(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088689
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】抗PHF-タウ抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240625BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240625BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240625BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240625BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240625BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240625BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240625BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240625BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240625BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240625BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240625BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240625BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240625BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240625BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240625BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/00
A61P21/00
A61P21/04
G01N33/53 D
G01N33/531 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055230
(22)【出願日】2024-03-29
(62)【分割の表示】P 2022164041の分割
【原出願日】2018-03-16
(31)【優先権主張番号】62/472,214
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】マーケン,マーク
(72)【発明者】
【氏名】マリア,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ボージャーズ,マリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン コレン,クリストフ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タウ凝集及びタウ異常症の進行を予防して、AD及び他の神経変性病などのタウ異常症を治療するのに効果的な治療薬を提供する。
【解決手段】リン酸化エピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する、特定の配列を有する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が提供される。前記抗体をコードする核酸、抗体を含む組成物、並びに抗体の製造方法、及びタウ異常症などの状態を治療又は予防するための、抗体の使用方法についてもまた、提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化エピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する、単離モノクローナル
抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)前記タウタンパク質のリン酸化T212及びリン酸化T217、並びに配列番号
:48のアミノ酸配列を有する、又はその中にある前記リン酸化エピトープ;
(b)前記タウタンパク質のリン酸化T217、及び配列番号:52のアミノ酸配列を
有する、又はその中にある前記リン酸化エピトープ;又は
(c)前記タウタンパク質のリン酸化T212、及び配列番号:54のアミノ酸配列を
有する、又はその中にある前記リン酸化エピトープ;
を含む、前記単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、配列番号:1、4、7、10、71、80のいずれかのH
CDR1;配列番号:2、5、8、11、72、81のいずれかのHCDR2;配列番号
:3、6、9、12、73のいずれかのHCDR3;配列番号:13、16、19、22
、70のいずれかのLCDR1;配列番号:14、17、20、23のいずれかのLCD
R2;配列番号:15、18、21、24のいずれかのLCDR3を含む、請求項1に記
載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
(a)それぞれ配列番号:7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン
重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、そ
れぞれ配列番号:19、20、及び21のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖
相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(b)それぞれ配列番号:1、2、及び3のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:13、14、及び15のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(c)それぞれ配列番号:4、5、及び6のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:16、17、及び18のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(d)それぞれ配列番号:10、11、及び12のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:22、23、及び24の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(e)それぞれ配列番号:80、81、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1
、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポ
リペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(f)それぞれ配列番号:71、72、73のポリペプチド配列を有するHCDR1、
HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポリ
ペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(g)それぞれ配列番号:71、72、及び73のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(h)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(i)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(j)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のLCD
R1、LCDR2、及びLCDR3;又は
(k)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
を含み、前記抗体又が、その抗原結合断片はPHF-タウに結合している、請求項2に記
載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号:26、27、28、及び29のいずれか1つと少なくとも95%の同一性を
有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、並びに、配列番号:31、32、33、
及び34のいずれか1つと少なくとも95%の同一性を有するポリペプチド配列を有する
軽鎖可変領域を含む、請求項3に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号:26、27、28、及び29のいずれかのポリペプチド配列を有する重鎖可
変領域、並びに、配列番号:31、32、33、及び34のいずれかのポリペプチド配列
を有する軽鎖可変領域を含む、請求項4に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断
片。
【請求項6】
配列番号:45、74、76、及び78のいずれかのポリペプチド配列を有する重鎖に
由来するVHと少なくとも95%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領
域、並びに、配列番号:31、75、77、79のいずれかの軽鎖に由来するVLと少な
くとも95%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項3
に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項7】
配列番号:45、74、76、及び78のいずれかのポリペプチド配列を有する重鎖に
由来するVHのポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、並びに、配列番号:31、75
、77、79のいずれかの軽鎖に由来するVLのポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域
を含む、請求項6に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項8】
(a)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(b)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:34のポリペ
プチド配列を有するVL;
(c)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:34のポリペ
プチド配列を有するVL;
(d)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(e)配列番号:27のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(f)配列番号:74の重鎖に由来するVH、及び配列番号:75の軽鎖に由来するV
L;
(g)配列番号:76の重鎖に由来するVH、及び配列番号:77の軽鎖に由来するV
L;又は
(h)配列番号:78の重鎖に由来するVH、及び配列番号:79の軽鎖に由来するV
L;
を含む、請求項3に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項9】
配列番号:45、74、76、及び78のいずれかと少なくとも95%の同一性を有す
るポリペプチド配列を有する重鎖、並びに、配列番号:46、75、77、及び79のい
ずれかと少なくとも95%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、請求
項8に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項10】
配列番号:45、74、76、及び78のいずれかのポリペプチド配列を有する重鎖、
並びに、配列番号:46、75、77、及び79のいずれかのポリペプチド配列を有する
軽鎖を含む、請求項9に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項11】
(a)配列番号:45の重鎖、及び配列番号:46の軽鎖;
(b)配列番号:74の重鎖、及び配列番号:75の軽鎖;
(c)配列番号:76の重鎖、及び配列番号:77の軽鎖;又は
(d)配列番号:78の重鎖、及び配列番号:79の軽鎖;
を含む、請求項10に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項12】
ヒト重鎖IgG1定常領域及びヒト軽鎖κ定常領域を含む、請求項1~11のいずれか
一項に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は抗原結合断片をコード
する、単離核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の単離核酸を含む、ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片、及
び医薬上許容できる担体を含む、医薬組成物。
【請求項17】
病理学的タウ凝集の低減、又はタウ異常症の拡大の低減を必要とする対象における、病
理学的タウ凝集の低減、又はタウ異常症の拡大の低減方法であって、前記対象に、請求項
16に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項18】
タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症の治療方法であって、前記対
象に、請求項16に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
前記タウ異常症は、家族性アルツハイマー病、散発的アルツハイマー病、染色体17(
FTDP-17)に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症、進行性核上性
麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症
、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキ
ンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病
、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統
萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性
硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維濃縮による非ガマニアン(Guamania
n)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知
症(ボクサー病)からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体又は抗原結合断片を製造する条件下において、前記抗体又は抗原結合断片をコ
ードする核酸を含む細胞を培養することと、前記細胞又は細胞培養液から前記抗体又は抗
原結合断片を回収することとを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のモノクロー
ナル抗体又は抗原結合断片の製造方法。
【請求項21】
対象の生体サンプルにおけるPHF-タウの存在の検出方法であって、前記生体サンプ
ルを、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片と接触させることと
、前記対象の前記サンプルにおいて、前記抗体又は抗原結合断片のPHF-タウへの結合
を検出することとを含む、前記方法。
【請求項22】
前記生体サンプルが、血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液サンプルである、請
求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗PHF-タウ抗体、抗体をコードする核酸及び発現ベクター、ベクターを
含有する組み換え細胞、並びに抗体を含む組成物に関する。抗体の作製方法、タウ異常症
を含む状態を治療するための抗体の使用方法、及び、タウ異常症などの疾病を診断するた
めの、抗体の使用方法もまた提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、徐々に激しい精神機能低下を導き、最終的には死に至ら
しめる、記憶、認知、論理的思考、判断力、及び情動安定性の進行性喪失を臨床的特徴と
する、退行性脳障害である。ADは、高齢者の進行性精神機能不全(認知症)の非常に一
般的な原因であり、米国では4番目に多い医学的死亡原因を表すと考えられている。AD
は、世界中の民族で観察され、現在及び未来の、主たる公衆の健康上の問題を提示する。
【0003】
AD個体の脳は、老人性(又はアミロイド)斑、アミロイド血管症(血管におけるアミ
ロイド沈着)及び神経原線維変化と呼ばれる特徴的な病変を呈する。これら病変の大多数
、特にアミロイド斑及び対らせん状細線維の神経原線維変化は、一般にAD患者の記憶及
び認知機能に重要なヒトの脳のいくつかの領域で見られる。
【0004】
現在のAD治療の状況には、認知症を患う患者における認知症状を治療するために認可
された治療法のみが含まれる。ADの進行を改変又は遅延させる、認可済みの治療法は存
在しない。潜在的な疾病改変剤としては、軽度のADを患う患者用の、Eli Lill
yヒト化抗-Aβモノクローナルソラネズマブ、及び、軽度~中度のADを患う患者用の
、Merck小分子BACE阻害剤であるベルべセスタットが挙げられる。これらの治療
法、及び次の十年で発売され得る、大部分の他の潜在的な疾患改変剤は、Aβ(ADの「
特徴」的な2つの病理学的兆候のうちの1つである、アミロイドプラークの本質的構成成
分)を標的にする。
【0005】
ADの第2の特徴的な病理学的兆候である神経原線維濃縮体は主に、過剰リン酸化タウ
タンパク質のアグリゲートで構成される。タウの主な生理学的機能は、微小管の重合及び
安定化である。タウの微小管への結合は、タウの微小管結合領域における正電荷と、微小
管格子における負電荷とのイオン性相互作用により発生する(Butner and K
irschner,J Cell Biol.115(3):717-30,1991)
。タウタンパク質は、85個の可能なリン酸化反応部位を含有し、これらの部位の多くに
おけるリン酸化反応が、タウの一次機能を妨げる。軸索の微小管格子に結合したタウは、
擬リン酸化状態にあるが、AD内で凝集したタウは過剰リン酸化状態にあり、タウの生理
学的に活性なプールとは異なる独自のエピトープをもたらす。
【0006】
タウ異常症の伝播及び拡大仮説が説明されており、これは、ヒトの脳におけるタウ異常
症進行のBraak段階、及びタウ凝集の、前臨床タウモデルへの注射後のタウ異常症の
拡大に基づいている(Frost et al.,J Biol Chem.284:1
2845-52,2009;Clavaguera et al.,Nat Cell
Biol.11:909-13,2009)。
【0007】
タウの凝集を予防又は一掃するための治療薬の開発は長年関心が持たれており、抗凝集
化合物及びキナーゼ阻害剤を含む候補薬剤が、臨床試験に導入されてきた(Brunde
n et al.,Nat Rev Drug Discov.8:783-93,20
09)。トランスジェニックマウスにおける、能動タウ免疫付与及び受動タウ免疫付与の
両方の、有益な治療効果を示す、複数の研究が刊行されている(Chai et al.
,J Biol Chem.286:34457-67,2011;Boutajang
out et al.,J Neurochem.118:658-67,2011;B
outajangout et al.,J Neurosci.30:16559-6
6,2010;Asuni et al.,J Neurosci.27:9115-2
9,2007)。ホスホ特異的及び非ホスホ特異的抗体の両方において、活性が報告され
ている(Schroeder et al.,J Neuroimmune Pharm
acol.11(1):9-25,2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当該技術分野における進展にもかかわらず、タウ凝集及びタウ異常症の進行を予防して
、AD及び他の神経変性病などのタウ異常症を治療するのに効果的な治療薬が依然として
必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、対らせん状細線維(PHF)-タウに対して高い結合親和性を有し、リン酸
化タウに対して選択的である抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片を提供することに
よりこの必要性を満たす。マウスPHF-タウ特異的抗体の、ヒトフレームワークへの適
応(HFA)により、本発明の抗体は生成された。リン酸化タウに対する抗体の選択性に
より、通常のタウ機能を妨げずに病原性タウに対する効能が可能となると考えられる。本
発明は、抗体をコードする核酸、抗体を含む組成物、並びに抗体の製造方法及び抗体の使
用方法もまた提供する。本発明の抗PHF-タウ抗体、又はその抗原結合断片は、HEK
細胞可溶化物に由来する、又は変異体タウトランスジェニックマウスの脊髄溶解物に由来
するタウシードを使用する細胞アッセイにより測定されるように、タウシードを阻害する
。更に、本発明の抗PHF-タウ抗体の可変領域及びマウスIg定常領域(例えばマウス
IgG2a定常領域)を有するキメラ抗体は、in vivoでの変異体タウトランスジ
ェニックマウスにおいてシーディング活性をブロックした。
【0010】
AD脳におけるタウ異常症の進行は、異なる特殊な拡大パターンに従う。前臨床モデル
においては、細胞外ホスホ-タウシードがニューロンでのタウ異常症を誘発し得ることが
示されている(Clavaguera et al.,PNAS 110(23):95
35-40,2013)。それ故、タウ異常症はある脳の領域から次の領域に、プリオン
のように拡大し得ると考えられている。この拡大プロセスには、近くのニューロンにより
取り込まれることができ、更なるタウ異常症を引き起こし得るタウシードの外在化が伴う
。理論に束縛されるものではないが、本発明の抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片
は、脳内でホスホ-タウシードと相互作用することにより、タウ凝集又はタウ異常症の拡
大を予防すると考えられている。
【0011】
一般的な一態様において、本発明は、PHF-タウに結合する単離モノクローナル抗体
又はその抗原結合断片に関する。特定の実施形態では、抗体はヒト化モノクローナル抗体
である。
【0012】
特定の態様に従うと、本発明は、タウタンパク質のプロリンリッチなドメインにおける
リン酸化エピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する、単離モノクローナル抗
体又はその抗原結合断片に関する。より具体的な態様において、リン酸化エピトープは、
タウタンパク質のリン酸化T212及び/又はリン酸化T217、並びに、配列番号:4
8、52、及び54のアミノ酸配列のいずれかを有する、又はこれらのいずれかの中にあ
るリン酸化エピトープを含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、タウタンパク
質のリン酸化T212及びリン酸化T217を含むリン酸化エピトープに結合する。
【0013】
特定の態様に従うと、本発明は、
(1)それぞれ配列番号:4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン
重鎖相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、そ
れぞれ配列番号:16、17、及び18のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖
相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(2)それぞれ配列番号:1、2、及び3のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:13、14、及び15のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(3)それぞれ配列番号:7、8、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(4)それぞれ配列番号:10、11、及び12のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:22、23、及び24の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(5)それぞれ配列番号:80、81、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1
、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポ
リペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(6)それぞれ配列番号:71、72、73のポリペプチド配列を有するHCDR1、
HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポリ
ペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(7)それぞれ配列番号:71、72、及び73のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(8)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(9)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(10)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;又は
(11)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;
を含み、
抗体又はその抗原結合断片が、PHF-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合して
いる、
単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0014】
より具体的な態様において、重鎖可変領域ドメインのフレームワーク領域及び軽鎖可変
領域ドメインのフレームワーク領域は、ヒト免疫グロブリンからのアミノ酸配列を含む。
【0015】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:26、27、28、及び29のいず
れか1つと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90
%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し
、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、若
しくは配列番号:74、76、及び78のいずれか1つの任意の重鎖のVH領域、又は、
配列番号:31、32、33、及び34のいずれか1つと少なくとも80%、好ましくは
少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、よ
り好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有す
るポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、若しくは配列番号:75、77、及び79の
軽鎖のいずれか1つのVL領域を含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に
関する。
【0016】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:45、74、76、及び78のいず
れか1つと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90
%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し
、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖;並びに、配
列番号:46、75、77、及び79のいずれか1つと少なくとも80%、好ましくは少
なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より
好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有する
ポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に
関する。
【0017】
別の具体的な態様に従うと、本発明の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は
、定常領域、例えばヒト又はマウス重鎖IgG定常領域、及びヒト又はマウス抗体軽鎖κ
又はλ定常領域を更に含む。
【0018】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離核酸に関する。
【0019】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離核酸を含むベクターに関する。
【0020】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離核酸を含む宿主細胞に関する。
【0021】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片、及び医薬上許容できる担体を含む医薬組成物に関する。
【0022】
別の一般的な態様において、本発明は、病理学的タウ凝集の低下又はタウ異常症の拡大
の低下を必要とする対象における、病理学的タウ凝集の低下又はタウ異常症の拡大の低下
方法であって、対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0023】
別の一般的な態様において、本発明は、タウ異常症の治療を必要とする対象におけるタ
ウ異常症の治療方法であって、対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む方法に関
する。タウ異常症としては、家族性アルツハイマー病、散発的アルツハイマー病、染色体
17(FTDP-17)に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症、進行性
核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、線維変化優位型
認知症、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・
パーキンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャイン
カー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、
多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、
亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維濃縮による非ガマニアン(Gu
amanian)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘
家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限
定されない。
【0024】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片の製造方法であって、モノクローナル抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含む
細胞を、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を製造する条件下にて培養することと
、細胞又は細胞培養液からモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を回収することとを
含む、方法に関する。
【0025】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片を含む医薬組成物の製造方法であって、医薬組成物を得るために、モノクローナル抗
体又はその抗原結合断片を医薬上許容できる担体と組み合わせることを含む、方法に関す
る。
【0026】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片を用いて、対象におけるリン酸化PHF-タウの存在を検出する方法、又は、対象に
おいてPHF-タウの存在を検出することにより、対象のタウ異常症を診断する方法に関
する。
【0027】
本発明の他の態様、特徴、及び利点は、発明の詳細な説明、並びにその好ましい実施形
態及び添付の特許請求の範囲を含む以下の開示より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
上述の「課題を解決するための手段」及び以降の「発明を実施するための形態」は、添
付の図面と併せて読むことでより良好に理解されるであろう。本発明は、図面に示される
実施形態そのものに限定されない点は理解されるべきである。
【
図1】組み換えにより発現したPT3(「R3788」)、及びハイブリドーマにより発現したPT3(「hyb」)の、PHF-タウ及び可溶性タウへの結合を示す図である。
【
図2】通常の組み換えヒトタウ(「NT」)及びサルコシル不溶性PHF-タウ(「PT」)のSDS-PAGE後の、マウス抗タウモノクローナル抗体のウェスタンブロット分析を示す図である。
【
図3A】抗アミロイド4G8陽性であるAD海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図3B】抗アミロイド4G8陽性であるAD海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図3C】抗アミロイド4G8陽性であるAD海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図3D】抗アミロイド4G8陽性であるAD海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図3E】抗アミロイド4G8陽性であるAD海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図4A】抗アミロイド4G8陰性である対照海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図4B】抗アミロイド4G8陰性である対照海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図4C】抗アミロイド4G8陰性である対照海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図4D】抗アミロイド4G8陰性である対照海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図4E】抗アミロイド4G8陰性である対照海馬組織における、PT3の免疫組織化学分析を示す図である。使用したモノクローナル抗体は、(A)PT1、(B)PT2、(C)PT3、(D)AT8、及び(E)HT7であった。
【
図5A】(A)タウノックアウト又は(B)野生型マウスの脳における、PT3のホスホ-タウ特異的染色パターンを示す図である。
【
図5B】(A)タウノックアウト又は(B)野生型マウスの脳における、PT3のホスホ-タウ特異的染色パターンを示す図である。
【
図6A】(A)タウノックアウト又は(B)野生型マウスの脳における、タウ-1の非ホスホ-タウ特異的染色パターンを示す図である。
【
図6B】(A)タウノックアウト又は(B)野生型マウスの脳における、タウ-1の非ホスホ-タウ特異的染色パターンを示す図である。
【
図7】PT3 Fab+pT212/pT217-タウペプチド複合体の結晶構造を示す図であり、PT3 Fabを、空間を塗りつぶす表示(ライトグレー)で示し、タウペプチドを棒状(黒)の表示で示す。
【
図8】PT3 Fab+pT212/pT217-タウペプチド複合体の結晶構造を示す図であり、PT3をリボン状(ライトグレー)で示し、そのパラトープ残基を棒状の表示で示し、タウペプチドを棒状(黒)の表示で示す。
【
図9】PT3 Fab+pT212/pT217タウペプチド構造の相互作用図を示す図であり、ペプチド残基を、白色でレタリングした黒の箱で示し、VH残基をダークグレーで示し、VL残基をライトグレーで示し、点線は水素結合を示して、実線はファン・デル・ワールス接触を示す。
【
図10】HFA PT3重鎖及び軽鎖可変領域の配列を示す図であり、HFA多様体がPT3マウス親V領域(VH10及びVL7)にアラインメントされており、ヒトFRへ転写された親CDRには下線を引いており、残基付番は連続している。
【
図11】B324+pT212/pT217-タウペプチド複合体の結晶構造を示す図であり、B324を、空間を塗りつぶす表示(ライトグレー)で示し、タウペプチドを棒状(黒)の表示で示す。
【
図12】B324+pT212/pT217タウペプチド複合体の結晶構造を示す図であり、B324をリボン状(ライトグレー)で示し、そのパラトープ残基を棒状の表示で示し、タウペプチドを棒状(黒)の表示で示す。ただし、D92(L)及びE93(L)はCγ及び側鎖のカルボキシレート原子に対して電子密度を有していない。
【
図13】B324+pT212/pT217タウペプチド構造の相互作用図を示す図であり、ペプチド残基を、白色でレタリングした黒の箱で示し、VH残基をダークグレーで示し、VL残基をライトグレーで示し、点線は水素結合を示して、実線はファン・デル・ワールス接触を示す。
【
図14】FRETバイオセンサセルモデルの概略図である。
【
図15】BRETアッセイを使用して測定した、GFP-タウP301Lアグリゲートを含有するHEK細胞ホモジェネートによりシードされた、PT3によるK18アグリゲート導入の阻害を示す図である。
【
図16】FRETアッセイを使用して測定した、TgP301S脊髄ホモジェネートによりシードされた、PT3によるK18アグリゲート導入の阻害を示す図である。
【
図17】2つの独立した実験のデータを用いた、マウスTgP301S脊髄抽出物の免疫枯渇アッセイの結果を示す図である。
【
図18】2つの実験のデータを用いた、ヒトAD脳抽出物免疫枯渇アッセイの結果を示す図である(n=1である、HT7及びAT8の場合を除く)。FRETアッセイを用いて測定すると、PT3はタウシーディングを阻害する。
【
図19-1】変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおける、注射モデルの概略図を示す図である。IHC画像は、注射後3ヶ月の対照抽出物(A~B)を有するマウス、注射後1ヶ月のAD脳由来のePHF-タウ(C~D)を有するマウス、注射後3ヶ月のAD脳由来のePHFタウ(E~F)を有するマウスからの、注射済み半球の代表的なAT8染色を示す。
【
図19-2】変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおける、注射モデルの概略図を示す図である。(G)ヒストグラムは、ePHFの量を増加させて治療したマウスの代表的な生化学データを示す。
【
図20】PT3の末梢投与(IP)に続いての変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおけるAD脳由来のPHF-タウによるシーディングの、タウ凝集における効果を示す図である。
【
図21】PT3の用量を低下させた同時注射に続いての変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおけるAD脳由来のPHF-タウによりシーディングの、タウ凝集における効果を示す図である。
【
図22A】PT3アイソタイプのIP末梢投与と組み合わせた同時投与に続いての変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおけるAD脳由来のPHF-タウにおけるシーディングの、タウ凝集における効果を示す図である。(A)に従い治療したマウスは、(B)注射済み半球、及び(C)非注射半球において効果を示す。
【
図22B】PT3アイソタイプのIP末梢投与と組み合わせた同時投与に続いての変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおけるAD脳由来のPHF-タウにおけるシーディングの、タウ凝集における効果を示す図である。(A)に従い治療したマウスは、(B)注射済み半球、及び(C)非注射半球において効果を示す。
【
図22C】PT3アイソタイプのIP末梢投与と組み合わせた同時投与に続いての変異体ヒトP301Lタウを発現するトランスジェニックマウスにおけるAD脳由来のPHF-タウにおけるシーディングの、タウ凝集における効果を示す図である。(A)に従い治療したマウスは、(B)注射済み半球、及び(C)非注射半球において効果を示す。
【
図23A】AD患者に由来する脳ホモジェネートの濃度と比較した、PSP患者由来の脳ホモジェネートにおける凝集タウの濃度を示す図である。使用したモノクローナル抗体は(A)AT8及び(B)PT3であった。
【
図23B】AD患者に由来する脳ホモジェネートの濃度と比較した、PSP患者由来の脳ホモジェネートにおける凝集タウの濃度を示す図である。使用したモノクローナル抗体は(A)AT8及び(B)PT3であった。
【
図24】A~Jは、(A、D)AD患者、又は(B、C、E、F)PSP患者の脳組織の凍結切片を、(A~C)AT8、又は(D~F)PT3抗体で染色すると、PSPの影響を受けた解剖学領域において染色を示したことを示す図である。(G~J)対照は染色を示さなかった。
【
図25】A~Hは、PHF-タウを有する親和性成熟mAb、及びこれらのFabに関する、SPR結合のセンサーグラムを示す図である。実線(灰色)は、二価の結合モデル(mAb)又は1:1ラングミュアモデル(Fab)を用いる、反応速度の合致を示す。(A)B296 mAb、(B)B711 mAb、(C)B809 mAb、(D)B333 mAb、(E)B296のB324 Fab、(F)B711のB330 Fab、(G)B809のB332 Fab、(H)B333のB331 Fab。
【
図26A】(A)mAb、又は(B)Fabを用いる直接ELISA実験における、PT3-HFA及び親和性成熟多様体の、pT212/pT217ペプチドへの結合を示す図である。
【
図26B】(A)mAb、又は(B)Fabを用いる直接ELISA実験における、PT3-HFA及び親和性成熟多様体の、pT212/pT217ペプチドへの結合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の背景において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用又
は記載する。これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本
明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本発明のコンテキス
トを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示
又は特許請求されるいかなる発明に対しても先行技術の一部を構成することを容認するも
のではない。
【0030】
定義
別の定義がなされない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本
発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。そうでな
い場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するもので
ある。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によって
恰もその全体が本明細書に記載されているものと同様にして組み込まれる。本明細書及び
添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈
上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意すべきである。
【0031】
特に断らない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全
ての場合において、「約」なる語によって修飾されているものとして理解されるべきであ
る。したがって、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、1mg
/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w
/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用する
場合、数値範囲の使用は、文脈上そうでない旨が明確に示されない限り、その範囲内の整
数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的
に含む。
【0032】
本明細書で使用するところの「単離された」なる用語は、生物学的構成成分(例えば、
核酸、ペプチド、又はタンパク質)が、これらの構成成分が天然に生じる生物の他の生物
学的構成成分(すなわち、他の染色体及び染色体外DNA及びRNA、並びにタンパク質
)から実質的に分離されたか、これらの他の成分とは別に生成されたか、又はこれらの他
の成分から精製されたものであることを意味する。このため、「単離」された核酸、ペプ
チド、及びタンパク質は、標準的な精製法により精製された核酸及びタンパク質を含む。
「単離された」核酸、ペプチド、及びタンパク質は、組成物の一部であることができ、こ
のような組成物が核酸、ペプチド、又はタンパク質の本来の環境の一部ではない場合であ
っても単離されている。また、この用語は、宿主細胞中での組み換え発現により調製され
た核酸、ペプチド、及びタンパク質、並びに化学合成された核酸も包含する。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」又は「免疫グロブリン」は広い意味で用いられ
、ポリクローナル抗体を含む免疫グロブリン又は抗体分子、マウス、ヒト、ヒト適合、ヒ
ト化、及びキメラモノクローナル抗体及び抗体断片を含むモノクローナル抗体を含む。
【0034】
一般に抗体とは、特定の抗原に対する結合特異性を示すタンパク質又はペプチド鎖であ
る。抗体の構造は、公知である。免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に
応じて5つの主なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに割
り当てることができる。IgA及びIgGは、アイソタイプのIgA1、IgA2、Ig
G1、IgG2、IgG3及びIgG4として更に細分類される。したがって、本発明の
抗体は、5つの主要なクラス又は対応する下位クラスのいずれかのものであることができ
る。本発明の抗体はIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4であることが好ましい
。本発明の抗体としては、半減期の延び、ADCC又はCDCの増減、及びサイレンシン
グされたFcエフェクター機能が挙げられるがこれらに限定されない、野生型Fc領域と
比較して変化した特性を有するように、Fc領域に多様性を有するものが挙げられる。い
ずれの脊椎動物種の抗体軽鎖も、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて2つの
明確に異なるタイプ、すなわちκ及びλのうちの一方に割り当てることができる。したが
って、本発明の抗体は、κ又はλ軽鎖定常ドメインを含有することができる。特定の実施
形態に従うと、本発明の抗体は、マウス抗体又はヒト抗体の重鎖及び/又は軽鎖定常領域
を含む。
【0035】
重鎖及び軽鎖定常領域に加えて、抗体は軽鎖及び重鎖可変領域を含有する。免疫グロブ
リン軽鎖又は重鎖可変領域は、「抗原結合部位」が割り込んだ「フレームワーク」領域か
らなる。抗原結合部位は、以下のとおり様々な用語及び符番スキームを用いて定義される
:
(i)Kabat:「相補性決定領域」又は「CDR」は、配列の変動性に基づく(W
u and Kabat,J Exp Med.132:211-50,1970)。一
般に、抗原結合部位は、各可変領域に3つのCDR(例えば、重鎖可変領域(VH)にH
CDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに軽鎖可変領域(VL)にLCDR1、L
CDR2、及びLCDR3)を有する。
(ii)Chothia:用語「超可変領域」、「HVR」、又は「HV」は、Cho
thia及びLesk(Chothia and Lesk,J Mol Biol.1
96:901-17,1987)により定義されているように、構造中で超可変性である
抗体可変ドメインの領域を意味する。一般的に、抗原結合部位は、各VH(H1、H2、
H3)及びVL(L1、L2、L3)に3つの超可変領域を有する。符番システム、並び
にCDR及びHVのアノテーションは、Abhinandan及びMartin(Abh
inandan and Martin,Mol Immunol.45:3832-9
,2008)により改訂されている。
(iii)IMGT:抗原結合部位を形成する領域の別の定義が、免疫グロブリン及び
T細胞受容体のVドメインの比較に基づいて、Lefranc(Lefranc et
al.,Dev Comp Immunol.27:55-77,2003)により提案
されている。International ImMunoGeneTics(IMGT)
データベースが、標準化したこれらの領域の符番及び定義を提供している。CDR、HV
、及びIMGTの描写の対応は、Lefranc et al.,2003,Idに記載
されている。
(iv)AbM:Kabat及びChothiaの符番スキームの妥協点は、Mart
in(Martin ACR(2010)Antibody Engineering,
eds Kontermann R,Dubel S(Springer-Verlag
,Berlin),Vol 2,pp 33-51)に記載されている、AbM符番の取
り決めである。
(v)抗原結合部位は、「Specificity Determining Res
idue Usage」(SDRU)(Almagro,Mol Recognit.1
7:132-43,2004)に基づいてもまた描写されることができ、ここでは、SD
Rは、抗原接触に直接関与する免疫グロブリンのアミノ酸残基を意味する。
【0036】
「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」は、抗原結合部位の配列であると定義
されるもの以外の、抗体の可変領域内の残りの配列である。抗原結合部位の正確な定義は
、上述したような様々な描写により決定され得るため、正確なフレームワーク配列は、抗
原結合部位の定義に依存する。フレームワーク領域(FR)は、より高度に保存された可
変ドメインの部分である。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、3つの超可変ルー
プにより接続された、βシート構成を一般的に用いる4つのFR(それぞれFR1、FR
2、FR3、及びFR4)を含む。各鎖の超可変ループはFRにより互いに緊密に折りた
たまれ、他の鎖の超可変ループと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。抗体の構
造分析により、相補性決定領域により形成される、配列と結合部位の形状との関係が明ら
かとなった(Chothia et al.,J.Mol.Biol.227:799-
817,1992;Tramontano et al.,J.Mol.Biol.21
5:175-182,1990)。これらの高い配列変動性にもかかわらず、6つのルー
プのうち5つだけが、「標準構造」と言われる、小さなレパートリーの主鎖構造を採用す
る。これらの構造はまず、ループの長さにより決定され、次に、折りたたみ、水素結合、
又は異常な主鎖構造を推定する能力により構造が決定される、ループ及びフレームワーク
領域の特定の位置における鍵となる残基の存在により決定される。
【0037】
本明細書で使用するとき、用語「抗原結合断片」は、例えば、ダイアボディ、Fab、
Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(d
sFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ダイア
ボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、単一ドメイン抗体(sdab
)、scFv二量体(二価ダイアボディ)、1つ以上のCDRを含む抗体の一部分から形
成される多重特異的抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、二価
ドメイン抗体、又は抗原に結合するが完全な抗体構造を含まない任意の他の抗体断片など
の抗体断片を指す。抗原結合断片は、親抗体又は親抗体断片が結合する同じ抗原に結合す
ることができる。特定の実施形態に従うと、抗原結合断片は、軽鎖可変領域、軽鎖定常領
域、及び重鎖の定常領域のFdセグメントを含む。他の特定の実施形態に従うと、抗原結
合断片はFab及びF(ab’)を含む。
【0038】
本明細書で使用する場合、用語「ヒト化抗体」とは、抗体の抗原結合特性が保持される
が、人体における抗原の抗原性が低下するように、改変により配列相同性をヒト抗体のそ
れに対して増加させた非ヒト抗体を意味する。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「エピトープ」とは、免疫グロブリン、抗体又はその抗
原結合断片が特異的に結合する、抗原上の部位を意味する。エピトープは、タンパク質の
三次折りたたみにより並置された連続アミノ酸から、又は非連続アミノ酸からの両方で形
成することができる。連続アミノ酸から形成したエピトープは、典型的には、変性溶媒に
さらして保持されるが、三次折りたたみにより形成したエピトープは、典型的には、変性
溶媒による処理で喪失される。エピトープは、典型的には、独自な空間構造の中に、少な
くとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個のアミ
ノ酸を含む。エピトープの空間構造を決定する方法としては、例えば、x線結晶構造解析
、及び2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Pr
otocols in Methods in Molecular Biology,
Vol.66,G.E.Morris,Ed.(1996)を参照のこと。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「タウ」又は「タウタンパク質」とは、複数のアイソフ
ォームを有する、多くある中枢神経系及び末梢神経系のタンパク質を意味する。ヒト中枢
神経系(CNS)において、長さが352~441個のアミノ酸のサイズの範囲となる、
6つの主要なタウアイソフォームが、選択的スプライシングにより存在する(Hange
r et al.,Trends Mol Med.15:112-9,2009)。ア
イソフォームは、0~2個のN末端挿入、及び、3又は4個の一列に配列した微小管結合
反復を制御して含めることにより互いに異なり、0N3R(配列番号:64)、1N3R
(配列番号:65)、2N3R(配列番号:66)、0N4R(配列番号:67)、1N
4R(配列番号:68)、及び2N4R(配列番号:69)と呼ばれる。本明細書で使用
する場合、用語「対照タウ」とは、リン酸化反応及び他の翻訳後修飾を欠いている、配列
番号:69のタウアイソフォームを意味する。本明細書で使用する場合、用語「タウ」は
、完全長野生型タウの変異(例えば点変異、フラグメント、挿入、欠失、及びスプライス
バリアント)を含むタンパク質を含む。用語「タウ」はまた、タウアミノ酸配列の翻訳後
修飾を包含する。翻訳後修飾としては、リン酸化が挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
タウは、微小管に結合しており、タウのリン酸化によって調節され得るプロセスである
、細胞を通じたカーゴの輸送を制御する。AD及び関連する疾患においては、タウの異常
リン酸化が広く生じ、これは、タウの対らせん状細線維(PHF)と呼ばれる原線維への
凝集の前に生じ、及び/又はその凝集を誘発すると考えられる。PHFの主要構成成分は
、過剰リン酸化タウである。本明細書で使用する場合、用語「対らせん状細線維-タウ」
又は「PHF-タウ」とは、対らせん状細線維中のタウのアグリゲートを意味する。PH
F構造における2つの主要な領域は電子顕微鏡、ファジーコート、及びコア細線維により
明らかであり、ファジーコートはタンパク質分解に敏感であり、細線維の外側に位置し、
細線維のプロテアーゼ耐性コアは、PHFの主鎖を形成する(Wischik et a
l.Proc Natl Acad Sci USA.85:4884-8,1988)
。
【0042】
本明細書で使用する場合、「PHF-タウに結合する単離ヒト化抗体」、又は「単離ヒ
ト化抗PHF-タウ抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない
、ヒト化抗PHF-タウ抗体を意味することを意図する(例えば、単離ヒト化抗PHF-
タウ抗体はPHF-タウ以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しか
し、単離ヒト化抗PHF-タウ抗体は、例えば他の種(PHF-タウ種のホモログなど)
の他の関連抗原に対して交差反応性を有する。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「特異的に結合する(「specifically b
inds」又は「specific binding」)とは、本発明の抗PHF-タウ
抗体が、約1×10-6Mか、又はそれよりタイトな、例えば、約1×10-7M以下、
約1×10-8M以下、約1×10-9M以下、約1×10M-10以下、約1×10-
11M以下、約1×10-12M以下、若しくは約1×10-13M以下の解離定数(K
D)にて、所定の標的に結合する能力を意味する。KDは、Kaに対するKdの比率(す
なわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される。抗体のKD値は、本
開示を考慮して当該技術分野における方法を用いて決定することができる。例えば、抗P
HF-タウ抗体のKD値は、表面プラズモン共鳴を用いることにより、バイオセンサシス
テム、例えば、Biacore(登録商標)システム、Proteon機器(BioRa
d)、KinExA機器(Sapidyne)、ELISA、又は当業者に知られている
競合結合アッセイを用いることなどにより、決定することができる。典型的には、抗PH
F-タウ抗体は、例えばProteOn機器(BioRad)を使用した表面プラズモン
共鳴によって測定した場合に、非特異的標的に対するKDよりも少なくとも10倍低いK
Dで所定の標的(すなわち、PHF-タウ)に結合する。しかし、PHF-タウに特異的
に結合する抗PHF-タウ抗体は、他の関連標的、例えば他の種(ホモログ)の所定の同
一標的に対する交差反応性を有することができる。
【0044】
本明細書で使用するところの「ポリヌクレオチド」なる用語は、同義的に、「核酸分子
」、「ヌクレオチド」、又は「核酸」とも称され、非修飾RNA若しくはDNA又は修飾
RNA若しくはDNAであってよい、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボ
ヌクレオチドを指す。「ポリヌクレオチド」としては、これらに限定されるものではない
が、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるDNA、一本鎖及
び二本鎖RNA、並びに一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるRNA、一本鎖又はより
典型的には二本鎖又は一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であってよいDNA及びRNAを
含むハイブリッド分子が挙げられる。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNA若しくは
DNA又はRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。用語、ポリヌクレオチドに
は、1つ以上の修飾塩基を含有するDNA又はRNA、及び安定性若しくは他の理由によ
り修飾された主鎖を有するDNA又はRNAも含まれる。「修飾」塩基は、例えば、トリ
チル化塩基及び異常な塩基、例えば、イノシンを含む。様々な修飾をDNA及びRNAに
行うことができる。したがって、「ポリヌクレオチド」は、典型的に天然に認められるポ
リヌクレオチドの化学的、酵素的又は代謝的に修飾された形態、並びにウイルス及び細胞
のDNA及びRNAの特徴を有する化学的形態を包含する。「ポリヌクレオチド」はまた
、比較的短い核酸鎖(多くの場合、オリゴヌクレオチドと呼ばれる)も包含する。
【0045】
本明細書で使用するところの「ベクター」なる用語は、別の核酸セグメントを機能的に
挿入することによってそのセグメントの複製又は発現を行うことができるレプリコンのこ
とである。
【0046】
本明細書で使用するところの「宿主細胞」なる用語は、本発明の核酸分子を含む細胞を
指す。「宿主細胞」は、例えば、初代細胞、培養中の細胞、又は細胞株由来の細胞のいず
れのタイプの細胞であってもよい。一実施形態では、「宿主細胞」は、本発明の核酸分子
をトランスフェクトした細胞である。別の実施形態では、「宿主細胞」は、かかるトラン
スフェクトされた細胞の子孫又は潜在的な子孫である。ある細胞の子孫は、例えば、後続
の世代で生じ得る変異若しくは環境の影響、又は宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組み込み
によって、親細胞との同一性を有していない場合がある。
【0047】
本明細書で使用するところの「発現」なる用語は、遺伝子産物の生合成を指す。かかる
用語には、遺伝子のRNAへの転写が含まれる。また、かかる用語には、RNAの1つ以
上のポリペプチドへの翻訳も含まれ、全ての天然に生じる転写後及び翻訳後修飾も更に含
まれる。PHF-タウに結合する、発現したヒト化抗体又はその抗原結合断片は、宿主細
胞の細胞質内に存在することができ、細胞培養液の増殖培地などの細胞外環境に入ること
ができ、又は細胞膜に固着することができる。
【0048】
本明細書で使用するところの「担体」なる用語は、あらゆる賦形剤、希釈剤、充填剤、
塩、バッファー、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソ
ーム封入体、又は医薬製剤で使用するための当該技術分野では公知の他の材料を指す。担
体、賦形剤又は希釈剤の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう
。本明細書で使用するころの「医薬上許容できる担体」なる用語は、本発明による組成物
の効果又は本発明による組成物の生物活性を妨げない無毒性材料を指す。特定の実施形態
によると、本開示を考慮して、抗体の医薬組成物での使用に好適ないずれの医薬上許容で
きる担体も、本発明において使用することができる。
【0049】
本明細書で使用するところの「対象」なる用語は、動物、好ましくは哺乳動物を指す。
特定の実施形態によれば、対象は、非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、
ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、ウサギ、モルモット又はマウス)、又
は霊長類(例えば、サル、チンパンジー、又はヒト)を含む哺乳動物である。特定の実施
形態では、対象はヒトである。
【0050】
本明細書で使用するところの「治療的有効量」なる用語は、対象に所望の生物学的又は
薬理的応答を誘導する活性成分又は構成成分の量を指す。治療有効量は、記載される目的
に対して経験的かつ一般的な方法で決定することができる。例えば、インビトロアッセイ
を任意選択的に用いて、最適な用量範囲を特定することができる。具体的な有効量の選択
は、治療又は予防される疾病、伴う症状、患者の体重、患者の免疫状態、及び当業者が知
っている他の因子を含むいくつかの因子の考慮に基づいて、当業者によって(例えば、臨
床試験により)決定することができる。また、製剤に用いられる正確な用量は、投与経路
及び疾患の重症度に応じて決まり、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されるべき
である。有効量は、インビトロ又は動物モデル試験系から導かれる用量応答曲線から推定
することができる。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、
及び「治療(treatment)」は全て、タウ異常症に関連した少なくとも1つの測定可能な
物理的パラメータの改善又は逆転を指すものであり、これは対象において必ずしも認識さ
れるとは限らないが、対象において認識可能な場合もある。「治療する(treat)」、「
治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」なる用語はまた、疾患、障害、又
は病態の退縮を生じる、その進行を防止する、又は少なくともその進行を遅らせることを
指す場合もある。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療する(treating
)」、及び「治療(treatment)」は、タウ異常症に関連する1つ以上の症状の緩和、進
展若しくは発症の予防、又はその期間の短縮を指す。特定の実施形態では、「治療する」
、「治療する」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態の再発の防止を指す。特定の実
施形態では、「治療する」、「治療する」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態を有
する対象の生存率の向上を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療する」、及
び「治療」は、対象における疾患、障害、又は病態の消失を指す。
【0052】
本明細書で使用するとき、「タウ異常症」は、脳内のタウの病理学的凝集を伴う任意の
神経変性疾患を包含する。家族性及び特発性ADに加えて、他の例示的なタウ異常症は、
染色体17(FTDP-17)に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症、
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、線維濃縮
変化優位型認知症、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側
索硬化症・パーキンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー
・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・
ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド
血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維濃縮による非ガマ
ニアン(Guamanian)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、及び、拳闘家認
知症(ボクサー病)などの慢性外傷性脳症である(Morris et al.,Neu
ron,70:410-26,2011)。
【0053】
本明細書で使用するところの「併用される」なる用語は、対象への2種以上の治療薬の
投与との関連において、複数の治療の使用を指す。「併用される」なる用語の使用は、治
療が対象に投与される順序を限定しない。例えば、第1の治療(例えば、本明細書に記載
される組成物)を、対象への第2の治療の投与の前(例えば、5分、15分、30分、4
5分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、7
2時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は1
2週間前)、同時に、又はその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2
時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間
、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間後)に投与
することができる。
【0054】
抗PHF-タウ抗体
一般的な一態様において、本発明は、PHF-タウに結合する単離モノクローナル抗体
又はその抗原結合断片に関する。このような抗PHF-タウ抗体は、PHF-タウにてリ
ン酸化エピトープを結合させる特性、又はPHF-タウにて非リン酸化エピトープを結合
させる特性を有することができる。抗PHF-タウ抗体は治療薬として有用である場合が
あり、また、例えば組織又は細胞中での、生体サンプルにおけるPHF-タウを検出する
ための調査又は診断試薬としても有用である場合がある。
【0055】
特定の態様に従うと、本発明は、タウタンパク質のプロリンリッチなドメインにおける
エピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する単離ヒト化抗体又はその抗原結合
断片に関する。より具体的な態様において、本発明は、リン酸化T212及び/又はT2
17残基を含むエピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する単離ヒト化抗体又
はその抗原結合断片に関する。より具体的な態様において、本発明は、配列番号:48、
52、及び54のいずれかのリン酸化エピトープに結合する単離モノクローナル抗体又は
その抗原結合断片に関する。また更に具体的な態様において、本発明は、配列番号:48
のリン酸化エピトープに結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する
。本発明の抗体は、ヒト化抗体であることができる。
【0056】
表1は、配列番号によりホスホ-タウに結合する、5個のヒト化mAbの重鎖及び軽鎖
可変領域を示す。重鎖及び軽鎖配列は、ヒト化mAb B296についてもまた示されて
いる。このmAbは、親和性成熟していた(表3を参照)。
【0057】
表2は、Chothia、ABM、Kabat、及びIMGT符番スキームに従い定義
される、本発明の例示的抗体の抗原結合部位残基(すなわち、CDR領域)を示す。例示
的な重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号:26~29に示し、例示的な軽鎖可変領域
のアミノ酸配列を配列番号:31~34に示す。
【0058】
表3は、B296から生成した、親和性成熟モノクローナル抗体(すなわち、B333
、B711、及びB809)の配列を示す。可変領域配列は重鎖及び軽鎖配列中で下線を
引いている。親和性成熟モノクローナル抗体のCDR中の太字のアミノ酸は、B296C
DR配列と比較した際の置換を示す。CDR配列はKabat符番スキームにより決定さ
れる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
ヒト化抗体は、実質的にヒト抗体からの可変領域フレームワーク残基(「アクセプター
抗体」と呼ばれる)、及び、実質的に非ヒト抗体(すなわち、マウス抗体)からの相補性
決定領域(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)を有する。Queen et al.,P
roc.Natl.Acad.Sci.USA.86:10029-10033,198
9、国際公開第90/07861号、米国特許第5693762号、同第5693761
号、同第5585089号、同第5530101号、及び同第5225539号を参照の
こと。存在する場合、定常領域もまた実質的に、又は全体的にヒト免疫グロブリンに由来
する。ヒト可変ドメインは通常、フレームワーク配列が、CDRが由来するマウス可変領
域ドメインと高度な配列同一性を示す、ヒト抗体から選択される。重鎖及び軽鎖可変領域
フレームワーク残基は、同一の又は異なるヒト抗体配列に由来することができる。ヒト抗
体配列は、自然に生じるヒト抗体の配列であることができる、又は、いくつかのヒト抗体
のコンセンサス配列であることができる。国際公開第92/22653号を参照されたい
。CDR構造及び/又は抗原への結合に対する有り得る影響に基づいて、ヒト可変領域フ
レームワーク残基からの特定のアミノ酸が、置換のために選択される。このような有り得
る影響の調査は、モデリング、特定の位置におけるアミノ酸特性の検査、又は、特定のア
ミノ酸の置換若しくは変異誘発の影響についての実験的観察によるものである。
【0064】
例えば、アミノ酸の、マウス可変領域フレームワーク残基と選択されたヒト可変領域フ
レームワーク残基とが異なる場合、アミノ酸が、(1)抗原に直接非共有結合する、(2
)CDR領域に隣接する、(3)別様においてはCDR領域と相互作用する(例えば、約
6オングストロームのCDR領域の中に存在する)、又は(4)VL-VH界面に関与す
ることが合理的に予想されるのであれば、ヒトフレームワークアミノ酸は通常、マウス抗
体の等価なフレームワークアミノ酸により置換されるべきである。
【0065】
置換の他の候補は、その位置におけるヒト免疫グロブリンにとっては通常のものではな
い、アクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。これらのアミノ酸は、マウスドナ
ー抗体の等価な位置のアミノ酸、又は、より典型的なヒト免疫グロブリンの等価な位置の
アミノ酸で置換することができる。置換の他の候補は、その位置におけるヒト免疫グロブ
リンにとっては通常のものではない、アクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。
ヒト化免疫グロブリンの可変領域フレームワークは通常、ヒト可変領域フレームワーク配
列、又はそのようなコンセンサス配列に対して少なくとも85%の配列同一性を示す。
【0066】
抗体のヒト化は、公知の方法、例えば特異性決定残基のリサーフェシング(SDRR)
(米国特許公開第2010/0261620号)、リサーフェシング(Padlan e
t al.,Mol.Immunol.28:489-98,1991)、スーパーヒト
化(国際公開第04/006955号)、及びヒトのストリング内容物の最適化(米国特
許第7657380号)を用いて達成することができる。グラフト化又はヒト化に有用な
ヒトフレームワーク配列は、当業者であれば関連するデータベースから選択することがで
きる。選択したフレームワークを、Queen et al.,1989,Idに開示さ
れているような技術により更に改変し、結合親和性を保存又は向上させることができる。
特定の実施形態に従うと、マウス親抗体の抗PHF-タウ抗体をヒト化する方法としては
、以下の実施例4に記載されているものが挙げられる。
【0067】
本発明の抗体は様々な技術により、例えばハイブリドーマ法(Kohler and
Milstein,Nature.256:495-7,1975)により製造すること
ができる。ドナー抗体(典型的にはマウス)に由来する軽鎖及び重鎖可変領域と共に、ア
クセプター抗体(典型的にはヒトなどの別の哺乳類種)に由来する軽鎖及び重鎖定常領域
を含有するキメラモノクローナル抗体を、米国特許第4816567号に記載されている
方法により調製することができる。非ヒトドナー免疫グロブリン(典型的にはマウス)に
由来するCDRを有し、分子の残りの、免疫グロブリンに由来する部分は1種以上のヒト
免疫グロブリンに由来する、CDRグラフトモノクローナル抗体を、例えば米国特許第5
225539号に開示されている、当業者に知られている技術により調製することができ
る。非ヒト配列を全く欠いている完全ヒトモノクローナル抗体を、(Lonberg e
t al.,Nature.368:856-9,1994;Fishwild et
al.,Nat Biotechnol.14:845-51,1996;Mendez
et al.,Nat Genet.15:146-56,1997)を参照する技術
により、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスから調製することができる。ヒト
モノクローナル抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーから調製及び最適化する
ことができる(Knappik et al.,J Mol Biol.296:57-
86,2000;Krebs et al.,J Immunol Methods.2
54:67-84,2001;Shi et al.,J Mol Biol.397:
385-96,2010)。
【0068】
本発明のモノクローナル抗体は、配列番号:1、4、7、10、71、80のいずれか
のHCDR1;配列番号:2、5、8、11、72、81のいずれかのHCDR2;配列
番号:3、6、9、12、73のいずれかのHCDR3;配列番号:13、16、19、
22、70のいずれかのLCDR1;配列番号:14、17、20、23のいずれかのL
CDR2;配列番号:15、18、21、24のいずれかのLCDR3を有する抗体を含
む。本発明は、配列番号:1、4、7、10、71、80のいずれかのHCDR1;配列
番号:2、5、8、11、72、81のいずれかのHCDR2;配列番号:3、6、9、
12、73のいずれかのHCDR3;配列番号:13、16、19、22、70のいずれ
かのLCDR1;配列番号:14、17、20、23のいずれかのLCDR2;配列番号
:15、18、21、24のいずれかのLCDR3と少なくとも90%、より好ましくは
少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、より好ましくは少
なくとも99%の同一性を有するCDR配列を有するモノクローナル抗体もまた包含する
。
【0069】
特定の態様に従うと、本発明は、
(1)それぞれ配列番号:4、5、及び6のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、それぞれ配列番号:16、17、及び18のポリペプチド配
列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(2)それぞれ配列番号:1、2、及び3のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:13、14、及び15のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(3)それぞれ配列番号:7、8、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(4)それぞれ配列番号:10、11、及び12のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:22、23、及び24の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(5)それぞれ配列番号:80、81、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1
、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポ
リペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(6)それぞれ配列番号:71、72、73のポリペプチド配列を有するHCDR1、
HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポリ
ペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(7)それぞれ配列番号:71、72、及び73のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(8)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(9)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(10)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;又は
(11)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;
を含み、
抗体又はその抗原結合断片が、PHF-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合して
おり、重鎖可変領域ドメインのフレームワーク領域、及び軽鎖可変領域ドメインのフレー
ムワーク領域は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を含む、
単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0070】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:26、27、28、若しくは29と
少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好
ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ま
しくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は、配列番
号:31、32、33、若しくは34と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%
、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少な
くとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配
列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0071】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:74、76、及び78の重鎖の可変
領域と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、
より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最
も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は、
配列番号:75、77、及び79のいずれかの軽鎖の可変領域と少なくとも80%、好ま
しくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95
%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性
を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結
合断片に関する。
【0072】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:26と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:31と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその
抗原結合断片に関する。
【0073】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:28と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:34と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその
抗原結合断片に関する。
【0074】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:26と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:34と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその
抗原結合断片に関する。
【0075】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:28と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:31と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその
抗原結合断片に関する。
【0076】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:27と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:31と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、単離ヒト化抗体又はその
抗原結合断片に関する。
【0077】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:74の重鎖の可変領域と少なくとも
80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少
なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは10
0%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:75の
軽鎖の可変領域と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくと
も90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性
を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領
域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0078】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:76の重鎖の可変領域と少なくとも
80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少
なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは10
0%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:77の
軽鎖の可変領域と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくと
も90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性
を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領
域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0079】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:78の重鎖の可変領域と少なくとも
80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少
なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは10
0%の同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び、配列番号:79の
軽鎖の可変領域と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくと
も90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性
を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領
域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0080】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:45と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖、及び、配列番号:46と少なくとも80%、好まし
くは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%
、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を
有するポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関
する。別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:45のポリペプチド配列を有す
る重鎖、及び配列番号:46のポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又
はその抗原結合断片に関する。
【0081】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:74と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖、及び、配列番号:75と少なくとも80%、好まし
くは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%
、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を
有するポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関
する。別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:74のポリペプチド配列を有す
る重鎖、及び配列番号:75のポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又
はその抗原結合断片に関する。
【0082】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:76と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖、及び、配列番号:77と少なくとも80%、好まし
くは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%
、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を
有するポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関
する。別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:76のポリペプチド配列を有す
る重鎖、及び配列番号:77のポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又
はその抗原結合断片に関する。
【0083】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:78と少なくとも80%、好ましく
は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、
より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有
するポリペプチド配列を有する重鎖、及び、配列番号:79と少なくとも80%、好まし
くは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%
、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を
有するポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関
する。別の具体的な態様に従うと、本発明は、配列番号:78のポリペプチド配列を有す
る重鎖、及び配列番号:79のポリペプチド配列を有する軽鎖を含む、単離ヒト化抗体又
はその抗原結合断片に関する。
【0084】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、ヒト重鎖IgG1定常領域及びヒト軽鎖κ定常
領域を含む、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0085】
別の具体的な態様に従うと、本発明は、単離ヒト化抗体又はその抗原結合断片に関し、
抗体又は抗原結合断片はヒトPHF-タウに、5×10-9M以下の解離定数(KD)、
好ましくは1×10-9M以下、又は1×10-10M以下のKDで結合しており、KD
は、Biacore又はProteOnシステムを用いるなどの、表面プラズモン共鳴分
析により測定される。
【0086】
PHF-タウに結合するヒト化抗体及びその抗原結合断片の機能活性は、当該技術分野
において既知の方法により、そして本明細書に記載のとおりに特性決定することができる
。PHF-タウに結合する抗体及びその抗原結合断片の特性決定方法としては、Biac
ore、ELISA、及びFACS分析を含む親和性及び特異性アッセイ;免疫組織化学
分析;タウシーディングの阻害における抗体の効能を測定するための、インビトロ細胞ア
ッセイ及びインビボ注射アッセイ;抗体の、抗体依存性細胞介在性傷害(ADCC)、及
び補体依存性細胞傷害(CDC)活性の存在を検出するための細胞傷害性アッセイ;等が
挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態に従うと、PHF-タウに結合す
る抗体及びその抗原結合断片の特性決定方法としては、以下の実施例5、6、8、及び9
に記載するものが挙げられる。対照タウではなくPHF-タウに結合するヒト化抗体の、
例示的なマウス親抗体は抗体PT3であり、これは配列番号:25の重鎖可変領域、及び
配列番号:30の軽鎖可変領域を有する(例えば、米国特許第9,371,376号を参
照のこと。この全容が参照により組み込まれる)。
【0087】
いくつかの公知の方法を用いて本発明の抗体の結合エピトープを決定することができる
。例えば、両方の個別の構成成分の構造が知られている場合、インシリコでタンパク質-
タンパク質ドッキングを行って、適合する相互作用部位を特定することができる。抗原抗
体複合体を用いて水素-重水素(H/D)交換を行うことによって、抗体が結合する抗原
の領域をマッピングすることができる。抗原のセグメント及び点変異誘導を用いることに
より、抗体の結合に重要なアミノ酸の位置を特定することができる。抗体-抗原複合体の
共結晶構造を使用して、エピトープ及びパラトープに寄与する残基を特定することができ
る。特定の実施形態に従うと、本発明の抗体の結合エピトープの決定方法としては、以下
の実施例2、3、及び7に記載するものが挙げられる。
【0088】
本発明の抗体は、二重特異的又は多重特異的であってよい。例示的な二重特異的抗体は
、PHF-タウの2つの異なるエピトープに結合することができるか、又はPHF-タウ
及びアミロイドベータ(Aβ)に結合することができる。別の例示的な二重特異的抗体は
、PHF-タウと、インスリン受容体、トランスフェリン受容体、インスリン様成長因子
-1受容体、及びリポタンパク質受容体等の内因性血液脳関門トランスサイトーシス受容
体とに結合することができる。例示的な抗体は、IgG1タイプである。
【0089】
本発明の抗体の免疫エフェクターの特性は、当業者には既知の技術により、Fc修飾に
よって強化又はサイレンシングすることが可能である。例えば、C1q結合、補体依存性
細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、貧食、細胞表面受容
体(例えば、B細胞受容体(BCR))の下方制御などのFcエフェクター機能は、これ
らの活性を担うFcの残基を修飾することによって提供及び/又は制御され得る。薬物動
態学特性は、抗体の半減期を延ばすFcドメイン内で残基を変異させることによってもま
た向上することができる(Strohl,Curr Opin Biotechnol.
20:685-91,2009)。
【0090】
更に、本発明の抗体は、グリコシル化、異性化、脱グリコシル化、又はポリエチレング
リコール部分の付加及び脂質化等の自然界では生じない共有結合修飾等のプロセスによっ
て、翻訳後修飾してもよい。このような修飾はインビボ又はインビトロで行われ得る。例
えば、本発明の抗体はポリエチレングリコールと接合(コンジュゲート)(PEG化)す
ることによって薬物動態的なプロファイルを向上させることができる。接合(コンジュゲ
ーション)は、当業者に既知の方法によって行うことができる。治療用抗体のPEGとの
コンジュゲーションは、機能を妨げずに医薬動態を向上させることが示されている(Kn
ight et al.,Platelets.15:409-18,2004;Leo
ng et al.,Cytokine.16:106-19,2001;Yang e
t al.,Protein Eng.16:761-70,2003)。
【0091】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離ポリヌクレオチドに関する。タンパク質のアミノ酸配列を変えるこ
となく、タンパク質のコード配列を変える(例えば置換する、欠失する、挿入するなど)
ことができることが、当業者には理解されよう。したがって、本発明のヒト化抗体又はそ
の抗原結合断片をコードする核酸配列は、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく変
更することができることが当業者には理解されよう。例示的な単離ポリヌクレオチドは、
それぞれ配列番号:4、5、及び6に示す免疫グロブリン重鎖CDR HCDR1、HC
DR2、及びHCDR3を含むポリペプチド、又は、それぞれ配列番号:16、17、及
び18に示す免疫グロブリン軽鎖CDR LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含
むポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドである。他の例示的な単離ポリヌクレオ
チドは、本発明の抗体の可変領域をコードする、配列番号:36~39、又は41~44
に示す配列を有するポリヌクレオチドである。遺伝コードの縮重又は所与の発現系におけ
るコドンの選好性を考慮すると、本発明の抗体をコードする他のポリヌクレオチドも本発
明の範囲内に含まれる。本発明の単離核酸は、公知の組み換え又は合成技術を用いて作製
することができる。モノクローナル抗体をコードするDNAは、当該技術分野において公
知の方法を用いて容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマが生成される場合、
そのような細胞はそれらのDNAの供給源として機能することができる。あるいは、コー
ド配列と翻訳生成物が結合したディスプレイ技術、例えばファージ又はリボソームディス
プレイライブラリーを使用することができる。
【0092】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離ポリヌクレオチドを含むベクターに関する。プラスミド、コスミド
、ファージベクター、又はウイルスベクターなどの、本開示の観点から当業者に公知の任
意のベクターも使用することができる。いくつかの実施形態では、ベクターは、プラスミ
ドなどの組み換え発現ベクターである。ベクターは、例えば、プロモーター、リボソーム
結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、及び複製起点という、
発現ベクターの従来の機能を確立するための任意のエレメントを含むことができる。プロ
モーターは、常時発現型、誘導型、又は再形成可能なプロモーターであり得る。細胞に核
酸を送達することができる多数の発現ベクターが当技術分野において知られており、細胞
内で抗体又はその抗原結合断片を製造するために、本明細書で使用することができる。従
来のクローニング技術、又は人工遺伝子合成を使用して、本発明の実施形態に従った組み
換え発現ベクターを生成することができる。
【0093】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片をコードする単離ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関する。本開示の観点から、当
業者に知られている任意の宿主細胞を、本発明の抗体又は抗原結合断片の組み換え発現に
使用することができる。そのような宿主細胞は、真核細胞、細菌細胞、植物細胞又は古細
菌細胞であってよい。例示的な真核細胞は、哺乳動物、昆虫、鳥類、又は他の動物由来の
ものであってもよい。哺乳類真核細胞としては、SP2/0(アメリカ培養コレクション
(ATCC)、Manassas、Va、CRL-1581)、NS0(ヨーロッパ細胞
培養コレクション(ECACC)、Salisbury、Wiltshire、UK、E
CACC No.85110503)、FO(ATCC CRL-1646)及びAg6
53(ATCC CRL-1580)ネズミ細胞株などといった、ハイブリドーマ又は骨
髄腫の細胞株などの不死化細胞株が挙げられる。例示的なヒト骨髄腫細胞株は、U266
(ATTC CRL-TIB-196)である。他の有用な細胞株としては、CHO-K
1SV(Lonza Biologics)、CHO-K1(ATCC CRL-61、
Invitrogen)、又はDG44などのチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)
細胞に由来するものが挙げられる。
【0094】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片の製造方法であって、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を製造する
条件下において、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードするポリヌクレオチ
ドを含む細胞を培養することと、細胞又は細胞培養液から(例えば上清から)、抗体又は
その抗原結合断片を回収することとを含む、方法に関する。発現した抗体又はその抗原結
合断片を細胞から回収して、当該技術分野において通常的な技術に従い精製することがで
きる。
【0095】
医薬組成物及び治療方法
本発明の抗PHF-タウ抗体、又は本発明のその断片は、脳内でのタウの病理学的凝集
を伴う神経変性病、又はタウ異常症を有する患者、例えばADを患う患者における症状の
治療、低減、又は予防に使用することができる。
【0096】
したがって、別の一般的な態様において、本発明は、本発明の単離モノクローナル抗体
又はその抗原結合断片、及び医薬上許容できる担体を含む、医薬組成物に関する。
【0097】
別の一般的な態様において、本発明は、タウ異常症などの病気、疾患又は状態の症状の
治療又は低減を必要とする対象における、タウ異常症などの病気、疾患又は状態の症状の
治療又は低減方法であって、対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む、方法に関
する。
【0098】
別の一般的な態様において、本発明は、病理学的タウ凝集の低下又はタウ異常症の拡大
の低下を必要とする対象における、病理学的タウ凝集の低下又はタウ異常症の拡大の低下
方法であって、対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0099】
本発明の実施形態に従うと、医薬組成物は、治療有効量のモノクローナル抗PHF-タ
ウ抗体又はその抗原結合断片を含む。ヒト化抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片に
言及して本明細書で用いられる場合、「治療有効量」とは、病気、疾患又は状態の治療を
もたらす;病気、疾患又は状態の進行を予防する若しくは遅延させる;又は、免疫による
病気、疾患又は状態に関連する症状を低減する若しくは完全に緩和する、モノクローナル
抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片の量を意味する。
【0100】
特定の実施形態によれば、治療有効量は、以下の効果のうちの1つ、2つ、3つ、4つ
、又はそれ以上を達成するのに十分な治療の量を指す:(i)治療される疾患、障害若し
くは病態又はそれに関連する症状の重症度を低下又は改善すること、(ii)治療される
疾患、障害若しくは病態、又はそれに関連する症状の期間を短縮すること、(iii)治
療される疾患、障害若しくは病態、又はそれに関連する症状の進行を防止すること、(i
v)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれに関連する症状の退縮を生じさせるこ
と、(v)治療される疾患、障害又は病態、又はそれに関連する症状の進展又は発症を予
防すること、(vi)治療される疾患、障害又は病態、又はそれに関連する症状の再発を
防止すること、(vii)治療される疾患、障害、若しくは状態、又はそれに関連する症
状を有する対象の入院を減少させること、(viii)治療される疾患、障害若しくは状
態、又はそれに関連する症状を有する対象の入院期間を短縮させること、(ix)治療さ
れる疾患、障害又は病態、又はそれに関連する症状を有する対象の生存率を高めること、
(xi)治療される対象の疾患、障害若しくは状態、又はそれに関連する症状を阻害又は
軽減すること、及び/又は(xii)別の治療の予防又は治療効果を強化又は改善するこ
と。
【0101】
特定の実施形態に従うと、治療される病気、疾患又は状態はタウ異常症である。より具
体的な実施形態に従うと、治療される病気、疾患又は状態としては、家族性アルツハイマ
ー病、散発的アルツハイマー病、染色体17(FTDP-17)に関連したパーキンソン
症候群による前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、
進行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜
銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲ
ルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入
体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオ
ンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、
神経原線維濃縮による非ガマニアン(Guamanian)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキン
ソン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)が挙げられるが、これら
に限定されない。
【0102】
タウ異常症に関連する行動的表現型としては、認知障害、初期人格変化及び脱抑制、感
情鈍麻、無為症、無言症、失行症、反復症、常同運動/挙動、口愛過度、混乱、連続タス
クを計画又は組織化する能力の欠如、利己的行動/無神経、反社会的特徴、共感の欠如、
言葉のつかえ、錯誤的誤りは頻繁にあるが比較的理解力は保たれている失文症的な話し方
、理解障害及び換語欠陥、緩徐進行性歩行不安定性、後方突進、すくみ、頻繁な転倒、非
レボドパ反応性軸剛性、核上性注視麻痺、方形波痙攣、緩徐な垂直断続性運動、仮性球麻
痺、四肢失行症、筋緊張異常、皮質性感覚消失、及び振戦が挙げられる。
【0103】
治療を受けやすい患者としては、AD又は他のタウ異常症のリスクがある無症候性の個
体、及び現在症状を示している患者が挙げられるが、これらに限定されない。治療の影響
を受けやすい患者としては、ADの家族歴又はゲノムにおける遺伝的リスク因子の存在等
、ADの公知の遺伝的リスクを有する個体が挙げられる。例示的なリスク因子は、特に、
位置717、並びに位置670及び671におけるアミロイド前駆体タンパク質(APP
)の変異(それぞれ、Hardy及びSwedish変異)である。他のリスク因子は、
プレセニリン遺伝子PS1及びPS2、並びにApoE4における変異、高コレステロー
ル血症又はアテローム性動脈硬化症の家族歴である。現在ADに罹患している個体は、上
記リスク因子の存在によって特徴的な認知症から認識することができる。更に、ADを有
する個体を特定するために、多数の診断試験が利用可能である。これらとしては、脳脊髄
液のタウ濃度及びAβ42濃度の測定が挙げられる。タウ濃度の上昇及びAβ42濃度の
低下は、ADの存在を表す。また、ADに罹患している個体は、AD及び関連障害の協会
の基準によって診断することもできる。
【0104】
本発明の抗PHF-タウ抗体は、AD又は他のタウ異常症等、タウの病理学的凝集を伴
う神経変性疾患を治療又は予防するための治療剤及び予防剤の両方に好適である。無症候
性患者では、治療は何歳から開始してもよい(例えば、約10、15、20、25、30
歳)。しかし、通常、患者が約40、50、60、又は70歳に達するまで治療を始める
必要はない。治療は、典型的には、ある期間にわたる複数回投与を伴う。治療は、経時的
に治療剤に対する抗体、又は活性化T細胞若しくはB細胞の応答を評価することによって
モニタリングしてもよい。応答(反応)が低下した場合、追加用量を指示してよい。
【0105】
予防用途では、医薬組成物又は薬剤は、疾患の生化学的、組織学的、及び/又は挙動的
症状、その合併症、並びに疾患の発現中に提示される中間病理学的表現型を含む、疾患の
リスクをなくす又は低減する、重症度を低下させる、又は疾患の発症を遅らせるのに十分
な量で、ADに罹患しやすいか又はそうでなければADのリスクを有する患者に投与され
る。治療用途では、組成物又は薬剤は、疾患の症状(生化学的、組織学的、及び/又は挙
動的)のいずれかを低減、阻止、又は遅延させるのに十分な量で、かかる疾患が疑われる
か又は既に罹患している患者に投与される。治療薬の投与により、特徴的なアルツハイマ
ー病状を未だ発現していない患者における軽度の認知障害を低減又はなくすことができる
。
【0106】
治療有効量又は用量は、治療される疾患、障害又は病態、投与手段、標的部位、対象の
生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康状態を含む)、対象がヒトであるか動物である
か、投与される他の薬剤、及び、治療が予防的なものであるか治療的なものであるか、な
どの様々な因子によって異なり得る。治療用量は、安全性及び効能を最適化するために最
適に漸増される。
【0107】
本発明の抗体は、医薬上許容できる担体内の活性成分として、治療有効量の抗体を含有
する医薬組成物として調製することができる。担体は、液体、例えば水、及び落花生油、
大豆油、鉱油、ゴマ油等の、石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油であってよ
い。例えば、0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを用いることができる。これらの
溶液は滅菌され、一般には粒子状物質を含まない。これらは、従来から公知の滅菌技術(
例えば、濾過)によって滅菌することができる。組成物は、生理学的条件に近似させるの
に必要な医薬上許容できる補助物質、例えばpH調節剤、並びに緩衝剤、安定化剤、増粘
剤、潤滑剤、及び着色剤などを含有することができる。このような医薬配合物における本
発明の抗体の濃度は広い範囲で、すなわち約0.5重量%未満から、通常は約1重量%又
は少なくとも約1重量%から、最大15又は20重量%まで変えることができ、主に必要
とされる用量、液の体積、粘度などに基づいて、選択される特定の投与様式に従って選択
される。
【0108】
本発明の抗体を治療的に使用するための投与様式は、薬剤を宿主に送達する任意の好適
な経路であってもよい。例えば、本明細書に記載する組成物は、非経口的投与、例えば皮
内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻孔内、若しくは頭蓋内投与に好適であるように配
合することができ、又は、脳若しくは脊椎の脳脊髄液内に投与することができる。
【0109】
治療は、単回投与スケジュール、又は複数回投与スケジュールで行ってもよく、複数回
投与計画では、一次治療過程が1~10回の別個の投与と、応答を維持しかつ/又は強化
するのに必要な後続の時間間隔で他の投与とを行い、例えば第2の投与を、1~4ヶ月で
行い、また必要であれば、次の投与を数ヶ月後に行う。好適な治療スケジュールの例とし
ては、(i)0、1ヶ月及び6ヶ月、(ii)0、7日及び1ヶ月、(iii)0及び1
ヶ月、(iv)0及び6ヶ月、又は疾病の症候を軽減し、若しくは疾病の重症度を低下さ
せることが期待される、所望の応答を誘発するのに十分な他のスケジュールが挙げられる
。
【0110】
本発明の抗体は、保存のために凍結乾燥させ、使用前に好適な担体に溶解させることが
できる。この技術は、抗体及び他のタンパク質調製物に効果的であることが示されており
、当該技術分野において公知の凍結乾燥及び溶解技術を用いることができる。
【0111】
特定の実施形態に従うと、タウ異常症の治療で使用される組成物を、関係する神経変性
病の治療に効果的な他の作用物質と組み合わせて使用することができる。ADの場合、本
発明の抗体は、アミロイドベータ(Aβ)の沈着を低減又は予防する作用物質と組み合わ
せて投与することができる。PHF-タウ及びAβの病理は相乗的である可能性がある。
したがって、PHF-タウ、並びにAβ及びAβ関連病理の両方のクリアランスを同時に
標的とする併用療法は、各々を個々に標的とするよりも効果的である場合がある。パーキ
ンソン病及び関連する神経変性疾患の場合、α-シヌクレインタンパク質の凝集形態をク
リアランスするための免疫修飾も新たに開発された治療法である。タウ及びα-シヌクレ
インタンパク質のクリアランスを同時に標的とする併用療法は、いずれかのタンパク質を
個々に標的とするよりも効果的であり得る。
【0112】
別の一般的な態様において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合
断片を含む医薬組成物の製造方法であって、医薬組成物を得るために、モノクローナル抗
体又はその抗原結合断片を医薬上許容できる担体と組み合わせることを含む、方法に関す
る。
【0113】
診断方法及びキット
本発明のモノクローナル抗PHF-タウ抗体を、対象におけるAD又は他のタウ異常症
の診断方法において使用することができる。
【0114】
したがって、別の一般的な態様において、本発明は、対象にPHF-タウが存在するこ
とを検出する方法、及び、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を使用して
対象にPHF-タウが存在することを検出することにより、タウ異常症を診断する方法に
関する。
【0115】
生体サンプルを診断抗体試薬と接触させ、対象のサンプルにおいて、診断抗体試薬のリ
ン酸化タウへの結合を検出することにより、対象の生体サンプル(例えば血清、血漿、間
質液、又は大脳脊髄液サンプル)においてリン酸化タウを検出することができる。検出を
実施するためのアッセイとしては、公知の方法、例えばELISA、免疫組織化学法、ウ
ェスタンブロット、又はインビトロイメージングが挙げられる。例示的な診断抗体は、本
発明の抗体PT3である。
【0116】
診断抗体又は同様の試薬は、患者の体内に静脈内注射により投与することができ、又は
作用物質を宿主に送達する任意の好適な経路により脳内に直接投与することができる。抗
体の用量は、治療方法と同じ範囲内であるべきである。典型的には、抗体は標識されるが
、いくつかの方法において、リン酸化タウに対して親和性を有する一次抗体は未標識であ
り、二次標識剤が、一次抗体に結合させるために用いられる。標識の選択は、検出手段に
依存する。例えば、蛍光標識は、光学検出に好適である。常磁性標識の使用は、外科的介
入のないトモグラフィー検出に好適である。また、放射標識は、PET又はSPECTを
用いて検出され得る。
【0117】
診断は、対象由来のサンプル又は対象における、標識PHF-タウ、タウ凝集体、及び
/又は神経原線維変化の数、大きさ、及び/又は強度を対応するベースライン値と比較す
ることによって行われる。ベースライン値は、健全な個体の集団における平均レベルを表
し得る。また、ベースライン値は、同じ対象において決定された以前の値を表す。
【0118】
また、上記の診断方法は、治療前、治療中、又は治療後の対象におけるリン酸化タウの
存在を検出することによって治療に対する対象の応答をモニタリングするために用いるこ
ともできる。ベースラインに対する値の減少は、治療に対する陽性応答を示す。また、値
は、病理学的タウが脳からクリアランスされたとき、生物学的流体において一時的に増加
する場合がある。
【0119】
本発明は、更に、上記診断及びモニタリング方法を実施するためのキットに関する。典
型的には、このようなキットには、本発明の抗体等の診断試薬と、任意選択的に検出可能
な標識とが入っている。診断抗体自体は、直接検出可能であるか又は二次反応(例えば、
ストレプトアビジンとの反応)を介して検出可能である、検出可能な標識(例えば、蛍光
標識、ビオチン等)を含有してもよい。あるいは、検出可能な標識を含有する第2の試薬
を使用してもよく、この場合、第2の試薬は、一次抗体に対する結合特異性を有する。生
物学的サンプルにおけるPHF-タウを測定するのに好適な診断キットでは、キットの抗
体は、マイクロタイターディッシュのウェル等の固相に予め結合して供給され得る。
【0120】
本出願全体で引用した全ての引用参考文献(論文参考文献、交付済み特許、公開された
特許出願、及び同時係属の特許出願を含む)の内容は、参照により本明細書に明白に組み
込まれる。
【0121】
実施形態
本発明は以下の非限定的な実施形態も提供する。
【0122】
実施形態1は、タウタンパク質のプロリンリッチなドメインにおけるリン酸化エピトー
プにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する、単離モノクローナル抗体又はその抗原結
合断片である。
【0123】
実施形態2は、タウタンパク質のリン酸化T212を含むリン酸化エピトープにおいて
リン酸化タウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり
、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号:54のアミノ酸配列を有
する、又はその中のリン酸化エピトープに結合するのが好ましい。
【0124】
実施形態3は、タウタンパク質のリン酸化T217を含むリン酸化エピトープにおいて
リン酸化タウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり
、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号:52のアミノ酸配列を有
する、又はその中のリン酸化エピトープに結合するのが好ましい。
【0125】
実施形態4は、タウタンパク質のリン酸化T212及びリン酸化T217を含むリン酸
化エピトープにおいてリン酸化タウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はそ
の抗原結合断片であり、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号:4
8のアミノ酸配列を有する、又はその中にあるリン酸化エピトープに結合するのが好まし
い。
【0126】
実施形態5は、
(1)それぞれ配列番号:4、5、及び6のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、それぞれ配列番号:16、17、及び18のポリペプチド配
列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(2)それぞれ配列番号:1、2、及び3のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:13、14、及び15のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(3)それぞれ配列番号:7、8、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1、H
CDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21のポリペ
プチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(4)それぞれ配列番号:10、11、及び12のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:22、23、及び24の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(5)それぞれ配列番号:80、81、及び9のポリペプチド配列を有するHCDR1
、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポ
リペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(6)それぞれ配列番号:71、72、73のポリペプチド配列を有するHCDR1、
HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:70、20、及び21のポリ
ペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(7)それぞれ配列番号:71、72、及び73のポリペプチド配列を有するHCDR
1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号:19、20、及び21の
ポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、及びLCDR3;
(8)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(9)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR2
、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のLC
DR1、LCDR2、及びLCDR3;
(10)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:34のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;又は
(11)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH領域のHCDR1、HCDR
2、及びHCDR3、並びに、配列番号:31のポリペプチド配列を有するVL領域のL
CDR1、LCDR2、及びLCDR3;
を含み、
抗体又はその抗原結合断片が、PHF-タウと結合しており、
重鎖可変領域ドメイン及び軽鎖可変領域ドメインのフレームワーク領域が、ヒト免疫グ
ロブリンのアミノ酸配列を含む、
単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0127】
実施形態6は、配列番号:26、27、28、若しくは29と少なくとも80%、好ま
しくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95
%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性
を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は、配列番号:31、32、33、
若しくは34と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも
90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を
有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域
を含む、単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0128】
実施形態7は、配列番号:74、76、及び78の重鎖の可変領域と少なくとも80%
、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくと
も95%、より好ましくは少なくとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の
同一性を有するポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は、配列番号:75、77、
及び79のいずれかの軽鎖の可変領域と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%
、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少な
くとも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配
列を有する軽鎖可変領域を含む、単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0129】
実施形態8は、
(1)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(2)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:34のポリペ
プチド配列を有するVL;
(3)配列番号:26のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:34のポリペ
プチド配列を有するVL;
(4)配列番号:28のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(5)配列番号:27のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:31のポリペ
プチド配列を有するVL;
(6)配列番号:74の重鎖のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:75の
軽鎖のポリペプチド配列を有するVL;
(7)配列番号:76の重鎖のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:77の
軽鎖のポリペプチド配列を有するVL;又は
(8)配列番号:78の重鎖のポリペプチド配列を有するVH、及び配列番号:79の
軽鎖のポリペプチド配列を有するVL;
を含む、単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0130】
実施形態9は、配列番号:45と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好
ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくと
も98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列を
有する重鎖、及び、配列番号:46と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、
好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なく
とも98%の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有するポリペプチド配列
を有する軽鎖を含む、単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0131】
実施形態10は、ヒト重鎖IgG1定常領域及びヒト軽鎖κ定常領域を含む、実施形態
1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0132】
実施形態11は、抗体又は抗原結合断片が、5×10-9M以下のKD、好ましくは1
×10-9M以下、又は1×10-10M以下のKDでヒトPHF-タウに結合しており
、KDは、Biacoreシステムを用いるなどにより、表面プラズモン共鳴分析により
測定される、実施形態1~10のいずれかの単離モノクローナル抗体又は抗原結合断片で
ある。
【0133】
実施形態12は、実施形態1~12のいずれか1つに記載のモノクローナル抗体又は抗
原結合断片をコードする、単離核酸である。
【0134】
実施形態13は、実施形態12に記載の単離核酸を含む、ベクターである。
【0135】
実施形態14は、実施形態13に記載の核酸を含む、宿主細胞である。
【0136】
実施形態15は、実施形態1~11のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又
は抗原結合断片、及び医薬上許容できる担体を含む、医薬組成物である。
【0137】
実施形態16は、病理学的タウ凝集の低減、又はタウ異常症の拡大の低減を必要とする
対象における、病理学的タウ凝集の低減、又はタウ異常症の拡大の低減方法であって、対
象に、実施形態15に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法である。
【0138】
実施形態17は、タウ異常症の治療を必要とする対象におけるタウ異常症の治療方法で
あって、対象に、実施形態15に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法である。
【0139】
実施形態18は、タウ異常症の治療を必要とする対象において、対象に、タウ異常症を
治療するための追加の作用物質を投与することを更に含む、実施形態17に記載の方法で
ある。
【0140】
実施形態19は、タウ異常症の治療を必要とする対象におけるタウ異常症の治療方法で
あって、対象に実施形態15に記載の医薬組成物を投与することを含み、タウ異常症は、
家族性アルツハイマー病、散発的アルツハイマー病、染色体17(FTDP-17)に関
連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核
変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症、石灰化によるび漫性
神経原線維濃縮、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症合
併症、ダウン症、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-
シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン
・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直
性ジストロフィー、神経原線維濃縮による非ガマニアン(Guamanian)運動ニューロン疾
患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)から
なる群から選択される、方法である。
【0141】
実施形態20は、タウ異常症の治療を必要とする対象において、対象に、タウ異常症を
治療するための追加の作用物質を投与することを更に含む、実施形態19に記載の方法で
ある。
【0142】
実施形態21は、抗体又は抗原結合断片を製造する条件下において、抗体又は抗原結合
断片をコードする核酸を含む細胞を培養することと、細胞又は細胞培養液から抗体又は抗
原結合断片を回収することとを含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載のモノクロ
ーナル抗体又は抗原結合断片の製造方法である。
【0143】
実施形態22は、医薬組成物を得るために、抗体又は抗原結合断片を医薬上許容できる
担体と組み合わせることを含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載のモノクローナ
ル抗体又は抗原結合断片を含む、医薬組成物の製造方法である。
【0144】
実施形態23は、タウ異常症の治療を必要とする対象において、タウ異常症の治療に使
用するための、実施形態1~11のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又は抗
原結合断片である。
【0145】
実施形態24は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、家族性アルツハイマー
病、散発的アルツハイマー病、染色体17(FTDP-17)に関連したパーキンソン症
候群による前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進
行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜銀
顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲル
ストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体
筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオン
タンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神
経原線維濃縮による非ガマニアン(Guamanian)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソ
ン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)などの、タウ異常症の治療
に使用するための、実施形態1~11のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又
は抗原結合断片、又は実施形態15に記載の医薬組成物である。
【0146】
実施形態25は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症の治療にお
ける薬剤を製造するための、実施形態1~11のいずれか1つに記載の単離モノクローナ
ル抗体又は抗原結合断片の使用である。
【0147】
実施形態26は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、家族性アルツハイマー
病、散発的アルツハイマー病、染色体17(FTDP-17)に関連したパーキンソン症
候群による前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進
行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症、石灰化によるび漫性神経原線維濃縮、嗜銀
顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症合併症、ダウン症、ゲル
ストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン-シュパッツ病、封入体
筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオン
タンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神
経原線維濃縮による非ガマニアン(Guamanian)運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソ
ン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)などの、タウ異常症の治療
用薬剤を製造するための、実施形態1~11のいずれか1つに記載の単離モノクローナル
抗体又は抗原結合断片の使用である。
【0148】
実施形態27は、対象の生体サンプルにおけるリン酸化タウの存在を検出する方法であ
って、生体サンプルを、実施形態1~11のいずれか1つに記載の抗体又は抗原結合断片
と接触させることと、対象のサンプルにおいて、抗体又は抗原結合断片のPHF-タウへ
の結合を検出することとを含む、方法である。
【0149】
実施形態28は、生体サンプルが血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液サンプル
である、実施形態27に記載の方法である。
【0150】
実施形態29は、対象における、対象の生体サンプルでのリン酸化タウの存在を検出す
ることによる、タウ異常症の診断方法であって、生体サンプルを、実施形態1~11のい
ずれか1つに記載の抗体又は抗原結合断片と接触させることと、対象のサンプルにおいて
、抗体又は抗原結合断片のPHF-タウへの結合を検出することとを含む、方法である。
【実施例0151】
以下の本発明の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施
例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって定められる点
を理解されたい。
【0152】
実施例1:抗体の特性決定
PT3、及びAD脳からの、PHF-タウが富化した(ePHF-タウ)のBalb/
cマウスの免疫付与に由来する1組の抗体を、直接酵素結合免疫吸着測定法(ELISA
)、ウェスタンブロット、及び免疫組織化学(IHC)で、ホスホ-タウ対非ホスホ-タ
ウでの標的選択性について試験した。PT3は、配列番号:25の重鎖可変領域アミノ酸
配列、及び配列番号:30の軽鎖可変領域アミノ酸配列を有するマウス-ハイブリドーマ
由来の抗体である。PT3のVH及びVLドメインについてのCDR配列は、米国特許第
9,371,376号に示されている。ヒトフレームワーク適応(HFA)法(実施例4
を参照)を用いてPT3をヒト化し、本発明のヒト化抗-ホスホ-タウ抗体を生成した(
表1及び2を参照)。ヒト化B296は、PT3と同じCDR配列を有する。ヒト化mA
b B296は親和性成熟しており、本発明の更なる抗体を生成した(表3を参照)。
【0153】
ELISA
マウスIgG1(mIgG1)としての組み換えPT3を、ELISAフォーマットに
おいて、富化PHF-タウ及び組み換えヒト野生型タウへの結合について評価した。この
組み換えに由来するPT3を、ハイブリドーマ由来の精製PT3と比較した。結果は、精
製ハイブリドーマ由来のPT3抗体バッチ、及び組み換え由来のPT3抗体のバッチの両
方の間で相当の結合力価曲線を示した(
図1)。強力な結合がPHF-タウには存在し、
最小の結合がより高濃度にて可溶性タウに存在した。
【0154】
ウェスタンブロット
PT3を用いて、精製非リン酸化組み換えヒトタウ、及びAD脳から調製したサルコシ
ル不溶性PHF-タウに対してウェスタンブロット分析を実施した。PT3は、ホスホ選
択性参照抗体AT8 pS202/pT205/pS208と同様に、PHF-タウとの
選択交差性を示した(Mercken et al.,Acta Neuropatho
l.84(3):265-72,1992;Malia et al.,Protein
s.84:427-434,2016)and AT100 pT212/pS214(
Mercken et al.,1992,Id.;Hoffmann et al.,
Biochemistry.36(26):8114-24,1997)(
図2)。ホス
ホとは無関係の参照抗体HT7(Mercken,Ph.D.Thesis:Unive
rsity of Antwerp,Wilrijk-Antwerp,1991)を、
組み換えタウ及びPHF-タウの両方と反応させた。ホスホ選択性であるエピトープに向
けられるBT2は、S199/S202においてリン酸化タウではなく、組み換えタウの
みと反応した(Mercken,1991,Id.)。他のウェスタンブロット実験では
、PT3は、より高濃度にてブロットした際でも、組み換えタウとは弱い反応性を示した
。
【0155】
ヒト脳における免疫組織化学法
AD及び対照脳の、ホルマリン固定したパラフィン埋め込み切片で免疫組織化学分析を
実施し、in situでタウ異常症との反応性を確認した。PT3は、参照タウ異常症
特異的診断抗体陽性対照AT8と同様の、しかしより強力な反応性パターンを示した(図
3)。これらの実験条件下においては、対照脳の通常のタウとは、有意な反応が検出され
なかった(
図4)。
【0156】
野生型及びタウノックアウトマウスでの免疫組織化学法
IHC分析を、野生型及びノックアウトマウス脳のPT3で実施した。野生型マウス脳
のPT3でのIHC分析では、最適なエピトープ保存条件下にて、野生型タウの選択的プ
ールとの反応性を観察することが可能であることが示される。PT3の染色パターンによ
り、細胞体樹状突起の局在性(
図5、矢印)が明らかとなり、ラット及びヒト生検由来組
織の抗ホスホ-タウ抗体について、文献に記載された染色が想起される(Matsuo
et al.,Neuron.13(4):989-1002,1994)。タウ-1抗
体で観察された、タウの典型的な非ホスホ軸索染色パターン(
図6、矢印)は存在せず、
これは、PT3が微小管結合タウの生理学的に重要なプールとは限定的な反応性を有する
ことを示している。タウノックアウト動物での反応性の欠如により、PT3染色パターン
のタウ特異性が確認される。
【0157】
野生型マウス脳のPT3エピトープ(pT212/pT217、実施例2を参照)にお
けるリン酸化反応の存在は、Morris et al.(Nat Neurosci.
18(8):1183-9,2015)による、質量分光分析における、T212及びT
217のマウスホモログにおいてリン酸化が検出されることにより支持される。PT3エ
ピトープは、タウリン酸化及びアグリゲート形成の初期段階にもまた存在することが示唆
され、このことは、治療用抗体エピトープに対して好ましい。
【0158】
表面プラズモン共鳴(SPR)による結合評価
PT1及びPT3抗PHF-タウ抗体について、ProteOn(Bio-Rad,H
ercules,CA)及びBiacore(Biacore,Uppsala,Swe
den)機器にてSPRを行うことにより、PHF-タウ及び組み換えタウとの相互作用
を評価した。全てのタウ抗体HT7を陽性対照として試験し、AT8を参照抗PHF-タ
ウ抗体として試験した。
【0159】
表4及び5は、PHF-タウ及び組み換えタウとの、抗体の親和性評価の代表的な結果
を示す。PT3モノクローナル抗体は、PHF-タウに対して非常に強力な結合を示した
(表4)。
【0160】
【表4】
n≧3の複製物に関しては、標準偏差を報告する;
hyb、ハイブリドーマにより発現したmAb;rec、組み換えmAb;
括弧内の
aK
D値は、75nMの注射したmAb濃度を除外することにより得られた。
【0161】
組み換えPT3-mG2aの見かけの結合親和性(KD)は、16pMに等しいか又は
これより強く、非常に遅い解離速度を有した。組み換えタウへの非常に弱い結合のみが、
4つの複製物のうちの1つにおける、ハイブリドーマにより発現したPT3に関して観察
された(表5)。
【0162】
【表5】
hyb、ハイブリドーマにより発現したmAb;rec、組み換え:
a Sigma-Aldrich(St.Louis,Mo)製の組み換えタウ(5倍
希釈液にて0.12~75nM)によりProteOnにて試験をし、その後凝集したと
判断した。他の全ての試験サンプルについて、インハウスで生成した組み換えタウをBi
acoreで使用した。
【0163】
エピトープの複数のコピーを有するPHF-タウの多重結合/凝集性質、及び、IgG
の二価の性質のために、モノクローナル抗体の親和性が、本研究フォーマットの結合活性
により影響を受けた。Fabの親和性は、抗体の固有親和性についての情報をもたらす。
PT3 Fabは、PHF-タウへの強力な固有結合親和性(KD=63pM)、及び遅
い解離速度を示した(表4)。Biacore SPRにおける、組み換えタウとのFa
bの反応性は、分析条件下において検出限界を下回っていた(表5)。
【0164】
特性決定研究により、PT3はPHF-タウに選択的に結合し、AD脳に由来するPH
F-タウに対して高親和性を有することが示された。
【0165】
実施例2-PT3のエピトープマッピング
表6に示すホスホペプチドのパネルを用いた表面プラズモン共鳴(ProteOn)に
より、PT3のエピトープを決定した。
【0166】
材料及び方法。PT3 Fab(B187)を、マウス可変領域及びヒトIgG1/κ
定常領域を有するキメラ版として作製し、重鎖のC末端に6xHisタグが存在する(V
H10、配列番号:25及びVL7、配列番号:30)。FabをHEK 293細胞で
の一時的発現により作製し、Ni-アフィニティクロマトグラフィーにより精製し、20
mMのTris(pH7.4、50nMのNaCl)(Sino Biological
s)に透析した。
【0167】
表6に示す14個のタウホスホペプチドの各々に対する、PT3 Fabの結合親和性
を、Bio-Rad ProteOn XPR36を使用して表面プラズモン共鳴(SP
R)により評価した。短鎖ビオチン、及びN末端のPEG4部分を用いる標準的な化学的
方法により、ペプチド(New England Peptide)を合成した。ビオチ
ン化ペプチドを、ニュートラアビジンでコーティングしたNLCバイオセンサチップ上で
捕捉し、PT3 Fabを表面に流して反応速度論的パラメータを測定した。
【0168】
全ての実験は、25℃にて、ランニング緩衝液及びサンプル希釈緩衝液の両方としてリ
ン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、0.005% Tween20(PBST))を使用
して実施した。サンプルをランニングする前に、チップ表面にPBSTを1時間ランニン
グすることにより、NLCチップをコンディショニングした。ペプチドをPBST中で1
0ng/mLまで希釈し、30μL/分にて100秒流路上に注入することにより、約5
~10RUのペプチドをチップ表面上に捕捉した。PT3 Fabの連続希釈液(1.1
~90nM)を分析し、ペプチド-8を除いて、各濃度を重複して測定した。ペプチドの
捕捉後、抗体滴定には、緩衝液のみを、60μL/分にて3分間(会合段階)、続いて3
00秒間、注入した(解離段階)。
【0169】
スポット間の応答を差し引くことによりデータを二重参照し、緩衝液のみを注入するこ
とにより、曲線を生成した。30μL/分で100秒の接触時間にわたり、0.85%リ
ン酸を一度注入し、続いて、次の抗体滴定注入の前にランニング緩衝液を4回注入するこ
とで、チップ表面を再生した。データ処理及び反応速度論的解析を、機器ソフトウェアを
使用して行った。単純なラングミュア1:1結合モデルを用いてデータを分析した。
【0170】
結果。PT3 Fabの反応速度論的速度定数及び平衡結合親和性を表6に示す。
【0171】
【表6】
n=2について、範囲を報告する;
*ペプチド-3について、n=3であり、標準偏差を報告する;
**ペプチド-8について、n=1であり、平均又は範囲は報告されない;
***注記しない限り、全てのペプチドはタウ残基204~225を含み(アイソフォ
ーム2N4R)、N末端に短鎖ビオチン部位(SCBiot)及びdPEG4、並びにC
末端にアミドを含有する。
#ペプチド-11は、タウ残基202~220を含む(アイソフォーム2N4R)。
【0172】
PT3 Fabは、T212又はT217がリン酸化したペプチドにナノ分子結合した
ことを示し、PT3 Fabの結合は、T212及びT217の両方がリン酸化した際に
向上した。PT3 Fabは、pT212及び/又はpT217を含有するペプチドに最
も良く結合した。PT3 Fabは、T212/T217がリン酸化したタウペプチド(
ペプチド-2)、及びT212/S214/T217がリン酸化したタウペプチド(ペプ
チド-1)に、同様の親和性で結合し、このことは、S214における追加のリン酸化が
、PT3 Fabの結合を向上させないことを示している。PT3 Fabは、pS21
4-タウペプチド(ペプチド-9)に非常に弱い結合のみを有した。S210が単独で、
又は他のリン酸化残基と組み合わせてリン酸化された場合、結合はほとんど、ないしは全
く観察されなかった。T220のリン酸化は、PT3 Fabに対する結合活性の喪失に
寄与するようであった(ペプチド-9対ペプチド-13)。非リン酸化タウペプチド(ペ
プチド-C)に対して、PT3 Fabの結合活性は検出されなかった。PT3はタウの
プロリンリッチなドメイン内のホスホエピトープに結合する。
【0173】
結合の検討は、PT3エピトープがpT212及びpT217を含むこと、並びに、P
T3の最大結合エピトープが、二重リン酸化したpT212/pT217-タウを含むこ
とを示唆している。PT3のエピトープは、ホスホ依存性の抗タウ抗体用の、報告されて
いる他のエピトープ、例えばAT8(pS202/pT205/pS208;Malia
et al.,2016 Id.)、AT180(pT231;Goedert et
al.,Biochemical J.301(Pt3):871-877)、AT2
70(pT181;Goedert et al.,Id.)、PHF1(pS396/
pS404;Otvos et al.,J Neurosci Res.39(6):
669-73,1994)、12E8(pS262;Seubert et al.,J
Biol Chem.270(32):18917-22,1995)、抗タウpS4
22抗体(Collin et al.,Brain.137(Pt 10):2834
-46,2014)、及び抗タウpS409抗体(Lee et al.,Cell R
ep.16(6):1690-700,2016)とは異なる。
【0174】
実施例3-PT3 Fab+pT212/pT217-タウペプチド複合体の結晶構造
X線結晶構造解析により、2つのタウホスホペプチドを有するPT3 Fab(B18
7)の共構造を測定し、これにより、タウエピトープ及びPT3パラトープの同定を行っ
た。
【0175】
サンプル調製及び結晶化。New England Peptidesにより結晶化用
のペプチドを合成した。これは、以下の配列を有した:残基T212、S214、及びT
217がリン酸化した、タウ-441(2N4Rアイソフォーム)の残基207~220
に対応する、Ac-GSRSR(pT)P(pS)LP(pT)PPT-OH(配列番号
:61)(pT212/pS214/pT217-タウペプチド)、並びに、T212及
びT217がリン酸化した、残基210~222に対応するAc-SR(pT)PSLP
(pT)PPTRE-OH(配列番号:62)(pT212/pT217-タウペプチド
)。凍結乾燥したペプチドを100mMのTris(pH8.5、約55mg/mL)に
溶解させた。
【0176】
PT3 Fabを19.64mg/mL又は17.76mg/mLまで濃縮し、10.
7モル過剰、又は9.3モル過剰のpT212/pS214/pT217-タウペプチド
、又はpT212/pT217ペプチドと混合し、それぞれ、20mMのTris(pH
7.5)中で16.9mg/mL、及び100mM又は50mMのNaCl中で16.7
mg/mLの最終複合体濃度にした。Mosquito結晶化ロボットを使用し、150
nLの複合体及び150nLのリザーバ溶液を混合して、インハウススクリーン及びPE
G(Qiagen)により、結晶化を実施した。回折用結晶を、以下の条件で入手した:
0.1Mのアセテート(pH4.5)、18%のPEG3350、0.2のMgCl2中
の、PT3 Fab+pT212/pS214/pT217-タウペプチド複合体、及び
20%のPEG3350、0.2Mのリン酸アンモニウム(一塩基性)中のPT3 Fa
b+pT212/pT217-タウペプチド複合体。
【0177】
データ収集及び構造測定。PT3 Fab+pT212/pS214/pT217-タ
ウペプチド複合体の結晶を、0.1Mのアセテート(pH4.5)、18%のPEG33
50、0.2MのMgCl2(母液)から回収し、20%グリセロールを補充した母液か
らなる凍害防止溶液と混合した。液体窒素中で結晶を急速冷却し、OsmicTM Va
riMax(商標)共焦点光学素子、Saturn 944 CCD検出器、及びX-s
tream(商標)2000凍結冷却システム(リガク)を装着した、Rigaku M
icroMaxTM-007HF微焦点X線発生器でデータを収集した。
【0178】
データをXDS(Kabsch,Acta Crystallogr D Biol
Crystallogr.66(Pt 2):125-32,2010)で処理した。F
ab H3-23:L1-39(PDB ID:5I19)Fabを研究モデルとして使
用し、PHENIXスイートのプログラム(Adams et al.,Acta Cr
ystallogr D Biol Crystallogr.66(Pt 2):21
3-21,2010)にて、フェーザー(McCoy et al.,J Appl C
rystallogr.40(Pt 4):658-674,2007)を用いて分子交
換を実施した。Phenix.xtriageにより、7%双晶画分による結晶中で、擬
欠面双晶を同定した。大多数のモデルビルディングについて双晶精密化を用いて、精密化
を実施した。モデルビルディングにはCoot(Emsley and Cowtan,
Acta Crystallogr D Biol Crystallogr.60(P
t 12 Pt 1):2126-32,2004)を用い、精密化にはphenix.
refine(Adams et al.,2010,Id.)を用いた。双晶精密化は
マップを改善しなかったことが後で判明したため、精密化の最終段階では、双晶精密化を
用いなかった。データ及び精密化の統計を表7に示す。
【0179】
【表7】
最高の解像度シェルについての値を、括弧内に示す。
【0180】
PT3 Fab+pT212/pT217-タウペプチド複合体の単結晶を、結晶化液
滴から取り出し、20%グリセロールを補充したリザーバ溶液(20%のPEG3350
0、2Mリン酸アンモニウム(一塩基性))中に数秒間浸漬させ、液体窒素中で急速冷却
した。Advanced Photon Source(Argonne,IL)IMC
A-CATビームライン17-ID-Bにて、100Kでデータを収集した。画像半度当
たり0.5秒の曝露時間で、180°回転でPilatus 6M検出器にて回折強度を
収集した。XDS(Kabsch,2010,Id.)でデータを、2.0Åの最大解像
度まで処理した。調査モデルとしてPT3 Fab+pT212/pS214/pT21
7-タウペプチド構造を使用して、プログラムフェーザー(McCoy et al.,
2007,Id.)での分子交換により、構造を決定した。NCS(Adams et
al.,2010,Id.)を使用して、phenix.refineにより構造精密化
を行った。プログラムCoot(Emsley及びCowtan,2004,Id.)を
使用して、モデル調節を実施した。X線データ収集及び精密化の統計を、表7に示す。4
.0Åの距離カットオフを用いて、CONTACT(Collaborative Co
mputational Project,Number 4,Acta Crysta
llogr D Biol Crystallogr.50(Pt 5):760-3,
1994)により分子間接触距離を計算し、Pymolにより目視検査した。
【0181】
構造分析。pT212/pS214/pT217-タウペプチドを有するPT3 Fa
bの構造を、2.5Åの解像度で測定した。PT3 Fab+pT212/pT217-
タウペプチド構造について以下で記載するように、非対称ユニット当たり、複合体の3つ
のコピーが存在する。T212及びT217もまたリン酸化された場合に、PT3はpS
214のホスフェートとは相互作用しない(データは図示せず)ことが、構造により示さ
れ、このことは、ProteOnによるホスホペプチドマッピングにより支持される(実
施例2)。
【0182】
pT212/pT217-タウペプチドを有するPT3 Fabの構造を、2.0Åの
解像度にてX線結晶構造解析により決定した(
図7)。非対称ユニット中には複合体の3
つのコピー(コピー1:鎖A、C、E;コピー2:鎖B、D、F;コピー3:鎖H、L、
P)が存在し、これらは重鎖A、C、及びH、軽鎖B、D、及びL、並びにペプチド鎖E
、F、及びPからなる。3つのコピーは非常に類似しており、可変領域は0.3Årms
d以内にあった。
図7~8は、コピー3(鎖H、L、P)のものである。
図7に示すよう
に、Fab重鎖及び軽鎖は浅い結合ポケットを形成し、ペプチドがFabを横切って配置
される。タウホスホペプチドは、ポリプロリン-IIヘリックス二次構造に一致する特徴
を有する、延びた構造の中にある。
【0183】
相互作用海面を含む、PT3 Fabパラトープ及びpT212/pT217-タウペ
プチドエピトープ残基を、
図8及び9、並びに表8に示す。PT3とそのエピトープペプ
チドとの界面はファン・デル・ワールス及び静電相互作用で構成され、ペプチド残基21
1から221まで延びる。pT212/pT217-タウペプチドとの複合体中のPT3
Fabの構造は、エピトープがpT212及びpT217のホスフェートを含むことを
示す。重鎖Y32ヒドロキシル基は、pT212のホスフェート酸素と重要な水素結合を
形成する。T28(VH)の側鎖のヒドロキシル基もまた、pT212のホスフェート酸
素と水素結合を形成する。重鎖K53は、鍵となる塩橋相互作用をpT217と形成する
。重鎖W99は、ペプチドのL215及びP216の側鎖残基と疎水性相互作用を形成す
る。重鎖残基W104は、ペプチドと広範囲にわたる相互作用を有し、また、VH/VL
界面の一部を形成する。軽鎖Y32は、P219と疎水性相互作用を形成する。pT21
2及びpT217のホスフェートとの静電相互作用は、ホスホ-タウに対するPT3の選
択性に決定的なものであり、疎水性相互作用は更に、pT212/pT217-タウ(実
施例5)並びにPHF-タウ(実施例1及び6)に対する、PT3の高親和性に寄与する
。
【0184】
表8:PT3 Fab+pT212/pT217-タウペプチドのエピトープ及びパラ
トープ。pT212/pT217-タウペプチド残基と相互作用するPT3Fab VH
又はVLからの残基が示される。水素結合相互作用を太字の活字で示す。
【0185】
【0186】
実施例4-PT3に対するヒトフレームワーク適合
ヒトフレームワーク適合(HFA)法(Fransson et al.,J Mol
Biol.398(2):214-31,2010)を使用して、抗タウマウス抗体P
T3をヒト化した。Martin(Martin and Thornton,J Mo
l Biol.263(5):800-15,1996)に従い、ヒトフレームワーク適
合のため、CDRを規定した。ヒト化HC及びLCの最も良い組み合わせを発見するため
に、いくつかのヒト重鎖V領域配列及び軽鎖V領域配列を試験のために選択した。4つの
ヒトフレームワーク適合PT3重鎖可変領域、及び4つのヒトフレームワーク適合PT3
軽鎖可変領域を設計し、完全ヒト重鎖IgG1及びヒト軽鎖κ分子として生成した(
図1
0)。フレームワーク領域(FR)のみの中のマウスPT3 VH及びVLに対する配列
類似性に基づいて、ヒト生殖細胞系V遺伝子(VHに関して4つ:IGHV3-23
*0
1、IGHV3-33
*01、IGHV3-11
*01、及びIGHV1-3
*01;V
Lに関して4つ:IGVK1-16
*01、IGVK1-16
*01+、IGKV1-3
9
*01、及びIGKV2-24
*01)を、ヒトフレームワーク適合VH及びVL多様
体を製造するために選択した。VL78(IGVK1-16
*01+)はVL77(IG
VK1-16
*01)の単一点変異体であり、潜在的な異性化のリスクを排除するために
、D56S変異を含有する。4つのHFA HC及び4つのHFA LC分子を組み合わ
せて得られる、16個のHFA多様体モノクローナル抗体の名称を、表9に示す。
【0187】
表9:HFA-PT3多様体。B234はマウス親可変領域を含有し、陽性対照として
含められた。対応するヒト生殖細胞系遺伝子を括弧の中に示す。VL78(IGVK1-
16*01+)はVL77(IGVK1-16*01)単一点変異を含有する。
【0188】
【0189】
16個のHFA-PT3(hIgG1/κ)多様体のパネルに対するクローニング及び
DNA合成を、標準的な方法により実施した。標準的な手順によりDNAをHEK(Ex
pi293)細胞にトランスフェクションし、細胞の上清を、培養液中で5日後に収集し
た。1×dPBS(pH7.2)中にて予備平衡化したMabSelectSure P
rotein A樹脂上でIgGを捕捉することにより、高スループットの並行精製用P
rotein BioSolutions ProteinMaker(Gaither
sburg,MD)を使用して、透明にした上清を精製した。1×dPBS(pH7.2
)でカラムを洗浄した後、0.1Mの酢酸ナトリウム(pH3.5)を使用してモノクロ
ーナル抗体を溶出した。2.5MのTris-HCl(pH7.2)を、20体積%まで
添加して溶出画分を中和し、最終的なタンパク質の配合物は、0.08Mの酢酸ナトリウ
ム、0.5MのTris-HCl(pH7.1)であった。
【0190】
HFAパネルの最初の評価は、精製収率、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(S
E-HPLC)プロファイル、ELISA結合アッセイでのPHF-タウへの結合、及び
生物物理学的特性決定に基づいた。
【0191】
対応するモノクローナル抗体のHC及びLC可変領域を、重鎖のC末端にてヒトIgG
1/κ定常領域及び6xHisタグと対形成することより、B296のFab(B324
)及びB252のFab(B326)もまた生成した。B324及びB326はHEK(
Expi293)細胞内で発現し、記載したものと類似の方法(Zhao et al.
,Protein Expr Purif.67(2):182-9,2009)により
精製した。
【0192】
実施例5-ホスホペプチドでのSPRによる、HFA-PT3抗体の特性決定
生物物理学的特性決定、及びPHFへのELISA結合に基づいて選択したHFA-P
T3モノクローナル抗体多様体のサブセットを、以下のホスホペプチド:pT212/p
T217-タウペプチド(ペプチド-2、配列番号:48)及びpT212-タウペプチ
ド(ペプチド-8、配列番号:54)への結合に関して、ProteOn XPR36で
表面プラズモン共鳴(SPR)により分析した。全ての実験は、25℃にて、ランニング
緩衝液及びサンプル希釈緩衝液の両方としてPBST(pH7.4)(Bio-Rad
カタログ番号176-2720)を用いて実施した。
【0193】
モノクローナル抗体/ペプチド結合。PBSTで予めコンディショニングした後、抗ヒ
トFc(Jackson 109-005-098)でBiorad GLCチップを約
6500RUの密度までコーティングすることにより、バイオセンサ表面を調製した。E
DC/NHSを使用して、抗ヒトIgGをチップ表面にアミンカップリングさせ、次いで
エタノールアミンで洗浄した。抗体をPBST中に2μg/mLまで希釈し、30μL/
分にて5分間、表面上に注入して900~1000RUの最大密度を達成した。ペプチド
を検体として、60μL/分にて3分間注入し、続いて5分間解離させた。ペプチド-2
をPBSTに希釈させて、3倍希釈系列(0~30nM)を生成し、二重に測定した。ペ
プチド-8へのモノクローナル抗体結合の一度の測定を、0~100nMの濃度範囲にわ
たり記録した。
【0194】
Fab/ペプチド結合。ビオチン化ペプチドを、PBSTで予めコンディショニングし
た、ニュートラアビジンによりコーティングしたNLCバイオセンサで捕捉し、Fabを
表面上で流し、反応速度論的パラメータを測定した。PBST中にペプチドを10ng/
mLまで希釈し、30μL/分にて100秒間、流路に注入することにより、チップ表面
上で約5~10RUのペプチドを捕捉した。PT3 Fabの連続希釈液(1.1nM~
90nM)には、緩衝液のみを、60μL/分で3分間(会合段階)、続いて300秒間
注入した(解離段階)。
【0195】
スポット間の応答を差し引くことによりデータを二重参照し、緩衝液のみの注入により
、曲線を作成した。0.85%のリン酸によりチップ表面を再生し、続いて、次の抗体滴
定注入の前にPBSTを注入した。データ処理及び分析を、機器のソフトウェアを用いて
実施した。単純なラングミュア1:1結合モデルを使用してデータを合致させた。
【0196】
ペプチド-8に対するHFA-PT3 IgGの反応速度論的速度定数及び平衡結合親
和性を、表10に示す。B234は、マウスPT3可変領域及びヒトIgG1/κ定常領
域を含有する。ヒト化多様体の中でも、B296が、ペプチド-8に対して最も強力な結
合を示した(pT212-タウ)。
【0197】
【0198】
ペプチド-2に対する、HFA-PT3 IgGの反応速度論的速度定数及び平衡結合
親和性を、表11に示す。B252及びB296は、それぞれ172pM及び190pM
の平均KD値を有して、ペプチド-2(pT212/pT217-タウ)に対して最も強
力な結合を示した。
【0199】
【0200】
B296及びB252のFabの親和性を、ProteOnによりpT212/pT2
17-タウペプチド(ペプチド-2)にて測定し、マウス親Fab B187と比較した
(表12)。親マウスFabと比較して、解離速度は2.7~5.1倍増加し、HFA
Fabに対するKD値は3.5~5.6倍増加した。B296のFab(B324)は、
B252のFab(B326)よりも、pT212/pT217-タウペプチドに対して
強い親和性を、かつ、遅い解離速度を示した。
【0201】
【0202】
実施例6-PHF-タウ及び組み換えタウにおけるSPRによる、HFA-PT3抗体
の特性決定
アルツハイマー病の脳から単離したPHF-タウに対する結合について、HFA-PT
3モノクローナル抗体のサブセットを試験した。3mMのEDTA、及び0.005%の
Tween20を補充したPBS(pH7.4)をランニング又はシステム緩衝液として
使用して、25℃にて全ての相互作用を検討した。マウス抗タウ抗体であるHT7(Pi
erce、カタログ番号MN1000)を陽性対照として使用した。
【0203】
HT7を捕捉試薬として使用する、PHF-タウの捕捉カップリングにより調製したバ
イオセンサ表面を使用して、ProteOnにより、PHF-タウを有する抗タウモノク
ローナル抗体の相互作用を分析した。5000xg、5℃にて10分間の遠心分離を2回
行いPHF-タウを調製し、次に、2回目の遠心分離での上清をランニング緩衝液に、1
/40に希釈した。チップを調製するために、アミンカップリング化学についての、メー
カーの取扱説明書を使用して、HT7をGLC(ProteOn)センサチップの表面に
共有結合により固定化した(約5000個の応答単位(RU))。カップリング用緩衝液
は、10mMの酢酸ナトリウム(pH4.5)であった。HT7の固定化の後、PHF-
タウを注入し、HT7により捕捉した(約300RU)。捕捉後、アミンカップリング化
学についてのメーカーの取扱説明書に従って、チップの活性化によってPHF-タウをセ
ンサチップに共有結合で固定化した。エタノールアミンを注入することによって、残りの
反応部位をブロックした。PHF-タウ修飾表面及び参照表面(抗原を含有しない)の調
製及び安定化後、抗PHF-タウ抗体をランニング緩衝液で希釈し、溶液中に注入した(
0.12~75nM、5倍希釈)。3分間会合をモニタリングした(40μg/分で12
0μLを注入)。解離を15分間モニタリングした。10mMのGly(pH2.0)を
用いてセンサ表面を再生した。見かけの親和性(KD)をkoff/konの比率として
報告した、二価の結合モデルを使用して、モノクローナル抗体用のデータを合致させた。
Fabの反応速度分析のために、ラングミュア1:1結合モデルを使用した。
【0204】
大部分のHFAモノクローナル抗体は、27pM~165pMの範囲で、マウス親PT
3モノクローナル抗体と同様の強力な結合を保持した(表13)。2つのトップのHFA
モノクローナル抗体であるB252及びB296はそれぞれ、32pM及び27pMの親
和性を有した。B235は、このパネルでは最も弱いモノクローナル抗体親和性(165
pM)を示した。B324(B296のFab)及びB326(B252のFab)を、
PHF-タウの結合について評価すると、それぞれ、マウスPT3親FabB187より
も2.5倍、及び3.3倍弱いKDを示した。B324は、B326よりも1.3倍強い
親和性(KD)、及び1.7倍遅い解離速度を示した。Fabの親和性は、対応するモノ
クローナル抗体よりも弱く、これは、PHF-タウに対してモノクローナル抗体が結合活
性を有することを示唆している。同じ可変領域を有する、B296のIgG4多様体であ
るB352を、PHF-タウへの結合についてもまた試験した。親和性(43pM)は、
B296の親和性の2倍以内であった(表11)。
【0205】
【表13】
mAb:各実験において3つの複製物、n=2
Fab:各実験において2つの複製物、n=2
B352:各実験において4つの複製物、n=2
【0206】
抗タウモノクローナル抗体と、組み換えにより発現した対照タウ(ヒトタウアイソフォ
ーム2N4R 441aa、N末端6xHisタグ、配列番号:63)を有するFabと
の相互作用を、BiacoreT200により検討した。アミンカップリング化学につい
てのメーカーの取扱説明書を用いて、抗ヒトIgG Fc特異的抗体(Ab)、又は抗F
dを、CM5センサチップの表面にカップリングさせることにより、バイオセンサ表面を
調製した(約6500応答単位(RU))。カップリング用緩衝液は、10mMの酢酸ナ
トリウム(pH4.5)であった。抗タウ抗体をランニング緩衝液に希釈し、注入して少
なくとも5RUの捕捉を得た。抗タウモノクローナル抗体又はFabの捕捉に続いて、組
み換えにより発現した対照タウの溶液(0.12~75nM、5倍希釈)を注入した。会
合を3分間モニタリングした(50μL/分にて150μLを注入した)。合理的な解離
速度測定に関して少なくとも5%のシグナル低下が観察されるまで、解離をモニタリング
した。センサ表面の再生を、0.85%のリン酸、続いて50mMのNaOHにより行っ
た。結合が観察された場合、モノクローナル抗体及びFabの両方についてのデータを、
1:1ラングミュア結合モデルを使用して合致させた。
【0207】
B324及びB326のいずれも、対照タウに対する有意な結合を示さなかった。B2
96もまた、対照タウに対して結合を示さなかった。
【0208】
実施例7-B324+pT212/pT217タウペプチド複合体の結晶構造
X線結晶構造解析により、pT212/pT217-タウペプチド(配列番号:62)
を有するB324の共構造を決定し、これにより、タウエピトープ並びにB324(及び
B296)パラトープの同定を行った。
【0209】
サンプル調製及び結晶化。HEK 293細胞内での一時的発現により、VH92及び
VL77を有するB296のFabであるB324を製造し、Niアフィニティクロマト
グラフィー、SEC、及び20mMのMES(pH6.0)、0.2MのNaClの最終
緩衝液中でのイオン交換により精製した。実施例3で記載したように、pT212/pT
217-タウペプチド(配列番号:62)を共結晶化のために使用した。B324 Fa
b+pT212/pT217-タウペプチド複合体の調製のために、10倍モル過剰のペ
プチドを添加した。
【0210】
B324 Fab+pT212/pT217-タウペプチドの結晶化を、20mMのM
ES(pH6.0)、0.2MのNaCl中で9~18mg/mLにて実施した。2つの
インハウススクリーン及びPEG(Qiagen)を使用して、20℃にてシッティング
ドロップ蒸気拡散法により、Mosquito結晶化ロボットで最初の結晶化スクリーニ
ングを実施した。結晶は0.1Mの酢酸ナトリウム(pH4.6)、20%のPEG 1
0Kから現れ、更なる最適化スクリーニングに使用するために、Seed Beadキッ
ト(Hampton Research)を用いた機械的均質化により、シードを作製し
た。
【0211】
データ収集及び構造測定。結晶は0.1Mの酢酸ナトリウム(pH5.5)、37%の
PEG200から現れ、これを回収して、X線回折データ収集のために、冷凍保護するこ
となく液体窒素内で急速冷却した。100Kにて、IMCA-CATビームライン17-
ID-B上でAdvanced Photon Source(Argonne,IL)
にて、結晶構造解析データを収集した。画像半度当たり0.5秒の曝露で、180°回転
でPilatus 6M検出器にて回折強度を収集した。XDS(Kabsch,201
0,Id.)でデータを、2.6Åの最大解像度まで処理した。pT212/pT217
-タウペプチドと複合体化したB324のX線結晶構造を、関連するFab構造を調査モ
デルとして用いて、Phaser(McCoy et al.,2007,Id.)で分
子交換により解像し、Refmac(Murshudov et al.,Acta C
rystallogr D Biol Crystallogr.53(Pt 3):2
40-55,1997)により精密化した(表14)。4.0Åの距離カットオフを使用
して、CONTACT(Collaborative Computational P
roject,1994,Id.)により分子間の接触距離を計算し、Pymolで目視
検査した。
【0212】
【0213】
構造分析。B324+pT212/pT217タウペプチド相互作用の全体的な構造を
図11に示す。pT212/pT217-タウペプチドは、B324 VH及びVLの界
面に形成した溝に合致する。B324とpT212/pT217タウペプチドとの界面に
は、ファン・デル・ワールス及び静電相互作用が含まれ、これらはペプチド残基211か
ら221まで延びる(
図12)。以下のCDRが、pT212/pT217-タウペプチ
ドへの直接結合に関与する:CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1
、CDR-L3。pT212/pT217タウペプチドと複合体化したB324の構造は
、エピトープが、pT212及びpT217のホスフェートを含むことを示す。B324
Fab残基と、pT212/pT217-タウペプチド残基との相互作用図を、
図13
に示す。鍵となる相互作用のいくつかは、以下のとおりである:VH Y32ヒドロキシ
ル基と、VH T28ヒドロキシル基とが、各々、pT212の異なるホスフェート酸素
と水素結合を形成する;VH Y32とVH W99の側鎖からは、タウペプチドのL2
15のメチル基に疎水性相互作用が存在する;VH K53は、タウペプチドの残基pT
217と塩橋相互作用を形成する;VH W104の側鎖は、pT217のメチル基と疎
水性相互作用を、及びP218とCH-πスタッキング相互作用を形成し、VH/VL界
面の一部を形成する;VH W104のインドールアミドは、T220の側鎖ヒドロキシ
ルと水素結合を形成する;VL Y32の側鎖とP219との間には、疎水性相互作用が
存在する;VL L96と、T220のメチル基との間には、疎水性相互作用が存在する
;並びに、VL F94の側鎖とT220のメチル基とにより疎水性相互作用が形成され
る。pT212及びpT217のホスフェートとの静電相互作用は、ホスホ-タウに対す
るB324の選択性に決定的なものであり、疎水性相互作用は更に、pT212/pT2
17-タウペプチド(実施例5)及びPHF-タウ(実施例6)に対するB324の高親
和性に寄与する。マウスPT3とB324との、エピトープ及びパラトープは非常に類似
しており、このことは、エピトープ及びパラトープのいずれもが、ヒト化の後に有意に変
化していないことを示す(
図9及び
図13、表8及び表15)。
【0214】
表15:B324+pT212/pT217-タウペプチドのエピトープ及びパラトー
プ。pT212/pT217-タウペプチド残基と相互作用するB324 VH又はVL
の残基を示す。水素結合相互作用を太字の活字で示す。
【0215】
【0216】
実施例8-細胞アッセイにおける機能試験
2種類の細胞アッセイ:同時培養アッセイ及び枯渇アッセイにおける、タウシーディン
グの阻害についてPT3を試験した。両方のアッセイ種において、例えば凝集により非常
に近接した際にシグナルを生成する、2つの発色団タグK18タウフラグメントを発現す
るHEK細胞を使用する。細胞を、凝集してリン酸化した、異なる源由来の完全長タウの
シードで処理した場合、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)比の変化(すなわち、
BRETアッセイ)により、又は、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いた、蛍光共鳴
エネルギー移動(FRET)陽性細胞の数を数えること(すなわち、FRETアッセイ;
図14)により、定量化可能なK18アグリゲートが生じる(Holmes et al
.,2014,PNAS 111(41):E4376-85)。
【0217】
HEK細胞ホモジェネート同時培養アッセイ(BRETアッセイ)
同時培養用のタウシードを含有するホモジェネートを、K18により誘発された、凝集
GFPタグ完全長タウを含有する安定したGFP-タウP301L過剰発現HEK細胞株
から生成した。レシピエント細胞は、K18/P301L-NanoLuc及びK18/
P301L-HaloTagを安定して発現するHEK細胞であった。タウシードを、試
験抗体、及び受容する発色団-K18含有HEK細胞と、72時間同時培養した。K18
アグリゲート形成を、BRET比(590nm/450nm)の変化により測定した。P
T3は、凝集の誘発を300nMにおいて46.97%、30nMにおいて18.02%
、及び3nMにおいて12.57%ブロックした(
図15)。
【0218】
脊髄同時培養アッセイ(FRETアッセイ)
凝集トランスジェニックヒトタウを含有する、週齢22~23のP301Sの脊髄から
、同時培養用のタウシードを含有するホモジェネートを生成した。感度の増加のために、
このアッセイで使用したレシピエント細胞は、K18/P301S-YFP及びK18/
P301S-CFPを安定して発現するHEK細胞であった。タウシードを、試験抗体、
及び受容する発色団-K18含有HEK細胞と、72時間同時培養した。K18アグリゲ
ート形成を、FACSによりFRET陽性細胞の数を数えることにより測定した。PT3
は、凝集の誘発を300nMにおいて34.03%、30nMにおいて37.02%、及
び3nMにおいて30.68%ブロックした(
図16)。
【0219】
免疫枯渇細胞アッセイ
最大阻害割合(%)の値が、シードのエピトープの密度、又はPT3エピトープを含有
するシードの数に関係するか否かを調査するために、免疫枯渇アッセイを実施した。免疫
枯渇アッセイにおいて、タウシードを試験抗体により培養(インキュベーション)し、G
タンパク質のビーズを用いて溶液から除去した。枯渇した上清を、発色団-K18含有H
EK細胞内での残留シーディング能力について試験し、上述したようにFACSにより分
析した(Holmes et al.,Proc Natl Acad Sci U S
A.111(41):E4376-85,2014)。
【0220】
免疫枯渇のためのタウシードを含有するホモジェネートを、週齢22~23のP301
Sトランスジェニック動物の脊髄から(
図17)、又は、冷凍保護したヒトAD脳組織か
ら(
図18)生成した。ヒトAD脳免疫枯渇アッセイにおいて、トランスフェクション試
薬Lipofectamine2000の存在下において、枯渇後に上清を試験紙、許容
されるアッセイウィンドウを得た。脊髄抽出物、及びヒトAD脳の全ホモジェネートの両
方において、PT3を用いてタウシーディングをほぼ完全に(>90%)枯渇することが
できた(
図17及び18)。
【0221】
結果
PT3は、HEK細胞可溶化物、及びTgP301S脊髄溶解物の両方に由来するタウ
シードを阻害した。アッセイで得た最大阻害は、異なる抗ホスホ-タウ抗体において、及
び異なるシードにおいて変化した(表16)。観察された、300nMにおけるPT3に
対する阻害値は、HEK細胞シードに対しては46.97±5.87%であり、TgP3
01S脊髄抽出物に対しては34.03±2.05%であった。異なる細胞アッセイにお
ける、ホスホ-タウ抗体に対する異なる最大阻害値により、使用したタウシードのリン酸
化状態の違いを示すことができる。TgP301S脊髄で生成したタウシードは神経細胞
由来のものであり、HEK細胞由来のタウシードよりもPHF-タウに対して類似性が高
いことが予想される。このことにより、脊髄抽出物対HEK細胞可溶化物に対するホスホ
-タウ抗体で観察された、全般的に高い効能を説明することができる。
【0222】
脊髄抽出物、及びヒトAD脳の全ホモジェネートの両方において、PT3によりタウシ
ーディングをほぼ完全に枯渇させることができた。この結果は、脊髄シーディング材料を
用いた同時培養実験における完全阻害の欠如が、PT3エピトープを欠くシードが存在す
ることにより生じたのではなく、シードにおける限定的なエピトープの密度により生じた
ことを示唆している。
【0223】
【表16】
単位は陰性対照の%(パーセント)、異なる実験の平均であり、
a166.67nMに
おける阻害、及び
b89.99nMにおける阻害を除いて、全てのアッセイにおける抗体
濃度は300nMであった。
【0224】
タウ抗体治療の作用機序は依然として議論の主題であり、複数の機序が提示されている
。小膠細胞による、抗体が媒介する細胞外シードのクリアランスは、1つの優位な作用機
序として近年示唆されている(Funk et al.,J Biol Chem.29
0(35):21652-62,2015 and McEwan et al.,20
17,PNAS 114:574-9)。本文脈では、ヒトの脳に由来するシーディング
材料の免疫枯渇が、最も並進的な細胞の結果であると考えることができ、この種の細胞ア
ッセイにおける親マウス抗体PT3の高い効能は、PT3のHFA版が効果的な治療薬で
あることを示唆している。
【0225】
実施例9-ePHF注入モデルにおけるマウスPT3のin vivoでの効能
インビボでのタウ抗体の効能を評価するために、脳でタウの病状を示すマウスを、必須
のモデルシステムとする(Julien et al.,Methods Mol Bi
ol.849:473-91,2012)。これらのモデルのいくつかが記載されており
、これらは一般的に、3つの群に分けることができる:1)株に応じて、5~9ヶ月後に
重篤な病状を示す変異体により、WT又は変異体(例えば、P301L若しくはP301
S)を過剰発現するタウトランスジェニックマウス(Allen et al.,J N
eurosci.22(21):9340-51,2002;Scattoni et
al.,Behav Brain Res.208(1):250-7,2010;Te
rwel et al.,J Biol Chem.280(5):3963-73,2
005;Yoshiyama et al.,Neuron.53(3):337-51
,2007);2)変異体タウ(例えば、P301L)を空間時間的に制御して発現する
マウス(Liu et al.,Brain Imaging Behav.6(4):
610-20,2012)、又は凝集後フラグメント(例えば、K18)を有するマウス
(Mocanu et al.,J Neurosci.28(3):737-48,2
008);並びに3)プラーク及びタウの病状の両方を示す、変異体タウ及びAPPの両
方を発現するマウス(Oddo et al.,J Neurochem.102(4)
:1053-63,2007)。
【0226】
変異体タウを発現するマウスが強い病状を発現する一方で、病状の開始は動物によって
変化する可能性があり、検討において変動性を引き起こす。また、細胞の自律神経による
タウ凝集、及び全体のタウ凝集シグナルへの拡散の相対的寄与は、はっきりとしていない
。したがって、タウのシーディング及び拡散を効果的に検討するために使用可能なモデル
(例えば、de Calignon et al.,2012,Neuron.73(4
):685-97,2012;Liu et al.,Id.)は、価値が高い。ALZ
17マウス(通常のヒトタウを発現する株)に、異なるタウ異常症に由来する脳のホモジ
ェネートを注射することにより、ヒトの脳におけるタウ異常症に類似するモルホロジーを
有して、タウが含まれる形成を誘発することの発見により、このようなモデルの並進的価
値は更に強化される。例えば、マウスに、嗜銀顆粒性認知症サンプルの材料を注射するこ
とにより、疾病そのものに回転楕円体又はコンマ様構造の特徴を有する沈着がもたらされ
、AD様のタウ病状が、AD材料を注射したマウスで観察された(Clavaguera
et al.,2013,PNAS 110(23):9535-40)。
【0227】
したがって、タウの凝集後フラグメント、例えば合成K18原線維(Li and L
ee,Biochemistry.45(51):15692-701,2006)、又
はヒトAD脳に由来するPFH-タウシードを、細胞の自律神経による凝集が始まってい
ない年齢のP301Lトランスジェニックマウスモデルにおける、皮質又は海馬領域に注
入した、トランスジェニックP301Lマウス注入モデルが確立された。注入モデルは、
タウ拡散の決定的な細胞外シーディング構成成分を再現することを目的としている。注入
されるK18又はPHF-タウシードは、注入部位にてタウ異常症を誘発し、また、接続
した反対側の領域において、より軽度に、タウ異常症を誘発する(Peeraer et
al.,Neurobiol Dis.73:83-95,2015)。このモデルに
より、AD脳由来のPHF-タウシード又はK18原線維と同時注入した際に、本発明の
抗タウ抗体などの抗体の、抗シーディング能力の試験が可能となる(Iba et al
.,2015,J Neurosci.33(3):1024-37,2013;Iba
et al.,Acta Neuropathol.130(3):349-62)。
【0228】
トランスジェニックP301Lマウス注射モデルの概略図を
図19に示す。手短かに言
えば、死後のAD脳への、サルコシル不溶性画分の皮質注射により、タウ凝集のゆっくり
と進行する増加が誘発される。注射された半球では、注射の1ヶ月後に最初のシグナルが
測定され、注射の更に3ヶ月後まで進行する。注射の5ヶ月後に、いくつかの動物では、
P301L変異により引き起こされる濃縮の形成が開始される(Terwel et a
l.,2005,Id.)。AT8の染色レベルは、1ヶ月と3ヶ月との間で増加する(
図19C~
図19D、及び
図19E~
図19F)ため、抗体の効能実験を、同時注射の2
ヶ月後に分析する。更に、死後のAD脳への、サルコシル不溶性画分の海馬注射が、注射
した半球のサルコシル不溶性画分をMesoScale Discoveries(MS
D)により分析することで測定した、用量依存的なタウ凝集の増加の進行が誘発される(
図19G)。
【0229】
動物治療及び頭蓋内注射
注射の検討のために、P301L変異を有する最長のヒトタウアイソフォーム(タウ-
4R/2N-P301L)(Terwel et al.,2005,Id.)を発現す
るトランスジェニックタウ-P301Lマウスを、月齢3ヶ月にて手術に使用した。現地
の倫理委員会が認可した手順を遵守して、全ての実験を実施した。定位的手術のために、
マウスは、モノクローナル抗体の存在下又は不存在下にて、毛皮質(AP+2.0、前頂
からML+2.0、DV、硬膜から2.7mm)、又は海馬(AP-2.0、ML+2.
0(前頂から)、DV 1.8mm(硬膜から))に、3μL(速度:0.25μL/分
)で、死後AD組織(富化した対らせん状細線維、ePHF)からサルコシル不溶性pr
epの一側性(右半球)注射を受けた。抗体又は生理食塩水の腹腔内(IP)注射の場合
、治療(20mg/kg、2×/週)は頭蓋内注射の1週間前に開始し、マウスを解離の
ために犠牲にする(頭蓋内注射の2ヶ月後)まで継続した。
【0230】
抽出手順
注射した半球のマウス組織の重量を測定し、6体積の均質化緩衝液(10mM Tri
s HCl(pH7.6))中で均質化した。27000×gにて20分間、ホモジェネ
ートを遠心分離にかけ、得られた上清(全ホモジェネート)からアリコートを取り出した
後、1%のN-ラウロイルサルコシンを添加した。90分後(900rpm、37℃)、
溶液を再び、184000×gにて1時間遠心分離にかけた。上清はサルコシル可溶性画
分として保持したが、サルコシル不溶性材料を含有するペレットは、均質化緩衝液中に懸
濁させた。
【0231】
生化学的分析
被覆抗体(抗AT8又は全タウ抗体のいずれか)をPBSに希釈(1μg/mL)し、
MSDプレート(ウェル当たり30μL)(L15XA,Mesoscale Disc
overies)にアリコートとし、これらを終夜4℃でインキュベーションした。5×
200μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄した後、プレートをPBS中の
0.1%のカゼインでブロックし、5×200μLのPBS/0.5%のTween-2
0で再び洗浄した。サンプル及び標準(共に、PBS中の0.1%のカゼインに希釈)を
添加した後、プレートを終夜4℃でインキュベーションした。その後、プレートを5×2
00μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄し、SULFO-TAG(商標)
がコンジュゲートした検出抗体(PBS中の0.1%のカゼイン中)を添加し、600r
pmで振盪しながら室温で2時間インキュベーションした。最後の洗浄(5×200μL
のPBS/0.5%のTween-20)の後、150μLの2×緩衝液Tを添加し、プ
レートをMSDイメージャで読み取った。死後のAD脳(ePHF)のサルコシル不溶性
prepの16個の希釈物からなる検量線に対してそのままのシグナルを正規化し、任意
の単位(AU)ePHFとして表した。統計分析(Bonferroni事後テストと合
わせたANOVA)を、GraphPadプリズムソフトウェアで行った。
【0232】
結果
皮質同時注射モデルにおけるマウスPT3の活性(
図19)が、4つの独立した検討に
て確認された。マウスを表17に従い末梢投与し、結果を
図20に示す。モデルの更なる
改善(
図19D)により、表18に示すように、ePHF-タウの用量及び同時注射され
る抗体の用量の低下が可能となった(結果を
図21に示す)。ePHF-タウのこの低下
させた用量を用いることにより、末梢投与した際に、PT3は凝集したタウを低下させる
有意な効果を有することもまた、発見された(P<0.0001;
図21)。
【0233】
【0234】
【0235】
図19Aのレイアウトに従い、PT3ーHFA IgG2a多様体(mIgG2a/κ
定常領域に、可変領域VH92(配列番号:27)及びVL77(配列番号:31)を含
有する)を含む、ePHF及びPT3アイソタイプの同時注射により、P301Lマウス
における、ePHFにより誘発されたタウ凝集が弱まった(
図22)。毛皮質に注射を行
った。(海馬ではない)。注射を受けた半球(生化学データ、
図22B)、及び注射を受
けていない半球(IHCAT100染色、
図22C)において、効果を観察した。IgG
2a及びIgG1アイソタイプでは共に、AD脳由来のPHF-タウを同時注射したとき
、タウ異常症の誘発が有意に低下した(p<0.0001)。結果により、反対側の半球
にてIHCが確認された。
【0236】
以上、本発明を詳細に、かつその具体的な実施形態を参照して説明したが、当業者には
、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更及び改変を行い得る点
は明らかであろう。
【0237】
実施例10-PSPタウとADタウとの比較
進行性核上性麻痺(PSP)は、パーキンソン症候群、体位の不安定性及び転倒、核上
性注視麻痺、並びに認知症を特徴とする、希少かつ致死性の神経変性疾患である(Ste
ele et al.,1964,Archives of Neurology 10
:333-359)。病理学的には、脳幹及び大脳基底核、並びに他の脳領域に、4リピ
ート(4R)タウの選択的蓄積が存在する(Dickson DW.Handbook
of Clinical Neurology 2008;89:487-491;Wi
lliams & Lees,2009,The Lancet Neurology
8:270-279)。アミロイドなどの他の病状の不存在を考慮すると、PSPは一次
性タウ異常症であると考えられ、動物モデルデータは、PSPタウが、ADにて生じてい
ると仮説が立てられているものに類似しているシーディングを受け得ることを示唆してい
る(Clavaguera et al..2013,PNAS 110:9535-9
540;Sanders et al.,2014,Neuron 82:1271-1
288)。そのため、PSPは本発明の抗体で治療することができる。一連の実験を行い
、PSPタウとAD PHFタウとの類似性を特性決定した。
【0238】
方法
ヒト脳組織:臨床診断を受けたPSP(n=5)患者(核尾状核=CAU、及び被殻=
PUT)の、典型的には非常に影響を受けている2つの脳領域、並びに、さほど影響を受
けていない脳領域(上前頭回=GFS)、並びに、2つの対照(=タウ異常症を有しない
)患者の同一の脳領域の凍結保存組織を、Netherland Brain Bank
から入手した。後述する凝集アッセイ及び免疫組織化学染色の両方を用いる分析のために
、組織を使用した。9名の散発性AD患者の凍結保存組織をUnivulershity
of Pennsylvaniaから入手し、凝集アッセイを用いる分析のために使用
した。1名のAD患者の凍結保存組織をUnivulershity of Newca
stleから入手し、免疫組織化学染色に使用した。
【0239】
脳組織の均質化:凍結保存組織を、10mMのTris、150mMのNaCl(pH
7.4)、フィルターで均質化し、0,22μm+CompleteミニEDTA非含有
プロテアーゼ阻害剤(Roche、カタログ番号11 836 170 001)を、ダ
ウンス型ホモジナイザーで1000rpmにて10ストロークし、10% w/vのホモ
ジェネートを得た。ホモジェネートを27.000×g、10分、4℃にて遠心分離にか
け、上清を、使用するまでー80℃でアリコートに保管した。
【0240】
凝集アッセイ:ホスホ-タウ抗体AT8及びPT3を捕捉及び検出抗体として使用する
、凝集特異的サンドイッチMSDイムノアッセイを実施した。被覆抗体をPBS(1μg
/mL)に希釈し、MSDプレート(ウェル当たり30μL)(L15XA,Mesos
cale Discoveries)にアリコートとし、4℃にてインキュベーションし
た。5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄した後、プレートをP
BS中の0.1%のカゼインでブロックし、5×200μLのPBS/0.5%のTwe
en-20で再び洗浄した。サンプル及び標準(共に、PBS中の0.1%のカゼインに
希釈)を添加した後、プレートを4℃にてインキュベーションした。その後、プレートを
5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄し、SULFO-TAG(
商標)がコンジュゲートした検出抗体(PBS中の0.1%のカゼイン中)を添加し、6
00rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベーションした。最後の洗浄(5×20
0μLのPBS/0.5%のTween-20)の後、150μLの2×緩衝液Tを添加
し、プレートをMSDイメージャで読み取る。そのままのシグナルを、1つのAD全脳ホ
モジェネートの7つの希釈物からなる検量線に対して正規化し、この検量の補間値として
、割合(%)で表す。
【0241】
免疫組織化学法:凍結保存したヒト脳組織を冷凍切片(20μmの厚さ)にスライスし
、使用前に-80℃で保管した。切片を乾燥させ、続いてホルマリン固定、内因性ペルオ
キシダーゼの3%過酸化水素(DAKO,Glostrup,Denmark,S202
3)でのブロッキング、及びPBS1x+0.3%Triton X-100での1時間
の易透化を続けた。一次抗体(0.4μgのPT3/mL;0.4μg/mLのAT8)
を、バックグラウンドの還元構成成分(DAKO,S3022)で抗体希釈液に希釈し、
切片に1時間適用した。広範囲を洗浄した後、HRPがコンジュゲートした抗マウス二次
抗体(Envision,DAKO,K4000)、続いて色原体DAB標識(DAKO
,K4368)により、スライドをインキュベーションした。スライドをヘマトキシリン
で対比染色し、無水化して有機固定培地(Vectamount,Vector lab
s,Burlingame,CA,USA,H-5000)で固定した。イメージングを
、Hamamatsu NanoZoomer 2.0 rs(浜松ホトニクス(静岡)
)で実施した。
【0242】
結果
凝集アッセイ:凝集アッセイを実施して、PSPタウのリン酸化度を特定決定した。P
T3反応性アグリゲートはPSP脳の中に存在したが、凝集度はAD脳よりも低かった(
図23)。参照抗体AT8を用いて得た結果は、PT3を用いて観察されたものに類似し
ていた。これらの結果は、様々なホスホ-タウ抗体を使用して評価した全てのリン酸化部
位がPSPタウに存在するものの、ADと比較して、PSPにはよりわずかしかタウ凝集
が存在していないことを示唆している。
【0243】
免疫組織化学法:AD又はPSP脳の凍結切片にて、PT3抗体により染色することに
よって、解剖学的領域(すなわち、尾状核及び被殻)における染色は、PSPに影響を与
えたことを示した(
図24)。タウ+ニューロン及び房飾星状細胞を含むPSPの、神経
病理学的特徴は、ホスホ-タウ抗体PT3により検出された。AT8を用いて得られた結
果は、PT3を用いて観察されたものに類似していた。
【0244】
結論
利用可能なデータは、PT3がPSPのタウに結合することを示唆している。
【0245】
実施例11-PT3-HFAの親和性成熟
親和性成熟した抗体の,PHF-タウへのSPR結合の特性決定
親和性成熟したモノクローナル抗体を、アルツハイマー病の脳から単離したPHF-タ
ウへの結合について試験した。3mMのEDTA、及び0.005%のTween 20
をランニング又はシステム緩衝液として補充したPBS(pH7.4)を用いて、25℃
にてProteOn XPR36 system(Bio Rad,Hercules,
CA)を使用して、結合反応速度及び親和性検討を実施した。
【0246】
アミンカップリング化学用の、供給元が推奨する手順を用いて、マウス抗タウ抗体であ
るHT7(ThermoFisher,カタログ番号MN1000)により、GLCセン
サチップを共有結合により固定化した(約5000応答単位(RU))。カップリング緩
衝液は10mM(pH4.5)の酢酸ナトリウムであった。PHF-タウを、5000×
gにて5℃で10分間、2回遠心分離することにより調製した。2回目の遠心分離での上
清をランニング緩衝液に希釈させ(1/125)、HT7固定化表面に捕捉カップリング
した(約300RU)。捕捉カップリングの後、表面を活性化及び不活性化して、抗体結
合検討用の均質なPHF-タウ表面を生成した。抗タウ抗体及びこれらのFab(ランニ
ング緩衝液にて調製、0.024~75nM、5倍希釈)を、PHF-タウ表面にわたり
50μL/分で注入し、結合を測定した。会合及び解離プロファイルをそれぞれ、4分間
及び2時間モニタリングした。解離後、10mMのグリシン(pH2.0)及びランニン
グ緩衝液の複数回注入を用いて、センサチップを再生した。参照表面(PHF-タウを全
く有しない)を使用して、注入したmAb又はFabの非特異的結合をモニタリングした
。HT7抗体を陽性対照として使用した。mAbに対する結合のセンサーグラムを、二価
の結合モデルを使用して合致させ、ここでは、見かけの親和性又は結合活性により引き起
こされる結合(KD)は、解離速度と会合速度との比(koff/kon)として報告さ
れた。1:1ラングミュア結合モデルを、Fabの反応速度論的分析に使用した。
【0247】
親ヒト抗体(B296)は、PHF-タウに対して強力な結合(K
D=6.2pM)を
示し、非常に遅い解離速度が支配的であり、mAbの5%以下の解離が2時間にわたって
観察された(表19、
図25)。親和性成熟した抗体は、1.8~2.5pMの範囲で親
和性を有してPHF-タウに結合するという改善を示した。B711及びB809は、親
抗体と比較して会合速度に3倍の改善を示したが、解離速度は、全ての抗体においての目
視での区別はできなかった(
図25)。Fabは全体的に、対応するmAbと比較してP
HF-タウに対して桁違いに弱い結合を示し、このことにより、mAbのPHF-タウへ
の、結合活性により引き起こされる結合が示唆された。B324(親mAbであるB29
6のFab)は、63.2pMの固有の親和性でPHF-タウに結合した。親和性成熟し
たmAbのFabは、15.6pM~31pMの範囲の値を有し、同様に親和性の改善を
示した。2つのFabであるB330(B711のFab)、及びB332(809のF
ab)は更に、会合速度において、対応するmAbと同様の、3~4倍の改善を示した。
【0248】
【表19】
1実験において、N=2~3の複製物。値は平均±SD(又は範囲)として報告した
【0249】
ELISAによるホスホペプチドへの結合
ペプチド(10ng/mL)をプレートに終夜直接コーティングしたELISAにより
、タウホスホペプチドの結合を分析した。プレートを洗浄し、PBS中の0.1%のカゼ
インでブロックした後、異なる濃度のHFA-PT3(B296)並びにHFA-PT3
の親和性成熟多様体(B809、B333、及びB711)mAbで、プレートをインキ
ュベーションした(
図26A)。抗体とのインキュベーションの後、プレートを洗浄して
、ウェル当たり50μLのHRPOで、抗Fab抗体を標識した(Jackson Im
munoresearch laboratories)(ブロッキング緩衝液中に1:
10000に希釈)。別の洗浄ステップの後、メーカーの取扱説明書に従い、「ワンステ
ップ」TMB(Thermo Scientific)を用いて、検出を実施した。En
Vision(登録商標)2102 Multilabel Reader(Perki
n Elmer,Waltham,MA,USA)でプレートを分析した。結合曲線を、
GraphPad Prism7.0ソフトウェアを使用して生成した。
図26Aの結合
曲線から、B296は最も低い親和性を示した一方で、B711はB296と、またB3
33及びB809とも比較して、最も強い結合を示したことを知ることができる。これに
より、B711は、pT217ペプチドに対して最も強い親和性を有するヒト化PT3で
あることが示唆される。Fabを用いる同様の実験(
図26B)により、M333(B7
11のFab)は、親PT3分子のFabであるB187と比較して、同様のペプチド結
合を有したことが示された。ここでも、M324(B296のFab、HFA-PT3)
は、PT3-HFAの親Fab及び親和性成熟した多様体と比較して弱い結合を示した。
【0250】
【表20】
少なくとも2つの実験にて、N=2の複製物である。値は平均±SDとして報告した。
【0251】
参考文献
Abhinandan and Martin,Mol Immunol.45:38
32-9,2008
Adams et al.,Acta Crystallogr D Biol Cr
ystallogr.66(Pt 2):213-21,2010
Allen et al.,J Neurosci.22(21):9340-51,
2002
Almagro,Mol Recognit.17:132-43,2004
Asuni et al.,J Neurosci.27:9115-29,2007
Boutajangout et al.,J Neurochem.118:658
-67,2011
Boutajangout et al.,J Neurosci.30:16559
-66,2010
Brunden et al.,Nat Rev Drug Discov.8:78
3-93,2009
Butner and Kirschner,J Cell Biol.115(3)
:717-30,1991
Chai et al.,J Biol Chem.286:34457-67,20
11
Chothia and Lesk,J Mol Biol.196:901-17,
1987
Clavaguera et al.,Nat Cell Biol.11:909-
13,2009
Clavaguera et al.,Proc Natl Acad Sci U
S A.110(23):9535-40,2013
Clavaguera et al.,Proc Natl Acad Sci US
A.110(23):9535-40,2013
Collaborative Computational Project,Num
ber 4,Acta Crystallogr D Biol Crystallog
r.50(Pt 5):760-3,1994
Collin et al.,Brain.137(Pt 10):2834-46,
2014
de Calignon et al.,Neuron.73(4):685-97,
2012
Emsley and Cowtan,Acta Crystallogr D Bi
ol Crystallogr.60(Pt 12 Pt 1):2126-32,20
04
Epitope Mapping Protocols in Methods in
Molecular Biology,Vol.66,G.E.Morris,Ed.
(1996)
Fishwild et al.,Nat Biotechnol.14:845-5
1,1996
Fransson et al.,J Mol Biol.398(2):214-3
1,2010
Frost et al.,J Biol Chem.284:12845-52,2
009
Funk et al.,J Biol Chem.290(35):21652-6
2,2015
Goedert et al.,Biochemical J.301(Pt3):8
71-877
Hanger et al.,Trends Mol Med.15:112-9,2
009
Hoffmann et al.,Biochemistry.36(26):811
4-24,1997
Holmes et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.
111(41):E4376-85,2014
Iba et al.,Acta Neuropathol.130(3):349-
62,2015
Iba et al.,J Neurosci.33(3):1024-37,201
3
Julien et al.,Methods Mol Biol.849:473-
91,2012
Kabsch,Acta Crystallogr D Biol Crystall
ogr.66(Pt 2):125-32,2010
Knappik et al.,J Mol Biol.296:57-86,200
0
Knight et al.,Platelets.15:409-18,2004
Kohler and Milstein,Nature.256:495-7,19
75
Krebs et al.,J Immunol Methods.254:67-8
4,2001
Lee et al.,Cell Rep.16(6):1690-700,2016
Lefranc et al.,Dev Comp Immunol.27:55-7
7,2003
Leong et al.,Cytokine.16:106-19,2001
Li and Lee,Biochemistry.45(51):15692-70
1,2006
Liu et al.,Brain Imaging Behav.6(4):610
-20,2012
Lonberg et al.,Nature.368:856-9,1994
Malia et al.,Proteins.84:427-434,2016
Martin and Thornton,J Mol Biol.263(5):8
00-15,1996
Matsuo et al.,Neuron.13(4):989-1002,199
4
McCoy et al.,J Appl Crystallogr.40(Pt 4
):658-674,2007
McEwan et al.,2017,PNAS 114(3):574-9
Mendez et al.,Nat Genet.15:146-56,1997
Mercken et al.,Acta Neuropathol.84(3):2
65-72,1992
Mercken,Ph.D.Thesis:University of Antwe
rp,Wilrijk-Antwerp,1991
Mocanu et al.,J Neurosci.28(3):737-48,2
008
Morris et al.,Nat Neurosci.18(8):1183-9
,2015
Morris et al.,Neuron,70:410-26,2011
Murshudov et al.,Acta Crystallogr D Bio
l Crystallogr.53(Pt 3):240-55,1997
Oddo et al.,J Neurochem.102(4):1053-63,
2007
Otvos et al.,J Neurosci Res.39(6):669-7
3,1994
Padlan et al.,Mol.Immunol.28:489-98,199
1
Peeraer et al.,Neurobiol Dis.73:83-95,2
015
Queen et al.,Proc Natl Acad Sci USA.86:
10029-33,1989
Scattoni et al.,Behav Brain Res.208(1):
250-7,2010
Schroeder et al.,J Neuroimmune Pharmaco
l.11(1):9-25,2016
Seubert et al.,J Biol Chem.270(32):1891
7-22,1995
Shi et al.,J Mol Biol.397:385-96,2010
Strohl,Curr Opin Biotechnol.20:685-91,2
009
Terwel et al.,J Biol Chem.280(5):3963-7
3,2005
Wischik et al.Proc Natl Acad Sci USA.85
:4884-8,1988
Wu and Kabat,J Exp Med.132:211-50,1970
Yang et al.,Protein Eng.16:761-70,2003
Yoshiyama et al.,Neuron.53(3):337-51,20
07
Zhao et al.,Protein Expr Purif.67(2):18
2-9,2009