(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088625
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】発泡成形用組成物、発泡成形体、発泡電線、発泡成形体の製造方法、電線の製造方法及び車載ネットワークーブル
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240625BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CEW
H01B7/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214623
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022203129
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.THUNDERBOLT
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 剛志
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA39
4F074AB03
4F074AB05
4F074BA33
4F074BB21
4F074BC15
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA14
4F074DA48
(57)【要約】
【課題】車載ネットワークケーブル用電線として好適に使用することができる発泡成形体及び発泡電線を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂(A)と、熱分解温度が300℃以上であり、溶解度パラメータ(SP値)が8~15である化合物(B)とを含み、車載ネットワークケーブル用電線の被覆に使用されることを特徴とする発泡成形用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)と、熱分解温度が300℃以上であり、溶解度パラメータ(SP値)が8~15である化合物(B)とを含み、車載ネットワークケーブル用電線の被覆に使用されることを特徴とする発泡成形用組成物。
【請求項2】
化合物(B)は、芳香環、リン酸エステル基、並びにアミド基からなる群より選択される少なくとも一種の部分構造を含む化合物である請求項1記載の発泡成形用組成物。
【請求項3】
化合物(B)は、C6-14の芳香環を1つ以上含む化合物又はその塩である請求項2記載の発泡成形用組成物。
【請求項4】
化合物(B)は、リン酸エステル及びその塩、リン酸エステル錯体化合物、並びにアミド基を2つ以上有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項2記載の発泡成形用組成物。
【請求項5】
化合物(B)の塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である請求項3又は4記載の発泡成形用組成物。
【請求項6】
化合物(B)は、下記式(1)、(2)、(3)及び(4)により表される化合物のうち少なくとも一種である請求項2~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
21、R
22、R
23、R
24、R
31、R
32、R
33、R
34、R
41、R
42は水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、又は、炭素原子数6~12のアリール基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を表し、Ar
41はアリール基を表しR
5、R
6は水素原子またはメチル基を表し、nは1または2の整数を表し、mは0~2の整数を表し、Xはm+n価の金属を表す。)
【請求項7】
式(1)、式(2)、式(3)のR1、R2、R21、R22、R31及びR33は、炭素数が1~8のアルキル基である請求項6記載の発泡成形用組成物。
【請求項8】
式(1)、式(2)、式(3)のXは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、カルシウム及びバリウムのうち少なくとも一種である請求項6記載の発泡成形用組成物。
【請求項9】
化合物(B)は、上記式(1)により表される芳香族環状リン酸エステル塩である請求項6に記載の発泡成形用組成物。
【請求項10】
化合物(B)は、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウムである請求項9記載の発泡成形用組成物。
【請求項11】
フッ素樹脂(A)は、溶融加工可能なフッ素樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物。
【請求項12】
フッ素樹脂(A)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、テトラフルオロエチレン/エチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物。
【請求項13】
フッ素樹脂(A)は、フッ素化処理されているフッ素樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物。
【請求項14】
実質的にフッ素系低分子化合物を含まない請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物。
【請求項15】
請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物から得られることを特徴とする発泡成形体。
【請求項16】
実質的にフッ素系低分子化合物を含まない請求項15記載の発泡成形体。
【請求項17】
芯線と、前記芯線に被覆された請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物から得られる被覆材とを備えることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項18】
実質的にフッ素系低分子化合物を含まない請求項17記載の車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項19】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
長さ方向に垂直な切断面観察において、気泡の平均泡径は、20~40μmであることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項20】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
長さ方向に平行な切断面観察において、
気泡の平均アスペクト比は、1.9以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項21】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
長さ方向に平行な切断面観察において、
アスペクト比3以上の気泡の存在割合は、長さ方向に平行な切断面観察において計測した気泡全量に対して13%以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項22】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
長さ方向に平行な切断面観察において、
気泡のアスペクト比の標準偏差は、1.3以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項23】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
発泡率が20%以上であり、表面粗度が5.0μm未満であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項24】
芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
電線の構造がフォーム(内側)/スキン(外側)構造であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【請求項25】
請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物を発泡成形する工程、を含むことを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項26】
請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用組成物を芯線に被覆して電線を得る工程、を含むことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項27】
請求項17~24のいずれかに記載の車載ネットワークケーブル用の発泡電線を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブル。
【請求項28】
相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が請求項17~24のいずれかに記載の車載ネットワークケーブル用の発泡電線である請求項27記載の車載ネットワークケーブル。
【請求項29】
ツイストペアケーブルにおいて、発泡電線の撚り後の変形率が20%以下である請求項28記載の車載ネットワークケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発泡成形用組成物、発泡成形体、発泡電線、発泡成形体の製造方法、電線の製造方法及び車載ネットワークーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス、家庭等で通信ネットワークが普及しているが、近年では、自動運転支援システムの採用等に伴う通信データ量の増大に伴って、車両においても通信速度向上が求められており、イーサネット(登録商標)のような高速通信可能なネットワークケーブルの導入が進められている。
【0003】
特許文献1には、信号導体の周りが絶縁被覆された一対のコア電線とドレイン線とが撚り合わされてなるツイストペア線と、上記ツイストペア線の外周を覆う導体箔と、上記導体箔の外周を覆う外皮絶縁層とを有するシールドツイストペアケーブルであって、上記ツイストペア線は、少なくとも2本以上のドレイン線が撚り合わされてなることを特徴とするシールドツイストペアケーブルが記載されている。
【0004】
特許文献2には、フッ素樹脂によって被覆された車載ネットワークケーブル用電線が開示されている。
特許文献3には、フッ素樹脂を使用した発泡成形用組成物及び発泡電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-287948号
【特許文献2】特開2021-158111号
【特許文献3】特開2022-28640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、車載ネットワークケーブル用電線として好適に使用することができる発泡成形体及び発泡電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、フッ素樹脂(A)と、熱分解温度が300℃以上であり、溶解度パラメータ(SP値)が8~15である化合物(B)とを含み、車載ネットワークケーブル用電線の被覆に使用されることを特徴とする発泡成形用組成物である。
【0008】
上記化合物(B)は、芳香環、リン酸エステル基、並びにアミド基からなる群より選択される少なくとも一種の部分構造を含む化合物であることが好ましい。
上記化合物(B)は、C6-14の芳香環を1つ以上含む化合物又はその塩であることが好ましい。
上記化合物(B)は、リン酸エステル及びその塩、リン酸エステル錯体化合物、並びにアミド基を2つ以上有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
上記化合物(B)の塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であることが好ましい。
【0009】
上記化合物(B)は、下記式(1)、(2)、(3)及び(4)により表される化合物のうち少なくとも一種であることが好ましい。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
21、R
22、R
23、R
24、R
31、R
32、R
33、R
34、R
41、R
42は水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、又は、炭素原子数6~12のアリール基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を表し、Ar41はアリール基を表しR
5、R
6は水素原子またはメチル基を表し、nは1または2の整数を表し、mは0~2の整数を表し、Xはm+n価の金属を表す。)
【0010】
式(1)、式(2)、式(3)のR1、R2、R21、R22、R31及びR33は、炭素数が1~8のアルキル基であることが好ましい。
式(1)、式(2)、式(3)のXは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、カルシウム及びバリウムのうち少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
上記化合物(B)は、上記式(1)により表される芳香族環状リン酸エステル塩であることが好ましい。
上記化合物(B)は、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウムであることが好ましい。
【0012】
上記フッ素樹脂(A)は、溶融加工可能なフッ素樹脂であることが好ましい。
上記フッ素樹脂(A)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、テトラフルオロエチレン/エチレン系共重合体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
上記フッ素樹脂(A)は、フッ素化処理されているフッ素樹脂であることが好ましい。
本開示の発泡成形用組成物は、実質的にフッ素系低分子化合物を含まないことが好ましい。
本開示は、上述した発泡成形用組成物から得られることを特徴とする発泡成形体でもある。
上記発泡成形体は、実質的にフッ素系低分子化合物を含まないことが好ましい。
【0014】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆された上記発泡成形用組成物から得られる被覆材とを備えることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。上記発泡電線は、実質的にフッ素系低分子化合物を含まないことが好ましい。
【0015】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
長さ方向に垂直な切断面観察において、気泡の平均泡径は、20~40μmであることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。
【0016】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、気泡の平均アスペクト比は、1.9以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。
【0017】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、アスペクト比3以上の気泡の存在割合は、長さ方向に平行な切断面観察において計測した気泡全量に対して13%以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。
【0018】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、気泡のアスペクト比の標準偏差は、1.3以下であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。
【0019】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、発泡率が20%以上であり、表面粗度が5.0μm未満であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線でもある。
【0020】
本開示は、芯線と、前記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
前記フッ素樹脂層又は前記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
電線の構造がフォーム(内側)/スキン(外側)構造であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【0021】
本開示は、上記発泡成形用組成物を発泡成形する工程、を含むことを特徴とする発泡成形体の製造方法でもある。
本開示は、上記発泡成形用組成物を芯線に被覆して電線を得る工程、を含むことを特徴とする電線の製造方法でもある。
【0022】
本開示は、上記車載ネットワークケーブル用の発泡電線を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブルでもある。
上記車載ネットワークケーブルは、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が上記車載ネットワークケーブル用の発泡電線であることが好ましい。
上記車載ネットワークケーブルは、ツイストペアケーブルにおいて発泡電線の撚り後の変形率が20%以下であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、フッ素系重合体を基体樹脂とする発泡性樹脂において特定の化合物(B)を使用することで、良好な発泡を得ることができ、これが特に車載ネットワークケーブル用電線において好適に使用できることを見出すことによって完成されたものである。
当該化合物(B)は熱分解温度が300℃以上であり、溶解度パラメータ(SP値)が8~15である。従来の発泡核剤は比較的熱分解温度及び融点の低いものが多い。樹脂の成形温度が低い場合はそれでも問題はないが、高融点を有する樹脂を含む成形用組成物においては、成形過程で熱分解又は溶融して発泡核剤として効率的に作用しないという問題があった。特に、高融点樹脂であるフッ素樹脂を使用した場合、着色や分解ガスの発生、気泡サイズの巨大化、表面状態の悪化、電気特性の悪化などの不都合が生じ、フッ素樹脂の物性と発泡成形体としての特性を両立することは困難であった。
本開示は、化合物(B)を用いることで、フッ素樹脂(A)を含む組成物が良好な発泡性を発揮することを見出し、更に、高温で成形を行った場合にも良好な特性を発揮することで、上述の効果を得ることができるものである。
以下、本開示を詳細に説明する。
【0024】
フッ素樹脂(A)は、溶融加工可能なものであれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系共重合体、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、TFE/エチレン系共重合体〔ETFE〕、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/エチレン共重合体〔ECTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体等が挙げられる。
【0025】
上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕等が挙げられる。中でも、PPVEが好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる
【0026】
フッ素樹脂は、各フッ素樹脂の本質的性質を損なわない範囲の量で、その他の単量体に基づく重合単位を有するものであってもよい。上記その他の単量体としては、例えば、TFE、HFP、エチレン、プロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、パーフルオロアルキルエチレン、ハイドロフルオロオレフィン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロ(アルキルアリルエーテル)等から適宜選択することができる。上記その他の単量体を構成するパーフルオロアルキル基としては、炭素数1~10であるものが好ましい。
【0027】
優れた耐熱性を有することから、フッ素樹脂は、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE共重合体、又は、TFE/エチレン系共重合体であることが好ましく、TFE/HFP系共重合体、又は、TFE/PAVE共重合体がより好ましい。上記フッ素樹脂は、2種以上を併用してもよい。また、より優れた電気特性を有することからパーフルオロ樹脂であることも好ましい。
【0028】
TFE/HFP系共重合体は、TFE/HFPが質量比で、80~97/3~20であることが好ましく、84~92/8~16であることがより好ましい。
TFE/HFP系共重合体は、TFEとHFPとからなる2元共重合体であってもよいし、更に、TFE及びHFPと共重合可能なコモノマーからなる3元共重合体(例えば、TFE/HFP/PAVE共重合体)であってもよい。
TFE/HFP系共重合体は、PAVEに基づく重合単位を含むTFE/HFP/PAVE共重合体であることも好ましい。
TFE/HFP/PAVE共重合体は、TFE/HFP/PAVEが質量比で、70~97/3~20/0.1~10であることが好ましく、81~92/5~16/0.3~5であることがより好ましい。
【0029】
TFE/PAVE共重合体は、TFE/PAVEが質量比で、90~99/1~10であることが好ましく、92~97/3~8であることがより好ましい。
【0030】
TFE/エチレン系共重合体は、TFE/エチレンがモル比で、20~80/20~80であることが好ましく、40~65/35~60であることがより好ましい。また、TFE/エチレン系共重合体は、他の単量体成分を含有していてもよい。
すなわち、TFE/エチレン系共重合体は、TFEとエチレンとからなる2元共重合体であってもよいし、更に、TFE及びエチレンと共重合可能なコモノマーからなる3元共重合体(例えば、TFE/エチレン/HFP共重合体)であってもよい。
TFE/エチレン系共重合体は、HFPに基づく重合単位を含むTFE/エチレン/HFP共重合体であることも好ましい。TFE/エチレン/HFP共重合体は、TFE/エチレン/HFPがモル比で、40~65/30~60/0.5~20であることが好ましく、40~65/30~60/0.5~10であることがより好ましい。
【0031】
フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.1~500g/10分であることが好ましい。より好ましくは、4~100g/10分であり、更に好ましくは、10~80g/10分であり、スパークの発生を抑制でき、発泡率が大きくなることから、更により好ましくは、34~50g/10分であり、特に好ましくは、35~40g/10分である。
上記MFRは、ASTM D-1238に準拠して、直径2.1mmで長さが8mmのダイにて、荷重5kg、372℃で測定した値である。
【0032】
フッ素樹脂は、単量体成分を通常の重合方法、例えば乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、気相重合等の各方法を用いて重合することにより合成することができる。上記重合反応において、メタノール等の連鎖移動剤を使用することもある。金属イオン含有試薬を使用することなく、重合かつ単離することによりフッ素樹脂を製造してもよい。
【0033】
フッ素樹脂は、ポリマー主鎖及びポリマー側鎖の少なくとも一方の部位に、-CF3、-CF2H等の末端基を有しているものであってよく、特に制限されるものではないが、フッ素化処理されているフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素化処理されていないフッ素樹脂は、-COOH、-CH2OH、-COF、-CONH2等の熱的及び電気特性的に不安定な末端基(以下、このような末端基を「不安定末端基」ともいう。)を有する場合がある。このような不安定末端基は、上記フッ素化処理により低減することができる。フッ素樹脂は、上記不安定末端基が少ないか又は含まないことが好ましく、上記4種の不安定末端基と-CF2H末端基とを合計した数が、炭素数1×106個あたり50個以下であることがより好ましい。50個を超えると、成形不良が生じるおそれがある。上記不安定末端基は、20個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましい。本明細書において、上記不安定末端基数は赤外吸収スペクトル測定から得られた値である。上記不安定末端基および-CF2H末端基が存在せず全て-CF3末端基であってもよい。
【0034】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、F2ガス、CoF3、AgF2、UF6、OF2、N2F2、CF3OF、及び、フッ化ハロゲン(例えばIF5、ClF3)等が挙げられる。
上記F2ガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5~50質量%、好ましくは15~30質量%に希釈して使用することが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20~220℃、より好ましくは100~200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~20時間行う。
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(F2ガス)と接触させるものが好ましい。
【0035】
フッ素樹脂(A)としては特に限定されないが、耐熱性に優れ、連続使用温度範囲が広い発泡成形体が得られることから、融点が200℃以上、成形温度が250℃以上、熱分解温度は300℃以上であることが望ましい。更に融点は250℃以上であることがより好ましく、300℃以下が好ましい。成形温度は300℃以上であることがより好ましく、450℃以下が好ましい。熱分解温度は350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。融点、成形温度、熱分解温度の上限としては600℃以下である。
本明細書において、融点は示差走査熱量計(DSC)測定される温度であり、成形温度は一般的に推奨されている成形に適した温度で、当該温度において流動性を有しかつ着色などの樹脂劣化を起こさない温度であり、熱分解温度はTG(加熱重量変化測定)による空気中で10℃/minで加熱した際の1%重量減少温度である。但し、100℃から200℃に見られる含有水や結晶水の揮発による重量減少分は除く。流動性を有するとは、当該温度においてMFRが0.0001以上であることを意味する。
【0036】
通信電線の信号ロスを小さくするため、上記フッ素樹脂(A)の誘電率は3.0以下であることが好ましく、2.6以下であることが更に好ましく、2.1以下であることが最も好ましい。下限としては1.0以上である。同様に誘電正接は0.01以下が好ましく、0.001以下がより好ましく、0.0004以下が最も好ましい。下限としては0.0001以上である。誘電率、誘電正接は、周波数6GHzにおける空筒共振器法により測定される。
【0037】
上記フッ素樹脂(A)の含有量は、発泡成形用組成物100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましい。更に好ましくは90質量部以上であり、さらにより好ましくは95質量部以上であり、特に好ましくは98質量部以上である。上限としては、99.999質量部以下であり、より好ましくは99.99質量部以下である。
【0038】
本開示において発泡核剤として作用する上記化合物(B)は、熱分解温度が300℃以上であり、溶解度パラメータ(SP値)が8~15である化合物である。
本開示において、耐熱性に優れ、連続使用温度範囲が広い発泡成形体が得られることから、化合物(B)の熱分解温度は300℃以上であることが必要である。熱分解温度は、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。上限としては、600℃以下であることが好ましい。
熱分解温度の測定は、上述のフッ素樹脂(A)と同様に行うことができる。
【0039】
本開示の効果を有効に発揮するため、成形温度において、化合物(B)が溶融していないことが望ましい。このため、化合物(B)の融点は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上がより好ましく、更に、350℃以上がより好ましく、400℃以上が最も好ましい。化合物(B)の融点は、TG測定時のTGAピークで確認出来る温度であり、例えば、400℃以下にピークが確認できない場合には400℃以上であると考えられる。
化合物がピークの温度で融解しているかどうかは加熱顕微鏡もしくは電気炉での観察等を併用して確認する。
【0040】
また、上記化合物(B)は、溶解度パラメーター(SP値)が8~15である。SP値が上記範囲内であることで、添加剤粒子を均一に分散でき、均一で微細に発泡させることができる。更に発泡成形時に粒子の再凝集による巨大粒子の発生を抑え、巨大粒子に起因する電線表面の凹凸を低減し、表面をなめらかにすることができる、という効果を得ることができる。
上記SP値は、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、14以下が好ましく、13以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。
上記SP値は、Fedorsの式(Polym.Eng.Sci.,14[2],147(1974))により求めることができる。
【0041】
上記化合物(B)は、芳香環、リン酸エステル基、並びにアミド基からなる群より選択される少なくとも一種の部分構造を含む化合物であることが好ましい。例えば、上記化合物(B)が芳香環を含む場合、C6-14の芳香環を1つ以上含む化合物又はその塩であることが好ましい。
【0042】
上記化合物(B)がアミド基を含む場合、アミド基を2つ以上有する化合物であることが好ましい。このような化合物としては特に限定されず、例えば、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【0044】
(式中、R41、R42は水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、又は、炭素原子数6~12のアリール基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を表し、Ar41はアリール基を表す。)
【0045】
より具体的には、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド(商品名:エヌジェスター NU-100、新日本理化株式会社)等を挙げることができる。
【0046】
上記化合物(B)がリン酸エステル基を含む場合、リン酸エステル及びその塩、並びに、リン酸エステル錯体化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。上記化合物(B)として使用できるリン酸エステル化合物は、代表的には、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、又はそのアンモニア、アミン、メラミン、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等の塩であり、その具体的構造は特に限定されない。
【0047】
その具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート、キシレンジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、イソプロピルジフェニルホスフェート、n-ブチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、イソデシルジフェニルホスフェート、セチルジフェニルホスフェート、ステアリルジフェニルホスフェート、オレイルジフェニルホスフェート、ブチルジクレジルホスフェート、オクチルジクレジルホスフェート、ラウリルジクレジルホスフェート、ジブチルピロホスフェート、モノフェニルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、モノクレジルアシッドホスフェート、ジクレジルアシッドホスフェート、モノキシレニルアシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル(2-アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリノニルフェニルホスフェート、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート、テトラフェニルレゾルシノールジホスフェート、テトラフェニルハイドロキノンジホスフェート、テトラフェニルビスフェノールAジホスフェート、テトラ(2,6-ジメチルフェニル)レゾルシノールジホスフェート、テトラ(2,6-ジメチルフェニル)ビスフェノールAジホスフェート、テトラ(2,6-ジメチルフェニル)ビフェニルジホスフェート、テトラフェニルエチレングリコールジホスフェート、ビス(2,6-ジメチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ジキシレニルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル、または、酸性亜リン酸エステル、ジメチルホスフェート・アンモニウム塩、ジエチルホスフェート・アンモニウム塩、エチルホスフェート・アンモニウム塩、ジn-ブチルホスフェート・アンモニウム塩、ジブトキシエチルホスフェート・トリエタノールアミン塩、ジオクチルホスフェート・モルホリン塩、モノn-ブチルホスフェート・ソーダ塩、ジフェニルホスフェート・アンモニウム塩、ジフェニルホスフェート・メラミン塩、ジフェニルホスフェート・ピペラジン塩、フェニルホスフェート・アンモニウム塩、ジクレジルホスフェート・エチレンジアミン塩、クレジルホスフェート・ソーダ塩、ジキシレニルホスフェート・メラミン塩等の酸性リン酸エステル、または、酸性亜リン酸エステル、のアンモニア、アミン、メラミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
【0048】
より具体的には、例えば、リン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム等のリン酸エステルの塩、(2-ヒドロキシ-2-オキソ-4,6,10,12-テトラ-t-ブチル-1,3,2-ジベンゾ[d,g]ペルヒドロジオキサホスファロシンナトリウム塩、ビスフェノールリン酸ジエステルバリウム塩、ビナフチルリン酸ジエステルナトリウム塩、リン酸ビス(4-ニトロフェニル)ナトリウム等が挙げられる。また、エステルはモノエステルでもジエステルでもトリエステルでもそれ以上のエステルであってもよい。これらは一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
なかでも、芳香族リン酸エステルが好ましく、芳香族リン酸エステルの塩がより好ましく、環状構造を持つ芳香族リン酸エステルの塩が更に好ましい。より好ましくはビフェニル構造又はビナフチル構造又はベンゾヒドリル構造を持つ環状リン酸エステルの塩である、但しこれらのベンゼン環、ナフタレン環には炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、又は、炭素原子数6~12のアリール基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を持っていても良い。
上記環状構造を有する芳香族リン酸エステル塩としては、下記式(1)、(2)及び(3)により表される芳香族環状リン酸エステル塩のうち少なくとも一種であることが好ましい。
【0050】
【0051】
式中、R1、R2、R3、R4、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R34は水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、又は、炭素原子数6~12のアリール基、アルキルアリール基もしくはアリールアルキル基を表し、R5、R6は水素原子またはメチル基を表し、nは1または2の整数を表し、mは0~2の整数を表し、Xはm+n価の金属を表す。
【0052】
R1、R2、R3、R4、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R34で表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、イソアミル、第二アミル、第三アミル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2-エチルヘキシル、第三オクチルが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。なかでも、炭素数が1~4のアルキル基、t-ブチル基が好ましい。
【0053】
R1、R2、R3、R4、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R34で表されるアリール基としては、フェニル、ナフチル、ビフェニルなどが挙げられる。アルキルアリール基としては、4-メチルフェニル、4-第三ブチルフェニル、ノニルフェニルなどが挙げられる。アリールアルキル基としては、ベンジル、フェネチル、クミルなどが挙げられる。
【0054】
Xで表される金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛、チタンなどが挙げられる。なかでも、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、カルシウム及びバリウムのうち少なくとも一種が好ましく、ナトリウム又はバリウムがより好ましい。
【0055】
なかでも、化合物(B)は、上記式(1)で表される芳香族環状リン酸エステル塩であることが好ましく、より具体的には、下記式(5)で表されるリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウムであることがもっとも好ましい。
【0056】
【0057】
上記化合物(B)として使用できるリン酸エステル錯体化合物は、金属とリン酸エステルを有する有機化合物とからなる錯体であり、その具体的構造は特に限定されない。この錯体化合物を構成する有機化合物としては、例えば、ビス(4,4’,6,6’-テトラ-t-ブチル-2,2’-メチレンジフェニルホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)ホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)ホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-エチルフェニル)ホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-エチリデン-ビス(4-i-プロピル-6-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-エチリデン-ビス(4-m-ブチル-6-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)ホスフェート、2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)ホスフェート、2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、ビス[2,2’-チオビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)ホスフェート]、ビス[2,2’-チオビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート]、ビス[2,2’-チオビス-(4-t-オクチルフェニル)ホスフェート]、ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート]、ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート]、ビス[(4,4’-ジメチル-6,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)ホスフェート]、(4,4’-ジメチル-5,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)ホスフェート、トリス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェル)ホスフェート]、トリス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート]、フェニルビスドデシルホスフェート、フェニルエチルヒドロゲンホスフェート、フェニルビス(3,5,5-トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(トリル)ホスフェート、ジフェニルヒドロゲンホスフフェート、メチレンジフェニルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、ジ(ノニル)フェニルホスフェート、フェニルメチルヒドロゲンホスフェート、ジ(ドデシル)p-トリルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5-トリメチルヘキシル)ホスフェート、2-エチオルヘキシルジフェニルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリクレシルホスフェート、クレシルジフェニルホスファト、ジエチルクロロホスフェート、ジフェニルクロロホスフェート、ジエチルブロモホスフェート、ジフェニルブロモホスフェート、ジメチルクロロホスフェート、フェニルクロロホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリノ-マルブチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、イソプロピルトリフェニルホスフェート、イソデシルジフェニルホスフェート、メチレンジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0058】
また、リン酸エステル錯体化合物を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムが挙げられる。これらは一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いてもよい。この中で芳香族リン酸エステルが好ましく、環状芳香族リン酸エステルが更に好ましく、芳香族環状リン酸エステルのナトリウム錯体化合物が最も好ましい。
【0059】
上述した化合物(B)のうち、融点が300℃以上の化合物として具体的には、例えば、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム等を挙げることができる。
【0060】
上記化合物(B)の含有量は、上記フッ素樹脂(A)に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。更に好ましくは、5質量部以下であり、更により好ましくは2質量部以下であり、特に好ましくは1.5質量部以下である。
上記化合物(B)の含有量は、上記フッ素樹脂(A)に対して0.001質量部以上であることが好ましい。より好ましくは、0.01質量部以上である。
化合物(B)の含有量が少なすぎると、得られる被覆材において微細な気泡が得られにくくなり、多すぎるとスパークが多く発生するおそれがある。
【0061】
本開示の発泡成形用組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、更に、窒化ホウ素を含有してもよい。
【0062】
窒化ホウ素は、平均粒子径が8.0μm以上であることが好ましい。従来、窒化ホウ素の平均粒子径は小さくする傾向にあり、平均粒子径が比較的大きい窒化ホウ素を用いることは具体的に検討されていなかった。
本開示の発泡成形用組成物は、上記特定の範囲の平均粒子径を有する窒化ホウ素を含有することにより、より平均泡径が小さく、発泡率が大きい被覆材を備える発泡電線を形成することができる。
【0063】
窒化ホウ素は、平均粒子径が9.0μm以上であることがより好ましく、10.0μm以上であることが更に好ましく、10.5μm以上であることが更により好ましく、11.0μm以上であることが特に好ましく、12.0μm以上であることが特により好ましく、13.0μm以上であることが最も好ましい。
また、窒化ホウ素の平均粒子径が大きすぎると平均泡径が大きくなるおそれや、スパークが多く発生するおそれがある。窒化ホウ素の平均粒子径は、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
窒化ホウ素の平均粒子径が上記範囲であることにより、微細で、均一な気泡を有する被覆材を形成することができる。
窒化ホウ素の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布分析装置を用いて求めた値である。湿式法を用いる場合、媒体としては適宜選択すればよいが、例えば、メタノール等を使用すればよい。
【0064】
窒化ホウ素は、(D84-D16)/D50で表わされる粒度分布が1.2以下であることが好ましい。
D84、D50及びD16は、窒化ホウ素の粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが、84%となる点の粒径(μm)、50%となる点の粒径(μm)、16%となる点の粒径(μm)を表す。なお、粒度分布の累積は小粒径側より行う。上記粉体の集団の全体積は、メタノール等の媒質に窒化ホウ素の粉体を分散させたサンプルを調製し、レーザー回折・散乱式粒度分布分析装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラックMT3300)を用いて得られる。
窒化ホウ素の粒度分布が上記範囲であることにより、微細で、均一な気泡を有する被覆材を形成することができるとともに、スパークの発生をより抑制することができる。
上記粒度分布は、1.1以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましい。粒度分布の下限は特に限定されないが、例えば、0.1であってよい。
上記粒度分布(体積粒度分布)の累積カーブは、レーザー回折・散乱式粒度分布分析装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラックMT3300)を用いて得られるものである。湿式法を用いる場合、媒体としては適宜選択すればよいが、例えば、メタノール等を使用すればよい。
【0065】
窒化ホウ素は、粉砕されたものであることが好ましい。窒化ホウ素が粉砕されたものであると、スパークの発生をより抑制することができる。
上記粉砕は、窒化ホウ素の平均粒子径や粒度分布を上記範囲内にすることができる方法及び条件で行うことができる。例えば、粉砕機の種類、条件を適宜選択して行う。上記粉砕機としては、例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、ピンミル等を用いることができる。
【0066】
窒化ホウ素は、分級することにより、上記範囲の平均粒子径、又は、粒度分布に調整してもよい。
本開示の組成物は、特に制限されるものではないが、例えば、窒化ホウ素の含有量が0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~2.0質量%であり、更に好ましくは0.1~1.5質量%であり、更により好ましくは0.1~1.0質量%である。窒化ホウ素の含有量が少なすぎると、得られる発泡電線の被覆材において微細な気泡が得られにくくなるおそれがあり、多すぎると、製造コストが高くなるおそれがある。
【0067】
本開示の発泡成形用組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、更に、多原子アニオン含有無機塩を含有してもよい。
上記多原子アニオン含有無機塩としては、米国特許第4,764,538号明細書に開示されているものが挙げられる。
【0068】
本開示の発泡成形用組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、更に、スルホン酸、ホスホン酸、又は、それらの塩、ゼオライト等を含有してもよい。また、ADCA(アゾジカーボンアミド)、DPT(N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミン)、OBSH(4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)等の有機系発泡核剤を併用してもよい。
【0069】
本開示の発泡成形用組成物は、フッ素樹脂(A)、及び、化合物(B)以外に、本開示の効果を損なわない範囲で従来公知の充填材を含むものであってもよい。
【0070】
上記充填材としては、例えば、グラファイト、炭素繊維、コークス、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ガラス、タルク、マイカ、雲母、窒化アルミニウム、リン酸カルシウム、セリサイト、珪藻土、窒化珪素、ファインシリカ、フュームドシリカ、アルミナ、ジルコニア、石英粉、カオリン、ベントナイト、酸化チタン等が挙げられる。上記充填材の形状としては特に限定されず、繊維状、針状、柱状、ウイスカ状、平板状、層状、鱗片状、バルーン状、多孔質状、チョップドファイバー状、粉末状、粒状、ビーズ状等が挙げられる。なお、上記充填材は、窒化ホウ素とは異なるものである。
【0071】
本開示の発泡成形用組成物は、更に、上記フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有するものであってもよい。上記フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂等の汎用樹脂;ナイロン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等)、ポリエーテルサルフォン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリサルフォン(PSF)、非晶性ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑ポリイミド(TPI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0072】
本開示の発泡成形用組成物は、更に、添加剤等のその他の成分を含有するものであってもよい。その他の成分としては、例えば、ガラス繊維、ガラス粉末、アスベスト繊維、セルロースファイバー、カーボンファイバー等の充填材や、補強剤、安定剤、潤滑剤、顔料、難燃剤、その他の添加剤等が挙げられる。
本開示の発泡成形用組成物は、例えば、フッ素樹脂(A)と化合物(B)と、必要に応じて添加される窒化ホウ素、充填剤、添加剤等を混合して混合物を得る混合工程を含む製造方法(以下「組成物の製造方法」という。)により得ることもできる。
【0073】
上記混合の方法としては、例えば、従来公知の方法等を用いることができるが、上記化合物(B)が凝集しにくい混合方法が好ましい。
上記混合の方法としては、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、Vブレンダー、ボールミル等を用いる方法なども挙げられる。また、例えば、溶融混錬により混合する方法もあげられる。
【0074】
本開示の発泡成形用組成物の製造方法は、上記混合工程により得られた混合物を混練する混練工程を含むものであってもよい。上記混練により、ペレットを得ることができる。上記混練は、例えば、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機等の従来公知の溶融混練機を用いる方法により行うことができる。
【0075】
上記発泡成形用組成物の製造方法は、フッ素樹脂をフッ素化処理する工程を含むものであってもよい。フッ素化処理としては、上述した方法を用いることができる。フッ素化処理は、例えば、上記混練により得られたペレットと、上述したフッ素含有化合物とを接触させることにより行ってよい。
【0076】
本開示の発泡成形用組成物に含有し得るとして既に説明した、フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂;窒化ホウ素;多原子アニオン含有無機塩;充填材;その他の添加剤等の各成分は、その性質等に応じ、上記発泡成形用組成物の製造方法の各工程において適宜添加することができる。また、フッ素樹脂、窒化ホウ素を更に添加してもよい。
【0077】
本開示の発泡成形用組成物は、発泡性組成物として好適に使用することができる。更に、上記発泡成形用組成物は、電線の被覆材を形成するための電線被覆用組成物として好適に使用することができる。
【0078】
本開示の発泡成形用組成物は、フッ素系界面活性剤を用いることなく、良好な発泡性を示すものである。従来のフッ素系界面活性剤としては、フッ素系低分子化合物が汎用されてきた。このようなフッ素系低分子化合物を多く含んでいると、成形時の溶融状態の樹脂が可塑化され、スパークが多くなってしまうという問題があった。本開示の発泡成形用組成物は、このようなフッ素系低分子化合物を実質的に含まないため、上述の問題を生じることなく、表面状態に優れた発泡成形体を得ることができるものである。
【0079】
上記フッ素系低分子化合物としては特に限定されず、例えば、ペルフルオロアルキル酸、ペルフルオロスルホン酸等が挙げられ、具体的には、C8F17COOH及びその塩 、C7F15COOH及びその塩、C6F13COOH及びその塩、C8F17SO3H及びその塩、C6F13SO3H及びその塩、C4F9SO3H及びその塩、C8F17CH2CH2-SO3H及びその塩、C6F13CH2CH2-SO3H及びその塩、C8F17CH2CH2OH、C6F13CH2CH2OH、等が挙げられ、より具体的には{F(CF2)6CH2CH2SO3}2Baが挙げられる。
【0080】
上記フッ素系低分子化合物の含有量は、以下の方法により分析することができる:
該発泡成形用組成物のペレットを凍結粉砕により粉砕し、作製した粉体をメタノール中に分散し、60℃×2時間 超音波をかけて抽出した。抽出物を液体クロマトグラフー質量分析計(LC-MS/MS)にて定量した値を含有量とした。
【0081】
本開示の発泡成形体の製造方法は、上記発泡成形用組成物を発泡成形する工程を含むものである。
【0082】
上記発泡成形用組成物を発泡成形する方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いることができ、例えば、溶融した上記フッ素樹脂(溶融樹脂)にガスを使用し、発泡操作用に設計されたスクリュー押出機に本開示の発泡成形用組成物を投入し、連続的なガス射出法を用いる方法等が挙げられる。
【0083】
上記ガスとしては、例えば、クロロジフルオロメタン、窒素、二酸化炭素等のガス又は上記ガスの混合物を用いることができ、加圧気体として押出機内の溶融樹脂中に導入してもよいし、化学的発泡剤を溶融樹脂中に混和させることにより発生させてもよい。上記ガスは、上記押出機内の溶融樹脂中に溶解する。
【0084】
上記溶融樹脂中に溶解したガスは、溶融物の圧力が押出ダイを出る時に突如低下することにより、溶融物から出て来る。押出機から押し出された押出物は、次いで、例えば、水中に導入される等の方法により冷却されて固化する。
【0085】
上記発泡成形体は、上記発泡成形用組成物を発泡成形して得られたものであるので、誘電率が低く、安定したキャパシタンスを呈し、軽量であり、後述の被覆材として線径、厚さ等の大きさが安定した形状を得ることができる。
発泡成形体中の気泡の総容積は、例えば上記押出機中のガスの挿入量の調節等により、あるいは、溶解するガスの種類を選択することにより、用途に応じて適宜調整することができる。
【0086】
上記発泡成形体は、上記押出機からの押出時に用途に応じて成形された成形体として得られる。上記成形の方法としては加熱溶融成形であれば特に限定されず、例えば、押出発泡成形、射出発泡成形、金型発泡成形等が挙げられる。
【0087】
上記発泡成形体の形状としては特に限定されず、例えば、発泡電線等の被覆材;線材等のフィラメント状;シート状;フィルム状;ロッド状;パイプ状等の種々の形状にすることができる。上記発泡成形体は、例えば、電気的絶縁材;断熱材;遮音材;浮遊材等の軽量構造材;クッション等の緩衝材等として用いることができる。また、上記発泡成形体は、発泡電線の被覆材として特に好適に用いることができる。
得られる発泡成形体は、本開示の発泡成形用組成物の溶融固化体及び気泡を含有するものであって、上記気泡が溶融固化体中に均一に分布しているものであることが好ましい。上記気泡の平均泡径は限定されるものではないが、例えば、60μm以下であることが好ましい。また、平均泡径は、0.1μm以上であることが好ましい。
上記発泡成形体の発泡率は特に限定されないが20%以上であることが好ましい。発泡率の上限は特に限定されないが、例えば、80%である。
【0088】
本開示の発泡成形体は、表面が従来のフッ素樹脂を含む発泡成形体よりなめらかである点も特徴の一つである。表面がなめらかであることから、ツイナックスケーブル等に好適に利用することができる。
本開示において、発泡成形体の表面は、素手で走査し、その時手に伝わるひっかかり(突起)の程度を観察することで評価することができる。また、後述のように、レーザー顕微鏡にて電線表面を測定し、得られた画像データを面形状補正の2次曲面補正で電線の範囲を指定して補正を実施後、500×2000μmの表面粗さを算出することにより、数値的に評価することもできる。上記表面粗さは、10.0μm未満が好ましく、7.0μm未満がより好ましい。5.0μm未満が更に好ましい。表面粗さの下限は0.001μm以上であってよい。ツイナックスケーブル等においてはフォーム(内側)/スキン(外側)の2層構造にすることで、表面粗度はより好ましい値にコントロールできる点で好ましい構造である。
【0089】
本開示の電線の製造方法は、上記発泡成形用組成物を芯線に被覆して電線を得る工程を含むものである。上記発泡成形用組成物を用いることで、微細で、均一な気泡を有する被覆材を備える発泡電線を形成することができる。上記電線を得る工程は、上記発泡成形用組成物を発泡成形するものであることが好ましい。
上記電線の製造方法により得られる電線は、上記発泡成形用組成物から形成された被覆材と芯線とからなるものである。上記発泡成形用組成物を芯線に被覆して得られる電線も本開示の一つである。
【0090】
上記被覆材は、上記発泡成形用組成物を芯線に被覆して得られたものであるので、微細で、均一な気泡を有する。また、誘電率が低く、安定したキャパシタンスを呈し、軽量であり、線径、厚さ等の大きさが安定した形状を得ることができる。
また、上記被覆材は、上記発泡成形体と同様になめらかな表面を有するものであり、同様の物性を示すものである。
【0091】
上記電線は、上述の発泡成形用組成物を芯線上に被覆すること以外は、従来と同様の方法で作成することができ、例えば、押出発泡成形を用いて製造することができる。好ましい押出成形条件は、使用する組成物の組成や芯線のサイズに応じて適宜選択することができる。
【0092】
上記発泡成形用組成物を芯線に被覆する方法としては、例えば、溶融したフッ素樹脂(溶融樹脂)に可溶性であるガスを使用し、発泡操作用に設計されたスクリュー押出機に本開示の発泡成形用組成物を投入し、連続的なガス射出法を用いる方法等が挙げられる。上記ガスとしては、発泡成形体の製造方法に用いられるガスと同じものを使用できる。
【0093】
得られる被覆材は、本開示の発泡成形用組成物の溶融固化体及び気泡を含有するものであって、上記気泡が溶融固化体中に均一に分布しているものであることが好ましい。
上記気泡の平均泡径は限定されるものではないが、長さ方向に垂直方向な断面観察において、例えば、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、40μm以下であることが更により好ましく、30μm以下であることが特に好ましく、20μm以下であることが殊更に好ましい。また、平均泡径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがより好ましい。しかしながら、発泡径を小さくするには添加剤を多く入れる必要があり、多すぎるとスパークが発生しやすくなるため、車載ネットワーク用電線の平均泡径は20~40μmが好ましく、特に25~35μmが好ましい。
このような被覆材の構造は、本開示の発泡成形用組成中におけるフッ素樹脂(A)と特定の化合物(B)との組み合わせに起因して得られるものである。
上記平均泡径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材断面の画像を取り、画像処理により各泡の直径を算出し、平均することにより求めた値である。
【0094】
上記被覆材は、発泡率が20%以上であることが好ましい。より好ましくは25%以上であり、更に好ましくは30%以上である。特に好ましいのは40%以上である。上限は特に限定されないが、例えば、90%である。発泡率の上限は80%であってもよく、60%であっても良い。車載ネットワーク用電線においては撚り時のツブレを考慮して40%以上60%以下が好ましい。
上記発泡率は、((フッ素樹脂の比重-発泡体の比重)/フッ素樹脂の比重)× 100として求めた値である。上記発泡率は、例えば上記押出機中のガスの挿入量の調節等により、あるいは、溶解するガスの種類を選択することにより、用途に応じて適宜調整することができる。
【0095】
上記被覆材は、3500mあたりのスパーク数が5個未満であることが好ましい。より好ましくは、3個未満であり、更に好ましくは1個以下である。
上記スパーク数は、Beta LaserMike Sparktester HFS1220にて1500Vの電圧で測定して得られた値である。
【0096】
芯線の材料としては、例えば、銅、アルミ等の金属導体材料、カーボン等を用いることができる。また、単一の材質であっても、銀や錫などで表面をメッキしていてもよい。
芯線は、直径0.02~3mmであるものが好ましい。芯線の直径は、0.04mm以上であることがより好ましく、0.05mm以上が更に好ましく、0.1mm以上が特に好ましい。芯線の直径は、2mm以下がより好ましい。また、上記芯線は、単線であっても、複数の芯線をより合わせたより線であってもよい。
芯線の形状としては特に限定されず、フラット形状や平角線等を挙げることができる。
上記電線は、上記被覆材の厚みが0.01~3.0mmであるものが好ましい。被覆材の厚みは、2.0mm以下であることも好ましい。
芯線の具体例としては、例えば、AWG(アメリカンワイヤゲージ)-46(直径40マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-42(直径64マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-36(直径127マイクロメートルの中実銅製ワイヤー、直径51マイクロメートルの銅線を7本よったものでトータルサイズは直径153マイクロメートルのワイヤー)、AWG-30(直径254マイクロメートルの中実銅製ワイヤー、直径102マイクロメートルの銅線を7本よったものでトータルサイズは直径306マイクロメートルのワイヤー)、AWG-27(直径361マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-26(直径404マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-24(直径510マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG-22(直径635マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)等を用いてもよい。
【0097】
上記発泡電線は、芯線、及び、芯線を被覆する被覆材とからなるものである。上記発泡電線は、コンピューター及びその周辺機器を接続するケーブル類、高容量の映像や音声を高速で通信するケーブル類、データセンターのサーバー間を接続するケーブル類、例えば、LAN用ケーブル、USBケーブル、Lightningケーブル、Thunderboltケーブル、CATV用ケーブル、HDMI(登録商標)ケーブル、QSFPケーブル、航空宇宙用電線、地中送電ケーブル、海底電力ケーブル、高圧ケーブル、超電導ケーブル、ラッピング電線、自動車用電線、ワイヤーハーネス・電装品、ロボット・FA用電線、OA機器用電線、情報機器用電線(光ファイバケーブル、オーディオケーブル等)、通信基地局用内部配線、大電流内部配線(インバーター、パワーコンディショナー、蓄電池システム等)、電子機器内部配線、小型電子機器・モバイル配線、可動部配線、電気機器内部配線、測定機器類内部配線、電力ケーブル(建設用、風力/太陽光発電用等)、制御・計装配線用ケーブル、モーター用ケーブル等として用いることができる。
【0098】
上記電線は、芯線と被覆材の間に非発泡層を挿入した2層構造(スキン-フォーム)や、外層に非発泡層を被覆した2層構造(フォーム-スキン)、更にはスキン-フォームの外層に非発泡層を被覆した3層構造(スキン-フォーム-スキン)であっても良い。表面粗度を低減するためにはフォームースキン、やスキンフォームスキンの構造が好ましく。設備を簡略化できることからフォームスキンが好ましい。スキンの層のトータル厚みは200μm以下であることが好ましく、100μm以下が更に好ましく、70μm以下とすることが特に好ましく、40μm以下とすることが最も好ましい。また、1μm以上であることが好ましい。
上記電線の非発泡層は特に限定されず、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE共重合体、TFE/エチレン系共重合体、フッ化ビニリデン系重合体、ポリエチレン〔PE〕等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル〔PVC〕等の樹脂からなる樹脂層であってよい。
【0099】
本開示の発泡成形用組成物は実質的にフッ素系低分子化合物を含まないものであるため、上述の発泡成形体及び電線も実質的にフッ素系低分子化合物を含まないものである。
上記発泡成形体及び電線におけるフッ素系低分子化合物の含有量も、上述の発泡成形用組成物の場合と同様に分析することができる。
【0100】
本開示は、以下に挙げた発泡電線でもある。
(1)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、気泡の平均アスペクト比は、1.9以下であることを特徴とする発泡電線。
(2)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、アスペクト比3以上の気泡の存在割合は、長さ方向に平行な切断面観察において計測した気泡全量に対して13%以下であることを特徴とする発泡電線。
(3)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に平行な切断面観察において、気泡のアスペクト比の標準偏差は、1.3以下であることを特徴とする発泡電線。
(4)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、発泡率が20%以上であり、表面粗度が5.0μm未満であることを特徴とする発泡電線。
(5)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、長さ方向に垂直な切断面観察において、気泡の平均泡径は、20~40μmであることを特徴とする発泡電線。
(6)芯線と、上記芯線に被覆されたフッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層とを有し、
上記フッ素樹脂層又は上記フッ素樹脂組成物層が気泡を有する発泡電線であって、
電線の構造がフォーム(内側)/スキン(外側)構造であることを特徴とする車載ネットワークケーブル用の発泡電線。
【0101】
フッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層に含まれる気泡がこれらの物性を満たすことは、微細で均一な気泡を有することを示し、誘電率が低く、安定したキャパシタンスを呈するものであるといえる。
これらのフッ素樹脂層及びフッ素樹脂組成物層は、例えば、本開示の発泡成形用組成物により形成することができる。
【0102】
上記気泡の平均アスペクト比は、1.9以下である。上記平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材の長さ方向に平行な切断面の画像を取り、画像処理により得られた各泡の長径、短径から、長径と短径の比(長径/短径)を計算することにより求めたアスペクト比を平均することにより測定することができる。平均アスペクト比は、1.8以下であることが好ましく、1.6以下がより好ましい。また、1.0以上であることが好ましい。
【0103】
上記アスペクト比3以上の気泡の存在割合は、長さ方向に平行な切断面観察において計測した気泡全量に対して13%以下である。上記存在割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材の長さ方向に平行な切断面の画像を取り、画像処理により得られた各泡の長径、短径から、長径と短径の比(長径/短径)を計算することにより求めたアスペクト比が3以上である泡の割合を計算したものである。
上記アスペクト比3以上の気泡の存在割合は、6%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、0.01%以上であることが好ましい。
【0104】
上記気泡のアスペクト比の標準偏差は、1.3以下である。上記標準偏差は、走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材の長さ方向に平行な切断面の画像を取り、画像処理により得られた各泡の長径、短径から、長径と短径の比(長径/短径)を計算することにより求めたアスペクト比の標準偏差を計算したものである。上記アスペクト比の標準偏差は、1.1以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がより好ましい。また、0.01以上であることが好ましい。
【0105】
上記発泡率は、20%以上であることが好ましい。上記発泡率は、((フッ素樹脂の比重-フッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層の比重)/フッ素樹脂の比重)× 100として求めた値である。
上記発泡率は、25%以上がより好ましく、30%以上がより好ましい。40%以上がさらに好ましい。
【0106】
上記表面粗度は、5.0μm未満である。上記表面粗度は、キーエンス社レーザー顕微鏡にて電線表面を測定し、得られた画像データを面形状補正の2次曲面補正で電線の範囲を指定して補正を実施後、500×200μmの表面粗さを算出した値である。
上記表面粗度は、3.0μm以下が最も好ましい。
【0107】
長さ方向に垂直な切断面観察において、上記気泡の平均泡径は、20~40μm、好ましくは25~35μmである。上記平均泡径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材断面の画像を取り、画像処理により各泡の直径を算出し、平均することにより求めた値である。
【0108】
上述の発泡電線は、長さ方向に垂直な切断面観察において、気泡の平均泡径が50μm以下であることが好ましい。上記平均泡径は、40μm以下がより好ましく、35μm以下がさらに好ましい。また0.1μm以上であることが好ましく、20μm以上がより好ましく25μm以上がさらに好ましい。
【0109】
さらに平均泡径が50μm以下の泡が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
最大泡径は、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
また、断面中に存在する泡の個数は、単位面積当たり1500個/mm2以下が好ましく、1000個/mm2以下がより好ましく、800個/mm2以下がさらに好ましい。
【0110】
上述の発泡電線において、フッ素樹脂層又はフッ素樹脂組成物層の被覆厚みは、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.25mm以下がさらに好ましい。上記被覆厚みは、電線被覆外径-芯線径)/2として求めた値である。
【0111】
上述の発泡電線において、芯線径は、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
【0112】
上述した発泡電線は、その製造方法を特に限定されるものではないが、上述した本開示の発泡成形用組成物を使用した発泡電線の製造方法によって製造したものであることが好ましい。すなわち、本開示の発泡成形用組成物を使用すると、上述したような性能を有する発泡電線を得ることができ、これによって種々の優れた性能を得ることができるものである。
上述した本開示の発泡電線の製造方法は、上述したような工程によって行うことができる。
【0113】
本開示の発泡成形用組成物は、車載ネットワークケーブル用電線の被覆に使用されるものである。
車載ネットワークケーブル用電線は、大型商用車向けから自家用車向けまで好適に用いることができる。
【0114】
本開示の車載ネットワークケーブルは、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が本開示の車載ネットワークケーブル用の発泡電線であることが好ましい。また、ツイストされた電線の撚り後のツブレは電気物性の維持の観点から小さい方が好ましく、変形率は20%以下であることが好ましい。
【0115】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上述した本開示の車載ネットワークケーブル用の発泡電線を含む。本開示はまた、車載ネットワークケーブルの車載ネットワークへの使用を提供する。
【0116】
本開示の車載ネットワークケーブルの形態としては、同軸ケーブル、ツイストペアケーブル、2本平行線、4本平行線、8本平行線等が挙げられる。
【0117】
上記同軸ケーブルとしては、例えば、上述した本開示の車載ネットワークケーブル用の発泡電線周りに金属からなる外部導体層(例えば、金属メッシュ等)が形成され、その外部導体層の周りに樹脂層(シース層)を形成してなるケーブルが挙げられる。上記樹脂層(シース層)は特に限定されないが、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体等のTFE単位を有する含フッ素共重合体、ポリ塩化ビニル〔PVC〕、ポリエチレン等の樹脂からなる層であってもよい。上記外部導体層、樹脂層(シース層)は、従来公知の方法で被覆させることができる。
【0118】
本開示の車載ネットワークケーブルは、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が上述した本開示の車載ネットワークケーブル用の発泡電線であることが好ましい。ツイストペアケーブルを用いることでノイズの影響を受けにくくなり、大きなノイズが発生しやすい車載ネットワークケーブルとして特に好適である
【0119】
本開示の車載ネットワークケーブルは、1対のツイストペアケーブルを備えるものであってもよいし、2対以上のツイストペアケーブルを備えるものであってもよい。ツイストペアケーブルの数は、1~4が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。
【0120】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上記ツイストペアケーブルの周囲を囲むジャケットを備えることが好ましい。上記ジャケットの材料としては、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体等のTFE単位を有する含フッ素共重合体、ポリ塩化ビニル〔PVC〕、ポリエチレン等の樹脂が挙げられるが、限定されるものではない。上記ジャケットの厚みは特に限定されず、目的にあわせて適宜設定すればよい。
【0121】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上記ツイストペアケーブルの周囲に金属からなる外部導体層(例えば、金属メッシュ、アルミ箔等)を備えていてもよい。上記外部導体層がシールドとして機能し、より安定性が向上する。ただし、軽量性と折り曲げ性の観点からはシールドはないほうが好ましい。
【0122】
本開示の車載ネットワークケーブルは、車載イーサネットケーブルであることが好ましく、具体的には、100BASE-T1、又は1000BASE-T1のネットワークケーブルであることがより好ましい。
【0123】
本開示はまた、車載コンピュータと、該車載コンピュータに接続された本開示の車載ネットワークケーブルと、を備える車載ネットワークシステムを提供する。
本開示の車載ネットワークシステムは、少なくとも1つの車載コンピュータを備えればよく、2以上の車載コンピュータを備えていてもよい。上記車載コンピュータと本開示の車載ネットワークケーブルとは直接接続されていてもよいし、間接的に接続されていてもよい。例えば、本開示の車載ネットワークケーブルと上記車載コンピュータとが、ハブ、ルーター等を介して接続されていてもよい。
上記車載コンピュータは、車両に搭載されるコンピュータであれば限定されず、例えば、車載電子制御ユニット(車載用ECU)、車載テレマティックコントロールユニット(車載TCU)等が挙げられる。
本開示の車載ネットワークシステムは、第1車載コンピュータと、第2車載コンピュータと、第1車載コンピュータと第2車載コンピュータとを接続する本開示の車載ネットワークケーブルと、を備えるものであってもよい。
【実施例0124】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0125】
製造例1 ペレットAの調製
特開2017-128119号公報の実施例1に記載の方法と同様の方法でペレットAを得た。得られたペレットの組成は、TFE/HFP/PPVE共重合体、TFE/HFP/PPVE=87.8/11.2/1.0(質量比)、融点:255℃、メルトフローレート(MFR):37g/10分、不安定末端基と-CF2H末端基とを合計した数は炭素数1×106個あたり0個であった。
【0126】
製造例3 ペレットBの調製
WO2005-052015号公報の合成例1に記載の方法と同様の方法で得たペレットをフッ素化処理することによりペレットBを得た。得られたペレットの組成は、TFE/PPVE共重合体、TFE/PPVE=94.9/5.1(質量比)、融点:255℃、メルトフローレート(MFR):63g/10分、不安定末端基と-CF2H末端基とを合計した数は炭素数1×106個あたり0個であった。
【0127】
実施例1~5及び比較例1~3
発泡電線成形は、上述の得られたペレットに添加剤を加え、所定の添加量になるよう溶融混錬にて調整した発泡成形用組成物を、表1に示す押出機温度に設定した押出機により行った。芯線に22AWGの銅線(OD:0.64mm)を用い、被覆後外径が1.4mm、肉厚0.38mm、スキン25μm、静電容量が40pF/ft(発泡率48%相当)となるように押出温度、窒素ガス導入流量(圧力)、押出速度、引取速度を調整して行った。電線押出条件を表2に示す。
連続で1時間行い、成形が安定した3500m分について、スパークアウトを観測した。更に、得られた発泡電線について下記の方法で発泡率、平均アスペクト比、平均泡径、表面粗度を測定した。また、ツイン化時の電線のツブレを評価した。
得られた電線について各特性を評価した結果を表3及び4に示す。
【0128】
【0129】
【0130】
なお、表3,4中の添加剤は下記の通りである。
NA11(株式会社ADEKA社製結晶核剤 アデカスタブ NA-11):リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム
C4SBa塩:(C4F9SO3)2Ba
ゲルオールMD(新日本理化株式会社製):ビス (4-メチルベンジリデン)ソルビトール
【0131】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
(不安定末端基数の測定)
ペレットを油圧プレスにて圧延して厚さ0.3mm程度のフィルムを作製し、そのフィルムをFT-IR Spectrometer 1760X(Perkin-Elmer社製)により分析した。
標準サンプル(もはやスペクトルに実質的差異がみられなくなるまで充分にフッ素化したサンプル)との差スペクトルを取得し、各ピークの吸光度を読み取り、次式に従って炭素数1×106個あたりの不安定末端基の個数を算出した。
炭素数1×106個あたりの不安定末端基の個数 =(I×K)/t
(I;吸光度、K;補正係数、t;フィルム厚さ(単位:mm))
各不安定末端基の補正係数(K)は、以下の通りである。
-COF(1884cm-1)・・・405
-COOH(1813cm-1、1775cm-1)・・・455
-COOCH3(1795cm-1)・・・355
-CONH2(3438cm-1)・・・480
-CH2OH(3648cm-1)・・・2325
【0132】
(-CF2H末端基数の測定)
核磁気共鳴装置AC300(Bruker-Biospin社製)を用い、測定温度を(フッ素樹脂の融点+20)℃として19F-NMR測定を行い、-CF2H基が存在することに由来するピークの積分値と他のピークの積分値から求めた。
【0133】
(融点)
フッ素樹脂の融点は、RDC220(セイコー電子社製)を使用して、昇温速度10℃/分で測定したときのピークに対応する温度を融点とした。
【0134】
(MFR)
フッ素樹脂のMFRは、ASTM D-1238に準拠して、KAYENESS メルトインデクサー Series4000(安田精機社製)を用い、直径2.1mmで長さが8mmのダイで、372℃、5kg荷重にて測定した時の値とした。
【0135】
(外径)
LASER MICRO DIAMETER LDM-303H-XY(タキカワエンジニアリング社製)を用いて電線外径を測定した。
【0136】
(静電容量)
CAPAC300 19C(Zumbach社製)を用いてキャパシタンスを測定した。
【0137】
(スパーク数)
3500mあたりのスパーク数を、Beta LaserMike Sparktester HFS1220を用いて1500Vの電圧で測定した。
【0138】
(発泡率)
((フッ素樹脂の比重-発泡体の比重)/フッ素樹脂の比重)×100として求めた。
【0139】
(平均泡径)
長さ方向に垂直な電線断面のSEM画像を取り、画像処理により各泡の直径を算出し、平均することにより平均泡径を求めた。
【0140】
(表面粗度)
キーエンス社レーザー顕微鏡にて電線表面を測定し、得られた画像データを面形状補正の2次曲面補正で電線の範囲を指定して補正を実施後、500×2000μmの表面粗さを算出した。
【0141】
(気泡の平均アスペクト比)
走査型電子顕微鏡(SEM)により被覆材の長さ方向に平行な切断面の画像を取り、画像処理により得られた各泡の長径、短径から、長径と短径の比(長径/短径)を計算することにより求めたアスペクト比を平均することにより測定した。
【0142】
(ツイン化時の電線のツブレ)
二本の電線を、電線撚り機で以下の撚り合わせ条件で撚り線化を行った。初期電線直径に対する変形の割合を変形率とし、変形率が20%以下の場合をツブレ無しとした。
線速度:19m/分
撚り合わせ:3,000撚り合わせ/分
撚り 長さ:8.5mm
変形率:(電線直径からの変形/初期電線直径)×100(%)
【0143】
【0144】
【0145】
実施例で得られた発泡電線は、ツイン化時のツブレが生じておらず、特に車載ネットワークケーブル用電線として好適に使用することができるものである。