IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金ステンレス株式会社の特許一覧

特開2024-88465フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法
<>
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図1
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図2
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図3
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図4
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図5
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図6
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図7
  • 特開-フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088465
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/06 20060101AFI20240625BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20240625BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20240625BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240625BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20240625BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
B21B45/06 Q
C23G1/08
B21B45/06 R
B24C1/10 E
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203657
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】汐月 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】長野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】浅本 誠
【テーマコード(参考)】
4K037
4K053
【Fターム(参考)】
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FB00
4K037FF00
4K037GA08
4K053PA05
4K053PA12
4K053QA01
4K053RA15
4K053RA16
4K053RA17
4K053SA06
4K053TA02
4K053TA04
4K053TA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール性を向上させることが可能なデスケール方法を提供する。
【解決手段】Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍してフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を得る工程と、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯にショットブラスト処理を行うショットブラスト処理工程と、ショットブラスト処理工程後のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に酸洗処理を行う酸洗処理工程とを含むフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍してフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を得る工程と、
前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯にショットブラスト処理を行うショットブラスト処理工程と、
前記ショットブラスト処理工程後の前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に酸洗処理を行う酸洗処理工程と
を含み、
前記ショットブラスト処理は、投射材の平均粒径を0.2~0.6mm、投射速度を50~100m/秒とし、以下の式(1):
E=1.75(Cr+3Mo)2-58.1(Cr+3Mo)+537 ・・・(1)
(式中、Cr及びMoは、前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯中のCr及びMoの含有量[質量%]を表す)によって算出されるE値以上の投射エネルギー[kJ/m2]にて行われ、
前記投射エネルギーは、以下の式(2):
投射エネルギー=0.5×投射密度[kg/m2]×投射速度2[m/s] ・・・(2)
の関係を満たすように投射密度及び投射速度を調整することによって制御される、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法。
【請求項2】
前記酸洗処理工程は、硫酸による酸洗処理を施す第1酸洗処理工程と、前記第1酸洗処理工程後に硝酸及びフッ酸を含む混酸による酸洗処理を施す第2酸洗処理工程とを含む、請求項1に記載のデスケール方法。
【請求項3】
前記投射材は鉄系投射材である、請求項1又は2に記載のデスケール方法。
【請求項4】
前記酸洗処理工程の途中及び前後に研削工程を含まない、請求項1又は2に記載のデスケール方法。
【請求項5】
前記酸洗処理工程の途中及び前後に研削工程を含まない、請求項3に記載のデスケール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯の表面には、Fe、Cr、Mn、Siなどの酸化物からなる酸化スケールが生成していることから、酸化スケールを除去するためのデスケールが行われている。デスケール方法としては、スケールブレーカー、ショットブラスト、研削などによる機械的デスケールや、酸洗などによる化学的デスケールが一般に採用されている。機械的デスケールにより、酸化スケールの剥離や酸化スケールに対するクラックの形成を行うことができ、化学的デスケールにより、酸化スケールの溶解除去を行うことができる。特に、機械的デスケールの後に化学的デスケールを行うことにより、機械的デスケールによって生じた酸化スケールのクラックに酸洗液などが浸透し易くなるため、デスケール性が向上する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ステンレス熱延焼鈍鋼帯の表面にショットブラスト処理を行った後に酸洗処理を行うデスケール方法が提案されている。このデスケール方法は、ショットブラスト処理において、投射材の平均粒径を0.25~0.80mm、投射速度を40~100m/s、投射エネルギーを焼鈍方法及びCrに応じて特定の範囲に制御して行われる。特に、連続焼鈍されたステンレス熱延焼鈍鋼帯に対しては50kJ/m2以上の投射エネルギーでショットブラスト処理が行われることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-172077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯は、酸化スケールと母材との界面にCr欠乏層が形成されるため、酸化スケールとともにCr欠乏層も除去することが要求される。Cr欠乏層は、全ての領域で均一なCr欠乏状態にあるわけではなく、Cr濃度が領域によって異なる。例えば、母材のCr含有量が18質量%である場合、Cr欠乏が多い領域ではCr濃度が10質量%程度となり、Cr欠乏が少ない領域ではCr濃度が16%程度となる。フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を酸洗する場合、Cr欠乏が多い領域(Cr濃度が低い領域)はCr欠乏が少ない領域(Cr濃度が高い領域)に比べて溶解除去の進行が速いと考えられるものの、これらの領域の存在がデスケール性に与える影響は少ない。
【0006】
しかしながら、フェライト系ステンレス熱延鋼帯がMoを含む場合、Cr欠乏層を含む母材の溶解が抑制されるため、酸洗によるCr欠乏層の溶解除去が難しくなる。すなわち、Moは、アノード分極曲線における不動態化電位を卑にする元素であるため、不働態皮膜を生成し易く且つ安定的に保つ作用を有する。また、Moは、不働態皮膜が破壊された際に自己修復を早め、修復後のバリア強化を助ける作用も有する。さらに、Moは、アノード分極曲線における活性態域の最大電流密度(不働態化電流密度)を下げる効果を有し、Cr欠乏層を含む母材の溶解を抑制する。このMoによる母材の溶解抑制効果は、母材のCr含有量が多くなると増大する傾向がある。以上の理由から、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を従来の方法でデスケールすると、酸化スケール及びCr欠乏層の除去を行い難く、デスケール性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール性を向上させることが可能なデスケール方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法について鋭意研究を行った結果、投射材の平均粒径及び投射速度を所定の範囲に制御するとともに、Mo及びCrの含有量に応じた適切な投射エネルギーにてショットブラスト処理を行った後に、酸洗処理を行うことで、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍してフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を得る工程と、
前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯にショットブラスト処理を行うショットブラスト処理工程と、
前記ショットブラスト処理工程後の前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に酸洗処理を行う酸洗処理工程と
を含み、
前記ショットブラスト処理は、投射材の平均粒径を0.2~0.6mm、投射速度を50~100m/秒とし、以下の式(1):
E=1.75(Cr+3Mo)2-58.1(Cr+3Mo)+537 ・・・(1)
(式中、Cr及びMoは、前記フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯中のCr及びMoの含有量[質量%]を表す)によって算出されるE値以上の投射エネルギー[kJ/m2]にて行われ、
前記投射エネルギーは、以下の式(2):
投射エネルギー=0.5×投射密度[kg/m2]×投射速度2[m/s] ・・・(2)
の関係を満たすように投射密度及び投射速度を調整することによって制御される、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール性を向上させることが可能なデスケール方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法のフロー図である。
図2】フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のCr+3Moの量及び投射エネルギーと酸化スケールの発生の有無との関係を示すグラフである。
図3】本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯の別のデスケール方法のフロー図である。
図4】鋼種Aのフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフである。
図5】鋼種Bのフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフである。
図6】鋼種Cのフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフである。
図7】鋼種Dのフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフである。
図8】鋼種Eのフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図を適宜参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール方法(以下、単に「デスケール方法」と略す)のフロー図である。図1のフロー図において、実線部はデスケール方法の工程を表し、点線部はデスケール方法の実施前後の工程又は状態を表す。
図1に示されるように、本発明の実施形態に係るデスケール方法は、ショットブラスト処理工程と、酸洗処理工程とを含む。ショットブラスト処理工程及び酸洗処理工程は、この順で行われる。
また、本発明の実施形態に係るデスケール方法の実施前には、フェライト系ステンレス熱延鋼帯を得るための熱間圧延工程、及びフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍してフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を得るための連続焼鈍工程が行われる。また、本発明の実施形態に係るデスケール方法の実施後は、最終製品として出荷されるか、又はフェライト系ステンレス冷延鋼帯を製造するための冷間圧延工程などが行われる。本発明の実施形態に係るデスケール方法の実施前後に行われるこれらの工程は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法にて行うことができる。
【0014】
ここで、本明細書において「フェライト系」とは、常温で金属組織が主にフェライト相であるものを意味する。したがって、「フェライト系」にはフェライト相以外の相(例えば、オーステナイト相やマルテンサイト相など)が僅かに含まれるものも包含される。
フェライト系ステンレス鋼は、Moを含むものであれば特に限定されない。フェライト系ステンレス鋼におけるMoの含有量は、好ましくは6.00%以下、より好ましくは0.001~5.00%、更に好ましくは0.005~4.00%、最も好ましくは0.01~3.00%である。また、フェライト系ステンレス鋼は、Cr+3Moの量が、好ましくは11.50~36.00%、より好ましくは12.00~30.00%、更に好ましくは15.00~28.00%である。
【0015】
フェライト系ステンレス鋼の組成は、例えば、JIS規格によると、SUS430、SUS430J1L、SUS436J1L、SUS434、SUS444、SUS445J1、SUS445J2などが挙げられる。
また、フェライト系ステンレス鋼の典型的な組成は、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:2.00%未満、Cr:11.00~30.00%、Mo:6.00%以下、Cu:0.60%以下、N:0.050%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる。フェライト系ステンレス鋼は、Ti:0.001~0.500%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、Co:0.001~1.200%、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM(希土類元素):0.200%以下から選択される1種以上を更に含んでもよい。
なお、本明細書において「不純物」とは、ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。また、各元素の含有量に関して、「xx%以下」を含むとは、xx%以下であるが、0%超(特に、不純物レベル超)の量を含むことを意味する。
以下、本発明の実施形態に係るデスケール方法の各処理工程について詳細に説明する。
【0016】
<ショットブラスト処理工程>
ショットブラスト処理工程は、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯にショットブラスト処理を行う工程である。ショットブラスト処理工程を行うことにより、酸化スケールに衝撃を加えることができるため、酸化スケールを剥離させたり、酸化スケールにクラック(亀裂)を生じさせたりすることができる。その結果、後述する酸洗処理工程において、酸の浸透が容易になって酸化スケールが除去され易くなる。
ショットブラスト処理は、投射材の投射速度や投射エネルギーを制御できる方法を用いて行われる。ショットブラスト処理は、例えば、既存の投射装置を用いて行うことができる。
【0017】
ショットブラスト処理に用いられる投射材は、平均粒径が0.2~0.6mmである。この範囲の平均粒径を有する投射材を用いることにより、酸化スケールに投射材を最適な衝突力で均一に接触させることができるため、酸化スケールの全体において大きなクラックを生じさせることができる。一方、平均粒径が0.2mm未満であると、投射材による衝撃力が弱くなるとともに投射材の衝突領域が狭くなるため、酸化スケールに生じるクラックの大きさや量が不十分となる。また、平均粒径が0.6mmを超えると、酸化スケールに生じるクラックを大きくすることができるものの、投射材同士が干渉してしまうため、クラックの量が不十分となる。
【0018】
ここで、本明細書において投射材の平均粒径は、次のようにして求められる。投射材の長軸の長さ及び短軸の長さを測定し、以下の式によって粒径を算出する。このようにして100個の投射材の粒径を算出し、その平均値を投射材の平均粒径とする。
投射材の粒径[mm]=(投射材の長軸の長さ[mm]×投射材の短軸の長さ[mm])1/2
【0019】
投射材の投射速度は、50~100m/秒である。この範囲の投射速度に制御することにより、投射材を最適な衝突力で酸化スケールに接触させることができる。その結果、酸化スケールに生じさせる亀裂を大きくすることができるため、後述する酸洗処理工程において、酸の浸透が容易になって酸化スケールが除去され易くなる。一方、投射材の投射速度が50m/秒未満であると、投射材の衝突力が不十分となるため、酸化スケールに生じさせる亀裂の大きさが不十分となる。また、投射材の投射速度が100m/秒を超えると、投射材の衝突力が大きくなりすぎてしまうため、酸化スケールが母材に食い込んでしまい、酸化スケールが除去し難くなる。
【0020】
ショットブラスト処理は、以下の式(1)によって算出されるE値以上の投射エネルギー[kJ/m2]にて行われる。
E=1.75(Cr+3Mo)2-58.1(Cr+3Mo)+537 ・・・(1)
式中、Cr及びMoは、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯中のCr及びMoの含有量[質量%]を表す。
投射エネルギーをE値以上に制御することにより、投射材を最適な衝突力で酸化スケールに接触させることができる。その結果、酸化スケールに生じさせる亀裂を大きくすることができるため、後述する酸洗処理工程において、酸の浸透が容易になって酸化スケールが除去され易くなる。一方、投射エネルギーがE値未満であると、酸化スケールに対する投射材の衝突力が不十分となるため、酸化スケールに生じさせる亀裂の大きさが不十分となる。
【0021】
ここで、式(1)は、様々な組成を有するフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に対して投射エネルギーを変化させながらショットブラスト処理を行ってデスケール性を評価した実験データから導かれた算出式である。この算出式の基礎となった実験データを図2に示す。図2は、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のCr+3Moの量及び投射エネルギーと酸化スケールの発生の有無との関係を示すグラフである。なお、酸化スケールの発生の有無はデスケール率によって判定し、その詳細については以下で説明する。
図2に示されるように、酸化スケールの発生の有無は、実線の近似式によって区分される。式(1)は、この実線の近似式を表す算出式である。
【0022】
投射エネルギーは、投射密度及び投射速度を調整することによって制御することができる。すなわち、投射エネルギーは、以下の式(2)の関係を満たすように投射密度及び投射速度を調整することによって制御される。
投射エネルギー=0.5×投射密度[kg/m2]×投射速度2[m/s] ・・・(2)
【0023】
投射材の材質としては、特に限定されず、鉄、アルミナ、SiC、セラミックスなどの硬質材料を用いることができる。その中でも材質が鉄である鉄系投射材は、安価であり、且つ酸化スケールの亀裂進展能力が高いため好ましい。
また、投射材の形状としては、特に限定されないが、球状、楕円体状、多面体状などの各種形状とすることができる。その中でも、球状の投射材は、安価であり且つ入手容易であるため好ましい。
【0024】
<酸洗処理工程>
酸洗処理工程は、ショットブラスト処理工程後のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に酸洗処理を行う工程である。
酸洗処理としては、特に限定されず、硫酸、硝酸、フッ酸などの各種酸を用いた酸洗処理を行うことができる。酸洗処理の条件は、使用する酸に応じて適宜調整すればよく特に限定されない。
【0025】
酸洗処理工程は、図3のフロー図に示されるような、硫酸による酸洗処理を施す第1酸洗処理工程と、第1酸洗処理工程後に硝酸及びフッ酸を含む混酸による酸洗処理を施す第2酸洗処理工程とを含むことが好ましい。酸洗処理工程として、第1酸洗処理工程及び第2酸洗処理工程を行うことにより、デスケール性を向上させることができる。
【0026】
第1酸洗処理工程は、硫酸を用いて行われる。その具体的な条件は、特に限定されないが、酸洗液は、硫酸濃度が200~400g/L、温度が60~90℃であることが好ましい。また、酸洗方法は浸漬処理とし、浸漬時間は25~60秒であることが好ましい。このような条件で酸洗処理を行うことにより、デスケール性を安定して向上させることができる。
【0027】
第2酸洗処理工程は、硝酸及びフッ酸を含む混酸を用いて行われる。その具体的な条件は、特に限定されないが、酸洗液は、硝酸濃度が40~120g/L、フッ酸濃度が3~50g/L、温度が55~75℃であることが好ましい。また、酸洗方法は浸漬処理とし、浸漬時間は25~60秒であることが好ましい。このような条件で酸洗処理を行うことにより、デスケール性を安定して向上させることができる。
【0028】
本発明の実施形態に係るデスケール方法は、酸洗処理工程の途中及び前後(すなわち、図3のフロー図における第1酸洗処理工程と第2酸洗処理工程との間、ショットブラスト処理工程と第1酸洗処理工程との間、及び第2酸洗処理工程後)のいずれか1つに研削工程を更に含むこともできる。しかしながら、研削工程は、研削処理に用いられるブラシロールが劣化し易いとともに処理工程数が増えるため、コストが増大する。
他方、本発明の実施形態に係るデスケール方法は、研削工程を行わなくても十分なデスケール性を有しているため、コストを低減する観点から、酸洗処理工程の途中及び前後に研削工程を含まないことが好ましい。
【実施例0029】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0030】
表1に示す鋼種A~Eの組成(残部はFe及び不純物である)を有するフェライト系ステンレス鋼スラブを厚さ3mmに熱間圧延してフェライト系ステンレス熱延鋼帯とし、次いで連続焼鈍してフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯を得た。なお、鋼種AはSUS430、鋼種BはSUS430J1L、鋼種DはSUS445J1、鋼種EはSUS445J2に相当する。
【0031】
【表1】
【0032】
次に、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に対し、平均粒径が0.45mmの平均粒径を有する球状の鉄系投射材(新東工業株式会社製)を用いてショットブラスト処理を行った。ショットブラスト処理は、投射速度を76m/秒とし、投射密度を調整することによって投射エネルギーを制御した。なお、鉄系投射材の平均粒径は、上述の通りにして算出した。各鋼種のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のショットブラスト処理において適用した投射エネルギー、及び上記の式(1)で算出されるE値を表2に示す。
【0033】
次に、ショットブラスト処理後のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯に対して酸洗処理を行った。酸洗処理は、硫酸濃度が250g/L、温度が90℃の硫酸溶液に35秒浸漬する第1酸洗処理を行った後、硝酸濃度が60g/L、フッ酸濃度が30g/L、温度が60℃の混酸溶液に45秒浸漬する第2酸洗処理を行った。
【0034】
次に、酸洗処理後のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯について、デスケール性を評価した。デスケール性の評価は、酸化スケールの残りの有無を評価することによって行った。具体的には、酸洗処理後のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯の表面を光学顕微鏡(株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX-6000)で観察した後、撮影された画像をアドビ株式会社製のPhotoshop(登録商標)を用いて二値化処理して酸化スケールを特定し、ImageJ(NIH社)を用い、観察総面積の全体に占める酸化スケールが存在しない部分の面積割合をデスケール率として算出した。なお、二値化処理では、酸化スケールが存在する部分が黒、酸化スケールが存在しない部分が白でそれぞれ表される。また、撮影は、倍率を200倍、観察領域を10mm×20mmとし、50箇所で行った。この評価において、デスケール率が99.8%以上であればデスケール性が良好であるといえる。このデスケール性の評価結果を表2に示す。また、ショットブラスト処理で適用した投射エネルギーとデスケール率との関係を示すグラフを図4~8にそれぞれ示す。図4は鋼種A、図5は鋼種B、図6は鋼種C、図7は鋼種D、図8は鋼種Eである。
【0035】
【表2】
【0036】
表2及び図4~8に示されるように、ショットブラスト処理で適用した投射エネルギーをE値以上に制御した本発明例のデスケール方法は、デスケール率が99.8%以上(すなわち、デスケール性が良好)であった。
これに対して、ショットブラスト処理で適用した投射エネルギーがE値未満である比較例のデスケール方法は、デスケール率が99.8%未満(すなわち、デスケール性が不十分)であった。
【0037】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、Moを含むフェライト系ステンレス熱延鋼帯を連続焼鈍して得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼帯のデスケール性を向上させることが可能なデスケール方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8