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特開2024-88777CARSスペクトルの取得方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088777
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】CARSスペクトルの取得方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063653
(22)【出願日】2024-04-10
(62)【分割の表示】P 2023560416の分割
【原出願日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/178,232
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ブルックナー ルーカス
(57)【要約】
【課題】リファレンスを用いた測定方法を様々なアプリケーションに容易に適用できるシステムを提供する。
【解決手段】システム1は、ストークス光11およびポンプ光12のパルスと、ストークス光およびポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅を有するプローブ光13のパルスとをターゲット5の一部に照射するための光路10と、プローブ光のパルス幅内で、プローブ光のパルスとストークス光およびポンプ光のパルスとの相対的な時間関係を制御するように構成されたモジュレーター70と、CARSスペクトル15を検出するように構成されたディテクター50とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストークス光およびポンプ光のパルスと、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅のプローブ光のパルスとをターゲットの一部に照射することにより第1のCARSスペクトルを取得することであって、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスを前記プローブ光のパルスのパルス幅内で照射することにより第1のCARSスペクトルを取得することと、
同じ条件で、前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光のパルスを、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスと前記プローブ光のパルスとの間の時間関係のみを変化させて前記ターゲットの前記一部に照射することにより、前記第1のCARSスペクトルのリファレンスとなる第2のCARSスペクトルであって、前記第1のCARSスペクトルから共鳴成分を抽出するための第2のCARSスペクトルを取得することとを有する、方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のCARSスペクトルを取得することは、前記プローブ光のパルスのパルス幅内で前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスと重なるように、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスに対して第1の相対的時間関係で前記プローブ光のパルスを照射することを含み、
前記第2のCARSスペクトルを取得することは、前記プローブ光のパルスのパルス幅内で前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスと重なるように、前記第1の相対的時間関係に対して負の遅延を有する第2の相対的時間関係で前記プローブ光のパルスを照射することを含む、方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第2のCARSスペクトルを取得することは、前記プローブ光のパルスを、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早いタイミングで照射することを含む、方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1のCARSスペクトルを取得することは、前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光のパルスをほぼ同時に照射することを含み、
前記第2のCARSスペクトルを取得することは、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスを、前記プローブ光のパルスのパルス幅のほぼ最後に照射することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを走査し、前記第1のCARSスペクトルおよび前記第2のCARSスペクトルを各画素において取得することをさらに有する、方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを3次元的に走査し、前記第1のCARSスペクトルおよび前記第2のCARSスペクトルを各ボクセルにおいて取得することをさらに有する、方法。
【請求項7】
ストークス光およびポンプ光のパルスと、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅を有するプローブ光のパルスとを、前記プローブ光のパルスの前記パルス幅内で重なるように、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスと前記プローブ光のパルスとの時間関係のみを変化させながら、ターゲットの一部に照射することにより、CARSスペクトルのセットを取得することと、
取得した前記CARSスペクトルのセットを比較することで、共鳴成分を抽出することとを有する、方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記CARSスペクトルのセットを取得することは、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスに対して負の遅延で前記プローブ光のパルスを、前記ターゲットの前記一部に照射することを含む、方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを走査し、前記CARSスペクトルのセットを各画素において取得することをさらに有する、方法。
【請求項10】
請求項7または8において、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを3次元的に走査し、前記CARSスペクトルのセットを各ボクセルにおいて取得することをさらに有する、方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスはフェムト秒オーダーのパルス幅を有し、前記プローブ光のパルスはピコ秒オーダーのパルス幅を有する、方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかにおいて、
前記ストークス光は第1の波長範囲を有し、前記ポンプ光は前記第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を有し、前記プローブ光は前記第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲を有する、方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかにおいて、
前記ストークス光が広帯域のストークスビームを有する、方法。
【請求項14】
ストークス光およびポンプ光のパルスと、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅のプローブ光のパルスとをターゲットの一部に照射するように構成された光路と、
前記プローブ光のパルス幅内で、前記プローブ光のパルスと、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスとの間の相対的な時間関係を制御するように構成されたモジュレーターと、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光のパルスによって生成されたCARSスペクトルを検出し、前記相対的な時間関係に関連したCARSスペクトルの複数のセットを取得するように構成されたティテクターとを有する、システム。
【請求項15】
請求項14において、
前記モジュレーターは、前記相対的な時間関係を制御し、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスに対して負の遅延で前記プローブ光のパルスを前記ターゲットに照射するようにさらに構成されている、システム。
【請求項16】
請求項14において、
前記モジュレーターは、前記相対的な時間関係を制御し、前記プローブ光のパルスを前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスよりも早いタイミングで照射するするようにさらに構成されている、システム。
【請求項17】
請求項16において、
前記モジュレーターは、前記相対的な時間関係を制御し、前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光のパルスをほぼ同時に照射することによって取得される第1のCARSスペクトルと、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスを前記プローブ光のパルス幅のほぼ最後に照射することによって取得される第2のCARSスペクトルとを含むCARSスペクトルのセットを生成するようにさらに構成されている、システム。
【請求項18】
請求項14ないし17のいずれかにおいて、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを走査し、前記CARSスペクトルのセットを各画素において取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項19】
請求項14ないし17のいずれかにおいて、
前記ストークス光、前記ポンプ光および前記プローブ光で前記ターゲットを3次元的に走査し、前記CARSスペクトルのセットを各ボクセルにおいて取得するように構成されたスキャナーをさらに有する、システム。
【請求項20】
請求項14に記載のシステムを、コンピューターが動作させるためのコンピュータープログラムであって、
当該コンピュータープログラムは、前記ストークス光および前記ポンプ光のパルスに対して負の遅延で前記プローブ光のパルスを前記ターゲットに照射するように前記相対的な時間関係を制御する命令を含む、コンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering(Spectroscopy)、コヒーレント反ストークスラマン散乱(分光))スペクトルを取得するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の光源、第2の光源、モジュレーターシステム、集光光学系、光ディテクター、およびプロセッサーを含む顕微鏡撮像システムが開示されている。第1の光源は、第1の中心光周波数ω1で第1のパルス列を供給するためのものである。第2の光源は、第2の中心光周波数ω2で第2のパルス列を供給するためのものであり、ω1とω2との差が焦点体積内のサンプルの振動周波数と共鳴する。第2のパルス列は、第1のパルス列と時間的に同期している。モジュレーターシステムは、少なくとも100kHzの変調周波数fで第2のパルス列のビーム特性を変調する。集光光学系は、第1のパルス列と第2のパルス列とを共通の集光体積に向けて集光するためのものである。光ディテクターは、変調されている第2のパルス列をブロックすることにより、共通の焦点体積を通して送信または反射された第1のパルス列の実質的に全ての光周波数成分の積分された強度を検出するためのものである。プロセッサーは、変調周波数fにおいて、共通の焦点体積で第1のパルス列と第2のパルス列との非線形的な相互作用に起因して生成された第1のパルス列の実質的に全ての光周波数成分の積分強度の変調を検出し、顕微鏡撮像システム用の画像の画素を提供するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国公開公報第2010/0046039号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラマン顕微鏡は、赤外顕微鏡に比べて光学解像度と浸透深度が向上しているが、感度はかなり低い。2つのパルスレーザービーム(ポンプビームとストークスビーム)を使用するCARS顕微鏡では、コヒーレントな(可干渉性の、位相がそろった)励起により散乱信号の絶対的な強度が大幅に増加する。しかしながら、CARSプロセスは、振動する非共鳴のサンプルからの高レベルのバックグラウンドも励起する。このような非共鳴バックグラウンド(NRB)は、希釈サンプルからの共鳴信号のCARSスペクトルを歪めるだけでなく、レーザーノイズを伝えるため、分光と感度の両方の観点からCARS顕微鏡の応用を著しく制限する。
【0005】
時間分解コヒーレント反ストークスラマン散乱、あるいは時間遅延コヒーレント反ストークスラマン散乱(TD-CARS)顕微鏡は、ストークス光とポンプ光のパルスに加えてプローブ光パルスを用いるもので、仮想的な電子遷移とラマン遷移の時間応答の差を利用して非共鳴バックグラウンドを抑制する手法としても知られている。プローブ光のパルスは、ストークス光とポンプ光のパルスに対して遅延を持ち、ストークスパルス光とポンプパルス光とによる励起のそれぞれに対しプローブパルスが追従する。プローブパルスを遅延させることにより、NRB(非共鳴バックグランド)の強度をなくすことができるが、共鳴特性(レゾナントフィーチャー、共鳴成分)の強度も減少する。
【0006】
CARSを用いた定量分析にはリファレンス(参照する対象、基準)が必要である。定量結果を得るためには、MEM(Maximum Entropy Method、マキシマムエントロピー法)アルゴリズムを適用することができるが、サンプルの変更を含む複数のステップが必要である。MEMはリファレンスなしで行うこともできるが、これは高濃度の場合のみ可能である。低濃度または最大感度での測定のためには、同じ条件下でのリファレンスが必要である。つまり、サンプル測定(例えばグルコース溶液)に加えて、全く同じ条件下での正規化(ノーマライジング)の手順が必要となるが、正規化処理のために、水を満たした別のキュベットが必要となり、それはサンプルを変更することとなり、CARS光学系の感度やその他の条件が変更される可能性がある。このため、リファレンスを用いた測定方法を様々なアプリケーションに容易に適用できるシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、(i)ストークス光およびポンプ光のパルスと、ストークス光およびポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅を有するプローブ光のパルスとをターゲットの一部に照射することにより、第1のCARSスペクトルを取得することであって、ストークス光およびポンプ光を、プローブ光のパルス幅内に照射することにより第1のCARSスペクトルを取得することと、(ii)上記と同じ条件で、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光のパルスを、ただし、ストークス光およびポンプ光のパルスとプローブ光のパルスの時間関係のみを変化させてターゲットの一部に照射することにより、第1のCARSスペクトルのリファレンスとなる第2のCARSスペクトルを取得し、第1のCARSスペクトルから共鳴成分を抽出することとを有する方法である。
【0008】
本発明者のシミュレーションの結果によれば、NRB(Non-Resonant Background、非共鳴バックグランド)は瞬時の電子応答であり、共鳴成分(共鳴特徴)は、よりゆっくりと生成され、減衰時間が長いとともに、生成(ビルドアップ)にも時間を要し(線幅が狭くなる)、一方、減衰時間が短いものは応答を生成する時間は短くなる(線幅がより広くなる)。すなわち、CARS応答信号を得るために、時間的に広いまたは幅の大きいパルス幅のプローブ光のパルスを用い、ターゲット分子の振動を励起するための、プローブ光のパルスとストークス光およびポンプ光のパルスとの時間関係を変化させることのみで、共鳴特性(共鳴成分)と非共鳴特性(非共鳴成分)の両方を持つ第1のCARSスペクトルと、ほぼ純粋な非共鳴特性、または非共鳴特性に対して共鳴特性が非常に少なく、非共鳴特性のリファレンスとして十分な第2のCARSスペクトルとを含むCARSスペクトルのセットを取得できる。そのため、キュベットなどのターゲット(対象サンプル)を変えることなく、ストークス光およびポンプ光のパルスに対するプローブ光のパルスの時間関係を変えるだけで、定量分析用のリファレンススペクトル(基準となるスペクトル)を第2のCARSスペクトルとして得ることができる。これにより、CARSを用いた微量分析の精度を大幅に向上させることができ、また、非侵襲的な分析の場合、生体そのものからリファレンススペクトルを得ることができる。
【0009】
第1のCARSスペクトルを取得するステップは、プローブ光のパルスのパルス幅内でストークス光およびポンプ光のパルスと重なるように、ストークス光およびポンプ光のパルスに対して第1の相対的時間関係を有するプローブ光のパルスを照射(出射)することを含み、第2のCARSスペクトルを取得するステップは、プローブ光のパルスのパルス幅内でストークス光およびポンプ光のパルスと重なるように、ストークス光およびポンプ光のパルスに対して、第1の相対的時間関係に対して負の遅延を有する第2の相対的時間関係を有するプローブ光のパルスを照射することを含んでもよい。TD-CARSスペクトルを得るためには正の遅延を有する遅延したプローブパルスが使用されるのに対し、本方法では負の遅延を有する逆に遅延したプローブパルスを使用することができ、これにより共鳴成分のない、またはほとんど共鳴成分のないリファレンススペクトルを得ることができる。
【0010】
第2のCARSスペクトルを取得するステップは、プローブ光のパルスをストークス光およびポンプ光のパルスよりも早いタイミングで照射することを含んでもよい。すなわち、プローブ光のパルスに続いて、励起のためのストークス光のパルスおよびポンプ光のパルスが照射されてもよい。典型的には、第1のCARSスペクトルを取得するステップは、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光の各パルスを実質的に、ほぼ同時に照射することを含み、第2のCARSスペクトルを取得するステップは、ストークス光およびポンプ光のパルスを、プローブ光のパルスのパルス幅の実質的に、ほぼ最後に照射することを含んでもよい。
【0011】
本方法は、さらに、2DのCARS顕微鏡撮像を生成するために、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光でターゲットを走査し、第1のCARSスペクトルおよび第2のCARSスペクトルを各ピクセル(画素)で取得することを含んでもよい。本方法は、さらに、3DのCARS顕微鏡撮像を生成するために、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光でターゲットを3次元的に走査し、第1のCARSスペクトルおよび第2のCARSスペクトルを各ボクセル(体積要素)において取得することを含んでもよい。
【0012】
本発明の異なる態様の1つは、(i)ストークス光およびポンプ光のパルスと、ストークス光およびポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅を有するプローブ光のパルスとを、ストークス光およびポンプ光のパルスとプローブ光のパルスとの間の時間関係のみを変化させながら、プローブ光のパルスのパルス幅内で重なるようにターゲットの一部に照射することにより、CARSスペクトルのセットを取得するステップと、(ii)取得されたCARSスペクトルのセットを比較することにより、共鳴成分を抽出するステップとを含む方法である。CARSスペクトルのセットを取得するステップは、ストークス光およびポンプ光のパルスに対して負の遅延(inverse delay、逆遅延)を備えたプローブ光のパルスをターゲットの一部に照射することを含んでもよい。
【0013】
本発明のさらに異なる態様の1つは、(i)ストークス光およびポンプ光のパルスと、ストークス光およびポンプ光のパルスのパルス幅よりも大きなパルス幅を有するプローブ光のパルスとをターゲットの一部に照射するように構成された光路と、(ii)プローブ光のパルス幅の範囲内で、プローブ光のパルスとストークス光およびポンプ光のパルスとの相対的な時間関係を制御するように構成されたモジュレーターと、(iii)ストークス光、ポンプ光およびプローブ光のパルスによって生成されたCARSスペクトルを検出し、相対的な時間関係に関連したCARSスペクトルのセットを取得するように構成されたディテクターとを含むシステムである。
【0014】
本発明のさらに異なる態様の1つは、上述したシステムをコンピューターにより動作させるために非一時的な記録媒体に格納されたコンピュータープログラムまたはコンピュータープログラム製品である。このコンピュータープログラム(プログラム製品)は、ストークス光およびポンプ光のパルスに対して負の遅延でプローブ光のパルスをターゲットに照射するように相対的な時間関係を制御するための命令を含んでもよい。このプログラムは、ストークス光およびポンプ光のパルスに対して負の遅延を備えたプローブ光のパルスをターゲットに照射する相対的な時間関係を設定するようにモジュレーターを制御する命令を含んでもよい。このプログラムは、ストークス光およびポンプ光のパルスよりも早いタイミングでプローブ光のパルスを照射する相対的な時間関係を設定するようにモジュレーターを制御するための命令を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明のシステムの一実施形態を示す。
図2図2は、典型的なCARSスペクトルを示す。
図3図3は、プローブ光の遅延を変化させた場合のCARSスペクトルの例を示す。
図4図4は、MEMアルゴリズムを用いた解析方法の一例を示す。
図5図5は、CARS測定とインターナルリファレンス測定の例を示す。
図6図6は、インターナルリファレンス法の概要を示す。
図7図7は、正規化する方法の概要を示す。
図8図8は、インターナルリファレンス法による結果の例を示す。
図9図9は、インターナルリファレンス法を用いた結果の異なる例を示す。
図10図10は、モジュレーターの異なる例を示す。
図11図11は、インターナルリファレンス法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の実施形態ならびにその様々な特徴および有利な詳細は、添付した図面および以下の説明に詳述される非限定的な実施形態を参照して、より詳しく説明される。周知の構成要素および処理技術の説明は、本明細書の実施形態を不必要に不明瞭にしないように省略される。本明細書で使用される例は、単に、本明細書の実施形態が実施され得ることの理解を容易にし、当業者が本明細書の実施形態を実施することを可能にすることを意図したものである。したがって、実施例は、本明細書における実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態によるシステム1を示す。システム1は、ターゲット5のある部分(一部)5aに照射するようにストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13の各パルスを供給(出射)し、ターゲット(オブジェクト、サンプル)5の一部(ある部分)5aにおいてCARS(コヒーレント反ストークスラマン散乱、Coherent Anti-Stokes Raman Scattering、Coherent
Anti-Stokes Raman Spectroscopy)信号(CARSスペクトル、CARSライト)15を発生させるように構成された光学モジュール(光学系、光学システム)10を含む。システム1は、測定装置、分析装置、モニタリング装置、モニターおよび用途に応じて他の装置として使用することができる。光学系10は、CARSを用いて、キュベット内のサンプルや人体などの測定対象物5の表面や内部の状態や成分を示すデータを取得する。
【0018】
このシステムは、さらに、ストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13でターゲット5をスキャン(走査)し、レンズ25および他の光学要素を通してターゲット5からCARS光15を取得するように構成されたスキャナー(走査インターフェース)60と、ストークス光11およびポンプ光12のパルスに対するプローブ光13のパルスの相対的な時間関係を制御するように構成されたモジュレーター(変調器、調整装置)70と、分析のためにCARS光15を検出するように構成されたディテクター(検出器、検出装置)50と、システム1およびモジュール、例えば、スキャナー60、モジュレーター70、レーザー光源30などを制御するように構成されたコントローラー(制御装置)55とを含む。スキャニングモジュール60は、キュベット、非侵襲的サンプラー、侵襲的サンプラー、流路、またはフィンガーチップ(指先用)スキャニングインターフェースモジュールのようなウェアラブルスキャニングインターフェースであってもよい。コントローラー55は、レーザー光源30を制御するレーザーコントローラー58と、CARS(CARSスペクトル)によって内部組成(成分)を分析する分析器56とを含む。分析器56は、CARS光15が生成されるターゲット5の部分(部位)5aを点検するための複数のモジュール56a~56dを含んでいてもよい。コントローラー55のメモリーに格納されたプログラム(プログラム製品、ソフトウェア、アプリケーション)59は、メモリー、CPU等のコンピューター資源を用いてコントローラー55上の処理を実行するために提供される。なお、プログラム(ソフトウェア)59は、プロセッサーやコンピューターによって読み取り可能な他の記憶媒体(非一時的記録媒体)として提供されてもよい。
【0019】
光学系10は、ストークス光(ストークスビームパルス、第1の光パルス)11およびポンプ光(ポンプビームパルス、第2の光パルス)12用に第1の波長1040nmの第1のレーザーパルス30aを発生させるためのレーザー光源30を含む。好ましいレーザー光源30の1つは、ファイバーレーザーである。第1のレーザーパルス30aは、数10~数100mWの1~数100fs(フェムト秒)オーダーのパルス幅を有し、フェムト秒オーダーのパルス幅を有するストークス光11およびポンプ光12のパルス(複数のパルス)を生成する。ストークス光11およびポンプ光12のパルスのパルス幅PW1は、1~数100fsであってもよく、例えば、1~900fsであってもよく、10~600fsであってもよく、50~400fsであってもよい。光学系10は、レーザー光のパルスを分離、組み合わせる(合波する)ための1つまたは複数の光路を形成するためのレンズ、フィルター、ミラー、ダイクロイックミラー、プリズムなどの複数の光学素子29を含む。
【0020】
光学系10は、ポンプ光パルス12と共通する第1のレーザーパルス30aから波長1080~1300nmの第1の波長範囲R1を有する広帯域(ブロードバンド)の複数のストークス光パルス(第1の光パルス)11をPCF(Photonic Crystal Fiber、ファイバー)21aを介して供給するように構成されたストークス光路(第1の光路、ストークスユニット)21を含む。光学系10は、ストークス光11に共通する第1のレーザーパルス30aからの第1の波長範囲(第1の範囲)R1よりも短い波長1070nmの第2の波長範囲R2を有する複数のポンプ光パルス(第2の光パルス)12を供給するように構成されたポンプ光路(第2の光路、ポンプユニット)22を含む。光学系10は、経路21により供給される複数のストークス光パルス11と、経路22により供給される複数のポンプ光パルス12とを光入出力部(レンズ系)25に供給する共通光路を含む。これらの光路には、各光路を構成するために必要なフィルター、ファイバー、ダイクロイックミラー、プリズム等の複数の光学素子が含まれる。後述する光路についても同様である。
【0021】
レーザー光源30は、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12のための第1の波長1040nmの第1のレーザーパルス30aに加えて、プローブ光パルス(プローブ光、第3の光パルス)13のための第2の波長780nmの第2のレーザーパルス30bを生成する。第2のレーザーパルス30bは、ピコ秒オーダーのパルス幅を有するプローブ光13の複数のパルスを生成するために、数10~数100mWの1~数10ps(ピコ秒)オーダーの複数のパルスを含んでもよい。プローブ光13のパルスのパルス幅PW2は、1~数10psであってもよく、例えば、1~90psであってもよく、1~50psであってもよく、2~10psであってもよい。波長780nmの第2のレーザーパルス30bは、波長1560nmのソースオシレーター(光源発振器)から発生させてもよい。光学系10は、ストークス光路21およびポンプ光路22に加えて、第2の波長範囲R2よりも短い波長780nmの第3の波長範囲R3を有する複数のプローブ光パルス(プローブ光パルス、プローブパルス、第3の光パルス)13を供給するように構成されたプローブ光路(第3の光路、プローブユニット)23を含む。
【0022】
光学系10は、さらに、ストークス光パルス11、ポンプ光パルス12およびプローブ光パルス13をターゲット5に同軸的に出力し、共通の光路を介してターゲット5からCARS光15を取得するように構成された光入出力ユニット(光学ユニット)25を含む。典型的な光入出力ユニット25は、ターゲット5と対向し、後方CARS光パルス(後方に出射されたCARS光パルス、Epi-CARS)15を取得する対物レンズまたはレンズ系(レンズシステム)である。光学系10は、前方CARS光(前方に出射されたCARS光)を得るように構成された光路を含んでもよい。この光学系(光学システム)10では、複数のプローブ光パルス13によってそれぞれ生成された波長範囲R3よりも短い波長範囲である680~760nmの複数のCARS光パルス15が取得され、ディテクター50によって検出される。
【0023】
光学系10は、プローブ光13のパルス幅PW2の範囲内で、プローブ光13のパルスと、ストークス光11およびポンプ光12のパルスとの間の相対的な時間関係を制御するように構成されたモジュレーター(変調ユニット、時間遅延ユニット)70を含む。典型的には、モジュレーターは、プローブ光パルス13の照射のタイミングと、ストークス光パルス11およびポンプ光パルス12の照射のタイミングとの間の時間差Δtを制御(変化、設定、変調)する。モジュレーターは、時間遅延ステージ(時間遅延ユニット)71と、コリメーター72と、モーターやピエゾなどのアクチュエーター73とを含み、プローブ光パルス13の光路(光路の長さ)を変調することができるものであってもよい。モジュレーター70は、LC-SLM(Liquid crystal spatial light modulator、液晶空間光モジュレーター)、AWG(Arrayed wave-guide grating、アレイ導波路回折格子)等を含み、コリメーター間の距離を制御することができるものであってもよい。モジュレーター70は、プローブ光13の光路に加えて、またはプローブ光13の光路の代わりに、ストークス光11およびポンプ光12の光路を制御してもよい。
【0024】
モジュレーター70のプローブ光13のパルスとストークス光11およびポンプ光12のパルスとの相対的な時間関係(時間差、時間遅れ)Δtsは、コントローラー55内のタイミングコントローラー(タイミング制御器、タイミングモジュール)56tの制御下で変更したり、設定したりすることができる。プローブ光路23は、モジュレーター70を用いて、光入出力部25を介してターゲット5の部位5aに照射するストークス光パルス11およびポンプ光パルス12を出射するタイミングに対する時間差Δtsが異なる、典型的には3種類(型)のプローブ光パルス13a、13b、および13cを供給することができ、ストークス光11およびポンプ光12の各パルス光による励起から/に対し、時間的関係Δtsがマイナスで(負の)数1000fs(数ピコ秒)から0、時間的関係Δtsが0、さらに、時間的関係Δtsが0からプラスで(正の)数1000fs(数ピコ秒)またはそれ以上に遅延した、異なる時間的関係Δtsにより生成される、典型的には3種類(タイプ)のCARSパルス15a、15b、および15cを得ることができる。
【0025】
コントローラー55は、さらに、上記の3種類のモードに対応して、ターゲットCARSスペクトル取得モジュール(ターゲットCARS取得モジュール、ターゲットCARS取得装置)56a、リファレンスCARS取得モジュール(内部リファレンス(インターナルリファレンス)取得モジュール、内部リファレンス取得装置)56bおよびTD-CARS取得モジュール(TD-CARS取得装置)56cを含む。ターゲットCARS取得モジュール56aは、タイミングモジュール56tを介してモジュレーター70を制御し、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスと、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスのパルス幅PW1よりも大きいパルス幅PW2のプローブ光13aの各パルスとを、ターゲット5の一部5aに照射することにより、第1のCARSスペクトル(ターゲットCARSスペクトル)15aを取得する。ターゲットCARS取得モジュール56aは、ストークス光11およびポンプ光を、プローブ光13のパルス幅PW2内でターゲット5に照射することにより、一般的にはストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13aの各パルスをターゲット5に時間差なく(遅延なく)実質的に、ほぼ同時に照射することにより、CARSスペクトル15aを取得する。
【0026】
インターナルリファレンス取得モジュール56bは、タイミングモジュール56tを介してモジュレーター70を制御し、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスを、プローブ光13のパルス幅PW2内において、ターゲットCARSスペクトル15aを取得するときと同一の条件下で、ただし、プローブ光13のパルスとの時間関係Δtsのみを変化させて、プローブ光13bのパルスとともにターゲット5の部位5aに照射し、第2のCARSスペクトル(インターナルリファレンスCARSスペクトル、内部基準スペクトル、内部参照スペクトル)15bを取得することにより、ターゲットCARSスペクトル15aから共鳴成分(共鳴特性)Rfを抽出可能とする。すなわち、ターゲットCARS取得モジュール56aは、モジュレーター70を用いてストークス光11およびポンプ光12のパルスの照射(照射のタイミング)に対して、プローブ光13のパルス幅PW2内の第1の相対的時間関係(第1の遅延、第1の時間遅延)Δt1で、それらの照射と重なるようにプローブ光13のパルス13aを照射し、ターゲットCARSスペクトル(第1のCARSスペクトル)を生成し、また、インターナルリファレンス取得モジュール56bは、モジュレーター70を用いて、ストークス光11およびポンプ光12のパルスの照射に対し、第1の遅延Δt1に対して負の遅延(逆遅延)を有する第2の相対的時間関係(第2の遅延、第2の時間遅延)Δt2であるが、ストークス光11およびポンプ光12のパルスの照射とプローブ光13aのパルスのパルス幅PW2内で重なる範囲の第2の相対的時間関係Δt2で、プローブ光13bのパルスを照射し、インターナルリファレンススペクトル(第2のCARSスペクトル)15bを生成する。したがって、インターナルリファレンス取得モジュール56bは、モジュレーター70を制御して、プローブ光13bのパルスをストークス光11およびポンプ光12のパルスよりも早いタイミングで照射する。
【0027】
典型的には、ターゲットCARS取得モジュール56aは、モジュレーター70を制御して、ストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13aの各パルスを実質的に同時に照射し、第1の遅延Δt1を0、または実質的に0とする。また、インターナルリファレンス取得モジュール56bは、モジュレーター70を制御して、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスを、プローブ光13bのパルスのパルス幅PW2の実質的な終端(ほぼ最終のタイミング)で照射し、第2の遅延Δt2をPW2と同等、または実質的に同等とする。
【0028】
TD-CARS取得モジュール56cは、タイミングモジュール56tを介してモジュレーター70を制御し、ストークス光11およびポンプ光12のパルスの照射に対し、第1の遅延時間Δt1に対して正の遅延時間を有する第3の相対的時間関係(第3の遅延時間)Δt3でストークス光11、ポンプ光12およびプローブ光13cの各パルスをターゲット5の部位5aに照射してTD-CARSスペクトル15cを取得する。したがって、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスとプローブ光13cのパルスとが実質的に重なることはない。
【0029】
ディテクター50は、ストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13a、13b、13cのパルスによって生成されたCARSスペクトル15a、15b、および15cを検出して、相対的な時間関係Δt1、Δt2、およびΔt3に関連付けられたスペクトル15a、15b、および15cを含むCARSスペクトル15のセットを取得するように構成されている。CARSスペクトル15のセットは、ターゲットCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス15bを含み、インターナルリファレンス15bをリファレンス(参照、基準)または比較(正規化、減算)することによって、ターゲットCARSスペクトル15aから共鳴成分(共鳴の構成要素)Rfを抽出することができる。
【0030】
コントローラー55は、さらに、ターゲット5の部位5aの特徴または組成を分析するために、インターナルリファレンス15bを参照することによって、ターゲットCARSスペクトル15aから共鳴成分(共鳴特性)Rfを抽出するように構成された抽出モジュール(抽出器)56dを含んでもよい。抽出モジュール56dは、スキャナー60を用いてターゲット5をスキャンする機能を含んでいてもよい。スキャナー60は、ストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13aおよび13bを用いてターゲット5を走査し、各画素におけるターゲットCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス15bを含むCARSスペクトル15のセットを取得するように構成される。分析器56は、共鳴特性Rfを有するピクセル(画素)単位でターゲット5の画像(2次元画像)を生成する画像生成モジュール(画像生成器)56eを含んでもよい。したがって、システム1は、CARS分光法とCARS顕微鏡法の機能を有することができる。
【0031】
CARSスペクトロスコピー(分光法)では、ストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13の焦点またはスポットを移動させることにより、システム1は、ターゲット5の深さプロファイルを生成することができる。したがって、スキャナー60は、ストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13aおよび13bでターゲット5を3次元的に走査して、各ボクセル(体積要素)におけるターゲットCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス15bを含むCARSスペクトル15のセットを取得するように構成されてもよい。分析器56は、共鳴特性Rfを有するボクセルによってターゲット5の3D画像を生成する3D画像生成モジュール(3D画像生成器)56fを含んでもよい。したがって、システム1は、CARS3D顕微鏡の機能を有することができる。
【0032】
広帯域のストークスパルス(ストークスビーム)11を用いることで、一度に多くの共鳴を励起し、1ショットでフルスペクトルを記録することができる。したがって、ターゲット(サンプル)5を走査することにより、各ショットで各ピクセルまたはボクセルに広いCARSスペクトル15aおよび15bを提供することができ、短時間で2Dまたは3DのCARS撮像を行うことができる。また、本システム1を用いることで、組織などを含むターゲット5内の、実際の測定位置からの(測定位置を変えずに)、通常のCARS信号15aに加えて、インターナルの非共鳴リファレンス15bを各ピクセルまたはボクセルで記録することができる。したがって、発生、光路、散乱、サンプルの不均一性、その他のアーチファクトの違いが相殺され、システム1によって感度が向上したCARSスペクトルが生成される。
【0033】
図2は、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスと、時間遅延Δt1(0fs)が設定されたプローブ光13のパルス(図2(a))とにより生成された、広帯域の非共鳴バックグラウンド(NRB)と共鳴特性(Rf)とを含む典型的なCARSスペクトル(光、信号、スペクトル、分光)(図2(b))を示している。すなわち、ストークスパルス11、ポンプパルス12、およびプローブパルス13が同時に照射(出射)され、プローブ光パルス13のパルス幅PW2内の範囲で、CARS信号15の時間遅延による特徴(組成、成分)が取得される。ストークスパルス11とポンプパルス12は時間的に重なっており、プローブ光パルス13の位置を制御することができる。ストークス光11およびポンプ光12のパルスと、プローブパルス13との時間差(時間関係、時間遅延)Δtは任意に選択される。図2(a)では、時間遅延ΔtはΔt1(t=0)であり、このため、ストークスパルス11とポンプパルス12はプローブパルス13の開始(最初に到達)の部分13xと重なり、その後、プローブパルス13の残りは最終(最後に到達)の部分13yを含めて遅れて到達する。
【0034】
図3は、プローブ光13の遅延(時間関係)Δtsを変化させた場合のシミュレーション結果としてのCARS光(信号、スペクトル、分光)15の複数のセットを示している。図3(c)は、ターゲットCARSスペクトル15aの例を示し、ストークスパルス11、ポンプパルス12、およびプローブパルス13aを同時に照射した場合(時間遅延ΔtをΔt1(Δt=0)とした場合)に生成される。図3(a)および(b)は、インターナルリファレンス13bの例を示し、ストークスパルス11およびポンプパルス12と、負の遅延時間Δt2が設定されたプローブパルス13bとにより生成される。すなわち、ストークスパルス11およびポンプパルス12は、プローブパルス13bの照射よりも遅れて照射されるが、プローブパルス13bと重なるように照射される。典型的なインターナルリファレンス15bは、図3(a)に示すように、ストークスパルス11およびポンプパルス12が、プローブパルス13bの終端(最終の部分、最終の端)と重なるように照射されたときに取得される。
【0035】
図3(d)および図3(e)は、TD-CARSスペクトル15cの例を示し、ストークスパルス11およびポンプパルス12と、正の遅延Δt3を持つプローブパルス13cとにより生成される。すなわち、プローブパルス13cは、ストークスパルス11およびポンプパルス12の照射よりも遅れて照射され、ストークスパルス11およびポンプパルス12とは重ならない。典型的なTD-CARS15cは、図3(e)に示すように、ほぼ共鳴成分(共鳴成分、共鳴特性)Rfのみで形成されているが、ターゲットCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス15bと比較して強度が非常に小さいものが取得される。
【0036】
図3(a)~(e)に示すように、共鳴特性(Rf)に相当する減衰時間の長い分子振動変化などの現象は、ビルドアップ(構築、増大、信号の高まり)に長い時間を必要とし、NRBに相当する減衰時間の短い分子振動変化などの現象は、ビルドアップに短い時間を必要とする。つまり、NRBは瞬時の電子応答である。共鳴特性(Rf)はビルドアップが遅く、TD-CARSのシミュレーション結果でも同様の傾向を示している。また、減衰時間が長いと、ビルドアップが長くなり(信号の線幅が狭くなる)、減衰時間が短いと応答のビルドアップにかかる時間が短くなる(信号の線幅が広くなる)。そこで、ストークスパルス11およびポンプパルス12と同時にプローブパルス13aを照射した場合には、NRBとの共鳴特性が大きいCARSスペクトル15aを取得でき、プローブパルス13bのパルス幅PW2の最後の時点でストークスパルス11およびポンプパルス12を照射した場合には、ほぼNRB(本明細書において、ほぼNRBまたは専らNRBを含むスペクトルとは、NRBの基準となるのに十分な程度に共鳴成分を含まないスペクトルを示す)のCARSスペクトルであるインターナルリファレンス15bを取得できる。
【0037】
ストークスパルス11およびポンプパルス12と重ならないようにプローブ光13cを照射すると、比較的大きな共鳴特性を有するが、信号強度が非常に小さいTD-CARS光(スペクトル)15cが取得される。すなわち、TD-CARSスペクトル15cは共鳴特性を持つだけでなく、非共鳴の寄与に対する共鳴の寄与の比率が大きくなっている。遅延が大きくなると、ほとんど共鳴寄与のみのTD-CARSスペクトル15cが取得される。これは減衰時間が異なるためである。非共鳴信号は励起(ポンプ12およびストークス11)後、非常に速く減衰し、共鳴特性(共鳴成分)は通常、よりゆっくりと減衰する(共鳴の線幅に依存する)ので、プローブ13が到着したときには、相対的にではあるが、非共鳴に対してより多くの共鳴信号が残っている。
【0038】
図4にCARSスペクトルを用いた定量分析方法(アルゴリズム)の一例を示す。従来の定量分析では、サンプル/水のノルム(サンプルを、水を基準(リファレンス)として正規化した情報)17を推定するために水のスペクトルなどのリファレンススペクトル16が必要であり、キュベットを交換する際に検出条件が変化して定量分析の感度が低下する可能性があった。定量結果を得るために、MEM(Maximum Entropy Method、最大エントロピー法)アルゴリズムが適用され、その最初のステップは正規化のプロセスであり、(a)サンプル(例:グルコース溶液)の測定と、(b)全く同じ条件下での水を測定という2つの測定を含む。これらの測定のためには、サンプルを変える必要がある。感度は絶対的に安定した条件に依存するので、スペクトルなどに変化があれば感度は制限される。同じキュベットを水とサンプルの両方に使うことは可能だが不便であり、さらにキュベットを変えること自体が感度に限界をもたらす要因になる。
【0039】
図5および図6に本出願のインターナルリファレンス(内部参照、内部基準)技術(方法)の基本を示す。図5に示すように、ストークスパルス11およびポンプパルス12に対するプローブパルス13の時間関係Δtsを変化させることにより、全く同じ実験条件(焦点、散乱、吸収、光路など)で、サンプルとキュベットを変えることなく、NRBとの共鳴特性を持つCARSスペクトル15a(図5(b))と、NRBのみのCARSスペクトル15b(図5(a))とを取得することができる。
【0040】
図6に示すように、遅延のないプローブパルス13aにより、NRBと共鳴特性とを持つCARSスペクトル15aが取得され、負の遅延を持つプローブパルス13bにより、NRBのみを含むCARSスペクトル15bが、サンプルおよびキュベットを変えることなく取得される。NRBのみのCARSスペクトル15bをリファレンス信号(インターナルリファレンス)として用いることにより、共鳴特性のみを含むCARSスペクトル15dを得ることができる。インターナルリファレンススペクトル15bは、サンプルの測定に関する細かな部分を含めて、吸収、信号経路などの実験条件が同じ状態で取得でき、水を参照することは冗長であり、特に高濃度および中濃度では冗長である。さらに、このインターナルリファレンス法は、前方散乱CARSおよび後方散乱CARSに適用可能である。この方法では、水のリファレンスは高/中濃度サンプルでは冗長かもしれないが、補正により精度をさらに向上するという点では、水の測定を行うことで測定結果が改善される可能性がある。この方法は、様々な実装(例えば、kHzスイッチングに追従し、信号の急激な変化にも追従する)が可能である。
【0041】
図7は、低濃度における非共鳴INR(INternal Reference、内部リファレンス)を用いた計算と補正の例を示す。上部の図は補正のための水の測定例、下部の図はサンプルの測定例である。従来、水のスペクトルでサンプルのスペクトルを正規化するためには、フォーマット102の補正を適用する必要があった。しかしながら、本手法では、フォーマット101を用いて補正を行うことができる。サンプルの測定と水の測定では、プローブの移動によるスペクトルの変化が同じであるため、フォーマット101を使用することで、変化を正規化することができ、水(非共鳴サンプル)とサンプルの測定を全く異なる条件で行うことができる。なお、水の測定はスペクトル変化を得ることだけが目的である。
【0042】
図8および図9は、本出願で開示するインターナルリファレンス法を適用した実験結果を示す。図8は、水のリファレンス用キュベットを用いずに、インターナルリファレンススペクトルを用いてグルコース成分を検出したCARSスペクトルである。図8(a)は、5000mg/dlのグルコース溶液のCARSスペクトル105の例を示しており、遅延のないCARSスペクトル15aと、負の遅延(-2800fs)によるインターナルリファレンス15bとを用いて導出(抽出)されたものである。図8(a)は、リファレンス用の水のCARSスペクトル106の例も併せて示す。図8(b)は、200mg/dlのグルコース溶液のCARSスペクトル105の例を示し、遅延なしのCARSスペクトル15aと、負の遅延(-2800fs)によるインターナルリファレンス15bとを用いて導出されたものである。図8(b)には、参考のために、水のCARSスペクトル106も示されている。図8(c)は、図8(b)のCARSスペクトル105を、図7で示した水のCARSスペクトルを用いて正規化(補正)した200mg/dlのグルコース溶液のCARSスペクトル107の一例を示す。図8(c)には、従来法に用いて正規化されたCARSスペクトル108が参考として示されている。高濃度および中濃度のグルコースを含む溶液については、水のリファレンスは必要なく、グルコースの濃度に対応する共鳴特性を有するCARSスペクトルを供給(検出)してもよい。グルコースの濃度が低い溶液では、励起スペクトルにわずかな違いが見られ、1回の外部リファレンスを用いてもよい。
【0043】
図9は、後方(Epi、エピ)CARSの測定結果の例を示す。従来の方法で水をリファレンスとして使用した場合、前方CARS信号と比較して信号強度が非常に低いので、CARSスペクトルに含まれるノイズが増加し、Epi-CARSスペクトルはより高いノイズと、より多くのアーチファクトとを含むため、定量分析が困難であった。しかしながら、上述したインターナルリファレンス法を用いることで、信号強度の低下によるノイズを低減し、共鳴特性のシャープなピークを含むEpi-CARSスペクトルを得ることができる。図9(a)は、遅延のないEpi-CARSスペクトル15aの一例、負の遅延を持つEpi-インターナルリファレンス15bの一例、外部のリファレンス(水)のEpi-CARSスペクトル16の一例を示す。図9(b)は、外部リファレンス(従来法)を用いたグルコース濃度10%(106a)およびグルコース濃度5%(106b)の正規化されたEpi-CARSスペクトルの例を示す。図9(c)は、本出願の明細書に記載のインターナルリファレンス法を用いた、グルコース濃度10%(105a)およびグルコース濃度5%(105b)の正規化されたEpi-CARSスペクトルの例を示す。インターナルリファレンス法を用いることで、濃度に対応したグルコースピークを有するEpi-CARSスペクトルが得られる。
【0044】
図10は、モジュレーター70の異なる実施形態を示す。モジュレーター70は、入力プローブパルス13の偏光を変換するための波長板75と、入力プローブパルス13から第1のプローブパルス(例えばp偏光の光)13aおよび第2のプローブパルス(例えばs偏光の光)13bを分離するためのPBS(偏光ビームセパレータ)76と、第1のプローブパルス13aを調整するための第1のプローブ経路77であって、波長板、第1のプローブパルス13aをPBS76に反射するためのミラー77mを含む第1のプローブ経路77と、第1のプローブパルス13aに対する(ストークスパルス11およびポンプパルス12に対する)時間差Δtを含む第2のプローブパルス13bを調整するための第2のプローブ経路78であって、波長板、第2のプローブパルス13bをPBS76に反射するためのミラー78mを含む第2のプローブ経路78とを含む。第2のプローブ経路78は、遅延Δtを制御するためにミラー78mを移動させるアクチュエーターを含んでもよい。波長板75は、供給されるプローブパルス13a、13bを偏光により電気的に制御または選択できるEOM(Electro-Optic Modulator、電気光学モジュレーター)であってもよい。移動ステージを使用するモジュレーター70は、所望のプローブ遅延変化に対応する距離をステージ上で移動するため、変調速度が比較的遅く、位置の再現性が正確でない場合がある。移動ステージを偏光光学系に置き換えることで、高速で再現性の高い変調が可能なモジュレーター70を提供することができる。このモジュレーター70は、偏光によって選択される調整可能な相対遅延を有する2つの経路77および78を含む。波長板75は、高速(kHzより高い周波数)で変調のための回転ステージまたは電気光学モジュレーター(EOM)であってもよい。高速変調により、ノイズが低減され、パワーやアライメントのドリフト、エタロニングの可能性等を抑制でき、CARS画像を生成するための走査速度を向上できる。
【0045】
レーザー光をサンプル、例えばキュベット内の溶液に集光することで、CARSスペクトルが生成され、それを分析することで異なる分子を同定したり、溶液の濃度を定量的に決定したりすることができる。蛍光や通常のラマン分光のような他の方法とは対照的に、CARSあるいは他の非線形方法では、信号は焦点位置でのみ生成される。集光性能を上げることで、本質的な空間分解能が達成され、信号を1μmオーダーの微小体積からのみ発生させることができる。しかしながら、キュベット内の液体溶液を測定する代わりに、組織のような構造化された物質にCARSを直接適用することができる。システム1は、ビーム11、12、および13によってサンプル上をスキャン(走査)し、異なる位置ごとにスペクトルを提供することができるため、画像を生成することが可能である。システム1は、CARS分光法としてだけでなく、スキャンにより各ピクセルでスペクトルを取得して画像を形成することができ、CARS顕微鏡としても適用できる。薄いサンプル(ターゲット)5に対しては、サンプルを通る前方散乱方向で信号を記録することができ、厚いサンプルに対しては後方散乱方向で信号を記録することができる。例えば脂肪細胞中の脂質のような高い局所濃度の画像化が必要である。高い局所濃度を含む小さな体積に焦点を合わせることで、ピークがバックグラウンドから際立つ。非共鳴リファレンスの測定は、外部または組織サンプルのガラスカバースリップの水から行うことができる。これは、局所濃度が高く、散乱やその他のアーチファクトが最小限のサンプルにのみ有効で、リファレンスとサンプルとのスペクトル形状がある程度一定である場合に限られる(例えば、前方方向で測定した非常に薄いサンプル)。より複雑なサンプル(後方散乱、より厚いもの、散乱性が高いもの)では、組織の不均一性により全体的なスペクトル形状が変化し、感度が非常に制限される。
【0046】
ここで提案しているインターナルリファレンス法を使用する場合、組織内の実際の測定位置からの通常のCARS信号に加えて、各ピクセルまたはボクセルで内部非共鳴のインターナルリファレンスを記録できる。本出願のインターナルリファレンス法により、発生、光路、散乱、サンプルの不均一性、その他のアーチファクトの違いが相殺され、CARS顕微鏡の感度を大幅に向上できる。
【0047】
図11は、インターナルリファレンス法の処理の概要を示すフローチャートである。この方法は、CARSスペクトルのセットを取得し(ステップ80)、取得したCARSスペクトルのセットを比較して共鳴成分(共鳴成分、共鳴特性)を抽出する(ステップ83)ことを含む。ステップ80では、ストークス光11およびポンプ光12のパルスと、パルス幅PW2がストークス光11およびポンプ光12のパルスのパルス幅PW1よりも大きい(広い、長い)プローブ光13のパルスとを、ストークス光11およびポンプ光12のパルスとプローブ光13のパルスとの間の時間関係Δtのみを変化させながら、ストークス光11およびポンプ光12の各パルスがプローブ光13のパルスと、プローブ光13のパルスのパルス幅PW2内で重なるようにターゲット5の一部5aに照射することにより、CARSスペクトル15のセットを次々と取得する。
【0048】
ステップ80は、第1のCARSスペクトル15aを取得するステップ81と、インターナルリファレンスとして第2のCARSスペクトル15bを取得するステップ82とを含んでもよい。ステップ81では、ストークス光11およびポンプ光12のパルスと、ストークス光11およびポンプ光12のパルスのパルス幅PW1よりも大きなパルス幅PW2を有するプローブ光13のパルスとをターゲット(サンプル)5の部位5aに照射することにより、CARSスペクトル15aを生成して取得する。ストークス光11およびポンプ光12は、プローブ光13のパルス幅PW2内で照射される。典型的には、ストークス光11、ポンプ光12、プローブ光13の各パルスは遅延なく照射される(Δt=0)。ステップ82では、ストークス光11およびポンプ光12のパルスとプローブ光13のパルスとの間の時間関係(時間差、遅延)Δtのみを変化させた状態で、ターゲット5の部位5aにストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13の各パルスを照射してインターナルリファレンス15bを取得し、第1のCARSスペクトル15aから共鳴成分を抽出する。典型的には、インターナルリファレンス15bは負の遅延(Δt<0)で取得される。
【0049】
この方法は、ターゲット5を走査(スキャン)するステップ(ステップ84)をさらに含んでもよい。ステップ84では、ストークス光11、ポンプ光12、およびプローブ光13でターゲット5を走査して、各画素で第1のCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス(第2のCARSスペクトル)15bを取得し、ターゲット5の画像を生成する。ステップ84は、各ボクセルにおいて第1のCARSスペクトル15aおよびインターナルリファレンス(第2のCARSスペクトル)15bを取得してターゲット5の3D画像を生成する3Dスキャニング(3D走査)であってもよい。ステップ85では、全ての画素情報が得られるまで上記ステップを繰り返してもよい。
【0050】
本明細書に記載されているように、プローブ遅延は、生成されたCARS信号における共鳴寄与の量を制御するために使用される。正の時間遅延(プローブがポンプおよびストークスの後に到着)を使用することは既知であり、TD-CARS15cの生成に適用される。しかしながら、負のプローブ遅延(プローブがポンプおよびストークスの前に到着し、プローブパルスの最後でのみポンプおよびストークスと時間的に重なる)を利用することによる効果は、CARSスペクトロスコピー(分光法)とマイクロスコピー(顕微鏡検査)に全く新しい可能性を開く。正のプローブ遅延は、全シグナル強度を犠牲にして共鳴/非共鳴の比を向上させる。負の遅延は、生成される信号がほぼ純粋に非共鳴となる点まで、(共鳴/非共鳴)比を減少させる。負の遅延スペクトル(非共鳴信号)は、リファレンスとして、非共鳴サンプルを用いて外部で測定するものの代わりに使用することができる。さらなる分析に必要な正規化スペクトルは、プローブの遅延Δtを変えるだけで取得できる。非共鳴のINRリファレンス(インターナルリファレンス)は、実際の(第1のCARSスペクトルの)測定と全く同じ位置、同じ条件(ビーム経路、レーザーなど)で共鳴サンプルから取得できるため、アーチファクトが相殺される。
【0051】
本明細書に記載される方法およびシステムは、生体対象の関心対象の生化学的および構造的特性評価、特に生体対象の関心対象の生化学的組成の侵襲的および非侵襲的評価、ならびにその応用に適用可能である。本明細書に記載された方法およびシステムは、あらゆる種類のサンプルに適用可能であり、生化学とは無関係な溶液のような単純なサンプルにも適用可能である。
【0052】
本明細書では、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光により第1のCARSスペクトルを取得することと、ストークス光およびポンプ光とプローブ光との間の時間関係のみを変化させて、ストークス光、ポンプ光およびプローブ光により第1のCARSスペクトルのリファレンスとなる第2のCARSスペクトルを取得することとを含む方法が開示されている。第1のCARSスペクトルは共鳴成分および非共鳴成分を含んでもよく、第2のCARSスペクトルはほぼ全てが非共鳴成分であってもよく、本方法は、第1のCARSスペクトルおよび第2のCARSスペクトルによって得られる共鳴成分を含む第3のCARSスペクトルを取得することをさらに含んでもよい。第1のCARSスペクトルを取得することは、ストークス光およびポンプ光と、ストークス光およびポンプ光よりもパルス幅が大きいプローブ光とを、プローブ光のパルス幅内で重なるように第1の相対的時間関係で照射させることを含んでもよい。第2のCARSスペクトルを取得することは、プローブ光のパルス幅内で重なるように、第1の相対的時間関係に対して遅延した第2の相対的時間関係で、ストークス光およびポンプ光と、プローブ光とを出射することを含んでもよい。第1のCARSスペクトルを取得することは、ストークス光と、ポンプ光と、ストークス光およびポンプ光のパルス幅よりも大きいパルス幅を有するプローブ光とを、実質的に同時に照射することを含んでもよい。第2のCARSスペクトルを取得することは、ストークス光およびポンプ光を、実質的にプローブ光のパルス幅の最終の端に照射することを含んでもよい。
【0053】
本明細書では、他の方法も開示している。この方法は、ストークス光、ポンプ光、およびパルス幅がストークス光およびポンプ光よりも大きいプローブ光によるCARSスペクトルのセットを、ストークス光およびポンプ光と、プローブ光との時間関係のみをプローブ光のパルス幅内で重なるように変化させて取得することと、取得されたCARSスペクトルのセットを比較してターゲットCARSスペクトルを取得することとを含む。
【0054】
本明細書には、システムも開示されている。このシステムは、第1の波長範囲を有する第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を有する第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲を有し、第1の光パルスおよび第2の光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を有する第3の光パルスを供給するように構成された第3の光路と、第1の光パルス、第2の光パルスおよび第3の光パルスをターゲットに照射し、ターゲットからの光を取得し、ターゲットからのCARSスペクトルのセットを検出器(ディテクター)によって検出するように構成された光入出力ユニットと、第3の光パルスのパルス幅内で、第3の光パルスと第1の光パルスおよび第2の光パルスとの相対的な時間関係を変化させるように構成された第1の変調ユニット(モデュレーティングユニット)と、第1の光パルスおよび第2の光パルスに対する第3の光パルスの相対的な時間関係を変えて取得されたCARSスペクトルのセットを参照してターゲットのCARSスペクトルを取得するように構成された分析器とを備える。CARSスペクトルのセットは、第1の光パルスと第2の光パルスと第3の光パルスを実質的に同時に照射することによって取得された第1のCARSスペクトルと、第1の光パルスと第2の光パルスを実質的にプローブ光のパルス幅の最終の端で照射することによって取得された第2のCARSスペクトルとを含んでもよい。
【0055】
本明細書では、コンピューターが装置を動作させるためのコンピュータープログラム(プログラム製品)を開示する。この装置は、第1の波長範囲を有する第1の光パルスを供給するように構成された第1の光路と、第1の波長範囲よりも短い第2の波長範囲を有する第2の光パルスを供給するように構成された第2の光路と、第2の波長範囲よりも短い第3の波長範囲を有し、第1の光パルスおよび第2の光パルスのパルス幅よりも大きいパルス幅を有する第3の光パルスを供給するように構成された第3の光路と、第1の光パルス、第2の光パルスおよび第3の光パルスをターゲットに照射し、ターゲットからの光を取得し、ターゲットからのCARSスペクトルのセットを検出器によって検出するように構成された光入出力ユニットとを備える。このコンピュータープログラムは、第1の光パルスおよび第2の光パルスに対する第3の光パルスの相対的な時間関係を変えて取得されたCARSスペクトルのセットを参照することによりターゲットのCARSスペクトルを取得するステップを実行するための実行可能なコード(命令)を含む。
【0056】
具体的な実施形態に関する前述の説明は、本明細書における実施形態の一般的な性質を十分に明らかにするものであり、そのため、他者は、現在の知識を適用することによって、一般的な概念から逸脱することなく、そのような具体的な実施形態を様々な用途のために容易に修正および/または適合させることができ、したがって、そのような適合および修正は、開示された実施形態の意味および等価物の範囲内で理解されるべきであり、理解されることが意図される。本明細書で採用される言い回しまたは用語は、説明のためのものであり、限定するためのものではないことを理解されたい。したがって、本明細書における実施形態は、好ましい実施形態の観点から説明されてきたが、当業者であれば、本明細書における実施形態は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内で変更を加えて実施することができることを認識するであろう。
【符号の説明】
【0057】
1 システム、 5 ターゲット、 10 光路
11 ストークス光、 12 ポンプ光、 13 プローブ光、 15 CARSスペクトル
50 ディテクタ―、 70 モジュレーター
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