(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088617
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
F16H7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212915
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2022203649
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】團 良祐
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049BB05
3J049BB15
3J049BB22
3J049BB25
3J049BC03
3J049BH01
3J049BH02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができるオートテンショナを提供する。
【解決手段】オートテンショナ1は、外筒部21を有するベース2と、ベース2に回動自在に支持されたアーム3と、外筒部21から軸R方向に張出し、アーム3に回転自在に設けられ、伝動ベルト101が巻掛けられるプーリ4と、外筒部21の内周面とアーム3との間に径方向に挟まれる摩擦部材6と、摩擦部材6を介してアーム3をベース2に対して回動付勢するコイルばね5とを備え、摩擦部材6は、外筒部21の内周面に沿って摺接可能な円弧面60を有し、円弧面60は、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、外筒部21の内周面に対して、プーリ4が外筒部21から軸R方向に張出していることに起因するアーム3の傾きに対応して傾斜している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部を有するベースと、
前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、
前記円筒部から当該円筒部の軸方向に張り出した位置に配置されて、前記アームに回転自在に設けられるとともに、ベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記円筒部の内周面と前記アームとの間に径方向に挟まれる摩擦部材と、
前記摩擦部材を介して前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、
前記摩擦部材は、前記円筒部の内周面に沿って摺接可能な円弧面を有し、
前記円弧面は、当該摩擦部材に外力が作用していない状態において、前記円筒部の内周面に対して、前記プーリが前記円筒部から当該円筒部の軸方向に張り出した位置に配置されていることに起因する前記アームの傾きに対応して傾斜している、オートテンショナ。
【請求項2】
前記コイルばねは、一端が前記摩擦部材に係止され、他端が前記ベースに係止され、前記円筒部の軸方向に圧縮された状態で配置されて前記摩擦部材を前記アームに前記円筒部の軸方向に押し付けている、請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記摩擦部材は、
前記円筒部の周方向に関して前記円弧面より前記一方向側に位置し、前記アームに係止される第1係止部と、
前記コイルばねの前記一端と係止される第2係止部と、を有する、請求項1又は2に記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンの補機駆動のためのベルトにおいては、エンジン燃焼に起因する回転変動によりベルト張力が変動する。このようなベルト張力の変動に起因してベルトスリップが発生し、そのスリップ音や摩耗などの問題が生じている。これを解決するために、従来から、ベルト張力が変動してもベルトスリップの発生を抑える機構として、オートテンショナが採用されている。
【0003】
自動車エンジンの補機駆動ベルトシステムに備わるオートテンショナには、特にベルト張力が増加した場合に、固定部材(以下、ベースという)に対して回動自在に支持された可動部材(以下、アームという)の揺動を十分に減衰させるために、減衰機構(ダンピング機構)が備えられている。減衰機構としては、例えば、特許文献1には、ダンピング発生部材としての摩擦部材が、ベースとアームとの間に設けられるとともに、アームに係止された構成であって、摩擦部材とベースとの摺動面に摩擦作用を生じさせることによってアームの揺動を減衰させている。
【0004】
特許文献1の摩擦部材は、アームに係止されて、ベースとアームとの間に径方向に挟まれており、アームの揺動軸方向に見て、略扇形状に形成されている。特許文献1の摩擦部材の摺動面は、ベースの外筒部(円筒部)の内周面に対して摺接可能な円弧面である。
自動車エンジンの補機駆動ベルトシステムに備わる上述のオートテンショナにおいて、ベルトの張力変化に伴いアームは激しく揺動する。このアームの揺動に伴い、摩擦部材はベースに対して激しく摺動する。ダンピング発生部材である摩擦部材は、この摺動面に繰り返し生じる摩擦作用により、次第に摩耗し擦り減っていく。摩擦部材の摺動面の少なくとも一部が早期に摩耗してしまうと、アームの揺動を減衰させる効果を確保し難くなり、オートテンショナが早期に寿命に至るおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記オートテンショナのようにプーリが軸方向にオフセット配置された構造では、摩擦部材に外力が作用している状態、即ち、ベルトに初期張力が付与されて、プーリにベルト荷重が作用すると、軸受け部分(特許文献1ではシャフトと軸受部材との間の摺動隙間)には僅かながら遊びがあるため、アームが僅かに(例えば、0.3°程度)傾くことがある。
【0007】
このように、プーリのオフセット配置に起因し、アームが傾くと、ベルトの張力が増加して、プーリに作用するベルト荷重が増加した場合は、アームに係止されて、ベースとアームとの間に径方向に挟まれる摩擦部材の円弧面(外周面)と円筒部の内周面との間に局所的に過度な接触面圧が作用し、摩擦部材の円弧面が円筒部の内周面に対して均一な押圧力で接触できなくなってしまい偏摩耗しやすくなる。摩擦部材の円弧面に偏摩耗が生じると、オートテンショナの寿命が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明では、プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの円筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができるオートテンショナを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円筒部を有するベースと、
前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、
前記円筒部から当該円筒部の軸方向に張り出した位置に配置されて、前記アームに回転自在に設けられるとともに、ベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記円筒部の内周面と前記アームとの間に径方向に挟まれる摩擦部材と、
前記摩擦部材を介して前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、
前記摩擦部材は、前記円筒部の内周面に沿って摺接可能な円弧面を有し、
前記円弧面は、当該摩擦部材に外力が作用していない状態において、前記円筒部の内周面に対して、前記プーリが前記円筒部から当該円筒部の軸方向に張り出した位置に配置されていることに起因する前記アームの傾きに対応して傾斜している、オートテンショナである。
【0010】
上記構成によれば、ベルト張力が増加して、プーリに作用するベルト荷重が増加することによって、アームがコイルばねの付勢力に抗して回動すると、摩擦部材の円弧面がベースの円筒部の内周面に対して摺動し、摩擦部材の円弧面とベースの円筒部の内周面との間で摩擦力が発生する状態において、プーリのオフセット配置(プーリが円筒部から当該円筒部の軸方向に張り出した位置に配置された状態)に起因してアームが傾いていても、摩擦部材の円弧面と円筒部の内周面との間に局所的に過度な接触面圧が作用するのを抑制し、摩擦部材の円弧面が円筒部の内周面に対してほぼ全面接触状態(全面的にほぼ均一な面圧を作用させて接触可能な状態)となることで、摩擦部材の偏摩耗を抑制することができる。
【0011】
また、本発明は、上記オートテンショナにおいて、前記コイルばねが、一端が前記摩擦部材に係止され、他端が前記ベースに係止され、前記円筒部の軸方向に圧縮された状態で配置されて前記摩擦部材を前記アームに前記円筒部の軸方向に押し付ける構成であってもよい。
【0012】
上記構成によれば、コイルばねの軸方向の弾性復元力によって、摩擦部材をアームに押し付けて、安定的に保持することができる。
この際、摩擦部材がアームに円筒部の軸方向に押し付けられていることにより、プーリが円筒部から軸方向に張り出した位置に配置されていることに起因したアームの傾きがあると、摩擦部材もアームとともに傾くため、摩擦部材に偏摩耗が生じやすい場合があるが、上記のように、摩擦部材の円弧面は、摩擦部材に外力が作用していない状態において、上記アームの傾きに対応して傾斜していることから、摩擦部材の偏摩耗を確実に抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、上記オートテンショナにおいて、前記摩擦部材が、
前記円筒部の周方向に関して前記円弧面より前記一方向側に位置し、前記アームに係止される第1係止部と、
前記コイルばねの前記一端と係止される第2係止部と、を有していてもよい。
【0014】
本構成によれば、摩擦部材及びコイルばねだけで、ベルト張力が増加した場合と減少した場合で、摩擦部材の摺動面で生じる摩擦力の大きさが異なるように作用することで、アームの回動方向に応じて非対称な減衰特性(非対称ダンピング特性)を実現することができるとともに、オートテンショナが、ベルト張力が増加することによって、摩擦部材の円弧面とベースの円筒部の内周面との間により大きい摩擦力を生じさせることができ、アームの揺動を十分に減衰させるようなより大きな減衰力を発生させることができる一方で、摩擦部材の円弧面(摺動面)の摩耗がより進行し易くなってしまう非対称ダンピング特性を有するオートテンショナであっても、摩擦部材の円弧面が偏摩耗するのを抑制して、オートテンショナの耐久性を確保できる。
【発明の効果】
【0015】
プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの円筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができるオートテンショナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図2のオートテンショナのB‐B線断面図である。
【
図2】
図1のオートテンショナのA‐A線断面図である。
【
図3】
図2のオートテンショナ(摩擦部材に外力が作用していない状態)のa部の拡大図である。
【
図4】
図2のオートテンショナ(摩擦部材に外力が作用している状態)のa部の拡大図である。
【
図5】ベルト張力が増加したときに摩擦部材に作用する力を示した図である。
【
図6】比較例に係るオートテンショナ(摩擦部材に外力が作用していない状態)のa部の拡大図である。
【
図7】比較例に係るオートテンショナ(摩擦部材に外力が作用している状態)のa部の拡大図である。
【
図8】実施例に係る耐久性試験で使用する試験用ベルトシステムの構成図である。
【
図9】その他の実施形態に係るオートテンショナの断面図である(
図1に対応する図である)。
【
図10】その他の実施形態に係るオートテンショナ(摩擦部材に外力が作用していない状態)の拡大図である(
図3に対応する図である)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、特に、自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルト101の弛み側張力を一定に保つオートテンショナ1に本発明を適用した一例である。
【0018】
(オートテンショナ1)
本実施形態のオートテンショナ1は、自動車用エンジンのクランクシャフトに連結された駆動プーリ(図示省略)と、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリ(図示省略)とにわたって伝動ベルトが巻き掛けられている補機駆動システムに用いられている。詳細には、オートテンショナ1の後述するプーリ4は、伝動ベルト101の弛み側に接触するように配置されている。この補機駆動システムは、クランクシャフトの回転が伝動ベルト101を介して従動プーリに伝達されて、補機が駆動されるようになっている。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のオートテンショナ1は、
図2中二点鎖線で示すエンジンブロック100に固定されるベース2と、このベース2に対して軸Rを中心に回動自在に支持されたアーム3と、このアーム3に回転自在に設けられたプーリ4と、コイルばね5と、摩擦部材6とを備えている。
【0020】
(プーリ4のオフセット配置)
オートテンショナ1は、
図2に示すように、プーリ4(詳細には、プーリ4を回動自在に支持する転がり軸受(不図示)の前後方向(軸R方向)中心C1)が、ベース2(外筒部21)から軸R方向の前方に張り出した位置に配置された構造(詳細には、シャフト8(アーム3)を回動自在に支持する滑り軸受け7の前後方向(軸R方向)中心C0に対してオフセット配置された構造)になっている。なお、
図2中の上下方向を前後方向と定義する。また、軸Rを中心とした径方向を単に径方向、軸Rを中心とした周方向を単に周方向と定義する。
【0021】
(ベース2)
ベース2は、例えば、アルミニウム合金鋳物等からなる金属部品であり、エンジンブロック100に固着される環状の台座部20と、台座部20の外縁部から前方に延びる外筒部21(円筒部)と、台座部20の中央部から前方に延びる内筒部22とを備えている。内筒部22の内側には軸受け7を介して、前後方向(軸R方向)に延びるシャフト8が回動自在に挿通されている。
【0022】
内筒部22およびアーム3の後述する突出部31と、外筒部21との間には、ばね収容室9が形成されている。このばね収容室9にコイルばね5が配置されている。
図1および
図2に示すように、コイルばね5は、後端部(他端)から前端部(一端)に向かってX方向(一方向に相当)に螺旋状に巻かれている。なお、
図2は、
図1に示すA-A線(A-d1-d2-A)断面図である。
【0023】
(アーム3)
アーム3は、ベース2の外筒部21の前方に配置される円盤部30と、円盤部30の中央部から後方に延びる突出部31と、円盤部30の外縁の一部から張り出して形成されたプーリ支持部32とを備えている。このアーム3も前述のベース2と同様に、アルミニウム合金鋳物等からなる金属部品である。
【0024】
円盤部30と突出部31の中央部には、前後方向に延びる孔が形成されており、この孔にシャフト8が相対回転不能に挿入されている。したがって、アーム3は、シャフト8を介して、ベース2に回動自在に支持されている。
【0025】
プーリ支持部32には、プーリ4が回転自在に取り付けられている。プーリ4には、伝動ベルト101が巻き掛けられる。伝動ベルト101の張力の増減に伴って、プーリ4(およびアーム3)は、軸Rを揺動中心として揺動する。なお、
図2中、プーリ4の内部構造は省略して表示している。
【0026】
円盤部30の後面の外縁近傍には、ベース2の外筒部21の前端部が収容される環状溝30aが形成されている。また、円盤部30の後面において、突出部31より径方向外側で環状溝30aより径方向内側の部分は、軸Rに垂直な平坦状に形成されている。
【0027】
突出部31は、略円筒状に形成されている。
図1に示すように、突出部31の前側部分には、扇形状の切欠きが形成されている。この切欠きの周方向両側は、係止面31aと接触面31bで構成されている。軸R方向から見て、係止面31aは、係止面31aの任意の点と軸Rとを通る直線に対して交差する。つまり、係止面31aは、径方向に対して傾斜している。より詳細には、係止面31aは、径方向外側に向かうほどX方向に向かうように径方向に対して傾斜している。また、接触面31bは、径方向外側に向かうほどX方向と逆方向に向かうように径方向に対して傾斜している。
【0028】
(摩擦部材6)
摩擦部材6は、
図1及び
図2に示すように、ベース2の外筒部21の内周面とアーム3の突出部31との間に径方向に挟まれている。摩擦部材6の前後方向長さは、係止面31aおよび接触面31bの前後方向長さとほぼ同じである。摩擦部材6の前面は、平坦状であって、その全面又は一部がアーム3の円盤部30の後面に接触する。
【0029】
摩擦部材6は、合成樹脂に繊維、充填剤、固体潤滑材等を配合させた潤滑性の高い材料で形成されている。摩擦部材6を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポロフェニレンサルファイド、超高分子量ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、または、フェノール等の熱硬化性樹脂が用いられる。なお、摩擦部材6は、前面と後述する円弧面60が上述の材料で構成されていれば、上記以外の材料を含んでいてもよい。
【0030】
摩擦部材6は、
図1に示すように、軸Rに直交する断面形状が略扇形状であって、円弧面60と、この円弧面60に対向する係止面61(第1係止部)と、周方向に対向する2つの側面62、63を有する。円弧面60は、外筒部21の内周面とほぼ同じ曲率に形成されており、外筒部21の内周面に沿って摺接可能である。係止面61は、アーム3の突出部31の係止面31aに接触する。2つの側面62、63のうちX方向と逆方向側の側面63の径方向内側端部は、アーム3の突出部31の接触面31bに接触する。
【0031】
係止面61は、円弧面60より周方向に関してX方向側に位置する。また、係止面61は、径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように、径方向に対して傾斜している。2つの側面62、63は、径方向外側に向かうほどX方向と逆方向側に向かうように、径方向に対して傾斜している。側面62、63のうちX方向側の側面62は、係止面61に略直交している。
【0032】
摩擦部材6に外力が作用していない状態において、係止面61から円弧面60までの係止面61に直交する方向の長さは、アーム3の係止面31aからベース2の外筒部21の内周面までの係止面31aに直交する方向の間隔よりも若干大きい。したがって、摩擦部材6は、係止面61に略直交する方向に若干圧縮した状態で、アーム3の突出部31とベース2の外筒部21との間に配置されている。
【0033】
摩擦部材6の後面には、コイルばね5の前端部(一端)を保持(係止)する保持溝64(第2係止部)が形成されている。コイルばね5の前端部は、後端部と同様に、先端近傍において屈曲して、屈曲部より先端側の部分が直線状に延びている。この直線状の部分が保持溝64に保持されている。保持溝64は、係止面61より径方向外側に位置すると共に、周方向に関して係止面61よりX方向と逆方向側に位置する。
【0034】
ここで、本実施形態の摩擦部材6は、
図1に示すように、伝動ベルト101の張力が増加した場合に、軸R方向に見て、プーリ4の中心に作用するベルト荷重BFと、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力Fr(ベルト荷重BFによりアーム3から受ける力Faと、コイルばね5のねじり復元力Fsとの合力Fr)とが、ほぼ逆向きに作用する周方向位置に配置されている。
【0035】
また、摩擦部材6は、摩擦部材6に外力が作用している状態、つまり、伝動ベルト101に初期張力(例えば330N)が付与されて、プーリ4にベルト荷重BFが作用している状態において、プーリ4のオフセット配置に起因し、プーリ4に対して、ベルト荷重BF方向(
図1参照)でかつ矢印Mの向き(
図2参照)にモーメント荷重が作用し、アーム3が僅かに(例えば0.3°程度)傾いても(換言すると、
図1及び
図2に示すように、シャフト8(揺動軸)の軸心が軸R0から軸R1へと僅かに(例えば0.3°程度)傾いても)、
図4に示すように、円弧面60(摺動面)が外筒部21の内周面に対してほぼ全面接触状態(全面的にほぼ均一な面圧を作用させて接触可能な状態)となるように構成されている。
【0036】
具体的には、摩擦部材6の円弧面60の全体(全面)は、
図3に示すように、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、外筒部21の内周面に対して、プーリ4が外筒部21から当該外筒部21の軸R方向に張り出した位置に配置(プーリ4のオフセット配置)されていることに起因するアーム3の傾き(例えば0.3°程度、測定方法は後述)に対応して、アーム3の傾き(例えば0.3°程度)と同程度に傾斜している。このため、
図3に示すように、摩擦部材6は、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、摩擦部材6の円弧面60の前面外縁際60aのみが摩擦部材6の円弧方向全体に亘って外筒部21の内周面に接触するように構成されている。即ち、
図3に示すように、摩擦部材6の円弧面60は、摩擦部材6の円弧面60と外筒部21の内周面との間の径方向離間距離が摩擦部材6の前面外縁際60aから摩擦部材6の後面外縁際60bに向かって漸次拡大するよう一定の傾斜角(例えば0.3°程度)で直線状に傾斜する態様で構成されている。
【0037】
なお、アーム3の傾き量[°]は、以下のH1寸法およびH2寸法を測定することにより算出した。
【0038】
図2に示すように、アーム3が傾く前の揺動軸の中心軸を軸R0とし、アーム3が傾いた後の揺動軸の中心軸を軸R1とする。H1寸法は、軸R0(または軸R1)方向に見て摩擦部材6の円弧面60を円弧方向に二等分する周方向位置における、アーム3の前面外縁3aから軸R0方向に沿ったベース2の台座部20の後面外縁2aまでの高さ寸法とした。
H2寸法は、軸R0(または軸R1)方向に見てH1寸法の測定位置から180°離れた周方向位置における、アーム3の前面外縁3aから軸R0方向に沿ったベース2の台座部20の後面外縁2aまでの高さ寸法とした。
H1寸法およびH2寸法は、アーム3が傾く前は、同一寸法(H1=H2)であるが、伝動ベルト101に初期張力が付与されて、プーリ4にベルト荷重BFが作用し、アーム3が傾くと、H1>H2の関係となる。
【0039】
(コイルばね5)
コイルばね5は、軸R方向(前後方向)に圧縮された状態で配置されている。そのため、コイルばね5は、軸R方向の弾性復元力によって、摩擦部材6をアーム3の円盤部30の後面に押し付けている。これにより、摩擦部材6は、アーム3に安定して保持される。
【0040】
また、コイルばね5は、拡径方向にねじられた状態で配置されている。そのため、コイルばね5は、周方向の弾性復元力によって、摩擦部材6を介してアーム3をX方向、即ち、プーリ4を伝動ベルト101に押し付けて伝動ベルト101の張力を増加させる方向に回動付勢している。
【0041】
(オートテンショナ1の動作)
次に、オートテンショナ1の動作について説明する。
伝動ベルト101の張力が増加した場合には、アーム3はコイルばね5の周方向の付勢力に抗して、
図5に示すX方向と逆方向に回動する。摩擦部材6はアーム3の係止面31aから力Faを受けてX方向と逆方向に回動し、摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面と摺動する。
【0042】
摩擦部材6の円弧面60は、摩擦部材6の係止面61よりも周方向に関してX方向と逆方向側に位置している。さらに、係止面61の任意の点における接線方向と円弧面60とが交差している。摩擦部材6の係止面61がアーム3から受ける力Faは、係止面61における接線方向の力であるため、係止面61から力Faの方向の直線上に円弧面60が存在することになる。そのため、摩擦部材6の係止面61がアーム3から受ける力Faを、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力に使うことができる。
【0043】
また、摩擦部材6は、コイルばね5を拡径方向にねじり変形させたことによる弾性復元力(以下、「ねじり復元力」という。)Fsを受けている。ねじり復元力Fsは、X方向の分力Fs1と、縮径方向の分力Fs2との合力である。
【0044】
したがって、摩擦部材6には、アーム3から受けた力Faと、コイルばね5のねじり復元力Fsとの合力Frが作用する。力Faはねじり復元力Fsよりも大きいため、合力Frは径方向外向きの力となり、摩擦部材6の円弧面60は合力Frによってベース2の外筒部21の内周面に押し付けられる。そのため、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21との間に大きい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を十分に減衰させるような大きな減衰力を発生させることができる。
【0045】
逆に、伝動ベルト101の張力が減少した場合には、コイルばね5のねじり復元力Fsにより、アーム3が
図5に示すX方向に回動し、プーリ4がベルト張力を回復させるように揺動する。摩擦部材6はコイルばね5からねじり復元力Fsを受けてX方向に回動し、摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面と摺動する。摩擦部材6はねじり復元力Fsの縮径方向の分力Fs2によって径方向内側に付勢されるため、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間に生じる摩擦力は小さい。
【0046】
仮に、円弧面60のX方向側端部が係止面61の周方向範囲まで延びている場合、コイルばね5のねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって、摩擦部材6の円弧面60が外筒部21の内周面に押し付けられることになるが、本実施形態では、摩擦部材6の円弧面60が、摩擦部材6の係止面61よりも周方向に関してX方向と逆方向側に位置しているため、コイルばね5のねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって、摩擦部材6の円弧面60が外筒部21の内周面に押し付けられることがなく、摩擦部材6の円弧面60と外筒部21の内周面との間の摩擦力の増加を防止できる。
【0047】
したがって、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間には、アーム3がX方向と逆方向に回動した場合に比べて小さい摩擦力が発生するため、アーム3はコイルばね5のねじり復元力を十分に受けることができ、アーム3の揺動を伝動ベルト101の張力の減少に対して十分に追従させることができる。
【0048】
ここで、本実施形態のオートテンショナ1によれば、摩擦部材6の円弧面60の全体(全面)は、
図3に示すように、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、傾斜(例えば0.3°程度)している。
このため、伝動ベルト101の張力が増加して、プーリ4に作用するベルト荷重BFが増加することによって、アーム3がコイルばね5の付勢力に抗して回動して、摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面に対して摺動し、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間で摩擦力が発生する状態において、プーリ4が外筒部21から当該外筒部21の軸R方向に張り出した位置に配置(プーリ4のオフセット配置)されていることに起因してアーム3が傾いても、摩擦部材6の円弧面60と外筒部21の内周面との間に局所的に過度な接触面圧が作用するのを抑制し、
図4に示すように、摩擦部材6の円弧面60が外筒部21の内周面に対してほぼ全面接触状態(全面的にほぼ均一な面圧を作用させて接触可能な状態)となることで、摩擦部材6の偏摩耗を抑制することができる。
【0049】
本実施形態のオートテンショナ1によれば、摩擦部材6の係止面61は、外筒部21の周方向に関して円弧面60よりX方向側に位置し、アーム3に係止されており、保持溝64は、コイルばね5の前端部(一端)と係止されている。
この場合、摩擦部材6の円弧面60は、周方向に関して、摩擦部材6の係止面61よりもコイルばね5の回動付勢方向(X方向)と逆方向側、すなわち、アーム3の回動方向側に位置している。そのため、摩擦部材6の係止面61がアーム3から受ける力Faを、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力に使うことができる(
図5参照)。
したがって、上記構成を有しないオートテンショナと比較し、伝動ベルト101の張力が増加することによって、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間により大きい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を十分に減衰させるようなより大きな減衰力を発生させることができる一方で、摩擦部材6の円弧面60(摺動面)の摩耗がより進行し易くなってしまう、と云える。
【0050】
反対に、伝動ベルト101の張力が減少することによって、アーム3がコイルばね5の付勢力によって回動する場合には、摩擦部材6はコイルばね5から周方向の付勢力を受けることになるが、摩擦部材6の円弧面60が、周方向に関して、摩擦部材6の係止面61よりもコイルばね5の回動付勢方向と逆方向側に位置しているため、コイルばね5の周方向の付勢力によって摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面に押し付けられることがなく、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間の摩擦力の増加を抑制できる。
したがって、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間に小さい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を伝動ベルト101の張力の減少に対して十分に追従させることができる。
即ち、本構成によれば、摩擦部材6とコイルばね5だけで、伝動ベルト101の張力が増加した場合と減少した場合で、摩擦部材6の円弧面60(摺動面)で生じる摩擦力の大きさが異なるように作用することで、アーム3の回動方向に応じて非対称な減衰特性(非対称ダンピング特性)を実現することができるとともに、オートテンショナ1が、伝動ベルト101の張力が増加することによって、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間により大きい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を十分に減衰させるようなより大きな減衰力を発生させることができる一方で、摩擦部材6の円弧面60(摺動面)の摩耗がより進行し易くなってしまう非対称ダンピング特性を有するオートテンショナ1であっても、摩擦部材6の円弧面60が偏摩耗するのを抑制して、オートテンショナ1の耐久性を確保できる。
【0051】
また、上記構成のオートテンショナ1は、コイルばね5が、軸R方向の弾性復元力によって、摩擦部材6をアーム3の円盤部30の後面に押し付ける構成をしている。
これにより、摩擦部材6をアーム3に安定的に保持することができるようにしているが、この際、摩擦部材6がアーム3に外筒部21の軸R方向に押し付けられていることにより、プーリ4が外筒部21から軸R方向に張り出した位置に配置されていることに起因したアーム3の傾きがあると、摩擦部材6もアーム3とともに傾くため、摩擦部材6に偏摩耗が生じやすい場合があるが、上記のように、摩擦部材6の円弧面60は、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、上記アーム3の傾きに対応して傾斜していることから、摩擦部材6の偏摩耗を確実に抑制することができる。
【0052】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0053】
上記各実施形態では、
図1に示すように、軸R方向に見て、プーリ4の中心に作用するベルト荷重BFの向きと、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力Frの向きとがほぼ逆向きに作用するように、補機駆動システム(プーリレイアウト)およびオートテンショナ1(特には摩擦部材6の周方向位置)が構成されているため、摩擦部材6の円弧面60の全体(全面)は、
図3に示すように、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、外筒部21の内周面に対して、プーリ4が外筒部21から当該外筒部21の軸R方向に張り出した位置に配置(プーリ4のオフセット配置)されていることに起因するアーム3の傾き(例えば0.3°程度、測定方法は後述)に対応して、アーム3の傾き(例えば0.3°程度)と同程度に傾斜している。このため、
図3に示すように、摩擦部材6に外力が作用していない状態において、摩擦部材6の円弧面60の前面外縁際60aのみが摩擦部材6の円弧方向全体に亘って外筒部21の内周面に接触するように構成されている。
しかし、摩擦部材6は、前述したように、ベルト荷重BFの向きと、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力Frの向きとの関係に基づき、プーリ4のオフセット配置に起因するアーム3の傾きに対応して、摩擦部材6に外力が作用していない状態において外筒部21の内周面に対して傾斜する面を円弧面60に有するように形成されていればよい。
【0054】
例えば、
図9に示すように、摩擦部材6´が、軸R方向に見て、ベルト荷重BFの向きと押付力Frの向きとがほぼ同じ向きに作用するように構成されている場合(例えば、軸R方向に見て、プーリ4の位置は
図1のままで、摩擦部材6´の円弧面60´が
図1に示す位置から180°離れた周方向位置に配設された構成の場合)、
図10に示すように、摩擦部材6´の円弧面60´の全体(全面)は、摩擦部材6´に外力が作用していない状態において、外筒部21の内周面に対して、プーリ4のオフセット配置に起因するアーム3の傾きに対応して、アーム3の傾きと同程度に傾斜するが、摩擦部材6´の円弧面60´の後面外縁際60b´のみが摩擦部材6´の円弧方向全体に亘って外筒部21の内周面に接触するように構成されていてもよい。
即ち、
図10に示すように、摩擦部材6´の円弧面60´は、摩擦部材6´の円弧面60´と外筒部21の内周面との間の径方向離間距離が摩擦部材6´の後面外縁際60b´から摩擦部材6´の前面外縁際60a´に向かって漸次拡大するよう一定の傾斜角(例えば0.3°程度)で直線状に傾斜する態様で構成されている。
【0055】
また、例えば、軸R方向に見て、ベルト荷重BFと押付力Frとの互いのベクトル及びその延長線が交差する関係に構成されている場合、プーリ4のオフセット配置に起因するアーム3の傾きに対応して、摩擦部材6は、摩擦部材6に外力が作用していない状態において外筒部21の内周面に対して円弧面60の一部分が傾斜するように形成されていてもよい。
【0056】
また、摩擦部材6は、円弧面60を構成する第1部品と、係止面61及び保持溝64を構成する第2部品とを含む2以上の部品で構成されていてもよい。この場合、第1部品は第2部品よりも表面硬度が低く、第2部品は第1部品よりも表面硬度が高い構成にしてもよい。例えば、第1部品は、ポリアミド(ナイロン6T)等の合成樹脂を射出成形したものが例示でき、また、第2部品は、アルミ合金鋳物(ADC12)等の金属製品を例示できる。
【実施例0057】
本発明のオートテンショナにおいては、プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例および比較例に係るオートテンショナ(以下、各供試体)を作製し、耐久性試験を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
(供試体)
耐久性試験に供する供試体(実施例および比較例のオートテンショナ)は、下記のように、摩擦部材の円弧面(外筒部の内周面に対向する面)の形状が異なる点以外は供試体間で同じ構成(基本構成は、上記実施形態と同じで、非対称ダンピング特性を有する構成)とした。
【0059】
(摩擦部材)
摩擦部材は、1部品の構成とし、ポリアミド樹脂(PA6T)を射出成形して形成させた。
揺動軸の軸心(R)方向に見た円弧面の中心角は43°である。
摩擦部材の前後方向長さは、コイルばねの線径の約1.4倍である。
【0060】
(外筒部の周方向に関する摩擦部材の配設位置)
摩擦部材は、
図1に示すように、伝動ベルトの張力が増加した場合に、プーリの中心に作用するベルト荷重BFと、摩擦部材の円弧面をベースの外筒部の内周面に押し付ける力Fr(ベルト荷重BFによりアームから受ける力Faと、コイルばねのねじり復元力Fsとの合力Fr)とが、ほぼ逆向きに作用する周方向位置に配置させた。
【0061】
(摩擦部材の円弧面の形状)
実施例のオートテンショナは、
図3に示すように、摩擦部材に外力が作用していない状態において、プーリのオフセット配置に起因するアームの傾き(前述の方法で測定した結果、0.3°程度)に対応して、摩擦部材の円弧面の前面外縁際のみが摩擦部材の円弧方向全体に亘って外筒部の内周面に接触し、摩擦部材の円弧面の全体(全面)が外筒部の内周面に対してアームの傾き(0.3°程度)と同程度に、摩擦部材の円弧面と外筒部の内周面との間の径方向離間距離が摩擦部材の前面外縁際から摩擦部材の後面外縁際に向かって漸次拡大するよう傾斜角0.3°で直線状に傾斜する態様に構成されたものとし、同一製造ロットの新品の供試体(オートテンショナ)を合計4体用意した。
【0062】
比較例のオートテンショナは、
図6に示すように、摩擦部材に外力が作用していない状態において、摩擦部材の円弧面が外筒部の内周面に対してほぼ全面接触状態となる態様に構成されたものとし、同一製造ロットの新品の供試体(オートテンショナ)を合計4体用意した。なお、比較例のオートテンショナは、摩擦部材に外力が作用していない状態において、摩擦部材の前面における、第1係止部(アームの突出部と接触する係止面)から円弧面までの係止面に直交する方向の長さは、実施例のオートテンショナと同一とした。
【0063】
(軸受)
軸受は、円筒状の金属製軸受(所謂メタル軸受)である。
軸受の揺動軸と接触する内周面は、ポリ四フッ化エチレンの潤滑材を含有する樹脂組成物(低摩擦材)で構成される。
【0064】
(ベースとアーム)
ベースとアームは、アルミニウム合金鋳物(ADC12)で形成させた。
【0065】
[オートテンショナの評価:項目、方法、基準]
表1に示す各供試体について、本願課題を解決し得るオートテンショナが得られたかどうかを見極めるために、耐久性(摩擦部材の状態)を検証した。
【0066】
[耐久性(摩擦部材の状態)]
(試験機:
図8)
アームを強制的に揺動させる試験を行うため、試験には、
図8に示す試験用ベルトシステムを使用した。
【0067】
試験用ベルトシステムは、鉛直上方に延びる1枚のフレームに固定されており、このフレームは、床等に固定されて略水平方向に延在する架台に固定されている。試験用ベルトシステムは、1つの駆動プーリによって同時に駆動される2つのベルトシステム(第1ベルトシステムと第2ベルトシステム)を有する。
【0068】
2つのベルトシステムは、駆動軸を有する1つの駆動モータと、駆動軸に接続された1つの駆動プーリとを共有する。第1ベルトシステムは、第1オートテンショナと、第1従動プーリと、第1ベルトとを有する。第2ベルトシステムは、第2オートテンショナと、第2従動プーリと、第2ベルトとを有する。第1ベルトシステムの3つのプーリの位置と、第2ベルトシステムの3つのプーリの位置は、駆動軸の軸心を中心として点対称である。
【0069】
駆動軸は、フレームと直交する方向に配置した。第1従動プーリ及び第2従動プーリには補機を接続しなかった。駆動プーリの外周面には、第1ベルト及び第2ベルトが並列に巻き掛けられる2つの周溝を、軸方向に離して設けた。駆動プーリは、第1オートテンショナのアーム及び第2オートテンショナのアームを強制的に揺動させることができるよう、駆動軸の軸心方向に見て駆動軸の軸心が駆動プーリの中心から所定の偏心量dだけ離れた位置に形成されている、いわゆる偏心プーリとした。アームの揺動幅(摩擦部材の摺動幅)が10°となるように、偏心量dは4mmとした。第1ベルト及び第2ベルトは、Vリブドベルト(三ツ星ベルト社製)で、ベルト呼称が6PK730(K形リブ、ベルト幅方向のリブ山の数6、ベルト長さ(POC)730mm、ベルト幅21.4mm)のものを用いた。第1ベルト及び第2ベルトに埋設されている心線は、ポリエステルコードを用いた撚糸ロープである。
【0070】
そして、1つの駆動プーリによって同時駆動される2つのベルトシステムの一方の第1ベルトシステムの第1オートテンショナのところには、実施例の供試体(オートテンショナ)を取り付け、他方の第2ベルトシステムの第2オートテンショナのところには、比較例の供試体(オートテンショナ)を取り付けた。
【0071】
(試験方法)
試験は、雰囲気温度95℃で行った。ベルト(第1ベルト及び第2ベルト)の初期張力は330Nであった。初期張力を付与してから、慣らし走行(10秒程度)を行った後、駆動プーリを時計回りに回転数1200rpmで1時間駆動させた。
【0072】
その後、一旦、オートテンショナ(供試体2つ)を装置から取り外し、それぞれオートテンショナを分解し、摩擦部材(特に円弧面)の状態(偏摩耗の有無)を目視にて観察し、耐久性(摩擦部材の状態)の評価を行った後、判定が合格レベル(a判定、b判定)の場合に限り、用意していた2体目(別の新品)の供試体(オートテンショナ)を当試験機(試験用ベルトシステム)に取り付け、以降の耐久性試験を続行させた。
【0073】
以降、耐久性試験での試験時間で100時間、200時間(供試体:3体目)、および目標試験時間の300時間(供試体:4体目)に到達の毎に、オートテンショナ(供試体2つ)を装置から取り外し、上述のオートテンショナの分解による耐久性(摩擦部材の状態)の評価を繰返すものとした。300時間(実車寿命に相当)に達した場合、摩擦部材は、約2000万回往復して摺動する計算になる。
【0074】
(判定基準)
プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができているかどうかの判断の指標として、摩擦部材の状態(特に摩擦部材の円弧面に偏摩耗が生じると、その結果、オートテンショナの寿命が低下する)を指標とした。
【0075】
摩擦部材の円弧面に偏摩耗(局所的な異常摩耗)が生じていない(摩擦部材の円弧面の摩耗度合いが全体的に同程度である)場合は、プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部21の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができると評価し、a判定とした。
摩擦部材の円弧面に偏摩耗(局所的な異常摩耗)の兆候が認められる場合は、プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制する観点でやや劣ると評価し、b判定とした。
摩擦部材の円弧面に偏摩耗(局所的な異常摩耗)が生じている場合は、プーリが軸方向にオフセット配置された構造でも、ベースの外筒部の内周面に摺接する摩擦部材の偏摩耗を抑制することができないと評価し、c判定とした。
主用途(自動車エンジンの補機駆動ベルトシステム用)での実使用に対する適正(耐久性の確保)の観点から、a判定、b判定のオートテンショナを合格レベルとした。
【0076】
(検証結果および考察)
[耐久性の検証]
検証結果を表1に示す。
【表1】
【0077】
(実施例、比較例)
アームの傾きに対応して、外筒部の内周面に対して傾斜する面を摩擦部材の円弧面に有するオートテンショナ(実施例)では、耐久性(摩擦部材の状態)が目標試験時間300時間まで終始良好であった(a判定)。
これは、試験中(アームの揺動動作中)、プーリのオフセット配置に起因しアームが傾いていても、特に、ベルトの張力が増加して、プーリに作用するベルト荷重が増加した際に、
図4に示すように、摩擦部材の円弧面が外筒部の内周面に対してほぼ全面接触状態(全面的にほぼ均一な面圧を作用させて接触可能な状態)となるように構成されているため、繰り返し生じる摩擦作用に対しても、摩擦部材の円弧面(摺動面)が偏摩耗することなく(均一かつ穏やかに)摩耗することができたと考えられる。
【0078】
一方、アームの傾きに対応して、外筒部の内周面に対して傾斜する面を摩擦部材の円弧面に有しないオートテンショナ(比較例)では、早期に(試験時間100時間で)摩擦部材の円弧面に偏摩耗(即ち、円弧面における、摩擦部材の後面外縁際の円弧方向全体(
図7中の接触部分)に異常摩耗)が認められた(c判定)。
これは、試験中(アームの揺動動作中)、プーリのオフセット配置に起因するアームの傾きに伴い、特に、ベルトの張力が増加して、プーリに作用するベルト荷重が増加した際に、アームに係止されて、ベースとアームとの間に径方向に挟まれる摩擦部材の円弧面(外周面)と外筒部の内周面との間に局所的に過度な接触面圧が作用してしまい、摩擦部材の円弧面が外筒部の内周面に対して均一な押圧力で接触できなくなったため、繰り返し生じる摩擦作用により、摩擦部材の円弧面(摺動面)が早期に偏摩耗したと考えられる。
【0079】
以上の結果から、本構成(実施例)によれば、オートテンショナが、ベルト張力が増加することによって、摩擦部材の円弧面とベースの外筒部の内周面との間により大きい摩擦力を生じさせることができ、アームの揺動を十分に減衰させるようなより大きな減衰力を発生させることができる一方で、摩擦部材の円弧面(摺動面)の摩耗がより進行し易くなってしまう非対称ダンピング特性を有するオートテンショナであっても、摩擦部材の円弧面が偏摩耗するのを抑制して、耐久性を確保することができると云える。