酵液を、水で500倍に希釈したもの(希釈液)をサンプルとして用いた。水稲の苗を1株/ポット定植し、希釈液を散布又は潅注して栽培開始した(各群4ポット)。その後、希釈液を2週間おきに散布又は潅注して、5ヶ月間栽培した。対照区として、希釈液の代わりに水を与えたこと以外は上記と同様に栽培し、比較した。
【0083】
結果を
図7に示す。
図7は、玄米重量を比較したグラフであり、縦軸は1株当たりの玄米重量(単位:g/株)、横軸は各試験区を表し、共通のアルファベットを含まない処理区間で有意差があった(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
【0084】
散布区において、対照区と比較して玄米重量が有意に増加したが(P<0.05)、潅注区では有意差は見られなかった(
図7)。また、処理区において、対照区に比べて生育障害、異常症状などは観察されなかった。これらの結果から、希釈液の処理による、生育障害、異常症状、収穫物の品質への悪影響はないことが示された(
図7)。
【0085】
(実施例6)イチゴ栽培試験
上記実施例2で製造した発酵液を用いて、イチゴ(バラ科)の栽培試験を行った。実施例2に記載の方法で、72h発酵させた後に、4週間静置保存した発酵液を、水で100倍に希釈したもの(希釈液)をサンプルとして用いた。12月に、イチゴ(品種「紅ほっぺ」)の苗をハウス内の栽培ベッドに定植し、希釈液を葉面散布又は潅注(土に散布)して栽培開始した(各群5株×3反復)。その後、希釈液を2週間おきに散布又は潅注して、4か月間栽培した。栽培期間中、潅水は適宜行った。対照区として、希釈液の代わりに水を与えたこと以外は上記と同様に栽培し、比較した。
【0086】
収穫は3~4日おきに行い、収穫日ごとに果実重量の測定、理化学検査及び食味評価を行った。理化学検査では、果実の糖度及び酸度を、糖酸度計を用いて測定した。また、試験終了時に、イチゴを根ごと抜き取り、地上部と地下部とに分離し、それぞれ重量を測定した。
【0087】
食味評価は、2~7名の検査員が、各処理区1粒ずつ試食して実施した。表16に示す各評価項目について、各検査員が順位付け(1~3位)を行い、収穫日ごとに順位の平均値を算出した。各収穫日(計29日)の順位平均値を合計した値を各項目の評価値、それらの合計を総合評価値とし、表16に示した。希釈液の処理により、甘味が強く、酸味が弱く、硬く、みずみずしい、イチゴが収穫できることが示された。特に、葉面散布区が高い評価であったが、いずれの項目も有意差はなかった(表16)。
【0088】
【表16】
*数値が小さいほど評価が高いことを示す。
【0089】
理化学検査の結果を表17に示す。表中、糖酸比とは、糖度(Brix(%))を酸度(クエン酸酸度(%))で除した値である。表17より、希釈液の処理により、対照区に比べて糖度が高くなる傾向が見られ、特に葉面散布区では、対照区よりも有意に糖度が高かった(Tukey-Kramer test, P<0.05)。この結果は、食味評価の結果(表16)に相関していると言える。しかし、クエン酸酸度及び糖酸比における各群間の差は僅かであった。
【0090】
【表17】
*対照区に対して有意差あり(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
【0091】
収穫量の測定結果を
図8に示す。
図8(A)は、累積収穫量の推移を示すグラフであり、実線は潅注区、破線は散布区、点線は対照区、をそれぞれ示す。また、縦軸は収穫量(g/株)、横軸は収穫日を表す。
図8(B)は、平均収穫量を示すグラフであり、縦軸は収穫量(g/株)、横軸は試験区を表し、値は平均値±標準偏差を表す。
図9は、果実1個当たりの重量と、1回当たりの収穫個数と、の関係を表す散布図である。
図9中、(A)は対照区、(B)は葉面散布区、(C)は潅注区、をそれぞれ示す。また、
図9中、縦軸は1果実重量(g/果実)、横軸は1回当たりの収穫個数(個)、をそれぞれ表す。
【0092】
収穫量は、どの試験区も2月中旬以降から向上した(
図8(A))。各試験区の収穫量に統計的な有意差は見られなかったが、潅注区では3.4%、葉面散布区では11%、対照区に対して収穫量が向上した(
図8(B))。したがって、潅注又は葉面散布の処理により、対照区に比べて収穫量が向上する傾向が見られた(
図8)。また、
図9(A)に示されるように、対照区では収穫個数が多くなると1果実当たりの重量が減少する傾向が見られたが、処理区ではそのような傾向は見られなかった(
図9(B)、(C))。このことから、希釈液がいわゆる「成り疲れ(株疲れ)」を緩和する効果を有する可能性が示唆された(
図9)。
【0093】
次に、試験終了時の植物体重量の測定結果を
図10に示す。
図10中、縦軸は植物体重量(g/株 生鮮重)、横軸は処理区を表す。棒グラフは斜線が地上部、白色が地下部の重量を表し、値は平均値±標準偏差を表す。
図10から、地上部・地下部ともに葉面散布区において生育がやや旺盛であったが、有意差は見られなかった(Tukey-Kramer test)。
【0094】
以上の結果から、希釈液の処理により、イチゴの食味と収穫量が向上し、かつ、いわゆる「成り疲れ」が改善される傾向があることが示された。特に、葉面散布の場合にその傾向が強く見られ、果実の糖度に関しては対照区よりも有意に高くなった(表17、P<0.05)。これは、葉に直接散布することで、希釈液が効率よく植物体に吸収されたためと考えられた。そして、希釈液中のアミノ酸を吸収することで、植物体内で硝酸態窒素からアミノ酸を生合成する際のエネルギー消費を抑えられるため、果実に糖分が多く蓄積されたり、植物体の生育が良くなったりすることが示唆された。
【0095】
(実施例7)シャーレ試験
上記実施例2で製造した発酵液を用いて、キュウリ(ウリ科)のシャーレ試験を行った。実施例2に記載の方法で、72h発酵させた後に、4週間静置保存した発酵液を、水で100倍に希釈したもの(希釈液)をサンプルとして用いた。また、市販の土壌改良資材「EM1号」(EM研究所製)を水で1000倍に希釈したものを陽性対照として用いた。
【0096】
直径10cmのシャーレに濾紙を敷き、シャーレ1枚当たりサンプルを5mL加えた。キュウリの種子を、シャーレ1枚当たり10粒濾紙上に静置し、7日間培養した(各群1シャーレ)。培養条件は、25℃定温培養とした。7日間培養後、生育が良かった上位5個体について、地上部長(茎長)及び地下部長(根長)を測定し、平均値を算出した。NC(陰性対照)として、サンプルの代わりに蒸留水を用いたこと以外は、上記と同様に培養し、比較した。
【0097】
図11は、キュウリの(A)茎長、(B)根長を比較したグラフである。
図11において、縦軸は茎長又は根長(単位:cm)、値は平均値±標準偏差を表し、横軸は各試験区、NCは陰性対照(蒸留水)を表す。共通のアルファベットを含まない処理区間で有意差があった(Tukey-Kramer test, P<0.05)。
【0098】
茎長はいずれの対照区に比べても有意に長かった(
図11(A))(Tukey-Kramer test, P<0.05)。一方、根長ではNC(蒸留水)が最も長くなったが、その差は僅かであり、EM1号に対しては有意差が認められた(
図11(B))(Tukey-Kramer test, P<0.05)。以上の結果から、本実施形態の発酵液による生育促進作用が示唆された。
【0099】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態及び実施例について詳述してきたが、具体的な構成は、これらに限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0100】
例えば、前記実施例では、液体原料として牛乳、果実ジュース、野菜ジュース、コーヒー等を用いたが、乳酸菌や酵母により発酵させ、アミノ酸や有機酸を産生させることが可能であれば、本開示における液体原料として使用することができる。より具体的には、牛乳として、LL牛乳やHTST牛乳など種々の殺菌履歴を持つ乳や、未殺菌の生乳も使用することができる。また、牛乳以外の獣乳や、脱脂乳、ホエイなど乳成分を含有する液体原料も使用することができる。
【0101】
また、例えば、前記実施例では、微生物群として市販の種菌から継代培養したものを用いたが、これに限定されるものではなく、任意の乳酸菌及び任意の酵母であって、牛乳等の食品廃棄物中で発酵し、アミノ酸や有機酸を産生させることが可能であれば、本開示における微生物群として使用することができる。