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特開2024-88439車両用自動変速機の制御方法および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088439
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車両用自動変速機の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
F16H61/14 601L
F16H61/14 601B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203604
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 良太
(72)【発明者】
【氏名】野口 智之
(72)【発明者】
【氏名】鄭 国雄
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053CA03
3J053CB09
3J053CB14
3J053CB24
3J053DA08
3J053DA15
3J053DA24
3J053DA30
(57)【要約】
【課題】ロックアップクラッチ(LC)油圧を制御するためのソレノイド(SOL)の高圧固着故障を確実に検知することができるようにする。
【解決手段】車両のアクセルペダル開度が全閉状態の減速側において、LC油圧を締結状態から解放状態に向けて徐々に減少させる減速時LCスリップ制御を行う際に、トルクコンバータ(3)のスリップ率あるいはスリップ量を取得し、当該取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出し、次回、減速時LCスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧(補正前LC油圧)に補正量を加算又は減算した補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチ(35)に供給すると共に、補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらリニアソレノイド(65a)の異常を判定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを有する車両用自動変速機の制御装置であって、
前記ロックアップクラッチを解放状態から締結状態までの間で制御するリニアソレノイドと、
車両の走行状態に応じて前記リニアソレノイドを制御し、前記ロックアップクラッチに供給するLC油圧を所定の締結油圧とすることで前記ロックアップクラッチを前記締結状態とする制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記車両のアクセルペダル開度が閉状態の減速側において、前記LC油圧を前記締結状態から前記解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、前記トルクコンバータのスリップ率あるいはスリップ量を取得し、当該取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応する前記LC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいて前記LC油圧の補正量を算出し、
次回、前記減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧に前記補正量を加算又は減算した補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチに供給すると共に、
前記補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたら前記リニアソレノイドの異常を判定する
ことを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記トルクコンバータのスリップ率あるいはスリップ量は、前記トルクコンバータの入力軸の回転数と出力軸の回転数とから算出され、
前記所定の基準LC油圧は、前記車両の経年劣化が無い状態での前記LC油圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記LC油圧の補正量は、前記取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧を前記基準LC油圧から減じた差の油圧であり、
前記制御部は、
前記補正量が負の値である場合にのみ当該補正量を前記基準LC油圧から減算して出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記リニアソレノイドの異常の判定は、前記リニアソレノイドに高圧固着故障が生じている旨の判定である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
エンジンの燃料カットを実施していない場合、燃料カットの実施後所定時間が経過していない場合、エンジンの冷却水の水温が所定温度未満の場合の少なくともいずれかである場合には、前記LC油圧の補正量の算出の制御および補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチに供給する制御を行わない
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、
ロックアップクラッチが前記締結状態で一定時間が経過していない場合、変速機が変速制御中である場合、作動油の油温が所定の温度範囲を超える低油温又は高油温である場合、の少なくともいずれかである場合には、前記LC油圧の補正量の算出の制御および補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチに供給する制御を行わない
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記ロックアップクラッチを締結状態あるいは非締結状態のいずれかに制御するためのオンオフ制御ソレノイドを更に備え、
前記制御部は、前記リニアソレノイドの異常を判定した場合、フェールセーフアクションとして前記オンオフ制御ソレノイドを前記非締結状態にする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータを有する自動変速機の制御技術に係り、より詳細にはロックアップクラッチの締結圧を制御するためのソレノイドの故障検知のための制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータを備える自動変速機においては、車両の所定運転領域でトルクコンバータ内のロックアップクラッチ(LC)を締結させることで動力の伝達効率を高め、車両の燃料消費率(燃費)の向上が図られている。しかしながら、ロックアップクラッチは伝達効率を向上させる一方でショック等を生じやすく運転の快適性を損ないやすい。そこでロックアップクラッチを単に直結(ON)/解放(OFF)するだけでなく、そのスリップ率(ETR)を0%(解放状態)から100%(完全締結状態)の間で変化させるスリップ率制御が行われている。なお、トルクコンバータのスリップ率(トルコンスリップ率)ETRはトルクコンバータの出力側の回転数Nmを入力側の回転数(エンジンのクランク軸の回転数)Neにより除算することで得られる。スリップ率制御はLC油圧制御バルブがロックアップクラッチの締結圧(以下、LC油圧という。)を調節することで実行される。
【0003】
ロックアップクラッチのON/OFF制御については、たとえば特許文献1において、車両の減速時のエンジンストール(エンスト)を回避するために、トルクコンバータのスリップ率、車速および自動変速機の入力軸の回転数をパラメータとして用いてロックアップクラッチをOFF(解放)するタイミングの判断方法が提案されている。
【0004】
詳細については後述するが、LC油圧制御バルブは電磁的に作動するリニアソレノイドにより駆動され、上述したスリップ率を制御することができる。したがって、LC油圧制御用のリニアソレノイドが故障してスリップ率制御ができなくなると、上述したように動力の伝達効率の劣化だけでなく運転の快適性が大きく損なわれる。たとえば、リニアソレノイドの通電をOFFした後もロックアップクラッチのスリップ率が高い状態、たとえば完全締結状態に固着されていると、ロックアップクラッチがON(締結)する領域では常に直結した状態となり、振動が発生したり運転の快適性が大きく損なわれたりする。さらにロックアップクラッチが締結したときに大きなショック等が発生することもあり、エンジンストール(エンスト)の可能性もある。そこで、このようなLC油圧制御用のリニアソレノイドのオンスタック(固着)故障を検知する方法がいくつか提案されている。
【0005】
たとえば特許文献2に開示された制御方法によれば、ロックアップクラッチの急締結に伴う車体の揺り返しがトルクコンバータの出力側の回転数と入力側の回転数の比(実トルコンスリップ率)の変化に反映されることに着目し、一定時間内の実トルコンスリップ率の変化の様子をモニタすることでオンスタック故障の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5060512号公報
【特許文献2】特開2016-217457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された方法では、実トルコンスリップ率の変化の様子をモニタすることでオンスタック故障を検知するために、実トルコンスリップ率が同様に変化しない車両には適用できない。特許文献2ではCVT(Continuously Variable Transmission)として知られている無段変速機を搭載した車両が例示されているが、たとえば多段変速車両ではロックアップクラッチ機構の違いや制御性の違い等により実トルコンスリップ率の変動からオンスタック故障を検知できない場合がある。
【0008】
本発明の目的は、比較的に簡単な構成及び制御で、ロックアップクラッチ(LC)油圧の制御性を向上させることができると共に、ロックアップクラッチ油圧を制御するためのリニアソレノイドの高圧固着故障等の異常をより確実に検知することができる車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる車両用自動変速機の制御装置は、ロックアップクラッチ(35)を備えたトルクコンバータ(3)を有する車両用自動変速機の制御装置であって、前記ロックアップクラッチ(35)を解放状態から締結状態までの間で制御するリニアソレノイド(65a)と、車両の走行状態に応じて前記リニアソレノイド(65a)を制御し、前記ロックアップクラッチ(35)に供給するLC油圧を所定の締結油圧とすることで前記ロックアップクラッチ(35)を前記締結状態とする制御部(5)と、を有し、前記制御部(5)は、前記車両のアクセルペダル開度が閉状態の減速側において、前記LC油圧を前記締結状態から前記解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、前記トルクコンバータ(3)のスリップ率あるいはスリップ量を取得し、当該取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応する前記LC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいて前記LC油圧の補正量を算出し、次回、前記減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧に前記補正量を加算又は減算した補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチ(35)に供給すると共に、前記補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたら前記リニアソレノイド(65a)の異常を判定することを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる車両用自動変速機の制御装置によれば、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、トルクコンバータのスリップ率あるいはスリップ量を取得し、当該取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出し、次回、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧に補正量を加算又は減算した補正後LC油圧をロックアップクラッチに供給するLC油圧の学習補正を行うようにしたことで、LC油圧の制御(ロックアップクラッチの油圧制御)における制御性を向上させることができる。そのうえ、算出した補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらリニアソレノイドの高圧固着故障などの異常を判定するようにしたことで、リニアソレノイドの異常判定における誤検知の確率を効果的に低減することができる。特に、補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、補正値の一時的な変化等による誤検知を効果的に防止できる。また、リニアソレノイドの以上の内容によってはリニアソレノイドによる油圧の制御が完全に不能となる前に異常を検知して適切な対策を取ることが可能となる。
【0011】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記トルクコンバータ(3)のスリップ率あるいはスリップ量は、前記トルクコンバータ(3)の入力軸の回転数(Ne)と出力軸の回転数(NM)とから算出され、前記所定の基準LC油圧は、前記車両の経年劣化が無い状態での前記LC油圧であってもよい。
【0012】
この構成によれば、取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応する前記LC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいて前記LC油圧の補正量を算出するところ、所定の基準LC油圧は、車両の経年劣化が無い状態でのLC油圧であることで、車両の経年劣化を加味した適切なLC油圧の補正量を算出することが可能となる。
【0013】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記LC油圧の補正量は、前記取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧を前記基準LC油圧から減じた差の油圧であり、前記制御部(5)は、前記補正量が負の値である場合にのみ当該補正量を前記基準LC油圧から減算して出力するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、ロックアップクラッチの経年劣化によるロックアップクラッチ容量の低下が生じている場合には、基準LC油圧から取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧を減じた差の油圧が正の値になるのに対して、基準LC油圧から取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧を減じた差の油圧が負の値である場合には、リニアソレノイドの高圧固着故障などの異常である可能性が高い。したがって、補正量が負の値である場合にのみ当該補正量を基準LC油圧から減算して出力することで、リニアソレノイドの高圧固着故障などの異常を切り分けて判断可能となる。すなわち、経年劣化による異常の原因としては、ロックアップクラッチの経年劣化によるロックアップクラッチ容量の低下が生じることも考えられるところ、それらの要因は除いて、LC油圧制御用リニアSOLの高圧固着故障などの異常に特化した判断ができるようになる。
【0015】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記リニアソレノイド(65a)の異常の判定は、前記リニアソレノイド(65a)に高圧固着故障が生じている旨の判定であってよい。
【0016】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記制御部(5)は、エンジン(1)の燃料カットを実施していない場合、燃料カットの実施後所定時間が経過していない場合、エンジン(1)の冷却水の水温が所定温度未満の場合の少なくともいずれかである場合には、前記LC油圧の補正量の算出の制御および補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチ(35)に供給する制御を行わないようにしてもよい。
【0017】
エンジンの燃料カットを実施していない場合、燃料カットの実施後所定時間が経過していない場合、エンジンの冷却水の水温が所定温度未満の場合の少なくともいずれかである場合には、LC油圧の補正量の誤学習が生じる可能性が高いため、補正量の算出及び補正後LC油圧の供給を行わないようにすることで、LC油圧の補正量の学習の精度を向上させることができる。
【0018】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記制御部(5)は、ロックアップクラッチ(35)が前記締結状態で一定時間が経過していない場合、変速機(2)が変速制御中である場合、作動油の油温が所定の温度範囲を超える低油温又は高油温である場合、の少なくともいずれかである場合には、前記LC油圧の補正量の算出の制御および補正後LC油圧を前記ロックアップクラッチ(35)に供給する制御を行わないようにしてもよい。
【0019】
ロックアップクラッチが締結状態で一定時間が経過していない場合、変速機が変速制御中である場合、作動油の油温が所定の温度範囲を超える低油温又は高油温である場合、の少なくともいずれかである場合には、LC油圧の補正量の誤学習が生じる可能性が高いため、補正量の算出及び補正後LC油圧の供給を行わないようにすることで、LC油圧の補正量の学習の精度を向上させることができる。
【0020】
また、上記の車両用自動変速機の制御装置では、前記ロックアップクラッチ(35)を締結状態あるいは非締結状態のいずれかに制御するためのオンオフソレノイドを備え、前記制御部(5)は、前記リニアソレノイド(65a)の異常を判定した場合、フェールセーフアクション(FSA)として前記オンオフソレノイドを前記非締結状態にしてもよい。
【0021】
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の図面参照番号を参考のために示すものである。
【発明の効果】
【0022】
上述したように、本発明によれば、比較的に簡単な構成及び制御で、ロックアップクラッチ(LC)油圧を制御するためのリニアソレノイドの高圧固着故障等の異常をより確実に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による制御装置を適用した自動変速車両の駆動系の一例を模式的に示すブロック図である。
図2】本実施形態による制御装置を適用したトルクコンバータの油圧制御の一部を模式的に示すブロック図である。
図3】本実施形態による制御装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
図4】本実施形態の制御装置による制御の手順を示すフローチャート(メインルーチン)である。
図5】LC油圧学習補正制御における各値の経時変化を示すタイミングチャートである。
図6】LC油圧学習補正制御の手順を説明するためのフローチャート(サブルーチン)である。
図7】LC油圧の補正量の変化とLC油圧制御用リニアSOL異常判定との関係を説明するためのグラフである。
図8】LC油圧の補正量の他の補正パラメータへの置き換えについて説明するためのグラフである。
図9】LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御の手順を示すフローチャート(サブルーチン)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明による制御装置は、少なくとも自動変速機全体の制御を行う電子制御ユニット(ECU)により実現される。本実施形態では、エンジンを制御するFI-ECUと自動変速機を制御するAT-ECUとにより構成されるが、自動変速機の制御装置として一体に設けられた電子制御ユニット(ECU)により構成されてもよい。なお、以下の実施形態に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0025】
図1に例示するように、本実施形態による制御装置が適用される車両は、エンジン1、自動変速機2、自動変速機2内のトルクコンバータ3、エンジン1を制御するFI-ECU4、およびトルクコンバータ3を含む自動変速機2を制御するAT-ECU5を備える。自動変速機2はトルクコンバータ3を介してエンジン1と連結され、トルクコンバータ3はロックアップクラッチ35を有する。
【0026】
エンジン1の回転出力はクランクシャフト(エンジン1の出力軸)11に出力される。このクランクシャフト11の回転はトルクコンバータ3を介して自動変速機2のメインシャフト21に伝達される。メインシャフト21の回転トルクは、図示しないクラッチおよびギヤを介してカウンタシャフト22に伝達され、カウンタシャフト22の回転トルクは図示しないギヤおよびディファレンシャル機構を介して駆動輪に伝達される。
【0027】
クランクシャフト11の近傍には、クランクシャフト11(エンジン1)の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ101が設けられる。メインシャフト21の近傍には、メインシャフト21の回転数Nmを検出するメインシャフト回転数センサ102が設けられる。カウンタシャフト22の近傍には、カウンタシャフト22の回転数Noを検出するカウンタシャフト回転数センサ103が設けられる。AT-ECU5は各回転数センサ101~103から回転数データNe、NmおよびNoをそれぞれ入力し、後述するように、自動変速機2内のトルクコンバータ3およびロックアップクラッチ35を制御する。また、FI-ECU4はエンジン回転数センサ101から回転数データを入力し、エンジン1を制御する。
【0028】
また、車両の所定の位置には、車両の車速Nvを検出する車速センサ104が設けられる。なお、車速Nvを専用に検出する車速センサ104を設けることなく、メインシャフト21の回転数Nmまたはカウンタシャフト22の回転数Noから車速Nvを算出してもよい。例えば、「Nv=Nm×変速レシオ×タイヤ周長」あるいは「Nv=No×タイヤ周長」のような関係式に基づいて車速Nvを算出することができる。
【0029】
図2を参照してトルクコンバータ3の構成を簡単に説明する。トルクコンバータ3は流体(作動油)を介してトルクの伝達を行うものである。トルクコンバータ3は、フロントカバー31と、このフロントカバー31と一体に形成されたポンプ翼車(ポンプインペラ)32と、フロントカバー31とポンプ翼車32との間でポンプ翼車32に対向配置されたタービン翼車(タービンランナ)33と、ポンプ翼車32とタービン翼車33との間に介設され、かつ一方向クラッチ36を介して固定軸37上に支持されたステータ34とを有する。図2に示すように、クランクシャフト11は、フロントカバー31を介して、トルクコンバータ3のポンプ翼車32に接続され、タービン翼車33はメインシャフト(自動変速機2の入力軸)21に接続される。
【0030】
また、タービン翼車33とフロントカバー31との間には、ロックアップクラッチ35が設けられている。ロックアップクラッチ35はAT-ECU5の指令に基づいて油圧制御装置6によりON/OFF制御およびLC油圧によるスリップ率制御を行う。すなわち、ロックアップクラッチ35は、フロントカバー31の内面に向かって押圧されることによりフロントカバー31に係合し、押圧が解除されることによりフロントカバー31との係合が解除される。
【0031】
ロックアップクラッチ35がOFF(解放/非締結)されている場合には、ポンプ翼車32とタービン翼車33の相対回転が許容される。この状態において、クランクシャフト11の回転トルクがフロントカバー31を介してポンプ翼車32に伝達されると、トルクコンバータ3の容器を満たしている作動油は、ポンプ翼車32の回転により、ポンプ翼車32からタービン翼車33に、次いでステータ34へと循環する。これにより、ポンプ翼車32の回転トルクがタービン翼車33に伝達され、メインシャフト21を駆動する。
【0032】
一方、ロックアップクラッチ35がON(直結/締結)している場合には、フロントカバー31からタービン翼車33へと作動油を介して回転させるのではなく、フロントカバー31とタービン翼車33とが一体的に回転し、クランクシャフト11の回転トルクがメインシャフト21に直接伝達される。ただし、上述したように、ロックアップクラッチ35のLC油圧(締結圧)はスリップ率ETRを0%(解放状態)から100%(完全締結状態)の間で変化させることができる。LC油圧制御については後述する。また既に述べたようにスリップ率ETR(%)は次式で計算される。
ETR(%)=
(自動変速機のメインシャフト回転数Nm/エンジン回転数Ne)×100
【0033】
図2に例示するように、油圧制御系6は油圧制御系6全体に作動油を供給するための油圧ポンプ60を有し、油圧ポンプ60がエンジン1により駆動され、図示しないオイルタンクに貯留された作動油を汲み上げて油路71を介してメインレギュレータバルブ61に圧送する。
【0034】
メインレギュレータバルブ61は油圧ポンプ60から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成する。メインレギュレータバルブ61により調圧されたライン圧PLの作動油は、トルクコンバータ(TC)レギュレータバルブ62に供給されるとともに、図示しない自動変速機2用のソレノイドバルブ等に供給される。以下、簡略化のために「ソレノイド」は適宜「SOL」と略記される。
【0035】
また、メインレギュレータバルブ61により調圧されたライン圧PLの作動油は、図示しないCRバルブに供給される。CRバルブは作動油のライン圧PLを減圧してCR圧(制御圧)を生成し、各リニアSOLバルブにCR圧の作動油を供給する。
【0036】
TCレギュレータバルブ62はトルクコンバータ3への作動油の供給を制御するものであり、メインレギュレータバルブ61から供給されたライン圧PLの作動油を、油路73を介してロックアップ(LC)制御バルブ63に供給する。また、TCレギュレータバルブ62は油路74を介してライン圧PLの作動油をトルクコンバータ3の内部に背面側から供給する。
【0037】
LC制御バルブ63は油路72を介して供給されるライン圧PLの作動油を油路75を介してLCシフトバルブ64に供給する。このように供給されるライン圧PLの作動油は、LCシフトバルブ64を介してトルクコンバータ3のロックアップ制御に用いられる。
【0038】
LCシフトバルブ64はON/OFF制御SOL64aによりロックアップクラッチ35の締結(ON)/解放(OFF)を制御する。ON/OFF制御SOL64aを励磁通電(ON)することによりLCシフトバルブ64が開放されると、LCシフトバルブ64および油路76を介して作動油がロックアップクラッチ35の前面側から供給され、この作動油はロックアップクラッチ35の背面側からオイルタンクに排出される。これにより、ロックアップクラッチ35が締結される。
【0039】
一方、ON/OFF制御SOL64aをOFFすることによりLCシフトバルブ64が閉止され、作動油が前面側からオイルタンクに排出されると、ロックアップクラッチ35がOFF(解放/非締結)される。
【0040】
LC油圧制御用リニアSOLバルブ65はLC油圧制御用リニアSOL65aの励磁制御に応じて決定される出力圧を発生させ、LC制御バルブ63に作用させる。これにより、メインレギュレータバルブ61から供給されるライン圧PLの作動油は、LC制御バルブ63においてロックアップ制御に必要なLC油圧に調圧される。これにより、ロックアップクラッチ35のLC油圧はLC油圧制御用リニアSOL65aの励磁通電量に応じて解放状態から完全締結状態までの間で制御される。したがって、LC油圧制御用リニアSOL65aの励磁通電量はLC油圧制御の指令値となり得る。
【0041】
なお、ロックアップクラッチ35のON(締結)状態を解除する場合はON/OFF制御SOL64aをOFFにすると共にLC油圧制御用リニアSOL65aの指令値を0にする。
【0042】
このように動作するLC油圧制御用リニアSOL65aが高圧側に固着する高圧固着故障が発生した場合、上述したように運転の快適性の劣化等を招来するために、早急にロックアップクラッチ35を解放(OFF)する必要がある。本実施形態によれば、以下に述べる方法により、LC油圧の補正量を算出すると共に、算出したLC油圧の補正量に基づいてLC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障を検知することが可能となる。以下、本実施形態によるLC油圧の補正量の算出及びLC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障検知のための制御について詳細に説明する。
【0043】
図3に例示するように、FI-ECU4およびAT-ECU5はCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサからなり、メモリ(図示せず。)に格納されたプログラムを実行することによりフューエルカット制御およびロックアップクラッチ35を含む自動変速機2の制御を実行することができる。
【0044】
FI-ECU4は、車両が減速中に所定の条件の成立に基づいてエンジン1への燃料供給を遮断する燃料カット(フューエルカット)を実行する。所定の条件としては、アクセルペダル開度センサ105によりアクセルペダル開度APATが全閉になっていることを含む。
【0045】
本実施形態によるAT-ECU5はエンジン回転数Ne、自動変速機2のメインシャフト回転数Nmおよび車速Nvを入力し、LC油圧制御系6を介してロックアップクラッチ35を制御する。AT-ECU5は図示しないメモリに格納されたプログラムを実行することによりロックアップクラッチ制御部501、車速判定部502、スリップ率(ETR)算出部503、LC油圧学習補正部504、および高圧固着故障判定部505の各機能を実現することができる。なお、これらの機能の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよい。
【0046】
ロックアップクラッチ制御部501は、通常、車両の運転状態に応じてトルクコンバータ3に設けられたロックアップクラッチ35のON/OFF制御およびLC油圧制御を実行する。本実施形態によれば、後述するように、ロックアップクラッチ制御部501は、LC油圧学習補正部504からの指示に従ってロックアップクラッチに供給する油圧(締結圧)を補正してLC制御およびLC油圧制御を行い、また、高圧固着故障判定部505からの指示に従って高圧固着故障判断するためのLC制御およびLC油圧制御を行う。
【0047】
車速判定部502は車速センサ104により測定された(あるいは既に述べたように算出された)車速Nvが所定の車速以下になったか否かを判定し、その判定結果をロックアップクラッチ制御部501、LC油圧学習補正部504および高圧固着故障判定部505へ出力する。
【0048】
スリップ率(ETR)算出部503は、エンジン回転数Neと自動変速機2のメインシャフト回転数Nmとに基づいてトルクコンバータ3のスリップ率ETRを算出する。本実施形態では、スリップ率ETRは計算式:
ETR(%)=(Nm/Ne)×100
により算出される。算出されたスリップ率ETRはロックアップクラッチ制御部501、LC油圧学習補正部504および高圧固着故障判定部505へ出力される。
【0049】
LC油圧学習補正部504は、後述するように、ロックアップクラッチ制御部501を制御しながらスリップ率ETRをモニタすることでLC油圧を補正するための補正量を算出し、また、高圧固着故障判定部505は、LC油圧学習補正部504が算出したLC油圧の補正量に基づいてLC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障の有無を判断する。ここでは、ロックアップクラッチ制御部501とLC油圧学習補正部504および高圧固着故障判定部505とを機能的に分けて記載したが、ロックアップクラッチ制御にLC油圧補正機能や高圧固着故障判断機能を組み込んでもよい。
【0050】
なお、本発明はスリップ率ETRのモニタに限定されるものではない。本発明では、減速側でロックアップクラッチ35の締結(ON)を維持し、その状態でロックアップクラッチ35のスリップ率ETRをモニタすることでLC油圧の補正量を算出する。しかしながらこれ以外にも、スリップ率ETRではなく、エンジン回転数Neと自動変速機2のメインシャフト回転数Nmとの間の回転数差(差回転)に基づくスリップ量をモニタしてLC油圧の補正量を算出することも可能である。すなわち、ETR算出部503の代わりにNeとNmとの差を計算する機能部を用いることもできる。
【0051】
そして、本実施形態の制御装置では、車両のアクセルペダル開度が全閉状態の減速側において、ロックアップクラッチ35に供給する油圧であるLC油圧を完全締結状態から解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、トルクコンバータ3のスリップ率あるいはスリップ量を取得し、当該取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出し、次回、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧(補正前LC油圧)に補正量を加算又は減算した補正後LC油圧をロックアップクラッチに供給するLC油圧学習補正制御を行うと共に、算出したLC油圧の補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらLC油圧制御用リニアSOL65aの異常を判定するLC油圧制御用リニアSOL異常判定制御を行う。
【0052】
図4は、本実施形態の制御装置による制御の手順を示すフローチャート(メインルーチン)である。同図に示すように、ここではまず、車両の走行制御及びロックアップクラッチ35の制御が減速側LC制御であるか否かを判断する(ステップST1-1)。ここでの減速側LC制御とは、車両のアクセルペダル開度が全閉状態であり、車速が減少している減速状態においてロックアップクラッチ35の締結状態を完全締結状態から解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行っている状態である。ステップST1-1の判断の結果、減速側LC制御状態で有れば(YES)、続けて、LC油圧学習条件が成立しているか否かを判断する(ステップST1-2)。ここでのLC油圧学習条件は、例えば、エンジン1への燃料供給が断たれた燃料カット状態であるか否かで判断することができ、燃料カット状態であればLC油圧学習条件が成立していると判断できる。あるいは、燃料カット状態となってから一定時間が経過したことで学習条件が成立していると判断するようにしてもよい。他には、エンジン1の冷却水の水温が所定温度よりも低い低水温であるか否かによって学習条件が成立しているか否かを判断したり、トルクコンバータ3やロックアップクラッチ35に供給する作動油の油温やメインシャフト回転数Nmによって学習条件が成立しているか否かを判断するようにしてもよい。また、ロックアップクラッチ35が完全締結状態とみなせるスリップ率を保持した後、一定期間が経過しているか否かで学習条件が成立しているか否かを判断するようにしてもよい。これらによって、ステップST1-2でLC油圧の学習条件が成立している場合(YES)、LC油圧学習補正制御を行う(ステップST1-3)と共に、LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御を行う(ステップST1-4)。以下、LC油圧学習補正制御とLC油圧制御用リニアSOL異常判定制御について詳細に説明する。
【0053】
図5は、LC油圧学習補正制御における各値を経時変化を示すタイミングチャートである。同図のタイミングチャートでは、アクセルペダル(AP)のオンオフ、エンジン1の燃料カットのオンオフ、燃料カットディレイタイマ、LC油圧(補正前LC油圧、補正後LC油圧)、ON/OFF制御SOL64a(LCシフトバルブ64)のオン/オフ、エンジン回転数Neとメインシャフト回転数Nm、それぞれの経過時間tに対する変化を示している。なお、ここでの補正後LC油圧とは、補正前LC油圧を下記で詳述する手順によって補正した(補正量を加算又は減算した)補正後のLC油圧である。
【0054】
既述のように、LC油圧学習補正制御は、車両のアクセルペダル開度が閉状態(全閉状態)の減速側のとき(減速時)に行われる制御であるため、ここでは、時刻t1にアクセルペダル(AP)がオフすると共にディレイタイマがカウントダウンを開始し、時刻t2にディレイタイマがカウントアップしてエンジン1の燃料カットが実施(ON)される。また、時刻t2から時刻t3の間の油圧は、ロックアップクラッチ35が締結状態(完全締結状態)となる油圧が保持されており、それによりロックアップクラッチ35のスリップ率は完全締結状態の略100%であることで、メインシャフト回転数Nmとエンジン回転数Neが略等しい値となっている。その状態で、LC油圧制御用リニアSOL65aを制御することで、時刻t3に補正前LC油圧が減少を開始する(減速時ロックアップクラッチスリップ制御)。その後、補正前油圧の減少によって時刻t5にエンジン回転数Ne(実Ne)がメインシャフト回転数Nmよりも低い値となり、それらの値の乖離が開始する([1])。すなわち、ロックアップクラッチ35の締結状態が完全締結状態を脱してルーズ状態となる。このときのLC油圧(Ploose)([2])を燃料カット時のエンジンフリクション相当のLC油圧である基準LC油圧(Pstandard)([4])と比較し、その差分(PstandardからPlooseを減じた値)であるΔPを算出する([3])。なお、ここでいう基準LC油圧(Pstandard)とは、車両の経年劣化が無い状態でロックアップクラッチ35に供給するLC油圧、より詳細には、車両の経年劣化が無い状態でかつロックアップクラッチLCの伝達トルクが燃料カット時のエンジンフリクション相当になるLC油圧である。そして、次回、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、補正前LC油圧からΔPをもとに補正(ここでは補正量ΔPを減算)した補正後LC油圧をロックアップクラッチ35に供給する。なお、補正前LC油圧を補正する際には、温度や劣化等の外因による影響を受ける前の入力トルクに応じた補正前LC油圧(後述するベース圧)を補正し、そこから補正後LC油圧を算出してもよい。なお、図5のグラフでは、時刻t6にエンジン1の燃料カットがオフとなることでエンジン回転数Neが上昇に転じ、その後、時刻t7にエンジン回転数Neがアイドル回転数となる。さらにその後、時刻t8にON/OFF制御SOL64aがオフすることで基準LC油圧が0となる場合を示している。
【0055】
図6は、LC油圧学習補正制御の手順を説明するためのフローチャート(サブルーチン)である。LC油圧学習補正制御は、前提として、先の図4のフローチャートで説明した減速側LC制御の実施中であり(ステップST1-1でYES)、かつ、LC油圧学習条件が成立する(ステップST1-2でYES)場合に実施される。その状態で、LC油圧制御用リニアSOL65aを制御して、ロックアップクラッチ35に供給するLC油圧(Pout)を出力する(ステップST3-1)。そして、ロックアップクラッチ35のOFFへの移行段階(移行への準備段階)であるか否かを判断し(ステップST3-2)、ロックアップクラッチ35のOFFへの移行段階で無ければ(NO)、ステップST3-1に戻りLC油圧(Pout)の出力を継続する。一方、ロックアップクラッチ35のOFFへの移行段階で有れば(YES)、LC油圧(Pout)の出力を減少させる(ステップST3-3)。そして、ロックアップクラッチ35のスリップ率又はスリップ量を取得し、取得したスリップ率又はスリップ量がLCルーズ状態と判断される所定の閾値ETRSlip又はNslipよりも大きいか否かを判断する(ステップST3-4)。その結果、取得したスリップ率又はスリップ量が閾値より大きい場合(YES)、実際にLCルーズ状態となったLC油圧にLCルーズ タイミングのLC油圧(Pout)をセットし(ステップST3-5)、LC油圧学習補正量(Plearn)を算出する(ステップST3-6)。LC油圧学習補正量(Plearn)は、下記(式1)で算出する。
(式1)
Plearn=(Pstandard-Ploose)×Klearn
ここで、
Pstandard=LCルーズ状態となる基準LC油圧([3])、または燃料カット時のエンジンフリクション相当になるLC油圧
Ploose=実際にLCルーズ状態となったLC油圧([2])
Klearn=学習補正用係数(なまし係数)
である。その後、ロックアップクラッチ35のOFFが完了するまで上記の指示を継続する(ステップST3-7)。その後、ロックアップクラッチ35に供給するLC油圧(Pout)を下記(式2)で算出した値とする(ステップST3-8)
(式2)
Pout=Pbase+Plearn
ここで、
Pbase=回転数とトルクから決まるベースLC油圧(LC油圧制御のベースとなる油圧)
である。
【0056】
一方、ステップST3-4で取得したスリップ率又はスリップ量が閾値以下の場合(NO)は、続けて、LC油圧(Pout)がその最小値(Poutmin)以下であるか否かを判断し(ステップST3-9)、最小値以下で無ければ(NO)、ステップST3-3に戻ってLC油圧(Pout)を減少させる。一方、LC油圧(Pout)がその最小値以下であれば(YES)、ロックアップクラッチ35のOFFを指示すると共に、ロックアップクラッチの異常判定をする(ステップST3-10)。
【0057】
次に、LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御について説明する。LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御では、先のLC油圧学習補正制御で算出したLC油圧の補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらLC油圧制御用リニアSOL65aの異常(高圧固着故障)を判定するようにしている。
【0058】
図7は、LC油圧の補正量の変化とLC油圧制御用リニアSOL異常判定との関係を説明するためのグラフである。同図のグラフでは、車両の通算の使用期間(運航期間)Tを横軸に取り、LC油圧の補正量を縦軸に取っている。同図に点線で示すラインは置き換え前の補正量(Plearn)の値であり、実線で示すラインは置き換え後の補正量(Plearnfs)の値である。また、グラフの下段には、LC油圧制御用リニアSOL65aの異常判定フラグも併記している。まず、置き換え前の補正量について説明する。車両の使用開始からの一定期間(初期期間:0≦T≦T1)は、装置や部品の経年劣化が進むことでロックアップクラッチ35の容量が低下することに伴い、LC油圧の補正量(置き換え前の補正量:Plearn)は、同図の点線で示すように、正の値(プラス側)で次第に増加する傾向にある。その後、初期期間が過ぎると、作動油が流通する油路内のフィルターなどに堆積するコンタミネーション(微小な金属粒などの異物)の影響やバルブの動作不良などの影響が経年劣化の影響よりも大きくなることで、LC油圧の補正量が減少に転じ、その後、補正量が負の値(マイナス側)で次第に増加(マイナスの値が増加)する傾向となる。
【0059】
図8は、LC油圧の補正量の他の補正パラメータへの置き換えについて説明するためのグラフである。同図のグラフでは、LC油圧の補正量(Plearn)の変化量(微分値)d/dt(Plearn)を横軸に取り、LC油圧の補正量の変化量(微分値)に所定の係数(なまし係数)Klearnfsを乗じたものを縦軸に取っている。同図のグラフに示すように、LC油圧の補正量の変化量(微分値)に乗じる所定の係数Klearnfsは、LC油圧の補正量の変化量(微分値)が-a(aは定数)よりも大きな値の領域では、係数Klearnfs=0であり、LC油圧の補正量の変化量(微分値)が-aよりも小さな値の領域では係数Klearnfs=1である。これにより、元の(置き換え前の)補正量(Plearn)の変化量d/dt(Plearn)が-aよりも大きな値である場合には、置き換え後の補正量は0となり、元の(置き換え前の)補正量(Plearn)の変化量d/dt(Plearn)が-aよりも小さな値である場合には、その値(マイナスの値)が置き換え後の補正量となる。このような補正量の置き換えを行う理由は、元の(置き換え前の)補正量の変化量d/dt(Plearn)が-a~+aの間の場合は、部品や装置の通常の経年劣化や固体のバラつきの影響による変化とみなすことが望ましいため、それをLC油圧制御用リニアSOL65aの故障検知用の値には使用しないようにするためである。同様に、元の(置き換え前の)補正量の変化量d/dt(Plearn)が0以上の場合は、低圧出力側への推移のため、これもLC油圧制御用リニアSOL65aの故障検知用の値には使用しないようにしている。上記により、元の(置き換え前の)補正量の変化量が-aより小さな値の場合にのみ、置き換えた他の補正パラメータの値が使用(累積)される。したがって、置き換えた他の補正パラメータの値(Plearnfs)は、先の図7のグラフに示すように、初期期間T1が過ぎた後の時期T2までは0であるが、時期T2以降は負の値(マイナスの値)が累積されてゆく。そして、この負の値(マイナス側)で次第に増加する置き換えた他の補正パラメータの値が所定の閾値(LC油圧制御用リニアSOL異常判定閾値)を(マイナス側に)超えたら、その時点でLC油圧制御用リニアSOL65aの異常判定フラグが立つことで、LC油圧制御用リニアSOL65aの異常(高圧固着故障)が判定される。
【0060】
図9は、LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御の手順を示すフローチャート(サブルーチン)である。同図に示すように、LC油圧制御用リニアSOL異常判定制御では、先のLC油圧学習補正制御で算出したLC油圧の補正量(Plearn)を用いてLC油圧の補正量を置き換えた他の補正パラメータの値を算出する(ステップST4-1)。ここで、LC油圧の補正量を置き換えた他の補正パラメータ(Plearnfs)は、下記の(式3)で算出される。
(式3)
Plearnfs=Pleanfs前回値+d/dt(Plearn)×Klearnfs
【0061】
そして、算出した他の補正パラメータ(Plearnfs)の値がLC油圧制御用リニアSOL65aの異常(高圧固着故障)判定の閾値未満(閾値よりもマイナス側の値)であるか否かを判断する(ステップST4-2)。その結果、補正パラメータ(Plearnfs)の値が閾値未満であれば(YES)、LC油圧制御用リニアSOL65aの異常(高圧固着故障)を検知(異常確定)する(ステップST4-3)。その場合はさらに、フェールセーフアクション(FSA)として、ON/OFF制御SOL64aをオフ(OFF)する(ステップST4-4)。一方、ステップST4-2で補正パラメータ(Plearnfs)の値が閾値以上(閾値よりもプラス側の値)であれば(NO)、LC油圧制御用リニアSOL65aの正常(高圧固着故障無し)を検知(正常確定)する(ステップST4-5)。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の車両用自動変速機の制御装置によれば、車両のアクセルペダル開度が全閉状態の減速側において、LC油圧を完全締結状態から解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、トルクコンバータ3のスリップ率(あるいはスリップ量)を取得し、当該取得したスリップ率(あるいはスリップ量)に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出し、次回、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧(補正前LC油圧)から補正量を減算した補正後LC油圧をロックアップクラッチに供給すると共に、補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらリニアソレノイドの異常を判定する。
【0063】
本実施形態の車両用自動変速機の制御装置によれば、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、トルクコンバータ3のスリップ率(あるいはスリップ量)を取得し、当該取得したスリップ率(あるいはスリップ量)に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出し、次回、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、締結状態であるLC締結油圧(補正前LC油圧)から補正量を減算した補正後LC油圧をロックアップクラッチ35に供給するLC油圧の学習補正を行うようにしたことで、LC油圧の制御(ロックアップクラッチ35の油圧制御)における制御性を向上させることができる。そのうえ、算出した補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、当該置き換えた他の補正パラメータが所定の閾値を超えたらLC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障などの異常を判定するようにしたことで、LC油圧制御用リニアSOL65aの異常判定における誤検知の確率を効果的に低減することができる。特に、補正量を他の補正パラメータに置き換えることで、補正値の一時的な変化等による誤検知を効果的に防止できる。また、LC油圧制御用リニアSOL65aの異常の内容によっては、LC油圧制御用リニアSOL65aによる油圧の制御が完全に不能となる前に異常を検知して適切な対策を取ることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、トルクコンバータ3のスリップ率(あるいはスリップ量)は、トルクコンバータ3の入力軸の回転数であるエンジン回転数Neと出力軸の回転数であるメインシャフト回転数Nmとから算出され、所定の基準LC油圧は、車両の経年劣化が無い状態でのLC油圧である。
【0065】
この構成によれば、取得したスリップ率(あるいはスリップ量)に対応するLC油圧と所定の基準LC油圧とに基づいてLC油圧の補正量を算出するところ、所定の基準LC油圧は、車両の経年劣化が無い状態でロックアップクラッチ35に供給するLC油圧、より詳細には、車両の経年劣化が無い状態でかつロックアップクラッチLCの伝達トルクが燃料カット時のエンジンフリクション相当になるLC油圧であることで、車両の経年劣化を加味した適切なLC油圧の補正量を算出することが可能となる。
【0066】
また、本実施形態では、LC油圧の補正量は、取得したスリップ率(あるいはスリップ量)に対応するLC油圧を基準LC油圧から減じた差の油圧であり、LC油圧の補正量が負の値である場合にのみ当該補正量(絶対値)を基準LC油圧から減算して出力するようにしている。
【0067】
ロックアップクラッチ35の経年劣化によるロックアップクラッチ容量の低下が生じている場合には、基準LC油圧から取得したスリップ率(あるいはスリップ量)に対応するLC油圧を減じた差の油圧が正の値になるのに対して、基準LC油圧から取得したスリップ率あるいはスリップ量に対応するLC油圧を減じた差の油圧が負の値である場合には、LC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障などの異常である可能性が高い。したがって、補正量が負の値である場合にのみ当該補正量を基準LC油圧から減算して出力することで、LC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障などの異常を切り分けて判断可能となる。すなわち、経年劣化による異常の原因としては、ロックアップクラッチ35の経年劣化によるロックアップクラッチ容量の低下が生じることも考えられるところ、それらの要因は除いて、LC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障などの異常に特化した判断ができるようになる。
【0068】
また、本実施形態では、エンジン1の燃料カットを実施していない場合、燃料カットの実施後所定時間が経過していない場合、エンジン1の冷却水の水温が所定温度未満の場合の少なくともいずれかである場合には、LC油圧学習補正制御およびLC油圧制御用リニアSOL異常判定制御を行わないようにしてもよい。
【0069】
エンジン1の燃料カットを実施していない場合、燃料カットの実施後所定時間が経過していない場合、エンジン1の冷却水の水温が所定温度未満の場合の少なくともいずれかである場合には、LC油圧の補正量の誤学習が生じる可能性が高いため、補正量の算出及び補正後LC油圧の供給を行わないようにすることで、LC油圧の補正量の学習の精度を向上させることができる。
【0070】
また、本実施形態では、ロックアップクラッチ35が締結状態(完全締結状態)で一定時間が経過していない場合、自動変速機2が変速制御中である場合、作動油の油温が所定の温度範囲を超える低油温又は高油温である場合、の少なくともいずれかである場合には、LC油圧学習補正制御およびLC油圧制御用リニアSOL異常判定制御を行わないようにしてもよい。
【0071】
ロックアップクラッチ35が締結状態(完全締結状態)で一定時間が経過していない場合、自動変速機2が変速制御中である場合、作動油の油温が所定の温度範囲を超える低油温又は高油温である場合、の少なくともいずれかである場合には、LC油圧の補正量の誤学習が生じる可能性が高いため、補正量の算出及び補正後LC油圧の供給を行わないようにすることで、LC油圧の補正量の学習の精度を向上させることができる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、LC油圧学習補正制御で算出したLC油圧の補正量を用いてLC油圧制御用リニアSOL65aの高圧固着故障などの異常判定を行う場合を説明したが、これ以外にも、LC油圧学習補正制御で算出したLC油圧の補正量は、トルクコンバータのスリップ率(あるいはスリップ量)の制御やLC締結圧の制御など、他の用途に用いることも可能である。
【0073】
また、上記実施形態では、減速時ロックアップクラッチスリップ制御を行う際に、補正前LC油圧から補正量を減算して補正後LC締結油圧を算出する場合を示したが、本発明では、これに限らず、補正前LC油圧に補正量を加算して補正後LC締結油圧を算出することも可能である。
【0074】
また、本発明は、車両のアクセルペダル開度が閉状態の減速側において、LC油圧を締結状態(完全締結状態)から解放状態に向けて徐々に減少させる減速時ロックアップクラッチスリップ制御の実施時に行われる制御であるが、ここでいう「車両のアクセルペダル開度が閉状態」とは、アクセルペダル開度が完全に閉じられた全閉状態を含むものであってよい。
【符号の説明】
【0075】
1 エンジン
2 自動変速機
3 トルクコンバータ
4 FI-ECU
5 AT-ECU(制御部)
6 LC油圧制御系(油圧制御装置)
35 ロックアップクラッチ
63 LC制御用バルブ
64 LCシフトバルフ
64a ON/OFF制御ソレノイド
65 LC油圧制御用リニアソレノイドバルブ
65a LC油圧制御用リニアソレノイド
501 ロックアップクラッチ制御部
502 車速判定部
503 ETR算出部
504 LC油圧学習補正部
505 高圧固着故障判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9