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特開2024-88762リング状部材の誘導加熱方法および誘導加熱装置、リング状部材の製造方法、軸受の製造方法、車両の製造方法、ならびに、機械装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088762
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】リング状部材の誘導加熱方法および誘導加熱装置、リング状部材の製造方法、軸受の製造方法、車両の製造方法、ならびに、機械装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H05B6/10 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063002
(22)【出願日】2024-04-09
(62)【分割の表示】P 2024508307の分割
【原出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022197637
(32)【優先日】2022-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テレスコ
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】川上 欽也
(72)【発明者】
【氏名】泉 信二
(72)【発明者】
【氏名】菊池 徳将
(72)【発明者】
【氏名】小山 寛
(57)【要約】
【課題】複数のリング状部材の加熱処理能力を確保しやすく、リング状部材を均一に加熱することが容易な誘導加熱方法および誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】誘導加熱方法は、誘導コイルを用いた加熱対象区間である所定区間にリング状部材(Mr)を供給する工程と、所定区間を通過するようにリング状部材(Mr)を基準軸に沿って移動させる工程とを備える。移動工程は、接触制御部(54)によってリング状部材(Mr)と他の部材との接触を制御することを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイルを用いた加熱対象区間である所定区間にリング状部材を供給する工程と、
前記所定区間を通過するように前記リング状部材を基準軸に沿って移動させる工程であり、接触制御部によって前記リング状部材と他の部材との接触を制御することを含む、前記工程と、
を備える、リング状部材の誘導加熱方法。
【請求項2】
前記接触制御部は、前記リング状部材の移動をガイドする絶縁材製のガイド部材を含む、請求項1に記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項3】
前記接触制御部は、前記所定区間において前記他の部材と接触する前記リング状部材の周方向位置が変化するように構成されている、請求項1又は2に記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項4】
前記接触制御部は、それぞれが前記基準軸に沿って伸長し、かつ、同方向に回転する2本のローラを有し、
前記所定区間において、前記2本のローラ上で前記リング状部材が前記基準軸周りに回転しながら前記基準軸に沿って移動する、請求項1から3のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項5】
前記2本のローラと前記リング状部材との間の接触に基づいて前記リング状部材の推進力が発生する、請求項4に記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項6】
前記接触制御部は、抑え部材をさらに有し、前記2本のローラと前記抑え部材との間に前記リング状部材が配置される、請求項4又は5に記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項7】
前記接触制御部は、前記基準軸に沿って伸長し、かつ、螺旋形状を有する螺旋部材を含み、
前記所定区間において、前記リング状部材が、前記螺旋部材の径方向内側で前記基準軸に沿って移動する、請求項1から6のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項8】
前記接触制御部は、前記基準軸に沿って伸長し、かつ、円筒形状を有する管部材を含み、
前記所定区間において、前記リング状部材が、前記管部材の径方向内側で前記基準軸に沿って移動する、請求項1から7のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項9】
前記接触制御部は、それぞれが前記基準軸に沿って伸長し、かつ、前記基準軸周りの周方向に離隔して配置された複数のガイドロッドを含み、
前記所定区間において、前記リング状部材が、前記複数のガイドロッドで囲まれた領域を前記基準軸に沿って移動する、請求項1から8のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項10】
前記接触制御部は、前記基準軸に沿って伸長するガイドレールを含み、
前記所定区間において、前記リング状部材が、前記ガイドレール上を転がることで前記基準軸に沿って移動する、請求項1から9のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項11】
前記接触制御部は、抑え部材をさらに有し、前記ガイドレールと前記抑え部材のとの間に前記リング状部材が配置される、請求項10に記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項12】
前記接触制御部は、複数のリング状部材を同軸上に保持するカートリッジを含み、
前記所定区間において、前記複数のリング状部材を保持した前記カートリッジが前記基準軸に沿って移動する、請求項1から11のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項13】
前記所定区間の前記基準軸が、水平軸に対して斜めに設定され又は鉛直方向に沿って設定され、
前記所定区間において、重力によって前記リング状部材が上方から下方に移動する、請求項1から12のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項14】
前記所定区間の前記基準軸が、水平軸に対して斜めに設定され又は鉛直方向に沿って設定され、
少なくとも前記所定区間において、複数のリング状部材が連続的に配置され、
前記複数のリング状部材のうち、下端の1つが抜き出されることで、残りの前記リング状部材が下方に移動する、
請求項1から13のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項15】
前記所定区間において、少なくとも一時的に、前記リング状部材が磁気浮遊する、請求項1から14のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項16】
前記リング状部材が、軸受の部品である、請求項1から15のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法。
【請求項17】
誘導コイルと、
前記誘導コイルに電力を供給する電源装置と、
前記誘導コイルを用いた加熱対象区間である所定区間を通過するようにリング状部材を基準軸に沿って移動させる搬送機構であり、前記リング状部材と他の部材との接触を制御する接触制御部を有する、前記搬送機構と、
を備える、
リング状部材の誘導加熱装置。
【請求項18】
リング状部材の製造方法であって、
請求項1から16のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで前記リング状部材に熱処理を施す工程を備える、リング状部材の製造方法。
【請求項19】
リング状部材により構成される部品を備えた軸受の製造方法であって、
請求項16に記載のリング状部材の誘導加熱方法により、前記部品を加熱することで前記部品に熱処理を施す工程を備える、軸受の製造方法。
【請求項20】
リング状部材を備える車両の製造方法であって、
請求項1から16のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで前記リング状部材に熱処理を施す工程を備える、車両の製造方法。
【請求項21】
リング状部材を備える機械装置の製造方法であって、
請求項1から16のいずれかに記載のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで前記リング状部材に熱処理を施す工程を備える、機械装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、たとえば、軸受の部品などのリング状部材を誘導加熱する方法に関する。
本願は、2022年12月12日に出願された特願2022-197637号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、転がり軸受の軌道輪のように、SUJ2などの鋼材からなるリング状部材の製造過程においては、リング状部材に必要とされる機械的強度などを付与するための熱処理、具体的には焼き入れ処理および焼き戻し処理が実施される。焼き入れ処理および焼き戻し処理はいずれも、リング状部材(ワークピース)を目標温度まで加熱する加熱工程と、加熱したリング状部材を冷却する冷却工程とを含む。
【0003】
加熱工程におけるリング状部材の加熱方法として、加熱炉内でリング状部材を加熱する方法と、コイルによりリング状部材を誘導加熱する方法とが知られている。コイルを用いる方法は、リング状部材を直接加熱することができるため、加熱炉を用いる方法に比べて、高エネルギー効率を達成することができる。
【0004】
コイルを用いる方法の具体例として、たとえば、図23、ならびに、図24に示すように、リング状部材Mrを支持部材Msにより支持し、かつ、リング状部材Mrの径方向内側または径方向外側にコイルChを配置した状態で、コイルChに通電することにより、リング状部材Mr内に渦電流を発生させることで、リング状部材Mrを誘導加熱する方法が知られている。図示の例では、リング状部材Mrは、転がり軸受を構成する外輪100であり、内周面に外輪軌道101を有する。ただし、図示の加熱方法は、外輪100に限らず、転がり軸受を構成する内輪などの他のリング状部材を対象として実施することもできる。
【0005】
図23に示した例では、支持部材Msは、リング状部材Mrの軸方向一方側(図23の(a)部における下側、図23の(b)部における下側)に配置される一方側治具102aにより構成される。
【0006】
一方側治具102aは、基台103aと、複数の軸方向抑え部104aと、複数の径方向抑え部105とを備える。
【0007】
基台103aは、リング状部材Mrと同軸に配置される中心軸を有する。
【0008】
複数の軸方向抑え部104aは、基台103aの周方向複数箇所に支持固定されており、それぞれの先端部(図23の(a)部における上端部、および図23の(b)部における上端部)をリング状部材Mrの軸方向一方側の側面に接触させることで、基台103aに対してリング状部材Mrを軸方向に位置決めしている。軸方向抑え部104aの形状は任意に設定することができるが、図示の例では、軸方向抑え部104aの先端側部分の形状を、先端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなるくさび形状としている。これにより、リング状部材Mrの軸方向一方側の側面に対する軸方向抑え部104aの先端部の接触面積を抑えることで、リング状部材Mrの誘導加熱時に生じる、リング状部材Mrから軸方向抑え部104aへの熱移動を抑えられるようにしている。
【0009】
複数の径方向抑え部105は、基台103aの周方向複数箇所に支持固定されている。それぞれの先端部(図23の(a)部における上端部、および図23の(b)部における上端部)をリング状部材Mrの外周面に接触または近接対向させることで、基台103aに対してリング状部材Mrを径方向に位置決めすることにより、リング状部材Mrを基台103aと同軸に配置している。径方向抑え部105の形状は任意であるが、図示の例では、径方向抑え部105の形状を円柱形状としている。これにより、リング状部材Mrの外周面に対する径方向抑え部105の先端部の接触面積を抑えることで、リング状部材Mrの誘導加熱時に生じる、リング状部材Mrから径方向抑え部105への熱移動を抑えられるようにしている。
【0010】
図23に示した例では、コイルChは、円筒状に構成されており、リング状部材Mrの径方向内側に、リング状部材Mrおよび基台103aと同軸に配置される。コイルChは、図示しない支持部材により支持される。図示の例では、コイルChの径方向内側に、磁性材製のコア106が配置される。コア106は、コイルChに固定されるか、あるいは、図示しない別の支持部材により支持される。なお、コア106を省略することもできる。そして、この状態で、コイルChに通電することにより、リング状部材Mrの径方向内側部分に渦電流を発生させ、リング状部材Mrを径方向内側から加熱する。なお、この際に、リング状部材Mrおよび支持部材MsとコイルChとを相対回転させながら、リング状部材Mrの加熱を行うこともできる。
【0011】
図24に示した例では、支持部材Msは、リング状部材Mrの軸方向一方側(図24の(a)部における下側、および図24の(b)部における下側)に配置される一方側治具102bと、リング状部材Mrの軸方向他方側(図24の(a)部における上側、および図24の(b)部における上側)に配置される他方側治具107とにより構成される。
【0012】
一方側治具102bは、一方側治具102a(図23参照)と同様、基台103aと、基台103aの周方向複数箇所に支持固定された複数の軸方向抑え部104aと、基台103aの周方向複数箇所に支持固定された複数の径方向抑え部105とを備える。複数の軸方向抑え部104aの先端部(図24の(a)部における上端部、および図24の(b)部における上端部)をリング状部材Mrの軸方向一方側の側面に接触させることで、基台103aに対してリング状部材Mrを軸方向に位置決めしている。一方側治具102bの複数の径方向抑え部105は、それぞれの先端部(図23の(a)部における上端部、および図23の(b)部における上端部)をリング状部材Mrの内周面に接触または近接対向させることで、基台103aに対してリング状部材Mrを径方向に位置決めすることにより、リング状部材Mrを基台103aと同軸に配置している。
【0013】
他方側治具107は、基台103bと、複数の軸方向抑え部104bとを備える。
【0014】
基台103bは、一方側治具102bの基台103およびリング状部材Mrと同軸に配置される中心軸を有する。
【0015】
複数の軸方向抑え部104bは、基台103bの周方向複数箇所に支持固定されている。それぞれの先端部(図24の(a)部における下端部、および図24の(b)部における下端部)をリング状部材Mrの軸方向他方側の側面に接触させることで、基台103bに対してリング状部材Mrを軸方向に位置決めしている。換言すれば、図24に示した例では、一方側治具102bと他方側治具107との間にリング状部材Mrを軸方向に挟み込むことにより、リング状部材Mrの軸方向の位置決めをしている。軸方向抑え部104bの形状は任意に設定することができるが、図示の例では、軸方向抑え部104bの先端側部分の形状を、先端側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなるくさび形状としている。これにより、リング状部材Mrの軸方向他方側の側面に対する軸方向抑え部104bの先端部の接触面積を抑えることで、リング状部材Mrの誘導加熱時に生じる、リング状部材Mrから軸方向抑え部104bへの熱移動を抑えられるようにしている。
【0016】
図24に示した例では、コイルChは、円筒状に構成されており、リング状部材Mrの径方向外側に、リング状部材Mrおよび基台103a、103bと同軸に配置される。コイルChは、図示しない支持部材により支持される。なお、図24に示した例において、コイルChの径方向外側に、図示しない磁性材製のコアを配置することもできる。コアは、コイルChに固定されるか、あるいは、図示しない別の支持部材により支持される。そして、この状態で、コイルChに通電することにより、リング状部材Mrの径方向外側部分に渦電流を発生させ、リング状部材Mrを径方向外側から加熱する。なお、この際に、リング状部材Mrおよび支持部材MsとコイルChとを相対回転させながら、リング状部材Mrの加熱を行うこともできる。
【0017】
図23、ならびに、図24に示した例では、支持部材Msが、コイルChによって誘導加熱されない絶縁材により構成されている。これにより、リング状部材Mrを効率良く誘導加熱できるようにしている。なお、支持部材Msのうち、基台103a、103bを構成する絶縁材として、たとえばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの合成樹脂材料を用いることができる。また、支持部材Msのうち、軸方向抑え部104a、104bおよび径方向抑え部105を構成する絶縁材として、たとえばセラミックを用いることができる。
【0018】
図23、ならびに、図24に示した加熱方法は、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。たとえば、コイルChによりリング状部材Mrを径方向内側から加熱する際に、一方側治具と他方側治具との間にリング状部材Mrを軸方向に挟み込むことでリング状部材Mrの軸方向の位置決めをすることもできる。また、コイルChによりリング状部材Mrを径方向外側から加熱する際に、一方側治具のみを用いてリング状部材Mrの軸方向の位置決めをすることもできる。また、コイルChによりリング状部材Mrを径方向内側から加熱する工程と、コイルChによりリング状部材Mrを径方向外側から加熱する工程とを、順次行うことで、リング状部材Mrを目標温度まで加熱することもできる。この際に、どちらの工程を先に行うかは、任意に決定することができる。
【0019】
なお、リング状部材の焼き入れ処理および焼き戻し処理の一連の工程において、焼入れ用の加熱および冷却、焼戻し用の加熱および冷却のそれぞれの工程を、1か所で行うことも可能ではあるが、各工程を分割し、前の工程が完了次第、次の工程にリング状部材Mrを受け渡すことにより、当該一連の工程の所要時間を短縮することが行われている。
【0020】
いずれにしても、図23、ならびに図24に示した加熱方法は、複数のリング状部材Mrの加熱処理を1つ1つ順番に行う必要がある。このため、生産性を高めるために、それぞれの図に示される加熱装置を複数用意して、複数のリング状部材Mrの加熱処理を並列的に実行することが行われている。
【0021】
しかしながら、この方法では、複数の加熱装置を設置する必要があるため、加熱設備が大型化しやすいという問題がある。
【0022】
特開2015-67880号公報には、支持部材の上面に積み重ねられた複数のリング状部材を、支持部材とともに上昇させる方法が記載されている。通電状態のコイルの加熱区間である径方向内側の領域を複数のリング状部材が下方から上方に向けて順次通過することにより、複数のリング状部材のそれぞれが順次に誘導加熱される。かかる方法によれば、複数のリング状部材の加熱処理を1台の加熱装置で円滑に行うことができるため、小型の加熱設備で高い生産性を確保することができる。
【0023】
特開2019-61833号公報には、複数のリング状部材を、内接円の直径が拡縮可能な支持部材と供給手段とを用いて、通電状態のコイルの加熱区間である径方向内側の領域を下方から上方に向けて順次通過させることにより、複数のリング状部材のそれぞれを順次誘導加熱する方法が記載されている。
【0024】
かかる方法では、具体的には、支持部材は、周方向3箇所に配置された支持爪からなり、これらの支持爪が径方向に同期して移動することにより、その内接円の直径が拡縮される。供給手段は、昇降を可能とされており、原点位置において、支持部材よりも下方に配置されている。
【0025】
加熱処理を行う際に、原点位置において供給手段の上面に1個のリング状部材が載せられると、供給手段が上昇移動し、これに伴い、支持部材の内接円の直径が拡げられる。供給手段の上面に載せられた1個のリング状部材が支持部材の径方向内側を下方から上方に向けて通過し、コイルの加熱区間に導入される。その後、供給手段が下方に向けて移動し、供給手段が原点復帰する。この際に、供給手段の上面が支持部材の上面と同じ上下位置に存在するタイミングで、支持部材の内接円の直径が縮まり、供給手段の上面に載せられていた1個のリング状部材が、支持部材により下方側から支持される。このようにしてリング状部材がコイルの加熱区間に導入される。以降は、以上の動作が繰り返される。すなわち、リング状部材が下方から上方に向け1個ずつコイルの加熱区間に導入されることにより、支持部材の上面にリング状部材が積み重ねられていく。同時に、コイルの加熱区間に対してリング状部材が下方から上方に向けて間欠送りされる。そして、これらのリング状部材がコイルの加熱区間を順次通過しながら誘導加熱される。かかる方法によっても、複数のリング状部材の加熱処理を1台の加熱装置で円滑に行うことができるため、小型の加熱設備で高い生産性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2015-67880号公報
【特許文献2】特開2019-61833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
特開2015-67880号公報に記載された従来の加熱処理は、支持部材の上面に積み重ねられた複数のリング状部材を1ロットとして、ロット毎に加熱を行うバッチ処理である。バッチ処理での処理能力を高める、すなわち単位時間当たりの処理個数を多くするためには、1ロットを構成するリング状部材の個数を多くする必要がある。しかしながら、この処理方法では、1ロットを構成する複数のリング状部材が支持部材の上面に積み重ねて上昇する。リング状部材の個数を多くすると、リング状部材の姿勢が不安定になって、リング状部材がコイルに接触し、均一な加熱を行えなくなる。このため、1ロットを構成するリング状部材の個数が比較的少なく設定され、処理能力の向上を図ることが難しいという問題がある。
【0028】
特開2019-61833号公報に記載された従来の加熱処理は、不定数のリング状部材をコイルの加熱区間を通過させる連続処理であるため、処理能力を確保しやすい。しかしながら、この処理方法では、コイルの加熱区間に2個目以降のリング状部材を導入する際に、支持部材の上面にリング状部材を載せたまま、支持部材の内接円の直径が拡げられる、すなわち周方向3箇所に配置された支持爪が径方向外側に同期して移動される。このため、移動の際に、支持部材の上面に載せられていたリング状部材の姿勢が不安定になって、リング状部材がコイルに接触し、均一な加熱を行えなくなる可能性がある。
【0029】
本開示は、複数のリング状部材の加熱処理能力を確保しやすく、リング状部材を均一に加熱することが容易な誘導加熱方法および誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法は、誘導コイルを用いた加熱対象区間である所定区間にリング状部材を供給する工程と、前記所定区間を通過するように前記リング状部材を基準軸に沿って移動させる工程であり、接触制御部によって前記リング状部材と他の部材との接触を制御することを含む、前記工程と、を備える。
【0031】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱装置は、誘導コイルと、前記誘導コイルに電力を供給する電源装置と、前記誘導コイルを用いた加熱対象区間である所定区間を通過するようにリング状部材を基準軸に沿って移動させる搬送機構であり、前記リング状部材と他の部材との接触を制御する接触制御部を有する、前記搬送機構と、を備える。
【0032】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法は、複数のリング状部材を通電状態のコイルの加熱区間に供給する工程と、前記加熱区間に供給された前記複数のリング状部材を、接触防止手段により前記コイルとの接触を防止しながら、前記加熱区間を順次通過させる工程とを備える。
【0033】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱装置は、複数のリング状部材を、通電状態のコイルの加熱区間を順次通過させる装置であって、通電可能な前記コイルと、前記複数のリング状部材を通電状態の前記コイルの加熱区間に供給する供給手段と、前記加熱区間に供給された前記複数のリング状部材を、加熱区間を通過させる際に、該リング状部材が前記コイルと接触することを防止するための接触防止手段とを備える。
【0034】
本開示の一態様のリング状部材の製造方法は、金属製のリング状部材の製造方法であって、本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に熱処理を施す工程を備える。
【0035】
本開示の一態様の軸受の製造方法は、リング状部材により構成される部品を備えた軸受の製造方法であって、本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記部品を加熱することで該部品に熱処理を施す工程を備える。
【0036】
本開示の一態様の車両の製造方法は、リング状部材を備える車両の製造方法であって、本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に熱処理を施す工程を備える。
【0037】
本開示の一態様の車両の製造方法は、リング状部材を備える機械装置の製造方法であって、本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法により、前記リング状部材を加熱することで該リング状部材に熱処理を施す工程を備える。
【0038】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法は、複数のリング状部材を搬送する給品工程と、該給品工程で搬送されてきた複数のリング状部材を搬送しながら該リング状部材に焼き入れ処理を施す焼入れ工程と、該焼き入れ処理が完了した複数のリング状部材を搬送しながら該リング状部材に焼き戻し処理を施す焼き戻し工程とを備えるリング状部材の熱処理方法において、前記焼入れ工程および/または前記焼き戻し工程を実施する際に、前記複数のリング状部材を目標温度まで加熱するために実施する。この場合に、前記給品工程から前記焼き戻し工程までの一連の工程において、前記複数のリング状部材を、最初から最後まで同一直線上を軸方向に搬送することができる。
【0039】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱装置は、複数のリング状部材を搬送する給品部と、該給品部から搬送されてきた複数のリング状部材を搬送しながら該リング状部材に焼き入れ処理を施す焼入れ部と、該焼き入れ処理が完了した複数のリング状部材を軸方向に搬送しながら該リング状部材に焼き戻し処理を施す焼き戻し部とを備える熱処理設備において、前記焼入れ部および/または前記焼き戻し部で、前記複数のリング状部材を目標温度まで加熱するために用いる。この場合に、前記給品部から前記焼き戻し部までの一連の箇所において、前記複数のリング状部材が、最初から最後まで同一直線上を軸方向に搬送されるようにすることができる。
【0040】
本開示の方法および構造は、上述したそれぞれの態様を、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0041】
本開示の一態様のリング状部材の誘導加熱方法および誘導加熱装置によれば、リング状部材の加熱処理能力を確保しやすく、しかもリング状部材を均一に加熱することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、外輪および内輪を備える転がり軸受の1例を示す断面図である。
図2図2は、第1実施形態にかかる誘導加熱装置を備えた熱処理設備を示す斜視図である。
図3図3は、第1実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、第1実施形態にかかる誘導加熱装置を模式的に示す第2実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、第3実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す斜視図である。
図6図6は、第4実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す、部分切断斜視図である。
図7図7は、変形例におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す、部分切断斜視図である。
図8図8は、第5実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す斜視図である。
図9図9は、変形例を模式的に示す斜視図である。
図10図10は、第6実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図11図11は、第7実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断斜視図である。
図12図12は、第8実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断斜視図である。
図13図13は、第9実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図14図14は、第10実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図15図15は、第11実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図16図16は、第12実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図17図17は、第13実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図18図18は、変形例におけるリング状部材を誘導加熱する様子を示す、部分切断側面図である。
図19図19は、第14実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す図である。
図20図20は、第15実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す図である。
図21図21は、第16実施形態におけるリング状部材を誘導加熱する様子を模式的に示す図である。
図22図22は、軸受が適用されたモータの概略構成図である。
図23図22は、従来のリング状部材の誘導加熱方法の第1例によりリング状部材を誘導加熱する様子を示す図である。
図24図23は、従来のリング状部材の誘導加熱方法の第2例によりリング状部材を誘導加熱する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[第1実施形態]
本開示の第1実施形態について、図1図3を用いて説明する。
【0044】
本実施形態において、図1に示すような転がり軸受1の外輪2および/または内輪3が、誘導加熱によって、焼き入れ処理および/または焼き戻し処理が施される。外輪2および/または内輪3が、リング状部材Mrに相当する。
【0045】
なお、リング状部材は、転がり軸受1の外輪2および/または内輪3に限定されない。任意の金属製のリング状部材を対象とすることができる。一例において、図1に示した例とは異なる構造の転がり軸受の外輪や内輪、または、単一部品あるいは複数部品からなる滑り軸受が対象とされる。また、車両または機械装置を構成するリング状部材が対象とされる。例えば、対象となる熱処理は、焼き入れ処理および焼き戻し処理のほか、焼き鈍し処理や焼きならし処理などの各種の熱処理が含まれ得る。
【0046】
本実施形態において、転がり軸受1は、単列のアンギュラ玉軸受により構成されており、外輪2と、内輪3と、複数個の転動体4とを備える。
【0047】
外輪2は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属により構成され、内周面にアンギュラ型の外輪軌道5を有する。内輪3は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属により構成され、外周面にアンギュラ型の内輪軌道6を有する。複数個の転動体4は、玉により構成され、外輪軌道5と内輪軌道6との間に転動自在に配置される。それぞれの転動体4は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質金属またはセラミックにより構成される。
【0048】
外輪2を造る際には、まず、金属素材に鍛造加工を施して、外輪2の大まかな形状を成形し、その後、内周面に研削加工を施して、外輪軌道5を形成する。次いで、外輪2に、焼き入れ処理および焼き戻し処理を施す。また、内輪3を造る際には、まず、金属素材に鍛造加工を施して、内輪3の大まかな形状を成形し、その後、外周面に研削加工を施して、内輪軌道6を形成する。次いで、内輪3に、焼き入れ処理および焼き戻し処理を施す。
【0049】
本実施形態では、外輪2及び/又は内輪3に対し、図2に示すような熱処理設備Xを用いてリング状部材Mrの焼き入れ処理および焼き戻し処理が行われる。こうした処理は、リング状部材Mr(ワークピース)を目標温度まで加熱する加熱工程と、加熱したリング状部材Mrを冷却する冷却工程とを含む。例えば、目標温度とは、焼き入れ処理の場合は焼き入れが可能となる温度範囲から適宜選択される温度であり、焼き戻し処理の場合は焼き戻しが可能となる温度範囲から適宜選択される温度である。
【0050】
図2に示す熱処理設備Xは、複数のリング状部材Mrの熱処理方法を実施するための設備であって、給品部S1、焼入れ部S2、及び焼き戻し部S3を備える。給品部S1は、同軸配置された複数のリング状部材Mrを熱処理部に向けて軸方向に搬送する給品工程を実施する。焼入れ部S2は、給品部S1から搬送されてきた複数のリング状部材Mrを軸方向に搬送しながらリング状部材Mrに焼き入れ処理を施す焼入れ工程を実施する。焼き戻し部S3は、焼き入れ処理が完了した複数のリング状部材Mrを軸方向に搬送しながらリング状部材Mrに焼き戻し処理を施す焼き戻し工程を実施する。
【0051】
焼入れ部S2は、複数のリング状部材Mrを目標温度まで誘導加熱する加熱部(加熱区間)S21と、目標温度で所定時間保持された複数のリング状部材Mrを冷却する冷却部S22とを有する。
【0052】
焼き戻し部S3は、焼き入れ処理された複数のリング状部材Mrを目標温度まで誘導加熱する加熱部(加熱区間)S31と、目標温度で所定時間保持された複数のリング状部材Mrを冷却する冷却部S32とを有する。
【0053】
それぞれの冷却部S22、S32での冷却は、たとえば冷却ジャケットから吐出した冷却液をリング状部材Mrにかけることによって行われる。また、冷却部S22での冷却は、必要に応じて、複数のリング状部材Mrの熱処理変形を矯正しながら行うこともできる。この際の矯正方法としては、たとえば、リング状部材Mrを矯正ローラで外径側から加圧しながら軸方向に送る方法や、リング状部材Mrを送りながら矯正金型の内側を通過させる方法などの適宜の方法を採用することができる。また、冷却後に、リング状部材Mrに付着した冷却液をエアブローによって吹き飛ばすこともできる。
【0054】
一例において、熱処理設備Xは、給品部S1から焼き戻し部S3までの一連の複数の処理部に関し、複数のリング状部材Mrが、最初から最後まで同一直線上を軸方向に搬送されるように構成されている。すなわち、本例の熱処理方法では、給品工程から焼き戻し工程までの一連の工程において、複数のリング状部材Mrが、最初から最後まで基準軸60に沿った同一直線上を軸方向に搬送される。
【0055】
熱処理設備は、図2に示した構成に限定されない。他の例において、適宜の構成を有することができる。たとえば、熱処理設備は、給品部、焼入れ部、および焼き戻し部が、互いに同一直線上に配置されていない構成にできる。あるいは、熱処理設備は、焼入れ部と焼き戻し部とが図2に示した構成に比べて遠く離れた場所に配置された構成にできる。例えば、1つの工程ごとに基準軸(搬送軸)60が設定される、あるいは、複数の工程に共通の基準軸(搬送軸)60が設定される。基準軸(搬送軸)60は、湾曲部分又は曲げ部分を含む場合がある。搬送は、軸方向と交差する方向への移動を含む場合がある。
【0056】
本実施形態では、焼入れ部S2の加熱部S21、及び/又は焼き戻し部S3の加熱部S31の少なくとも1つにおいて、図3に示すような誘導加熱装置7が設けられる。
【0057】
誘導加熱装置7は、複数のリング状部材Mrのそれぞれを目標温度まで誘導加熱する。通電状態の誘導加熱コイル(誘導コイル、コイル)8の対向領域(加熱対象区間、加熱区間)を、リング状部材Mrが順次通過することにより、リング状部材Mrのそれぞれが誘導加熱される。
【0058】
なお、コイル8の対向領域(加熱区間)とは、ワークピースがコイル8と対向して、コイル8により誘導加熱される領域をいう。ワークピースとしての複数のリング状部材Mrは、基準軸60に沿って移動して加熱区間を通過する。
【0059】
一例において、加熱区間での複数のリング状部材Mrの移動方向(搬送方向)は、水平方向(図3における矢印αの方向)である。他の例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向にできる。
【0060】
誘導加熱装置7は、図2に示すように、通電可能なコイル8と、コイル8に電力(高周波電流など)を供給する電源部51と、リング状部材を基準軸60に沿って移動させる搬送機構52と、を備える。搬送機構52は、複数のリング状部材Mrを加熱区間に供給する供給部(フィーダー)53を含むことができる。また、搬送機構52は、リング状部材と他の部材との接触を制御する接触制御部54を含む。例えば、他の部材は、コイル8、及び/又はコイル8とリング状部材との間に配置される部材を含む。一例において、接触制御部54は、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する際に、リング状部材Mrがコイル8又は他の部材と接触することを防止するための接触防止手段として機能する。
【0061】
本実施形態では、コイル8は、略円筒状に構成される。一例において、コイル8の軸方向が水平方向である基準軸60に沿って配置された状態で、コイルが支持される。コイル8の内径は、ワークピースであるリング状部材Mrの外径よりも大きい。本実施形態では、加熱区間は、コイル8の径方向内側の領域である。加熱区間は、コイル8に実質的に囲まれた空間領域に相当する。加熱区間の長さは、コイル8の有効長さに対応する。
【0062】
コイル8の内径は、コイル8の径方向内側をリング状部材Mrが軸方向に通過することができ、かつ、接触制御部54(例えば、2本のローラ9および抑え部材10)を配置することができる大きさに設定されている。コイル8には、電源部51(通電用電源)が接続されている。電源部(通電用電源)51によって、コイル8の通電量(電流値など)が制御される。
【0063】
図2に示す例では、焼入れ部S2及び焼き戻し部S3の各々に、1つのコイル8が配置される。他の例において、誘導加熱装置7が備えるコイル8の個数は2以上にできる。例えば、図2において鎖線で囲んだA部に示すように、1つの熱セクションに対して複数(図示の例では2個)のコイルを設置できる。この場合、複数のコイルを1つの電源に並列あるいは直列に接続して、それぞれのコイルの通電量を制御できる。あるいは、複数のコイルを互いに独立した複数の電源にそれぞれ接続して、それぞれのコイルの通電量を独立的に個別に制御できる。
【0064】
コイル8の軸方向長さ、巻き数、内径、通電量などは、コイル8の加熱区間をリング状部材Mrが通過する速度および時間、リング状部材Mrのサイズなどを考慮して、リング状部材Mrを目標温度まで加熱することができるように調整される。
【0065】
搬送機構52は、コイル8を用いた加熱対象区間である所定区間を通過するようにリング状部材Mrを基準軸60に沿って移動させることが可能な任意の構成を有することができる。搬送機構52の供給部53は、複数のリング状部材Mrをコイル8の加熱区間に供給することが可能な、任意の構成を有することができる。一例において、搬送機構52は、複数のリング状部材Mrを軸方向に互いに離隔させた状態で加熱区間に順次供給する構成を有することができる。他の例において、供給部53は、図3に示すように、複数のリング状部材Mrを軸方向に互いに実質的に離隔しない状態で加熱区間に供給する構成を有することができる。一例において、複数のリング状部材Mrが実質的に互いに近接した状態(密接状態)で加熱区間を移動する。他の例において、複数のリング状部材Mrが互いに離れた状態で加熱区間を移動する。一例において、複数のリング状部材Mrが加熱区間に連続的に供給される。他の例において、複数のリング状部材Mrが加熱区間に間欠的に供給される。一例において、加熱区間における、複数のリング状部材の移動速度が略一定である。他の例において、加熱区間における、複数のリング状部材の移動速度が変化する。例えば、複数のリング状部材の各々の移動は、加熱区間内で停止する期間と、加熱区間内を移動する期間とを含むことができる。
【0066】
本実施形態では、接触制御部54は、複数のリング状部材Mrの移動をガイドする絶縁材製のガイド部材を含む。ここで、ガイド部材を絶縁材製としている理由は、コイル8の高周波エネルギーがガイド部材の誘導加熱に費やされないようにして、リング状部材Mrを効率良く誘導加熱できるようにするためである。本例では、ガイド部材は、複数のリング状部材Mrが前記加熱区間を通過する際に、該リング状部材Mrの同一箇所に接触し続けない構造を有する。
【0067】
具体的には、接触制御部54は、ガイド部材として、2本のローラ9を含む。2本のローラ9は、それぞれが基準軸60に沿った方向(通過の方向、図3における矢印αの方向)に伸長している。2本のローラ9の各々は、各軸周りに回転する。2本のローラ9の回転方向は同じに設定される。
【0068】
2本のローラ9は、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する際に、2本のローラ9の上に、それぞれの軸方向を前記通過の方向に一致させた複数のリング状部材Mrを載せた状態で、2本のローラ9を互いに同方向に回転させることにより、リング状部材Mrを自転させながら、リング状部材Mrを、2本のローラ9に対して軸方向に移動させるために用いられる。
【0069】
より具体的には、2本のローラ9は、それぞれがセラミックなどの絶縁材により中実の円柱状に構成されており、かつ、複数のリング状部材Mrの外径よりも小さい間隔で互いに離隔して配置されている。2本のローラ9の伸長方向の中間部は、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域の下部に軸方向に挿通されている。2本のローラ9は、図示しない回転駆動機構により、互いに同方向に同速度で回転駆動可能とされている。回転方向や速度は一例であって、これに限定されない。
【0070】
一例において、2本のローラ9に対して複数のリング状部材Mrを軸方向に移動させるための推進力が、2本のローラ9からそれぞれのリング状部材Mrに作用する接触力に基づいて発生する。このために、2本のローラ9が互いに非平行に配置されている。具体的には2本のローラ9が互いに僅かに(たとえば0.5゜~5.0゜、好ましくは1゜前後)傾斜させて配置されている(平行状態に対する傾斜角)。2本のローラ9の回転時に、それぞれのリング状部材Mrに2本のローラ9に対するスキューが生じる。2本のローラ9からそれぞれのリング状部材Mrに対し、図3の矢印αの方向の成分を持った接触力(摩擦力)が生じ、その接触力によって推進力が発生している。すなわち、本例では、それぞれのローラ9が、フィードローラとして機能する。上記数値は一例であり、上記数値に限定されない。
【0071】
追加的及び/又は代替的に、2本のローラ9のうちの少なくともいずれか一方のローラの外周面に螺旋溝を有する構成を採用することができる。この場合には、2本のローラ9の回転時に、螺旋溝とリング状部材Mrとの接触部に、図3の矢印αの方向の成分を持った接触力(係合力)が作用し、その接触力によって推進力が発生する。
【0072】
他の例において、熱処理工程の上流側に配置された図示しないワーク送り装置など、別の駆動装置によって推進力を発生させることができる。
【0073】
本実施形態では、2本のローラ9の一部が供給部53として機能する。2本のローラ9における、コイル8よりも熱処理工程の上流側(図3における左側)に位置する部分が、供給部53の構成の一部となる。熱処理工程の上流側から、2本のローラ9のうちコイル8よりも熱処理工程の上流側(図3における左側)に位置する部分の上に、複数のリング状部材Mrが順次軸方向に送り込まれる。そして、2本のローラ9からそれぞれのリング状部材Mrに作用する推進力により、リング状部材Mrが軸方向に移動し、加熱区間に供給される。すなわち、2本のローラ9は、ガイド部材としての役割だけでなく、供給手段としての役割も果たす。
【0074】
本実施形態では、接触制御部54は、ガイド部材として、抑え部材10を含む。抑え部材10は、2本のローラ9の上に載せられた複数のリング状部材Mrに対して上方から近接対向する。2本のローラ9と抑え部材10との間にリング状部材Mrが配置される。
【0075】
一例において、抑え部材10は、2本のローラ9が存在する軸方向範囲において、基準軸60(通過の方向(図3における矢印αの方向))に沿って伸長する棒形状を有する。抑え部材10の伸長方向の中間部は、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域の上部に軸方向に挿通されている。
【0076】
本実施形態では、誘導加熱装置7により、複数のリング状部材Mrが誘導加熱される。まず、2本のローラ9を互いに同方向に同速度で回転させた状態で、熱処理工程の上流側から、2本のローラ9のうちコイル8よりも熱処理工程の上流側(図3における左側)に位置する部分の上に、複数のリング状部材Mrが軸方向に連続して送り込まれて搭載される。そして、リング状部材Mrのそれぞれが、2本のローラ9の回転に伴って自転しながら、推進力により2本のローラ9に対して基準軸(軸方向)60に沿って移動される。これにより、リング状部材Mrのそれぞれが、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域に軸方向に送り込まれ、さらに加熱区間を軸方向に通過する。加熱区間において、複数のリング状部材Mrの中心軸は、基準軸60に沿うように配置される。加熱区間において、リング状部材Mrは、リング状部材Mrの中心軸に沿うように移動する。加熱区間において、リング状部材Mrの外周面がコイル8と対向して配置される。加熱区間の通過の過程で、それぞれのリング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度まで加熱される。一例において、隣り合うリング状部材Mrの間に間隔を実質的にあけずに、それぞれのリング状部材Mrが2本のローラ9の上で軸方向に移動する。他の例において、隣り合うリング状部材Mrの間に所定の間隔をあけて、それぞれのリング状部材Mrが2本のローラ9の上で軸方向に移動する。
【0077】
複数のリング状部材Mrが2本のローラ9の上を軸方向に移動する際に発生する振動などにより、リング状部材Mrが2本のローラ9に対して浮き上がる傾向となった場合には、リング状部材Mrが抑え部材10の下面に接触することにより、それ以上大きく浮き上がることが防止される。すなわち、複数のリング状部材Mrが2本のローラ9の上から脱落することが防止される。
【0078】
本実施形態では、不定数のリング状部材Mrをコイル8の加熱区間を順次通過させる処理、すなわち連続処理を行うことにより、複数のリング状部材Mrに対する高い加熱処理能力が確保される。
【0079】
本実施形態では、加熱空間において、複数のリング状部材Mrが、2本のローラ9および抑え部材10によりコイル8との接触が防止される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0080】
本実施形態では、リング状部材Mrの誘導加熱において、リング状部材Mrが2本のローラ9によって自転しながら軸方向に移動する。2本のローラ9上でリング状部材Mrが基準軸60周りに回転しながら基準軸60に沿って移動する。このため、2本のローラ9がリング状部材Mrの同一箇所(周方向の同一箇所)に接触し続けることなく、リング状部材Mrが軸方向に移動する。具体的には、リング状部材Mrにおいて、2本のローラ9との接触点が連続的に変化しながら、リング状部材Mrが軸方向に移動する。加熱区間において、ローラ9と接触するリング状部材Mrの周方向位置が変化する。したがって、リング状部材Mrから2本のローラ9への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止される。
【0081】
本実施形態では、リング状部材Mrと抑え部材10との接触は、加熱区間において、継続的に起こるわけではなく、起こるとしても、単発的にしか起こらない。また、リング状部材Mrは自転しているため、抑え部材10がリング状部材Mrの同一箇所に接触し続けることもない。抑え部材10がリング状部材Mrの同一箇所(周方向の同一箇所)に接触し続けることなく、リング状部材Mrが軸方向に移動する。したがって、リング状部材Mrから抑え部材10への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止される。
【0082】
したがって、本実施形態では、リング状部材Mrにおいて他の部材との接触に伴う不均一な加熱分布が抑制される。例えば、他の部材との接触によってリング状部材Mrの特定の箇所の温度が部分的に低下して、リング状部材Mrにおける特定の箇所の特性が部分的に変化する(例えば、硬さが低くなるなど)といった不都合が防止される。つまり、本実施形態では、リング状部材Mrをより均一に加熱することができる。
【0083】
なお、本実施形態の変形例において、2本のローラは、内部に通路を有する中空構造にできる。この場合、リング状部材の誘導加熱において、通路に冷却液を通すことで、2本のローラを冷却することができる。
【0084】
本実施形態の別の変形例において、抑え部材10を省略することができる。あるいは、ガイド部材として、抑え部材10の代わりに、2本のローラ9および複数のリング状部材Mrの周囲を取り囲む、螺旋形状を有する螺旋部材、または、円筒形状を有する管部材(石英ガラス、セラミックス、非磁性SUS製など)などを含む構成を採用することができる。
【0085】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態について、図4を用いて説明する。
【0086】
本実施形態では、図4に示すように、コイル8aの形状が第1実施形態と異なる。すなわち、図4に示すように、コイル8aは、複数のリング状部材Mrの外周面のうち、周方向の一部分(図示の例では上側部分)のみと対向する鞍形状あるいは部分円筒形状を有する。本実施形態では、誘導加熱装置7aの組み立てが比較的容易に実行される。
【0087】
本実施形態では、コイル8aは、複数のリング状部材Mrの外周面のうち、周方向の一部分のみとしか対向していない。リング状部材Mrの外周面の一部が、周方向におけるコイル8aの開口領域(非コイル領域)に対向する。加熱区間において、コイル8aの開口領域に対応する、周方向の一部領域が部分的な低加熱領域となる。一方、複数のリング状部材Mrは中心軸周りに回転しながら、中心軸に沿ってコイル8aの加熱区間を通過する。そのため、低加熱領域の影響が実質的に回避される。リング状部材Mrの全周にわたり、コイル8aによってリング状部材Mrが誘導加熱される。本実施形態ついてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0088】
[第3実施形態]
本開示の第3実施形態について、図5を用いて説明する。
【0089】
本実施形態では、コイル8bの形状が第1実施形態と異なる。すなわち、本実施形態では、コイル8bは、複数のリング状部材Mrの軸方向に伸長するバーコイル(板状コイル)により構成されている。コイル8bは、複数のリング状部材Mrの外周面と対向する位置において、周方向の少なくとも1箇所(図示の例では、上側の2箇所)に配置されている。本実施形態では、誘導加熱装置7bの組み立てが比較的容易に実行される。
【0090】
本実施形態では、コイル8bは、複数のリング状部材Mrの外周面のうち、周方向の一部分のみとしか対向していない。リング状部材Mrの外周面の一部が、周方向におけるコイル8bの非配置領域(非コイル領域)に対向する。加熱区間において、コイル8bの非配置領域に対応する、周方向の一部領域が部分的な低加熱領域となる。一方、複数のリング状部材Mrは中心軸周りに回転しながら、中心軸に沿ってコイル8bの加熱区間を通過する。そのため、低加熱領域の影響が実質的に回避される。リング状部材Mrの全周にわたり、コイル8bによってリング状部材Mrが誘導加熱される。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0091】
[第4実施形態]
本開示の第4実施形態について、図6を用いて説明する。
【0092】
一例において、第1実施形態と同様に、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する方向は、基準軸に沿った水平方向(図6における矢印αの方向)である。このため、円筒状のコイル8は、その軸方向を水平方向に一致させた姿勢で保持されている。他の例において、後述するように、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向にできる。
【0093】
本実施形態では、接触制御部54は、螺旋部材11を含む。誘導加熱装置7cにおいて、接触制御部54は、ガイド部材としての螺旋部材11を含む。螺旋部材11は、複数のリング状部材Mrが加熱区間である径方向内側の領域を通過する方向に伸長し、かつ、螺旋形状を有する。螺旋部材11は、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する際に、複数のリング状部材Mrを、螺旋部材11の径方向内側で軸方向に案内するために用いられる。
【0094】
具体的には、螺旋部材11は、セラミックなどの絶縁材により構成されている。一例において、螺旋部材11は、1本の線材を螺旋状に巻いた如き螺旋形状、あるいは、複数本の線材を並行させて螺旋状に巻いた如き螺旋形状を有する。螺旋部材11を構成する線材の本数である条数、線材の軸方向ピッチ、および螺旋部材11の内径などの仕様は、任意に設定することができる。例えば、螺旋部材11の仕様は、軸方向に隣り合う線材の間からリング状部材Mrが脱落することを防止でき、かつ、螺旋部材11の内周面により複数のリング状部材Mrの軸方向移動を円滑に案内することができるように設定される。例えば、螺旋部材11の条数は3条である。螺旋部材11の径方向内側でリング状部材Mrがいかなる軸方向位置に存在する場合でも、リング状部材の周囲の円周方向等間隔となる3箇所に線材が存在する。
【0095】
本実施形態では、螺旋部材11は、コイル8の径方向内側に同軸に配置されている。
【0096】
本実施形態では、加熱区間におけるリング状部材Mrの移動は、リング状部材Mrを加熱区間に供給する供給部に基づく。一例において、供給部は、熱処理工程の上流側に配置される送り装置(ワークピース送り装置)により構成される。一例において、送り装置は、複数のリング状部材Mrを軸方向に離隔させることなく供給する。例えば、複数のリング状部材Mrを連続的に押圧することにより、リング状部材Mrの推進力を発生させる。他の例において、送り装置は、複数のリング状部材Mrを互いに離間した状態で供給する。送り装置として、たとえば図2の給品部S1と同じ装置や、複数のリング状部材をベルトで挟んで送る方式の装置などを採用することができる。
【0097】
誘導加熱装置7cによる誘導加熱に際し、供給部によって、複数のリング状部材Mrが加熱区間に送り込まれる。供給部は、複数のリング状部材Mrの中心軸(軸方向)が基準軸(通過の方向、矢印αの方向)に沿った状態で、螺旋部材11の径方向内側に、複数のリング状部材Mrを順次送り込む。リング状部材Mrは、螺旋部材11の径方向内側で軸方向に移動し、コイル8の加熱区間を通過する。加熱区間において、リング状部材Mrの外周面がコイル8と対向して配置される。そして、加熱区間において、それぞれのリング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度になるように加熱される。
【0098】
本実施形態では、加熱区間において、螺旋部材11により複数のリング状部材Mrがコイル8と接触するのが防止される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0099】
本実施形態では、リング状部材Mrの誘導加熱において、リング状部材Mrが、螺旋形状を有する螺旋部材11の内周面により案内されて軸方向に移動する。このため、リング状部材Mrにおいて、螺旋部材11との接触点が連続的に変化する。加熱区間において、螺旋部材11と接触するリング状部材Mrの周方向位置が変化する。したがって、リング状部材Mrから螺旋部材11への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止され、不均一な加熱分布が抑制される。例えば、螺旋部材11などの他の部材との接触によって、リング状部材Mrの特定の箇所の温度が部分的に低下して、リング状部材Mrにおける特定の箇所の特性が部分的に変化する(例えば、硬さが低くなるなど)といった不都合が防止される。つまり、本実施形態においても、リング状部材Mrをより均一に加熱することができる。
【0100】
本実施形態では、リング状部材Mrを自転させる機構を用いることなく、リング状部材Mrを均一に加熱することができる。このため、誘導加熱装置の構造を簡素化することができる。
【0101】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される螺旋部材11の径方向厚さが比較的小さく設定される。本実施形態では、第1実施形態の構造に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さくできる。これは、複数のリング状部材Mrの誘導加熱効率の確保に有利である。
【0102】
なお、本実施形態では、図6に示すように、螺旋部材11を構成する線材の軸方向ピッチが、リング状部材Mrの軸方向幅よりも大きく設定されている。本実施形態の変形例において、図7に示すように、線材の軸方向ピッチを、リング状部材Mrの軸方向幅よりも小さくすることができる。この場合、軸方向に隣り合う線材の間からリング状部材Mrが脱落することがより確実に防止される。ここで、線材の軸方向ピッチを小さくするほど線材の使用量が増えて材料費が嵩む。このため、線材の軸方向ピッチは、材料費を抑える観点からは、軸方向に隣り合う線材の間からリング状部材Mrが脱落することを有効に防止できる範囲で、できるだけ大きくすることが好ましい。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0103】
代替的に、本実施形態において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向にできる。すなわち、螺旋部材の径方向内側を通じて複数のリング状部材を軸方向に移動させる態様は、通過の方向、すなわち、コイルおよび螺旋部材の軸方向を、水平方向に対して傾斜した方向または鉛直方向とする場合にも適用可能である。複数のリング状部材を上方から下方に向けて移動させる場合には、複数のリング状部材を移動させるための推進力として重力を利用することができる。螺旋部材の径方向内側を通じて複数のリング状部材を軸方向に移動させる態様は、特開2015-67880号公報および特開2019-61833号公報に記載された従来の誘導加熱方法および誘導加熱装置に適用することもできる。
【0104】
[第5実施形態]
本開示の第5実施形態について、図8を用いて説明する。
【0105】
本実施形態では、加熱区間において、基準軸60が水平方向に対して傾斜して設定されている。複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する方向は、水平方向に対して傾斜し、かつ、上方から下方に向かう方向(基準軸60に沿った方向、図8における矢印αの方向)である。円筒状のコイル8は、その軸方向を基準軸60に沿った方向(通過の方向(矢印αの方向))に一致させた姿勢で保持されている。なお、図8、および、変形例を示す図9では、コイル8を、二点鎖線で模式的に示している。
【0106】
本実施形態では、接触制御部54は、ガイドレール12を含む。誘導加熱装置7dにおいて、接触制御部54は、ガイド部材として、基準軸60(通過の方向)に沿って伸長するガイドレール12を含む。ガイドレール12は、複数のリング状部材Mrの外周面を支持するように配置され、加熱区間における複数のリング状部材Mrの移動を案内する。加熱区間において、複数のリング状部材Mrが、ガイドレール12の上で転がりながら移動する。
【0107】
本例では、ガイドレール12は、セラミックなどの絶縁材により構成されており、基準軸60(通過の方向(矢印αの方向))に沿って伸長している。一例において、ガイドレール12は、1つの底壁と2つの側壁とで構成されるガイド溝13を有する。ガイド溝13は、基準軸60(通過の方向(矢印αの方向))に沿って伸長し、かつ、ガイドレール12の上方に開口している。ガイドレール12の伸長方向の中間部は、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域の下部に軸方向に挿通されている。
【0108】
本実施形態では、接触制御部54は、ガイド部材として、抑え部材10aを含む。抑え部材10aは、ガイドレール12の上、より具体的にはガイド溝13の底面の上で転がる複数のリング状部材Mrに対して上方から近接対向して配置される。ガイドレール12と抑え部材10aとの間にリング状部材Mrが配置される。
【0109】
一例において、抑え部材10aは、ガイドレール12が存在する軸方向範囲において、基準軸60(通過の方向(矢印αの方向))に沿って伸長する棒形状を有する。他の例において、抑え部材10aは、様々な形状を有することができる。抑え部材10aの伸長方向の中間部は、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域の上部に軸方向に挿通されている。
【0110】
誘導加熱装置7dによる誘導加熱に際し、供給部によって、複数のリング状部材Mrがガイドレール12の上に順次供給される。供給部は、複数のリング状部材Mrの中心軸(軸方向)が基準軸(通過の方向、矢印αの方向)と交差する(略直交する)状態で、複数のリング状部材Mrを加熱区間に順次送り込む。一例において、それぞれのリング状部材Mrの下側部分がガイド溝13に係合される。加熱区間において、リング状部材Mrの側面がコイル8と対向して配置される。リング状部材Mrが、重力の作用等によりガイド溝13に沿って基準軸60(通過の方向(矢印αの方向))に転がりながら移動し、コイル8の加熱区間を通過する。加熱区間において、それぞれのリング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度になるように加熱される。一例において、リング状部材Mrがガイド溝13に沿って転がる際、リング状部材Mrの軸方向は、水平方向である。他の例において、リング状部材Mrの軸方向は、水平方向に対して若干傾斜した方向とすることができる。
【0111】
複数のリング状部材Mrがガイド溝13に沿って転がる際に発生する振動などにより、リング状部材Mrがガイド溝13の底面に対して浮き上がる傾向となった場合には、リング状部材Mrが抑え部材10aの下面に接触することにより、それ以上大きく浮き上がることを防止される。すなわち、複数のリング状部材Mrがガイド溝13から脱落することが防止される。
【0112】
本実施形態では、加熱空間において、複数のリング状部材Mrが、ガイドレール12および抑え部材10aによりコイル8と接触することが防止される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0113】
本実施形態では、リング状部材Mrの誘導加熱において、リング状部材Mrがガイドレール12上で転がりながら移動する。ガイドレール12上を転がる際、リング状部材Mrの外周面の一部(下面)が、ガイド溝13の底面に接触する。リング状部材Mrとガイドレール12との接触点が連続的に変化する。加熱区間において、ガイドレール12と接触するリング状部材Mrの周方向位置が変化する。したがって、リング状部材Mrからガイドレール12への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止される。
【0114】
本実施形態では、リング状部材Mrと抑え部材10aとの接触は、加熱区間において、継続的に起こるわけではなく、起こるとしても、単発的にしか起こらない。また、リング状部材Mrは転がっているため、抑え部材10aがリング状部材Mrの同一箇所に接触し続けることもない。抑え部材10aがリング状部材Mrの同一箇所(周方向の同一箇所)に接触し続けることなく、リング状部材Mrが軸方向に移動する。したがって、リング状部材Mrから抑え部材10aへの熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止される。
【0115】
したがって、本実施形態では、リング状部材Mrにおいて他の部材との接触に伴う不均一な加熱分布が抑制される。例えば、他の部材との接触によってリング状部材Mrの特定の箇所の温度が部分的に低下して、リング状部材Mrにおける特定の箇所の特性が部分的に変化する(例えば、硬さが低くなるなど)といった不都合が防止される。つまり、本実施形態では、リング状部材Mrをより均一に加熱することができる。
【0116】
なお、本実施形態の変形例において、抑え部材10aを省略することができる。あるいは、ガイド部材として、抑え部材10aの代わりに、ガイドレール12および複数のリング状部材Mrの周囲を取り囲む、螺旋形状を有する螺旋部材、または、円筒形状を有する管部材(石英ガラス、セラミックス、非磁性SUS製など)などを含む構成を採用することもできる。
【0117】
本実施形態では、重力の作用により複数のリング状部材Mrが移動するため、複数のリング状部材Mrを移動させるための電気的な駆動機構や動力が不要である。したがって、誘導加熱装置の構造を簡素化すること、および、運転コストを抑えることができる。
【0118】
本実施形態では、一例において、図8に示すように、隣り合うリング状部材Mrの間に所定の間隔をあけて、それぞれのリング状部材Mrがガイド溝13に沿って移動する。他の例において、図9に示すように、隣り合うリング状部材Mrの間に間隔を実質的にあけずに、すなわち隣り合うリング状部材Mrの周面が互いに接した又は近接した状態で、それぞれのリング状部材Mrがガイド溝13に沿って移動する。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0119】
[第6実施形態]
本開示の第6実施形態について、図10を用いて説明する。
【0120】
一例において、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する方向は、基準軸60に沿った水平方向(図10における矢印αの方向)である。このため、円筒状のコイル8は、その軸方向を水平方向(矢印αの方向)に一致させた姿勢で保持されている。他の例において、後述するように、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向にできる。
【0121】
本実施形態では、接触制御部54は、カートリッジ14を含む。誘導加熱装置7eにおいて、接触制御部54は、ガイド部材として、同軸に並んだ複数のリング状部材Mrを保持固定するカートリッジ14を含む。
【0122】
一例において、カートリッジ14は、セラミックなどの絶縁材により構成されている。カートリッジ14は、軸部15と、それぞれが軸部15の軸方向両側部に対して着脱可能に取り付けられる、軸部15よりも大径の1対の保持リング16とを備える。なお、1対の保持リング16の一方を、軸部15に固定しておいてもよい。カートリッジ14において、複数のリング状部材Mrのそれぞれが軸部15に外嵌される。軸部15を介して同軸に並んだ複数のリング状部材Mrが、1対の保持リング16により軸方向両側から挟持されることにより、複数のリング状部材Mrがカートリッジ14に保持固定される。
【0123】
本実施形態では、誘導加熱装置7eにおいて、搬送機構52によってカートリッジ14が搬送される。搬送機構52は、少なくとも複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する際に、複数のリング状部材Mrを保持したカートリッジ14を、リング状部材Mrの軸方向(基準軸60に沿った方向)に搬送する。搬送機構52は、カートリッジ14の送り速度を制御可能である。一例において、搬送機構52は、複数のリング状部材Mrを通電状態のコイル8の加熱区間に供給する供給手段(供給部)としての役割も有する。
【0124】
誘導加熱装置7eによる誘導加熱に際し、予め、同軸に重ねられた複数のリング状部材Mrがカートリッジ14に保持固定される。そして、カートリッジ14が、搬送機構52に設置される。搬送機構52は、カートリッジ14の軸方向両側の端部を支持する構成を有していてもよいし、カートリッジ14のいずれか一方の軸方向端部のみを支持する構成を有していてもよい。搬送機構52は、カートリッジ14を、カートリッジ14に保持固定された複数のリング状部材Mrの軸方向に移動させる。これにより、図10に示すように、カートリッジ14に保持固定された複数のリング状部材Mrが、加熱区間であるコイル8の径方向内側の領域に軸方向に供給され、かつ、加熱区間を軸方向に通過する。この通過の過程で、それぞれのリング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度になるように加熱される。
【0125】
一例において、加熱区間において、カートリッジ14が軸周りで回転しながら移動することができる。また、加熱空間において、複数のカートリッジ14が連続的に通過してもよく、間欠的に通過してもよい。
【0126】
本実施形態では、加熱空間において、複数のリング状部材Mrがカートリッジ14とともに移動する。複数のリング状部材Mrは、カートリッジ14に保持されており、その動きが制限される。そのため、複数のリング状部材Mrがコイル8と接触するのが防止される。このため、複数のリング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0127】
本実施形態では、誘導加熱される複数のリング状部材Mrは、カートリッジ14に保持固定された状態で軸方向に移動する。このため、特開2015-67880号公報に記載された従来例と異なり、1つのカートリッジ14に保持固定されるリング状部材Mrの個数を多くしても、誘導加熱を行う際に、リング状部材Mrの姿勢が不安定になること、すなわちリング状部材Mrがコイル8に接触して均一な加熱を行えなくなることが防止される。つまり、本実施形態では、1つのカートリッジ14に保持固定されるリング状部材Mrの個数を多くしても、均一な加熱を行うことができる。これは、リング状部材Mrの加熱処理能力の確保に有利である。
【0128】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化される。そのため、第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さくすることができる。これは、加熱効率の確保に有利である。
【0129】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrの誘導加熱が同時に実行されるため、リング状部材Mrの1個当たりの処理時間の短縮化に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0130】
代替的に、本実施形態において、加熱区間でのカートリッジ14(リング状部材Mr)の移動方向(搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向にできる。また、本実施形態の変形例において、ガイド部材として、コイルの径方向内側に配置された、螺旋形状を有する螺旋部材、または、円筒形状を有する管部材(石英ガラス、セラミックス、非磁性SUS製など)などを含む構成を採用することもできる。例えば、誘導加熱を行う際に、カートリッジに保持固定された複数のリング状部材Mrを、螺旋部材やガラス管などの径方向内側の空間を通じて軸方向に移動させることができる。
【0131】
[第7実施形態]
本開示の第7実施形態について、図11を用いて説明する。
【0132】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する方向は、基準軸60に沿った鉛直方向の上方から下方に向かう方向(図11における矢印αの方向)である。このため、円筒状のコイル8は、その軸方向を鉛直方向(矢印αの方向)に一致させた姿勢で保持されている。コイル8の内径は、ワークピースであるリング状部材Mrの外径よりも大きい。
【0133】
本実施形態では、供給部は、複数のリング状部材Mrを、コイル8の径方向内側の領域に、加熱区間の入口であるコイル8の上方位置から供給する。
【0134】
本実施形態では、接触制御部54は、複数のリング状部材Mrに作用する重力を含むことができる。また、接触制御部54は、加熱区間の入り口において、リング状部材Mrの位置(加熱空間に対する径方向位置など)を位置決めする機構を含むことができる。
【0135】
本実施形態では、誘導加熱装置7fにおいて、重力によって、複数のリング状部材Mrが鉛直方向に移動する。複数のリング状部材Mrの誘導加熱に際し、供給部によって、複数のリング状部材Mrが加熱区間の入り口に供給される。コイル8と同軸に配置された複数のリング状部材Mrが、コイル8の加熱区間の上方から順次自由落下する。重力の作用により、複数のリング状部材Mrが加熱区間を上方から下方に向けて移動し、コイル8の加熱空間を通過する。加熱空間において、それぞれのリング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度になるように加熱される。一例において、それぞれのリング状部材Mrが目標温度まで加熱されるように、リング状部材Mrのサイズに応じて、コイル8への通電量や、コイル8の軸方向長さなどが、適切に設定される。
【0136】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrが重力により自由落下しながら加熱区間を通過し、複数のリング状部材Mrがコイル8に接触することが回避される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0137】
本実施形態では、リング状部材Mrを自転させる機構を用いることなく、リング状部材Mrを均一に加熱することができる。このため、誘導加熱装置の構造を簡素化することができる。
【0138】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化される。そのため、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さくすることができる。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。
【0139】
本例では、重力の作用により複数のリング状部材Mrを移動させることができるため、複数のリング状部材Mrを移動させるための駆動機構や動力が不要である。したがって、誘導加熱装置の構造を簡素化すること、および、運転コストを抑えることができる。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0140】
[第8実施形態]
本開示の第8実施形態について、図12を用いて説明する。
【0141】
本実施形態では、誘導加熱装置7gにおいて、第7実施形態の構成に、ガイドロッド17が追加されている。接触制御部54は、ガイド部材として、複数(本例では3本)のガイドロッド17を含む。一例において、複数のガイドロッド17は、それぞれがセラミックなどの絶縁材により構成されている。複数のガイドロッド17は、それぞれが鉛直方向に伸長し、かつ、鉛直方向に伸長する仮想円筒上に周方向に離隔して配置されている。複数のガイドロッド17は、コイル8の径方向内側の領域を鉛直方向に挿通されている。
【0142】
複数のガイドロッド17は、複数のリング状部材Mrがコイル8の加熱区間を通過する際に、複数のガイドロッド17の内側で、リング状部材Mrの軸方向の移動をガイドするために用いられる。すなわち、複数のガイドロッド17は、自由落下するリング状部材Mrの調心を行い、かつ、リング状部材Mrとコイル8との接触を防止するための部材である。複数のガイドロッド17の内接円径は、リング状部材Mrの外径よりも少しだけ大きい。
【0143】
本実施形態では、リング状部材Mrが自由落下する際に、複数のガイドロッド17の内側で鉛直方向と交差する方向や周方向に動くことが許容されている。リング状部材Mrの外周面は、複数のガイドロッド17のそれぞれに対して、同一箇所で接触し続けることが防止される。このため、複数のリング状部材Mrを均一に加熱することが容易となる。
【0144】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される複数のガイドロッド17の径方向厚さを小さく設定できる。第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離が短縮される。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第7実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0145】
本実施形態の変形例において、ガイド部材として、複数のガイドロッドの代わりに、螺旋形状を有する螺旋部材、または、円筒形状を有する管部材(石英ガラス、セラミックス、非磁性SUS製など)などを含む構成を採用することもできる。
【0146】
[第9実施形態]
本開示の第9実施形態について、図13を用いて説明する。
【0147】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過する方向は、基準軸に沿った鉛直方向の上方から下方に向かう方向(図13における矢印αの方向)である。このため、円筒状のコイル8は、その軸方向を鉛直方向(矢印αの方向)に一致させた姿勢で保持されている。コイル8の内径は、ワークピースであるリング状部材Mrの外径よりも大きい。
【0148】
本実施形態では、誘導加熱装置7hは、支持台18を備える。一例において、支持台18は、水平面により構成された上面19を有する。コイル8の下端部は、支持台18の上面19から上方に離隔した位置に配置される。
【0149】
本実施形態では、接触防止手段は、複数のリング状部材Mrに作用する重力を含むことができる。また、接触制御部は、加熱区間の入り口において、リング状部材Mrの位置(加熱空間に対する径方向位置など)を位置決めする機構を含むことができる。
【0150】
本実施形態では、誘導加熱装置7hは、支持台18上のリング状部材Mrを搬送する第2搬送機構55を備えることができる。一例において、第2搬送機構55は、支持台18上に配置されたリング状部材Mrから1つのリング状部材Mrを抜き出す抜き出し機構56を含むことができる。一例において、抜き出し機構56は、1つのリング状部材Mrの側面に衝突される打ち出し部材を有することができる。他の例において、抜き出し機構56は、他の構成を有することができる。
【0151】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrの誘導加熱に際し、図13に示すように、支持台18の上面19に鉛直方向に複数のリング状部材Mrが同軸に積み重ねられる。複数のリング状部材Mrのうち、鉛直方向の中間部に位置する一部のリング状部材Mrは、加熱区間であるコイル8の径方向内側の領域に配置される。
【0152】
次に、支持台18の上面19に積み重ねられた複数のリング状部材Mrのうち、下端部に位置する1つのリング状部材Mrが、抜き出し機構56により、抜き出されて水平方向に移動される。支持台18上の複数のリング状部材Mrのうち、下端の1つが抜き出されることで、残りのリング状部材Mrが下方に移動する、このように、支持台18上でリング状部材Mrが順次水平方向に抜き出されるように排出されることで、積み重ねられたリング状部材Mrが重力により順次下方に移動する。また、支持台18上でリング状部材Mrが抜き出される度に、積み重ねられたリング状部材Mrの上に、新たなリング状部材Mrが積み重ねられる。これにより、加熱区間にリング状部材Mrが順次供給されるとともに、加熱区間からリング状部材Mrが順次排出される。複数のリング状部材Mrが加熱区間を上方から下方に向けて移動し、コイル8の加熱空間を通過する。加熱空間において、リング状部材Mrに渦電流が発生し、リング状部材Mrが目標温度になるように加熱される。
【0153】
本実施形態では、支持台18の上面19に積み重ねられた複数のリング状部材Mrが、重力の作用を利用して、順次下方に移動される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0154】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化される。そのため、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さくすることができる。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0155】
[第10実施形態]
本開示の第10実施形態について、図14を用いて説明する。
【0156】
本実施形態では、誘導加熱装置7iにおいて、第9実施形態の構成に、ガラス管20が追加されている。接触制御部54は、ガイド部材として、ガラス管20を含む。一例において、ガラス管20は、耐熱性に優れた絶縁材である石英ガラス製であり、円筒形状を有する。ガラス管20は、コイル8の径方向内側の領域を鉛直方向に挿通されている。なお、石英ガラスのガラス管に代えて、セラミックス、非磁性SUSなどで構成される菅部材を用いることもできる。
【0157】
ガラス管20は、複数のリング状部材Mrがコイル8の加熱区間を通過する際に、ガラス管20の径方向内側で、複数のリング状部材Mrの軸方向の移動をガイドするために用いられる。すなわち、ガラス管20は、鉛直方向に積み重ねられた複数のリング状部材Mrの調心を行い、かつ、リング状部材Mrとコイル8との接触を防止するための部材である。ガラス管20の内径は、リング状部材Mrの外径よりも少しだけ大きい。ガラス管20の下端面は、支持台18の上面19から上方に離隔した位置に配置されている。ガラス管20の下端面と支持台18の上面19との間隔は、リング状部材Mrの軸方向幅寸法よりも少しだけ大きく設定される。
【0158】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrとコイル8との間に、ガイド部材としてのガラス管20が配置される。加熱空間において、ガラス管20の内側で鉛直方向と交差する方向や周方向に微動することが許容されている。リング状部材Mrの外周面は、ガラス管20の内周面に対して、同一箇所で接触し続けることが防止される。このため、複数のリング状部材Mrを均一に加熱することが容易となる。
【0159】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置されるガラス管20の径方向厚さを小さく設定できる。第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離が小さくされる。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第9実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0160】
本実施形態の変形例において、ガイド部材として、ガラス管の代わりに、螺旋形状を有する螺旋部材、または、周方向に離隔して配置された複数のガイドロッドなどを含む構成を採用することもできる。
【0161】
[第11実施形態]
本開示の第11実施形態について、図15を用いて説明する。
【0162】
本実施形態では、第10実施形態と同様に、複数のリング状部材Mrとコイル8との間に、ガイド部材としてのガラス管20aが配置される。本実施形態では、誘導加熱装置7jにおいて、ガラス管20aに開口部(不連続部)21が設けられている。ガラス管20aは、コイル8よりも下方に位置する部分に、周方向の一部又は全周にわたる開口部(不連続部)21を有する。一例において、ガラス管20aは、不連続部21を挟んで上下に2分割されている。この場合、不連続部21よりも熱処理工程の上流側(図15の上側)に位置する上流側部分22と、不連続部21よりも熱処理工程の下流側(図15の下側)に位置する下流側部分23とからなる。
【0163】
支持台18上で鉛直方向に同軸に積み重ねた複数のリング状部材Mrのうち、開口部(不連続部)21に対応する位置に存在するリング状部材Mrは、ガラス管20aの外部に露出している。本実施形態では、このように露出したリング状部材Mrに冷却液が掛けられ、これにより、リング状部材Mrが冷却される。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第7実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0164】
なお、本実施形態以外の実施形態において、誘導加熱装置(接触制御部)が、ガイド部材としてガラス管などの筒状部材を含む構成を備える場合、第11実施形態と同じように筒状部材に開口部(不連続部)を設ける形態を採用することができる。
【0165】
[第12実施形態]
本開示の第12実施形態について、図16を用いて説明する。
【0166】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrがコイル8の加熱区間を通過する方向は、基準軸に沿った鉛直方向の上方から下方に向かう方向(図16における矢印αの方向)である。このため、円筒状のコイル8は、その軸方向を鉛直方向(矢印αの方向)に一致させた姿勢で保持されている。コイル8の内径は、ワークピースであるリング状部材Mrの外径よりも大きい。
【0167】
本実施形態では、供給部は、複数のリング状部材Mrを、コイル8の加熱区間である径方向内側の領域に上方から供給する。
【0168】
本実施形態では、接触制御部54は、通電状態のコイル8により発生して複数のリング状部材Mrを磁気浮遊させる電磁力を含む。なお、リング状部材Mrが磁気浮遊するか否かは、リング状部材Mrに作用する電磁力の上方成分と重力とのバランスにより決まる。本実施形態では、それぞれのリング状部材Mrを磁気浮遊させることができるように、リング状部材Mrのサイズに応じて、コイル8のサイズや通電量などが適切に設定されている。代替的及び/又は追加的に、上方に向かうほど内径が大きいコイル8を用いることで、リング状部材Mrに作用する電磁力の上方成分を得やすくすることができる。
【0169】
本実施形態では、誘導加熱装置7kにおいて、供給部は、それぞれが誘導加熱コイル8と同軸に配置された複数のリング状部材Mrを、誘導加熱コイル8の対向領域の上方から順次自由落下させる。複数のリング状部材Mrが、加熱区間に上方から順次供給される。リング状部材Mrが、加熱区間において誘導加熱コイル8の電磁力により磁気浮遊された状態で誘導加熱される。リング状部材Mrは、目標温度まで加熱された後、加熱区間の下方に送り出される。
【0170】
一例において、後から供給されるリング状部材(次の部材)Mrの落下力によって、加熱区間で磁気浮遊しているリング状部材(先の部材)Mrが、加熱区間から下方に送り出される。例えば、加熱区間に上方から供給するリング状部材Mr(次の部材)の数と、加熱区間から下方に送り出すリング状部材(先の部材)Mrの数とが、1つずつである。別の例において、先の部材と次の部材との数は、それぞれ2以上にできる。上記数値は一例であって、上記数値に限定されない。
【0171】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrが前記加熱区間で磁気浮遊した状態で誘導加熱される。磁力作用により、複数のリング状部材Mrがコイル8に接触することが防止される。このため、リング状部材Mrにおいて、コイル8との接触に伴う不均一な加熱分布の発生が回避される。
【0172】
本実施形態では、リング状部材Mrを回転させる機構を用いることなく、リング状部材Mrを均一に加熱することができるため、誘導加熱装置の構造を簡素化することができる。
【0173】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化される。そのため、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さくすることができる。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第7実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0174】
[第13実施形態]
本開示の第13実施形態について、図17を用いて説明する。
【0175】
本実施形態では、誘導加熱装置7lにおいて、第12実施形態の構成に、ガラス管20が追加されている。接触制御部54は、ガイド部材として、ガラス管20を含む。一例において、ガラス管20は、コイル8の径方向内側の領域を鉛直方向に挿通されている。なお、ガラス管20として、石英ガラスのガラス管の他、セラミックス、非磁性SUSなどで構成される菅部材を用いることもできる。
【0176】
ガラス管20は、複数のリング状部材Mrがコイル8の加熱区間を通過する際に、ガラス管20の径方向内側で、複数のリング状部材Mrの軸方向の移動をガイドするために用いられる。すなわち、ガラス管20は、鉛直方向に積み重ねられた複数のリング状部材Mrの調心を行い、かつ、リング状部材Mrとコイル8との接触を防止するための部材である。ガラス管20の内径は、リング状部材Mrの外径よりも少しだけ大きく設定される。
【0177】
本実施形態では、複数のリング状部材Mrとコイル8との間に、ガイド部材としてのガラス管20が配置される。加熱空間において、ガラス管20の内側で鉛直方向と交差する方向や周方向に微動することが許容されている。リング状部材Mrの外周面は、ガラス管20の内周面に対して、同一箇所で接触し続けることが防止される。このため、複数のリング状部材Mrを均一に加熱することが容易となる。
【0178】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置されるガラス管20の径方向厚さを小さく設定できる。第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離が小さくされる。これは、誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第12実施形態と同様である。
【0179】
本実施形態の変形例において、ガイド部材として、ガラス管の代わりに、螺旋形状を有する螺旋部材、または、複数のガイドロッドなどを含む構成を採用することもできる。
【0180】
第12実施形態及び第13実施形態では、コイル8の加熱区間に上方から送り込むリング状部材Mrの数と、加熱区間から下方に送り出すリング状部材Mrの数とを、1つずつとしている。第13実施形態の変形例において、図18に示すように、加熱区間に上方から送り込むリング状部材Mrの数と、加熱区間から下方に送り出すリング状部材Mrの数とを、複数ずつとすることができる。磁気浮揚力を用いた実施形態において、コイル8への通電の制御(例えば、通電を解除、すなわちリング状部材Mrに作用する電磁力を解除する)によって、加熱区間からリング状部材Mrを下方に送り出すこともできる。
【0181】
第12実施形態及び第13実施形態では、リング状部材Mrを加熱区間に上方から送り込み、加熱区間で磁気浮遊させた後、加熱区間から下方に送り出している。これとは逆に、変形例において、リング状部材Mrを加熱区間に下方から送り込み、加熱区間で磁気浮遊させた後、加熱区間から上方に送り出すことができる。
【0182】
[第14実施形態]
本開示の第14実施形態について、図19を用いて説明する。
【0183】
本実施形態では、接触制御部54は、ガイド部材として、第1実施形態と同様に、複数のローラ72を含む。複数のローラ72は、第1実施形態と異なり、各ローラ72の軸心がコイル8の径方向外方に配置されている。
【0184】
各ローラ72は、基準軸60に沿った方向に伸長している。一例において、ローラ72は、各軸周りに同じ回転方向に回転可能である。他の例において、ローラ72は、各軸周りに互いに異なる回転方向に回転可能である。一例において、ローラ72は、セラミックなどの絶縁材により構成される。他の例において、ローラ72は、絶縁材とは異なる材料により構成される。一例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に設定される。他の例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向に設定できる。
【0185】
本実施形態では、誘導加熱装置7mにおいて、接触制御部54は、ローラ72の一部を用いてコイル8の隙間を介して加熱区間の内側のリング状部材Mrを支持するように構成されている。本実施形態では、ローラ72の一部がコイル8の隙間に挿入される。コイル8は、複数の環状要素8Aの間に設けられた複数の隙間8Gを有する。隣り合う2つの環状要素8Aは、コイル8における周方向の一部で互いに電気的に接続されている。ローラ72は、複数の環状要素72Aの間に設けられた複数の溝72Gを有する。ローラ72の1つの環状要素72Aの幅に比べて、コイル8の隙間8Gの幅が大きく設定される。コイル8の1つの環状要素8Aの幅に比べて、ローラ72の溝72Gの幅が大きく設定される。コイル8の複数の隙間8Gにローラ72の複数の環状要素72Aがそれぞれ挿入され、複数の環状要素72Aの外周面が加熱区間の内側に配置される。なお、必要に応じて、コイル8とローラ72との間の電気的な接続を回避するために、ローラ72及び/又はコイル8の表面に非伝導性のコーティング膜を設けることができる。加熱区間の内側に配置された、ローラ72の外周面(環状要素72Aの外周面)によって、加熱区間におけるリング状部材Mrが支持される。
【0186】
一例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力は、熱処理工程の上流側に配置された図示しない送り装置(供給部)などによって発生させることができる。他の例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力の少なくとも一部を、ローラ72を用いて発生させることができる。別の例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力の少なくとも一部として、重力を用いることができる。
【0187】
本実施形態では、加熱区間において、リング状部材Mrがローラ72によって支持される。リング状部材Mrは、上述した推進力に基づき基準軸60に沿って軸方向に移動する。また、リング状部材Mrは、ローラ72が回転することにより、基準軸60周りに回転する。このため、ローラ72がリング状部材Mrの同一箇所(周方向の同一箇所)に接触し続けることが回避される。リング状部材Mrにおいて、ローラ72との接触点が連続的に変化しながら、リング状部材Mrが軸方向に移動する。加熱区間において、ローラ72と接触するリング状部材Mrの周方向位置が変化する。したがって、リング状部材Mrからローラ72への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止され、不均一な加熱分布が抑制される。
【0188】
本実施形態では、加熱区間において、リング状部材Mrは、ローラ72によって支持されるものの、ローラ72の中心軸がコイル8の径方向外方に配置されている。そのため、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化され、第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さく設定できる。これは、複数のリング状部材Mrの誘導加熱効率の確保に有利である。
【0189】
本実施形態では、ローラ72の溝72Gの幅(隣り合う2つの環状要素72Aの間隔)がリング状部材Mrの幅(軸長さ)に比べて小さく設定される。これにより、加熱区間において、リング状部材Mrがローラ72の溝に落下することが防止される。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0190】
[第15実施形態]
本開示の第15実施形態について、図20を用いて説明する。
【0191】
本実施形態では、接触制御部54は、ガイド部材として、第1実施形態と同様に、複数のローラ72を含む。複数のローラ72は、第1実施形態と異なり、各ローラ72の軸心がコイル8の径方向外方に配置されている。また、接触制御部54は、ガイド部材として、制動部77を含む。
【0192】
各ローラ75は、基準軸60に沿った方向に伸長している。一例において、ローラ75は、各軸周りに同じ回転方向に回転可能である。他の例において、ローラ75は、各軸周りに互いに異なる回転方向に回転可能である。一例において、ローラ75は、セラミックなどの絶縁材により構成される。他の例において、ローラ75は、絶縁材とは異なる材料により構成される。一例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に設定される。他の例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向に設定できる。
【0193】
誘導加熱装置7nにおいて、制動部77は、リング状部材Mrに対して軸方向の制動力を与えるように構成されている。一例において、制動部77は、リング状部材Mrの外周面に接するように配置される。他の例において、制動部77は、リング状部材Mrの軸端面に接するように配置される。
【0194】
一例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力は、熱処理工程の上流側に配置された図示しない送り装置(供給部)などによって発生させることができる。他の例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力の少なくとも一部として、重力を用いることができる。
【0195】
本実施形態では、加熱区間の外(加熱区間の入り口、出口、2つの加熱区間の間の区間など)において、ローラ72の外周面によって、リング状部材Mrが支持される。
【0196】
本実施形態では、リング状部材Mrの推進力の向きと、制動部77による制動力の向きとが逆に設定され、これにより、複数のリング状部材Mrに対して比較的大きな軸方向の力が作用する。複数のリング状部材Mrにおいて、1つのリング状部材Mrは、両側の2つのリング状部材Mrに挟まれて保持された状態にある。搬送方向が横向き(水平方向、又は傾斜方向)である場合には、加熱区間において、軸方向に作用する力によってリング状部材Mrの径方向への落下が防止される。搬送方向が縦向き(鉛直方向、又は鉛直方向に近い傾斜方向)である場合には、加熱区間において、軸方向に作用する力によってリング状部材Mrの軸方向への落下が防止される。
【0197】
一例において、制動部77は、制動位置を軸方向に移動可能に構成される。また、必要に応じて、複数のリング状部材Mrの異なる複数の箇所に対して制動力を与えるように構成される。例えば、複数のリング状部材Mrを保持し続けるために、所定数の複数のリング状部材Mrが加熱区間を通過するごとに、同軸上に密接した状態の複数のリング状部材Mrに対し、軸方向における複数の制動位置の切り換え動作が行われる。制動部77を適切に制御することにより、1個ごとに、又は複数個ごとに、リング状部材Mrを後工程に送り出すことができる。
【0198】
本実施形態では、加熱区間において、リング状部材Mrが制動部77による制動力を用いて支持される。このため、加熱区間において、リング状部材Mrがコイル8や他の部材に接触することが回避される。したがって、コイル8を用いた誘導加熱において、均一な加熱分布が達成される。
【0199】
本実施形態では、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間に配置される部材が省略化及び/又は最小化され、第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さく設定できる。これは、複数のリング状部材Mrの誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0200】
[第16実施形態]
本開示の第16実施形態について、図21を用いて説明する。
【0201】
本実施形態では、誘導加熱装置7oにおいて、接触制御部54は、ガイド部材として、自転可能な管部材81を含む。管部材81は、円筒形状を有し、基準軸60に沿った搬送方向に沿って伸長され、中心軸が基準軸と実質的に一致するように配置される。管部材81は、少なくとも加熱空間において、リング状部材Mrとコイル8との間に配置される。図21の(a)部に示す例において、2つのコイル8に対して1つの管部材81が配置される。図21の(b)部に示す例において、2つのコイル8に対して2つの管部材81がそれぞれ配置される。また、図21の(b)部に示す例において、加熱空間以外の位置でリング状部材Mrを支持するローラ82が設けられている。
【0202】
管部材81は、駆動部84により、基準軸60周りに回転される。一例において、管部材81は、石英ガラス、セラミックス、非磁性SUSなどの非磁性体材料を用いて構成される。他の例において、管部材81は、他の材料を用いて構成できる。図21の(c)部に示すように、管部材81の内径は、リング状部材Mrの外径に比べて大きく設定される。
【0203】
一例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に設定される。他の例において、加熱区間でのリング状部材Mrの移動方向(基準軸60に沿った方向、搬送方向)は、水平方向に対して傾斜した方向、又は鉛直方向に設定できる。
【0204】
一例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力は、熱処理工程の上流側に配置された図示しない送り装置(供給部)などによって発生させることができる。他の例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力の少なくとも一部を、管部材81を用いて発生させることができる。別の例において、加熱区間におけるリング状部材Mrの推進力の少なくとも一部として、重力を用いることができる。
【0205】
本実施形態では、加熱区間において、管部材81によってリング状部材Mrが支持される。リング状部材Mrは、上述した推進力に基づき基準軸60に沿って軸方向に移動する。また、リング状部材Mrは、管部材81が回転することにより、管部材81がリング状部材Mrの同一箇所(周方向の同一箇所)に接触し続けることが回避される。リング状部材Mrにおいて、管部材81との接触点が連続的に変化しながら、リング状部材Mrが軸方向に移動する。加熱区間において、管部材81と接触するリング状部材Mrの周方向位置が変化する。したがって、リング状部材Mrから管部材81への熱の移動が、リング状部材Mrの特定の箇所に集中して起こることが防止され、不均一な加熱分布が抑制される。
【0206】
本実施形態では、第1実施形態に比べて、コイル8の内周面と複数のリング状部材Mrの外周面との間の距離を小さく設定できる。これは、複数のリング状部材Mrの誘導加熱効率の確保に有利である。本実施形態についてのその他の構成および作用効果は、第1実施形態及び/又は他の実施形態と同様である。
【0207】
図22は、機械装置の一例としてのモータの概略構成図である。リング状部材は、例えば、図22に示すモータ961の回転軸963を支持する軸受900A、900B等に適用できる。
【0208】
図22において、モータ961は、ブラシレスモータであって、円筒形のセンタハウジング965と、このセンタハウジング965の一方の開口端部を閉塞する略円板状のフロントハウジング967とを有する。センタハウジング965の内側には、その軸心に沿って、フロントハウジング967及びセンタハウジング965底部に配置された軸受900A、900Bを介して、回転自在な回転軸963が支持されている。回転軸963の周囲にはモータ駆動用のロータ969が設けられ、センタハウジング965の内周面にはステータ971が固定されている。
【0209】
モータ961は、一般に、機械や車両に搭載され、軸受900A、900Bにより支持された回転軸963を回転駆動する。
【0210】
軸受要素又は軸受は、回転部を有する機械、各種製造装置、例えば、ボールねじ装置等のねじ装置、及びアクチュエータ(直動案内軸受とボールねじの組合せ、XYテーブル等)等の直動装置の回転支持部に適用可能である。また、軸受要素又は軸受は、ワイパー、パワーウィンドウ、電動ドア、電動シート、ステアリングコラム(例えば、電動チルトテレスコステアリングコラム)、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、およびウォーム減速機等の操舵装置に適用可能である。さらに、軸受要素又は軸受は、自動車、オートバイ、鉄道等の各種車両に適用可能である。相対回転する箇所であれば、本構成の軸受を好適に適用でき、製品品質の向上及び低コスト化につなげることができる。
【0211】
リング状部材を備える軸受として、転がり軸受、滑り軸受等、様々な種類のものが好適に適用可能である。例えば、軸受要素は、ラジアル転がり軸受の外輪及び内輪、円筒ころ(ニードルを含む)を使用したラジアル円筒ころ軸受の外輪及び内輪、円すいころを使用したラジアル円すいころ軸受の外輪及び内輪に適用可能である。
【0212】
上述した実施形態は、矛盾を生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。また、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されない。実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能である。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0213】
1 転がり軸受
2 外輪
3 内輪
4 転動体
5 外輪軌道
6 内輪軌道
7、7a、7b、7c、7d、7e、7f、7g、7h、7i、7j、7k、7l、7m、7n、7o
誘導加熱装置
8、8a、8b コイル
9 ローラ
10、10a 抑え部材
11 螺旋部材
12 ガイドレール
13 ガイド溝
14 カートリッジ
15 軸部
16 保持リング
17 ガイドロッド
18 支持台
19 上面
20、20a ガラス管
21 不連続部
22 上流側部分
23 下流側部分
100 外輪
101 外輪軌道
102a、102b 一方側治具
103a、103b 基台
104a、104b 軸方向抑え部
105 径方向抑え部
106 コア
107 他方側治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24