(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008857
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】アルカリ性廃液の中和装置及びアルカリ性廃液の中和方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20240112BHJP
【FI】
C02F1/66 530B
C02F1/66 510S
C02F1/66 522B
C02F1/66 530C
C02F1/66 530D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102750
(22)【出願日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022110382
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】倉部 美彩子
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 雅晴
(57)【要約】
【課題】 従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができるアルカリ性廃液の中和装置及びアルカリ性廃液の中和方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体10と、担体10を保持する保持部20と、保持部20に保持された担体10にアルカリ性廃液を放出する放出部30と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体と、
前記担体を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記担体にアルカリ性廃液を放出する放出部と、
を備える。
ことを特徴とするアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項2】
前記保持部は、複数の前記担体を保持する少なくとも1つの保持部材を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項3】
前記保持部材は、大気に開口する開口部が形成される
ことを特徴とする請求項2に記載のアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項4】
前記保持部に少なくとも二酸化炭素を送気する送気部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項5】
前記放出部から放出される前のアルカリ性廃液に二酸化炭素を混合する混合部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項6】
前記アルカリ性廃液は、前記担体で大気に触れた際に一部が蒸発する
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ性廃液の中和装置。
【請求項7】
担体にアルカリ性廃液を放出するステップと、
前記担体に含有された前記アルカリ性廃液が大気に触れるステップと、
前記アルカリ性廃液が流下するステップと、
を有する
ことを特徴とするアルカリ性廃液の中和方法。
【請求項8】
前記アルカリ性廃液が大気に触れるステップにおいて、
前記アルカリ性廃液は、一部が蒸発する
ことを特徴とする請求項7に記載のアルカリ性廃液の中和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性の廃液を中和するアルカリ性廃液の中和装置及びアルカリ性廃液の中和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木現場及び建築現場等において、コンクリート打設時等に多量の水が使用される。使用された水は、アルカリ性の廃液となる。アルカリ性の廃液は、河川等へそのまま放流することはできず、pH値が排水基準に適合するまで調整しなければならない。
【0003】
従来、アルカリ性の廃液のpH値を調整する技術が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術は、大気中の二酸化炭素を濃縮し、廃液へ注入することで、廃液のpH値を調節する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二酸化炭素をアルカリ性廃液へ注入し、pH値を調整した処理水とする中和方法は、アルカリ性廃液へ二酸化炭素を過剰に注入してしまう傾向にある。例えば、廃液の中和を短時間で行おうとするために、理論値よりも過剰な二酸化炭素が廃液に注入される傾向にある。過剰に注入された二酸化炭素は、処理設備や放流後に処理水から大気中に放散されてしまい、温暖化の要因になってしまう。また、二酸化炭素の放散に伴って処理水のpH値が上昇し、処理水の放流先で、溶解していた炭酸カルシウムが析出されるおそれがある。
【0006】
本発明は、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができるアルカリ性廃液の中和装置及びアルカリ性廃液の中和方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるアルカリ性廃液の中和装置は、
アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体と、
前記担体を保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記担体にアルカリ性廃液を放出する放出部と、
を備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるアルカリ性廃液の中和装置及びアルカリ性廃液の中和方法によれば、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置を示す。
【
図2】第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置による中和実験の結果を示す。
【
図3】第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置を示す。
【
図4】第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置を示す。
【
図5】第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための実施形態について説明する。以下では、本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0011】
図1は、第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1を示す。
【0012】
第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体10と、少なくとも1つの担体10を保持する保持部20と、アルカリ性廃液を放出する放出部30と、を備える。また、アルカリ性廃液の中和装置1は、担体10から流下したアルカリ性廃液を排出する排出部40を備えると好ましい。
【0013】
担体10は、所定量の液体を含有させることができ、所定量を超えると液体を含有できず、液体が流れるような材料が好ましい。例えば、担体10は、多孔質の物質が好ましい。第1実施形態の担体10は、円柱状のスポンジで形成される。担体10は、大気との接触界面の多い形状がよい。担体10の形状は、球状、直方体状、又は、筒状でもよい。また、担体10は、複数の孔が形成されてもよい。担体10は、アルカリ性廃液を含有させながら流下させる発泡成形した合成樹脂又は海綿等の材料が好ましい。
【0014】
保持部20は、少なくとも1つの担体10を保持し、使用時に下方へアルカリ性廃液が流れ落ちるように構成される。第1実施形態の保持部20は、少なくとも1つの担体10を包み、少なくとも1つのネット21である。各担体10を包むネット21は、連結可能である。ここで、ネット21は、保持部材を構成する
【0015】
第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、複数のネット21を連結し、上方から懸吊して使用する。各ネット21は、担体10から流下したアルカリ性廃液を次の担体10へ流下させる役目も有する。なお、保持部20は、複数の担体10を保持するケース状の部材でもよい。
【0016】
第1実施形態の放出部30は、建設現場等で発生するアルカリ性廃液を放出する。放出部30とアルカリ性廃液が発生する建設現場等とは配管等で連結されると好ましいが、建設現場からタンク等に入れて運んでもよい。アルカリ性廃液は、ノズル又はシャワー等が設置された放出部30の先端から放出される。放出部30から放出されるアルカリ性廃液の量は、ポンプ又は弁等で制御されてもよい。
【0017】
第1実施形態の排出部40は、箱状のケースであり、上方から流れ落ちるアルカリ性廃液を受ける貯留部41と、アルカリ性廃液を排出する排出口42を有する。第1実施形態の排出部40の上方は開放されるが、アルカリ性廃液が上方から流れ落ちるような構造であればよく、網状の隙間のある部材等を設置してもよい。排出口42からの排出されるアルカリ性廃液の量は、ポンプ又は弁等で制御されてもよい。
【0018】
次に、第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1の作用を説明する。
【0019】
第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、放出部30から予め定めた滞留時間を確保できる量のアルカリ性廃液を放出する。アルカリ性廃液は、上方から放出されて、保持部20に保持された担体10に所定量を含有され、所定量を超えると下方の担体10へ保持部20を介して流下する。
【0020】
保持部20に保持された担体10を通過するアルカリ性廃液は、大気中に含まれる二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。したがって、アルカリ性廃液は、担体10を通過する毎に徐々に中和され、下方に流下する。
【0021】
担体10を通過し中和処理が行われたアルカリ性廃液は、保持部20から排出部40へ流下する。排出部40へ流下したアルカリ性廃液は、排出口42から排出される。排出部40は、アルカリ性廃液を一時的に貯留部41に貯留させてもよい。貯留部41に貯留したアルカリ性廃液は、大気中に含まれる二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。
【0022】
このように、第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1によれば、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる。
【0023】
図2は、第1実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1による中和実験の結果を示す。
図2(a)はpH10の模擬アルカリ性廃液の第1中和実験結果、
図2(b)はpH11の模擬アルカリ性廃液の第2中和実験結果、
図2(c)はpH12の模擬アルカリ性廃液の第3中和実験結果を示す。
【0024】
第1施形態のアルカリ性廃液の中和装置1による中和実験(以下、「中和実験」という。)の仕様について説明する。中和実験に用いる担体10は、体積が295.5cm3/15個のスポンジである。模擬アルカリ性廃液はCa(OH)2を用いる。Ca(OH)2の濃度は、pH10の場合に3.705mg/L、pH11の場合に37.05mg/L、pH12の場合に370.5mg/Lである。
【0025】
実験は、模擬アルカリ性廃液の滞留時間:HRT(Hydraulic Retention Time)をpH10、pH11、pH12毎に変化させ、担体10毎に下部から採取した模擬アルカリ性廃液のpHを測定し、排水基準(pH5.8~8.6)を満足するための条件を求める。
【0026】
図2(a)に示す第1中和実験の仕様を以下の表1に示す。
【表1】
【0027】
第1中和実験の模擬アルカリ性廃液は、Ca2+による理論pHが10.04であり、多少の誤差はあるが、HRT20分ではスポンジ9個目の約12分で排水基準を満足した。したがって、第1施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、HRT12分以上であればpH10のアルカリ性廃液を排水基準に下げることができる。
【0028】
図2(b)に示す第2中和実験の仕様を以下の表2に示す。
【表2】
【0029】
第2中和実験の模擬アルカリ性廃液は、Ca2+による理論pHが10.98であり、多少の誤差はあるが、HRT1時間ではスポンジ12個目の約48分で排水基準を満足した。したがって、第1施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、HRT48分以上であればpH11のアルカリ性廃液を排水基準に下げることができる。
【0030】
図2(c)に示す第3中和実験の仕様を以下の表3に示す。
【表3】
【0031】
第3中和実験の模擬アルカリ性廃液は、実験前のCa2+による理論pHが11.97であり、多少の誤差はあるが、HRT3時間では約3時間で排水基準を満足した。したがって、第1施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、HRT3時間以上であればpH12のアルカリ性廃液を排水基準に下げることができる。
【0032】
図3は、第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1を示す。
【0033】
第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体10と、少なくとも1つの担体10を保持する保持部20と、アルカリ性廃液を放出する放出部30と、を備える。また、アルカリ性廃液の中和装置1は、担体10から流下したアルカリ性廃液を排出する排出部40を備えると好ましい。
【0034】
担体10は、所定量の液体を含有させることができ、所定量を超えると液体を含有できず、液体が表面を流れるような材料が好ましい。例えば、担体10は、多孔質の物質が好ましい。第2実施形態の担体10は、円柱状のスポンジで形成される。担体10は、大気との接触界面の多い形状がよい。担体10の形状は、球状、直方体状、又は、筒状でもよい。また、担体10は、複数の孔が形成されてもよい。担体10は、アルカリ性廃液を含有させながら流下させる発泡成形した合成樹脂又は海綿等の材料が好ましい。
【0035】
保持部20は、少なくとも1つの担体10を保持し、使用時に下方へアルカリ性廃液が流れ落ちるように構成される。第2実施形態の保持部20は、複数の担体10を保持する複数の底部材22を有する。第2実施形態の底部材22は、網状等の隙間のある構造に形成され、複数の担体10を載置する。ここで、底部材22は、保持部材を構成する。保持部20は、少なくとも1つの担体10を保持する少なくとも1つの保持部材を有する。
【0036】
第2実施形態の保持部20は、底部材22の一方の面の周囲に取り付けられる壁部材23を有する。壁部材23は、担体10が側方から落下しない程度の高さでよい。壁部材23は、面状又は網状等に形成される。壁部材23は、開口23aを形成してもよい。ここで、底部材22及び壁部材23は、保持部材を構成する。開口23aを形成することで、保持部材内の担体10が大気と連結され、二酸化炭素を多く取り入れることができる。
【0037】
なお、保持部20は、壁部材23を設けず、底部材22を皿状又は袋状に形成してもよい。また、底部材22は、面状に形成し、周囲から下方へアルカリ性廃液が流れ落ちるように構成してもよい。
【0038】
保持部20は、連結可能である。第2実施形態の中和装置1は、壁部材23を連結し、複数の保持部20を繋げて構成される。なお、保持部20は、壁部材23を設けず、皿状又は袋状の底部材22を連結してもよい。
【0039】
第2実施形態の保持部20は、最も上方の壁部材23の上端に蓋部材24が取り付けられる。蓋部材24は、放出部30を覆うように取り付けられる。蓋部材24は、面状又は網状等でよい。なお、蓋部材24は、壁部材23に密閉させず、隙間を空けて設置してもよい。また、蓋部材24は、設けなくてもよい。
【0040】
第2実施形態の放出部30は、建設現場等で発生するアルカリ性廃液を放出する。放出部30とアルカリ性廃液が発生する建設現場等とは配管等で連結されると好ましいが、建設現場からタンク等に入れて運んでもよい。アルカリ性廃液は、ノズル又はシャワー等が設置された放出部30の先端から放出される。放出部30から放出されるアルカリ性廃液の量は、ポンプ又は弁等で制御されてもよい。
【0041】
第2実施形態の放出部30は、蓋部材24よりも下方に設置しているが、蓋部材24が網状等の液体を通過させる構造の場合、蓋部材24の上方に設置してもよい。また、蓋部材24を設置しない場合には、放出部30は、開放された保持部20の上方に設置されればよい。
【0042】
第2実施形態の排出部40は、箱状のケースであり、上方から流れ落ちるアルカリ性廃液を受ける貯留部41と、アルカリ性廃液を排出する排出口42を有する。第2実施形態の排出部40の上方は開放されるが、アルカリ性廃液が上方から流れ落ちるような構造であればよく、網状の部材等を設置してもよい。排出口42からの排出されるアルカリ性廃液の量は、ポンプ又は弁等で制御されてもよい。排出部40は、大気と連通する開口41aを形成してもよい。
【0043】
次に、第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1の作用を説明する。
【0044】
第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、放出部30から予め定めた滞留時間を確保できる量のアルカリ性廃液を放出する。アルカリ性廃液は、上方から放出されて、保持部20に保持された担体10に所定量を含有され、所定量を超えると下方の担体10へ保持部20を介して流下する。
【0045】
保持部20に保持された担体10を通過するアルカリ性廃液は、開口23aで連結された大気中に含まれる二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。したがって、アルカリ性廃液は、担体10を通過する毎に徐々に中和され、下方に流下する。
【0046】
担体10を通過し中和処理が行われたアルカリ性廃液は、保持部20から排出部40へ流下する。排出部40へ流下したアルカリ性廃液は、排出口42から排出される。排出部40は、アルカリ性廃液を一時的に貯留部41に貯留させてもよい。貯留部41に貯留したアルカリ性廃液は、大気中に含まれる二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。
【0047】
このように、第2実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1によれば、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる。また、保持部20に複数の担体10を保持することによって、効率良くアルカリ性廃液の中和処理を行うことができる。
【0048】
図4は、第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1を示す。
【0049】
第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる複数の担体10と、複数の担体10を保持する保持部20と、アルカリ性廃液を放出する放出部30と、少なくとも保持部20の一部へ二酸化炭素を送る送気部50と、を備える。また、アルカリ性廃液の中和装置1は、担体10から流下したアルカリ性廃液を排出する排出部40を備えると好ましい。送気部50以外の構造は、第2実施形態と同様なので説明は省略する。
【0050】
第3実施形態の送気部50は、少なくとも二酸化炭素を含む気体を送気する送気部材51と、送気部材51から保持部20へ送気するための流路52と、を有する。なお、送気部50は、流路52を設けず、保持部20内の担体10に気体が流れ込む位置に送気部材51を設置してもよい。
【0051】
送気部材51は、ファン又はブロア等であって、建設現場又は土木現場等に設置されている換気用のものでもよい。送気部材51は、大気又は現場で発生する排気ガスを送気してもよい。
【0052】
流路52は、送気部材51から保持部20へ二酸化炭素を含む大気又は現場で発生する排気ガス等を送気する。第3実施形態の流路52は、保持部20及び排出部40へ連結される。流路52は、保持部材を構成する少なくとも1つの底部材22上の少なくとも1つの担体10へ送気されるように形成される。
【0053】
次に、第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1の作用を説明する。
【0054】
第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、放出部30から予め定めた滞留時間を確保できる量のアルカリ性廃液を放出する。アルカリ性廃液は、上方から放出されて、保持部20に保持された担体10に所定量を含有され、所定量を超えると下方の担体10へ保持部20を介して流下する。
【0055】
保持部20に保持された担体10を通過するアルカリ性廃液は、送気部材51から送気された二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。したがって、アルカリ性廃液は、担体10を通過する毎に徐々に中和され、下方に流下する。
【0056】
担体10を通過し中和処理が行われたアルカリ性廃液は、保持部20から排出部40へ流下する。排出部40へ流下したアルカリ性廃液は、排出口42から排出される。排出部40は、アルカリ性廃液を一時的に貯留部41に貯留させてもよい。貯留部41に貯留したアルカリ性廃液は、送気部材51から送気された二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。
【0057】
このように、第3実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1によれば、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる。また、送気部50によって多くの二酸化炭素を送気することができ、効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。さらに、送気部50から送気される二酸化炭素として、排気ガスを用いた場合、従来現場において排気ガスとして放散される二酸化炭素を削減することができる。また、排気ガスは、大気中よりも高濃度の二酸化炭素を含むので、より効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。
【0058】
図5は、第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1を示す。
【0059】
第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる複数の担体10と、複数の担体10を保持する保持部20と、アルカリ性廃液を放出する放出部30と、アルカリ性廃液と二酸化炭素を混合する混合部60と、を備える。また、アルカリ性廃液の中和装置1は、担体10から流下したアルカリ性廃液を排出する排出部40を備えると好ましい。
【0060】
第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、混合部60以外の構造について第2実施形態と同様なので説明は省略する。ただし、上方の保持部材は、壁部材23に開口23aを形成せず、底部材22と壁部材23で密閉すると好ましい。保持部20の上方ではアルカリ性廃液と二酸化炭素を混合したばかりなので、保持部20と大気を連通した場合、二酸化炭素が大気中に逃げてしまうからである。なお、保持部20は、開口23aを形成してもよい。
【0061】
第4実施形態の混合部60は、ラインミキサー等を用いて二酸化炭素を含む大気又は現場で発生する排気ガス等をアルカリ性廃液に混合する。混合部60で二酸化炭素と混合されたアルカリ性廃液は、放出部30から放出される。混合部60で二酸化炭素が混合された後のアルカリ性廃液のpHは、過剰な注入を防ぐために排水基準まで下げられる必要はなく、排出部40から排出する時点で排水基準を満足すればよい。
【0062】
次に、第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1の作用を説明する。
【0063】
第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、混合部60でアルカリ性廃液と二酸化炭素を混合する。次に、アルカリ性廃液の中和装置1は、放出部30から予め定めた滞留時間を確保できる量のアルカリ性廃液を放出する。アルカリ性廃液は、上方から放出されて、保持部20に保持された担体10に所定量を含有され、所定量を超えると下方の担体10へ保持部20を介して流下する。
【0064】
保持部20に保持された担体10を通過するアルカリ性廃液は、混合された二酸化炭素によって中和処理が行われる。したがって、アルカリ性廃液は、担体10を通過する毎に徐々に中和され、下方に流下する。
【0065】
担体10を通過し中和処理が行われたアルカリ性廃液は、保持部20から排出部40へ流下する。排出部40へ流下したアルカリ性廃液は、排出口42から排出される。排出部40は、アルカリ性廃液を一時的に貯留部41に貯留させてもよい。貯留部41に貯留したアルカリ性廃液は、大気中に含まれる二酸化炭素を取り込むことで中和処理が行われる。
【0066】
このように、第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1によれば、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる。また、混合部60によって予め二酸化炭素を混合することができ、効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。さらに、混合部60で混合される二酸化炭素として、排気ガスを用いた場合、従来現場において排気ガスとして放散される二酸化炭素を削減することができる。また、排気ガスは、大気中よりも高濃度の二酸化炭素を含むので、効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。
【0067】
第1実施形態乃至第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、閉鎖空間等の冷房に活用することができる。建設現場では、濁水又は廃水だけでなく、各種装置や工事車両さらには労働者に由来する排気ガスや排熱が発生している。特に、トンネル工事現場等の閉鎖空間では、排気ガスや排熱の発生が顕著であり、安全な労働環境を維持するために冷房や換気設備があることが望ましいが、現状では、外気や冷却した空気による強制換気を行うのみとなっている。冷却した空気を送っても、トンネルは最深部に吐出口があるので、吐出口以外はとても暑いのが現状である。
【0068】
本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、担体10を熱交換に利用することで、クーリングタワーとして活用することができる。アルカリ性廃液の中和装置1において、アルカリ性廃液は、担体10に含有されている際、又は、担体10を流下する際に大気に触れて一部が蒸発する。廃液又は処理水の温度は、蒸発時の気化熱により低下する。この温度低下した処理水を冷却水として利用することで、閉鎖空間等の冷房に活用すればよい。
【0069】
なお、第1実施形態乃至第4実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、大気を利用した方法だけでなく、二酸化炭素を含む排気ガス等を併用した方法を提案しているが、いずれの方法でもクーリングタワーとして活用することができる。また、一般的なクーリングタワーは、冷却水を循環利用するため、水質の維持管理が必要であるが、本実施形態の中和装置1は、常に排水基準を満足した処理水が冷却水として供給されるため、新たな水質管理は必要としない。
【0070】
本実施形態の担体10及び模擬廃水を用いた中和試験では、アルカリ性廃液の組成や中和時間(HRT(Hydraulic Retention Time):水理学的滞留時間)等によって温度低下に多少の違いが見られたが、20℃の恒温室中で最大4.5℃低下した。
【0071】
以上、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液を大気に触れさせる少なくとも1つの担体10と、担体10を保持する保持部20と、保持部20に保持された担体10にアルカリ性廃液を放出する放出部30と、を備える。したがって、アルカリ性廃液の中和装置1は、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる
【0072】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1では、保持部20は、複数の担体10を保持する少なくとも1つの保持部材22,23を有する。保持部20に複数の担体10を保持することによって、アルカリ性廃液の中和装置1は、効率良くアルカリ性廃液の中和処理を行うことができる。
【0073】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1では、保持部材23は、大気と連通する開口23aが形成される。したがって、保持部材内の担体10が大気と連結され、アルカリ性廃液の中和装置1は、二酸化炭素を多く取り入れることができる。
【0074】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、保持部材22,23に保持される担体10に少なくとも二酸化炭素を送気する送気部50をさらに備える。したがって、アルカリ性廃液の中和装置1は、送気部50によって多くの二酸化炭素を送気することができ、効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。
【0075】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、放出部30から放出される前のアルカリ性廃液に二酸化炭素を混合する混合部60をさらに備える。したがって、アルカリ性廃液の中和装置1は、混合部60によって予め二酸化炭素を混合することができ、効率良くアルカリ性廃液を中和することができる。
【0076】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1は、アルカリ性廃液は、担体10で大気に触れた際に一部が蒸発する。したがって、アルカリ性廃液の中和装置1は、閉鎖空間等の冷房に活用することができる。
【0077】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和方法は、担体10にアルカリ性廃液を放出するステップと、担体10に含有されたアルカリ性廃液が大気に触れるステップと、前記アルカリ性廃液が流下するステップと、を有する。したがって、アルカリ性廃液の中和方法は、従来と比較して放散される二酸化炭素を削減し、アルカリ性の廃液のpH値を調整することができる
【0078】
また、本実施形態のアルカリ性廃液の中和方法では、アルカリ性廃液が大気に触れるステップにおいて、アルカリ性廃液は、一部が蒸発する。したがって、アルカリ性廃液の中和装置1は、閉鎖空間等の冷房に活用することができる。
【0079】
なお、本発明は上述した実施形態に制約されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本発明の技術思想に含まれるものである。
【0080】
上記実施形態では、各実施形態のアルカリ性廃液の中和装置1が有する特徴をそれぞれ説明したが、各実施形態の特徴を適宜組み合わせてもよく、例えば、任意の2つ以上を適宜組み合わせてもよいし、全てを組み合わせてもよい。
【0081】
上記実施形態では、アルカリ性廃液の中和装置1が備える各部の機能は、1つの装置で実現されるものとして説明したが、各部の機能が複数の装置に分散されることで複数の装置で実現されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…アルカリ性廃液の中和装置、10…担体、
20…保持部、21…ネット(保持部材)、22…底部材(保持部材)、23…壁部材(保持部材)、23a…開口、
30…放出部、40…排出部、41…貯留部、41a…開口、42…排出口、
50…送気部、51…送気部材、52…流路、60…混合部