(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088531
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】時間ゼロ信号発生装置
(51)【国際特許分類】
F42B 3/12 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
F42B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203766
(22)【出願日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390037224
【氏名又は名称】日本工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山上 順民
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 健司
(57)【要約】
【課題】作業員の利便性や発破に関する管理を容易とする時間ゼロ信号発生装置を提供する。
【解決手段】発破の開始を示す時間ゼロ信号を発生させる時間ゼロ信号発生装置としての発破器1であって、発破母線を介して電気雷管に接続される点火電流出力回路10Aと、前記時間ゼロ信号を生成するゼロ信号出力回路10Bと、一つ以上のスイッチとしての点火スイッチ3および安全スイッチ4と、を備え、点火電流出力回路10Aとゼロ信号出力回路10Bとは、電気的に独立した回路であり、前記スイッチによって連動している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発破の開始を示す時間ゼロ信号を発生させる時間ゼロ信号発生装置であって、
発破母線を介して電気雷管に接続される点火電流出力回路と、
前記時間ゼロ信号を生成するゼロ信号出力回路と、
一つ以上のスイッチと、を備え、
前記点火電流出力回路と前記ゼロ信号出力回路とは、電気的に独立した回路であり、前記スイッチによって連動している、
ことを特徴とする時間ゼロ信号発生装置。
【請求項2】
前記点火電流出力回路は、前記スイッチに応じて開閉状態が切り替わる電流出力側接点を有し、また、前記ゼロ信号出力回路は、前記スイッチに応じて開閉状態が切り替わる信号出力側接点を有しており、
前記スイッチの操作に応じて、前記点火電流出力回路が点火電流を前記発破母線に流すと同時に、前記ゼロ信号出力回路が前記時間ゼロ信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の時間ゼロ信号発生装置。
【請求項3】
前記スイッチは、プッシュスイッチと、キースイッチとで構成され、
前記プッシュスイッチは、押下されることによって前記点火電流を前記発破母線に流すことが可能な状態とするものであり、
前記キースイッチは、前記点火電流を充電するための充電位置、および、前記点火電流を前記発破母線に流すための点火位置があり、
前記信号出力側接点は、第1の接点と、第2の接点とを有し、
前記第1の接点は、前記プッシュスイッチが押下されることでオープンコレクタ信号回路に信号出力側電源を接続するものであり、
前記第2の接点は、前記キースイッチが前記充電位置から前記点火位置に操作されることで前記オープンコレクタ信号回路を作動させるものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の時間ゼロ信号発生装置。
【請求項4】
前記点火電流出力回路の動作が可能なことを示す電流出力側発光部と、前記ゼロ信号出力回路の動作が可能なことを示す信号出力側発光部と、を有し、
前記電流出力側発光部は、前記点火電流出力回路が備える電流出力側電源に接続され、前記信号出力側発光部は、前記ゼロ信号出力回路が備える信号出力側電源に接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の時間ゼロ信号発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間ゼロ信号発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの工事においては、発破による掘削が一般的に行われている。現代のトンネル発破工法では、電気雷管を用いて順次起爆する電気発破工法が主流である。電気発破工法では、所定の電流を流すことで自動的に起爆する電気雷管、および、電気雷管に対して所定の電流を流す発破用電気点火器(一般的に「発破器」と呼ばれる)が使用される。コンデンサ式発破器の規格は、例えば「JIS M 2505-1994」に記載があり、この規格に基づいて従来の発破器が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-000800号公報
【特許文献2】特開2014-169832号公報
【特許文献3】特開2017-166881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の発明者は、高度な電子化、IT化、AI化などの技術革新が進む中で、旧態依然の発破器ではこれらの技術革新に対応できないと考えた。そのため、発破器に要求される仕様を再度検討し、求められる仕様を満たす新たな発破器の開発を進めた。発破器に求められる仕様は、例えば以下の(1)~(3)に示す通りである。
【0005】
(1)時間ゼロ信号が確実に得られること
発破における安全の管理や振動・騒音の管理を実現するためには、起爆の瞬間、すなわちどのタイミングで発破が行われたのかを正確に把握する必要がある。例えば、火薬類取締法に定める安全待機時間の管理、発破後の各種装置の運転再開や運転モードの変更には、発破の行われた時刻を知る必要がある。特に、換気装置や集塵装置は、発破の爆風による破損を防止するために発破の前に停止し、 発破完了後は直ちに運転を再開することが望ましい。そのためには、発破時刻を検知して換気装置や集塵装置に連携することが必要である。
【0006】
また、山岳トンネルの工事においては、地山の状況を把握することが重要である。時間ゼロ信号が正確であれば振動第1波(直接波)が到達するまでの時間を正しく知ることができるため、地山の弾性波速度(平均速度)をその都度正確に得ることが可能となる。一般的に、弾性波速度が速い程安定した強固な岩盤であり、弾性波速度が発破の度に遅くなると、地山は軟弱な方向に向かっている場合が多い。
【0007】
また、山岳トンネルの工事において、施工上問題となる可能性のある破砕帯、湧水帯などの地山情報を事前に把握することは重要である。地山情報を事前に把握するために、反射法地震探査の原理を用いた切羽前方探査が行われてきた。切羽前方探査の従来方法として、TSP(Tunnel Seismic Prediction)法とTFT(Tunnel Face Tester)法が知られている。TFT法は、トンネル切羽を発破し振動を発生させ、破砕帯等で反射した反射波をトンネル周壁面に配置した受振器および記録装置で受振や記録する。TFT法を用いて掘削しようとする地山情報を精度よく予測するためには、どのタイミングで発破による振動が発生したのかを数ミリ秒オーダーの正確さで知る必要があるので、時間ゼロ信号が正確でなければならない。
【0008】
(2)火薬類取締法に抵触しないこと
火薬類取締法では、発破母線に発破回路以外の装置(例えば、計測装置)を接続することが原則認められていない。接続された装置に万一漏電があると、作業中に誤爆の危険があるためである。なお、誤爆に至らない場合でも、作業員は電線に直接触れるので、感電する危険がある。そのため、発破のタイミングの検知には工夫が必要である。例えば、電流センサーなど電気的に非接触のセンサーを使用することで点火電流を検知することも考えられる(例えば、特許文献2,3参照)。しかしながら、電流センサーなどの電流検知器を用いる場合、発破器、第1発破母線、電流検知器、第2発破母線、電気雷管へと発破回路の接続が通常と大きく変わり、その分だけ構成が複雑になるので望ましくない(発破母線など発破回路に一切の変更がないことが望ましい)。
【0009】
(3)現場の作業員がこれまで通りの感覚で使用できること
現在、一般的に使用されている発破器から外観上の変化が極力少なく、また、充電、安全装置解除、点火の一連の操作方法に変更がないことが望ましい。
また、発破の際に、発破器から電気雷管に通電される電流は、数から数十アンペア以上、電圧は1000ボルト以上となり、もしも短絡(ショート)したならば、爆音を伴った火花が飛び散るほど強力である。これにより、計測系が電気的なノイズの影響を受けてしまうので、ノイズを吸収する機能を備えることが望ましい。
このような観点から、本発明は、作業員の利便性や発破に関する管理を容易とする時間ゼロ信号発生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る時間ゼロ信号発生装置は、発破の開始を示す時間ゼロ信号を発生させる装置である。この時間ゼロ信号発生装置は、発破母線を介して電気雷管に接続される点火電流出力回路と、前記時間ゼロ信号を生成するゼロ信号出力回路と、一つ以上のスイッチとを備える。前記点火電流出力回路と前記ゼロ信号出力回路とは、電気的に独立した回路であり、前記スイッチによって連動している。
例えば、前記点火電流出力回路は、前記スイッチに応じて開閉状態が切り替わる電流出力側接点を有し、また、前記ゼロ信号出力回路は、前記スイッチに応じて開閉状態が切り替わる信号出力側接点を有する。前記スイッチの操作に応じて、前記点火電流出力回路が点火電流を前記発破母線に流すと同時に、前記ゼロ信号出力回路が前記時間ゼロ信号を出力する。
本発明に係る時間ゼロ信号発生装置においては、点火電流出力回路とゼロ信号出力回路とがスイッチによって連動するので、発破の操作と同時に時間ゼロ信号を確実に出力することができる。また、点火電流出力回路とゼロ信号出力回路とが電気的に独立しているので、火薬類取締法の要件を満たし、また従来の発破器からの変更も容易かつ操作性に影響を与えない範囲に収めることが可能である。
【0011】
前記スイッチは、例えば、プッシュスイッチと、キースイッチとで構成される。前記プッシュスイッチは、押下されることによって前記点火電流を前記発破母線に流すことが可能な状態とするものである。前記キースイッチは、前記点火電流を充電するための充電位置、および、前記点火電流を前記発破母線に流すための点火位置がある。前記信号出力側接点は、第1の接点と、第2の接点とを有し、前記第1の接点は、前記プッシュスイッチが押下されることでオープンコレクタ信号回路に信号出力側電源を接続するものである。前記第2の接点は、前記キースイッチが前記充電位置から前記点火位置に操作されることで前記オープンコレクタ信号回路を作動させるものである。
このようにすると、キースイッチを点火位置にしたままの状態(通常は、点火位置が初期位置「切」をかねる)で安全スイッチを押下することにより、ゼロ信号出力回路が正常に動作するかを点検することが可能である。
【0012】
前記時間ゼロ信号発生装置は、前記点火電流出力回路の動作が可能なことを示す電流出力側発光部と、前記ゼロ信号出力回路の動作が可能なことを示す信号出力側発光部と、を有するようにしてもよい。前記電流出力側発光部は、前記点火電流出力回路が備える電流出力側電源に接続され、前記信号出力側発光部は、前記ゼロ信号出力回路が備える信号出力側電源に接続されている。
このようにすると、電気的に独立した点火電流出力回路およびゼロ信号出力回路の動作を各々確認することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業員の利便性や発破に関する管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る発破器の正面図である。
【
図2】点火スイッチの外観図であり、(a)は前方から見た斜視図であり、(b)は後方から見た斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る発破器のブロック図(発破前の状態)である。
【
図4】本発明の実施形態に係る発破器のブロック図(点火スイッチを充電にひねった状態)である。
【
図5】本発明の実施形態に係る発破器のブロック図(充電完了後に安全スイッチをONした状態)である。
【
図6】本発明の実施形態に係る発破器のブロック図(安全スイッチをON状態のまま点火スイッチを点火にひねった状態)である。
【
図7】本発明の実施形態に係る発破器のブロック図(点火スイッチを切ったまま安全スイッチをONした状態)である。
【
図8】本発明の実施形態に係る発破器を切羽前方探査に用いる場合の構成図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る発破器を換気システムに連携する場合の構成図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る発破器を振動・騒音測定装置と連携する場合の構成図である。
【
図14】第4実施例を説明するための回路図である。
【
図15】第5実施例を説明するための回路図である。
【
図16】比較例としての従来の発破器のブロック図の一例である。
【
図17】比較例としての従来の発破器の回路図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0016】
[構成]
図1を参照して、実施形態に係る発破器1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る発破器1の正面図である。
図1に示す発破器1は、掘削用発破を開始する機器である。掘削用発破は、トンネル切羽に配置された爆薬(図示略)を爆破させ、地山を破砕することである。発破器1は、発破母線9によって電気雷管(爆薬)に接続される。発破器1は、発破の開始を示す時間ゼロ信号を出力することが可能になっている。本実施形態ではコンデンサ式発破器を例示するが、発破器1は、コンデンサ式以外の機器であってもよい。なお、発破器1は、「時間ゼロ信号発生装置」の一例である。
【0017】
図1に示す発破器1は、箱形の筐体2を有し、筐体2の前面には、点火スイッチ3と、安全スイッチ4と、接続端子5と、出力部6と、第1発光部7と、第2発光部8とが設けられる。また、筐体2の内部には、制御部10が収納される。
発破器1は、点火スイッチ3に操作キー3aを差し込み、操作キー3aをひねると充電開始となり、充電完了後に安全スイッチ4を押しながら点火スイッチ3を点火位置に戻すと発破母線9に通電する。
【0018】
点火スイッチ3は、電気雷管を爆発させるために使用させる操作部(切替操作手段)である。本実施形態での点火スイッチ3は、キースイッチであり、操作キー3aを挿入した状態で操作可能である。点火スイッチ3の構成を
図2に示す。
図2は、点火スイッチ3の外観図であり、(a)は前方から見た斜視図であり、(b)は後方から見た斜視図である。
図2(a)に示すように、点火スイッチ3は、操作キー3aが挿入される駆動部3bと、駆動部3bに接続される一つ以上の接点ユニット3c(
図2では、二つ)とを備える。各々の接点ユニット3cは、一つまたは複数の接点を有しており、例えば、a接点用のユニットとb接点用のユニットのように、ユニット単位で接点の種類が設定されている。点火スイッチ3の操作部(切替操作手段)を操作することで、接点ユニット3c内のすべての接点を同時に切り替えることができる。なお、一つの接点ユニット3c内に複数の接点がある場合であっても、これら二つの接点を電気的に分離することが可能である。駆動部3bは、操作キー3aが挿入されることで前後方向を回転軸として時計回り(または反時計回り)に回転可能(角度を変更することが可能)である。接点ユニット3cは、操作キー3aをひねる(1/4回転する)操作に応じて切り替わる接点を有する。本実施形態の点火スイッチ3は、少なくとも複数の接点を有する。
【0019】
図1に示す安全スイッチ4は、点火スイッチ3の誤操作を防ぐために点火スイッチ3と共に操作する操作部(切替操作手段)である。本実施形態での安全スイッチ4は、プッシュスイッチであり、押圧力を解除することで初期状態に自動で戻るようになっている。安全スイッチ4は、点火スイッチ3と同様に接点ユニットを有し、少なくとも複数の接点を有する。
【0020】
図1に示す接続端子5には、発破母線9を介して電気雷管が接続される。
出力部6は、発破の開始を示す時間ゼロ信号が出力される。出力部6には、ケーブル6aを介して図示しない装置が接続される。
第1発光部7および第2発光部8は、例えばLEDである。第1発光部7は、発破を行うための充電が完了した場合に点灯する。第2発光部8は、時間ゼロ信号を出力する準備が完了した場合に点灯する。第1発光部7は、「電流出力側発光部」の一例であり、第2発光部8は、「信号出力側発光部」の一例である。
【0021】
図1に示すように、制御部10は、点火電流出力回路10Aと、ゼロ信号出力回路10Bとを備える。点火電流出力回路10Aとゼロ信号出力回路10Bとは、電気的に独立した回路であり、点火スイッチ3および安全スイッチ4によって連動している。
図3を参照して、制御部10の構成を説明する。
図3は、実施形態に係る発破器1のブロック図(発破前の状態)である。
【0022】
図3に示すように、点火電流出力回路10Aは、電流出力側電源11と、インバータ式の昇圧回路12と、整流装置13と、コンデンサ14と、放電抵抗15と、電圧監視回路16と、接続端子5と、第1発光部7とを主に備える。また、点火電流出力回路10Aは、点火スイッチ3の操作によって通電状態と非通電状態とが切り替わる二つの接点S1,S2と、安全スイッチ4の操作によって通電状態と非通電状態とが切り替わる二つの接点T1,T2とを有する。
【0023】
接点S1は、電流出力側電源11と昇圧回路12との間に設けられており、スイッチを操作すると開いていた回路が閉じる「a接点」を構成する。a接点は、スイッチの非操作時に非通電状態となる常時開型接点である。
接点S2は、コンデンサ14と放電抵抗15および接続端子5との間に設けられており、スイッチを操作すると閉じていた回路が開く「b接点」を構成する。b接点は、スイッチの非操作時に通電状態となる常時閉型接点である。
接点T1は、コンデンサ14と放電抵抗15との間に設けられており、スイッチを操作すると閉じていた回路が開く「b接点」(ノーマリークローズ:常時閉型)を構成する。
接点T2は、コンデンサ14と接続端子5との間に設けられており、スイッチを操作すると開いていた回路が閉じる「a接点」(ノーマリーオープン:常時開型)を構成する。
【0024】
図3に示すように、ゼロ信号出力回路10Bは、信号出力側電源18と、オープンコレクタ信号回路17と、出力部6と、第2発光部8とを主に備える。また、ゼロ信号出力回路10Bは、点火スイッチ3の操作によって通電状態と非通電状態とが切り替わる一つ接点S3と、安全スイッチ4の操作によって通電状態と非通電状態とが切り替わる一つの接点T3とを有する。
接点S3は、オープンコレクタ信号回路17に接続されており、スイッチを操作すると閉じていた回路が開く「b接点」(ノーマリークローズ:常時閉型)を構成する。
接点T3は、信号出力側電源18とオープンコレクタ信号回路17との間に設けられており、スイッチを操作すると開いていた回路が閉じる「a接点」(ノーマリーオープン:常時開型)を構成する。
なお、接点T3は、「第1の接点」の一例であり、接点S3は、「第2の接点」の一例である。
【0025】
[動作]
図3ないし
図6を参照して(適宜、
図1および
図2を参照)、実施形態に係る発破器1の動作について説明する。
図3は、実施形態に係る発破器1のブロック図(発破前の状態)である。
図4は、実施形態に係る発破器1のブロック図(点火スイッチ3を充電にひねった状態)である。
図5は、実施形態に係る発破器1のブロック図(充電完了後に安全スイッチ4をONした状態)である。
図6は、実施形態に係る発破器1のブロック図(安全スイッチ4をON状態のまま点火スイッチ3を点火にひねった状態)である。
図7は、実施形態に係る発破器1のブロック図(点火スイッチ3を切ったまま安全スイッチ4をONした状態)である。最初に、発破を行う場合の動作を説明し、その後でゼロ信号出力回路10Bを点検する場合の動作を説明する。
【0026】
<発破を行う場合の動作(発破前の状態)>
点火スイッチ3の操作キー3aが「点火/切」に位置するスイッチ非操作状態(
図1参照)では、
図3に示すように、接点S1が開状態(OFF)であり、接点S2が閉状態(ON)であり、接点S3が閉状態(ON)である。また、
図1に示す安全スイッチ4が押下されていないスイッチ非操作状態(OFF状態)では、
図3に示すように、接点T1が閉状態(ON)であり、接点T2が開状態(OFF)であり、接点T3が開状態(OFF)である。
【0027】
(点火スイッチを充電にひねった状態)
図1の状態で点火スイッチ3の操作キー3aを時計回りに(右回り)にひねり、操作キー3aを「充電」の位置まで回転させる(スイッチ操作状態)。これにより、接点S1,S2,S3の接続が同時に切り替わる。例えば、a接点を構成するS1は、点火スイッチ3の一の接点ユニット3cに収容されており、b接点を構成するS2,S3は、点火スイッチ3の他の接点ユニット3cに収容されているが、接点S1,S2,S3のON/OFFは、点火スイッチ3の操作に連動して同時に切り替わる。具体的には、
図4に示すように、接点S1が閉状態となり、電流出力側電源11から昇圧回路12に電流が流れる。昇圧回路12は、発振回路で「1000Hz」程度の交流に変換し、トランスを使って昇圧する。次に、整流装置13が直流に変換し、変換された電力はコンデンサ14に蓄えられる。コンデンサ14の充電が完了した場合に、第1発光部7が発光する。また、接点S2が開状態となり、コンデンサ14と接続端子5との接続が遮断される。また、接点S3が開状態となる。
【0028】
(充電完了後に安全スイッチをONした状態)
次に、
図1に示す安全スイッチ4を押下したスイッチ操作状態(ON状態)とする。これにより、接点T1,T2,T3の接続が同時に切り替わる。具体的には、
図5に示すように、接点T1が開状態となり、また、接点T2が閉状態となる。なお、接点S2が開状態のままなので、コンデンサ14と接続端子5との遮断状態が継続し、接続端子5に点火電流は流れない。また、接点T3が閉状態となり、信号出力側電源18からオープンコレクタ信号回路17への電力の供給が開始される。これにより、第2発光部8が発光する。
【0029】
(安全スイッチをON状態のまま点火スイッチを点火にひねった状態)
次に、
図1に示す安全スイッチ4を押下した状態(ON状態)のまま、点火スイッチ3の操作キー3aを反時計回りに(左回り)にひねって「点火/切」の位置まで回転させる。これにより、点火スイッチ3がスイッチ非操作状態に戻り、接点S1,S2,S3の接続が同時に切り替わる。具体的には、
図6に示すように、接点S1が開状態となり、電流出力側電源11から昇圧回路12への電力の供給が停止する。また、接点S2が閉状態となり、コンデンサ14と接続端子5とが接続され、点火電流が発破母線9を介して電気雷管に流れる。これにより、発破が行われる。また、接点S1,S2の開閉状態の切り替えと同時に接点S3が閉状態となってオープンコレクタ信号回路22が作動し、オープンコレクタ信号回路22から時間ゼロ信号が出力される。つまり、点火電流出力回路10Aおよびゼロ信号出力回路10Bが、点火スイッチ3および安全スイッチ4により連動し、点火電流と時間ゼロ信号とが同時に出力される。すなわち、点火電流出力回路10Aに備わる接点S1,S2およびゼロ信号出力回路10Bに備わる接点S3が点火スイッチ3により連動し、点火電流出力回路10Aに備わる接点T1,T2およびゼロ信号出力回路10Bに備わる接点T3が安全スイッチ4により連動することで、点火電流と時間ゼロ信号とが同時に出力される。時間ゼロ信号は、出力部6を介して他の装置に到達する。
【0030】
なお、発破終了後においては、放電抵抗15によってコンデンサ14の残存電力を消費することが可能である。また、発破作業を中止する場合は、安全スイッチ4を押下する操作を止めた後で点火スイッチ3の操作キー3aを「点火/切」の位置に戻すことで、放電抵抗15によってコンデンサ14の残存電力を消費することが可能である。
【0031】
<ゼロ信号出力回路を点検する場合の動作>
点火スイッチ3の操作キー3aが「点火/切」に位置するスイッチ非操作状態(
図1参照)で安全スイッチ4を押下しスイッチ操作状態とすることにより、ゼロ信号出力回路10Bが正常に動作するかを点検することが可能である。なお、当該動作の点検は、接続端子5に発破母線9を接続しない状態で行うのが望ましい。
図1に示す状態で安全スイッチ4を押下した場合、接点T1,T2,T3の接続が切り替わる。具体的には、
図7に示すように、接点T1が開状態となり、また、接点T2が閉状態となる。なお、コンデンサ14の充電が行われていない状態なので、接続端子5に点火電流は流れない。また、接点T3が閉状態となり、信号出力側電源18からオープンコレクタ信号回路17への電力の供給が開始される。これにより、第2発光部8が発光する。また、接点S3が閉状態となってオープンコレクタ信号回路22が作動し、オープンコレクタ信号回路22から時間ゼロ信号が出力される。
【0032】
[発破器の使用例]
図8ないし
図10を参照して、本実施形態の発破器1の使用例を説明する。
図8は、本実施形態の発破器1を切羽前方探査に用いる場合の構成図である。
図9は、本実施形態の発破器1を換気システムに連携する場合の構成図である。
図10は、本実施形態の発破器1を振動・騒音測定装置と連携する場合の構成図である。
【0033】
(切羽前方探査への発破器の使用)
山岳トンネルの工事において、施工上問題となる可能性のある破砕帯、湧水帯などの地山情報を事前に把握することは重要である。地山情報を事前に把握するために、反射法地震探査の原理を用いた切羽前方探査が行われてきた。切羽前方探査の従来方法として、TSP(Tunnel Seismic Prediction)法とTFT(Tunnel Face Tester)法が知られている。TFT法は、トンネル切羽を発破し振動を発生させ、破砕帯等で反射した反射波をトンネル周壁面に配置した受振器および記録装置で受振や記録する。本実施形態の発破器1を用いて、発破のタイミングを受振器および記録装置と連携させることでTFT法による地山情報の予測を可能にする。
【0034】
例えば、
図8に示す切羽探査システム100は、発破器1と、トリガーユニット120と、記録ユニット130と、リモートコントローラ160と、を備えている。記録ユニット130は、受振孔106内に設置され、データロガー140と、受振器150とを備える。データロガー140と受振器150とは、ケーブル107によって接続されている。
【0035】
最初に、発破器1を操作して掘削用発破を開始する。発破器1は、掘削用爆薬に接続された発破母線9に点火電流を流し、また、掘削用発破を開始したことを示す時間ゼロ信号をトリガーユニット120に対して送信する。次に、トリガーユニット120は、時間ゼロ信号に基づいてトリガー信号を生成し、生成したトリガー信号をデータロガー140に送信する。データロガー140は、トリガー信号を受信することによって掘削用発破の開始タイミングを知得でき、受振器150による弾性波108の検出タイミングを特定できる。また、点火電流によってトンネル切羽に配置された爆薬が爆破し、弾性波108が発生する。弾性波108は、破砕帯109で反射した後、地山を介して受振孔106に到達する。
【0036】
次に、受振器150が破砕帯109で反射した弾性波108を検出する。受振器150は、検出した弾性波108のデータを、ケーブル107を介してデータロガー140に送信する。次に、データロガー140が受振器150から受信した弾性波108のデータを記録する。例えば、データロガー140は、検出された弾性波108のデータの各々に、掘削用発破の開始タイミングから特定された弾性波108の検出タイミングを関連付けることができる。作業員は、データロガー140から弾性波108のデータを取得し、所定の解析を行うことができる。
【0037】
(換気システムへの発破器の使用)
トンネル坑内の換気装置や集塵装置は、発破の際の爆風による破損を防止するために、発破時に一時的に停止しているが、発破完了後は直ちに運転を再開することが望ましい。そのためにも、発破器1と換気装置や集塵装置とを連携することが有効である。
【0038】
図9に示す換気システム200は、発破器1と、現場事務所システム210と、排風ファン220とを主に備える。発破器1を操作して発破を行ったときに、発破器1は、掘削用爆薬に接続された発破母線9に点火電流を流し、また、掘削用発破を開始したことを示す時間ゼロ信号を現場事務所システム210に対して送信する。現場事務所システム210は、時間ゼロ信号に基づいて排風ファン220の運転を再開し、排気ダクト230を介して坑外の新鮮な空気を切羽に向かって送風し(排風ファン220と排気ダクト230で外の空気を押し込み)、発破の後ガス、粉塵をトンネル坑外へ希釈しながら排出する。このようにすると、発破終了後に迅速に発破の後ガス、粉塵を安全に排出することが可能である。
なお、発破器1をトンネル内に設置される回転灯と連携させることで、発破作業の開始や終了、火薬類取締法に定める安全待機時間などを知らせることも可能である。
【0039】
(振動・騒音測定装置と発破器の連携)
発破時には、爆薬に起因する振動が発生して周囲に伝搬する。そのエネルギーは、極めて大きく遠くまで伝播するために、発破による周囲への影響を常に考慮しなければならず、発破器1と振動・騒音測定装置とを連携させることで周囲への影響を調査および管理することが可能である。
【0040】
例えば、トンネル工事現場と周囲の民有地との境界に設置される計測装置と発破器1と連携させることで、当該境界における工事騒音・振動を計測および記録し、環境基準を超えていないことを確認可能である。また、トンネル工事現場付近の民家や重要建築物に設置さえる計測装置と発破器1と連携させることで、当該場所における騒音・振動を計測および記録し、管理目標値を超えていないこと確認可能である。
【0041】
図10に示す振動・騒音管理システム300は、発破器1と、現場事務所システム310と、工事現場敷地の境界部分に配置される測定装置320と、重要保安物件の近くに設置される測定装置330とを主に備える。発破器1を操作して発破を行ったときに、発破器1は、掘削用爆薬に接続された発破母線9に点火電流を流し、また、掘削用発破を開始したことを示す時間ゼロ信号を現場事務所システム310に対して送信する。現場事務所システム310は、時間ゼロ信号に基づいて測定装置320,330を作動させ、振動や騒音の計測を行う。このようにすると、発破が周囲へ与える影響を調査および管理することが可能である。また、地震や大型車両の通行など、発破以外の要因に起因する振動・騒音との区別を明確にすることが可能となる。
【0042】
なお、トンネル内に設置される振動・騒音の記録装置と連携させることで、発破が正常であったのか、不爆等の異常があったのかを直ちに抗外事務所でも把握することができる。例えば、発破後にトンネル内の振動・騒音を検知できれば正常な発破であると判断でき、また、発破後にトンネル内の振動・騒音を検知できない場合や振動・騒音が低すぎる場合には不爆や部分発破などの発破異常が起きていると判断できる。
【0043】
[実施例]
図11ないし
図15を参照して、本実施形態に係る発破器1の回路のバリエーションを説明する。
図11は、第1実施例に係る発破器401の回路図である。
図12は、第2実施例に係る発破器501の回路図である。
図13は、第3実施例に係る発破器601の回路図である。
図14は、第4実施例を説明するための回路図であり、
図15は、第5実施例を説明するための回路図である。
図14および
図15に示す回路701,801は、ゼロ信号を発生させるために発破器に組み込む他の構成の例示である。
図3におけるオープンコレクタ信号回路17に代えて、
図14または
図15に示す回路701,801にすることも可能である。
【0044】
図11に示す発破器401の回路では、紙面上側の点火電流出力回路と、下側のゼロ信号出力回路とが電気的に独立しており、点火スイッチ3および安全スイッチ4によってこれらの回路が連動している。
図12に示す発破器501の回路は、
図11に対して紙面下側のゼロ信号出力回路の構成が変更されている。発破器501による時間ゼロ信号の出力の方式は、
図11に示す発破器401と同様である。
図13に示す発破器601の回路は、
図11に対して紙面下側のゼロ信号出力回路の構成が変更されている。発破器601による時間ゼロ信号の出力の方式は、
図11に示す発破器401とは異なり電圧による出力となっている。
【0045】
図14に示す回路701は、電池とLEDを有し、安全スイッチ4と同期して作動するa接点により、準備完了動作を示すLEDを点灯し、安全スイッチ4を押しながら、点火スイッチ3のキーを戻すことにより、短絡する回路が形成され、BNC―OUTに接続した装置にゼロ信号を送ることができる。その際に、BNC-OUTと並列に接続されたコンデンサによりノイズを低減する。
図15に示す回路801は、
図14に示す回路701の電池およびLEDを省略することで、さらに簡略化した同じ作用を有する構成である。
なお、機械的接点だけの構成では、接点の動作時のチャタリングによりノイズを発生する場合がある。一般的にスイッチの接点は、長年の使用で電気的接触部位が劣化し、チャタリングが多くなる傾向にある。チャタリングが発生するとゼロ信号の応答遅れの原因となる。
図3に示すオープンコレクタ方式の回路方式では、トランジスタによりチャタリングの影響が除去できるので、より望ましい実施形態である。
【0046】
以上のように、実施形態に係る発破器1によれば、点火電流出力回路10Aとゼロ信号出力回路10Bとが点火スイッチ3および安全スイッチ4によって連動するので、発破の操作と同時に時間ゼロ信号を確実に出力することができる。また、点火電流出力回路10Aとゼロ信号出力回路10Bとが電気的に独立しているので、火薬類取締法の要件を満たし、また従来の発破器からの変更も容易かつ操作性に影響を与えない範囲に収めることが可能である。
【0047】
[比較例]
比較例として、従来の発破器の構成を説明する。
図16は、比較例としての従来の発破器901のブロック図の一例である。
図17は、比較例としての従来の発破器901の回路図の一例である。
図16に示す従来の発破器901は、安全のためにプッシュ式の安全スイッチが取り付けられており、点火スイッチに操作キーを差し込み、点火スイッチをひねると充電開始となり、充電完了後に安全スイッチを押しながら点火スイッチを点火位置に戻すと発破母線に通電する。実施形態の発破器1の操作と、従来の発破器901の操作とは、手順が同じである。
【0048】
図16に示す従来の発破器901は、持ち運びが容易なように、例えば単1乾電池を2本から4本使用する。乾電池だけでは2個直列で3V(ボルト)、4個直列で6V(ボルト)の電圧しか得られないが、トランジスタ式の発振回路で1000Hz(ヘルツ)程度の交流に変換し、その3~6V(ボルト)の交流をトランスを使って昇圧(高電圧に変換)する。変圧比(巻き数比)が、1:200~1:500程度のトランスを使用することで、交流600V~2000V程度の高電圧が容易に得られる。それを、ダイオードで直流に変換し、コンデンサに蓄えることで、高電圧でかつ大電力の点火エネルギーを得る。
【0049】
図16の発破器901のブロック図を具体化したもっとも簡単な電子回路を
図17に示す。昇圧トランスの一次側にフィードバック巻き線があれば、パワートランジスタ1個で簡単な発振回路が作れる。この発振回路には、図示した以外にも小型マイコンを使用したり、プッシュプル型の発振回路とすることもできる。
【符号の説明】
【0050】
1,401,501,601 発破器(時間ゼロ信号発生装置)
701,801 回路
2 筐体
3 点火スイッチ(キースイッチ)
3a 操作キー
3b 駆動部
3c 接点ユニット
4 安全スイッチ(プッシュスイッチ)
5 接続端子
6 出力部
7 第1発光部(電流出力側発光部)
8 第2発光部(信号出力側発光部)
9 発破母線
10 制御部
10A 点火電流出力回路
10B ゼロ信号出力回路
11 電流出力側電源
12 昇圧回路
13 整流装置
14 コンデンサ
15 放電抵抗
16 電圧監視回路
17 オープンコレクタ信号回路
18 信号出力側電源
100 切羽探査システム
120 トリガーユニット
130 記録ユニット
140 データロガー
150 受振器
160 リモートコントローラ
200 換気システム
210,310 現場事務所システム
220 排風ファン
230 排気ダクト
300 振動・騒音管理システム
320,330 測定装置