(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088585
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】厚さ測定装置及び厚さ測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
G01B7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171909
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022203422
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BB02
2F063BC05
2F063CA09
2F063CB01
2F063DA05
2F063DC08
2F063GA08
(57)【要約】
【課題】被検物の温度に基づいて、被検物の厚さを精度良く補正することができる技術を提供する。
【解決手段】励磁部41は、励磁コイル11に励磁電流を印加して被検物9に渦電流を誘起させる。渦電流検出部42は、被検物9の渦電流を、検出コイル12を介して検出する。被検物温度取得部45は、被検物温度Tmを取得する。厚さ算出部61は、渦電流検出部42によって検出された渦電流の継続時間τに基づいて被検物9の厚さdを求める。補正部62は、渦電流検出部42によって渦電流が検出された時の被検物温度Tmと、被検物温度Tmに関する項を有する補正式とに基づいて、厚さdを補正する。補正式の被検物温度Tmに関する項は補正係数Aを有する。補正係数Aは、被検物温度Tmの複数の測定データと、基準時t0から各測定データが取得された時tまでの経過時間Δtとに基づいて求められる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ測定装置であって、
励磁コイルに励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させる励磁部と、
前記被検物の前記渦電流を検出する検出センサを有する渦電流検出部と、
前記被検物の温度を取得する被検物温度取得部と、
前記渦電流検出部によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記被検物の厚さを求める厚さ算出部と、
前記渦電流検出部によって前記渦電流が検出された時の前記被検物の温度と、前記被検物の温度に関する項を有する補正式とに基づいて、前記厚さ算出部によって求められた前記厚さを補正する補正部と、
を備え、
前記補正式の前記被検物の温度に関する項は、前記被検物の温度に関する複数の測定データと、所定の基準時から各前記測定データが取得された時までの経過時間とに基づいて求められた補正係数を有する、厚さ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の厚さ測定装置であって、
前記基準時は、前記複数の測定データの取得を開始した時である、厚さ測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の厚さ測定装置であって、
前記励磁部及び前記渦電流検出部が実装された基板、
をさらに備え、
前記補正部は、前記基板の温度に基づいて、前記厚さを補正する、厚さ測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の厚さ測定装置であって、
前記基板に位置する基板温度センサによって測定された前記基板の温度を取得する基板温度取得部をさらに備え、
前記補正部は、前記基板温度取得部によって取得された温度を、前記基板の温度として用いる、厚さ測定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の厚さ測定装置であって、
前記励磁コイルに前記励磁電流が印加されているときの前記励磁コイルの電圧を取得する電圧取得部をさらに備え、 前記補正部は、前記電圧取得部によって取得される電圧に基づいて、前記厚さを補正する、厚さ測定装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の厚さ測定装置であって、
前記補正式を生成する補正式生成部、
をさらに備える、厚さ測定装置。
【請求項7】
厚さ測定方法であって、
励磁コイルに励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させる励磁工程と、
前記励磁工程によって発生した前記被検物の前記渦電流を、検出センサを介して検出する渦電流検出工程と、
前記渦電流検出工程によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて、前記被検物の厚さを求める厚さ算出工程と、
前記渦電流検出工程によって前記渦電流が検出された時の前記被検物の温度と、前記被検物の温度に関する項を有する補正式とに基づいて、前記厚さ算出工程によって求められた前記厚さを補正する補正工程と、
を含み、
前記補正式の前記被検物の温度に関する項は、前記被検物の温度に関する複数の測定データと、所定の基準時から各前記測定データが取得された時までの経過時間とに基づいて求められた補正係数を有する、厚さ測定方法。
【請求項8】
励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させる励磁部と、
前記被検物の前記渦電流を検出する渦電流検出部と、
前記被検物の温度を取得する温度取得部と、
前記渦電流の継続時間に基づいて前記被検物の厚さを算出する厚さ算出部と、
前記被検物の温度に基づいて、前記被検物の厚さを補正する補正部と
を1回の測定で実行する厚さ測定装置であって、
前記補正部は、前記測定が複数回行われた場合に、最初の測定からの経過時間を考慮して、前記被検物の厚さを補正する、厚さ測定装置。
【請求項9】
励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させるステップと、
前記被検物の前記渦電流を検出するステップと、
前記被検物の温度を取得するステップと、
前記渦電流の継続時間に基づいて前記被検物の厚さを算出するステップと、
前記被検物の温度に基づいて、前記被検物の厚さを補正するステップと
を1回の測定で実行する厚さ測定方法であって、
前記測定が複数回行われた場合に、最初の測定からの経過時間を考慮して、前記被検物の厚さを補正するステップをさらに有する、厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、厚さ測定装置及び厚さ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流を用いた測定装置が知られている。例えば、特許文献1には、渦電流を用いて被検物の探傷を行う装置が開示されている。特許文献1の装置は、透磁率等の温度依存性を考慮して、被検物の温度に基づいて検出信号等を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、渦電流を用いた測定装置には、被検物の厚さを測定する厚さ測定装置がある。このような厚さ測定装置においても、測定精度が被検物の温度の影響を受け得る。このため、被検物の温度に基づいて、測定された被検物の厚さを精度良く補正する技術が求められている。
【0005】
本開示の目的は、被検物の温度に基づいて、被検物の厚さを精度良く補正することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1態様は、厚さ測定装置であって、励磁コイルに励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させる励磁部と、前記被検物の前記渦電流を検出する検出センサを有する渦電流検出部と、前記被検物の温度を取得する被検物温度取得部と、前記渦電流検出部によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて前記被検物の厚さを求める厚さ算出部と、前記渦電流検出部によって前記渦電流が検出された時の前記被検物の温度と、前記被検物の温度に関する項を有する補正式とに基づいて、前記厚さ算出部によって求められた前記厚さを補正する補正部と、を備え、前記補正式の前記被検物の温度に関する項は、前記被検物の温度に関する複数の測定データと、所定の基準時から各前記測定データが取得された時までの経過時間とに基づいて求められた補正係数を有する。
【0007】
第2態様は、第1態様の厚さ測定装置であって、前記基準時は、前記複数の測定データの取得を開始した時である。
【0008】
第3態様は、第1態様または第2態様の厚さ測定装置であって、前記励磁部及び前記渦電流検出部が実装された基板、をさらに備え、前記補正部は、前記基板の温度に基づいて、前記厚さを補正する。
【0009】
第4態様は、第3態様の厚さ測定装置であって、前記基板に位置する基板温度センサによって測定された前記基板の温度を取得する基板温度取得部をさらに備え、前記補正部は、前記基板温度取得部によって取得された温度を、前記基板の温度として用いる。
【0010】
第5態様は、第1態様または第2態様の厚さ測定装置であって、前記励磁コイルに前記励磁電流が印加されているときの前記励磁コイルの電圧を取得する電圧取得部をさらに備え、前記補正部は、前記電圧取得部によって取得される電圧に基づいて、前記厚さを補正する。
【0011】
第6態様は、第1態様または第2態様の厚さ測定装置であって、前記補正式を生成する補正式生成部をさらに備える。
【0012】
第7態様は、厚さ測定方法であって、励磁コイルに励磁電流を印加して被検物に渦電流を誘起させる励磁工程と、前記励磁工程によって発生した前記被検物の前記渦電流を、検出センサを介して検出する渦電流検出工程と、前記渦電流検出工程によって検出された前記渦電流の継続時間に基づいて、前記被検物の厚さを求める厚さ算出工程と、前記渦電流検出工程によって前記渦電流が検出された時の前記被検物の温度と、前記被検物の温度に関する項を有する補正式とに基づいて、前記厚さ算出工程によって求められた前記厚さを補正する補正工程と、を含み、前記補正式の前記被検物の温度に関する項は、前記被検物の温度に関する複数の測定データと、所定の基準時から各前記測定データが取得された時までの経過時間とに基づいて求められた補正係数を有する。
【発明の効果】
【0013】
第1態様から第6態様の厚さ測定装置によれば、補正式における被検物の温度に関する項の補正係数が、被検物の温度に関する測定データと、その測定データが取得された時の基準時からの経過時間に基づいて求められる。これにより、経過時間に応じた厚さの経時変化が考慮された補正式を求めることができる。したがって、当該補正式を用いて厚さを補正することによって、厚さが経時変化するような被検物であっても、厚さを精度良く求めることができる。
【0014】
第2態様の厚さ測定装置によれば、複数の測定データの取得が開始された時を基準に経過時間を求めることができる。
【0015】
第3態様の厚さ測定装置によれば、基板の温度に基づいて求められた厚さを補正することによって、基板の温度に依存する厚さの測定誤差を補正できる。
【0016】
第4態様の厚さ測定装置によれば、基板の実測温度に基づいて、厚さを補正できる。
【0017】
第5態様の厚さ測定装置によれば、励磁コイルの電圧は、励磁コイルの温度に依存する。このため、励磁コイルの電圧に基づいて、厚さを補正することによって、励磁コイルの温度に依存する厚さの測定誤差を補正できる。
【0018】
第6態様の厚さ測定装置によれば、厚さ測定装置によって、補正式を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る厚さ測定装置のブロック図である。
【
図2】処理装置の制御部、及び、演算装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】渦電流に対応する電圧信号の時間変化を示すグラフである。
【
図4】厚さ測定装置における、厚さ測定処理の流れを示す図である。
【
図5】経過時間Δtを考慮して補正された補正厚さd′の散布図である。
【
図6】経過時間Δtを考慮せずに補正された補正厚さd′の散布図である。
【
図7】経過時間Δtを考慮せずに補正された補正厚さd′の散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
<1.実施形態>
図1は、実施形態に係る厚さ測定装置10のブロック図である。厚さ測定装置10は、プローブ1と、測定処理装置3と、演算装置5とを備える。厚さ測定装置10は、パルス渦電流探傷(PEC:Pulsed Eddy Current)によって被検物9の厚さを測定する装置である。被検物9は、例えば、金属製の配管であって、原油または石油精製物などの流体が流通する配管である。配管は、例えば円管状に形成されている。以下、被検物9の厚さを測定することを、単に「厚さ測定」と称する。
【0022】
プローブ1は、被検物9に渦電流を発生させ、かつ、発生した渦電流を検出するための器具である。プローブ1は、非接触型のプローブである。厚さ測定の際、プローブ1は被検物9に近接される。なお、「非接触型」とは、非接触でも使用可能であることを意味する。すなわち、プローブ1は接触状態で使用されてもよい。厚さ測定の際、プローブ1は、被検物9の表面に対向するように配置される。プローブ1は、例えば断熱性を有するスペーサを介して被検物9に設置される。
【0023】
プローブ1は、変動磁場を形成することによって被検物9に渦電流を発生させる。また、プローブ1は、被検物9に発生した渦電流の変化を誘導電圧として検出する。具体的には、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を備える。励磁コイル11は、励磁電流による磁束で被検物9に渦電流を誘起させる。検出コイル12は、被検物9の渦電流を検出する。プローブ1は、励磁コイル11によって被検物9に渦電流を誘起させ、誘起した渦電流を検出コイル12で検出する。検出コイル12は、検出センサの一例である。
【0024】
プローブ1は、被検物9の温度を検出する被検物温度センサ15をさらに備える。被検物温度センサ15は、例えば、熱電対である。プローブ1は、励磁コイル11、検出コイル12及び被検物温度センサ15を収容するケーシングを備えていてもよい。
【0025】
図1に示されるように、励磁コイル11の軸心及び検出コイル12の軸心は、同一直線上に配置されている。また、励磁コイル11よりも、検出コイル12の方が、被検物9の近くに位置する。プローブ1は、複数組の励磁コイル11及び検出コイル12を有していてもよい。
図1に示される例では、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を有している。
【0026】
プローブ1は、励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されたコア13を備える。コア13は、全体として略U字状に形成されている。詳細には、コア13は、積層された、略U字状の複数の薄板を有する。各薄板は、パーマロイによって形成されている。プローブ1は、一対の直線状に延びる直線部分と、当該一対の直線部分の一端を連結する連結部とを有する。コア13の一方の直線部分は、一組の励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されている。コア13の他方の直線部分は、もう一組の励磁コイル11及び検出コイル12に挿入されている。コア13は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を磁気的に接続している。
【0027】
励磁コイル11は、電流が印加されることによって、その軸心の方向に磁場を形成する。コア13において、一方の励磁コイル11と他方の励磁コイル11とは、軸心の方向において互いに反対向きの磁場を形成するように電流が印加される。その結果、コア13には、コア13の長手方向に沿った磁場が形成される。すなわち、コア13の一方の端部がN極となるときには、コア13の他方の端部はS極となる。逆に、コア13の一方の端部がS極となるときには、コア13の他方の端部はN極となる。例えば、一方の励磁コイル11から被検物9へ向かって磁束が発生し、被検物9から他方の励磁コイル11へ向かって磁束が発生する。一方の励磁コイル11から発せられる大部分の磁束は、一方の励磁コイル11の軸心の方向に出て被検物9内へ入り、被検物9内を略円弧状に通過する。そして、磁束は、他方の励磁コイル11の軸心の方向へ向かい、他方の励磁コイル11に入っていく。励磁コイル11に印加する電流を変動させることによって、被検物9に発生する磁場が変動し、被検物9に渦電流が発生する。
【0028】
被検物9のうち検出コイル12の近傍の部分に渦電流が発生すると、検出コイル12を貫通する磁束が形成される。検出コイル12を貫通する磁束が変化すると、検出コイル12に誘導起電力が発生する。検出コイル12は、この誘導起電力を検出することによって、被検物9の渦電流を検出する。つまり、検出コイル12によって誘導起電力を検出することは、渦電流を検出することと等価である。
【0029】
測定処理装置3は、プローブ1によって被検物9に渦電流を発生させ、かつ、プローブ1によって発生した渦電流を検出する。演算装置5は、測定処理装置3によって検出された渦電流の継続時間に基づいて被検物9の厚さを算出する。後述するように、渦電流の継続時間は、渦電流が急激に減衰するまでの時間である。また、演算装置5は、算出された被検物9の厚さを補正する。
【0030】
測定処理装置3は、被検物9に近接して配置される。測定処理装置3は、例えば、スペーサを介して被検物9上に設置される。測定処理装置3は、送信回路31と、第1受信回路32と、第2受信回路33と、温度検出回路34と、通信部35と、制御部36と、記憶部37と、基板38と、基板温度センサ39とを有する。
【0031】
送信回路31は、励磁コイル11にパルス状の励磁電流を印加する。送信回路31は、パルス発生器311を有する。パルス発生器311は、制御部36からの指令に基づいてパルス信号を発生する。送信回路31は、当該パルス信号を不図示のアンプで増幅させることによって励磁電流を生成する。送信回路31は、生成された励磁電流を励磁コイル11へ出力する。
【0032】
第1受信回路32は、被検物9の渦電流に応じて検出コイル12に発生する誘導起電力を受信する。第1受信回路32は、受信アンプ321を有する。受信アンプ321は、検出コイル12に入力された電圧を増幅する。第1受信回路32は、電圧信号にフィルタ処理を施すフィルタをさらに有していてもよい。
【0033】
第2受信回路33は、励磁コイル11の両端電圧を受信する。第2受信回路33は、受信アンプ331を有する。受信アンプ331は、励磁コイル11から入力された電圧を増幅する。第2受信回路33は、電圧信号にフィルタ処理を施すフィルタをさらに有していてもよい。
【0034】
温度検出回路34には、基板温度センサ39によって出力された検出信号が入力される。温度検出回路34は、基板温度センサ39の検出信号を増幅する受信アンプを有していてもよい。さらに、温度検出回路34には、被検物温度センサ15によって出力された検出信号が入力される。温度検出回路34は、被検物温度センサ15の検出信号を増幅する受信アンプを有していてもよい。
【0035】
通信部35は、外部機器と無線通信を行う。例えば、通信部35は、第1受信回路32によって検出された電圧信号(検出信号)、第2受信回路33によって検出された電圧信号(検出信号)及び温度検出回路34によって検出された検出信号を演算装置5に送信する。
【0036】
制御部36は、測定処理装置3の全体を制御する。制御部36は、各種の演算処理を行う。制御部36は、例えば、コンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)などのメモリとを有する。
【0037】
制御部36は、送信回路31に所定期間だけ励磁電流を出力させる。制御部36は、励磁電流が出力されている間、第2受信回路33に検出信号を取得させる。また、制御部36は、送信回路31による励磁電流の出力を停止させた後に、第1受信回路32の検出信号を取得する。制御部36は、第1受信回路32に検出信号を取得させるタイミングで、温度検出回路34の検出信号を取得する。制御部36は、第1受信回路32、第2受信回路33及び温度検出回路34の検出信号を記憶部37に記憶させる。そして、制御部36は、通信部35に、記憶部37に記憶された検出信号を演算装置5へ送信させる。
【0038】
記憶部37は、制御部36が使用する制御プログラム及び各種データを記憶する、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体である。記憶部37は、例えば、不揮発性の半導体メモリである。
【0039】
送信回路31、第1受信回路32、第2受信回路33、温度検出回路34、通信部35、制御部36及び記憶部37は、基板38上に位置する。
【0040】
基板温度センサ39は、基板38の温度を検出する。基板温度センサ39は、基板38上に配置されている。基板温度センサ39は、例えば、温度センサICである。
【0041】
演算装置5は、コンピュータ、または、インターネットなどのネットワークを介して測定処理装置3と接続されたサーバで構成される。演算装置5は、制御部51と、記憶部52と、通信部53とを有する。
【0042】
制御部51は、演算装置5の全体を制御する。制御部51は、各種の演算処理を行う。制御部51は、CPUなどのプロセッサと、RAMなどのメモリとを有する。記憶部52は、制御部51が使用する制御プログラム及び各種データを記憶する、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体である。記憶部52は、不揮発性メモリを有する。不揮発性メモリは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶装置、SSD(Solid State Drive)などのフラッシュメモリ(半導体メモリ)、または、CD-ROMなどの光ディスクを有する。記憶部52は、測定処理装置3によって送信される信号等を記憶する。具体的には、記憶部52は、測定処理装置3によって取得された被検物9の渦電流、励磁コイル11の電圧、被検物9の温度及び基板38の温度を記憶する。通信部53は、測定処理装置3の通信部35とデータ通信を行う。
【0043】
図2は、測定処理装置3の制御部36、及び、演算装置5の制御部52の構成を示すブロック図である。制御部36は、記憶部37に保存された制御プログラムをメモリに展開し、展開された制御プログラムを実行することによって、各種機能を実現する。具体的には、
図2に示されるように、制御部36は、励磁部41、渦電流検出部42、電圧取得部43、基板温度取得部44及び被検物温度取得部45として機能する。制御部51は、記憶部52に保存された制御プログラムをメモリに展開し、展開された制御プログラムを実行することによって、各種機能を実現する。具体的には、
図2に示されるように、制御部51は、厚さ算出部61、補正部62及び補正式生成部63として機能する。
【0044】
励磁部41は、送信回路31に励磁コイル11へ励磁電流を印加させることによって、被検物9に渦電流を誘起する。具体的には、励磁部41は、パルス発生器311に指令を出力し、パルス発生器311にパルス信号を発生させる。その結果、励磁電流が励磁コイル11へ印加される。
【0045】
渦電流検出部42は、被検物9の渦電流を検出コイル12によって検出する。詳細には、渦電流検出部42は、被検物9の渦電流に対応する電圧信号を検出する。渦電流検出部42が検出する電圧信号は、検出コイル12の誘導起電力に対応する。詳細には、渦電流検出部42は、励磁コイル11への励磁電流の印加が停止されてから所定の期間、継続して、電圧信号を検出する。つまり、渦電流検出部42は、励磁コイル11への励磁電流の印加が停止されてからの被検物9の渦電流の経時変化(過渡変化)を検出する。渦電流検出部42は、検出された渦電流、すなわち、電圧信号を、記憶部37に記憶させる。以下、説明の便宜上、渦電流検出部42によって検出された電圧信号を単に「渦電流」と称する場合がある。例えば、記憶部37に記憶された、渦電流に対応する電圧信号も単に「渦電流」と称する。
【0046】
電圧取得部43は、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧を取得する。詳細には、電圧取得部43は、励磁コイル11の両端電圧に対応する電圧信号を取得する。電圧取得部43は、励磁コイル11への励磁電流が印加されているときの電圧信号を取得する。電圧取得部43は、検出された両端電圧、すなわち電圧信号を記憶部37に記憶させる。以下、説明の便宜上、電圧取得部43によって取得された電圧信号を単に「励磁コイル11の電圧」と称する場合がある。例えば、記憶部37に記憶された、励磁コイル11の両端電圧に対応する電圧信号も単に「励磁コイル11の電圧」と称する。
【0047】
基板温度取得部44は、基板38の温度を取得する。詳細には、基板温度取得部44は、励磁部41による励磁コイル11への励磁電流の印加が停止された後の基板38の温度を取得する。例えば、基板温度取得部44は、渦電流検出部42によって渦電流が検出されたときの基板38の温度を取得する。基板温度取得部44は、基板38に配置された基板温度センサ39によって測定された基板38の温度(実測温度)を取得する。基板温度取得部44は、取得された基板38の温度を記憶部37に記憶させる。
【0048】
被検物温度取得部45は、被検物9の温度を取得する。詳細には、被検物温度取得部45は、被検物温度センサ15によって測定された被検物9の温度(実測温度)を取得する。被検物温度取得部45は、取得された被検物9の温度を記憶部37に記憶させる。
【0049】
厚さ算出部61は、被検物9の渦電流の継続時間に基づいて被検物9の厚さを求める。励磁コイル11によって被検物9に誘起された渦電流は、被検物9の表面(プローブ1が対向している面)から裏面に浸透する。そして、渦電流は、裏面に到達すると急激に減衰する。被検物9の渦電流の継続時間とは、渦電流が被検物9に誘起されてから急激に減衰するまでの時間である。被検物9の渦電流の継続時間は、被検物9の厚さと相関する。
【0050】
厚さ算出部61は、測定処理装置3によって検出された渦電流の継続時間を求める。そして、厚さ算出部61は、渦電流の継続時間と被検物9の厚さとの相関関係に基づいて、検出された渦電流の継続時間から被検物9の厚さを求める。以下、渦電流の継続時間を、単に「継続時間」と称する場合がある。
【0051】
補正部62は、厚さ算出部61によって求められた厚さを補正する。詳細には、補正部62は、基板38の温度、及び、励磁コイル11の温度に基づいて厚さを補正する。さらに、補正部62は、基板38の温度、及び、励磁コイル11の温度に加えて、被検物9の温度に基づいて、厚さを補正する。
【0052】
ここで、渦電流と被検物9の厚さとの関係について説明する。
図3は、渦電流に対応する電圧信号V(t)の時間変化を示すグラフである。
図3に示されるグラフは、両対数グラフである。
図3において、電圧信号V0(t)は、厚さd0を有する被検物9の電圧信号であり、電圧信号V1(t)は、厚さd0よりも薄い厚さd1を有する被検物9の電圧信号である。
【0053】
渦電流は、被検物9に浸透していくのに従って減衰していく。より詳細には、渦電流は、被検物9の表面から裏面に到達するまでの間は徐々に減衰し、裏面に到達すると急激に減衰する。電圧信号V(t)は、渦電流と同様の変化を示す。つまり、電圧信号V(t)の経時変化は、渦電流の経時変化に相当する。渦電流が被検物9の裏面に達するまでの間の電圧信号V(t)の変化は、両対数グラフ上では直線的(線形的)に表される。その後、電圧信号V(t)は、急激に減衰していく。電圧信号V(t)は、以下の式(1)で表される。
【0054】
【数1】
式(1)において、「Av」は受信アンプ321の増幅率であり、「n」は電圧信号V(t)の減衰の程度を示す定数である。「-n」は両対数グラフにおける電圧信号V(t)の傾きを表す。
【0055】
式(1)に示されるように、電圧信号V(t)は、両対数グラフにおいて、時間τまでは一定の傾きで徐々に継続的に減衰し、時間τにおいて急激に減衰する。以下、時間τを単に「継続時間」と称する。継続時間τは、以下の式(2)で表される。
【0056】
【数2】
式(2)において、「σ」は被検物の誘電率であり、「μ」は被検物9の透磁率であり、「d」は被検物9の厚さである。
【0057】
式(2)に示されるように、継続時間τは、被検物9の厚さdに依存して変化する。被検物9の導電率σ及び透磁率μが一定であると仮定した場合、未知の厚さdは、以下の式(3)で表される。
【0058】
【数3】
式(3)において、「d0」は被検物9の既知の厚さであり、「τ0」は既知の厚さd0に対応する継続時間である。
【0059】
図3に示されるように、厚さd0の被検物9の電圧信号V0(t)は、継続時間τ0まで継続している。しかしながら、被検物9の厚さdがd0からd1に減少すると、継続時間τは、τ0からτ1に減少している。なお、式(1)に示されるように、両対数グラフにおいて、電圧信号V(t)における直線状部分の傾き(=-n)は、厚さdに依存しない。既知の厚さd0及びτ0を式(3)に代入し、継続時間τ1を式(3)のτに代入することによって、厚さd1を求めることができる。
【0060】
なお、上記説明では、導電率σ及び透磁率μを一定と仮定しているが、実際の被検物9の導電率σ及び透磁率μは、温度依存性を有する。導電率σ及び透磁率μが温度依存性を有する場合、継続時間τも温度依存性を有する。このため、継続時間τから算出される厚さdは、測定環境の温度の影響を受け得る。影響を与え得る測定環境の温度は、例えば、被検物9の温度、励磁コイル11の温度、及び、基板38の温度である。
【0061】
励磁コイル11は被検物9上又は被検物9の近傍に配置されるため、励磁コイル11の温度は、被検物9の温度に応じて変化し得る。また、励磁コイル11の抵抗は、温度依存性を有する。このため、励磁コイル11の温度変化によって励磁コイル11の抵抗が変化すると、励磁コイル11によって形成される磁場も変化し、その結果、継続時間τも変化する。
【0062】
さらに、測定処理装置3は被検物9上又は被検物9の近傍に配置されるため、基板38の温度は、被検物9の温度に応じて変化し得る。基板38の温度が変化すると、送信回路31等の送信に関する回路及び第1受信回路32等の受信に関する回路の温度が変化する。このような回路も、温度依存性を有する。送信に関する回路の温度が変化すると、励磁電流が変化し得る。受信に関する回路の温度が変化すると、第1受信回路32によって出力される、誘導起電力に対応する電圧信号が変化し得る。その結果、継続時間τも変化し得る。
【0063】
継続時間τが変化すると、継続時間τから求められる厚さdも変化する。そこで、補正部62は、被検物9の温度、基板38の温度及び励磁コイル11の温度に起因する継続時間τの誤差、すなわち、厚さdの誤差を低減するように厚さdを補正する。
【0064】
補正部62は、基板38の温度に関連するパラメータ、及び、励磁コイル11の温度に関連するパラメータによって厚さdを補正する。基板38の温度に関連するパラメータ、及び、励磁コイル11の温度に関連するパラメータは、具体的には、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧である。励磁コイル11の電圧の変化は、励磁コイル11に印加された励磁電流の変化、及び、励磁コイル11の抵抗の変化を反映している。基板38の温度、特に、送信回路31の温度が変化すると、励磁コイル11の励磁電流が変化する。また、励磁コイル11の温度が変化すると、励磁コイル11の抵抗が変化し得る。したがって、励磁コイル11の電圧は、基板38の温度及び励磁コイル11の温度に応じて変化する。
【0065】
補正部62は、励磁コイル11の電圧に基づいて厚さdを補正する。また、補正部62は、基板38の実測温度によって厚さdを補正する。さらに、補正部62は、被検物9の温度によって厚さdを補正する。
【0066】
具体的には、補正部62は、下記の補正式(4)に基づいて、厚さdを補正する。補正式(4)は、補正式生成部63によって生成される。
【0067】
【数4】
補正式(4)において、「d′」は補正された後の厚さである。以下、d′を「補正厚さ」と称する。「ΔTm」は、被検物温度Tmと、基準被検物温度Tmrとの偏差である。被検物温度Tmは被検物9の温度であり、基準被検物温度Tmrは、基準となる被検物9の温度である。以下、ΔTmを「被検物温度偏差」と称する。「ΔTb」は、基板温度Tbと、基準基板温度Tbrとの偏差である。基板温度Tbは基板38の温度であり、基準基板温度Tbrは基準となる基板38の温度である。以下、ΔTbを「基板温度偏差」と称する。「ΔVc」は、コイル電圧Vcと、基準コイル電圧Vcrとの偏差である。コイル電圧Vcは、励磁コイル11の電圧であり、基準コイル電圧Vcrは、基準となる励磁コイル11の電圧である。以下、ΔVcを「コイル電圧偏差」と称する。「A」はΔTmの補正係数であり、「B」はΔTbの補正係数であり、「C」はΔVcの補正係数であり、「D」は定数(切片)である。
【0068】
補正式(4)において、被検物温度偏差ΔTmに関する項は、被検物温度Tmに関する項であり、基板温度偏差ΔTbに関する項は、基板温度Tbに関する項であり、コイル電圧偏差ΔVcに関する項は、コイル電圧Vcに関する項である。
【0069】
補正式生成部63が補正式(4)を生成するため、予め様々な被検物温度Tm、基板温度Tb、コイル電圧Vcに対する厚さdが取得される。以下、被検物温度Tm、基板温度Tb、コイル電圧Vc及び厚さdの組み合わせを、単に「測定データ」と称する。
【0070】
測定データは、具体的には以下の手順で取得される。すなわち、励磁部41が励磁コイル11へ励磁電流を印加することによって、コア13を励磁した後、励磁部41が励磁電流の出力を停止させる。このとき、渦電流検出部42が被検物9に発生した渦電流を検出する。渦電流検出部42は、電圧信号の検出を所定期間継続する。これにより、検出コイル12の誘導起電力の過渡変化、すなわち、被検物9に発生する渦電流の過渡変化が検出される。また、渦電流の過渡変化が検出されたときの、被検物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcも測定される。検出された渦電流の過渡変化から継続時間τが求められ、継続時間τから厚さdが求められる。
【0071】
厚さ測定装置10は、このような被検物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcの測定、及び継続時間τに基づく厚さdの算出を繰り返し行う。これにより、厚さ測定装置10は、複数組(例えば、数十~数千組)の測定データを取得する。複数組の測定データは、記憶部52に蓄積される。
【0072】
補正式生成部63は、複数組の測定データに基づいて、補正式(4)における補正係数A,B,C、並びに、定数Dを求める。詳細には、補正式生成部63は、複数組の測定データを、以下のモデル式(5)で近似する。
【0073】
【数5】
モデル式(5)において、「Δt」は、経過時間である。経過時間Δtは、所定の基準時t0から、被検物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcが測定された時tまでの期間である。基準時t0は、例えば、複数組の測定データの取得が開始された時(取得開始時)である。ただし、基準時t0は、これに限定されるものではなく、任意に設定し得る。経過時間Δtは、例えば、日(Day)単位であってもよいし、時間(Hour)単位であってもよい。また、モデル式(5)において、「F」は、経過時間Δtの係数である。
【0074】
近似には、最小二乗法を用いることができる。詳細には、補正式生成部63は、モデル式(5)において、次の式(6)で求められる値Err(残差平方和:モデル式(5)で求められる予測値dxと測定値(厚さd)の差の2乗和)が最小となる補正係数A,B,C、定数D及び係数Fを求める。
【数6】
【0075】
モデル式(5)は、経過時間Δtに関する項を有する。本例のモデル式(5)は、経過時間Δtの一次関数で表される項である。モデル式(5)が経過時間Δtに関する項を有するため、補正式生成部63は、上記近似によって、被検物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcに加えて、経過時間Δtにも基づいて、補正係数A,B,C及び定数Dを決定することとなる。
【0076】
なお、補正式生成部63は、予め準備された複数組の測定データから基準被検物温度Tmr、基準基板温度Tbr、基準コイル電圧Vcr及び基準厚さdrをそれぞれ求める。具体的には、複数個の被検物温度Tmの代表値、複数個の基板温度Tbの代表値、複数個のコイル電圧Vcの代表値、及び、複数個の厚さdの代表値を、それぞれ基準被検物温度Tmr、基準基板温度Tbr、基準コイル電圧Vcr及び基準厚さdrとする。なお、代表値は、具体的には、中央値、平均値または最頻値である。以下、基準被検物温度Tmr、基準基板温度Tbr、基準コイル電圧Vcrをまとめて「基準値セット」と称する。
【0077】
また、補正式生成部63は、個々の被検物温度Tmから基準被検物温度Tmrを減算することによって、被検物温度偏差ΔTm(=Tm-Tmr)を求める。また、補正式生成部63は、個々の基板温度Tbから基準基板温度Tbrを減算することによって、基板温度偏差ΔTb(=Tb-Tbr)を求める。また、補正式生成部63は、個々のコイル電圧Vcから基準コイル電圧Vcrを減算することによって、コイル電圧偏差ΔVc(=Vc-Vcr)を求める。
【0078】
補正式生成部63は、求めた補正係数A,B,C、定数D及び基準値セットを記憶部52に記憶させる。補正係数A,B,C、定数D及び基準値セットは、補正式(4)に使用される。このため、補正式生成部63が補正係数A,B,C、定数D及び基準値セットを求めることは、補正式(4)を生成することと等価である。補正部62は、このようにして生成された補正式(4)を用いて厚さdを補正することによって、補正厚さd′、すなわち最終的な厚さdを求める。
【0079】
また、補正式生成部63は、係数Fも記憶部52に記憶させてもよい。係数Fは、コロージョンレートの指標値として利用することが可能である。
【0080】
補正式生成部63は、補正式(4)の生成を、一定周期で行ってもよい。この場合、記憶部52に記憶されている補正式(4)が、一定周期で更新される。また、補正式生成部63は、補正部62によって求められた補正厚さd′が外れ値であるか否かを判定し、外れ値であると判定された場合には、補正式(4)の生成を行うようにしてもよい。外れ値とは、例えば、複数の補正厚さd′の平均から閾値を超えて離れるような値である。また、補正式生成部63は、被検物9についてのコロージョンレートを求める周期ごとに、補正式(4)を生成してもよい。
【0081】
複数組の測定データは、所定の期間に渡って、取得されることが一般的である。以下、この期間を単に「取得期間」と称する。ただし、取得期間が長くなると、その期間中に、被検物9の厚さが変動してしまう場合がある。例えば、被検物9が原油または石油精製物などの流体が流通する配管では、腐食によって配管の厚さが徐々に薄くなっていく。このような被検物9の場合、時間の経過に応じて厚さが徐々に変化し得るため、厚さの経時変化が考慮された補正式を生成することが望ましい。なお、厚さの経時変化を無視するため、短期間のうちに取得される測定データを用いることも考えられる。しかしながら、この場合、充分な数の測定データを確保することが困難となるため、高精度な補正式を求めることが困難となってしまう。
【0082】
モデル式(5)は、基準時t0からの経過時間Δtに関する項を有している。このため、補正式(4)の補正係数A,B,Cは、経過時間Δtに基づいて求められる。したがって、被検物9の厚さの経時変化が考慮された補正式(4)を求めることができる。また、取得期間を長く設定することができるため、充分な数の測定データを確保できる。これにより、高精度な補正式(4)を生成することができる。
【0083】
<厚さ測定のフロー>
図4は、厚さ測定装置10における、厚さ測定処理の流れを示す図である。まず、厚さ算出部61は、所定の測定周期が到来したか否かを判定する(判定工程S101)。測定周期は、被検物9の厚さ測定を行う周期である。厚さ算出部61は、定期的に判定工程S101を繰り返すことによって、測定周期の到来を待機する。
【0084】
判定工程S101によって測定周期が到来したと判定された場合、厚さ算出部61は、測定処理装置3に測定データを取得させる指令を出力する。測定データは、被検物9の厚さを算出するためのデータであり、具体的には、被検物9の渦電流、被検物9の温度、基板38の温度及び励磁コイル11の電圧である。
【0085】
測定処理装置3は、演算装置5からの指令を受けると、励磁部41は、励磁コイル11へ励磁電流を印加して、コア13を励磁する(励磁工程S102)。電圧取得部43は、励磁工程S102によって励磁電流が印加された状態の励磁コイル11の電圧(コイル電圧Vc)を取得する(コイル電圧取得工程S103)。
【0086】
励磁部41は、所定期間、励磁電流を印加した後、励磁電流の出力を停止させる。渦電流検出部42は、被検物9に発生した渦電流を検出する(渦電流検出工程S104)。詳細には、渦電流検出部42は、電圧信号の検出を所定期間継続することにより、検出コイル12の誘導起電力の過渡変化、すなわち、被検物9の渦電流の過渡変化を検出する。
【0087】
また、基板温度取得部44は、基板温度Tbを取得し、被検物温度取得部45は被検物温度Tmを取得する(温度取得工程S105)。基板温度取得部44によって取得される基板温度Tbは、励磁電流の出力が停止された後、渦電流検出部42が渦電流を検出するときにおける基板38の温度である。
【0088】
測定処理装置3は、1組の渦電流、被検物温度Tm、基板温度Tb及びコイル電圧Vcを、測定データとして、演算装置5に送信する。演算装置5は、受信した一組の測定データを、記憶部52に記憶させる。
【0089】
厚さ算出部61は、測定処理装置3によって送信された測定データのうち、渦電流の継続時間τを求める(継続時間算出工程S106)。さらに、厚さ算出部61は、継続時間τを上記式(3)に代入することによって、被検物9の厚さdを求める(厚さ算出工程S107)。
【0090】
補正部62は、厚さ算出工程S107によって求められた厚さdを補正する(補正工程S108)。具体的には、補正部62は、被検物温度Tmから被検物温度偏差ΔTm(=Tm-Tmr)を、基板温度Tbから基板温度偏差ΔTb(=Tb-Tbr)を、コイル電圧Vcからコイル電圧偏差ΔVc(=Vc-Vcr)を求める。そして、補正部62は、被検物温度偏差ΔTm、基板温度偏差ΔTb及びコイル電圧偏差ΔVcを補正式(4)に代入することによって、補正厚さd′を求める。
【0091】
補正工程S108によって厚さdが補正された後、厚さ算出部61は、厚さ測定を終了するか否かを判定する(判定工程S109)。例えば、厚さ算出部61は、判定工程S109において、厚さ測定の終了指令が入力されたか否かを判定する。終了指令は、ユーザがキーボードなどの演算装置5の入力部を操作することによって、厚さ算出部61に入力される情報である。判定工程S109において、終了指令が入力されていないと判定された場合、厚さ算出部61は、判定工程S101へ戻り、処理を続行する。判定工程S109において、終了指令が入力されたと判定された場合、厚さ測定処理が終了される。
【0092】
次に、経過時間Δtを考慮して補正する場合と、経過時間Δtを考慮せずに補正する場合とを比較して説明する。
【0093】
図5は、経過時間Δtを考慮して補正された補正厚さd′の散布図である。
図6及び
図7は、経過時間Δtを考慮せずに補正された補正厚さd′の散布図である。
図5~7において、縦軸は厚さ比(補正厚さd′の所定基準に対する比)を示しており、横軸は時間(日)を示している。また、
図5~
図7は、約130日間の間に被検物9を厚さ測定装置10によって測定した厚さdを、各条件で生成された補正式(4)で補正することによって得られた補正厚さd′を示している。なお、経過時間Δtを考慮しない場合の補正式(4)は、モデル式(5)における経過時間Δtに関する項を省略する(例えば、係数Fを0とする)ことによって求められる。また、
図5及び
図6の補正式(4)は、約130日間の取得期間に得られた測定データを用いて生成されている。
図7の補正式(4)は、約130日間のうち一部(初期の7日間)の取得期間に得られた測定データを用いて生成されている。
【0094】
図5に示されるように、経過時間Δtを考慮した場合、複数の補正厚さd′の回帰直線G11の傾きは「-1.0×10-4」となっている。これに対して、
図6に示されるように、経過時間Δtを考慮しない場合、複数の補正厚さd′の回帰直線G21の傾きは「-5.2×10-5」となっている。回帰直線G11,G21から明らかなように、経過時間Δtを考慮した場合には、経過時間Δtを考慮しないときよりも、被検物9が経時的な減少が反映された補正厚さd′を求めることが可能となる。
【0095】
また、
図7に示されるように、経過時間Δtを考慮せず、かつ、測定データの取得期間を短くした場合、複数の補正厚さd′の回帰直線G22の傾きは「-1.1×10-4」である。すなわち、回帰直線G22の傾きは、回帰直線G11と同程度の傾きである。このように、経過時間Δtを考慮しない場合であっても、取得期間が短い測定データを用いて補正式(4)を生成すれば、測定データ間で被検物9の厚さの変動が小さくなる。このため、複数の補正厚さd′において、経時的な厚さの減少を一応再現できると考えられる。しかしながら、この場合、測定データの数が顕著に減ることによって、誤差(測定された厚さdと補正厚さd′との差の2乗和)は、
図5及び
図6の場合と比べて、大きくなってしまう。
【0096】
図5~
図7の比較から明らかなように、モデル式(5)において経過時間Δtを考慮することによって、被検物9の厚さの経時的な変化を充分に反映した補正式(4)を生成できる。このため、厚さが経時変化するような被検物9であっても、測定された厚さdを精度良く補正することができる。また、測定データの取得期間を長く設定できるため、補正式(4)の精度を向上させることができる。このため、測定された厚さdを精度良く補正することができる。
【0097】
以上のように、本実施形態に係る厚さ測定装置10は、励磁部41と、渦電流検出部42と、被検物温度取得部45と、厚さ算出部61と、補正部62とを有する。励磁部41は、励磁コイル11に励磁電流を印加して被検物9に渦電流を誘起させる。渦電流検出部42は、被検物9の渦電流を、検出コイル12(検出センサ)を介して検出する。被検物温度取得部45は、被検物温度Tmを取得する。厚さ算出部61は、渦電流検出部42によって検出された渦電流の継続時間τに基づいて被検物9の厚さdを求める。補正部62は、渦電流検出部42によって渦電流が検出された時の被検物温度Tmと、被検物温度Tmに関する項を有する補正式(4)とに基づいて、厚さdを補正する。補正式(4)の被検物温度Tmに関する項は補正係数Aを有する。補正係数Aは、被検物温度Tmに関する複数の測定データと、所定の基準時t0から各測定データが取得された時tまでの経過時間Δtとに基づいて求められる。
【0098】
また、厚さ測定方法は、励磁工程S102と、渦電流検出工程S104と、厚さ算出工程S107と、補正工程S108とを有する。励磁工程S102は、励磁コイル11に励磁電流を印加して被検物9に渦電流を誘起させる工程である。渦電流検出工程S104は、励磁工程S102によって発生した被検物9の渦電流を、検出コイル12(検出センサ)を介して検出する工程である。厚さ算出工程S107は、渦電流検出工程S104によって検出された渦電流の継続時間τに基づいて、被検物9の厚さdを求める工程である。補正工程S108は、渦電流検出工程S104によって渦電流が検出された時の被検物温度Tmと、被検物温度Tmに関する項を有する補正式(4)とに基づいて、厚さdを補正する工程である。補正式(4)は、補正係数Aを有する。補正係数Aは、複数の被検物温度Tmの測定データと、所定の基準時t0から各測定データが取得された時tまでの経過時間Δtとに基づいて求められる。
【0099】
これらの構成によれば、補正式(4)における被検物温度Tmに関する項の補正係数Aは、被検物9の様々な温度の測定データと、基準時t0から各測定データが取得された時tまでの経過時間Δtに基づいて求められる。これにより、経過時間Δtに応じた厚さの経時変化が考慮された補正式(4)を求めることができる。したがって、補正式(4)を用いて厚さを補正することによって、厚さが経時変化するような被検物9であっても、厚さを精度良く求めることができる。
【0100】
また、基準時t0は、複数の測定データの取得を開始した時である。
【0101】
この構成によれば、複数の測定データの取得を開始した時を基準に経過時間Δtを求めることができる。
【0102】
また、厚さ測定装置10は、励磁部41及び渦電流検出部42が配置された基板38を有する。補正部62は、基板38の温度に基づいて、厚さdを補正する。
【0103】
この構成によれば、継続時間τは、基板38の温度変化の影響を受けるため、厚さdも基板38の温度変化の影響を受ける。このため、基板38の温度に基づいて、厚さ算出部61によって求められた厚さdを補正することによって、基板38の温度に依存した厚さの測定誤差を補正できる。
【0104】
また、厚さ測定装置10は、基板温度取得部44をさらに備える。基板温度取得部44は、基板38に位置する基板温度センサ39によって測定された基板38の温度を取得する。補正部62は、基板温度取得部44によって取得された温度を、基板38の温度として用いる。
【0105】
この構成によれば、基板38の実測温度に基づいて、厚さdを補正できる。
【0106】
また、厚さ測定装置10は、電圧取得部43をさらに備える。電圧取得部43は、励磁コイル11に励磁電流が印加されているときの励磁コイル11の電圧を取得する。補正部62は、電圧取得部43によって取得される電圧に基づいて、厚さdを補正する。
【0107】
この構成によれば、励磁コイル11の電圧は、励磁コイル11の温度に応じて変化する。このため、励磁コイル11の電圧に基づいて厚さdを補正することによって、励磁コイル11の温度に依存する厚さの測定誤差を補正できる。
【0108】
また、厚さ測定装置10は、補正式(4)を生成する補正式生成部63を有する。
【0109】
この構成によれば、厚さ測定装置10によって、補正式(4)を生成できる。
【0110】
<2.変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0111】
例えば、上記実施形態では、測定処理装置3と演算装置5とが個別に構成されている。しかしながら、これらは、一体的に構成されていてもよい。すなわち、1つの装置が測定処理装置3及び演算装置5の機能を有していてもよい。また、測定処理装置3と演算装置5とは、有線で接続されていてもよい。また、1つの演算装置5に対して複数の測定処理装置3が接続されていてもよい。また、演算装置5は、無線又は有線により接続された他の装置に対して、演算した厚さに関するデータを送信するようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、プローブ1は、2組の励磁コイル11及び検出コイル12を備えている。しかしながら、プローブ1は、1組または3組以上の励磁コイル11及び検出コイル12を備えていてもよい。また、励磁コイル11の軸心と検出コイル12の軸心とが同一直線上に配置されていることは必須ではない。また、励磁コイル11の軸心と検出コイル12の軸心とが、同一直線上に配置される場合、検出コイル12よりも励磁コイル11の方が被検物9の近くに配置されていてもよい。さらに、プローブ1の検出部は、検出コイル12に限定されない。検出部は、被検物9の渦電流を直接的又は間接的に検出できるものであればよく、例えば、ホール素子であってもよい。また、プローブ1は、コア13を備えていなくてもよい。
【0113】
基板温度センサ39は、温度センサICに限定されない。被検物温度センサ15は、熱電対に限定されない。基板温度センサ39及び被検物温度センサ15は、被検物の温度を検出できればよく、例えば、サーミスタであってもよい。基板温度センサ39の個数は、1個に限定されず、複数個であってもよい。被検物温度センサ15の個数は、1個に限定されず、複数個であってもよい。
【0114】
被検物9は、円管状の配管に限定されるものではなく、角管であってもよい。また、被検物9は、管状のように閉断面を有する物に限定されず、例えば、板状の物であってもよい。
【0115】
上記実施形態の補正式(4)では、被検物温度Tmに関する項、基板温度Tbに関する項、及び、コイル電圧Vcに関する項が、一次関数で表されている。しかし、これらの項のうち1つまたは複数の項が二次以上の関数で表されてもよい。また、モデル式(5)では、被検物温度Tmに関する項、基板温度Tbに関する項、コイル電圧Vcに関する項、及び、経過時間Δtに関する項が、一次関数で表されている。しかし、これら項のうち1つまたは複数の項が二次以上の関数で表されてもよい。
【0116】
補正部62は、励磁コイル11の実測温度に基づいて、厚さdを補正してもよい。この場合、厚さ算出部61は、励磁コイル11の実測温度に関する項を有する補正式に基づいて補正してもよい。また、厚さ測定装置10は、励磁コイル11の近傍に位置する温度センサを有していてもよい。
【0117】
上記実施形態では、厚さ測定装置10は、渦電流の継続時間τから厚さdを求め、求められた厚さdを補正している。しかしながら、厚さ測定装置10は、継続時間τを補正し、補正された継続時間τから厚さdを求めてもよい。この場合でも、厚さdを補正できる。具体的には、厚さ算出部61は、測定データのうち渦電流の継続時間τを求める。補正部62は、下記の補正式(7)に基づいて継続時間τを補正する。
【0118】
【0119】
厚さ算出部61は、補正式(7)によって補正された継続時間τ′から、上記式(3)を用いて厚さdを求める。なお、補正式(7)における補正係数A,B,C及び定数Dは、以下のモデル式(8)及び式(9)を用いた最小二乗法により求められる。
【0120】
【0121】
補正式(7)及びモデル式(8)における補正係数A,B,C及び定数Dの値は、補正式(4)の場合とは異なり得る。しかしながら、補正式(7)及びモデル式(8)においても、被検物温度偏差ΔTmに関する項は、被検物温度Tmに関する項であり、基板温度偏差ΔTbに関する項は、基板温度Tbに関する項であり、コイル電圧偏差ΔVcに関する項は、コイル電圧Vcに関する項である。また、モデル式(8)も、モデル式(5)と同様に、経過時間Δtに関する項を有する。
【0122】
図4に示される厚さ測定処理のフローにおいて、励磁工程S102とコイル電圧取得工程S103とは、並行して行われてもよい。また、温度取得工程S105が渦電流検出工程S104の後に行われることは必須ではない。例えば、温度取得工程S105は、励磁工程S102より前に行われてもよく、あるいは、渦電流検出工程S104と並行して行われてもよい。
【0123】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0124】
10 厚さ測定装置
11 励磁コイル
12 検出コイル(検出センサ)
38 基板
39 基板温度センサ
41 励磁部
42 渦電流検出部
43 電圧取得部
44 基板温度取得部
45 被検物温度取得部
61 厚さ算出部
62 補正部
63 補正式生成部
9 被検物