(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088479
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】アクスルケース構造
(51)【国際特許分類】
B60B 35/16 20060101AFI20240625BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B60B35/16 D
B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203678
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】貝瀬 重人
(57)【要約】
【課題】三角板が欠落部に溶接されたアクスルケース構造において、開口の縁部の溶接ビードがビード中心に対して一方のビード止端と他方のビード止端とが対称の形状となり、発生ひずみの均一化を図って溶接寿命を向上させたアクスルケース構造を提供する。
【解決手段】車幅方向に沿って下方が開放された上部側板1と上方が開放された下部側板2とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体3と、アクスルケース本体3の中央部に形成された開口5a、5bの左右の縁部に略三角状に形成された欠落部9と、欠落部9に溶接された三角板10とを備え、三角板10は、開口5a、5bの近傍の部分に、開口5a、5bの法線の方向に曲げられた屈曲部10xを有し、上部側板1および下部側板2は、欠落部9の開口5a、5bの近傍の部分に、三角板10の屈曲部10xの形状に合わせて形成された補充部xを有し、屈曲部10xが前記補充部9xに溶接されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に沿って下方が開放された上部側板と車幅方向に沿って上方が開放された下部側板とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体と、該アクスルケース本体の車幅方向中央部に形成された開口の車幅方向左右の縁部に略三角状に形成された欠落部と、該欠落部に溶接された三角板とを備えたアクスルケース構造であって、
前記三角板は、前記開口の近傍の部分に、前記開口の法線の方向に曲げられた屈曲部を有し、前記上部側板および前記下部側板は、前記欠落部の前記開口の近傍の部分に、前記三角板の屈曲部の形状に合わせて形成された補充部を有し、前記三角板を前記欠落部に溶接する際、前記屈曲部が前記補充部に溶接されている、ことを特徴とするアクスルケース構造。
【請求項2】
前記三角板が前記欠落部に溶接された後、前記三角板および前記開口の内縁が円弧状に切削されて最終開口が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のアクスルケース構造。
【請求項3】
前記三角板が前記欠落部に前記アクスルケース本体の外側面および内側面について溶接されており、
前記三角板を前記欠落部に前記アクスルケース本体の外側面において溶接する溶接ビードは、前記最終開口の近傍部が、前記最終開口にリングまたはカバーを取り付けるため平坦に切削され、
前記三角板を前記欠落部に前記アクスルケース本体の内側面において溶接する溶接ビードは、前記最終開口の近傍部が平坦に切削されていない、ことを特徴とする請求項2に記載のアクスルケース構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に沿って下方が開放された上部側板と車幅方向に沿って上方が開放された下部側板とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体を備えたアクスルケース構造であって、アクスルケース本体の車幅方向中央部に形成された開口の左右に欠落部が略三角形状に形成されており、欠落部に三角板が溶接されているアクスルケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック、バス、RV、SUV等の車両に用いられるアクスルケース構造として、
図1(a)に示すように、車幅方向に沿って下方が開放された上部側板1と車幅方向に沿って上方が開放された下部側板2とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体3を備えたものが知られている(特許文献1参照)。アクスルケース本体3の車幅方向の中央には、上下に膨出されたバンジョー部4が形成されており、バンジョー部4の前部および後部には、夫々、開口5a、5bが形成されている。前部の開口5aには、アクスルケース本体3の内部にディファレンシャル機構を収容するためのキャリヤリング6(
図2(a)参照)が取り付けられ、後部の開口5bには、カバー7(
図2(a)参照)が取り付けられる。このアクスルケース本体3を構成する上部側板1および下部側板2は、プレス加工によって成形される。
図1(b)に上部側板1および下部側板2を、プレス加工前の状態に展開した展開板8を示す。展開板8には、プレス成形後に
図1(a)に示す開口5a、5bの左右端部5xとなる三角突起部8xが形成されている、この三角突起部8xによって、展開板8を打ち抜くために必要なブランク板に、板幅Xが必要となる。
【0003】
ブランク板の板幅Xを狭くして材料の歩留まりを高めるために、
図1(c)に示すように、アクスルケース本体3の車幅方向中央部の開口5a、5bの車幅方向左右の縁部に略三角状に欠落部9を形成し、欠落部9に三角板10を溶接したものが知られている(特許文献2参照)。三角板10を有するタイプのアクスルケース本体3の上部側板1および下部側板2を、プレス加工前の状態に展開した展開板11を
図1(d)に示す。三角板10を上部側板1および下部側板2とは別部品とすることで、展開板11に三角突起部8x(
図1(b)参照)が無くなり、展開板11を打ち抜くために必要なブランク板の板幅Yが板幅X(
図1(b)参照)よりも小さくなる。この結果、材料の歩留まりが高まる。
【0004】
三角板10を備えたアクスルケース構造の分解図を
図2(a)に示し、その製造工程を
図2(b)、
図3(c)、
図3(d)、
図3(e)に示す。先ず、
図2(a)に示す上部側板1と下部側板2とを
図2(b)に示すように向かい合わせて溶接し、車幅方向中央の開口5a、5bの左右に略三角形状に形成された欠落部9に、
図3(c)に示すように三角板10を溶接する。次いで、
図3(d)に示すように三角板10および開口5a、5bの内縁(ハッチング部分)を円弧状に切削して最終開口12を形成し、
図3(e)に示すように三角板10を欠落部9に溶接する溶接ビードの最終開口12の近傍部(ハッチング部分12x)を平坦に切削し、平坦となった部分にキャリヤリング6およびカバー7を夫々溶接する。
【0005】
図4(a)に示すように、三角板10は、欠落部9に、アクスルケース本体3の外側面3aのみならず内側面3bについても溶接されている。図中、ドットで示す部分は溶接ビード13jである。ここで、三角板10の端部が最終開口12の法線に対して斜めに組み付けされた状態となっているめ、三角板10を最終開口12に溶接する溶接線14は最終開口12の近傍において最終開口12の法線に対して斜めになる。このため、
図4(a)を矢印X方向から見た
図4(b)に示すように、溶接ビード13jの断面は、最終開口12の縁部において、ビード中心に対して左右対称とならず、一方のビード止端が鋭角部13aとなり他方のビード止端が鈍角部13bとなる。すなわち、溶接ビード13jを直線状の溶接線14に対して直交して切断した場合の断面は
図4(b)に細線15で示すようにビード中心に対して左右対称の円弧となるが、最終開口12の縁部においては溶接ビード13jが直線状の溶接線14に対して斜めに切断された状態となるので、最終開口12の縁部における溶接ビード13jの断面は、ビード中心に対して一方が鋭角部13aとなり他方が鈍角部13bとなる。
【0006】
図5(a)は、
図4(a)に示すように三角板10が欠落部9にアクスルケース本体3の外側面3aおよび内側面3bに溶接されたものを、最終開口12の内方(
図4(a)の矢印X方向)から見た模式図である。三角板10を欠落部9にアクスルケース本体3の外側面3aおよび内側面3bについて溶接した後、
図5(b)に示すように、アクスルケース本体3の外側面3aの溶接ビード13jのみを最終開口12の近傍部にて平坦に切削する(
図3(e)参照)。その後、
図5(c)に示すように、平坦となった部分に、キャリヤリング6およびカバー7を夫々溶接する(
図3(e)参照)。
【0007】
ところで、
図6に示すように、アクスルケース本体3には、バンジョー部4の左右に図示しないスプリングブラケットを介して矢印Wで示すように車重が下向きに加わり、車幅方向左右に取り付けられたスピンドル16に車輪を介して矢印Rで示すように路面からの反力が上向きに加わる。この結果、アクスルケース本体3が仮想線Lで示すように下に凸に変形し、バンジョー部4の前後に形成された最終開口12が所謂おむすび型に変形し、三角板10を欠落部9に溶接した溶接部の最終開口12の縁部(最終開口12の縁部における溶接ビード13jの断面)に大きな応力が発生する(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-274718号公報
【特許文献2】特開2004-262328号公報
【特許文献3】特開2009-1252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、
図4(a)に示すように、三角板10の端部が最終開口12の法線に対して斜めに組み付けされた状態となっており、
図4(b)に示すように、最終開口12の縁部の溶接部(溶接ビード13jの断面)は、ビード中心に対して左右対称とならず、一方のビード止端が鋭角部13aとなり他方のビード止端が鈍角部13bとなっているため、前者の剛性が後者の剛性よりも低くアンバランスとなる。このため、
図6に示すように、車重Wと路面反力Rとによってアクスルケース本体3が下に凸に変形し、最終開口12が所謂おむすび型に変形して溶接ビード13jの最終開口12の縁部に大きな応力が発生した際、
図4(b)において、最終開口12の縁部の溶接ビート13jの鋭角部13aに発生するひずみが、鈍角部13bに発生するひずみよりも大きくなる。従って、トラック等が過積載で経年使用された場合などにおいて、負担が大きい鋭角部13aを起点とした亀裂が生じる可能性も考えられる。
【0010】
詳しくは、
図5(a)に示すように、三角板10の欠落部9への溶接はアクスルケース本体3の外側面3aおよび内側面3bについて施されるが、
図5(b)に示すように、アクスルケース本体3の外側面3aの溶接ビード13jのみが最終開口12の近傍部にて平坦に切削され(
図3(e)のハッチング参照)、
図5(c)に示すように、平坦となった部分にキャリヤリング6およびカバー7が夫々溶接される。よって、上述した溶接ビート13jの鋭角部13aのひずみが鈍角部13bのひずみよりも大きくなって不均衡となる問題は、アクスルケース本体3の内側面3bの溶接ビード13jに生じる。アクスルケース本体3の内側面3bの溶接ビード13jは、車検等の点検時に外側から目視できないため、仮に、溶接ビード13jの鋭角部13aに微細な亀裂が発生していても把握が困難であり、オイル漏れ等の原因となり得る。
【0011】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、三角板が欠落部に溶接されたアクスルケース構造において、開口の縁部の溶接ビードがビード中心に対して一方のビード止端と他方のビード止端とが対称の形状となり、双方のビード止端における発生ひずみの均一化を図って溶接部の疲労寿命を向上させたアクスルケース構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、車幅方向に沿って下方が開放された上部側板と車幅方向に沿って上方が開放された下部側板とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体と、アクスルケース本体の車幅方向中央部に形成された開口の車幅方向左右の縁部に略三角状に形成された欠落部と、欠落部に溶接された三角板とを備えたアクスルケース構造であって、三角板は、開口の近傍の部分に、開口の法線の方向に曲げられた屈曲部を有し、上部側板および下部側板は、欠落部の開口の近傍の部分に、三角板の屈曲部の形状に合わせて形成された補充部を有し、三角板を欠落部に溶接する際、屈曲部が補充部に溶接されている、ことを特徴とするアクスルケース構造が提供される。
【0013】
本発明に係るアクスルケース構造においては、三角板が欠落部に溶接された後、三角板および開口の内縁が円弧状に切削されて最終開口が形成されていてもよい。
【0014】
本発明に係るアクスルケース構造においては、三角板が欠落部にアクスルケース本体の外側面および内側面について溶接されており、三角板を欠落部にアクスルケース本体の外側面において溶接する溶接ビードは、最終開口の近傍部が、最終開口にリングまたはカバーを取り付けるため平坦に切削され、三角板を欠落部にアクスルケース本体の内側面において溶接する溶接ビードは、最終開口の近傍部が平坦に切削されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアクスルケース構造によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)三角板が欠落部に溶接されたアクスルケース構造において、三角板が開口の近傍の部分に開口の法線の方向に曲げられた屈曲部を有し、上部側板および前記下部側板が欠落部の開口の近傍の部分に三角板の屈曲部の形状に合わせて形成された補充部を有し、三角板を欠落部に溶接する際、屈曲部が補充部に溶接されているので、三角板と欠落部との溶接線は、開口の近傍の部分において開口の法線の方向に曲げられた状態となる。
(2)この結果、開口の縁部における溶接ビードの断面は、ビード中心に対して一方のビード止端と他方のビード止端とが対称の形状となり、アクスルケース本体が車両走行時に発生する外力を受けて変形し、開口の縁部の溶接ビードに応力が加わった際、その溶接ビードの両サイドのビード止端において発生するひずみが均一化され、応力集中が緩和され、溶接部の耐久強度が向上し、溶接部の疲労寿命が延びる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は第1従来例(三角板なし)を示すアクスルケース構造の概略を示す斜視図、(b)はそのアクスルケース本体の側板の展開図、(c)は第2従来例(三角板あり)を示すアクスルケース構造の概略を示す斜視図、(d)はそのアクスルケース本体の側板の展開図である。
【
図2】(a)は第2従来例に係るアクスルケース構造の分解斜視図、(b)はそのアクスルケース構造を組み立てる第1工程図である。
【
図3】(c)は続く第2工程図、(d)は第3工程図、(e)は第4工程図である。
【
図4】(a)は第2従来例のアクスルケース構造の三角板の溶接部を拡大した斜視図、(b)は(a)の三角板の溶接部を矢印X方向から見た図である。
【
図5】(a)は第2従来例のアクスルケース本体を最終開口の内方(
図4(a)の矢印X方向)から見た説明図、(b)は外側面の溶接ビードを平坦に切削した様子を示す説明図、(c)は切削された部分にリング、カバーを溶接した様子を示す説明図である。
【
図6】車重と路面反力によってアクスルケース本体が下に凸に屈曲する様子を示す説明図である。に
【
図7】(a)は本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造の三角板を実線で示し、第2従来例の三角板を仮想線Xで示した説明図であり、(b)は上段に第2従来例の三角板を示し、下段に本実施形態の三角板を示した説明図である。
【
図8】(a)は本実施形態に係るアクスルケース構造の三角板の溶接部を拡大した斜視図、(b)は(a)の三角板の溶接部を矢印X方向から見た図である。
【
図9】(a)は本実施形態に係るアクスルケース本体を最終開口の内方(
図8(a)の矢印X方向)から見た説明図、(b)は外側面の溶接ビードを平坦に切削した様子を示す説明図、(c)は切削された部分にリング、カバーを溶接した様子を示す説明図である。
【
図10】(a)は本実施形態に係るアクスルケース構造の三角板の溶接部と第2従来例に係るアクスルケース構造の三角板の溶接部とを対比するため仮想的に共に表した斜視図、(b)は(a)を矢印X方向から見た図である。
【
図11】アクスルケースに車重と路面反力を模擬した上下方向の力を繰り返し加えた曲げ耐久試験を行った際のS-N線図を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(アクスルケース構造の概要)
本発明の一実施形態に係るアクスルケース構造は、
図2(a)、
図2(b)、
図3(c)に示すように、車幅方向に沿って下方が開放された上部側板1と車幅方向に沿って上方が開放された下部側板2とを向かい合わせて溶接したアクスルケース本体3と、アクスルケース本体3の車幅方向中央部に形成された開口5a、5bの車幅方向左右の縁部に略三角状に形成された欠落部9と、欠落部9に溶接された三角板10とを備えており、基本的な構成は上述した第2従来例と同様である。
【0019】
本実施形態に係るアクスルケース構造の特徴は、
図7(a)、
図7(b)に示すように、三角板10が、開口5a、5bの近傍の部分に、開口5a、5bの法線の方向に曲げられた屈曲部10xを有し、上部側板1および下部側板2が、欠落部9の開口5a、5bの近傍の部分に、三角板10の屈曲部10xの形状に合わせて形成された補充部9xを有し、三角板10を欠落部9に溶接する際、屈曲部10xが補充部9xに溶接されている点にある。これにより、三角板10と欠落部9との溶接線14は開口5a、5bの近傍の部分14xにおいて開口5a、5bの法線の方向に曲げられた状態となる。
【0020】
(屈曲部10x)
図7(a)に示すように、三角板10は、開口5a、5bの近傍の部分に、開口5a、5bの法線の方向に曲げられた屈曲部10xを有する。ここで、開口5a、5bの法線の方向に曲げられたとは、屈曲部10xが本実施形態のように開口5a、5bの法線と一致するように開口5a、5bの法線の方向に曲げられた場合のみならず、少しでも法線の方向に曲げられていれば足り、第2従来例の三角板10の縁部Yの延長線Xと開口5a、5bとが成す角度θ1よりも、屈曲部10xと開口5a、5bとが成す角度θ2が大きくなるように、開口5a、5bの法線の方向に曲げられた場合を含む。
【0021】
(補充部9x)
図7(a)に示すように、上部側板1および下部側板2は、欠落部9の開口5a、5bの近傍の部分に、三角板10の屈曲部10xの形状に合わせて形成された補充部9xを有する。補充部9xの縁部は、三角板10の屈曲部10xの縁部と合致するように、開口5a、5bの法線の方向に曲げられて形成されており、欠落部9に三角板10が組み付けられて溶接された際、補充部9xと屈曲部10xとの間に隙間が生じないようになっている。
【0022】
(溶接ビードの断面形状)
図8(a)に示すように、アクスルケース本体3の欠落部9に三角板10が溶接された後、
図3(d)にハッチングで示すように、三角板10および開口5a、5bの内縁が円弧状に切削されて最終開口12が形成されている。ここで、三角板10と欠落部9との溶接線14は、最終開口12の近傍の屈曲部10xと補充部9xとが溶接された部分14xにおいて、最終開口12の法線の方向に曲げられた状態となっているので、
図8(a)を矢印X方向から見た
図8(b)に示すように、最終開口12の縁部の溶接ビード13の断面は、ビード中心に対して左右対称となる。
【0023】
この結果、アクスルケース本体3が車両走行時に発生する外力を受けて変形して最終開口12の縁部に応力が加わった際、例えば、
図6に示すように、車重Wと路面反力Rによってアクスルケース本体3が上下方向に曲げられ、最終開口12が所謂おむすび型に変形し、最終開口12の縁部の溶接ビード13に応力が加わった際、
図8(b)に示す最終開口12の縁部の溶接ビード13は、両サイドのビード止端13x、13yにおいて発生するひずみが均一化され、応力集中が緩和され、溶接部の耐久強度が向上し、溶接部の疲労寿命が延びる。
【0024】
(アクスルケース本体3の外側面3aの溶接ビード13の切削)
図8(a)を矢印X方向から見た
図9(a)に示すように、本実施形態のアクスルケース構造においては、三角板10は、欠落部9に、アクスルケース本体3の外側面3aのみならず内側面3bについても溶接されている。なお、アクスルケース本体3の外側面3aの溶接ビード13は、三角板10の縁部Y(
図7(b)参照)の全長に亘って施されているが、アクスルケース本体3の内側面3bの溶接ビード13は、溶接トーチを奥まで差し入れられないため、最終開口12の縁部から三角板10の縁部Yの途中までとなっている。
【0025】
図9(b)、
図9(c)に示すように、三角板10を欠落部9にアクスルケース本体3の外側面3aにおいて溶接する溶接ビード13は、最終開口12の近傍部が、最終開口12にリング6またはカバー7(
図3(e)参照)を取り付けるため平坦に切削されている(
図3(e)参照)。他方、三角板10を欠落部9にアクスルケース本体3の内側面3bにおいて溶接する溶接ビード13は、リング6やカバー7を取り付ける必要がないため、最終開口12の近傍部が平坦に切削されていない。よって、
図9(c)に示すように、アクスルケース本体3の内側面において、最終開口12の縁部の溶接ビード13の断面が、一方のビード止端13xと他方のビード止端13yとで略対称となる。
【0026】
これにより、アクスルケース本体3が車両走行時に発生する外力を受けて変形して最終開口12の縁部に応力が加わった際、
図9(c)に示すように、アクスルケース本体3の内側面3bにおいて、最終開口12の縁部の溶接ビード13の両サイドのビード止端13x、13yにおける発生ひずみが均一化され、溶接部の疲労寿命が延びる。この結果、車検等の点検時に外側から目視できないアクスルケース本体3の内側面3bにおいて、最終開口12の縁部における溶接ビード13の両サイドのビード止端13x、13yを起点とする亀裂を抑制でき、オイル漏れ等を不具合を防止できる。
【0027】
(本実施形態と第2従来例との対比)
図10(a)は本実施形態に係るアクスルケース構造の三角板の溶接部(
図8(a)参照)と第2従来例に係るアクスルケース構造の三角板の溶接部(
図4(a)参照)とを対比するため仮想的に共に表した斜視図、
図10(b)は
図10(a)を矢印X方向から見た図である。本実施形態に係る三角板10と欠落部9との溶接線14は、最終開口12の近傍の屈曲部10xと補充部9xとが溶接された部分14xにおいて、最終開口12の法線の方向に曲げられた状態となるため、最終開口12の縁部の溶接ビード13の断面は、溶接ビード13の幅方向におけるビード高さの等高線を考えると、ビード中心に対して左右対称となる。よって、上述したように、最終開口12の縁部の溶接ビード13の両サイドのビード止端13x、13yにおいて発生するひずみが均一化され、溶接部の疲労寿命が向上する。
【0028】
他方、第2従来例に係る溶接ビード13jは、
図3(c)に示すように三角板10の端部が開口5a、5bの法線に対して斜めに組み付けられており、三角板10の溶接線14が開口5a、5bの法線に対して斜めになっている。このため、
図3(d)に示すように、開口5a、5bの内縁を切削した後、最終開口12の縁部における溶接ビード13jの断面は、
図10(b)に示すように、本実施形態の溶接ビード13の幅方向におけるビード高さの等高線と対比すると、ビード中心に対して左右対称とならず、一方のビード止端が鋭角部13aとなり他方のビード止端が鈍角部13bとなる。このため、「発明が解決しようとする課題」の欄に記載したように、鋭角部13aへの負担が大きくなってしまい、溶接部の疲労寿命が短くなる。
【0029】
(発生ひずみ)
図6に示すように、アクスルケース本体3に車重Wと路面反力Rとが加わって、アクスルケース本体3が仮想線Lで示すように下に凸に曲げられた際、最終開口12の縁部の溶接ビード13のビード止端13x、13yに生じるひずみ値(応力)は、解析(シミュレーション)によると、
図8(a)に示す本実施形態が
図4(a)に示す第2従来例よりも12%減少した。
【0030】
具体的には、上記解析によると、
図4(a)に示す第2従来例においては、最終開口12の縁部の溶接ビード13jの鋭角部13aのビード止端に545MPaの応力が生じたのに対し、
図8(a)に示す本実施形態においては、最終開口12の縁部の溶接ビード13の一方のビード止端13xに458MPaが、他方のビード止端13yに479MPaが生じた。従って、数値が大きい479MPaを採用した場合、第2従来例の545MPaに対する本実施形態の減少率は、
(545-479)/545=0.12
となり、12%減少することになる。
【0031】
(溶接部の疲労寿命)
この12%減を寿命換算すると、後述する3.5乗則に基づくと、約1.6倍寿命向上が見込まれる。この点、
図11を用いて説明する。
図11は、プロット点が2点(N1、P1)、(N2、P2)ほどの、製品の疲労試験のS-N線図を示す。このS-N線図は、横軸が繰り返し数N、縦軸が応力振幅σであり、製品の疲労試験において、一定の振幅で製品に繰り返し負荷される応力σと、製品が破断するまでの負荷の繰り返し数Nとの関係を示している。応力振幅σが大きいと少ない繰り返し数Nで製品が破断し、応力振幅σが小さいと多い繰り返し数Nで製品が破断する。応力振幅σが或る程度以下に小さくなると製品が破断しなくなる。この境界値が疲労限度である。
【0032】
ところで、
図11に示すS-N線図においては、
横軸のlog(N)と縦軸のσを直線で
σ=a-n×log(N)…〔片対数の場合〕
または
log(σ)=a-n×log(N)…〔両対数の場合〕
と近似できる区間がある。
【0033】
これらの式を書き換えると、
σ=log(A/N^n)…〔片対数の場合〕、 但し、log(A)=a
または
σ=A/N^n…〔両対数の場合〕
となり、N^nが現れる形となるので、n乗則という呼び方がされる。なお、疲労試験ではグラフが右下がりとなるので、「-n乗則」とも言える。この呼び方は、疲労試験に限らず、対数グラフで直線となるような関係が認められたとき、よく使用される。なお、「^」は指数記号である。
【0034】
過去の疲労試験の実績によれば、nの値は、アクスルケース本体3に用いられる鉄鋼材料では、3.5もしくは4となることが判明している。条件の悪いn=3.5を用いた場合、
(545/479)^3.5=1.57
となり、1.57倍(=約1.6倍)の耐久性向上となる。
【0035】
すなわち、
図11の2点のプロット点(N1、P1)、(N2、P2)の結果から
N2/N1=(p1/P2)^ λ
λ=(ln(N2/N1))/(ln(P1/P2))
を用いてλ(上記ではn)を求め、鉄鋼材料ではこのnの値は3.5~4となる。このうち厳しめの数値n=3.5を用い、ひずみ(応力)は12%減少するとの解析結果から、
1/(1-0.12)^3.5=1.57
となり、1.57倍(=約1.6倍)の耐久性向上となる。
【0036】
(作用・効果)
本実施形態に係るアクスルケース構造によれば、
図2(b)、
図3(c)に示すように、三角板10が欠落部9に溶接されたアクスルケース構造において、
図7(a)に示すように、三角板10は開口5a、5bの近傍の部分に開口5a、5bの法線の方向に曲げられた屈曲部10xを有し、上部側板1および下部側板2は欠落部10xの開口の近傍の部分に三角板10の屈曲部10xの形状に合わせて形成された補充部9xを有し、三角板10を欠落部9に溶接する際、屈曲部10xが補充部9xに溶接されているので、
図8(a)に示すように、三角板10と欠落部9との溶接線14は開口5a、5bの近傍の部分14xにおいて開口5a、5bの法線の方向に曲げられた状態となる。
【0037】
この結果、
図8(b)に示すように、開口5a、5bが切削加工された最終開口12の縁部における溶接ビード13の断面は、ビード中心に対して一方のビード止端13xと他方のビード止端13yとが対称の形状となる。従って、アクスルケース本体3が車両走行時に発生する外力を受けて変形して最終開口12の縁部に応力が加わった際、例えば、
図6に示すように、車重Wと路面反力Rによってアクスルケース本体3が上下方向に曲げられ、最終開口12が所謂おむすび型に変形し、最終開口12の縁部の溶接ビード13に応力が加わった際、最終開口12の縁部の溶接ビード13の両サイドのビード止端13x13yにおいて発生するひずみが均一化され、応力集中が緩和され、溶接部の耐久強度が向上し、溶接部の疲労寿命が延びる。
【0038】
また、
図9(b)、
図9(c)に示すように、三角板10を欠落部9にアクスルケース本体3の外側面3aにおいて溶接する溶接ビード13は最終開口12の近傍部がリング6またはカバー7(
図3(e)参照)を取り付けるため平坦に切削され、他方、三角板10を欠落部9にアクスルケース本体3の内側面3bにおいて溶接する溶接ビード13はリング6やカバー7を取り付ける必要がないため最終開口12の近傍部が平坦に切削されていない。よって、アクスルケース本体3の内側面3bにおいて、最終開口12の縁部の溶接ビード13の断面が、一方のビード止端13xと他方のビード止端13yとで略対称となる
【0039】
このため、
図6に示すように、アクスルケース本体3が車両走行時に発生する外力を受けて変形して最終開口12の縁部に応力が加わった際、
図9(c)に示すように、アクスルケース本体3の内側面3bにおいて、最終開口12の縁部の溶接ビード13の両サイドのビード止端13x、13yにおける発生ひずみが均一化され、溶接部の疲労寿命が延びる。この結果、車検等の点検時に外側から目視できないアクスルケース本体3の内側面において、最終開口12の縁部における溶接ビード13の両サイドのビード止端13x、13yを起点とする亀裂を抑制でき、オイル漏れ等の不具合を防止できる。
【0040】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0041】
例えば、
図7(a)に示す三角板10の屈曲部10xは、開口5a、5bの法線から多少ずれていてもよい。すなわち、三角板10の屈曲部10xは、屈曲部10xと開口5a、5bとが成す角度θ2が仮想線Xで示す第2従来例の三角板10の縁部Yの延長線と開口5a、5bとが成す角度θ1よりも大きくなるように、開口5a、5bの法線の方向に曲げられていてもよい。
【0042】
これにより、
図8(a)、
図8(b)に示す最終開口12の縁部における溶接ビード13の断面は、一方のビード止端13xと他方のビード止端13yとの形状が第2実施形態の溶接ビード13jの断面(
図4(a)、
図4(b)参照)と比べて対称に近い形状となり、双方のビード止端13x、13y(
図8(a)、
図8(b)参照)の発生ひずみの均等化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、三角板が欠落部に溶接されたアクスルケース構造であって、アクスルケース本体が車両走行時に発生する外力を受けて変形して開口の縁部に応力が加わった際、開口の縁部の溶接ビードの両サイドのビード止端において発生するひずみの均一化を図り、溶接部の疲労寿命を向上させたアクスルケース構造に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 上部側板
2 下部側板
3 アクスルケース本体
3a 外側面
3b 内側面
4 バンジョー部
5a 開口
5b 開口
6 リング
7 カバー
9 欠落部
9x 補充部
10 三角板
10x 屈曲部
12 最終開口
13 溶接ビード
13x 一方のビード止端
13y 他方のビード止端
14 溶接線
14x 溶接線の開口の近傍の部分