(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088598
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20240625BHJP
B23B 31/00 20060101ALI20240625BHJP
B23B 31/20 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23Q17/00 B
B23B31/00 D
B23B31/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023201034
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】10 2022 134 045.7
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】502422052
【氏名又は名称】ハイマー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】サリカヤ,エルクト
(72)【発明者】
【氏名】モロゾフ,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイゴールド,マティアス
【テーマコード(参考)】
3C029
3C032
【Fターム(参考)】
3C029EE05
3C032BB12
3C032FF04
3C032JJ01
3C032JJ07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明は、工具ホルダ4に摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法及び装置に関する。工具ホルダ4に摩擦保持された工具の回転ずれは、工具からの周期的プロセス信号の位相及び/又は周期長さを評価することによって判定される。周期的プロセス信号が、電気信号、好ましくは、スピンドル電流、力信号、加速度信号、光信号、音響信号、及び/又は振動信号である。
【選択図】
図1b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法であって、
前記工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれが、前記工具6からの周期的プロセス信号の位相及び/又は周期長さを評価することによって判定される
ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記周期的プロセス信号が、電気信号、好ましくは、スピンドル電流、力信号、加速度信号、光信号、音響信号、及び/又は振動信号である
ことを特徴とする、
請求項1に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項3】
前記工具6が、加工工具、特に、ミリング工具、旋削工具、研削工具、若しくは中ぐりバイト、特に、エンドミルであり、及び/又は、前記工具ホルダが、チャック、特に、収縮チャック、コレットチャック、若しくはハイドロエキスパンションチャックである
ことを特徴とする、
請求項1又は2に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項4】
前記周期的プロセス信号がフィルタリング、平滑化、標準化される、及び/又は、前記周期的プロセス信号のトレンドが排除される
ことを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項5】
前記周期的プロセス信号が、特に人為的に生成された周期的基準信号と比較される
ことを特徴とし、
特に、前記周期的プロセス信号の周期的に繰り返すイベントが、前記特に人為的に生成された周期的基準信号の前記周期的に繰り返すイベントとしても含まれ、及び/又は、
前記周期的プロセス信号及び/又は前記周期的基準信号の前記位相及び/又は前記周期長さが比較される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項6】
前記比較が時間とともに変化を示す場合、回転ずれが推測される
ことを特徴とする、
請求項5に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項7】
前記周期的プロセス信号と前記周期的基準信号との比較が周波数領域で実行される
ことを特徴とし、
特に、前記周期的プロセス信号及び前記周期的基準信号が、フーリエ変換、特に、短時間フーリエ変換を使用して、前記周波数領域においてマッピングされる、
請求項5又は6に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項8】
前記周期的プロセス信号と前記周期的基準信号との前記比較の間に、前記周期的プロセス信号と前記周期的基準信号との位相差が判定され、回転ずれが、前記位相差の変化、特に、経時的な変化から推測される
ことを特徴とする、
請求項5~7のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項9】
前記比較の開始時に、前記周期的プロセス信号と前記周期的基準信号との位相差がゼロに等しいように、前記周期的基準信号のオフセットが初期化される
ことを特徴とする、
請求項5~8のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項10】
チャック4に摩擦保持されたエンドミル6の回転ずれの判定
のために使用され、
前記周期的プロセス信号が、スピンドル電流又は力信号又は振動信号であり、前記周期的プロセス信号が基づく前記周期的に繰り返すイベントが歯係合である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項11】
工具ホルダ4に取り付けられた工具6、特に、チャック4に摩擦保持されたエンドミル6の工具プルアウトの判定
のために使用され、
前記工具プルアウトが、(工具)プルアウトねじり角度を使用して、前記回転ずれから判定される、
請求項1~10のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項12】
前記判定された回転ずれが事前定義可能な限界値を超える場合、プロセスは中止される、及び/又は、そのプロセスパラメータ、特に、切削パラメータが変更される、又は、前記回転ずれから判定された前記工具プルアウトが補償される
ことを特徴とする、
請求項1~11のいずれか一項に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための方法。
【請求項13】
工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための装置であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法を実行するように準備される評価ユニット
を特徴とする、
装置。
【請求項14】
特に、工具ホルダ4に摩擦保持された工具6を有する、工作機械2
で使用され、
適切である場合、前記工作機械2、前記工具ホルダ4、及び/又は前記工具6が、前記周期的プロセス信号を検出するように準備されたセンサを有する、
請求項13に記載の工具ホルダ4に摩擦保持された工具6の回転ずれを判定するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、幾何学的に決定されたカッターを有する、機械加工中のチャック内のエンドミルなどの、工具ホルダに摩擦保持される工具の回転ずれを判定するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の機械加工は、製造技術の一分野であり、工作機械を活用して、チタン合金などの、場合によっては機械加工が難しいことがある特定の材料から作られたワークピースの加工に対処する。
【0003】
特に、機械加工が難しい材料から作られたワークピースの機械加工中に、軸ずれ、そして、結果として、工具プルアウトが起こる可能性があり、それは、製作された部品の品質の低下をもたらす可能性があり、又は、上述のエンドミルの破損などの工具破損さえもたらす可能性があることが知られている。
【0004】
工具プルアウトの出現は、理論的には、摩擦による工具-工具ホルダ接続における軸ずれの発生までさかのぼることができる。これは、シャフト-ハブ又は工具-工具ホルダ接続上の押圧接合部における張力の負荷依存性の低下の結果として発生し、そのため、接続は弱められ、シャフト-ハブ又は工具-工具ホルダ間の相対摺動移動が可能となる。
【0005】
軸方向のそのような摺動移動は、以下において、簡単且つ明確に、軸ずれ又はプルアウトと呼ぶことがあり、周方向のそのような摺動移動は、以下において、回転ずれと呼ぶことがある。
【0006】
したがって、工具ホルダに摩擦保持された工具におけるずれ及び工具プルアウトを防ぐための既存の解決策は、たとえば、工具軸表面のレーザ誘起粗化によって、工具と工具ホルダとの間の摩擦接続を改善すること(その結果、接合面上の摩擦成分は増加し、ずれは著しく減少する)、又は、たとえば、(ロック要素による)「セーフロック」の場合、追加の嵌合によって、工具-工具ホルダ接続を支援することを目的としている。
【0007】
後者の「嵌合支援」解決策は、工具及び工具ホルダの決められた以上の接続が発生し、工具-工具ホルダシステムの正確な数学的記述が可能ではなく、したがって、構成要素の機械的挙動に関する予測を行うことができないので、基本的には不都合である可能性がある。言及された両方の解決アプローチ、すなわち、摩擦嵌合の改善及び追加の嵌合による支援は、さらに、構成上の対策を必要とし、したがって、工具及び製造のコストが増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、先行技術におけるそのような欠点なしに、工具プルアウトを検出及び/又は防止及び/又は補償することができる解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、それぞれの独立請求項の特徴を有する、工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法及び装置によって達成される。
【0010】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項及び以下の説明の主題であり、本発明による方法及び本発明による装置の両方に関する。
【0011】
頂部、底部、前部、後部、左、又は右などの使用されることがある用語は、明示的に別段の定義がない場合、一般的な理解に従って、また本件の図を見たときにも、理解されるべきである。径方向及び軸方向などの用語は、使用されて、明示的に別段の定義がない場合、ここに記載される構成要素の中央軸又は対称軸に対して、また本件の図を見たときにも、理解されるべきである。
【0012】
用語「略」は、使用される場合、(最高裁判所の理解に従って)「実際には依然として有意な程度」を指すと理解することができる。したがって、この用語によって示される正確さからの可能な偏差は、製造又は取付公差などのために、意図せずに(すなわち、機能的根拠なしに)生じる可能性がある。
【0013】
工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法では、工具からの周期的プロセス信号の位相及び/又は周期長さを評価することによって、工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれの判定が提供される。
【0014】
工具からの「プロセス信号」は、工具の(機械加工)プロセス中に検出することができ、このプロセスを表す信号、たとえば、ワークピースの機械加工中の工作機械のスピンドル電流、又は、工具上、工具ホルダ上、若しくは工作機械上のセンサで生成することができ、このプロセスを表す信号、たとえば、工具への負荷を意味する。
【0015】
「周期的な」はまた、プロセス中、繰り返し発生する、(時間とともに)周期的に繰り返すイベントが、周期性に反映される、又は、「周期的な」プロセス信号の周期性によって、イベントが繰り返し発生することを意味する。
【0016】
プロセスにおいて周期的に繰り返し発生するそのようなイベントは、たとえば、ワークピースの機械加工中の、ミリング工具などの加工工具の歯係合である可能性があり、それは、たとえばスピンドル電流又は負荷、たとえば、力信号、加速度信号、及び/又は振動信号において、本発明によって使用することができる周期的プロセス信号として、検出することができる。
【0017】
工具プルアウトを検出及び/又は防止及び/又は補償するために本発明によって提案される解決策は、第一に、工具プルアウトの原因が、回転、すなわち、回転ずれ、よって、摩擦工具-工具ホルダ接続の軸ずれに重ね合わせられる(工具ホルダ内の工具の)螺旋移動形態/摺動移動が、(ワークピースの(機械加工)プロセス中、たとえば、ワークピースの機械加工中などの)周方向荷重の下で起こることであることの発見に基づいている。
【0018】
簡単に表現すると、軸ずれ及び回転ずれは、常に同時に発生する。
【0019】
したがって、(負荷の下の、又は、プロセスにおける)回転ずれを検出することができる場合、軸ずれ、よって、結果として、工具プルアウトの存在を推測するためにも使用することができる。
【0020】
したがって、回転ずれと軸ずれとの間の相関関係は、さらに、工具プルアウトの定量、すなわち、簡単且つ明確な形態では、工具プルアウト長さの決定も可能にすることができる。たとえば、(工具)プルアウトねじり角度が分かる場合、軸ずれ及び工具プルアウト/工具プルアウト長さは、こうして、回転ずれから決定される可能性がある。
【0021】
それを明確に表すと、回転ずれの検出は、工具からの周期的プロセス信号を使用することによって、本発明でデータ駆動される。
【0022】
ここでは、本発明によって使用されるような、その位相及び/又は周期長さなどのそのようなプロセス信号の周期的性質が中心である。ここで、ずれ又は回転ずれが発生すると、周期的プロセス信号の位相若しくはその位相角及び/又は周期長さが変化することが認識された。
【0023】
変化は、(特に、生成された「理想的な」(すなわち「(回転)ずれのない」))基準信号との)比較によって判定することができ、よって、回転ずれを検出することができる。
【0024】
明確に表現すると、回転ずれは、周期的プロセス信号の振動特性に反映され、上述の特性の変化、すなわち、位相若しくは位相角及び/又は周期/周期長さの変化をもたらす。
【0025】
別の方法で、数学的に表現すると、回転ずれは、イベント周波数における時間依存性の位相角をもたらす。
【0026】
(イベント周波数における)時間依存性位相角は、たとえば、周期的プロセス信号又はその位相/位相角が、たとえば、後者の人為的に生成された、特に「理想的な」基準信号又は位相/位相角と比較されたという事実の結果として、決定又は計算することができる。これは、回転ずれによって引き起こされる周期長さにも対応して適用される。
【0027】
周期的プロセス信号自体における、周期長さの比較及び/又は位相シフトの分析も、ここでは単純に十分であることもある。
【0028】
換言すれば、(プロセス中の)回転ずれは、周期長さの分析可能な変化、及び/又は、周期的プロセス信号の分析可能な位相シフトを引き起こす。
【0029】
よって、周期的プロセス信号の位相及び/又は周期長さのデータ駆動分析は、工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを検出して、供給する。よって、回転ずれが検出された場合、軸ずれ及び工具プルアウトも存在する。結果として生じる工具プルアウトは、回転ずれを適切に監視することで補償することができる、及び/又は、さらなる工具プルアウトは、プロセスパラメータの適切な調整後に、防止することができる。
【0030】
カッターの定義された角度位置を有する工具も同様である。回転ずれが発生すると、回転ずれ角度は、好適な方策によって判定及び補償することができる、及び/又は、さらなる回転ずれを防止することができる。
【0031】
データ駆動型アプローチは、工具プルアウトの回避中の構造上の対策のコストを抑え(先行技術の上記の第1及び第2の解決アプローチ、すなわち、摩擦接続の改善及び追加の嵌合による支援を参照)、工具-工具ホルダ接続の構成に関係なく、監視又は制御が可能であるので、より汎用的な解決策を提供する。
【0032】
実施態様の要求事項は少なく、単に周期的プロセス信号が存在して、検出されることが必要なだけであり(それは、場合によっては、スピンドル電流の場合のように、追加のセンサなしで、すでに存在していることがある)、それを使用して、繰り返し周期的に発生する(工具に特有の)イベント(たとえば、歯係合又は歯係合周波数)を検出することができる。
【0033】
さらに、分析方法は干渉及び騒音に対して安定しているが、それは、これらの信号成分が、たとえば、帯域フィルタによってフィルタリングされるためである。リアルタイム能力のために、完全な工具プルアウト補償は、潜在的に考えられる。
【0034】
よって、特に、周期的プロセス信号がスピンドル電流である場合、ここでは、内部機械データは十分であり、追加の測定装置又はセンサは必要ないので、好都合である。さらに、周期的プロセス信号は、力信号、加速度信号、及び/又は、音響若しくは他のタイプの振動信号とすることができ、よって、それは、(工具、工具ホルダ上の、及び/又は、工作機械/スピンドル上の)適切なセンサで実現することができる。
【0035】
発展形態において、工具が、加工工具、特に、ミリング工具、旋削工具、研削工具、若しくは中ぐりバイト、特に、エンドミルであること、及び/又は、工具ホルダが、チャック、特に、収縮チャック、コレットチャック、ハイドロエキスパンションチャック、若しくはHGチャックであることにも対応することができる。
【0036】
よって、さらにまた、できるだけプロセスパラメータの影響を受けない、周期的プロセス信号の振幅プロファイルを作るために、周期的プロセス信号がフィルタリング、平滑化、標準化される、及び/又は、周期的プロセス信号のトレンドが排除される場合、好都合である。簡単且つ明確に言うと、エラーの影響は(時間とともに)周期的プロセス信号から除外される。これは特に、工具-工具ホルダ接続のずれ挙動の後続の分析及び/又はその最適化の間に、有利であることがある。
【0037】
特に、発展形態では、周期的プロセス信号の、特に人為的に生成された周期的基準信号との比較に対応することもできる。
【0038】
(比較のために)周期的プロセス信号の周期的に繰り返すイベントが、特に人為的に生成された周期的基準信号の周期的に繰り返すイベントとしても含まれる場合、好都合である。
【0039】
発展形態において、周期的プロセス信号の位相及び/又は周期長さの比較に対応することもできる。簡単に言うと、ここで、周期的プロセス信号自体の位相及び/又は周期長さの変化は、上述の周期的基準信号などの別のタイプの比較信号が生成又は使用されることなく、判定される。これは、回転ずれがプロセスにおいて突然又は時間特異的に発生すると考えられる場合、周期的プロセス信号において、その周期は上記の及び/又は後続の周期より長い周期長さを有するためである。
【0040】
よって、発展形態において、又は、さらなる発展形態において、比較が変化を示すときに、回転ずれは推測されることに対応することができる。さらにまた、次いで、軸ずれ、次に、工具プルアウトを推測することが可能であろう。したがって、(工具)プルアウトねじり角度を使用することによって、次いで、回転ずれから工具プルアウトを定量的に判定することができるであろう。
【0041】
よって、回転ずれ及び軸ずれの、及び/又は、工具の、適切な監視、特に、リアルタイムでの監視を介して、たとえば、プロセスパラメータを適応させることによって、工具プルアウトを防止することができる。換言すれば、判定された回転ずれが事前定義可能な限界値を超える場合、プロセスを中止されることができ、及び/又は、そのプロセスパラメータ、特に、切削パラメータを変更することができる、又は、回転ずれから判定された工具プルアウトを補償することができる。
【0042】
特に、周期的プロセス信号と周期的基準信号との比較が周波数領域で実行される場合も好都合である。
【0043】
ここで、周期的プロセス信号及び周期的基準信号が、フーリエ変換、特に、短時間フーリエ変換を使用して、周波数領域においてマッピングされることにも対応することができる。
【0044】
さらにまた、周期的プロセス信号と周期的基準信号との比較の間に、周期的プロセス信号と周期的基準信号との位相差が判定され、回転ずれが、位相差の変化、特に、経時的な変化から推測される場合、好都合であることがある。比較の開始時に、周期的プロセス信号と周期的基準信号との位相差がゼロに等しいように、周期的基準信号のオフセットを初期化することも可能である。
【0045】
特に便宜上、方法は、チャックに摩擦保持されたエンドミルの回転ずれを判定するために使用することができ、周期的プロセス信号は、スピンドル電流、振動信号、又は力信号であり、周期的プロセス信号が基づく周期的に繰り返すイベントは、歯係合である。
【0046】
方法は有利なことには、工具ホルダに保持された工具、特に、チャックに摩擦保持されたエンドミルの工具プルアウトを判定するためにも使用することができ、工具プルアウトは、(工具)プルアウトねじり角度を使用して、回転ずれから判定される。
【0047】
工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための装置は、評価ユニットを提供し、それは、記載されたように、工具ホルダに摩擦保持された工具の回転ずれを判定するための方法を実行するように準備される。
【0048】
特に、装置が、特に、工具ホルダに摩擦保持された工具を有する工作機械で使用される場合、好都合である。ここで、必要であれば、工作機械、工具ホルダ、及び/又は工具が、周期的プロセス信号を検出するように準備されたセンサを有する場合、さらに好都合であることがある。
【0049】
本発明の有利な発展形態の事前に提供された説明は、多数の特徴を含み、そのいくつかは、個々のサブクレームにおいて複数のものを形成するために組み合わせられて再現される。しかしながら、これらの特徴は、便宜上、個々に考慮して、設備/装置と方法との間に含む、有用なさらなる組合せを形成するために組み合わせることもできる。
【0050】
説明又は特許請求の範囲において、いくつかの用語がいずれの場合にも単数で又は数詞と組み合わせて使用されるとしても、本発明の範囲は、これらの用語について、単数又はそれぞれの数詞に限定すべきではない。さらにまた、単語「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、数字としてではなく、不定冠詞として理解されるべきである。
【0051】
上記の本発明の特性、特徴、及び利点、並びに、これらが実現される方法は、本発明の例示的な実施形態の以下の説明とともに、より明確になり、大幅により理解できるようになり、これは、図面/図とともにより詳細に説明される(同じ構成要素及び機能は図面/図では同じ名称を有する)。
【0052】
例示的な実施形態は、本発明を説明するために使用され、本発明をその中に明記された特徴の組合せに限定せず、機能的特徴に対してさえ限定しない。さらに、各例示的な実施形態の好適な特徴を、分離して明示的に考慮し、1つの例示的な実施形態から取り出し、別の例示的な実施形態を補足するために別の例示的な実施形態に導入し、及び/又は、請求項の任意の1つと組み合わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1a】本発明のある実施形態による、工具ホルダに摩擦保持された工具を有する工作機械を示す。
【
図1b】本発明のある実施形態による、工具ホルダを示す。
【
図1c】本発明のある実施形態による、工具を示す。
【
図2】工具プルアウトと位相シフトとの間の幾何学的関係を示す説明図を示す。
【
図3】工具プルアウトがある場合及びない場合の周期的プロセス信号の位相変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
機械加工中の(回転する)摩擦工具-工具ホルダ接続のずれ/工具プルアウトのデータ駆動型識別
図1aは、たとえば、チタン合金から作られたワークピース(図示されていない)上への機械加工を実行するために、工具ホルダ4、ここでは、コレットチャック4(
図1bにより詳細に且つ別に示される)に摩擦保持された工具6、ここでは、エンドミル6(
図1cにより詳細に且つ別に示される)(工具カッターN=5及び工具直径D=16mm)を有する工作機械2、ここでは、ミリング機械2を示す。
【0055】
工作機械2は、機械加工中のずれ又は工具プルアウトを検出及び監視するために、適切な、すなわち、適切に準備された評価ユニット8も備える。
【0056】
ずれ、すなわち、回転ずれ及び軸ずれ、又は、工具プルアウトの監視又は識別は、(機械加工中、測定によって検出される)(周期的)プロセス信号、すなわち、この場合、内部機械制御装置10において取り出すことができる(又は、そこにデータとして存在する)工作機械2のスピンドル電流ySpを使用して、データ駆動様式で実行される。
【実施例0057】
監視の数学的原理
実施例1:プロセス信号と(人為的に生成された)基準信号との比較による分析
前処理(データ前処理)の状況の中で、最初に、プロセス信号の又はスピンドル電流ySpの周期的なプロファイルのトレンドが排除される。次いで、プロセス信号は、存在する振幅プロファイルができる限りプロセスパラメータ非依存性であるように標準化される。
【0058】
プロセス信号と比較される基準信号yref(t)は、知られているプロセスパラメータである、切削速度vC、工具直径D、及び工具カッターの数Nから(人為的に)生成することができる。
【0059】
補助変数である回転速度n(n=vC/π*D)及び歯係合周波数fZahn(fZahn=N*n)を加えた後、結果は基準信号yref(t)の単純な正弦波プロファイルである。
yref(t)=sin(2π・fZahn・t+φref,0)
ここで、オフセットφref,0は、基準信号φrefとプロセス信号又はスピンドル電流φSpとの位相差φdiffが監視時間の開始時にゼロに等しいように、最初に初期化される。
【0060】
人為的基準信号の生成が実行されると、最終的に位相差φdiff(t)を推測することが可能である。ここで、(監視されるプロセスの)時間帯全体の信号が、短時間フーリエ変換によって、時間-周波数領域においてマッピングされ、次いで、歯係合周波数を使用することにより比較される。
φdiff(t)=φref(t)-φSp(t)
【0061】
ずれ、すなわち回転ずれ及び軸ずれ、並びに、増加する工具プルアウトが、より大きい位相シフト及び位相差をもたらす場合、機械加工中のずれ又は工具プルアウトは、((試行)プロセスについて一例として以下で示されるように)位相差を使用して識別及び監視することができる。
【0062】
(最大許容ずれ又は最大許容工具プルアウトに対応する)調整可能な最大許容位相差は、内部機械制御装置10で保存することができ、(リアルタイム監視中に)工作機械2を自動的にオフにすることができる。
【0063】
実施例2:プロセス信号の分析
代替的なアプローチは、Nの信号サイズを有する時系列データに基づき、それは、スピンドル1回転中に取得されるデータ点のk倍数である。
【0064】
式(1)によると、これは、回転数kに、サンプリング周波数f
s及び回転周波数f
rotの比をかけることによって計算することができる。
【数1】
【0065】
前提条件として、この信号は、周期的な歯係合を検出するのに十分感度が高くなければならない。感度は、歯係合周波数における信号振幅のSN比を使用して定量化することができ、それは、少なくとも0dBより大きくなければならない。
【0066】
歯係合周波数ftは、回転周波数frotのnt倍数と言うことができ、ここで、ntは刃先の数である。
ft=nt・frot 式(2)
【0067】
最初に、時系列信号は、歯係合周波数における信号振幅の改善された表現を確実にするために、スペクトル領域に変換される。所定の離散時間領域信号y
nに対して、離散フーリエ変換は以下のように定義される。
【数2】
【0068】
次いで、変換された周波数領域信号Y(f
k)は、複素数データ点からなり、それは、それらの大きさ及びそれらの位相に分解することができる。
Y(f
k)=Re{Y(f
k)}+i・Im{Y(f
k)} 式(4)
ここで、
【数3】
及び、
【数4】
である。
【0069】
【数5】
及びφによる式(5)及び式(6)は、振幅スペクトル及び位相スペクトルとして示される。歯係合周波数
【数6】
における信号サイズは、歯係合に対する信号感度の指標として見られ、一方、φ(f=f
t)は、工具回転ずれ又はプルアウトの検出のための主要な指標を表す。
【0070】
したがって、プロセス中の回転を定量化するために、最後に得られたデータパケットφiの現在の位相と最初に得られたデータパケットφ0の位相との位相差が連続的に計算される。
Δφ=│φi-φ0│ 式(7)
【0071】
位相差Δφとカッターの数ntとの比Δφ/ntは、工具と工具ホルダとの間の相対回転の角変位(周方向角度、回転ずれ)を表す。
【0072】
しかしながら、相対軸方向移動と相関する新しい工具オフセットを取得するために、さらなる計算が実行されなければならない。
【0073】
したがって、回転移動の周方向角度は最初に、
図2に示されるように、弧長Δuに変換され、それは、次に、工具直径D
tによって決まる。
【数7】
【0074】
次に、
図2に示されるように、βは、工具プルアウト中の螺旋移動の(工具)プルアウトねじり角度βとして導入される。相対軸方向工具変位は、以下のようにそれから決定することができる。
【数8】
【0075】
試行プロセスの使用による監視の検証(表1及び
図3参照)
監視されるプロセスのプロセス信号は、同期ミリングによってワークピース6を加工するときに、工作機械2でのミリングの試行から生じる。
【0076】
工具6は、トルクレンチによって、ユニオンナット12を介して工具ホルダ4に(試行では、(a)より高い締付トルク(ここでは、136Nm)及び(b)より低い締付トルク(ここでは、56~80Nm)で)固定され、その結果、工具6は、工具ホルダ4に摩擦により取り付けられ、((a)では)さらなる摩擦で、((b)では)より少ない摩擦で取り付けられた。
【0077】
次に、((a)及び(b)による)ユニオンナット12の異なる締付トルクは、工具6と工具ホルダ4との間に異なるように形成される押圧接合をもたらす。試行(b)によるような締付トルクの低減は、弱く明白な押圧接合圧力をもたらし、よって、ずれ及びプルアウトの傾向がある構成要素の接続をもたらす。
【0078】
示される切削パラメータである、歯前進fz(表1、表1の列参照)及び径方向切削幅ae(表1、表1の行参照)は、プルアウトを制御下で防止又は容認することができるように、従来の試行を使用することにより選択される。
【0079】
各試行の後、工具6の工具長さは、レーザセンサ(図示されていない)によって測定される。最初の長さ(試行前)を参照することによって、工具プルアウトの存在を最終的に判定することができる。これはいずれの場合にも、表1のセルに入力される。
【0080】
よって、表1は、工作機械2で実行されたプルアウト試行(a)及び(b)の概要を示す。切削速度vC及び軸方向切削幅apは、いずれの場合にも、80m/min及び45mmで不変のままである。
【0081】
【0082】
図3は、表1において(太字で)強調された位相差プロファイルを一例として示し、それらは、それぞれの直線状ミリング作業中に内部機械制御装置10の内部機械制御データのスピンドル電流データから判定されたものである。
【0083】
工具プルアウトのない(プルアウト=0μm)位相差のプロファイルは一定のままであり、その一方で、工具プルアウトのある(プルアウト=775μm及びプルアウト=924μm)位相差のプロファイルは下降傾向を示すことが
図3から分かる。
【0084】
これは、工具プルアウトの増加がより大きい位相シフトをもたらすという事実を確認できたことを意味する。この因果関係は、繰り返された試行によって統計的に確認された。
【0085】
データ駆動型アプローチは、工具プルアウトの検出又は回避又は補償中の、構造上の対策のコストを抑え、プロセスパラメータ非依存性監視又は制御が可能であるので、より汎用的な解決策を提供する。
【0086】
実施態様の要求事項は少なく、ここでは、スピンドル電流などの周期的プロセス信号を検出することが必要なだけであり、それを使用して、歯係合周波数を検出することができる。
【0087】
(スピンドル電流による)試行は、利用できる場合、内部機械データでさえ、目的のためには十分であり、追加の測定装置は必要ないことを示した。
【0088】
さらに、分析方法は、干渉及び騒音に対して安定しているが、それは、これらの信号成分が帯域フィルタによって取り除かれるためである。リアルタイム能力のために、完全なプルアウト補償は、潜在的に考えられる。
【0089】
本発明が好ましい例示的な実施形態を通してさらに詳細に示されて、説明されたが、本発明は、開示された例によって限定されず、他の変形形態は、本発明の保護された範囲を逸脱しない範囲で、そこから得ることができる。