IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 吉光半導体科技有限公司の特許一覧

特開2024-88595マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ
<>
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図1
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図2
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図3
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図4
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図5
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図6
  • 特開-マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088595
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/12 20210101AFI20240625BHJP
   H01S 5/20 20060101ALI20240625BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20240625BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/20 610
H01S5/34
H01S5/343
H01S5/343 610
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196405
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】202211635849.7
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523437891
【氏名又は名称】吉光半導体科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳元 八大
(72)【発明者】
【氏名】汪 麗傑
(72)【発明者】
【氏名】▲トン▼ 存柱
(72)【発明者】
【氏名】彭 航宇
(72)【発明者】
【氏名】王 立軍
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA02
5F173AB02
5F173AB71
5F173AF03
5F173AF08
5F173AF12
5F173AF32
5F173AF52
5F173AH02
5F173AH06
5F173AH22
5F173AH28
5F173AR52
(57)【要約】      (修正有)
【解決手段】下から上へ順にベース、緩衝層、N型クラッド層、N型導波路層、カスケードマルチアクティブ領域、P型導波路層、P型クラッド層及びキャップ層を含み、導波路層は高、低屈折率層が周期的に配列してなるブラッグ反射導波路構造を含み、カスケードマルチアクティブ領域はアクティブ領域、トンネル接合及び制限層を含むマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザが提供される。このレーザの基本モード近接場は、周期的な振動ピークから構成され、近ガウス分布を含み、カスケードマルチアクティブ領域の近傍に振動ピークがあり、アクティブ領域は基本モード近接場のピークに位置し、基本モード近接場のトラフ低光強度位置にトンネル接合が挿入される。
【効果】複数のアクティブ領域は大寸法基本モード動作導波路を共用し、光損失と駆動電圧を効果的に低減し、高出力、高ビーム品質、低発散角レーザ出力を実現できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下から上へ順に、ベース、緩衝層、N型クラッド層、N型導波路層、カスケードマルチアクティブ領域、P型導波路層、P型クラッド層、及びキャップ層を含むマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザであって、
前記N型導波路層及び前記P型導波路層は、いずれも高屈折率層と低屈折率層が周期的に交互して形成されたブラッグ反射導波路であり、前記カスケードマルチアクティブ領域は、複数のアクティブ領域、複数のトンネル接合及び制限層を含み、前記アクティブ領域及び前記トンネル接合は、いずれも前記制限層内に位置し、前記トンネル接合は、隣接する2つの前記アクティブ領域の間に位置し、前記アクティブ領域は、基本モード近接場のピーク位置にあり、前記トンネル接合は、基本モード近接場のトラフ位置にあり、全ての前記アクティブ領域は、同一の導波路を共用することを特徴とする、マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
前記制限層は、複数の高屈折率層及び複数の低屈折率層を含み、前記高屈折率層と前記低屈折率層は、交互して成長し、前記アクティブ領域は、前記制限層の前記高屈折率層に挿入され、前記トンネル接合は、前記制限層の前記低屈折率層に挿入されることを特徴とする、請求項1に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
各前記制限層の前記高屈折率層の組成及び厚さは異なり、各前記制限層の前記低屈折率層の組成及び厚さが異なることを特徴とする、請求項2に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記アクティブ領域の数はkであり、ここで、k≧2であり、トンネル接合の数はk-1であり、kは自然数であることを特徴とする、請求項3に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
前記N型導波路層の前記高屈折率層とP型導波路層の前記高屈折率層とは、組成及び厚さが異なり、N型導波路層の前記低屈折率層とP型導波路層の前記低屈折率層とは、組成及び厚さが異なり、前記P型導波路層における高屈折率層及び低屈折率層の周期の対数は、N型導波路層における高屈折率層及び低屈折率層の周期の対数以下であることを特徴とする、請求項4に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
前記P型クラッド層の屈折率は、前記N型クラッド層の屈折率よりも低いことを特徴とする、請求項5に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
前記トンネル接合は、高ドープ濃度で導電型が反対である2つの材料を含み、前記トンネル接合から隣接する前記アクティブ領域までの間の材料の前記導電型が異なることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
前記アクティブ領域は、単層又は多層の量子井戸、量子ドット又は量子細線であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【請求項9】
前記ベースは、GaAs、InP、GaSb及びGaNのうちのいずれか1種であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザの技術分野に属し、マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザライダは、三次元認識、探査とマッピング、コックピット監視、運転支援、ロボット又はドローンのナビゲーションなどの分野で幅広く用いられている。半導体レーザは、レーザライダ技術における信号放射光源として用いられることが好ましい。レーザライダシステムの検出距離、測距精度、耐干渉性を向上させるためには、高いパルス出力、低いビーム発散角、安定した波長を備えた半導体レーザチップが必要となる。
【0003】
高パルスパワーレーザ出力を達成するには、多接合半導体レーザ構造を用いることができ、エピタキシャル成長においてn/pトンネル接合を用いて複数のアクティブ領域をカスケード接続できる。現在、商用デバイスにおいて、通常、非結合多接合レーザ構造を用いている。各発光領域が独立した導波路層とクラッド層を有し、トンネル接合付近の光強度がゼロとなるため損失が低減される。しかしながら、このようなレーザの垂直方向におけるビームのサイズが数倍増加するものの、ビームの発散角が依然として大きい(単一の発光点と同じ、通常30°以上)ため、垂直方向におけるビームの品質が低下し、ビーム整形には役に立たず、レーザライダ検出の解像度が制限される。
【0004】
また、レーザライダシステムは通常、背景光を抑制するために狭帯域フィルターを用いるが、これは出力レーザが広い温度範囲にわたって狭いスペクトル範囲内に留まることが要求される。これを実現するために、ブラッグ回折格子をモノリシックに集積する必要がある。しかしながら、従来の非結合多接合レーザの場合、各発光領域は独立して動作するため、埋め込み回折格子や表面回折格子が隣接する発光点または上部の発光点についてのみ影響を与え、他の発光点には影響を与えることがない。埋め込み回折格子の作製やエピタキシャル成長を複数回繰り返すことは、工程の複雑化及びコストの高額化等の問題を招く恐れがあるため、適用が困難である。
【0005】
上記の問題点を解決するためには、エピタキシャルにおいて、独立して動作するレーザダイオードの代わりに、トンネル接合と交互するいくつかのアクティブ領域を積層することが提案された。従来の半導体レーザは垂直方向に全反射導波路を用いているが、2つの発光領域間の距離が近すぎるため、2つの発光領域の導波路層が結合して同一のモード拡大層が形成されるので、近接場(near-field)強度のライトフィールドが高濃度にドープされたトンネル接合と重なり、キャリアの吸収損失が大きくなり、レーザの出力と効率が低下する。レーザが高次モードで動作する場合、アクティブ領域とトンネル接合がそれぞれピークと谷に位置するように配置することができるが、レーザの遠視野発散角が大きくなる恐れがあり、通常はマルチピーク構造になる。ビーム品質が低く、レーザライダの応用には適していない。
【0006】
以上より、半導体レーザのパルスパワーとビーム品質を向上させるとともに、内蔵回折格子波長ロック技術と互換性を持たせることは、当業者によって解決すべき課題である。
【発明の概要】
【0007】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、上記の従来技術の不足を克服するために、半導体レーザの出力とビーム品質を向上させるためのマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザを提供することである。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の技術的手段は下記の通りである。
下から上へ順に、ベース、緩衝層、N型クラッド層、N型導波路層、カスケードマルチアクティブ領域、P型導波路層、P型クラッド層、及びキャップ層を含むマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザであって、
前記N型導波路層及び前記P型導波路層は、いずれも高屈折率層と低屈折率層が周期的に交互して形成されたブラッグ反射導波路であり、前記カスケードマルチアクティブ領域は、複数のアクティブ領域、複数のトンネル接合及び制限層を含み、前記アクティブ領域及び前記トンネル接合は、いずれも前記制限層内に位置し、前記トンネル接合は、隣接する2つの前記アクティブ領域の間に位置し、前記アクティブ領域は、基本モード近接場のピーク位置にあり、前記トンネル接合は、基本モード近接場のトラフ位置にあり、全ての前記アクティブ領域は、同一の導波路を共用する、マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザ。
【0009】
好ましくは、前記制限層は、複数の高屈折率層及び複数の低屈折率層を含み、前記高屈折率層と前記低屈折率層は、交互して成長し、前記アクティブ領域は、前記制限層の前記高屈折率層に挿入され、前記トンネル接合は、前記制限層の前記低屈折率層に挿入される。
【0010】
好ましくは、各前記制限層の前記高屈折率層の組成及び厚さは異なり、各前記制限層の前記低屈折率層の組成及び厚さが異なる。
【0011】
好ましくは、前記アクティブ領域の数はkであり、ここで、k≧2であり、トンネル接合の数はk-1であり、kは自然数である。
【0012】
好ましくは、前記N型導波路層の前記高屈折率層とP型導波路層の前記高屈折率層とは、組成及び厚さが異なり、N型導波路層の前記低屈折率層とP型導波路層の前記低屈折率層とは、組成及び厚さが異なり、前記P型導波路層における高屈折率層及び低屈折率層の周期の対数は、N型導波路層における高屈折率層及び低屈折率層の周期の対数以下である。
【0013】
好ましくは、前記P型クラッド層の屈折率は、前記N型クラッド層の屈折率よりも低い。
【0014】
好ましくは、前記トンネル接合は、高ドープ濃度で導電型が反対である2つの材料を含み、前記トンネル接合から隣接する前記アクティブ領域までの間の材料の前記導電型が異なる。
【0015】
好ましくは、前記アクティブ領域は、単層又は多層の量子井戸、量子ドット又は量子細線である。
【0016】
好ましくは、前記ベースは、GaAs、InP、GaSb及びGaNのうちのいずれか1種である。
【0017】
本発明は、マルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザを提供する。ブラッグ反射導波路及びカスケードマルチアクティブ領域における各層の材料及び厚さを制御することにより、光はブラッグ反射導波路における高屈折率層において伝達するが低屈折率層において徐々に減衰し、周期的に振動する類ガウス分布近接場分布が形成される。アクティブ領域近傍の振動ピークの振幅差を増大させることにより、アクティブ領域及びトンネル接合はそれぞれ基本モード近接場のピーク及びトラフに位置する。これによって、効果的に光閉じ込め因子を向上させ、トンネル接合の吸収損失を減少させ、高出力、低ビームで発散するレーザ出力が得られる。また、複数のアクティブ領域が単一の垂直導波路モードを共有するため、集積グレーティングによって複数のアクティブ領域の出力波長ロックとスペクトル狭窄化を同時に実現できる。
【0018】
本発明で開示される上記の技術的手段において、ブラッグ反射導波路構造を使用することにより、大振幅で周期的に振動する類ガウス分布光場が達成される。これによって、中心光場のピーク位置にアクティブ領域を導入し、アクティブ領域近傍光場のトラフ位置にトンネル接合を導入することで光吸収損失が減少し、高出力のレーザ光出力が達成される。このようなレーザは、大きなレーザキャビティと強モード選択という特性も備えており、超大きな光モード体積で安定したシングルモード動作を実現し、キャビティ表面の壊滅的なダメージパワーとビーム品質を効果的に向上できるとともに、垂直発散角を従来のデバイスの30°以上から10°以下に圧縮することでき、デバイスの位置合わせと応用により有利である。また、このようなレーザの複数のアクティブ領域は、同一の導波路モードを共用し、埋め込み成長又は表面エッチング格子により波長ロック及びスペクトル狭窄化を同時に達成でき、LIDARシステムに狭帯域フィルターを使用することにより、背景光ノイズを抑制可能となり、非常に重要な意味を有する。つまり、このようなレーザは、高いパルスパワーと低いビーム発散でのレーザ光出力を達成でき、応用の見通しは良好である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の実施例又は従来技術における技術的手段をより明確に説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に紹介する。明らかなように、以下の説明における図面は、本発明の実施例に過ぎず、当業者が創造的努力なしに提供される図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【0020】
図1】本発明のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの構造模式図である。
図2】本発明のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザのカスケードマルチアクティブ領域の構造模式図である。
図3】本発明のマルチアクティブ領域カスケード構造のブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの各層の屈折率分布模式図である。
図4】本発明のマルチアクティブ領域カスケード構造のブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザのカスケードマルチアクティブ領域及び基本モード近接場の分布模式図である。
図5】実施例1で提供されるマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの屈折率分布及び基本モード近接場の分布模式図である。
図6】実施例1で提供されるマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの遠方場(far-field)分布模式図である。
図7】実施例2で提供されるマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの屈折率分布及び基本モード近接場分布の模式図である。
【0021】
符号の説明
1、ベース;2、緩衝層;3、N型クラッド層;4、N型導波路層;5、カスケードマルチアクティブ領域;6、P型導波路層;7、P型クラッド層;8、キャップ層;4a、N型ドープされた高屈折率層;4b、N型ドープされた低屈折率層;6a、P型ドープされた高屈折率層;6b、P型ドープされた低屈折率層;5e、制限層;5a、高屈折率層;5b、アクティブ領域;5c、低屈折率層;5dトンネル接合。
【0022】
5aN、制限層の高屈折率層のN領域部分;5aP、制限層の高屈折率層のP領域部分;5cP、制限層の低屈折率層のP領域部分;5cN、制限層の低屈折率層のN領域部分;5dP、トンネル接合のpドープ層;5dN、トンネル接合のnドープ層。
【0023】
5b1は第1アクティブ領域、5b2は第2アクティブ領域、5b3は第3アクティブ領域であり、以降も同様である。5d1は第1トンネル接合、5d2は第2トンネル接合であり、以降も同様である。制限層は、第1高屈折率層5a1、第1低屈折率層5c1、第2高屈折率層5a2、第2低屈折率層5c2、第3高屈折率層5a3などから構成される。
【0024】
9、基本モード近接場;911、第1ピーク;912、第2ピーク;913、第3ピーク;921、第1トラフ;922、第2トラフ・・・
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例における図面により本発明の実施例における技術的手段を明確で完全に説明する。明らかなように、以下の実施例は、本発明の実施例の一部だけであり、全ての実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的努力なしで得られる全ての他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0026】
図1は、本発明のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの構造模式図を示す。下から上へ順にベース1、緩衝層2、N型クラッド層3、N型導波路層4、カスケードマルチアクティブ領域5、P型導波路層6、P型クラッド層7、及びキャップ層8である。
【0027】
ベース1は、N型高ドープされたIII-V族化合物であり、GaAs、InP、GaSb及びGaNのうちのいずれか1種であり得る。
【0028】
緩衝層2は、ベース1上に成長し、N型高ドープ材料であり、通常、ベースの材料と同じであり、ベース1自体の欠陥を埋めるためのものである。
【0029】
N型クラッド層3は、緩衝層2上に成長し、N型ドープ材料であり、その屈折率がN型導波路層4の屈折率よりも低く、光場のベースへの拡張を制限するためのものである。
【0030】
N型導波路層4は、N型クラッド層3上に成長し、mペアのN型ドープされた高屈折率材料4aとN型ドープされた低屈折率材料4bとが周期的に交互に成長するDBRから構成され、各周期の厚さがTであり、そのドープ濃度が下から上へ徐々に減少する。
【0031】
カスケードマルチアクティブ領域5は、N型導波路層4上に成長し、複数のアクティブ領域5b、トンネル接合5d及び制限層5eから構成される。制限層5eは、複数の高屈折率層5a、低屈折率層5cから構成される。それぞれの高屈折率層5aは、組成及び厚さが互いに異なっていてもよい。それぞれの低屈折率層5cは、組成及び厚さが互いに異なっていてもよい。アクティブ領域5bは、高屈折率層5aに位置する。アクティブ領域5bは、単層又は多層量子井戸、量子ドット、量子細線などのゲイン材料であり得る。トンネル接合5dは、低屈折率層5cに位置する。
【0032】
P型導波路層6は、カスケードマルチアクティブ領域5上に成長し、nペアのP型ドープされた高屈折率材料6aとP型ドープされた低屈折率材料6bとが周期的に交互に成長するDBRから構成し、各周期の厚さがTである。P型ドープされた高屈折率材料6aとN型ドープされた高屈折率材料4aの屈折率及び厚さが同じでも異なっていてもよい。P型ドープされた低屈折率材料6bとN型ドープされた低屈折率材料4bの屈折率及び厚さが同じでも異なっていてもよい。P型導波路層の周期の対数はn≦m(N型導波路層的周期の対数)であり、そのドープ濃度は下から上へ徐々に増大する。
【0033】
P型クラッド層7は、P型導波路層6上に成長し、P型ドープであり、屈折率がP型導波路層6の屈折率よりも低く、光場の高ドープキャップ層8への拡張を制限するためのものである。P型クラッド層7の屈折率がN型クラッド層3の屈折率以下である。
【0034】
キャップ層8は、P型クラッド層7上に成長し、通常、材料がベースの材料と同じであり、P型高濃度ドープであり、オーミック接触に有利である。
【0035】
本発明の実施例で提供されるマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザにおいて、各層の間に障壁抵抗を減少させるために組成傾斜層を導入してもよい。
【0036】
図2は、本発明のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザのカスケードマルチアクティブ領域の構造模式図である。カスケードマルチアクティブ領域5は、k(k≧2,自然数)個のアクティブ領域5b、k-1個のトンネル接合5d、及び制限層5eから構成される。制限層5eは、k個の高屈折率層5a、k-1個の低屈折率層5cから構成される。アクティブ領域5bは、高屈折率層5a内に位置する。トンネル接合5dは、低屈折率層5c内に位置する。トンネル接合5dは、トンネル接合のpドープ層5dP及びトンネル接合のnドープ層5dNから構成される。
【0037】
アクティブ領域5bは、制限層の高屈折率層のN領域部分5aN上に成長する。アクティブ領域にはドープされていない。アクティブ領域の両側のドープタイプは異なり、その下方にある隣接する高屈折率層5aNはN型ドープであり、その上方に成長する制限層の高屈折率層のP領域部分5aPはP型ドープである。制限層の低屈折率層のP領域部分5cPは、5aP上に成長し、P型ドープである。トンネル接合のpドープ層5dPは、5cP上に成長し、そのP型ドープ濃度が通常1020cm-3よりも高い。トンネル接合のnドープ層5dNは、5dP上に成長し、そのN型材料のドープ濃度は、通常1019cm-3より高い。制限層の低屈折率層のN領域部分5cNは、5dN上に成長し、N型ドープである。
【0038】
以上より分かるように、アクティブ領域5bの両側の材料のドープタイプは異なり、それと上方のトンネル接合Pドープ層5dPとの間の材料はP型ドープであり、アクティブ領域5bと下方のトンネル接合Nドープ層5dNとの間の材料はN型ドープであり、ドープ濃度はアクティブ領域から両側へ増加する。
【0039】
図3は、本発明のマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの屈折率分布模式図である。N型導波路層4は、N型ドープされた高屈折率層4aと低屈折率層4bが周期的に交互して形成され、各周期の厚さがTである。P型導波路層6は、P型ドープされた高屈折率層6aと低屈折率層6bが周期的に交互して形成され、各周期の厚さがTである。制限層5eは、高屈折率層5aと低屈折率層5cが周期的に交互して形成され、各周期の厚さがTである。
【0040】
N型導波路層4の組成及び厚さ、P型導波路層6の組成及び厚さ、制限層における高低屈折率層5a及び低屈折率層5cの組成及び厚さを調整することによって、近ガウス分布で周期的に振動する基本モード近接場9が得ることができる。制限層の高屈折率層5aにおける各アクティブ領域5bの位置を調整することで各アクティブ領域5bを基本モード近接場のピーク位置に位置させる。制限層の低屈折率層5cにおける各トンネル接合5dの位置を調整することで各トンネル接合5dを基本モード近接場のトラフ位置に位置させる。図4に示すように、全てのアクティブ領域5bは、同一の導波路を共用する。
【0041】
本発明で開示される上記の技術的手段では、ブラッグ反射導波路を用いて近ガウス分布で周期的に振動する基本モード近接場を得るとともに、アクティブ領域及びトンネル接合を基本モード近接場の山及び谷に正確に位置させることによって、マルチアクティブ領域のカスケードを実現し、高濃度ドープトンネル接合層の光吸収損失を減少させ、マルチアクティブ領域は単一の大モード体積の基本モードを共用するとともに導波路層を共用することにより電圧を低減でき、高出力及び高ビーム品質のレーザ出力の達成に有利である。
【0042】
実施例1
本発明の実施例1は、下から上へ順にベース1、緩衝層2、N型クラッド層3、N型導波路層4、カスケードマルチアクティブ領域5、P型導波路層6、P型クラッド層7及びキャップ層8であるマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザを提供する。
【0043】
ベース1及び緩衝層2は、n型高濃度ドープGaAs材である。N型クラッド層3は、Al0.45Ga0.55As材料を使用し、n型ドープである。N型導波路層4は、7ペアのAl0.35Ga0.65As/Al0.2Ga0.8As周期的な導波路を使用し、n型ドープである。
カスケードマルチアクティブ領域5は、第1アクティブ領域5b1、第2アクティブ領域5b2、第3アクティブ領域5b3、第1トンネル接合5d1、第2トンネル接合5d2、及び制限層5eを含む。制限層5eは、第1高屈折率層5a1、第1低屈折率層5c1、第2高屈折率層5a2、第2低屈折率層5c2、及び第3高屈折率層5a3を含む。
【0044】
第1アクティブ領域5b1と第2アクティブ領域5b2は、第1トンネル接合5d1によりトンネルカスケードを実現する。第2アクティブ領域5b2と第3アクティブ領域5b3は、第2トンネル接合5d2によりトンネルカスケードを実現する。
【0045】
第1アクティブ領域5b1は、第1高屈折率層5a1上に位置する。第2アクティブ領域5b2は、第2高屈折率層5a2に位置する。第3アクティブ領域5b3は、第3高屈折率層5a3に位置する。
【0046】
第1トンネル接合5d1は、第1低屈折率層5c1に位置し、第2トンネル接合5d2は、第2低屈折率層5c2に位置する。
【0047】
第1アクティブ領域5b1、第2アクティブ領域5b2、及び第3アクティブ領域5b3は、いずれもInGaAs二重量子井戸構造を採用する。
【0048】
第1トンネル接合5d1及び第2トンネル接合5d2は、いずれもp+及びn+ドープされたGaAs層である。
【0049】
第1高屈折率層5a1、第2高屈折率層5a2、第3高屈折率層5a3は、いずれもAl0.2Ga0.8As材料を採用する。
【0050】
第1低屈折率層5c1及び第2低屈折率層5c2は、いずれもAl0.35Ga0.65As材料を使用する。
【0051】
アクティブ領域と、トンネル接合におけるP型ドープ層5dPとの間の材料は、P型ドープであり、アクティブ領域とトンネル接合におけるN型ドープ層5dNとの間の材料は、N型ドープ材料であり、ドープ濃度は、アクティブ領域から両側へ増加する。
【0052】
P型導波路層6は、7ペアのAl0.35Ga0.65As/Al0.2Ga0.8As周期性導波路を使用する。P型クラッド層7は、P型ドープされたAl0.45Ga0.55As材料を使用し、その厚さがN型クラッド層3よりも大きい。キャップ層8は、高濃度にドープされたGaAs材料を使用する。
【0053】
N型導波路層4の組成及び厚さ、P型導波路層6の組成及び厚さ、制限層5e中の第1高屈折率層5a1、第1低屈折率層5c1、第2高屈折率層5a2、第2低屈折率層5c2、第3高屈折率層5a3の組成及び厚さを調整することにより、近ガウス分布で周期的に振動する基本モード近接場9を得ることができる。制限層の第1高屈折率層5a1、第2高屈折率層5a2、第3高屈折率層5a3における第1アクティブ領域5b1、第2アクティブ領域5b2、第3アクティブ領域5b3のそれぞれの位置を調整することにより、第1アクティブ領域5b1を基本モード近接場9の第1ピーク911に位置させ、第2アクティブ領域5b2を基本モード近接場9の第2ピーク912に位置させ、第3アクティブ領域5b3を基本モード近接場9の第3ピーク913に位置させる。
【0054】
制限層の第1低屈折率層5c1及び第2低屈折率5c2における第1トンネル接合5d1及び第2トンネル接合5d2のそれぞれの位置を調整することにより、第1トンネル接合5d1を基本モード近接場9の第1トラフ921に位置させ、第2トンネル接合5d2を基本モード近接場9の第2トラフ922に位置させる。
【0055】
第1アクティブ領域5b1、第2アクティブ領域5b2、及び第3アクティブ領域5b3は、同一の導波路に位置する。
【0056】
図5は、本発明の実施例1で得られた波長905nmのマルチアクティブ領域カスケードブラッグ反射導波路端面発光型半導体レーザの屈折率分布及び基本モード近接場の分布模式図である。同図から分かるように、本発明のレーザの基本モード近接場は、周期的な振動ピークから構成され、近ガウス分布を含み、垂直方向光モード体積が>10μmであり、シングルモードでも安定して動作可能であり、その3つのアクティブ領域がいずれも基本モード近接場のピーク位置に位置することで高い光閉じ込め因子を得ることができ、また、2つのトンネル接合がいずれも基本モード近接場のトラフ位置に位置することでこの高濃度ドープ領域の光吸収損失を効果的に低減させることができる。
【0057】
図6は、実施例1で得られたレーザの垂直遠方場分布模式図である。同図から分かるように、レーザは、垂直方向に狭いシングルビームレーザ光を出力し、垂直発散角の半値全幅は約7°で、現在の商用デバイスよりもはるかに低い。
【0058】
実施例2
本発明の実施例2は、N型導波路層が7ペアのAl0.35Ga0.65As/Al0.2Ga0.8As周期性導波路を使用し、P型導波路層が1ペアのAl0.35Ga0.65As/Al0.2Ga0.8As周期性導波路(高低屈折率層の厚さがN型導波路層と異なる)を使用し、P型クラッド層の屈折率がN型クラッド層よりも低い点で実施例1と異なっている。
【0059】
図7は、本発明の実施例2で得られた波長905nmのマルチアクティブ領域カスケード非対称ブラッグ反射導波路半導体レーザの屈折率分布及び基本モード近接場分布図である。P型ドープ領域の厚さを減少させることにより、光吸収損失及びデバイスの抵抗が減少し、レーザの変換効率の向上に有利であり、表面格子を製造し波長ロックを達成する困難が軽減される。
【0060】
本発明では、ブラッグ反射導波路及びカスケードマルチアクティブ領域における各層の材料及び厚さを制御することにより、光はブラッグ反射導波路における高屈折率層において伝達するが低屈折率層において徐々に減衰し、周期的に振動する類ガウス分布近接場分布が形成される。アクティブ領域近傍の振動ピークの振幅差を増大させることにより、カスケードマルチアクティブ領域の各アクティブ領域及び中間のトンネル接合はそれぞれ基本モード光場のピーク及びトラフに位置する。これによって、効果的に光閉じ込め因子を向上させ、トンネル接合の吸収損失を減少させ、高出力、低ビームで発散するレーザ出力が得られる。また、複数のアクティブ領域が単一の垂直導波路モードを共有するため、集積グレーティングによって複数のアクティブ領域の出力波長ロックとスペクトル狭窄化を同時に実現できる。
【0061】
本発明で開示される上記の技術的手段において、ブラッグ反射導波路構造を使用することにより、大振幅で周期的に振動する類ガウス分布光場が達成される。これによって、中心光場のピーク位置に複数のアクティブ領域をそれぞれ導入し、アクティブ領域近傍光場のトラフ位置にトンネル接合を導入することで光吸収損失が減少し、高出力のレーザ光出力が達成される。このようなレーザは、大きなレーザキャビティと強モード選択という特性も備えており、超大きな光モード体積で安定したシングルモード動作を実現し、キャビティ表面の壊滅的なダメージパワーとビーム品質を効果的に向上できるとともに、垂直発散角を従来のデバイスの30°以上から10°以下に圧縮することでき、デバイスの位置合わせと応用により有利である。また、このようなレーザの複数のアクティブ領域は、同一の導波路モードを共用し、埋め込み成長又は表面エッチング格子により波長ロック及びスペクトル狭窄化を同時に達成でき、LIDARシステムに狭帯域フィルターを使用することにより、背景光ノイズを抑制可能となり、非常に重要な意味を有する。つまり、このようなレーザは、高いパルスパワーと低いビーム発散でのレーザ光出力を達成でき、応用の見通しは良好である。
【0062】
なお、本明細書において、第1及び第2のような関係用語は、あるエンティティ又は操作を別のエンティティ又は操作から区別するためにのみ使用され、これらのエンティティ、操作又は順序の間にそのような実際の関係が存在することを必ずしも要求又は暗示するものではない。また、用語「含む」、「含有」又はその変形は、プロセス、方法、物品、または装置に固有の要素が要素のリストを含むなど、非排他的な包含をカバーすることを意図している。さらなる制限がない場合、「…を含む」という記述によって定義される要素は、記載された要素を含むプロセス、方法、物品又は装置における追加の同一要素の存在を排除するものではない。さらに、本発明の実施例で提供される上記の技術的手段のうち、従来技術における対応する技術的手段の実現原理と一致する部分については、過度の冗長を避けるために詳細に説明されていない。
【0063】
開示された実施例に対する上記の詳しい説明により、当業者が本発明を達成又は使用することができる。これらの実施例に対する種々の修正は、当業者にとって自明なものである。本明細書において定義される一般的な原理は、本発明の思想又は範囲から逸脱しない場合、他の実施例において実現することができる。よって、本発明は、本明細書に示されるこれらの実施例に制限されず、本明細書に開示された原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲に一致すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7