(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024088797
(43)【公開日】2024-07-02
(54)【発明の名称】EUV透過膜
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20240625BHJP
【FI】
G03F1/62
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064701
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2023507498の分割
【原出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】柏屋 俊克
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚男
(72)【発明者】
【氏名】茶園 弘基
(72)【発明者】
【氏名】谷村 昴
(57)【要約】
【課題】実用レベルの高いEUV透過率と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜を提供する。
【解決手段】金属ベリリウムで構成される主層と、主層の少なくとも片面を覆う、窒化べリリウムで構成される保護層とを備えた、EUV透過膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ベリリウムで構成される主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う、窒化べリリウムで構成される保護層と、
を備え、前記主層の99重量%以上が金属ベリリウムで構成され、かつ、前記保護層の99重量%以上が窒化ベリリウムで構成されている、EUV透過膜。
【請求項2】
前記主層の両面が前記保護層で覆われている、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項3】
前記保護層の厚さが5nm以下である、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項4】
前記保護層の厚さが3nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のEUV透過膜。
【請求項5】
前記主層の厚さが、10~70nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のEUV透過膜。
【請求項6】
前記保護層の厚さが5nm以下であり、かつ、前記主層の厚さが10~70nmである、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項7】
前記保護層の厚さが3nm以下であり、かつ、前記主層の厚さが10~70nmである、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV透過膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける微細化が年々進行しており、各工程で様々な改良がなされている。特に、フォトリソグラフィ工程においては、従来のArF露光の波長193nmに代えて、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光が使用され始めた。その結果、波長が一気に1/10以下になり、その光学的特性は全く異なるものとなった。しかし、EUV光に対して高透過率を有する物質が無いため、例えばフォトマスク(レチクル(reticle))のパーティクル付着防止膜であるペリクル(pellicle)にはまだ実用的な物が存在しない。このため、デバイスメーカーはペリクルを使うことができずに半導体デバイスの製造を行っているのが現状である。
【0003】
そこで、ポリSiベースのペリクル膜が提案されている。例えば、特許文献1(特許第6858817号公報)には、コア層が(ポリ)Si等のEUV放射に実質的に透明な材料を含むコア層と、IR放射を吸収する材料を含むキャップ層とを備えたペリクル膜が開示されている。しかしながら、ポリSiベースのペリクル膜は、膜強度を保持するための厚さとした場合、EUV透過率は目標の90%に到達できず、いまだ実用的ではない。
【0004】
また、カーボンナノチューブ(CNT)ベースのペリクル膜も開発されており(例えば特許文献2(特開2018-194840号公報))、より高いEUV透過率が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6858817号公報
【特許文献2】特開2018-194840号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、CNTベースのペリクル膜ではペリクル使用環境(低圧水素雰囲気)に対する耐久性が無く、耐久性を持たせるためにペリクル膜に金属を被覆すると、EUV透過率が低下してしまい実用レベルの透過率を達成できなくなるのが実情である。そこで、実用レベルの高いEUV透過率を有しながらも、低圧水素雰囲気環境における耐久性をも有する、EUV透過膜が望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、金属ベリリウムで構成される主層と、窒化べリリウムで構成される保護層とを組み合わせることで、実用レベルの高いEUV透過率と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、実用レベルの高いEUV透過率と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、
金属ベリリウムで構成される主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う、窒化べリリウムで構成される保護層と、
を備えた、EUV透過膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明によるEUV透過膜の一形態を示す模式断面図である。
【
図2A】例1~3におけるEUV透過膜の製造手順の前半部分を示す工程流れ図である。
【
図2B】例1~3におけるEUV透過膜の製造手順の後半部分を示す工程流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
EUV透過膜
図1に本発明の一形態によるEUV透過膜10の模式断面図を示す。EUV透過膜10は、主層12と、主層12の少なくとも片面を覆う保護層14とを備える。主層12は金属ベリリウムで構成される一方、保護層14は窒化べリリウムで構成される。このように、金属ベリリウムで構成される主層12と、窒化べリリウムで構成される保護層14とを組み合わせることで、実用レベルの高いEUV透過率(例えば91%以上)と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜10を提供することができる。
【0012】
すなわち、前述のとおり、特許文献1に開示されるようなポリSiベースのペリクル膜は、膜強度を保持するための厚さとした場合、EUV透過率は目標の90%に到達できず、いまだ実用的ではない。一方、特許文献2に開示されるようなCNTベースのペリクル膜ではペリクル使用環境(低圧水素雰囲気)に対する耐久性が無く、耐久性を持たせるためにペリクル膜に金属を被覆すると、EUV透過率が低下してしまい実用レベルの透過率を達成できなくなる。これらの問題が、本発明のEUV透過膜10によれば首尾よく解決される。このことは以下のように説明することできる。まず、主層12は金属ベリリウムで構成される。ベリリウムはSiやCよりも高いEUV透過率を有しているため、実用レベルの高いEUV透過率(例えば91%以上)を呈する。一方、ベリリウムは、反応性が高い物質であるため、ペリクル膜の作製中に他の材料と反応したり、ペリクル膜の作製後に酸化して酸化ベリリウムを生成し、それによりEUV透過率が低下してしまう。そのため主層12に保護層14を設けることで、主層12中のベリリウムの反応を防止することができる。特許文献1には保護層としてRu層を形成することが開示されているが、RuのEUV透過率が高いとはいえ、厚さ3nmにするとRuだけでEUV透過率が90%まで低下してしまい、EUV露光プロセスの処理能力を低下させてしまう。この点、本発明に用いる保護層14は、窒化べリリウムで構成されることで、低圧水素雰囲気環境における耐久性を主層12にもたらすとともに、Ru層よりも高いEUV透過率を呈する。その結果、主層12及び保護層14を組み合わせることで、実用レベルの高いEUV透過率(例えば91%以上)と、低圧水素雰囲気環境における耐久性とを兼ね備えた、EUV透過膜10を提供することができる。
【0013】
主層12は、金属ベリリウムで構成される。もっとも、主層12が完全に金属ベリリウムで構成される必要はなく、主層12の好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上が金属ベリリウムで構成されていればよい。ペリクル膜としての基本的機能(パーティクル付着防止機能等)を確保しながら、実用レベルの高いEUV透過率の実現に寄与する。かかる観点から、主層12の厚さは、10~70nmであるのが好ましく、より好ましくは15~50nm、さらに好ましくは20~35nmである。
【0014】
保護層14は、金属ベリリウム層である主層12を保護するための層である。したがって、保護層14は、主層12の少なくとも片面を覆っていればよいが、主層12の両面を保護層で覆うのが好ましい。保護層14は、窒化べリリウムで構成される。もっとも、保護層14が完全に窒化ベリリウムで構成される必要はなく、保護層14の99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上が窒化ベリリウムで構成されていればよい。窒化ベリリウムはEUV透過率が高いため、同じ厚さで比較するとRu層を形成したベリリウム膜よりもEUV透過率は高くなる。理論計算によると、厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ3nmのRu膜を形成した場合の透過率は85.8%であるが、厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ3nmの窒化ベリリウムを形成した場合の透過率は91.1%となる。厚さ30nmのベリリウム膜の両面に、厚さ2nmの窒化ベリリウムと厚さ1nmの傾斜組成層(後述する窒素濃度傾斜領域で構成される層)を形成した場合の透過率は91.1%を越える。ベリリウム層の両面に緻密な窒化ベリリウム層を形成することにより、後述するSi基板のエッチングに用いられるXeF2ガスとの反応を抑制できる。また、ベリリウムは非常に反応性の高い材料のため、容易に酸化して酸化ベリリウムを形成するが、窒化ベリリウムの形成で酸化を抑制可能である。上記のとおり窒化ベリリウム層を保護層14として用いることのメリットは、EUV透過率の増大、エッチングプロセスにおけるベリリウム膜(主層12)の保護、及び酸化防止である。
【0015】
保護層14の厚さは5nm以下であるのが好ましく、より好ましくは3nm以下である。厚さ3nmの窒化ベリリウム膜ではEUV透過率が95%と、Ru膜の90%よりも格段に高い。保護層14の厚さの下限値は特に限定されないが、典型的には1nm以上である。なお、本明細書において「窒化ベリリウム」なる用語は、Be3N2のような化学量論組成のみならず、Be3N2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成も許容する包括的な組成を意味するものとする。
【0016】
保護層14は、主層12に近づくにつれて窒素濃度が減少する窒素濃度傾斜領域を有するのが好ましい。すなわち、上述のとおり保護層14を構成する窒化ベリリウムの組成にはBe3N2のような化学量論組成からBe3N2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成まで包含しうるところ、保護層14を構成する窒化ベリリウムが、主層12に近づくにつれてベリリウムリッチの組成に近づく傾斜組成とするのが好ましい。こうすることで、保護層14(すなわち窒化ベリリウム層)と主層12(すなわち金属ベリリウム層)との密着性を向上できるとともに、両層間の熱膨張差に起因する応力の発生を緩和することができる。すなわち、両層間の密着性を向上させて剥離を抑制したり、EUV光を吸収して高温になった場合の両層間の熱膨張緩和層として剥離しにくくしたりすることができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、保護層14の厚さよりも小さいのが好ましい。すなわち、保護層14の厚さの全域が窒素濃度傾斜領域である必要はない。例えば、保護層14の厚さの一部のみ、例えば、保護層14の厚さのうち好ましくは10~70%の領域、より好ましくは15~50%の領域が窒素濃度傾斜領域であるのが好ましい。
【0017】
EUV透過膜10は、EUVを透過するための主要領域が自立膜の形態であるのが好ましい。すなわち、EUV透過膜10の外縁部にのみ、成膜時に用いた基板(例えばSi基板)がボーダー(border)として残存しているのが好ましい、つまり、外縁部以外の主要領域には基板(例えばSi基板)が残存していない、すなわち主要領域は主層12及び保護層14のみで構成されるのが好ましい。
【0018】
EUV透過膜10は、実用レベルの高いEUV透過率を有することができ、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上のEUV透過率を有する。EUV透過率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されないが、EUV透過膜10のEUV透過率は、典型的には99%以下、より典型的には98%以下、さらに典型的には95%以下でありうる。
【0019】
製造方法
本発明によるEUV透過膜は、Si基板上にEUV透過膜とすべき積層膜を形成した後、Si基板の不要部分をエッチングで除去して自立膜化することにより作製することができる。したがって、前述のとおり、EUV透過膜の主要部分はSi基板が残存していない自立膜の形態となっている。
【0020】
(1)Si基板の準備
まず、その上に積層膜を形成するためのSi基板を準備する。Si基板は、その上に主層12と保護層14からなる積層膜を形成した後に、その外縁部以外の主要領域(すなわち自立膜とすべき領域)がエッチングにより除去されることになる。したがって、エッチングを効率良く短時間で行うため、予め自立膜とすべき領域のSi基板の厚さを薄くしておくことが望ましい。そのため、通常の半導体プロセスを用いて、Si基板にEUV透過形状に対応したマスクを形成し、ウェットエッチングによりSi基板をエッチングして、Si基板の主要領域の厚さを所定厚さまで薄くすることが望まれる。ウェットエッチングを経たSi基板を洗浄及び乾燥することで、ウェットエッチングにより形成したキャビティを有するSi基板を準備する。なお、ウェットエッチングマスクとしては、Siのウェットエッチング液に対して耐食性を有する材質であればよく、例えばSiO2が好適に使用される。また、ウェットエッチング液としては、Siをエッチング可能なものであれば特に限定されない。例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を適切な条件で使用すれば、Siに対する異方性エッチングで非常に良好なエッチングができるため好ましい。
【0021】
(2)積層膜の形成
積層膜の形成は、いかなる成膜手法により行われてもよい。好ましい成膜手法の一例としては、スパッタリング法が挙げられる。窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造を作製する場合、主層12としてのベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、保護層14としての窒化ベリリウム膜は、反応性スパッタリングにより行うのが好ましい。この反応性スパッタリングは、例えば、純Beターゲットを用いたスパッタリング中に、チャンバー内に窒素ガスを入れることで、ベリリウムと窒素が反応して窒化ベリリウムを生成することにより行うことができる。また、別の手法として、窒化ベリリウムの作製は、ベリリウム膜を形成した後、窒素プラズマを照射することでベリリウムを窒化反応させて窒化ベリリウムを生成させることにより行うこともできる。いずれにしても、窒化ベリリウムの合成手法はこれらに限定されるものではない。なお、窒化ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットと、ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットは、別々のものを用いるのが好ましいが、窒化ベリリウム膜形成とベリリウム膜形成で同一のターゲットを用いることも可能である。なお、窒化ベリリウム膜とベリリウム膜は後述する実施例のように1つのチャンバーのスパッタリング装置で形成してもよいし、2チャンバーのスパッタリング装置を用いて窒化ベリリウム膜とベリリウム膜を別々のチャンバー内で形成してもよい。
【0022】
窒素濃度傾斜領域を形成する場合、窒化ベリリウムの成膜から金属ベリリウムの成膜を行うに際して、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を止めて金属ベリリウムの成膜に切り替えればよい。こうすることで、窒素ガスの濃度の低下に伴い、成膜される膜中の窒素濃度が厚さ方向に減少する領域が形成される。一方、金属ベリリウムから窒化ベリリウムに切り替える場合は、上記とは逆に、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を始めれば、窒素濃度傾斜領域を形成することができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、窒素ガス濃度を変化させる時間を調整することにより制御することができる。
【0023】
(3)自立膜化
複合膜を形成したSi基板の、ボーダー(border)として残す外縁部以外のSi基板の不要部分をエッチングで除去して、複合膜の自立膜化を行う。Siのエッチングは、いかなる手法により行われてもよいが、XeF2を用いたエッチングにより好ましく行うことができる。
【実施例0024】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0025】
例1
図2A及び2Bに示される手順に従い、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合自立膜(EUV透過膜)を以下のようにして作製した。
【0026】
(1)Si基板の準備
直径8インチ(20.32cm)のSiウェハ20を用意した(
図2A(a))。このSiウェハ20の両面に、熱酸化によりSiO
2膜22を50nm厚さで形成した(
図2A(b))。Siウェハ20の両面にレジストを塗布し、片面に110mm×145mmのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiO
2エッチング用のレジストマスク24を形成した(
図2A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO
2膜22の露出部分をエッチング除去してSiO
2マスク22aを作製した(
図2A(d))。SiO
2エッチングのためのレジストマスク24をアッシング装置で除去した(
図2A(e))。その後、TMAH液によりSiをエッチングした。このエッチングは、事前にエッチングレートを測定しておき、狙いとするSi基板厚50μmとするためのエッチング時間だけ実施した(
図2A(f))。最後にSiエッチングしていない面に形成してあるSiO
2膜22をフッ酸により除去及び洗浄して、Si基板28を準備した(
図2B(g))。Si基板外形は必要に応じてレーザー30でダイシングして(
図2B(h))、所望の形状としてもよい(
図2B(i))。こうして、8インチ(20.32cm)Siウェハ20の中央に110mm×145mmのキャビティ26を設け、キャビティ26部分のSi厚さが50μmであるSi基板28を準備した。
【0027】
(2)複合膜の形成
上記(1)で得られたキャビティ26を備えたSi基板28に、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(
図2B(i))。まず、スパッタリング装置にSi基板28をセットし、純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるよう調整し反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。次いで、窒素ガスを導入しないで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが25nm積層する時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm積層する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム2nm/ベリリウム25nm/窒化ベリリウム2nmの複合膜をEUV透過膜10として形成した。
【0028】
(3)自立膜化
8インチ(20.32cm)基板を処理可能なXeF
2エッチャーのチャンバー内に、上記(2)で準備した複合膜付きのSi基板28をセットした。チャンバー内を十分真空引きした。このとき、チャンバー内に水分が残留していると、XeF
2ガスと反応してフッ酸を生じ、エッチャーの腐食や想定外のエッチングが起きてしまうため、十分な真空引きを行った。必要に応じて、チャンバー内を、真空引きと窒素ガス導入を繰り返し、残留水分を減らした。十分に真空引きが出来たところで、XeF
2原料ボンベと予備室の間のバルブを開いた。その結果、XeF
2が昇華して予備室内にもXeF
2ガスが蓄積された。十分に予備室内にXeF
2ガスが蓄積されたところで、予備室とチャンバーの間のバルブを開き、XeF
2ガスをチャンバー内に導入した。XeF
2ガスはXeとFに分解し、FはSiと反応してSiF
4を生成した。SiF
4の沸点は-95℃であるため、生成したSiF
4は速やかに蒸発し、新たに露出したSi基板とFの反応が引き起こされた。Siエッチングが進行し、チャンバー内のFが減少したところで、チャンバー内を真空引きし、再度XeF
2ガスをチャンバー内に導入しエッチングを行った。このようにして、真空引き、XeF
2ガス導入、及びエッチングを繰り返して、自立膜化させる部分に対応するSi基板28が消失するまでエッチングを続けた。不要部分のSi基板が無くなったところでエッチングを終了した。こうして、Si製ボーダー(border)を有する複合自立膜をEUV透過膜10として得た(
図2(j))。
【0029】
例2
複合膜の形成を以下のとおり行ったこと以外は、例1と同様にして複合自立膜を作製した。
【0030】
(複合膜の形成)
例1の(1)で得られたキャビティを形成したSi基板を、スパッタリング装置内に入れ、ベリリウムを1nmの厚さに成膜した。そして、チャンバー内に窒素ガスを導入しつつプラズマを発生させることで、発生した窒素プラズマを成膜したベリリウムと反応させて窒化ベリリウムを形成させた。次いで、形成した窒化ベリリウム膜上にベリリウムを26nmの厚さに成膜し、成膜後に再度チャンバー内に窒素ガスを導入しつつプラズマを発生させ、表面を窒化ベリリウムにした。こうして、両側に厚さ1.5nmの窒化ベリリウム膜を有する厚さ25nmのベリリウム膜(窒化ベリリウム1.5nm/ベリリウム25nm/窒化ベリリウム1.5nmの複合膜)を形成した。
【0031】
例3(比較)
窒化ベリリウム膜を形成しなかったこと(すなわち窒化ベリリウム2nm/ベリリウム25nm/窒化ベリリウム2nmの複合膜の代わりに、ベリリウム25nmの単層膜を形成したこと)以外は、例1と同様にしてEUV透過膜(ベリリウム単層自立膜)を作製した。
【0032】
EUV透過率
例1~3で作製したEUV透過膜にEUV光を照射して、透過したEUV光量をセンサーで測定した。得られた測定値と、EUV透過膜無しで直接のEUV光量をセンサーで測定した値との比較から、EUV透過率を求めた。その結果、例1で作製した複合自立膜のEUV透過率は93.0%であり、理論計算値の93.3%とほぼ同等の結果であった。また、例2で作製した複合自立膜のEUV透過率は93.5%であり、理論計算値の94.1%に近い値が得られた。これらの実測値と理論値の差は、膜厚の誤差によるものと推測される。一方、比較例である例3のベリリウム単層自立膜のEUV透過率を測定したところ、90.2%であった。この単層自立膜を解析したところ、両表面にはXeF2エッチングの際に形成したと考えられるフッ化ベリリウムが確認された。このフッ化ベリリウムによりEUV透過率が低下したものと考えられる。
【0033】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
金属ベリリウムで構成される主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う、窒化べリリウムで構成される保護層と、
を備えた、EUV透過膜。
[態様2]
前記主層の両面が前記保護層で覆われている、態様1に記載のEUV透過膜。
[態様3]
前記保護層の厚さが5nm以下である、態様1又は2に記載のEUV透過膜。
[態様4]
前記保護層の厚さが3nm以下である、態様1~3のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様5]
前記保護層が、前記主層に近づくにつれて窒素濃度が減少する窒素濃度傾斜領域を有する、態様1~4のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様6]
前記窒素濃度傾斜領域の厚さが、前記保護層の厚さよりも小さい、態様5に記載のEUV透過膜。
[態様7]
前記主層の厚さが、10~70nmである、態様1~6のいずれか一つに記載のEUV透過膜。