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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088523
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車両制御方法及び車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20240625BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240625BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240625BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240625BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240625BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240625BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240625BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20240625BHJP
【FI】
B60W10/26 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L9/18 P
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203754
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 弘道
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB01
3D202BB18
3D202CC01
3D202DD17
3D202DD18
3D202DD25
3D202DD27
3D202DD28
3D202EE00
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA04
5H125BB07
5H125BD17
5H125CA02
5H125EE07
5H125EE13
5H125EE31
5H125EE48
(57)【要約】
【課題】走行用モータに振動や駆動力を発生させることなく、コンデンサの残留電荷を速やかに放電させる。
【解決手段】内燃エンジンと、内燃エンジンによって駆動されることで発電を行う第1モータと、第1モータ又はバッテリの少なくとも一方から供給される電力によって駆動されることで駆動輪を回転させる第2モータ(走行用モータ)と、複数のスイッチング素子を備え、第1モータ及び第2モータの動作を制御するインバータと、インバータが有する平滑コンデンサと、を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法において、システムリレーがオフになった場合に、第1モータに稼働していない状態の前記内燃エンジンを回転させる放電処理を実行することによって、平滑コンデンサに溜まっている電荷を放電させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンによって駆動されることで発電を行う第1モータと、
前記第1モータ又はバッテリの少なくとも一方から供給される電力によって駆動されることで駆動輪を回転させる第2モータと、
複数のスイッチング素子を備え、前記第1モータ及び前記第2モータの動作を制御するインバータと、
前記インバータが有する平滑コンデンサと、
を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法において、
システムリレーがオフになった場合に、前記第1モータに稼働していない状態の前記内燃エンジンを回転させる放電処理を実行することによって、前記平滑コンデンサに溜まっている電荷を放電させることを特徴とする、車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記平滑コンデンサの電圧が閾値を下回ったら、前記平滑コンデンサが完全放電する前に前記インバータの前記スイッチング素子を全相短絡状態にする、車両制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記平滑コンデンサの電圧が閾値を下回ったら、前記内燃エンジンのスロットルバルブを開いてから前記放電処理を停止する、車両制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御方法において、
前記第1モータのトルクを前記内燃エンジンのフリクショントルク以下に低下させてから前記スロットルバルブを開き、その後に前記放電処理を停止する、車両制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の車両制御方法において、
前記第1モータの制御をトルク制御から位置制御に切り替え、
切り換え時の前記第1モータのロータ位置を目標値とする前記位置制御を実行してから、前記スロットルバルブを開き、その後に前記放電処理を停止する、車両制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記放電処理の実行中に、前記内燃エンジンのいずれかの気筒のピストンが圧縮上死点近傍に到達しても前記平滑コンデンサの電圧が閾値を下回らない場合には、
前記第1モータの制御をトルク制御から位置制御に切り替えて前記ピストンが前記圧縮上死点近傍にある状態で前記内燃エンジンの回転を一時停止させ、
その状態で前記内燃エンジンのスロットルバルブを一度開閉した後、前記内燃エンジンの回転を再開させる、車両制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の車両制御方法において、
前記内燃エンジンのスロットルバルブを全閉状態にして前記放電処理を実行する、車両制御方法。
【請求項8】
内燃エンジンと、
前記内燃エンジンによって駆動されることで発電を行う第1モータと、
前記第1モータ又はバッテリの少なくとも一方から供給される電力によって駆動されることで駆動輪を回転させる第2モータと、
複数のスイッチング素子を備え、前記第1モータ及び前記第2モータの動作を制御するインバータと、
前記インバータが有する平滑コンデンサと、
を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御装置において、
システムリレーがオフになった場合に、前記第1モータに稼働していない状態の前記内燃エンジンを回転させる放電処理を実行することによって、前記平滑コンデンサに溜まっている電荷を放電させる制御部を備えることを特徴とする、車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御方法及び車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両(HEV)や電気自動車(BEV)といった電動車両のように高電圧で走行用モータを駆動するシステムにおいては、安全性の観点から、システム停止後にインバータが備えるコンデンサの残留電荷を速やかに放電することが要求される。例えば、中国の法規(中華人民共和国国家標準)では、アクティブ放電要件を満たす場合には、モータの電源が切断されてから3秒以内にコンデンサを60Vまで放電させる必要がある。
【0003】
上記の放電のための制御として、文献1には、励磁電流指令を所定値に、トルク電流指令をゼロとしたモータ電流制御が記載されている。当該制御によれば、励磁電流指令が所定値(つまりゼロではない)なため、コンデンサの電荷は走行用モータの巻線にて放電される。そして、トルク電流指令がゼロであるため走行用モータにトルクが付与されることがなく、したがって車両が走行することがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-070196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載された制御のようにトルク電流指令をゼロに設定しても、実際に走行用モータに通電させたときにトルクをゼロにすることは現実的には難しい。このため、上記文献に記載された制御では、走行用モータに通電することで振動が発生したり、駆動力が発生したりするおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、走行用モータに振動や駆動力を発生させることなく、コンデンサの残留電荷を速やかに放電させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、内燃エンジンと、内燃エンジンによって駆動されることで発電を行う第1モータと、第1モータ又はバッテリの少なくとも一方から供給される電力によって駆動されることで駆動輪を回転させる第2モータと、複数のスイッチング素子を備え第1モータ及び第2モータの動作を制御するインバータと、インバータが有する平滑コンデンサと、を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法が提供される。この方法では、システムリレーがオフになった場合に、第1モータに稼働していない状態の内燃エンジンを回転させる放電処理を実行することによって、平滑コンデンサに溜まっている電荷を放電させる。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、走行用モータに振動や駆動力を発生させることなく、コンデンサの残留電荷を速やかに放電させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る制御を適用する車両の駆動システムのブロック図である。
図2図2は、第1実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図3図3は、クランクシャフトの回転量と使用電力量との関係を示す図である。
図4図4は、第2実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図5図5は、第3実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図6図6は、第4実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図7図7は、第5実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図8図8は、第6実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
図9図9は、第7実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る制御を適用する車両の駆動システムを示すブロック図である。本実施形態における車両は、内燃エンジン12と、発電用の第1モータ4と、バッテリ1と、走行用の第2モータ22と、を備えるシリーズ式のハイブリッド車両である。第1モータ4及び第2モータ22はいずれも三相交流モータである。
【0012】
第1モータ4は内燃エンジン12と機械的に連結されており、内燃エンジン12によって駆動されて発電する。第1モータ4で発電した電力は、基本的には二次電池等で構成されるバッテリ1に充電されるが、加速時等には直接第2モータ22へ供給されることもある。また第1モータ4はバッテリ1の電力を用いて力行し、内燃エンジン12を回転させることもできる。
【0013】
第2モータ22は、バッテリ1及び第1モータ4と電気的に接続されており、第1モータ4又はバッテリ1の少なくとも一方から供給される電力によって駆動されて駆動輪を回転させる。また、第2モータ22は車両減速時に駆動輪に連れ回れることによって車両の運動エネルギを電力として回生することもできる。回生によって生じた電力はバッテリ1に蓄えられる。
【0014】
本実施形態における車両は、バッテリ1の直流電力を交流電力に変換するインバータ3と、直流電力を平滑化する平滑コンデンサ5と、を備え、バッテリ1はシステムリレー2を介してインバータ3に接続されている。
【0015】
システムリレー2は、運転者によるキースイッチのオン/オフ操作に連動して、車両コントローラ11により開閉駆動する。すなわち、システムリレー2は、キースイッチがオンのときに閉じ、オフのときに開く。
【0016】
インバータ3は、第1モータ4を制御する回路(以下、第1モータ用回路ともいう。)と第2モータ22を制御する回路(以下、第2モータ用回路ともいう。)に分かれており、両者は平滑コンデンサ5に対して並列に接続されている。なお、両者は同じ構成であるため、ここでは第1モータ用回路について説明し、第2モータ用回路については説明を省略する。
【0017】
第1モータ用回路は、複数のスイッチング素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:IGBT)Tr1~Tr6と、各スイッチング素子Tr1~Tr6に並列に接続され、スイッチング素子Tr1~Tr6の電流方向とは逆方向に電流が流れる整流素子(ダイオード)D1~D6を有し、バッテリ1の直流電力を交流電力に変換して、第1モータ4に供給する。本例では、2つのスイッチング素子を直列に接続した3対の回路がバッテリ1に並列に接続され、各対のスイッチング素子管とモータ4の3相入力部とがそれぞれ接続されている。
【0018】
図1に示す例でいえば、スイッチング素子Tr1とTr2、スイッチング素子Tr3とTr4、スイッチング素子Tr5とTr6がそれぞれ直列に接続され、スイッチング素子Tr1とTr2の間と第1モータ4のU相、スイッチング素子Tr3とTr4の間と第1モータ4のV相、スイッチング素子Tr5とTr6の間と第1モータ4のW相がそれぞれ接続されている。なお、インバータ3の動作の詳細については後述する。
【0019】
システムリレー2とインバータ3との間には、直流電力を平滑化するためのコンデンサ5がバッテリ1と並列に接続されている。
【0020】
車両コントローラ11は、中央演算装置CPU、リードオンリメモリROM及びランダムアクセスメモリRAMを備え、車両のアクセル信号、ブレーキ信号、シフトポジション信号等に基づいてトルク指令値、リレー開閉情報、起動・停止要求信号等を設定し、これらを発電モータコントローラ10、駆動モータコントローラ21へ出力する。
【0021】
制御部としての発電モータコントローラ10は、インバータ3の動作を制御する。すなわち、発電モータコントローラ10は車両コントローラ11からのトルク指令値に基づいてパルス幅変調(PWM)信号を生成し、これを第1ゲート駆動回路9へ出力する。第1ゲート駆動回路9は、生成されたPWM信号に基づいて各スイッチング素子Tr1~Tr6を所定のタイミングでオン/オフ制御する。また、発電モータコントローラ10は、エンジンコントローラ13からの内燃エンジン12のピストン位置情報の入力と、エンジンコントローラ13へのスロットルバルブ開閉要求の出力も行う。エンジンコントローラ13と連携して行う制御については後述する。
【0022】
第1ゲート駆動回路9は、スイッチング素子Tr1~Tr6の過熱異常や過電流異常を検出し、IGBT異常信号を発電モータコントローラ10へ出力する機能を備える。
【0023】
また、第1ゲート駆動回路9は、平滑コンデンサ5の電圧を検出する電圧センサ8からの信号を入力し、発電モータコントローラ10が認識できる波形レベルに変換し、コンデンサ電圧信号として発電モータコントローラ10へ出力する。
【0024】
以上のような制御を行う際に、発電モータコントローラ10は、第1モータ4に設けられた回転子位置センサ7(例えばレゾルバやエンコーダ等。)からの出力であって第1モータ4の回転子位置を示す位置センサ信号と、インバータ3から第1モータ4に供給される各相電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサ6からのフィードバック信号と、平滑コンデンサ5の両端子間に接続された電圧センサ8からのコンデンサ電圧信号を読み込む。
【0025】
第2モータ用回路は、上述した通りスイッチング素子Tr1~Tr6等については第1モータ用回路と同じであり、第1モータ用回路の第1ゲート駆動回路9が第2ゲート駆動回路20に、同じく発電モータコントローラ10が駆動モータコントローラ21に、制御対象が発電用の第1モータ4から走行用の第2モータ22にそれぞれ置き換わったものである。
次に、本実施形態における放電処理について説明する。
【0026】
本実施形態でいう放電処理とは、システム停止後に平滑コンデンサ5の残留電荷を放電する処理のことである。これは主に安全上の観点から行うものであり、放電終了後の電圧や当該電圧までの降下時間等については各国の法令等により定められている。
【0027】
放電処理として、第2モータ22を使う方法が考えられるが、第2モータ22でトルクが発生すると車両が走行してしまうため、トルクを発生させないように通電する必要がある。そのためには励磁電流指令を所定値に、トルク電流指令値をゼロにそれぞれ設定すればよいが、トルク電流指令値を設定通りにゼロにすることは現実的には難しく、発生したトルクにより車体が動いたり振動したりするおそれがある。また、他の放電処理として、モータを駆動することなく、所定周期でスイッチング素子のオン/オフを繰り返し行う方法も考えられる。しかし、1回のオン/オフによるスイッチング損失は小さいので、所定時間内で放電完了するためには高周波でのスイッチングが必要となり、車両走行に必要な周波数よりも高い周波数に対応した放電処理専用のゲート電源を設ける必要が生じてしまう。
【0028】
そこで本実施形態では、放電処理の放電処理として、キースイッチがオフになったら平滑コンデンサ5の残っているエネルギを用いて第1モータ4を力行させ、稼働していない状態の内燃エンジン12を回転させる。
【0029】
図2は、本実施形態における放電処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0030】
ステップS100では、車両コントローラ11がキースイッチからの信号に基づいてキースイッチがオフになったか否かの判定をオフになるまで繰り返し実行する。
【0031】
ステップS110では、車両コントローラ11が各コントローラ10、13、21へ停止命令を出力する。
【0032】
ステップS120では、車両コントローラ11が、各コントローラ10、13、21が制御を停止したか否かの判定を、制御が停止するまで繰り返し実行する。
【0033】
ステップS130では、車両コントローラ11がシステムリレー2を遮断する。
【0034】
ステップS140では、車両コントローラ11が発電モータコントローラ10へ放電処理を行う旨の命令(以下、放電命令ともいう。)を出力する。
【0035】
ステップS150では、発電モータコントローラ10が稼働していない状態の内燃エンジン12を回転させる。すなわち発電モータコントローラ10が第1モータ4を駆動させ、第1モータ4と機械的に連結された内燃エンジン12のクランクシャフトを回転させる。第1モータ4及び内燃エンジン12は駆動輪(図示せず)と連結されていないので、本ステップの処理によって車両が動くことはない。また、放電処理専用のハードウェアを設ける必要もない。
【0036】
内燃エンジン12を回転させる際には、発電モータコントローラ10はクランクシャフトの回転速度が10~30[deg/s]程度となるように第1モータ4を制御する。
【0037】
図3は、第1モータ4で内燃エンジン12を回転させる場合の、クランク角(クランクシャフトの回転量)と使用電力量との関係を示す図である。図中の実線は10deg/sで回転させる場合、破線は30deg/sで回転させる場合である。図示する通り、クランク角と使用電力量はほぼ比例している。ここで、平滑コンデンサ5に蓄え得るエネルギが0.1kJ、回転速度が10deg/sのときのクランク角当たりの使用電力量が0.02kJ、回転速度が30deg/sのときのクランク角当たりの使用電力量が0.01kJの場合を考える。
【0038】
回転速度が10deg/sの場合には、キースイッチがオフになったときに平滑コンデンサ5に0.1kJのエネルギが残っていたとしても、クランクシャフトを5deg回転させれば当該エネルギを消費できる。そして、5deg回転させるのに要する時間は約0.4秒である。一方、回転速度が30deg/sの場合は0.1kJのエネルギを消費するためにはクランクシャフトを10deg回転させる必要があり、これに要する時間は約0.3秒である。上述した中国の法規をはじめ多くの国の法規等では、コンデンサを所定電圧以下にするための時間を3~4秒と規定している。したがって、本実施形態によれば、規定された時間より十分に短い時間で平滑コンデンサ5の残留電荷を放電することができる。
【0039】
ステップS160では、発電モータコントローラ10が、コンデンサ電圧が閾値を下回ったか否かの判定を、閾値を下回るまで繰り返し実行する。当該判定はコンデンサ電圧信号に基づいて行う。閾値には、法令で定めされた値を用いてもよいし、それよりも低い値を用いてもよい。例えば、法令で60V以下まで低下させることを要求している場合には閾値を60Vに設定してもよいし、60V以下の値に設定してもよい。
【0040】
ステップS170では、発電モータコントローラ10が制御を停止する。つまり発電モータコントローラ10が第1モータを停止させる。
【0041】
以上のように本実施形態では、内燃エンジン12と、内燃エンジン12によって駆動されることで発電を行う第1モータ4と、第1モータ4又はバッテリ1の少なくとも一方から供給される電力によって駆動されることで駆動輪を回転させる第2モータ22と、複数のスイッチング素子を備え第1モータ4及び第2モータ22の動作を制御するインバータ3と、インバータ3が有する平滑コンデンサ5と、を備えるハイブリッド車両を制御する車両制御方法が提供される。この方法は、システムリレー2がオフになった場合に、発電モータコントローラ10が第1モータ4に稼働していない状態の内燃エンジン12を回転させる放電処理を実行することによって、平滑コンデンサ5に溜まっている電荷を放電させる。第1モータ4は駆動輪と機械的に連結されていないので、上記の放電処理によれば、車体が動くことなく平滑コンデンサ5の残留電荷を放電させることができる。また、本実施形態の放電処理には、放電処理専用のハードウェアは不要である。
【0042】
[第2実施形態]
図4は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)と同様の処理については図2と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる処理、つまりステップS160とステップS170との間のステップS200及びステップS210の処理を中心に説明する。
【0043】
ステップS160でコンデンサ電圧が閾値を下回ったら、ステップS200において、発電モータコントローラ10は全相短絡状態、つまりスイッチング素子Tr1~Tr6を短絡状態にする。
【0044】
そして、ステップS210では、発電モータコントローラ10が、第1モータ4のロータ位置が変化しない状態が所定時間経過したか否かの判定を、所定時間が経過するまで繰り返し実行し、経過したらステップS170の処理を実行する。ここでの所定時間は、エンジン12の筒内圧がピストンリングとシリンダとの隙間等から抜けて大気圧とほぼ等しくなるのに要する時間であり、シミュレーション等で予め設定しておく。
【0045】
上記の通り本実施形態では、平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回った後、完全放電する前にインバータ3のスイッチング素子Tr1~Tr6を全相短絡状態にする。平滑コンデンサ5の残留電荷を用いて非稼働状態の内燃エンジン12を回転させる場合、平滑コンデンサ5が完全放電状態になると第1モータ4がトルクを発生させられなくなる。非稼働状態では内燃エンジン12のスロットルバルブは閉じているので、内燃エンジン12の筒内圧力による反力でクランクシャフトが逆回転するおそれがある。このとき、インバータ3が制御停止状態だと、クランクシャフトの逆回転に伴い第1モータ4も逆回転し、これにより誘起電圧が生じて平滑コンデンサ5が再充電されてしまう。
【0046】
しかし本実施形態では完全放電状態になる前にインバータ3を短絡状態にしておくので、仮にクランクシャフトが逆回転したとしても平滑コンデンサ5が再充電されることはない。
【0047】
以上のように本実施形態では、発電モータコントローラ10は、平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回ったら、前記平滑コンデンサが完全放電する前に前記インバータの前記スイッチング素子を全相短絡状態にする。これにより、平滑コンデンサ5の放電が終了した後に圧縮反力によりクランクシャフトが逆回転しても、平滑コンデンサ5は充電されない。
【0048】
[第3実施形態]
図5は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)と同様の処理については図2と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる処理、つまりステップS160とステップS170との間のステップS300及びステップS310の処理を中心に説明する。
【0049】
ステップS160でコンデンサ電圧が閾値を下回ったら、ステップS300において、発電モータコントローラ10はエンジンコントローラ13へスロットルバルブ開要求を出力する。続くステップS310では、エンジンコントローラ13が上記要求に応じてスロットルバルブを開く。
【0050】
上記の通り本実施形態では、平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回った後、完全放電する前に内燃エンジン12のスロットルバルブを開く。
【0051】
第2実施形態で説明した通り、平滑コンデンサ5の残留電荷を用いて内燃エンジン12を回転させる場合、内燃エンジン12の筒内圧力による反力でクランクシャフトが逆回転し、平滑コンデンサ5が再充電されるおそれがある。また、クランクシャフトの回転方向が反転する際に、エンジンマウントを介して乗員にショックが伝わるおそれがある。
【0052】
その点、本実施形態では完全放電状態になる前にスロットルバルブを開く。スロットルバルブを開くと、吸気行程の途中で吸気バルブが開いている気筒の筒内圧は負圧から大気圧へ変化する。つまりクランクシャフトを逆回転させる力としての負圧がなくなる。また、排気バルブが開いている気筒の筒内圧はスロットルバルブの開閉によらず大気圧である。したがって、クランクシャフトを逆回転させる方向に作用するのは、圧縮行程の途中で吸気バルブ及び排気バルブが閉じた状態の気筒の、大気圧より高くなった筒内圧のみとなる。そして、大気圧より高くなっている筒内圧も、他の気筒の筒内圧(大気圧)に抗してクランクシャフトを逆回転させようとする際に、ピストンリングとシリンダとの隙間等から抜けて大気圧に近づく。これによりクランクシャフトの逆回転を抑制できる。
【0053】
以上のように本実施形態によれば、平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回ったら、発電モータコントローラ10は内燃エンジン12のスロットルバルブを開いてから放電処理を停止する。これにより、平滑コンデンサ5が完全放電状態になる前にスロットルバルブが開かれるので、完全放電状態になった後のクランクシャフトの逆回転を抑制できる。
【0054】
[第4実施形態]
図6は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)及び第3実施形態(図5)と同様の処理については図2図5と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ステップS300及びステップS310は第3実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態及び第3実施形態と異なる処理、つまりステップS160とステップS300との間のステップS400の処理について説明する。
【0055】
ステップS400では、発電モータコントローラ10が第1モータ4のトルクを内燃エンジン12のフリクショントルク以下に変更してクランクシャフトの回転を停止させる。
【0056】
第3実施形態では完全放電状態になる前にスロットルバルブを開く。これによりクランクシャフトを逆回転させる反力としての筒内圧が抜けるので、完全放電状態になったときにクランクシャフトが逆回転することを抑制できる。ただし、第1モータ4が内燃エンジン12のフリクショントルクより大きい状態で反力がなくなると、クランクシャフトの回転の勢いが増してしまい、エンジンマウントを介して乗員にショックが伝わるおそれがある。
【0057】
そこで本実施形態では、第1モータ4のトルクを内燃エンジン12のフリクショントルク以下、換言すると反力がなくなってもクランクシャフトが回転しない程度のトルクまで低下させる。
【0058】
以上のように本実施形態では、第3実施形態と同様の処理に加え、発電モータコントローラ10は第1モータ4のトルクを内燃エンジン12のフリクショントルク以下に低下させてからスロットルバルブを開き、その後に放電処理を停止する。これにより、圧縮反力が抜けた後に第1モータ4のトルクでクランクシャフトの回転の勢いが増すことによるショックの発生を抑制できる。
【0059】
[第5実施形態]
図7は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)及び第3実施形態(図5)と同様の処理については図2図5と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ステップS300及びステップS310は第3実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態及び第3実施形態と異なる処理、つまりステップS160とステップS300との間のステップS500及びステップS510の処理を中心に説明する。
【0060】
ステップS500及びS510は、第4実施形態のステップS400と同様に、スロットルバルブを開くことによってクランクシャフトを逆回転させる反力が抜けてクランクシャフトの回転の勢いが増すことを抑制するための処理である。
【0061】
ステップS500では、発電モータコントローラ10が、第1モータ4の制御を目標トルクに基づいて制御するトルク制御から、目標ロータ位置に基づいて制御する位置制御に切り替え、切り替えたタイミングにおける第1モータ4のロータ位置を記憶する。そしてステップS510では、発電モータコントローラ10が、ステップS500で記憶したロータ位置を目標ロータ位置とする位置制御を実行して第1モータ4を停止させる。これにより内燃エンジン12の回転が停止する。そして、その後、ステップS300~S310でスロットルバルブを開いて内燃エンジン12の筒内圧を抜く。
【0062】
これにより、筒内圧が抜けるまでロータ位置が目標ロータ位置に保持されるので、圧縮反力としての筒内圧によってクランクシャフトが逆回転することを抑制できる。
【0063】
以上のように本実施形態では、第3実施形態と同様の処理に加え、発電モータコントローラ10は、平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回ったら第1モータ4の制御をトルク制御から位置制御に切り替え、切り替え時の第1モータ4のロータ位置を目標値とする位置制御を実行してからスロットルバルブを開き、その後に放電処理を停止する。これにより、圧縮反力としての筒内圧によるクランクシャフトの逆回転を抑制できる。
【0064】
[第6実施形態]
図8は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)及び第5実施形態(図7)と同様の処理については図2図7と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ステップS500~S510は第5実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態及び第5実施形態と異なる処理、つまりステップS600及びステップS610~S630の処理を中心に説明する。
【0065】
ステップS160でコンデンサ電圧が閾値を下回っていないと判定した場合に実行するステップS600では、発電モータコントローラ10が、エンジンコントローラ13からのピストン位置情報に基づいて、いずれかの気筒のピストン位置が圧縮上死点近傍に到達したか否かを判定し、到達した場合にはステップS500の処理を実行し、到達していない場合ステップS160の処理を実行する。ここでいう上死点近傍とは、圧縮上死点から所定クランク角だけ手前の位置である。これは、後述するように位置制御に切り替えて内燃エンジン12の回転を停止させるまでの間に、ピストン位置が圧縮上死点を超えないようにするためであり、例えば、第1モータ4の回転速度が速いほど大きい値にする。
【0066】
そして、ピストン位置が圧縮上死点近傍に到達している場合には、ステップS500~S510で、第1モータ4の制御をトルク制御から位置制御に切り替え、当該切り換えタイミングにおけるロータ位置(つまり圧縮上死点近傍)を目標ロータ位置として第1モータ4を停止させ、これにより内燃エンジン12の回転を停止させる。
【0067】
そして、ステップS610では、発電モータコントローラ10がエンジンコントローラ13へスロットルバルブの開閉を要求する。これを受けてエンジンコントローラ13は、ステップS620でスロットルバルブを開き、ステップS630でスロットルバルブを閉じる。
【0068】
ステップS630の処理が終了したら、ステップS150に戻って、発電モータコントローラ10が第1モータ4を稼働させて内燃エンジン12を回転させる。
【0069】
第1モータ4によって内燃エンジン12を回転させている際に、ピストン位置が圧縮上死点を超えると、それまで第1モータ4のトルクと逆方向に作用していた圧縮反力としての筒内圧が、モータトルクと同方向に作用することとなる。そして、第1モータ4の制御形態がトルク制御だと、第1モータ4の回転速度制御がこの圧縮反力の作用方向の反転に追従できずに、クランクシャフトの回転の勢いが増してエンジンマウントを介して乗員にショックが伝わるおそれがある。
【0070】
しかし、本実施形態ではピストン位置が圧縮上死点を超える前に内燃エンジン12の回転を停止させ、スロットルバルブを開閉することにより筒内圧を抜いた後に、内燃エンジン12の回転を再開するので、内燃エンジン12の回転の勢いが増すことを抑制できる。
【0071】
以上のように本実施形態では、放電処理の実行中に、内燃エンジン12のいずれかの気筒のピストンが圧縮上死点近傍に到達しても平滑コンデンサ5の電圧が閾値を下回らない場合には、発電モータコントローラ10は、第1モータ4の制御をトルク制御から位置制御に切り替えてピストンが圧縮上死点近傍にある状態で内燃エンジン12の回転を一時停止させ、その状態で内燃エンジン12のスロットルバルブを一度開閉した後、内燃エンジンの回転を再開させる。これにより、ピストンが圧縮上死点を通過した後に内燃エンジン12の回転の勢いが増すことを抑制できる。
【0072】
[第7実施形態]
図9は、本実施形態に係る放電処理の処理内容を示すフローチャートである。第1実施形態(図2)と同様の処理については図2と同じステップ番号を付している。すなわち、ステップS100~S160及びステップS170は第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。以下、第1実施形態と異なる処理、つまりステップS140とステップS150との間のステップS700及びステップS710の処理を中心に説明する。
【0073】
ステップS700では、発電モータコントローラ10がエンジンコントローラ13へスロットルバルブを全閉にすることを要求する。スロットルバルブは、内燃エンジン12が非稼働の状態においては、全閉付近で少し開いた状態(以下、通常停止状態ともいう)となっているが、ここでは全閉にすることを要求する。ステップS710では、エンジンコントローラ13が上記要求に応じてスロットルバルブを全閉にする。すなわち、本実施形態では放電命令が出されたら、スロットルバルブが全閉の状態で内燃エンジン12を回転させる。なお、第1~第6実施形態では通常停止状態で内燃エンジン12を回転させる。
【0074】
スロットルバルブを全閉にすることで、通常停止状態よりもポンピングロスが大きくなる。これはすなわち圧縮反力が大きくなるということであり、圧縮反力が大きくなる分、内燃エンジン12を回転させることによる電力消費量が大きくなるので、放電処理の完了までの時間をより短縮できる。
【0075】
以上のように本実施形態では、発電モータコントローラ10は、内燃エンジン12のスロットルバルブを全閉状態にして放電処理を実行する。これにより、放電処理に要する時間をより短くすることができる。
【0076】
なお、第7実施形態において、ステップS700でスロットルバルブを全開にすることを要求し、ステップS710でスロットルバルブを全開にしてもよい。全開にすることで通常停止状態よりも圧縮反力が小さくなり、内燃エンジン12を回転させることによる電力消費量も小さくなる。その一方、圧縮反力が小さくなるこということは、平滑コンデンサ5の放電が終了して第1モータ4がトルクを出せなくなったときにクランクシャフトを逆回転させる力が小さくなるということである。すなわち、スロットルバルブを全開にした状態で放電処理を行うと、上述したクランクシャフトの逆回転による平滑コンデンサ5の再充電や、クランクシャフトの回転方向の反転によるショックの発生を抑制できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 バッテリ、 2 システムリレー、 3 インバータ、 4 第1モータ、 5 平滑コンデンサ、 10 発電モータコントローラ、 11 車両コントローラ、12 内燃エンジン、 13 エンジンコントローラ
図1
図2
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図4
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図7
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図9