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特開2024-88730インテグリンアルファ9の遮断はリンパ弁形成を抑制し、移植片の生存を促進する
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088730
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】インテグリンアルファ9の遮断はリンパ弁形成を抑制し、移植片の生存を促進する
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240625BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240625BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P17/00
A61P27/02
A61P37/06
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024061336
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2022042438の分割
【原出願日】2017-10-26
(31)【優先権主張番号】62/413,863
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ルー チェン
(57)【要約】
【課題】哺乳動物において炎症性のまたは移植された組織または器官のリンパ管中の弁形成(VG)を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の抗インテグリンアルファ9(Itga-9)治療剤を哺乳動物に投与することを含み、場合によりVEGFR-3を投与することによる、それらを必要とする哺乳動物において炎症性のまたは移植された組織または器官のリンパ管中の弁形成(VG)を抑制する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月27日に出願された米国特許仮出願第62/413,863号に対して優先権を主張するものである。上記で参照した出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられたEY017392及び国防総省により与えられたW81XWH-14-1-0496の下で政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
リンパ網はほとんどの組織に入り込み、その機能障害は、幅広い障害、例えば、がん転移、炎症、移植拒絶反応、高血圧、肥満、及びリンパ浮腫と関係がある。歴史的な理由及び技術的制限が原因で、何世紀にもわたって無視された後、リンパの研究は、近年著しい注目を集め、大きな進展を遂げている。しかし、現在、リンパ系疾患に対する治療はほとんど存在しない。したがって、リンパ系疾患のための、及び移植拒絶反応を予防するための新規な治療が必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の抗インテグリンアルファ9(Itga-9)治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする哺乳動物において移植された組織または器官におけるリンパ管中の弁形成(VG)を抑制する方法を提供する。
【0005】
ある特定の実施形態では、本発明は、リンパ管を抗Itga-9治療剤と接触させることを含む、リンパ管においてインテグリンアルファ9(Itga-9)を阻害する方法を提供する。
【0006】
ある特定の実施形態では、本発明は、抗Itga-9抗体を含む有効量の治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする哺乳動物において角膜の弁形成(VG)を予防または治療する方法を提供する。
【0007】
ある特定の実施形態では、本発明は、組織または器官における病的なリンパ形成の治療的処置で使用するための、抗Itga-9結合剤を含有する治療剤を含む組成物を提供する。
【0008】
ある特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてLGを阻害するのに有用な医薬を調製するための、抗Itga-9結合剤の使用を提供する。
【0009】
ある特定の実施形態では、本発明は、医学療法で使用するための、治療剤及び抗Itga-9結合剤を含む組成物を提供する。
【0010】
ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の治療剤を哺乳動物に投与すること含む、それらを必要とする哺乳動物において移植拒絶反応を阻害する方法であって、治療剤が抗Itga-9治療剤である方法を提供する。
【0011】
本明細書で使用する場合「治療すること」は、VGの少なくとも1つの症状を改善すること、VGを治癒させること、及び/またはVGの発生を予防することを指す。
【0012】
ある特定の実施形態では、方法はVEGFR-3を投与することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Itga-9遮断によってリンパの弁形成が角膜移植後に抑制されることを示す図である。(図1A)アイソタイプ対照処置角膜と比べて、Itga-9遮断抗体処置角膜において有意に少ない弁を示す、代表的なホールマウント免疫染色画像。赤色:Itga-9、緑色:LYVE-1。スケールバー、100μm。(図1B)対照及び処置条件におけるリンパ弁及びリンパ管浸潤領域に関する比較定量化。抗Itga-9処置は、弁形成のみを低減させた。実験は、対照に7匹のマウス及び処置群に8匹のマウスを用いて2回反復した。P<0.05、n.s.:有意でない。(図1C)抗Itga-9処置に応じた、弁対リンパ浸潤領域の有意に低い比を示す比較定量化。実験は、対照に7匹のマウス及び処置群に8匹のマウスを用いて2回反復した。P<0.05。
図2】角膜移植の後のリンパ管の極性分布に対してItga-9遮断が効果がなかったことを示す図である。(図2A)定量化に使用される、鼻及び側頭の4分円領域の概略図。時計回りの8本の短い線は、移植片の境界にそって設置された縫合糸を示す。外部の黒い円:縁。内部の点線の円:移植片の境界。垂直線:鼻側と側頭側の間の分離。灰色の陰影領域:評価した鼻及び側頭の領域。(図2B)対照と処置条件の両方において、側頭側よりも有意に大きい鼻のリンパ浸潤領域を示す、比較定量化。実験は、対照に7匹のマウス及び処置群に8匹のマウスを用いて2回反復した。P<0.05。
図3】Itga-9遮断が角膜移植片の生存を促進したことを示す図である。(図3A)それぞれ対照及び処置条件における、拒絶された及び生存した移植片の細隙灯検査の代表的な画像。(図3B)処置群において有意に高い生存率を示すカプラン・マイヤー生存曲線。P<0.05。
図4】Itga-9遮断が角膜のLGのこの極性に対して効果がないことを示す図である。
図5】Itga-9が血管壁よりも弁で高発現していることを示す図である。
図6】ltga-9とVEGFR-3の複合遮断が、危険性の高い角膜移植の後にリンパ弁及び脈管形成を阻害すること(図6、緑色で示される脈管及び弁)ならびに移植片の生存を促進すること(図6B、カプラン・マイヤー生存曲線)を示す図である。
図7】Itga-9遮断が角膜の弁形成をインビボで阻害することを示す図である。(図7A)対照アイソタイプ処理試料と比較して、Itga-9遮断抗体処置角膜における有意に少ない弁を示す、代表的な免疫蛍光顕微鏡画像。赤色:Itga-9、緑色:LYVE-1。スケールバー、50lm。(図7B)弁形成を定量化する要約データ。P<0.05。
図8】ヒト皮膚LECにおけるItga-9の発現及び欠乏を示す図である。(図8A)ヒトLECにおけるItga-9発現を示す代表的な免疫細胞蛍光顕微鏡画像。赤色:Itga-9、青色:DAPI。スケールバー、50lm。(図8B)スクランブルsiRNAと比較した、Itga-9siRNAによるItga-9遺伝子のノックダウンを示すリアルタイムPCR解析。P<0.05。
図9】Itga-9のノックダウンがLECの生存率に影響を与えないことを示す図である。(図9A)トランスフェクション後48時間で、対照とItga-9siRNAトランスフェクト細胞の間に細胞生存率に有意差がないことを示す、Guava ViaCountアッセイを用いるフローサイトメトリー解析。反復実験からの要約データを図9Bに示す。n.s.、有意でない。
図10】Itga-9のノックダウンが増殖及び接着のLEC機能を阻害することを示す図である。(図10A)MTS増殖アッセイを使用した場合の、Itga-9siRNAによるトランスフェクション後のLECの増殖の有意な抑制を示す要約データ。P<0.05。(図10B)Itga-9siRNAによるトランスフェクション後のフィブロネクチンへのLECの接着の有意な低減を示す要約データ。P<0.05。
図11】Itga-9のノックダウンがLECの遊走を阻害することを示す図である。(図11A)かき傷アッセイを使用した場合の、72時間の期間にわたってLECの遊走の有意な低減を示す要約データ。P<0.05。(図11B)72時間目の細胞遊走の代表的な画像。スケールバー、100lm。赤色:TRITCコンジュゲート化ファロイジン。
図12】Itga-9のノックダウンがLECの管形成を阻害することを示す図である。(図12A)Matrigel上での管形成の有意な低減を示す代表的な顕微鏡画像。スケールバー、500lm。(図12B)管の全長に関する要約データ。P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0014】
過去何世紀にもわたって研究されてきた血管とは異なって、リンパの研究は新しい発見の分野を意味し、近年、指数関数的な成長を経験している(Alitalo,K.The lymphatic vasculature in disease.Nat.Med.2011;17:1371-1380、Tammela T,Alitalo K:Lymphangiogenesis:Molecular mechanisms and future promise.Cell 2010;140:460-476、Chen L:Ocular Lymphatics:State-of-the-Art Review.Lymphology 2009;42:66-76、Alitalo K,Tammela T,Petrova TV:Lymphangiogenesis in development and human disease;Nature 2005;438:946-953、Brown P:Lymphatic system:unlocking the drains.Nature 2005;436:456-458、Folkman J,Kaipainen A:Genes tell lymphatics to sprout or not.Nat Immunol 2004;5:11-12、Rockson SG:The broad spectrum of lymphatic health and disease.Lymphat Res Biol;8:101)。リンパ網は、体内のほとんどの組織に入り込み、免疫監視、体液調節ならびに脂肪及びビタミンの吸収などの幅広い機能において、重要な役割を果たす。したがって、多数の疾患及び状態は、リンパ機能障害と関係があり、これらには、限定されないが、がん転移、組織及び主要な器官(心臓、腎臓及び肺)の移植拒絶反応、炎症性疾患及び免疫疾患、感染、喘息、肥満、糖尿病、AIDS、高血圧ならびにリンパ浮腫が含まれる。これらの障害は、身体に障害を起こす、外見を損なう、さらには生命を危うくする可能性がある。現在までに、リンパ系障害に対する有効な治療はほとんどないので、これは、新しい治療プロトコールに対する差し迫った需要がある分野である。
【0015】
角膜は、その接近可能な位置、透明性及びリンパを含まないが誘導性である特色のため、リンパの研究にとって理想的な部位を提供する(Chen L:Ocular Lymphatics:State-of-the-Art Review.Lymphology 2009;42:66-76、Rogers MS,Birsner AE,D’Amato RJ:The mouse cornea micropocket angiogenesis assay.Nat Protoc 2007;2:2545-2550、Cursiefen C,Chen L,Dana MR,Streilein JW:Corneal lymphangiogenesis:evidence,mechanisms,and implications for corneal transplant immunology.Cornea 2003;22:273-281、Chen L,Hann B,Wu L:Experimental models to study lymphatic and blood vascular metastasis,in“From local invasion to metastatic cancer”.Stanley P.L.Leong(Editor),Humana Press.2011)。リンパの研究に角膜を使用することの成功は、腫瘍血管新生研究の祖父であるJudah Folkmanが推定したように、過去数世紀の間に、血管に関する基礎知識の3分の1より多くが角膜を用いた研究から得られたという事実から予測することができる。
【0016】
通常の条件下ではリンパ管によってもたらされないが、リンパ形成(リンパ脈管新生、LG)は、炎症性損傷、感染性損傷、外傷性損傷、免疫原性損傷または化学的損傷の後に、多くの角膜疾患をともなう。一旦誘導されると、これは、免疫細胞の大量送達を増強し、移植拒絶反応も媒介する。集合的データによって、リンパ経路が角膜移植拒絶反応の主要な媒介物であることが示された(Dietrich T,Bock F,Yuen D,et al.:Cutting edge:lymphatic vessels,not blood vessels,primarily mediate immune rejections after transplantation.J Immunol 2010;184:535-539、Zhang H,Grimaldo S,Yuen D,Chen L:Combined blockade of VEGFR-3 and VLA-1 markedly promotes high-risk corneal transplant survival.Invest Ophthalmol Vis Sci 2011)。さらに、LGは、(腎臓、心臓、肺、骨の移植体などの)体の他の部分における移植拒絶反応と関係があった(Kerjaschki D:Lymphatic neoangiogenesis in renal transplants:a driving force of chronic rejection?J Nephrol 2006;19:403-406、Kerjaschki D,Huttary N,Raab I,et al.:Lymphatic endothelial progenitor cells contribute to de novo lymphangiogenesis in human renal transplants.Nat Med 2006;12:230-234、Jell G,Kerjaschki D,Revell P,Al-Saffar N:Lymphangiogenesis in the bone-implant interface of orthopedic implants:importance and consequence.J Biomed Mater Res A 2006;77:119-127、Geissler HJ,Dashkevich A,Fischer UM, et al.:First year changes of myocardial lymphatic endothelial markers in heart transplant recipients.Eur J Cardiothorac Surg 2006;29:767-771)。
【0017】
角膜移植は、すべての固形の器官及び組織の移植の中で最も一般的な形態である。これは非炎症性及び無リンパの宿主レッド(host reds)において高い生存率を享受するが、炎症性及びリンパが豊富な角膜に対して移植術が行われる場合、拒絶率は50~90%ほどの高さになる可能性がある。現在までに、この高拒絶状況の有効な管理はまだほとんどない。残念ながら、(外傷性損傷、炎症性損傷、感染性損傷、または化学的損傷の後に)、角膜疾患の結果として目が見えない多くの患者は、この高拒絶カテゴリーに入る。予後不良が原因で、これらの患者は、移植手術の良い候補としてさえみなされず、視力回復に対する彼らの希望を断念しなければならない。したがって、本発明者らは、LG及び移植片拒絶を含めたその関連障害を治療するための新しい治療標的を特定することに関心がある。角膜は、LG研究のための理想的な部位を提供する。通常の条件におけるその接近可能な位置、透明性及び無リンパの特色のため、この組織は、先在する、またはバックグラウンドの脈管と区別する必要なしで誘導性リンパ増殖を研究するための好都合なモデルを提供する(Chen L.Ocular lymphatics:state-of-the-art review.Lymphology 2009;42:66-76)。角膜のLGは、いくつかの病的な傷害、例えば、炎症、感染、外傷及び化学熱傷によって誘導され得、これは、移植拒絶反応の主要な媒介物である(Chen L.Ocular lymphatics:state-of-the-art review.Lymphology 2009;42:66-76、Dietrich T,Bock F,Yuen D,et al.Cutting edge:lymphatic vessels,not blood vessels,primarily mediate immune rejections after transplantation.J Immunol 2010;184:535-539、Yuen D,Pytowski B,Chen L.Combined blockade of VEGFR-2 and VEGFR-3 inhibits inflammatory lymphangiogenesis in early and middle stages.Invest Ophthalmol Vis Sci 2011;52:2593-2597)。
【0018】
本発明は、移植片の生存を促進するために角膜の弁形成(VG)を予防または治療することなどのいくつかの潜在用途を有する。
【0019】
ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の抗インテグリンアルファ9(Itga-9)治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする哺乳動物において移植された組織または器官におけるリンパ管中の弁形成(VG)を抑制する方法を提供する。
【0020】
ある特定の実施形態では、リンパ管は眼組織内にある。
【0021】
ある特定の実施形態では、眼組織は角膜組織である。
【0022】
ある特定の実施形態では、移植された組織は角膜移植片である。
【0023】
ある特定の実施形態では、抗Itga-9治療剤はItga-9に対して特異的な結合剤である。
【0024】
ある特定の実施形態では、結合剤は抗体または抗体断片である。
【0025】
ある特定の実施形態では、結合剤は、Itga-9の生成または活性を阻害するRNAi分子である。
【0026】
ある特定の実施形態では、治療剤は、結膜下注射によって投与される。
【0027】
ある特定の実施形態では、VGは、対照脈管と比較して少なくとも10%抑制される。
【0028】
ある特定の実施形態では、リンパ弁の数は未治療の対照と比較して少なくとも10%減少する。
【0029】
ある特定の実施形態では、リンパ管の数は未治療の対照と匹敵する。
【0030】
ある特定の実施形態では、本発明は、リンパ管を抗Itga-9治療剤と接触させることを含む、リンパ管においてインテグリンアルファ9(Itga-9)を阻害する方法を提供する。
【0031】
ある特定の実施形態では、本発明は、抗Itga-9抗体を含む有効量の治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする哺乳動物において角膜の弁形成(VG)を予防または治療する方法を提供する。
【0032】
ある特定の実施形態では、角膜のVGは、移植、炎症、感染、ドライアイ、外傷または化学的損傷によって誘導される。
【0033】
ある特定の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0034】
ある特定の実施形態では、治療剤は医薬組成物内に存在する。
【0035】
ある特定の実施形態では、投与は局部投与または全身投与による。
【0036】
ある特定の実施形態では、投与は、結膜下、眼内、眼周囲、眼球後、筋肉内、局所、静脈内、腹腔内または皮下の投与による。
【0037】
ある特定の実施形態では、方法は、さらに、別の相乗的因子、例えば、VEGFR-3を投与することを含む。
【0038】
ある特定の実施形態では、本発明は、組織または器官における病的なリンパ形成の治療的処置で使用するための、抗Itga-9結合剤を含有する治療剤を含む組成物を提供する。
【0039】
ある特定の実施形態では、組成物は、さらに、別の相乗的因子、例えば、VEGFR-3を含む。
【0040】
ある特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてLGを阻害するのに有用な医薬を調製するための、抗Itga-9結合剤の使用を提供する。
【0041】
ある特定の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてLGを阻害するのに有用な医薬を調製するために、抗Itga-9結合剤及び別の相乗的因子、例えば、VEGFR-3の使用を提供する。ある特定の実施形態では、本発明は、医学療法で使用するための、治療剤抗Itga-9結合剤を含む組成物を提供する。
【0042】
ある特定の実施形態では、組成物は、さらに、別の相乗的因子、例えば、VEGFR-3を含む。
【0043】
ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の治療剤を哺乳動物に投与すること含む、それらを必要とする哺乳動物において移植拒絶反応を阻害する方法であって、治療剤が抗Itga-9治療剤である方法を提供する。
【0044】
ある特定の実施形態では、方法は、さらに、別の相乗的因子、例えば、VEGFR-3を投与することを含む。
【0045】
本発明者らは、インテグリンアルファ9の遮断が、リンパ弁形成を抑制し、移植片の生存を促進することを発見した。本データは、角膜などの組織において病的なリンパ弁形成を抑制するために、Itga-9遮断剤を使用することができることを示す。Itga-9遮断剤は、眼疾患を治療するために局部的または全身的に投与することができる(結膜下、眼内、眼周囲、眼球後、筋肉内、局所、静脈内、皮下など)。本発明は、体内の他のリンパ系障害、例えば、がん転移ならびに炎症性疾患及び免疫疾患を治療するのに使用することもできる。Itga-9遮断ストラテジーは、リンパ弁形成を阻害するのに、及び移植拒絶反応などのリンパ系障害を治療するのに使用することができる可能性がある。ある特定の実施形態では、弁形成(VG)は少なくとも10%抑制される。ある特定の実施形態では、VGは、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%または100%抑制される。ある特定の実施形態では、VGは、治療効果を引き起こすのに十分であるレベルで抑制される。本明細書で使用する場合、用語「治療効果」は、病的及び行動的欠陥を含めた、関連する病態の異常性の変化;病態の進行までの時間の変化;疾患の症状の低減、軽減もしくは変化;またはその状態に苦しむ人の生活の質の向上を指す。治療効果は、医師によって定量的に測定することができ、または遮断薬剤が標的にするVGに苦しむ患者によって定性的に測定することができる。
【0046】
一実施形態では、本発明は、適切な組織または細胞への局部投与によって、例えば、適切な細胞へのItga-9遮断剤の投与によって、対象または生物を本発明のItga-9遮断剤分子と接触させることを含む、対象または生物においてVGを治療または予防するための方法を特色とする。
【0047】
Itga-9遮断剤の送達方法としては、限定されないが、静脈内投与及び患者の眼の中への直接投与が挙げられる。
【0048】
結合剤
本発明は、Itga-9に特異的に結合する精製された結合剤(またはリガンド)、すなわち、「抗Itga-9治療剤」を提供する。抗Itga-9治療剤は、抗体でもよいし、小分子薬剤でもよい。抗Itga-9治療剤である薬剤の例としては、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、ペプチド、小分子、低分子干渉RNAなどが挙げられる。
【0049】
抗体
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、scFv、ヒト化、完全ヒト化またはキメラ化抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、及びFc領域を含まない抗体の抗原結合性断片(例えば、Fab断片)を含む。ある特定の実施形態では、抗体はヒト抗体またはヒト化抗体である。「ヒト化」抗体は、3つのCDR(相補性決定領域)のみを含み、ヒト抗体配列の対応するフレームワーク及び定常領域に組換えで連結された、各ドナー抗体可変領域由来の少数の慎重に選択された「フレームワーク」残基(可変領域の非CDR部分)を含むこともある。「完全ヒト化抗体」は、ヒト由来の抗体遺伝子のみを有するように遺伝子操作されているマウス由来のハイブリドーマ中で、またはヒト由来の抗体遺伝子のファージディスプレイライブラリーからの選択によって、作出される。
【0050】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、単鎖可変断片(scFvもしくは「ナノボディ」)、ヒト化、完全ヒト化またはキメラ化抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、及び抗体の抗原結合性断片(例えば、Fab断片)を含む。scFvは、リンカーペプチドによって連結している、免疫グロブリンの重鎖(V)及び軽鎖(V)の可変領域の融合タンパク質である。リンカーは、通常短く、約10~25アミノ酸の長さである。可動性が重要な場合、リンカーはかなりの数のグリシンを含む。溶解度が重要な場合は、セリンまたはスレオニンがリンカー中で利用される。リンカーは、Vのアミノ末端をVのカルボキシ末端に連結することができ、またはリンカーは、Vのカルボキシ末端をVのアミノ末端に連結することができる。二価の(Divalent)(二価の(bivalent)とも呼ばれる)scFvは、2つのscFvを連結することによって生成することができる。例えば、二価のscFvは、2つのV領域及び2つのV領域を含む単一ペプチドを生成することによって、作製することができる。あるいは、それぞれ単一の領域V及び単一のV領域を含む2つのペプチドを二量体化することができる(「ダイアボディ」とも呼ばれる)。Holliger et al.,“Diabodies:small bivalent and bispecific antibody fragments,”PNAS,July 1993,90:6444-6448。二価性によって、抗体が、高結合活性で多量体抗原に結合することが可能になり、二重特異性によって、2つの抗原の架橋結合が可能になる。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の群、すなわち、小量で存在する天然に存在する突然変異体を除いて、その群を構成する抗体が均一である抗体群から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位と相互作用する。さらに、各モノクローナル抗体は、多様な抗原決定基に対する様々な抗体を典型的には含む一般的なポリクローナル抗体調製物と比較して、抗原上の単一の抗原決定基(エピトープ)を標的にする。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していないハイブリドーマ培養から生成されるという点で有利である。
【0052】
形容詞「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体群から得られる抗体の特徴を示し、特定の方法によって生成される抗体を明示しない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ方法(Kohler and Milstein,Nature 256:495,1975)または組換え方法(米国特許第4,816,567号)によって生成することができる。本発明で使用されるモノクローナル抗体は、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる(Clackson et al.,Nature 352:624-628,1991、Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597,1991)。本発明のモノクローナル抗体は、特に「キメラ化」抗体(免疫グロブリン)を含み、これは、重(H)鎖及び/または軽(L)鎖部分が特定の種または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに由来し、鎖の残りの部分が別の種または別の抗体クラスもしくはサブクラスに由来する。さらに、突然変異体抗体及びその抗体断片も本発明に含まれる(米国特許第4,816,567号、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851-6855,1984)。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「突然変異体抗体」は、1つまたは複数のアミノ酸残基が変わっている変異体アミノ酸配列を含む抗体を指す。例えば、抗体の可変領域は、抗原結合などのその生物学的特性を向上させるように改変することができる。そのような改変は、部位特異的変異誘発(Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488(1985)を参照されたい)、PCRベースの変異誘発、カセット変異誘発などによって達成することができる。そのような突然変異体は、抗体の重鎖または軽鎖可変領域のアミノ酸配列に少なくとも70%同一の、より好ましくは少なくとも75%、より一層好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む。本明細書で使用する場合、用語「配列同一性」は、配列を整列させ、必要に応じて配列同一性を最大にするためにギャップを適切に導入した後に、決定される、抗体の元のアミノ酸配列のものと同一の残基のパーセンテージと定義される。
【0054】
特に、あるヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の別のものに対する同一性は、Karlin and Altschul(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)によるアルゴリズムBLASTを使用して決定することができる。BLASTN及びBLASTXなどのプログラムはこのアルゴリズムに基づいて開発された(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410,1990)。BLASTに基づくBLASTNによってヌクレオチド配列を解析するために、例えば、スコア=100及びワード長=12のようにパラメーターをセットする。一方で、BLASTに基づくBLASTXによるアミノ酸配列の解析に使用されるパラメーターとしては、例えば、スコア=50及びワード長=3が挙げられる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを使用する場合、各プログラム用のデフォルトパラメーターを使用する。そのような解析のための特定の技法は当技術分野で既知である(国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のウェブサイト、Basic Local Alignment Search Tool(BLAST);http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。
【0055】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体は、当業者に既知の方法によって調製することができる。
【0056】
別の実施形態では、抗体または抗体断片は、McCafferty et al.(Nature 348:552-554(1990))によって報告された技法を使用して生成された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al.(Nature 352:624-628(1991))及びMarks et al.(J.Mol.Biol.222:581-597(1991))は、ファージライブラリーからのマウス及びヒト抗体のそれぞれの単離を報告した。鎖シャフリング(Marks et al.,Bio/Technology 10:779-783(1992))ならびに大規模ファージライブラリーを構築するための方法である組み合わせ感染及びインビボ組換え(Waterhouse et al.,Nucleic Acids Res.21:2265-2266(1993))に基づく高親和性(nM範囲)ヒト抗体の生成を説明する報告もある。モノクローナル抗体生成のための従来のハイブリドーマ技術を使用する代わりに、これらの技術をモノクローナル抗体を単離するのに使用することもできる。
【0057】
本発明で使用される抗体は、既知の方法、例えば、プロテインA-セファロース法、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、硫酸塩を用いる塩析法、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニティークロマトグラフィーから適切に選択される方法によって、またはこれらの併用によって、精製することができる。
【0058】
本発明は、遺伝子工学によって生成された組換え抗体を使用することができる。上記の方法によって得られた抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマから単離する。遺伝子を適切なベクター中に挿入し、次いで、宿主中に導入する(例えば、Carl,A.K.Borrebaeck,James,W.Larrick,Therapeutic Monoclonal Antibodies,Published in the United Kingdom by Macmillan Publishers Ltd,1990を参照されたい)。本発明は、本発明の抗体をコードする核酸及びこれらの核酸を含むベクターを提供する。特に、逆転写酵素を使用して、抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAをハイブリドーマのmRNAから合成する。目的の抗体の可変領域をコードするDNAを得た後、これを抗体の所望の定常領域(C領域)をコードするDNAとライゲーションし、得られたDNAコンストラクトを発現ベクター中に挿入する。あるいは、抗体の可変領域をコードするDNAを抗体C領域のDNAを含む発現ベクター中に挿入することができる。これらを、遺伝子が発現制御領域、例えば、エンハンサー及びプロモーターの調節下で発現するように発現ベクター中に挿入する。次いで、発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、抗体を発現させる。本発明は、本発明の抗体を発現する細胞を提供する。本発明の抗体を発現する細胞としては、そのような抗体の遺伝子で形質転換された細胞及びハイブリドーマが挙げられる。
【0059】
本発明の抗体としては、相補性決定領域(CDR)またはCDRに機能的に同等である領域を含む抗体も挙げられる。用語「機能的に同等」は、実施例で単離されたモノクローナル抗体のうちのいずれかのCDRのアミノ酸配列と類似しているアミノ酸配列を含むことを指す。用語「CDR」は、抗体可変領域(「V領域」とも呼ばれる)中の領域を指し、抗原結合の特異性を決定する。H鎖及びL鎖はそれぞれ、N末端からCDR1、CDR2及びCDR3として指定される3つのCDRを有する。これらのCDRに隣接する4つの領域が存在し、これらの領域は「フレームワーク」と称され、それらのアミノ酸配列は高度に保存されている。CDRを他の抗体中に移植することができ、それにより、CDRを所望の抗体のフレームワークと組み合わせることによって、組換え抗体を調製することができる。CDRの1つまたは複数のアミノ酸を、その抗原に結合する能力を喪失ことなしに改変することができる。例えば、CDR中の1つまたは複数のアミノ酸を、置換する、欠失させる、及び/または付加することができる。
【0060】
ある特定の実施形態では、あるアミノ酸残基がアミノ酸側鎖の特性を保存することができるアミノ酸残基に突然変異される。アミノ酸側鎖の特性の例としては、以下が挙げられる:疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに次の側鎖を含むアミノ酸:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸及びアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字は一文字アミノ酸コードを示す。各群内のアミノ酸置換は保存的置換と呼ばれる。1つまたは複数のアミノ酸残基が欠失している、付加された、及び/または置換された改変アミノ酸配列を含むポリペプチドが元の生物活性を保持することができることは周知である(Mark D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:5662-5666(1984)、Zoller M.J.and Smith M.,Nucleic Acids Res.10:6487-6500(1982)、Wang A.et al.,Science 224:1431-1433、Dalbadie-McFarland G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.79:6409-6413(1982))。突然変異アミノ酸の数は制限されないが、一般にその数は、各CDRのアミノ酸の40%以内、好ましくは35%以内、さらにより好ましくは30%以内(例えば、25%以内)に入る。アミノ酸配列の同一性は本明細書に記載のように決定することができる。
【0061】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低減するように人工的に改変された組換え抗体を使用することができる。例としては、キメラ抗体及びヒト化抗体が挙がられる。これらの改変抗体は、既知の方法を使用して生成することができる。キメラ抗体としては、互いに異なる種の可変領域及び定常領域を含む抗体、例えば、マウスなどの非ヒト哺乳動物の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域とヒトの抗体の重鎖及び軽鎖定常領域とを含む抗体が挙げられる。そのような抗体は、(1)マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAにライゲーションすること、(2)これを発現ベクターに組み込むこと、及び(3)このベクターを宿主に導入して抗体を生成することによって、得ることができる。
【0062】
再構成ヒト抗体とも呼ばれるヒト化抗体は、マウスなどの非ヒト哺乳動物の抗体のHまたはL鎖の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体のCDRで置換することによって得られる。そのような抗体を調製するための従来の遺伝子組換え技法が知られている(例えば、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986)、Reichmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、Presta Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい)。特に、マウス抗体のCDRをヒト抗体のフレームワーク領域(FR)とライゲーションするように設計されているDNA配列は、それらの末端に重複部分を含むように構築された、いくつかのオリゴヌクレオチドを使用して、PCRによって合成される。ヒト化抗体は、(1)得られたDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAにライゲーションすること、(2)これを発現ベクター中に組み込むこと、及び(3)このベクターを宿主中にトランスフェクトして、抗体を得ることによって、得ることができる(欧州特許出願第EP239,400号及び国際特許出願第WO96/02576号を参照されたい)。CDRが好ましい抗原結合部位を形成する場合に、CDRを介してライゲーションされるヒト抗体のFRが選択される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に導入されるCDRにも、フレームワーク配列にも含まれていない、付加的なアミノ酸残基(複数可)を含むことができる。そのようなアミノ酸残基は、通常、抗原を認識し、抗原に結合する抗体の能力をより正確に最適化するために導入される。例えば、必要に応じて、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体可変領域のフレームワーク領域中のアミノ酸を置換することができる(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851-856)。
【0063】
本発明の抗体のアイソタイプは限定されない。アイソタイプとしては、例えば、IgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)、IgM、IgA(IgA1及びIgA2)、IgDならびにIgEが挙げられる。本発明の抗体は、抗原結合に関与する部分を含む抗体断片でもよく、またはその改変断片でもよい。用語「抗体断片」は完全長抗体の一部を指し、一般に、抗原結合ドメインまたは可変領域を含む断片を指す。そのような抗体断片としては、例えば、Fab、F(ab’)、Fv、適切なリンカーで結合された重鎖Fv及び軽鎖Fvを含む単鎖Fv(scFv)、ダイアボディ(複数可)、直鎖状抗体、ならびに抗体断片から調製される多重特異性抗体が挙げられる。以前は、プロテアーゼで自然抗体を消化することによって抗体断片が生成されており、現在は、遺伝子工学技法を使用して組換え抗体として抗体断片を発現するための方法も知られている(Morimoto et al.,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117(1992)、Brennan et al.,Science 229:81(1985)、Co,M.S.et al.,J.Immunol.,1994,152,2968-2976、Better,M.& Horwitz,A.H.,Methods in Enzymology,1989,178,476-496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.& Skerra,A.,Methods in Enzymology,1989,178,476-496,Academic Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology,1989,121,663-669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH,1991,9,132-137を参照されたい)。
【0064】
「Fv」断片は最小の抗体断片であり、完全な抗原認識部位及び結合部位を含む。この領域は二量体(V-V二量体)であり、重鎖及び軽鎖のそれぞれの可変領域は非共有結合によって強く接続している。可変領域のそれぞれの3つのCDRはお互いに相互作用して、V-V二量体の表面に抗原結合部位を形成する。換言すれば、重鎖及び軽鎖からの、合計して6つのCDRが抗体の抗原結合部位として一緒に機能する。しかし、可変領域(または、3つの抗原特異的CDRしか含まない半Fv)単独も、抗原を認識し、抗原に結合することができると知られているが、その親和性は完全な結合部位の親和性より低い。したがって、本発明の好ましい抗体断片はFv断片であるが、これに限定されない。そのような抗体断片は、保存されている重鎖または軽鎖CDRの抗体断片を含み、その抗原を認識し、その抗原に結合することができるポリペプチドでもよい。
【0065】
Fab断片(F(ab)とも称される)は、軽鎖定常領域及び重鎖定常領域(CH1)も含む。例えば、抗体のパパイン消化は、2種の断片、すなわち、単一の抗原結合ドメインとして働く、重鎖及び軽鎖の可変領域を含むFab断片と呼ばれる抗原結合性断片と、容易に結晶化するので「Fc」と呼ばれる残りの部分とを生成する。Fab’断片は、これが、抗体のヒンジ領域由来の1つまたは複数のシステイン残基を含む、重鎖CH1領域のカルボキシル末端に由来するいくつかの残基も有するという点において、Fab断片と異なる。しかし、Fab’断片は、両方とも、単一の抗原結合ドメインとして働く、重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗原結合性断片であるという点において、構造的にFabと同等である。本明細書では、単一の抗原結合ドメインとして働く、重鎖及び軽鎖の可変領域を含み、パパイン消化によって得られるものと同等である抗原結合性断片は、これが、プロテアーゼ消化によって生成される抗体断片と同一でない場合でも、「Fab様抗体」と称される。Fab’-SHは、その定常領域中に遊離チオール基を有する、1つまたは複数のシステイン残基を有するFab’である。F(ab’)断片は、F(ab’)のヒンジ領域中のシステイン残基間のジスルフィド結合を切断することによって生成される。他の化学的に架橋された抗体断片も当業者に知られている。抗体のペプシン消化は2つの断片をもたらし、1つは2つの抗原結合ドメインを含み、抗原と交差反応することができるF(ab’)断片であり、もう1つは、残りの断片(pFc’と称される)である。本明細書では、ペプシン消化によって得られるものと同等である抗体断片は、これが、2つの抗原結合ドメインを含み、抗原と交差反応することができる場合に、「F(ab’)様抗体」と称される。そのような抗体断片は、例えば遺伝子工学によって、生成することもできる。そのような抗体断片は、例えば上記の抗体ファージライブラリーから、単離することもできる。あるいは、F(ab’)-SH断片は、E.coliなどの宿主から直接回収することができ、次いで、化学的に架橋することによって、F(ab’)断片を形成させることができる(Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992))。代替方法では、F(ab’)断片は、組換え宿主の培養から直接単離することができる。
【0066】
用語「ダイアボディ(Db)」は、遺伝子融合によって構築された二価の抗体断片を指す(例えば、P.Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)、EP404,097、WO93/11161)。一般に、ダイアボディは2つのポリペプチド鎖の二量体である。ポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、同一鎖中の軽鎖可変領域(V)及び重鎖可変領域(V)は短いリンカー、例えば、約5残基のリンカーを介して接続しており、その結果、これらは互いに結合することができない。これら2つの間のリンカーは短すぎるので、同じポリペプチド鎖中のV及びVは単鎖V領域断片を形成することができないが、代わりに二量体を形成する。したがって、ダイアボディは、2つの抗原結合ドメインを有する。約5残基のリンカーを介してVLa-VHb及びVLb-VHaを形成するように、2つのタイプの抗原(a及びb)に対するV及びV領域が組み合わされ、次いでこれらが共発現される場合、これらは、二重特異性Dbとして分泌される。本発明の抗体は、そのようなDbでもよい。
【0067】
単鎖抗体(「scFv」とも称される)は、抗体の重鎖V領域と軽鎖V領域を連結することによって調製することができる(scFvの総説として、Pluckthun“The Pharmacology of Monoclonal Antibodies”Vol.113,eds.Rosenburg and Moore,Springer Verlag,N.Y.,pp.269-315(1994)を参照されたい)。単鎖抗体を調製するための方法は当技術分野で既知である(例えば、米国特許第4,946,778号、第5,260,203号、第5,091,513号及び第5,455,030を参照されたい)。そのようなscFvでは、重鎖V領域及び軽鎖V領域は、リンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して互いに連結している(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,1988,85,5879-5883)。scFv中の重鎖V領域及び軽鎖V領域は、同じ抗体に由来してもよいし、異なる抗体に由来してもよい。V領域をライゲーションするのに使用されるペプチドリンカーは、12~19残基からなる任意の単鎖ペプチドでもよい。scFvをコードするDNAは、上記の抗体の重鎖または重鎖のV領域をコードするDNA及び上記の抗体の軽鎖または軽鎖のV領域をコードするDNAから選択される、所望のアミノ酸配列をコードする完全なDNAまたは部分的なDNAのいずれかを鋳型として使用して、ならびに2つの末端を規定するプライマー対を使用して、PCRによって増幅することができる。ペプチドリンカー部分をコードするDNAとそれぞれ重鎖及び軽鎖にライゲーションされるDNAの両末端を規定するプライマー対との組み合わせを使用して、さらなる増幅を続いて行うことができる。scFvをコードするDNAを構築した後、従来の方法を使用して、これらのDNAを含む発現ベクターを得ることができ、これらの発現ベクターによって宿主を形質転換する。さらに、得られた宿主を使用して、従来の方法に従って、scFvを得ることができる。これらの抗体断片は、上で概要を述べたように、抗体断片をコードする遺伝子を得て、これらを発現させることによって、宿主中で生成することができる。ポリエチレングリコール(PEG)などの様々なタイプの分子に結合している抗体を修飾抗体として使用することができる。抗体を修飾するための方法は当技術分野で既に確立されている。本発明では、用語「抗体」は上記の抗体も包含する。
【0068】
得られた抗体を均一に精製することができる。抗体は、タンパク質を単離及び精製するために日常的に使用される方法によって、単離及び精製することができる。抗体は、例えば、カラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、及び等電点分画電気泳動から適切に選択される1つまたは複数の方法の併用によって、単離及び精製することができる(Strategies for Protein Purification and Characterization:A
Laboratory Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996)、Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。そのような方法は上に列挙したものに限定されない。クロマトグラフィー法としては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、及び吸着クロマトグラフィーが挙げられる。これらのクロマトグラフィー法は、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC及びFPLCを使用して行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーで使用されるカラムとしては、プロテインAカラム及びプロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAカラムとしては、Hyper D、POROS及びセファロースF.F.(Pharmacia)が挙げられる。抗体は、抗原が固定化されている担体を使用して、抗原結合を利用することによって精製することもできる。
【0069】
本発明の抗体は、標準的な方法(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,latest edition,Mark Publishing Company,Easton,U.S.Aを参照されたい)に従って製剤化することができ、医薬的に許容可能な担体及び/または添加剤を含むことができる。本発明は、本発明の抗体ならびに医薬的に許容可能な担体及び/または添加剤を含む組成物(試薬及び医薬品を含める)に関する。例示的担体としては、界面活性剤(例えば、PEG及びTween)、賦形剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、着色剤、着香剤、防腐剤、安定化剤、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸及び他の有機酸)、キレート剤(例えば、EDTA)、懸濁化剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、流動性促進剤及び矯味剤が挙げられる。しかし、本発明で用いることができる担体は、このリストに限定されない。実際、下記の一般に使用される他の担体を適宜用いることができる:軽質無水ケイ酸、ラクトース、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセタート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ショ糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩など。組成物は、他の低分子量ポリペプチド、タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン、ならびにアミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリジンを含むこともできる。組成物が注射用水溶液として調製される場合は、これは、例えば、生理食塩水、デキストロース、ならびに、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール及び塩化ナトリウムを含めた他の補助剤を含む等張液を含むことができ、これは、適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール及びPEG)ならびに非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80及びHCO-50)も含むことができる。
【0070】
必要ならば、本発明の抗体は、マイクロカプセル(ヒドロキシセルロース、ゼラチン、ポリメチルメタクリレートなどで作られているマイクロカプセル)中にカプセル化することができ、コロイド状薬物送達システム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)の成分にすることができる(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition”,Oslo Ed.(1980)を参照されたい)。さらに、持続性放出薬物の作製方法が既知であり、これらを本発明の抗体に適用することができる(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.15:167-277(1981)、Langer,Chem.Tech.12:98-105(1982)、米国特許第3,773,919号、欧州特許出願第58,481号、Sidman et al.,Biopolymers 22:547-556(1983)、EP:133,988)。
【0071】
RNA干渉(RNAi)分子
RNAi分子は、「低分子干渉RNA」または「短干渉RNA」または「siRNA」または「低分子ヘアピン型RNA」または「shRNA」または「マイクロRNA」または「miRNA」でもよい。RNAi分子は、目的の核酸配列、例えばItga-9を標的にするヌクレオチドのRNA二本鎖である。本明細書で使用する場合、用語「RNAi分子」は、shRNAのサブセットを包含する総称である。「RNA二本鎖」は、RNA分子の2つの領域の間の相補的対形成によって形成される構造体を指す。RNAi分子は、RNAi分子の二本鎖部分のヌクレオチド配列が標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるという点で、遺伝子を「標的にする」。ある特定の実施形態では、RNAi分子は、Itga-9をコードする配列を標的にする。いくつかの実施形態では、RNAi分子の二本鎖の長さは30塩基対未満である。いくつかの実施形態では、二本鎖は、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10塩基対の長さでもよい。いくつかの実施形態では、二本鎖の長さは19~25塩基対の長さである。ある特定の実施形態では、二本鎖の長さは19または21塩基対の長さである。RNAi分子のRNA二本鎖部分は、ヘアピン構造の一部でもよい。二本鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列の間に位置するループ部分を含むことができる。ループは長さがさまざまであり得る。いくつかの実施形態では、ループは、5、6、7、8、9、10、11、12または13ヌクレオチドの長さである。ある特定の実施形態では、ループは9ヌクレオチドの長さである。ヘアピン構造は、3’または5’突出部分を含むこともできる。いくつかの実施形態では、突出は0、1、2、3、4または5ヌクレオチドの長さの3’または5’突出である。
【0072】
RNAi分子は核酸配列にコードされ得、核酸配列はプロモーターを含むこともできる。核酸配列はポリアデニル化シグナルを含むこともできる。いくつかの実施形態では、ポリアデニル化シグナルは合成最小ポリアデニル化シグナルである。
【0073】
「ノックダウン」、「ノックダウン技術」は、RNAi分子の導入前の遺伝子発現と比較して標的遺伝子の発現が低減され、これによって、標的遺伝子産物の生成阻害をもたらすことができる、遺伝子サイレンシングの技法を指す。用語「低減される」は、標的遺伝子発現が1~100%下がっていることを示すために本明細書で使用される。換言すれば、ポリペプチドまたはタンパク質への翻訳に利用可能なRNAの量が最小化される。例えば、タンパク質の量は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95または99%低減され得る。いくつかの実施形態では、発現は約90%低減される(すなわち、RNAi分子が投与されていない細胞と比較して、細胞あたりわずか約10%のタンパク質量しか観察されない)。遺伝子発現のノックダウンは、例えば、dsRNA、siRNAまたはmiRNAの使用によって導くことができる。
【0074】
「RNA干渉(RNAi)」は、RNAi分子によって引き起こされる配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの方法である。RNAiの間、RNAi分子は、標的mRNAの分解を誘導し、その結果、遺伝子発現を配列特異的に阻害する。RNAi分子の使用をともなうRNAiは、植物、D.melanogaster、C.elegans、トリパノソーマ、プラナリア、ヒドラ、及びマウスを含めたいくつかの脊椎動物種において、特定の遺伝子の発現をノックダウンするのに首尾よく適用されている。
【0075】
本発明の方法に従って、RNAiによってItga-9の発現を改変することができる。例えば、Itga-9の蓄積を細胞中で抑制することができる。用語「抑制すること」は、特定の細胞中に存在する転写産物の数または量の減少、低減または排除を指す。例えば、RNA干渉(RNAi)によってItga-9をコードするmRNAの蓄積を細胞中で抑制することができ、例えば、短干渉RNA(siRNA)とも呼ばれる配列特異的二本鎖RNA(dsRNA)によって、遺伝子が発現抑制される。これらのsiRNAは、一緒にハイブリダイズした2つの別々のRNA分子でもよく、これらは、RNA分子の2つの部分が一緒にハイブリダイズして、二本鎖を形成した単一のヘアピンでもよい。
【0076】
用語「遺伝子」は、生物学的機能と関係がある核酸の任意のセグメントを指すのに広く使用される。したがって、遺伝子は、コード配列及び/またはその発現に必要とされる調節配列を含む。例えば、「遺伝子」は、調節配列を含む、mRNA、機能的RNAまたは特定のタンパク質を発現する核酸断片を指す。「遺伝子」は、例えば、他のタンパク質に対する認識配列を形成する非発現DNAセグメントも含む。「遺伝子」は、目的の供給源からのクローニング、または既知であるか予測される配列情報からの合成を含めて、様々な供給源から得ることができ、所望のパラメーターを有するように設計されている配列を含むことができる。「アレル」は、染色体上の所与の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの代替形態のうちの1つである。
【0077】
用語「核酸」は、糖、リン酸及びプリンまたはピリミジンのいずれかである塩基を含むモノマー(ヌクレオチド)からなる、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)及び一本鎖または二本鎖形態のいずれかのそれらのポリマーを指す。特に限定されない限り、この用語は、参照核酸と類似した結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと類似した方法で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。別段指示がない限り、特定の核酸配列は、保存的に改変されたそれらの変異体(例えば、縮重コドン置換)及び相補的配列、ならびに明示的に示される配列も包含する。特に、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第3の位置が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって、達成することができる。「核酸断片」は所与の核酸分子の一部である。
【0078】
「ヌクレオチド配列」は、一本鎖でも二本鎖でもよく、場合により、DNAまたはRNAポリマー中への組み込みができる合成、非天然または変化したヌクレオチド塩基を含む、DNAまたはRNAのポリマーである。
【0079】
用語「核酸」、「核酸分子」、「核酸断片」、「核酸配列もしくはセグメント」、または「ポリヌクレオチド」は互換的に使用され、遺伝子、遺伝子にコードされるcDNA、DNA及びRNAとも互換的に使用され得る。
【0080】
本発明は、単離されたまたは実質的に精製された核酸組成物を包含する。本発明において、「単離された」または「精製された」DNA分子またはRNA分子は、その天然環境から離れて存在し、したがって天然の生成物ではないDNA分子またはRNA分子である。単離DNA分子またはRNA分子は、精製された形態で存在することができ、または例えばトランスジェニック宿主細胞などの非天然環境中に存在することができる。例えば、「単離された」もしくは「精製された」核酸分子またはそれらの生物学的に活性な部分は、組換え技法によって生成された場合に、他の細胞性物質もしくは培養培地を実質的に含んでおらず、または化学合成された場合に、化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含んでいない。一実施形態では、「単離された」核酸は、核酸が由来する生物のゲノムDNA中で核酸に天然に隣接する配列(すなわち、核酸の5’及び3’末端に位置する配列)を含んでいない。例えば、様々な実施形態では、単離された核酸分子は、核酸が由来する細胞のゲノムDNA中の核酸分子に天然に隣接するヌクレオチド配列の約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満を含むことができる。開示されるヌクレオチド配列の断片及び変異体も本発明によって包含される。「断片」または「部分」は、ヌクレオチド配列の完全長または完全長未満を意味する。
【0081】
「天然に存在する」、「天然の」または「野生型」は、人工的に生成されたものとはと異なるものとして、自然界に見いだすことができる物体を説明するのに使用される。例えば、自然界の供給源から単離することができ、研究室において人によって意図的に改変されていない(ウイルスを含めた)生物中に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0082】
分子の「変異体」は、天然の分子の配列と実質的に類似している配列である。ヌクレオチド配列については、変異体は、遺伝暗号の縮重のために、天然のタンパク質の同一アミノ酸配列をコードする配列を含む。これらのような天然に存在するアレル変異体は、分子生物学的技法を使用することで、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びハイブリダイゼーション技法を用いて、特定することができる。変異体ヌクレオチド配列は、天然のタンパク質をコードする、例えば、部位特異的変異誘発を使用することによって生成されたもの、及びアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするものなど、合成由来のヌクレオチド配列も含む。一般に、本発明のヌクレオチド配列変異体は、天然の(内在性の)ヌクレオチド配列に対して、少なくとも40%、50%、60%、70%まで、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%まで、一般に、少なくとも80%、例えば、81%~84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%までの配列同一性を有する。
【0083】
用語「キメラの」は、1)自然界で一緒に見られない調節配列及びコード配列を含むDNA配列、または2)天然に隣接していないタンパク質部分をコードする配列、または3)天然に隣接していないプロモーター部分を含む遺伝子またはDNAを指す。したがって、キメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列を含むことができ、または同じ供給源に由来するが、天然に見られるものと異なる様式で配置された調節配列及びコード配列を含むことができる。
【0084】
「導入遺伝子」は、形質転換によってゲノム中に導入された遺伝子を指す。導入遺伝子としては、例えば、形質転換される特定の細胞のDNAに対して異種または同種のいずれかであるDNAが挙げられる。さらに、導入遺伝子としては、非天然生物に挿入される天然の遺伝子、またはキメラ遺伝子が挙げられる。
【0085】
用語「内在性遺伝子」は、生物のゲノムにおいてその天然の位置にある天然の遺伝子を指す。
【0086】
「外来性」遺伝子は、遺伝子移入によって導入された、宿主生物に通常は見いだされない遺伝子を指す。
【0087】
用語「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、本明細書で互換的に使用される。
【0088】
特定の核酸配列の「保存的に改変された変異」は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列を指す。遺伝暗号の縮重のために、多数の機能的に同一の核酸が任意の所与のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGT、CGC、CGA、CGG、AGA及びAGGはすべてアミノ酸のアルギニンをコードする。したがって、アルギニンがコドンによって指定されるどの位置においても、コードされるタンパク質を変えることなく、コドンを記載される対応するコドンのうちのいずれかに変えることができる。そのような核酸変異は、「保存的に改変された変異」の1種である「サイレント変異」である。特記した場合を除き、ポリペプチドをコードする本明細書に記載のどの核酸配列も可能なすべてのサイレント変異を説明する。核酸中の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるATGを除く)を標準的な技法によって機能的に同一の分子をもたらすように改変することができることを、当業者なら認識するであろう。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各「サイレント変異」は、各記載される配列中に潜在している。
【0089】
「組換えDNA分子」は、例えば、Sambrook and Russell(2001)に記載のように、DNA配列を結合させるのに使用される組換えDNA技術及び手順を使用して結合されるDNA配列の組み合わせである。
【0090】
用語「異種遺伝子」、「異種DNA配列」、「外来DNA配列」、「異種RNA配列」、「外来RNA配列」または「異種核酸」は、特定の宿主細胞にとって外来性である供給源に由来するか、同じ供給源由来であるが、その元のまたは天然の形態から改変されているかのいずれかの配列をそれぞれ指す。したがって、宿主細胞中の異種遺伝子には、特定の宿主細胞にとって内在性であるが、例えば、DNAシャッフリングの使用を介して改変された遺伝子が含まれる。この用語には、天然に存在しない複数コピーの天然に存在するDNAまたはRNA配列も含まれる。したがって、この用語は、細胞にとって外来性もしくは異種性である、または細胞にとって同種であるが、宿主細胞核酸内のその要素が通常見られない位置ある、DNAまたはRNAセグメントを指す。外来DNAセグメントは、外来ポリペプチドをもたらすように発現される。
【0091】
「同種の」DNAまたはRNA配列は、それが導入される宿主細胞と天然に関係がある配列である。
【0092】
「野生型」は、天然に見られる通常の遺伝子または生物を指す。
【0093】
「ゲノム」は、生物の完全な遺伝物質を指す。
【0094】
「ベクター」は、特に、任意のウイルスベクター、及び自己伝播性または可動性であってもよいし、そうでなくてもよく、細胞のゲノム中への組み込みによって原核生物のまたは真核生物の宿主を形質転換することができる、または染色体外に存在するができる(例えば、複製開始点を有する自律複製プラスミド)、二本鎖または一本鎖の直鎖状または環状形態の任意のプラスミド、コスミド、ファージまたはバイナリーベクターを含むように定義される。
【0095】
本明細書で使用する場合「発現カセット」は、終結シグナルに作動可能に連結されていてもよい目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる、適切な宿主細胞内で特定のヌクレオチド配列の発現を導くことができる核酸配列を意味する。コード領域は通常、目的の機能的RNA、例えばRNAi分子をコードする。目的のヌクレオチド配列を含む発現カセットはキメラでもよい。発現カセットはまた、天然に存在するが、異種発現に有用な組換え形態で得られたものでもよい。発現カセット中のヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーターまたは宿主細胞がある種の特定の刺激に曝露される場合のみ転写を開始する調節性プロモーターの制御下にあってもよい。多細胞生物の場合には、プロモーターは、特定の組織もしくは器官または発生段階に特異的でもよい。
【0096】
そのような発現カセットは、目的のヌクレオチド配列に連結した転写開始領域を含むことができる。そのような発現カセットは、制御領域の転写調節下にあるように目的の遺伝子を挿入するための複数の制限部位が備わっている。発現カセットは、選択マーカー遺伝子をさらに含むことができる。
【0097】
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNAまたはRNA配列を指す。これは、cDNAなどの「中断されていないコード配列」(すなわち、イントロンを欠く)を構成することができ、またはこれは、適切なスプライスジャンクションによって結合している1つもしくは複数のイントロンを含むことができる。「イントロン」は、一次転写産物に含まれるが、タンパク質に翻訳され得る成熟mRNAを生成するために、細胞内におけるRNAの切断及び再ライゲーションを介して除去される、RNAの配列である。
【0098】
用語「オープンリーディングフレーム」(ORF)は、コード配列の翻訳開始コドン及び翻訳終止コドンの間の配列を指す。用語「開始コドン」及び「終止コドン」は、それぞれタンパク質合成(mRNA翻訳)の開始及び連鎖停止を指定する、コード配列中の3つの隣接するヌクレオチド(「コドン」)の単位を指す。
【0099】
「機能的RNA」は、センスRNA、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、siRNA、または翻訳され得ないが、それにもかかわらず少なくとも1つの細胞プロセスに影響を与える他のRNAを指す。
【0100】
用語「RNA転写産物」または「転写産物」は、DNA配列のRNAポリメラーゼ触媒性転写から得られる生成物を指す。RNA転写産物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、これは一次転写産物と称され、またはこれは、一次転写産物の転写後プロセシングに由来するRNA配列でもよく、成熟RNAと称される。「伝令RNA」(mRNA)は、イントロンがなく、細胞によってタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」は、mRNAに相補的であり、mRNAに由来する、一本鎖または二本鎖のDNAを指す。
【0101】
「調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、コード配列内、または下流(3’非コード配列)に位置し、転写、RNAのプロセシングもしくは安定性または関連するコード配列の翻訳に影響するヌクレオチド配列である。調節配列としては、エンハンサー、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン及びポリアデニル化シグナル配列が挙げられる。これらは、天然配列及び合成配列ならびに合成及び天然配列の組み合わせでもよい配列を含む。上記のように、用語「適切な調節配列」はプロモーターに限定されない。しかし、本発明で有用ないくつかの適切な調節配列としては、限定されないが、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、調節性プロモーター及びウイルスプロモーターが挙げられるであろう。
【0102】
「5’非コード配列」は、コード配列に対して5’(上流)に位置するヌクレオチド配列を指す。これは、開始コドン上流の完全にプロセシングを受けたmRNAに存在し、mRNAへの一次転写産物のプロセシング、mRNAの安定性または翻訳効率に影響を及ぼし得る。
【0103】
「3’非コード配列」は、コード配列に対して3’(下流)に位置し、ポリアデニル化シグナル配列及びmRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響を及ぼすことができる他の調節シグナルをコードする配列を含み得る、ヌクレオチド配列を指す。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響を及ぼすことを特徴とする。
【0104】
用語「翻訳リーダー配列」は、RNAに転写され、翻訳開始コドンの上流(5’)の完全にプロセシングを受けたmRNAに存在する、プロモーターとコード配列の間の遺伝子のDNA配列部分を指す。翻訳リーダー配列は、mRNAへの一次転写産物のプロセシング、mRNAの安定性または翻訳効率に影響を及ぼし得る。
【0105】
用語「成熟」タンパク質は、そのシグナルペプチドを有さない、翻訳後にプロセシングを受けたポリペプチドを指す。「前駆体」タンパク質は、mRNAの翻訳の一次産物を指す。「シグナルペプチド」は、前駆体ペプチドを形成するポリペプチドとともに翻訳され、それが分泌経路に入るのに必要とされる、ポリペプチドのアミノ末端の延長を指す。用語「シグナル配列」は、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。
【0106】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼ及び適切な転写に必要とされる他の因子を認識させることによってコード配列の発現を指示及び/または制御する、通常そのコード配列に対して上流(5’)にあるヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」は、転写開始部位を特定する働きをするTATAボックス及び他の配列から構成される短いDNA配列であるミニマルプロモーターを含み、発現の制御のために、調節エレメントがそれに加えられる。「プロモーター」は、ミニマルプロモーター+コード配列または機能的RNAの発現を制御することができる調節エレメントを含むヌクレオチド配列も指す。このタイプのプロモーター配列は、近位の及びより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはエンハンサーと称されることが多い。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激することができ、プロモーターの先天的なエレメントでもよく、またはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入される異種エレメントでもよい、DNA配列である。これは、両方の向き(正常または反転)で作用することができ、プロモーターから上流または下流のいずれかに動かされた場合でさえも、機能することができる。エンハンサー及び他の上流プロモーターエレメントの両方ともその作用を媒介する配列特異的DNA結合タンパク質に結合する。プロモーターは、その全体が天然の遺伝子に由来してもよく、または天然に見られる異なるプロモーターに由来する異なるエレメントからなってもよく、またはさらに合成DNAセグメントから構成されてもよい。プロモーターは、生理的または発生的条件に応じて転写開始の有効性を制御するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列を含むこともできる。本発明で使用することができるプロモーターの例としては、マウスU6RNAプロモーター、合成ヒトH1RNAプロモーター、SV40、CMV、RSV、RNAポリメラーゼII及びRNAポリメラーゼIIIプロモーターが挙げられる。
【0107】
「開始部位」は、位置+1としても定義される、転写される配列の一部である第1ヌクレオチドの周囲の位置である。この部位に対して、遺伝子のすべての他の配列及びその制御領域が番号付けされる。下流配列(すなわち、3’方向のさらなるタンパク質コード配列)は正と称され、一方で、上流配列(5’方向の制御領域の大部分)は負と称される。
【0108】
不活性である、または上流の活性化がない場合にプロモーター活性が大きく低減しているプロモーターエレメント、特にTATAエレメントは、「ミニマルまたはコアプロモータ」と称される。適切な転写因子が存在する場合には、ミニマルプロモーターは転写を可能にするように機能する。したがって「ミニマルまたはコアプロモータ」は、転写開始に必要とされるすべての基本エレメント、例えば、TATAボックス及び/またはイニシエーターのみからなる。
【0109】
「構成的発現」は、構成的または調節性プロモーターを使用する発現を指す。「条件付き」及び「調節性発現」は、調節性プロモーターによって制御される発現を指す。
【0110】
「作動可能に連結される」は、1つの配列の機能が別の配列の影響を受けるような単一の核酸断片上の核酸配列の結合を指す。例えば、調節DNA配列がコードDNA配列の発現に影響を及ぼす(すなわち、コード配列または機能的RNAがプロモーターの転写制御下にある)ように2つの配列が置かれる場合、調節DNA配列は、RNAまたはポリペプチドをコードするDNA配列「に作動可能に連結される」またはそのDNA配列「と結合している」と言われる。コード配列は、センスまたはアンチセンスの向きで調節配列に作動可能に連結され得る。
【0111】
「発現」は、細胞における内在性遺伝子、異種遺伝子もしくは核酸セグメントまたは導入遺伝子の転写及び/または翻訳を指す。例えば、siRNAコンストラクトの場合には、発現は、siRNAのみの転写を指すことができる。さらに、発現は、センス(mRNA)または機能的RNAの転写及び安定な蓄積を指す。発現は、タンパク質の生成を指すこともできる。
【0112】
「変化レベル」は、正常なまたは形質転換されていない細胞または生物のものと異なる、トランスジェニックの細胞または生物における発現レベルを指す。
【0113】
「過剰発現」は、正常なまたは形質転換されていない細胞または生物における発現レベルを超える、トランスジェニックの細胞または生物における発現レベルを指す。
【0114】
「アンチセンス阻害」は、内在性遺伝子または導入遺伝子からのタンパク質の発現を抑制することができるアンチセンスRNA転写産物の生成を指す。
【0115】
「転写停止断片」は、転写を終結させることができる、1つまたは複数の調節シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナル配列を含む、ヌクレオチド配列を指す。例としては、ノパリン合成酵素をコードする遺伝子及びリブロースビスリン酸カルボキシラーゼの小サブユニットをコードする遺伝子の3’非調節領域が挙がられる。
【0116】
「翻訳停止断片」は、翻訳を終結させることができる、1つまたは複数の調節シグナル、例えば、3フレームすべてにおける1つまたは複数の終止コドンを含む、ヌクレオチド配列を指す。コード配列の5’末端の開始コドンに隣接して、またはその近くに翻訳停止断片を挿入することは、翻訳をもたらさないか、または不適切な翻訳をもたらす。部位特異的組換えによる翻訳停止断片の切除は、開始コドンを使用する適切な翻訳を妨げない部位特異的な配列をコード配列中に残す。
【0117】
用語「シス作用配列」及び「シス作用エレメント」は、その機能が、それらが同じ分子上にあることを必要とする、DNAまたはRNA配列を指す。レプリコン上のシス作用配列の例は、ウイルス複製開始点である。
【0118】
用語「トランス作用配列」及び「トランス作用エレメント」は、その機能が、それらが同じ分子上にあることを必要としない、DNAまたはRNA配列を指す。
【0119】
「染色体に組み込まれた」は、共有結合による、外来性の遺伝子または核酸コンストラクトの宿主DNA中への組み込みを指す。遺伝子が「染色体に組み込まれて」いない場合は、これらは、「一過的に発現される」可能性がある。遺伝子の一過的発現は、宿主染色体中に組み込まれていないが、例えば、自律複製プラスミドまたは発現カセットのいずれかの一部として、またはウイルスなどの別の生物システムの一部として、独立に機能する遺伝子の発現を指す。
【0120】
次の用語は、2つ以上の核酸またはポリヌクレオチドの間の配列関係を説明するのに使用される:(a)「参照配列」、(b)「比較ウィンドウ」、(c)「配列同一性」、(d)「配列同一性のパーセンテージ」、及び(e)「実質的同一性」。
【0121】
(a)本明細書で使用する場合、「参照配列」は、配列比較に対する基礎として定義された配列である。参照配列は、指定の配列のサブセットまたは全体でもよく、例えば、完全長のcDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全なcDNAまたは遺伝子配列などである。
【0122】
(b)本明細書で使用する場合、「比較ウィンドウ」は、ポリヌクレオチド配列の連続的な指定されたセグメントについて言及し、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列は、2つの配列の最適なアライメントのために、参照配列(これは付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含むことができる。一般に、比較ウィンドウは、少なくとも20個の連続的なヌクレオチドの長さであり、場合により、30個、40個、50個、100個、またはそれより長くてもよい。ポリヌクレオチド配列中へギャップが含まれることが原因の、参照配列に対する高い類似性を回避するために、ギャップペナルティーが典型的には導入され、マッチ数から引かれることを当業者なら理解する。
【0123】
比較のための配列のアライメント方法は当技術分野で周知である。したがって、任意の2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。
【0124】
これらの数学的アルゴリズムのコンピューターの実装は、配列同一性を決定するための配列比較に利用可能である。そのような実装としては、限定されないが、以下が挙げられる:PC/Geneプログラム中のCLUSTAL(Intelligenetics、Mountain View、Californiaから入手可能);ALIGNプログラム(バージョン2.0)ならびにWisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ、バージョン8中のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTA(Genetics Computer Group(GCG)、575 Science Drive、Madison、Wisconsin、USAから入手可能)。これらのプログラムを使用するアライメントは、デフォルトパラメーターを使用して実施することができる。
【0125】
BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センターを通して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベースの配列中の同じ長さのワードと整列させた場合にいくつかの正の値の閾値スコアTとマッチするかそれを満たす、クエリ配列中の長さWのショートワードを特定することによって、最初に高スコア配列対(HSP)を特定することを含む。Tは隣接ワードスコア閾値と称される。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見つけ出すための検索を開始するためのシードとして働く。次いでワードヒットは、累積アライメントスコアが増加し得る限り、各配列にそって両方向に拡張される。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(1対のマッチする残基に対する報酬スコア;常に>0)及びN(ミスマッチ残基に対するペナルティースコア;常に<0)を使用して計算される。アミノ酸配列については、スコア行列を使用して累積スコアが計算される。各方向におけるワードヒットの拡張は、累積アライメントスコアがその最大達成値から数量Xだけ遠ざかる場合、1つまたは複数の負のスコアリング残基アライメントの蓄積のために累積スコアがゼロ以下になる場合、またはいずれかの配列の末端に達する場合に停止される。
【0126】
配列同一性パーセントの計算に加えて、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計解析も実施する。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、最小合計確率(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチド配列間のマッチが偶然に生じると思われる確率の指標を提供する。例えば、試験核酸配列は、参照核酸配列との試験核酸配列の比較における最少合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、参照配列と類似していると考えられる。
【0127】
比較目的でギャップの入ったアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST2.0内)が利用可能である。あるいは、PSI-BLAST(BLAST2.0内)を使用して、分子間の遠縁の関連性を検出する反復検索を実施することができる。BLAST、Gapped BLAST、PSI-BLASTを利用する場合は、それぞれのプログラム(例えば、ヌクレオチド配列用のBLASTN)のデフォルトパラメーターを使用することができる。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=-4及び両鎖の比較を使用する。アライメントは、検査によって手動で実施することもできる。
【0128】
本発明の目的で、本明細書に開示されるプロモーター配列に対する配列同一性パーセントを決定するためのヌクレオチド配列の比較は、好ましくは、デフォルトパラメーターを用いるBlastNプログラム(バージョン1.4.7以降)または任意の同等プログラムを使用して行われる。「同等プログラム」は、問題になっている任意の2つの配列について、好ましいプログラムによって作成された対応するアライメントと比較した場合に、同一のヌクレオチドマッチ及び同一の配列同一性パーセントを有するアライメントを作成する、任意の配列比較プログラムが意図される。
【0129】
(c)本明細書で使用する場合、2つの核酸配列における「配列同一性」または「同一性」は、配列比較アルゴリズムまたは目視検査によって測定した際に、特定の比較ウィンドウにわたって最大一致について整列させた場合に同一である、2つの配列におけるヌクレオチドの特定のパーセンテージについて言及する。
【0130】
(d)本明細書で使用する場合、「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウにわたって2つの最適に整列させた配列を比較することによって決定される値を意味し、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列の一部は、2つの配列の最適なアライメントのために、参照配列(これは、付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含むことができる。パーセンテージは、両方の配列に同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得て、比較ウィンドウ中の位置の総数でマッチした位置の数を割り、その結果に100を掛けて、配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0131】
(e)ポリヌクレオチド配列の「実質的同一性」という用語は、標準的なパラメーターを使用する記載のアライメントプログラムのうちの1つを使用して、参照配列と比較した際に、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%または79%、好ましくは、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%または89%、より好ましくは、少なくとも90%、91%、92%、93%または94%、最も好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列をポリヌクレオチドが含むことを意味する。
【0132】
ヌクレオチド配列が実質的に同一である別の指標は、ストリンジェントな条件下で2つの分子が互いにハイブリダイズするかどうかである。一般に、ストリンジェントな条件は、定められたイオン強度及びpHにおいて特定の配列に対する熱融解点(T)より約5℃低くなるように選択される。しかし、ストリンジェントな条件は、本明細書で特に限定される場合、所望の程度のストリンジェンシーに応じて約1℃~約20℃の範囲の温度を包含する。
【0133】
配列比較については、典型的には、1つの配列は試験配列が比較される参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを使用する場合は、試験配列及び参照配列はコンピューターに入力され、必要ならば、サブ配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムによって、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数可)の配列同一性パーセントが計算される。
【0134】
上記のように、2つの核酸配列が実質的に同一である別の指標は、ストリンジェントな条件下で2つの分子が互いにハイブリダイズすることである。フレーズ「に特異的にハイブリダイズする」は、その配列が複合混合物(例えば、全細胞)のDNAまたはRNA中に存在する場合、ストリンジェントな条件下における特定のヌクレオチド配列のみに対する分子の結合、二本鎖形成またはハイブリダイズを指す。「実質的に結合する」は、プローブ核酸と標的核酸の間の相補的ハイブリダイゼーションを指し、標的核酸配列の所望の検出を達成するようにハイブリダイゼーション媒体のストリンジェンシーを低減させることによって適応させることができる軽微なミスマッチを包含する。
【0135】
サザン及びノーザンハイブリダイゼーションなどの核酸ハイブリダイゼーション実験における「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」及び「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存的であり、異なる環境パラメーター下で異なる。長い配列ほど高い温度で特異的にハイブリダイズする。Tは、完全にマッチしたプローブに標的配列の50%がハイブリダイズする(定められたイオン強度及びpH下での)温度である。特異性は、典型的には、ハイブリダイゼーション後の洗浄の関数であり、重要な因子は最終的な洗浄液のイオン強度及び温度である。DNA-DNAハイブリッドについては、Tは、Meinkoth及びWahlの方程式:
81.5℃+16.6(logM)+0.41(%GC)-0.61(%form)-500/Lから見積もることができ、
式中、Mは一価の陽イオンのモル濃度であり、%GCはDNA中のグアノシン及びシトシンヌクレオチドのパーセンテージであり、%formはハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドのパーセンテージであり、Lは塩基対におけるハイブリッドの長さである。Tは1%のミスマッチごとに約1℃低下し、したがって、T、ハイブリダイゼーション及び/または洗浄条件は、所望の同一性の配列にハイブリダイズするように調整することができる。例えば、>90%同一性を有する配列が求められる場合、Tを10℃下げることができる。一般に、ストリンジェントな条件は、定められたイオン強度及びpHにおける特異的な配列及びその相補体に対する熱融解点(T)より約5℃低くなるように選択される。しかし、激しくストリンジェントな条件は、Tより1、2、3または4℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用することができ、中程度にストリンジェントな条件は、Tより6、7、8、9または10℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用することができ、低ストリンジェンシー条件は、Tより11、12、13、14、15または20℃低いハイブリダイゼーション及び/または洗浄を利用することができる。この方程式、ハイブリダイゼーション及び洗浄組成物ならびに所望のTを使用して、ハイブリダイゼーション及び/または洗浄液のストリンジェンシーの変動が本質的に説明されることを当業者は理解するであろう。所望の程度のミスマッチが45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)未満のTをもたらす場合、より高い温度を使用することができるようにSSC濃度を高めることが好ましい。一般に、定められたイオン強度及びpHにおける特異的な配列について、Tより約5℃低くなるように、非常にストリンジェントなハイブリダイゼーション及び洗浄条件が選択される。
【0136】
非常にストリンジェントな洗浄条件の例は、約15分間にわたる72℃の0.15M NaClである。ストリンジェントな洗浄条件の例は、15分間にわたる65℃の0.2×SSC洗浄である(SSC緩衝液の説明のために、Sambrook and Russell 2001を参照されたい)。しばしば、バックグラウンドのプローブシグナルを除去するために、低ストリンジェンシー洗浄が高ストリンジェンシー洗浄に先行する。短い核酸配列(例えば、約10~50ヌクレオチド)については、ストリンジェントな条件は、典型的には、pH7.0~8.3で、約1.5M未満、より好ましくは約0.01~1.0MのNaイオン濃度(または、他の塩)の塩濃度を含み、温度は、典型的には少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を加えて達成することもできる。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて無関係のプローブについて観察されるものよりも2×(または、それ以上)のシグナル対ノイズは、特異的なハイブリダイゼーションの検出を示す。極めてストリンジェントな条件は、特定の核酸分子のTmに等しくなるように選択される。
【0137】
極めてストリンジェントな条件は、特定のプローブのTに等しくなるように選択される。サザンまたはノーザンブロットにおいてフィルター上に100個より多くの相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントな条件の例は、50%ホルムアミドであり、例えば、37℃の50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSにおけるハイブリダイゼーション、及び60~65℃の0.1×SSCにおける洗浄である。例示的な低ストリンジェンシー条件としては、37℃の30~35%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の緩衝溶液を用いるハイブリダイゼーション、及び50~55℃の1×~2×SSC(20×SSC=3.0M NaCl/0.3Mクエン酸三ナトリウム)における洗浄が挙げられる。例示的な中程度ストリンジェンシー条件としては、37℃の40~45%ホルムアミド、1.0M NaCl、1%SDSにおけるハイブリダイゼーション、及び55~60℃の0.5×~1×SSCにおける洗浄が挙げられる。
【0138】
用語「形質転換」は、遺伝学的に安定な遺伝をもたらす、宿主細胞のゲノム中への核酸断片の移行を指す。「宿主細胞」は、外来核酸分子によって形質転換された、または形質転換することができる細胞である。形質転換された核酸断片を含む宿主細胞は、「トランスジェニック」細胞と称される。
【0139】
「形質転換された」、「形質導入された」、「トランスジェニック」及び「組換え体」は、異種核酸分子が導入された宿主細胞を指す。本明細書で使用する場合、用語「トランスフェクション」は、真核(例えば、哺乳類)細胞中へのDNAの送達を指す。用語「形質転換」は、原核(例えば、E.coli)細胞中へのDNAの送達を指すのに本明細書で使用される。用語「形質導入」は、ウイルス粒子を細胞に感染させることを指すのに本明細書で使用される。当技術分野で一般に知られているゲノム中に核酸分子を安定して組み込むことができる。PCRの既知の方法は、限定されないが、対プライマー、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、部分的にミスマッチしたプライマーなどを使用する方法が挙げられる。例えば、「形質転換された」、「形質転換体」及び「トランスジェニック」細胞は、形質転換プロセスを経ており、その染色体中に組み込まれた外来性遺伝子を含む。用語「形質転換されていない」は、形質転換プロセスを経ていない正常細胞を指す。
【0140】
「遺伝子改変細胞」は、組換え核酸または異種核酸(例えば、1つまたは複数のDNAコンストラクトまたはそれらのRNA対応物)の導入により改変された細胞を意味し、そのような遺伝子改変の一部またはすべてを保持するそのような細胞の後代をさらに含む。
【0141】
本明細書で使用する場合、ヌクレオチド分子に関する用語「由来する」または「に向けられる」は、目的の特定の分子に相補的配列同一性を有する分子を意味する。
【0142】
「遺伝子サイレンシング」は、遺伝子発現、例えば、導入遺伝子、異種遺伝子及び/または内在性遺伝子の発現の抑制を指す。遺伝子サイレンシングは、転写に影響を及ぼすプロセスを通して、及び/または転写後メカニズムに影響を及ぼすプロセスを通して、媒介され得る。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングは、RNA干渉を介して、siRNAが配列特異的に目的の遺伝子のmRNAの分解を開始する場合に、生じる。いくつかの実施形態では、遺伝子サイレンシングはアレル特異的でもよい。「アレル特異的」遺伝子サイレンシングは、遺伝子の1つのアレルの特異的サイレンシングを指す。
【0143】
「ノックダウン」、「ノックダウン技術」は、RNAi分子の導入前の遺伝子発現と比較して標的遺伝子の発現が低減され、これによって、標的遺伝子産物の生成阻害をもたらすことができる、遺伝子サイレンシングの技法を指す。用語「低減される」は、標的遺伝子発現が1~100%下がっていることを示すために本明細書で使用される。例えば、発現は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95または99%さえも低減され得る。遺伝子発現のノックダウンは、dsRNAまたはsiRNAの使用によって導くことができる。例えば、siRNAの使用を伴い得る「RNA干渉(RNAi)」は、植物、D.melanogaster、C.elegans、トリパノソーマ、プラナリア、ヒドラ、及びマウスを含めたいくつかの脊椎動物種において、特定の遺伝子の発現をノックダウンするのに首尾よく適用されている。
【0144】
「RNA干渉(RNAi)」は、siRNAによって開始される配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの方法である。RNAiはいくつかの生物、例えば、Drosophila、線虫、真菌及び植物で見られ、抗ウイルス性防御、トランスポゾン活性のモジュレーション、及び遺伝子発現の調節に関与すると考えられている。RNAiの間、RNAi分子は標的mRNAの分解を誘導し、その結果、遺伝子発現を配列特異的に阻害する。
【0145】
「低分子干渉」または「短干渉RNA」またはsiRNAは、目的の遺伝子を標的にするヌクレオチドのRNA二本鎖である。「RNA二本鎖」は、RNA分子の2つの領域間の相補的対形成によって形成される構造体を指す。siRNAは、siRNAの二本鎖部分のヌクレオチド配列が標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるという点で、遺伝子を「標的にする」。いくつかの実施形態では、siRNAの二本鎖の長さは30ヌクレオチド未満である。いくつかの実施形態では、二本鎖は、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10ヌクレオチドの長さでもよい。いくつかの実施形態では、二本鎖の長さは19~25ヌクレオチドの長さである。siRNAのRNA二本鎖部分は、ヘアピン構造の一部でもよい。二本鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列の間に位置するループ部分を含むことができる。ループは長さがさまざまであり得る。いくつかの実施形態では、ループは、5、6、7、8、9、10、11、12または13ヌクレオチドの長さである。ヘアピン構造は、3’または5’突出部分を含むこともできる。いくつかの実施形態では、突出は0、1、2、3、4または5ヌクレオチドの長さの3’または5’突出である。siRNA分子を形成するために、ループ領域とともに、またはループ領域なしで、「センス」及び「アンチセンス」配列を使用することができる。本明細書で使用する場合、用語siRNAは、配列特異的RNAiを媒介することができる核酸分子、例えば、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短ヘアピンRNA(shRNA)、短干渉オリゴヌクレオチド、短干渉核酸、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)などを説明するのに使用される他の用語と同等であることが意図される。さらに、本明細書で使用する場合、用語RNAiは、配列特異的RNA干渉、例えば、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、またはエピジェネティックサイレンシングを説明するのに使用される他の用語と同等であることが意図される。例えば、本発明のsiRNA分子は、転写後レベルまたは転写前レベルの両方でエピジェネティックに遺伝子をサイレンシングするのに使用することができる。非限定例では、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現のエピジェネティックモジュレーションは、遺伝子発現を変化させるためのクロマチン構造またはメチル化パターンのsiRNA媒介性改変から生じ得る。別の非限定例では、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現のモジュレーションは、RISCを介する、RNA(コーディングRNAまたはノンコーディングRNAのいずれか)のsiRNA媒介性切断から、または代わりに、当該技術分野において知られているように翻訳阻害から生じ得る。
【0146】
siRNAは核酸配列にコードされ得、核酸配列はプロモーターを含むこともできる。核酸配列はポリアデニル化シグナルを含むこともできる。いくつかの実施形態では、ポリアデニル化シグナルは合成最小ポリアデニル化シグナルである。
【0147】
本明細書で使用する場合、「治療すること」は、疾患もしくは状態の少なくとも1つの症状を改善すること、疾患もしくは状態を治癒させること、及び/または疾患もしくは状態の発生を予防することを指す。
【0148】
本発明のRNAi分子は、当技術分野に知られている任意の方法によって、例えば、インビトロ転写によって、組換えで、または合成手段によって生成することができる。一例を挙げれば、RNAi分子は、T7RNAポリメラーゼなどの組換え酵素とDNAオリゴヌクレオチド鋳型とを使用することによって、インビトロで生成することができる。
【0149】
本発明の核酸分子
用語「単離された及び/または精製された」は、その天然細胞環境から、及び細胞の他の成分、例えば核酸またはポリペプチドとの結合からの核酸、例えば、DNAまたはRNA分子のインビトロ単離であって、その結果、これをシーケンス、複製及び/または発現することができる、インビトロ単離を指す。例えば、「単離された核酸」は、RNAi分子に転写される31個未満の連続的なヌクレオチドを含むDNA分子でもよい。そのような単離されたRNAi分子は、(当技術分野で周知の方法によって、例えば、Sambrook and Russell,2001において定義されるように)、例えば、目的の遺伝子中の配列に相補的であるかハイブリダイズし、ストリンジェントな条件下で安定して結合したままである、二本鎖の21塩基対の長さのヘアピン構造を形成することができる。したがって、RNAまたはDNAは、これが、RNAまたはDNAの天然源において通常は付随している少なくとも1つの混入核酸を含まず、好ましくは、いかなる他の哺乳類のRNAまたはDNAも実質的に含んでいないという点において、「単離されている」。フレーズ「それが通常は付随している少なくとも1つの混入源核酸を含まない」は、核酸が供給源または天然細胞に再導入されるが、異なる染色体上の位置にある、またはそうでなければ、例えば、ベクターまたはプラスミド中で、供給源細胞で通常は見いだされない核酸配列が隣接している場合を含む。
【0150】
siRNAをコードするDNA配列に加えて、本発明の核酸分子としては二本鎖の干渉RNA分子が挙げられ、これも標的遺伝子の発現を阻害するのに有用である。
【0151】
本明細書で使用する場合、用語「組換え核酸」、例えば、「組換えDNA配列またはセグメント」は、任意の適切な細胞性供給源に由来するかそれから単離され、続いて、インビトロで化学的に変化され得、その結果、その配列が天然に存在しないか、それが、外来DNAで形質転換されていないゲノム中に位置すると思われるようには位置していない天然に存在する配列に対応する、核酸、例えば、DNAを指す。供給源に「由来する」あらかじめ選択されたDNAの例は、所与の生物内で有用な断片として特定され、次いで、本質的に純粋な形態で化学合成されるDNA配列であろう。供給源から「単離された」そのようなDNAの例は、化学的手段によって、例えば、制限酵素の使用によって、該供給源から切除されるか取り出され、その結果、それが、本発明で使用するために、遺伝子工学の方法によってさらに操作され得る、例えば、増幅され得る、有用なDNA配列であろう。
【0152】
したがって、制限消化からの所与のDNA断片の回収または単離は、電気泳動によるポリアクリルアミドまたはアガロースゲルでの消化物の分離、既知の分子量のマーカーDNA断片の移動度に対してその移動度を比較することによる目的の断片の特定、所望の断片を含むゲル切片の取り出し、及びDNAからのゲルの分離を用いることができる。したがって、「組換えDNA」としては、完全合成DNA配列、半合成DNA配列、生物源から単離されたDNA配列及びRNAに由来するDNA配列ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0153】
塩基置換を有する核酸分子(すなわち、変異体)は、当技術分野で既知の様々な方法によって調製される。これらの方法としては、限定されないが、天然源からの単離(天然に存在する配列変異体の場合)、または以前に調製した変異体もしくは非変異体バージョンの核酸分子のオリゴヌクレオチド媒介性(もしくは部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発及びカセット変異誘発による調製が挙げられる。
【0154】
オリゴヌクレオチド媒介性変異誘発は置換変異体を調製するための方法である。手短に言えば、所望の突然変異をコードするオリゴヌクレオチドをDNA鋳型にハイブリダイズさせることによって、siRNAをコードする核酸を変化させることができ、この場合、鋳型は、未変化のまたは天然の遺伝子配列を含むプラスミドまたはバクテリオファージの一本鎖形態である。ハイブリダイゼーション後に、DNAポリメラーゼを使用して、このようにしてオリゴヌクレオチドプライマーを組み込み、siRNAをコードする核酸中に選択された変化をコードするであろう鋳型の完全な第2の相補鎖を合成する。一般に、少なくとも25ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドが使用される。最適なオリゴヌクレオチドは、突然変異をコードするヌクレオチド(複数可)のいずれかの側の鋳型に完全に相補的な12~15ヌクレオチドを有するであろう。これによって、オリゴヌクレオチドが一本鎖DNA鋳型分子に正しくハイブリダイズすることが確実になる。オリゴヌクレオチドは当技術分野で既知の技法を使用して容易に合成される。
【0155】
DNA鋳型は、バクテリオファージM13ベクターに由来するいずれかであるベクター(市販のM13mp18及びM13mp19ベクターが適切である)、または一本鎖ファージ複製開始点を含むベクターによって、生成することができる。したがって、突然変異させるDNAをこれらのベクターのうちの1つに挿入して、一本鎖鋳型を生成することができる。一本鎖鋳型の生成は、Chapter 3 of Sambrook and Russell,2001に記載されている。あるいは、一本鎖DNA鋳型は、標準的な技法を使用して二本鎖プラスミド(または他の)DNAを変性させることによって、生成することができる。
【0156】
(例えばアミノ酸配列変異体を生成する目的で)天然のDNA配列を変化させるために、適切なハイブリダイゼーション条件下で、オリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型にハイブリダイズさせる。次いで、通常DNAポリメラーゼIのクレノウ断片であるDNA重合酵素を加えて、合成のためのプライマーとしてオリゴヌクレオチドを使用して鋳型の相補鎖を合成する。したがって、ヘテロ二本鎖分子は、その結果、DNAの一方の鎖はDNAの突然変異型をコードし、他方の鎖(元の鋳型)は天然の未変化のDNA配列をコードするように形成される。次いで、このヘテロ二本鎖分子で適切な宿主細胞、通常E.coli JM101などの原核生物を形質転換する。細胞を増殖させてから、細胞をアガロースプレート上にプレーティングし、32-リン酸で放射標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用してスクリーニングして、突然変異したDNAを含む細菌コロニーを特定する。次いで、突然変異した領域を取り出し、適切なベクター、一般に、典型的には適切な宿主の形質転換に用いられるタイプの発現ベクター中に入れる。
【0157】
直前に記載された方法は、プラスミドの両鎖が突然変異(複数可)を含むホモ二本鎖分子が作出されるように改変することができる。改変は以下の通りである:上記のように、一本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型にアニールさせる。3種のデオキシリボヌクレオチド、すなわち、デオキシリボアデノシン(dATP)、デオキシリボグアノシン(dGTP)及びデオキシリボチミジン(dTTP)の混合物をdCTP-(S)と呼ばれる改変チオデオキシリボシトシン(これは、Amersham Corporationから得ることができる)と混合する。この混合物を鋳型オリゴヌクレオチド複合体に加える。DNAポリメラーゼをこの混合物に加えると、突然変異塩基を除いては鋳型と同一のDNAの鎖が生成される。さらに、この新しいDNA鎖は、dCTPの代わりにdCTP-(S)を含み、これは、新しいDNA鎖を制限酵素消化から保護する働きをする。
【0158】
二本鎖のヘテロ二本鎖の鋳型鎖に適切な制限酵素でニックを入れた後、変異誘発される部位(複数可)を含む領域を超えて、鋳型鎖をExoIIIヌクレアーゼまたは別の適切なヌクレアーゼで消化することができる。次いで、反応を停止して、部分的に一本鎖化されただけの分子を残す。次いで、4種すべてのデオキシリボヌクレオチド三リン酸、ATP及びDNAリガーゼの存在下でDNAポリメラーゼを使用して、完全な二本鎖のDNAホモ二本鎖を形成する。次いで、このホモ二本鎖分子でE.coli JM101などの適切な宿主細胞を形質転換することができる。
【0159】
siRNAを設計するための確立された判断基準が存在する。しかし、遺伝子発現を抑制するsiRNAのメカニズムは完全には理解されておらず、同じ遺伝子の異なる領域から選択されるsiRNAは一様に効果的には機能しないので、非常に多くの場合、有効性を比較するために、いくつかのsiRNAを同時に生成しなくてはならない。
【0160】
本発明の方法にとって改善可能な疾患及び状態
本発明のある特定の実施形態では、本発明の発現カセットに対する哺乳類レシピエントは、遺伝子サイレンシング療法に適している状態を有する。本明細書で使用する場合、「遺伝子サイレンシング療法」は、治療的siRNAをコードする外来核酸物質のレシピエントへの投与、及びそれに続く、インサイチュでの投与された核酸物質の発現を指す。したがって、フレーズ「siRNA療法に適している状態」は、遺伝性疾患(すなわち、1つまたは複数の遺伝子異常に起因し得る疾患状態)、後天性病態(すなわち、先天的異常に起因し得えない病的状態)、がん及び予防的プロセス(すなわち、疾患または望まれない医学的状態の予防)などの状態を包含する。「状態と関係がある」遺伝子は、治療される状態の原因または原因の一部のいずれかである遺伝子である。そのような遺伝子の例としては、Itga-9と関係がある遺伝子が挙げられる。また、ウイルスベクターから発現されるsiRNAは、記載されるベクター系を使用して、インビボ抗ウイルス療法に使用することができる。
【0161】
したがって、本明細書で使用する場合、用語「治療的siRNA」は、レシピエントに対して有益効果を有する任意のsiRNAを指す。したがって、「治療的siRNA」は、治療的siRNAと予防的siRNAの両方を包含する。
【0162】
製剤及び投与方法
本発明の薬剤は、好ましくは、疾患と関係がある少なくとも1つの症状の軽減をもたらすために投与される。投与される量は、限定されないが、選択される組成物、特定の疾患、哺乳動物の体重、健康状態及び年齢、ならびに予防または治療のどちらが達成されるべきかを含めた様々な因子によって変動する。
【0163】
本発明は、薬剤、例えば、抗体または抗体断片の投与によって、哺乳動物においてLGを治療することを想定する。本発明による治療剤の投与は、例えば、レシピエントの生理状態、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、及び当業者に既知の他の因子に応じて、連続的でもよく、または断続的でもよい。本発明の薬剤の投与は、あらかじめ選択された期間にわたって本質的に連続的でもよく、または一連の間隔を空けた投与でもよい。局部と全身の両方の投与が意図される。
【0164】
インビボにおける使用については、本明細書に記載の治療剤は、一般に、投与より前に医薬組成物中に組み込まれる。そのような組成物中に、本明細書に記載の1種または複数の治療的化合物は活性成分(複数可)として存在する(すなわち、代表的なアッセイを使用して測定した場合に、嚢胞性線維症の症状に対して統計学的に有意な効果をもたらすのに十分であるレベルで存在する)。医薬組成物は、1種または複数のそのような化合物を、特定の投与様式に適することが当業者に知られている任意の医薬的に許容可能な担体(複数可)と組み合わせて含む。さらに、他の医薬的に活性な成分(他の治療剤を含める)が組成物中に存在してもよいが、そうである必要はない。
【0165】
病態/状態を治療することに関連して、用語「治療有効量」は、単回用量として、または複数回用量で投与される場合に、病態/状態の任意の症状、態様または特徴に対して任意の検出可能な陽性効果を有することができる、単独のまたは医薬組成物中に含まれる場合のいずれかの化合物の量を指す。そのような効果は、有益であるために絶対的である必要はない。
【0166】
本明細書で使用する場合、用語「治療する」、「治療すること」及び「治療」は、任意の症状を予防するために、病態/状態の臨床症状の発症より前に化合物を投与すること、及び病態/状態の任意の症状、態様または特徴を軽減するまたは排除するために、病態/状態の臨床症状の発症の後に化合物を投与することを含む。このような治療することは、有用であるために絶対的である必要はない。
【0167】
ある特定の実施形態では、本治療剤は、例えば、経口的に、医薬的に許容可能なビヒクル、例えば、不活性な希釈剤または吸収性食用担体と組み合わせて、全身投与することができる。これらは、硬殻または軟殻ゼラチンカプセル中に封入することができ、錠剤中に圧縮することができ、または患者の食事の食物と直接混ぜることができる。経口的治療投与については、活性化合物を1種または複数の賦形剤と組み合わせることができ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形態で使用することができる。そのような組成物及び調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。組成物及び調製物のパーセンテージは、当然ながら変動する可能性があり、好都合には、所与の単位剤形の約2~約60%の重量であり得る。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、有効投薬量レベルが得られるようなものである。
【0168】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、結合剤、例えば、トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチン;賦形剤、例えば、リン酸二カルシウム;崩壊剤、例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム;及び甘味剤、例えば、ショ糖、フルクトース、ラクトースもしくはアスパルテームを含むこともでき、または着香剤、例えば、ペパーミント、ハッカ、冬緑油もしくはチェリーフレーバリングを加えることができる。単位剤形がカプセル剤である場合、これは、上記のタイプの材料に加えて、液体担体、例えば、植物油またはポリエチレングリコールを含むことができる。様々な他の材料が、コーティング剤として、またはそうでなければ固体単位剤形の物理的形態を改変するために、存在可能である。例えば、錠剤、丸剤またはカプセル剤は、ゼラチン、ワックス、シェラックまたは糖などでコーティングすることができる。シロップ剤またはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのショ糖またはフルクトース、防腐剤としてのメチル及びプロピルパラベン、色素及び着香料、チェリーまたはオレンジフレーバーを含むことができる。当然ながら、任意の単位剤形の調製で使用される任意の材料は、使用量において、医薬的に許容可能であり、実質的に無毒であるべきである。さらに、持続性放出調製物及びデバイス中に活性化合物を組み込むことができる。
【0169】
活性化合物は、(例えば、静脈内に、皮下に、または腹腔内に)注射または注入によって投与することもできる。活性化合物またはその塩の溶液は、場合により無毒の界面活性剤と混合された水中で調製することができる。分散体を、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、トリアセチン及びそれらの混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。通常の保管及び使用条件下で、これらの調製物は微生物の増殖を防止するために防腐剤を含む。
【0170】
注射または注入に適した医薬剤形は、無菌の注射可能なまたは注入可能な溶液または分散体の即時調製に適している活性成分を含む無菌の水溶液もしくは分散体または無菌の粉末を含むことができ、これらは、場合によりリポソーム中にカプセル化される。すべての場合において、究極的な剤形は、製造及び貯蔵条件下で、無菌であり、流動性であり、安定であるべきである。液体担体またはビヒクルは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒のグリセリルエステル及びこれらの適切な混合物を含む、溶媒または液体分散媒体でもよい。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成によって、分散体の場合には必要とされる粒径の維持によって、または界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって、もたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、緩衝液または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続性吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中で使用することによって、もたらすことができる。
【0171】
無菌の注射可能な溶液は、必要に応じて上で列挙した様々な他の成分とともに、必要量の活性化合物を適切な溶媒中に組み込み、続いて、濾過滅菌することにより調製される。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌の粉末の場合には、好ましい調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥技法であり、これらは、先に滅菌濾過した溶液中に存在する活性成分+任意の追加的な所望の成分の粉末をもたらす。
【0172】
局所投与については、本化合物は、純粋な形で、すなわち、それらが液体である場合に適用することができる。しかし、一般に、固体でもよいし、液体でもよい皮膚科学的に許容可能な担体と組み合わせて、組成物または製剤としてそれらを皮膚に投与することが望ましい。
【0173】
有用な固体担体としては、微粉砕固体、例えば、タルク、クレー、微結晶セルロース、シリカ、アルミナなどが挙げられる。有用な液体担体としては、場合により、無毒の界面活性剤を用いて、本化合物を有効なレベルで溶解または分散することができる、水、アルコールもしくはグリコールまたは水-アルコール/グリコール混合物が挙げられる。所与の使用のために特性を最適化する目的で、補助剤、例えば、芳香剤及び追加的な抗菌剤を加えることができる。得られた液体組成物は、包帯及び他の手当用品を含浸させるのに使用される吸収パッドから塗布することができ、またはポンプ型スプレーもしくはエアゾールスプレーを使用して患部上にスプレーすることができる。
【0174】
使用者の皮膚に直接塗布するために、広げることができるペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、石鹸剤などを形成する目的で、増ちょう剤、例えば、合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸の塩及びエステル、脂肪アルコール、改質セルロースまたは改質無機物質を液体担体とともに用いることもできる。
【0175】
本発明の化合物を皮膚に送達するのに使用することができる有用な皮膚科学的組成物の例は、当技術分野で既知であり、例えば、Jacquet et al.(米国特許第4,608,392号)、Geria(米国特許第4,992,478号)、Smith et al.(米国特許第4,559,157号)及びWortzman(米国特許第4,820,508号)を参照されたい。
【0176】
本発明の化合物の有用な投薬量は、それらのインビトロ活性と動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって決定することができる。マウス及び他の動物における有効投薬量をヒトへ外挿するための方法は、当技術分野に知られており、例えば、米国特許第4,938,949号を参照されたい。
【0177】
一般に、ローション剤などの液体組成物中の本発明の化合物(複数可)の濃度は、約0.1~25wt-%、好ましくは約0.5~10wt-%である。ゲル剤または粉末剤などの半固体または固体組成物中の濃度は、約0.1~5wt-%、好ましくは約0.5~2.5wt-%である。
【0178】
治療における使用に必要とされる化合物またはその活性な塩もしくは誘導体の量は、選択される特定の塩によってだけでなく、投与経路、治療を受ける状態の性質ならびに患者の年齢及び状態によっても変動し、最終的に担当医師または臨床医の裁量による。
【0179】
しかし、一般に、適切な用量は、約0.5~約100mg/kg、例えば、1日あたり約10~約75mg/kg体重、例えば、1日あたりレシピエントのキログラム体重あたり3~約50mgの範囲であり、好ましくは6~90mg/kg/日の範囲、最も好ましくは15~60mg/kg/日の範囲である。
【0180】
化合物は、好都合には単位剤形で投与され、これは、例えば、単位剤形あたり5~1000mg、好都合には10~750mg、最も好都合には50~500mgの活性成分を含む。
【0181】
理想的には、活性成分は、約0.5~約75μM、好ましくは、約1~50μM、最も好ましくは約2~約30μMという活性化合物のピーク血漿濃度を達成するように投与されるべきである。これは、例えば、場合により生理食塩水中の活性成分の0.05~5%溶液の静脈内注射により達成することができ、または約1~100mgの活性成分を含むボーラスとして経口投与することができる。望ましい血中レベルは、約0.01~5.0mg/kg/時間をもたらすための持続注入によって、または約0.4~15mg/kgの活性成分(複数可)を含む断続注入によって、維持することができる。
【0182】
所望の用量は、好都合には、単回用量で、または適切な間隔で投与される分割用量として、例えば、1日あたり2、3、4またはそれ以上のサブ用量として、与えることができる。サブ用量それ自体を、例えば、吸入器からの複数回の吸入、または眼への複数滴の投与によるなど、いくつかの別々の大まかに間隔を空けた投与にさらに分割することができる。
【実施例0183】
以下の非限定的実施例によって本発明を次に例示する。
【0184】
実施例1
要約
目的。リンパ経路は移植拒絶反応を媒介する。本発明者らは、最近、リンパ管はリンパ脈管新生の間に角膜中に管腔弁を発生し、これらの弁はインテグリンアルファ9(Itga-9)を発現し、リンパ流動の方向付けにおいて重要な役割を果たすことを報告した。本研究では、本発明者らは、同種異系角膜移植モデルを使用して、Itga-9の遮断が移植後に弁形成を抑制することができるかどうか、及びこの効果が移植片のアウトカムにどのように影響するかを調べた。
【0185】
方法。完全にミスマッチしたC57BL/6(ドナー)とBALB/c(レシピエント)マウスの間で同所性角膜移植を行った。レシピエントを無作為化して、Itga-9遮断抗体またはアイソタイプ対照のいずれかの結膜下注射を8週間にわたって週2回与えた。角膜移植を眼部細隙灯顕微鏡検査によってインビボで評価し、カプラン・マイヤー生存曲線を使用して解析した。さらに、リンパ管と弁の両方について、免疫蛍光顕微鏡によって、ホールマウント全層角膜をエクスビボで評価した。
【0186】
結果。抗Itga-9処置は、移植後のリンパの弁形成を抑制した。本発明者らの処置は、リンパ管形成または角膜におけるそれらの鼻極性分布に影響を及ぼさなかった。さらに重要なことに、Itga-9遮断は、移植片の生存の有意な促進をもたらした。
【0187】
結論。リンパの弁形成は移植拒絶反応に決定的に関与する。Itga-9の標的化は、免疫応答を妨げ、移植片の生存を促進するための新しい有効なストラテジーを提供し得る。
【0188】
序論
リンパ脈管系は、体液恒常性、食事性脂肪吸収及び免疫監視の維持において必須の機能を有する。リンパ系の機能障害は、がん転移から炎症及び移植拒絶反応までの幅広い疾患及び障害で見いだされている。移植において、移植失敗は主に拒絶が原因であるが、現行の治療は有効性が限られている。研究によって、リンパ経路の分子遮断によって移植免疫をモジュレートすることができることが示され、リンパ管が新しい治療ストラテジーの開発のための重要なモジュレーターのうちの1つとして明らかになった。
【0189】
研究の多くはリンパ管の形成またはリンパ脈管新生(LG)の調節に注目してきたが、本発明者らは、LGの進行に従ってリンパ管が管腔弁を発生し、これらの弁が、免疫細胞及び免疫応答に対する抗原を含む脈管内部のリンパの流動のガイドにおいて、極めて重要な役割を果たすことを最近明らかにした(Truong T,Altiok E,Yuen D,Ecoiffier T,Chen L.Novel characterization of lymphatic valve formation during corneal inflammation.PloS one 2011;6:e21918、Kang GJ,Ecoiffier T,Truong T,et al.Intravital Imaging Reveals Dynamics of Lymphangiogenesis and Valvulogenesis.Scientific reports 2016;6:19459、Truong T,Huang E,Yuen D,Chen L.Corneal lymphatic valve formation in relation to 320 lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology &
visual science 2014;55:1876-1883)。これらのリンパ弁の形成または弁形成(VG)の介入が移植片の生存をモジュレートすることができるかどうかはまだ決定されておらず、これが本研究の焦点である。
【0190】
Itga-9は、細胞-細胞及び細胞-マトリックス相互作用を媒介するインテグリンファミリーに属する。以前に、この分子は角膜中に新しく形成されたリンパ弁で高発現しており、その遺伝子ノックダウンは、ヒト皮膚リンパ管内皮細胞の機能、例えば、増殖、接着、遊走及び管形成をインビトロで阻害できることが報告された。縫合糸設置モデルを用いて、短期の2週間の研究においてItga-9遮断が炎症性VGを抑制できることが示された(Altiok E,Ecoiffier T,Sessa R,et al.Integrin Alpha-9 Mediates Lymphatic Valve Formation in Corneal Lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2015;56:6313-6319)。これらの予備的結果は、以下のことを解明する絶好の機会を示す。(1)Itga-9遮断が、炎症よりもはるかに複雑な工程である、移植によって誘導されるVG及び/またはLGを妨げるための新しいストラテジーとして使用することができるかどうか。移植は、外来性抗原に対する免疫応答ならびにより大きな程度のVG及びLGを誘発する。(2)移植拒絶反応において、VGが重要な役割を果たすかどうか。現在までに、この態様に関する報告はない。(3)Itga-9遮断を使用して、移植片のアウトカムを向上させることができるかどうか。コルチコステロイドの現在のレジメンは有効性が限られており、また、日和見感染、緑内障及び白内障などの多くの副作用と関係がある。リンパ特異的標的化は、移植片の生存を促進するための、より的確なアプローチを提供し得る。したがって、本研究の結果は、移植免疫へ新しい洞察を与えることができるだけでなく、移植拒絶反応ならびにおそらく他のリンパ及び免疫関連疾患を治療するための新規なストラテジーを提供することもできる。
【0191】
方法
動物
6~8週齢の雄のBALB/c及びC57BL/6マウス(Taconic Farms、Germantown、NY)を実験で使用し、それぞれの外科的処置のために、ケタミン、キシラジン及びアセプロマジン(それぞれ、50mg、10mg及び1mg/kg体重)の混合物を使用してマウスに麻酔をかけた。眼及び視覚研究における動物の使用に関するARVO声明(ARVO Statement for the Use of
Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従ってすべてのマウスを処置し、すべてのプロトコールはUniversity of California,Berkeleyの動物飼育及び使用委員会によって承認された。
【0192】
角膜移植
以前に報告されているように(Zhang H,Grimaldo S,Yuen D,Chen L.Combined blockade of VEGFR-3 and VLA-1 markedly promotes high-risk corneal transplant survival.Investigative ophthalmology & visual science 2011;52:6529-6535、Kang GJ,Ecoiffier T,Truong T,et al.Intravital Imaging Reveals Dynamics of Lymphangiogenesis and Valvulogenesis.Scientific reports 2016;6:19459)、完全にミスマッチしたC57BL/6(ドナー)とBALB/c(レシピエント)の間で同所性角膜移植を行った。基本的に、2mm径のマイクロキュレット(Katena Products Inc.、Denville、NJ)でドナーの中央角膜に印をつけ、バナス剪刀(Storz Instruments Co、San Dimas、CA)でこれを切除した。1.5mm径のマイクロキュレットを用いて、レシピエントの移植床を同様に調製し、8つの断続11-0ナイロン縫合糸(Sharpoint;Vanguard)でドナーボタンをレシピエント床中に固定した。抗菌性軟膏剤を手術の終わりに塗布した。
【0193】
医薬的介入
以前に報告されているように11、レシピエントマウスを無作為化して、ハムスターもしくはマウスのItga-9抗体(6.4μg;Dr.Toshimitsu Uede、Hokkaido Universityの好意により提供された)またはそのアイソタイプ対照のハムスターIgG(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA、USA)のいずれかで結膜下注射を行った。移植当日及びその後手術してから最大で8週まで、結膜下注射を週2回行った。
【0194】
移植角膜のインビボ評価
移植手術後、3日目にすべての眼を最初に調べ、7日目に角膜縫合糸を除去した。標準的なスキームに従って、眼部細隙灯顕微鏡検査によって8週間にわたって週2回移植片を評価した。基本的に、移植片の不透明化の程度は、0(透明及びコンパクトな移植片)~5+(前眼房の全体的な不明瞭化をともなう最大混濁)の間で等級付けした。3週後に2+またはそれ以上の混濁スコアを、または2週目に3+またはそれ以上の混濁スコアを有する移植片を拒絶されたとみなした。
【0195】
角膜の免疫蛍光顕微鏡観察
以前に記載されているように(Truong T,Altiok E,Yuen D,Ecoiffier T,Chen L.Novel characterization of lymphatic valve formation during corneal inflammation.PloS one 2011;6:e21918、Kang GJ,Ecoiffier T,Truong T,et al.Intravital Imaging Reveals Dynamics of 318 Lymphangiogenesis and Valvulogenesis.Scientific reports 2016;6:19459、Truong T,Huang E,Yuen D,Chen L.Corneal lymphatic valve formation in relation to lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2014;55:1876-1883)、実験を行った。手短に言えば、ホールマウント全層角膜を移植後8週目に採取し、免疫蛍光染色のためにアセトン中で固定した。精製されたウサギ-マウスLYVE-1(Abcam、Cambridge、MA)抗体及びヤギ-抗マウスItga-9抗体(R&D Systems、Minneapolis、MN)とともに試料を順次インキュベートし、これらは、それぞれ、FITC-コンジュゲートロバ-抗ウサギ及びCy3-コンジュゲートロバ-抗ヤギ二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)によって可視化した。試料をVector Shieldマウント媒体(Vector Laboratories、Burlingame、CA)でカバーし、AxioVision4.8ソフトウェアを有するAxioImager M1落射蛍光デコンボリューション顕微鏡(Carl Zeiss AG、Gottingen、Germany)によって調べた。
【0196】
リンパ管及び弁の定量化
以前に報告されているように(Truong T,Huang E,Yuen D,Chen L.Corneal lymphatic valve formation in relation to lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2014;55:1876-1883、Altiok E,Ecoiffier T,Sessa R,et al.Integrin Alpha-9 Mediates Lymphatic Valve Formation in Corneal Lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2015;56:6313-6319、Cursiefen C,Chen L,Borges LP,et al.VEGF-A stimulates lymphangiogenesis and hemangiogenesis in inflammatory neovascularization via macrophage recruitment.The Journal of clinical investigation 2004;113:1040-1050、Schneider CA,Rasband WS,Eliceiri KW.NIH Image to ImageJ:25 years of image analysis.Nature methods 2012;9:671-675、Yuen D,Grimaldo S,Sessa R,et al.Role of angiopoietin-2 in corneal lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2014;55:3320-3327)、解析を行った。手短に言えば、LG評価については、LYVE-1+脈管構造をNIH ImageJソフトウェアによって解析した(Truong T,Huang E,Yuen D,Chen L.Corneal lymphatic valve formation in relation to lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2014;55:1876-1883、Cursiefen C,Chen L,Borges LP,et al.VEGF-A stimulates lymphangiogenesis and hemangiogenesis in inflammatory neovascularization via macrophage recruitment.The Journal of clinical investigation 2004;113:1040-1050、Schneider CA,Rasband WS,Eliceiri KW.NIH Image to ImageJ:25 years of image analysis.Nature methods 2012;9:671-675)。リンパ浸潤領域を全角膜領域に対して正規化して、各試料についてパーセンテージカバレッジスコアを得た。
【0197】
角膜縁アーケードの最も内側のリンパ管の輪郭を描くことにより全角膜領域を測定し、角膜内部のLYVE-1+リンパ網の輪郭を描き出すことによりリンパ浸潤領域を決定した。さらに、6時及び12時の位置を通る垂直の正中線を参照して角膜を4等分し、鼻及び側頭の4分円を使用して、各試料の極性リンパ管分布を解析した。管腔弁も評価し、LYVE-1+脈管の長さに沿って走る限局的なItga-9+/LYVE-1-領域を弁として特定し、各試料について定量化した。100%であると定義される対照条件の平均に対して正規化することによって、パーセンテージスコアを得た。
【0198】
統計解析
データは、平均+SEMとして表す。マンホイットニーのU検定を使用して、群間の差異の統計的有意性を評価した。カプラン・マイヤー生存曲線によって、角膜移植片の生存を評価した。nlmeRパッケージを使用して、R Studioプラットフォーム(R
Studio Inc.、Boston、MA)を用いて構築した線形混合モデルによって、関連解析を行った。すべての他の統計解析は、Prismソフトウェア(GraphPad、La Jolla、CA)を用いて行った。P<0.05を有意であるとみなした。
【0199】
結果
角膜移植後のリンパの弁形成に対するItga-9遮断の効果
移植によって誘導される角膜のLG及びVGに対するItga-9遮断の効果を最初に研究した。Itga-9中和体またはアイソタイプ対照のいずれかを、手術日から開始して週2回結膜下注射した。図1Aで示すように、Itga-9遮断抗体による処置の後に、角膜リンパ管は、対照条件と比較して有意に少ない弁を含んでいた。反復実験からの要約データを図1Bに示す(左パネル;P<0.05)。しかし、図1B(右パネル)に示すように、この処置はLGには効果がなかった。弁の数量対リンパ浸潤領域の比に関するさらなる解析によって、対照条件と比較して、処理したものにおいて、このパラメーターの有意な低減が明らかになった(図1C;P<0.05)。
【0200】
リンパ管の鼻優勢分布に対するItga-9遮断の効果
以前に、角膜リンパ管は、炎症性LGにおいてユニークな鼻優勢分布パターンを認めることが報告された(Truong T,Huang E,Yuen D,Chen L.Corneal lymphatic valve formation in relation to lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2014;55:1876-1883、Ecoiffier T,Yuen D,Chen L.Differential distribution of blood and lymphatic vessels in the murine cornea.Investigative ophthalmology & visual science 2010;51:2436-2440)。この現象が移植関連LGにも顕在化するかどうか、及びこれがItga-9処置の影響を受けるかどうかを調べるために、図2Aに例示するように、鼻及び側頭の4分円を比較することによって、LGの極性に対するItga-9遮断の効果を次に調べた。結果は、処置群及び対照群の両方において、リンパ管は鼻側により多く分布しており、Itga-9遮断は、角膜のLGのこの極性に対して効果がないことを示した(図2B及び図4)。R Studioプラットフォーム(R Studio Inc.、Boston、MA)を用いて構築した線形混合モデルを使用するさらなる関連解析もLGの極性分布は角膜領域のみと関係があり、抗Itga-9遮断とは関係がないことを確認した。
【0201】
角膜移植片の生存に対するItga-9遮断の効果
角膜移植片の生存に対するItga-9遮断の効果をさらに評価するために、処置群及び対照群の両方において移植片を調べ、手術してから最大で8週まで週2回それらの生存率を評価した。図3に示すように、結果は、この処置による、移植片の生存の有意な促進を示した。対照群と処置群の両方における移植片拒絶は、移植してから約2.5週後に始まったが、カプラン・マイヤー生存曲線(P<0.05)によって解析した場合に、8週間の研究の終わりまで、有意に高いパーセンテージの移植片が処置群において生存した。
【0202】
考察
本研究では、Itga-9は角膜移植誘導性VGに決定的に関与し、その分子遮断はこのプロセスを効果的に抑制できることを初めて示した。この治療ストラテジーは、角膜のLGまたは鼻分布のその極性に影響を及ぼさないことも示した。さらに重要なことは、脈管それ自体ではなくリンパ弁を低減させることによって、より高い移植片生存率を達成することが可能あったことを示す最初の証拠が提示されることである。
【0203】
Itga-9遮断が、移植においてリンパ管を乱すことなくリンパ弁形成を抑制したという発見は、縫合誘導性炎症モデルに関する以前の報告(Altiok E,Ecoiffier T,Sessa R,et al.323 Integrin Alpha-9 Mediates Lymphatic Valve Formation in Corneal Lymphangiogenesis.Investigative ophthalmology & visual science 2015;56:6313-6319)と矛盾がない。リンパ弁はリンパ管よりもItga-9介入に応答性であるように思われる。これは、Itga-9は血管壁よりも弁で高発現している(図5)という事実によって説明することができる。リンパ弁と脈管の間の不一致は発生の間でも観察され、この場合、Itga-9ノックアウトマウスにおいて、リンパ弁の数の減少が検出されたが、脈管では検出されなかった(Bazigou E,Xie S,Chen C,et al.Integrin-alpha9 is required for fibronectin matrix assembly during lymphatic valve morphogenesis.Developmental
cell 2009;17:175-186)。本研究で使用される処置レジメンを用いて、明白な副作用は観察されなかった。
【0204】
リンパ弁形成の阻止が移植片の生存を有意に高めることができることは注目に値する。この発見は、リンパ経路が求心性アームとして働く、免疫反射アームの弱体化を示す。これは、Itga-9ノックアウトマウスが、リンパ管は存在したが完全性が損なわれた両側性乳び胸で誕生直後に死んだ以前の発生的な報告(Huang XZ,Wu JF,Ferrando R, et al.Fatal bilateral chylothorax in mice lacking the integrin alpha9beta1.Molecular and cellular biology 2000;20:5208-5215.)ともよく一致する。さらに、リンパ管は、成熟し機能的になると、弁を備えている。したがって、リンパ弁の標的化によって、リンパ管の成熟プロセスが妨げられ、それによって、それらを機能障害性にした可能性がある。
【0205】
要約すると、本研究は、移植拒絶反応の媒介におけるリンパVGの重要な役割を明らかにする。本研究は、この病理過程を効果的に妨げるための、及び移植片の生存を向上させるための新規な治療的ストラテジーも提供する。角膜からの結果は、体内のより広範なリンパ疾患及び免疫疾患を治療するためのItga-9に基づく新しい療法の開発に、いくらかの手掛かりを与える可能性がある。
【0206】
実施例2
さらなる研究によって、ltga-9とVEGFR-3の複合遮断は、危険性の高い角膜移植の後にリンパ弁及び脈管形成を阻害すること(図6、緑色で示される脈管及び弁)及び移植片の生存を促進することが示された(図6B、カプラン・マイヤー生存曲線)。
【0207】
実施例3
目的。本発明者らは、最近、炎症性リンパ脈管新生の間に、角膜リンパ管がインテグリンアルファ-9(Itga-9)陽性弁を発生することを報告した。本研究の目的は、インビボでの角膜のリンパ弁形成におけるItga-9の役割及びインビトロでのリンパ管内皮細胞(LEC)の機能をさらに調べることである。
【0208】
方法。標準的なマウス縫合糸設置モデルを使用して、インビボにおけるリンパ弁形成に対するItga-9遮断の効果を、Itga-9中和抗体を使用して研究した。免疫蛍光顕微鏡解析のためにホールマウント角膜を採取した。さらに、ヒト皮膚LEC培養系を使用して、細胞機能に対するItga-9遺伝子のノックダウンの効果を、低分子干渉RNA(siRNA)を使用して調べた。
【0209】
結果。インビボにおけるItga-9遮断は、炎症性角膜中に形成されるリンパ弁の数を有意に減少させた。さらに、ヒトLECにおけるItga-9遺伝子のノックダウンは、増殖、接着、遊走及び管形成の細胞機能を抑制する。
【0210】
結論。Itga-9は角膜のリンパ弁形成に決定的に関与する。Itga-9経路のさらなる研究は、眼の内部及び外部の両方に生じるリンパ関連疾患を治療するための新規なストラテジーを提供し得る。
【0211】
序論
リンパ網はほとんどの組織に広がり、組織液恒常性及び免疫監視において重要な機能を果たす。炎症、がん転移及び移植拒絶反応を含めた幅広い疾患及び状態がリンパ機能障害と関係がある1~5。リンパ系と関係がある疾患の蔓延にもかかわらず、依然として、リンパ系障害に利用可能な治療はほとんどない。したがって、これは、新しい治療ストラテジーに対して差し迫った需要がある分野である。
【0212】
リンパ管内皮ヒアルロナン受容体-1(LYVE-1)及び転写因子プロスペロホメオボックスタンパク質-1(Prox-1)などのいくつかのリンパ特異的マーカーの発見で、リンパ研究の分野は過去10年間で急速に発展した6、7。リンパ系におけるインテグリンの役割を指し示す証拠が増加しているが、これはまだ十分に調べられていない。インテグリンは、細胞-細胞及び細胞-マトリックス相互作用に関与するヘテロ二量体細胞表面膜貫通糖タンパク質のファミリーである9~11。本発明者ら及び他の研究者のいくつかの研究により、インテグリンa5b1、a1b1及びa4b1が炎症関連または腫瘍関連リンパ脈管新生(LG、新しいリンパ管の形成)を媒介することが示された12~15。ごく最近、本発明者らは、角膜リンパ管は、炎症性LGが進行するに従って管腔弁を発生し、内皮層からなるこれらの弁は、インテグリンa9b1(Itga-9)を発現し、炎症性角膜においてリンパ流動を導くように機能することを報告した16、17。しかし、角膜のリンパ弁形成及びリンパ管内皮細胞(LEC)の機能におけるItga-9の直接の役割は、依然として解明されていないままであり、これが本研究の焦点である。これらの問題点に対する解答は、リンパ系疾患のための新しい治療ストラテジーの開発に必須である。
【0213】
本明細書では、弁形成をともなう角膜炎症性LGのインビボのマウスモデル及びインビトロのヒトLEC培養系を使用して、本発明者らは、Itga-9がインビボにおける角膜のリンパ弁形成及びインビトロにおけるLECの機能に決定的に関与することを示す最初の証拠を提供する。中和抗体によるインビボにおけるItga-9遮断は、炎症性角膜におけるリンパ弁形成を有意に抑制する。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)によるLECにおけるItga-9の欠乏は、増殖、接着、遊走及び管形成などの重要な細胞プロセスをインビトロで停止する。まとめると、本研究は、角膜のリンパ弁形成におけるItga-9の重要な役割を明らかにする。インビボの動物研究とインビトロヒトの細胞研究の組み合わせは、眼の内部及び外部の両方で生じるリンパ系障害を治療するための新しい治療ストラテジーのさらなる開発のための、非常に橋渡し的な情報を提供するはずである。
【0214】
方法
動物
6~8週齢の正常な成体の雄BALB/cマウスをTaconic Farms(Germantown、NY、USA)から購入した。眼及び視覚研究における動物の使用に関するARVO声明ならびに研究所の動物飼育及び使用委員会によって承認されたプロトコールに従って、すべてのマウスを処置した。それぞれの外科的処置のために、ケタミン、キシラジン及びアセプロマジン(それぞれ、50、10及び1mg/kg体重)の混合物を使用してマウスに麻酔をかけた。
【0215】
角膜のリンパ脈管新生の誘導及び遮断抗体の投与
以前に述べられているように16、縫合糸設置モデルを使用して、弁形成をともなう角膜炎症性LGを誘導した。手短に言えば、3つの11-0ナイロン縫合糸(AROSurgical、Newport Beach、CA、USA)を、前眼房中に入り込むことなく角膜実質中に設置した。続いて、マウスを無作為化して、6.4lgのハムスター抗マウスItga-9遮断抗体18またはアイソタイプ対照ハムスターIgG(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA、USA)のいずれかを、縫合後0日目から始めて2週間にわたって週2回結膜下注射した。実験は、各群に合計で10匹のマウスを用いて2回反復した。
【0216】
免疫蛍光顕微鏡アッセイ及びリンパ弁の定量化
以前に報告されているように16、19、実験を行った。手短に言えば、免疫蛍光染色のために、ホールマウント角膜をアセトン中に固定した。精製されたウサギ-抗マウスLYVE-1(Abcam、Cambridge、MA、USA)及びヤギ-抗マウスItga-9抗体(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA)とともに試料を順次インキュベートし、これは、それぞれ、FITCコンジュゲートロバ-抗ウサギ及びCy3-コンジュゲートロバ-抗ヤギ二次抗体(Jackson ImmunoResearch)によって可視化した。試料をVector Shieldマウント媒体(Vector Laboratories;Burlingame、CA、USA)でマウントし、ZENデジタルイメージングソフトウェア(Carl Zeiss,Inc.、(Germany)を有するZeiss LSM 710 AxioObserver倒立共焦点顕微鏡を使用して調べた。LYVE-1pリンパ管の長さに沿ったItga-9p限局的な領域を弁として特定した。角膜あたりのリンパ弁の数を定量化し、スコアが100%であると定義される対照群に対して正規化することによって、パーセンテージスコアを得た16、19
【0217】
リンパ管内皮細胞の培養及び免疫細胞蛍光顕微鏡アッセイ
以前に記載されているように13、19、実験を行った。手短に言えば、ヒト新生児マイクロダーマルLECをLonza(Walkersville、MD、USA)から購入し、製造者の指示書に従って、EGM-2MV細胞培養培地(Lonza)中で維持した。LECの染色については、細胞をウサギ抗ヒト-Itga-9抗体(Novus Biologicals、Littleton、CO、USA)とともにインキュベートし、Cy3-コンジュゲートロバ-抗ウサギ二次抗体(Jackson ImmunoResearch)によって可視化した。DAPIマウント媒体(Vectashield;Vector Laboratories)で試料をマウントした。Zeiss Axioplan2落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss、Inc.)でデジタル画像を得た。
【0218】
siRNAトランスフェクション
以前に報告されているように13、19、実験を行った。ヒトItga-9mRNA(50-AAG AAG AAA GTC GTA CTA TAG-30)に対して、特注設計のsiRNA二本鎖をQiagen(Valencia、CA、USA)が合成した。スクランブルsiRNA対照は、Ambion(Austin、TX、USA)から購入した。トランスフェクションは、製造者の指示書に従って、トランスフェクション試薬(RNAiMax;Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)及びopti-MEM血清低減培地を用いて、5%COの加湿したエアーインキュベーターにおいて378Cで行った。
【0219】
逆転写及びリアルタイムPCR
前述のように、及び定量的リアルタイムPCR実験(MIQE)ガイドラインの刊行物についての最小限の情報に基づいて13、19、20、実験を行った。siRNAトランスフェクションから48時間後に、QiagenのRNAeasyミニキットを用いて、LECから全RNAを抽出し、精製した。InvitrogenのSuperScript VILO cDNA合成キットを使用して、逆転写を行った。プライマー配列は以下通りであった:ヒトItga-9、フォワード50-CGG AAT CAT GTC TCC AAC CT-30及び50-TCT CTG CAC CAC CAG ATG AG-30;ヒトb-アクチン、フォワード 50-GAT CTG GCA CCA CAC CTT CT-30、リバース50-GGG GTG TTG AAG GTC TCA AA-3.0。CFX96配列検出システムを用いるSsoFast EvaGreen(Bio-Rad Laboratories,Inc.、Hercules、CA、USA)を使用して、リアルタイムPCRを行った。アクチンのD-Ctに対して正規化した標的遺伝子のD-Ct(閾値サイクル)からItga-9遺伝子の相対的発現を計算した。
【0220】
フローサイトメトリー
LECのトランスフェクションから48時間後に、Guava ViaCountアッセイ(Millipore、Billerica、MA、USA)によってLECの生存率を評価した。Guava easyCyte HTサイトメーター(Millipore)及びInCyte2.6ソフトウェア(Millipore)を使用して、データを得た。Guava ViaCount試薬中の2つのDNA結合色素の差次的浸透性によって、生存細胞及び非生存細胞を評価した。一方の色素はすべての有核細胞を染色し(赤色蛍光チャネル)、一方で、他方の色素は非生細胞を染色する(黄色蛍光チャネル)。生細胞をゲートし(R1)、全集団に対するパーセンテージを計算した。実験は3回反復し、スコアが100%であると定義される対照条件に対してパーセンテージスコアを正規化した。
【0221】
増殖アッセイ
以前に記載されているように13、19、96ウェルプレート中にLECを播種した。Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションから48時間後に、製造業者のプロトコールに従って、Promega(Madison、WI、USA)のMTS増殖アッセイに細胞をかけた。アッセイは3連で行い、3回反復した。
【0222】
接着アッセイ
以前に記載されているように13、Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションから48時間後に、フィブロネクチンでコーティングされた96ウェルプレート中にLECを播種した。プレートを378Cで1時間インキュベートし、2回洗浄し、HBSS中のカルセイン(1lg/mL)とともに室温で30分間インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、マイクロプレートリーダー(Spectramax M5e;Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)で蛍光強度を測定した。アッセイは3連で行い、3回反復した。
【0223】
遊走アッセイ
Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションから48時間後に、10-lLのピペットチップを使用して、LEC単層内に直線的な傷をつけた。かき傷をつけてから0、24及び72時間後に微分干渉(DIC)位相画像を得て、細胞単層における創傷閉鎖を可視化した。TScratchprogram(Tobias Geback and Martin Schulz、ETH Zurich)を使用して、創傷治癒についてかき傷を解析した。創傷閉鎖の間の細胞遊走の可視化のために、TRITCコンジュゲート化ファロイジン(Millipore、Temecula、CA、USA)を使用して細胞を染色した。
【0224】
管形成アッセイ
以前に記載されているように13、19、Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションから48時間後に、固化したMatrigel(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)を含む96ウェルプレート中にLECを播種した(2 3 10細胞/ウェル)。Zeiss Axio Observer A1倒立顕微鏡(Carl Zeiss,Inc.)を使用して、播種後24時間で管形成を画像化した。管の位相画像を得(Qcapture;Qimaging、Surrey、BC、Canada)、ImageJソフトウェア(http://ImageJ.nih.gov/ij/;米国国立衛生研究所、Bethesda、MD、USAによるパブリックドメインで提供される)を使用して、ウェルあたりの管の全長を計算した。アッセイは3連で行い、少なくとも3回反復した。
【0225】
統計解析
結果は平均6SEMとして報告し、Prismソフトウェア(GraphPad、La
Jolla、CA、USA)を使用して、異なる群の間の有意性レベルを決定するために、スチューデントのt検定を使用した。P<0.05である場合に、差異を統計学的に有意であるとみなした。
【0226】
結果
インビボにおける角膜のリンパ弁形成に対するItga-9遮断の効果
本発明者らは、最初に、炎症性LGにおける角膜のリンパ弁形成に対するItag-9遮断の効果を研究することに着手した。標準的な縫合糸設置モデルを使用して、LGをともなう炎症性角膜に形成される弁の数に対するItga-9中和抗体の結膜下送達の効果を評価した。図7Aに示すように、Itga-9遮断抗体による処置の後、角膜リンパ管は、対照条件と比較して有意に少ない弁を含んでいた。反復実験からの要約データを図7Bに示す(P<0.05)。
【0227】
LECにおけるItga-9の発現及び欠乏
リンパ弁は内皮細胞の2つの層に挟まれた細胞外マトリックスでできている。インビトロでリンパ管内皮細胞におけるItga-9の特定の役割をさらに調べるために、本発明者らは、次にヒトLEC培養系を用いた。図8Aに示すように、本発明者らは、最初に、免疫細胞蛍光顕微鏡解析によって、これらの細胞におけるItga-9の発現を確認した。次いで、siRNA媒介性遺伝子サイレンシングアプローチによって、これらのLECにおけるItga-9発現がダウンレギュレートされ得るかどうかを評価した(図8B)。リアルタイムPCR解析からの本発明者らのデータは、Itga-9siRNAによるトランスフェクションの後に、LECにおけるItga-9発現が約50%有意に低減することを示した。図9に示すように、Guava ViaCountアッセイを用いるフローサイトメトリー解析によって、トランスフェクションはLECの生存率に直接効果がないことも確認した。まとめると、これらのデータは、siRNAによるトランスフェクションは、インビトロにおいてLECにおけるItga-9の機能的役割を研究するのに使用することができることを示す。
【0228】
LECの増殖に対するItga-9の欠乏の効果
本発明者らは、次に、siRNAアプローチを使用して、増殖に関するLEC機能におけるItga-9の役割をより深く探究し、評価した。Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションから48時間に、以前に報告されているように19、LECをMTS増殖アッセイにかけた。図10Aに示すように、本発明者らのデータは、対照条件と比較して、Itga-9siRNA処理がLECの増殖の有意な低減をもたらすことを示した(P<0.05)。この結果は、Itga-9の関与がLECの増殖を調節することを示唆する。LECの接着に対するItga-9の欠乏の効果。インテグリンは、細胞外タンパク質への細胞接着に必須である。Itga-9がLECの接着に重要であるかどうかを調べるために、Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAで細胞をトランスフェクトし、Itga-9リガンドのフィブロネクチンでコーティングしたウェル上で接着アッセイにかけた。図10Bに示すように、LECのItga-9欠乏は、フィブロネクチンへの細胞接着の有意な低減をもたらし(P<0.05)、これによって、Itga-9は細胞外マトリックスとのLECの相互作用にも極めて重要であることが示される。LECの遊走に対するItga-9の欠乏の効果。細胞遊走は、インテグリンと細胞外マトリックスタンパク質の間の相互作用に主に依存しているプロセスであり、本発明者らは、次に、創傷治癒のかき傷アッセイを使用して、LECの遊走に対するItga-9の重要性を調べた。Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかによるsiRNAトランスフェクションの後に、72時間にわたってLECをモニターした。図11Aに示すように、Itga-9siRNAでトランスフェクトしたLECは、創傷後24及び72時間という研究した両時点で、スクランブルsiRNAでトランスフェクトした対照細胞よりも大きな開放創領域を示した(P<0.05)。さらに、創傷治癒に対するItga-9の阻害効果は、対照群の細胞が視野の大部分にわたって増殖したより遅い時点で、より大きかった(図11B)。これらの結果は、Itga-9がLECの遊走に必須であることを明示する。
【0229】
LECの管形成に対するItga-9の欠乏の効果
本発明者らは、3次元培養系を使用して、毛細管型の管に組織化するLECの能力に対するItga-9の欠乏の効果も調べた。Itga-9siRNAまたはスクランブルsiRNAのいずれかでトランスフェクションしてから48時間後に、固化した基底膜マトリックス、MatrigelにLECを播種して、管形成を可能にさせた。このアッセイの結果は、図12Aに示すように、LECにおけるItga-9の欠乏が、管の全長の劇的な低減をもたらすことを示した。反復実験からの要約データを図12Bに示す(P<0.05)。これらの結果は、マクロスケール構造体へのLECの組織化におけるItga-9の重要な役割を意味する。
【0230】
考察
本研究では、本発明者らは、インビボの動物モデルとインビトロのヒト細胞モデルの両方を使用して、角膜のリンパ弁形成及びLECにおけるItga-9の必須の役割を示した。本発明者らは、本研究から2つの相互依存的な結論を導き出すことができる。第1に、Itga-9遮断抗体を使用する実験を通して示すように、インビボにおけるリンパ弁形成はItga-9によって堅固に調節されている。第2に、siRNAノックダウンアプローチによって明らかにされたように、Itga-9はインビトロにおけるLECプロセス、例えば、増殖、遊走及び接着に決定的に関与している。インビボのデータは、炎症性角膜におけるリンパ弁形成を妨げるための新しいストラテジーを示唆する一方で、インビトロの結果は、LECの様々な機能におけるItga-9の役割の根底にあると考えられるメカニズムに関して、より多くの詳細を提供し、これらは、一緒に弁形成のプロセスを編成する。細胞外マトリックスへの細胞固定は、主としてインテグリンに基づく結合を介して媒介され、細胞内環境と細胞外環境の間に強い結び付きをもたらす11。インテグリンは、a及びbサブユニットに依存して、細胞外マトリックスタンパク質に特異性を有する。Itga-9に対する主なリガンドのうちの1つは、ヒトがん細胞モデルで報告されているように21、フィブロネクチンである。ヒトLECを用いる本研究では、Itga-9標的化siRNAを使用して、本発明者らは、Itga-9の欠乏の際に、フィブロネクチンへのLECの接着が有意に阻害されることを示すことができる。さらに、細胞遊走の中心にあるものは細胞-マトリックス接着複合体であり、これは、主として、細胞外マトリックスを細胞内アクチンに連結するインテグリンからなる22。LECの遊走におけるItga-9の役割を特定するために、本発明者らは、創傷治癒かき傷アッセイによって、細胞遊走に対するItga-9の消失の効果を調べた。本発明者らは、Itga-9を欠くLECは、時間の経過とともにかき傷表面にわたって完全に増殖した対照LECと比べると、かき傷のすべてにわたって決して十分に遊走しないことを示すことができる。増殖データとまとめると、細胞外マトリックスへのLECの結合に関連するプロセスにおけるItga-9の重要性は、疑いの余地がなくなる。これらの基本的なプロセスに関するさらなる研究は、治療介入のための新しい標的を明かす可能性がある。さらに、本発明者らのインビトロデータは、Itga-9が欠乏したLECは、それらが培養中に毛細管型の管を形成する能力を失ったことを示す。しかし、Itga-9遮断抗体を用いる本発明者らのインビボ処置レジメンは、リンパ管の有意な低減は示さないが、弁の有意な低減は示す。それにもかかわらず、この矛盾現象は、発生の間の非眼性組織におけるリンパ弁形成に関する以前の研究でも観察されている。特に、Bazigou et al23は、Itga-9ノックアウトマウスにおけるリンパ弁形成を調べ、Itga-9ホモ接合体において、弁の数の減少を報告したが、リンパ管の数の減少は報告しなかった。中和抗体を用いる本発明者らのインビボデータについての1つの考えられる説明は、Itga-9が脈管よりも角膜のリンパ弁でより高発現しており16、17、これが、抗Itga-9処置に対して弁をより感受性にし得るということである。これは、さらなる研究の根拠となる。まとめると、これらの結果は、脈管を乱すことなくリンパ弁形成を操作するための理想的な標的としてItga-9を指定する。疾患管理において弁と脈管の両方の介入が必要とされる場合に、弁/脈管標的化アプローチの組み合わせが必要であることも示唆され、これはまた、さらなる研究を要求する。リンパ管は免疫反射弓の求心性アームを構成し1、その管腔弁は脈管内部のリンパ(免疫細胞を含む)流動を導くように機能するので、角膜の内部に形成される脈管及び/または弁の数を操作することによって、免疫応答の程度ならびに様々な段階での疾患の進行及び消退をおそらく妨げることができることが推測される。要約すると、本研究は、角膜の弁形成への新しい洞察を提示するだけでなく、眼の内部または外部に生じる幅広いリンパ系疾患のためのItga-9に基づく新しい療法のさらなる開発に、いくらかの手掛かりを与える可能性がある。
【0231】
実施例3参考文献
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【0232】
前述の明細書及び実施例は本発明を十分に開示し、可能にするが、これらは、本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の範囲は、本明細書に添付の特許請求の範囲によって定められる。
【0233】
すべての刊行物、特許及び特許出願は参照により本明細書に組み込まれる。前述の明細書において、ある特定の実施形態に関して本発明を説明し、例示の目的で多くの詳細を記載したが、本発明は、さらなる実施形態が可能であること、及び本明細書に記載の詳細のいくつかは、本発明の基本原理を逸脱することなくかなり変動し得ることは、当業者に明白である。
【0234】
本発明を説明する文脈における用語「a」及び「an」及び「the」ならびに類似した指示物の使用は、本明細書で別段指示がない限り、または明らかに文脈によって否定されない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈される。用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」及び「含む(containing)」は、特記しない限り、オープンエンド用語(すなわち、「含むが、それらに限定されない」を意味する)として解釈される。本明細書における値の範囲の記述は、本明細書で別段指示がない限り、範囲内に入るそれぞれの別々の値に個々に言及する簡略方法として働くことが単に意図され、それぞれの別々の値は、それらが個々に本明細書に記載されるかのように明細書中に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別段指示がない限り、または明らかに文脈によって否定されない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる実施例または例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をよりよく例示することを単に意図し、別段主張されない限り、本発明の範囲を限定しない。本明細書のいかなる言葉も、特許請求していない任意の要素が本発明の実施に不可欠であると示すものとして解釈されるべきでない。
【0235】
本発明を実施するための本発明者らが知っている最良の形式を含む、本発明の実施形態が、本明細書に記載される。前述の説明を読めば、これらの実施形態の変形形態が当業者に明らかとなるであろう。本発明者らは、当業者が適宜そのような変形形態を用いることを期待し、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されたもの以外の方法で本発明が実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用可能な法律に許容されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載される主題のすべての改変及び均等物を含む。さらに、本明細書で別段指示がない限り、または文脈に明らかに矛盾していない限り、それらのすべての可能な変形形態における上記の要素の任意の組み合わせが本発明に包含される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
有効量の抗インテグリンアルファ9(Itga-9)治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする前記哺乳動物において移植された組織または器官におけるリンパ管中の弁形成(VG)を抑制する方法。
(項目2)
前記リンパ管が眼組織内にある、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記眼組織が角膜組織である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記移植された組織が角膜移植片である、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記組織が皮膚組織である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記抗Itga-9治療剤がItga-9に対して特異的な結合剤である、項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記結合剤が抗体もしくは抗体断片、または抗Itga-2RNAi分子である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記治療剤が結膜下注射によって投与される、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
VGが対照脈管と比較して少なくとも10%抑制される、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
リンパ弁の数が未治療の対照と比較して少なくとも10%減少する、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
リンパ管の数が未治療の対照と匹敵する、項目1~10のいずれか1項に記載の方法。(項目12)
抗Itga-9抗体を含む有効量の治療剤を哺乳動物に投与することを含む、それらを必要とする前記哺乳動物において角膜の弁形成(VG)を予防または治療する方法。
(項目13)
前記角膜のVGが、移植、炎症、感染、ドライアイ、外傷または化学的損傷によって誘導される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記哺乳動物がヒトである、項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目15)
前記治療剤が医薬組成物内に存在する、項目1~13のいずれか1項に記載の方法。
(項目16)
前記投与が局部投与または全身投与による、項目1~15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
前記投与が結膜下、眼内、眼周囲、眼球後、筋肉内、局所、静脈内または皮下の投与による、項目16に記載の方法。
(項目18)
VEGFR-3を投与することをさらに含む、項目1~17のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
リンパ管においてインテグリンアルファ9(Itga-9)を阻害する方法であって、前記リンパ管を抗Itga-9治療剤と接触させることを含む、前記方法。
(項目20)
前記リンパ管をVEGFR-3と接触させることをさらに含む、項目19に記載の方法。
(項目21)
組織または器官における病的なリンパ形成の治療的処置で使用するための、抗Itga-9結合剤を含有する治療剤を含む組成物。
(項目22)
VEGFR-3をさらに含む、項目21に記載の組成物。
(項目23)
哺乳動物においてVGを阻害するのに有用な医薬を調製するための、抗Itga-9結合剤の使用。
(項目24)
医学療法で使用するための、抗Itga-9結合剤を含有する治療剤を含む組成物。
(項目25)
VEGFR-3をさらに含む、項目24に記載の組成物。
(項目26)
有効量の治療剤を哺乳動物に投与すること含む、それらを必要とする前記哺乳動物において移植拒絶反応を阻害する方法であって、前記治療剤が抗Itga-9治療剤である、前記方法。
(項目27)
VEGFR-3を投与することをさらに含む、項目26に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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【外国語明細書】