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特開2024-88510絶縁電線、コイル、回転電機および電気・電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088510
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】絶縁電線、コイル、回転電機および電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240625BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20240625BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240625BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20240625BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H01B7/00 303
H01F5/06 Q
H01F5/06 H
H01F5/00 D
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203729
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】320003426
【氏名又は名称】エセックス古河マグネットワイヤジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】建部 友実
(72)【発明者】
【氏名】原 奈摘子
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大介
【テーマコード(参考)】
5G309
5H604
【Fターム(参考)】
5G309CA08
5G309MA02
5G309MA03
5H604DB01
5H604PB01
(57)【要約】
【課題】絶縁層と導体との密着性に優れ、また可とう性にも優れる絶縁電線、並びに、この絶縁電線を用いたコイル、回転電機及び電気・電子機器を提供する。
【解決手段】導体と、該導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成した絶縁皮膜とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、厚さ5μm未満の絶縁層の1層以上で構成された内側層と、該内側層より外側の、複数の絶縁層で構成された外側層とからなり、
前記外側層を構成する絶縁層のうち、内側層に接する絶縁層の厚さが5μm以上であり、前記外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均が5μm以上である、絶縁電線。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成した絶縁皮膜とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、厚さ5μm未満の絶縁層の1層以上で構成された内側層と、該内側層より外側の、複数の絶縁層で構成された外側層とからなり、
前記外側層を構成する絶縁層のうち、内側層に接する絶縁層の厚さが5μm以上であり、前記外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均が5μm以上である、絶縁電線。
【請求項2】
前記内側層を構成する絶縁層のうち、前記導体に接する絶縁層の最大厚さと最小厚さが、[最大厚さ/最小厚さ]≦2.5を満たす、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁皮膜の厚さが60μm以上350μm以下である、請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁皮膜が、ポリアミドイミド及び/又はポリイミドを含む、請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の絶縁電線を用いたコイル。
【請求項6】
請求項5に記載のコイルを有する回転電機、電気・電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線、コイル、回転電機および電気・電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気・電子機器用コイルには、マグネットワイヤとして、線状金属導体の外周面に樹脂製の絶縁皮膜を備えた絶縁電線が用いられている。絶縁電線の絶縁皮膜は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を塗布・焼付けしたり、熱可塑性樹脂を押出被覆したり、あるいはこれらを組み合わせたりして形成されている。
このような絶縁電線には、絶縁皮膜による高度な絶縁性に加え、曲げや伸びなどの加工を施した際に絶縁皮膜が割れたり、導体から絶縁皮膜が剥離したりしない特性も求められる。例えば特許文献1には、導体上に直接接して、ポリイミド樹脂骨格中のイミド構造の合計式量の含有率が27%以上33%以下である密着層を有し、該密着層上にポリイミド樹脂骨格中の該イミド構造の合計式量の含有率が27%より大きく37%以下であるポリイミド樹脂からなる絶縁層を有することを特徴とする絶縁電線が開示されており、得られる絶縁電線が導体密着性及び層間密着性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-107701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁電線の巻線加工(コイル加工)は年々高度化しており、絶縁電線は複雑に、かつ小さな屈曲半径で曲げ加工される。このような絶縁電線には、より高度な曲げ加工によっても絶縁皮膜が導体から剥離しにくい導体密着性、及び、絶縁皮膜に割れを生じない高度な可とう性が要求される。
【0005】
本発明は、絶縁層と導体との密着性に優れ、また可とう性にも優れる絶縁電線、並びに、この絶縁電線を用いたコイル、回転電機及び電気・電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、導体周囲に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して絶縁皮膜を形成するに当たり、導体側から厚さ5μm未満の絶縁層(I)を1層以上設けて内側層を形成し、内側層に接して厚さ5μm以上の絶縁層(II)を形成し、絶縁層(II)の外周に絶縁層(III)を複数層形成し、その際、絶縁層(II)と絶縁層(III)で構成される外側層における絶縁層の厚さの平均を5μm以上とすることにより、得られる絶縁電線は絶縁皮膜と導体との密着性に優れ、また、可とう性にも優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
〔1〕
導体と、該導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成した絶縁皮膜とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、厚さ5μm未満の絶縁層の1層以上で構成された内側層と、該内側層より外側の、複数の絶縁層で構成された外側層とからなり、
前記外側層を構成する絶縁層のうち、内側層に接する絶縁層の厚さが5μm以上であり、前記外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均が5μm以上である、絶縁電線。
〔2〕
前記内側層を構成する絶縁層のうち、前記導体に接する絶縁層の最大厚さと最小厚さが、[最大厚さ/最小厚さ]≦2.5を満たす、前記〔1〕に記載の絶縁電線。
〔3〕
前記絶縁皮膜の厚さが60μm以上350μm以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の絶縁電線。
〔4〕
前記絶縁皮膜が、ポリアミドイミド及び/又はポリイミドを含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の絶縁電線。
〔5〕
前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の絶縁電線を用いたコイル。
〔6〕
前記〔5〕に記載のコイルを有する回転電機、電気・電子機器。
【0008】
本発明ないし本明細書において、単に「絶縁層」という場合、樹脂ワニスの塗布・焼付けを1回行って形成される層を意味する。本発明では、同一の樹脂ワニスの塗布・焼付けを複数回繰り返して形成した絶縁層は複層の絶縁層として捉える。つまり、樹脂ワニスが同一でも異なっていても、1回の塗布・焼付けで形成される層を絶縁層1層とカウントする。換言すれば、塗布・焼付けを繰り返したとき、当該繰り返し数と同じ数の絶縁層が積層された絶縁皮膜が形成される。なお、この積層数は、絶縁層の断面をエッジング後、光学顕微鏡またはマイクロスコープで確認できる。
本発明では、絶縁電線における絶縁皮膜は上記の通り、樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成されたことを特定事項として有しているが、これは単に絶縁皮膜の状態を示す(すなわち、絶縁皮膜がエナメル層であることを示す)ものであり、これにより絶縁皮膜の構造ないし特性を明らかにするものである。
本発明ないし本明細書では、絶縁電線の長手方向と直交する断面形状で、導体および絶縁皮膜を含めた絶縁電線の形状を、単に断面形状と称する場合がある。本発明における断面形状は、単に切断面のみが特定の形状をしているのでなく、絶縁電線全体の長手方向に、この断面形状が連続してつながっており、特段の断りがない限り、絶縁電線の長手方向のいずれの部分に対しても、この方向と直交する断面形状は実質的に同じであることを意味する。
本発明ないし本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明ないし本明細書において、濃度の単位として記載する「ppm」は質量基準である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の絶縁電線は、絶縁層と導体との密着性が高く、また可とう性にも優れる。また、本発明によれば、このような優れた性能を有する絶縁電線を用いたコイル、回転電機および電気・電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の絶縁電線の一実施形態を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の絶縁電線の絶縁層の厚さの測定方法を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明の絶縁電線の内側最内層における最大厚さ及び最小厚さの測定方法を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の電気・電子機器に用いられるステータの好ましい形態を示す概略分解斜視図である。
図5図5は、本発明の電気・電子機器に用いられるステータの好ましい形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[絶縁電線]
本発明の絶縁電線は、導体と、該導体の外周を覆う絶縁皮膜とを有する。この絶縁皮膜は、樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成される、いわゆるエナメル層(多層エナメル層)である。絶縁皮膜を構成する各絶縁層に用いる樹脂は熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよく、通常は熱硬化性樹脂である。
上記絶縁層は、該絶縁層の厚さに応じて、内側層と外側層とに分類され、内側層と外側層とを合わせて本発明では絶縁皮膜という。
【0013】
図1に、本発明の絶縁電線の一実施形態における断面図を示す。絶縁電線1は、導体11と、導体11の外周面に形成された内側層12と、内側層12の外周面に形成された外側層13とを有する。図1に示す絶縁電線おいて、内側層12と外側層13は、いずれも絶縁層が複数積層された積層絶縁層(多層絶縁層)である。
内側層12のうち、導体と接して、該導体の外周面に配される絶縁層が内側最内層14である。また、外側層13のうち、内側層の最も外側の絶縁層(内側最外層)と接して、該内側最外層の外周面に配される絶縁層が外側最内層15である。
【0014】
本発明の絶縁電線の断面形状は、導体と相似形であることが好ましく、なかでも、絶縁皮膜全体の形状、すなわち、絶縁皮膜の、導体とは反対側の最外面における断面形状が、導体と相似形であることが特に好ましい。なお、相似形とは完全な相似形に限定されるものではなく、略相似形であればよい。
【0015】
<導体>
本発明に用いる導体としては、従来、絶縁電線で用いられているものを使用することができ、銅線、アルミニウム線等の金属導体が挙げられる。本発明では、銅の導体が好ましく、なかでも、用いる銅は、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅が好ましく、20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅がより好ましい。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
なお、導体がアルミニウムの場合、必要機械強度を考慮したうえで、用途に応じて様々なアルミニウム合金を用いることができる。例えば回転電機のような用途に対しては、高い電流値を得られる純度99.00%以上の純アルミニウムが好ましい。
【0016】
本発明で使用する導体の長手方向と直交する断面形状は特に限定されるものではない。例えば、円形または矩形(平角形状)の断面形状の導体が挙げられる。本発明では、断面形状が矩形の導体、すなわち平角導体が好ましい。断面形状が矩形の導体は、円形のものと比較し、巻線時にステータコアのスロットに対する占積率が高くなる。このため、一定の狭い空間に多くの絶縁電線を組み込むような用途に好ましい。本発明で使用する導体の好ましい例として、図1は、導体が断面矩形(平角形状)の場合を示している。
断面形状が矩形の導体は、コーナー部(角部)からの部分放電を抑制する点において、図1に示すように、4隅に面取り(曲率半径r)を設けた形状であることが好ましい。曲率半径rは、0.6mm以下が好ましく、0.2~0.4mmがより好ましい。
導体の大きさは、特に限定されないが、平角導体の場合、矩形の断面形状において、幅(長辺)は1.0~10.0mmが好ましく、1.0~5.0mmがより好ましく、1.4~4.0mmがさらに好ましく、厚み(短辺)は0.4~3.0mmが好ましく、0.5~2.5mmがより好ましい。幅(長辺)と厚み(短辺)の長さの比(厚み:幅)は、1:1~1:20が好ましく、1:1~1:4がより好ましい。一方、断面形状が円形の導体の場合、直径は0.3~3.0mmが好ましく、0.4~2.7mmが好ましい。
【0017】
<絶縁皮膜>
絶縁皮膜の厚さは、本発明の絶縁電線に、より高い部分放電開始電圧を付与する観点から、60μm以上350μm以下であることが好ましく、80μm以上300μm以下であることがより好ましく、90μm以上250μm以下であることがさらに好ましく、100μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。
また、絶縁皮膜を形成するための塗布・焼付けの繰り返し数は、35回以下であることが好ましく、10回以上35回以下であることがより好ましく、12回以上30回以下であることがさらに好ましく、15回以上25回以下であることがさらに好ましい。なお、本発明において「塗布・焼付けの繰り返し数」とは、「絶縁皮膜を構成する絶縁層の層数」と同義である。すなわち、前記絶縁皮膜を構成する絶縁層の層数は、35層以下であることが好ましく、10層以上35層以下であることがより好ましく、12層以上層30以下であることがさらに好ましく、15層以上25層以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の絶縁電線における絶縁皮膜は、各絶縁層の厚さに基づき、内側層と外側層とに分類される。
本発明において、「内側層」とは、内側最内層、及びこの層から外側(導体と反対側)に向けて形成(積層)される絶縁層のうち、その厚さが連続して5μm未満である絶縁層の領域を意味する。すなわち、内側層を構成する各絶縁層の厚さは、いずれも5μm未満である。本発明において内側層が単層の場合、内側層それ自体が内側最内層である。
また本発明において、「外側層」とは、厚さ5μm以上の絶縁層のうち最も内側(導体側)の絶縁層を外側最内層とし、外側最内層と、この層から外側(導体と反対側)に向けて形成される絶縁層とにより形成される領域を意味する。外側層は厚さ5μm未満の絶縁層を含んでもよいが、外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均は5μm以上である。
【0019】
各絶縁層の厚さは、例えば実施例に記載の方法によって測定することができる。具体的には、絶縁電線の導体が平角導体である場合には、図2に示すように、絶縁電線の断面観察において、測定対象の絶縁層の平面に対応する2つの長辺と2つの短辺の各々について等間隔に5点、計20点の厚さを測定し、計20点の厚さの平均値を、その絶縁層の厚さとする。なお、上記「絶縁層の平面」とは、導体の面取り部分以外の面の直上の平面を意味する。また、絶縁電線の導体の断面形状が円形の場合には、絶縁電線の断面観察において、測定対象の絶縁層について等間隔に計8点の厚さを測定し、計8点の厚さの平均値を、その絶縁層の厚さとする。
各測定点における厚さは、各絶縁層の内側境界面と外側境界面との最短距離とする。
【0020】
<内側層>
内側層を構成する各絶縁層は、同一材料の層であってもよく、異なる材料の層であってもよい。好ましくは、同一材料の層である。
内側層は、樹脂ワニスを塗布して焼付ける塗布・焼付け工程により形成される。本発明では、同一の樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返しても、1回の塗布・焼付けで形成される層を1つの層とカウントする。したがって、内側層は1層以上の絶縁層が積層された層である。内側層を形成するための塗布・焼付けの繰り返し数は、導体密着性をより向上させる観点、及び可とう性を向上させる観点から、1回以上6回以下であることが好ましく、2回以上5回以下であることがより好ましく、2回又は3回であることがさらに好ましい。すなわち、内側層を構成する絶縁層の層数は、1層以上6層以下であることが好ましく、2層以上5層以下であることがより好ましく、2層又は3層であることがさらに好ましい。
本発明の絶縁電線において、内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均は、導体密着性をより向上させる観点、導体酸化を防止する観点、及びブツの発生を抑制する観点から、1μm以上5μm未満であることが好ましく、2μm以上4.5μm以下であることがより好ましく、2μm以上4μm以下であることがさらに好ましい。上記内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均は、各絶縁層の厚さを上記の通り測定し、得られた各絶縁層の厚さの算術平均である。すなわち、各絶縁層の厚さを上記の通り測定し、内側層を構成する各絶縁層の厚さの合計値を、内側層を構成する絶縁層の層数で除することによって算出される。
また、内側層を構成する個々の絶縁層の厚さは、内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均±50%の範囲内にあることが好ましく、内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均±25%の範囲内にあることがより好ましい。すなわち、[内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×0.5]≦内側層を構成する個々の絶縁層の厚さ≦[内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×1.5]を満たすことが好ましく、[内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×0.75]≦内側層を構成する個々の絶縁層の厚さ≦[内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×1.25]を満たすことがより好ましい。
【0021】
(樹脂ワニス)
前記樹脂ワニスは、樹脂をワニス化させるために有機溶媒(有機溶剤)等を含有する。有機溶媒として、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン系溶媒、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0022】
これらのうち、加熱による架橋反応を阻害しやすい水素原子をもたない等の観点から、DMAc、NMP、DMF、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素、及びDMSOがより好ましく、DMAc及びNMPがさらに好ましい。
上記有機溶媒等は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記樹脂ワニスは、特性に影響を及ぼさない範囲で、密着助剤、気泡形成用発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤およびエラストマーなどの各種添加剤を含有してもよい。
また、前記樹脂ワニスは、特性に影響を及ぼさない範囲で、無機微粒子を含有してもよい。このような無機微粒子としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化錫、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0024】
-樹脂-
内側層の各絶縁層を構成する樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びポリエステルイミド(PEsI)などのイミド結合を有する熱硬化性樹脂や、ポリウレタン(PU)、熱硬化性ポリエステル(PEst)、H種ポリエステル(HPE)、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、又はエポキシ樹脂が挙げられ、これらの樹脂を単独で使用しても、併用してもよい。また、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性の熱可塑性樹脂を用いてもよい。中でも、前記樹脂はイミド結合を有する熱硬化性樹脂であることが好ましく、ポリイミド(PI)又はポリアミドイミド(PAI)、及びこれらの混合樹脂であることがより好ましい。
【0025】
前記ポリイミド(PI)の種類は特に限定されず、全芳香族ポリイミドまたは熱硬化性芳香族ポリイミドなど、通常のポリイミドを用いることができる。また、常法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、焼付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることができる。
商業的に入手可能なポリイミド(PI)としては、例えば、ユニチカ社製の商品名:Uイミド、宇部興産社製の商品名:U-ワニス、東レ・デュポン社製の商品名:#3000などが挙げられる。
【0026】
前記ポリアミドイミド(PAI)は、他の樹脂に比べ熱伝導率が低く、絶縁破壊電圧が高く、焼付け硬化が可能である。本発明に用い得るポリアミドイミドの種類は特に限定されず、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物を直接反応させて得たもの、または、極性溶媒中でトリカルボン酸無水物にジアミン化合物を先に反応させて、最初にイミド結合を導入し、次いでジイソシアネート化合物でアミド化して得られるものが挙げられる。
商業的に入手可能なポリアミドイミド(PAI)としては、例えば、日立化成社製の商品名:HI406などが挙げられる。
【0027】
内側層が、絶縁層が複数積層された積層絶縁層である場合、内側層を構成する各絶縁層の厚さの平均と比べて、内側最内層の厚さが薄いことも好ましい。
【0028】
内側最内層の最大厚さと最小厚さの関係は、導体密着性を向上させる観点、及び可とう性を向上させる観点から、[最大厚さ/最小厚さ]≦2.5を満たすことが好ましく、[最大厚さ/最小厚さ]≦2.3以下を満たすことがより好ましく、[最大厚さ/最小厚さ]≦2.1を満たすことがさらに好ましい。
内側最内層の最大厚さ、及び内側最内層の最小厚さは、例えば実施例に記載の方法により測定することができる。具体的には、図3に示される平角状の絶縁電線については、絶縁電線の断面観察において、導体外周の平面部分に対応する2つの長辺と2つの短辺から垂直方向の内側最内層の厚さを測定し、得られた厚さの最大値を「最大厚さ」、得られた厚さの最小値を「最小厚さ」とする。なお、当該最小厚さ、及び最大厚さの決定には、導体四隅の面取り部分の厚さは考慮しないものとする。
また、絶縁電線の導体の断面形状が円形の場合には、絶縁電線の断面観察において、導体表面の接線から垂直方向の厚さを測定し、得られた厚さの最大値を「最大厚さ」、得られた厚さの最小値を「最小厚さ」とする。
【0029】
<外側層>
外側層を構成する各絶縁層は、同一材料の層であっても、異なる材料の層であってもよく、同一材料の層であることが好ましい。
外側層も、内側層と同様に樹脂ワニスを塗布して焼き付ける塗布・焼付け工程により形成される。外側層を形成するための塗布・焼付けの繰り返し数は、適切な焼付条件を達成し、導体との密着力及び機械特性を維持する観点から、9回以上30回以下であることが好ましく、10回以上25回以下であることがより好ましく、13回以上22回以下であることがさらに好ましい。すなわち、外側層を構成する絶縁層の層数は、9層以上30層以下であることが好ましく、10層以上25層以下であることがより好ましく、13層以上22層以下であることがさらに好ましい。
外側層を構成する各絶縁層の厚さは、可とう性を向上させる観点、及び溶媒の揮発に伴うブツの発生を抑制する観点から、いずれも4μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。また当該厚さは、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
また外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均は5μm以上であり、可とう性を向上させる観点、及びブツの発生を抑制する観点から、5μm以上15μm以下であることが好ましく、5μm以上10μm以下であることがより好ましい。上記外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均は、各絶縁層の厚さを上記の通りに測定し(内側層を構成する各絶縁層の厚さの測定と同様にして測定し)、外側層を構成する各絶縁層の厚さの合計値を、外側層を構成する絶縁層の層数で除することによって算出される。
また、外側層を構成する個々の絶縁層の厚さは、外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均±50%の範囲内にあることが好ましく、外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均±25%の範囲内にあることが好ましい。すなわち、[外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×0.5]≦外側層を構成する個々の絶縁層の厚さ≦[外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×1.5]を満たすことが好ましく、[外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×0.75]≦外側層を構成する個々の絶縁層の厚さ≦[外側層を構成する各絶縁層の厚さの平均×1.25]を満たすことがより好ましい。
【0030】
外側層を構成する樹脂の種類は、内側層を構成する樹脂として説明したものを好ましく用いることができる。なかでも、ポリイミド(PI)又はポリアミドイミド(PAI)、及びこれらの混合樹脂で形成されていることが好ましい。また、当該樹脂をワニス化させるための有機溶媒の種類も、内側層の樹脂に用いる有機溶媒として説明したものを好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の絶縁電線は、前記外側層のさらに外周に、補強絶縁層を有していてもよい。補強絶縁層を設けることで、本発明の絶縁電線の耐ATF性などをより高めることができる。前記補強絶縁層は、熱可塑性樹脂層からなる押出被覆層であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、絶縁皮膜に一般的に用いられる熱可塑性樹脂を適用することができる。
【0032】
[絶縁電線の製造方法]
本発明の絶縁電線は、導体の外周に、同一もしくは異なる樹脂ワニスを塗布して焼付ける操作を複数回繰り返す塗布・焼付け工程により絶縁層を形成して得ることができる。
【0033】
樹脂ワニスを導体上に塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、導体断面形状が矩形である場合、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。
前記樹脂ワニスは、前述のように市販品を使用してもよく、この場合は、有機溶媒に溶解されていることから、有機溶媒を含有している。
【0034】
これらの樹脂ワニスを塗布した導体は、常法にて、焼付炉で焼付けされる。具体的な焼付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ8mの自然対流式の竪型炉であれば、炉内温度400~650℃にて通過時間を10~90秒に設定することにより、達成することができる。樹脂ワニスの塗布量は、目的とする各絶縁層の厚さとなるように適宜設定することができる。
【0035】
[コイル、回転電機および電気・電子機器]
本発明の絶縁電線は、コイルとして、回転電機、各種電気・電子機器など、電気特性(耐電圧性)と耐熱性を必要とする分野に利用可能である。例えば、本発明の絶縁電線はモーターやトランス等に用いられ、高性能の回転電機、電気・電子機器を構成できる。特にハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の駆動モーター用の巻線として好適に用いられる。
【0036】
本発明のコイルは、本発明の絶縁電線をコイル加工して形成したもの、本発明の絶縁電線を曲げ加工した後に所定の部分を電気的に接続してなるもの等が挙げられる。
本発明の絶縁電線をコイル加工して形成したコイルとしては、特に限定されず、長尺の絶縁電線を螺旋状に巻き回したものが挙げられる。このようなコイルにおいて、絶縁電線の巻線数等は特に限定されない。通常、絶縁電線を巻き回す際には鉄芯等が用いられる。
【0037】
本発明の絶縁電線を曲げ加工した後に所定の部分を電気的に接続してなるものとして、回転電機等のステータに用いられるコイルが挙げられる。このようなコイルは、例えば、図4に示されるように、本発明の絶縁電線を所定の長さに切断してU字形状等に曲げ加工して複数の電線セグメント34を作製し、各電線セグメント34のU字形状等の2つの開放端部(末端)34aを互い違いに接続して、作製されたコイル33(図4図5参照)が挙げられる。
【0038】
このコイルを用いてなる電気・電子機器としては、特に限定されない。このような電気・電子機器の好ましい一態様として、トランスが挙げられる。また、例えば、図4図5に示されるステータ30を備えた回転電機(特にHV及びEVの駆動モーター)が挙げられる。この回転電機は、ステータ30を備えていること以外は、従来の回転電機と同様の構成とすることができる。
ステータ30は、電線セグメント34が本発明の絶縁電線で形成されていること以外は従来のステータと同様の構成とすることができる。すなわち、ステータ30は、ステータコア31と、例えば図4に示されるように本発明の絶縁電線からなる電線セグメント34がステータコア31のスロット32に組み込まれ、開放端部34aが電気的に接続されてなるコイル33とを有している。このコイル33は、隣接する融着層同士、あるいは融着層とスロット32とが固着されて固定化された状態となっている。ここで、電線セグメント34は、スロット32に1本で組み込まれてもよいが、好ましくは図4に示されるように2本1組として組み込まれる。このステータ30は、上記のように曲げ加工した電線セグメント34を、その2つの末端である開放端部34aを互い違いに接続してなるコイル33が、ステータコア31のスロット32に収納されている。このとき、電線セグメント34の開放端部34aを接続してからスロット32に収納してもよく、また、絶縁セグメント34をスロット32に収納した後に、電線セグメント34の開放端部34aを折り曲げ加工して接続してもよい。
【実施例0039】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。下記実施例において、「ppm」は質量基準である。
【0040】
<製造方法>
[実施例1]
下記の方法により、導体と絶縁皮膜(内側層、外側層)からなる絶縁電線を作製した。
導体として、断面平角(横3.5mm×縦2.0mmで、四隅の面取りの曲率半径r=0.3mm)の平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
ポリイミド(PI)ワニス(商品名:Uイミド、溶媒:DMAc、ユニチカ社製)を、導体に接する最も内側の熱硬化性樹脂層の断面の外形の形状が導体断面形状と相似形のダイスを使用して、導体の表面に塗布し、600℃に設定した炉長8mの焼付け炉内を通過時間20秒となる速度で通過させ、この塗布、焼付けを計2回繰り返し、下記表1に記載の厚さとなるようにして、2層からなる熱硬化性樹脂層(内側層)を形成した。
続いて、上記PIワニスを、断面の外形の形状が導体断面形状と相似形のダイスを使用し、上記熱硬化性樹脂層(内側層)の表面に塗布し、600℃に設定した炉長8mの焼付け炉内を通過時間20秒となる速度で通過させ、この塗布、焼付けを計20回繰り返し、下記表1に記載の厚さとなるようにして、20層からなる熱硬化性樹脂層(外側層)を形成した。
このようにして、絶縁皮膜として内側層及び外側層を有する実施例1の絶縁電線を得た。
【0041】
本実施例における絶縁層の厚さの測定について説明する。
絶縁電線の断面観察において、測定対象の絶縁層の平面に対応する2つの長辺と2つの短辺の各々について等間隔に5点、計20点の厚さをデジタルマイクロスコープ(商品名:VHX-7000、キーエンス社製)により測定した。測定値の平均値を、各絶縁層の厚さとした。
内側層を構成する各絶縁層の厚さを合計することにより、上記内側層に属する各絶縁層の合計厚さ(μm)を算出し、当該合計厚さを、内側層の層数で除した値を、内側層における「絶縁層の平均厚さ(μm)」とした。また、上記外側層に属する各絶縁層の厚さを合計することにより、上記外側層に属する各絶縁層の合計厚さ(μm)を算出し、当該合計厚さを、外側層の層数で除した値を、外側層における「絶縁層の平均厚さ(μm)」とした。測定結果は表1に示す通りである。
また、内側層の最内層の最大厚さ、及び最小厚さを測定し、最内層の「最大厚さ/最小厚さ]を算出した。この結果も表1に示した。
【0042】
[実施例2~10]
内側層、及び外側層を構成する絶縁層の厚さを、下記表1に記載の厚さとなるようにした以外は、上記実施例1と同様にして実施例2~10の各絶縁電線を得た。
【0043】
[実施例11]
樹脂をポリアミドイミド(PAI)ワニス(商品名:HI406、溶媒:DMAc、 日立化成社製)とし、ワニスの塗布・焼付けにより絶縁層を下記表1に記載の厚さとなるようにした以外は、上記実施例1と同様にして実施例11の絶縁電線を得た。
【0044】
[比較例1]
内側層を形成せず、外側層を構成する絶縁層の厚さを、下記表1に記載の厚さとなるようにした以外は、上記実施例1と同様にして比較例1の絶縁電線を得た。
【0045】
[比較例2]
外側層を形成せず、内側層を構成する絶縁層の厚さを、下記表1に記載の厚さとなるようにした以外は、上記実施例1と同様にして比較例2の絶縁電線を得た。
【0046】
なお、実施例1~11、及び比較例2の絶縁電線について、内側層を構成する絶縁層の厚さはいずれも5μm未満(1~4.5μm)であった。また。実施例1~11、及び比較例1の絶縁電線について、外側最内層(実施例1~11の絶縁電線については外側層のうち内側層との密着層、比較例1の絶縁電線については外側層のうち導体との密着層)の厚さは、いずれも5μm以上(5~15μm)であった。
また、内側層を構成する各絶縁層、及び外側層を構成する各絶縁層のバラツキは、いずれも内側層を構成する各絶縁層の平均厚さ、及び外側層を構成する各絶縁層の平均厚さからそれぞれ50%及び25%の範囲内であった。
【0047】
上記で製造した作製した各絶縁電線に対して、下記のようにして、導体密着力及び可とう性の評価を行った。得られた結果を、下記表1にまとめて示す。
【0048】
[導体密着力]
導体と内側層(内側最内層)との密着力(比較例1の絶縁電線においては、導体と外側層(外側最内層)との密着力)は、日本工業規格:JIS Z 0237に基づき、導体と絶縁層間との180度ピール試験(JIS法)を行うことで測定した。
実施例及び比較例で製造した各絶縁電線に対して、マイクロメータにカッターを接続したジグを使用し、長手方向に切込みを1mm幅で50mm以上入れた。なお、この切れ込みは導体まで到達するようにした。切り込みを入れた絶縁電線の端部から絶縁皮膜を剥離し、引張試験機(株式会社島津製作所製、装置名「オートグラフAGS-X」)を用いて、4mm/分の速度で切れ込みに沿って長手方向に180°剥離試験を実施した。50mmの長さのピール強度の平均値(凹凸平均値)を密着強度とし、下記評価基準に基づき導体密着力を評価した。

-評価基準-
A+:1.2N/mm以上
A :0.8N/mm以上、1.2N/mm未満
B :0.5N/mm以上、0.8N/mm未満
C :0.5N/mm未満
【0049】
[可とう性]
実施例及び比較例で製造した各絶縁電線それぞれについて、長さ300mmの直状試験片を切り出し、長手方向に15%まで伸長した後、直径4.0mmの鉄芯を軸として、導体のエッジ(短辺)面方向に直状試験片を180°(U字状)に曲げた。曲げ部の頂点の皮膜の割れの有無を調べた。割れが認められなかった場合には絶縁電線を20%まで伸長して同様に評価した。また、20%でも割れが認められなかった場合には絶縁電線を25%まで伸長して同様に評価した。結果を下記評価基準に基づき可とう性を評価した。なお、「15%伸長」とは、直状試験片の長さが試験前の長さに比べて1.15倍になるまで伸長したことを意味する。

-評価基準-
A+:25%伸長で割れが生じない。
A :20%伸長で割れが生じないが、25%伸長で割れが生じる。
B :15%伸長で割れは生じないが、20%伸長で割れが生じる。
C :15%伸長で割れが生じる。
【0050】
【表1】
【0051】
比較例1の絶縁電線は、内側層を有さず、導体と接して配される絶縁層の厚さが5μm以上であるため、絶縁層の導体密着性に劣る結果となった。これは、導体と接して配される絶縁層の厚さが厚いことによりブツが発生するなどして、絶縁層と導体との密着力が低下したためであると考えられる。また、比較例2の絶縁電線は、外側層を有さず、内側層を構成する絶縁層の平均厚さが4μmであるため、当該絶縁層の機械特性の向上には至らず、曲げ加工性に劣ることがわかった。
【0052】
これに対し、本発明の規定を全て満たす絶縁電線(実施例1~11)は、導体密着力に優れ、また曲げ加工性にも優れることが示された。
【符号の説明】
【0053】
1 絶縁電線
11 導体
12 内側層
13 外側層
14 内側最内層
15 外側最内層
30 ステータ
31 ステータコア
32 スロット
33 コイル
34 電線セグメント
34a 開放端部
図1
図2
図3
図4
図5