(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088496
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ポリエステル系エラストマー繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/86 20060101AFI20240625BHJP
D01F 6/84 20060101ALI20240625BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240625BHJP
D04H 1/732 20120101ALI20240625BHJP
【FI】
D01F6/86 301F
D01F6/84 301D
D01F6/84 301E
D01F6/84 301H
D01F6/86 301E
D01F6/86 301G
D04H1/435
D04H1/732
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203707
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨森 康裕
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB53
4L035BB55
4L035BB89
4L035DD19
4L035DD20
4L035EE01
4L035EE20
4L035FF05
4L035GG03
4L035HH10
4L035JJ05
4L035JJ12
4L035KK01
4L035KK05
4L047AA21
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA21
(57)【要約】
【課題】ポリウレタン代替用途として使用できる十分な柔軟性を有し、より緻密で、軽量な湿式不織布にも好適なポリエステル系エラストマー繊維であり、湿式短繊維不織布の材料として用いた際に水中分散性が良好であり、高い柔軟性と耐熱性、緻密性を有する高品位な湿式不織布が得ることが可能なポリエステル系エラストマー繊維を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分はテレフタル酸とイソフタル酸を含み、グリコール成分は1,4-ブタンジオールとエチレングリコールを含み、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合した共重合ポリエステルにより構成される繊維であり、共重合ポリエステルには、結晶核剤を0.01~3質量%含有し、示差走査熱量測定によって測定される融解ピークから算出されるΔHtmが20~40J/g、融点が150℃を超え175℃以下であるポリエステル系エラストマー繊維。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラメチレングリコールを共重合してなる共重合ポリエステルからなるエラストマー繊維であって、
共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分はテレフタル酸とイソフタル酸を含み、テレフタル酸は全カルボン酸成分中に60モル%以上含有し、グリコール成分は1,4-ブタンジオールとエチレングリコールを含み、1,4-ブタンジオールは全グリコール成分中に60モル%以上含有し、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合したものであり、
共重合ポリエステルには、結晶核剤を0.01~3質量%含有し、
該エラストマー繊維は、示差走査熱量測定によって測定される融解ピークから算出するΔHtmが20~40J/gであり、
エラストマー繊維の融点が、150℃を超え175℃以下であることを特徴とするポリエステル系エラストマー繊維。
【請求項2】
示差走査熱量測定によって測定される降温結晶化ピークから算出するΔHtccが15J/g以上であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系エラストマー繊維。
【請求項3】
示差走査熱量測定によって測定される降温結晶化温度が120~160℃であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系エラストマー繊維。
【請求項4】
単繊維繊度が1~3dtexであることを特徴とする請求項1項記載のポリエステル系エラストマー繊維。
【請求項5】
結晶核剤がポリエチレンであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系エラストマー繊維。
【請求項6】
請求項1~5記載のいずれか1項記載のポリエステル系エラストマー繊維を用いた不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系エラストマー繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、雑貨用,家具用や自動車シート用等に適用するための人工皮革や、医療用やコスメ用等の不織布などにおいて、柔軟性や良好な風合いが必要とされる不織布は、環境問題や取り扱い性向上の観点から、より緻密で軽量なものへの需要がたかまっている。このような不織布は、主として単繊維繊度や繊維径が小さい合成繊維(ポリエステル、ナイロン等)を使用した不織布にポリウレタン樹脂を含侵したり、または単繊維繊度や繊維径が小さい合成繊維とポリウレタン繊維を混綿して製造されている。
【0003】
しかしながら、ポリウレタンは下記の問題が挙げられる。
【0004】
(1)床つき感が大きく、透湿性に劣り、蓄熱性があるため蒸れやすい。
(2)リサイクルが困難であり、焼却処分における燃焼時の発生熱量が大きく、焼却炉の損傷が大きい。また燃焼時に含窒素系の有毒ガスが発生する。
(3)製造中に使用されるフロンガスの環境汚染問題がある。
【0005】
上記したポリウレタンの問題を解決する技術として、特定の共重合ポリエステルからなるポリエステル系エラストマー繊維について、本件出願人は提案している。(特許文献1)特許文献1によれば、ポリエステル系エラストマー繊維はポリヘキサメチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールとが共重合してなる共重合ポリエステルからなる繊維であって、共重合ポリエステルの融点が100℃~150℃であり、熱接着処理温度を低く設定することが可能であり、優れた柔軟性と弾性回復率を有する不織布やクッション等の繊維製品を低コストで得ることができるという効果を奏する。
【0006】
しかしながら、繊維を構成する樹脂の融点が100℃~150℃であり、融点が低いことによって、湿式スパンレース不織布などの熱接着工程前に乾燥工程を要する場合には適用しにくく、耐熱性が良好とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ポリウレタン代替用途として使用できる十分な柔軟性を有し、より緻密で、軽量な湿式不織布にも好適なポリエステル系エラストマー繊維であり、湿式不織布の材料として用いた際に水中分散性が良好であり、高い柔軟性と耐熱性、緻密性を有する高品位な湿式不織布が得ることが可能なポリエステル系エラストマー繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリテトラメチレングリコールを共重合してなる共重合ポリエステルからなるエラストマー繊維であって、
共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分はテレフタル酸とイソフタル酸を含み、テレフタル酸は全カルボン酸成分中に60モル%以上含有し、グリコール成分は1,4-ブタンジオールとエチレングリコールを含み、1,4-ブタンジオールは全グリコール成分中に60モル%以上含有し、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合したものであり、
共重合ポリエステルには、結晶核剤を0.01~3質量%含有し、
該エラストマー繊維は、示差走査熱量測定によって測定される融解ピークから算出するΔHtmが20~40J/gであり、
エラストマー繊維の融点が、150℃を超え175℃以下であることを特徴とするポリエステル系エラストマー繊維を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、繊維を構成するポリエステル系エラストマーが特定の組成であり、結晶核剤を含有し、かつ、融解ピークの熱量ΔHtmが特定の範囲であるため、結晶性に優れ、かつ柔軟性にも優れているため、良好な柔軟性、耐熱性を有する。また、紡糸工程、延伸工程、カッティング工程での単繊維同士が密着することなく、水中分散性が非常に良好であるため、繊度が小さく高アスペクト比の繊維と良好に混ざり合うことが可能となりため、より緻密に混ざり合うことにより、緻密で軽量な品位の高い湿式不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、ポリテトラメチレングリコールを共重合してなる共重合ポリエステルからなるエラストマー繊維である。
【0013】
ポリテトラメチレングリコールは、共重合ポリエステルにおいてソフトセグメントである。本発明におけるポリテトラメチレングリコール(以下、PTMGと記載することもある。)の平均分子量は500~5000であればよく、1000~2000が好ましい。平均分子量が500以上であることにより、十分な弾性特性を発揮し、得られる不織布等の繊維製品の柔軟性や風合いが良好となる。一方、3000以下であることにより、ソフトセグメントであるPTMG以外の箇所であるハードセグメントを形成するポリエステルとの相溶性を良好に維持し、均一な重合体を得ることできるため、繊維の力学特性が維持できる。
【0014】
共重合ポリエステルにおけるPTMGの含有割合は、5~50質量%であり、中でも10~45質量%が好ましく、さらには15~30質量%であることがより好ましい。PTMGの含有割合が5質量%未満であると、十分な弾性特性が得られず、得られる不織布等の繊維製品の柔軟性や風合いが不十分なものとなる。一方、50質量%を超えると、ハードセグメントと共重合しきれずに分離したものが発生し、ポリマーの溶融粘度が低くなる。
【0015】
共重合ポリエステルにおいて、PTMG以外の箇所であるハードセグメントは、ジカルボン酸成分はテレフタル酸とイソフタル酸、グリコール成分は1,4-ブタンジオールとエチレングリコールを含むポリエステルにより構成される。
【0016】
ハードセグメントであるポリエステルのジカルボン酸成分において、テレフタル酸(TPA)の含有割合は、全カルボン酸成分中に60モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%以上とすることにより、共重合ポリエステルの結晶性を向上させ、繊維製造工程における紡糸工程や延伸工程での単糸密着が発生しにくく、結晶性が向上した繊維となる。また、一方、ポリエステルのジカルボン酸成分において、TPAに加えて、イソフタル酸(IPA)を含有することにより、結晶性が向上した繊維において、硬くなり過ぎず、柔軟な風合いを付与することができる。TPAとIPAの混合比(モル%)は、TPA:IPAが60~90:40~10であることが好ましく、TPA:IPAが80~70:20~30であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、TPA、IPA以外のジカルボン酸成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、少量であれば共重合してもよい。例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。ジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0018】
ハードセグメントであるポリエステルのジオール成分において、1,4-ブタンジオール(BD)の含有割合は、全ジオール成分中に60モル%以上である。BDが60モル%以上とすることにより、共重合ポリエステルの結晶性を向上させ、繊維製造工程における紡糸工程や延伸工程での単糸密着が発生しにくく、結晶性が向上した繊維となる。また、一方、ポリエステルのジオール成分において、BDに加えて、エチレングリコール(EG)を含有することにより、結晶性が向上した繊維において、柔軟な風合いを付与することもでき、また、共重合ポリエステルの融点の調整にも寄与する。全ジオール成分中に、BDおよびEGが占めるモル比は、BDが75~90モル%、EGが5~10モル%であることが好ましい。なお、前記した好ましいBDおよびEGの合計モル比が100モル%とならないのは、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコールが、共重合成分中のジオール成分に属するものとするからである。
【0019】
本発明において、BD、EG以外のジオール成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、少量であれば共重合してもよい。例えば、1,6-ヘキサンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールが挙げられる。また、グリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0020】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、上記した組成の共重合ポリエステルにより構成されることにより、高い結晶性と柔軟性を有するとともに、さらに、上記した組成の共重合ポリエステルが結晶核剤を含むことにより、紡糸工程での降温時の結晶性、延伸工程での伸長の際の結晶性をよりいっそう向上させることができ、後述する特定の熱特性(示差走査計熱量測定によって算出される特性として、特定の融解ピークの熱量ΔHtm、融解温度、特定の結晶化ピークの熱量ΔHtcc、特定の降温結晶化温度)を備え、繊維間の密着が発生せず、水中分散性が非常に良好なものとなる。
【0021】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、繊維を構成する共重合ポリエステル中に、結晶核剤を0.01~3質量%含有するものであり、中でも0.1~1.0質量%含有することが好ましい。結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、本発明が目的とする結晶性を向上させることができず、繊維の水中分散性の悪化、紡糸工程や延伸工程での操業悪化が生じる。なお。結晶核剤の含有量が3質量%よりも多くなると、重合性や加工性が悪化し、繊維製造工程における紡糸、延伸工程にて、各ガイドやローラーとの摩擦によって単糸の融着が発生する等によって操業性が悪化する。
【0022】
結晶核剤としては、例えば、無機系微粒子、ポリオレフィンからなる有機化合物、硫酸塩等を使用することができ、中でもポリオレフィンからなる有機化合物が好ましい。
【0023】
結晶核剤としての含有させる無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m2/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。
【0024】
結晶核剤として含有させるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。また、ポリオレフィンは、どのような製造方法、触媒で得られたものであってもよく、例えば、従来のチーグラー・ナッタ型触媒により得られたポリオレフィンだけでなく、メタロセン触媒により得られたポリオレフィンも好適に使用できる。このようなポリオレフィンは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。結晶核剤として含有させるポリオレフィンの形状は、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0025】
結晶核剤として含有させる硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、示差走査熱量測定のDSC曲線より求めた融解ピークの熱量ΔHtmが20~40J/gである。示差走査熱量測定より求めた融解ピークの熱量ΔHtmは、繊維の結晶部が熱によって相変化を起こす際に発生する熱量であり、融解の熱量と結晶部の割合は相関関係となる。よって、この融解による吸熱ピークの熱量が大きいほど結晶部の割合が多い繊維といえる。
【0027】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、融解ピークの熱量ΔHtmが20~40J/gであることから、十分な結晶部を有し、繊維のカッティング工程においてもせん断の圧力が加わった際に単糸が融着や密着が発生しにくく、また、一見、目視では密着しているがごとき繊維塊となっていても、水中に入れると、1本1本の繊維がさっとバラバラに分散し、非常に水中分散性が良いものであり、他の繊維とも緻密に混合可能で、エラストマー繊維でありながら取り扱い性が非常に良好である。融解ピークの熱量ΔHtmが20J/gよりも小さい場合、繊維の結晶化が不十分となり、結晶化していない非晶部が多く存在することにより、各種の工程で摩擦による融着や密着が生じ、工程通過性が悪く、湿式不織布を得ようとした際の水中分散性が悪化し、他の繊維と緻密に混合することができず、本発明が目的とする緻密な不織布を得ることができない。一方、融解ピークの熱量ΔHtmが40J/gよりも大きい場合、繊維の結晶部の割合が多くなりすぎ、繊維の剛性が高く硬いものとなり、本発明が目的とする柔軟な繊維ではなくなる。また、このような結晶部が多くなる繊維は、そもそも、繊維の製造における延伸時に伸長しにくく、3デシテックス以下の細繊度の繊維が得にくいばかりか、延伸の際にかかる張力が高くなり延伸での糸切れが発生し操業性が悪化しやすい。
【0028】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、示差走査熱量測定より求めた融解ピークを示す融解温度(融点)が150℃を超え175℃以下である。融点が150℃を超え175℃以下であることにより、結晶性が高く耐熱性を備え、耐熱性を有する熱バインダー繊維としての機能も発揮し、繊維製品を製造する際の各種熱処理工程に耐えることができ、また高温下での使用も可能な繊維製品を得ることができる。
【0029】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、示差走査熱量測定のDSC曲線より求めた降温時の結晶化ピークの熱量ΔHtccが15J/g以上であることが好ましい。本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、前記したように、結晶性が進行して結晶性が高いため、示差走査熱量測定より求めた降温時の結晶化ピークの熱量ΔHtccもまた高い傾向にある。このように結晶化ピークの熱量ΔHtccが高い数値を示す本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、取り扱い性が良好で、繊維製品を得る際の操業性が良く、湿式不織布を得るにあたり水中への分散性が非常に良好である。なお、ΔHtccの上限は、25J/g程度がよい。
【0030】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、示差走査熱量測定より求めた降温時の結晶化温度が120~160℃が好ましい。本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、前記したように、結晶性が進行して結晶性が高いため、示差走査熱量測定より求めた降温時の結晶化温度もまた高い。すなわち、ポリエステル系エラストマー繊維を構成する共重合ポリエステルの原料段階における降温時の結晶化温度よりも、ポリエステル系エラストマー繊維の降温時の結晶化温度は、50~60℃程度高い温度を示すものとなっている。ポリエステル系エラストマー繊維の降温時の結晶化温度が120~160℃のものであると、単糸間の密着が発生しにくく、かつ目視で密着しているようであっても、水中に入れた際に、容易にバラバラに分散し、非常に水中分散性が良好で取り扱い性が良好な繊維となる。
【0031】
本発明におけるポリエステル系エラストマー繊維の融解ピークΔHtm、融点、降温結晶化ピークΔHtcc、降温結晶化温度は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-50℃~250℃、昇温速度20℃/分、降温速度10℃/分、試料量8.5mg(繊維の質量)で測定する。
【0032】
前記した特定の融解ピークの熱量、融点、降温結晶化ピークの熱量、降温結晶化温度を有するポリエステル系エラストマー繊維は、繊維を構成する共重合ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、特定量の結晶核剤を含有させることにより得ることができる。
【0033】
また、本発明のポリエステル系エラストマー繊維を得る際に、繊維の結晶性を向上させるためには、溶融紡糸後の冷却において、徐冷により行うとよい。溶融紡糸後の徐冷による冷却は、紡糸温度や冷却位置、冷却風の温度、冷却風の風量などを調整することがあげられる。本発明においては、少なくとも冷却位置と冷却風の温度を特定の範囲とするとよい。一般に、ポリエステル繊維の紡糸工程では、溶融紡糸した糸条は、溶融紡糸のノズル直下にて冷却風をあてて冷却すること(紡糸ノズル直下での急冷)が行われており、例えば、ポリエステル繊維を溶融紡糸するにあたっては、紡糸ノズル直下(ノズル下より25mm以内)にて35~38℃程度の冷却風をあてている。しかしながら、本発明においては、溶融紡糸ノズル直下ではなく、溶融紡糸ノズル下から30~60mmの領域にて冷却風をあてる徐冷方式を採用し、冷却風の設定温度を10~30℃の範囲の温度とする。これによって、ポリエルテル系エラストマー繊維の結晶性が向上させし、得られる繊維の融解ピークの熱量Htmと降温結晶化ピークの熱量ΔHtccを大きくさせ、前記範囲の熱特性を有するものを得ることができる。原料となる共重合ポリエステルの融点や降温結晶化温度によって多少条件設定を変更できるが、上記記載の冷却位置・冷却風設定温度により徐冷することによって、繊維の結晶性を向上させることができる。
【0034】
また、溶融紡糸により得られた未延伸糸を延伸する延伸工程においては、延伸温度を(ガラス転移温度+60)℃以下の設定温度で延伸を実施することで、繊維の結晶部の割合をより多くすることができる。(ガラス転移温度+60)℃よりも高い温度で延伸を実施すると、分子鎖が流動しやくなり、繊維の結晶構造が形成しにくくなる。
【0035】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有してもよい。ヒンダードフェノール系酸価防止剤を含有する場合、0.1~2.0質量%含有することが好ましく、中でも0.2~1.0質量%含有することが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%未満では繊維の熱安定性が十分に向上せず、長期経過すると、極限粘度の低下や成形後の色調悪化が起こりやすくなる。一方、含有量が2.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下や繊維の色調・透明性が悪化しやすくなる。なお、含有させる方法としては、繊維を構成する共重合ポリエステルに含ませるとよい。
【0036】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、熱安定性の向上効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、リン系酸化防止剤を含有してもよく、含有させる場合の含有量は0.05~1.0質量%が好ましく、中でも0.07~0.7質量%がより好ましい。前記したヒンダードフェノール系酸化防止剤とともにリン系酸化防止剤を用いると、ポリエステル系エラストマー繊維の熱安定性をより向上させることができ好ましい。リン系酸化防止剤の含有量が樹脂組成物の0.05質量%未満であると、熱安定性の向上効果に得にくく、含有量が1.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下や色調悪化の原因となりやすい。なお、含有させる方法としては、繊維を構成する共重合ポリエステルに含ませるとよい。
【0038】
リン系酸化防止剤の例としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスルトール-ジホスファイト、ビス(3-メチル-1,5-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジフェニルホスファイトなどのホスファイト系抗酸化剤とジエチル〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムなどのホスホン酸エステル系酸化防止剤が挙げられる。
【0039】
上記した酸化防止剤を共重合ポリエステルに含有させる方法としては、粒子状態でポリエステルの重合段階や紡糸段階で添加する方法や、ポリエステル中への高濃度添加によってマスターチップ化した後に他のポリエステルとチップブレンドする方法や、各々計量した後に溶融ブレンドする方法等を挙げることができる。
【0040】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、滑剤粒子を含有していることが好ましい。滑剤粒子を含有させることにより、繊維製造工程において、ガイド類と接触した際に摩擦抵抗が小さくなり、操業性が向上する。含有させることができる滑剤粒子としては、ポリエステルに対して不活性であることが好ましく、例えば、二酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、カオリンなどが好ましく、平滑性と粒子の粒度分布の観点から、中でもシリカを用いることが好ましい。
【0041】
含有させる場合の滑剤粒子の含有量は、0.1~3wt%が好ましく、中でも0.1~2wt%が好ましい。滑剤粒子の含有量が0.1wt%以上とすることにより、滑剤粒子の効果を十分に発揮させることができ、3wt%以下とすることにより、滑剤粒子の含有量が多くなりすぎず、操業性が良好である。
【0042】
また、本発明のポリエステル系エラストマー繊維には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0043】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、上記した特定の構成成分からなる共重合ポリエステルによって構成されるが、この共重合ポリエステルのみからなる単相形態の繊維であっても、また、この共重合ポリエステルと他の熱可塑性樹脂とが複合してなる複合形態の繊維であってもよい。複合形態の繊維の場合には、この特定の構成成分からなる共重合ポリエステルが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合形態を採用するとよい。また、複合する他の熱可塑性樹脂は、共重合ポリエステルと同程度若しくはそれ以下の融点または流動開始温度を有するものを採用するとよく、その理由は、熱処理により溶融させて、全融するタイプの繊維とするためである。なお、繊維としての柔軟性や弾性を考慮すると、共重合ポリエステルのみからなる単相形態の繊維であることが好ましい。
【0044】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維においては、本発明のポリエステル系エラストマー繊維を用いた織編物や不織布等の繊維製品において、ポリエステル系エラストマー繊維を構成する共重合ポリエステルを熱処理により溶融させることにより、繊維製品に柔軟性や弾性性能を付与することができる。また、本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、熱処理により溶融し熱接着成分として機能させることもでき、バインダー繊維として用いることができる。
【0045】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維の単繊維繊度は、1~3dtexの範囲が好ましい。繊度を1~3dtexの範囲とすることにより、柔軟性が求められる不織布用途において、好適に使用できる。繊度が1dtex以上とすることにより、繊維の実用強力を維持でき、また、繊維製造工程における紡糸工程や延伸工程において、繊維破断が生じにくく、操業性よく製造できる。一方、繊度が3dtex以下とすることによって、単位質量あたりの繊維本数を多くすることができ、他の繊維と混合して不織布等の繊維製品を得る場合に、他の繊維と緻密で均一に混合・分散し、得られる不織布等の繊維製品において柔軟性や強度が均一で良好なものが得られる。なお、単繊維繊度は、本発明のポリエステル系エラストマー繊維を得るにあたっての溶融紡糸工程での吐出量や紡速、延伸倍率などの条件を適宜調整することで、所望の繊度を調整して得ることができる。
【0046】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維の強度は3.0~4.5cN/dtexの範囲が好ましい。本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、結晶化が進行しているため、繊維の強度が3.0~4.5cN/dtexとなり、繊維としての十分な強度を有するため、延伸工程やカッティング工程での摩擦や圧力が加わった際に、繊維が破断せず良好な操業性となる。実用強度が十分に備わらない場合には、延伸工程やカッティング工程で繊維が破断し、破断した欠点が、カットした繊維中に混入するため、このような繊維群を用いて湿式不織布を得ようとすると、欠点の存在によって、水中分散性が劣る恐れがある。繊維強度が大きすぎると、延伸での伸長の際に過大な張力を要することとなり、延伸できない場合がある。
【0047】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維を短繊維として適用する場合の繊維長は、3~60mmの範囲が好ましい。中でも、湿式不織布に適用する場合には、3~20mmのショートカット繊維であることが好ましい。繊維長が3mm以上とすることにより、切断時の熱や圧力によって繊維の融着や膠着が生じにくく、取り扱いやすく、また、繊維長が50mm以下とすることにより、繊維のアスペクト比が大きくなりすぎず、繊維を水中に分散させたときに繊維同士が絡まることなく、良好な水中分散性を発揮する。
【0048】
次に、本発明のポリエステル系エラストマー繊維の製造方法について、一例を挙げて説明する。
【0049】
前記した特定の組成の共重合ポリエステルを、スクリュー式押出機等を装備した紡糸設備で溶融紡糸し、糸条を冷却・固化し、700~1500m/分の速度で引き取る。なお、溶融紡糸によりノズルより吐出した糸条の冷却については、上記したように徐冷により行うとよい。
【0050】
得られた糸条を集束して糸条束とした後、ローラー間で延伸するが、この際の延伸倍率は自然延伸倍率(NDR)以上で延伸する。延伸倍率は、供給ローラーと引き取りローラーとの速度比(引き取りローラーの速度を供給ローラーの速度で除した値)であるが、延伸倍率は1.00~4.00以下とするのがよい。また、供給ローラーと引き取りローラーのいずれも非加熱ローラーを用いることが好ましい。そして、延伸を施した糸条束に油剤を付与し、ロータリー式カッターに供給し、所望の繊維長に切断し、短繊維を得る。
【0051】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維を構成繊維とする湿式不織布等の不織布を得る場合、本発明の繊維のみでもよいが、他の繊維と混用して、繊維製品としてもよい。本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、混合・分散性に優れるため、他の繊維を混用した際に、緻密でかつ均一に混合することができ、品位に優れた不織布を得ることができる。特に、本発明のポリエステル系エラストマー繊維は、水中分散性に優れるため、品位が高く、均質な機械的特性を備え、柔軟性に優れる湿式不織布を得ることができる。よって、混用する他の繊維が、単繊維繊度1デシテックス以下の極細繊維であってアスペクト比が大きいものであっても、本発明のエラストマー繊維は、混用・混合する極細繊維に斑なく均一に混ざり合うことができるため、非常に均一で緻密な湿式不織布等の繊維製品を得ることができる。
【0052】
本発明のポリエステル系エラストマー繊維を使用して得られる不織布の目付は、特に限定するものではない。
【0053】
本発明の繊維を用いて不織布を得る際の不織布化の手段としては、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、エアレイド法、スパンレース法、湿式抄造法等が挙げられる。本発明の繊維をバインダー繊維として用いる場合にも、前記した不織布化手段にて、不織布を得た後に熱処理を施して、もしくは、不織布化手段と併用して、本発明の繊維を構成する共重合ポリエステルを溶融させて、繊維同士が熱接着によって一体化するとよい。なお、本発明の繊維を溶融させる場合には、他の繊維として、本発明の繊維を構成する共重合ポリエステルの融点よりも高い融点を有するポリエステル繊維等を主体繊維として混用するとよい。
【0054】
不織布化手段として、湿式抄造法により湿式不織布を得る方法について、一例を挙げて説明する。本発明のポリエステル系エラストマー繊維と他の繊維とを混合して湿式不織布を得る例であり、混合する際、本発明のポリエステル系エラストマー繊維と他の繊維の割合は不織布の要求特性に応じて敵宣選択すればよく、本発明のポリエステル系エラストマー繊維の割合は、10~90質量%程度が好ましい。これらの両繊維(構成繊維となる繊維)を、パルプ離解機を用いて攪拌、解繊工程を行った後、抄紙機にて湿式ウエブを作製する。得られたウエブを熱風処理がなされる連続熱処理機にて、本発明のポリエステル系エラストマー繊維を構成するポリエステル樹脂が融解または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化させて、溶融した共重合ポリエステル(エラストマー樹脂)が含侵されてなるごとき、柔軟な湿式不織シートが得られる。また、連続熱処理機において、熱処理温度を、共重合ポリエステルが溶融または軟化する温度ではなく、含有する水分を除去・乾燥する程度の温度に設定し、柔軟性を有する湿式不織布を得ることもできる。
【実施例0055】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(1)融点、降温結晶化温度、ΔHtm、ΔHtcc
ポリエステル系エラストマー繊維の融点、降温結晶化温度、融解ピークから算出するΔHtm、結晶化ピークから算出するΔHtccは、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-50℃~280℃、昇温速度20℃/分、降温速度10℃/分、試料量8.5mg(繊維の質量)で測定した。ΔHは、DSC曲線における融解または降温結晶化を示すピークとベースラインの熱量差(mJ)を試料量(mg)で割った値とした。融点や降温結晶化温度はDSC曲線の極値を与える温度を融点または降温結晶化温度とした。
(2)各共重合組成量
ポリエステル系エラストマー繊維を重水素化トリフルオロ酢酸と重水素化クロロホルムとの容量比1/11の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製ECZ―400R型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(3)繊維繊度
試料を20mmの長さに切断すること、繊維を100本取り出し、質量を測定すること、測定回数を4回とした以外は、JIS L1015 8.5.1 A法に準じて測定した。
(4)繊維強度
JIS-L-1015 8.7の方法により、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分で測定した。
(5)紡糸性
未延伸糸を得る際の、溶融紡糸時の糸切れの状況を24時間連続して溶融紡糸を行った際の1トンあたりの糸切れ回数により、以下のように3段階で評価した。
○・・糸切れ回数が0~1回/トンであった。
△・・糸切れ回数が1~2回/トンであった。
×・・糸切れ回数が2回/トン以上であった。
(6)繊維の水中分散性
2000cm3のビーカーに30℃の水1kgを秤取し、そこへ繊維5.0gを投入し、DCスターラー(攪拌ペラは3枚スクリュー型で直径は約50mm)を用いて回転数400rpm、攪拌時間2分間の条件で攪拌し、攪拌1回後の分散状態を下記の評価基準で、目視にて判断した。なお、○~△であれば合格とした。
評価 結束繊維の数
○: 0個
△: 1~5個
×: 5個以上
(7)不織布の地合
得られた不織布の地合を目視により以下の3段階で評価した。
○:構成繊維の分布が均一であり、斑が非常に少ない
△:構成繊維の分布がやや不均一であり、斑がやや目立つ
×:構成繊維の分布が非常に不均一であり、斑が目立つ。
【0056】
実施例1
ハードセグメントがテレフタル酸を75モル%、イソフタル酸25モル%、1,4-ブタンジオールを89モル%、エチレングリコール6モル%からなるポリエステルと、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)とがブロック共重合してなるの共重合ポリエステル(融点168℃、降温結晶化ピーク温度79℃)であって、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールの含有量が18wt%であり、共重合ポリエステル中に結晶核剤としてのポリエチレンを1.0wt%含有するものを原料として、溶融紡糸を行った。なお、グリコール成分において、1,4-ブタンジオールとエチレングリコールとの合計モル%が100になっていないのは、ポリテトラメチレングリコールがグリコール成分に属しており、ポリテトラメチレングリコールのモル比を記載していないためである。
【0057】
溶融紡糸条件としては、円形紡糸孔を1040個有する紡糸口金を用いて、紡糸温度210℃、引取速度600m/分、吐出量210g/分にて溶融紡糸し、紡糸ノズル下より50mmの位置に、設定温度15℃の冷風をあてて徐冷却し、未延伸の糸条を得た。
【0058】
得られた未延伸糸を集束して延伸倍率2.7倍、延伸温度25℃で延伸を行い、仕上げ油剤を付与した後、トウの水分率が約18質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断して単糸繊度1.8dtexのポリエステル系エラストマー繊維を得た。
【0059】
次に、得られたポリエステル系エラストマー繊維と、主体繊維として単繊維繊度が0.6dtex、長さが5mmのポリエチレンテレフタレートショートカット繊維(ユニチカ社製<521>0.6T5)とを用い、ポリエステル系エラストマー繊維/主体繊維(質量比)=30/70として水中へ分散させ、円網抄紙機にて抄造ウエブを得た。抄造ウエブを得た後、190℃のヤンキー式ドライヤーで乾燥熱処理(2分間)を施してから余剰水分を除去して、目付け25g/m2の湿式不織布を得た。
【0060】
実施例2
原料の共重合ポリエステルとして、ハードセグメントがテレフタル酸を75モル%、イソフタル酸25モル%、1,4-ブタンジオールを84モル%、エチレングリコール7モル%からなるポリエステルと、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)とがブロック共重合してなるの共重合ポリエステル(融点160℃、降温結晶化ピーク温度75℃)であって、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールの含有量が32wt%であり、共重合ポリエステル中に結晶核剤としてのポリエチレンを1.0wt%含有するものを原料としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル系エラストマー繊維と湿式不織布を得た。
【0061】
実施例3
原料の共重合ポリエステルとして、ハードセグメントがテレフタル酸を75モル%、イソフタル酸25モル%、1,4-ブタンジオールを79モル%、エチレングリコール7モル%からなるポリエステルと、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)とがブロック共重合してなるの共重合ポリエステル(融点150℃、降温結晶化ピーク温度72℃)であって、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールの含有量が40wt%であり、共重合ポリエステル中に結晶核剤としてのポリエチレンを1.0wt%含有するものを原料としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル系エラストマー繊維と湿式不織布を得た。
【0062】
実施例4
原料の共重合ポリエステルとして、ハードセグメントがテレフタル酸を75モル%、イソフタル酸25モル%、1,4-ブタンジオールを84モル%、エチレングリコール7モル%からなるポリエステルと、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)とがブロック共重合してなるの共重合ポリエステル(融点160℃、降温結晶化ピーク温度75℃)であって、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールの含有量が32wt%であり、共重合ポリエステル中に結晶核剤としてのポリエチレンを1.0wt%含有するものを原料としたこと、紡糸工程で紡糸ノズル下より25mmの位置に設定温度35℃の冷風をあて、ほぼ紡糸ノズル直下で急冷したこと、延伸工程での延伸温度を50℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル系エラストマー繊維と湿式不織布を得た。
【0063】
比較例1
原料の共重合ポリエステルとして、ハードセグメントがテレフタル酸を75モル%、イソフタル酸25モル%、1,4-ブタンジオールを79モル%、エチレングリコール7モル%からなるポリエステルと、ソフトセグメントであるポリテトラメチレングリコール(平均分子量1000)とがブロック共重合してなるの共重合ポリエステル(融点150℃、降温結晶化ピーク温度72℃)であって、共重合ポリエステル中にポリテトラメチレングリコールの含有量が40wt%であり、共重合ポリエステル中に結晶核剤は含まれないものを原料としたこと、紡糸工程で紡糸ノズル下より25mmの位置に設定温度35℃の冷風をあて、ほぼ紡糸ノズル直下で急冷したこと、延伸工程での延伸温度を50℃に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル系エラストマー繊維と湿式不織布を得た。
【0064】
【0065】
得られた繊維および不織布の評価結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1~実施例4のポリエステル系エラストマー繊維は、紡糸操業性が良好であり、また繊維の密着や溶着がほぼなく、目視で密着しているようであっても、手で軽く触るとバラバラと解かれるものであり、取り扱い性が良好で、また、繊維の水中分散性に非常に優れ、また得られた湿式不織布の地合い、柔軟性は非常に良好で、緻密で均一性に優れたものあった。特に実施例1の繊維は、水中分散性に極めて優れたものであった。
【0066】
比較例1は、結晶核剤が添加されていないものであり、繊維の結晶性が低く、融解ピークの熱量ΔHtmも低いものであり、紡糸操業性に劣り、また、繊維同士が密着し、水中での分散性が悪く、繊維塊が存在し、得られる湿式不織布の地合いが悪かった。