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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088435
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】複合材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240625BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20240625BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20240625BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20240625BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C01B32/19
C01B32/194
C09K5/06 L
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203598
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】508144820
【氏名又は名称】株式会社インキュベーション・アライアンス
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 一生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一馬
(72)【発明者】
【氏名】岩田 英里
(72)【発明者】
【氏名】須谷 康一
(72)【発明者】
【氏名】藪本 秀明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祥治
(72)【発明者】
【氏名】藤永 悠志
(72)【発明者】
【氏名】坂田 幸之
(72)【発明者】
【氏名】空澤 光将
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC26B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD17
4G146AD19
4G146BA02
4G146BA45
4G146BB05
4G146BB06
4G146BC02
4G146BC32B
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146CB09
4G146CB11
4G146CB20
4G146CB23
4G146CB24
4G146CB34
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導性と蓄熱性とを有する、複合材を提供すること。
【解決手段】グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、
前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、
前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材。
【請求項2】
前記グラフェン材料のレーザーラマン分光法測定における1360cm-1付近のピーク強度Dに対する1600cm-1付近のピーク強度Gの比G/Dが、8.0以上である、請求項1記載の複合材。
【請求項3】
前記グラフェン材料のかさ密度が、0.110g/cm3以上である請求項1または2記載の複合材。
【請求項4】
前記相変化物質の含有量が、20.0質量%以上である請求項1または2記載の複合材。
【請求項5】
前記開気孔率の前記全気孔率に対する割合が、90.0%以上である請求項1または2記載の複合材。
【請求項6】
蓄熱用である請求項1または2記載の複合材。
【請求項7】
グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(I-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(I-2)前記熱膨張黒鉛を、加圧成形して、加圧成形体を得る工程、
(I-3)前記加圧成形体を、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程、および、
(I-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法。
【請求項8】
(I-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含む、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(I-1)が、
(I-1-a)周りをヒーターで囲まれ、前記ヒーターにより内部が加熱された状態にある、鉛直方向に立てられたチューブを準備する工程
(I-1-b)前記熱膨張性黒鉛を、前記チューブの下端から、気流に乗せて連続的に前記チューブ内に供給する工程、
(I-1-c)前記熱膨張性黒鉛を、該熱膨張性黒鉛がチューブ内を気流に乗って下から上へと通過する間に熱処理して、熱膨張黒鉛に変換する工程、および、
(I-1-d)前記熱膨張黒鉛を、前記チューブの上端から、連続的に得る工程
を含む工程である、請求項7または8記載の製造方法。
【請求項10】
グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(II-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(II-2)前記熱膨張黒鉛を、溶媒に浸漬し、解砕処理に付した後、上澄みを採取し、該上澄みから溶媒を分離して固形物を得た後、該固形物を粉砕して、粉砕体を得る工程、
(II-3)前記粉砕体を、加圧成形して、グラフェン材料を得る工程、および、
(II-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法。
【請求項11】
(II-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含む、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(II-1)が、
(II-1-a)周りをヒーターで囲まれ、前記ヒーターにより内部が加熱された状態にある、鉛直方向に立てられたチューブを準備する工程
(II-1-b)前記熱膨張性黒鉛を、前記チューブの下端から、気流に乗せて連続的に前記チューブ内に供給する工程、
(II-1-c)前記熱膨張性黒鉛を、該熱膨張性黒鉛がチューブ内を気流に乗って下から上へと通過する間に熱処理して、熱膨張黒鉛に変換する工程、および、
(II-1-d)前記熱膨張黒鉛を、前記チューブの上端から、連続的に得る工程
を含む工程である、請求項10または11記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程(II-3)が、前記粉砕体を、加圧成形したのち、さらに、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程である、請求項10または11記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材として有用な、グラフェン材料と相変化物質を含んでなる複合材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材としては、例えば、特許文献1に、相変化物質と粒子状の膨張黒鉛とを含む混合物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-149796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多孔質のグラフェン材料、特に、全気孔率が高く、かつ、開気孔率の高いグラフェン材料を用いて、高い熱伝導性と多量の蓄熱性とを有する、相変化物質との複合材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、所定の全気孔率および開気孔率を有するグラフェン材料を相変化物質とともに用いれば、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のグラフェン材料、および、その製造方法に関する。
[1]グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、
前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、好ましくは50.0%以上、より好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上、好ましくは45.0%以上、より好ましくは50.0%以上、さらに好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上であり、
前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材。
[2]前記グラフェン材料のレーザーラマン分光法測定における1360cm-1付近のピーク強度Dに対する1600cm-1付近のピーク強度Gの比G/Dが、8.0以上、好ましくは9.0以上、より好ましくは10.0以上、さらに好ましくは11.0以上、さらに好ましくは15.0以上、さらに好ましくは18.0以上である、上記[1]記載の複合材。
[3]前記グラフェン材料のかさ密度が、0.110g/cm3以上である上記[1]または[2]記載の複合材。
[4]前記相変化物質の含有量が、20.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは40.0質量%以上、さらに好ましく42.5質量%以上、さらに好ましく44.0質量%以上、さらに好ましく50.0質量%以上である上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合材。
[5]前記開気孔率の前記全気孔率に対する割合が、90.0%以上、好ましくは91.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは93.0%以上、さらに好ましくは95.0%以上、さらに好ましくは96.0%以上、さらに好ましくは97.0%以上、さらに好ましくは98.0%以上である上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の複合材。
[6]蓄熱用である上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の複合材。
[7]グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、好ましくは50.0%以上、より好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上、好ましくは45.0%以上、より好ましくは50.0%以上、さらに好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(I-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(I-2)前記熱膨張黒鉛を、加圧成形して、加圧成形体を得る工程、
(I-3)前記加圧成形体を、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程、および、
(I-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法。
[8](I-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含む、上記[7]記載の製造方法。
[9]前記工程(I-1)が、
(I-1-a)周りをヒーターで囲まれ、前記ヒーターにより内部が加熱された状態にある、鉛直方向に立てられたチューブを準備する工程
(I-1-b)前記熱膨張性黒鉛を、前記チューブの下端から、気流に乗せて連続的に前記チューブ内に供給する工程、
(I-1-c)前記熱膨張性黒鉛を、該熱膨張性黒鉛がチューブ内を気流に乗って下から上へと通過する間に熱処理して、熱膨張黒鉛に変換する工程、および、
(I-1-d)前記熱膨張黒鉛を、前記チューブの上端から、連続的に得る工程
を含む工程である、上記[7]または[8]記載の製造方法。
[10]グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、好ましくは50.0%以上、より好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上、好ましくは45.0%以上、より好ましくは50.0%以上、さらに好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(II-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(II-2)前記熱膨張黒鉛を、溶媒に浸漬し、解砕処理に付した後、上澄みを採取し、該上澄みから溶媒を分離して固形物を得た後、該固形物を粉砕して、粉砕体を得る工程、
(II-3)前記粉砕体を、加圧成形して、グラフェン材料を得る工程、および、
(II-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法。
[11](II-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含む、上記[10]記載の製造方法。
[12]前記工程(II-1)が、
(II-1-a)周りをヒーターで囲まれ、前記ヒーターにより内部が加熱された状態にある、鉛直方向に立てられたチューブを準備する工程
(II-1-b)前記熱膨張性黒鉛を、前記チューブの下端から、気流に乗せて連続的に前記チューブ内に供給する工程、
(II-1-c)前記熱膨張性黒鉛を、該熱膨張性黒鉛がチューブ内を気流に乗って下から上へと通過する間に熱処理して、熱膨張黒鉛に変換する工程、および、
(II-1-d)前記熱膨張黒鉛を、前記チューブの上端から、連続的に得る工程
を含む工程である、上記[10]または[11]記載の製造方法。
[13]前記工程(II-3)が、前記粉砕体を、加圧成形したのち、さらに、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程である、上記[10]または[11]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い熱伝導性と蓄熱性とを有する、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材を提供することができる。また、本発明によれば、そのような複合材を製造する製造方法、とりわけ、処理能力の高い製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】熱膨張性黒鉛の加熱を連続して行うことができる連続処理システムを構成する加熱ユニットの縦断面および上面を示す図である。
図2】前図の加熱ユニットの縦断面図において、加熱ユニットの下部に原料供給ユニットを設置し、加熱ユニットの上部にエアフードを設置した状態を示す図である。
図3】前図において、パルスエア部材によるパルスエアをOFFとした状態(左側)およびONとした状態(右側)を示す図である。
図4】回収ユニットの一例を示す図である。
図5】製造例9における成形に用いた金型を示す図である。
図6】真空含浸処理に用いる含浸治具と、真空含浸処理の流れを示す図である。
図7】被覆加工の流れを示す図である。
図8】本発明の複合材を蓄熱コンポジットとして使用した電池モジュールの一例である。
図9】製造例5-7開気孔化体についてのレーザーラマン分光法測定(表17に示した第二点)の結果を示すグラフである。
図10】製造例5-9の開気孔化体についてのレーザーラマン分光法測定(表17に示した第一点)の結果を示すグラフである。
図11】比較例1の等方性黒鉛についてのレーザーラマン分光法測定(表17に示した第二点)の結果を示すグラフである。
図12】比較例2のカーボンペーパーについてのレーザーラマン分光法測定(表17に示した第二点)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる所定の複合材である。
【0010】
本発明の第二の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる所定の複合材の製造方法であって、上記工程(I-1)~工程(I-4)を含む製造方法である。
【0011】
本発明の第三の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる所定の複合材の製造方法であって、上記工程(II-1)~工程(II-4)を含む製造方法である。
【0012】
<定義、測定方法>
(全気孔率)
全気孔率とは、材料の外形状から求められる体積中に存在する全空隙(開気孔の他、閉気孔も含む)の容積の比率である。本明細書において、全気孔率は、JIS R 7212(カーボンブロックの試験方法)に規定されている下記計算式により、算出する。ここで、比重の単位はいずれもg/cm3である。試験片は、特に断りのない限り、φ25mmの内径寸法を有する金型で作製された成形体であって、所定の厚さに切り出されたものを使用する。
全気孔率(%)={(真密度-かさ密度)/真密度}×100
【0013】
上記計算式において、真密度は、グラファイトの理論値である2.26g/cm3を使用する。かさ密度は、試験片の質量を体積で割ることにより算出する。ここで、試験片の質量は、測定精度が1mgの天秤(例えば、アズワン(株)製の電子天秤)で測定する。一方、試験片の体積は、成形体の厚さと外径とから算出する。試験片の厚さは、測定精度が1μmの測定機器(例えば、(株)ミツトヨ製のデジマチック標準外側マイクロメータ)で測定する。試験片の外径は、測定精度10μmの測定機器(例えば、(株)ミツトヨ製のスーパキャリパ)で測定する。
【0014】
(開気孔率)
開気孔率とは、材料の外形状から求められる体積中に存在する、液体、気体などが侵入することができる空隙の容積の比率である。開気孔率は、以下の計算式により、算出する。
開気孔率(%)={(見掛密度-嵩密度)/見掛密度}×100
【0015】
ここで、見掛密度は、試験片について、Quantachrome INSTRUMENTS社製のMUPY-30-Tを用いて、ヘリウムガスによるガス置換法により測定する。すなわち、装置のキャリブレーションには、直径10mmの無気孔の金属球体を使用する。また測定サンプルの吸着成分の影響を低減するために、試験片を150℃の乾燥機で60分間留置し、デシケーター中で放冷した後に測定を行う。測定セルに試験片を分取し、その質量を0.1mg単位で正確に秤量する。そののちに装置にセットし、試験片の体積を測定する。体積の測定は繰り返し安定するまで行い、偏差が0.05%以下になった直近3回を平均化し、サンプルの体積とする。見掛密度は実測した体積と秤量した質量から計算で求める。
【0016】
なお、見掛密度、かさ密度、真密度は、それぞれ、見掛比重、かさ比重、真比重と同義である。
【0017】
(閉気孔率)
閉気孔率とは、材料の外形状から求められる体積中に存在する、材料中で閉じている気孔の容積の比率である。閉気孔率は、以下の計算式により算出する。
閉気孔率(%)=全気孔率(%)-開気孔率(%)
【0018】
(開気孔量)
測定したかさ密度、開気孔率より、単位質量あたりの開気孔量および単位体積あたりの開気孔量が、下記の式により計算できる。
開気孔量(cm3/g)=(1/かさ密度)×開気孔率(%)/100
開気孔量(cm3/cm3)=開気孔率(%)/100
【0019】
(レーザーラマン分光測定)
レーザーラマン分光法測定は、後記実施例の欄に記載の方法により実施される。
【0020】
本発明において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「~」にかかる上限および下限の数値は任意に組合せできる数値であり、加えて、実施例における数値を該上限および下限と組合せることもできる。また、「~」によって数値範囲を特定する場合、特に断りのない限り、その両端の数値も含む意味である。さらに、本発明において、両端の値を含むものとして示された数値範囲は、本発明の趣旨に反しない限り、その両端の値のうちいずれか一端の値を含まない数値範囲、さらには両端の値の双方を含まない数値範囲をも同時に示しているものと解される。
【0021】
[本発明の第一の側面]
本発明の第一の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材である。
【0022】
<グラフェン材料>
グラフェン材料とは、グラフェンを構成要素とする炭素材料である。ここで、グラフェンとは、化学的には、Sp2混成軌道により結合した、1原子の厚さの炭素原子のシート状の構造を指すが、本発明のグラフェン材料は、単層のグラフェンだけで構成されたものに限定されず、2層以上の多層に積層した多層グラフェンも、その構成要素として含む。ここで、多層とは、例えば、2層~約100000層までを指し、好ましくは10000層以下であり、より好ましくは1000層以下である。
【0023】
本発明において、グラフェン材料は結晶性に優れたものである。ここで、結晶性に優れたとは、結晶欠陥が少ないか、ほとんどないか、全くないことをいう。また、グラフェン材料において結晶欠陥が少ないとは、グラフェン材料を構成する炭素原子がSp2混成軌道を形成して結合しており、Sp3混成軌道を形成して結合している割合が少ないか、ほとんどないか、全くないことをいう。
【0024】
(G/D)
本発明のグラフェン材料の結晶性は、レーザーラマン分光法測定における1360cm-1付近のピーク強度Dに対する1600cm-1付近のピーク強度Gの比G/Dで表すことができる。ここで、GはグラフェンのSp2混成軌道に基づくピーク強度であり、DはグラフェンのSp3混成軌道に基づくピーク強度である。G/Dの値は、本発明の効果の観点から、8.0以上であることが好ましく、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは10.0以上、さらに好ましくは11.0以上、さらに好ましくは15.0以上、さらに好ましくは18.0以上である。G/Dの値の上限については特に制限はなく、当該値は高ければ高い程結晶性が高く、本発明の効果の観点から望ましい。G/Dの値は、例えば、約100の値も取り得るものである。
【0025】
G/Dの値は、熱膨張黒鉛を製造する際の天然黒鉛、人造黒鉛の種類、製造条件、および熱膨張黒鉛の熱膨張方法、成形体を製造する条件等を調節することにより、調節することができる。例えば、G/Dの値は、使用する天然黒鉛の粒径を大きくすること、熱膨張の膨張度を高めつつ、成形時の配向性を高めることにより高めることができる。また、G/Dの値は、本発明の開気孔化処理、すなわち酸化処理を行うことにより、高めることができる。これは、開気孔化処理時に炭素、黒鉛の結晶性が低い部分、すなわち、結晶構造中の欠陥部分から酸化消耗するためである。結晶性の低い部分、結晶構造中の欠陥部分は、ラマン分光スペクトルとしては、Dピークに強いスペクトルを示すため、これらが減少することにより、相対的にG/Dの値が高くなる。
【0026】
(全気孔率)
本発明のグラフェン材料は、全気孔率が49.0%以上である。全気孔率が高い程、グラフェン材料の内部が細分化され、かさ密度は低くなる傾向にある。全気孔率が49.0%未満であると、グラフェン材料内部の細分化が不十分となり、さらに、基材として軽量であることが達成できない。
【0027】
全気孔率は、本発明の複合体の特性に応じて調節することが好ましい。例えば、蓄熱容量を重視してこれを大きくする場合には、全気孔率は高める傾向であることが好ましい。この場合において、全気孔率は、好ましくは50.0%以上、より好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上である。
【0028】
一方、熱伝導性を重視してこれを大きくする場合には、全気孔率は高めすぎないことが好ましい。この場合において、全気孔率は、好ましくは90.0%以下、より好ましくは85.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下、さらに好ましくは75.0%以下、さらに好ましくは70.0%以下である。
【0029】
全気孔率は、熱膨張黒鉛の製造条件により嵩密度の低い成形体とすることにより、すなわち熱膨張黒鉛の膨張度を高めること等により高めることができ、一方、嵩密度の低い成形体とすることにより、すなわち熱膨張黒鉛の膨張度を低くすること等により低くすることができる。
【0030】
(開気孔率)
本発明のグラフェン材料は、開気孔率が44.1%以上である。開気孔率は、外部に通じている気孔の割合(開気孔率)であり、これが高いことにより、相変化物質を十分に吸蔵することができる。開気孔率が44.1%未満であると、相変化物質を吸蔵する基材として十分な容量が確保できない。開気孔率は、蓄熱容量の観点からは、好ましくは45.0%以上、より好ましくは50.0%以上、さらに好ましくは60.0%以上、さらに好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは85.0%以上、さらに好ましくは90.0%以上である。一方、開気孔率は、熱伝導性の観点からは、好ましくは90.0%以下、より好ましくは85.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下、さらに好ましくは75.0%以下、さらに好ましくは70.0%以下、さらに好ましくは65.0%以下である。
【0031】
開気孔率は、空気中あるいは酸化雰囲気中で、炭素成形体を概ね400℃以上の温度で、所定の時間の処理することにより、連結した炭素による壁を酸化消耗させることにより高めることができ、一方、粉体を高圧でプレス成形することにより低くすることができる。
【0032】
開気孔率は、本発明の効果の観点から、全気孔率に対する割合が90%以上であることが好ましい。これにより、無駄な空間となる閉気孔の割合を極力減らし、熱伝導性および蓄熱特性に優れる複合体を提供することが可能となる。
【0033】
開気孔率の全気孔率に対する割合は、好ましくは91.0%以上、より好ましくは92.0%以上、さらに好ましくは93.0%以上、さらに好ましくは95.0%以上、さらに好ましくは96.0%以上、さらに好ましくは97.0%以上、さらに好ましくは98.0%以上である。
【0034】
(かさ密度)
本発明のグラフェン材料は、かさ密度が0.110g/cm3以上であることが好ましい。かさ密度が低い程、グラフェン材料の内部が細分化される傾向にあるが、あまりに低いかさ密度では、グラフェン材料が脆くなってしまう傾向にあるからである。なお、かさ密度は全気孔率が高くなれば低くなる関係にあるので、全気孔率を調節することで、かさ密度も調節することができる。
【0035】
(相変化物質)
本発明に係る相変化物質は、気体-液体間、液体-固体間などの相変化に伴い、熱を吸収または排出する性質を有するものであって、グラフェン材料の開気孔に収めることができるものであれば特に限定されず、各種の材料を使用することができる。したがって、相変化物質は、常温において気体状、液体状、固体状のいずれの形態であってもよいが、典型的には、常温で固体状であって、熱を吸収することで液体状となるものが挙げられる。
【0036】
相変化物質としては、例えば、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル類、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、チオ硫酸ナトリウム、アンモニウムミョウバン、カリウムミョウバン、硫酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、臭化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硝酸ニッケル、チオ硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛、臭化カルシウム、硝酸亜鉛、リン酸水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸リチウム、炭酸カルシウム、臭化鉄などの無機塩、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ペプタデカン、オクタデカンなどのパラフィン類、カプリル酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪酸類、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールなどの高級アルコール類などを挙げることができる。このうち、パラフィン類が好ましい。相変化物質は、1種単独で使用する他、2種以上を併用することができる。
【0037】
複合材における相変化物質の含有量は、複合材の全質量に対して20.0質量%以上が好ましく、より好ましくは30.0質量%以上、さらに好ましくは40.0質量%以上、さらに好ましく42.5質量%以上、さらに好ましく44.0質量%以上、さらに好ましく50.0質量%以上である。一方、相変化物質の含有量の上限は、開気孔率の上限値や、相変化物質の比重により自ずと定まる値である。目安としては、約90数質量%程度である。
【0038】
(用途)
本発明の複合材は電気自動車等に搭載されるリチウムイオン電池の冷却システムにおけるサーマルインターフェースをはじめ、産業用途における電池システム、電力供給、電気制御やデータ制御システムにおけるパワートランジスタ―、CPU、MPUなどのマイクロコンピューター、プロセッサーを効率的に冷却する放熱材、伝熱材、サーマルインターフェースとして、好適に使用できる。
【0039】
(製法)
本発明の複合材は、以下に説明する製造方法により製造することができる。当該製造方法とは、本発明の第二の側面に係る製造方法、および、本発明の第三の側面に係る製造方法である。
【0040】
本発明の製造方法によれば、本発明に係る複合材についての処理能力の高い製造方法を提供することができる。
【0041】
[本発明の第二の側面]
本発明の第二の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(I-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(I-2)前記熱膨張黒鉛を、加圧成形して、加圧成形体を得る工程、
(I-3)前記加圧成形体を、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程、および、
(I-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法である。
【0042】
(工程(I-1))
工程(I-1)は、熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程である。
【0043】
≪熱膨張性黒鉛≫
原料である熱膨張性黒鉛としては、熱処理により、鱗片状黒鉛の層間が押し広げられ、熱膨張黒鉛が得られるものであれば、特に限定されない。そのような具体例としては、熱膨張性の黒鉛層間化合物が挙げられる。
【0044】
黒鉛層間化合物とは、黒鉛の層間に、化学反応を利用して酸化剤などの層間物を押し込んだ化合物である。これを加熱すると、層間物が分解しガス化することで、この圧力によって黒鉛の六角板状結晶が垂直軸方向に大きく膨張して、熱膨張黒鉛が得られる。層間物としては、例えば、硫酸などが挙げられる。熱膨張性黒鉛としては、市販のものを使用することができ、例えば、エア・ウォーター(株)製の熱膨張性黒鉛TEG(Thermally Expandable Graphite)などを使用することができる。
【0045】
≪熱処理≫
熱膨張性黒鉛の熱処理は、熱膨張性黒鉛の種類に応じて、当該熱膨張性黒鉛が十分に熱膨張する条件であれば、特に限定されることなく、好適に実施することができる。例えば、エア・ウォーター(株)製の熱膨張性黒鉛TEG(SS-3)を用いる場合、黒鉛坩堝に装填した熱膨張性黒鉛を、炉内温度750℃に設定した電気炉中で10分間保持すれば、黒鉛粒子の厚さ方向に数百倍に膨張した熱膨張黒鉛が得られる。
【0046】
≪熱膨張黒鉛≫
上記で得た熱膨張黒鉛は、熱膨張が十分に行われたものであることの指標として、タップ密度が0.10g/cm3未満であることが好ましい。タップ密度は、より好ましくは0.09g/cm3以下、さらに好ましくは0.08g/cm3以下、さらに好ましくは0.05g/cm3以下、さらに好ましくは0.03g/cm3以下である。一方、タップ密度の下限について特に制限はないが、通常、タップ密度は、0.01g/cm3以上である。
【0047】
ここで、タップ密度は、得られた熱膨張黒鉛を、所定の容積の計量カップに採取し、カップの上部を外径10mmのガラス棒を用いてすりきり、余分な熱膨張黒鉛を除去して得たサンプルについて、はかりを使用して当該サンプルの質量を測定し、該測定値をカップの容積で割り算することにより算出される値である。
【0048】
(工程(I-1-a)~工程(I-1-d))
前記工程(I-1)は、所望により、以下の工程(I-1-a)~工程(I-1-d)を含む工程として実施することができる。こうすることで、熱膨張黒鉛を連続的に得ることができるという利点が得られる他、その生産効率が工程(1-1)の場合に比べて飛躍的に高まるといった利点も得られる。例えば、後記製造例4の欄で説明するとおり、工程(1-1)による処理速度は、約5g/時間、すなわち、約0.08g/分であるのに対し、工程(I-1-a)~工程(I-1-d)による場合、処理速度は約20g/分まで改善する。また、工程(I-1-a)~工程(I-1-d)により得られる熱膨張黒鉛は、後記「製造例2の原料と製造例4の原料の開気孔化処理の対比」の欄で説明するとおり、工程(1-1)で得られる熱膨張黒鉛よりも、より開気孔化し易いといった特徴を有するものである。
【0049】
≪工程(I-1-a)≫
工程(I-1-a)は、周りをヒーターで囲まれ、前記ヒーターにより内部が加熱された状態にある、鉛直方向に立てられたチューブを準備する工程である。
【0050】
周りをヒーターで囲まれ、鉛直方向に立てられたチューブ(加熱ユニット)において、該加熱ユニットを構成するチューブは、原料である熱膨張性黒鉛の加熱が好適に実施できる材質、形状である限り、いずれのものも好適に使用することができる。そのようなチューブの材質としては、例えば、石英ガラスが好ましい。また、チューブの形状は、原料の均一な加熱の観点から、例えば、円筒形であることが好ましい。さらに、チューブの内径や長さは、その内部を原料が適切に通過し適切に加熱できるように、適宜設定すればよい。
【0051】
≪工程(I-1-b)≫
工程(I-1-b)は、前記熱膨張性黒鉛を、前記チューブの下端から、気流に乗せて連続的に前記チューブ内に供給する工程である。原料をチューブ内に供給する方法については、原料を気流に乗せて連続的にチューブ内に供給できるものである限り、特に制限はない。
【0052】
例えば、前記加熱ユニットの下部には、原料を供給するための原料供給ユニットを設置することができる。当該原料供給ユニットは、例えば、当該ユニットに原料を投入するための原料投入手段(例えば、原料ホッパー)、原料投入手段から前記加熱ユニット下部まで原料を移送するための原料移送手段(例えば、スクリュー式原料フィーダー)、原料移送手段の終端から前記加熱ユニットの下部へめがけて原料を突出させ、上昇気流をつくる原料突出手段(例えば、OFFからONへ切り替えることで、原料をパルスエアに乗せて上部に突出・上昇させるパルスエア部材)を含むものである。なお、原料供給ユニットおよび加熱ユニット(両者を合せて、「原料供給・加熱ユニット」ともいう。)は複数設置され得る。
【0053】
≪工程(I-1-c)≫
工程(I-1-c)は、前記熱膨張性黒鉛を、該熱膨張性黒鉛がチューブ内を気流に乗って下から上へと通過する間に熱処理して、熱膨張黒鉛に変換する工程である。当該熱処理は、原料供給速度(g/分)、チューブ内の上昇方向の気流の平均流量(m3/分)、および、ヒーターによる加熱の温度により制御することができる。
【0054】
例えば、後記実施例で使用した加熱ユニットによる場合、原料供給速度は15~25g/分の範囲であることが好ましく、より好ましくは17~23g/分の範囲、さらに好ましくは19~21g/分の範囲である。また、チューブ内の気流の平均流量は0.50~2.50m3/分の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.80~2.20m3/分の範囲、さらに好ましくは1.00~2.00m3/分の範囲である。さらに、ヒーターによる加熱の温度は、600~1500℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは700~1300℃の範囲、さらに好ましくは800~1100℃の範囲である。
【0055】
≪工程(I-1-d)≫
工程(I-1-d)は、前記熱膨張黒鉛を、前記チューブの上端から、連続的に得る工程である。該工程は、チューブの上端から熱膨張黒鉛を回収できるものである限り、特に制限なく、実施することができる。
【0056】
例えば、前記加熱ユニットの上部には、加熱ユニットを通過して膨張した熱膨張黒鉛を回収するための回収ユニットが設置され得る。該回収ユニットは、加熱ユニットを通過してきた熱膨張黒鉛を受け止めるための回収手段(例えば、エアフード)を含むものであってよい。また、回収ユニットは、加熱ユニットから吸い上げられた熱膨張黒鉛を、さらに、気流に乗せて移送し、フィルターなどで気流から分離して、集積し、回収するものであってよい。一方、熱膨張黒鉛が分離された排気は、硫黄酸化物や窒素酸化物を除去するための装置(例えば、スクラバー)を通してから、大気中に放出されることが好ましい。
【0057】
≪連続処理システム≫
図1図4に、工程(I-1-a)~工程(I-1-d)を実施するためのシステムの一例を図示する。但し、本発明はこれら例示によって限定されるものではない。
【0058】
図1は、加熱ユニット(A)の一例である。中央に石英ガラスチューブ(3)が挿入された、縦型の管状電気炉(1)があり、石英ガラスチューブ(3)を取り囲むようにヒーター(2)が設置されている。また、図2は、当該加熱ユニットの下部に原料供給ユニット(B)を設置し、加熱ユニット(A)の上部に熱膨張黒鉛を受け止めるための回収手段の一部であるエアフード(7)を設置した状態を示したものである。原料供給ユニット(B)は、原料を投入する原料ホッパー(4)、原料ホッパー(4)の下部より加熱ユニット(A)下部まで原料を移送するスクリュー式原料フィーダー(5)が設置され、スクリュー式原料フィーダー(5)の先端かつ石英ガラスチューブ(3)の下部に位置し、原料をエアのON、OFFで上部に突出させるパルスエア部材(6)が設置されている。排気配管の排気量が十分であるため、石英ガラスチューブ(3)の下部、エアフード(7)と加熱ユニット上部の空間からも気流を吸気するように設定されている。このため、パルスエア部材(6)の先端から制御されて突出した原料は、石英ガラスチューブ(3)の下部より吸引されて、ヒーター(2)からの輻射熱により膨張しながら石英ガラスチューブ(3)内を通過し、膨張後の熱膨張黒鉛が非常にかさ高いこともあり、容易にエアフード(7)、およびそれに繋がる排気配管に吸引されていく。図3は、パルスエアOFFのときの状態(左側の図)、および、パルスエアONのときの状態(右側の図)を示したものである。パルスエアをONにすることにより、原料が突出し、上昇方向の気流に乗って石英ガラスチューブ内を通過していく状況が図示されている。
【0059】
図4は、回収ユニット(C)の一例を図示したものである。該回収ユニットには3列の加熱ユニット(A)がそれぞれ、エアフード(7)の下部に設置されている(原料供給ユニット(B)は図示せず)。該回収ユニット(C)では、エアフード(7)が、その上部の系統ダンパー(11)を経て排気系統に接続されている。加熱ユニット(A)のエア吸引力は、主に排風機(15)、希釈エアダンパー(19)、系統ダンパー(11)、風量調整ダンパー(12)により調整される。排気系統には、膨張した熱膨張黒鉛と排気とを分離するためのバグフィルター(13)、排気中の硫黄酸化物、窒素酸化物等を処理するためのスクラバー(14)が連結されている。バグフィルター(13)は排気中の浮遊物である熱膨張黒鉛を排気気流中から分離し、下部に滞留させる装置である。フィルターとしては、家庭用の掃除機のフィルターと同様の布製のフィルターを使用することができる。バグフィルター(13)の下部には、ロータリーバルブ(20)が設置されており、バグフィルターの排気流とは独立して、製品搬送ブロアー(17)により熱膨張黒鉛を貯留コンテナバック(16)に移送し、回収する。熱膨張黒鉛の回収速度は、ロータリーバルブ(20)の回転数、搬送系統バンパー(18)により調整する。
【0060】
こうして得られる熱膨張黒鉛は、そのまま、次工程に用いることができる。
【0061】
(工程(I-2))
工程(I-2)は、前記熱膨張黒鉛を、加圧成形して、加圧成形体を得る工程である。
【0062】
≪加圧成形≫
熱膨張黒鉛の加圧成形は常法により実施することができ、例えば、金型を用いて実施することができる。金型により加圧成形する場合、熱膨張黒鉛の金型への投入量と、得られる加圧成形体の厚さを加減することで、得られる加圧成形体のかさ密度を調節することができる。加圧成形の方法としては、一般的に実施されている粉体成形法、ゴム成形法、真空成型法などを適用することができる。加圧成形体のかさ密度(g/cm3)は、加圧成形体の全気孔率(%)に相関する値である。すなわち、かさ密度が高ければ、全気孔率は低くなる傾向にあり、かさ密度が低ければ、全気孔率は高くなる傾向にある。本発明において、本工程における加圧成形体のかさ密度は、例えば、0.100g/cm3~0.800g/cm3程度である。したがって、加圧成形は、加圧成形体のかさ密度が上記範囲内となるように、熱膨張黒鉛の金型への投入量と、得られる加圧成形体の厚さを加減して、実施する。
【0063】
(工程(I-3))
工程(I-3)は、前記加圧成形体を、加熱により開気孔化処理して、グラフェン材料を得る工程である。
【0064】
≪開気孔化処理≫
開気孔化処理は、前記加圧成形体を、所定の温度以上の温度で、空気中で、加熱することにより実施することができる。前記加圧成形体の閉気孔を構成している微小構造は、その構成成分たる炭素が、加熱により、空気中の酸素、水分等と化合してCO、CO2等のガスとなって拡散してゆくので、結果として、閉気孔が開気孔化するものと考えられる。
【0065】
加熱の条件としては、昇温速度、最高到達温度および最高到達温度での保持時間が挙げられ、前記の炭素のガス化・拡散が適度に進行する観点から、適宜調整される。例えば、昇温速度は、2℃/分~20℃/分の範囲であることが好ましく、より好ましくは5℃/分~15℃/分の範囲、さらに好ましくは8℃/分~12℃/分の範囲である。最高到達温度は、400℃~800℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは450℃~700℃の範囲、さらに好ましくは500℃~650℃の範囲である。保持時間は、10分~150分の範囲であることが好ましく、より好ましくは30分~120分の範囲、さらに好ましくは60分~105分の範囲である。
【0066】
開気孔化処理により、加圧成形体から、グラフェン材料を得ることができる。
【0067】
(工程(I-4))
工程(I-4)は、前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程である。
【0068】
相変化物質のグラフェン材料への充填は、常法により、実施することができ、グラフェン材料の開気孔に相変化物質を充填できるものである限り、特に限定されない。
【0069】
当該充填は、典型的には、加熱等により液体状にした相変化物質をグラフェン材料の開気孔に充填したのち、これを冷却して相変化物質を固化することにより実施できる。この場合において、相変化物質をグラフェン材料の開気孔に行き渡らせるために、充填は減圧下で実施することが好ましい。
【0070】
図6のa)~d)は、当該充填工程の一例を示している。すなわち、a)は、中型31を、下型32に、Oリング33を挿入した状態で組合せた含浸治具を示している。b)は、当該含浸治具の中型31の内側に、グラフェン材料34を装填し、グラフェン材料34の表面部分に相変化物質35を過剰となるように充填した状態を示している。この状態で、含浸治具を真空乾燥機に装填し、真空引きしたのちに、炉内の温度を相変化物質が溶融する温度にまで上昇させて、相変化物質が溶融した状態で一定時間保持し、その後、真空を解除する。c)は、真空を解除した真空乾燥機から、含浸治具を取り出した状態を示している。過剰の相変化物質35がグラフェン材料34の上に溜まった状態となっている。d)は、含浸治具の中型31と下型32の間にアルミスペーサ36を挿入し、過剰の相変化物質35を中型31の内部から流し、グラフェン材料34への相変化物質35の含浸が完了し、複合材が得られた状態を示している。過剰の相変化物質が流れ出した後の複合材の表面は濡れた状態にあるため、必要に応じ、当該表面をペーパータオルなどで拭いてもよい。なお、a)~d)はいずれも断面図である。
【0071】
(工程(I-5))
本発明の製造方法は、
(I-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含むものであることが好ましい。
【0072】
本発明の複合材の被覆材による被覆は、常法により、実施することができ、相変化物質が液体状になってもグラフェン材料の開気孔の中に保持できるものである限り、特に限定されない。
【0073】
当該被覆は、典型的には、複合材を包み込むように袋状にラミネートフィルム加工(パウチ加工)等した後、当該袋内の空気を吸引除去することにより実施することができる。ラミネートフィルム加工は、熱を加えるホットラミネートフィルム加工でもよいし、熱を加えないコールドラミネートフィルム加工でもよい。
【0074】
図7のa)~d)は、当該被覆工程の一例を示している。すなわち、a)は、複合材41を、その形状に倣うように抜き加工した被覆材(アルミ樹脂フィルム43)からなる容器に装填し、その上にシート状の被覆材(アルミ樹脂フィルム42)を被せた状態を示している。b)は、上記a)で得た構成体を、パウチ加工型(I)44に装填した状態を示している。c)は、b)で得た構成体の上にパウチ加工型(II)45を載せた状態を示している。そして、この状態の構成体を、パウチ加工型(I)44とパウチ加工型(II)45の温度制御が可能な熱板プレス機に設置し、下熱板温度と、上熱板温度をそれぞれ適宜設定し、所定の荷重で所定の時間加熱し、被覆材(アルミ樹脂フィルム43)と被覆材(アルミ樹脂フィルム42)とを融着させる。d)は、被覆材(アルミ樹脂フィルム43)と被覆材(アルミ樹脂フィルム42)との融着が完了した構造体を示している。なお、a)~d)はいずれも断面図である。
【0075】
e)は、d)で得た被覆材が融着した構造体の上面図である。パウチ加工型(I)44には溝が形成されているため、e)に示すように、被覆材は、口の開いた袋状となっている。この口の部分に真空吸引器のノズルを挿入し、真空ポンプで減圧した後に口部分を封じ切ることにより、被覆材で被覆した複合材を得ることができる。
【0076】
[本発明の第三の側面]
本発明の第三の側面は、グラフェン材料および相変化物質を含んでなる複合材であって、前記グラフェン材料の全気孔率が49.0%以上、かつ、開気孔率44.1%以上であり、前記相変化物質が前記グラフェン材料の開気孔に充填されている複合材の製造方法であって、
(II-1)熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程、
(II-2)前記熱膨張黒鉛を、溶媒に浸漬し、解砕処理に付した後、上澄みを採取し、該上澄みから溶媒を分離して固形物を得た後、該固形物を粉砕して、粉砕体を得る工程、
(II-3)前記粉砕体を、加圧成形して、グラフェン材料を得る工程、および、
(II-4)前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程
を含む、製造方法である。
【0077】
(工程(II-1))
工程(II-1)は、熱膨張性黒鉛を、熱処理して、熱膨張黒鉛を得る工程である。当該工程(II-1)は、上記第二の側面の工程(I-1)と同じであるから、工程(I-1)についての上記説明が、本工程(II-1)についてもそのまま適用することができる。
【0078】
(工程(II-1-a)~工程(II-1-d))
工程(II-1-a)~工程(II-1-d)は、上記第二の側面の工程(I-1-a)~工程(I-1-d)と同じであるから、工程(I-1-a)~工程(I-1-d)についての上記説明およびかかる工程を用いた連続処理システムについての上記説明が、工程(II-1-a)~工程(II-1-d)についてもそのまま適用される。
【0079】
(工程(II-2))
工程(II-2)は、前記熱膨張黒鉛を、溶媒に浸漬し、解砕処理に付した後、上澄みを採取し、該上澄みから溶媒を分離して固形物を得た後、該固形物を粉砕して、粉砕体を得る工程である。
【0080】
≪溶媒への浸漬≫
前記熱膨張黒鉛の溶媒への浸漬は、常法により、実施することができる。溶媒としては、この分野で通常使用されるものを使用することができ、例えば、1,2ジクロロエタン、ベンゼン、塩化チオニル、塩化アセチル、炭酸テトラクロロエチレン、炭酸ジクロロエチレン、フッ化ベンゾイル、塩化ベンゾイル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、無水酢酸、オキシ塩化リン、ベンゾニトリル、オキシ塩化セレン、アセトニトリル、テトラメチルスルホン、ジオキサン、炭酸-1,2-プロパンジオール、シアン化ベンジル、亜硫酸エチレン、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートなどの炭酸エステル類、フェニル亜リン酸二フッ化物、酢酸メチル、n-ブチロニトリル、アセトン、酢酸エチル、水、フェニルリン酸二塩化物、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルリン酸塩化物、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジン、n-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-ジエチルホルムアミド、N-ジエチルアセトアミド、ピリジン、ヘキサメチルリン酸アミド、ヘキサン、四塩化炭素、ジグライム、トリクロロメタン、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、2-メトキシエタノール、ジメチルアセトアミド、トルエン、ポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。これら溶媒は単独で又は2以上を混合して用いることができる。また、これらの溶媒には、凝集を防ぐために、予め分散剤を添加することができ、そのような分散剤としては、界面活性剤等が挙げられる。
【0081】
≪解砕処理≫
熱膨張黒鉛と溶媒の混合物は、解砕処理に付される。粉砕は、該混合物を、機械的粉砕装置、ミキサー、ブレンダー、ボールミル、振動ミル、超音波ミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、超音波破砕機などを用いて実施することができる。また、解砕した後は、解砕物の凝集を防ぐため、超音波印加に付すことが好ましい。超音波印加の手段は特に限定されず、例えば、超音波ホモジナイザーを用いて実施することができる。こうして、解砕物が分散した混合液(グラフェン分散液)を得ることができる。
【0082】
≪上澄み採取・溶媒分離≫
上記処理を経て得た、解砕物が分散した混合液は、所定の時間静置した上で、上澄みを採取し、該上澄みから溶媒を分離することにより、熱膨張黒鉛の解砕物からなる固形物(グラフェン集合体)を得ることができる。静置する時間は、用いる溶媒の種類や、分散剤の種類になどにより変動し得るが、例えば、8時間以上であることが好ましく、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは12時間以上である。上澄みから溶媒を分離して固形物を得る工程は、例えば、濾過と、それに続く乾燥などにより実施することができる。濾過は、減圧濾過を行うことで、より効率的に実施することができる。また、乾燥は、例えば、室温で風乾した後、加熱乾燥することなどにより実施することができる。室温での風乾は、特に限定されないが、例えば3時間以上であることが好ましく、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。加熱乾燥は、例えば、電気炉などを用いて実施することができる。例えば、90℃で6時間以上実施することが好ましく、より好ましくは90℃で7時間以上、さらに好ましくは90℃で8時間以上である。
【0083】
≪粉砕≫
こうして得た固形物は、粉砕して、粉砕体を得ることができる。粉砕は、特に限定されず、常法により実施することができる。例えば、該粉砕は、粉砕機を用いて実施することができる。粉砕機として、万能粉砕機(M20、アズワン(株)製)を用いる場合、粉砕の時間は10分以上であることが好ましく、より好ましくは12分以上、さらに好ましくは15分以上である。
【0084】
(工程(II-3))
工程(II-3)は、前記粉砕体を、加圧成形して、グラフェン材料を得る工程である。本加圧成形は、前記第二の側面の工程(I-2)の加圧成形と同様に実施することができるものであり、したがって、粉砕体の金型への投入量と、目的物の厚さとを適当な範囲とすることで実施できる。但し、本加圧成形では、原料として、熱膨張黒鉛に代えて前記粉砕体を用いるものである。このため、本加圧成形では、グラフェン材料を直接得ることができる。
【0085】
≪開気孔化処理≫
工程(II-3)は、前記粉砕体を加圧成形したのち、さらに、加熱により開気孔化処理する工程を含むものであってもよい。当該開気孔化処理は、前記第二の側面の工程(I-3)の開気孔化処理と同様にして、実施することができる。
【0086】
(工程(II-4))
工程(II-4)は、前記グラフェン材料の開気孔に、前記相変化物質を充填して、複合材を得る工程である。工程(II-4)は、上記第二の側面の工程(I-4)と同じであるから、工程(I-4)についての上記説明が、工程(II-4)についてもそのまま適用される。
【0087】
(工程(II-5))
本発明の製造方法は、
(II-5)前記複合材を、被覆材で被覆する工程
をさらに含むものであることが好ましい。
【0088】
工程(II-5)は、上記第二の側面の工程(I-5)と同じであるから、工程(I-5)についての上記説明が、工程(II-5)についてもそのまま適用される。
【実施例0089】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
<実験に供した材料>
熱膨張性黒鉛:熱膨張性黒鉛TEG(SS-3)(黒鉛層間化合物、エア・ウォーター(株)製)
濾紙:定性濾紙No.5A(アドバンテック東洋(株)製)
相変化物質:パラフィン(融点48~50℃、富士フイルム和光純薬(株)製)
被覆材(アルミ樹脂フィルム):ポリプロピレン50μm/アルミ80μm/ナイロン50μmの複合フィルム
等方性黒鉛:MGY-72(東邦カーボン(株)製)
カーボンペーパー:24AA(SGL Carbon社製)
【0091】
<熱伝導度の測定>
各試料についての熱拡散定数a(mm2/s)、比熱Cp(J/g・K)、材料密度ρ(g/cm3)の値から、下記式(1)により、熱伝導度λ(W/m・K)を算出した。なお、算出した熱伝導度は、In-Plane法により、材料の面内方向と厚さ方向の熱拡散定数を解析により分離して数値化した。
λ=a×ρ×Cp (1)
a:熱拡散定数(mm2/s)
ρ:材料密度(g/cm3
Cp:比熱(J/g・K)
【0092】
ここで、熱拡散定数a(mm2/s)は、NETZSCH社製のキセノンフラッシュアナライザーLFA447 Nanoflashを使用したレーザーフラッシュ法により、ASTM E-1461に準拠し、測定した。比熱Cp(J/g・K)は、示差熱量計(セイコーインスツルメンツ製のDSC220C)を使用して、温度25℃、Arガス雰囲気中で示差熱量分析を行い、測定した。材料密度ρ(g/cm3)は、かさ密度(g/cm3)を用いた。
【0093】
<レーザーラマン分光法測定>
(株)堀場製作所製のラマン顕微鏡 XploRAを使用して、532nmのレーザー波長により10mWの強度で、試料表面に照射し、100~3500cm-1の波長範囲で分光スペクトルを測定した。
【0094】
グラフェンやグラファイトなどの炭素材料では、グラフェンのSp2混成軌道に基づくピーク(Gピーク)が1600cm-1付近に、炭素のSP3混成軌道に基づくピーク(Dピーク)が1360cm-1付近に出現し、グラファイトとしての結晶性が高い場合にはGピークが強く表れ、結晶欠陥が多く含まれる場合にはDピークが出現することが知られている。よって、Gピーク強度をDピーク強度で除した比G/Dを算出し、グラフェン材料の結晶性を表すパラメータとした。
【0095】
製造例1(熱膨張黒鉛の製造:I-1/II-1)
熱膨張性黒鉛(SS-3)5gを黒鉛製のるつぼに装填し、炉内温度を750℃に設定した電気炉中に投じて、10分間保持し、黒鉛粒子の厚さ方向に数百倍に膨張した熱膨張黒鉛4.5gを得た。なお、得られた熱膨張黒鉛を、容積100cm3のプラスチック製計量カップに採取し、カップの上部を外径10mmのガラス棒を用いてすりきり、余分な熱膨張黒鉛を除去し、100cm3の容積とした。ついで分析用電子天秤HTR-80(新光電子(株)製、分析精度0.1mg)を使用して、100cm3の膨張黒鉛の質量を測定した。測定した質量を体積(100cm3)で除することにより、タップ密度を算出したところ、0.018g/cm3であった。
【0096】
製造例2(熱膨張黒鉛の加圧成形体の製造:I-2)
表1に従い、上記で得た熱膨張黒鉛の所定量をΦ25mmの内径寸法を有する金型に充填し、金型スペーサで、目的物である加圧成形体の厚さを調整して加圧成形し、加圧成形体を作製した。加圧成形体のかさ密度等は、材料投入量と加圧成形体の厚さを調整することで、十分に制御することができた。製造例2-1~2-3で得た加圧成形体について、見掛密度を測定し、開気孔率、閉気孔率、開気孔量および閉気孔量を算出した。
【0097】
【表1】
【0098】
製造例3(連続処理による熱膨張黒鉛の製造:I-1-a~I-1-d)
図4に相当する装置を用いて、連続処理によって、熱膨張黒鉛を製造した。すなわち、原料としてエア・ウォーター(株)製の熱膨張性黒鉛TEG(SS-3)を使用し、原料供給・加熱ユニットによる熱処理において、各石英ガラスチューブ(3)(外径80mm、内径75mm、長さ1500mm)の平均流量(m3/min)を希釈エアダンパー(19)、風量調整ダンパー(12)、原料供給・加熱ユニットの各系統ダンパー(11)の開度を調整することにより1.27m3/minに制御し、かつ、電気炉のヒーターの温度を1000℃に設定して、原料に与える熱量を制御した。回収ユニット(C)の排気系統の内径は200mmであった。原料供給速度は20g/分に調節した。
【0099】
得られた熱膨張黒鉛のタップ密度を測定した。タップ密度の測定は、計量カップとして内容積487cm3のPET製コップを用いたこと、はかりとしてA&D社製の電子はかり(FX-300i)を用いたこと以外は製造例1の場合と同様にして、実施した。
【0100】
なお、原料供給・加熱ユニットによる熱処理時には、パルスエア部材(6)から突出した原料が下に落ちることなく、効率よく上部に浮遊していくか否かを観察しながら、上記の条件を維持した。
【0101】
製造例4(連続処理で得た熱膨張黒鉛の加圧成形体の製造:I-2)
表2に従い、製造例3で製造した熱膨張黒鉛を使用して、製造例2と同様に処理をして、加圧成形体を作製した。製造例4-1~4-5で得た加圧成形体について、見掛密度を測定し、開気孔率、閉気孔率、開気孔量および閉気孔量を算出した。
【0102】
【表2】
【0103】
製造例5(製造例2の加圧成形体の開気孔化処理:I-3)
表3に従い、製造例2および製造例4で作製した加圧成形体を、開気孔化処理(熱処理)に付した。該開気孔化処理は、加圧成形体を、黒鉛坩堝に装填した状態で、アズワン社製の小型プログラム電気炉MMF-1の炉内に設置し、大気中で、所定の昇温時間で加熱し、最高到達温度に達した後、所定の時間保持することにより実施した。保持時間が経過した後は、加熱を止め、自然冷却に付し、開気孔化体を得た。
【0104】
開気孔化処理により、閉気孔率が減少し、開気孔率が増加した。これは、炭素が空気中の酸素、水分により酸化し、一酸化炭素、二酸化炭素として消耗するために、閉気孔を構成している微小構造が開気孔化したものであると考えられる。
【0105】
【表3】
【0106】
<製造例2の原料と製造例4の原料の開気孔化処理の対比>
黒鉛坩堝での熱処理で得た熱膨張黒鉛を用いて、これを加圧成形したもの(製造例2)を原料として用い、その後開気孔化処理した製造例5-1~5-3のグラフェン材料と、連続処理での熱処理で得た熱膨張黒鉛を用いて、これを加圧成形したもの(製造例4)を原料として用い、その後開気孔化処理した製造例5-4および5-5のグラフェン材料とを比較するに、製造例4を用いたグラフェン材料は開気孔化処理の効果が非常に大きく現れるものであることがわかる。例えば、製造例5-4では93.8%の大きな開気孔率を示した。連続処理による熱膨張黒鉛は、グラフェン結晶性に優れるだけでなく、大きな保持容量をもつ開気孔率の大きいグラフェン材料の作製に有利であると考えられる。
【0107】
製造例6(グラフェン粉砕体の製造:II-2)
上記で得た熱膨張黒鉛4gを、ガラスビーカー中で、イソプロピルアルコール500mlに浸漬した後に、万能ホモジナイザー(ヒストコロンNS52、(株)マイクロテック・ニチオン製)を使用して、12500rpmの回転数で、15分間×8回、の解砕処理に付した。解砕処理物に、超音波ホモジナイザー(US300T、日本精機(株)製)の超音波発信子を投入し、出力70%で、10分間×20回、超音波処理し、熱膨張黒鉛粒子を粉砕(グラフェン化)した。得られた混合液を、12時間放置し、上澄みを回収して、グラフェン分散液を得た。得られたグラフェン分散液50gを、表面をアルマイト処理したアルミ製カップに採取し、90℃で20時間保持した後の固形分の質量を測定し、分散液の質量比から固形分を算出したところ、0.8質量%であった。
【0108】
ブッフナーロートに、濾紙(定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋(株)製)を装填し、アスピレータで減圧しながら、上記で得たグラフェン分散液を徐々に滴下して、グラフェンとイソプロピルアルコールを分離し、濾紙上にグラフェンを堆積させた。堆積物を、室温で5時間、風乾した後、90℃に設定した電気炉で8時間乾燥し、イソプロピルアルコールを完全に除去して、固形物(グラフェン集合体)を得た。該固形物を、万能粉砕機(M20、アズワン(株)製)を使用して、粉砕時間15分で粗粒に粉砕し、粉砕体を得た。
【0109】
製造例7(製造例6の粉砕体の加圧成形:II-3)
表4に従い、製造例6で得た粉砕体を、製造例2と同様に処理して、加圧成形処理に付した。製造例7-1~7-5で得た加圧成形体について、見掛密度を測定し、開気孔率、閉気孔率、開気孔量および閉気孔量を算出した。
【0110】
【表4】
【0111】
製造例6で作製したグラフェン粉砕体を加圧成形した試料であるため、熱膨張黒鉛を熱成型した製造例2および製造例4と比較すると、全気孔率に対する開気孔率の割合が高い成形体が得られている。この理由としては以下が考えられる。すなわち、熱膨張黒鉛ではグラフェン相は様々な方向を向いており、この状態で成形すると閉じた空間(閉気孔)が生成しやすい。一方、熱膨張黒鉛を一旦グラフェン化して粉砕したグラフェン粉砕体では、グラフェン相が一定の方向に配向した粒子で構成されているため、成形したときに開いた空間(開気孔)が生成しやすい。このため、製造例6のグラフェン粉砕体を加圧成形した場合に、開気孔率の割合の高い成形体が得られていると考えられる。
【0112】
製造例8(製造例7のグラフェン材料の開気孔化処理:II-4(開気孔化処理))
表5に従い、製造例7で得たグラフェン材料を、製造例5と同様に処理して、開気孔化処理に付し、開気孔化体を得た。
【0113】
【表5】
【0114】
製造例5と比較すると、製造例8の場合は、開気孔化処理前の見掛密度が高く、開気孔率も高いことが特徴であるが、開気孔化処理により、さらに見掛密度が向上し、開気孔率も向上している。
【0115】
前述の製造例2、製造例4で作製した加圧成形体および製造例5で作製した開気孔化処理体についての、試料の面内方向および厚さ方向の熱伝導度等の結果を表6に示し、前述の製造例7で作製した加圧成形体および製造例8で作製した開気孔化処理体についての、試料の面内方向および厚さ方向の熱伝導度等の結果を表7に示す。ここで、炭素の容量比率(vol%)とは、気孔以外の部分の体積をすべて炭素によるものとして算出した値である(以下同様)。
【0116】
【表6】
【0117】
かさ密度の向上に伴い、炭素の容量比率が向上することにより、熱伝導度が向上していく。高性能な蓄熱コンポジットを得るためには、炭素の骨格が高い熱伝導度を持つことに加えて、大きな開気孔率で多くの相変化物質を吸蔵できることが好ましい。表6の結果を比較すると、製造例2-1と製造例5-1では、開気孔化処理により、熱伝導度をそれほど損なわずに、開気孔率が大幅に向上している。製造例2-1、2-2と製造例4-1、4-2比較すると、連続処理で得た膨張黒鉛を使用した製造例4の方が総じて開気孔率が高く、その傾向は開気孔化処理にも反映され、製造例5-1、製造例5-2、製造例5-3よりも、製造例5-4、製造例5-5の方が熱伝導率も高く、開気孔率が大きくなっている。
【0118】
【表7】
【0119】
製造例7で得られた加圧成形体は、熱膨張黒鉛を加圧成形した製造例5に比較して、見掛密度が高く、開気孔率も高くなっている。これは、熱膨張黒鉛に比較してより配向したグラフェン相をもつ試料を成形しているためであるが、反面、熱伝導度は製造例5に比較すると同じかさ密度では低い値となっている。
【0120】
一方で、製造例7-4、製造例7-5で得られたように、かさ密度の高い成形体を加圧成形により、安定に成形することができるため、製造例5では成形できない、高いかさ密度かつ熱伝導度の高い成形体を作ることができている。
【0121】
製造例9(大型品)
(加圧成形と開気孔化処理)
図5の成形用の金型で、製造例3で得た熱膨張黒鉛を用いて、縦76mm、横145mmの大きさの成形体を製造した(成形体の厚さは下表記載のとおり)。成形の際の荷重は5kN~50kNの間で調節し、荷重を印加する時間は約5分とした。こうして得た成形体を、さらに、製造例5と同様に処理して、開気孔化処理に付し、開気孔化体を得た。
【0122】
【表8】
【0123】
図5に示す金型は、縦76mm×横145mmの長方形の成形用の金型である。当該金型は、上型21、中型23および下型24からなる。成形の際には、中型23に下型24を挿入してできる中型23の内側の空間に、成形する材料を装填する。目的とする加圧成形体の厚さは、材料の投入量と、厚さスペーサ22の厚さによって調節される。
【0124】
実施例1
(グラフェン材料)
製造例2-4~製造例2-7の成形体(グラフェン材料、開気孔化処理なし)と、製造例5-6~製造例5-10製造例5の成形体(グラフェン材料、開気孔化処理あり)を使用した。
【0125】
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
上記のグラフェン材料に、相変化物質としてパラフィンを用いて、真空含浸処理を行った。すなわち、図6のa)に示した含浸治具を使用し、下型32に線径3.5mmのOリング33を挿入した状態で中型31を組合せた。次に、b)に示すように、中型31の内側にグラフェン材料34を装填し、グラフェン材料34の表面部分に相変化物質(パラフィン)35を過剰となるように充填した。この状態で、治具を真空乾燥機 AVO-200NS(アズワン社製)に装填し、ゲージ圧で-0.1MPaまで真空引きしたのちに、炉内を70℃に上昇させて、パラフィンを溶融させ、パラフィンが溶融した状態で50分間保持し、その後、真空を解除した。c)に示すように、真空を解除した真空乾燥機から、治具を取り出した。d)に示すように、取り出した治具を、60℃に設定されたホットプレート上に載せて、中型31と下型32の間に厚さ4mmのアルミスペーサ36を挿入し、過剰のパラフィンを中型31の内部から流しだした。過剰の相変化物質(パラフィン)35が流れ出した後に、表面が濡れた状態の試料の表面部分をペーパータオルで拭き取り、含浸処理を完了し、複合材を得た。
【0126】
(複合材の熱伝導度の測定)
上記で得た複合材について、熱伝導度を測定した。熱伝導度を測定は、上記で得た複合材から、外径25mmの円盤形状の小片を切り抜いて、実施した。結果を下表に示す。
【0127】
【表9】
【0128】
蓄熱コンポジットとしての性能は、高い熱伝導度と相変化物質(パラフィン)の吸蔵量の多さにより決まるため、パラフィン含浸後の材料の熱伝導度、パラフィンの質量比率、蓄熱コンポジットとしての全気孔率を上記の表に示している。単にパラフィンの質量比率が高くても、蓄熱コンポジット中に気孔が多く含まれると性能が悪化するため、熱伝導度が高く、全気孔率が低く、なおかつパラフィン質量比率の高いものが好ましい。上記の表に示すように、パラフィン含浸前に開気孔化処理を実施した方が、パラフィン質量比率が高く、全気孔率が低い結果が得られており、開気孔化処理が有効であることが判る。
【0129】
なお、熱伝導度と相変化物質の割合、すなわち熱伝導度性能と蓄熱性能のバランスは、用途。目的に応じて、成形体のかさ密度を調整すること等により作り分けることが可能である。
【0130】
実施例2
(グラフェン材料の準備)
製造例7-6~製造例7-8製造例7の成形体(グラフェン材料、開気孔化処理なし)と、製造例8-4~製造例8-6製造例8の成形体(グラフェン材料、開気孔化処理あり)を使用した。
【0131】
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
上記のグラフェン材料に、相変化物質としてパラフィンを用いて、実施例1と同様に処理して、含浸処理を完了し、複合材を得た。
【0132】
(複合材の熱伝導度の測定)
上記で得た複合材について、実施例1と同様にして、熱伝導度を測定した。結果を下表に示す。
【0133】
【表10】
【0134】
熱膨張黒鉛から成形する実施例1に比較して、グラフェン粉砕体を使用した成形体は、開気孔化処理を実施しなくとも高い開気孔率を持っていることが特徴であるが、パラフィン含侵後の熱伝導度は実施例1に比較して低くなる結果となった。これは、パラフィンが溶融状態で含浸される際に、含浸前に形成されていた伝熱パスが分断されてしまうことによるものと推察される。言い換えれば、熱伝導度が高く、多くの相変化物質を含むべき蓄熱コンポジットを作製するには、予め炭素骨格が細密かつ、閉気孔が無く、強固に形成された成形体を作製し、気孔が残留しないように効率よく相変化物質を含浸させることが好ましいと言える。
【0135】
実施例3
(グラフェン材料)
製造例4-13~製造例4-17の成形体(グラフェン材料、開気孔化処理なし)を使用して、開気孔化処理を実施し、製造例5-11~製造例5-15のグラフェン材料を得た。
【0136】
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
上記で得たグラフェン材料に、相変化物質としてパラフィンを用いて、真空含浸処理を行った。含浸処理は実施例1の場合と同様に行った。但し、ゲージ圧で-0.1MPaまで真空引きをしたのちの炉内は160℃に上昇させ、パラフィンを溶融させたのち、その状態で保持する時間は15分間とした。
【0137】
さらに、含浸処理後の複合材を、温度45℃に設定されたホットプレスにて5~15kNの荷重で5分間プレスすることにより、複合材全体における相変化物質の分布の均一性を高めた。
【0138】
【表11】
【0139】
実施例2では、相変化物質であるパラフィンの質量比率が80%程度になると、蓄熱コンポジットとしての全気孔率が10%以上になり空隙が増加してしまい、結果として熱伝導度が1W/m・K未満程度に低下してしまった。これに対して、真空含浸方法を変更した実施例3では、蓄熱コンポジットとしての全気孔率が改善し、熱伝導度も大幅に向上した。
【0140】
実施例4
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
製造例9で得たグラフェン材料(大型品)のうち、厚さが約1.5mmのもの(製造例9-1~製造例9-4)について、相変化物質としてパラフィンを用いて、実施例1と同様に処理して、真空含浸処理を行った。但し、真空引きのためのゲージ圧を-0.02MPaとし、真空引きをしたのちの炉内は80℃に上昇させ、パラフィンを溶融させたのち、その状態で保持する時間は3時間とした。
【0141】
(複合材の熱伝導度の測定)
上記で得た複合材から、外径25mmの円盤形状の小片を6枚、均等な位置から切り抜いて、実施例1と同様にして、熱伝導度を測定した。結果を下表に示す。なお、熱伝導度は、それぞれの小片について各1回(全6回)測定し、その平均値を各試料の熱伝導度とした。表中、「厚さ」とは、製造例9で得たグラフェン材料の厚さである。
【0142】
【表12】
【0143】
実施例5
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
製造例9で得たグラフェン材料(大型品)のうち、厚さが約4mmのもの(製造例9-5~製造例9-9)について、相変化物質としてパラフィンを用いて、実施例1と同様に処理して、真空含浸処理を行った。但し、材料の厚さを考慮し、真空引きのためのゲージ圧を-0.02MPaとし、真空引きをしたのちの炉内は80℃に上昇させ、パラフィンを溶融させたのち、その状態で保持する時間(含浸時間)は下表記載のとおりとした。
【0144】
【表13】
【0145】
実施例6
(被覆加工)
実施例4-3、実施例4-4、実施例5-2および実施例5―3の複合材を、被覆加工に付し、被覆複合材を得た。被覆加工は図7のa)~d)に示す手順で実施した。すなわち、a)に示すように、複合材41を、その形状に倣うように抜き加工したアルミ樹脂フィルム43からなる容器に装填し、その上にシート状のアルミ樹脂フィルム42を被せた。次に、b)に示すように、上記a)で得た構成体を、パウチ加工型(I)44に装填した。さらに、c)に示すように、b)で得た構成体の上にパウチ加工型(II)45を載せ、この状態の構成体を、パウチ加工型(I)44とパウチ加工型(II)45の温度制御が可能な熱板プレス機に設置し、下熱板温度を45℃、上熱板温度を260℃に設定し、荷重80kNで300秒加熱し、アルミ樹脂フィルム43とアルミ樹脂フィルム42とを融着させた。融着後、d)に示すように、アルム樹脂フィルム43とアルミ樹脂フィルム42が融着した構造体を得た。
【0146】
パウチ加工型(I)44には溝が形成されているため、図7のe)に示すように、アルミ樹脂フィルムは、20mmの口が開いた袋状となっている。この口の部分に真空吸引器のノズルを挿入し、真空ポンプで100kPaに減圧した後に、180℃に加熱された融着棒を押し付けて、口部分を封じ切り、アルミ樹脂フィルムで被覆した被覆複合材を得た。
【0147】
なお、図7において、a)~d)は断面図であり、e)は上面図である。
【0148】
(被覆複合材の厚さ)
被覆複合材の厚さを、面内で6点測定し、被覆加工が均一にできているかの確認を行った。下表に厚さの測定結果を示す。実施例6-2の被覆複合材(平均厚さ1.746mm)では、ばらつき(R値)が0.034mm程度、実施例6-4の被覆複合材(平均厚さ4.216mm)ではばらつきが0.105mm程度であり、均一な厚さで被覆ができていた。なお、R値は、最大値と最小値の差を表す。
【0149】
【表14】
【0150】
実施例7
(相変化物質を含浸させた複合材の作製)
製造例9-10~製造例9-19を実施例4と同様に処理して、また、製造例9-20~製造例9-23を実施例5と同様に処理して、下表に記載の相変化物質を含浸させた複合材を得た。
【0151】
【表15】
【0152】
(被覆加工)
上記で得た複合材は、いずれも、実施例6と同様に処理して、アルミ樹脂フィルムで被覆された被覆複合材とした。
【0153】
実施例8
(温度低減効果の評価)
≪リチウムイオン電池モジュール≫
実施例7で得た被覆複合材を用いて、図8に示される如きリチウムイオン電池モジュールを構成した。図8において、リチウムイオン電池モジュール51は、4個のリチウムイオン電池セル521~524を収容し、各セルの周囲を、5枚のアルミ樹脂フィルム被覆複合材531~535と2枚のアルミ樹脂フィルム被覆複合材541および542とで囲っている。アルミ樹脂フィルム被覆複合材531~535の厚さはいずれも1.5mmであり、アルミ樹脂フィルム被覆複合材541および542の厚さはいずれも4.0mmである。なお、リチウムイオン電池モジュール51は制御ユニット55と水冷ユニット56を備えている。
【0154】
≪モジュールの構成≫
実施例7-1~実施例7-5の被覆複合材(炭素比率約24質量%、厚さ1.5mm)と実施例7-11および実施例7-12の被覆複合材(炭素比率約24質量%、厚さ4.0mm)を用いて、図8のように4個のリチウムイオン電池セルを囲って、電池モジュール1を構成し、実施例7-6~実施例7-10の被覆複合材(炭素比率約43質量%、厚さ1.5mm)と実施例7-13および実施例7-14の被覆複合材(炭素比率約43量%、厚さ4.0mm)を用いて、図8のように4個のリチウムイオン電池セルを囲って、電池モジュール2を構成した。対照として、上記被覆複合材の代わりに、各セルの間に樹脂製セパレータを用いた対照電池モジュールを構成した。なお、各電池モジュールのいずれにおいても、リチウムイオン電池セルとして、50Ah級セルを用いた。
【0155】
≪温度変化の測定≫
上記の各電池モジュールを用いて、充放電サイクル試験による電池モジュールの温度変化を測定した。温度変化の測定は各セルの上面、側面、セル間面において計14か所で行った。電池モジュール1と電池モジュール2の温度低減効果は対照電池モジュールとの差分として求めた。すなわち、上記14か所それぞれに対して、充放電サイクルにおける最高温度の、各電池モジュールと対象電池モジュールとの差分を取り、各点の差分を14か所全体で平均した値として表した。結果を下表に記載する。
【0156】
【表16】
【0157】
実験例1(レーザーラマン分光法測定)
上記方法に従い、製造例5―7(製造例4-9)および製造例5-9(製造例4-11)のグラフェン材料、並びに、比較例1(等方性黒鉛)、および比較例2(カーボンペーパー)についてのレーザーラマン分光法測定を実施し、比G/Dを算出した。上記分光スペクトルの測定は、一つの試料について、任意の3点で実施し、3つの比G/Dを算出した上で、その平均値を、その資料の比G/Dとした。結果を下表に示す。なお、図9は製造例5-7の第二点についてのレーザーラマン分光法測定の結果を示すグラフであり、図10は製造例5-9の第一点についてのレーザーラマン分光法測定の結果を示すグラフであり、図11は比較例1の第二点についてのレーザーラマン分光法測定の結果を示すグラフであり、図12は比較例2の第二点についてのレーザーラマン分光法測定の結果を示すグラフである。開気孔化処理を施した製造例5-7,製造例5-9とそれぞれの開気孔化処理前である製造例4-9、製造例4-11を比較すると、開気孔化処理により顕著にG/D比が高くなった。また、比較例1,比較例2と比較すると、本発明の製造例はいずれも高いG/D比を示した。
【0158】
【表17】
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明によれば、熱伝導性に優れ軽量かつ十分な開気孔率を有し相変化物質を多量に吸蔵できるグラフェン材料に、多量の相変化物質を吸蔵させることにより、高い熱伝導性と多量の蓄熱性とを有する複合材(蓄熱コンポジット)を提供することができる。このような複合材は、冷却装置と組合せることで、優れた冷却ユニットを構成することができる。
【符号の説明】
【0160】
A 加熱ユニット
1 縦型の管状電気炉
2 ヒーター
3 石英ガラスチューブ
B 原料供給ユニット
4 原料ホッパー
5 スクリュー式原料フィーダー
6 パルスエア部材
C 回収ユニット
7 エアフード
10 加熱ユニット(A)(但し、原料供給ユニット(B)は示さず)
11 系統ダンパー
12 風量調節ダンパー
13 バグフィルター
14 スクラバー
15 排風機
16 貯留コンテナ
17 製品搬送ブロワー
18 搬送系統ダンパー
19 希釈エアダンパー
20 ロータリーバルブ
21 上型
22 厚さスペーサ
23 中型
24 下型
31 中型
32 下型
33 Oリング
34 グラフェン材料
35 相変化物質(パラフィン)
36 アルミスペーサ
41 複合材
42 アルミ樹脂フィルム
43 アルミ樹脂フィルム
44 パウチ加工型(I)
45 パウチ加工型(II)
51 リチウムイオン電池モジュール
521 リチウムイオン電池セル
522 リチウムイオン電池セル
523 リチウムイオン電池セル
524 リチウムイオン電池セル
531 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ1.5mm)
532 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ1.5mm)
533 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ1.5mm)
534 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ1.5mm)
541 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ4.0mm)
542 アルミ樹脂フィルム被覆複合材(厚さ4.0mm)
55 制御ユニット
56 水冷ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12