(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088480
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】通気処理設備、及び、通気処理設備の設計方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20240625BHJP
F27D 15/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C04B5/00 C
F27D15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203679
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
(72)【発明者】
【氏名】星野 建
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
【テーマコード(参考)】
4G112
4K063
【Fターム(参考)】
4G112JD02
4G112JE06
4K063AA02
4K063AA03
4K063AA04
4K063BA02
4K063CA03
4K063HA40
(57)【要約】
【課題】スラグ等の粒状物にエージング等の通気処理を行う際の、通気のばらつき又は気体のロスを低減できる通気処理設備及び通気処理設備の設計方法を提供する。
【解決手段】通気処理設備12は、粒状物3を収容する範囲を区画する境界部の少なくとも一部に位置する隔壁13a、13b、13cと、粒状物3に対して隔壁に沿った所定方向に気体を供給する供給装置5と、隔壁が粒状物3と当接する面のうち所定方向の少なくとも一部に位置し、粒状物3の当接によって変形する変形層15とを備え、粒状物3の通気処理を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状物の通気処理を行う通気処理設備であって、
前記粒状物を収容する範囲を区画する境界部の少なくとも一部に位置する隔壁と、
前記粒状物に対して前記隔壁に沿った所定方向に気体を供給する供給装置と、
前記隔壁が前記粒状物と当接する面のうち前記所定方向の少なくとも一部に位置し、前記粒状物の当接によって変形する変形層と
を備える通気処理設備。
【請求項2】
前記粒状物はスラグであり、
前記供給装置が供給する気体は前記スラグのエージングを行うための水蒸気である、
請求項1に記載の通気処理設備。
【請求項3】
前記変形層は弾性物であり、
前記弾性物の弾性率は2.0MPa以下である、
請求項1又は2に記載の通気処理設備。
【請求項4】
前記弾性物は、シリコン、ウレタン、天然ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、又はクロロプレンゴムのうち少なくとも1つを含んで構成される、請求項3に記載の通気処理設備。
【請求項5】
前記変形層の厚みは、前記粒状物の最大粒径の1/2以上である、請求項3に記載の通気処理設備。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の通気処理設備を設計するために、前記粒状物と前記変形層とが当接する部分における空隙率と、前記粒状物が互いに当接する部分における空隙率との差が所定値以下になるように、前記変形層の材料、前記変形層の弾性率、前記変形層の厚み、又は、前記粒状物の粒度のうち少なくとも1つを決定するステップを含む、通気処理設備の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラグ等の粒状物の通気処理を行う通気処理設備、及び、通気処理設備の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄鋼業において、高炉、予備処理プロセス、転炉、又は電気炉等でスラグが副生される。これらの内、予備処理プロセス、転炉、又は電気炉等の製鋼工程で副生されるスラグは、製鋼スラグと称される。製鋼工程において、溶銑中に含まれる燐又は珪素等を除去するために、副原料として多量の石灰が投入される。そのため、製鋼スラグ中に未溶解の石灰又は冷却時に晶出した石灰がf-CaO(遊離酸化カルシウム)として残留している。f-CaOは、水和反応によってCa(OH)2になることによって体積が約2倍程度に膨張する性質を有している。f-CaOが膨張する性質によってスラグが粉化した場合、粉化の影響によってスラグの粒度が規定から外れることがある。また、f-CaOが膨張する性質によってスラグ自体が出荷後に膨張することがある。スラグが路盤材又はコンクリート用細骨材等として用いられる場合、スラグ中のf-CaOの水和膨張は、路盤の隆起又はコンクリートの亀裂の発生を引き起こす問題がある。したがって、これらの用途に用いられるスラグは、JIS A 5015に規定されている膨張特性を満たすことが必要である。
【0003】
スラグの膨張又は粉化のリスクを低減するために、従来から、スラグの体積を出荷前に安定化させるエージング処理が行われている。エージング処理は、スラグの出荷前にスラグヤード等においてスラグを長期間保管して空気中の水分とf-CaOとを水和反応させる大気エージング、又は、スラグに水蒸気を供給することで水和反応を促進させる蒸気エージング等を含む。例えば特許文献1に、コンクリートの側壁で囲ったスラグ処理槽内にスラグを積み付け、積み付けたスラグ山に水蒸気を供給することによってエージングを行う蒸気エージング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、所定の容器に粒状物を充填する際に、容器の壁付近における粒状物の空隙率は容器の中央付近での粒状物の空隙率よりも大きくなる。容器の壁付近における粒状物の空隙率が増大する現象は、いわゆる壁効果として知られている。特許文献1に記載されているように、側壁で囲ったスラグ処理槽内にスラグが積み付けられる場合、側壁に接する外周部のスラグの空隙率は、壁効果によって、スラグ処理槽の中央部のスラグの空隙率よりも大きくなることがある。
【0006】
スラグ処理槽内において積み付けたスラグ山に供給される水蒸気は、スラグの空隙率が大きい部分で流れやすく、スラグの空隙率が小さい部分で流れにくい。したがって、スラグ山の中で空隙率に差が生じる場合、スラグ山の中のスラグの空隙率の分布に応じて水蒸気の流量に分布が生じる。水蒸気の流量の分布は、蒸気エージング処理によるスラグの水和反応の進行のばらつきを生じさせる。つまり、水蒸気の流量の分布は、処理むらの原因となる。スラグ山の中で水蒸気の流量に分布が生じた状態でスラグ山全体に十分に水蒸気を行き渡らせるために、スラグ山に供給する水蒸気量を全体的に増やすことが考えられる。しかし、水蒸気量を増やすことによって、スラグの空隙率が大きい場所に過剰な水蒸気が供給される。過剰な水蒸気は、スラグの水和反応に寄与しない。したがって、水蒸気のロスが多くなる。
【0007】
本開示は、上述した課題を鑑みて開発されたものであり、スラグ等の粒状物にエージング等の通気処理を行う際に壁効果の影響を低減することによって、通気のばらつき又は気体のロスを低減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一実施形態に係る通気処理設備は、粒状物の通気処理を行う通気処理設備であって、前記粒状物を収容する範囲を区画する境界部の少なくとも一部に位置する隔壁と、前記粒状物に対して前記隔壁に沿った所定方向に気体を供給する供給装置と、前記隔壁が前記粒状物と当接する面のうち前記所定方向の少なくとも一部に位置し、前記粒状物の当接によって変形する変形層とを備える。
【0009】
(2)上記(1)の通気処理設備において、前記粒状物はスラグであってよい。前記供給装置が供給する気体は前記スラグのエージングを行うための水蒸気であってよい。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)の通気処理設備において、前記変形層は弾性物であってよい。前記弾性物の弾性率は2.0MPa以下であってよい。
【0011】
(4)上記(3)の通気処理設備において、前記弾性物は、シリコン、ウレタン、天然ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、又はクロロプレンゴムのうち少なくとも1つを含んで構成されてよい。
【0012】
(5)上記(1)から(4)までのいずれか1つの通気処理設備において、前記変形層の厚みは、前記粒状物の最大粒径の1/2以上であってよい。
【0013】
(6)本開示の一実施形態に係る通気処理設備の設計方法は、上記(1)から(5)までのいずれか1つの通気処理設備を設計するために、前記粒状物と前記変形層とが当接する部分における空隙率と、前記粒状物が互いに当接する部分における空隙率との差が所定値以下になるように、前記変形層の材料、前記変形層の弾性率、前記変形層の厚み、又は、前記粒状物の粒度のうち少なくとも1つを決定するステップを含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る通気処理設備及び通気処理設備の設計方法によれば、スラグ等の粒状物にエージング等の通気処理を行う際の、通気のばらつき又は気体のロスが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態に係る通気処理設備の構成例を示す模式図である。
【
図4】比較例に係る設備の構成例を示す模式図である。
【
図5】他の実施形態に係る通気処理設備の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示に係る通気処理設備12(
図1等参照)は、粒状物3(
図1等参照)に対して通気処理を実施できるように構成される。以下説明される本開示の一実施形態において、粒状物3としてのスラグに対して通気処理が実施されるとする。また、通気処理として、通気処理の対象となる粒状物3に対して水蒸気を供給するエージング処理が実施されるとする。通気処理の対象となる粒状物3は、スラグに限られず他の種々の物体を含んでよい。通気処理は、エージング処理に限られず、炭酸を供給する炭酸化処理等の他の種々の気体を供給する通気処理を含んでよい。
【0017】
本実施形態でエージングの対象となるスラグは、鉄鋼の製造工程において副生成物として生じるものであり、f-CaO(遊離酸化カルシウム)を含んでいるスラグであるとする。f-CaOを含むスラグは、鉄鋼の製造工程のうち、例えば、予備処理工程又は精錬工程等の工程において生じる。鉄鋼の製造工程において生じるスラグは製鋼スラグとも称される。スラグがf-CaOを含む場合、通気処理設備12は、スラグに含まれるf-CaOと水蒸気とを反応させ、f-CaOをCa(OH)2に変化させるエージング処理を実施できるように構成される。
【0018】
(通気処理設備12の構成例)
図1及び
図2に示されるように、本開示の一実施形態に係る通気処理設備12は、供給装置5と、浸透層2と、蒸気管4と、隔壁13a、13b及び13cと、変形層15とを備える。浸透層2と隔壁13a、13b及び13cとで囲まれているエリアに粒状物3(スラグ)が積み付けられる。浸透層2と隔壁13a、13b及び13cとで囲まれているエリアは、処理エリアとも称される。通気処理設備12の処理エリア内に積み付けられている粒状物3は、堆積物とも称される。通気処理設備12は、処理エリア内に積み付けられる粒状物3(スラグ)の堆積物に対して水蒸気を供給することによって、粒状物3(スラグ)に含まれるf-CaOと水蒸気とを反応させるエージング処理を実施する。
【0019】
<浸透層2、蒸気管4及び供給装置5>
浸透層2は、処理エリアの底部に位置する。つまり、浸透層2の上に粒状物3が積み付けられる。蒸気管4は、浸透層2に埋設されている。蒸気管4は、浸透層2の中において互いに間隔を空けて並列に配置されている複数の配管として構成されるとする。蒸気管4は、浸透層2の中で蛇行する1本の配管として構成されてもよい。蒸気管4は、一端において、水蒸気の供給源である供給装置5に接続されている。供給装置5は、水蒸気の供給源として例えばボイラー等を含んで構成されてよい。
【0020】
蒸気管4は、管が延びる方向(管の長手方向)に沿って並ぶ複数の孔を有し、供給装置5から供給される水蒸気を各孔から放出し、浸透層2を通じて処理エリアに供給する。処理エリアに供給された水蒸気は、粒状物3(スラグ)の堆積物の中を通って上部に流れつつ、粒状物3(スラグ)に含まれるf-CaOと反応する。
【0021】
<隔壁13a、13b及び13c>
隔壁13a、13b及び13cは、粒状物3を収容する範囲である処理エリアの外周の境界部の少なくとも一部を区画する。言い換えれば、処理エリアの外周の境界部は、隔壁13a、13b及び13c等によって区画されずに開放されている部分を含んでもよい。
図1に例示される通気処理設備12の処理エリアは、正面側において区画されずに開放されており、左右の側面において隔壁13a及び隔壁13bで区画されており、背面側において隔壁13cで区画されている。処理エリアは、
図1に例示される位置に限られず他の種々の位置で区画されてよい。以下、隔壁13a、13b及び13cが互いに区別される必要が無い場合、隔壁13a、13b及び13cは、単に隔壁と称される。
【0022】
粒状物3は、処理エリアの外周のうち隔壁によって区画されずに開放されている部分を通じて、ホイールローダー等の重機によって、処理エリア内に積み付けられたり処理エリア内から搬出されたりしてよい。粒状物3は、処理エリアの上方から、クレーン等の重機によって、処理エリア内に積み付けられたり処理エリア内から搬出されたりしてよい。隔壁は、弾性を有しない材料、又は、弾性率が大きい材料で構成されるとする。また、隔壁は、粒状物3(スラグ)よりも硬い材料で構成されるとする。本実施形態において、隔壁は、コンクリートを材料として形成されているとする。隔壁は、コンクリートに限られず他の種々の材料で形成されてもよい。
【0023】
<変形層15>
変形層15は、隔壁の処理エリア側の面(内壁面)に沿って設置される。つまり、変形層15は、処理エリアに積み付けられた粒状物3と隔壁との間に位置する。
【0024】
変形層15は、粒状物3と隔壁との間に挟まれたときに、粒状物3の外形に合わせて変形するように、粒状物3よりも軟らかい材料で構成される。例えば、変形層15は、ゴム等の弾性を有する材料で構成されてよい。弾性を有する材料は、弾性物とも称される。弾性物の弾性率は、0より大きい。変形層15は、例えばシリコン、ウレタン、天然ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、又はクロロプレンゴム等のうち少なくとも1つの弾性物を含んで構成されてよい。弾性物として例示した材料は、吸水性が低く、断熱性が高く、かつ耐久性が高い材料であり、水蒸気に触れる場所に用いられる材料として適している。
【0025】
変形層15は、例えばスポンジ等の発泡体を含んで構成されてもよい。変形層15は、繊維を組み合わせて全体として弾性を有するように構成されてもよい。変形層15は、これらの例に限られず、種々の弾性物として構成されてよい。
【0026】
変形層15は、弾性を有しない部材として構成されてもよい。例えば、変形層15は、砂袋又はビーズクッション等のように粒状物3よりも細かい粒子を内包する部材として構成されてもよい。細かい粒子を内包する部材は、粒状物3が当接したときに粒状物3の外形に合わせて変形する一方で、粒状物3が離脱したときに重力又は他の外力によって隔壁に沿った形状に復元するように構成されてよい。
【0027】
変形層15は、粘土等の塑性変形する材料で構成されてもよい。言い換えれば、変形層15は、弾性率が0である材料で構成されてもよい。変形層15は、塑性変形する材料で構成される場合、粒状物3が離脱したときに隔壁に沿った形状に自然に復元しないが、次に粒状物3が当接したときにその粒状物3の外形に合わせて変形し得る。また、変形層15は、粒状物3が離脱した後で、例えば粘土等の材料を塗り直すことによって隔壁に沿った形状に復元されてもよい。
【0028】
変形層15は、隔壁の内壁面に貼り付ける等の方法によって固定されてよい。隔壁の内壁面に対する変形層15の固定方法は、貼り付けに限られず他の種々の方法を含んでよい。変形層15が隔壁に固定されることによって、固定されていない場合と比べてエージング処理の作業性が向上する。
【0029】
(通気処理設備12における水蒸気の流れ)
通気処理設備12は、処理エリア内で、
図2に水蒸気流路6として示される矢印の方向に水蒸気を流して粒状物3の堆積物に水蒸気を供給し、粒状物3を水蒸気と反応させる。水蒸気流路6は、処理エリア内の至る所に存在する。処理エリア内で粒状物3と水蒸気との反応を均一に進めるために、処理エリアの底部から上部への水蒸気の流量が処理エリア内の各部において均一になることが求められる。
【0030】
ここで、水蒸気は、粒状物3の堆積物の中における粒状物3の間の空隙、又は、粒状物3と隔壁との間の空隙を通って流れる。したがって、水蒸気の流量は、水蒸気の流路における空隙の大きさに応じて定まる。言い換えれば、水蒸気の流量は、水蒸気の流路に沿った空間における空隙率に応じて定まる。空隙率は、水蒸気が通る範囲の容積のうち、粒状物3によって占有されずに空隙となっている部分の体積の割合として算出される。水蒸気の流量を均一に近づけるために、処理エリア内の各部の空隙率が均一に近づくことが求められる。
【0031】
しかし、仮に、硬い側壁で囲った処理エリア内に粒状物3が積み付けられる場合、処理エリアの外周部における空隙率は、粒状物3が硬い側壁に接する場合に生じる壁効果によって、処理エリアの中央部の空隙率よりも大きくなることがある。処理エリアの外周部における粒状物3の空隙率が外周部以外(中央部等)における粒状物3の空隙率よりも大きい場合、粒状物3の堆積物に対して供給される水蒸気の流量は、空隙率が大きい場所に水蒸気が流れやすいことによって大きくばらつく。具体的に、Ergun式として知られているように、粒状物3の堆積物の中の水蒸気の各流路の圧力損失が等しくなるように水蒸気量が分配される。したがって、極端に通気抵抗が小さい流路(空隙率が高い流路)が存在することによって、通気抵抗が大きい部分(空隙率が低い部分)に水蒸気が流れにくくなる。特に、粒状物3が隔壁に沿って積み付けられる場合に、壁効果の影響によって隔壁の近傍(処理エリアの外周部)における空隙率が大きくなる。空隙率の増大によって、処理エリアの外周部における通気抵抗が小さくなる。処理エリアの外周部における通気抵抗が小さくなることによって、処理エリアの外周部に多くの水蒸気が供給される。その結果、処理エリアの中央部等の外周部以外の部分に水蒸気が供給されにくくなる。つまり、処理エリアの外周部における空隙率の増大は、処理エリアの外周部の水蒸気の流量と、処理エリアの中央部の水蒸気の流量とのばらつきを生じさせる。
【0032】
図3に例示されるように、本実施形態に係る通気処理設備12は、隔壁13bと粒状物3の堆積物との間に位置する変形層15を備える。変形層15は、粒状物3と隔壁13bとの間に挟まれたときに、粒状物3の外形に合わせて変形する。ここで、粒状物3と変形層15との間の空隙の大きさが、仮想的に、粒状物3及び変形層15に内接する円7として表現されるとする。
図3の例において、粒状物3と変形層15との間の空隙の大きさは、粒状物3同士の空隙の大きさに近い。つまり、処理エリアの隔壁13bの近傍における空隙率は、処理エリアの隔壁13bから離れた中央部における空隙率に近い。したがって、本実施形態に係る通気処理設備12において、処理エリアの隔壁13bの近傍の水蒸気流路6に沿って流れる水蒸気の流量と、処理エリアの中央部を流れる水蒸気の流量との差が小さくなる。つまり、水蒸気の流量が均一に近づけられる。
【0033】
また、通気処理設備12は、隔壁13a及び13cにも変形層15を備えてよい。隔壁13a及び13cにも変形層15が設置されることによって、処理エリアの隔壁13a及び13cの近傍における空隙率は、処理エリアの中央部における空隙率に近くなる。その結果、処理エリアの隔壁13a及び13cの近傍を流れる水蒸気の流量と、処理エリアの中央部を流れる水蒸気の流量との差が小さくなる。処理エリアの外周部の全体にわたる水蒸気の流量と中央部における水蒸気の流量との差が小さくなることによって、処理エリア全体として、水蒸気の流量が均一に近づけられる。
【0034】
一方、比較例として、変形層15を備えない設備が考えられる。比較例に係る設備において、
図4に示されるように、粒状物3が隔壁13bに変形層15を介さずに当接する。隔壁13bは粒状物3よりも硬いので粒状物3の当接によって変形しない。その結果、上述した壁効果によって、比較例に係る設備における粒状物3と隔壁13bとの間の空隙は、円7として仮想的に表されるように、粒状物3同士の空隙よりも大きくなっている。また、比較例に係る設備における粒状物3と隔壁13bとの間の空隙は、
図3に例示される本実施形態に係る通気処理設備12における粒状物3と変形層15との間の空隙よりも大きくなっている。つまり、比較例に係る設備の隔壁13bの近傍の空隙率は、隔壁13bから離れた部分の空隙率よりも大きい。その結果、比較例に係る設備において、隔壁13bの近傍の水蒸気流路6に沿って流れる水蒸気の流量と隔壁13bから離れた部分を流れる水蒸気の流量との差は大きくなる。
【0035】
以上のことからすると、本実施形態に係る通気処理設備12は、変形層15を備えることによって、変形層15を備えない比較例に係る設備よりも、処理エリア内における水蒸気の流量を均一に近づけることができる。処理エリア内における水蒸気の流量を均一に近づけることができる結果、粒状物3と水蒸気との反応の進行が均一に近づく。つまり、エージング処理のばらつきが低減する。
【0036】
また、反応の進行が均一に近づくことによって、処理エリア全体で粒状物3の反応が完了する時間が均一に近づく。反応の進行にばらつきがある場合、反応の進行が遅い部分において反応を完了するまでにかかる時間が長くなる。水蒸気は、反応が遅い部分の反応が完了するまで処理エリア全体に供給される。そうすると、反応の進行にばらつきがある場合に水蒸気を供給する時間は、反応の進行が均一である場合に水蒸気を供給する時間よりも長くなる。したがって、本実施形態に係る通気処理設備12は、反応の進行を均一に近づけることによって、水蒸気を供給する時間を短くできる。その結果、水蒸気のロスが低減する。
【0037】
本実施形態に係る通気処理設備12は、変形層15を隔壁の内壁面に備えることによって、隔壁の近傍の処理エリアの外周部における空隙率の増大を抑制できる。すなわち、本実施形態に係る通気処理設備12は、壁効果の影響を疑似的に低減できる。
【0038】
(通気処理設備12の設計方法)
通気処理設備12は、通気対象とする粒状物3に合わせて変形層15の条件を決定することによって設計されてよい。つまり、通気処理設備12の設計方法は、変形層15の条件を決定するステップを含んでよい。
【0039】
変形層15の条件を決定するために、通気対象とする粒状物3の粒度毎に、変形層15の種々の条件を適用した実験が行われてよい。変形層15の条件は、例えば、変形層15を構成する材料、変形層15の弾性率、又は、変形層15の厚み等を含んでよい。実験は、処理エリアを模擬した容器に粒状物3を積み付けて実施されてよい。実験において、容器内における粒状物3の空隙率の分布、及び、容器内に水蒸気を供給したときの容器内の温度分布が確認されるとする。以下、実験内容の一例が説明される。
【0040】
まず、内壁面に所定条件の変形層15を設けた容器に、所定の粒度の粒状物3が積み付けられる。容器内に粒状物3の堆積物が収容されている状態で、容器の内壁面の近傍における空隙率と、容器の中央付近の空隙率とが測定される。空隙率の測定方法として、例えばJIS A 1214:2013に規定されている「砂置換法による土の密度試験方法」、又は、JIS A 1104:2019に規定されている「骨材の単位容積質量及び実積率試験方法」等の公知の方法が用いられてよい。空隙率は、上述した方法に限られず他の種々の方法で測定されてもよい。
【0041】
次に、容器内に水蒸気が供給される。水蒸気は、内壁面に沿った方向に流されるとする。水蒸気の供給によって上昇する容器内の各部の温度が測定される。水蒸気の流量が均一に近いほど、容器内の各部の温度のばらつきが小さい。したがって、容器内の各部における温度の測定結果に基づいて、容器内の水蒸気の流量の均一性が評価される。
【0042】
実験結果として、容器の内壁面から所定範囲(容器の外周部)における粒状物3の空隙率と、それ以外(容器の中央部)における粒状物3の空隙率との差が算出される。言い換えれば、粒状物3と変形層15とが当接する部分における空隙率と、粒状物3が互いに当接する部分における空隙率との差が算出される。容器の外周部(粒状物3と変形層15とが当接する部分)の空隙率と容器の中央部(粒状物3が互いに当接する部分)の空隙率との差は、空隙率差とも称される。
【0043】
空隙率差が所定値より大きい場合に、所定範囲(外周部)とそれ以外(中央部)とで昇温時間の差が大きくなった。その結果、空隙率差が所定値より大きい場合に、容器全体が100℃に到達するまでにかかる時間が長くなった。逆に言えば、空隙率差が所定値以下の場合に、エージングのばらつき(処理むら)が低減される。また、空隙率差が所定値以下の場合に、水蒸気による昇温効率が高くなる。空隙率差と比較される所定値は、後述するように、ある条件下で実施された実験において、10%に設定される。所定値は、10%に限られず、条件によって異なる値に設定されてよい。
【0044】
以上述べてきた実験によって、粒状物3の粒度と、変形層15の条件との組み合わせ毎に、容器内の空隙率差又は容器内の昇温時間差が取得されてよい。通気処理設備12の設計において、通気処理の対象とする粒状物3の粒度に応じて、容器内の空隙率差又は容器内の昇温時間差が条件を満たすように変形層15の条件(変形層15の材料、変形層15の弾性率又は変形層15の厚み等)が決定されてよい。具体的に、空隙率差が10%以下となるように、粒状物3の粒度に合わせて、変形層15の条件が決定されてよい。
【0045】
実験結果は、粒状物3の粒度と、各粒度の粒状物3に適している変形層15の条件とを関連づけたテーブルとして表されてよい。通気処理設備12の設計において、通気処理の対象とする粒状物3の粒度に関連づけられている変形層15の条件がテーブルから抽出されて決定されてよい。
【0046】
以上述べてきたように、通気処理設備12の設計方法は、粒状物3と変形層15とが当接する部分における空隙率と、粒状物3が互いに当接する部分における空隙率との差(空隙率差)が所定値以下になるように、変形層15の材料、変形層15の弾性率、変形層15の厚み、又は、粒状物3の粒度のうち少なくとも1つを決定するステップを含んでよい。
【0047】
(小括)
以上述べてきたように、本実施形態に係る通気処理設備12は、変形層15を備えることによって、処理エリアに積み付けられる粒状物3の空隙率差を低減できる。その結果、エージングのばらつき又は水蒸気のロスが抑制される。
【0048】
(実施例)
以下、本実施形態に係る通気処理設備12の実施例が説明される。
【0049】
<実施例1~4>
実施例1~4として、変形層15として4種類の弾性物を用いた実験が実施された。4種類の弾性物のそれぞれを用いた変形層15は、処理エリアの隔壁の内壁面の全面に設置された。実施例1~4で用いられた弾性物は、それぞれ弾性物A~Dとして区別される。弾性物Aの弾性率は、1.8MPaである。弾性物Bの弾性率は、1.1MPaである。弾性物Cの弾性率は、0.6MPaである。弾性物Dの弾性率は、2.5MPaである。弾性率は、弾性物に加わる応力を弾性物のひずみ(弾性物の縮み量)で割ることによって算出されるとする。処理エリアに積み付けられる粒状物3として、最大粒径が40mmのスラグ(CS40)が用いられた。また、実施例1~4において、スラグの空隙率差が10%以下となるように、事前実験によって確認された、50mmの厚さの弾性物が適用された。また、事前実験において、変形層15として用いられる弾性物の弾性率が小さいほど、スラグの空隙率差が小さくなっていることが確認された。
【0050】
一方で、比較例1として、処理エリアの隔壁の内壁面に変形層15を設置しない実験が実施された。
【0051】
実施例1~4、及び、比較例1において、処理エリアの隔壁の近傍(外周部)、及び、それ以外の部分(例えば中央部等)のそれぞれにおいて、熱電対によって昇温速度差が測定された。昇温速度差は、蒸気が到達した時間差(100℃に到達するまでの時間の差)として測定された。実施例1~4及び比較例1の昇温時間差の測定結果が弾性率と対応づけて表1に示される。弾性率の単位はメガパスカル(MPa)である。昇温時間差の単位は時間(h)である。
【0052】
【0053】
変形層15を設定した実施例1~4における昇温時間差は、比較例1における昇温時間差よりも小さくなった。また、弾性率が2.0MPaより大きい弾性物Dを用いた実施例4における昇温時間差は、弾性率が2.0MPa以下の弾性物A~Cを用いた実施例1~3における昇温時間差よりも大きくなった。変形層15の弾性率が大きすぎる場合、変形層15は、粒状物3の形状に沿って変形しにくくなる。したがって、変形層15として弾性物が用いられる場合、弾性率が2.0MPa以下である弾性物が変形層15として用いられてよい。また、変形層15の弾性率が低いほど、変形層15は、粒状物3の形状に沿って変形しやすい。変形層15の弾性率は、変形層15に粒状物3が当接したときの変形しやすさと、変形層15から粒状物3が離脱したときの復元しやすさとを考慮して決定されてよい。また、実施例1~3において、弾性物A~Cの弾性率が小さいほど昇温時間差が小さくなっている。上述したように、変形層15として用いられる弾性物の弾性率が小さいほどスラグの空隙率差が小さい。つまり、弾性物A~Cの弾性率が小さいほどスラグの空隙率差が小さくなり、昇温時間差が小さくなる。
【0054】
同様の観点から、変形層15に粒状物3が当接した際に粒状物3の形状に沿って変形層15が十分に変形できるように、変形層15の厚みは、粒状物3の最大粒径の1/2以上にされてよい。
【0055】
<実施例5~7>
実施例5~7として、3種類の条件を設定した変形層15を用いた実験が実施された。それぞれの実施例において、空隙率差が異なるように、変形層15の条件(変形層15の材料、変形層15の弾性率、又は変形層15の厚み等)が設定されている。実施例5~7において、処理エリアの隔壁の近傍(外周部)、及び、それ以外の部分(例えば中央部等)のそれぞれにおいて、熱電対によって昇温速度差が測定された。昇温速度差は、蒸気が到達した時間差(100℃に到達するまでの時間の差)として測定された。実施例5~7の昇温時間差の測定結果が空隙率差と対応づけて表2に示される。空隙率差の単位はパーセント(%)である。昇温時間差の単位は時間(h)である。
【0056】
【0057】
空隙率差を異ならせた実施例5~7において、空隙率差が小さくなるほど昇温時間差が小さくなった。また、空隙率差が10%より大きい実施例7における昇温時間差は、空隙率差が10%以下の実施例5及び6における昇温時間差よりも急激に大きくなった。
【0058】
また、本実施例において、蒸気原単位を改善するという観点から、スラグの昇温時間差は変形層15を設けない比較例1の昇温時間差に対して少なくとも半分以下になることが求められる。表1に示される比較例1の昇温時間差が16時間であったことを考慮すると、本実施例において昇温時間差が8時間未満になるように変形層15の条件が決定されることが求められる。したがって、変形層15の条件は、空隙率差が10%以下となるように決定されてよい。
【0059】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態に係る通気処理設備12の構成例が説明される。
【0060】
<変形層15の位置>
上述してきた実施形態に係る通気処理設備12において、変形層15は、隔壁の内壁面の全体(全面)に設置されている。変形層15は、隔壁の内壁面の全体に設置されていなくてもよい。言い換えれば、変形層15は、隔壁の内壁面の少なくとも一部に設置されればよい。
【0061】
通気処理設備12は、
図5に例示されるように、通気処理設備12の処理エリアを区画する隔壁13b及び13cの内壁の一部に変形層15を備えてよい。
図5の通気処理設備12において、水蒸気は、水蒸気流路6に沿って流れるとする。水蒸気流路6は、処理エリアの底部の浸透層2から処理エリアの上部に向かう。変形層15は、隔壁が粒状物3と当接する内壁面のうち、水蒸気流路6の方向の一部だけに位置してよい。水蒸気流路6が隔壁の高さ方向に延びる場合、変形層15は、隔壁の高さ方向の一部だけに位置してよい。変形層15が水蒸気流路6の方向(隔壁の高さ方向)の一部に位置することによって、隔壁の近傍(処理エリアの外周部)における水蒸気の通気抵抗が大きくなる。したがって、変形層15が水蒸気流路6の方向の一部に位置するだけでも、処理エリアの外周部における水蒸気の流量が制限される。処理エリアの外周部における水蒸気の流量の制限によって、処理エリアの外周部と中央部との間で、水蒸気の流量の差が小さくなる。その結果、通気処理設備12におけるエージングのばらつき又は水蒸気のロスが抑制される。
【0062】
言い換えれば、処理エリアにおける通気処理において、水蒸気は処理エリアの底部から上部に向けて流れる。変形層15は、処理エリアを区画する隔壁が粒状物3と当接する面のうち水蒸気が流れる方向(処理エリアの底部から上部に向かう方向、又は、隔壁の高さ方向)の少なくとも一部に位置してよい。言い換えれば、変形層15は、隔壁が粒状物3と当接する面のうち所定方向の少なくとも一部に位置してよい。所定方向は、水蒸気が隔壁に沿って底部から上部に向けて流れる方向(隔壁の高さ方向)に対応する。
【0063】
変形層15は、処理エリアを上部から底部に向かって平面視した場合において、処理エリアの外周の隔壁に沿った範囲の全部に位置しなくてもよい。変形層15は、隔壁に沿った範囲の一部だけに位置してよい。変形層15が隔壁に沿った範囲の一部に位置するだけでも、変形層15が全く存在しない場合よりも、処理エリアの外周部と中央部との間で、水蒸気の流量の差が小さくなる。
【0064】
変形層15は、処理エリアを上部から底部に向かって平面視した場合において、処理エリアの外周の隔壁に沿って連続してよい。変形層15が処理エリアの外周の隔壁に沿って連続していることによって、処理エリアの隔壁の近傍において水蒸気の通気抵抗が小さくなる経路が塞がれる。処理エリアの隔壁の近傍において水蒸気の通気抵抗が小さくなる経路が塞がれることによって、処理エリアの外周部と中央部との間で、水蒸気の流量の差がより一層小さくなる。
【0065】
<容器内での通気処理>
上述してきた実施形態に係る通気処理設備12は、隔壁に囲まれた処理エリアに積み付けられた粒状物3に対して水蒸気等の気体を供給することによって、粒状物3の通気処理を実施する。通気処理設備12は、通気処理のための気体の入口と出口とを有する容器に粒状物3を格納し、容器内で気体を供給して粒状物3の通気処理を実施するように構成されてよい。
【0066】
容器内で粒状物3の通気処理が実施される場合においても、気体の流量は、容器の内壁の近傍において壁効果によって増加し、相対的に容器の中心付近において減少することがある。通気処理設備12は、容器の内壁に変形層15を有してよい。変形層15は、容器の内壁の全面に設置されてよい。変形層15は、容器の内壁の一部に設置されてもよい。容器内での通気処理において、気体は容器の入口から出口に向けて流れる。変形層15は、容器の内壁が粒状物3と当接する面のうち気体が流れる方向(容器の入口から出口に向かう方向)の少なくとも一部に位置してよい。言い換えれば、変形層15は、容器の内壁が粒状物3と当接する面のうち所定方向の少なくとも一部に位置してよい。所定方向は、気体が容器の内壁に沿って入口から出口に向けて流れる方向に対応する。
【0067】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0068】
3 粒状物
6 水蒸気流路
7 円(空隙)
12 通気処理設備(2:浸透層、4:蒸気管、5:供給装置、13a~13c:隔壁、15:変形層)