(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088594
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】噴霧撒布が可能な植物のエチレン作用抑制剤としての1-(2,2-ジメチルプロピル)-シクロプロペンの製法、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07C 1/32 20060101AFI20240625BHJP
C07C 13/04 20060101ALI20240625BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240625BHJP
A01N 27/00 20060101ALI20240625BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240625BHJP
A01H 3/04 20060101ALI20240625BHJP
A23B 9/26 20060101ALI20240625BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C07C1/32
C07C13/04 CSP
A01P21/00
A01N27/00
A01G7/06 A
A01H3/04
A23B9/26
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023196222
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2022-0179791
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】523436724
【氏名又は名称】キョン・サン・ナム・ド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アン,グァン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウン・ギョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン・ビン
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ・ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ジェ・ウン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン・ミ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン・クァン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,チャン・シク
【テーマコード(参考)】
2B022
2B030
4B169
4H006
4H011
4H039
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B022EA03
2B022EA10
2B030AA02
2B030AB02
2B030AD05
2B030AD14
2B030AD15
2B030AD16
2B030CG05
4B169HA12
4B169HA13
4B169KA07
4B169KA10
4B169KB01
4B169KC31
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB06
4H006AC13
4H006BA09
4H006BA18
4H006BA39
4H006BA66
4H006BA67
4H006BE36
4H011AB03
4H011BA01
4H011BB01
4H011BB07
4H011BC08
4H011DA16
4H039CA52
4H039CD10
(57)【要約】
【課題】噴霧撒布が可能な植物のエチレン作用抑制剤としての1-(2,2-ジメチルプロピル)-シクロプロペンの製法、及びその用途を提供する。
【解決手段】水相乳化液に組成され、植物に浸漬または噴霧撒布が可能なエチレン作用抑制剤としての1-(2,2-ジメチルプロピル)-シクロプロペンの製法、及びその用途に係り、該製法により、化合物を安定して合成及び保管することができるということを確認し、該化合物は、水相乳化液に組成し、植物に浸漬または噴霧撒布処理したとき、エチレン作用を効果的に抑制することができるということが確認されたが、該化合物は、植物に対するエチレン作用抑制剤として、植物の収獲前または収獲後の生長調節剤または新鮮度維持剤に利用されうる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)α-DIB(α-diisobutylene)を、次亜塩素酸塩(hypochlorite)及び酸と反応させ、α-DIBCl(2-(chloromethyl)-4,4-dimethyl-1-pentene)を製造する段階と、
2)前記α-DIBClをアルカリ金属アルキルアミドと反応させ、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)アルカリ金属塩を製造する段階と、
3)前記1-DCPアルカリ金属塩と、水またはアルコールとを反応させ、1-DCPを製造する段階と、を含む、1-DCP製造方法であり、
前記酸は、塩酸、または塩素を含むルイス酸によって構成された群のうちから選択された1以上を含む、製造方法。
【請求項2】
前記α-DIBは、α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物から分離して得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記α-DIBを分離して得る方法は、
a)α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物を、次亜塩素酸塩及び酸で処理し、β-DIBClを製造する段階と、
b)製造されたβ-DIBCl及びα-DIBを含む混合物から、α-DIBを分離する段階と、を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩素を含むルイス酸は、FeCl3、AlCl3、CeCl3及びMoCl5によって構成された群のうちから選択された1以上を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、次亜塩素酸カリウム(KOCl)、次亜塩素酸リチウム(LiOCl)及び次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)によって構成された群のうちから選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属アルキルアミドは、リチウムジエチルアミド(lithium diethylamide)、リチウムジイソプロピルアミド(lithium diisopropylamide)、ナトリウムジエチルアミド(sodium diethylamide)、ナトリウムジイソプロピルアミド(sodium diisopropylamide)、カリウムジエチルアミド(potassium diethylamide)及びカリウムジイソプロピルアミド(potassium diisopropylamide)によって構成された群のうちから選択された1以上を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記1-DCPアルカリ金属塩は、1-DCPリチウム塩、1-DCPナトリウム塩及び1-DCPカリウム塩によって構成された群のうちから選択された一つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記2)段階は、製造された1-DCPアルカリ金属塩を分離して得られる段階を追加して含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
下記化学式1で表される、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)化合物;
【化1】
【請求項10】
前記化合物は、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の製造方法によって製造された、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)及びシクロデキストリンを含む、1-DCP包接複合体。
【請求項12】
1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体を含む、エチレン反応抑制組成物。
【請求項13】
前記組成物は、植物において、種子、芽、塊根、塊茎、鱗片などの休眠打破及び発芽、根の生長及び不定根発生、屈地性、茎伸長及び肥大、花の開化及び雌花/雄花発生、落葉・落花及び落果、呼吸、エチレン生成、ストレス耐性、病抵抗性または耐病性、色素の生成または分解、果肉軟化、香り生成によって構成された群のうちから選択された1以上の生理的作用を調節するためのものである、請求項12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物をエチレンの作用から保護するエチレン作用抑制剤であり、水相乳化液に組成し、植物に浸漬または噴霧撒布が可能な化合物である1-(2,2-ジメチルプロピル)-シクロプロペン(1-DCP:1-(2, 2-dimethylpropyl)-cyclopropene)の製法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、自らエチレン(ethylene)を生成する能力があり、外生エチレンまたは内生エチレンは、植物の生長と発育とに、この上なく大きい影響を及ぼす。例えば、植物においてエチレンは、種子、芽、塊根、塊茎、鱗片などの休眠打破及び発芽調節、根の生長、及び不定根発生の促進、屈地性の抑制、茎伸長の抑制、及び肥大促進、花の開化、及び雌花/雄花発生の調節、落葉・落花及び落果の促進、呼吸量の増加、エチレンの自触媒的生成の増大、ストレス耐性の調節、病抵抗性または耐病性の調節、色素の生成または分解の促進、果肉軟化の促進、香り生成の調節のような生理的作用を行う。それらのうち、エチレンは、特に、葉、花、茎などの老化(senescence)、または果実の成熟と密接な関連性があり、老化ホルモンまたは成熟ホルモンと呼ばれたりする。塊根、塊茎、鱗片などの発芽促進、落葉・落花及び落果の促進、果肉の軟化促進などは、植物の経済的な価値を低減させるエチレン作用の代表的な否定的効果である。従って、そのようなエチレン作用を抑制または遮断する目的で、植物のエチレンに対する反応を制御する方法について多くの研究がなされている。
【0003】
植物においてエチレンに対する反応を制御する多様な方法がありうるが、そのうち、特に効果的な方法の一つは、1-メチルシクロプロペン(1-MCP:1-methylcyclopropene)を始めとするシクロプロペン(cyclopropene)化合物を利用し、エチレンの作用を遮断する方法である。一般的に、シクロアルケン(cycloalkene)は、炭素間結合角度が開かれた鎖構造の炭化水素に比べて狭いために、構造的に、ストレイン(strain)状態にあるが、そのうちでも、特に三角環構造のシクロプロペンは、ストレインが最もはなはだしい化合物であると知られている。なお、ホルモンとしてのエチレンに対する植物の反応は、細胞膜に分布するエチレン受容体(ethylene receptor)タンパク質の結合部位(binding site)に、エチレンが結合することを前提とするが、シクロプロペン化合物も、エチレンと同様に、エチレン受容体の結合部位に結合することができる。しかしながら、結合部位の銅イオンに可逆的にリガンド結合するエチレンとは異なり、ストレイン構造のシクロプロペン化合物は、受容体タンパク質に結合するとき、環構造が開放(ring opening)されながら、結合部位のアミノ酸残基に共有結合すると知られている。それは、エチレンと異なり、シクロプロペン化合物は、エチレン受容体の結合部位に非可逆的に結合し、再分離されないということを意味する。従って、シクロプロペン化合物と結合したエチレン受容体は、それ以上エチレンと結合することができなくなり、それにより、エチレン反応関連信号伝逹経路から排除される。
【0004】
そのように、植物においてエチレン受容体に結合してエチレン反応を抑制するシクロプロペン化合物は、植物を、エチレンの不利な作用から保護するのに有用に活用されうる。シクロプロペン化合物のうち、特に1-MCPは、エチレン受容体に対する結合親和度が高く、低い濃度においても、エチレン作用を効果的に抑制するので、エチレン作用抑制剤(ethylene antagonist)として広く活用されている。1-MCPの沸点は、10~12℃であり、常温で気体として存在するので、対象植物には、ほとんどのところ、気体として処理される。すなわち、収獲後の対象植物を適切な空間に密閉した後、日程時間の間、特定濃度の1-MCPガスに露出させる方法が有用に活用される。しかしながら、開放された空間において、収獲前の植物についても、例えば、落花・落葉・落果などの抑制、熟期の遅延、老化の抑制、成熟抑制、保存性の向上のような目的を達成しようするならば、常温で液状を維持し、浸漬または噴霧撒布が可能であり、効果的にエチレン作用を抑制する化合物の使用が要求されるのである。
【0005】
そのような背景下、開放された空間においても、植物に処理がなされ、エチレン反応を効果的に抑制する化合物を見出し、それを製造する方法と、活用する方法とを開発し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様は、1)α-DIB(α-diisobutylene)を、次亜塩素酸塩(hypochlorite)及び酸と反応させ、α-DIBCl[2-(chloromethyl)-4,4-dimethyl-1-pentene]を製造する段階、2)前記α-DIBClをアルカリ金属アルキルアミドと反応させ、1-DCP[1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene]アルカリ金属塩を製造する段階、及び3)前記1-DCPアルカリ金属塩を水またはアルコールで中和し、1-DCPを製造する段階を含む1-DCPの製造方法であり、前記酸は、塩酸、または塩素を含むルイス酸によって構成された群のうちから選択された1以上を含む製造方法を提供する。
【0007】
前記方法において、前記α-DIBは、α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物から分離して得られることを含み、前記α-DIBを分離して得る方法は、a)α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物を、次亜塩素酸塩及び酸で処理し、β-DIBClを製造する段階、並びにb)製造されたβ-DIBCl及びα-DIBを含む混合物から、α-DIBを分離する段階を含む方法を提供する。
【0008】
他の態様は、下記化学式1で表される1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)化合物を提供する。
【0009】
【0010】
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)及びシクロデキストリンを含む1-DCP包接複合体を提供する。
【0011】
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)及びシクロデキストリンを混合する段階を含む、1-DCP包接複合体を製造する方法を提供する。
【0012】
さらに他の態様は、1-DCP包接複合体をDMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解する段階を含む、1-DCP水相乳化液を製造する方法を提供する。
【0013】
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体を含むエチレン反応抑制組成物を提供する。
【0014】
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体を含む組成物を植物に適用する段階を含む、植物でエチレン反応を阻害する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
A.1-DCP製造方法
一態様は、1)α-DIB(α-diisobutylene)を、次亜塩素酸塩(hypochlorite)及び酸と反応させ、α-DIBCl(2-(chloromethyl)-4,4-dimethyl-1-pentene)を製造する段階、2)前記α-DIBClをアルカリ金属アルキルアミドと反応させ、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)のアルカリ金属塩を製造する段階、及び3)前記1-DCPアルカリ金属塩を、水またはアルコールで中和し、1-DCPを製造する段階を含む、1-DCP製造方法であり、前記酸は、塩酸、または塩素を含むルイス酸によって構成された群のうちから選択された1以上を含む製造方法を提供するものである。
【0016】
本明細書における用語「1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)」は、シクロプロペン化合物であり、下記化学式1で表される。
【0017】
【0018】
前記方法において、1)段階は、α-DIB(α-diisobutylene)を、次亜塩素酸塩(hypochlorite)及び酸と反応させ、α-DIBCl(2-(chloromethyl)-4,4-dimethyl-1-pentene)を製造する段階であり、下記反応式Aのような過程を含むものでもある。
【0019】
【0020】
具体的には、前記1)段階は、α-DIBClを製造して得る方法であり、a)α-DIBを、次亜塩素酸塩及び酸と混合し、α-DIBをα-DIBClに塩素化(allylic chlorination)する過程、及びb)前記反応産物からα-DIBClを分離/収得する過程を含むものでもある。
【0021】
前記α-DIB(α-diisobutylene)は、下記の化学式2によっても表される。
【0022】
【0023】
前記酸は、塩酸、または塩素を含むルイス酸によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもある。また、前記ルイス酸は、FeCl3、AlCl3、CeCl3及びMoCl5によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもある。
【0024】
一具現例によれば、前記酸は、塩酸、FeCl3、AlCl3、CeCl3及びMoCl5によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもあり、具体的には、塩酸でもある。
【0025】
前記次亜塩素酸塩は、アルカリ金属次亜塩素酸塩またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩でもあり、具体的には、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、次亜塩素酸カリウム(KOCl)、次亜塩素酸リチウム(LiOCl)及び次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)によって構成された群のうちから選択されるものでもある。
【0026】
一具現例によれば、前記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、次亜塩素酸カリウム(KOCl)、次亜塩素酸リチウム(LiOCl)及び次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)によって構成された群のうちから選択された1以上でもあり、具体的には、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムでもある。
【0027】
前記1)段階において、α-DIBと次亜塩素酸塩との混合比(モル)は、1:0.2ないし2でもあり、具体的には、1:0.2、1:0.4、1:0.6、1:0.8、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、1:2でもある。
【0028】
前記1)段階において、次亜塩素酸塩と酸との混合比(モル)は、1.2:0.5ないし2でもあり、具体的には、1.2:0.5、1.2:0.7、1.2:0.9、1.2:1.1、1.2:1.3、1.2:1.5、1.2:1.7、1.2:1.9、1.2:2でもある。
【0029】
一具現例において、前記α-DIBと次亜塩素酸塩と酸との混合比(モル)は、1:1.2:1.3でもある。
【0030】
前記b)過程において、反応産物からα-DIBClを分離/収得する方法は、クロマトグラフィ、溶媒抽出及び分別蒸留の方法のうち一つでもあり、具体的には、分別蒸留方法でもある。
【0031】
前記α-DIBは、求めて得られた既製品でもあり、α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物から分離して得られたものでもあり、前記方法は、α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物を、次亜塩素酸塩及び酸で処理し、β-DIBClを製造する段階、並びに製造されたβ-DIBCl及びα-DIBを含む混合物から、α-DIBを分離する段階を含むものでもある。
【0032】
具体的には、前記α-DIBを分離して得る方法は、a)α-DIB及びβ-DIBを含むα/β-異性体混合物を、次亜塩素酸塩(hypochlorite)及び酸と混合し、β-DIBを選別的にβ-DIBCl(1-chloro-2,4,4-trimethyl-2-pentene)に転換する過程、及びb)α-DIBとβ-DIBClとの混合物から、α-DIBを分離/収得する過程を含むものでもあり、下記反応式Bのような過程によって遂行されるものでもある。
【0033】
【0034】
前記酸は、塩酸、または塩素を含むルイス酸によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもある。また、前記ルイス酸は、FeCl3、AlCl3、CeCl3及びMoCl5によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもある。
【0035】
一具現例によれば、前記酸は、塩酸、FeCl3、AlCl3、CeCl3及びMoCl5によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもあり、具体的には、塩酸でもある。
【0036】
前記次亜塩素酸塩は、アルカリ金属次亜塩素酸塩またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩でもあり、具体的には、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、次亜塩素酸カリウム(KOCl)、次亜塩素酸リチウム(LiOCl)及び次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)によって構成された群のうちから選択されるものでもある。
【0037】
一具現例によれば、前記次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、次亜塩素酸カリウム(KOCl)、次亜塩素酸リチウム(LiOCl)及び次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2)によって構成された群のうちから選択された1以上でもあり、具体的には、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムでもある。
【0038】
前記過程において、DIB(α/β-異性体混合物)と次亜塩素酸塩との混合比(モル)は、2:0.5ないし2でもあり、具体的には、2:0.5、2:0.7、2:0.9、2:1.1、2:1.3、2:1.5、2:1.7、2:1.9、2:2でもある。
【0039】
前記過程において、次亜塩素酸塩と酸との混合比(モル)は、1:0.5ないし2でもあり、具体的には、1:0.5、1:0.7、1:0.9、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、1:2でもある。
【0040】
一具現例において、前記DIBと前記次亜塩素酸塩と前記酸との混合比(モル)は、2:1:1でもある。
【0041】
前記b)過程において、α-DIBとβ-DIBClとの混合物から、α-DIBを分離/収得する方法は、クロマトグラフィ、溶媒抽出及び分別蒸留の方法のうち一つでもあり、具体的には、分別蒸留方法でもある。
【0042】
前記方法において、前記2)段階は、前述のところで製造されたα-DIBClをアルカリ金属アルキルアミドと反応させ、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)アルカリ金属塩を製造する段階であり、下記反応式Cのような過程によって遂行されるものでもある。また、前記2)段階は、製造された1-DCPアルカリ金属塩を分離して得られる段階を追加して含むものでもある。
【0043】
【0044】
具体的には、前記2)段階は、a)アルカリ金属アルキルアミドを利用し、α-DIBClをシクロプロペン化(cyclopropenation)させ、1-DCPアルカリ金属塩を製造する過程、及びb)反応産物から、1-DCPアルカリ金属塩を分離する過程を含むものでもある。
【0045】
前記α-DIBClは、下記の化学式3によっても表される。
【0046】
【0047】
前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)でもあり、具体的には、リチウムでもある。
【0048】
従って、前記反応によって生成される1-DCPアルカリ金属塩は、1-DCPリチウム塩、1-DCPナトリウム塩及び1-DCPカリウム塩によって構成された群のうちから選択された1以上でもあり、具体的には、1-DCPリチウム塩でもある。前記1-DCPリチウム塩{[2-(2,2-dimethylpropyl)cycloprop-1-en-1-yl]lithium)は、下記の化学式4によっても表される。
【0049】
【0050】
前記2)段階は、製造された1-DCPアルカリ金属塩を分離して得られる段階を含むものでもあり、具体的には、製造された1-DCPアルカリ金属塩を、別途の過程を介し、前記2)段階における反応物及び副産物などから分離して得て、前記分離された1-DCPアルカリ金属塩を利用し、前記3)段階を遂行するものでもある。
【0051】
一実施例によれば、α-DIBClとアルカリ金属アルキルアミドとを反応させて製造された1-DCPアルカリ金属塩を直ちに反応させ、1-DCPを製造する場合、合成過程で生成されるα-DIBが残留することになり、前記α-DIBは、蒸留などの方法によって除去されないが、最終1-DCP産物の純度が低下されうる。従って、前述のところのように製造された1-DCPアルカリ金属塩を分離して得て、別途に分離された1-DCPアルカリ金属塩を基に、1-DCPを製造する場合、顕著にすぐれた純度の生成物を得ることができる。
【0052】
前記アルカリ金属アルキルアミドは、リチウムジエチルアミド(lithium diethylamide)、リチウムジイソプロピルアミド(lithium diisopropylamide)、ナトリウムジエチルアミド(sodium diethylamide)、ナトリウムジイソプロピルアミド(sodium diisopropylamide)、カリウムジエチルアミド(potassium diethylamide)及びカリウムジイソプロピルアミド(potassium diisopropylamide)によって構成された群のうちから選択された1以上を含むものでもあり、具体的には、LDEA(lithium diethylamide)またはLDA(lithium diisopropylamide)でもある。
【0053】
前記アルカリ金属アルキルアミドは、既製品を使用するか、あるいは合成して使用することができる。
【0054】
前記アルカリ金属アルキルアミドを合成する過程は、下記反応式Dのような過程によって遂行されるものでもある。
【0055】
【0056】
前記過程は、アルカリ金属(具体的には、リチウム)とアルキルアミンとを、電子ドナー(electron donor)と反応させ、アルカリ金属アルキルアミド(具体的には、リチウムアルキルアミド)を合成する過程である。前記アルキルアミンは、ジエチルアミン(DEA:diethylamine)及びジイソプロピルアミン(diisopropylamine)のうち一つでもあり、具体的には、DEAでもある。また、前記電子ドナーは、ISP(isoprene)及びスチレン(styrene)のうち一つでもあり、具体的には、ISPでもある。
【0057】
前記b)過程において、反応産物から、1-DCPアルカリ金属塩(具体的には、リチウム塩)を分離する方法は、反応産物の濾過と、回転蒸発器(rotary evaporator)とを利用し、濾過濾液を減圧蒸発する方法を含むものでもある。
【0058】
前記方法において、前記3)段階は、前記1-DCPアルカリ金属塩から、1-DCPを製造する段階であり、下記反応式Eのような過程を含むものでもある。
【0059】
【0060】
前記1-DCPを製造する方法は、a)1-DCPアルカリ金属塩(具体的には、1-DCPリチウム塩)を、水またはアルコールで中和(neutralization)し、1-DCPを生成する過程、及びb)生成された1-DCPを分液して回収した後、蒸留して精製する過程を含むものでもある。
【0061】
前記段階は、1-DCPアルカリ金属塩の中和反応物を洗浄する段階を含むものでもあり、具体的には、塩酸及び/または塩水で洗浄するものでもある。
【0062】
前記段階は、1-DCPアルカリ金属塩の中和反応物から、1-DCPを分離/回収する段階を含むものでもあり、具体的には、減圧蒸留を介し、1-DCPを分離するものでもある。
【0063】
B.1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)化合物
他の態様は、下記化学式1で表される1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)化合物を提供するものである。前述の内容と同一部分は、前記化合物にも共に適用される:
【化11】
【0064】
前記1-DCP化合物は、前述の製造方法を利用して製造されたものでもある。
【0065】
C.1-DCP包接複合体の製造方法
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)とシクロデキストリンとを混合する段階を含む、1-DCP包接複合体の製造方法を提供するものである。前述の内容と同一部分は、前記方法にも共に適用される。
【0066】
前記方法は、1-DCPから、安定した包接複合体を製造する過程であり、下記反応式Fのような過程を含むものでもある。ただし、下記反応式で表現されたシクロデキストリンは、化学式ではなくして模式図である。
【0067】
【0068】
前記包接複合体(inclusion complex)を製造する方法は、a)シクロデキストリンを溶媒に溶解した後、シクロデキストリンに1-DCPを包接する過程、b)包接複合体を溶媒から分離して乾燥させた後、固体粉末化する過程を含むものでもある。
【0069】
前記a)過程において、シクロデキストリンは、α-,β-及びγ-シクロデキストリンのうち一つであるか、あるかその誘導体の一つでもあり、具体的には、α-シクロデキストリンでもある。また、前記シクロデキストリンは、シクロデキストリン混合物、シクロデキストリン重合体だけではなく、改質されたシクロデキストリンを含むものでもある。シクロデキストリン溶解のための溶媒は、水、尿素水及びDMSO(dimethyl sulfoxide)のうち一つでもあり、具体的には、水でもある。
【0070】
前記b)過程において、包接複合体を分離する方法は、遠心分離と真空濾過とのうち一つでもあり、具体的には、真空濾過方法でもある。また、乾燥方法は、常温乾燥、熱風乾燥及び真空乾燥のうち一つでもあり、具体的には、真空乾燥方法でもある。
【0071】
D.1-DCP包接複合体
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)及びシクロデキストリンを含む、1-DCP包接複合体を提供するものである。前述の内容と同一部分は、前記複合体にも共に適用される。
【0072】
本明細書における用語「包接複合体(inclusion complex)」は、ホスト化合物が形成する一次元~三次元の分子規模空間に、寸法と形状とが適する他のゲスト化合物が包接されて生ずる複合化合物であり、ホスト・ゲスト化合物、包接化合物とも言う。
【0073】
前記1-DCP包接複合体は、1-DCP(ゲスト化合物)とシクロデキストリン(ホスト化合物)との組み合わせ物を意味し、ここで、1-DCPは、実質的に、シクロデキストリン環の内部空洞に配される。複合1-DCP化合物は、包接複合体を形成するために、シクロデキストリン内部空洞に、少なくとも部分的に適する大きさ基準を満足しなければならない。
【0074】
前記シクロデキストリンは、α-,β-及びγ-シクロデキストリンのうち一つであるか、あるいはその誘導体の一つでもあり、具体的には、α-シクロデキストリンでもある。また、前記シクロデキストリンは、シクロデキストリン混合物、シクロデキストリン重合体だけではなく、改質されたシクロデキストリンを含むものでもある。
【0075】
前記1-DCP包接複合体は、下記化学式5によっても表される。ただし、下記化学式で表現されたシクロデキストリンは、化学式ではなくして模式図である。
【0076】
【0077】
前記1-DCP包接複合体は、前述の1-DCP包接複合体製造方法によって製造されたものでもある。
【0078】
E.1-DCP水相乳化液の製造方法
さらに他の態様は、1-DCP包接複合体をDMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解する段階を含む、1-DCP水相乳化液を製造する方法を提供するものである。前述の内容と同一部分は、前記方法にも共に適用される。
【0079】
前記方法は、難溶性の1-DCP包接複合体を溶解し、1-DCP水相乳化液を調製する段階であり、下記反応式Gのような過程を含むものでもある。ただし、下記反応式で表現されたシクロデキストリンは、化学式ではなくして模式図である。
【0080】
【0081】
前記1-DCP水相乳化液を調製する方法は、a)包接複合体(inclusion complex)をDMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解し、1-DCP/DMSO溶液を組成する過程、及びb)組成された1-DCP/DMSO溶液を水と混合し、適正濃度の1-DCP水相乳化液を組成する過程を含むものでもある。
【0082】
前記a)過程において、包接複合体とDMSOとの比(重さ/体積)は、1:1ないし4でもあり、具体的には、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:2、1:2.2、1:2.4、1:2.5、1:2.6、1:2.8、1:3、1:3.2、1:3.4、1:3.6、1:3.8、1:4でもあり、さらに具体的には、1:2.5でもある。
【0083】
前記b)過程において、1-DCP/DMSOに対する水の混合比は、100倍ないし1,000倍(体積)でもある。
【0084】
また、前記1-DCP水相乳化液は、界面活性剤を含むものでもある。
【0085】
F.植物のエチレン反応の抑制用組成物
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体を含む、植物のエチレン反応を抑制する組成物を提供するものでもある。前述の内容と同一部分は、前記組成物にも共に適用される。
【0086】
前記組成物は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体が活性化合物として植物に適用され、エチレン反応を阻害するものでもある。また、前記組成物は、生長調節剤または新鮮度維持剤でもある。
【0087】
前記複合体は、1-DCP包接複合体を含むものでもあり、前記包接複合体は、溶媒に溶解され、包接複合体から活性化合物を放出し、前記化合物が植物に接触して作用するものでもある。
【0088】
本明細書における用語「エチレン」は、C2H4構造のガス状の不飽和炭化水素を意味する。外生エチレン、または植物が自ら生成する内生エチレンは、植物の生長と発育とにこの上なく大きい影響を及ぼし、特に、葉、花、茎などの老化と、果実の成熟とに密接な関連性があり、老化ホルモンまたは成熟ホルモンとも呼ばれる。
【0089】
前記エチレンは、植物において、種子、芽、塊根、塊茎、鱗片などの休眠打破及び発芽促進、根の生長及び不定根発生の促進、屈地性の抑制、茎伸長の抑制及び肥大促進、花の開化、及び雌花/雄花発生の調節、落葉・落花及び落果の促進、呼吸量の増加、エチレンの自触媒的生成の増大、ストレス耐性の調節、病抵抗性または耐病性の調節、色素の生成または分解の促進、果肉軟化の促進、香り生成の調節のような生理的作用を誘導することができる。従って、前記エチレン反応抑制は、前述生理的作用のうちから選択された1以上を抑制するものでもある。
【0090】
前記組成物は、植物において、種子、芽、塊根、塊茎、鱗片などの休眠打破及び発芽、根の生長及び不定根発生、屈地性、茎伸長及び肥大、花の開化、及び雌花/雄花発生、落葉,落花及び落果、呼吸、エチレン生成、ストレス耐性、病抵抗性または耐病性、色素の生成または分解、果肉軟化、香り生成によって構成された群のうちから選択された1以上の生理的作用を調節するためのものでもある。
【0091】
前記組成物は、固状、液状または気体状の製剤でもある。前述の固状、液状及び気体状の製剤は、従来のさまざまな方法によって製造することができる。例えば、活性成分を粉末の形態で固状担体と配合するか、あるいは混合液、溶液、分散液、乳化液及び懸濁液の形態で液状担体と配合するか、エアロゾル(aerosol)の形態で、揮発性液体またはガス状担体と配合して製剤を調製することができる。
【0092】
G.植物においてエチレン反応を阻害する方法
さらに他の態様は、1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)、その水和物、その溶媒化物、その塩、またはその複合体を含む組成物を植物に適用する段階を含む、植物においてエチレン反応を阻害する方法を提供するものである。前述の内容と同一部分は、前記方法にも共に適用される。
【0093】
本明細書における用語「植物」は、本明細書において一般的な意味に使用され、例えば、草本植物と木本植物とを含む。本発明の方法によって処理される植物は、植物体の全体あるいは部分、例えば、種子、球根、塊茎、根、茎、葉、花、果実と、それらの部分とを含む。
【0094】
具体的には、前記植物は、食糧作物、薬用作物、特用作物、食用園芸作物、観賞用園芸作物、造景作物でもある。
【0095】
前記組成物は、多様な適する手段によって植物に適用されうる。例えば、前記組成物は、単独、または担体と配合され、前記組成物が処理される植物と接触させることによっても適用される。具体的には、前記方法は、単独または配合製剤形態の前記組成物を、開放空間または密閉空間において気化させ、気体状で植物に接触させるか、固体粉末型製剤で撒布または塗布し、植物に接触させるか、あるいは液体型製剤に植物を浸漬または撒布し、植物に接触させることができる。
【発明の効果】
【0096】
本発明は、植物において、エチレン作用を抑制する化合物である1-DCP(1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)の合成方法と、その活用方法とを提供する。本発明の方法において、1)前記1-DCPを安定して合成し、常温で保管することができ、2)水相乳化液に組成し、植物に浸漬処理または噴霧撒布処理し、植物をエチレン作用から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】α-DIBの質量スペクトル分析結果である。
【
図2】DIBのα/β-異性体混合物から、α-DIBを分離/収得する過程において、中間産物及び生成物に対する気体クロマトグラフィ分析のクロマトグラムである。
【
図3】α-DIBClの質量スペクトル分析結果である。
【
図4】α-DIBから、α-DIBClを製造する過程において、中間産物及び生成物に対する気体クロマトグラフィ分析のクロマトグラムである。
【
図5】1-DCPの質量スペクトル分析結果である。
【
図6】1-DCPリチウム塩から、1-DCPを製造する過程において、中間産物及び生成物に対する気体クロマトグラフィ分析のクロマトグラムである。
【
図7】実施例1において、LDEA合成から1-DCP合成までの過程を示した図面である。
【
図8】実施例2において、1-DCPをα-シクロデキストリンに包接し、包接複合体を製造する過程を示した図面である。
【
図9】1-DCP水相乳化液の浸漬処理によるバナナ果実の成熟抑制効果を示した図である。
【
図10】1-DCP水相乳化液の噴霧処理によるナツメ甘柿果実の軟化抑制効果を示した図である。
【
図11】1-DCP水相乳化液の噴霧処理後、ナツメ甘柿果実の果肉硬度の変化を測定した結果を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下、実施例を介し、さらに詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は、例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【0099】
取り立てて明示されない限り、下記実施例に使用された材料は、商業的供給先から購入され、追加精製なしに使用された。全ての溶媒は、一般的な方法によって処理された。ジイソブチレン(DaeJung Chemicals and Metals、韓国)、次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2、Samchun Chemicals、韓国)、塩酸(Daejung)、リチウム(1~6mmサイズの粒子、Thermo-Fisher Scientific、米国)、ジエチルアミン(Daejung)、イソプレン(Samchun)、ジエチルエテル(Daejung)、セライト545及びシクロデキストリン(Henrikang Biotech、中国)を試薬等級でもって商業的に求めた。核磁気共鳴(1H NMR及び13C NMR)スペクトルは、CDCl3溶液において、Bruker-500MHz分光法によって得られた。残留CDCl3(7.25ppm)に対するNMR化学的シフトを記録した。プロトン・ジカップリングされた13C NMRスペクトルは、CDCl3(77.0ppm)に対する化学的シフトにおいて得られた。クロマトグラムは、水素炎イオン化検出器(FID)と毛細管カラム(HP-5、非極性、0.25mmx30m、FT=0.25μm)が装着されたガスクロマトグラフィ(Shimadzu GC2010、日本)を利用して得られた。カラム温度を60℃で2分間維持した後、25℃/分で200℃まで上昇させた。質量スペクトルは、質量分析器(ISQ7610)に連結させ、TraceGold-5SiMS(無極性、0.25mmx30m、膜厚=0.25mm)の毛細管カラムが装着されたガスクロマトグラフィ(Thermo-Fisher TRACE1610)を利用して得られた。オーブン温度プログラムは、50℃から始めた後、10℃/分で300℃まで徐々に上昇させ、300℃で10分間維持した。
【0100】
実施例1:1-DCPの合成
本発明は、1-(2,2-ジメチルプロピル)-シクロプロペン(1-DCP:1-(2,2-dimethylpropyl)-cyclopropene)の合成方法、前記方法によって合成された1-DCP、及びその用途に係り、1-DCP合成の全体過程は、下記反応式1に要約され、具体的な過程は、以下の通りある。
【0101】
【0102】
1-1:アルファ/β-DIB混合物からのα-DIBの分離/収得
α/β-DIB混合物から、α-DIBを分離/収得する過程は、既製品のα-DIBを求めて得て使用する場合、省略されうる。DIB(diisobutylene)は、α/β-異性体の3:1混合物(CAS 25167-70-8)であるか、あるいはα-DIB単離品(CAS 107-39-1)として市販されるが、該単離品は、該混合物に比べ、10倍以上高価である。従って、該単離品を求めて得るよりも、該混合物から該単離品を分離/収得する方が経済的でもある。なお、1-DCPの合成において、混合物DIB(CAS 107-39-1)の使用は、最終産物1-DCPの純度及び収率を非常に低下させるので実用性がない。
【0103】
DIBのα-,β-異性体間には、沸点の差が1~2℃に過ぎず、蒸留を介して、両者を分離することができない。しかしながら、α/β-DIB混合物を、適切な比率の次亜塩素酸塩を利用して塩素化すれば、β-DIBがα-DIBに優先して塩素化され、沸点がはるかに高いβ-DIBClに転換されることを見出した。従って、β-DIBをβ-DIBClに転換して消尽させれば、α-DIBとβ-DIBClとの混合物から、沸点差を利用し、α-DIBを回収することができる。
【0104】
α/β-DIB混合物から、α-DIBを分離/収得した方法は、下記反応式2に要約され、具体的な過程は、以下の通りである。
【0105】
【0106】
(1)次亜塩素酸塩(hypochlorite)水溶液の製造:1L蒸留水に、200gの次亜塩素酸カルシウム(Ca(OCl)2、純度70%、Samchun Chemicals)を投入し、30分間超音波溶解した後、遠心分離するか、あるいは一晩冷蔵し、不溶性沈澱を沈め、上澄み液を回収することにより、次亜塩素酸塩水溶液を調製した。該次亜塩素酸塩水溶液は、冷蔵保管して冷却した後、使用した。
【0107】
(2)1-L耐圧瓶(maxP=1.5bar)(Duran,Pressure plus bottle,code 10130780)に、328mLの冷却されたDIB(2mol)(diisobutylene、α-/β-異性体(isomer)の3:1混合物、Daejung Chemicals & Metals)と、511mLの冷却された次亜塩素酸塩水溶液(1mol(OCl)-)を投入した。
【0108】
(3)前記耐圧瓶に、85.8mLの冷却された濃塩酸(1mol)(Daejung Chemicals & Metals)を投入、栓をしっかり閉めた後、強く振り、反応物を混合した。混合過程において、β-DIBの塩素化反応(chlorination)が起こり、該反応は、1分以内に完了するが、反応の完了いかんは、反応液の色の変化で確認される(緑→無色)。このとき、塩酸は、別途の隔離容器に入れて投入しなければならないが、それは、耐圧瓶に投入された塩酸が、栓を閉めた後において初めて、次亜塩素酸塩と接触させるためである。栓を閉める前、次亜塩素酸塩が塩酸と接触すれば、多量の塩素ガスが噴出され、塩素化反応は、起こらない。反応過程において、高温(60~70℃)と高圧(1.5気圧以下)とが形成されるので、注意しなければならない。
【0109】
(4)前記反応物を、1-L分液漏斗に移し、下層液(水相)を除去した後、回収された上澄み液を1時間冷蔵し、沈む少量の水を追加して除去し、crude α-DIB(328mL、無色)を得た。前記過程を6回繰り返し遂行し、約2Lのcrude α-DIBを確保した。
【0110】
(5)一次分別蒸留:1-L 2口丸フラスコに、撹拌用磁石、リービッヒ冷却器(Liebig condenser)(冷却水温度0℃)、30cmビグリューカラム(Vigreux column)、200℃温度計、加熱マントル(heating mantle)、レシーバ(receiver)(500mLメスシリンダ(mass cylinder))を装着して分別蒸留システムを構成した。前記過程で確保された1Lのcrude α-DIBを、フラスコに投入して加熱して蒸留した。この時、溶液温度は、116~140℃を維持し、蒸気温度は、100~105℃まで上昇していて、90~80℃に下降した。前記過程において、投与量の50%が蒸留液に回収されれば、一次分別蒸留を終了させた(500mL回収、無色、純度93%)。前記過程は、2回繰り返し遂行して1Lの一次蒸留α-DIBを確保した。
【0111】
(6)二次分別蒸留:前記過程で確保された一次蒸留α-DIBを二次分別蒸留するために、1Lの一次蒸留α-DIBを分別蒸留システムに投入し、加熱して蒸留した。このとき、溶液温度は、103~130℃を維持し、蒸気温度は、40℃から93℃まで上昇してから下降した。7~8mL/分の蒸留速度が維持されるように、加熱温度を調節した。前記過程において、投与量の90%が蒸留液に回収されれば、二次分別蒸留を終了させた(900mL α-DIB、無色、d=0.73、純度98%、最終収率63%)。
【0112】
1H NMR(500MHz、CDCl
3)δ 4.83(dd,J=2.5、1.4Hz、1H)、4.634.61(m,1H)、1.93(s,2H)、1.77(s,3H)、0.92(s,9H)
13C NMR(126MHz、CDCl
3)δ 144.02、113.73、51.66、31.35、30.06、25.27
GCMS[C
3H
5]
+=41、[C
4H
7]
+=55、[C
4H
9]
+=57ベースピーク、[C
5H
9]
+=69、[C
7H
13]
+=97、[C
8H
16]
+=112分子イオンピーク
α-DIBの質量スペクトル分析において、分子イオンピーク([C
8H
16]
+=112)及びベースピーク([C
4H
9]
+=57)を示した(
図1)。
【0113】
前記過程における段階別生成物は、気体クロマトグラフィ分析を介し、純度を確認した(
図2)。
【0114】
前記過程において、Ca(OCl)2は、NaOClのような他の次亜塩素酸塩で代替されもするが、Ca(OCl)2が経済的でもあり、塩酸は、塩素を含むルイス酸(例:FeCl3、AlCl3など)で代替されもするが、塩酸が経済的でもある。
【0115】
1-2:α-DIBCl合成
α-DIBから、α-DIBClを合成した方法は、下記反応式3に要約され、具体的な過程は、以下の通りである。
【0116】
【0117】
(1)次亜塩素酸塩水溶液の製造:前記1-1の1)の過程と同一である。
【0118】
(2)1-L耐圧瓶(maxP=1.5bar)(Duran,Pressure plus bottle,code 10130780)に、157mLの冷却されたα-DIB(1mol)と、613mLの冷却された次亜塩素酸塩水溶液[1.2mol(OCl)-]とを投入した。このとき、溶液は、冷たくなければならず(0~4℃)、冷たくなければ、追ってα-DIBが残留してしまう。
【0119】
(3)前記耐圧瓶に、114mLの冷却された濃塩酸(1.3mol)(Daejung Chemicals & Metals)を投入し、栓をしっかり閉めた後、強く振って反応物を混合した。混合過程において、α-DIBの塩素化反応(allylic chlorination)が起こり、該反応は、1分以内に完了するが、反応の完了いかんは、反応液の色変化で確認される(緑→無色)。このとき、塩酸は、別途の隔離容器に入れて投入しなければならないが、それは、耐圧瓶に投入された塩酸が、栓を閉めた後で初めて、次亜塩素酸塩と接触するようにするためである。栓を閉める前、次亜塩素酸塩が塩酸と接触すれば、多量の塩素ガスが噴出してしまい、塩素化反応は、起こらない。反応過程において、高温(60~70℃)と高圧(1.5気圧以下)とが形成されるので、注しなければならない。
【0120】
(4)前記反応物を1-L分液漏斗に移し、下層液(水相)を除去した後、回収された上澄み液を遠心分離(3,000~5,000rpm、3~5分)し、沈む少量の水を追加して除去し、crude α-DIBCl(160mL、無色、収率67%)を得た。このとき、遠心分離の代わりに、無水硫酸ナトリウム粉末を投与して脱水させることもできる。前記過程を5回繰り返し遂行し、800mLのcrude α-DIBClを確保した。
【0121】
(5)分別蒸留:1-L 2口丸フラスコに、撹拌用磁石、リービッヒ冷却器(Liebig condenser)(冷却水温度0℃)、30cmビグリューカラム(Vigreux column)、200℃温度計、加熱マントル(heating mantle)、レシーバ(receiver)(500mLメスシリンダ(mass cylinder))を装着し、分別蒸留システムを構成した。前記過程において確保された800mLのcrude α-DIBClをフラスコに投入し、加熱して蒸留した。このとき、溶液温度は、100~120℃を維持し、蒸気温度は、80~85℃まで上昇していて、下降した。前記過程において、投与量の70%が蒸留液に回収されれば、蒸留を終了させた(560mL α-DIBCl、無色、純度80%、収率78%)。
【0122】
α-DIBCl
1H NMR(500MHz、CDCl
3)δ 5.28(d,J=1.1Hz、1H)、4.96(s,1H)、4.07(d,J=0.9Hz、2H)、2.09(s,2H)、0.93(s,9H)
13C NMR(126MHz、CDCl
3)δ 143.24、118.11、49.78、46.35、31.43、29.75
α-DIBClの質量スペクトル分析において、分子イオンピーク([C
8H
15Cl]
+=146)及びベースピーク([C
4H
9]
+=57)を示した(
図3)
なお、前記過程の生成物は、気体クロマトグラフィ分析を介し、純度を確認した(
図4)。
【0123】
前記過程において、Ca(OCl)2は、NaOClのような他の次亜塩素酸塩で代替されもするが、Ca(OCl)2が経済的でもあり、塩酸は、塩素を含むルイス酸(例:FeCl3、AlCl3など)で代替されもする、が塩酸が経済的でもある。
【0124】
1-3:1-DCP合成
シクロプロペンは、一般的に強塩基を利用し、アリルハライド(allylic halide)から、α-ハロゲンを除去する反応(α-elimination)を介して合成される。該反応で使用される強塩基は、大体のところ、アミンのアルカリ金属塩であるが、ナトリウムアミドとLDA(lithium diisopropylamide)とが代表的である。例えば、1-MCP(1-methylcyclopropene)は、β-メタリルクロライド(methallylchloride)から、前記ナトリウムアミドまたはLDAを利用しても合成される。しかしながら、1-DCPの合成条件において、α-DIBClは、ナトリウムアミドとは反応せず、アルキル基を含むアミドの金属塩によってシクロプロペン化することを見出した。
【0125】
α-DIBClから1-DCPを合成する方法は、下記反応式4から6に要約されうる。ここで、下記反応式4のLDEA(lithium diethylamide)合成過程は、アルキルアミド金属塩を合成する過程であり、既製品の市販LDAを求めて得て使用すれば、省略されうる。しかしながら、市販されるLDAと異なり、LDEAは、市販されず、LDAよりもLDEAの使用が、最終産物である1-DCPの純度向上に有利でもある。それは、LDEAの反応副産物は、LDAの反応副産物より沸点が低いので、1-DCPの精製過程において、さらに容易に除去されうるためである。なお、市販されるLDAには、沸点が高い溶媒(シクロヘキサンなど)または反応副産物(エチルベンゼン)を含むので、市販LDAの使用は、精製過程を非常に困難にしてしまう。また、LDEAの合成が、LDAを求めて得るよりも経済的でもある。α-DIBClから1-DCPを合成した具体的な方法は、以下の通りである。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
(1)LDEAの合成(反応式4)
1)500mL 3口丸フラスコに、ジムロート冷却器(Dimroth condenser)(冷却水温度0℃)、ガスバブラ(gas bubbler)、100℃温度計、加熱マントル(heating mantle)を装着し、反応システムを構成した。
【0130】
2)フラスコに撹拌用磁石と共に、3.51gリチウム(0.5mol)(1~6mm粒状(granules)、Alfa Aesar)、52.78mL DEA(0.5mol)(ジエチルアミン(diethylamine)、Daejung Chemicals & Metals)、200mLジエチルエーテル(diethylether)(Daejung Chemicals & Metals)を投入した。このとき、リチウムは、開放されたリチウム試薬瓶にArガスを吹き入れながら引き出し、迅速に坪量し、フラスコ投入完了後、迅速にフラスコ入口をゴム栓(septum)で塞いだ後、針を刺し、Arガスを吹き入れた。それは、リチウムが空気に長く露出され、酸素及び水分と反応して変色されれば、LDEAの合成が遅延され、不順になりうるためである。
【0131】
3)フラスコに、2~3分間Arガスを吹き入れて空気を排除した後、撹拌用磁石を利用し、反応物を800~1,000rpmで強く撹拌しながら、注射器を利用し、ゴム栓を介し、27.79mlのISP(0.275mol)(isoprene、Samchun Chemicals)を一気に注入した。
【0132】
4)ISP注入2~3分後、反応液の温度は、38~40℃まで上昇して煮詰められ、35~36℃で還流しながら反応が進められ、30~40分後、リチウムの消尽が確認されれば、LDEA合成を終了した。
【0133】
(2)1-DCPリチウム塩の合成(反応式5)
1)前述過程において、LDEAの合成を終了したフラスコを冷凍庫に放置し、-40℃以下に冷却されたエタノール水槽、または氷と塩とを3:1で混合した寒剤(-15℃)に浸し、溶液の温度を-10℃以下に冷却した。
【0134】
2)注射器を利用し、ゴム栓を介し、フラスコに、50mLのα-DIBCl(0.24mol)を徐々に注入した。このとき、α-DIBClを注入する間、溶液の温度が-10℃を超えないように注意しなければならないが、α-DIBClは、LDEAと激しく反応するために、溶液の温度が-10℃を超えるとき、α-DIBClを注入すれば、溶液の温度が急に上昇し、突然煮詰まって溢れ出してしまうためである。
【0135】
3)α-DIBCl注入を完了した後、前記-40℃エタノール水槽を、0℃の氷水水槽に交替させた。氷水水槽において溶液の温度は、徐々に上昇し、溶液の温度が10~12℃に至れば、白色沈澱(LiCl)の生成が開始されながら、純白色の懸濁液を形成した。その後、氷水水槽を脱着させ、室温に昇温させつつ、15分間撹拌し、1-DCPリチウム塩の合成を終了した。
【0136】
(3)1-DCPリチウム塩の分離
1)真空濾過:前記白色懸濁液の反応産物が込められたフラスコを氷水水槽に浸して冷却した後、反応産物を真空濾過し、白色沈澱(LiCl)を除去し、1-DCPリチウム塩を含む透き通った黄色の濾液を回収した。真空濾過には、ガラスフリット(glass frit)漏斗を使用し、セライト545(Daejung Chemicals & Metals)を濾過助剤(filter aid)として使用した。このとき、セライトは、必ず120℃において、2時間以上乾燥させて使用しなければならないが、セライトに水分が含有されている場合、水分と反応させ、生成された1-DCPリチウム塩の反応生成物がフィルタの細孔(pore)を塞ぐことにより、濾過を困難にしてしまうためである。
【0137】
2)減圧蒸発:前述の真空濾過後に得られた黄色の濾液を、回転蒸発器を利用し、溶媒と揮発性反応副産物とを除去した後、1-DCPリチウム塩を回収した(35.4g、油性(oily)、茶色)。このとき、回転蒸発器水槽の温度は、室温から始まり、50℃まで徐々に昇温させ、50℃において30分間蒸発させた。このとき、水槽温度が低いか、あるいは蒸発時間が短ければ、回収された1-DCPリチウム塩に反応副産物が残留し、最終産物(1-DCP)の純度低下の原因になりうる。
【0138】
(4)1-DCPリチウム塩からの1-DCP合成(反応式6)
1)1-DCPリチウム塩の中和:250mLビーカに、約100mLの蒸留水と氷よを投入し、水温度を0℃に維持しながら、撹拌用磁石を利用して撹拌しながら、ピペットを利用し、前記過程で合成された1-DCPリチウム塩を徐々に投入した。このとき、1-DCPリチウム塩は、水と激しく反応する特性があるので、前記過程において、1-DCPリチウム塩の投入速度が速いか、あるいは水の温度が高ければ、溶液の温度が急激に上昇して煮詰まって溢れ出したり、はなはだしくは、爆発することもありうる。従って、氷が溶けるたびに氷を追加して投入し、溶液を冷たく維持しながら、1-DCPリチウム塩を徐々に投入した。
【0139】
2)前記溶液を250mL分液漏斗に移し、下層液(水相)を除去した。
【0140】
3)1-DCPの洗浄:前記分液漏斗の残液(上澄み液、濃茶色)を、約100mLの薄い塩酸(約3% HCl)と、100mLの飽和塩水とで順に洗浄した後、上澄み液のcrude 1-DCPを回収した(25.4g、茶色)。このとき、HCl洗浄は、残留アミンを除去するためであり、塩水洗浄は、水を除去するためである。
【0141】
4)減圧蒸留:50mL 2口丸フラスコに、ショートパス蒸留ヘッド(short path distillation head)(冷却水温度-10~0℃)、レシーバ(receiver)(-40~-20℃エタノール水槽に冷却させる)、100℃温度計、加熱マントル(heating mantle)、真空ライン(vacuum line)を装着し、減圧蒸留システムを構成した。フラスコに、前記過程で合成されたcrude 1-DCP(25.4g)を投入した後、5~10mBarの減圧条件で加熱して蒸留した。溶液の温度は、5~10℃まで下降していて、徐々に上昇するが、溶液の温度が35℃に至れば、蒸留を終了し、1-DCPを回収した(9g1-DCP、無色、d=0.77、bp=115~120℃、純度95%、収率35%)。
【0142】
1H NMR(500MHz、CDCl
3)δ 6.526.49(m,1H)、2.39(d,J=0.8Hz、2H)、0.99(s,9H)、0.90(d,J=1.9Hz、2H)
13C NMR(126MHz、CDCl
3)δ 118.96、99.06、40.78、30.03、29.55、5.91
1-DCPの質量スペクトル分析において、分子イオンピーク([C
8H
14]
+=110)及びベースピーク([C
4H
9]
+=57)を示した(
図5)
なお、前記過程の生成物は、気体クロマトグラフィを介し、純度を確認し(
図6)、1-DCPの合成過程は、
図7に示した。
【0143】
実施例2:1-DCPのシクロデキストリン包接複合体の製造
前記実施例1で合成された1-DCPは、-40℃冷凍庫で数ヶ月以上保管が可能であったが、冷蔵条件においては、数日内に重合(polymerization)反応が起こり、常温においては、一日以上保管が不可能であった。しかしながら、1-DCPを、シクロデキストリン(cyclodextrin)に包接して複合体を組成すれば、1-DCPを常温においても、数ヵ月以上安定して保管することができるということを見出した。
【0144】
2-1:α-シクロデキストリン包接複合体の製造
比較的水に良好に溶ける(溶解度140g/L)α-シクロデキストリンを利用し、1-DCPの包接複合体を調製した方法は、下記反応式8に要約され、具体的な過程は、以下の通りである。ただし、下記反応式で表現されたα-CDは、化学式ではなくして模式図である。
【0145】
【0146】
(1)α-シクロデキストリン溶液の調製:1-Lの耐圧瓶(maxP=1.5bar)(Duran,Pressure plus bottle,code 10130780)に、400mLの蒸留水と、40gのα-CD(α-cyclodextrin、Henrikang Biotech)を投入した後、栓を閉め、強く振ってα-CDを溶解させた。耐圧瓶に、真空と真空解除とを5回、加えてα-CD水溶液を脱気させた。
【0147】
(2)前記α-CD水溶液に、前記過程で得られた5mLの1-DCPを投入し、栓を閉めた後、15分間強く振った。このとき、1-DCPとα-CDとの包接複合体結晶が白色沈殿物の形態に形成された。
【0148】
(3)白色沈殿物を含む前記懸濁液を、ブフナー(Buchner)漏斗(Whatman filter paper, grade 3, particle retention 6u, thickness 390μ)を利用して真空濾過し、白色沈殿物(包接複合体結晶)をフィルタケーキ(filter cake)として回収した。回収された白色沈殿物をデシケータに密閉した後、常温で24時間真空乾燥させ、水分を除去した後、乳鉢または電動コーヒーグラインダを利用して磨砕し、包接複合体の固体粉末を製造した(1-DCP/α-CDモル比=0.73、1-DCP含有量=92μL/g)。1-DCPのαシクロデキストリン包接複合体(inclusion complex)の製造過程は、
図8に示されている。
【0149】
2-2:β-シクロデキストリン包接複合体の製造
酵素を利用し、澱粉から合成されるシクロデキストリンは、α型、β型、γ型の三種類に生成されるが、そのうち、β型の生成比率が最も高く、従って、三種のうちβ型の価格が最も廉価である。従って、包接複合体の調製において、β-シクロデキストリンの利用が経済的に有利でもある。しかしながら、α型に比べてβ型は、水に対する溶解度が非常に低いという問題点がある。
【0150】
しかしながら、β-シクロデキストリンを、水以外のDMSO(dimethyl sulfoxide)に溶解すれば、1-DCPの包接が可能であるという事実を見出した。β-シクロデキストリンをDMSOに溶解し、1-DCPの包接複合体を調製した方法は、下記反応式9にも要約され、具体的な過程は、以下の通りである。ただし、下記反応式で表現されたβ-CDは、化学式ではなくして模式図である。
【0151】
【0152】
(1)β-シクロデキストリン溶液の調製:40mLのバイアル(vial)に、10gのβ-CD(β-cyclodextrin hydrate、Samchun Chemicals)と、10mLのDMSO(dimethyl sulfoxide)を投入した後、ボルテックスミキサ(vortex mixer)で強く混合し、β-CDを溶解させた。
【0153】
(2)前記β-CD溶液に、前記過程で得られた1mLの1-DCPを投入して栓を閉めた後、15分間強く振った
【0154】
(3)前記溶液を、100mLの蒸留水に混合したところ、すぐに白色の懸濁液が形成され、該懸濁液を遠心分離し、白色沈殿物(包接複合体)を回収した。回収された白色沈殿物を、30℃で真空乾燥させて水分を除去し、乳鉢を利用して磨砕し、1-DCP/β-CD包接複合体の固体粉末(4g)を製造した。しかしながら、該包接複合体の1-DCP包接量を分析した結果、17μL/gであり、α-CD(92μL/g)に比べ、包接効率が顕著に低いということが分かった。
【0155】
実施例3:1-DCP包接複合体の溶解及び水相乳化液の製造
前記実施例2で調製された1-DCPのα-CD包接複合体から、1-DCPを放出させ、対象植物に処理するためには、水に溶解させ、水溶液を組成しなければならない。しかしながら、1-DCPのシクロデキストリン包接複合体は、水に対する溶解度が非常に低く、それを溶解し、植物処理に適する濃度の1-DCPを含む溶液を調製することが可能ではなかった。しかしながら、1-DCP/α-CD包接複合体は、4g/10mLの比率でもって、DMSO(dimethyl sulfoxide)に容易に溶解される事実を見出し、1-DCP包接複合体を先行的にDMSOに溶解させた後、水と混合することにより、適する濃度の1-DCPを含む水相乳化液の調製が可能であった。
【0156】
1-DCP包接複合体をDMSOに溶解させ、水と混合した方法は、下記反応式10にも要約され、具体的な過程は、以下の通りである。ただし、下記反応式で表現されたシクロデキストリンは、化学式ではなくして模式図である。
【0157】
【0158】
(1)20mLバイアル(vial)に、4gの1-DCP/α-CD包接複合体(368μL 1-DCP含有)と、10mLのDMSOとを投入した後、2~3分間、超音波溶解と強いシェーキングとを繰り返し、包接複合体を溶解させることにより、1-DCP/DMSO溶液(12.7mL)を調製した。
【0159】
2)前記1-DCP/DMSO溶液の1-DCP濃度は、200mMであり、400倍(0.5mM)または200倍(1mM)の倍率で水と混合させることにより、植物に対する処理に適する濃度である0.5~1mMの1-DCP水相乳化液を調製した。
【0160】
実施例4:植物に対する1-DCPの処理効果
前記実施例で合成された1-DCPのエチレン作用抑制効能を評価するために、下記の実験を行った。
【0161】
4.1:バナナ果実における1-DCPの浸漬処理効果
1-DCP浸漬処理のエチレン抑制効果を評価するために、以下のような実験を行った。
【0162】
具体的には、慶尚南道山清群素材のバナナ農場において、未熟バナナ果実を収穫し、実験室に運んだ当日、果実を2つのグループに分け、Aグループ(対照区)の果実(16個)は、1-DCPを含んでいない0.025%展着剤(カバー、Farm Hannog)溶液、そしてBグループ(処理区)の果実(16個)は、1mMの1-DCP水相乳化液に1秒間浸漬し、表面を溶液で湿した後、常温で乾燥させた。その後、翌日、AグループとBグループとにおいて、半分の果実(各8個)を、2個の40L容器にそれぞれ分けて入れて密閉した後、エチレンガスを注入し、果実を24時間10ppmのエチレンに露出させた。処理されたバナナ果実は、その後、室温に保管しながら、7日後及び14日後、成熟の進行程度を観察した。
【0163】
前記実験の結果、Aグループの果実において、エチレンに露出された果実は、7日以内に黄変し、14日以内に黒変が生じたが、Bグループの1-DCP浸漬処理果実においては、エチレンに露出されたにもかかわらず、14日目までAグループの対照区果実よりも熟されていない状態を維持した(
図9)。
【0164】
バナナ果実は、エチレンに敏感に反応し、成熟が促進される代表的な果実として知られている。前記実験の結果として、1-DCPは、1mM濃度以下の浸漬処理により、バナナ果実において、エチレン作用を効果的に抑制するということを確認することができた。
【0165】
4.2:ナツメ甘柿果実における1-DCPの噴霧撒布処理の効果
1-DCP噴霧撒布処理のエチレン抑制効果を評価するために、以下のような実験を行った。
【0166】
具体的には、慶尚南道進永邑所在の甘柿研究所果樹園において、10月7日に、4本ナツメ品種の甘柿木を選定し、そのうち2本(対照区)の木に生育中の果実には、0.025%の展着剤(カバー、Farm Hannog)を含む溶液、そして他の2本(処理区)の果実には、1mMの1-DCPと、0.025%の展着剤とを含む水相乳化液を手、手動噴霧器を利用して噴霧撒布処理した。それぞれの処理区の果実を10月24日に収穫し、室温に保管しながら、7日後及び14日後、果肉の硬度変化を測定/観察した。
【0167】
前記実験の結果、室温保管7日後、無処理と1-DCP処理途において、果実における果肉硬度は、それぞれ20.2N及び19.5Nと測定され、処理区の間に大差は見出されなかった。しかしながら、室温保管14日後、果肉の硬度は、対照区と処理区とにおいて、それぞれ4.3N及び11.9Nと測定され、対照区果実は、軟化がかなり進み、果肉がはなはだしく柔らかくなった一方、1-DCPの噴霧処理果実は、依然として比較的硬い状態の果肉を維持した(
図10及び
図11)。
【0168】
一般的に、果実における果肉軟化は、エチレンの作用によって示される現象と知られている。前記実験の結果として、1-DCPは、1mM濃度以下の噴霧撒布処理により、ナツメ果実において、エチレン作用を効果的に抑制するということを確認することができた。
【0169】
前述の本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者であるならば、本発明の技術的思想や、必須な特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、以上で記述された実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的ではないと理解されなければならない。
【外国語明細書】