(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088493
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】線維症治療用FGFRアゴニストVHHを有効成分として含有する医薬組成物、及びその医薬組成物を含む医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240625BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20240625BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240625BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240625BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240625BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240625BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240625BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240625BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240625BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240625BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P19/04
A61P1/16
A61P43/00 111
A61K38/02
A61K38/17
A61P37/06
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203701
(22)【出願日】2022-12-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米原 涼
(72)【発明者】
【氏名】石崎 裕馬
(72)【発明者】
【氏名】土屋 政幸
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA03
4C084BA21
4C084BA41
4C084CA17
4C084CA53
4C084DA39
4C084MA16
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA75
4C084ZA96
4C084ZB08
4C084ZC02
4C084ZC41
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB42
4C085BB50
4C085CC23
4C085DD23
4C085DD32
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 本発明は、線維症又はNASHの治療に用いることができる、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)アゴニストVHH、それを有効成分とする医薬組成物及び医薬製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、配列表の配列番号1の配列をCDR3に有する、FGFR1の細胞外ドメインに結合するアルパカ由来VHHに、ヒトFc配列を付加したアゴニストVHH-Fc結合体を有効成分とする医薬組成物である。このVHH-Fc結合体を含む医薬組成物を動物に投与することにより、各種臓器の線維化を改善することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1の細胞外ドメインに結合するアルパカ由来VHHに、ヒト抗体のFc配列を付加したVHH-Fcを有効成分として含有する、線維症治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記VHHは前記FGFR1の細胞外ドメイン3に結合することを特徴とする、請求項1に記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記VHHの結合活性がFGFR1、FGFR4、FGFR3、FGFR2の順に強いことを特徴とする、請求項2に記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項4】
配列表にある配列番号1のCDR3配列を有することを特徴とする、請求項2に記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記VHHの全長のアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示す配列で表されることを特徴とする、請求項4に記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記線維症の罹患臓器が脳を除くいずれかの臓器であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記線維症の罹患臓器が肝臓であることを特徴とする、請求項6に記載の線維症治療用医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の医薬組成物を含有する医薬製剤。
【請求項9】
線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1の細胞外ドメインに結合するアルパカ由来VHHに、ヒト抗体のFc配列を付加したVHH-Fcを有効成分として含有する、NASH治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記VHHは前記FGFR1の細胞外ドメイン3に結合することを特徴とする、請求項9に記載のNASH治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記VHHの結合活性がFGFR1、FGFR4、FGFR3、FGFR2の順に強いことを特徴とする、請求項10に記載のNASH治療用医薬組成物。
【請求項12】
配列表にある配列番号1のCDR3配列を有することを特徴とする、請求項10に記載のNASH治療用医薬組成物。
【請求項13】
前記VHHの全長のアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示す配列で表されることを特徴とする、請求項12に記載のNASH治療用医薬組成物。
【請求項14】
請求項9~13のいずれかに記載の医薬組成物を含有する医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症治療用FGFRアゴニストVHH、それを有効成分として含有する医薬組成物及び医薬製剤に関する。また、本発明は、NASH治療用FGFRアゴニストVHH、それを有効成分として含有する医薬組成物及び医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の身体は損傷した組織を治癒する能力を持っている。組織の損傷治癒は線維芽細胞や間葉系細胞等が筋線維芽細胞に分化し、傷口の閉鎖及びI型コラーゲン等細胞外基質を合成、沈着させることによって果たされる。そして損傷の治癒後、筋線維芽細胞はアポトーシスを起こし、消滅する。しかし、炎症など持続的な損傷に起因して、筋線維芽細胞がアポトーシスを起こさず存在し続けることがある。この場合、細胞外基質の合成は延々と続き、細胞外基質が異常に増加することになり、組織の線維化が起こる。このような細胞外基質が異常集積することによって組織が弾性を失っていく病気は、一般に線維症と呼ばれる。このような組織の線維化は神経組織を除いた全臓器(例えば心臓、肺、膵臓、肝臓、腎臓等)で起こり得る(非特許文献1)。
【0003】
線維化は臓器を硬直させ最終的に機能不全を引き起こすため、その治療は重要である。例えば、肺の線維症の一種である特発性肺線維症は、罹患すると肺の硬直によって患者は呼吸困難になっていき、最終的に死に至る疾患であり、患者の平均余命は3~5年であることが知られている。
また、肝臓の病気である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:nonalcoholic fatty liver disease)の罹患者は日本では約1500万人とされている。NAFLDのうち非アルコール性脂肪肝をNAFL、そこから病状が進行した状態である非アルコール性脂肪性肝炎をNASHと呼ぶ。NAFLD患者の1割はNASHからさらに悪化し、肝臓の線維化、肝硬変、そして肝臓がんといった経過を辿るとされている。こうした経過をたどる患者数は、米国ではさらに多く、NAFLDの患者は人口の25~35%(約1億人)に達し、そしてその約2割がNASHに至るとされている。
【0004】
また、SARS-CoV-2によるCOVID-19は様々な呼吸器疾患を惹起することが知られている。COVID-19の罹患者の多くは完治するが、一部の人に動悸息切れや呼吸困難といった後遺症が残ることが知られている。CTスキャンを用いた後遺症に関するフォローアップ研究では、その44.1%に肺にすりガラス状影(ground glass opacity )が、33.9%に線維性索状影(fibrous stripe)がそれぞれ見られた(非特許文献2)。また、COVID-19から回復した患者の肺組織を病理学的手法により解析すると、肺炎を起こしていた領域に線維化が見られることもわかった(非特許文献3)。SARS-CoV-2と同じコロナウイルスを原因とするsevere acute respiratory syndrome (SARS)では、発症から7年後であってもCTスキャンによって、肺組織の線維化が確認されている。したがって、COVID-19でも同様に、長期にわたり線維化による後遺症に悩まされる患者が出現することが予想されている。
【0005】
このように線維症患者数が多いことおよびその症状の重篤さから、線維症の治療が望まれてきたが、これまで線維化は不可逆的な現象であり、その治療は不可能であると考えられてきた。しかし、近年、線維化の研究が発展し、その病態の一端が解明されてきた。従来、損傷部位に存在する内皮細胞や免疫細胞が、様々なサイトカインを分泌することが知られている(非特許文献4)が、現在、線維症は、これらのサイトカインが免疫細胞や筋線維芽細胞等に働きかけることで線維化が促進又は抑制されるというダイナミックなプロセスによって起こると考えられている。しかし、未だその詳細な機構はわかっていない。
【0006】
線維芽細胞増殖因子(以下、「FGF」と略すことがある。)は1973年に発見された細胞増殖因子であり、ファミリーを形成している。そして、その構成メンバーは、ヒトでは22種類又は23種類同定されている。この相違は、ヒトFGF19がマウス相同分子種であるため、ヒトFGF15とFGF19とを別種とするか否かによる。これまでに同定されたFGFは、その全てが構造類似性を持つシグナリング分子であり、幅広い効果を示す多機能性タンパク質であることが知られている。
【0007】
FGFは、一般的には細胞の分裂促進因子として作用するが、これ以外にも効果を示すことが知られており、「非特異的(promiscuous)成長因子」と言われることもある。ここで、生化学等の分野における「非特異性(promiscuity)」は、1つの受容体や酵素に対してどのくらい多様な分子が結合し反応を示しうるかを表す概念である。FGFの場合、4つの受容体サブタイプが20以上の異なるFGFリガンドによって活性化される。FGFは、発生の過程では、中胚葉誘導、前後軸パターン形成、四肢形成、神経系誘導と神経発生等に関与すること、成熟組織においては、血管新生、角化細胞の組織化、創傷治癒の過程に関与すること等、多くの機能を有することが知られている。
【0008】
FGF1から10は、全ての線維芽細胞増殖因子受容体(以下、「FGFR」ということがある。)と結合することが知られており、それらのうち、FGF1は酸性FGF(「aFGF」と呼ばれることもある。)、FGF2は塩基性FGF (「bFGF」と呼ばれることもある。)として知られている。FGF11から14はFGF相同因子1から4(以下、「FHF1から4」のように言うことがある。)としても知られ、他のFGFとかなりの配列相同性が認められるにもかかわらず、FGFRとは結合しない。また、他のFGFが関係しない細胞内プロセスに関与することから、別名「intracellular FGF」とも呼ばれ、他のFGFとは機能が異なるといわれている。
【0009】
また、FGFには、FGF19、FGF21及びFGF23をメンバーとして含むサブファミリーがある。他のFGFファミリーのメンバーが局所的な作用を示すのに対し、上記のサブファミリーのメンバーは代謝調節因子として作用すること、すなわち、全身作用を示すことが知られている。これらの中でも、FGF21は、FGFR1、FGFR2、及びFGFR3に特異的に結合すること、そして膜結合性共受容体のβ-クロトーと一緒にこれらの受容体を介してインスリン抵抗性及び2型糖尿病を改善することが知られており、また、肥満症及び肥満症誘発性脂肪肝及び高血糖症を逆転する潜在的な疾患修飾剤として報告されている。抗FGFR1アゴニスト抗体もまた、糖尿病の治療用の候補薬剤として提案されている(特許文献1参照、以下、「従来技術1」という。)。
【0010】
FGFRは4種類(FGFR1~4)あり、構造的には、いずれも細胞外に3つの免疫グロブリン様ループドメイン(ドメイン1~3)を、また細胞内にチロシンキナーゼドメインを持ち、この4種類で受容体型チロシンキナーゼファミリーを形成している。細胞外ドメインにリガンドが結合した時に、細胞内チロシンキナーゼドメインは、細胞の増殖を正に誘導する役割を果たしており、通常その活性は厳密にコントロールされている。しかし、癌細胞内では、EML4-ALKその他のタンパク質と融合したり、又はチロシンキナーゼ遺伝子の配列の突然変異を生じさせたりすることによって、例えば、活性型EGF受容体のように、常に活性化された状態となり、「癌化」を誘導することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Zhao, M., Wang, L., Wang, M. et al. Targeting fibrosis: mechanisms and clinical trials. Sig Transduct Target Ther 7, 206 (2022). https://doi.org/10.1038/s41392-022-01070-3
【非特許文献2】So, M., Kabata, H., Fukunaga, K. et al. Radiological and functional lung sequelae of COVID-19: a systematic review and meta-analysis. BMC Pulm Med 21, 97 (2021). https://doi.org/10.1186/s12890-021-01463-0
【非特許文献3】Sakai, T., Azuma, Y., Aoki, K. et al. Elective lung resection after treatment for COVID-19 pneumonia. Gen Thorac Cardiovasc Surg 69, 1159-1162 (2021). https://doi.org/10.1007/s11748-021-01630-4
【非特許文献4】Gao C-C, Bai J, Han H and Qin H-Y (2022) The versatility of macrophage heterogeneity in liver fibrosis. Front. Immunol. 13:968879. doi: 10.3389/fimmu.2022.968879
【非特許文献5】Xiuqin Zhang, Omar A. Ibrahimi, Shaun K. Olsen, Hisashi Umemori, Moosa Mohammadi, David M. Ornitz, Receptor Specificity of the Fibroblast Growth Factor Family: THE COMPLETE MAMMALIAN FGF FAMILY*,Journal of Biological Chemistry, Volume 281, Issue 23, 2006, Pages 15694-15700, ISSN 0021-9258, https://doi.org/10.1074/jbc.M601252200.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、線維症の治療の研究開発が活発に行われ、日本国においては、2008年にピルフェニドン、2015年にニンテダニブといった肺線維症の治療薬が認可された。ピルフェニドンは肺上皮細胞から線維芽細胞への分化に関わるTGF-βの産生抑制、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6等)の産生抑制と抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生亢進、Th1/2バランスの修正につながるIFN-γの低下の抑制、線維化形成に関与する増殖因子(FGF2、PDGF)の産生抑制といった作用を示す。ニンテダニブはチロシンキナーゼ阻害剤であり、PDGFRs、EGFRsおよびFGFRsを阻害することでリンパ球や線維芽細胞のリクルートを抑制し、また線維芽細胞への分化を抑制するとされている。
【0014】
これらの薬剤は線維化の進行を抑制するという意味では優れた薬剤であるものの、線維症を治癒させることはできない。また、ピルフェニドンには一部の服用者に肝機能障害と、また半数以上の服用者に光線過敏症の副作用が見られるため、肝機能の低下している患者には投与できず、服用患者は常に日焼け止めや長袖、サンスクリーンといった対策が必要となる。ニンテダニブでは重度のものを含め、半数以上の服用患者に下痢の症状がみられる。これら副作用は、ピルフェニドンやニンテダニブが複数の標的を有しているためと考えられている。
【0015】
このように服用者のQOLを著しく低下させる副作用があるにも関わらず、これら薬剤は線維化の進行を遅らせるだけで、根本的な治療には至っていないという問題があった。そのため、副作用の少ない、線維化を治療する又は病状の進行をより効果的に抑制する治療薬が望まれている。また、上記のように肺線維症の治療薬は存在するが、まだ他の臓器の線維症に対して有効であると認められた治療薬は存在しない。したがって、肺以外の臓器に有効である線維症治療薬が望まれている。
【0016】
上述したように、NASHの患者は多く、今後も増大していくとされているため、NASHに対する治療薬が望まれている。しかし、NASHにはインスリン抵抗性や酸化ストレスといった多数の因子が関わっているため、それら複数の因子に有効な薬が必要となり、開発が難航している。
【0017】
上述したように、損傷部位における免疫細胞由来のサイトカインが筋線維芽細胞に働きかけることで、線維化が促進されると考えられている。そのため、それら因子を制御することで線維化を根治できるのではないかと考えられているが、サイトカインと線維化の詳細な関係は解明されていないため、どのサイトカインが有効な標的であるかはわかっていない。例えば、FGF21は肝臓の脂肪代謝に関与していることから、NASHの治療に使えるのではないかと期待され、研究が進められている。しかし、PEG化したNASH治療薬であるBMS-986036は、2022年9月9日時点の治験第II相で有効な結果を得られなかった(https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT03486912?V_35&embedded=true)。したがって、これまでに標的とされていないサイトカインであって、線維化の進行をより効果的に抑制又は根本的に治癒する効果のある治療薬が望まれている。
【0018】
また、体内に内在性に存在する物質であるサイトカインは投与しても血中半減期が短く、薬剤として不向きであることが知られている。そのため、血中半減期が長く、長期保存できるような安定性に優れ、また、簡便に作成できる、サイトカインの代替となりうる薬剤の登場が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上のような状況の下で、本願発明の発明者は鋭意研究を重ね、本願発明を完成したものである。
すなわち、本願発明の一の態様は、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1に結合するアルパカ由来VHHを有効成分として含有する、線維症治療用医薬組成物である。また、本発明の別の態様は、上記VHHを有効成分として含有するNASH治療用医薬組成物である。ここで、前記VHHが前記FGFR1の細胞外ドメイン3に結合するものであることが好ましい。また、前記VHHの結合活性がFGFR1、FGFR4、FGFR3、FGFR2の順に強いことがより好ましい。さらに、前記VHHは配列表にある配列番号1のCDR3配列を有することが好ましく、全長の配列が配列表にある配列番号2の配列であることがより好ましい。
【0020】
ここでVHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)とは、リャマやアルパカ等の重鎖のみから成る一本鎖抗体の可変ドメインのみから構成される抗体である。VHHはヒト等がもつ抗体と比べ構造が単純であるため、熱安定性に優れ、大腸菌等ヒト細胞以外でも大量にかつ容易に製造できる点から、薬剤にするのに好ましい。また、本発明であるVHHは特定のCDR3を有するため、標的特異性が高く、薬剤として副作用が少ない点で優れている。
【0021】
さらに、本願発明のVHHは前記VHHにヒト抗体由来のFc配列が結合していることが好ましい。これにより標的受容体の二量体化、および該受容体のシグナル伝達が効率的に行われる点でVHHのFc結合体が好ましい。また、本願の線維症治療用又はNASH治療用医薬組成物は、前記線維症の罹患臓器が脳を除く臓器であることを特徴とする。こうした臓器としては、心臓、肺、膵臓、肝臓、腎臓などを挙げることができる。さらに、前記線維症の罹患臓器は肝臓であることが好ましい。
本願発明のまた別の態様は、前記線維症治療用医薬組成物を含有する医薬製剤であり、更にまた別の態様は、上記NASH治療用医薬組成物を含有する医薬製剤である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、様々な臓器の線維症の根本的な治療またはその症状の進行のより効果的な抑制を、副作用の少ない医薬組成物として提供することができる。特に、心筋線維症を患った心臓、特発性肺線維症(IPF)を患った肺、嚢胞性線維症を患った膵臓、NAFLDを患った肝臓、腎硬化症を患った腎臓等の治療に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、FcとVHHとをリンカーで連結したFc連結体の二量体を模式的に表した図である。
【
図2】
図2は、VHHクローン#1のCDR領域1~3を示す図である。
【
図3】
図3は、VHHの精製の後に実施したSDS-PAGEの結果を示す電気泳動像である。図中、Mは分子量マーカー、#1はクローン#1をそれぞれ示す。
【0024】
【
図4】
図4は、VHHクローン#1の標的分子に対する親和性測定の結果を示すグラフである。(A)はVHHクローン#1の標的分子FGFR1、(B)はVHHクローン#1の標的分子FGFR2の親和性測定の結果を示している。縦軸はResponse、横軸は時間(秒)を示す。図中の数字は使用したアナライトの濃度を示す。
【0025】
【
図5】
図5は、VHHクローン#1の標的分子に対する親和性測定の結果を示すグラフである。縦軸及び横軸は
図4のそれらと同じである。また、図中の数字は使用したアナライトの濃度を示す。
図5(A)は、VHHクローン#1の標的分子FGFR3に対する親和性測定の結果を示すグラフである。
図5(B)は、VHHクローン#1の標的分子FGFR4に対する親和性測定の結果を示すグラフである。
【0026】
【
図6】
図6は、VHHクローン#1のFc体のアゴニスト活性を示す図である。
図6(A)は精製したVHH-FcをSDS-PAGEした図である。図中3つのレーンは左からそれぞれ、分子量マーカー、還元条件下で変性させたVHH-Fc、非還元条件下で変性させたVHH-Fcを示す。図外左の数字は分子量を示す。
図6(B)はVHH-FcのFGFR1(IIIc)-Fcに対する親和性を計測した結果のグラフである。
図6(C)はNIH3T3細胞をVHH単量体(monomer)、VHH-Fc、FGF2で刺激した際のp44/42 MAPK (Erk1/2)のリン酸化を示すウエスタンブロッティングの結果である。NCは陰性対照として刺激をしなかったNIH3T3細胞の結果である。図外左の数字は分子量を、図外右の単語は使用した抗体を表す。
【0027】
【
図7】
図7は、培養細胞をFGF2又はVHH-Fcで刺激した時の細胞増殖を定量したグラフ、およびそのグラフを基に求められたEC50の値である。
図7(A)はFGF2、
図7(B)はVHH-Fcで刺激した際の結果である。
【
図8】
図8は、STAMマウスを剖検した際の肝臓重量および血液生化学検査の結果を示すグラフである。
図8(A)は肝体重比、
図8(B)は血漿ALT量、
図8(C)は肝臓トリグリセリド量の結果を示す。
【0028】
【
図9】
図9は、染色したSTAMマウス肝臓切片を定量した結果を示すグラフである。
図9(A)は、ヘマトキシリン・エオシン染色によりNAFLD Activityをスコア化したグラフである。
図9(B)は、シリウスレッド染色した際のシリウスレッド陽性領域を定量したグラフである。
図9(C)は、オイルレッドO染色した際のオイルレッドO陽性領域を定量したグラフである。
【0029】
【
図10】
図10はSTAMマウスの肝臓におけるTNF-αの発現量を定量したグラフである。グラフには36B4の発現量で補正されたTNF-αの発現量が示されている。
【
図11】
図11は、脂肪肝スンクスの肝臓を用いて、αSMA(遺伝子名:Acta2)の発現量を定量したグラフである。
【
図12】
図12は、脂肪肝スンクスの肝臓をオイルレッドO染色した結果を示す画像及びグラフである。
図12(A)は、IgGを投与した際の肝臓染色画像である。
図12(B)は、VHH-Fcを投与した際の肝臓染色画像である。
図12(C)は、オイルレッドO染色陽性の領域を定量したグラフである。
【0030】
【
図13】
図13は、VHH-Fcの熱安定性をFGF2の熱安定性と比較した結果を示すグラフである。
図13(A)は、UNcleを用いて熱安定性を測定した際の生データである。
図13(B)は、算出したTagg266の数値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、実施形態を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、線維症治療用又はNASH治療用アゴニストVHHである。さらに、上記アゴニストVHHのC末端にヒト抗体のFc部位を備えていてもよい。上記VHHは、FGFRに結合するというアゴニストとしての特性を有している。なお、上記Fc部位は、リンカーを介して上記アゴニストVHHのC末端に結合されていてもよい。
【0032】
「アゴニスト」とは、生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモン等と同様の機能を示す薬剤をいい、現実に生体内で働いている物質は、リガンドと呼んで区別する。複数の受容体のうち、特定の1つだけに作用し、他の受容体には作用しない場合、そのようなアゴニストを選択的アゴニストという。こうした選択的アゴニストの例として、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の4種の受容体のうち、1つだけに結合するNMDA等を例として挙げることができる。
【0033】
また、活性化度が生体分子に比べて低く作用も弱いアゴニストは、パーシャルアゴニスト又は部分作動薬という。パーシャルアゴニストの例としては、βブロッカー、オピオイド、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、アリピプラゾール(エビリファイ)、フェンサイクリジン(PCP麻酔)等のドーパミンD2受容体を挙げることができ、これらは医療の分野で実際に利用されている。
【0034】
また、「VHH」とは、ラクダ科の動物が有している重鎖のみから構成されるIgGに含まれる、約15kDaのシングルドメインからなる抗体断片をいう。本明細書中、「シングルドメイン抗体」とは、診断又は治療上の有用性が証明された最小の抗体と同等の作用を有する分子であって、ラクダ科動物の重鎖抗体(VHH)または軟骨魚類のIgNAR (VNAR)の単一モノマー可変ドメインから得られた抗体の断片」をいう。VHHは通常の抗体分子量の約10分の1と小さく、優れた安定性、アフィニティー、組織透過性を有し、抗体分子と比べて血中クリアランスが速い。
【0035】
また、「抗体」とは、抗原に対応して生体内で産生され、抗原と特異的に結合する物質、及びその人工改変体をいう。ここで、抗体としては、例えば、免疫グロブリンG(IgG)の他、IgGを人工的に改変したもの、例えば、ヒト以外のIgGのフレームワーク配列(以下、「FR」ということがある。)をヒトのIgGのFRに一部又は全部代替させたもの、人工的なフレームワークと部分的に結合させたもの等を挙げることができる。「抗体断片」とは、抗体の一部をいい、例えば、重鎖を構成する複数のドメインのうちの1つのドメインを含むものをいう。
【0036】
「線維芽細胞増殖因子受容体」(FGFR)は、線維芽細胞増殖因子(FGF)が結合する受容体をいう。ここで、FGFRは、線維芽細胞増殖因子受容体1(以下、「FGFR1」のようにいうことがある。)、線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)、線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)及び線維芽細胞増殖因子受容体4(FGFR4)からなる群から選ばれるいずれかの受容体であることが好ましい。
【0037】
FGFR1~4は、細胞外ドメインに3つの免疫グロブリンループ(I, II, III)を持ち、細胞内にチロシンキナーゼドメインを持つという共通の構造を有する。免疫グロブリンループIは、たとえ欠損していてもシグナル伝達への影響は殆どないといわれている。ループIIはFGFR1~4で保存性が高く、リガンドの結合に必須の部位と言われている。リガンドの結合によりFGFRは二量体化が促進される。これによって、チロシンキナーゼドメインが物理的に近接し、キナーゼドメイン内のチロシン残基が相互にリン酸化される。そして、活性化したキナーゼドメインにエフェクター分子が結合し、そのエフェクター分子のチロシン残基がリン酸化されて活性化される。こうして、細胞内の様々なタンパク質が次々に活性化される。
【0038】
Fc部位とは抗体をパパインで消化した時に得られる部分のうち、可変領域を含まない部位を指す。抗原に結合した抗体のFc部位は白血球やマクロファージなどの貪食細胞が持つFc受容体によって認識され、これら細胞による貪食作用を促す(オプソニン作用)。また、補体の活性化や、抗体依存性細胞傷害(ADCC)といった作用も併せ持つ。ここで、本発明のFc部位付加アゴニストVHH(
図1)は、少なくともFGFRを効率的に2量体化し、細胞内シグナル伝達を活性化できることから好ましい。
【0039】
また、VHHと上記Fc部位とを連結するリンカーとしては、一般的には、ペプチドリンカーの他、化学リンカー等も使用することができるが、細胞を用いた産生系を使用する上では、ペプチドリンカーを使用することが好ましい。
ペプチドリンカーとしては、配列表の配列番号3のN末端側に連結されているSAMVRSDKTHTCPPCPAPELLGGP(配列番号20)で規定されるものを使用することが、VHHの動きを担保するリンカーの柔軟性の点から好ましい。
【0040】
本発明のようなVHHの配列はラクダやリャマ等の重鎖抗体をもつ動物を免疫することによって得ることもできるし、ファージディスプレイやmRNAディスプレイ、cDNAディスプレイといった手法を用いて、人工VHHライブラリからスクリーニングする方法でも取得することができる。取得の容易さ、多様性の観点から、cDNAディスプレイ法を利用することが好ましい。
【0041】
1.VHH(単量体)の産生
VHHのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列が既に公知となっている場合、そのヌクレオチド配列の合成を遺伝子合成サービスに依頼することで入手することができる。こうした業者として例えばユーロフィンジェノミクスを使用することができる。こうして得たVHHクローン遺伝子を発現系で発現させる。こうした発現系としては、まず、生産菌自身の本来の分泌タンパク質であるHCP(Host Cell Protein)が培養上清中には非常に少ないものであることが好ましい。これによって、培養上清中に分泌された目的タンパク質が、非常に高い純度で培養上清中に存在することになるからである。さらに、正しい高次構造を有する目的タンパク質を分泌する菌を使用することが好ましい。
【0042】
このような菌を使用することによって、菌を破砕する必要もなく、培養上清中のプロテアーゼ活性もほとんど検出されない。このため、多くのタンパク質分泌生産系で大きな問題となっている、分泌された目的タンパク質の分解がほとんど認められないという利点があるからである。
こうした産生菌としては、例えば、Corynebacterium glutamicum(以下、「C.glutamicum」ということがある。)等を挙げることができる。C. glutamicumは、60年にわたってアミノ酸の工業生産菌として使用されてきた豊富な経験と実績とを有しており、安価で単純な培地を使用した高菌体培養法が確立されている。加えて、C. glutamicum自身の菌株の安全性が高い。すなわち、C. glutamicumは、毒性物質を生産せず、病原性を有していないからである。以下、C. glutamicumを使用する場合を例に挙げて説明する。
【0043】
1-1.VHH(単量体)発現用のプラスミド構築
VHHの遺伝子を鋳型に、各VHHに特異的なプライマーを用いてPCRを行い、発現用ベクターと相同なヌクレオチドを付加する。VHHの遺伝子は公知となっている配列を基に、遺伝子合成サービス等に依頼することで入手することができる。
【0044】
例えば、約25~75 mM Tris-HCl、約5~15 mM MgCl2、約0.5~1.5 mM ATP、約0.5~1.5 mM DTT(1,4-ジチオトレイトール)を含むバッファー(pH約7.5、以下、「SLiCE (seamless ligation cloning extract)バッファー」ということがある。)を入れたチューブに、VHH遺伝子、C. glutamicum発現用プラスミド及び常法に従って大腸菌から抽出したSLiCE反応液を加え、約36~約38℃にて約10~約20分間のin vitro相同組換えを行い、コンピテントセル、例えば、JM109(タカラバイオ社製)を形質転換して、形質転換体を得る。この形質転換体を培養、増殖させ、プラスミドを抽出し、DNA配列解析によりVHHクローンの遺伝子が組み込まれていることを確認する。
【0045】
1-2.C.glutamicumを用いたVHH(単量体)の発現
上記1-1.で得られた各プラスミドを、エレクトロポレーション等によってC. glutamicumへ導入して形質転換体を作製する。この形質転換体を所望の培地、例えばCM2G培地に植菌し、約28~約32℃にて一晩前培養を行い、その後、前記前培養液を、例えば、96ディープウェルプレートの各ウェルに入れたPM1S培地に継代し、約20~約30℃にて約60~約84時間培養する。VHH(単量体)はこの培養上清へ分泌されるため、培養終了後、このプレートを、約3,000~約5,000xgにて約15~約45分間、約20℃で遠心し、遠心上清を回収する。この遠心上清を0.22μmのフィルターに通し、上清中の菌体を除去し、ストックとして-80℃にて凍結保存する。
【0046】
1-3.VHH(単量体)の精製
上記ストックを解凍し、所望の終濃度、例えば約10 mMとなるようにイミダゾールを添加し、所望の担体、例えばNi Sepharose 6 Fast Flow(Cytiva社製、以下、「担体」という。)と混合し、遠心して担体を沈殿させ、最終液量が所望の液量、例えば700μL程度になるように上清を除去し、懸濁液とする。この懸濁液をスピンカラム、例えば、EconoSpin(Ajinomoto Bio-Pharma社製)等に移し、所望の条件で遠心して、洗浄バッファー(例えば、約300 mM NaCl及び約30 mM イミダゾールを含む約25~75 mM Tris-HClバッファー(pH 約7.5))を加えて、上記と同様の条件で遠心操作を2回行う。その後、最初の遠心で残した量と同量の溶出バッファー(約300 mM NaCl及び約500 mM イミダゾールを含む約50 mM Tris-HClバッファー(pH 約7.5))を加えてVHHを溶出させる。
【0047】
高濃度のイミダゾールを、所望の脱塩カラム、例えば、Zeba Spin Desalting Columns(Thermo Fisher Scientific社製)等を用いて除去し、バッファーをPBSに交換する。以上のようにして、VHH(単量体)を得ることができる。
【0048】
2.VHH-Fcの産生
動物細胞であってタンパク質収量の多い細胞、例えばExpi293F(ThermoFisherScientific社製)を用いて、以下のようにヒトFc部位を結合させたVHH(以下、「VHH-Fc」と言うことがある。)を発現させ、これらを精製する。
【0049】
2-1.VHH-Fc発現用プラスミドの構築
まず、Fc発現プラスミドに、制限酵素を用いてヒトFc配列を付加する。使用するFc部位のDNAは、ユーロフィンジェノミクス(株)等に製造を委託してもよい。ここで使用する制限酵素は、例えば、FastDigest BamHI及びFastDigest ApaI(いずれの制限酵素もThermo Fisher Scientific社製)等を挙げることができる。この付加反応及び得られたプラスミドの精製は、上述した条件と同様にすることができる。
【0050】
次いで、VHHの遺伝子を鋳型に、各VHHに特異的なプライマーを用いてPCRを行い、発現用ベクターと相同なヌクレオチドを付加する。VHHの遺伝子は公知となっている配列を基に、遺伝子合成サービス等に依頼することで入手することができる。上記と同様の条件で、VHH遺伝子と上記プラスミドとを、例えば、約1:約3(モル比)で混合し、VHH-Fc発現用プラスミドを得ることができる。得られたVHH-Fc発現用プラスミドで、コンピテントセル、例えば、大腸菌JM109を形質転換する。形質転換した大腸菌を寒天培地プレートに播種し、約36~約38℃にて一晩培養し、出現したコロニーをピッキングして、さらに同じ条件で一晩培養し、VHH-Fc発現用プラスミドを抽出し、さらに精製する。この操作には、例えば、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス(株))を使用することができる。DNA配列解析によりVHHクローンの遺伝子が組み込まれていることを確認する。
【0051】
2-2.Expi293F細胞を用いたVHH-Fcの発現
上記VHH-Fc発現用プラスミドを用いて、トランスフェクション試薬等によりExpi293F細胞へ遺伝子導入し、約37℃、8%CO2環境下にて5日間培養する。VHH-Fcは培養上清中へ分泌されるため、培養終了後、2,000xg、15分、4℃で遠心し、培養上清を回収する。この培養上清を0.22μmのフィルターに通し、上清中の細胞を除去した後、精製を行う。
【0052】
2-3.VHH-Fcの精製
所望の担体、例えばAmsphere A3(JSR社製、以下、「担体」という。)と混合し、懸濁液とする。この懸濁液をカラム、例えば、エンプティリザーバー(GL science社製)等に移し、バキュームマニホールドにセットする。担体を洗浄バッファー(例えば、PBS)を加えて洗浄する。その後、溶出バッファー(例えば、100 mM グリシン緩衝液(pH2.2))を加えてVHH-Fcを溶出させ、中和バッファー(例えば、1 M Tris-HClバッファー(pH8.5))にて中和を行う。精製されたVHH-Fcの純度は、例えば、分子量マーカーとして、Precision Plus Protein Standard(Bio-RAD社製)を用い、約4%濃縮ゲル、約10%分離ゲル、約150Vで約45~75分といった条件でSDS-PAGEを行い、評価することができる。
限外ろ過カラムを用いて、VHH-Fcの濃縮及びバッファーからPBSへの置換を行い、その後、VHH-Fcの濃度を定量する。
以上のようにして、VHH-Fcを得ることができる。
【実施例0053】
以下、実施例を用いて本願発明をさらに説明するが、本願発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)VHH(単量体)の産生
VHHクローン#1は配列番号2のアミノ酸配列をもつVHHである。このアミノ酸配列をコードする遺伝子を基に発現プラスミドを作成し、Corynebacterium glutamicumを用いたVHH(単量体)の発現と精製を実施した。実験手順は以下に記載する通りとした。
【0055】
1.VHH(単量体)発現用のプラスミド構築
VHHクローン#1の遺伝子を含むプラスミド(ファージミド)を鋳型に、VHHに特異的なプライマーを用いて、アニーリング温度55℃、伸長反応5秒の条件でPCRを行い、Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、このキットに添付されたマニュアルに従って精製した。
【0056】
SLiCEバッファー(50mM Tris-HClバッファー(pH 7.5)、10 mM MgCl
2、1 mM ATP、1 mM DTT(1,4-ジチオトレイトール))を入れたチューブに、上述した精製DNA、C. glutamicum発現用プラスミド及び大腸菌抽出SLiCE反応液を加え、37℃にて15分間のin vitro相同組換えを実施し、コンピテントセルJM109(タカラバイオ社製)を形質転換して、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、DNA配列解析によりVHHクローン#1の遺伝子がそれぞれ組み込まれていることを確認した。
図2に、VHHクローン#1のCDR領域のアミノ酸配列を示す。
【0057】
2.C.glutamicumを用いたVHH(単量体)の発現
上記1.で得られたプラスミドを、エレクトロポレーションによってC. glutamicumへ導入し、形質転換を行って形質転換体を得た。得られた形質転換体をCM2G培地に植菌し、30℃にて一晩前培養を行った。その後、前記前培養液を96ディープウェルプレート中のPM1S培地に継代し、25℃にて72時間培養し、VHH(単量体)をこの培養上清へ分泌させた。培養終了後、96ディープウェルプレートを、4,000xgにて30分間、20℃で遠心した。遠心終了後、遠心上清を回収し、これを0.22μmのフィルターに通し、上清中の菌体を除去した。菌体除去後の培養上清は-80℃にて凍結保存し、必要に応じて適宜解凍し、精製に使用した。
【0058】
3.VHH(単量体)の精製
解凍した培養上清に終濃度10 mMとなるようにイミダゾールを添加した後、100μLのNi Sepharose 6 Fast Flow(Cytiva社製、以下、「担体」という。)と混合し、4℃にて1時間転倒混和した。500xgにて1分間、4℃にて遠心して担体を沈殿させ、最終液量が700μL程度になるように上清を除去し、懸濁液とした。この懸濁液をスピンカラム(EconoSpin; Ajinomoto Bio-Pharma社製)に移し、100xgにて30秒間、4℃で遠心した。600μLの洗浄バッファー(300 mM NaCl及び30 mM イミダゾールを含む50mM Tris-HClバッファー(pH 7.5))を加えて、上記と同様の条件で遠心操作を2回行った。その後、700μLの溶出バッファー(300 mM NaCl及び500 mM イミダゾールを含む50 mM Tris-HClバッファー(pH 7.5))を加えてVHHの溶出を行った。溶出されたVHHクローン#1(単量体)の純度は、SDS-PAGEにて確認した(
図2)。
図2中、10~25の数字は、分子量、マーカーを表す。VHHクローン#1(単量体)は、15kDa付近に検出された。
【0059】
高濃度のイミダゾールを除去するために、脱塩カラム(Zeba Spin Desalting Columns; Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、バッファーをPBSに交換した。VHH(単量体)の濃度はウシ血清アルブミン(富士フイルム和光純薬社製)を標準タンパク質とし、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いたBCA法により定量した。
【0060】
(実施例2)VHH(単量体)の親和性測定
VHH(単量体)の親和性測定を、表面プラズモン共鳴(SPR)法によって行った。
Biacore(登録商標) T200(Cytiva社製)を用いて、Series S Sensor Chip CAP(Cytiva社製)に固相化したVHHクローン#1のFGFR1-Fcに対する結合活性を測定した。CAP Single-cycle Kineticsで測定した。温度は25℃に設定した。ランニングバッファーにはHBS-EP+(150 mM NaCl、0.5 mM EDTA、及び0.05% 界面活性剤 P20を含む10 mM HEPES(pH 7.4))(Cytiva)を用いた。ラン毎の測定順は以下の通りである。
【0061】
1)ビオチン化FGFR1-Fcの固相化:流速を2μL/mLに設定し、Biotin CAPture Reagent(Cytiva)を300秒間添加し、その後、流速を10μL/mLに設定し、ランニングバッファーで希釈したFGFR1-Fc溶液を120秒間添加して、140RU固定化した。ここで、「レゾナンスユニット(RU)」は、上述したビアコアで使用されている単位であり、SPR 角度の0.1°の変化が1,000レゾナンスユニット(RU)と定義づけられる。
2)結合活性の測定:流速を30μL/mLに設定し、ランニングバッファーを用いて、1.85 nM、5.56 nM、16.67 nM、及び50 nMにそれぞれ希釈したVHHクローン#1をAssociation Timeを120秒間に設定して結合させ、Dissociation Timeを600秒間に設定して相互作用させた。
【0062】
3)センサーチップ表面の再生:流速を10μL/mLに設定し、Regeneration stock 1とRegeneration stock 2(いずれもCytiva社製)とを3:1で混合した溶液を120秒間添加し、固相化されたVHHを溶離させた。次いで、Biacore T200 Evaluation(ソフトウェアバージョン2.0、Cytiva社製)を用いて1:1 binding modelによる解析を行い、結合活性を算出した。結果を
図4に示す。
その結果、VHHクローン#1のFGFR1-Fcに対する平衡解離定数(KD)は、1.74x10
-9M(ka=8.19x10
6(1/Ms)、kd=1.42x10
-3(1/s))であった。
【0063】
(実施例3)VHH(単量体)の各受容体に対する親和性測定
VHHクローン#1のFGFR2-Fc、FGFR3-Fc、又はFGFR4-Fcに対する結合活性を、実施例2と同様にして測定した。
【0064】
VHHクローン#1のFGFR2-Fc、FGFR3-Fc及びFGFR4-Fcに対する親和性測定の結果を、対FGFR2-Fc(
図4(B)、対FGFR3-Fc(
図5(A))、及び対FGFR4-Fc(
図5(B))に示す。グラフの縦軸は親和性(response)を表し、横軸は測定時間(秒)を表す。
解析の結果、VHHクローン#1のFGFR2-Fc、FGFR3-Fc、FGFR4-Fcに対する平衡解離定数(KD)はそれぞれ1.63x10
-6M(ka=4.84x10
5(1/Ms)、kd=7.76x10
-1(1/s))、1.01x10
-6M(ka=2.32x10
5(1/Ms)、kd=2.35x10
-1(1/s))、2.22x10
-8M(ka=2.37x10
6(1/Ms)、kd=5.27x10
-2(1/s))であった。
【0065】
この結果より、VHHクローン#1の結合活性はFGFR1、FGFR4、FGFR3、FGFR2の順に強いことがわかった。FGFR1に強く結合するということから、VHHクローン#1はFGF2及びFGF4~6に類似していると考えられる(非特許文献5)。しかし、これらはFGFR4に対する結合が弱いことから、得られたVHHクローン#1は既存のFGFsとは異なる結合パターンを持つ。したがって、既存のFGFsとは異なる細胞集団に作用すると考えられ、生体内における効果も異なると考えられる。
【0066】
(実施例4)VHH-Fc体の産生
VHHへのFc部位付加によるホモダイマー化を検討した(配列番号4)(
図1)。VHHクローン#1に、pFUSEベクター(InvivoGen社製)とのライゲーション用の制限酵素配列を以下のように付加した。まず、VHHクローン#1をテンプレートとし、下表2に示すプライマー、pFc-VHH#1-F(配列番号5)及びpFc-VHH#1-R(配列番号6)を用いて、98℃で10秒、55℃で5秒、72℃で5秒を30サイクル行う条件のPCRによって、VHH#1を増幅させた。得られた増幅産物は、Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス社製)を使用し、添付の説明書に従って精製した。
【0067】
【0068】
【0069】
引き続き、pFUSEベクター及びPCR増幅産物に、FastDigest EcoRI及びFastDigest NcoI(いずれの制限酵素もThermo Fisher Scientific社製)を加え、37℃にて30分間反応させた。次に、1xGel greenを含む1%アガロースゲルに上記酵素反応液を供し、100Vで30分間電気泳動した。その後、FastGene Gel/PCR Extraction Kitを使用し、添付の説明書に従ってゲルから抽出し、さらに精製した。
次いで、上記プラスミドベクターとVHH#1DNAとを、1:3(モル比)で混合し、LigationHigh Ver.2を加え、16℃、30分間反応させ、VHH-Fc(pFUSE)を得た。得られたVHH-Fc(pFUSE)で大腸菌JM109を形質転換した。形質転換した大腸菌JM109を寒天培地プレートに播種し、37℃にて一晩培養した。上記寒天培地上に出現したコロニーをピッキングして、37℃にて一晩培養し、FastGene Plasmid Mini Kitを使用し、添付の説明書に従って、VHH-Fc(pFUSE)を抽出し、さらに精製した。
【0070】
(2)発現プラスミド及びシグナル配列の変更
CMVプロモーターにて遺伝子を発現させるために、pFUSEからpcDNA3.1(Thermo Fisher Scientific社製)への乗せ換えを実施した。まず、VHH-Fc(pFUSE)をテンプレートとし、下表3に示すプライマー、pBamH-IL2-F(配列番号7)及びpFc-Apa-R(配列番号8)を用いて、98℃で10秒、55℃で5秒、72℃で5秒を30サイクル行う条件のPCRによって、VHH-Fcを増幅させた。得られた増幅産物は、Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス)を使用し、添付の説明書に従って精製した。
【0071】
【0072】
引き続き、pcDNA3.1ベクター及びPCR増幅産物に、FastDigest BamHI及びFastDigest ApaI(いずれの制限酵素もThermo Fisher Scientific社製)を加え、37℃にて30分間反応させた。次に、1xGel greenを含む1%アガロースゲルに上記酵素反応液を供し、100Vで30分間電気泳動した。その後、FastGene Gel/PCR Extraction Kitを使用し、添付の説明書に従ってゲルから抽出し、さらに精製した。
次いで、上記プラスミドベクターとVHH#1DNAとを、1:3(モル比)で混合し、LigationHigh Ver.2を加え、16℃、30分間反応させ、プラスミドを得た。得られたプラスミドで大腸菌JM109を形質転換した。形質転換した大腸菌JM109を寒天培地プレートに播種し、37℃にて一晩培養した。
上記寒天培地上に出現したコロニーをピッキングして、37℃にて一晩培養し、FastGene Plasmid Mini Kitを使用し、添付の説明書に従って、プラスミドを抽出し、さらに精製した。
【0073】
さらに、シグナル配列の変更を行った。まず、上記より得られたプラスミドをFastDigest NheI及びFastDigest EcoRI(いずれの制限酵素もThermo Fisher Scientific社製)を加え、37℃にて30分間反応させた。次に、1xGel greenを含む1%アガロースゲルに上記酵素反応液を供し、100Vで30分間電気泳動した。その後、FastGene Gel/PCR Extraction Kitを使用し、添付の説明書に従ってゲルから抽出し、さらに精製した。シグナル配列は下表4に示すプライマーを用いて、98℃で10秒、55℃で5秒、72℃で5秒を30サイクル行う条件のPCRによって、シグナル配列を増幅させた。得られた増幅産物は、Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス)を使用し、添付の説明書に従って精製した。
【0074】
【0075】
次いで、上記プラスミドベクターとシグナル配列を、1:3(モル比)で混合し、SLiCE反応液を加え、37℃、15分間反応させ、VHH-Fc(pcDNA3.1)を得た。得られたVHH-Fc(pcDNA3.1)で大腸菌JM109を形質転換した。形質転換した大腸菌JM109を寒天培地プレートに播種し、37℃にて一晩培養した。上記寒天培地上に出現したコロニーをピッキングして、37℃にて一晩培養し、FastGene Plasmid Mini Kitを使用し、添付の説明書に従って、VHH-Fc(pcDNA3.1)を抽出し、さらに精製した。
【0076】
(3)Expi293F細胞を用いたVHH-Fcの発現
Expi293F細胞(Thermo Fisher Scientific社製)は、Expi293 Expression Medium(Thermo Fisher Scientific社製)で継代培養を行った。Expi293細胞をT25フラスコ(Sarstedt社製)に播種し、37℃、8% CO2環境下で培養した。VHH-Fc(pcDNA3.1)、ExpiFectamineTM293(Thermo Fisher Scientific社製)をOpti-MEM(Gibco社製)にて懸濁し、室温、15分間静置した。その後、一晩培養したExpi293F細胞に加え、遺伝子導入し、37℃、8% CO2環境下で一晩培養した。Enhancer1及び2を培地に添加し、96時間培養後、培養上清を回収した。回収した培養上清を0.22μmのフィルターで処理し、上清から細胞の除去を行った。
【0077】
(4)VHH-Fcの精製
上記培養上清を500 μLのAmsphereTM A3(JSR社製、以下、「担体」という。)を充填したカラムに供した。5 mLのPBS、5 mLの高塩濃度PBS(1 M NaClを含むPBS)、5 mLのPBSを順に添加し、担体の洗浄を行った。その後、5 mLの100 mM Glycine-HCl pH2.2(富士フイルム和光純薬社製)にて溶出し、500 μLの1 M Tris-HCl pH8.5にて中和を行った。溶出されたVHH-Fcをクロマトグラフィーシステム、AKTA pure 25(Cytiva)を用いて4℃で精製を行った。VHH-Fcを0.22 μmのフィルターユニットに通して、ゲルろ過カラム、HiLoadTM 16/600 SuperdexTM200 pg(Cytiva)に供した。VHH-FcはPBSを用いて、1 mL/分の流量を用いて溶出した。VHH-Fcは、280 nmの吸光度の上昇を分画の境界として、96ディープウェルプレートに回収した。
【0078】
得られたVHH-Fcをアミコンウルトラ、10 kDa(Millipore社製)に移し、3,500 xg、30分間、4℃にて遠心分離し、VHH-Fcを濃縮した。精製したVHH-Fcの純度はSDS-PAGEにて確認した(
図6(A))。SDS-PAGEは4%濃縮、10%分離ゲルにて行った。各ウェルに5 μL分のサンプルを供した後、150 Vで1時間の条件で電気泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus Protein Standard(BioRad社製)を用いた。ウシ血清アルブミンを標準タンパク質とし、Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いたBCA法により、VHH-Fcの濃度を定量した。
【0079】
(実施例5)VHH-Fcの親和性測定
OctetRED384(Fortebio社製)を用いて、上記のようにして得たVHH-FcのFGFR1(IIIc)-Fcに対する親和性を測定した。FGFR1(IIIc)-Fc-Avi(R&D社製)をSAセンサーチップに固相化し、25 nMから2倍希釈で調製したVHH-Fcと結合させて測定した。測定前にDip and ReadTM SA Biosensors(Fortebio社製)の先端を200 μLの0.05% Tween20含有PBS(以下、「PBS-T」ということがある。)に10分間浸漬させて、センサーチップを水和させた。その後、70 μLの各測定液を384ウェルプレートに添加し、以下に示す1)~6)のステップで測定を実行した。
【0080】
1)Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
2)Loading step:PBS-T中でビオチン化FGFR1(IIIc)-Fcで300秒間の測定。
3)Baseline step:PBS-T中で30秒間の測定。
4)Association step:PBS-Tで希釈し調製したVHH-Fcで120秒間の測定。
5)Dissociation step:PBS-T中で120秒間の測定。
6)Regeneration step:Glycine-HCl(pH2.2)中で5秒間、PBS-T中で5秒間の測定を3回繰り返す。
上記測定が終了後、実測値からReference(PBS-Tのみ)を差し引き、Octetソフトウェアを用いて、1:1の結合モデルを用いてGlobal fittingを行い、親和性を算出した(
図6(B))。VHH-Fcの親和性を表5に示す。
【0081】
【0082】
(実施例6)VHH-Fc体のアゴニスト活性の測定
マウス胎児線維芽細胞NIH3T3(ATCC)を用いたVHH-Fcのアゴニスト活性評価は、以下のように行った。
(1)細胞培養
マウス胎児線維芽細胞NIH3T3は、10% Fatal Calf Serum (Biowest社製、以下「CS」という。)、1% Penicillin-Streptomycin Mixed Solution(100 units/mLペニシリンG、100 μg/mLストレプトマイシン硫酸塩含有)(ナカライテスク社製、以下「PS(+)」という。)を含むDMEM(High glucose)(Sigma社製、以下、単に「DMEM」という。)で継代培養を行った。
【0083】
(2)VHH-Fcを用いたリン酸化アッセイ
6ウェル細胞培養プレート(Corning社製)に、最終濃度が5.0×105 cells/wellになるように播種し、37℃、5% CO2環境下で一晩培養した。各ウェルから培地を除去し、ウェルを血清非添加DMEMで洗浄した後、 1% PS(+)を含むDMEMを1 mL/wellで各ウェルに添加した。次いで、FGF2(富士フイルム和光純薬社製)又はVHH-Fcを最終濃度10 ng/mL又は100 nMで添加した。37℃、5% CO2環境下で30分抗体反応を行った後、1.5 mLチューブに細胞を全量回収した。ホスファターゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社製)を含む100μLのRIPA buffer(ナカライテスク社製)にて、細胞を溶解した。9,000 xg、30分間、4℃にて遠心分離し、上清を1.5 mLチューブに回収した。ウシ血清アルブミンを標準タンパク質とし、Pierce BCA Protein Assay Kitを用いたBCA法により、タンパク質の濃度を定量した。
【0084】
(3)ウエスタンブロッティング
SDS-PAGEは4%濃縮、10%分離ゲルにて行った。各ウェルに10 μg分のサンプルを供した後、150 Vで1時間の条件で電気泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus Protein Standard Dual Color(BioRad社製)を用いた。電気泳動したのち、トランスブロットTurboブロッティングシステム及び転写パック(共にBioRad社製)を使用し、添付の説明書に従ってPVDF膜に転写した。PVDF膜を3%ウシ血清アルブミン及び0.05% Tween-20を含むTBS(以下、「TBS-T」ということがある。)にて、1時間、室温でブロッキング反応を行った。
【0085】
ブロッキング後、TBS-TにてPVDF膜を5回洗浄し、3%ウシ血清アルブミンを含むTBS-Tにて1,000倍希釈したp44/42 MAPK(Erk1/2)rabbitモノクローナル抗体又はPhospho-p44/42 MAPK(Erk1/2)(Thr202/Tyr204)rabbitモノクローナル抗体(共にCST社製)を含む抗体反応液にて、4℃で一晩反応させた。TBS-TにてPVDF膜を5回洗浄し、3%ウシ血清アルブミンを含むTBS-Tにて10,000倍希釈したAnti-rabbit IgG HRP-linked antibody(CST社製)を含む反応液にて、1時間、室温で反応させた。次いで、TBS-TにてPVDF膜を5回洗浄した後に、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Merck社製)を使用し、1時間、室温で反応させた。その後、FUSION SOLO.7S.EDGE(Vilber Bio Imaging社製)を使用し、添付の説明書に従って画像解析を行った。
【0086】
図6(C)上段はそれぞれサンプル間でp44/42 MAPK (Erk1/2) が、中段はリン酸化されたp44/42 MAPK(Erk1/2)が、下段はβ-アクチンが発現していることを示している。この結果より、VHHクローン#1はアゴニスト活性を有していないこと、一方でVHH-Fcは有していることがわかった。なお、今回は増殖試験にてアゴニスト活性の強弱(EC
50)を求めた。
【0087】
(4)VHH-Fcを用いた細胞増殖試験
96ウェル白色細胞培養プレート(Thermo Scientific社製)に、100μLずつ、最終濃度が2.5×103 cells/wellになるようにマウス胎児線維芽細胞NIH3T3を播種し、37℃、5% CO2環境下で一晩培養した。各ウェルから培地を除去し、各種被験物質、1% CS及び1% PS(+)を含むDMEMに交換し、さらに72時間培養を行った。96ウェルプレートを5分間、室温で放置した後、Cell Titer Glo(登録商標)2.0 Cell Viability Assay(Promega社製)を使用して、添付の説明書に従って生細胞数を測定した。
【0088】
被験物質は各濃度で4点測定し、500 nMから始まる3倍の希釈系列を9濃度分作成し、測定に供した。測定データはGraphPad Prism 9を用いて4パラメーターロジスティック曲線解析を行った後、得られたシグモイド曲線からEC50、平均及び標準誤差を計算した。
【0089】
図7にアゴニストVHHの細胞増殖活性測定結果のグラフを示す。VHH-FcはFGF2と同程度の活性を有することが確認された(EC
50がそれぞれ0.99 ng/mLおよび1.62 ng/mL)。また、VHHクローン#1のコイルドコイルによるホモダイマーとして作成した#1_C(配列番号11)は細胞増殖活性が極めて低いことが確認された(EC
50:50~100 ng/mL)。#1_Cに増殖活性、つまりアゴニスト活性が無いことから、VHH-FcはVHHクローン#1を単に二量体化させるという以上の効果を有していることが示唆される。
以上より、Fcを付加することにより、FGFRを刺激することのできる機能的なアゴニストVHHを得ることができた。
【0090】
(実施例7)STAM(登録商標)マウスを用いたVHH-FcのIn vivo活性評価
実施例4で作成したVHH-Fcが線維症に効果があるのかを検証するために、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウスであるSTAMマウスを用いて非臨床試験を行った。このマウスは糖尿病を背景に、6週齢時に脂肪肝、8週齢時にNASH、9週齢時に肝線維化、その後20週齢時に肝癌を発症するヒトのNASH進行と予後に類似した病理所見を示すモデルマウスである。
【0091】
(1)STAMマウスの作成及びVHH-Fcの投与
C57BL/6Jの妊娠14日雌マウスを日本エスエルシー株式会社から購入し、順化飼育を行った。マウスは常にSPF環境下において、8時から20時の通常明暗サイクルで飼育された。出産後2日齢時に雌マウスを間引き、雄マウスにはストレプトゾトシン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)を背部皮下に10 mg/mLの濃度で20μL投与することで、インスリン分泌能を低下させた。この時に各母親マウスあたりの雄仔マウスの数が同数になるように調整した。母親マウスは仔マウスが4週齢になった時点で飼育ケージから除かれた。この間飼料として固形飼料CE-2(日本クレア株式会社)を自由摂取形式で与えた。そして、離乳処置をした後からは、高脂肪食であるHigh Fat Diet 32(日本クレア株式会社製)を自由摂取形式で与えた。なお、モデルマウス作成の陰性対照群として、High Fat Diet 32ではなくCE-2を与えた正常マウスも用意した。
【0092】
陰性対照群を除いて、被験マウスは投与前日に、各群の平均体重が均等になるように体重層別化無作為抽出法によって、5 群に群分けされた。VHH-Fcの投与は、Vehicleとして生理食塩水を用い、投与経路は腹腔内投与とした。投与は、生後6 週齢時に1 回実施した。薬剤の陰性対照としてVHH-Fcを含まないVehicleのみの投与も行った。また、薬効評価のコントロールとしてTelmisartanを用意し、経口ゾンデを用いて強制経口投与した。Telmisartanの投与は生後6 週齢時から9 週齢時まで1 日1 回(7 回/週)とした。各薬剤の投与量は以下の表6の通りである。
【0093】
【0094】
TelmisartanはアンジオテンシンII受容体のアンタゴニストであり、通常降圧剤として使用される。一方で、TelmisartanはPPARγの調節を介してインスリン感受性を改善し、肝脂肪蓄積を減少させ、さらにアンジオテンシンII受容体を遮断することによりNASH及び/又は肝線維症を抑制することが知られているため、本試験では治療効果の陽性対照用薬剤として使用した。
【0095】
生後0週齢は生後0~6日目を指し、投与日の数え方は投与開始日を投与1日目(Day 0)とした。投与日から毎日被験マウスの外観、栄養状態、姿勢、行動及び排泄物を観察することで、投薬の副作用の有無を確認した。そして、被験マウスが9週齢になった時点で解剖し、各種データを取得した。
本試験結果を示すデータ中、正常マウス群、Vehicle投与群、VHH-Fc low投与群、VHH-Fc middle投与群およびTelmisartan投与群をそれぞれNormal、Vehicle、low、middle、Telmisartanと呼称し、各試験結果においてVehicle投与群と各試験群を、Bonferroni Multiple Comparison Testを用いて統計検定を行い、図中にその結果をp値として示した(
図8~10)。
【0096】
(2)血液生化学検査
9週齢時の計画剖検時に、全個体について、イソフルラン麻酔下で、抗凝固剤としてヘパリン(ヘパリンNa注5千単位/5mL「モチダ」、持田製薬株式会社)を用い心臓から血液を採取した。得られた血液を、1,000xg、15分間、4℃にて遠心分離した。得られた血漿は、血漿生化学検査用に50μLを1本およびその残り全量をそれぞれ1.5 mLチューブ2本に分注(計2本/個体)し、液体窒素にて急速凍結し、-80℃にて保存した。得られた血漿を用いて、血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(比色法;GPT/ALT-PIII、 富士フイルム株式会社)の量を測定した。結果を
図8(B)に示す。肝臓の傷害の指標となるALTの値は、Vehicle群と比較して、VHH-Fc middle投与群及びTelmisartan投与群で有意な低下が見られた。この結果はVHH-Fcが肝臓のNASH症状を抑える作用を有することを示している。
【0097】
(3)肝臓トリグリセリド値の測定
肝臓右葉よりFolchの方法(Folch et al. J. Biol. Chem., 1957(226):497)に従い脂質の抽出を行った。ホモジナイザー(アズワン社製)にてホモジナイズ後、クロロホルム/メタノール(共にシグマアルドリッチジャパン社製)を添加して拡販を行い、一晩静置した。クロロホルム/メタノール/水を用いて洗浄した後、減圧乾個し、肝臓抽出物を得た。イソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン社製)で溶解した肝臓抽出物を肝臓生化学検査に供した。肝臓抽出物は、トリグリセライド E-テストワコー(富士フイルム和光純薬社製)の添付の説明書に従って反応させ、プレートリーダー(BIO-TEK社製)にて主波長600 nm、副波長700 nmで測定し、肝重量あたりのトリグリセリド量を算出した(
図8(C))。
【0098】
肝臓トリグリセリド値は肝臓に蓄積した脂肪の量の指標として使用される。前述したようにSTAMマウスは脂肪肝を患っているため、通常マウスと比較して各群で数値が上昇していることが確認された。また、VHH-Fc middle及びTelmisartan投与群では肝臓トリグリセリド値の減少傾向が見られた。
【0099】
(4)病理組織標本の作製
肝臓の外側左葉中心部をブアン固定液(シグマアルドリッチジャパン社製)に浸漬し、24時間、室温で固定し、パラフィン包埋を行った。パラフィンブロックを回転式ミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製)にて4μm厚に薄切した。パラフィン切片を伸展させ、スライドガラス(松波硝子工業社製)へ貼り付けて、ホットプレート(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてパラフィン切片を乾燥させた。次いで、パラフィン切片は、ヘマトキシン・エオシン染色及びシリウスレッド染色に供した。
【0100】
(5)ヘマトキシン・エオシン染色及びNAFLD Activity scoreの算出
パラフィン切片をキシレン、100%~70%のアルコール系列およびRO水で脱パラフィン・親水化した後、リリー・マイヤーヘマトキシリン液(武藤化学社製)にて10分間浸漬した。RO水にて余分な染色液を洗い流し、流水にて10分間色出しした後、1%エオシンY エタノール水溶液(富士フイルム和光純薬社製)に5分間浸漬し、RO水に浸透した。染色した切片は、70%~100%のアルコール系列およびキシレンにて脱水・透徹後、エンテランニュー(Merck社製)にて封入し観察に供した。標本は明視野顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製)を用い観察した。Kleiner 等の報告(Kleiner DE et al. Hepatology 2005 41:1313)に従い、下表7の通り、1個体あたり1切片の脂肪化、肝実質における炎症、肝細胞障害について、撮影した画像よりスコア化した。脂肪化は切片の代表的な50倍の1視野、肝実質の炎症及び肝細胞障害は中心静脈を中心とした切片の代表的な200倍の1視野より算出した(
図9(A))。
【0101】
【0102】
(6)シリウスレッド染色による線維化の評価
シリウスレッド染色により膠原繊維を可視化することで、肝臓の線維化評価を行った。パラフィン切片をキシレン、100%~70%のアルコール系列およびRO水で脱パラフィン・親水化した後、0.03%ピクロ・シリウスレッド液(ワルデック社製)に60分間浸透した。0.5%酢酸溶液およびRO水に通した後、染色した切片は、70%~100%のアルコール系列およびキシレンにて脱水・透徹後、エンテランニュー(Merck社製)にて封入し観察に供した。標本は明視野顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて観察した。中心静脈を中心とした200倍の視野にて、1切片あたり5視野の画像をCCDカメラ(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて撮影した。撮影した画像をもとに、ImageJ(National Institute of Health社製)を用いて、各視野における撮影面積、シリウスレッド陽性面積、中心静脈内腔面積を計測した(
図9(B))。
【0103】
シリウスレッド染色の画像を基に算出した線維化陽性面積の全体の実質面積に対する割合を
図9(B)に示す。通常マウスと比較して、Vehicle投与マウスでは線維化面積が有意に増加していた。それに対し、Vehicleマウスと比較して、VHH-Fc投与マウスでは線維化面積が有意に減少していた。この結果はVHH-Fcが線維化を治療又は予防する効果を有することを示すものである。
【0104】
(7)オイルレッドO染色による肝臓脂肪蓄積の評価
オイルレッドO染色により脂肪を可視化することで、肝臓に蓄積した脂肪の量を評価した。肝臓外側左葉の一部を10%中性ホルマリン液(富士フイルム和光純薬株式会社)に浸漬し、24時間、室温にて固定化した。次いで、スクロース置換を実施し、O.C.T. compound を満たしたクリオディッシュに包埋後、液体窒素で凍結し、-80℃にて保存した。凍結切片を60%イソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン社製)に1分間浸透し、オイルレッドO染色液(富士フイルム和光純薬社製)にて30分間染色した。60%イソプロパノールにて1分間浸透後、リリー・マイヤーヘマトキシリン液(武藤化学社製)に通し、超純水で洗浄した。アクアテックス(Merck社製)にて封入し、観察に供した。標本は明視野顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて観察した。中心静脈を中心とした200倍の視野にて、1切片あたり5視野の画像をCCDカメラ(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて撮影した。撮影した画像をもとに、ImageJ software(National Institute of Health)を用いて、各視野における撮影面積、オイルレッド陽性面積、中心静脈内腔面積を計測した。
【0105】
図9(C)にオイルレッド陽性面積の割合のグラフを示す。通常マウス群と比較して、Vehicle投与群ではオイルレッド陽性面積が増加していた。一方、Vehicle群で増加していたオイルレッド陽性面積は、統計的に有意ではないが、VHH-Fc投与により減少傾向にあることがわかった。この結果はVHH-Fcが肝臓での脂肪蓄積を改善する、すなわちNASHに対する治療効果を有することを示唆している。以下の表8に、
図9に示す各群のシリウスレッド及びオイルレッド染色画像の定量結果を示す。表中、なしは正常マウス群(無投与群)である。また、数値は平均±標準偏差を表す。
【0106】
【0107】
(8)遺伝子発現解析
1 mLのRNAiso(タカラバイオ社製)を添加した1.5 mLチューブに肝臓外側左葉の肝臓片を移し、ホモジナイズし、クロロホルムを加え混合した。5分間、室温で静置した後、21,000xg、15分間、4℃にて遠心分離を行った。上清を回収し、SV Total RNA Isolation System(Promega)を使用し、添付の説明書に従ってTotal RNAの精製を行い、吸光光度計を用いてRNA濃度を測定した。Total RNAサンプル(1000ng/7μL)はcDNA 合成反応液 [4.4mM MgCl2(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、40 U RNase inhibitor(TOYOBO社製)、0.5mM dNTP(Promega社製)、250ng Random primers(Promega社製)、5 x first strand buffer(Invitrogen社製)、10mM dithiothreitol(Invitrogen社製)、200U MMLV-RT(Invitrogen社製)]中でMaster cycler(Eppendorf社製)を用いて、37℃で1 時間、99℃で5分間反応させた後、氷冷した。
【0108】
得られたcDNA溶液は使用まで-20℃で保存する。SYBR premix kitとReal-time PCR thermal cycler DICE(登録商標)(共にタカラバイオ社製)を用いたリアルタイムPCR法により、1ウェル当たり5 ng Total RNA相当のcDNA を用いて定量PCRを行った。95℃で30秒の初期変性後、95℃で5秒、60℃で45秒を40サイクル行う条件のPCRを実施し、second derivative maximum(SDM)法による増幅曲線の分析を行った。使用するプライマーのデザインおよび合成はPerfect Real Time サポートシステム(タカラバイオ社製)を用いて行った。解析対象遺伝子(TNFα)の発現量は、ハウスキーピング遺伝子36B4の発現量を用いて補正した。使用したプライマーの配列を以下の表9に記載する。
【0109】
【0110】
遺伝子発現解析の結果を
図10に示す。VHH-Fcを中用量投与した群ではVehicle群と比較して、TNF-αの発現が有意に減少していた。TNF-αは主にマクロファージに発現する分泌分子で、アポトーシスや炎症反応に関連していることが知られている。したがって、TNF-αの発現減少は炎症反応が抑えられたという結果は、VHH-FcがNASHの治療に使用できることを示している。
【0111】
(実施例8)脂肪肝スンクスを用いたVHH-FcのIn vivo活性評価
絶食により脂肪肝が誘発されたスンクスを用いて、VHH-FcのIn vivo活性評価を以下のように行った。
【0112】
(1)脂肪肝スンクスの準備、及びVHH-Fcの投与
スンクスの飼育ゲージから餌、及び床敷きを除き、糞食防止の金網を敷き、絶食を開始した。絶食開始から24時間後に、IgG又はVHH-Fcを10mg/kg体重となるように腹腔内投与した。次いで、24時間後に、過剰量のペントバルビタールナトリウムを投与し、スンクスを安楽死させた。スンクスの解剖を行い、1 mLのRNAiso plus(タカラバイオ社製)を添加した1.5 mLチューブに肝臓の一小片を移した。さらに、肝臓の一部を10%中性ホルマリン溶液に浸漬した。
【0113】
(2)遺伝子発現量解析
マイクロ乳棒を用いて肝臓の一小片をすりつぶし、攪拌した後、5分間、室温で静置した。200 μLのクロロホルムを添加し、15秒間攪拌した後、5分間、室温で静置した。12,000 xg、15秒間、4℃にて遠心分離し、400 μLの上清を別の1.5 mLチューブに回収した。400 μLの2-プロパノールを添加し、攪拌した後、10分間、氷上で静置した。12,000 xg、15秒間、4℃にて遠心分離し、上清を除去し、1 mLの70%エタノールを添加した。12,000 xg、5分間、4℃にて遠心分離し、上清を除去し、30 μLの超純水を加えて、ペレットを溶解した。
【0114】
NanoDrop 2000(Thermo Scientific社製)を用いて、RNA濃度を測定した。5分間、65℃にてRNAを変性させた後、0.5 μgのRNAとReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO社製)を使用し、添付の説明書に従って逆転写反応を行った。次いで、TB Green(登録商標) Premix Ex TaqTM II(Tli RNaseH Plus)及びThermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(共にタカラバイオ社製)を使用し、添付の説明書に従って定量PCRを行い、ΔΔCt法により相対定量した。定量PCRは、表10に示すプライマーを用いて行った。αSMA(smooth muscle actin、遺伝子名:Acta2)の発現量は、βアクチンの発現量を用いて補正した。
【0115】
【0116】
定量PCRの結果を
図11に示す。VHH-Fcを投与した群ではαSMAの発現が有意に低下していた。αSMAは筋線維芽細胞のマーカーであり、この結果は線維化の原因となる筋線維芽細胞がVHH-Fc投与により減少したことを示している。
【0117】
(3)組織解析
10%中性ホルマリン溶液に浸した肝臓小片は、4℃で一晩固定した。20%スクロースを含むPBSに置換し、4℃で一晩震盪した後、30%スクロースを含むPBSに置換し、さらに4℃で一晩震盪した。肝臓小片をO.C.T. compoundに包埋し、クリオスタットを用いて10μm厚の凍結切片を作製した。凍結切片を30分間、風乾した後、10%中性ホルマリン溶液に10分間浸した。60% 2-プロパノールに浸した後、オイルレッドO溶液に15分間浸した。60% 2-プロパノールに浸した後、超純水に浸し、封入した。染色した切片を光学顕微鏡で観察および撮影し、ImageJ(National Institute of Health社製)を用いて、染色領域を定量した。結果を
図12に示す。VHH-Fcを投与した肝臓切片(
図12(B))はIgGを投与したもの(
図12(A))と比べ、オイルレッドOで染まっていないことがわかる。染色領域を定量した結果、VHH-Fcの投与によりオイルレッドO陽性領域が有意に減少していた。したがって、VHHH-Fcには肝臓での脂肪蓄積を減少させる効果があり、ひいてはNASHに対して有効であることが示された。
【0118】
(実施例9)VHH-Fcの熱安定性測定
UNcle(Unchained Labs社製)を用いて、VHH-Fc及びFGF2の熱安定性の測定を行った。VHH-FcはPBSにて0.5 mg/mLに、FGF2(R&D社製)は1 mg/mLに調製した。動的光散乱(以下、「DLS」と言う。)及び性的光散乱(以下、「SLS」と言う。)のために、25℃から95℃まで観察しながら1℃/分の温度傾斜を実施した。266 nm及び473 nmでのSLSを測定した。DLSは、温度傾斜の開始及び終了時点で測定した。UNcle analysisソフトウェアを用いて、Tm、Tagg及びDLS測定値の計算をして分析した。温度傾斜に対するSLS 266 nm、及びTaggを
図14に示す。VHH-FcはFGF2より優れた熱安定性を有することが示された。