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特開2024-88700経頭蓋超音波治療手順中に頭蓋骨によって引き起こされる熱収差を低減するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088700
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】経頭蓋超音波治療手順中に頭蓋骨によって引き起こされる熱収差を低減するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240625BHJP
   A61N 7/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61B8/14
A61N7/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059526
(22)【出願日】2024-04-02
(62)【分割の表示】P 2021570449の分割
【原出願日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】62/855,283
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513193738
【氏名又は名称】サニーブルック リサーチ インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイニネン,クラーボ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュース,アレク
(72)【発明者】
【氏名】デン,ルル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱的変動の動的補正及び低減のためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】頭蓋骨によって引き起こされる収差の静的補正を伴う従来の方法とは異なり、本開示のさまざまな実施形態例は、超音波検出及び体積画像データからの頭蓋骨の厚さの推定値を使用し、手術中の頭蓋内の加熱に起因する、熱によって引き起こされる、頭蓋骨の局所的領域の音速の局所的変化にかかわらず、収差補正の減少が手術中に更新されて維持されるように、頭蓋骨によって引き起こされる収差の補正を断続的かつ動的に決定する。さらに、一部の実施形態例では、頭蓋骨での音速に依存する測定が、手術中に決定され、以前に決定された測定の値と比較され、測定における変化と頭蓋骨の温度における変化の間の既定の関係に基づいて、頭蓋骨の温度における変化を決定する。
【選択図】図3D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋内の集束超音波治療手順の間に頭蓋骨の温度における変化を測定する方法であって、
(a)対象の前記頭蓋骨に隣接して配置された超音波変換器を使用して、第一の非治療的超音波パルスを送信し、第一の反射された超音波パルスを受信することによって、第一の受信信号を取得することと、
(b)集束超音波を前記対象に供給した後に、前記超音波変換器を使用して、第二の非治療的超音波パルスを送信し、第二の反射された超音波パルスを受信することによって、第二の受信信号を取得することと、
(c)前記第一の受信信号を処理して、前記頭蓋骨での音速に依存する測定の第一の値を決定することと、
(d)前記第二の受信信号を処理して、前記頭蓋骨での前記音速に依存する前記測定の第二の値を決定することと、
(e)前記測定の前記第一の値、前記測定の前記第二の値、及び頭蓋骨の温度と前記測定における変化との間の既定の較正を使用して、頭蓋骨の温度における前記変化を決定することとを備える、方法。
【請求項2】
超音波治療手順の間にステップ(b)~(e)を一回以上実行して、手術中に断続的に頭蓋骨の温度における変化を追跡することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象への集束超音波の供給を開始する前にステップ(a)が実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記超音波変換器が、前記集束超音波治療を供給するために使用される超音波変換器アレイの素子であり、
前記対象への集束超音波治療の前記供給のエピソード間でステップ(a)が断続的に実行される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
頭蓋内の集束超音波治療手順の間に収差を低減する方法であって、
アレイの超音波変換器を使用して、非治療的超音波パルスを送信し、反射された超音波パルスを受信することによって、受信信号を取得することと、
前記受信信号を処理して、前記受信信号に関連付けられた一つ以上の測定が除外基準を満たしていることを決定することと、
前記アレイによる集束超音波治療のその後の供給中に、前記超音波変換器を使用から除外することと、
を備える、方法。
【請求項6】
前記除外基準の評価が前記受信信号の信号対ノイズ比に依存する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記除外基準の評価が、前記受信信号の周波数スペクトル内の一つ以上のスパイクの存在に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記除外基準が、一つ以上の隣接する超音波変換器から取得された一つ以上の受信信号との前記受信信号の比較に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記除外基準が、前記超音波変換器をスキャンすることによって取得された一つ以上の受信信号との前記受信信号の比較に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記除外基準が、前記超音波変換器の測定された入射角に基づく、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年5月31日に出願された米国特許仮出願第62/855,283号「SYSTEMS AND METHODS FOR REDUCING THERMAL SKULL-INDUCED ABERRATIONS DURING TRANSCRANIAL ULTRASOUND THERAPEUTIC PROCEDURES」に対する優先権を主張し、この米国特許仮出願の内容全体は、参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、超音波に基づく治療及び撮像に関連している。より詳細には、本開示は、経頭蓋超音波システム及び方法に関連している。
【0003】
[背景]
経頭蓋集束超音波(FUS: Focused ultrasound)治療は、脳内の奥深くでターゲットの非侵襲的切除を可能にするため、従来の手術に対する可能性のある代替手段として追及されてきた。現在、この技術は、本態性振戦症(Eliasら2013、Lipsmanら2013、Eliasら2016)、脳腫瘍(McDannoldら2010、Colucciaら2014)、強迫神経症(Jungら2015)、慢性神経障害痛(Martinら2009、Jeanmonodら2012)、及び鬱病(Kimら2018)の小さいターゲットの熱焼灼治療において成功裏に採用され、研究されることに成功している。この本態性振戦症治療は、現在、2016年における米国食品医薬品局を含む、複数の規制当局からの承認を受けている。
【0004】
経頭蓋FUS技術の臨床実施は、無傷の頭蓋骨を経由する正確な目標決定の能力を必要とし、脳内の焦点の変形をもたらす(Fry及びBarger 1978)頭蓋骨の不均等性のため(Clement及びHynynen 2002a)、困難である。その結果、そのような収差を補正するための異なる方法が提案された。例えば、隣接する変換器からの信号間の相互相関のピークに対応する時間遅延を計算することによって、超音波撮像時間シフト法(ultrasound imaging time-shift method)が使用された(Flax及びO'Donnell 1988、O'Donnell及びFlax 1988、Nocl、Trahey、及びSmith 1989)。後に、トーマス及びフィンク(Thomas及びFink 1996)並びにタンター(Tanter)ら(Tanter、Thomas、及びFink 1998)によって、時間反転鏡が採用された。つまり、目的の治療体積に埋め込まれた変換器から超音波が放射された。波を記録し、変換器が埋め込まれた場所のターゲットに再放射するために、治療用アレイが適用された。一方、肝臓(Seip、VanBaren、及びEbbini 1994)及び脳(Aubryら2001、Clement及びHynynen 2002b)のためのカテーテル挿入水中聴音器(catheter-inserted hydrophone)に基づく補正が提案された。
【0005】
これらの方法は、焦点合わせの品質改善の実現可能性を示したが、変換器の侵襲的な初期埋め込みが必要である。非侵襲的な経頭蓋治療を実現するために、手術前のCT画像から取得された頭蓋骨の密度及び厚さの情報を使用することによって、頭蓋骨の収差補正が非侵襲的に達成され得るということが発見され(Clement及びHynynen 2002c)、臨床脳治療を実現可能にすることができた。それ以来、CT情報を使用する複数のコンピュータモデルが開発され、頭蓋骨経由の焦点合わせを実現することが示された(Aubryら2003、Jones、O'Reilly、及びHynynen 2015)。
【0006】
経頭蓋集束超音波治療の多くの臨床実施は、無傷の頭蓋骨を経由する正確な目標決定を採用するが、脳内の焦点の変形をもたらす(Fry及びBarger 1978)頭蓋骨の不均等性のため(Clement及びHynynen 2002a)、困難である。その結果、そのような収差を補正するための異なる方法が提案された。例えば、隣接する変換器からの信号間の相互相関のピークに対応する時間遅延を計算することによって、超音波撮像時間シフト法が使用された(Flax及びO'Donnell 1988、O'Donnell及びFlax 1988、Nocl、Trahey、及びSmith 1989)。後に、トーマス及びフィンク(Thomas及びFink 1996)並びにタンター(Tanter)ら(Tanter、Thomas、及びFink 1998)によって、時間反転鏡が採用された。つまり、目的の治療体積に埋め込まれた変換器から超音波が放射された。波を記録し、変換器が埋め込まれた場所のターゲットに再放射するために、治療用アレイが適用された。一方、肝臓(Seip、VanBaren、及びEbbini 1994)及び脳(Aubryら2001、Clement及びHynynen 2002b)のためのカテーテル挿入水中聴音器に基づく補正が提案された。これらの方法は、焦点合わせの品質改善の実現可能性を示したが、変換器の侵襲的な初期埋め込みが必要である。
【0007】
非侵襲的な経頭蓋治療を実現するために、手術前のCT画像から取得された頭蓋骨の密度及び厚さの情報を使用することによって、頭蓋骨の収差補正が非侵襲的に達成され得るということが発見され(Clement及びHynynen 2002c)、臨床脳治療を実現可能にすることができた。それ以来、CT情報を使用する複数のコンピュータモデルが開発され、頭蓋骨経由の焦点合わせを実現することが示された(Aubryら2003、Jones、O'Reilly、及びHynynen 2015)。CT情報は、経頭蓋の応用のために、単素子変換器に結合された制御された厚さを有する音響レンズの設計においても使用され得る(例えば、G.Maimbourg、A. Houdouin、T.Deffieux、M.Tanter、及びJ.F.Aubry、「3D-printed adaptive acoustic lens as a disruptive technology for transcranial ultrasound therapy using single-element transducers」、Phys Med Biol, vol. 63, no. 2, p. 025026、2018年1月16日、並びにG.Maimbourg、A.Houdouin、T.Deffieux、M.Tanter、及びJ.F.Aubry、「Steering capabilities of an acoustic lens for transcranial therapy: numerical and experimental studies」、IEEE Trans Biomed Eng、2019年3月26日)。
【0008】
頭蓋骨によって引き起こされた位相シフトの測定のために(Aarnioら2005)、材料の厚さの共振周波数に基づく方法(Ohkawai 1983、Guyott 1988)が提案された。アールニオの研究では、インパルスを放射するために、広帯域超音波変換器が使用され、頭蓋骨の内面及び外面から反射された音響信号が記録され、その後、頭蓋骨の共振周波数を抽出するために、周波数スペクトル分析が行われた。加えて、実際の臨床応用では使用できないキャリパー又はマイクロメーターを使用する直接測定によって、頭蓋骨の厚さが取得された。
【0009】
[サマリー]
本開示のさまざまな実施形態例は、集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱的変動の動的補正及び低減のためのシステム及び方法を提供する。頭蓋骨によって引き起こされる収差の静的補正を伴う従来の方法とは異なり、本開示のさまざまな実施形態例は、超音波検出及び体積画像データからの頭蓋骨の厚さの推定値を使用し、手術中の頭蓋内の加熱に起因する、熱によって引き起こされる、頭蓋骨の局所的領域の音速の局所的変化にかかわらず、収差補正の減少が手術中に更新されて維持されるように、頭蓋骨によって引き起こされる収差の補正を断続的かつ動的に決定する。さらに、一部の実施形態例では、頭蓋骨での音速に依存する測定が、手術中に決定され、以前に決定された測定の値と比較され、測定における変化と頭蓋骨の温度における変化の間の既定の関係に基づいて、頭蓋骨の温度における変化を決定する。
【0010】
それに応じて、本発明の一態様では、頭蓋内の集束超音波治療手順の間に頭蓋骨の温度における変化を測定する方法が提供されており、この方法は、
(a)対象の頭蓋骨に隣接して配置された超音波変換器を使用して、第一の非治療的超音波パルスを送信し、第一の反射された超音波パルスを受信することによって、第一の受信信号を取得することと、
(b)集束超音波を対象に供給した後に、超音波変換器を使用して、第二の非治療的超音波パルスを送信し、第二の反射された超音波パルスを受信することによって、第二の受信信号を取得することと、
(c)第一の受信信号を処理して、頭蓋骨での音速に依存する測定の第一の値を決定することと、
(d)第二の受信信号を処理して、頭蓋骨での音速に依存する測定の第二の値を決定することと、
(e)測定の第一の値、測定の第二の値、及び頭蓋骨の温度と測定における変化との間の既定の較正を使用して、頭蓋骨の温度における変化を決定することと、を含む。
【0011】
本発明の別の態様では、頭蓋内の集束超音波治療手順の間に収差を低減する方法が提供されており、この方法は、
アレイの超音波変換器を使用して、非治療的超音波パルスを送信し、反射された超音波パルスを受信することによって、受信信号を取得することと、
受信信号を処理して、受信信号に関連付けられた一つ以上の測定が除外基準を満たしていることを決定することと、
アレイによる集束超音波治療のその後の供給中に、超音波変換器を使用から除外することと、を含む。
【0012】
以下の詳細な説明及び図面を参照することによって、本開示の機能及び有利な態様のさらなる理解が実現され得る。
【0013】
ここで、図面を単に例として参照し、実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】頭蓋内の集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差を手術中に低減する例示的な方法を示すフローチャートである。
図1B】頭蓋内の集束超音波治療手順の間に頭蓋骨の温度における変化を手術中に追跡する例示的な方法を示すフローチャートである。
図2】経頭蓋診断及び/又は治療手順を実行するための例示的なシステムを示す図である。
図3A】経頭蓋治療手順を実行するための例示的な患者固有のヘッドセットの断面を示す図である。
図3B】支持フレームによって頭蓋骨に対して経頭蓋超音波変換器アレイ素子が支持される実施形態例を示す図であり、経頭蓋超音波変換器アレイ素子からの超音波ビームが、遠距離場内で重複して焦点を生成しながら、遠距離場内で個別に焦点をぼかされるように、放射される。
図3C】経頭蓋超音波変換器アレイ素子の焦点が頭蓋骨内にあるように、頭蓋骨に対する経頭蓋超音波変換器アレイ素子の配置及び焦点合わせを示す実施形態例の図である。
図3D】遠距離場内の複数の経頭蓋超音波変換器アレイ素子からの波面の焦点合わせを示す図である。
図4A】患者固有の経頭蓋集束超音波治療のアレイの設計及び構築の例示的なプロセスを示す図である。
図4B】患者固有のヘッドセットを製造する例示的な方法を示すフローチャートである。
図5】共振法に基づくパルスエコー測定及び水中聴音器測定の実験的設定の概略図である。
図6】時間領域で測定された無線周波数(RF)信号(図6A)、使用可能帯域幅(0.3~0.8MHz)内の周波数スペクトル(図6B)、及びデコンボリューションを使用した周波数スペクトル(図6C)をプロットする図である。
図7】水中聴音器によって測定された位相シフトの関数として、共振法に基づいて反射によって計算された位相シフト(図7A)、頭蓋冠Sk1~4における位相差のヒストグラム(図7B)、水中聴音器によって測定された位相シフトの関数として、反射によって計算された位相シフト(図7C)、及び5°以上の入射角で測定された点を除く、頭蓋冠Sk1~4における位相差のヒストグラム(図7D)をプロットする図である。実線及び点線は、二つのモダリティ間の位相差における0°及び±45°をそれぞれ示す。
図8】水中聴音器によって測定された位相シフトの関数としてCTに基づく位相シフト(図8A)、頭蓋冠Sk1~4における位相差のヒストグラム(図8B)、水中聴音器によって測定された位相シフトの関数としてCTに基づく位相シフト(図8C)、及び5°以上の入射角で測定された点を除く、頭蓋冠Sk1~4における位相差のヒストグラム(図8D)をプロットする図である。実線及び点線は、二つのモダリティ間の位相差における0°及び±45°をそれぞれ示す。
図9】測定されたすべての点について三つのモダリティ(実線は共振法対水中聴音器法、破線はCTに基づく補正対水中聴音器法)の位相差の累積比率をプロットする図であり、図9Aでは、四つすべての頭蓋骨が赤色の線、5°未満の入射角の事例が青色の線で表されており、図9Bでは、頭蓋骨1~4が、それらに対応して黒色、赤色、青色、及びマゼンタ色の線で表されている。均等な分布が点線で示されている。理想的には、グラフは階段関数になる。
図10】水中聴音器法及び共振法(n=403)から計算された平均時間遅延(図10A)及び頭蓋骨内の音速(図10B)の比較をプロットする図である。「AllSk」は、四つの頭蓋骨すべての平均時間遅延及び音速を表す。
図11】温度の関数として、共振法及び水中聴音器法を使用して四つの頭蓋骨すべてに対して測定された位相シフトの変化(図11A)、並びに頭蓋骨の共振周波数の変化(図11B)の概要をプロットする図である。
図12】平均厚さ、入射角、並びに頭蓋骨1~4に対して測定されたすべての点(ntotal=784)のうちの45°及び20°未満の位相差のパーセンテージの値を提供する表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のさまざまな実施形態及び態様が、以下で検討される詳細を参照して、説明される。以下の説明及び図面は、本開示の例示であり、本開示を制限していると解釈されるべきではない。本開示のさまざまな実施形態の完全な理解を可能にするために、多数の特定の詳細が説明される。しかし、特定の事例では、本開示の実施形態の説明を簡潔にするために、周知の詳細又は従来の詳細は説明されない。
【0016】
本明細書において使用されるとき、「備える(comprises)」及び「備えている(comprising)」という用語は、排他的ではなく、包含的かつ無制限であると解釈されるべきである。特に、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるとき、「備える」及び「備えている」という用語並びにこれらの変形は、指定された特徴、ステップ、又はコンポーネントが含まれているということを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ、又はコンポーネントの存在を除外していると解釈されるべきではない。
【0017】
本明細書において使用されるとき、「例示的(exemplary)」という用語は、「例、事例、又は実例としての役割を果たす」ということを意味しており、必ずしも、本明細書で開示された他の構成よりも好ましい又は有利であると解釈されるべきではない。
【0018】
本明細書において使用されるとき、「約(about)」及び「おおよそ(approximately)」という用語は、特性、パラメータ、及び寸法における変動などの、値の範囲の上限及び下限に存在することがある変動を含めるよう意図されている。特に指定されない限り、「約」及び「おおよそ」という用語は、プラス又はマイナス25パーセント以下を意味する。
【0019】
特に指定されない限り、任意の指定された範囲又はグループが、範囲又はグループのあらゆるメンバーに加えて、それらに包含されるあらゆる可能な部分的範囲又はサブグループのあらゆるメンバーを個別に、並びに同様に、任意の部分的範囲又はサブグループに関して、参照する省略した方法であるとして、理解されるべきである。特に指定されない限り、本開示は、あらゆる特定のメンバー及び部分的範囲又はサブグループの組み合わせに関連しており、これらを明示的に組み込む。
【0020】
本明細書において使用されるとき、「~のオーダーで(on the order of)」という用語は、量又はパラメータと共に使用された場合、述べられた量又はパラメータのおおよそ10分の1~10倍に及ぶ範囲のことを指す。
【0021】
前述したように、これまで複数の研究が、頭蓋内の集束超音波治療を実行するときに頭蓋骨によって引き起こされる位相収差を補正する必要性に取り組んだ。頭蓋骨によって引き起こされる位相シフトが温度に実質的に反応しないということも知られている(Clement及びHynynen 2002a)。実際、クレメント及びヒニネンは、「室温で実行された位相測定は、体温で頭蓋骨を通る位相の補正に使用されることができる」及び「治療処置中の頭蓋骨内の温度上昇(~10℃)は、位相を大幅に変更しないはずである」と述べている。
【0022】
本発明者らは、電力と音響効率の間の負の相関を示す実験を実行した後に、電力と頭蓋骨の加熱の間の正相関を考慮して、頭蓋骨によって引き起こされる位相収差に対する温度の影響に関して当技術分野において従来導かれた結論が正しくなかったのではないかと疑った。実際、本発明者らは、実験において観察されたように、頭蓋骨の加熱が焦点サイズの増加及び臨床脳治療の加熱効率の減少をもたらしたのではないかと疑い、高電力での焦点の温度上昇の制限が、頭蓋骨によって引き起こされる収差の温度依存性の不適切な補正によって引き起こされた焦点の拡大から生じる加熱効率の減少に起因するという仮説を立てた。したがって、本発明者らは、そのような焦点の拡大が、頭蓋骨の温度における空間的に不均一な増加から生じる頭蓋骨内の音速の変化を補正できなかったことによって引き起こされたのではないかと疑った。
【0023】
本発明者らは、頭蓋内の集束超音波治療の分野におけるこの技術的問題を認識し、集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱によって引き起こされる変動の低減を促進する解決策を開発しようとした。
【0024】
下で提供される実施例において説明されるように、本発明者らは、従来の研究内容並びにClement及びHynynen 2002aによってもたらされた先入観とは全く対照的に、頭蓋骨によって引き起こされる収差が頭蓋骨の温度に対する強い依存性を有するということを示す、一連の実験を実行した。例えば、共振法及び水中聴音器法(下で詳細に説明される)の両方を使用して、25℃から42℃への温度の上昇に伴って頭蓋骨によって引き起こされる位相シフトの測定が実行された。室温と42℃の間で測定された、(0.5MHzの中心周波数で)温度の関数として、四つの例示的な頭蓋骨サンプルからの頭蓋骨によって引き起こされる位相シフトが、セ氏1度当たり2.65°の位相変化という温度に対する依存性を伴って、温度の関数として大きく変化するということが分かった。さらに、本発明者らは、測定された頭蓋骨の平均共振周波数の変化が、温度における変化に反比例するということを発見した。
【0025】
本発明者らは、これらの実験的発見から、高強度の経頭蓋治療超音波手順を実行するときに、当技術分野における従来の知識に反して、頭蓋骨内の大きい温度上昇が予想され、この温度上昇が、頭蓋骨の密度及び音速の大きい変化をもたらし、したがって、集束超音波治療の効率及び精度に影響を与える可能性のある頭蓋骨によって引き起こされる大きい位相シフトをもたらすという結論を下した。したがって、頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱によって引き起こされる変動の、動的な、手術中の、空間的に不均一な(変換器固有の)補正を容易にする方法が必要であるということが決定された。
【0026】
本開示のさまざまな実施形態例は、集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱的変動の動的補正及び低減のためのシステム及び方法を提供する。頭蓋骨によって引き起こされる収差の静的補正が、手術前に、集束超音波治療の開始に先立って決定され、その後、手順の間に変更されずに適用される従来の方法とは異なり、本開示のさまざまな実施形態例は、超音波検出及び体積画像データからの頭蓋骨の厚さの推定値を使用し、手術中の頭蓋内の加熱に起因する、熱によって引き起こされる、頭蓋骨の局所的領域の音速の局所的変化にかかわらず、収差補正の減少が手術中に更新されて維持されるように、集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差の補正を断続的かつ動的に決定する。さらに、一部の実施形態例では、頭蓋骨での音速に依存する測定が、手術中に決定され、以前に決定された測定の値と比較され、測定における変化と頭蓋骨の温度における変化の間の既定の関係に基づいて、頭蓋骨の温度における変化を決定する。
【0027】
一つの実施形態例では、頭蓋骨から反射された超音波エネルギーを断続的に検出し、頭蓋骨の局所的加熱を非侵襲的に監視するために、経頭蓋超音波アレイの超音波変換器が使用される方法が提供される。下で詳細に説明されるように、集束超音波治療手順の間に、経頭蓋超音波アレイの超音波変換器が断続的に使用され、変換器に隣接する頭蓋骨の局所的領域から反射された超音波エネルギーを検出し、検出された信号が処理され、頭蓋骨の局所的厚さの体積画像に基づく推定値と組み合わせて使用され、加熱によって引き起こされる変化を補正するように駆動信号の位相を調整するための動的補正を決定する。この動的補正は、集束超音波治療手順の間に断続的に(例えば、周期的又は非周期的に)再計算されてよい。さらに、動的補正は、アレイの超音波変換器のすべてなどの、アレイの複数の超音波変換器に対して決定され、使用されてよい。
【0028】
本明細書に記載された例示的な方法及びシステムは、頭蓋内の集束超音波治療手順の精度、効率、及び品質を改善することにおいて有益であることができる。さらに、本実施形態例は、加熱の影響に起因してその他の方法では実現不可能と見なされていた、一部の頭蓋内の集束超音波治療手順の実現可能性を改善することができる。実際、頭蓋内の集束超音波を伴う一部の臨床試験が成功したが、熱焼灼のための十分な温度に達することができない多くの患者が存在している。さらに、場合によっては、手順の間に頭蓋骨の損傷が引き起こされるほど頭蓋骨の温度が非常に高くなるため、集束超音波治療手順が実現不可能と見なされる。加えて、一部の臨床例では、頭蓋骨の過剰な加熱のため、中央のターゲットのみが治療可能である。本明細書に記載された実施形態例に従って実現できる改善された治療効率は、そのような手順において、頭蓋骨の加熱の程度を弱めることおいて効果的であることができ、それによって、手順の潜在的な実現可能性を高める。
【0029】
ここで図1Aを参照すると、頭蓋内の集束超音波治療手順の間に頭蓋骨によって引き起こされる収差を手術中に低減する例示的な方法が提供されている。超音波変換器のアレイを使用して対象への集束超音波の供給を開始した後に(100)、ステップ105に示されているように、非治療的超音波パルスを超音波変換器に隣接する頭蓋骨の局所的領域に送信するため、及び反射された超音波パルスを受信するために、アレイの超音波変換器が使用され、それによって、受信信号を取得する。
【0030】
「非治療的」という語句は、本明細書において使用されるとき、集束超音波治療のエネルギーの供給中に超音波変換器によって使用されるエネルギーより少ないエネルギーを有しているパルスのことを指しており、非治療的超音波パルスは、治療効果を生み出すための頭蓋内のターゲットへの超音波エネルギーの供給とは対照的に、頭蓋骨からの超音波エネルギーの反射を測定するために使用される。非治療的超音波パルスは、一部の実施形態例では、反射信号が処理されて、反射されたパルスの周波数スペクトルにおける共振特性を正確に決定すること、及び/又は反射されたパルスの移動時間を正確に決定することができるように、集束超音波治療の供給中に使用される超音波パルスの帯域幅を超える帯域幅を有してよい。一部の実施形態例では、非治療的超音波パルス(代替として、「診断」超音波パルスと呼ばれてよい)は、少なくとも500kHzの帯域幅を有してよい。一部の例示的な実装では、非治療的超音波パルスの中心周波数の範囲は、0.5MHz~15MHzであってよい。
【0031】
次に、110に示されているように、対象に関連付けられた体積画像データの処理から取得された頭蓋骨の局所的厚さの推定値と共に、受信信号が処理され、その後の集束超音波治療の間に超音波変換器に供給される治療的送信信号を補正するための補正を決定する。
【0032】
超音波変換器に隣接する頭蓋骨の局所的領域に関連付けられた頭蓋骨によって引き起こされる収差を低減すること、又は実質的に除去することに適しているように、補正が計算される。例えば、補正は、集束超音波エネルギーのその後の供給中に超音波信号に供給される送信信号の位相を調整するために使用される位相補正であってよい。別の実施形態例では、補正は、送信信号の供給を遅延させるために使用される時間遅延であってよい。適切な補正のさまざまな非限定的な例及びその応用が、以下でさらに詳細に説明される。
【0033】
図1Aの120に示されているように、アレイの一つ以上の超音波変換器について、ステップ105及び110が繰り返されてよい。一つの例示的な実装では、アレイの超音波変換器のすべてに対して補正が計算される。別の例示的な実装では、アレイの超音波変換器のサブセットに対して補正が計算されてよい。
【0034】
次に、頭蓋内の集束超音波治療手順(115)の間に、125に示されているように、これらのステップが一回以上繰り返され、補正を断続的に再計算し、それによって、手術中の頭蓋内の加熱に起因する、熱によって引き起こされる、頭蓋骨の局所的領域の音速の局所的変化にかかわらず、収差の低減を維持する。図1Aは、集束超音波治療(100)の開始後に補正が計算されることを示しているが、図1Aが制限するよう意図されていないということ、及び集束超音波治療の開始前に補正が計算されてよいということが、理解されるであろう(例えば、感知できる頭蓋骨の加熱の前の集束超音波治療の初期段階の間に使用するために、初期補正が計算されてよい)。
【0035】
特定の超音波変換器の補正の計算の非限定的な例が、以下で提供される。この例によれば、超音波パルスの検出された反射から取得された受信信号を最初に処理することによって、補正が計算されてよく、この処理は、超音波変換器に隣接する頭蓋骨の局所的領域に関連付けられた共振を識別するために、周波数領域で実行される。
【0036】
損失媒体内の広帯域パルスからの反射信号の周波数スペクトルは、次のように、強度送信係数に類似する結果を生じさせる。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、ρ、c、kb、及びdは、密度、音速(SoS: speed of sound)、波数、及び厚さをそれぞれ表し、下付き文字b及びwは、伝搬媒体である骨及び水をそれぞれ示す。方程式(1)から、kb=nπとなるような周波数で全送信が発生するのは明らかであり、これが、反射信号の周波数スペクトル上で、頭蓋骨からの反射の減少として示されている。これらの周波数の最小値は、骨層の共振周波数であり、周波数に対する一次導関数のゼロを見つけることによって、次のように取得され得る。
【0039】
【数2】
【0040】
方程式(2)から、骨におけるSoSが次のように計算され得る。
【0041】
【数3】
【0042】
頭蓋骨の挿入によって引き起こされる時間遅延は、次のように表され得る。
【0043】
【数4】
【0044】
この方程式から、次のように、頭蓋骨によって引き起こされる位相差の方程式が得られる。
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、fは変換器の中心周波数を表し、水におけるSoSであるcwは温度に依存し、dは目標にされた点での頭蓋骨の厚さであり、下でさらに説明されるように、対象に関連付けられた体積画像データ(手術前のコンピュータ断層撮影画像など)から取得されることができる。
【0047】
頭蓋骨の表面から反射された(反響された)信号が記録された後に、フーリエ変換が適用されてよく、それに続いて、変換器のインパルス応答のデコンボリューションが適用されてよい。次に、位相シフトを計算するために、周波数スペクトルにおける共振特性が使用されてよい。下で提供される実施例では、変換器の帯域幅内の極小値(0.3~0.8MHz)が、位相シフトを計算するために使用され、各点で平均値が取得された。その結果が、至適基準の水中聴音器法と比較され、四次のバターワースバンドパスフィルタ(0.1~1MHz)を使用して波形がデジタル的にフィルタリングされ、データを頭蓋骨と相関付けること、及び相関付けないことによって、経過時間における変化が計算された。
【0048】
頭蓋骨の局所的厚さは、コンピュータ断層撮影(CT: computed tomography)又は磁気共鳴撮像(MRI: magnetic resonance imaging)などの体積画像データから計算されてよい。手術前のCT画像データを使用して頭蓋骨の局所的厚さを計算する例示的な方法が、下の実施例のセクションで提供される。
【0049】
体積画像データは、超音波変換器に隣接する頭蓋骨の局所的領域に有効である頭蓋骨の厚さの推定値の決定を容易にするために、適切な変換を適用することによって、体積画像システムの参照フレームから手術中の参照フレームに変換されてよい。例えば、O'Reillyら、2016に記載されているように、超音波に基づく方法によって、頭蓋骨の位置整合が実現されてよい。簡単に説明すると、1サイクルのバーストを使用して、変換器が一つずつ励起される。頭蓋骨の外面からの反射信号が記録され、経過時間から、頭蓋骨上の点までの距離を計算するために、最初のエコーが使用される。頭蓋骨の外面が、CTデータからセグメント化され、一連の頂点及び面によって定義される。特定のCTデータ及び超音波データを前提として、次に、最接近点に基づく方法(例えば、Besl及びMcKay、1992)を使用して、頭蓋骨の位置が解決されることができ、位置整合が決定され得る。
【0050】
本実施形態例は、位相変化の補正の計算を伴っているが、代替として、時間遅延などの別の指標に従って補正が計算され得るということが、理解されるであろう。
【0051】
さらに、前述の例示的な実装は、受信信号の周波数スペクトルにおける共振特性の分析に基づく補正の計算を伴っていたが、代替手段において、補正を決定するときに受信信号を処理する他の方法が使用されてよいということが、理解されるであろう。
【0052】
例えば、一つの代替の例示的な実装では、パルスエコー分析法を使用して時間領域分析が実行されてよい。一番目及び二番目のエコーの到着時間をそれぞれt1及びt2として示すと、位相シフトをもたらす、頭蓋骨の局所的領域を通る伝搬の時間遅延は、Δt=(t2-t1)/2として表され得る。この時間遅延は、頭蓋骨を通る伝搬の正味の時間遅延である。次に、水の代わりに骨の存在によって引き起こされるΔtへの摂動(頭蓋骨の挿入による時間遅延)から生じる時間シフト補正が、Δtpulse-echo=d/cbとして計算されてよく、そのため頭蓋骨の挿入による時間遅延は、t=d/cb-d/cw=Δtpulse-echo-d/cwであり、体積画像データの処理からの局所的な頭蓋骨の厚さの推定値dを使用して計算され得る。頭蓋骨内の往復の経過時間より短い持続時間を有する非治療的超音波パルスを使用して、時間領域法が実行されるべきであるということが、理解されるであろう。
【0053】
アレイの超音波変換器が、単一集束変換器素子又はフェーズドアレイなどの、単素子又は多素子超音波変換器であってよいということが、理解されるであろう。一部の例示的な実装では、超音波変換器は、頭蓋骨内で焦点を実現するように構成されてよい(そのような構成の例が下で提供される)。
【0054】
下の実施例のセクションで説明されているように、本発明者らは、各ビーム軸が頭蓋骨の表面に垂直になるようにアレイの超音波変換器が配置された場合に、本発明の例示的な補正方法が優れた性能を達成するということを発見した。そのような位置合わせは、例えば、位相アレイの各素子によって受信された反射信号におけるピーク値の総和が最大に達するときに垂直入射が実現されるように、超音波素子のフェーズドアレイ構成及び電子ビーム操作を使用して実現されてよい。代替の例示的な実装では、頭蓋骨の表面から最大エコーが受信されるまで、単素子変換器の角度が変更されてよい。変換器の角度の変更は、例えば、(単素子変換器を使用して)機械的又は(フェーズドアレイ変換器を使用して)電子的に実行され得る。
【0055】
一部の実施形態例では、受信信号は、アレイの一つ以上の外れ値の変換器を識別すること、及び集束超音波治療中に一つ以上の外れ値の変換器を使用から除外し、正確な頭蓋内の焦点を実現する能力を損なう可能性がある特定の超音波変換器の使用を防ぐことのために、使用されてよい。例えば、特定の超音波変換器の受信信号を処理することによって取得された一つ以上の測定値によって満たされた場合に、その後の集束超音波治療中の含有から特定の変換器を除外する、除外基準が開発されてよい。受信信号の測定及び一つ以上の測定値が除外基準を満たしているかどうかの評価は、集束超音波治療の供給を開始する前、又は集束超音波治療を開始した後に、実行されてよい。
【0056】
一つの例示的な実装では、除外基準は、周波数スペクトルの信号対ノイズ比(SNR: signal-to-noise ratio)に関連付けられた一つ以上の測定値を、事前に確立されたしきい値と比較することを含んでよい。別の例示的な実装では、アレイの特定の超音波変換器から取得された周波数スペクトルが、大きい入射角に起因するせん断波伝搬の兆候である、既定の基準(例えば、スパイクの幅及び高さ、並びに/又はスパイクの量)を満たす複数のスパイクを含んでいる場合、その特定の超音波変換器が除外されてよい。除外基準の別の例は、測定された入射角(例えば、超音波変換器の中心からターゲットに向かう離散化された入射線に沿ったすべての点への最短距離を有する、CTからセグメント化された位置整合済みのメッシュ化された頭蓋骨の外面上にある三角形メッシュの重心を最初に見つけ、次に、特定の超音波変換器の入射線と頭蓋骨上の三角形表面の法線との間の角度を計算することによって、測定され得る)を、既定のしきい値と比較し、既定の最大入射角を超える超音波変換器を除外することを、含むことができる。
【0057】
他の例示的な実装では、他の受信信号との受信信号の比較に基づいて、除外基準が評価されてよい。一つの例示的な実装では、特定の超音波変換器からの受信信号が類似性基準を満たすことができないかどうかを評価するために、特定の超音波変換器の受信信号が、他の近くの超音波変換器(例えば、隣接する超音波変換器又は特定の超音波変換器からの既定の距離以内にある超音波変換器)から取得された受信信号と比較されてよい。他の例示的な実装では、超音波変換器の近位にある頭蓋骨の領域内で、特定の超音波変換器の超音波ビームがスキャンされてよく(例えば、電気的又は機械的にビームをスキャンする)、除外基準を評価するときに、頭蓋骨の領域をスキャンしている間に取得された複数の受信信号が比較されてよい。そのようなとき、複数の受信信号間で一貫性のない周波数スペクトルが検出された場合(例えば、複数の受信信号を処理することによって取得された比較測定値が既定の類似性基準を満たすことができない場合)、超音波変換器が除外されてよい。基準の評価に基づく一つ以上の超音波変換器の除外を伴う前述の実施形態例が、頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱によって引き起こされる変化を補正する動的補正を決定することなく、実行されてよいということが、理解されるであろう。
【0058】
一つの実施形態例では、特定の超音波変換器に隣接して存在する一つ以上の超音波変換器に対して決定された各補正に少なくとも部分的に基づいて、アレイの特定の超音波変換器に供給された送信信号を補正するための補正が決定されてよい。
【0059】
一部の例示的な実装では、頭蓋骨の厚さ及び入射角の計算が、体積画像データの処理における複数の経路に基づくことは、有益であることがある。頭蓋骨の厚さ(又は別の測定値)が既定のしきい値を超えて変化するということが決定された場合、アレイの初期設計時に、頭蓋骨内のその位置が除外されてよい。高解像度(例えば、0.082mm/ピクセルを超える解像度(Treeceら2010))の体積画像データ(例えば、CTスキャン)が、皮質骨のより明瞭な境界を提供し、厚さの計算により良く適合する結果をもたらすということに注意する。
【0060】
一部の実施形態例では、頭蓋骨の温度における変化の手術中の決定を可能にするために、受信信号が処理されてよい。下の実施例のセクションに示されているように、本発明者らは、頭蓋骨の共振周波数の変化が、温度との線形関係を有するということを決定した(例えば、図11Bを参照)。したがって、図1Bの150に示されているように、共振周波数、又は頭蓋骨内の音速に依存する受信信号から取得された一つ以上の他の測定値と、温度との間の関係(必ずしも対象の頭蓋骨ではなく、例えば、複数の頭蓋骨からの測定に基づく平均的関係)が、最初に決定されるか、又は取得されてよい。ステップ155及び160に示されているように、アレイの超音波変換器によって非治療的超音波パルスが対象に供給されてよく、超音波変換器に関連付けられた頭蓋骨の局所的領域から反射された超音波エネルギーの検出から取得された受信信号を処理することによって、頭蓋骨内の音速に依存する測定値の初期値が決定されてよい。集束超音波エネルギーの供給後に(165)、ステップ170及び175に示されているように、測定値の更新された値が決定されてよい。次に、ステップ180に示されているように、前の値に対する測定値における変化に基づいて、超音波変換器に関連付けられた頭蓋骨の局所的領域内の温度における変化を決定するために、ステップ150で取得された関係が使用されてよい。190に示されているように、このプロセスが一回以上繰り返されて、頭蓋骨の局所温度における変化を断続的に、手術中に追跡してよい。
【0061】
図1Bに示されていないが、このプロセスが、一つ以上の追加の超音波変換器に対して実行されてよい。例えば、変換器の少なくとも半分などの、アレイのかなりの数の超音波変換器に対して実行されたときに、測定値を使用して頭蓋骨の(任意選択的に動的な)ヒートマップを生成してよい。集束超音波治療の開始前(それによって、治療前の頭蓋骨の温度に対する温度変化の追跡を可能にする)、又は集束超音波治療の開始後に、音速に依存する測定値の最初の決定を実行できるように、図1Bの方法が実施されてよいということが理解されるであろう。
【0062】
図2は、診断的又は治療的経頭蓋手順を実行するためのシステムの例示的な実装を示すブロック図を提供する。制御及び処理ハードウェア300は、任意選択的に変換器ドライバ電子機器/回路380を介して、経頭蓋ヘッドセット100に動作可能に接続される。
【0063】
制御及び処理ハードウェア300は、一つ以上のプロセッサ310(例えば、CPU/マイクロプロセッサ)、バス305、ランダムアクセスメモリ(RAM: random access memory)及び/又は読み取り専用メモリ(ROM: read only memory)を含むことができるメモリ315、データ収集インターフェイス320、ディスプレイ325、外部ストレージ330、一つ以上の通信インターフェイス335、電源340、並びに一つ以上の入出力デバイス及び/又はインターフェイス345(例えば、スピーカ、キーボード、キーパッド、マウス、位置追跡スタイラス、位置追跡プローブ、足踏みスイッチ、及び/又は音声コマンドを捕らえるためのマイクロホンなどのユーザ入力デバイス)を含んでいる。
【0064】
体積画像データ370及び変換器位置整合データ375は、外部データベースに格納されるか、又は制御及び処理ハードウェア300のメモリ315若しくはストレージ330に格納されてよい。
【0065】
追跡システム365は、任意選択的に使用され、経頭蓋ヘッドセット400に取り付けられた一つ以上の基準マーカー460、及び任意選択的に、基準マーカーがやはり取り付けられた一つ以上の医療機器若しくは医療デバイスの検出によって、患者の位置及び向きを追跡してよい。例えば、基準マーカーから放射された受動信号又は能動信号が、二つの追跡カメラを使用する立体的追跡システムによって検出されてよい。変換器駆動電子機器/回路380は、例えば、Tx/Rxスイッチ、送信及び/又は受信ビームフォーマを含んでよいが、これらに限定されない。
【0066】
制御及び処理ハードウェア300は、実行可能な命令を含んでいるプログラム、サブルーチン、アプリケーション、又はモジュール350を使用してプログラムされてよく、実行可能な命令は、一つ以上のプロセッサ310によって実行されたときに、システムに、本開示において説明された一つ以上の方法を実行させる。そのような命令は、例えば、メモリ315及び/又はその他のストレージに格納されてよい。
【0067】
示された実施形態例では、変換器制御モジュール355は、変換器位置整合データ375に従って、体積画像データへの変換器の位置及び向きの整合に基づいて、経頭蓋ヘッドセット400の変換器を制御して、エネルギーをターゲット位置又は対象領域に供給するための、実行可能な命令を含む。例えば、経頭蓋ヘッドセット400は、複数のフェーズドアレイ変換器をサポートしてよく、変換器制御モジュール355は、(送信及び/又は受信に)適用されるビーム形成を制御し、体積画像データに対するフェーズドアレイ変換器の既知の位置及び向きに基づいて、一つ以上の集束エネルギービームを経頭蓋超音波変換器アレイ素子の遠距離場領域内の対象領域に供給してよい。対象領域は、手術中にユーザによって(例えば、制御及び処理ハードウェア300によって制御されるユーザインターフェイスを介して)、又は事前に確立された手術計画に従って、指定されてよい。
【0068】
位置整合モジュール360は、任意選択的に、体積画像データ370を、追跡システム365に関連付けられた手術中の参照フレームに位置整合するために、使用されてよい。任意選択的なガイダンスユーザインターフェイスモジュール362は、画像によって誘導される手順のために空間的に位置整合された体積画像を表示するユーザインターフェイスを表示するための実行可能な命令を含む。位置整合モジュール360は、経頭蓋フレームと患者の頭部の間の検出された空間オフセット(距離検出変換器のサブセットによって提供されてよい)に基づく空間補正情報を手術中に受信し、この空間補正情報を使用して、変換器と体積画像データの間の位置整合を動的に調整してもよい(例えば、補正してもよい)。
【0069】
補正モジュール390は、変換器駆動回路380の制御によって、頭蓋骨によって引き起こされる収差における熱によって引き起こされる変化を補正する手術中の補正を決定するために、例えば、図1Aに示された方法を実行するための実行可能な命令を含む。除外モジュール392は、例えば上で説明された方法に従って、除外基準を満たす一つ以上の超音波変換器を識別するための、実行可能な命令を含む。温度監視モジュール394は、変換器駆動回路380の制御によって、頭蓋骨の局所的温度変化を手術中に追跡するために、例えば、図1Aに示された方法を実行するための実行可能な命令を含む。
【0070】
図2には各コンポーネントのうちの一つのみが示されているが、任意の数の各コンポーネントが制御及び処理ハードウェア300に含まれ得る。例えば、コンピュータは通常、複数の異なるデータストレージ媒体を含む。さらに、バス305がすべてのコンポーネントの間の単一の接続として示されているが、バス305が、コンポーネントのうちの二つ以上をリンクする一つ以上の回路、デバイス、又は通信チャネルを表してよいということが理解されるであろう。例えば、パーソナルコンピュータでは、バス305は、多くの場合、マザーボードを含んでいるか、又はマザーボードである。制御及び処理ハードウェア300は、示されたコンポーネントより多いか、又は少ないコンポーネントを含んでよい。
【0071】
制御及び処理ハードウェア300は、一つ以上の通信チャネル又はインターフェイスを介してプロセッサ310に結合された一つ以上の物理デバイスとして実装されてよい。例えば、制御及び処理ハードウェア300は、特定用途向け集積回路(ASIC: application specific integrated circuits)を使用して実装され得る。代替として、制御及び処理ハードウェア300は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして実装されることができ、ソフトウェアがメモリから、又はネットワーク接続を経由して、プロセッサに読み込まれる。
【0072】
本開示の一部の態様は、少なくとも部分的にソフトウェアにおいて具現化されることができ、このソフトウェアは、コンピューティングシステム上で実行されたときに、コンピューティングシステムを、本明細書で開示された方法を実行できる特殊な目的のコンピューティングシステムに変換する。すなわち、この技術は、ROM、揮発性RAM、不揮発性メモリ、キャッシュ、磁気ディスク及び光ディスク、又はリモートストレージデバイスなどの、メモリに含まれている命令のシーケンスを実行する、マイクロプロセッサなどのプロセッサに応答して、コンピュータシステム又はその他のデータ処理システムにおいて実行され得る。さらに、命令は、コンパイルされたバージョン及びリンクされたバージョンの形態で、データネットワークを経由して、コンピューティングデバイスにダウンロードされ得る。代替として、大規模集積回路(LSI: large-scale integrated circuits)、特定用途向け集積回路(ASIC)、又は電気的消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(EEPROM: electrically erasable programmable read-only memory)及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA: field-programmable gate arrays)などのファームウェアのような、個別のハードウェアコンポーネントなどの、前述したようなプロセスを実行するための論理が、追加のコンピュータ及び/又は機械可読媒体において実装され得る。
【0073】
コンピュータ可読媒体を使用して、ソフトウェア及びデータを格納することができ、これらのソフトウェア及びデータは、データ処理システムによって実行されたときに、システムに、さまざまな方法を実行させる。実行可能なソフトウェア及びデータは、例えばROM、揮発性RAM、不揮発性メモリ、及び/又はキャッシュを含む、さまざまな場所に格納され得る。このソフトウェア及び/又はデータの各部分は、これらのストレージデバイスのうちのいずれか一つに格納され得る。一般に、機械可読媒体は、機械(例えば、コンピュータ、ネットワークデバイス、パーソナルデジタルアシスタント、製造ツール、一つ以上のプロセッサのセットを含む任意のデバイスなど)によってアクセスできる形態で情報を提供する(すなわち、格納及び/又は送信する)いずれかのメカニズムを含む。
【0074】
コンピュータ可読媒体の例としては、特に、揮発性及び不揮発性メモリデバイス、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリデバイス、フロッピーディスク及びその他の取り外し可能なディスク、磁気ディスクストレージ媒体、光ストレージ媒体(例えば、コンパクトディスク(CD: compact disc)、デジタルバーサタイルディスク(DVD digital versatile disk)など)などの、記録可能な種類及び記録できない種類の媒体が挙げられるが、これらに限定されない。命令は、搬送波、赤外線信号、デジタル信号などの、電気的、光学的、音響的、又はその他の形態の伝搬信号の、デジタル及びアナログ通信リンクにおいて具現化され得る。本明細書において使用されるとき、「コンピュータ可読媒体」及び「コンピュータ可読ストレージ媒体」という語句は、一過性の伝搬信号自体を除く、すべてのコンピュータ可読媒体のことを指す。
【0075】
ここで図3Aを参照すると、経頭蓋診断又は治療手順を実行するための非限定的な患者固有のヘッドセット400の例が、患者の頭部50の上に装着されて示されている。複数の変換器420を支持する患者固有のフレーム(支持構造物)410を含んでいる患者固有のヘッドセット400は、患者の頭部の少なくとも一部の解剖学的輪郭に一致する。図3Aの断面に示されている患者固有のフレーム410は、事前に選択された位置及び向きで、変換器420を機械的に支持する。変換器420は、脳の診断及び治療の目的で、又は頭蓋骨の表面の位置確認のために、エネルギーを送信及び/又は受信することに使用されてよい。
【0076】
患者固有のフレーム410は、変換器420を受け止めて支持するための複数の取り付けインターフェイスを含む。図3Aに示されている実施形態では、取り付けインターフェイスが、変換器420が配置される開口部(窪み)として提供されている。変換器420は、取り付けメカニズム(例えば、患者固有のフレーム410内に伸び、任意選択的に、事前に形成された穴の中に伸びる、留め具による)又は粘着剤(接着剤など)などを使用するが、これらに限定されない、多種多様な手段に従って、患者固有のフレーム410に貼り付けられてよい。図3Aに示されている例示的な実装では、変換器420は、ワイヤを介して、又は柔軟なプリント基板440を介して、リモートから電子機器とインターフェイスがとられる。変換器420は、患者固有のフレーム410に、取り外し可能なように取り付け可能であってよい。
【0077】
図3Aに示されている例示的な患者固有のヘッドセットは、患者固有のフレームの内面に隣接して備えられた結合層430を含んでもよい。結合層430の外面が変換器420の遠位側面に接触し、結合層の内面が患者の頭部50に接触し、それによって、患者固有のフレーム内の変換器と患者の頭部の間のエネルギーの結合を促進する。結合層430の含有並びに結合層の組成及び/又は形状は、変換器420の種類によって決まってよい。例えば、変換器420が超音波変換器である場合、結合層430は、音波の伝搬を促進し、界面での反射を減らす音響結合層であってよい。一つの例示的な実装では、結合層430は、皮膚との結合が実現されるように、変換器の表面と弾性膜の間に液体層を保持する弾性膜を含む。
【0078】
一部の経頭蓋超音波アレイは、頭蓋骨の高い音響インピーダンスのため、中心を外れたターゲット(例えば、脳の中心から2~4cmより遠く離れたターゲット)の音波破砕を実現することにおいて、斜角での縦波の送信を妨げ、ターゲットに対する治療手順を脳の中心領域に制限するという課題に遭遇した。ここで図3Bを参照すると、頭蓋骨を通る高レベルのビーム操作を実現するように構成されたアレイを提供することによってこの問題に対処する経頭蓋超音波変換器アレイの例示的な図が示されている。これは、各超音波ビームの遠距離場が脳内にあるように、頭蓋骨に対して経頭蓋超音波変換器アレイ素子を配置し、パルスが目的のターゲットに同相で到着するように、各変換器アレイ素子によって放射された超音波パルスのタイミングを制御することによって、実現される。
【0079】
図3Bに示された例示的な経頭蓋超音波変換器アレイは、フレーム(図示されていない)によって対象の頭部に対して支持された複数の経頭蓋超音波変換器アレイ素子500を含んでいる。各経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、破線で示されている各集束超音波ビームを放射する。図3Bの図は、例示の目的で三つの変換器のみを示しているが、下でさらに説明されるように、経頭蓋デバイスは、適切な焦点合わせを実現するために三つより多い素子を含むのが好ましい。
【0080】
図3Bの実施形態例に示されているように、各焦点が頭蓋骨内にあるように、各経頭蓋超音波変換器アレイ素子500が配置されている。これが図3Cでさらに明確に示されており、図3Cは、頭蓋骨510内の焦点領域520への単一の経頭蓋超音波変換器アレイ素子500(能動的な変換器の部分502及び任意選択的な裏当て504を備えているように示されている)の焦点合わせを示している。超音波ビームの焦点を頭蓋骨内で合わせることによって、各ビームの近接場領域530が、頭蓋骨内で、又は頭蓋骨の近くで局所化され、その結果、脳内に広がるブームの部分が、遠距離場内にある。これが図3Bに示されており、図3Bでは、各超音波ビームが脳内に供給され(円錐545で示されている)、遠距離場内を伝搬するように、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500の焦点が合わせられる。経頭蓋超音波の他の形態とは対照的に、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の個別の焦点が空間的に分離され、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の超音波ビームが、各遠距離場内で重複する。
【0081】
図3Bに示されているように、各超音波ビームが垂直入射で、又はほぼ垂直入射(例えば、±15°以内)で、頭蓋骨に入るように、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500が方向付けられてよい。他の例示的な実装では、超音波ビームは、垂直入射の±10°以内、±5°以内、又は±2°以内で、頭蓋骨に向かって方向付けられてよい。この方法で経頭蓋超音波変換器アレイ素子500を方向付け、それらの超音波ビームの焦点を頭蓋骨内、又は頭蓋骨の近くに合わせることによって、各超音波ビームが平面波として頭蓋骨を伝搬し、それによって、骨及び組織に起因するインピーダンスの不一致並びに骨及び水に起因するインピーダンスの不一致からの損失を低減して、脳に入る。
【0082】
さらに、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500を垂直入射に、又は垂直入射の近くに方向付け、超音波ビームの焦点を頭蓋骨内又は頭蓋骨の近くに合わせることによって、各超音波ビームが、頭蓋骨の小さい領域を探査し、したがって、局所的なインピーダンスの不一致に起因する散乱及び音速の局所的変化に起因する伝搬効果を引き起こす可能性がある頭蓋骨内の不均等性の影響を受ける可能性が低くなる。言い換えると、頭蓋骨密度及びその他の特性における少ない変動性を有する頭蓋骨の小さい領域を通る各超音波ビームの伝搬は、波動伝搬に対する骨によって引き起こされる影響の補正を改善することを可能にする。
【0083】
ここで図3Dを参照すると、脳内に存在するターゲット領域に、又はターゲット領域内に、建設的干渉を生成するために、各経頭蓋超音波変換器アレイ素子500によって放射されるパルス(及び/又は位相)のタイミングが制御される。言い換えると、頭部の周囲で十分な数の経頭蓋超音波変換器アレイ素子500を支持することにより、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500によって生成された超音波の位相を調整することによって、又は経頭蓋超音波変換器アレイ素子500によって短いバーストが送信される場合にタイミングを調整することによって、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500からのエネルギーの焦点を、脳内の目的のターゲット位置に合わせることができる。これが、超音波の短いバーストの事例において図3Dに示されており、図3Dでは、波面550A、550B、及び550Cが空間的及び時間的に焦点560に揃えられるように、放射されたパルスのタイミングが制御されている。
【0084】
図3Bに示されているように、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500の各々は、遠距離場領域のすべてが脳の少なくとも一部の内部(焦点合わせ範囲又は焦点合わせ領域550として示されている)で空間的に重複するように、方向付けられてよく、それにより、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500からの超音波エネルギーの放射のタイミングの制御(例えば、経頭蓋超音波変換器アレイをフェーズドアレイとして動作させること)によって、この領域内の遠距離場の焦点合わせを可能にする。一部の実施形態例では、焦点合わせ領域550は、遠距離場領域がターゲット領域で重複するが、脳内の他の場所で重複する必要がないように、既知の腫瘍又は疑われている腫瘍などの、治療又は撮像のターゲットを含んでいることが知られている脳の一部の内部にあってよい。
【0085】
図3B~3Dに示されている経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、固定焦点の凹面変換器として示されているが、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500のうちの一つ以上(例えば、すべて)が、フェーズドアレイ変換器(これ以降、サブアレイと呼ばれる)であってよいということが理解されるであろう。「サブアレイ」という用語は、本明細書では、経頭蓋超音波変換器アレイのアレイ素子を、経頭蓋超音波変換器アレイの経頭蓋超音波変換器アレイ素子として使用されるフェーズドアレイ変換器の素子と明確に区別するために使用される。経頭蓋超音波変換器アレイ素子でのフェーズドサブアレイの使用は、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の機械的再配置を必要とせずに、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の焦点の選択及び/又は調整を可能にするという点において、有益であることがある。
【0086】
図4Aは、経頭蓋超音波変換器アレイ素子を支持するため、及び任意選択的に、経頭蓋集束超音波手順を実行するための治療計画の生成のために、患者固有の支持体(骨格)を生成するプロセスを概略的に示している。
【0087】
600に示されているように、患者固有の頭蓋骨形状を決定するために、患者の体積画像が最初に使用される。次に、この患者固有の頭蓋骨形状は、610に示されているように、頭部の周囲の経頭蓋超音波変換器アレイ素子の配置を決定するために使用される。その後、計算された経頭蓋超音波変換器アレイ素子の位置が、素子を保持する構造物を使用して素子を配置するため、又は患者の頭部に適合するように構成された患者固有のフレーム(アレイ支持構造物、骨格)610を製造するために、使用される。下で説明されているように、この患者固有のフレームは、高速な試作を使用して製造されることができ、支持体は、経頭蓋超音波変換器アレイ素子を受け止めて支持するための取り付けインターフェイスを含んでよい。最後に、治療の日に、ターゲットの位置確認のための標準的な撮像シーケンスの前に、アレイが患者に固定され、その後、コンピュータ支援治療の計画立案、及び処理が続く。
【0088】
患者固有のフレーム610は、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500を受け止めて支持するための複数の取り付けインターフェイスを含んでよい。例えば、取り付けインターフェイスは、経頭蓋超音波変換器アレイ素子500が配置される開口部(窪み)として提供されてよい。経頭蓋超音波変換器アレイ素子500は、取り付けメカニズム(例えば、患者固有のフレーム610内に伸び、任意選択的に、事前に形成された穴の中に伸びる、留め具による)又は粘着剤(接着剤など)などを使用する、多種多様な手段に従って、患者固有のフレーム610に貼り付けられてよい。経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、ワイヤを介して、又は柔軟なプリント基板を介して、リモートから電子機器とインターフェイスがとられてよい。経頭蓋超音波変換器アレイ素子500は、患者固有のフレーム610に、取り外し可能なように取り付け可能であってよい。
【0089】
患者固有のヘッドセットは、患者固有のフレームの内面に隣接して備えられた結合層を含んでもよい。結合層の外面が経頭蓋超音波変換器アレイ素子500の遠位側面に接触してよく、結合層の内面が患者の頭部に接触し、それによって、患者固有のフレーム内の変換器と患者の頭部の間のエネルギーの結合を促進する。結合層は、音波の伝搬を促進し、界面での反射を減らす音響結合層であってよい。一つの例示的な実装では、結合層は、皮膚との結合が実現されるように、変換器の表面と弾性膜の間に液体層を保持する弾性膜を含む。
【0090】
経頭蓋超音波変換器アレイ素子及びそれらの各取り付けインターフェイスは、特定の経頭蓋超音波変換器アレイ素子(例えば、その各筐体)が各取り付けインターフェイスに一意的に適合するように、固有の形状を有してよい(すなわち、それぞれ適合されてよい)。
【0091】
前述したように、患者固有のフレームは、患者の頭部の少なくとも一部の解剖学的輪郭に一致する。そのような密着型フレームは、患者の頭部の体積画像データに基づいて製造されてよい。図4Bは、患者に関連付けられた体積画像データに基づいて患者固有のフレームを製造するための例示的な方法を示している。ステップ610及び615で、患者の頭部の体積画像データが取得されて処理され、患者の頭部の一部の解剖学的湾曲(例えば、皮膚又は骨の表面)を特徴付ける表面データを提供する。例えば、磁気共鳴(MR)撮像及びコンピュータ断層撮影(CT)撮像などの、ただしこれらに限定されない、撮像モダリティを使用して撮像を実行することによって、体積データが取得されてよい。体積画像データは、以前に実行された撮像手順に基づいて取得されてよい。
【0092】
患者の頭蓋骨の一部の表面を特徴付ける表面データを取得するために、体積画像データが処理されてセグメント化されてよい。そのような表面のセグメント化は、例えば、Mimics(商標)ソフトウェアプラットフォーム(マテリアライズ(Materialise)、ベルギー)などの、画像処理ソフトウェアを使用して実行されてよい。そのようなソフトウェアは、患者の頭部の一部の表面の3Dモデル(表面データ)の作成を可能にする。このモデルは、しきい値化、領域拡張、及び手動の編集のステップを使用することなどの、既知の技術を使用して作成されてよい。頭蓋骨の皮膚表面の第一近似を実現するために、自動しきい値化が実行され、それに続いて、改良されたモデルを取得するために、手動の編集が実行されてよい。例えば、PHANTOM(商標)デスクトップハプティックデバイスなどのモデリングソフトウェアプラットフォームを使用する触覚モデリングが、モデルをさらに改良するために使用されてよい。体積画像データの画像処理及びセグメント化の追加の例示的な方法が、米国特許第8,086,336号で開示されている。
【0093】
その後、ステップ620に示されているように、表面データが使用され、患者の頭部の周囲の変換器素子の配置を決定するためのデジタルモデルを生成する。例えば、表面データ点の点群に基づいてモデルを生成するために、適切なソフトウェアプラットフォーム(ソフトウェアパッケージSurfacer(商標)など)が使用されてよい。次に、この情報は、例えば、変換器が目的の位置に移動することを可能にするホルダー内にある場合に、変換器を配置するために使用され得る。ステップ630に示されているように、次に、患者の頭部に対する事前に選択された位置及び向きで複数の経頭蓋超音波変換器アレイ素子を受け止めて支持するため、及びエネルギーが経頭蓋で結合されるように変換器を支持するための、複数の変換器取り付けインターフェイスを含むように、モデルが変更又は改良(例えば、更新)される。
【0094】
変換器取り付けインターフェイスの位置及び向きは、次のように決定されてよい。コンピュータシミュレーションが使用されて、波動伝搬を計算し、変換器の遠距離場がターゲット位置に達することができる始点となる位置を選択することができる。
【0095】
デジタルモデルは、一つ以上の基準マーカーの取り付けための取り付けインターフェイス、患者固有のフレームが装着されている(又はその他の方法で患者の頭部の上若しくは周囲に配置されている)ときに、患者の頭部の選択された領域への手術時のアクセスを可能にする開口部、基準方向を識別するためのマーカー、及び外部の取っ手などの一つ以上の配置の特徴などの、ただしこれらに限定されない、一つ以上の追加の特徴を含むように、さらに改良されてよい。
【0096】
変換器取り付けインターフェイスを含むように更新されたデジタルモデルは、次に、ステップ640に示されているように、患者固有のフレームを製造するために使用されてよい。例えば、3D印刷を使用して、モデルから患者固有のフレームが製造されてよい。別の例では、モデルは、患者固有のフレームを形成するのに適した金型を生成するために使用されてよく、その後、この金型が患者固有のフレームを製造するために使用されてよい。
【0097】
患者固有のフレームを製造した後に、経頭蓋超音波変換器アレイ素子(又は変換器アレイ素子アセンブリ若しくはモジュール)が、ステップ650に示されているように、患者固有のフレームの各変換器取り付けインターフェイスに固定される(取り付けられる、接着されるなど)。
【0098】
手術前の体積画像データに基づいて、患者固有のヘッドセットを使用して診断手順又は治療手順を実行するために、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の位置及び向きと体積画像データとの間の関係が確立されてよい(すなわち、両方を共通の参照フレーム内で表すことができるようにする)。それに応じて、ステップ660で、(デジタルモデルにおいて規定された)経頭蓋超音波変換器アレイ素子の既知の位置及び向きが、体積画像データに対して空間的に位置整合され、それによって、体積画像データに対する変換器の位置及び向きを特徴付ける変換器位置整合データを生成する。例えば、そのような変換器位置整合データは、体積データの参照フレーム内の、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の空間的座標、及びそれらの各向きを識別するベクトルを含んでよい。別の例示的な実装では、変換器位置整合データは、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の位置及び向きを、第一の参照フレームから体積画像データの参照フレームに変換するための座標変換を含んでよい。変換器位置整合データは、体積画像データに対する経頭蓋超音波変換器アレイ素子の位置及び向きの決定を可能にし、例えば、重複する遠距離場領域内で、エネルギービームの焦点を患者の頭部内の特定の位置又は領域に合わせるための、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の適切な時間遅延及び/又は位相遅延の決定を可能にする。次に、665に示されているように、位置整合データ、体積画像データ、及び経頭蓋超音波変換器アレイ素子の既知の位置及び向きが使用され、治療計画を生成してよい。
【0099】
別の実施形態では、フレームが対象の頭部の周囲に配置されて、頭部の撮像(例えば、MRI、CT、トモシンセシス(thomosynthesis)、又はX線)を実行することによって、フレームと頭部及び脳との間の位置整合が実現されることができ、フレーム内の可視の基準マーカーを画像化することによって、変換器の位置を決定できるようにする。
【0100】
前述の実施形態例は、患者の頭部の解剖学的湾曲に一致する患者固有のフレームの製造及び使用を伴うが、この実施形態が、経頭蓋超音波変換器アレイ素子を支持できる方法の一つの例を示すために含まれているということが、理解されるであろう。
【0101】
別の例示的な実装によれば、経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、患者固有の形状を有していないが、経頭蓋超音波変換器アレイ素子を調整できるように、複数の経頭蓋超音波変換器アレイ素子を支持するように構成された支持フレームによって支持されてよい。例えば、経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、患者に関連付けられた体積画像データに基づいて計算された位置及び向きに一致するか、又は接近するように位置及び向きを調整するために、支持フレームに対して、手動で、又は自動的に、調整できてよい。例えば、支持フレームは、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の位置及び/又は向きを変えるための一つ以上のモーターを含んでよい。一部の例示的な実装では、変換器は、硬いアーム又は柔軟なアーム、ホルダー、バンド、或いはその他の適切な固定メカニズムを使用して所定の位置に保持されてよい。
【0102】
前述の実施形態例及び以下の例では、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の焦点が頭蓋骨内で合わせられる経頭蓋超音波変換器アレイの構成を示しているが、一部の実装において頭蓋骨内の焦点合わせが有益であることがある一方、他の実装は、脳内に広がる超音波ビームが遠距離場領域内で重複するように、経頭蓋超音波変換器アレイ素子のうちの一つ以上が、頭蓋骨の外部にあるか、又は頭蓋骨に隣接する(例えば、頭蓋骨の内面又は外面に隣接する)各焦点を有している焦点合わせの構成を使用してよいということが、理解されるであろう。
【0103】
本明細書に記載された実施形態例の一部は、等しい焦点距離を有するアレイ素子を含んでいる経頭蓋超音波変換器アレイを示しているが、例えば、頭蓋骨の厚さ及び/又は形状における局所変動を考慮するために、焦点距離が経頭蓋超音波変換器アレイ素子間で異なってよいということが、理解されるであろう。さらに、サイズ、頭蓋骨に対する空間オフセット、及び/又は経頭蓋超音波変換器アレイ素子のF値が素子間で変化してよい。
【0104】
一部の実施形態例では、経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、超音波ビームの各々の遠距離場が、図3Cに示された拡張された領域などの拡張された焦点合わせ領域内で、焦点合わせのターゲットの選択を可能にする脳内の空間領域内で重複するように構成され、空間的に配置される。他の実施形態例では、経頭蓋超音波変換器アレイ素子は、超音波ビームの遠距離場領域の空間的重複が、事前に選択されたターゲットを含んでいる空間領域内で発生するように構成され、空間的に配置される。言い換えると、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の空間的構成は、脳内の既知のターゲット位置に基づいて選択されてよい。
【0105】
本開示の実施形態例の多くは、パルス励起の使用、及び経頭蓋超音波変換器アレイ素子からのパルスの時間遅延(又は位相)の制御に関連する。しかし、パルス励起は、特に経頭蓋超音波変換器アレイの自然な焦点から離れた焦点領域の場合に、絞られた焦点を実現することにおいて有益であることがあるが、遠距離場内で焦点領域を生成するために、適切な位相制御を使用して、集束超音波治療の供給中の経頭蓋超音波変換器アレイ素子の連続波励起が実現されてもよい。
【0106】
一部の実施形態例では、経頭蓋超音波変換器アレイは、経頭蓋超音波変換器アレイ素子の異なるサブセットが異なる周波数で動作するように、二つ以上の周波数で操作されてよい。例えば、二重周波数の励起は、音響キャビテーションを改良することにおいて、これまでの臨床前研究では有望だった。下で提供される実施例において示されているように、緊密な焦点合わせ及び二重周波数の励起も、遠距離場の焦点合わせを使用する本実施形態に従って実現可能である。
【0107】
本開示は、患者の頭部の周囲に配置される経頭蓋超音波変換器アレイに関する多くの実施形態例を含んでいるが、本明細書で開示されたシステム、デバイス、及び方法は、体の他の器官又は部分に対して診断手順又は治療手順を実行するための経頭蓋装置を提供するように適応されてよいということが、理解されるであろう。遠距離場の焦点合わせ用の変換器を支持するための支持フレームは、他の体の領域又は体の部分の体積画像データに従って製造されてよい。例えば、支持フレームは、支持フレームによって支持された変換器を使用して膝に対して診断手順又は治療手順を実行するために、支持フレームが患者の膝の輪郭に一致するように、患者の膝の体積画像データに基づいて製造されてよい。同様に、支持フレームは、支持フレームによって支持された変換器を使用して脊椎に対して診断手順又は治療手順を実行するために、支持フレームが患者の脊椎の輪郭に一致するように、患者の脊椎の体積画像データに基づいて製造されてよい。さらに、前述の実施形態例の多くが頭蓋骨によって引き起こされる収差の補正に関連しているが、本明細書に記載された実施形態例は、膝頭又は骨盤骨などの、ただしこれらに限定されない、体の他の骨の解剖学的領域において生じた収差を補正するように適応されてよい。
【0108】
[実施例]
以下の実施例は、当業者が本開示の実施形態を理解し、実践できるようにするために提示されている。これらの実施例は、本開示の範囲に対する制限と見なされるべきではなく、単に本開示の例示及び代表であると見なされるべきである。
【0109】
[実施例1]
材料及び方法
頭蓋骨標本:
本実施例では、10%の緩衝ホルマリン液内で固定された人間の四つの生体外の頭蓋冠が使用された。各頭蓋骨は、ポリカーボネートフレームに取り付けられ、脱イオン水で洗浄され、その後、実験の少なくとも2時間前に、真空下の脱気水/脱イオン水内で脱気された。四つの頭蓋骨標本は、共振法のための頭蓋骨の厚さの情報及びCTに基づく収差補正のための密度の情報を得るために、(Pichardo、Sin、及びHynynen 2011)に記載されているように、前もってCTスキャナーを使用して撮像された。ボクセルの寸法は0.625×0.625×0.625 mm3であり、画像行列は512×512であり、合計287~307個のスライスが頭蓋冠を覆う。
【0110】
単一の変換器を使用する卓上実験:
本実施例において使用された実験的設定の概略図が、図5に示されている。この研究では、0.5MHzの基本周波数、38.1mmの開口部、55mmの軸方向の焦点距離、及び6.8±0.3mmの横方向の半値全幅を有する集束変換器(V389、オリンパス、米国ペンシルベニア州センターバレー)が使用された。水中聴音器は、1mmの直径及び5mmの高さのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)管を使用して組織内で製造された。水中聴音器及び変換器は、組織内で製造されたC字型ホルダーによって、65mm離れて取り付けられ、共同位置整合され、C字型ホルダーの移動は、2相ステッピングモーター(PK266-03B-P2、VEXTA(登録商標)、オリエンタルモーター株式会社、日本国東京都台東区)、ステッピングモーターコントローラ(ベルメックス(Velmex)社、米国ニューヨーク州イーストブルームフィールド)、及びエンコーダ(クアドラチェック100(Quadra-Chek 100)、ハイデンハイン、米国イリノイ州ショウンバーグ)を含む3軸位置決めシステムによって制御された。超音波の伝搬の垂直入射角が測定精度にとって極めて重要であるため(Aarnioら2004、White、Clement、及びHynynen 2006)、各頭蓋骨標本は、反響された信号からの二つの分離したピークがオシロスコープ(TDS 3012、テクトロニクス、米国オレゴン州ビーバートン)上で見られるまで、手動回転式ポジショナー(シリーズ(Series)481-A、ニューポート、米国カリフォルニア州アービング)及び三方向直交座標位置決めシステム(UniSlide(登録商標)アセンブリスシリーズ(Assemblis Series)A4000、ベルメックス(Velmex)社、米国ニューヨーク州イーストブルームフィールド)によって配置された。外面と内面の間の中点が、変換器の焦点に配置された。水中聴音器は、CT画像上で観察され得る頭蓋骨の少なくとも四つの境界標識に移動された。焦点の座標が(0, 0, 10)であると仮定して、3軸ポジショナーを使用して対応する座標が記録された。次に、二種類の測定が実行された。
【0111】
最初に、パルサー/受信器(DPR300、JSRウルトラソニックス(Ultrasonics)、米国ニューヨーク州ピッツフォード)を使用して、鋭いデルタ関数パルスを変換器から放射し、ターゲットから反射されたパルスエコー信号を受信することによって、共振法が使用された。変換器のインパルス応答は、水と空気の間の界面からのパルスエコー信号を記録することによって特徴付けられた。
【0112】
次に、水中聴音器によって受信されたパルス信号の経過時間を頭蓋骨の存在と相関付けること、及び相関付けないことによって、水中聴音器法が適用された。この技術は、複数の研究(Hynynen及びSun 1999、Clement及びHynynen 2002c、Gateauら2010、Hertzbergら2010、Jonesら2015)において、頭蓋骨の位相収差補正を決定するための至適基準の方法として役立った。オシロスコープ(サンプルサイズ: 104、サンプリング周波数: 50 MHz)によって、すべての波形が捕捉され、MATLAB(登録商標)(R2016b、マスワークス(Mathworks)、米国マサチューセッツ州ナティック)を使用してさらに分析するために、コンピュータに転送された。すべての測定は、脱気された脱イオン水で満たされたゴム張りの壁を有する槽内で実施された。
【0113】
頭蓋骨の共振周波数温度依存性:
水温は、25℃から42℃まで、3℃の増分で、加熱器(Thermomix(登録商標)B、ビーブラウンメルズンゲンAG、独国メルズンゲン)によって加熱されて制御された。各頭蓋骨サンプルが、各温度で定常状態の温度に達するまで、目標にされた温度で、水中に沈められた。頭蓋骨の選択された位置で頭蓋骨によって引き起こされた超音波の位相シフトを測定するために、共振法と水中聴音器法の両方が使用された。
【0114】
[実施例2]
データ分析
CTデータからの入射角の計算及び頭蓋骨の厚さの測定
頭蓋骨のCTを実験空間に位置整合するために、変換行列(ホーン(Horn 1987)によって説明された方法を使用して解かれた)が、CTの座標系と実験の座標系の両方の境界標識の位置から計算されたCTデータに適用された。境界標識の実験の位置とCTデータから変換された新しい位置の間の平均距離を計算することによって、位置整合の精度もテストされた。本実施例の測定では、この位置整合の誤差は、四つの頭蓋骨すべてで0.6±0.4mmである。
【0115】
ハウンスフィールド単位でのCT画像の強度が、コナーら(Connor、Clement、及びHynynen 2002)によって説明された線形関係に従って密度マップに変換された。密度をしきい値化することによって、MATLAB(商標)において頭蓋骨のセグメント化が実行され、このようにして、頭蓋骨に関連するボクセルのみが表示された。ジョウンズら(Jones、O'Reilly、及びHynynen 2013)によって概説された手順の後に、CTのセグメント化から生成された頭蓋骨の三角形メッシュの表面データを使用することによって、頭蓋骨の外面及び内面での超音波インパルスの入射角が計算された。変換器の中心からターゲットへのベクトルによって表された入射線が定義され、CTのボクセル解像度0.625mmの4分の1のステップサイズで離散化された。この線に沿ったすべての点から、頭蓋骨のメッシュ化された表面上のすべての三角形の重心までの距離が計算され、最短距離を有する三角形が検出された。変換器の中心に最も近い三角形での頭蓋骨の表面に対する入射角が決定された。
【0116】
トリースの研究(Treeceら2010)において導入された「新規修正(new fixed)」方法に基づいて、CTデータから頭蓋骨の厚さが計算された。つまり、頭蓋骨を通る入射線に沿った密度が、面内及び面外の点広がり関数(PSF: point spread function)を使用して、密度の畳み込みとしてモデル化され得る。距離x上の密度yが、次のように表され得る(Treeceら2010)。
【0117】
【数6】
【0118】
ここで、y0、y1、y2は、それぞれ水、皮質、及び骨梁の密度であり、x0及びx1は、頭蓋骨の外面及び内面の位置であり、H(x)は階段関数である。面内のPSF giが、次のようにモデル化され得る。
【0119】
【数7】
【0120】
ここで、σは、ぼやけ拡張である。面外のPSFが、次のように矩形関数として表され得る。
【0121】
【数8】
【0122】
ここで、2rは、次のCTのスライスの厚さs及び皮質表面の法線と撮像面の間の角度から計算された不確実性の範囲を表し、次の方程式によって与えられる。
【0123】
【数9】
【0124】
(7)及び(8)を使用して方程式(6)を畳み込み、ぼやけさせられたCTの値yblurが、次のように示される。
【0125】
【数10】
【0126】
r=0である場合、方程式(10)は次のように変更される。
【0127】
【数11】
【0128】
頭蓋骨の厚さdは、次のようになる。
【0129】
【数12】
【0130】
頭蓋骨の位置整合からの変換行列を適用することによって、CTデータがCTの座標系から実験の座標系に変換された。変換器の中心から頭蓋骨を通ってターゲットまで通過する線が、100回スプライン補間され、後で、r=0を仮定して皮層(x0, x1)の端を推定するために(すなわち、皮層はCT撮像面に対して直角である)、方程式(11)のモデルに適合された。最適化のプロセスにおいて、水の密度y0が、CT画像のヒストグラムから決定された。y2(骨梁の密度)は、その密度が異なる位置で変化するという事実のため、モデルが自由に発見できるままにされた。不確実性の面内の範囲σは制約されておらず、皮質の密度y1は、[2000, 3000]の範囲内に設定された。
【0131】
CTに基づく位相補正:
クレメントの研究(Clement及びHynynen 2002a)に基づく分析方法が、CTから得られた頭蓋骨の密度、厚さ、及び実験的設定(ジョウンズ及びヒニネン(Jones及びHynynen 2016)によって経頭蓋パッシブ音響撮像に使用された技術に類似する)における変換器に対する向きに基づいて、頭蓋骨によって引き起こされる位相シフトをシミュレートするために使用された。頭蓋骨内の縦方向の音速は、以前の研究(Pichardoら2011)における経験的関係に基づいて、密度に依存する。反射及び屈折の両方の影響を無視して、変換器の中心とターゲットの間の入射線に沿って頭蓋骨内の縦方向の音速プロファイルを計算することによって、頭蓋骨内の経過時間が決定された。その結果、頭蓋骨の存在によって引き起こされた時間遅延は、頭蓋骨を通過する場合と水を通過する場合の間の経過時間の差として、次のように表され得る。
【0132】
【数13】
【0133】
ここで、Dnは頭蓋骨内の線の長さである。次に、方程式(4)を使用して位相シフトが計算され得る。
【0134】
[実施例3]
結果
人間の四つの生体外の頭蓋冠上の784個のターゲット点が測定された(nSk1=276、nSk2=151、nSk3=148、nSk4=209)。Sk2上の一つターゲット点から反射された無線周波数信号の例が図6Aに示されており、デコンボリューションの前及び後の対応する正規化された周波数スペクトルが、図6B及び6Cに示されている。頭蓋骨内の音速は、最小値の位置を測定し、隣接する最小値の周波数差を方程式(5)に適用することによって計算され得る。
【0135】
共振法に基づいて計算された、反射された位相シフトが、図7Aの水中聴音器法と比較された。二つのモダリティ間の平均差は、33°±26°である。位相シフト差のヒストグラムが、図7Bに示されている。784の測定のうちの72.9%において、二つのモダリティが45°未満だけ異なり、37.1%において、20°未満だけ異なった。5°より大きい外面上の入射角を有する点を除外することによって、図7C及び7Dに示されているように、403個の測定された点のうちの80.4%が、45°未満の位相シフト差を有し、42.9%が、20°未満の位相シフト差を有した。
【0136】
水中聴音器によって測定された位相シフトの関数として分析モデルを使用して、CTに基づく方法から計算された位相シフトが、図8A及び8Cに提示されている。マーカーの大部分が0~-45°の領域内に存在するということを見ることができるように、CTに基づく分析方法の場合、体系的なシフトが存在する。二つのモダリティ間の平均差は、31°±20°であり、5°より大きい入射角を有する点が除外された場合、29°±19°にわずかに低下する。図8B及び8Dでは、測定のうちの74.5%が、二つの方法間の45°未満の位相シフト差を有し、35.1%が、20°未満の位相シフト差を有する。頭蓋骨の厚さ、入射角、及び位相シフト差のパーセンテージが、図12にまとめられている。共振法は、一般に、CTに基づく分析方法と同様の結果を提供するが、精度が頭蓋骨間で変化する。
【0137】
図9A及び9Bでは、その他の情報が明らかにされており、これらの図は、三つのモダリティからの、特定の位相角差より小さい偏差を有する測定された点のパーセントを示している。急な上昇は、共振法と水中聴音器法の間の良い相関関係を示している。図9Aは、水中聴音器に対する共振法及びCTに基づく方法の全体的比較を示している。°未満の入射角での共振法は、CTに基づく方法よりもわずかに急な上昇を示している。特定の事例が、図9Bに示されている。この偏差に関してプロットされた各頭蓋骨に対する測定は、Sk1及びSk4での点のうちの約67%が45°未満の偏差を有し、約35%が20°未満の偏差を有するのとは対照的に、Sk2及びSk3ではより良い相関関係を示しており、それぞれ86.1%及び82.4%が45°未満だけ異なっており、それぞれ45.0%及び42.0%が20°未満だけ異なっている。
【0138】
頭蓋骨によって引き起こされる計算された平均時間遅延及び頭蓋骨内のSoSに関する、水中聴音器法に対する共振法/CTの方法の比較が、図10A及び10Bに示されている。共振法が、CTに基づく方法よりも近い時間遅延及び音速の推定値を生成するということが、示されている。
【0139】
共振法/CTの方法と水中聴音器法の間の頭蓋骨の位相シフト差の情報は、経頭蓋のピーク音圧の減少の推定を可能にする。N個の素子を含む位相アレイに関して、各素子による水中聴音器の位相補正を伴うピーク振幅が同じであり、すべて1に正規化されると仮定すると、焦点でのピーク圧力の振幅は、次のように、あるパーセンテージだけ低減される(Clement及びHynynen 2002a)。
【0140】
【数14】
ここで、ΔPは圧力損失、P0は、水中聴音器法を使用した焦点でのピーク圧力、φnは、共振法/CTに基づく分析方法からの頭蓋骨の位相シフトの不正確な予測によって引き起こされた位相誤差の絶対値である。頭蓋骨Sk1、Sk2、Sk3、及びSk4に対するCTの方法での、2.4%、5.5%、4.9%、及び3.5%というより小さい圧力損失とは対照的に、共振法では、それに対応する6.7%、4.4%、5.6%、及び10.8%のピーク圧力の減少が存在する。共振法及び水中聴音器法の両方を使用して、25℃から42℃への温度の上昇を伴う頭蓋骨の位相シフトの測定が実行された。0.5MHzでの温度の関数としての、室温と42℃の間の四つすべての頭蓋骨サンプルからの位相における平均的変化が、図11Aに示されている。共振法は、1℃につき2.65°の位相変化を引き起こし、この位相変化は、水中聴音器法によって与えられる2.05°よりわずかに高い。頭蓋骨の平均共振周波数の変化は、図11Bに示されているように、負係数での温度の変動に比例する。
【0141】
共振法と水中聴音器法の両方を使用して、温度の上昇を伴って、各点で位相シフトが測定された。温度上昇中に、精度における急な減少は観察されなかった。各頭蓋骨及び四つすべての頭蓋骨から各温度で取得された精度が、平均化された。17℃の温度差にわたる平均精度は、すべての測定された点で78%±9%である。
【0142】
[実施例4]
分析
この研究は、頭蓋骨によって引き起こされる超音波の位相シフトを決定することにおいて共振法の精度を改善することができる要因について調査した。その結果は、共振法を水中聴音器法と比較した場合、測定されたすべての点(ntotal=784)のうちのおおよそ73%及び37%が、それぞれ45°及び20°未満だけずれるということを示し、これらの値は、以前の研究(Aarnioら2005)における約65%及び30%から増加した。二つのモダリティ間の位相シフトの平均差は30.5°であり、この値は、アールニオの研究(Aarnioら2005)よりもおおよそ15°小さい。この差の減少は、修正された共振法を使用する位相収差補正における、より高い精度を示す。
【0143】
精度の改善は、まず第一に、変換器の焦点が頭蓋骨内に集中された実験的構成によってもたらすことができる。精度の改善は、従来の研究(Aarnioら2004)よりも、頭蓋骨と干渉する形状におけるより小さい測定の不一致、及びより高い信号対ノイズ比(SNR)をもたらす、小さい照射野及び大きい開口部の両方から恩恵を受ける。第二に、超音波バーストの入射角は、測定精度において重要な役割を果たす。入射角が増えると共に、周波数スペクトルが急激に悪化し(Aarnioら2004、Whiteら2006)、共振周波数を検出することをさらに困難にするということが示された。5°以上の入射角を有する測定された点(n=403)を除外することによって、測定のうちの約80%が、45°以下の偏差を含むようになった。二つのモダリティによって予測された頭蓋骨内のSoSを比較すると、共振法は2310±180m/sを提供し、この値は、水中聴音器法によって与えられた平均音速2340±170m/sよりもおおよそ1.3%低く、対照的に、以前の研究(Aarnioら2005)では5.8%高かった。
【0144】
CTデータから計算された頭蓋骨の厚さは、方法の精度及び実用性にも影響を与える。本研究では、CT画像の解像度(0.625mm)が、変換器の中心周波数(0.75mm)の波長の4分の1に近く、これは、一つのボクセルの差がほぼ45°の位相の変化につながることがあるということを意味する。特定の解像度では、正確な頭蓋骨の厚さの推定値を提供するために、CTデータを補間し、最適化されたモデルに適合させることが必要になる。トリースの研究(Treeceら2010)において説明された二つのアルゴリズム「半値(Half-Max)」及び「新規修正」がテストされた。「半値」は、Sk2及びSk4に対してより良い厚さの推定値を提供したが、薄い頭蓋骨Sk1及びSk3を予測することにおいて、あまり正確ではなかった(頭蓋骨の厚さが図12にまとめられている)。しかし、「新規修正」は、薄い頭蓋骨の場合に、より正確だった。この結果は、トリースの研究におけるシミュレーションに一致しており、トリースの研究は、「半値」方法が、特にCTの解像度が低い環境下で、2.2mmより薄い皮質骨の厚さを過大評価し、共振法によって計算された位相シフトにおいて体系的なシフトをもたらす傾向があるということを示した。本研究では、Sk1及びSk3での皮質骨の厚さが2.2mm未満であり、これが、「新規修正」方法がより良い厚さの推定値を提供する理由を説明している。本研究では、「新規修正」の技術が最終的に採用された。
【0145】
本実験の結果は、より低い周波数の変換器を使用することが、測定精度を、(0.9MHzでの)65%(Aarnioら2005)から(0.5MHzでの)73%に改善することに役立っており、この改善が、頭蓋骨を通る0.5MHzでのより低い減衰率(Sun及びHynynen 1998)及びデータにおけるSNRの増加から得られるということを確認した。さらに、本実験は、入射角による影響をあまり受けなかった。しかし、低い中心周波数と広い帯域幅の間には、トレードオフが存在する。低周波数によってもたらされる狭い帯域幅は、薄い頭蓋骨での共振周波数を決定することを、より難しくする。本研究における変換器の帯域幅は、[0.3, 0.8]MHzの範囲内であり、この範囲は、以前の研究(Aarnioら2005)における範囲[0.6, 1.74]MHzよりも非常に狭く、Sk1及びSk3での共振周波数の測定を困難にした。
【0146】
共振法の精度が改善されたということが示されたが、図7Cに示されているように、垂直入射の場合においても、建設的干渉領域から分散された一部の外れ値がまだ存在している。共振法を使用する場合、複数の要因が誤差を引き起こすことがある。第一に、大きい誤差がある位置での超音波の伝播経路に沿って頭蓋骨の厚さの計算における「新規修正」の適合をCTの密度プロファイルと比較することによって、厚い頭蓋骨では、「新規修正」方法(Treeceら2010)が、皮質骨の正しい境界を検出することに時々失敗し、計算された位相シフトにおける不正確さをもたらしたということが分かった。この現象は、皮質骨の厚さが3.5mmを超える場合に、「新規修正」の適合が、真値と比較してわずかに大きい誤差を与える傾向があるが、他の適合方法と比較して、皮質骨の厚さ全体にはあまり敏感でないというトリースのシミュレーションに一致する。
【0147】
さらに、頭蓋骨の不均一性も、計算に誤差を導入した。外れ値に隣接するCTのスライスを調べることによって、一部の位置で、頭蓋骨構造が焦点領域(FWHM: 6.8±0.3mm)内で一貫しておらず、骨梁の密度の急な低下が示されていることが分かった。共振法によって与えられた位相シフト情報が、複数の反射経路の組み合わせだったため、簡略化された頭蓋骨構造での単一経路の送信に基づく水中聴音器法及びCTに基づく分析方法と比較したときに、骨密度における大きい変化が大きい誤差を引き起こすことがある。
【0148】
したがって、共振法の精度をさらに改善するために、より小さい焦点を有する変換器を使用して、頭蓋骨構造からの大きい変動を防ぎ、平坦な頭蓋骨の表面という仮定を有効に保つことができるということが決定された。
【0149】
CTに基づく分析モデルなどの、他の非侵襲的な方法との共振法の直接比較が提示された。一般に、共振法は、図9Aに示されているように、至適基準の方法と比較して、位相の不一致の分布に関して、CTに基づく分析モデルのように、頭蓋骨の位相シフトのわずかにより良い予測を提供する。共振によって計算された位相シフトは、図7A及び7Cに提示されているように、主対角線に沿って偏りなく分布し、図8A及び8Cに示されているような位相遅れにおける体系的なシフトが見られるCTに基づく分析方法よりも、良い精度を提供しているように見える。CTに基づく分析モデルでは、頭蓋骨を通る入射線に沿ってスプライン補間が実行され、適合(Pichardoら2011)によって与えられた密度プロファイルに基づいて、SoSが密度に依存するが、低いCT撮像解像度によって制限されて、皮質骨の境界を定義することがまだ曖昧であることがあり、したがって、特に厚さが小さい場合に、「半値」方法によって与えられた結果(Treeceら2010)と同様に、厚さが過大評価される。加えて、分析モデルにおいて使用される骨内の縦方向のSoSなどのパラメータは経験的であり、頭蓋骨が多層モデルに簡略化されており、共振法と同様の頭蓋骨の位相シフトの予測が得られた。
【0150】
前述したように、以前の研究は、温度の関数として水中聴音器を使用して測定された頭蓋骨の位相シフトの変化が、1℃につき0.29°の位相の遅い増加率を有する線形適合に従い、温度が22℃から50℃に上昇した場合に、14°未満の合計位相シフトの変化につながるということを示した(Clement及びHynynen 2002a)。その結果、上昇した温度が位相シフトの変化に大きな影響を与えず、したがって、室温で測定された位相シフトが、体温での頭蓋骨の位相補正に適用され得るという結論が導かれた。しかし、その研究では、温度制御が実行されなかった。分離した水槽内で頭蓋骨サンプルが加熱され、設定された温度に達したときに、実験的設定に移動された。室温で頭蓋骨が水中に配置された後に、熱拡散が発生し、したがって、測定における実際の頭蓋骨の温度を低下させる。我々の研究では、温度制御及び頭蓋骨の位相シフトの測定が同じ実験的設定で実行されるように、変更が行われた。共振法(2.65°/℃)及び水中聴音器法(2.05°/℃)の両方が、以前の研究より高い傾斜を引き起こすということが分かった(図11Aを参照)。したがって、高強度の超音波破砕における10℃の上昇は、位相におけるおおよそ20℃の変動及び建設的干渉領域からシフトされた約39%の位相補正につながるため、熱沈着(thermal deposition)に起因する位相シフトの変化を補正することは有益であることがある。
【0151】
第二に、この結果(図11A)は、一般に、共振法が水中聴音器法よりも高い傾斜を提供するということを示している。共振法は、複数の経路からのインパルスエコー信号に依存し、したがって、単一経路の送信に基づく水中聴音器の測定とは対照的に、温度上昇プロセス中の頭蓋骨密度及び入射角に関するより大きい変動が予期された。
【0152】
第三に、共振法が、テストされた頭蓋骨のすべてにおいて、温度変化との位相シフトの依存関係に対する、水中聴音器法より良い線形適合をもたらすということが分かった。最後に重要なこととして、温度上昇中の頭蓋骨の位相シフトの決定における共振法の精度が、標準的な水中聴音器法と比較してまとめられた。温度の上昇に伴う精度の低下の明らかな傾向は、頭蓋骨では観察されておらず、平均精度を、78%±9%(n=110)に維持することができた。
【0153】
前述した特定の実施形態は例として示されており、これらの実施形態がさまざまな変更及び代替の形態の影響を受けることがあるということが、理解されるべきである。特許請求の範囲が、開示された特定の形態に制限されるよう意図されておらず、本開示の思想及び範囲に含まれるすべての変更、同等のもの、及び代替手段を対象にするよう意図されているということが、さらに理解されるべきである。
【0154】
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図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12