(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088497
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造方法並びに該製造時における廃液の再生方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/158 20060101AFI20240625BHJP
C01B 33/16 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C01B33/158
C01B33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203708
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 敬之
(72)【発明者】
【氏名】夛田 亮佑
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072CC08
4G072GG01
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH29
4G072HH30
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4G072KK03
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4G072MM01
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4G072PP05
4G072PP06
4G072PP14
4G072PP15
4G072QQ13
4G072RR05
4G072RR12
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】 エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造において発生する廃液を該製造に再利用し得る技術を提供することを課題とする。
【解決手段】 エアロゲル又はエアロゲル複合体の製造工程にて使用された処理液の廃液の再生方法であって、該廃液に酸を添加することにより、該廃液中に含まれる塩基と該酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゲル又はエアロゲル複合体の製造方法において、
前記製造方法における所定工程にて使用された処理液を廃液として回収する廃液回収工程と、
前記廃液回収工程で回収した前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程と、
前記塩基除去工程後の液を、前記製造方法におけるいずれかの工程での処理液として再利用する再利用工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記製造方法が、
ゾル溶液をゲル化して湿潤ゲルを調製するか、又は、多孔質基材に充填されたゾル溶液をゲル化して湿潤ゲル複合体を調製する、ゲル調製工程と、
前記ゲル調製工程後、前記湿潤ゲル又は前記湿潤ゲル複合体中の水分を除去する水分除去工程と、
前記水分除去工程後、前記湿潤ゲル又は前記湿潤ゲル複合体を疎水化処理液で疎水化する疎水化工程と、
前記疎水化工程後、前記湿潤ゲル又は前記湿潤ゲル複合体を洗浄液で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程後、前記湿潤ゲルを乾燥し、エアロゲル又はエアロゲル複合体を調製する乾燥工程と
を有し、
前記所定工程での前記処理液が、前記洗浄工程での前記洗浄液である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
エアロゲル又はエアロゲル複合体の製造工程にて使用された処理液の廃液の再生方法であって、
前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程を含むことを特徴とする廃液の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造方法並びに該製造時における廃液の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲル及びエアロゲル複合体は、湿潤ゲルを乾燥することで製造される。ここで、エアロゲル及びエアロゲル複合体は、例えば、ゲル化処理、溶媒置換処理、疎水化処理、超臨界乾燥処理と、多段階の処理を経て製造される。これら多段階処理の内、ゲル化処理においては、塩基性触媒が使用されることがある。また、疎水化処理は、ゲルの表面に存在する水酸基同士が乾燥時に脱水縮合し収縮することを抑制する目的で、シリル化剤や機能性シランで該水酸基を疎水化させる工程である。この疎水化処理において、疎水化剤として例えばジシラザンを使用する場合、アンモニアが発生する。このように、これら工程をはじめとして、塩基がエアロゲル及びエアロゲル複合体内に残存し得る状態の場合、エアロゲル及びエアロゲル複合体内の物性低下の要因になるだけでなく、超臨界乾燥時の二酸化炭素と塩を生成し、乾燥時の配管詰まりの原因となる。したがって、乾燥処理に先立ち、塩基を除去するためには溶媒による複数回の洗浄が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この際、洗浄液(溶媒)による、塩基が存在し得るエアロゲル及びエアロゲル複合体の複数回洗浄の後、溶媒(廃液)は廃棄される。そこで、本発明は、エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造において発生する廃液を、例えば該製造に再利用し得る技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エアロゲル又はエアロゲル複合体の製造方法において、前記製造方法における所定工程にて使用された処理液を廃液として回収する廃液回収工程と、前記廃液回収工程で回収した前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程と、前記塩基除去工程後の液を、前記製造方法におけるいずれかの工程での処理液として再利用する再利用工程とを含むことを特徴とする製造方法である。
【0006】
また、本発明は、エアロゲル又はエアロゲル複合体の製造工程にて使用された処理液の廃液の再生方法であって、前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程を含むことを特徴とする廃液の再生方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造において発生する廃液を、例えば該製造時のいずれかの工程において再利用する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本形態に係るエアロゲル又はエアロゲル複合体の製造方法は、前記製造方法における所定工程にて使用された処理液を廃液として回収する廃液回収工程と;前記廃液回収工程で回収した前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程と;前記塩基除去工程後の液を、前記製造方法におけるいずれかの工程での処理液として再利用する再利用工程と;を含む。
【0009】
特に、本形態の一例に係るエアロゲル又はエアロゲル複合体の製造方法は、ゾル溶液をゲル化して湿潤ゲルを調製するか、又は多孔質基材に充填されたゾル溶液をゲル化して湿潤ゲル複合体を調製する、ゲル調製工程と;前記ゲル調製工程後、前記湿潤ゲルを疎水化処理液で疎水化する疎水化工程と;前記疎水化工程後、前記湿潤ゲルを洗浄液で洗浄する洗浄工程と;前記洗浄工程後、前記湿潤ゲルを乾燥し、エアロゲルを調製する乾燥工程と;を有する。
【0010】
以下、上述した各工程を詳述する。ここで、本明細書及び本特許請求の範囲における各用語の意義を説明する。「エアロゲル」は、湿潤ゲルを乾燥することにより得られた乾燥ゲルを意味する。例えば、超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲル(狭義のエアロゲル)、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲル(キセロゲル)、凍結乾燥により得られた乾燥ゲル(クライオゲル)を挙げることができる。また、基本骨格も特に限定されず、例えば、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲル、ポリマーエアロゲルを挙げることができる。「エアロゲル複合体」は、エアロゲルと他の材質(例えば、多孔質樹脂基体)とを含む複合体である。エアロゲル複合体は、一体化されたひとつの物質として取り扱うことができる状態であることが好適である。例えば、他の材質が有する官能基とエアロゲル表面の官能基との化学的相互作用による結合、他の材質とエアロゲルとの分子間相互作用による結合によりエアロゲルが他の材質を包んでいる状態や付着している状態(例えば、エアロゲルが多孔質樹脂基体に充填されている状態)を挙げることができる。以下、エアロゲル及びエアロゲル複合体の製造方法として、シリカエアロゲル及びシリカアエロゲル複合体の製造方法を例に採り、本発明を詳述する。但し、本発明は、以下の例には何ら限定されない。
【0011】
≪シリカエアロゲルの製造方法≫
本形態の一例であるシリカエアロゲルの製造方法は、ゾル溶液を調製するゾル調製工程;前記ゾル溶液をゲル化して湿潤ゲルを調製するゲル調製工程;前記ゲル調製工程後、例えば、前記湿潤ゲル中の水分を非水溶媒に置換する溶媒置換工程(水分除去工程);前記溶媒置換工程後、前記湿潤ゲルを疎水化処理液で疎水化する疎水化工程;前記疎水化工程後、前記湿潤ゲルを洗浄液で洗浄する洗浄工程;前記洗浄工程後、湿潤ゲルを乾燥し、エアロゲルを調製する乾燥工程;を有する。以下、各工程を順に説明する。
【0012】
<ゾル調製工程>
ゾル調製工程は、所定の溶媒中にシリカ原料(主剤)を含む各種原料を添加し、撹拌して混合することにより、ゾル溶液を調製する工程である。以下、各原料を詳述する。
【0013】
(主剤)
主剤は、シリカエアロゲルの原料となる成分であれば特に限定されず、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩やアルコキシシランを挙げることができる。以下、これら成分を詳述する。
【0014】
ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。例えば、ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2・mH2Oの分子式で表される。係数nはSiO2・Na2Oのモル比であり、係数mはNa2Oに対するH2Oのモル比であり、SiO2及びNa2O成分の重量比とモル比の関係は次の式1で示される。
(式1) モル比=(a/b)×1.032
【0015】
ここで、aは、SiO2の質量、bは、Na2Oの質量である。また、定数である1.032は、SiO2の分子量とNa2Oとの分子量の比である。一般に、製造されているケイ酸ナトリウムのモル比(n値)は、0.5~5.0である。ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2の構造であればよく、n値は、特に限定されない。したがって、ケイ酸ナトリウムのn値は、一般に製造されていない0.5~5.0の範囲外のものでもよいが、入手が容易であるため、0.5~5.0が好ましい。ケイ酸ナトリウムは、例えば、他の原料と混合する前に水に溶解させ、ケイ酸ナトリウム水溶液として用いることができる。その場合に、n値が、1未満の場合には結晶性であり、水への溶解性が容易ではないため、水への溶解が容易である1.0~5.0がより好ましい。
【0016】
また、アルコキシシランとしては、特に限定されるものではなく、2官能、3官能又は4官能のアルコキシシランを単独で又は複数種を混合して用いることができる。2官能アルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン等が挙げられる。3官能アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。4官能アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。また、アルコキシシランとして、ビストリメチルシリルメタン、ビストリメチルシリルエタン、ビストリメチルシリルヘキサン、ビニルトリメトキシシラン等を用いることもできる。また、アルコキシシランの部分加水分解物を原料として用いてもよい。
【0017】
(溶媒)
溶媒としては、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール等)、非プロトン性極性有機溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭化水素(n-ヘキサン、ヘプタン等)、含フッ素溶媒(2H,3H-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン等)及びこれらの混合物等が挙げられる。ここで、主剤としてアルコキシシランを用いる場合、アルコキシシランの加水分解と縮重合は、水の存在下で行うことが好ましく、更に水との相溶性を有し、且つアルコキシシランを溶解する有機溶媒と水との混合液を用いて行うことが好ましい(加水分解工程と縮重合工程を連続して行うことが可能となる)。ここで、水との相溶性を有し且つアルコキシシランを溶解する溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等のアルコールや、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0018】
(界面活性剤)
主剤以外の各種原料として、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、後述するゲル調製工程において、エアロゲルを構成するバルク部と気孔部とを形成することに寄与する。ここで、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤(例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤)等を例示することができる。
【0019】
<ゲル調製工程>
ゲル調製工程は、上述したゾル調製工程において得られたゾル溶液に触媒を添加し、湿潤ゲルを得る工程である。ここで、触媒の内、塩基性触媒の具体例としては、アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化テトラアルキルアンモニウム類;トリメチルアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ類;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;及びアルカリ金属ケイ酸塩、等が挙げられる。また、酸性触媒としては、例えば、塩酸、クエン酸、硝酸、硫酸、フッ化アンモニウム等が挙げられる。これらの内、金属元素の混入がなく、水洗操作が不要である点で、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウム類、又はアミン類を用いることが好ましく、特にアンモニアが好ましい。但し、触媒を使用することは必須ではなく、例えば高温に加熱する手法により加水分解や縮重合を実施してもよい。また、ゾル調製工程において触媒を添加しておいてもよい(この場合、ゾル調製工程からゲル調製工程に推移していくので、両者を合わせて「ゾル調製工程・ゲル調製工程」と称してもよい)。
【0020】
尚、ゲル調製工程は、球状のエアロゲルを調製すべく、W/O型エマルションを形成させるステップを含んでいてもよい。具体的には、該工程は、水性ゾル溶液を疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成するステップである。即ち、水性ゾル溶液を分散質とし疎水性溶媒を分散媒として、エマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、分散質であるゾル溶液は、表面張力等により球状になる。この状態で、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているゾル溶液をゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。ここで、W/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。
【0021】
<溶媒置換工程>
溶媒置換工程は、 溶媒置換工程後(又は疎水化工程後)に行われる乾燥工程におけるゲル(湿潤ゲル)の収縮を抑えるため、ゲルの表面及び内部の水(又は水と有機溶剤)を非水溶媒と置換する工程である。ここで、非水溶媒は、水以外の溶媒であり、例えば、好ましくは極性溶媒であり、更に好ましくは水と相溶性を示す溶媒である。具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、メチルノナフルオロブチルエーテル等のフッ素系溶媒等を挙げることができる。非水溶媒としては、単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0022】
ここで、溶媒置換工程の実施回数は、一回でも複数回でもよい。環境負荷や作業性、コスト削減等の観点から、溶媒置換回数は一回が好適である。尚、溶媒置換を複数回実施する場合、ある回での溶媒と別の回での溶媒とで異なったものを用いてもよい。例えば、乾燥工程直前に用いる溶媒として、20℃における表面張力が45mN/m以下の有機溶剤を用いてもよい。例えば、このような有機溶剤として、ジメチルスルホキシド(43.5mN/m)、シクロヘキサン(25.2mN/m)、イソプロパノール(21mN/m)、ヘプタン(20.2mN/m)、ペンタン(15.5mN/m)、エタノール(22.4mN/m)、メタノール(22.6mN/m)、パーフルオロヘキサン(12mN/m)、パーフルオロオクタン(15mN/m)、メチルノナフルオロブチルエーテル(13.6mN/m)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。また、一回当たりの溶媒置換工程に使用される溶媒の量は、例えば、ゲル(湿潤ゲル)の容量に対し、例えば、2倍以上100倍以下の量である。加えて、溶剤置換の方法としては、全置換、部分置換、循環置換のいずれの方法であってもよい。
【0023】
ここで、本形態においては、前記一回又は複数回のいずれか又はすべてにおいて、脱水剤を使用する。ここで、脱水剤は、溶媒から水を脱水可能である限り特に限定されず、例えば、脱水剤は、該脱水剤の乾燥質量1g当たり、0.01g以上、0.05g以上、0.1g以上、0.15g以上、0.2g以上の水を吸水可能な成分である(上限値は、何ら限定されず、例えば、1000g以下、100g以下、50g以下、10g以下、5g以下、2g以下、1g以下)。脱水剤としては、前記湿潤ゲルに含まれる水分を化学的又は物理的に脱水可能な物質、より具体的な例としては、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、脱水完了後、系中より分離しやすい(取り出しが容易)、再利用しやすい(加熱処理すれば再生可能)、ゲルの物性に影響しない、との理由から、ゼオライトが特に好適である。
【0024】
ここで、有効直径が1nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが好適であり、有効直径が0.5nm未満の分子を吸着可能なゼオライトがより好適であり、有効直径が0.4nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが更に好適であり、有効直径が0.3nm未満の分子を吸着可能なゼオライトが最も好適である。
【0025】
加えて、脱水剤の形状は、特に限定されず、例えば、パウダー状、ペレット状、球状、カートリッジ状を挙げることができる。
【0026】
また、脱水剤の使用量(乾燥質量)は、ゲル中に含まれている水分量(質量)を基準として、5倍以上、7.5倍以上、10倍以上、12.5倍以上、15倍以上、17.5倍以上、20倍以上、22.5倍以上、25倍以上、27.5倍以上、30倍以上、32.5倍以上、35倍以上、37.5倍以上、40倍以上、42.5倍以上、45倍以上、47.5倍以上、50倍以上であることが好適である。尚、上限は、特に限定されず、例えば、1000倍以下、500倍以下、100倍以下である。
【0027】
尚、溶媒置換工程にて使用された脱水剤の内、加熱等で乾燥させることで再生するものもある。このような脱水剤については、再生後に再利用することが好適である。同様に、溶媒置換工程にて使用された非水溶媒も再利用することが好適である。
【0028】
<疎水化工程>
本形態に係るシリカエアロゲルの製造方法は、疎水化工程を有する。ここで、疎水化工程は、ゲルの内壁に存在する水酸基同士が乾燥時に脱水縮合して収縮することを防止すべく、シリカエアロゲル表面のOH基を疎水化する工程である。したがって、シラノール基に対して反応する官能基と疎水基を有するものを用いることが好適である。シラノール基に対して反応する官能基としては、例えば、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、アルコキシル基、及び水酸基が挙げられる。疎水基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、及びそれらのフッ化物等が挙げられる。疎水化処理剤は、上記官能基及び疎水基を、それぞれ1種のみを有してもよいし、2種以上を有してもよい。例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン等の有機シラン化合物が挙げられ、これら以外にも、酢酸、蟻酸、コハク酸等のカルボン酸や、メチルクロリド等のハロゲン化アルキル等の有機化合物が挙げられる。疎水化処理剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0029】
<洗浄工程>
本形態に係るシリカエアロゲルの製造方法は、湿潤ゲル中の、例えば水や未反応物や副生成物や触媒等(例えば、未反応の疎水化処理剤や疎水化反応の副生成物であるアンモニア等)を除去する、一又は複数回の洗浄工程を有する。この工程で用いられる溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコールやアセトン、アセトニトリル等が挙げられる。該工程は、湿潤ゲルを前記溶媒に浸漬する操作である(工程の度、数回溶媒を新しいものに入れ替えることが好適)。
【0030】
<乾燥工程>
本形態に係るシリカエアロゲルの製造方法は、湿潤ゲルを乾燥させる乾燥工程を含む。ここで、乾燥の手法としては特に制限されず、超臨界乾燥法、常圧乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。これらの内、超臨界流体乾燥が特に好適である。超臨界流体乾燥手法としては、例えば、80℃、20MPa程度の条件で溶媒の全部を、この溶媒より臨界点の低い二酸化炭素に置換しながら除去する手法が例示できる。
【0031】
ここで、前述した通り、本形態に係るエアロゲルの製造方法は、前記製造方法における所定工程にて使用された処理液を廃液として回収する廃液回収工程と;前記廃液回収工程で回収した前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程と;前記塩基除去工程後の液を、前記製造方法におけるいずれかの工程での処理液として再利用する再利用工程と;を含む。別の観点からは、本形態に係るエアロゲルの製造工程にて使用された処理液の廃液の再生方法は、前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、前記塩を除去する塩基除去工程を含む。以下、各工程を詳述する。
【0032】
<廃液回収工程>
本形態に係るエアロゲルの製造方法は、前記製造方法における所定工程にて使用された処理液を廃液として回収する廃液回収工程を有する。ここで、廃液を回収する対象となる所定工程は、(除去されるべき塩基を含む可能性がある)工程であれば特に限定されず、例えば、前記洗浄工程、前記疎水化工程、前記乾燥工程である。これらの工程の廃液中には、例えば、ゲル化工程の際に使用されたアンモニア等の塩基や、疎水化工程にて発生したアンモニア等の塩基が含まれている可能性がある。該塩基が最終産物であるエアロゲルに存在していると物性低下を招く恐れがあることに加え、乾燥工程が超臨界乾燥の場合には二酸化炭素と塩を生成して配管詰まりの原因となる。したがって、エアロゲルの製造方法においては、好適には、溶媒による複数回の洗浄が必要となる。
【0033】
<塩基除去工程>
本形態に係るエアロゲルの製造方法は、前記廃液回収工程で回収した前記廃液に酸を添加することにより、前記廃液中に含まれる塩基と前記酸との塩を沈殿させ、該塩を除去する塩基除去工程を有する。ここで、酸としては、廃液中の溶媒に溶解することと、廃液中の塩基と結合して沈殿を生じる塩(例えば、アンモニウム塩)を形成させるような酸であることが好適である。ここで、酸は、溶媒が有機溶媒(アルコール、アセトン、アセトニトリル等)である場合には、水分を含まないため、固体酸(無水物)であることが好適である。具体例としては、モノカルボン酸である安息香酸、乳酸等、ジカルボン酸であるフタル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、トリカルボン酸等の複数のカルボキシル基を持つカルボン酸、その他としてホウ酸、リン酸、ホスホン酸、を挙げることができる。ここで、好適には、ジカルボン酸、トリカルボン酸等の複数のカルボキシル基を持つカルボン酸である。また、沈殿した塩は、例えば、濾過により除去する。
【0034】
<再利用工程>
本形態に係るエアロゲルの製造方法は、前記塩基除去工程後の液を、前記製造方法におけるいずれかの工程での処理液として再利用する再利用工程を有する。ここで、「いずれかの工程での処理液として」とは、塩基除去後、廃液を取得した工程に処理液(の全部又は一部)を戻す場合のみならず、廃液を取得した工程以外の工程に処理液(の全部又は一部)を戻す場合をも含む意義である。尚、所定工程からの廃液に対して塩基除去を実施し、この液を、前記所定工程での処理液として再利用することが好適である。例えば、疎水化工程からの廃液を処理した液を、疎水化工程の処理液(の全部又は一部)として再利用する態様;洗浄工程からの廃液を処理した液を、洗浄工程の処理液(の全部又は一部)として再利用する態様;乾燥工程からの廃液を処理した液を、乾燥工程の処理液(の全部又は一部)として再利用する態様、を挙げることができる。他方、洗浄工程が複数回存在する場合、ある洗浄工程からの廃液を処理した液を、当該ある洗浄工程及び/又は別の洗浄工程の処理液(の全部又は一部)として再利用する態様も挙げることができる。
【0035】
<加工工程>
尚、本形態に係るシリカエアロゲルの製造方法は、更に、乾燥工程にて得られたシリカエアロゲルの形状を別の形状に加工する工程を含んでいてもよい(例えば、板、直方体又はフィルム状から、粒子状、矩形や円形の板、立方体、球体、円柱、角錐、円錐、粒子状等の種々の形状に加工)。
【0036】
≪シリカエアロゲル複合体の製造方法≫
本実施形態のシリカエアロゲル複合体の製造方法は、ゾル溶液を調製するゾル調製工程の後、前記ゾル溶液を多孔質基材に含浸させる含浸工程を含む点以外は、上述したシリカエアロゲルの方法と略同一である。したがって、以下では含侵工程を詳述する。
【0037】
<含浸工程>
含浸工程は、ゾル溶液を多孔質基材に含浸させる工程である。ここで、該工程において振動を与えてもよい。ここで、「多孔質基材」は、孔(微細孔)が多く含まれる材料の総称である(例えば、マイクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料)。多孔質基材としては、例えば、発泡基材、繊維状物質からなる基材、3次元で複雑な骨格を形成している基材等が挙げられる。より具体的な多孔質基材の例としては、不織布、多孔質構造を有する多孔質シート等が挙げられる。また、多孔質構造における孔は、エアロゲルを十分に充填させるため、連通孔であることが好適である。ここで、多孔質シートとしては、特に限定されず、オレフィン樹脂発泡体、アクリル樹脂発泡体、ウレタン樹脂発泡体、酢酸ビニル樹脂発泡体、塩化ビニル樹脂発泡体、エポキシ樹脂発泡体、ゴム発泡体、シリコーン樹脂発泡体、メラミン樹脂発泡体、イミド樹脂発泡体等から選択すればよい。また、不織布としては、特に限定されず、ステンレス鋼繊維、アルミニウム繊維等の金属繊維、ポリエチレンテレフタレ-ト(PET)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース、ナイロン等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、ロックウ-ル、セラミック繊維等の無機繊維等から選択すればよい。
【実施例0038】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に限定されるものではない。以下、一例として、シリカエアロゲル複合体を詳述する。
【0039】
<<シリカエアロゲル複合体の調製例>>
<ゾル調製工程>
テトラメトキシシラン(信越化学工業社製)を主剤として使用し、主剤1モルに対し、7.2モルのメタノール(和光純薬工業社製)、4モルのイオン交換水(電気抵抗率1×1010Ω・cm以上)及び0.01モルの触媒{25%アンモニア水(和光純薬工業社製)}を混合し、ゾル溶液を調製した。
【0040】
<含浸工程・ゲル複合体調製工程>
下記発泡基材を210mm幅、長さ3mに裁断し、セパラブルフラスコへ収納した後、ゾル溶液を発泡基材が完全に浸漬するまで加え(含浸工程)、常圧下で3時間静置し、湿潤ゲルが充填された発泡基材を得た(ゲル複合体調製工程)。
【0041】
(発泡基材の調製方法)
発泡基材:ランダム型ポリプロピレン58質量部、低密度ポリエチレン15質量部、EPDM(エチレン含量29.5%、ジエン含量5%)20質量部、ポリオキシエチレンステアリルアミン1.5質量部、湿式シリカ5質量部及びフェノール系酸化防止剤0.2質量部を溶融混練し、超臨界状態で二酸化炭素を含浸させた後、圧力を解放して発泡させて押出すことで、ポリオレフィン発泡体である発泡基材を得た。製造条件は、含浸温度が180℃であり、含浸圧力が13MPaであり、含浸時間が20分である。
【0042】
<溶媒置換工程>
表1に従い、湿潤ゲルが充填された発泡基材とゼオライト{モレキュラーシーブ3A 富士フイルム和光純薬(株)製}とをエタノール浸漬し、撹拌しながら溶媒置換を24時間行った(質量比で、湿潤ゲル中の水分量に対して8.75倍の脱水剤を使用)。
【0043】
<疎水化工程>
溶媒置換後の発泡基材内におけるゲル表面を疎水化するため、ヘキサメチルジシラザンのエタノール溶液(濃度20質量%)中に浸漬し、撹拌しながら疎水化処理を24時間行った。
【0044】
<洗浄工程>
疎水化処理後の湿潤ゲルが充填された発泡基材をエタノールで洗浄した(該洗浄を3回実施)。
【0045】
<乾燥工程>
疎水化工程後の発泡基材を、80℃、20MPaの二酸化炭素中に含浸させ、超臨界流体乾燥を12時間実施することで、実施例及び比較例に係るシリカエアロゲル複合体を得た。
【0046】
<再生工程・再利用工程>
表1及び表2に示した特定工程における廃液(「廃液の再生」での「再利用工程」に記載の工程での廃液)に対し、「廃液の再生」に記載に従い、所定の酸を所定のpHになるように添加した。その後、塩が析出した場合には、当該塩を吸引濾過により除去し、再生した(再生溶剤)。表1及び表2に、溶媒の回収率を示す。
【0047】
続いて、実施例及び比較例で得られた再生溶剤を再利用し、エアロゲル複合材を製造した。具体的には、実施例の所定工程(溶媒置換工程、洗浄工程、乾燥工程)で使用した溶媒の使用量は、実施例1{溶媒置換工程:20kg(未使用溶剤10kg×2回)、洗浄工程:15kg(再生溶剤5kg×2回、未使用溶剤5kg×1回)、乾燥工程:5kg(未使用溶剤5kg×1回)}合計:40kg;実施例2{溶媒置換工程:20kg(未使用溶剤10kg×2回)、洗浄工程:15kg(未使用溶剤5kg×3回)、乾燥工程:5kg(再生溶剤5kg×1回)}合計:40kg;実施例3、4{溶媒置換工程:10kg(未使用溶剤10kg×1回)、洗浄工程:15kg(再生溶剤5kg×2回、未使用溶剤5kg×1回)、乾燥工程:5kg(未使用溶剤5kg×1回)}合計:30kg;比較例1{溶媒置換工程:20kg(未使用溶剤10kg×2回)、洗浄工程:15kg(未使用溶剤5kg×3回)、乾燥工程:5kg(未使用溶剤5kg×1回)}合計:40kg;比較例2、3{溶媒置換工程:20kg(未使用溶剤10kg×2回)、洗浄工程:15kg(再生溶剤5kg×2回、未使用溶剤5kg×1回)、乾燥工程:5kg(未使用溶剤5kg×1回)}合計:40kg、である。
【0048】
【0049】
【0050】
表1及び表2に、得られたエアロゲル複合材の物性と、溶媒再生時の塩の析出状態と、を評価した結果を示す。ここで、「溶媒置換」はエタノールで水分除去を実施したものであり、「工程脱水」はエタノール+ゼオライトで水分除去を実施したものである。「熱伝導率」の測定は、JIS A1412-2:1999「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部 熱流計法(HFM法)」に従って、熱伝導率測定装置(英弘精機社製:HC-72)を用いて測定した値である。また、「密度」は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に準拠して測定した値である。
【0051】
以上のように、いずれの実施例においても、廃液から塩基を除去でき、液の再利用を図ることができることを確認した。尚、水溶性の酸を使用した比較例2においては、エアロゲルの熱伝導率の悪化を確認した。