(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008856
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】高分子量化合物およびこれらを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20240112BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20240112BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240112BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240112BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20240112BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20240112BHJP
【FI】
C08G61/12
H10K85/10
H10K50/15
H10K50/17
H10K50/18
H10K50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101128
(22)【出願日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2022109892
(32)【優先日】2022-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富樫 和法
(72)【発明者】
【氏名】篠田 美香
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 由香
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
【テーマコード(参考)】
3K107
4J032
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC12
3K107CC14
3K107CC21
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3K107DD53
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3K107DD72
3K107FF18
4J032BA05
4J032BA25
4J032BB06
4J032BB09
4J032BC03
4J032BD01
4J032BD07
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4J032CA43
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4J032CB05
4J032CB12
4J032CC04
4J032CD02
4J032CE03
4J032CE22
4J032CF05
4J032CG01
(57)【要約】
【課題】正孔の注入・輸送性能に優れ、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い高分子材料を提供すること。また、前記高分子材料により形成された有機層(薄膜)を有しており、発光効率が高く、長寿命な有機EL素子を提供すること。
【解決手段】分子主鎖に、フルオレン環を有するトリアリールアミン構造単位と、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環またはカルバゾール環を有するトリアリールアミン構造単位とを含む高分子量化合物である。前記高分子量化合物は、分子主鎖に熱架橋性構造単位を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位A、および下記一般式(2)で表される繰り返し単位Bを含み、ポリスチレン換算で10,000以上1,000,000未満の重量平均分子量を有している高分子量化合物。
【化1】
【化2】
式中、
R
1およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、または炭素数が40以下である、アルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、もしくはアリールオキシ基を示す。
a、bおよびcは、以下の整数である。
a=0、1、2または3
b=0、1、2、3または4
c=0または1
R
2は、それぞれ独立に、炭素数が3~40である、アルキル基、アルキルオキシ基、またはシクロアルキル基を示す。
Lは、フェニレン基を示し、nは0~3の整数を示す。
Xは、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基、1価のアリール基、または1価のヘテロアリール基を示す。
Yは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、または下記式(3)で示される基である。
【化3】
式中のR
4は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記一般式(1)および(2)において、R1およびR3が水素原子である請求項1に記載の高分子量化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R2が炭素数3~40のアルキル基である請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)および(2)において、Xがジフェニルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、またはアクリジニル基である請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【請求項5】
下記一般式(4)で表される、熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し単位を含む請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【化4】
式中、
R
3、Xおよびaは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【請求項6】
前記一般式(4)において、熱架橋性構造単位Qが、下記一般式(5a)~(5af)に示す構造である請求項5に記載の高分子量化合物。
【化5】
【化6】
式中、
R
1、R
2、aおよびbは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【請求項7】
一対の電極とその間に挟まれた有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機層が、請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物を構成材料として用いたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記有機層が正孔輸送層である、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記有機層が電子阻止層である、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記有機層が正孔注入層である、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機層が発光層である、請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に適した高分子量化合物とこれらの高分子量化合物を用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
有機EL素子は、有機化合物の薄膜(有機層)を、陽極と陰極に挟んだ構成を有している。薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と塗布法に大別される。真空蒸着法は、主に低分子化合物を用い、真空中で基板上に薄膜を形成する手法であり、既に実用化されている技術である。一方、塗布法は、主に高分子化合物を用い、インクジェットや印刷など、溶液を用いて基板上に薄膜を形成する手法であり、材料の使用効率が高く、大面積化、高精細化に適しており、今後の大面積有機ELディスプレイには不可欠の技術である。
【0004】
低分子材料を用いた真空蒸着法は、材料の使用効率が極端に低く、大型化すればシャドーマスクのたわみが大きくなり、大型基板への均一な蒸着は困難となる。また製造コストも高くなるといった問題も抱えている。
【0005】
一方、高分子材料は、有機溶剤に溶解させたその溶液を塗布することにより、大型基板でも均一な膜を形成することが可能であり、これを利用してインクジェット法や印刷法に代表される塗布法を用いることができる。そのため、材料の使用効率を高めることが可能となり、素子作製にかかる製造コストを大幅に削減することができる。
【0006】
これまで、高分子材料を用いた有機EL素子が、種々検討されてきたが、発光効率や寿命などの素子特性は必ずしも十分でないという問題があった(例えば、特許文献1~特許文献5参照)。
【0007】
また、これまで高分子材料を用いた有機EL素子における代表的な正孔輸送材料としては、TFBと呼ばれるフルオレンポリマーが知られていた(特許文献6~特許文献7参照)。しかしながら、TFBは正孔輸送性が不十分であり、かつ電子阻止性も不十分であるため、電子の一部が発光層を通り抜けてしまい、発光効率の向上が期待できないという問題があった。また、隣接層との膜密着性が低いことから、素子の長寿命化も期待できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-272834号公報
【特許文献2】特開2007-119763号公報
【特許文献3】特開2007-162009号公報
【特許文献4】特開2007-177225号公報
【特許文献5】国際公開第2005/049546号
【特許文献6】特許第4375820号公報
【特許文献7】国際公開第2005/059951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、正孔の注入・輸送性能に優れ、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い高分子材料を提供することにある。更に、前記高分子材料により形成された有機層(薄膜)を有しており、発光効率が高く、長寿命な有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、分子主鎖にフルオレン環を有するトリアリールアミン構造単位を含む高分子量化合物が高い正孔注入・輸送能力を有し、さらにワイドギャップ化も期待できることに着目し、種々のトリアリールアミン構造単位を含む高分子量化合物を合成して検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に記載する通りである。
【0012】
[1]下記一般式(1)で表される繰り返し単位A、および下記一般式(2)で表される繰り返し単位Bを含み、ポリスチレン換算で10,000以上1,000,000未満の重量平均分子量を有している高分子量化合物。
【0013】
【0014】
【化2】
式中、
R
1およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、または炭素数が40以下である、アルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、もしくはアリールオキシ基を示す。
a、bおよびcは、以下の整数である。
a=0、1、2または3
b=0、1、2、3または4
c=0または1
R
2は、それぞれ独立に、炭素数が3~40である、アルキル基、アルキルオキシ基、またはシクロアルキル基を示す。
Lは、フェニレン基を示し、nは0~3の整数を示す。
Xは、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基、1価のアリール基、または1価のヘテロアリール基を示す。
Yは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、または下記式(3)で示される基である。
【0015】
【化3】
式中のR
4は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のアルキル基を示す。
【0016】
[2] 前記一般式(1)および(2)において、R1およびR3が水素原子である[1]に記載の高分子量化合物。
【0017】
[3]前記一般式(1)において、R2が炭素数3~40のアルキル基である[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0018】
[4]前記一般式(1)および(2)において、Xがジフェニルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、またはアクリジニル基である[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0019】
[5]下記一般式(4)で表される、熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し単位を含む[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0020】
【化4】
式中、
R
3、Xおよびaは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0021】
[6]前記一般式(4)において、熱架橋性構造単位Qが、下記一般式(5a)~(5af)に示す構造である[5]に記載の高分子量化合物。
【0022】
【0023】
【0024】
前記一般式(5a)~(5af)中のR1、R2、aおよびbは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0025】
[7]一対の電極とその間に挟まれた有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機層が[1]または[2]に記載の高分子量化合物を構成材料として用いたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
[8]前記有機層が正孔輸送層である、[7]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0027】
[9]前記有機層が電子阻止層である、[7]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0028】
[10]前記有機層が正孔注入層である、[7]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0029】
[11]前記有機層が発光層である、[7]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0030】
上述した本発明の高分子量化合物は、
(1)正孔の注入特性が良い、
(2)正孔の移動度が大きい、
(3)ワイドギャップであり、電子阻止能力に優れる、
という特性を有している。
【0031】
このような高分子量化合物により形成された有機層は、正孔輸送層、電子阻止層、正孔注入層または発光層として用いるのが好適であり、前記有機層を用いた有機EL素子は、
(1)発光効率および電力効率が高い、
(2)実用駆動電圧が低い、
(3)長寿命である、
という利点を有している。
【0032】
すなわち、本発明の高分子量化合物は、正孔輸送能力が高く、電子阻止能力に優れているため、塗布型有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて塗布型有機EL素子を作製することにより、高い発光効率および電力効率を得ることができると共に、耐久性を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位Aとして好適な繰り返し単位1-1~1-6の化学構造
【
図2】本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位Aとして好適な繰り返し単位1-7~1-12の化学構造
【
図3】本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位Aとして好適な繰り返し単位1-13~1-18の化学構造
【
図4】本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位Aとして好適な繰り返し単位1-19~1-24の化学構造
【
図5】本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位Aとして好適な繰り返し単位1-25~1-28の化学構造
【
図6】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-1~2-6の化学構造
【
図7】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-7~2-12の化学構造
【
図8】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-13~2-18の化学構造
【
図9】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-19~2-24の化学構造
【
図10】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-25~2-30の化学構造
【
図11】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-31~2-36の化学構造
【
図12】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-37~2-42の化学構造
【
図13】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-43~2-48の化学構造
【
図14】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-49~2-54の化学構造
【
図15】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-55~2-60の化学構造
【
図16】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-61~2-66の化学構造
【
図17】本発明の一般式(2)で表される繰り返し単位Bとして好適な繰り返し単位2-67~2-68の化学構造
【
図18】本発明において、一般式(1)、一般式(2)および一般式(4)中のXとして好適な置換基1~24の化学構造
【
図19】本発明において、一般式(1)、一般式(2)および一般式(4)中のXとして好適な置換基25~48の化学構造
【
図21】実施例1の高分子量化合物Iの
1H-NMRチャート
【発明を実施するための形態】
【0034】
<繰り返し単位Aおよび繰り返し単位B>
本発明の高分子量化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位A、および下記一般式(2)で表される繰り返し単位Bを含む。
【0035】
【0036】
【化8】
式中、
R
1およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、または炭素数が40以下である、アルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、もしくはアリールオキシ基を示す。
a、bおよびcは、以下の整数である。
a=0、1、2または3
b=0、1、2、3または4
c=0または1
R
2は、それぞれ独立に、炭素数が3~40である、アルキル基、アルキルオキシ基、またはシクロアルキル基を示す。
Lは、フェニレン基を示し、nは0~3の整数を示す。
Xは、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基、1価のアリール基、または1価のヘテロアリール基を示す。
Yは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、または下記式(3)で示される基である。
【0037】
【化9】
式中のR
4は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のアルキル基を示す。
【0038】
前記一般式(1)および(2)中のR1およびR3で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
前記R1およびR3で表される、炭素数が40以下である、アルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、およびアリールオキシ基としては、それぞれ、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルキルオキシ基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキルオキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、および炭素数6~10のアリールオキシ基が好ましい。
【0039】
前記のアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、およびアリールオキシ基としては、以下の基を例示することができる。
アルキル基(炭素数が1~8);メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基、n-ヘプチル基、イソへプチル基、ネオへプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基等。
アルキルオキシ基(炭素数が1~8);メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基等。
シクロアルキル基(炭素数が5~10);シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等。
シクロアルキルオキシ基(炭素数が5~10);シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基等。
アルケニル基(炭素数が2~6);ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基等。
アリールオキシ基(炭素数が6~10);フェニルオキシ基、トリルオキシ基等。
【0040】
本発明の高分子量化合物においては、合成が容易であるため、前記一般式(1)中のR3と前記一般式(2)中のR3とが同じ基であることが好ましい。
また、前記一般式(1)および(2)中のR1およびR3が全て水素原子であることが好ましい。
【0041】
前記一般式(1)中のR2で表される、炭素数3~40であるアルキル基、アルキルオキシ基、およびシクロアルキル基の例としては、上述した基と同様の基が挙げられる。
【0042】
本発明の高分子量化合物においては、溶解性を高めるため、R2が炭素数3~40のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~10のアルキル基であることがより好ましく、n-ヘキシル基またはn-オクチル基であることが最も好適である。
【0043】
前記一般式(1)および(2)中のXで表される1価のアリール基、および1価のヘテロアリール基としては、以下の基を例示することができる。
アリール基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基等。
ヘテロアリール基;ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、カルボリニル基等。
【0044】
また、前記のアミノ基、アリール基およびヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、重水素原子、シアノ基、ニトロ基などに加え、以下の基を挙げることができる。
ハロゲン原子、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;
アルキル基、特に炭素数が1~8のもの、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基、n-ヘプチル基、イソへプチル基、ネオへプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基;
アルキルオキシ基、特に炭素数1~8のもの、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基;
アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基;
アリールオキシ基、例えば、フェニルオキシ基、トリルオキシ基;
アリール基、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基;
ヘテロアリール基、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基;
アリールビニル基、例えば、スチリル基、ナフチルビニル基;
アシル基、例えば、アセチル基、ベンゾイル基。
【0045】
また、これらの置換基は、前記で例示した置換基をさらに有していてもよい。
さらに、これらの置換基は、それぞれ独立して存在していることが好ましいが、これらの置換基同士が、単結合、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0046】
例えば、前記のアリール基やヘテロアリール基は、置換基としてフェニル基を有していてもよく、このフェニル基は、さらに置換基としてフェニル基を有していてもよい。即ち、アリール基を例に取ると、このアリール基は、ビフェニリル基、ターフェニリル基、トリフェニレニル基であってもよい。
【0047】
本発明の高分子量化合物においては、合成が容易であるため、前記一般式(1)中のXと前記一般式(2)中のXとが同じ基であることが好ましく、Xが全て水素原子であることがより好ましい。
【0048】
前記一般式(1)中のLで表されるフェニレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、上述のXが有していてもよい置換基と同様の基が挙げられ、これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0049】
前記一般式(1)中のnはLの数を示す。本発明の高分子量化合物においては、正孔の注入・輸送性能、電子阻止能力および薄膜の安定性の点から、nが0または1であることが好ましい。
【0050】
前記一般式(2)において、Yは酸素原子(O)、硫黄原子(S)、または下記式(3)で示される基である。
【0051】
【化10】
式中のR
4は、置換もしくは無置換のアリール基、または置換もしくは無置換のアルキル基を示す。
【0052】
前記R4で表されるアルキル基の例としては、上述した基と同様の基が挙げられる。また、アリール基の例としては、上述した基と同様の基が挙げられる。
【0053】
本発明の高分子量化合物においては、正孔の注入・輸送性能、電子阻止能力および薄膜の安定性の点から、Yが酸素原子(O)であることが好ましい。
【0054】
本発明において、上述した一般式(1)で表される繰り返し単位Aの具体例を、
図1から
図5に、繰り返し単位1-1~1-28として示した。また、上述した一般式(2)で表される繰り返し単位Bの具体例を、
図6から
図17に、繰り返し単位2-1~2-68として示した。尚、
図1から
図17に示された化学構造において、破線は、隣接する繰り返し単位への結合手を示し、環から延びている先端がフリーの実線は、そのフリーの先端がメチル基であることを示している。繰り返し単位として、好ましい具体例を示したが、本発明で用いられる繰り返し単位はこれらの例に限定されるものではない。
【0055】
また、本発明において、上述した一般式(1)、一般式(2)および一般式(4)中のXの具体例を、
図18と
図19に、置換基1~48として示した。尚、
図18と
図19に示された化学式において、波線は、結合箇所であることを示している。置換基として、好ましい具体例を示したが、本発明で用いられるXはこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
<高分子量化合物>
上述した一般式(1)および一般式(2)で表される繰り返し単位を含む本発明の高分子量化合物は、正孔の注入特性、正孔の移動度、電子阻止能力、薄膜安定性、耐熱性等の特性をより高め且つ成膜性を確保するという観点から、GPCで測定したポリスチレン換算での重量平均分子量が10,000以上1,000,000未満であることが好ましく、10,000以上500,000未満であることがより好ましく、10,000以上300,000未満の範囲であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の高分子量化合物は、熱架橋性を高めるため、下記一般式(4)で表される、熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0058】
【化11】
式中、
R
3、Xおよびaは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0059】
本発明の高分子量化合物においては、合成が容易であるため、前記一般式(4)中のR3は、前記一般式(1)および(2)中のR3と同じ基であることが好ましく、また前記一般式(4)中のXは、前記一般式(1)および(2)中のXと同じ基であることが好ましい。
【0060】
熱架橋性構造単位Qの具体例としては、下記一般式(5a)~(5af)に示す構造が挙げられる。
【0061】
【0062】
【0063】
前記一般式(5a)~(5af)中のR1、R2、aおよびbは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0064】
尚、前記式(5a)~(5af)において、破線は、隣接する構造単位への結合手を示し、環から延びている先端がフリーの実線は、その先端がメチル基であることを示している。
【0065】
本発明の高分子量化合物は、繰り返し単位Aを1モル%以上、特に30モル%以上含んでいることが好ましく、このような量で繰り返し単位Aを含んでいることを条件として、繰り返し単位Bを1モル%以上、特に10~60モル%の量で含み、さらには、一般式(4)で表される繰り返し単位をQで表したとき、繰り返し単位Qを1モル%以上、特に10~20モル%の量で含んでいることが好ましく、このような条件を満足するように繰り返し単位A、BおよびQを含むことが、有機EL素子の有機層を形成する上で最も好適である。
【0066】
本発明の高分子量化合物は、スズキ重合反応またはHARTWIG-BUCHWALD重合反応により、それぞれC-C結合またはC-N結合を形成して各構造単位を連鎖することにより合成される。即ち、各構造単位を有する単位化合物を用意し、この単位化合物を適宜ホウ酸エステル化またはハロゲン化し、適宜の触媒を使用して重縮合反応することにより、本発明の高分子量化合物を合成することができる。
【0067】
例えば、繰り返し単位Aを60モル%、繰り返し単位Bを30モル%、繰り返し単位Qを10モル%で含む高分子量化合物は、下記一般式(5)で表されるものである。
【0068】
【0069】
本発明の高分子量化合物は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族系有機溶媒に溶解させて塗布液を調製し、この塗布液を所定の基材上にコーティングし、加熱乾燥することにより、正孔注入性、正孔輸送性、電子阻止性などの特性に優れた薄膜を形成することができる。得られる薄膜は耐熱性も良好であり、さらには他の層との密着性も良好である。
【0070】
本発明の高分子量化合物は、有機EL素子の正孔注入層および/または正孔輸送層の構成材料として使用することができる。本発明の高分子量化合物により形成された正孔注入層および正孔輸送層は、従来の材料で形成されたものに比して、正孔の注入性が高く、移動度が大きく、電子阻止性が高く、発光層内で生成した励起子を閉じ込めることができ、さらに正孔と電子が再結合する確率を向上させ、高発光効率を得ることができると共に、駆動電圧が低下して、有機EL素子の耐久性が向上するという利点を実現できる。
【0071】
また、前記のような電気特性を有する本発明の高分子量化合物は、従来の材料よりもワイドギャップであり、励起子の閉じ込めに有効なため、当然、電子阻止層や発光層にも好適に使用することができる。
【0072】
<有機EL素子>
上述した本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子は、例えば
図20に示す構造を有している。即ち、ガラス基板1(透明樹脂基板など、他の透明基板であってもよい)の上に、透明陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7および陰極8が設けられている。
【0073】
勿論、本発明の高分子量化合物が適用される有機EL素子は、前記の層構造に限定されるものではなく、発光層6と電子輸送層7との間に正孔阻止層を設けることができ、さらには、陰極8と電子輸送層7との間に電子注入層を設けることもできる。さらに、いくつかの層を省略することもできる。例えば、基板1上に、陽極2、正孔輸送層4、発光層6、電子輸送層7および陰極8を設けたシンプルな層構造とすることもできる。また、同一の機能を有する層を重ねた2層構造とすることも可能である。
【0074】
本発明の高分子量化合物は、その正孔注入性や正孔輸送性などの特性を活かして、前記の陽極2と陰極8との間に設けられる有機層(例えば、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5または発光層6)の形成材料として好適に使用される。
【0075】
前記の有機EL素子において、透明陽極2は、それ自体公知の電極材料で形成されていてよく、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料を基板1(ガラス基板等の透明基板)の上に蒸着することにより形成される。
【0076】
また、透明陽極2上に設けられている正孔注入層3は、本発明の高分子量化合物を、例えばトルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族系有機溶媒に溶解させた塗布液を用いて形成することができる。即ち、この塗布液を、スピンコート、インクジェットなどにより、透明陽極2上にコーティングすることにより、正孔注入層3を形成することができる。
【0077】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、前記の正孔注入層3は本発明の高分子量化合物を用いずに、従来公知の材料、例えば以下の材料を用いて形成することもできる。
銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物;
スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体;
単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン(例えば、トリフェニルアミン3量体および4量体);
ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物;
塗布型の高分子材料、例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(スチレンスルフォネート)(PSS)等。
【0078】
このような材料を用いての層(薄膜)の形成は、蒸着法や、スピンコート法やインクジェット法などによるコーティングにより成膜することができる。これらは、他の層についても同様であり、膜形成材料の種類に応じて、蒸着法やコーティング法により成膜が行われる。
【0079】
前記の正孔注入層3の上に設けられている正孔輸送層4も、正孔注入層3と同様、本発明の高分子量化合物を用いてのスピンコートやインクジェットなどによるコーティングによって形成することができる。
【0080】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、従来公知の正孔輸送材料を用いて正孔輸送層4を形成することもできる。このような正孔輸送材料として代表的なものは、次のとおりである。
ベンジジン誘導体、例えば、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(以下、TPDと略す);N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(以下、NPDと略す);N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジン。
アミン系誘導体、例えば、1,1-ビス[4-(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(以下、TAPCと略す)。
種々のトリフェニルアミン3量体および4量体。
正孔注入層用としても使用される塗布型高分子材料。
【0081】
上述した正孔輸送層の化合物は、本発明の高分子量化合物を含め、それぞれ単独で成膜してもよいが、2種以上混合して成膜することもできる。また、前記化合物の1種または複数種を用いて複数の層を形成し、このような層が積層された多層膜を正孔輸送層とすることもできる。
【0082】
また、
図20に示す本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、正孔注入層3と正孔輸送層4とを兼ねた層とすることもでき、このような正孔注入・輸送層は、PEDOTなどの高分子材料を用いてコーティングにより形成することができる。
【0083】
尚、正孔輸送層4(正孔注入層3も同様)において、該層に通常使用される材料に対し、トリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンまたはラジアレン誘導体(例えば、WO2014/009310参照)などをPドーピングしたものを使用することができる。また、TPD基本骨格を有する高分子化合物などを用いて正孔輸送層4(または正孔注入層3)を形成することができる。
【0084】
さらに、
図20に示すように、正孔輸送層と発光層との間に、電子阻止層を設けることができ、例えば、本発明の高分子量化合物を用いてスピンコートやインクジェットなどによるコーティングによって形成することができる。
【0085】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子阻止作用を有する公知の電子阻止性化合物、例えば、カルバゾール誘導体、またはトリフェニルシリル基を有し且つトリアリールアミン構造を有する化合物などを用いて電子阻止層を形成することもできる。代表的なものは以下の通りである。
カルバゾール誘導体、例えば、4,4’,4’’-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(以下、TCTAと略す);9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]フルオレン;1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(以下、mCPと略す);2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン(以下、Ad-Czと略す)。
トリアリールアミン構造を有する化合物、例えば、9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(トリフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレン。
【0086】
電子阻止層も、本発明の高分子量化合物を含め、それぞれ単独で成膜してもよいが、2種以上混合して成膜することもできる。また、前記化合物の1種または複数種を用いて複数の層を形成し、このような層が積層された多層膜を電子阻止層とすることもできる。
【0087】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、発光層6は、Alq3をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体の他、亜鉛やベリリウム、アルミニウムなどの各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などの発光材料を用いて形成することができる。
【0088】
また、発光層6をホスト材料とドーパント材料とで構成することもできる。この場合のホスト材料として、前記の発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを使用することができ、さらに、前述した本発明の高分子量化合物を使用することもできる。ドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。
【0089】
このような発光層6も、各発光材料の1種または2種以上を用いた単層構成とすることもできるし、複数の層を積層した多層構造とすることもできる。
【0090】
さらに、発光材料として燐光発光材料を使用して発光層6を形成することもできる。燐光発光材料としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。例えば、Ir(ppy)3などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体などを用いることができ、これらの燐光発光材料は、正孔注入・輸送性のホスト材料や電子輸送性のホスト材料にドープして使用される。
【0091】
尚、燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0092】
また、発光材料としてPIC-TRZ、CC2TA、PXZ-TRZ、4CzIPNなどのCDCB誘導体などの遅延蛍光を放射する材料を使用することも可能である。(Appl.Phys.Let.,98,083302(2011)、Chem.Comumm.,48,11392(2012)、Nature,492,234(2012)参照)。
【0093】
本発明の高分子量化合物に、ドーパントと呼ばれている蛍光発光体、燐光発光体または遅延蛍光を放射する材料を担持させて発光層6を形成することにより、駆動電圧が低下し、発光効率が改善された有機EL素子を実現できる。
【0094】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、正孔注入・輸送性のホスト材料として、本発明の高分子量化合物を用いることができる。その他に、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)、TCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などを用いることもできる。
【0095】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子輸送性のホスト材料として、p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)および2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを用いることができる。
【0096】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、発光層6と電子輸送層7との間に設ける正孔阻止層(
図20では示されていない)は、それ自体公知の正孔阻止作用を有する化合物を用いて形成することができる。このような正孔阻止作用を有する公知化合物の例としては、以下のものをあげることができる。
バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体;
アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(以後、BAlqと略称する)などのキノリノール誘導体の金属錯体;
各種希土類錯体;
トリアゾール誘導体;
トリアジン誘導体;
オキサジアゾール誘導体。
【0097】
これらの材料は、以下に述べる電子輸送層7の形成にも使用することができ、さらには、正孔阻止層兼電子輸送層7として使用することもできる。
【0098】
このような正孔阻止層も、単層または多層の積層構造とすることができ、各層は、上述した正孔阻止作用を有する化合物の1種または2種以上を用いて成膜される。
【0099】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子輸送層7は、それ自体公知の電子輸送性の化合物、例えば、Alq3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種金属錯体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体などを用いて形成される。
【0100】
この電子輸送層7も、単層または多層の積層構造とすることができ、各層は、上述した電子輸送性化合物の1種または2種以上を用いて成膜される。
【0101】
さらに、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、必要に応じて設けられる電子注入層(
図20では示されていない)も、それ自体公知のもの、例えば、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、リチウムキノリンなどの有機金属錯体などを用いて形成することができる。
【0102】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子の陰極8としては、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料、およびマグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0103】
以上に述べたように、本発明の高分子量化合物を用いて、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、および発光層の少なくとも何れかの層を形成することにより、発光効率および電力効率が高く、実用駆動電圧が低く、発光開始電圧も低く、極めて優れた耐久性を有する有機EL素子が得られる。特に、この有機EL素子では、高い発光効率を有しながら、駆動電圧が低下し、電流耐性が改善されて、最大発光輝度が向上する。
【実施例0104】
以下、本発明を次の実験例により説明する。
尚、以下の説明において、本発明の高分子量化合物が有する一般式(1)で表される繰り返し単位を「繰り返し単位A」、一般式(2)で表される繰り返し単位を「繰り返し単位B」、熱架橋性構造単位Qを有する一般式(4)で表される繰り返し単位を「繰り返し単位Q」として示した。
【0105】
また、合成された化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、溶媒による晶析法によって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行った。
【0106】
本発明の高分子量化合物を製造するために、以下の中間体1~3を合成した。
【0107】
<中間体1の合成>
【0108】
【0109】
中間体1は、
図1に示す繰り返し単位1-1の部分構造を導入するために用いる。
【0110】
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
N,N-ビス(4-ブロモフェニル)-9,9-ジ-n-オクチル-9H-フルオレン-2-アミン:16.7g
ビス(ピナコラト)ジボロン:11.9g
酢酸カリウム:5.7g
1,4-ジオキサン:170ml
次いで、{1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物0.19gを加えて加熱し、100℃で7時間撹拌した。室温まで冷却した後、水とトルエンを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/20)で精製することによって、中間体1の白色粉体7.6g(収率40%)を得た。
【0111】
<中間体2の合成>
【0112】
【0113】
中間体2は、熱架橋性構造単位Qである一般式(5e)で示す構造単位を導入するために用いる。
【0114】
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
N,N-ビス(4-ブロモフェニル)-N-(ベンゾシクロブテン-4-イル)-アミン:8.0g
ビス(ピナコラト)ジボロン:9.9g
酢酸カリウム:4.6g
1,4-ジオキサン:80ml
次いで、{1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物0.3gを加えて加熱し、90℃で11時間撹拌した。室温まで冷却した後、市水とトルエンを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をトルエン/メタノール=1/2により再結晶することによって、中間体2の白色粉体3.4g(収率35%)を得た。
【0115】
<中間体3の合成>
【0116】
【0117】
中間体3は、
図6に示す繰り返し単位2-1の部分構造を導入するために用いる。
【0118】
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
ビス(p-ブロモフェニル)-2-ジベンゾフランアミン:32.0g
ビス(ピナコラト)ジボロン:34.6g
酢酸カリウム:19.1g
1,4-ジオキサン:150ml
次いで、{1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物0.5gを加えて加熱し、100℃で13時間撹拌した。室温まで冷却した後、市水とクロロホルムを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をトルエン/メタノール=1/1により再結晶することによって、中間体3の類白色粉体18.6g(収率48%)を得た。
【0119】
<実施例1>
高分子量化合物Iの合成;
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
中間体1:3.6g
中間体2:0.4g
中間体3:1.3g
1,3-ジブロモベンゼン:1.7g
リン酸三カリウム:7.4g
トルエン:9ml
水:5ml
1,4-ジオキサン:27ml
【0120】
次いで、酢酸パラジウム(II)を1.5mg、およびトリ-o-トリルホスフィン12.3mgを加えて加熱し、88℃で8時間撹拌した。この後、フェニルボロン酸を19mg加えて1時間撹拌し、次いでブロモベンゼン261mgを加えて1時間撹拌した。トルエン50ml、5wt%N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム水溶液50mlを加えて加熱し、還流下で2時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液操作を行うことによって有機層を採取し、飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗ポリマーを得た。粗ポリマーをトルエンに溶解させ、シリカゲルを加えて吸着精製を行い、ろ過してシリカゲルを除去した。得られたろ液を減圧下で濃縮し、乾固物にトルエン100mlを加えて溶解させ、n-ヘキサン300ml中に滴下し、得られた沈殿物を濾取した。この操作を4回繰り返し、乾燥させることにより高分子量化合物Iを3.2g(収率76%)得た。
【0121】
高分子量化合物IのGPCで測定した平均分子量、分散度は、以下の通りであった。
数平均分子量Mn(ポリスチレン換算):64,000
重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算):141,000
分散度(Mw/Mn):2.2
【0122】
また、高分子量化合物IについてNMR測定を行った。
図21に示した
1H-NMR測定結果から、高分子量化合物Iの化学組成式は下記の通りであった。
【0123】
【0124】
前記化学組成から高分子量化合物Iは、繰り返し単位Aを60モル%含み、繰り返し単位Bを30モル%含み、繰り返し単位Qを10モル%の量で含有していることが分かる。尚、各構造単位のモル比は1H-NMR測定結果から得られた推算値である。
【0125】
<実施例2>
実施例1で合成された高分子量化合物Iを用いて、ITO基板の上に膜厚80nmの塗布膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202型)で仕事関数を測定した。高分子量化合物Iの仕事関数は5.62eVであった。
【0126】
高分子量化合物Iは、NPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVと比較して、好適なエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送能力および正孔注入性を有していることが分かる。
【0127】
<実施例3>
実施例1で合成された高分子量化合物Iを用いて、石英基板の上に膜厚50nmの蒸着膜を作製して、市販の分光光度計で紫外可視吸収スペクトルを測定し、長波長側の吸収端の波長からバンドギャップを算出した。また、仕事関数とバンドギャップの値から電子親和力を算出した。高分子量化合物Iのバンドギャップは3.14eVであり、算出された電子親和力は2.48eVであった。
なお、一般的な正孔輸送材料であるNPDのバンドギャップは3.00eVであり、電子親和力は2.40eVである。
【0128】
高分子量化合物Iは、NPDと比較してワイドギャップであり、電子親和力を比較しても好適なエネルギー準位を示しており、良好な電子阻止能力を有していることが分かる。
【0129】
<実施例4>
図20に示す層構造の有機EL素子を、以下の手法により作製した。
【0130】
具体的には、膜厚50nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UV/オゾン処理にてITO表面を洗浄した。このガラス基板1に設けられている透明陽極2(ITO)を覆うように、PEDOT/PSS(Ossila製)をスピンコート法により50nmの厚みで成膜し、ホットプレートの上に200℃で10分間乾燥して正孔注入層3を形成した。
【0131】
下記構造式の高分子量化合物(HTM-1)を、トルエンに0.4wt%溶解して塗布液を調製した。前記のようにして正孔注入層3が形成されている基板を、乾燥窒素にて置換したグローブボックス内に移し、ホットプレートの上に230℃で10分間乾燥した後に、正孔注入層3の上に、前記の塗布液を用いてスピンコート法により15nmの厚みの塗布層を形成し、さらに、ホットプレートの上に220℃で30分間乾燥して正孔輸送層4を形成した。
【0132】
【0133】
実施例1で得られた高分子量化合物Iを、トルエンに0.4wt%溶解して塗布液を調製した。前記のようにして形成された正孔輸送層4の上に、前記の塗布液を用いてスピンコート法により15nmの厚みの塗布層を形成し、さらに、ホットプレートの上で220℃で30分間乾燥して電子阻止層5を形成した。
【0134】
前記のようにして電子阻止層5が形成されている基板を、真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。電子阻止層5の上に、青色発光材料(EMD-1)とホスト材料(EMH-1)との二元蒸着により、膜厚34nmの発光層6を形成した。尚、二元蒸着では、蒸着速度比を、EMD-1:EMH-1=4:96とした。
【0135】
【0136】
前記で形成された発光層6の上に、電子輸送材料(ETM-1)および(ETM-2)を用いての二元蒸着により、膜厚20nmの電子輸送層7を形成した。尚、二元蒸着では、蒸着速度比を、ETM-1:ETM-2=50:50とした。
【0137】
【0138】
最後に、アルミニウムを膜厚100nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。
このように、透明陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7および陰極8が形成されているガラス基板を、乾燥窒素にて置換したグローブボックス内に移動し、UV硬化樹脂を用いて封止用の他のガラス基板を貼り合わせ、有機EL素子とした。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。また、作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性を測定した。前記の測定結果は、表1に示した。
【0139】
<比較例1>
高分子量化合物Iに代えて、TFB(正孔輸送性ポリマー)をトルエンに0.4wt%溶解して調製した塗布液を用いて電子阻止層5を形成した以外は、実施例4と全く同様にして有機EL素子を作製した。
【0140】
【0141】
TFB(正孔輸送性ポリマー)は、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン](American Dye Source社製、Hole Transport Polymer ADS259BE)である。この比較例1の有機EL素子について、実施例4と同様に各種特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0142】
各種特性の評価において、電圧、輝度、発光効率および電力効率は、電流密度10mA/cm2の電流を流したときの値である。また、素子寿命は、発光開始時の発光輝度(初期輝度)を700cd/m2として定電流駆動を行ったとき、発光輝度が560cd/m2(初期輝度を100%としたときの80%に相当:80%減衰)に減衰するまでの時間として測定した。
【0143】
【0144】
表1に示すように、電流密度10mA/cm2の電流を流したときの発光効率は、比較例1の有機EL素子の5.50cd/Aに対して、実施例4の有機EL素子では7.52cd/Aと高効率であった。また、素子寿命(80%減衰)においては、比較例1の有機EL素子の11時間に対して、実施例4の有機EL素子では136時間と長寿命であった。
本発明の高分子量化合物は、正孔輸送能力が高く、電子阻止能力に優れているため、塗布型有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて塗布型有機EL素子を作製することにより、高い発光効率および電力効率を得ることができると共に、耐久性を改善させることができる。例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能となった。